説明

非水電解質電池および非水電解質電池用固体電解質層の形成方法

【課題】固体電解質層の欠陥を抑制して、電圧の低下を抑制することができる非水電解質電池および非水電解質電池用固体電解質層の形成方法を提供する。
【解決手段】非水電解質電池は、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する。そして、固体電解質層は、同種の固体電解質からなり、気相法により形成された積層構造を有する。一方、非水電解質電池用固体電解質層の形成方法は、同種の固体電解質を気相法により間欠的に成膜し、積層構造の固体電解質層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する非水電解質電池および非水電解質電池用固体電解質層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に非水電解質電池が利用されている。この非水電解質電池の代表例として、正負極においてリチウムイオンの吸蔵・放出反応を利用したリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム二次電池と呼ぶ)が挙げられる。
【0003】
このリチウム二次電池は、正極層と負極層の間で電解質層を介してリチウムイオンをやり取りすることによって、充放電を行う電池である。近年、有機電解液に代えて不燃性の無機固体電解質を電解質層に用いた全固体リチウム二次電池の研究が行われている。また、正極、負極および固体電解質層を気相法(例えば真空蒸着法)により形成した薄膜タイプの電池も提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
例えば特許文献1には、導電性基板上に、LiMn2O4の正極薄膜、Li2O−V2O5−SiO2からなる固体電解質薄膜、Li金属の負極薄膜、を順次成膜することにより、薄膜型の全固体リチウム電池を作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10‐83838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、リチウム二次電池用固体電解質層の形成に真空蒸着法などの気相法を用いることが行われている。しかし、本発明者らが鋭意研究した結果、単層の固体電解質層を例えば正極層上に気相法により形成した場合、固体電解質層が正極層から剥落、欠落したり、固体電解質層に割れが生じたりするなどの欠陥が生じ易いことが分かった。そのため、負極層を形成して電池を作製したときに、正負極間が短絡し、電圧が低下するなどの問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、固体電解質層の欠陥を抑制して、電圧の低下を抑制することができる非水電解質電池および非水電解質電池用固体電解質層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは固体電解質層に欠陥が生じる原因を検討した結果、次のような知見を得た。単層の固体電解質層を気相法により形成した場合、成膜厚さがある程度を超えると(例えば5μm超)、成膜時間が長くなり、成膜中の固体電解質層の温度が上昇する。そして、成膜後常温に戻したときに、成膜対象(例えば正極層)と固体電解質層との熱膨張係数の差に起因する膜応力が固体電解質層に発生する。そのため、成膜中の固体電解質層の温度が上昇するのに伴い、固体電解質層の膜応力が大きくなる結果、固体電解質層の剥落などの欠陥を引き起こすものと考えられる。これは、成膜対象を冷却するなどして成膜対象の温度を制御したとしても、連続的に成膜を行うと、成膜中の固体電解質層の温度が徐々に上昇することから、起こり得る。そして、この知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0009】
(1)本発明の非水電解質電池は、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する。そして、固体電解質層は、同種の固体電解質からなり、気相法により形成された積層構造を有することを特徴とする。
【0010】
一方、本発明の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法は、同種の固体電解質を気相法により間欠的に成膜し、積層構造の固体電解質層を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の非水電解質電池によれば、固体電解質層が気相法により形成された積層構造を有することで、一層当たりにかかる成膜時間が短縮されるため、成膜中の固体電解質層の温度上昇が抑制され、固体電解質層の膜応力が低減される。その結果、同じ厚さの単層の固体電解質層と比較して、固体電解質層全体として欠陥がない又は少なくなることから、正負極間の短絡が起き難く、電圧の低下を抑制することができる。
【0012】
また、ある一部の層に欠陥部が発生しても、別の層が成膜されることで欠陥部が被覆されることになるので、固体電解質層を貫通するような欠陥部が生じ難い。
【0013】
一方、本発明の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法によれば、固体電解質を気相法により間欠的に成膜し、積層構造の固体電解質層とすることで、一層当たりの成膜時間を短縮でき、成膜中の固体電解質層の温度上昇を抑制することができる。その結果、固体電解質層の膜応力を低減でき、同じ厚さの単層の固体電解質層と比較して、固体電解質層全体として欠陥が生じ難い。ここで、固体電解質層を複数回に分けて間欠的に成膜するときは、固体電解質層に欠陥が生じるような膜応力が発生しないように、間欠時間(成膜してから次に成膜するまでの待機時間)を調整して成膜中の固体電解質層の温度を所定値以下(例えば30℃以下)に制御する。間欠時間は、例えば3分以上30分以下とすることが挙げられる。
【0014】
(2)本発明の非水電解質電池において、固体電解質が非晶質の硫化物系固体電解質であることが好ましい。
【0015】
一方、本発明の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法において、非晶質の硫化物系固体電解質からなる固体電解質層を形成することが好ましい。
【0016】
固体電解質層には、Li2Sを含む硫化物系固体電解質や、Li3PO4、LiPONなどの酸化物系固体電解質を用いることができる。硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質に比べて高いリチウムイオン伝導性を示す点で、好適である。
【0017】
(3)本発明の非水電解質電池において、固体電解質層の一層当たりの厚さが0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法において、固体電解質層の一層当たりの厚さを0.5μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0019】
固体電解質層の一層当たりの厚さを0.5μm以上とすることで、固体電解質層を成膜するのに要する成膜回数を少なくでき、結果として成膜するのに要するトータルの時間を短くでき、生産性が向上する。また、固体電解質層の一層当たりの厚さを5μm以下とすることで、一層当たりの成膜時間を短縮でき、固体電解質層の膜応力を低減して、固体電解質層の欠陥を効果的に抑制することができる。より好ましくは、固体電解質層の一層当たりの厚さを1μm以上3μm以下とする。
【0020】
(4)本発明の非水電解質電池において、固体電解質層の全体厚さが5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0021】
固体電解質層の全体厚さは、特に限定されないが、例えば成膜対象(例えば正極層)の表面性状に基づいて決定すればよい。固体電解質層の全体厚さを5μm以上とすれば、正負極間の短絡を効果的に防ぎ、電圧の低下を抑制し易い。また、固体電解質層の全体厚さを20μm以下とすれば、固体電解質層を成膜するのに要するトータルの時間を短くでき、生産性の点で有利である。より好ましくは、固体電解質層の全体厚さを8μm以上12μm以下とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の非水電解質電池および非水電解質電池用固体電解質層の形成方法は、固体電解質層が気相法により形成された積層構造を有することで、固体電解質層の欠陥を抑制して、電圧の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の非水電解質電池の基本構造は、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する構造である。また、正極層及び負極層それぞれの固体電解質層と対向する面とは反対側の面には集電体層を形成してもよい。以下、各構成部材について説明する。
【0024】
正極層は、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiCo0.5Fe0.5O2、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMn2O4、LiFePO4などの正極活物質を含む。また、正極層の集電体層には、例えばAl、Ni、Au又はこれらの合金若しくはステンレスを用いることができる。
【0025】
負極層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、金属リチウム(Li金属単体)又はリチウム合金(Liと添加元素からなる合金)の他、例えばグラファイトなどの炭素(C)や、シリコン(Si)、インジウム(In)が挙げられる。中でも、リチウムを含む材料、特に金属リチウムは、電池の高容量化、高電圧化の点で優位であり、好適である。リチウム合金の添加元素としては、Al、Si、Sn、Bi、Zn及びInが挙げられる。また、負極層の集電体層には、例えばCu、Ni又はこれらの合金を用いることができる。
【0026】
固体電解質層には、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。具体的な硫化物系固体電解質としては、Li2S‐P2S5系、Li2S‐SiS2系、Li2S‐B2S3系などが挙げられ、更にP2O5やLi3PO4を添加してもよい。特に、固体電解質層は、非晶質(アモルファス)の硫化物系固体電解質からなることが好ましい。なお、非晶質の硫化物系固体電解質からなる固体電解質層を形成するには、例えば硫化物系固体電解質を成膜する際の成膜温度を制御し、ガラス転位温度以下で成膜することが挙げられる。
【0027】
本発明では、固体電解質層が、気相法により間欠的に成膜することで形成され、積層構造を有する。気相法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法及びパルスレーザデポジション(PLD)法などの物理的蒸着(PVD)法が具体的に挙げられる。
【0028】
(実施例1)
正極層、固体電解質層、負極層を順に成膜して積層した構造の全固体リチウム二次電池を作製し、その電池特性を評価した。成膜は、常温で行った。
【0029】
<試料1-1>
ステンレス製の基材の上に、スパッタリング法を用いてLiCoO2を成膜することで、厚さ10μmの正極層を形成した。また成膜後、LiCoO2膜が成膜された基材を電気炉に入れ、大気中500℃で3時間のアニール処理を行い、LiCoO2膜を結晶化させた。
【0030】
次に、正極層の上に、スパッタリング法を用いてLiNbO2を成膜することで、厚さ10nmの正極界面層を形成した。この正極界面層は、正極層と固体電解質層との間の界面抵抗の低減に寄与する。
【0031】
次いで、正極界面層の上に、抵抗加熱真空蒸着法を用いてLi2S‐P2S5‐P2O5系固体電解質を成膜することで、厚さ10μmの固体電解質層を形成した。この固体電解質層は同種材料の単層構造である。この固体電解質層の結晶構造は非晶質であった。なお、成膜中の固体電解質層の最高到達温度は、80℃であった。
【0032】
次いで、固体電解質層の上に、PLD法を用いてSiを成膜することで、厚さ10nmの負極界面層を形成した。この負極界面層は、後述の負極層(Li)による固体電解質層の分解を抑制することに寄与する。
【0033】
次いで、負極界面層の上に、抵抗加熱真空蒸着法を用いてLiを成膜することで、厚さ0.7μmの負極層を形成した。
【0034】
最後に、この積層体をコイン型ケースに収容し、コイン型の全固体リチウム二次電池を完成させた。この電池を試料1-1とし、同じものを33個準備した。
【0035】
<試料1-2>
固体電解質層を間欠的に成膜し、一層当たりの厚さ1μm×10層、全体厚さ10μmの積層構造の固体電解質層を形成した以外は、試料1-1と同様にして、コイン型の全固体リチウム二次電池を完成させた。この電池を試料1-2とし、同じものを31個準備した。
【0036】
試料1-2では、具体的には、1μm成膜するごとに成膜中の固体電解質層の温度が常温まで下がるように間欠時間(例えば20〜30分)を調整して、間欠的に成膜した。また、固体電解質層を成膜する際、成膜厚さ並びに間欠成膜の場合の間欠時間の制御は、蒸発源と基材との間に設けられた成膜装置のシャッタの開放時間を調整することで行った。この固体電解質層の結晶構造は非晶質であった。なお、成膜中の固体電解質層の最高到達温度は、30℃であった。
【0037】
上記した試料1-1、1-2の各電池について、電池組立後初期の開路電圧(OCV)と12時間放置後の開路電圧(OCV)を測定し、各試料での初期OCVと放置後OCVのそれぞれの平均値を求めると共に、初期OCVと放置後OCVの電圧差(ΔV)を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から、単層構造の固体電解質層を有する試料1-1では、初期OCVが低く、またΔVも大きいのに対して、積層構造の固体電解質層を有する試料1-2では、初期OCVが高く、ΔVも小さいことが分かる。これは、試料1-2では、試料1-1に比較して、固体電解質層の欠陥が少なく、正負極間の短絡が防止され、電圧の低下が抑制されたことによるものと考えられる。
【0040】
次に、試料1-1、1-2の各方法で形成した固体電解質層について、SEMによる表面及び断面の観察を行った。その結果、試料1-1では、固体電解質層の一部が剥離しており、固体電解質層を貫通する欠陥部が確認されたのに対し、試料1-2では、固体電解質層に剥離などの欠陥が確認されなかった。また、試料1-2の固体電解質層の断面を観察したところ、層と層との間に境界が認められ、層状の積層構造を呈していることが確認された。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、固体電解質層の材質や、固体電解質層の一層当たりの厚さ並びに全体厚さを適宜変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の非水電解質電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラの他、電気自動車などの電源に好適に利用することができる。また、本発明の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法は、例えば全固体リチウム二次電池の分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する非水電解質電池であって、
前記固体電解質層は、同種の固体電解質からなり、気相法により形成された積層構造を有することを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記固体電解質が、非晶質の硫化物系固体電解質であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記固体電解質層の一層当たりの厚さが、0.5μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記固体電解質層の全体厚さが、5μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
非水電解質電池用固体電解質層の形成方法であって、
同種の固体電解質を気相法により間欠的に成膜し、積層構造の固体電解質層を形成することを特徴とする非水電解質電池用固体電解質層の形成方法。
【請求項6】
非晶質の硫化物系固体電解質からなる固体電解質層を形成することを特徴とする請求項5に記載の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法。
【請求項7】
前記固体電解質層の一層当たりの厚さを0.5μm以上5μm以下とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の非水電解質電池用固体電解質層の形成方法。

【公開番号】特開2011−154890(P2011−154890A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15594(P2010−15594)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】