説明

非水電解質二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタ

【課題】充放電効率及び充放電サイクル特性に優れた電池を構成可能な非水電解質二次電池用負極材、並びに、これを用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタを提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池用負極材は、複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる複数のグラフェンシート20と、リチウムと合金化し得る金属間化合物10との複合化物を含み、前記グラフェンシート20のベーサル面の径は、前記金属間化合物10の粒子径より大きく、前記複合化物は、前記金属間化合物10が前記グラフェンシート20間に挟み込まれた層構造を有し、前記複合化物中の空隙率は、20〜50%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極材、並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯用の小型電気・電子機器の普及に伴い、その電源である電池は、ますます小型化、高容量化が要望されている。現在、エネルギー密度が高く、小型軽量化を図り得る二次電池として、リチウムを活物質とする非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。非水電解質二次電池の負極には、Liイオンを吸蔵・放出することができる黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料が用いられ、非水電解質二次電池の充電中に正極のリチウム含有化合物、例えば、LiCoO2から溶け出たリチウムイオンが負極の炭素材料の層間にインターカレーションされ、LiC6という化合物を形成することで、負極の炭素材料にリチウムイオンが吸蔵される。一方、非水電解質二次電池の放電中は、負極のLiC6からリチウムイオンが放出されて正極に戻る。このようにリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電する非水電解質二次電池は、アームチェア型電池と呼ばれる。
【0003】
ところで、負極に用いられる炭素材料のうち、黒鉛系材料は、放電容量の上限である理論的放電容量(以下、理論容量という)が372mAh/gであり、これはLiの理論容量3860mAh/gの約1/10である。また、実用化されている非黒鉛系材料の放電容量は、黒鉛系材料の理論容量より低い。非黒鉛系材料の中には、600mAh/g以上という高い放電容量を示すものが報告されているが、不可逆的容量が大きく、充放電効率(クーロン効率)が悪い。充放電効率が悪いと、充電の際の電気量が増大し、電池のエネルギー効率が悪化する。
【0004】
そこで、高容量化、長寿命化、高効率化を狙って、炭素材料の代替として金属間化合物系材料の開発が行われている。金属間化合物系材料としては、例えば、ジルコニウム、ケイ素、チタン、スズ、インジウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、及びその酸化物が挙げられ、現在、理論容量が994mAh/gのスズと、理論容量が4200mAh/gのシリコンを中心として開発が進められている。
【0005】
しかし、上記金属間化合物系負極材は、黒鉛系負極材よりも高容量で魅力ある材料であるが、充放電時の体積変化に起因するサイクル特性の劣化と、材料表面での電解液との不可逆反応が生じることに起因する充放電効率の低下が問題となっている。そのため、カーボン等の炭素材料、銅等の金属材料によって、上記金属間化合物系負極材からなる活物質をコーティングする方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−213825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記金属間化合物系負極材からなる活物質が凝集して凝集体を形成すると、充電に伴う材料の膨張変化を抑制できず、電池特性の劣化を抑制できない場合がある。このメカニズムを図6を用いて説明する。図6は、従来の非水電解質二次電池用負極材の充電に伴う膨張変化を説明するための図であり、図6Aは通常の状態(リチウムとの合金化前)を示し、図6Bは充電により膨張した状態(リチウムとの合金化後)を示している。
【0008】
図6Aに示すように、金属間化合物微粒子1は、活物質1aが炭素材料や金属材料等の薄膜1bによってコーティングされたものであり、複数の金属間化合物微粒子1が凝集体を形成する。この凝集体の内部には、充電に伴う膨張変化を吸収するスペースが不足している。そのため、充電に伴い粒子1が膨張し、図6Bに示すように、金属間化合物微粒子1同士の押し合う力により、金属間化合物微粒子1が破壊されて微粉化が生じる。その結果、活物質1aとの間に導電性もたせるための導電助剤との結合が切断され、電気化学反応に寄与しない粒子が生じ、充放電サイクル特性の劣化を招くことになる。また、金属間化合物微粒子1の破壊により高活性な金属成分である活物質1aが露出し、露出した活物質1aが非水電解質と接触して非水電解質の分解等を引き起こし、これが電池の充放電効率の低下の原因となり、更なる電池特性の劣化につながる。
【0009】
また、上記金属間化合物が、金属酸化物系の材料である場合、上記問題点とは別に、酸化物が還元されるコンバージョン反応により不可逆的な反応が生じ、充放電効率が低下するという問題が生じる。さらに、粒子表面に酸化物が存在すると、粉末同士の接触抵抗が大きくなって充放電効率の低下につながる。
【0010】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、充放電効率及び充放電サイクル特性に優れた電池を構成できる非水電解質二次電池用負極材、並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の非水電解質二次電池用負極材は、複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる複数のグラフェンシートと、リチウムと合金化し得る金属間化合物との複合化物を有し、上記グラフェンシートのベーサル面の径は、上記金属間化合物の粒子径より大きく、上記複合化物は、上記金属間化合物が上記グラフェンシート間に挟み込まれた層構造を有し、上記複合化物中の空隙率は、20〜50%であることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の電気化学キャパシタは、上記本発明の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水電解質二次電池用負極材によれば、充放電効率、充放電サイクル特性に優れた電池を実現できる。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、上記本発明の非水電解質二次電池用負極材を用いることで、充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0016】
本発明の電気化学キャパシタによれば、上記本発明の非水電解質二次電池用負極材を用いることで、充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の非水電解質二次電池用負極材の充電に伴う膨張変化を説明するための模式図である。
【図2】化学的手法により作製されたグラフェンシートを用いた非水電解質負極材の一例を示す。
【図3】黒鉛、酸化黒鉛、膨張黒鉛のX線回折結果を示す図である。
【図4】黒鉛、酸化黒鉛、膨張黒鉛の結晶状態を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】グラフェンシートの光学顕微鏡写真である。
【図6】従来の非水電解質二次電池用負極材の充電に伴う膨張変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる複数のグラフェンシートと、リチウムと合金化し得る金属間化合物との複合化物を有し、上記グラフェンシートのベーサル面の径は、上記金属間化合物の粒子径より大きく、上記複合化物は、上記金属間化合物が上記グラフェンシート間に挟み込まれた層構造を有し、上記複合化物中の空隙率は、20〜50%であることを特徴とする。これにより、充放電効率及び充放電サイクル特性に優れた電池を構成可能な負極材を実現できる。
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態1では、本発明の非水電解質二次電池用負極材を説明する。図1は、本発明の非水電解質二次電池用負極材の充電に伴う膨張変化を説明するための図であり、図1Aは通常の状態(リチウムとの合金化前)を示し、図1Bは充電に伴い膨張した状態(リチウムとの合金化後)を示している。
【0021】
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、図1Aに示すように、グラフェンシート20と、金属間化合物(以下、金属間微粒子ともいう)10との複合化物であって、金属間化合物10がグラフェンシート20間に挟み込まれた層構造を有する。これにより、金属間化合物微粒子10が凝集体を形成するのを抑制できるとともに、金属間化合物10の粒子間に隙間を形成できる。また、グラフェンシート20は、積層体の厚み方向、つまり、図1Bにおける矢印方向に伸縮可能である。そのため、充電の際に、リチウムとの合金化により金属間化合物10が膨張すると、図1Cに示すように、グラフェンシート20と金属間化合物10との複合化物全体で膨張することになり、金属間化合物10の微粉化を抑制できる。また、金属間化合物10は、グラフェンシート20間に挟み込まれることで、電解液との過剰な反応を抑制でき、電池特性を向上できる。
【0022】
なお、図1では、金属間化合物微粒子10として、活物質10aを炭素材料や金属材料等の薄膜10bでコーティングしたものを示したが、これに限定されず、活物質10aを薄膜10bでコーティングしていないものも、本発明の金属間化合物として用いることができる。
【0023】
また、図1では、グラフェンシート20間に挟み込まれる複数の金属間化合物微粒子10が、等間隔で横一例に並んでいる様子を示したが、これは理想的な配列の様子を示したに過ぎず、実際には、金属間化合物微粒子10間の距離が等間隔でなく、金属間化合物微粒子10同士が当接している場合や、縦列している場合もある。
【0024】
(グラフェンシート)
グラフェンシートは、複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる。このグラフェンシートは、優れた靱性を有するため、充放電の繰り返しの際、充放電に伴う金属間化合物の膨張・収縮(体積変化)による負極材の構造破壊を抑制できる。また、グラフェンシートは、非常に高い電気導電性を有するため、それ自身が導電助剤としての役割を果たす。
【0025】
グラフェンシート間に金属間化合物を挟み込むため、グラフェンシートのベーサル面の径を金属間化合物の粒子径よりも一定以上大きくする必要がある。このため、金属間化合物の粒子径とグラフェンシートのベーサル面の径との比が1:2以上であることが好ましい。また、グラフェンシートのベーサル面の径は、黒鉛のベーサル面の径に依存し、100nm〜10μmの範囲内で設定される。
【0026】
グラフェンシートは非常に薄い構造にも関わらず、高い靱性や電気伝導性を持つため、グラフェンシートは1層以上あればよい。グラフェンシート特有の物理特性を生かすためには、グラフェンシートの層数は、100層以下であることが好ましく、より好ましくは10層以下である。
【0027】
グラフェンシートは、一般的に、ピーリング法、CVD法、触媒成長法等の物理的手法や、酸や有機溶媒を用いた化学的手法によって黒鉛の層間を引き剥がすことにより作製される。ただし、物理的手法は、安定した組成でグラフェンシートを作製できる一方、生産性に劣るため、電池材料の場合、化学的手法により黒鉛からグラフェンシートをトップダウン式に作製する方法が生産性の観点から好ましい。
【0028】
化学的手法によるグラフェンシートの作製方法については、例えば、特開2003−34512号公報で提案されているが、以下、簡単に説明する。
【0029】
まず、黒鉛粉末を化学的に酸化する。これにより、黒鉛層間に酸素含有基が付加され、黒鉛層間が拡大し、酸化黒鉛が得られる。この酸化黒鉛をさらに1050℃の高温で急速過熱を行うことにより、黒鉛層間の酸素原子がガス化し、強い力で黒鉛層間が押し広げられ、層構造がバラバラとなり、膨張黒鉛が得られる。この膨張黒鉛を水等の溶媒に分散させ、超音波処理を行って剥片化することによりグラフェンシートが得られる。このようにして作製されたグラフェンシートは、しわの寄った形状や折れ曲がった形状を持つことが多い。
【0030】
図2に、化学的手法により作製されたグラフェンシートを用いた非水電解質負極材の一例を示す。図2Aは通常の状態(リチウムとの合金化前)を示し、図2Bは充電に伴い膨張した状態(リチウムとの合金化後)を示している。図2において図1と同じ構成要素については同一符号を付す。図2Aに示すように、金属間化合物10は、しわの寄った形状や折れ曲がった形状のグラフェンシート20によって挟み込まれる。充電の際には、図2Bに示すように、充電に伴う金属間化合物10の膨張に伴い、グラフェンシートの形態が変化する。このようにグラフェンシートの形態は、充放電に伴う金属間化合物の体積変化に応じて変化しやすく、金属間化合物の微粉化を効果的に抑制できる。
【0031】
(金属間化合物)
金属間化合物は、リチウムと合金化し得る金属(以下、金属微粒子ともいう。)、またその酸化物(以下、金属酸化物微粒子ともいう。)であり、例えば、ジルコニウム、ケイ素、チタン、スズ、インジウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、及び、それらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1つである。金属微粒子としては、熱プラズマ法により合成された市販のものを使用でき、金属酸化物微粒子としては、熱プラズマ法やゾルゲル法により合成された市販のものを使用できる。
【0032】
金属粒子は粒子自体の体積膨張による微粉化が生じるが、金属間化合物の粒子径は1μm以下であれば、大幅に微粉化が抑制される。特に、充放電に伴う金属間化合物の体積変化をグラフェンシートで吸収するためには、金属間化合物の粒子径は200nm以下がより好ましい。また、粒径が50nmより小さくなると体積当たりの容量が低下するため、50nm以上が好ましい。
【0033】
なお、上述したように、膨張黒鉛からグラフェンシートにするためには超音波処理を行う必要があるため、グラフェンシートのベーサル面の径は、黒鉛原材料の径よりも小さくなってしまう。そのため、グラフェンシートと金属酸化物との複合化物を作製する際には、グラフェンシートのベーサル面の径が黒鉛材料によって制限されることを考慮して、金属間化合物の粒子径を選択する必要がある。
【0034】
(グラフェンシートと金属間化合物との複合化)
次に、グラフェンシートと金属間化合物との複合化方法について説明する。
【0035】
まず、例えば、分散液としての水、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒中に、グラフェンシートと金属間化合物とを添加して超音波処理を行うことにより、グラフェンシートと金属間化合物とを溶媒中で分散させる(分散処理)。このとき、金属間化合物100質量部に対してグラフェンシートを0.01〜30質量部の割合で添加する。グラフェンシートの割合が30質量部を超えると、グラフェンシートとリチウムイオンとの不可逆反応の影響が充放電特性に現れ、サイクル特性が劣化する場合がある。一方、グラフェンシートの割合が0.01質量部未満になると、金属間化合物の体積変化をグラフェンシートが十分に吸収できなくなり、金属間化合物同士の押し合いによる微粉化が抑制できなくなる。また、上記分散処理の際、グラフェンシートと金属間化合物との親和性を高めるために、上記溶媒中に分散剤を0.1〜10質量部添加することが好ましい。分散剤としては、カーボン材料に親和性が高い官能基を有する高分子系分散剤や水溶性樹脂であることが好ましい。具体的には、例えば、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤や、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0036】
上記分散処理の後、グラフェンシートと金属間化合物とが分散した溶媒を乾燥させると、グラフェンシートと金属間化合物との複合化物が得られる。乾燥方法としては、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。乾燥温度は、分散液に引火の危険性のある溶媒を使用する場合もあるため、約200℃以下が好ましく、特に80〜100℃が好ましい。また、分散剤を添加した場合、分散剤成分が充放電の際に付加反応を起こすこともあるため、上記複合化物をさらに加熱処理することにより、複合化物中の分散剤成分を揮発させ除去することが好ましい。
【0037】
以上のようにして作製されたグラフェンシートと金属間化合物との複合化物は、グラフェンシート間に金属間化合物が挟み込まれた層構造を有するものであり、隣り合う金属間化合物微粒子の間には空隙が生じる。この空隙は、電解液が流通する経路として機能する。さらに、上記空隙は、充放電に伴う活物質の体積変化に起因する応力を緩和するためのスペースとしても機能し、金属間化合物の微粉化を抑制できる。
【0038】
グラフェンシートと金属間化合物との複合化物中の空隙率は、20〜50%が好ましく、より好ましくは30〜40%である。これは、空隙率が20%以上であれば充電の際の膨張変化に伴う粒子同士の接触を大きく減少させることができ、粒子に働く応力による微粉化を抑制できるからである。また、空隙率の下限値を20%としたことは、電解液の浸透性の面からも好ましい。一方、空隙率は50%以下であれば、グラフェンシート同士が接触しやすく、電極の導電性を向上できるとともに、強度維持にも極めて効果的である。なお、上記複合化物中の空隙率は、グラフェンシート及び金属間化合物の大きさを適宜選択することにより制御できる。
【0039】
なお、上記非水電解質二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、カーボン、黒鉛等の導電材を添加してもよい。この場合、導電材の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子導電性の材料であればよく、繊維状またはコイル状の金属、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。繊維状またはコイル状の炭素材料や、繊維状またコイル状の金属は、導電ネットワークを形成し易く、かつ表面積の大きい点において好ましい。カーボンブラック(アセチレンブラック,ケッチェンブラックを含む)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素は、高い電気導電性、高い保液性を有している。なお、本発明では、グラフェンシートと金属間化合物との複合化物を有する負極材自身が電気導電性を持つため、導電材を用いなくても問題ない。
【0040】
負極の調製方法としては下記の方法が挙げられる。グラフェンシートと金属間化合物との複合化物と、必要に応じて導電材やバインダ等の添加剤と、NMP、水等の溶剤とを混練して負極合剤ペーストを作製し、この負極合剤ペーストを集電体の表面上に塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等の通常の負極用集電体として使用されている材料であればよく、特に厚さ、表面処理については制限されない。また、負極合剤ペーストの塗布方法についても特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0041】
(実施形態2)
本実施形態2では、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とする。これにより、充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0043】
なお、正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用でき、特に限定されない。例えば、正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V25、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶媒が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、2メチルテトラヒドロフラン等の一種類または二種類以上を組み合わせて用いられる。また、上記以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0044】
(実施形態3)
本実施形態3では、本発明の電気化学キャパシタについて説明する。
【0045】
本発明の電気化学キャパシタは、本発明の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とする。これにより、充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0046】
なお、電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形等は公知のものを使用でき、特に限定されない。例えば、電解質として六フッ化リン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化ヒ素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶媒が用いられ、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、2メチルテトラヒドロフラン等の一種類または二種類以上を組み合わせて用いられる。また、上記以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の非水二次電池用負極材の有用性について実施例を用いて説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
本発明の非水二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池を下記のようにして作製した。
【0049】
<グラフェンシートの作製>
グラフェンシートは次のようにして作製した。
【0050】
[1.酸化処理]
まず、三角フラスコの容器内に、黒鉛粉末10gと、酸化剤の塩素酸カリウム粉末100gを投入し、容器を軽く振り、黒鉛粉末と塩素酸カリウム粉末とを混ぜた。そして、容器内に発煙硝酸を200ml注入し、室温でスターラにて半日撹拌を行った。そして、ろ過して得られた紛体を純水で中性になるまで洗浄した後、乾燥処理し、酸化黒鉛を得た。この酸化黒鉛は、酸素が取り込まれた分、黒鉛よりも1.5倍程度重量が増していた。
【0051】
[2.膨張化処理]
次に、上記酸化黒鉛を耐熱るつぼに15g投入し、予め900℃〜1200℃に加熱された炉で急速加熱を行った。急速加熱により酸化黒鉛中の酸素元素が急速にガス化した。これにより、ガスによって黒鉛層間が大きく引き剥がされた膨張黒鉛を得た。
【0052】
図3は、黒鉛、酸化黒鉛、膨張黒鉛のX線回折結果を示す図である。図3において、横軸は回折角2θ(°)を示し、縦軸は、強度(CPS)を示し、Xは黒鉛、Yは酸化黒鉛、Zは膨張黒鉛を示している。また、図4は、黒鉛、酸化黒鉛、膨張黒鉛の結晶状態を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真であり、図3Aは黒鉛、図3Bは酸化黒鉛、図3Cは膨張黒鉛を示している。
【0053】
図3において、黒鉛Xは、回折角2θ=27°に高いピークを有し、層間距離は3.37Åであった。酸化黒鉛Yは、回折角2θ=16°に高いピークを有し、層間距離は5.65Åであった。この結果から、酸化黒鉛は、黒鉛層間に酸素含有基が付加されたことにより、黒鉛よりも層間距離が拡大していることが分かった。図4A、Bからも、黒鉛は酸化により層間距離が拡大することが確認された。
【0054】
また、図3において、膨張黒鉛Zは、回折角2θ=25°に高いピークを有し、層間距離は3.54Åであった。膨張黒鉛の結晶構造は、図4Cに示すように、芋虫形状へと大きく変化していることが確認された。これらの結果から、膨張黒鉛は、酸化黒鉛に比べて結晶性が大きく低下していることが分かった。
【0055】
[3.超音波処理]
次に、上記膨張黒鉛を水、アルコール、トルエンを含む溶媒中に分散して1時間程度超音波処理を行った。これにより、緩く結合していたグラフェンのシートを引き離すことができ、グラフェンシートが分散した溶液を得た。この溶液を酸化シリコン基板上にディップコーティングした。図5に、グラフェンシートの光学顕微鏡写真を示す。図5に示すように、酸化シリコン基板とグラフェンシートで光の干渉が異なるため色味に差が生じ、色味がグラフェンシートの厚さ(層数)の目安となる。単層に近いものは薄い紫色、数10層になるとはっきりとした青色を示すようになり、100層を超えると黒色の黒鉛の色に変化する。図5に示す光学顕微鏡写真において単層に近いものを選択し、原子間力顕微鏡(AFM)で厚さを測定したところ、厚さ1.63nmの2層グラフェンシートであった。さらに、このグラフェンシートのベーサル面の径を調べたところ、原料となる黒鉛のベーサル面の径に対して10分の1程度の数ミクロンの大きさであることが分かった。これは、超音波処理によりベーサル面内で引きはがされて小さくなったためと考えられる。
【0056】
<負極の作製>
負極は次のようにして作製した。まず、グラフェンシート87.5質量部とSiO微粉末12.5質量部とをエタノール中で30分間超音波処理により分散させ、この分散液を100℃のホットプレート上で乾燥させた。得られたグラフェンシートとSiO微粉末との複合材粉末80質量部に対してアセチレンブラック(電気化学工業社製の“デンカブラック”)10質量部、ポリフッ化ビニリデン10質量部を混合し、溶媒としてのNMPを加えて負極合剤ペーストを調製した。次いで、負極合剤ペーストを厚さ15μmの銅箔の片面に塗布し、120℃で1時間真空乾燥した後、ローラプレス機により圧縮成形し、その後、1cm2に打ち抜き、これを負極とした。負極合剤層の厚みは45μmであった。
【0057】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記負極を用い、対極としてリチウム箔を使用し、非水電解質としてエチレンカーボネートとジメチルカーボーネートとの混合液(体積比1:3)に1.5mol/LのLiPF6を溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータとして厚さ17μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
(比較例)
負極合剤ペーストとして、SiO微粉末を70質量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製の“デンカブラック”)10質量部、ポリフッ化ビニリデン10質量部を混合したものを用いたこと以外は、上記実施例と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
(充放電試験)
上記実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池をそれぞれ一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置を用いて、0.1mA/cm2の定電流でセル電圧が10mVに達するまで充電し、電圧が10mVに達した後は、10mVの定電圧で充電の電流値が0.01mA/cm2に低下するまで充電を行い、充電容量を測定した。その後、0.1mA/cm2の定電流でセル電圧が2Vになるまで放電し、放電容量を測定した。以上の充放電試験を100サイクル繰り返し行った。表1に、初回充電容量、初回放電容量、初回充放電効率、2〜100サイクルの平均充放電効率、100サイクル目の放電容量、100サイクル目のサイクル保持率を示した。
【0060】
ここで、初回充放電効率、100サイクル目のサイクル保持率とはそれぞれ、下記式(1)、(2)により求められる。
初回充放電効率=(初回放電容量/初回充電容量)×100・・・(1)
100サイクル目のサイクル保持率=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100・・・(2)
【0061】
【表1】

【0062】
表1から分かるように、金属間化合物がグラフェンシート間に挟み込まれた層構造を有する負極材を用いた実施例は、初回充放電効率、2〜100サイクルの平均充放電効率、100サイクル目の放電容量、100サイクル目のサイクル保持率はいずれも良好であり、初回充放電効率、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られたことが分かった。
【0063】
一方、グラフェンシートを有さない負極材を用いた比較例は、初回充放電効率が上記実施例に比べて劣っていた。これは、不可逆反応が多いことが原因であると考えられる。また、2〜100サイクルの平均充放電効率、100サイクル目の放電容量、100サイクル目のサイクル保持率はいずれも、上記実施例よりも低く、充放電サイクル特性が劣っていることが分かった。
【0064】
以上のことから、グラフェンシート間に金属間化合物を挟み込むことにより、活物質表面での電解液との不可逆反応を抑制し、充放電効率を向上できるとともに、充放電に伴う体積変化に起因する充放電サイクル特性を向上できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、充放電効率及び充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタを提供できる。
【符号の説明】
【0066】
1、10 金属間化合物
1a、10a 活物質
1b、10b 薄膜
20 グラフェンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる複数のグラフェンシートと、リチウムと合金化し得る金属間化合物との複合化物を含み、
前記グラフェンシートのベーサル面の径は、前記金属間化合物の粒子径より大きく、
前記複合化物は、前記金属間化合物が前記グラフェンシート間に挟み込まれた層構造を有し、
前記複合化物中の空隙率は、20〜50%であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
前記グラフェンシートの層数は、1〜100層である請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
前記グラフェンシートのベーサル面の径は、100nm〜10μmである請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
前記金属間化合物は、ジルコニウム、ケイ素、チタン、スズ、インジウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、及び、それらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】
前記金属間化合物の粒子径は、50nm〜1μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項6】
前記金属間化合物は、活物質を、炭素材料又は金属材料よりなる薄膜でコーティングしたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項7】
前記金属間化合物の粒子径と前記グラフェンシートのベーサル面の径との比が、1:2以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とする電気化学キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−54958(P2013−54958A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193042(P2011−193042)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】