説明

非水電解質二次電池用電極及びその作製方法

【解決手段】 集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状に形成した正極又は負極からなる非水電解質二次電池用電極において、該電極の表面に微細な凹凸を形成してなることを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【効果】 本発明の非水電解質二次電池用電極を用いることにより、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、本発明の作製方法によれば、非水電解質二次電池用電極を簡便に製造することができ、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、よりサイクル性の高いリチウムイオン二次電池が得られる非水電解質二次電池用電極及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV,Si,B,Zr,Snなどの酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特開平5−174818号、特開平6−60867号公報:特許文献1,2他)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(特開平10−294112号公報:特許文献3)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4)、負極材料にSi22O及びGe22Oを用いる方法(特開平11−102705号公報:特許文献5)等が知られている。また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(特開2000−243396号公報:特許文献6)、Si粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特開2000−215887号公報:特許文献7)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特開2002−42806号公報:特許文献8)、更には、ポリイミド系バインダーを用いて成膜後焼結する負極の製造方法(特開2004−22433号公報:特許文献9)がある。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、充放電に伴う負極膜そのものの容積変化が大きく、また集電体からの剥離などの問題があり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなかった。このような背景より、サイクル性が高くかつエネルギー密度の高い電極の作製方法が望まれていた。
【0004】
特に、特許第2997741号公報(特許文献4)では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らがみる限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地がある。また、負極材に導電性を付与した技術についても、特開2000−243396号公報(特許文献6)では、固体と固体の融着であるため、均一な炭素皮膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題があるし、特開2000−215887号公報(特許文献7)の方法においては、均一な炭素皮膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮があまりにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならず、特開2002−42806号公報(特許文献8)の方法においては、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、サイクル性の向上は確認されるも、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【特許文献8】特開2002−42806号公報
【特許文献9】特開2004−22433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、よりサイクル性の高いリチウムイオン二次電池が得られる非水電解質二次電池用電極、及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質二次電池用電極の表面に微細な凹凸を形成することにより、よりサイクル性の高いリチウムイオン二次電池が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、
〔1〕集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状に形成した正極又は負極からなる非水電解質二次電池用電極において、該電極の表面に微細な凹凸を形成してなることを特徴とする非水電解質二次電池用電極、
〔2〕集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状の正極又は負極からなる非水電解質二次電池用電極を製造する方法において、集電体に電極合剤をシート状に塗布すると共に、このシート状電極合剤表面に微細な凹凸を形成することを特徴とする非水電解質二次電池用電極の作製方法
を提供する。
【0009】
この場合、電極は負極であって、その負極活物質がリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料、特に珪素、珪素と二酸化珪素の複合分散体、一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素、もしくはこれらの混合物、又はこれらの表面処理物であることが好ましい。また、電極表面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上が望ましいが、電極表面に微細な凹凸を形成する手段としては、シート状電極合剤表面に粗化処理された金属箔を張り合わせてプレスすることにより、この金属箔の粗化面を転写する方法、或いは機械的粗化処理法が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の非水電解質二次電池用電極を用いることにより、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、本発明の作製方法によれば、非水電解質二次電池用電極を簡便に製造することができ、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の非水電解質二次電池用電極は、集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状に形成した正極又は負極からなり、該電極(正極又は負極)表面に微細な凹凸を形成してなるものである。
【0012】
本発明における非水電解質二次電池用電極は、その表面に微細な凹凸を持たせることにより、活物質の膨張収縮による電極の崩壊を緩和してサイクル性を高めたものである。即ち、膨張収縮の緩和のため、電極の成形密度を落とした場合は、活物質への集電性が低下し、活物質本来の容量を取り出せないばかりではなく、集電性の低下からサイクル特性が著しく低下してしまう。そこで、活物質への集電性を損なうことなく膨張収縮による電極の崩壊を緩和するため、活物質の成形密度は大きくし、電極の表面に微細な凹凸を持たせることにより、活物質への集電性の低下を防ぎ、膨張収縮による電極の崩壊が緩和され、優れたサイクル特性を示すことが可能となるものである。
【0013】
ここで、本発明の非水電解質二次電池用電極、特に負極を形成するリチウムイオン二次電池負極材について具体的に例示すると、負極材に使用される負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を用いることができる。リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料としては、金属珪素(Si)、金属珪素(Si)と二酸化珪素(SiO2)等の珪素系化合物との複合分散体、一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で示される珪素低級酸化物(いわゆる酸化珪素)等の珪素系物質の他に、下記式
MOa
(式中、MはGe,Sn,Pb,Bi,Sb,Zn,In,Mgから選ばれる少なくとも1種であり、a=0.1〜4の正数である。)
で表される珪素を含まない金属酸化物、もしくは、下記式
LiMbc
(式中、MはGe,Sn,Pb,Bi,Sb,Zn,In,Mg,Siから選ばれる少なくとも1種であり、b=0.1〜4の正数、c=0.1〜8の正数である。)
で表される(珪素を含んだものであってもよい)リチウム複合酸化物であり、具体的には、GeO,GeO2,SnO,SnO2,Sn23,Bi23,Bi25,Sb23,Sb24,Sb25,ZnO,In2O,InO,In23,MgO,Li2SiO3,Li4SiO4,Li2Si37,Li2Si25,Li8SiO6,Li6Si27,Li4Ge97,Li4Ge92,Li5Ge819,Li4Ge512,Li5Ge27,Li4GeO4,Li2Ge715,Li2GeO3,Li2Ge49,Li2SnO3,Li8SnO6,Li2PbO3,Li7SbO5,LiSbO3,Li3SbO4,Li3BiO5,Li6BiO6,LiBiO2,Li4Bi611,Li6ZnO4,Li4ZnO3,Li2ZnO2,LiInO2,Li3InO3、又はこれらの非量論的化合物等が挙げられるが、特に理論充放電容量の大きな珪素系物質を用いた場合に本発明がより効果的である。
【0014】
この場合、Si、SiO2及び一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素の物性については特に限定されるものではないが、平均粒子径は0.01〜50μm、特に0.1〜10μmが好ましい。なお、Si(金属珪素)は、例えば平均粒子径1〜500nm、好ましくは2〜200nm程度の微結晶が結晶性又は非晶質のSiO2(二酸化珪素)等の珪素系化合物中に分散した構造の平均粒子径0.01〜50μm、特に0.1〜10μm程度の複合分散体の形態であってもよい。平均粒子径が0.01μmより小さいと表面酸化の影響で純度が低下し、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、充放電容量が低下したり、嵩密度が低下し、単位体積当りの充放電容量が低下する場合がある。50μmより大きいと、例えば後述する化学蒸着処理における黒鉛析出量が減少し、結果としてリチウムイオン二次電池負極材として用いた場合にサイクル性能が低下するおそれがある。
【0015】
なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(D50)又はメジアン径で表すことができる。
【0016】
また、本発明においては、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を有機珪素系表面処理剤で処理して負極活物質材料とすることもできる。
【0017】
ここで、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を処理する有機珪素系表面処理剤の種類は特に限定されるものではないが、一般的にシランカップリング剤、その(部分)加水分解縮合物、シリル化剤、シリコーンレジンから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。なお、(部分)加水分解縮合物とは、シランカップリング剤の部分加水分解縮合物でも全部を加水分解縮合したシランカップリング剤の加水分解縮合物でもよいことを意味する。
【0018】
更に、本発明においては、負極活物質として、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を含む負極活物質材料の表面を導電性皮膜で被覆したものを用いることができる。この導電性皮膜は、構成された電池において、分解や変質を起こさない導電材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn等の金属膜や炭素皮膜が挙げられる。これらの中でも炭素皮膜が被覆処理のし易さ、導電率の高さからより好適に用いられる。
【0019】
この場合、導電性皮膜を形成する方法は特に限定されず、めっき法、メカニカルアロイング法、化学蒸着法等が挙げられるが、導電性皮膜の均一形成に優れる点で化学蒸着法がより好適に用いられる。
【0020】
また、導電性被覆処理を施す母材(即ち、被覆処理前の負極活物質材料)は、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を含む負極活物質材料単独でもよいが、更に導電性を高めるために導電材料(例えば黒鉛粉末)と、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を含む負極活物質材料との混合物を用いることもできる。なお、上記混合物を用いる場合、導電材料の混合割合としては、混合物全量の1〜60質量%、特に10〜50質量%、とりわけ20〜50質量%とすることが好ましい。
【0021】
上記母材に導電性皮膜を形成する方法としては、上記母材(リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を含む負極活物質材料単独或いはこれと前記導電材料との混合物)の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気を含む雰囲気下、500〜1400℃、より好ましくは700〜1300℃の温度域で熱処理することにより導電性皮膜を形成する方法が好適に採用される。熱処理温度が500℃より低いと、例えば導電性炭素皮膜が形成されない場合があったり、長時間の熱処理が必要となったりし、効率的ではない。逆に1400℃より高いと、化学蒸着処理時に粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性皮膜が形成されず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがある。特に珪素を母材として用いた場合には、珪素の融点に近い温度となるため、珪素が溶融し、粒子表面に導電性皮膜を被覆処理することが困難となるおそれがある。
【0022】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが好適に選択され、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0023】
これら負極活物質材料と有機物ガスとの熱処理は特に限定されず、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0024】
本発明の導電性皮膜量は、被覆処理後の母材(即ち、前記したリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を含む負極活物質材料単独を被覆したもの或いはこれと前記導電材料との混合物からなる負極活物質材料全体を被覆したもの)の5〜70質量%、特に10〜50質量%が好ましい。導電性皮膜量が5質量%未満では、導電性向上に著しい効果は見られず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合にサイクル性が十分でない場合があり、逆に70質量%を超えると、炭素の割合が多くなりすぎ、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合に負極容量が低下するおそれがある。
【0025】
また、リチウムイオン二次電池負極材を用いて負極を作製する場合、上記被覆処理後の導電性負極活物質に、更に黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛などを用いることができる。
上記導電剤を添加する場合、導電剤の添加量としては、被覆処理後の混合物全体に対して1〜60質量%、特に10〜50質量%、とりわけ20〜50質量%とすることが好ましい。添加量が少なすぎると膨張・収縮に耐えられず、サイクル性が低下する場合があり、多すぎると充放電容量が小さくなる場合がある。
【0026】
また、上記リチウムイオン二次電池負極材を用いて負極を作製する場合、上記負極活物質と共に配合する結着剤としては、有機高分子結着剤を用いることが好ましく、該有機高分子結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンを含む共重合フッ素ポリマーなどの高分子材料、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子材料、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質高分子材料、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリファゼン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等の有機高分子材料にリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩を複合化した系等のイオン導電性高分子材料を例示することができる。
【0027】
これらの有機高分子結着剤と上記導電性負極活物質との混合割合は、導電性負極活物質100質量部に対して有機高分子結着剤が0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることが更に好ましい。結着剤が0.1質量部未満であると負極活物質を保持するための結着力が十分ではなく、サイクル性が低下する場合があり、30質量部より多いとバインダーが負極活物質全般を被覆し電極の抵抗が増大するため高いレートでの充放電が困難になる場合がある。
【0028】
また、これらの有機高分子結着剤の他に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマー等を添加してもよい。
【0029】
本発明において、リチウムイオン二次電池負極材は、例えば以下のようにしてリチウムイオン二次電池用負極成形体とすることができる。例えば、上記負極活物質と、有機高分子結着剤と、必要により導電剤と、その他の添加剤とに、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤を混練してペースト状の合剤にし、該合剤をシート状に集電体に塗布する。この場合、集電体としては、負極の電位において、化学的及び電気化学的に安定な、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の金属箔又はそれら集電体表面を粗面化した金属箔等を使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。この合剤表面を下記粗化処理方法によって粗化処理することにより、電極表面に微細な凹凸を形成したリチウムイオン二次電池負極材を得ることができる。
【0030】
ここで、電極の表面に微細な凹凸を持たせる方法としては、各種の方法を用いることができる。例えば、電極作製時に粗化処理を施した金属箔を電極合剤塗布面に張り合わせてロールプレスすることにより、粗化処理金属箔の粗化面を転写し、電極の表面に微細な凹凸を持たせる方法や、ショットブラスト等の機械的粗化処理により電極の合剤表面に微細な凹凸を持たせる方法、粗化処理銅箔に活物質をスパッタリングすることにより電極の合剤表面に微細な凹凸を持たせる方法等が挙げられる。これらの中でも、粗化処理を施した金属箔を電極合剤塗布面に張り合わせてロールプレスすることにより、粗化処理金属箔の粗化面を転写し、電極の表面に微細な凹凸を持たせる方法、機械的粗化処理により電極の合剤表面に微細な凹凸を持たせる方法が好ましい。
【0031】
このようにして得られる電極表面は、JIS B 0601に規定する表面の算術平均粗さRaが0.5μm以上、特に0.5〜10μm、とりわけ0.5〜5μmであることが好ましい。電極表面の算術平均粗さRaが0.5μm未満であるとサイクル性能が低下する場合があり、算術平均粗さRaが10μmより大きい場合にもサイクル性能が低下する場合がある。
【0032】
このようにして得られたリチウムイオン二次電池負極材(非水電解質二次電池負極材)を用いることにより、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
この場合、得られたリチウムイオン二次電池は、上記負極材を用いる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレーターなどの材料及び電池形状などは限定されない。例えば、正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V26、MnO2、TiS2、MoS2などの遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物などが用いられる。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウムなどのリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフランなどの単体又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0033】
なお、以上は主としてリチウムイオン二次電池負極材について説明したが、上述した電極合剤表面の微細凹凸形成については、他の非水電解質二次電池の負極及び正極に対しても同様に適用でき、これによって上述した所期の効果を与えることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量%を示し、表面の算術平均粗さRaはJIS B 0601に記載の方法により測定した値を示し、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(D50)又はメジアン径として測定した値を示す。
【0035】
[実施例1]
ブロック状又はフレーク状の酸化珪素(SiOxにおいてx=1.05)を、ヘキサンを分散媒としてボールミル及びビーズミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約8μmの粉末を得た。次に、この酸化珪素粉末をロータリーキルンを用いて、Ar/CH4ガス雰囲気中、1100℃で1時間化学蒸着処理を行った。こうして得られた導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、蒸着炭素量30%の導電性珪素複合体粉末を得た。
【0036】
○電池評価
次に、以下の方法で得られた導電性珪素複合体粉末を負極活物質として用いて電池評価を行った。
【0037】
まず、得られた導電性珪素複合体粉末にポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN−メチルピロリドンを適量加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形した。このとき、加圧成形する活物質塗布面側に粗化処理された銅箔(表面の算術平均粗さRa6.5μm)を粗化処理面を活物質塗布面側に張り合わせてプレスし、電極表面を粗化処理し(表面の算術平均粗さRa4.0μm)、最終的には20mmφに打ち抜き、負極とした。
【0038】
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解させた非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0039】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで1mAの定電流で充電を行い、0Vに達してからは、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が20μAを下回った時点で充電を終了し、充電容量を求めた。また、放電は1mAの定電流で行い、セル電圧が1.8Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
以上の充放電試験を繰り返し、50サイクル目に放電容量を測定し、50サイクル後のサイクル保持率を求めた。これらの結果を表1に記す。
【0040】
[実施例2]
実施例1で作製した蒸着炭素量30%の導電性珪素複合体粉末を用いて電池評価を行い、ポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN−メチルピロリドンを適量加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形した。このとき、加圧成形する活物質塗布面側に粗化処理された銅箔(表面の算術平均粗さRa9.0μm)を粗化処理面を活物質塗布面側に張り合わせてプレスし、電極表面を粗化処理し(表面の算術平均粗さRa5.0μm)、最終的には20mmφに打ち抜き、負極とした他は、実施例1と同様に充放電試験を行った。その結果を表1に記す。
【0041】
[比較例1]
実施例1で作製した蒸着炭素量30%の導電性珪素複合体粉末を用いて電池評価を行い、ポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN−メチルピロリドンを適量加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形した。このとき、加圧成形する活物質塗布面側に圧延銅箔(表面の算術平均粗さRa0.3μm)を張り合わせてプレスし、電極表面を処理し(表面の算術平均粗さRa0.3μm)、最終的には20mmφに打ち抜き、負極とした他は、実施例1と同様に充放電試験を行った。その結果を表1に記す。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状に形成した正極又は負極からなる非水電解質二次電池用電極において、該電極の表面に微細な凹凸を形成してなることを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
非水電解質二次電池用電極の負極であって、その負極活物質が、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素、珪素と二酸化珪素の複合分散体、一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素、もしくはこれらの混合物、又はこれらの表面処理物であることを特徴とする請求項2記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
電極表面の算術平均粗さRaが、0.5μm以上であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項5】
集電体に活物質、結着剤及び必要により導電剤を含む電極合剤を塗布してシート状の正極又は負極からなる非水電解質二次電池用電極を製造する方法において、集電体に電極合剤をシート状に塗布すると共に、このシート状電極合剤表面に微細な凹凸を形成することを特徴とする非水電解質二次電池用電極の作製方法。
【請求項6】
電極表面の算術平均粗さRaを0.5μm以上とすることを特徴とする請求項5記載の非水電解質二次電池用電極の作製方法。
【請求項7】
シート状電極合剤表面に粗化処理された金属箔を張り合わせてプレスすることにより電極表面に微細な凹凸を形成することを特徴とする請求項5又は6記載の非水電解質二次電池用電極の作製方法。
【請求項8】
機械的粗化処理によりシート状電極合剤表面に微細な凹凸を形成することを特徴とする請求項5又は6記載の非水電解質二次電池用電極の作製方法。

【公開番号】特開2006−12576(P2006−12576A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187398(P2004−187398)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】