説明

非水電解質二次電池用正極材料

【課題】金属酸化物又は金属フッ化物を正極活物質に使用しなくても電解液と正極との界面でのガスの発生及びイオンの溶出を抑制し、電池の信頼性及び安全性を高める非水電解質二次電池用正極材料及びその製造方法並びに非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子及びマグネシウム原子からなる群より選ばれた原子とを含有し、空間群R−3m型構造又はFd3m型構造を有する複合酸化物粒子と式(I):


〔R1、R2及びR3はアルキル基、アリール基、アラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(Rはアルキレン基、Rはアルキル基)で表される基、ビニル基、ビニルアルキル基、ビニルアリール基又はビニルアリールアルキル基〕で表されるホスホネート化合物を含有する非水電解質二次電池用正極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極材料に関する。さらに詳しくは、非水電解質二次電池の充電操作の際に、正極からのガスの発生および金属イオンの溶出を抑制しうる非水電解質二次電池用正極材料およびその製造方法、ならびに該非水電解質二次電池用正極材料を含有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、従来のニッケル−カドミウム電池などの水系二次電池と対比して高エネルギー密度が得られることから、近年、脚光を浴びている。
【0003】
非水電解質二次電池の高容量化および高エネルギー密度化は、非水電解質二次電池に用いられている正極活物質の単位質量または単位体積あたりのリチウムの収蔵量を大きくするとともに充電電位を高くし、電荷キャリアであるリチウムの吸放出量を増大させることによって行なわれている。
【0004】
しかし、正極活物質の充電電位を高くした場合、電解液が酸化分解するため、充放電に直接関与しない電荷の移動が起こり、正極と電解液との固液界面で副反応が生じやすくなる。このような副反応が生じた場合には、正極活物質が電気化学的酸化によって酸化性を帯び、電解液を酸化分解することによってガスが発生し、電池の内圧が高くなって電池の構成部材が損傷を受けるおそれがある。また、電解液が酸化分解することによって正極活物質から金属イオンが溶出した場合には、正極活物質の結晶構造の破壊を招くおそれがあり、溶出イオンが負極に移動した場合には、デンドライト状の析出物が発生し、セパレータが損傷するおそれがある。
【0005】
そこで、正極活物質の表面と電解液とが直接接触することによって固液界面で副反応が生じるのを回避するために、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属の酸化物またはフッ化物を正極活物質に用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、この提案では、これらの金属酸化物および金属フッ化物は、非導電性を有することから、正極の電気抵抗が高められるため、正極の電気化学的活性が阻害される。
【0007】
また、正極活物質の表面で副反応が生じるのを抑制する手段として、難燃性を与える有機化合物としてリン酸エステルを電解液中に含有させることが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
しかし、難燃性を与える有機化合物としてリン酸エステルを電解液中に含有させた場合、黒鉛などからなる負極の表面にリチウムイオンの移動を妨げる皮膜が形成されるため、負極の電気化学的活性が阻害される。
【0009】
【特許文献1】特開2007−103119号公報
【非特許文献1】尾崎順子、東口雅史、喜多房次および川上章、「リン酸エステル系難燃性電解液の特性とリチウムイオン2次電池への適応」、1998年電気化学秋季大会、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、金属酸化物または金属フッ化物を正極活物質に使用しなくても、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出を抑制し、電池の信頼性および安全性を高める非水電解質二次電池用正極材料およびその製造方法、ならびに前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を有する非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1) リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子と、式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す〕
で表されるホスホネート化合物を含有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料、
【0014】
(2) 前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極と負極とセパレータと電解質とを含有してなる非水電解質二次電池、ならびに
【0015】
(3) リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子に、式(I):
【0016】
【化2】

【0017】
〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す〕
で表されるホスホネート化合物を付着させた後、電気化学的酸化処理を施すことを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非水電解質二次電池用正極材料を正極に用いることにより、従来の正極の電気抵抗を高め、正極の電気化学的活性を阻害するおそれがある金属酸化物または金属フッ化物を正極活物質に使用しなくても、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制され、電池の信頼性および安全性が高められるという優れた効果が奏される。
【0019】
また、本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を有するので、電池構成後の充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったとき、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されることから、電池の信頼性および安全性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の非水電解質二次電池用正極材料は、リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子と、式(I):
【0021】
【化3】

【0022】
〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す〕
で表されるホスホネート化合物を含有している点に、1つの大きな特徴を有する。
【0023】
本発明の正極材料は、前記構成を有することから、本発明の正極材料からなる正極を有する非水電解質二次電池を構成した後、通常使用されている充放電プロセスにおける充電操作により、この非水電解質二次電池の正極が電気化学的酸化状態に至ったとき、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性が高められる。
【0024】
また、本発明の正極材料の製造方法は、リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子に、式(I)で表されるホスホネート化合物を付着させた後、電気化学的酸化処理を施す点に、1つの大きな特徴を有する。
【0025】
本発明の正極材料の製造方法は、前記操作が採られているので、本発明の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用正極材料からなる正極を有する非水電解質二次電池を構成した後、通常使用されている充放電プロセスにおける充電操作により、この非水電解質二次電池の正極が電気化学的酸化状態に至ったときに、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性が高められる。
【0026】
本発明の正極材料がこのように優れた効果を奏する理由は、定かではないが、おそらく、ホスホネート化合物のリン原子が複合酸化物粒子の酸素原子を介して物理的または化学的に複合酸化物粒子の表面に吸着しているので、この複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施した場合であっても、その表面状態が安定化していることに基づくものと考えられる。
【0027】
より具体的には、複合酸化物粒子の表面にホスホネート化合物が存在しているので、その後に電気化学的酸化処理を施したとき、ホスホネート化合物と複合酸化物粒子の表面に存在している金属原子とが反応し、ホスホネート化合物が複合酸化物粒子の表面に安定に固定され、ホスホネート化合物の側鎖にあるアルキル基、アリール基、アラルキル基などがリン原子を介して複合酸化物粒子の表面に配向し、これが複合酸化物粒子の表面を緩やかに有機化するので、複合酸化物粒子の表面と電解液との固液界面の分極が緩和されることに基づくものと推測される。
【0028】
また、本発明では、複合酸化物粒子にホスホネート化合物が付着しているが、ホスホネート化合物は、リン酸エステル化合物と対比して化学反応が容易には進行しないので、複合酸化物粒子に物理的に吸着しているものと考えられる。したがって、複合酸化物粒子の表面は、ホスホネート化合物と化学的に結合していないため、電気化学的酸化処理を施したとき、変性したホスホネート化合物によって複合酸化物粒子の表面がほとんど封鎖されないので、得られる正極材料の電気抵抗が高められるのが抑制されると考えられる。
【0029】
したがって、本発明の正極材料を含む正極を有する電池を構成した後、充放電プロセスにおける充電操作によって正極が電気化学的酸化状態に至ったとき、正極と電解液との固液間の分極、電解液と正極との界面でのガスの発生、および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性が高められる。
【0030】
本発明に用いられる複合酸化物粒子は、リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する。
【0031】
なお、複合酸化物粒子が空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有するのは、この複合酸化物粒子を非水電解質二次電池用正極材料に用いるためである。複合酸化物粒子は、層構造の空間群R−3m型構造またはスピネル構造の空間群Fd3m型構造を有することが、電池の信頼性および安全性を高める観点から好ましい。
【0032】
複合酸化物粒子として、式(II):
LiM (II)
〔式中、Mはニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子、xは0.8〜2.3の数、yは1.7〜4.5の数を示し、xおよびyは式:1+xn=2y(式中、nは原子Mの平均酸化数を示し、xおよびyは前記と同じ)を満足する〕
で表される複合酸化物からなり、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子が用いられている場合、本発明の正極材料を含む正極は、充放電プロセスにおける充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったときに、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出をより一層抑制するという利点がある。
【0033】
式(II)において、xは、0.8〜2.3の数、yは、1.7〜4.5の数を示す。xは、結晶構造を安定に維持する観点から、0.8以上の数、好ましくは1以上の数であり、単位質量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、2.3以下の数、好ましくは2以下の数である。また、yは、結晶構造を安定に維持する観点から、1.7以上の数、好ましくは2以上の数であり、単位質量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、4.5以下の数、好ましくは4以下の数である。
【0034】
式(II)において、Mは、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子である。Mは、電気化学的安定性を高める観点から、ニッケル原子、コバルト原子およびマンガン原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子であることが好ましい。
【0035】
式(II)において、xおよびyは、式:1+xn=2yを満足する。式(II)において、1はリチウム原子の酸化数である。xは、原子Mの数を示し、nは、原子Mの平均酸化数を示す。また、yは、複合酸化物粒子における酸素の数を示す。したがって、式(II)により、原子Mに対する酸素原子の割合が規定されている。
【0036】
式(II)で表される複合酸化物のなかでは、電気化学的安定性を高める観点から、式(IIa):
LiNipqMap(1−q) (IIa)
(式中、Maはコバルト原子およびマンガン原子から選ばれた少なくとも1種の原子、pは0.8〜2.3の数、qは0.01〜0.99の数を示し、yは前記と同じ)
で表される複合酸化物がより好ましい。
【0037】
式(IIa)において、pは、結晶構造を安定に維持する観点から、0.8以上の数、好ましくは1以上の数であり、単位質量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、2.3以下の数、好ましくは2以下の数である。また、qは、充放電容量を増大させる観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、電気化学的安定性を高める観点から、0.99以下の数、好ましくは0.8以下の数である。
【0038】
複合酸化物のなかでは、高エネルギー密度を有し、低分極性の充放電特性を有することから、式(IIb):
LiNiCoMn (IIb)
(式中、sは0.01〜0.8の数、tは0.01〜0.8の数、uは0.01〜0.8の数を示し、s、tおよびuの和が0.8〜2.3であり、yは前記と同じ)
で表される複合酸化物がさらに好ましい。
【0039】
式(IIb)において、sは、充放電容量を増大させる観点から、0.01以上の数、好ましくは0.3以上の数であり、電気化学的安定性を高める観点から、0.8以下の数、好ましくは0.7以下の数である。tは、電気化学的安定性および放電電位を高める観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、充放電容量を増大させる観点から、0.8以下の数、好ましくは0.5以下の数である。また、uは、結晶構造を維持する観点および電気化学的安定性を高める観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、充放電容量を増大させる観点から、0.8以下の数、好ましくは0.5以下の数である。yは、前記と同じである。
【0040】
式(IIb)において、リチウム原子1個あたりのニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計量、すなわちsとtとuの和は、充放電容量を増大させる観点および電気化学的安定性を高める観点から、0.8〜2.3、好ましくは0.97〜1.03である。
【0041】
式(IIb)において、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比〔ニッケル原子(s):コバルト原子(t):マンガン原子(u)〕は、エネルギー密度を高め、低分極性の充放電特性が向上するように任意に選ぶことが好ましいが、充放電時の格子の体積変化を小さくする観点から、1:1:1、すなわちsとtとuとが同一であることがより好ましい。
【0042】
複合酸化物粒子は、例えば、その粒子を構成するニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子の複合水酸化物を用いて調製することができる。
【0043】
複合水酸化物の原料として、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アルミニウム塩およびマグネシウム塩を用いることができる。これらの塩は、いずれも、その水溶液中で生成するイオンが錯化剤と錯体を形成しうるものであれば特に限定されない。
【0044】
ニッケル塩の具体例としては、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
コバルト塩の具体例としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルトなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
マンガン塩の具体例としては、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
アルミニウム塩の具体例としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
マグネシウム塩の具体例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
目的とする複合酸化物粒子の組成となるように、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アルミニウム塩およびマグネシウム塩の量を調整し、錯化剤の存在下、不活性ガス雰囲気中で、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのpH調整剤を用いてpHを9〜13に調整した水溶液に前記塩を溶解させ、得られた溶液を反応させて共沈殿させることにより、複合水酸化物を得ることができる。
【0050】
錯化剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、グリシンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。錯化剤の量は、前記溶液に含まれている金属イオンの量などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、金属イオンと錯体を生成し、かつ溶液中の金属イオンと水酸化物イオンとの反応によって水酸化物を生じる量であればよい。
【0051】
前記水溶液のpHは、9〜13であることが好ましい。この水溶液のpHが前記塩を溶解させることによって変動する場合には、前記pHの範囲内となるようにpH調整剤を前記水溶液中に適宜添加すればよい。前記水溶液の液温は、通常、30〜60℃程度であることが好ましい。
【0052】
なお、不活性ガス雰囲気中で反応を行なうのは、塩に含まれている金属の原子価を2価に維持するためである。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示によって限定されるものではない。
【0053】
このようにして反応を行なうことにより、原料のニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比が任意の割合である複合水酸化物を得ることができる。得られた複合水酸化物には、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子とマグネシウム原子の原子比が所望の割合で含まれており、これらの原子が原子レベルで均一に分散している。得られた複合水酸化物におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比は、ICP発光分光分析法などの金属元素分析方法によって求めることができる。
【0054】
次に、目的とする複合酸化物粒子の組成となるように、得られた複合水酸化物とリチウム化合物とを充分に粉末状態で混合し、得られた混合物を焼成することにより、複合酸化物を得ることができる。
【0055】
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酸化リチウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
前記混合物の焼成温度は、通常、好ましくは700〜1000℃、より好ましくは900〜1000℃、さらに好ましくは950〜1000℃である。また、焼成雰囲気は、通常、大気であればよい。
【0057】
前記混合物の焼成時間は、焼成条件などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、焼成によって複合酸化物が形成するのに要する時間である。
【0058】
このようにして、複合酸化物が得られるが、得られた複合酸化物におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比は、ICP発光分光分析法などの金属元素分析方法によって求めることができる。
【0059】
得られた複合酸化物が所望の粒子径を有さない場合には、必要により、複合酸化物を粉砕することが好ましい。複合酸化物粒子の平均粒子径は、電極作製時の操作性を向上させる観点および電気化学的反応場を増大させ、電極密度を高める観点から、好ましくは100nm〜100μm、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは5〜30μm、さらに一層好ましくは7〜12μmである。なお、複合酸化物粒子の平均粒子径は、顕微鏡で観察することにより、一定の範囲内に含まれている粒子の各直径を測定し、その平均値を求めたときの値である。
【0060】
次に、複合酸化物粒子と、式(I)で表されるホスホネート化合物とを混合する。
式(I)で表されるホスホネート化合物では、R1、R2およびR3で表される有機基が、直接または酸素原子を介してリン原子に結合している。
【0061】
式(I)で表されるホスホネート化合物によく似た構造を有する化合物として、R1、R2およびR3が有機基ではなく、水素原子が直接または酸素原子を介してリン原子に結合しているリン酸がある。式(I)で表されるホスホネート化合物の代わりにリン酸を用いた場合、リン酸は、酸性が強く、金属原子と直接反応しやすく、複合酸化物粒子の表面と強固な化学結合を形成するため、リチウムイオンが正極の内部に移動するのを阻害したり、複合酸化物を変性するおそれがある。
【0062】
式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す。
【0063】
好ましくは、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、RおよびRは前記と同じ)で表される基、ビニル基または炭素数3〜10のビニルアルキル基である。より好ましくは、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、RおよびRは前記と同じ)で表される基またはビニル基である。
【0064】
式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ同一であってもよく、あるいは互いに異なっていてもよい。
【0065】
なお、R1、R2およびR3は、いずれも、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、置換基を有していてもよい概念を有するものである。
【0066】
式(I)において、炭素数1〜22のアルキル基は、直鎖状であってもよく、あるいは分岐鎖状であってもよい。前記アルキル基の炭素数は、異性体である亜リン酸エステルに変異することを抑制する観点から、1以上であり、複合酸化物粒子の表面におけるリチウムイオンの移動性を高め、充放電容量を高める観点から、22以下、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。したがって、アルキル基の炭素数は、1〜22であるが、好ましくは1〜18であり、より好ましくは1〜12であり、さらに好ましくは1〜8である。
【0067】
式(I)において、炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらのなかでは、複合酸化物粒子の表面におけるリチウムイオンの移動性を高め、充放電容量を高める観点から、炭素数が6〜8のアリール基が好ましい。
【0068】
式(I)において、アラルキル基は、アリールアルキル基とも称されている。炭素数7〜18のアラルキル基としては、例えば、フェニルメチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基などが挙げられる。これらのなかでは、複合酸化物粒子の表面におけるリチウムイオンの移動性を高め、充放電容量を高める観点から、炭素数が7〜9のアラルキル基が好ましい。
【0069】
式(I)において、式:−R−C(O)−O−Rで表わされる基は、アルコキシカルボニル基を有する。式中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0070】
式(I)において、炭素数3〜10のビニルアルキル基としては、例えば、ビニルメチル基、ビニルエチル基、ビニルプロピル基などが挙げられる。
【0071】
式(I)において、炭素数8〜20のビニルアリール基としては、例えば、ビニルフェニル基などが挙げられる。
【0072】
式(I)において、炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基としては、例えば、ビニルフェニルメチル基、ビニルフェニルメチル基などが挙げられる。
【0073】
ホスホネート化合物のなかでは、ジメチルメチルホスホネート、ジメチルエチルホスホネート、ジプロピルメチルホスホネート、ジブチルメチルホスホネート、ジフェニルメチルホスホネート、ジベンジルメチルホスホネート、ジメチルビニルホスホネート、ジエチルビニルホスホネート、ジメチルオクタデシルホスホネート、ジメチルベンジルホスホネート、ジエチルベンジルホスホネート、エチルジエチルホスホノアセテート、ジメチルフェニルホスホネート、ジメチルオクチルホスホネートおよびジメチル(ジフェニルメチル)ホスホネートからなる群より選ばれた少なくとも1種のホスホネート化合物は、複合酸化物粒子の表面におけるリチウムイオンの移動性を高め、充放電容量を高める観点から好ましい。
【0074】
複合酸化物粒子とホスホネート化合物とを混合する方法としては、例えば、操作の簡便性の観点から、ホスホネート化合物をそのままの状態でまたは適当な有機溶媒に溶解させた溶液と複合酸化物粒子とを混合する方法などが挙げられる。これにより、複合酸化物粒子の表面にホスホネート化合物を付着させることができる。
【0075】
ホスホネート化合物として、液状のものを用いる場合には、そのままの状態でまたは適当な有機溶媒に溶解させた溶液として複合酸化物粒子に付着させることができる。また、ホスホネート化合物として、固体のものを用いる場合には、適当な有機溶媒に溶解させた溶液として複合酸化物粒子に付着させることができる。
【0076】
複合酸化物粒子とホスホネート化合物とを混合する具体的な方法としては、例えば、複合酸化物粒子を攪拌しながら、この複合酸化物粒子にホスホネート化合物またはその溶液を添加するなどにより、複合酸化物粒子とホスホネート化合物とを均一な組成となるように混合する方法などが挙げられる。複合酸化物粒子とホスホネート化合物とを混合する場合、両者を一括して仕込んで混合してもよく、あるいは両者を徐々に配合することによって混合してもよい。
【0077】
なお、ホスホネート化合物を適当な有機溶媒に溶解させた溶液を複合酸化物粒子に付着させる場合、複合酸化物粒子の表面に少量のホスホネート化合物を均一に付着させることができるという利点がある。この場合、ホスホネート化合物の溶液をスプレーなどにより、攪拌している複合酸化物粒子に噴霧する方法、ホスホネート化合物の溶液に複合酸化物粒子を添加し、浸漬することによって付着させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみによって限定されるものではない。
【0078】
前記有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン、グライム、ジグライム、トリグライム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。有機溶媒の量は、複合酸化物粒子およびホスホネート化合物の量によって異なるので、一概には決定することができないが、通常、複合酸化物粒子およびホスホネート化合物の合計量100質量部あたり、5〜70質量部程度であることが好ましい。
【0079】
また、後で述べるように、電池を組み立てる際、一般に、正極材料、導電剤および結着剤を混合し、得られたペーストを集電体に塗布し、乾燥するという操作が採られている。しかし、本発明では、複合酸化物粒子、導電剤および結着剤を混合するときにホスホネート化合物を添加することにより、複合酸化物粒子の表面に付着させることもできる。この場合、ホスホネート化合物は、例えば、ペーストを調製する際に用いられるN−メチルピロリドン(NMP)などの有機溶媒にホスホネート化合物を溶解させた溶液として用いることが好ましい。
【0080】
このように、複合酸化物粒子、導電剤および結着剤を混合するときにホスホネート化合物を添加することは、複合酸化物粒子とホスホネート化合物とを混合する工程が不要となり、また、ホスホネート化合物を溶解させるためにのみ使用した有機溶媒を除去する必要がないので、生産性を高める観点から好ましい。
【0081】
なお、ホスホネート化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を用いる場合、そのホスホネート化合物の溶液を複合酸化物粒子に付着させた後、例えば、加熱乾燥、真空乾燥などにより、有機溶媒をできるかぎり除去することが好ましい。
【0082】
ホスホネート化合物の量は、複合酸化物粒子100質量部あたり、電解液が酸化分解することによってガスが発生するのを十分に抑制するとともに、金属イオンの溶出を抑制する観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。なお、複合酸化物粒子100質量部あたりのホスホネート化合物の量が0.1質量部未満である場合、複合酸化物粒子の表面にホスホネート化合物を単分子単位で付着させなければ、複合酸化物粒子全体をホスホネート化合物で覆うことが理論的に困難であることが、複合酸化物粒子のBET比表面積が0.39m/gであることから推測される。
【0083】
また、ホスホネート化合物の量は、複合酸化物粒子100質量部あたり、リチウムイオンの移動性を高め、充放電容量を高める観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。なお、複合酸化物粒子100質量部あたりのホスホネート化合物の量が5質量部程度である場合、巨視的にはホスホネート化合物が複合酸化物粒子に膜状に付着していると考えることができるが、実際には充放電容量があまり低下しないことから、ホスホネート化合物が複合酸化物粒子に点在して付着していると考えられる。
【0084】
次に、ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子には、電気化学的酸化処理が施される。
【0085】
電気化学的酸化処理としては、例えば、
(A)ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子を用いて試験電極を構成し、試験電極の対極として炭素材料からなる負極を用い、試験電極と負極との間に電解液およびセパレータを介して電装を構成した後、試験電極に酸化電流を印加することにより、ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施す方法、
(B)リチウム塩を支持電解質とする電解液を有する電解槽内に、リチウム金属からなる電極またはリチウムを吸蔵しうる擬似対極と、ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子で構成された試験電極とを浸漬した後、試験電極に酸化電流を印加することにより、ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施す方法
などが挙げられる。本発明では、これらの方法のうちの少なくとも1つの方法を用いることができる。
【0086】
前記(A)の方法では、試験電極が電解液と接触した後、時間率0.1C程度の酸化電流を試験電極に印加し、リチウム電位基準で4.0V以上4.3V未満の電位が得られるまで通電処理を施すことが好ましい。前記(A)の方法では、同一電装内で試験電極と対極が構成されるので、この試験電極を正極として用い、そのままの状態で電池デバイスとして用いることができる。
【0087】
前記(B)の方法では、試験電極が電解液と接触した後、時間率3C以上の酸化電流を0.1〜3ミリ秒程度の瞬時に試験電極に印加した後、通電を停止する。なお、電池を構成したときに活物質としての充電容量を確保する観点から、通電を停止し、5分間経過した後に、最初の開回路電位から0.05V以上0.08V未満の電位上昇を引き起こす酸化電流を試験電極に印加することが好ましい。湿潤した電極を用いる場合には、あらかじめ室温〜50℃程度の温度で電極を乾燥し、電極の質量の減少率を処理前の質量の0.1質量%以下にすればよい。
【0088】
前記(A)の方法または前記(B)の方法では、後で正極として用いられる試験電極と電解液との固液界面が形成されるが、試験電極を構成している複合試験電極を構成している複合酸化物粒子の表面にホスホネート化合物が電気化学的酸化過程で吸着することから、複合酸化物粒子の表面では、ホスホネート化合物の側鎖であるアリール基やアラルキル基などの基がリン原子を介して配向し、これが複合酸化物粒子の表面を緩やかに有機化していると考えられる。このことから、試験電極の表面と電解液との固液界面の分極が緩和され、溶媒分子の急激な酸化が免れるものと考えられる。
【0089】
また、試験電極を構成している複合酸化物粒子の表面では、ホスホネート化合物が比較的高密度で存在していると考えられるので、電池を構成した後の充放電プロセスにおける充電操作によって複合酸化物粒子が電気化学的に強度の酸化状態に至ったとき、複合酸化物粒子と電解液との固液界面でのガスの発生および金属イオンの溶出がホスホネート化合物によって抑制されるものと考えられる。
【0090】
また、本発明の正極材料では、ホスホネート化合物が用いられているので、リン系難燃剤の難燃化機構と同様のメカニズムが生じることから、本発明の正極材料を含む正極を用いた場合には、電池の信頼性および安全性が高められる。
【0091】
前記(A)および(B)の方法では、いずれも常温で操作することができる。これらの方法では、電解液として、例えば、0.5〜2mol/dmのLiPFを含むプロピレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの混合溶液を用いることができる。このとき、プロピレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの体積比(プロピレンカーボネート/ジエチレンカーボネート)は、0.5/1.5〜1.5/0.5であることが好ましい。
【0092】
本発明の非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を用いた場合には、正極が充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったとき、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性を高めることができる。
【0093】
本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極、負極、セパレータおよび電解質を含有する。
【0094】
正極は、例えば、前記非水電解質二次電池用正極材料、導電剤および結着剤を混合し、得られたペーストを集電体に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0095】
導電剤は、電池内で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。
【0096】
導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属の粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に混合して用いることができる。これらのなかでは、人造黒鉛、アセチレンブラックおよびニッケル粉末が好ましい。
【0097】
導電剤の量は、特に限定されないが、通常、前記非水電解質二次電池用正極材料100質量部あたり、好ましくは2〜5質量部、より好ましくは2.5〜3.5質量部である。
【0098】
結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーであることが好ましい。結着剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に混合して用いることができる。これらの中では、ポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0099】
結着剤の量は、特に限定されないが、通常、非水電解質二次電池用正極材料100質量部あたり、好ましくは3〜10質量部、より好ましくは5〜7質量部である。
【0100】
非水電解質二次電池用正極材料、導電剤および結着剤を混合することによってペーストが得られ、得られたペーストを集電体に塗布する。
【0101】
前記したように、このペーストを調製する際に、ホスホネート化合物をペーストに混合した場合には、この混合を行なうときに複合酸化物粒子の表面にホスホネート化合物を付着させることができる。
【0102】
集電体は、電池内で化学変化を起こしがたい電子伝導体であれば特に制限されない。集電体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素などをはじめ、アルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタンまたは銀を付着させた複合体などが挙げられる。これらのなかでは、アルミニウムおよびアルミニウム合金が好ましい。
【0103】
なお、集電体の表面を酸化させておいてもよく、あるいは表面処理によってその表面に凹凸を形成させておいてもよい。
【0104】
集電体の形状は、一般に電池に使用されているものであればよい。集電体形状の具体例としては、例えば、箔、フィルム、シート、ネット、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維、織布、不織布などが挙げられる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常、1〜50μm程度であればよい。
【0105】
前記ペーストを集電体に塗布した後の電極密度は、特に限定されないが、通常、3.0〜3.8g/mL程度であればよい。
【0106】
次に、ペーストを塗布した集電体を常法で乾燥させることにより、正極が得られる。
【0107】
負極に用いられる負極材料としては、例えば、リチウム、リチウム合金、金属間化合物、炭素材料などのリチウムイオンを吸蔵または放出しうる化合物であればよい。これらの負極材料は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
【0108】
リチウム合金としては、例えば、Li−Al系合金、Li−Al−Mn系合金、Li−Al−Mg系合金、Li−Al−Sn系合金、Li−Al−In系合金、Li−Al−Cd系合金、Li−Al−Te系合金、Li−Ga系合金、Li−Cd系合金、Li−In系合金、Li−Pb系合金、Li−Bi系合金、Li−Mg系合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。リチウム合金におけるリチウムの含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
【0109】
金属間化合物としては、例えば、遷移金属とケイ素の化合物、遷移金属とスズの化合物などが挙げられる。
【0110】
炭素材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長炭素系炭素繊維などの炭素繊維、コークス、熱分解炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素、ポリ不定形炭素などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
【0111】
セパレータは、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維などからなるシート、不織布などのイオン透過度および機械的強度が高く、絶縁性、耐有機溶媒性および疎水性を有する微多孔性薄膜が好ましい。
【0112】
セパレータの孔径は、通常、0.1〜1μmであることが好ましい。セパレータの厚さは、10〜100μm程度であればよい。また、セパレータの空孔率は、電子やイオンの透過性などに応じて決定されるが、一般的には30〜80%程度であることが好ましい。
【0113】
電解液は、電解質を有機溶媒に溶解させることによって得られる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの非環状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ−ブチロラクトン(GBL)などのγ−ラクトン;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどの非環状エーテル;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、1,3−プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
【0114】
電解質は、非水電解質であることが好ましい。非水電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LLiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、LiN(CF3SO2)(C25SO2)、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの電解質は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
【0115】
有機溶媒1リットルあたりの電解質の量は、特に限定されないが、好ましくは0.2〜2mol、より好ましくは0.5〜1.5molである。
【0116】
なお、電解液には、充放電特性を高める観点から、2−メチルフラン、チオフェン、ピロール、アニリン、クラウンエーテル、ピリジン、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体などを溶解させてもよい。
【0117】
また、電解液に不燃性を付与するために、例えば、四塩化炭素、三フッ化塩化エチレンなどの含ハロゲン有機溶媒を電解液に含有させてもよい。さらに、高温における保存安定性を電解液に付与する観点から、電解液に炭酸ガスを吹き込んでもよい。
【0118】
電解液は、通常、多孔質ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸させることによって用いることができる。
【0119】
電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。電池の形状がコイン型またはボタン型である場合、正極活物質や負極材料をペレット状に成形することによって用いることができる。ペレット状の電池の厚さや直径は、電池の用途などに応じて適宜決定すればよい。
【0120】
以上説明したように、本発明の非水電解質二次電池は、正極に非水電解質二次電池用正極材料が用いられているので、充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったときにガスの発生およびイオンの溶出がほとんどないので、その信頼性および安全性に優れている。
【実施例】
【0121】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0122】
製造例1(複合酸化物粒子Aの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L(リットル)容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0123】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が1:1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0124】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0125】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0126】
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を空気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0127】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が1:1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.33Co0.33Mn0.332.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Aという。
【0128】
なお、各製造例で得られた複合酸化物粒子の空間群の構造は、X線回折によって確認された。
【0129】
製造例2(複合酸化物粒子Bの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0130】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が8:1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0131】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0132】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0133】
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を空気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0134】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が8:1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.80Co0.10Mn0.102.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Bという。
【0135】
製造例3(複合酸化物粒子Cの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0136】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
【0137】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得た。
【0138】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0139】
次に、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子との合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0140】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.50Co0.502.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Cという。
【0141】
製造例4(複合酸化物粒子Dの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0142】
次に、コバルト水酸化物を得るための原料溶液として1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を調製した。この硫酸コバルト水溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液をこの水溶液に添加した。得られた混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
【0143】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト水酸化物粒子を得た。
【0144】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、60℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0145】
次に、得られたコバルト水酸化物のコバルト原子とリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で850℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0146】
得られた複合酸化物粒子は、空間群R−3m型構造を有し、式:LiCo1.002.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Dという。
【0147】
製造例5(複合酸化物粒子Eの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.4となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、この水溶液に窒素ガスを0.5L/分の流量で吹き込むことによって溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0148】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が1:1となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0149】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液がpH11.4となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0150】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0151】
次に、得られたニッケル−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0152】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.50Mn0.502.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Eという。
【0153】
製造例6(複合酸化物粒子Fの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、温度を50℃に保持し、攪拌を行なった。
【0154】
一方、ニッケル水酸化物を得るための原料溶液として1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液を調製した。この溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0155】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル水酸化物粒子を得た。
【0156】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0157】
次に、得られたニッケル水酸化物のニッケル原子とリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0158】
得られた複合酸化物粒子は、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi1.002.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Fという。
【0159】
製造例7(複合酸化物粒子Gの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込むことにより溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0160】
一方、1mol/L硫酸マンガン水溶液を調製し、この溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0161】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、マンガン水酸化物粒子を得た。
【0162】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからマンガン水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、マンガン水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0163】
次に、得られたマンガン水酸化物のマンガン原子に対するリチウム原子の原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とマンガン水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で850℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0164】
得られた複合酸化物粒子は、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiMn2.004.00で表されるものであった。以下、この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Gという。
【0165】
製造例8(複合酸化物粒子Hの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.4となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0166】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が0.5:1.5となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0167】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.4となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0168】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0169】
次に、得られたニッケル−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子との原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0170】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が0.5:1.5であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi0.50Mn1.504.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Hという。
【0171】
製造例9(複合酸化物粒子Iの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0172】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.3:0.3:1.4となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0173】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0174】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0175】
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子との原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0176】
得られた複合酸化物粒子におけるニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.3:0.3:1.4であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi0.70Co0.30Mn1.004.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Iという。
【0177】
製造例10(複合酸化物粒子Jの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0178】
一方、1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、コバルト原子とマンガン原子の原子比が1:9となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
【0179】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0180】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0181】
次に、得られたコバルト−マンガン複合水酸化物のコバルト原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子の原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0182】
得られた複合酸化物粒子は、コバルト原子とマンガン原子の原子比が1:9であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiCo0.20Mn1.802.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Jという。
【0183】
製造例11(複合酸化物粒子Kの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0184】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が0.75:0.25となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
【0185】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得た。
【0186】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0187】
次に、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子との合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0188】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が0.75:0.25であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.75Co0.252.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Kという。
【0189】
製造例12(複合酸化物粒子Lの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0190】
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.5mol/L硫酸アルミニウム溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子の原子比が0.80:0.15:0.05となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
【0191】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物粒子を得た。
【0192】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0193】
次に、得られたニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子の合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0194】
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウムの原子比が0.80:0.15:0.05であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.80Co0.15Al0.052.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Lという。
【0195】
製造例13(複合酸化物粒子Mの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
【0196】
一方、1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.0mol/L硫酸マグネシウム溶液を、コバルト原子とマグネシウム原子の原子比が0.95:0.05となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4質量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
【0197】
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト−マグネシウム複合水酸化物粒子を得た。
【0198】
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト−マグネシウム複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト−マグネシウム複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0199】
次に、得られたコバルト−マグネシウム複合水酸化物のコバルト原子とマグネシウム原子の合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト−マグネシウム複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で900℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
【0200】
得られた複合酸化物粒子は、コバルト原子とマグネシウムの原子比が0.95:0.05であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiCo0.95Mg0.052.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Mという。
【0201】
実施例1
製造例1で得られた複合酸化物粒子A20gをメノウ乳鉢に入れ、スパーテルで攪拌しながら、マイクロピペットを用いて液体のエチルジエチルホスホノアセテート0.2gをメノウ乳鉢に少しずつ添加した。エチルジエチルホスホノアセテートの添加終了後、得られた混合物をさらにスパーテルおよび乳棒で20分間攪拌し、エチルジエチルホスホノアセテートを複合酸化物粒子に均一に付着させた。
【0202】
次に、このエチルジエチルホスホノアセテートが付着した複合酸化物粒子をステンレス鋼製の密閉容器内に移し、その容器内の温度を50℃に調整し、真空ポンプで600Paまで減圧し、1時間真空乾燥させることにより、混入した水分を除去し、正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0203】
実施例2〜10
実施例1において、ホスホネート化合物の種類を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0204】
実施例11
試験管にエチルジエチルホスホノアセテート0.2gおよびアセトン1.8gを添加し、十分に攪拌することにより、エチルジエチルホスホノアセテートを完全に溶解させてエチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液を得た。
【0205】
製造例1で得られた複合酸化物粒子A20gをメノウ乳鉢に入れ、スパーテルで攪拌しつつ、マイクロピペットを用いて前記で得られたエチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液を少しずつメノウ乳鉢に添加した。エチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液の添加終了後、得られた混合物をさらにスパーテルおよび乳棒で20分間攪拌し、エチルジエチルホスホノアセテートを複合酸化物粒子に均一に付着させた。
【0206】
次に、このエチルジエチルホスホノアセテートが付着した複合酸化物粒子をステンレス鋼製の密閉容器内に移し、その容器内の温度を50℃に調整し、真空ポンプで600Paまで減圧し、1時間真空乾燥させることにより、アセトンおよび混入した水分を除去し、正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0207】
実施例12〜20
実施例11において、エチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液の代わりに、ホスホネート化合物の種類を表1に示すように変更し、試験管にホスホネート化合物0.2gおよびアセトン1.8gを添加し、十分に攪拌することにより、ホスホネート化合物を完全に溶解させた溶液を用いたほかは、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0208】
【表1】

【0209】
実施例21〜32
実施例11において、複合酸化物およびホスホネート化合物の種類を表2に示すように変更したほかは、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0210】
【表2】

【0211】
実施例33〜36
実施例11において、複合酸化物粒子100質量部あたりのホスホネート化合物の量を表3に示すように変更したほかは、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0212】
【表3】

【0213】
実施例37
製造例1で得られた複合酸化物粒子A20gをメノウ乳鉢に入れ、スパーテルで攪拌しながら、液体のエチルジエチルホスホノアセテート0.01gをアセトン2gで希釈した溶液をマイクロピペットでメノウ乳鉢に少しずつ添加した。エチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液の添加終了後、得られた混合物をさらにスパーテルおよび乳棒で20分間攪拌しエチルジエチルホスホノアセテートを複合酸化物粒子に均一に付着させた。
【0214】
次に、このエチルジエチルホスホノアセテートが付着した複合酸化物粒子をステンレス鋼製の密閉容器内に移し、その容器内の温度を50℃に調整し、真空ポンプで600Paまで減圧し、1時間真空乾燥させることにより、混入した水分を除去し、正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0215】
実施例38
製造例1で得られた複合酸化物粒子A20gをメノウ乳鉢に入れ、スパーテルで攪拌しながら、液体のエチルジエチルホスホノアセテート1.6gをアセトン10gで希釈した溶液をマイクロピペットでメノウ乳鉢に少しずつ添加した。エチルジエチルホスホノアセテートのアセトン溶液の添加終了後、得られた混合物をさらにスパーテルおよび乳棒で20分間攪拌し、エチルジエチルホスホノアセテートを複合酸化物粒子に均一に付着させた。
【0216】
次に、このエチルジエチルホスホノアセテートが付着した複合酸化物粒子をステンレス鋼製の密閉容器内に移し、その容器内の温度を50℃に調整し、真空ポンプで600Paまで減圧し、1時間真空乾燥させることにより、混入した水分を除去し、正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0217】
比較例1
実施例11において、ホスホネート化合物を使用しなかったこと以外は、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料は、アルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0218】
比較例2
実施例11において、エチルジエチルホスホノアセテート0.2gの代わりにオクチルホスホン酸0.2gを用いたほかは、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0219】
比較例3
実施例11において、エチルジエチルホスホノアセテート0.2gの代わりにリン酸トリメチル0.2gを用いたほかは、実施例11と同様にして正極材料を得た。得られた正極材料をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
【0220】
実施例37〜38および比較例1〜3で得られた正極材料の組成を表4に示す。
【0221】
【表4】

【0222】
実験例1(正極材料の表面におけるホスホネート化合物の存在の確認)
各実施例で得られた正極材料の表面にホスホネート化合物が存在しているかどうかを以下の方法によって調べた。
【0223】
(1)赤外分光分析(IR)スペクトルの測定
各正極材料の表面におけるホスホネート化合物の存在は、赤外分光分析装置〔日本分光(株)製、品番:FT/IR−460Plus〕を用いて赤外分光分析(IR)スペクトルのP−O結合に由来する伸縮振動の吸収ピークを調べることによって確認した。
【0224】
その一例として、実施例12で得られた正極材料のIRスペクトルを図1に示す。正極材料は、硬い粒状であるため、測定感度が低いが、図1に示されているように、1050cm−1付近では、P−O−C結合に由来する伸縮振動の吸収ピークが明確に観測されている。このことから、実施例12で得られた正極材料では、ホスホネート化合物が複合酸化物粒子に付着していることがわかる。
【0225】
(2)電導率の測定
実施例1〜20で得られた正極材料の電導率は、粉末電導率測定装置〔(株)ダイアインスツルメンツ製、粉体抵抗測定システム、型番:MCP−PD51〕で測定したところ、10−3Scm−1であるのに対し、実施例38で得られた正極材料の電導率は10−5〜10−4Scm−1であった。このことから、実施例38で得られた正極材料は、その表面がホスホネート化合物でほぼ完全に覆われている可能性が高いことが推測される。
【0226】
実験例2(正極材料の結晶構造の解析)
複合酸化物粒子A、実施例1で得られた正極材料、実施例11で得られた正極材料および実施例12で得られた正極材料に、それぞれ、銅の特性X線(波長1.54Å)を照射し、2θが10〜85°の範囲で毎分2°で走査することにより、X線回折を行なった。なお、X線回折の測定には、(株)島津製作所製、品番:XD−3Aを用いた。その結果を図2に示す。
【0227】
図2において、1は複合酸化物粒子AのX線回折、2は実施例1で得られた正極材料のX線回折、3は実施例11で得られた正極材料のX線回折、4は実施例12で得られた正極材料のX線回折を示す。
【0228】
図2に示された結果から、複合酸化物粒子Aの表面にホスホネート化合物を付着させることによるX線回折のパターンの変化は、実験誤差の範囲内にあり、ホスホネート化合物の付着処理によってほとんど変化しないことから、ホスホネート化合物は、複合酸化物粒子の表面のみに存在し、複合酸化物粒子Aの結晶構造に影響を及ぼしていないことがわかる。
【0229】
実験例3(比表面積の測定)
複合酸化物粒子A(比較例1)、実施例1および実施例11〜15で得られた正極材料の比表面積を以下の方法によって調べた。その結果を表5に示す。
【0230】
〔比表面積〕
マイクロメリティックス(Micromeritics)社製、品番:ASAP2100を用いて測定した窒素ガス吸着量から求めた。
【0231】
【表5】

【0232】
表5に示された結果から、各実施例で得られた正極材料の比表面積は、いずれも、ホスホネート化合物の種類によってほとんど変化しないことがわかる。このことから、ホスホネート化合物は、複合酸化物粒子の表面の形態を変化させることなく、表面にのみ存在していることがわかる。
【0233】
実験例4(正極材料の物性の測定)
実施例11〜32で得られた正極材料の物性を以下の方法に基づいて測定した。
【0234】
活物質であるホスホネート化合物が付着している複合酸化物粒子100質量部あたり、導電剤としてアセチレンブラック3質量部および結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部の割合で各成分を混合し、得られた混合物を有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン中でさらに混合し、分散させることによって得られたペーストをアルミニウム集電体シートに塗工し、乾燥および圧延することにより、正極板を得た。
【0235】
負極の活物質として黒鉛を用い、黒鉛100質量部あたり、結着剤としてスチレンブタジエンゴム2.5質量部の割合で両者を、水中で混練し、分散させることによって得られたペーストを銅集電体シート上に塗工し、乾燥および圧延することにより、負極板を得た。
【0236】
容量100mAh程度の容量が得られるように正極板と負極板との容量比をあらかじめ調整しておいた電池を構成した。より具体的には、図3に示されるアルミニウムフォイルで形成されたラミネートセル3を用いた。なお、図3は、アルミニウムフォイルで形成されたラミネートセル3の概略説明図である。
【0237】
図3において、試験電極としての正極板1と対極としての負極板2とは、セパレータ(図示せず)を介して対向されている。アルミニウムフォイルで形成されているラミネートセル3には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒にLiPFを1mol/dmの量で溶解させた電解液が真空注液によって含浸されており、開口部(図示せず)が封止されている。このラミネートセル3は、正極板1および負極板2が存在している電池動作室4と副反応で生じるガスを捕集するためのガス溜め室5が設けられており、電池動作室4とガス溜め室5の隔壁(図示せず)には、ガス通路6が形成されている。
【0238】
常温で正極板1に10mAの電気化学的酸化電流を通電し、ラミネートセル3の電圧が4.0Vに達したときに通電を終了することにより、電気化学的酸化処理を完了した。
【0239】
電気化学的酸化処理が終了したラミネートセル3を45℃で1時間以上放置した後、放電電流10mAで電位が3.0Vとなるまで放電した。
【0240】
次に、得られたラミネートセル3を45℃の大気中で4.5Vまで充電した後、開回路状態で3日間保存し、発生ガスを捕集した。また、試験終了後にラミネートセル3を解体し、電解液と負極板2に存在している遷移金属元素量を分析した。その結果、炭酸ガスを主成分とする正極板1に由来のガスおよびメタンガスを主成分とする負極板2に由来のガスが検出された。これらのうち、正極板1に由来のガスは、主として正極板1と電解液との副反応によって生成される成分と考えられるので、ホスホネート化合物の付着処理の有無による正極板1に由来のガスの発生量について調べた。
【0241】
電解液と負極板2に存在する遷移金属元素は、主として正極板1から溶出した成分であり、正極板1の安定性を示す指標となり、遷移金属元素の溶出量が少ないほど正極板1が安定していると考えられる。
【0242】
得られたラミネートセル3を用いて、ガス発生比、溶出金属イオン比および容量比を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表6に示す。
【0243】
〔ガス発生比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するホスホネート化合物の付着処理による効果を確認するために、ラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、開回路状態で3日間発生したガスの捕集を行ない、ガス発生比として、ガスの総発生量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。
【0244】
なお、前記「処理あり/処理なしの比の値」は、ホスホネート化合物の付着処理を行ったもののガス発生量をホスホネート化合物の付着処理が施されていないもののガス発生量で除したときの値を意味する(以下同じ)。
【0245】
〔溶出金属イオン比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するホスホネート化合物の付着処理による効果を調べるために、ラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、開回路状態で3日間保存した後、溶出金属イオン比として、負極中の遷移金属イオン量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。
【0246】
〔容量比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するホスホネート化合物の付着処理による容量特性への影響を調べるために、ラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電し、開回路状態で3日間保存した後、容量比として、0.2C相当の放電容量の比率(処理あり/処理なし)を求めた。
【0247】
【表6】

【0248】
表6に示された結果から、いずれの実施例でも、結晶系の空間群の相違に関係なく、ガス発生比および溶出金属イオン比が小さく、容量比が1に近いことから、ホスホネート化合物の付着処理を施しても、0.2C相当の放電容量がほとんど影響を受けないことがわかる。
【0249】
実験例5(正極材料の物性の測定)
実施例33〜38で得られた正極材料について、実験例4と同様にして、ガス発生比、溶出金属イオン比および容量比を調べた。その結果を表7に示す。
【0250】
【表7】

【0251】
表7に示された結果から、実施例33〜38では、ガス発生比および溶出金属イオン比が小さく、容量比が1に近いことから、ホスホネート化合物の付着処理を施しても、その容量がほとんど影響を受けないことがわかる。なお、実施例38の結果から、複合酸化物粒子100質量部あたりのホスホネート化合物の量が8質量部である場合、充放電時の容量比がやや低下していることから、電池としての性能が若干低下することがわかる。
【0252】
比較例4および5
実験例4において、表面処理が施されていない複合酸化物粒子Aをそのまま用い、ラミネートセル3に注入するエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒にLiPFを1mol/dmの量で溶解させた電解液に、リン酸トリメチルの濃度が3容量%となるようにリン酸トリメチルを溶解させたもの(比較例4)、エチルジエチルホスホノアセテートの濃度が3容量%となるようにエチルジエチルホスホノアセテートを溶解させたもの(比較例5)を用いたほかは、実験例4と同等にしてラミネートセルを作製した。
【0253】
実験例6(正極材料の物性の測定)
比較例2〜5で得られた正極材料について、実験例4と同様にして、ガス発生比、溶出金属イオン比および容量比を調べた。その結果を表8に示す。
【0254】
【表8】

【0255】
表8に示された結果から、ホスホン酸などの「酸」では、溶出金属イオン比が高くなるとともに、放電容量が減少することがわかる。また、比較例4および5のように電解液にリン含有化合物を添加した場合、放電容量がやや減少するなど、電池としての性能が低下することがわかる。
【0256】
実験例7(DSCによる複合酸化物粒子の充電状態での熱安定性)
ホスホネート化合物の付着処理が施された空間群R−3m型構造を有する複合酸化物粒子の充電状態における熱分解挙動を調べるために、実施例11〜20および実施例37で得られた正極材料を実験例4と同様にして図3に示されるラミネートセル3に入れ、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、この正極材料を取り出し、ステンレス鋼製の密閉セルを用いて10℃/secの昇温速度で室温から350℃までの温度範囲内で示差走査熱量計〔セイコーインスツルメンツ(株)製、品番:DSC/5200〕を用いて正極材料の発熱および吸熱を調べた。その結果を表9に示す。
【0257】
【表9】

【0258】
表9に示されるように、R−3m型構造を有する複合酸化物にホスホネート化合物を付着させることにより、発熱ピークがブロードとなり、高温側にシフトしたことから、R−3m型構造を有する複合酸化物にホスホネート化合物を付着させれば、充電状態の複合酸化物粒子上で加熱時に起こる化学反応を抑制することができることがわかる。
【0259】
なお、実施例37のDSCの測定結果より、ピーク温度が300℃であることから、ホスホネートの付着量が0.1質量%未満では、化学反応を抑制する効果が若干低いことがわかる。
【0260】
以上のことから、ホスホネート化合物を複合酸化物粒子に付着させることによって得られる正極材料は、充電状態の正極上で加熱時に起こる充放電反応とは異なる不可逆的な化学反応、すなわち電池に対して充放電サイクル寿命を短縮させるという悪影響を及ぼす化学反応を抑制することがわかる。
【0261】
次に、実施例11で得られたホスホネート化合物が付着している正極材料の充電状態でのDSCの測定結果を図4に、比較例1で得られたホスホネート化合物が付着していない正極材料の充電状態でのDSCの測定結果を図5にそれぞれ示す。
【0262】
図4および図5に示された結果から、図4では315℃付近にブロードなピークとして発熱ピークが観測され、図5では297℃付近に観測された鋭い発熱ピークが観測された。
【0263】
実験例8(充電後のホスホネート化合物の存在確認試験)
実施例12で得られたホスホネート化合物の付着処理された複合酸化物粒子について、充電処理後のホスホネート化合物の複合酸化物粒子の表面での存在を確認するために、以下の効果確認試験を行なった。
【0264】
実施例12で得られたホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子を用い、実験例4と同様にして正極板を作製し、これを実験例4と同様にして図3に示されるラミネートセル3に入れ、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、この正極板を取り出し、実験例1と同様にして赤外分光分析(IR)スペクトルを測定した。その測定結果を図6に示す。
【0265】
図6に示された結果では、図1に示された結果と異なり、正極板を作製する際に混合したポリフッ化ビニリデンに由来の1200cm−1および850cm−1付近にピークが新たに現れているが、特にP−O−C結合に由来する1050cm−1付近に伸縮振動の吸収ピークが明確に現れていることから、充電処理を施した後であっても、ホスホネート化合物が分解せずに複合酸化物粒子に付着していることがわかる。
【0266】
以上説明したように、本発明の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用正極材料は、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出を抑制するので、電池の信頼性および安全性を高めることができる。また、本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極材料が用いられているので、電池構成後の充電操作よる電気化学的酸化状態に至ったときに、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性を高めることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】実施例12で得られた正極材料の赤外分光分析(IR)の測定結果を示すグラフである。
【図2】1〜4は、それぞれ順に、複合酸化物粒子A、実施例1で得られた正極材料、実施例11で得られた正極材料および実施例12で得られた正極材料のX線回折図である。
【図3】実験例4で用いられたアルミニウムフォイルで形成されたラミネートセルの概略説明図である。
【図4】実施例11で得られたホスホネート化合物が付着している正極材料の充電状態でのDSCの測定結果を示すグラフである。
【図5】比較例1で得られたホスホネート化合物が付着していない正極材料の充電状態でのDSCの測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例12で得られたホスホネート化合物が付着している正極材料の充電処理後の赤外分光分析(IR)の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子と、式(I):
【化1】

〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す〕
で表されるホスホネート化合物を含有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項2】
複合酸化物粒子が式(II):
LiM (II)
〔式中、Mはニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子、xは0.8〜2.3の数、yは1.7〜4.5の数を示し、xおよびyは式:1+xn=2y(式中、nは原子Mの平均酸化数を示し、xおよびyは前記と同じ)を満足する〕
で表される複合酸化物からなり、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子である請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
ホスホネート化合物が、ジメチルメチルホスホネート、ジメチルエチルホスホネート、ジプロピルメチルホスホネート、ジブチルメチルホスホネート、ジフェニルメチルホスホネート、ジベンジルメチルホスホネート、ジメチルビニルホスホネート、ジエチルビニルホスホネート、ジメチルオクタデシルホスホネート、ジメチルベンジルホスホネート、ジエチルベンジルホスホネート、エチルジエチルホスホノアセテート、ジメチルフェニルホスホネート、ジメチルオクチルホスホネートおよびジメチル(ジフェニルメチル)ホスホネートからなる群より選ばれた少なくとも1種のホスホネート化合物である請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
ホスホネート化合物の量が、複合酸化物粒子100質量部あたり0.1〜5質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の正極材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極材料を含む正極と負極とセパレータと電解質とを含有してなる非水電解質二次電池。
【請求項6】
リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子に、式(I):
【化2】

〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、式:−R−C(O)−O−R(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表される基、ビニル基、炭素数3〜10のビニルアルキル基、炭素数8〜20のビニルアリール基または炭素数9〜21のビニルアリールアルキル基を示す〕
で表されるホスホネート化合物を付着させた後、電気化学的酸化処理を施すことを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項7】
複合酸化物粒子が式(II):
LiM (II)
〔式中、Mはニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子、xは0.8〜2.3の数、yは1.7〜4.5の数を示し、xおよびyは式:1+xn=2y(式中、nは原子Mの平均酸化数を示し、xおよびyは前記と同じ)を満足する〕
で表される複合酸化物からなり、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子である請求項6に記載の正極材料の製造方法。
【請求項8】
ホスホネート化合物が、ジメチルメチルホスホネート、ジメチルエチルホスホネート、ジプロピルメチルホスホネート、ジブチルメチルホスホネート、ジフェニルメチルホスホネート、ジベンジルメチルホスホネート、ジメチルビニルホスホネート、ジエチルビニルホスホネート、ジメチルオクタデシルホスホネート、ジメチルベンジルホスホネート、ジエチルベンジルホスホネート、エチルジエチルホスホノアセテート、ジメチルフェニルホスホネート、ジメチルオクチルホスホネートおよびジメチル(ジフェニルメチル)ホスホネートからなる群より選ばれた少なくとも1種のホスホネート化合物である請求項6または7に記載の正極材料の製造方法。
【請求項9】
ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子を用いて試験電極を構成し、試験電極の対極として炭素材料からなる負極を用い、試験電極と負極との間に電解液およびセパレータを介して電装を構成した後、試験電極に酸化電流を印加することにより、ホスホネート化合物が付着した複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施す請求項6〜8のいずれかに記載の正極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−92706(P2010−92706A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261299(P2008−261299)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】