説明

非水電解質二次電池

【課題】電池製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制する。
【解決手段】非水電解質二次電池において、非水電解質液に混入した水分を吸収し、かつ、フッ化水素と中和反応を起こさない水分吸収物質と、フッ素と難溶性塩を形成する塩形成物質と、を混合させた状態で非水電解質液内に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に係り、特にリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が問題視される中で、高エネルギー密度を持つ二次電池を開発することにより、エネルギー効率や環境適合性を向上させて環境対策に貢献しようとする計画が実施されている。特に、電気自動車、ハイブリッド自動車、電力貯蔵において、要求性能を満たす電池として非水電解液系のリチウムニ次電池が期待されている。
非水電解質二次電池は電池内部に水分が存在すると、負極の不可逆容量の増大、分解ガスによる内圧上昇、フッ素を含む電解質塩の加水分解によるフッ化水素発生とこれにより正極活物質の溶解等、重大な問題を引き起こす。このため、製造時の電池内への水分持込みを極力抑える厳しい製造条件が求められるが、その管理には限界がある。また、ラミネートタイプセルの封口部は合成樹脂のヒートシールより封入されており透湿性を持っために、長期運用では水分が浸入する問題がある。
【0003】
特に電解質塩の加水分解によるフッ化水素発生は、現在高い安全を持っことで注目されているリチウムマンガン複合酸化物やリン酸鉄リチウム系を正極活物質として用いる電池では活物質中の遷移金属がフッ化水素により溶出しやすく、溶出した金属イオンが負極へ電気泳動で移動することにより、負極表面の固体電解質界面相(SEI)皮膜を破壊し、充放電反応が阻害される。特に高温で電池を保管や作動した場合に顕著になり大きな劣化が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−164723号公報
【特許文献2】特開2003−123836号公報
【特許文献3】特開2000−40499号公報
【特許文献4】国際公開第03/090295号パンフレット
【特許文献5】特開2005−56672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術においては上述のように、電池中の水分量を制限するために、各電極やセパレータの乾燥状態、電解液中の水分量、製造時の湿度(露点)等の厳密な管理が求められるので、製造コストを大きなものとしていた。
また、ラミネートタイプセルでは、封口部の材質や方法等の検討や電池パック構造の検討がなされているが、長期間運用には未だ不十分であった。
このような問題から、電池内部に吸湿剤等を入れて水分やフッ化水素を除去しようとする提案が為されている。
特許文献1や特許文献2では、電解液中に酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを添加することが提案されている。
【0006】
また、酸化カルシウムや炭酸カルシウムは塩基性化合物であるので、以下に示す化学式1や化学式2のようにフッ化水素とは中和反応を起こして水を生成する。さらに炭酸カルシウムでは不可逆な炭酸ガスの生成も伴うので電池内圧力を上昇させる。この炭酸ガスと水分が分解して生成する酸素や水素により、ラミネートセルでは致命的なセル膨らみが起こる。また生成した水はさらに化学式3により酸化力ルシウムと反応して水酸化カルシウムになるが、さらなるフッ化水素があると化学式4のように再び水を生成する。
CaO+2HF→CaF+HO …化学式1
CaCO+2HF→CaF+HO+CO …化学式2
CaO+HO→Ca(OH) …化学式3
Ca(OH)+2HF→CaF+2HO …化学式4
【0007】
特許文献3では、金属炭酸塩粒子あるいは金属酸化物粒子を正極板と負極板の少なくともどちらかに接する面に固定したポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして用いることが提案されているが、上記説明のような問題がある。
特許文献4では、正極活物質の粒子間に、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物を分散させることが提案されているが、上記問題の他に不導体の充放電反応に寄与しない物質を活物質に混合するために、エネルギー密度の低下と導電性低下を引き起こす問題がある。
【0008】
特許文献5では、集電体と平行にシート状の吸湿材を配置し、この吸湿材として、合成ゼオライト、シリカゲル、五酸化リン、酸化バリウムまたは酸化カルシウムのいずれかの材料を提案しているが、合成ゼオライト、シリカゲル、または五酸化リンを用いた場合には水は吸収できるがフッ化水素は吸収できないし、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムを用いた場合には上記化学式1〜4で説明した問題が発生する。
そこで、本発明の目的は、電池製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1態様は、非水電解質液と、セパレータを介して正極板と、負極板と、が積層された極板群と、前記非水電解質液及び前記極板群を収納する容器本体と、を備え、前記非水電解質液に混入した水分を吸収し、かつ、前記非水電解質液中のフッ化水素と中和反応を起こさない水分吸収物質と、フッ素と難溶性塩を形成する塩形成物質と、を混合させた状態で前記非水電解質液内に配置している、ことを特徴とする。
上記構成によれば、水分吸収物質は、非水電解質液に混入した水分を吸収するに際し、非水電解質液中のフッ化水素と中和反応を起こさない。
さらに塩形成物質は、フッ素と難溶性塩を形成する。
【0010】
本発明の第2態様は、第1態様において、前記水分吸収物質と前記塩形成物質とを混合して加圧することにより混合成形体を形成し、前記前記非水電解質液内に配置している、ことを特徴とする。
したがって、混合成形体の取り扱いが容易となり、非水電解質二次電池の製造も容易となる。
【0011】
本発明の第3態様は、第2態様において、前記混合成形体は、粉末状の前記水分吸収物質と粉末状の前記塩形成物質と、を混合し、得られた混合物を加圧成形して得られるペレットであることを特徴とする。
したがって、取り扱いも容易で、非水電解質内に配置した場合の必要容積が少なくてすむ。
【0012】
本発明の第4態様は、第2態様において、前記混合成形体は、粉末状の前記水分吸収物質と粉末状の前記塩形成物質とを混合し、得られた混合物に所定のバインダーを添加して混練し、圧延することにより得られるシート状部材であることを特徴とする。
上記構成によれば、水分吸収物質と塩形成物質の機能性を低下させることなく、取り扱いを容易とすることができる。
【0013】
本発明の第5態様は、第1態様ないし第4態様のいずれかにおいて、前記水分吸収物質は、ゼオライトまたはシリカゲルの少なくともいずれか一方であり、前記塩形成物質は、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の酸化物、もしくは、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン、水酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の水酸化物のうちから少なくとも一つを選択したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電池製造時の水分管理条件を緩和できるので、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図2】第2実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図3】第3実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図4】第4実施形態の円筒型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図5】第5実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図6】第6実施形態の円筒型非水電解質二次電池の構成説明図である。
【図7】第1実施例群の各実施例および各比較例の電池作成条件の説明図である。
【図8】容量試験及び膨らみ量の測定結果を示す図である。
【図9】サイクル試験における放電容量維持率推移の説明図である。
【図10】サイクル試験1000サイクル後の容量維持率とセル厚みの測定結果を説明する図である。
【図11】第2実施例群の各実施例および各比較例の電池作成条件の説明図である。
【図12】第2実施例群の各実施例の容量試験及び膨らみ量の測定結果を示す図である。
【図13】各実施例群におけるサイクル試験における放電容量維持率推移の説明図である。
【図14】各実施例群におけるサイクル試験1000サイクル後の容量維持率とセル厚みの測定結果を説明する図である。
【図15】各実施例群の電池による水分吸収性評価の説明図(0日〜10日)である。
【図16】各測定日における各電池中の水分量測定結果の説明図(10日〜60日)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
[1]第1実施形態
図1は、第1実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
図1(a)は、ラミネートフィルムの一部を取り除いた平面図、図1(b)は、断面図である。
第1実施形態の非水電解質二次電池10は、一対のラミネートフィルム11A、11Bがヒートシール部12で4側辺部分を溶着して形成され、収納部13を備えた容器本体11と、容器本体11の収納部13に収納された極板群14と、極板群14の中心部分の空隙に配置され、後述する水分吸収物質と後述する塩形成物質とを混合して加圧することにより得られた板状ペレット15と、極板群14からヒートシール部12を介して、シーリングされた状態で容器本体11の外部に突設された電極端子としてのタブ部16と、を備えている。
【0017】
上記構成において、極板群14は、図示しないセパレータを介して図示しない正極板と、図示しない負極板と、を積層し、これを巻回したものであり、巻回した極板群14の巻き芯部空隙内に板状ペレット15を配置している。
【0018】
ここで、本発明の原理について説明する。
発明者らは、非水電解質二次電池内に混入した水分に起因する間題を根本的に解決するためには、水分除去のみならず最初から非水電解質液LQ内に混入していた水分により発生したフッ化水素(さらに加えて最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することが必須であることを見出した。
また水分吸収能を有する化合物は、フッ素を含む非水電解質液LQ内に存在するフッ化水素と中和反応を起こして水や炭酸ガスを発生させるような塩基性化合物では不適当である。特にフッ化水素と中和反応を起こして水を発生させるような塩基性化合物の場合には、フッ化水素を再び発生させることとなるため好ましくない。しかしながら、フッ素と難溶性塩を形成できる物質であれば、上記問題は解決される。
【0019】
そこで、発明者らは、水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質について検討した。
水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質としては、ゼオライトやシリカゲルが挙げられる。
フッ素と難溶性塩を形成できる物質としては、アルカリ土類金属や希土類の酸化物や、アルカリ土類金属や希土類の水酸化物が挙げられる。例えば、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン、水酸化セリウム等を用いることができる。
【0020】
ところで、水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質は、混合させた状態で非水電解質液LQ内に配置(投入)すれば、上記作用により、水分を除去するとともに、水分の発生につながる反応を抑制する難溶性塩の生成を実現することができる。
しかしながら、上述した水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質は、粉体であるため、製造工程においては、取り扱いが不便である。
【0021】
そこで、発明者らは、より取り扱いが容易となるような手法について検討した。
ゼオライトやシリカゲルは、それらの形状から圧粉成型がしがたいが、アルカリ土類金属や希土類の酸化物や水酸化物の粉末と混合してから、圧粉成型をするとバインダーを使用することなしにペレットが成型できることを見いだした。
すなわち、これらの混合体は、非常に成形性が良く、成形されるペレットの形状は、電池の品種(形状)によって種々選択することが可能であり、例えば、ペレットは板状にすれば、巻回タイプのラミネートセル巻き芯の空間、スタックタイプでは、電極板群側部の隙間に設置することが可能であることが見いだされた。
【0022】
さらに加えて、水分吸収能を有する物質として、ゼオライトを用いた揚合には、ゼオライトは二酸化ケイ素の骨格中のケイ素の一部がアルミニウムに置き換わり全体が負に帯電しており、初期状態においてはナトリウムなどのカチオンを含んでいる構造をとっている。このためにイオン交換能も持っているので、電解液中に遊離した遷移金属イオンをトラップする効果も期待できる。この効果は、特にフッ化水素による正極活物質の溶解がしやすいリチウムマンガン複合酸化物やリン酸鉄リチウム系の電池では絶大な効果を発揮する。
【0023】
非水電解質液LQ内に水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質を配置(投入)する量は、電解液注液時に、電池内に存在する水分およびフッ化水素を除去するのに十分な量と、電池の動作保証期間内における経時変化に伴って、大気中から電池内に徐々に侵入する水分を除去するのに十分な量とすればよい。
電池内へは、特にラミネートセルでは、合成樹脂のヒートシール部12や、タブ部16の封入部から、金属電槽を用いた電池では、合成樹脂のガスケットから、徐々に水分が侵入してくるので、電池の動作保証期間に見合う量を想定して配置することが必要である。例えば、5年保証の電池では、非水電解質液の質量に対して、0.5〜3[%]位の量の混合体(水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質)を設置することが望ましい。
【0024】
上記構成によれば、非水電解質二次電池10の製造時に非水電解質液LQ内に混入していた水分を除去することができるとともに、非水電解質液LQ内に混入していたフッ化水素(混入していた水分により発生したフッ化水素及び最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することができるため、電池製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
【0025】
[2]第2実施形態
図2は、第2実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。図2において、図1と同様の部分には同一の符号を付すものとする。
本第2実施形態が、第1実施形態と異なる点は、水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質を混合して、前述の通り、圧粉成形した混合体としての複数(第2実施形態では4個)の板状ペレットを、収納部13内の四隅に配置した点である。
【0026】
第2実施形態の非水電解質二次電池20は、一対のラミネートフィルムがヒートシール部12で溶着されて形成され、収納部13を備えた容器本体11と、容器本体11の収納部13に収納された極板群14と、収納部13内の四隅にそれぞれ配置され、水分吸収物質と塩形成物質とを混合して加圧することにより得られた4個の板状ペレット21と、極板群14からヒートシール部12を介して、シーリングされた状態で容器本体11の外部に突設された電極端子としてのタブ部16と、を備えている。
【0027】
上記構成によれば、非水電解質二次電池20の製造時に非水電解質液LQ内に混入していた水分を除去することができるとともに、非水電解質液LQ内に混入していたフッ化水素(混入していた水分により発生したフッ化水素及び最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することができるため、電池製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
【0028】
本第2実施形態の非水電解質二次電池によれば、電池の大きさは板状ペレット21を設けない場合と比較して多少増加するものの、厚みは同様とすることができる。
[3]第3実施形態
図3は、第3実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。図3において、図2と同様の部分には同一の符号を付すものとする。
本第3実施形態が、第2実施形態と異なる点は、水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質の混合体としての複数(第3実施形態では4個)の板状ペレットを、細長い長板状ペレットとして、収納部13内の四側辺に沿って配置し、極板群14の周囲を囲った点である。
【0029】
第3実施形態の非水電解質二次電池30は、一対のラミネートフィルムがヒートシール部12で溶着されて形成され、収納部13を備えた容器本体11と、容器本体11の収納部13に収納された極板群14と、収納部13内に極板群14の四側辺に沿って配置され、水分吸収物質と塩形成物質とを混合して加圧することにより得られた4個の長板状ペレット31A,31Bと、極板群14からヒートシール部12を介して、シーリングされた状態で容器本体11の外部に突設された電極端子としてのタブ部16と、を備えている。
この場合において、長板状ペレット31Aは、主としてタブ部16の封入部や、ヒートシール部12から侵入する水分及び当該水分により発生するフッ化水素を除去でき、長板状ペレット31Bは、主としてヒートシール部12から侵入する水分及び当該水分により発生するフッ化水素を除去できることとなる。
【0030】
上記構成によれば、第2実施形態と同様に、非水電解質二次電池20の製造時に非水電解質液LQ内に混入していた水分を除去することができるとともに、非水電解質液LQ内に混入していたフッ化水素(混入していた水分により発生したフッ化水素及び最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することができるため、電池製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、タブ部16あるいはヒートシール部から浸入した水分を効率よく除去でき、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
本第3実施形態の非水電解質二次電池によれば、電池の大きさは板状ペレットを設けない場合と比較して多少増加するものの、厚みは同様とすることができる。
本第3実施形態の長板状ペレットによれば、第2実施形態のペレットと比較して、体積が増加しているため、水分吸収性(吸水性)が向上している。
【0031】
[4]第4実施形態
図4は、第4実施形態の円筒型非水電解質二次電池の構成説明図である。
図4(a)は、円筒型非水電解質二次電池の長さ方向の断面図、図4(b)は、径方向断面図である。
第4実施形態の非水電解質二次電池40は、一方の電極(例えば、正極)と接続された蓋部41Aおよび他方の電極(例えば、負極)と接続された容器本体部41Bが封入部42を介して一体とされて形成された電池容器43と、容器本体部41Bに収納された円筒形状の極板群44と、極板群44の中心部分の巻き芯部45の空隙内に配置され、水分吸収物質と塩形成物質とを混合して加圧することにより得られた丸棒状ペレット46と、を備えている。
【0032】
上記構成において、極板群44は、図示しないセパレータを介して図示しない正極板と、図示しない負極板と、を積層し、これを巻回して構成されるとともに、蓋部41Aの電極あるいは容器本体部41Bの正極板あるいは負極板をそれぞれ導通させるためのリード部47が設けられている。
上記構成によれば、非水電解質二次電池40の製造時に非水電解質液LQ内に混入していた水分を丸棒状ペレット46を構成する水分吸収物質及び塩形成物質により除去することができる。
【0033】
これとともに、非水電解質液LQ内に混入していたフッ化水素(混入していた水分により発生したフッ化水素及び最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することができるため、円筒状の非水電解質二次電池の製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
さらに、丸棒状ペレット46は、巻き芯部45内の空隙に設けられているため、円筒状の非水電解質二次電池40の寸法は、丸棒状ペレット46を設けない場合と同様とすることができる。
【0034】
[5]第5実施形態
上記各実施形態は、水分吸収物質と塩形成物質とを混合して加圧することにより得られたペレットを用いていたが、本第5実施形態は、粉末状の水分吸収物質と粉末状の塩形成物質とを予め混合し、得られた混合物に所定のバインダー(例えば、PTFE)を添加して混練し、せん断を加えることでフィブリル化し、圧延することにより得られるシート状部材を用いる場合の実施形態である。
【0035】
ところで、ゼオライトやシリカゲルのような粉体は、バインダーを単純に混練すると、表面がバインダーに覆われて機能低下を招くおそれがある。そこで、本実施形態においては、粉末状の水分吸収物質と粉末状の塩形成物質とを予め混合し、得られた混合物に所定のバインダーを加えることで、機能低下を招くことなく、シート状に形成している。なお、本実施形態においても、水分吸収物質と塩形成物質としては、第1実施形態と同一のものを用いることが可能である。
この場合において、混合粉末とバインダーとしてのPTFEとの混合比は、PTFEに対する混合粉末の重量比で、50%以上、98%以下が好ましい。これは、50%未満では、吸着性能などの特性を損なうおそれがあり、98%超では成形されたシート状部材の強度が低くなる可能性が高いからである。
【0036】
図5は、第5実施形態のラミネートセル型非水電解質二次電池の構成説明図である。
図5(a)は、ラミネートフィルムの一部を取り除いた平面図、図5(b)は、断面図である。図5において、第1実施形態の図1と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
第5実施形態の非水電解質二次電池50は、一対のラミネートフィルム11A、11Bがヒートシール部12で溶着されて形成され、収納部13を備えた容器本体11と、容器本体11の収納部13に収納された極板群14と、極板群14の周面に接するように配置され、水分吸収物質と塩形成物質とを混合した後に、バインダーと混連して、圧延することにより得られたシート状部材51と、極板群14からヒートシール部12を介して、シーリングされた状態で容器本体11の外部に突設された電極端子としてのタブ部16と、を備えている。
【0037】
上記構成において、極板群14は、図示しないセパレータを介して図示しない正極板と、図示しない負極板と、を積層し、これを巻回したものである。
本第5実施形態によれば、第1実施形態と同様に非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
さらに、多少厚みは増すものの、電池の大きさはシート状部材51を設けない場合と同様とすることができるとともに、板状ペレットなどと比較して位置ずれを起こしにくい。
【0038】
[6]第6実施形態
図6は、第6実施形態の円筒型非水電解質二次電池の構成説明図である。
図6(a)は、円筒型非水電解質二次電池の長さ方向の断面図、図6(b)は、径方向断面図である。図6において、図4の第4実施形態と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
第6実施形態の非水電解質二次電池60は、一方の電極(例えば、正極)と接続された蓋部41Aおよび他方の電極(例えば、負極)と接続された容器本体部41Bが封入部42を介して一体とされて形成された電池容器43と、容器本体部41Bに収納された円筒形状の極板群44と、極板群44の中心に配置された巻き芯部材61と、極板群44の周面を覆うように配置され、水分吸収物質と塩形成物質とを混合した後に、バインダーと混連して、圧延することにより得られたシート状部材62と、を備えている。
【0039】
上記構成において、極板群44は、図示しないセパレータを介して図示しない正極板と、図示しない負極板と、が積層されて巻き芯部材61に巻回されて構成されるとともに、蓋部41Aあるいは容器本体部41Bと、正極板あるいは負極板と、をそれぞれ導通させるためのリード部47が設けられている。
上記構成によれば、非水電解質二次電池40の製造時に非水電解質液LQ内に混入していた水分を極板群44の周面を覆うシート状部材62を構成する水分吸収物質及び塩形成物質により除去することができるとともに、非水電解質液LQ内に混入していたフッ化水素(混入していた水分により発生したフッ化水素及び最初から混入していたフッ化水素)を同時に除去することができるため、円筒状の非水電解質二次電池の製造時の水分管理条件を緩和でき、省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制することができる。
【0040】
また、シート状部材62は、極板群44の周面を覆うように配置されているため、非水電解質液LQとの接触面積を大きく確保して、確実に水分などを除去することができる。
さらに極板群44の周面に薄く設けることができるため、円筒状の非水電解質二次電池40の寸法は、シート状部材62を設けない場合とほぼ同様とすることができる。
【0041】
[7]実施形態の効果
以上の説明のように、上記各実施形態によれば、非水電解質二次電池の製造時に非水電解質液内に混入していた水分を除去するばかりでなく、非水電解質二次電池の使用時に非水電解質液LQ内に浸入する水も除去でき、さらには、水の混入により発生するフッ化水素も同時に除去することができるため、電池製造時の水分管理条件を緩和して省エネルギー、コストダウンに貢献するとともに、非水電解質液LQ内に混入した水分の影響を長期にわたって抑制し、実効的な電池寿命を増大することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
各実施例および各比較例で使用したゼオライトおよびシリカゲル(水分吸収物質)は以下の方法で調製した。
市販のゼオライトおよびシリカゲルを入手し、ミルタイプの粉砕機で粉砕後、10ミクロン以下に分級した。これらを電気炉中600℃で5時間の脱水を行なった後、露点−60℃の乾燥空気を導入して冷却した。露点−60℃の空気中で各粉末を取出した。
【0043】
また、塩形成物質としての酸化カルシウム(CaO)は、試薬グレードを600℃の電気炉で焼成後、露点−60℃の乾燥空気を導入して冷却した。露点−60℃の空気中で各粉末を取出し、ミルタイプの粉砕機で粉砕後、10ミクロン以下に分級して調製した。
また、塩形成物質としての水酸化カルシウム(Ca(OH))は、試薬グレードを500℃の電気炉で焼成後、露点−60℃の乾燥空気を導入して冷却した。露点−60℃の空気中で各粉末を取出し、ミルタイプの粉砕機で粉砕後、10ミクロン以下に分級して調製した。
また、塩形成物質としての酸化セリウム(CeO)は試薬グレードを600℃の電気炉で焼成後、露点−60℃の乾燥空気を導入して冷却した。露点−60℃の空気IPで各粉末を取出し、ミルタイプの粉砕機で粉砕後、10ミクロン以下に分級して調製した。
【0044】
また、塩形成物質としての炭酸カルシウム(CaCO)試薬グレードを600℃の電気炉で焼成後、露点−60℃の乾燥空気を導入して冷却した。露点−60℃の空気中で各粉末を取出し、ミルタイプの粉砕機で粉砕後、10ミクロン以下に分級して調製した。
以降は断りのない限り、上記の調製した材料を用い、電解液の調製や電池の作製は露点−60℃の空気中で実施した。
【0045】
評価用の電池は、特に電池中の水分とフッ化水素の影響を受けやすいオリビン型のリン酸鉄リチウムを正極活物質、人造黒鉛を負極活物質とした電池を選択した。正負極を常法により作製し、ポリエチレンを主体とする微多孔膜をセパレータとし、このセパレータを介して正極板と負極板とを積層して構成したスタックタイプの3Ahラミネートセルを構成した。電池は非水電解質液の注液前に80℃で真空乾燥を48時間行なった。
なお、図1に示すように、容器本体を構成するラミネートフィルムは、平板形状(長方形状)のものと、長方形状の凹部を有する、いわゆる、断面コ字形状の2種類を用意し、上下を合わせることにより4周側面の端部にそれぞれヒートシール部を設け、タブ部を突設させた状態で密閉状態とした。
【0046】
[A]第1実施例群
まず、バインダーを用いずに、ペレットまたは粉体を用いた実施例(第1実施例群)について説明する。
図7は、各実施例および各比較例の電池作成条件の説明図である。図7において、第n実施例を実施例nのように表記し、第m比較例を比較例mのように表記している。以下、他の図面においても同様である。
[1]第1実施例
非水電解質液として、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合した混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度で溶解させ、水分量を50ppmに調整して非水電解質液とした(以下、非水電解質液LQ1という)。
この非水電解質液LQ1にゼオライトと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で非水電解質液LQ1全体の量に対して2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Aとした。分散液は静置すると粉体が沈殿するので、常に撹拌する必要があった。また、注液後に解体した結果では、粉体が注液口付近に集中していた。
【0047】
[2]第2実施例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用いた。
この非水電解質液LQ1にシリカゲルと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で非水電解質液LQ1の量に対して2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Bとした。注液状況は第1実施例と同様であった。
【0048】
[3]第3実施例
電池の封口前に、ゼオライトと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で非水電解質液LQ1全体の量に対して2%に相当する分を秤量してから、5mm×10mmの型に入れハンドプレスにより、全圧400kgfで圧粉して平板状ペレットとした。このペレットを電池の四側辺部に設置してから、ラミネートセルをヒートシールで封口した。この方法は第1実施例と第2実施例と比較して、簡便であった。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して、電池Cとした。
【0049】
[4]第4実施例
電池の封口前にゼオライトと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で電解液全体の量に対して2[%]に相当する分を秤量してから、5mm×10mmの型に入れハンドプレスにより、全圧400kgfで圧粉して平板状ペレットとした。この平板状ペレットを電池の四側辺部に設置してから、ラミネートセルをヒートシールで封口した。この方法は第1実施例と第2実施例と比較して、簡便であった。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して、電池Dとした。
【0050】
[5]第5実施例
電池の封口前に、ゼオライトと水酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で電解液全体の量に対して2%に相当する分を秤量してから、5mnl×10mmの型に入れハンドプレスにより、全圧400kgfで圧粉して平板状ペレットとした。この平板状ペレットを電池の四隅に設置してから、ラミネートセルをヒートシールで封口した。この方法は第1実施例及び第2実施例と比較して、簡便であった。非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して、電池Eとした。
【0051】
[6]第6実施例
電池の封口前に、ゼオライトと酸化セリウムの粉末を質量比1:1で電解液全体の量に対して2%に相当する分を秤量してから、5mm×10mmの型に入れハンドプレスにより、全圧400kgfで圧粉して平板状ペレットとした。このペレットを電池の四隅に設置してから、ラミネートセルをヒートシールで封口した。この方法は実施例1と実施例2と比較して、簡便であった。非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して、電池Fとした。
【0052】
[7]第1比較例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して、電池Gとした。
【0053】
[8]第2比較例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1に酸化カルシウムの粉末を2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Hとした。注液状況は第1実施例と同様であった。
【0054】
[9]第3比較例
電池の封口前に酸化カルシウムの粉末を電解液全体に量に対して2%に相当する分を秤量してから、5mm×10mmの型に入れハンドプレスにより、全圧400kgfで圧粉して平板状ペレットとした。このペレットを電池の四隅に設置してから、ラミネートセルをヒートシールで封口した。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1を容器本体に注液して電池Iとした。
【0055】
[10]第4比較例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1に炭酸カルシウムの粉末を非水電解質液LQ1全体の量に対して2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Jとした。注液状況は第1実施例と同様であった。
【0056】
[11]第5比較例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1にゼオライト粉末を非水電解質液LQ1全体の量に対して2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Kとした。注液状況は第1実施例と同様であった。
【0057】
[12]第6比較例
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この非水電解質液LQ1にシリカゲル粉末を非水電解質液全体の量に対して2%に相当する分を分散させた。この液を容器本体に注液して、電池Lとした。注液状況は第1実施例と同様であった。
【0058】
[13]第7比較例
非水電解質液として、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合した混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度で溶解させ、水分量を5ppm(<<50ppm)に調整して非水電解質液とした。この非水電解質液を容器本体に注液して、電池Mとした。
上記各例において、水分吸収能を持ち、かつ、フッ化水素と中和反応を起こさない物質、例えば、ゼオライトやシリカゲルの設置法として、ゼオライトやシリカゲルのみをペレットに形成することは困難であるため、そのような場合には、非水電解質液内に粉末分散させて設置している。
よって、ゼオライトやシリカゲルの設置法は、ペレット状あるいはシート状とすることが好ましい。
【0059】
上記各電池A〜Mを0.1CA(Capacity Ampere)の電流で50%SOCまで充電後、水分やフッ化水素の影響が出やすいように50℃において5日問放置した。この間は水分やフッ化水素による反応の他、電解液の極板群へのしみ込みやSEI形成が起こると考えられる。その後25℃で、充電は0.2CAで電池電圧3.6Vまで定電流、定電圧で電流が0.05C(Capacity)に垂下するまでとし、放電は0.2CAで2.0Vまでの活性化を10サイクル実施し、10サイクル目を容量試験とした。
また、活性化後に電池を取出し、セル内圧上昇に伴うラミネートセルの膨らみをセル中央部(測定前厚み3mm)で測定した。
【0060】
図8は、容量試験及び膨らみ量の測定結果を示す図である。
評価の結果、図8に示すように、電解液中の水分量が多いのにも係わらず、本発明に係る電池A〜電池Fにおいては、電池の膨らみなしに、水分量が少ない非水電解質液を注液した電池Mと同等の放電容量が得られた。
一方、第1比較例の電池Gでは容量低下と膨らみが激しく電池中の水分により、負極活物質の不可逆容量の増大と水および電解液の分解が促進されて、分解ガスが発生したと考えられた。
電池の膨らみは、特に電池Jが大きくなっており、これは炭酸カルシウムとフッ化水素により炭酸ガスが発生したためと思われる。
【0061】
電池Kと電池Lは、電池の膨らみは見られなかったが、十分な容量は得られておらず、おそらく発生したフッ化水素により正極から鉄イオンが溶け出し、これが負極へ達して充放電反応を阻害したことが推察される。
次に全セルでガスを抜いてから、すなわち、全セルでガスを抜くことで活性化後の膨らみをほぼ0.00mmとしてから、恒温恒湿槽に入れて、温度45℃、湿度80%中で充放電サイクル試験を実施した。充電は1CAで36Vまで定電流、さらに定電圧で電流が0.05Cに垂下するまでとした。放電は1CAで20Vまでとした。
【0062】
図9は、サイクル試験における放電容量維持率推移の説明図である。
また、図10は、サイクル試験1000サイクル後の容量維持率とセル厚みの測定結果を説明する図である。
試験の結果、図9および図10に示すように、本発明に係る電池A〜電池Fは水分量が多い電解液を注液したのにも係わらず、高い容量維持率(91〜95%)を示した。
これに対して、比較例の電池G〜Mでは大きく容量が低下しており(58〜88%)、電解液中による水分の影響を抑制できなかったことがわかった。特に第3比較例の電池Iについては、第3実施例〜第6実施例の電池C〜Fと同様に酸化カルシウムをペレット状にしているにもかかわらず、水分の影響を抑制できなかったことから、形状因子よりも水分吸収能を持ちかつフッ化水素と中和反応を起こさない物質およびフッ素と難溶性塩を形成できる物質を共存させることが、水分の影響を顕著に抑制できることがわかる。
【0063】
また、水分量が少ない電解液を注液した電池Mでもサイクル中に容量が少しずつ低下していた。これはラミネートフィルムの封口部からの透湿により、電池内に水分が浸入したからと推定される。
これらに対して第1実施例群に係る実施例の電池A〜電池Fでは、最初に電池内に存在する水分および透湿による水分の影響を長期にわたり抑制できることが判明した。なお、詳細については、後述する第2実施例群とともに説明する。
これにより、電池製造時の水分管理条件も緩和でき、省エネルギーやコストダウンも期待される。
【0064】
以上の説明では、塩形成物質として。酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化セリウムについて説明したが、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の酸化物、もしくは、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン、水酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の水酸化物のうちから少なくとも一つを選択しても同様の結果が得られる。
【0065】
[B]第2実施例群
次に、バインダーを用い、シート状部材として用いた実施例(第2実施例群)について説明する。
図11は、各実施例および各比較例の電池作成条件の説明図である。
以下の説明において、ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化セリウム及び炭酸カルシウムの調整については、第1実施例群と同一の方法で調整した。
また、用いる電池の構成についても第1実施例群と同一のものを用いた。
【0066】
[1]第1実施例
電池の封口前に、ゼオライトと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で2%に相当する分を秤量してから、同量のPTFE粉末と混合して混合粉末を得た。この混合粉末をミルタイプ粉砕機で混練し、せん断を加え、この混練物を圧延しシート成型物(シート状部材)を得た。このシート状部材を電池内の中央部の極板群(積層電池素子)上に設置してから、ラミネートフィルムをヒートシールで封口した。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この液を容器本体に注液して、電池Pとした。
【0067】
[2]第2実施例
電池の封口前に、ゼオライトと水酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で2%に相当する分を秤量してから、同量のPTFE粉末と混合して混合粉末を得た。この混合粉末をミルタイプ粉砕機で混練し、せん断を加え、この混練物を圧延しシート成型物を得た。このシートを電池内の中央部、極板群(積層電池素子)上に設置してから、ラミネートフィルムをヒートシールで封口した。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この液を容器本体に注液して、電池Qとした。
【0068】
[3]第3実施例
電池の封口前に、ゼオライトと酸化セリウムの粉末を質量比1:1で2%に相当する分を秤量してから、同量のPTFE粉末と混合して混合粉末を得た。この混合粉末をミルタイプ粉砕機で混練し、せん断を加え、この混練物を圧延しシート成型物(シート状部材)を得た。このシート状部材を電池内の中央部、極板群(積層電池素子)上に設置してから、ラミネートフィルムをヒートシールで封口した。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、この液を容器本体に注液して、電池Rとした。
【0069】
[4]第4実施例
電池の封口前に、ゼオライトと酸化カルシウムの粉末を質量比1:1で2%に相当する分を秤量してから、同量のPTFE粉末と混合して混合粉末を得た。この混合粉末をミルタイプ粉砕機で混練し、せん断を加え、この混練物を圧延しシート成型物(シート状部材)を得た。このシート状部材をヒートシール部近傍に設置したのち、ラミネートフィルムをヒートシールで封口した。
非水電解質液として、上述した非水電解質液LQ1を用い、非水電解質液LQ1を溶基本体に注液して、電池Sとした。
【0070】
上記各電池P〜電池Sを0.1CA(Capacity Ampere)の電流で50%SOCまで充電後、水分やフッ化水素の影響が出やすいように、50℃において5日問放置した。第1実施例群で説明したように、この期間には、水分やフッ化水素による反応の他、電解液の極板群へのしみ込みやSEI形成が起こると考えられる。その後25℃で、充電は0.2CAで電池電圧3.6Vまで定電流、定電圧で電流が0.05C(Capacity)に垂下するまでとし、放電は0.2CAで2.0Vまでの活性化を10サイクル実施し、10サイクル目を容量試験とした。
【0071】
また、活性化後に電池を取出し、セル内圧上昇に伴うラミネートセルの膨らみをセル中央部(測定前厚み3mm)で測定した。
図12は、第2実施例群の各実施例の容量試験及び膨らみ量の測定結果を示す図である。
評価の結果、図12に示すように、電解液中の水分量が多いのにも係わらず、第2実施例群の実施例に係る電池P〜電池Sにおいては、電池の膨らみなしに、水分量が少ない電解液を注液した電池Lと同等の放電容量が得られた。
【0072】
次に全電池でガスを抜いてから、恒温恒湿槽に入れて、温度45℃、湿度80%中で充放電サイクル試験を実施した。
充電は1CAで3.6Vまで定電流、さらに定電圧で電流が0.05Cに垂下するまでとした。放電は1CAで2.0Vまでとした。
【0073】
図13は、各実施例群におけるサイクル試験における放電容量維持率推移の説明図である。
また、図14は、各実施例群におけるサイクル試験1000サイクル後の容量維持率とセル厚みの測定結果を説明する図である。
この場合において、第1実施例群の実施例に係る電池C〜Fは、第2実施例群の実施例に係る電池P〜Sと同様の効果が得られており、図13および図14においては、図示の簡略化のため、第2実施例群の実施例に係る電池P〜Sのみを示してある。ここで、第1実施例群の電池Dは、第2実施例群の電池Sの特性に似た特性を示していた。
試験の結果、図13および図14に示すように、本発明の第1実施例群に係る電池A、B、第2実施例群に係る電池P〜電池Sは水分量が多い電解液を注液したのにもかかわらず、高い容量維持率(92〜96%)を示した。
これらに対し、第1比較例に係る電池G、第2比較例に係る電池H、第4比較例〜第7比較例に係る電池J〜Mは比較的低い容量維持率(60〜88%)となっており、本発明の電池は水分の影響を抑制して、高品質の電池を構成できることがわかった。
【0074】
さらに、本発明の実施形態によれば、最初に電池内に存在する水分及び透湿による水分の影響を長期にわたり抑制できることが判明した。
これにより、電池製造時の水分管理条件も緩和でき、省エネルギーやコストダウンも期待できる。
【0075】
次に各電池による水分吸収性評価について説明する。この場合において、各実施例あるいは比較例の電池について、同一の電池から測定日毎にサンプリングを行ってカールフィッシャー法により水分量の測定を行っている。
図15は、各実施例群の電池による水分吸収性評価の説明図(0日〜10日)である。
第1実施例群における電池A、B、G〜Lについても注液封口後すぐに温度60℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽に保管した。
また、第2実施例群における電池P〜Sを注液封口後、すぐに温度60℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽に保管した。
保管中の電池A、B、電池P〜S、電池G〜Lへの水分の浸透と吸収量を調査する目的で、セルに注液した混合溶媒中の水分量を測定した。水分測定は上述したようにカールフィッシャー法を採用し、測定日は、混合溶媒注液直後、恒温恒湿槽に保管してから2日後、4日後、6日後、8日後、10日後とした。
【0076】
測定の結果、図15に示すように、第1実施例群の実施例に係る電池A、B、第2実施例群の実施例に係る電池P〜Sにおいて初期水分量(50ppm)からの水分量減少が確認された。具体的には、恒温恒湿槽に保管してから10日後にわたって、初期水分量から徐々に水分量が減少し、10日後には、数ppmの値となり、確実に水分の吸収がなされていることがわかる。
一方、第1実施例群の比較例の非水電解質液LQ中に水分吸収機能を持たせたセルK、Lは、図15に示すように、電池A、B、電池P〜Sと同様の傾向を示し、初期水分量からの水分量減少が確認された。
しかし、水分吸収機能を含まない第1実施例群の比較例の電池G、H、J、Mにおいては、図15に示すように、初期水分量に対して水分量増加が確認された。より詳細には、電池G、H、J、Mにおいては、恒温恒湿槽に保管してから10日後にわたって、初期水分量から徐々に水分量が増加し、10日後には、電池G、H、Jは、90ppm程度まで水分量が増加し、電池Mにおいては、第2実施例群の実施例に係る電池P〜Sの初期水分量である50ppm程度まで水分量が増加していた。
次に、10日間高温恒湿槽で保管した第1実施例群における電池A、B、第2実施例群における電池P〜電池Sを60日間保管し、保管中のセルへの水分の浸透と吸収量を調査した。測定日は20日後、30日後、40日後、50日後、60日後とした。
同様に、G、H、J〜Mについても10日間高温恒湿槽で保管し、さらに60日間保管し、保管中の電池への水分の浸透と吸収量を調査した。測定日は20日後、30日後、40日後、50日後、60日後とした。
【0077】
図16は、各測定日における各電池中の水分量測定結果の説明図(10日〜60日)である。
測定の結果、図16に示すように、第1実施例群の実施例に係る電池A、Bおよび第2実施例群の実施例に係る電池P〜Sにおいては、図16に示すように、10日後から60日後まで水分量は低い値で推移し、60日後においても最大で20ppm程度であり、初期水分量である50ppmを超えることはなかった。
また、非水電解質液LQ中に水分吸収機能を持たせた電池K、Lにおいては、図16に示すように、電池P〜Sと同様の傾向を示し、10日後から60日後まで水分量は低い値で推移した。
一方、水分吸収機能を持たない電池G、H、J及びMにおいては、図16に示すように、10日後から60日後まで水分量増加が確認された。この場合において、水分吸収能を備えたシートを電池中のヒートシール部近傍に設置した電池F以外では測定後半で水分量が増加し、最も少ないものでも140ppmを超え、最大では、170ppm程度と、初期水分量に対して3倍以上となり、初期水分量が低い電池Mも含めて、60日後には、通常想定される初期水分量である50ppmを大幅に上回っていた。
以上より本実施例によれば、ラミネートフィルムで形成された容器本体内に浸透する水分を高い水準で除去できるとともに、所定の電池性能を維持できることが明らかとなった。
【0078】
さらに、進入経路であるヒートシール部近傍に水分吸収物質を含むシート状部材を設置することでより迅速に浸透水分を吸収し、さらなる水分の長期抑制が可能となる。
また、シートが浸入水分を優先的に吸収するため、水分と電解液との反応も抑制されてフッ化水素の発生も減少する。さらに、フッ化水素が発生した場合でもシート中に含まれるフッ素と難溶性塩を形成できる塩形成物質がフッ化水素と難溶性塩を形成して、非水電解質液から除去、吸収するのでラミネートセル型非水二次電池用セルのさらなる高性能化、高寿命化が期待できる。
【符号の説明】
【0079】
10、20、30、40、50、60 非水電解質二次電池
11 容器本体
11A ラミネートフィルム
12 ヒートシール部
13 収納部
14 極板群
15 板状ペレット
16 タブ部
21 板状ペレット
31 板状ペレット
31A、31B 長板状ペレット
41A 蓋部
41B 容器本体部
42 封入部
43 電池容器
44 極板群
45 巻き芯部
46 丸棒状ペレット
47 リード部
51 シート状部材
52 芯部
61 芯部材
62 シート状部材
LQ1 非水電解質液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質液と、
セパレータを介して正極板と、負極板と、が積層された極板群と、
前記非水電解質液及び前記極板群を収納する容器本体と、を備え、
前記非水電解質液に混入した水分を吸収し、かつ、前記非水電解質液中のフッ化水素と中和反応を起こさない水分吸収物質と、フッ素と難溶性塩を形成する塩形成物質と、を混合させた状態で前記非水電解質液内に配置している、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1記載の非水電解質二次電池において、
前記水分吸収物質と前記塩形成物質とを混合して加圧することにより混合成形体を形成し、前記前記非水電解質液内に配置している、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項2記載の非水電解質二次電池において、
前記混合成形体は、粉末状の前記水分吸収物質と粉末状の前記塩形成物質とを混合し、得られた混合物を加圧成形して得られるペレットであることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項2記載の非水電解質二次電池において、
前記混合成形体は、粉末状の前記水分吸収物質と粉末状の前記塩形成物質とを混合し、得られた混合物に所定のバインダーを添加して混練し、圧延することにより得られるシート状部材であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記水分吸収物質は、ゼオライトまたはシリカゲルの少なくともいずれか一方であり、
前記塩形成物質は、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の酸化物、もしくは、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン、水酸化セリウムからなる群より選択されるアルカリ土類金属または希土類の水酸化物のうちから少なくとも一つを選択したことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−257572(P2010−257572A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94018(P2009−94018)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】