説明

非水電解質電池

【課題】Mnを含む活物質を用いた正極と、溶媒にプロピレンカーボネートを備える非水電解質電池において、正極の劣化を防止し、正極側での電解液の分解によるガス発生を低減し、電池内部抵抗を低減する。
【解決手段】Mnを含む活物質、たとえばリチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有マンガン酸化物のマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物を用いた正極と、溶媒にプロピレンカーボネートを備える非水電解質電池に、ビニルエチレンカーボネート、1,3−ブタジエンエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池のガス発生を低減し、放電特性の安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の小型化、軽量化、高性能化にともない、主電源、バックアップ電源共に、高容量化が求められている。主電源やメモリーバックアップ用電源としては起電力が高く、高エネルギー密度である点に特長を有することから、非水電解質電池が広く用いられている。
【0003】
特に中でも、需要が大きく増加してきたデジタルスチルカメラは、主電源が機器から外されることが少ない携帯電話などの場合とは異なり、使用しないときに主電源が外される場合が多く、また、その期間も長いという特徴を持つ。また、機器の使用期間が長いことも特徴である。そのため、デジタルスチルカメラのバックアップ電源は高容量、長期保存特性、良好な充放電サイクル特性、小型であることなどが求められる。
【0004】
上記のようなことから、直径が1cm以下のコイン型リチウム二次電池や、直径が2cm以下のコイン型リチウム一次電池が多く使用され、その電極としては、ペレット状の成型体の使用が多い。
【0005】
上記のようなバックアップ電源の正極活物質には、マンガン酸化物やリチウム含有複合酸化物などが検討されている。例えば、LiMn24、Li4Mn512、Li2Mn49などの利用が提案されている。また、リチウム含有マンガン酸化物のマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物も検討されている。
【0006】
しかしながら、マンガン酸化物、リチウム含有マンガン酸化物またはリチウム含有マンガン酸化物のマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物などのマンガンを含む正極を使用した場合、通常リチウムイオン電池に用いられるエチレンカーボネートを主体とする電解液では、高温で、正極との反応により、正極活物質の結晶構造が崩れる、正極のマンガンが溶解し、負極に析出するなどの課題があった。
【0007】
例えば、特許文献1には、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なリチウムマンガン酸化物から成る正極と、リチウムイオンを吸蔵,放出可能な黒鉛系炭素材料から成る負極と、溶媒及び溶質から成る電解液とを備えたリチウムイオン電池において、上記電解液の溶媒として、少なくともプロピレンカーボネートとビニレンカーボネートとが含まれていることにより、高温で保存した場合であってもリチウムマンガン酸化物の結晶構造が崩れるのを抑制し、電池容量の低下を防止できるリチウムイオン電池が提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、正極活物質にマンガン酸リチウムまたはマンガン酸リチウムのマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物、負極活物質にリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素質材料、電解質に有機電解液を使用し、電解液中にビニレンカーボネートまたはビニレンカーボネート誘導体を少なくとも1種添加したことにより、負極表面に皮膜を形成し、負極表面でのマンガンの析出を抑制し、マンガンの析出による負極の劣化を防ぎ、電池としての寿命特性が改善される有機電解質二次電池が提案されている。
【0009】
特許文献3には、リチウム或るいはリチウムを含む合金からなる負極と、正極と、溶質と溶媒からなる電解液とを備え、前記溶媒として、不飽和の炭素−炭素結合を鎖式に有するビニルエチレンカーボネート、2−ビニル−1、3−ジオキソラン、1、2−ジメトキシエチレン、ジビニルエーテル、N−ビニルイミダゾール、ビニルアミン、ビニルシクロヘキサンの群から選ばれた少なくとも一つの化合物からなる溶媒を用いたことにより、負極リチウムと溶媒との反応を抑制し、自己放電を改善する非水系電解液電池が提案されている。
【0010】
従来は、マンガンの負極への析出、負極と電解液との反応など、負極での反応に着目した検討が多く、また、正極については、マンガンの溶出についてなどが検討されてきた。
【0011】
前記特許文献1に示されたように、Mnを含む正極を使用した場合、電解液にプロピレンカーボネートが含まれていることで、正極のMnは殆ど溶解しないため、正極活物質の結晶構造が崩れるのは抑制される。さらに、電解液にビニレンカーボネートを使用した場合、負極の皮膜生成により、負極と電解液との反応が抑制される。
【0012】
同様に、特許文献2に示されたように、電解液にビニレンカーボネートを使用した場合、負極の皮膜生成により、負極へのマンガンの析出による劣化は抑制される。
【0013】
また、特許文献3に示されたように、電解液にプロピレンカーボネートと2‐ビニル‐1、3‐ジオキソランを使用した場合も負極の反応は抑制される。
【特許文献1】特開平11−283667号公報
【特許文献2】特開2001−85059号公報
【特許文献3】特許第2962782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術を、Mnを含む正極活物質を用いる電池に適用した場合には、プロピレンカーボネートの分解によるガス発生が大きな課題であることを見出した。
【0015】
そして、電池内でガスが発生すると、電池の内部抵抗が上昇することや、電池が膨れることにより、分極の増大や最悪の場合は導電経路が断絶されるという課題がある。特にコイン型電池の場合、完全な密閉系であり、ケースの圧力により、導電を保持する構造であることから、ガス発生による、上記課題は特に大きく影響する。
【0016】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、電池内での主なガス発生が、Mn含有正極活物質とプロピレンカーボネートとの反応に起因することを見出したものであり、この反応によるガス発生を抑制して電池内部抵抗の上昇を防止し、電池の放電特性を向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の非水電解質電池は、Mnを含む正極活物質を用いる正極と負極と電解液を含む非水電解質電池において、前記電解液はプロピレンカーボネートと、化1または化2に示した化合物のうちの少なくとも1種とを含むことを特徴とする。
【0018】
【化1】

(式中、R1は不飽和アルキル基を表す。)
【0019】
【化2】

(式中、R2およびR3は不飽和アルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、正極にMnを含む正極活物質を用いるとともに、電解液の溶媒にプロピレンカーボネートを用いた場合であっても、正極活物質の結晶構造の崩壊や溶出を抑制することができ、さらに、正極でのプロピレンカーボネートの分解を抑制できるため、ガス発生を低減し、電池内部抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
本発明は上記のように、Mnを含む正極活物質を用いる正極と負極と電解液を含む非水電解質電池において、電解液として、プロピレンカーボネートと、化1または化2に示した化合物のうちの少なくとも1種とを含むことにより、正極の結晶構造が崩れることや正極が溶出することを抑制でき、さらに、正極でのプロピレンカーボネートの分解を抑制できるため、ガス発生を低減し、電池内部抵抗を低減することができるものである。
【0023】
【化1】

(式中、R1は不飽和アルキル基を表す。)
【0024】
【化2】

(式中、R2およびR3は不飽和アルキル基を表す。)
【0025】
ガス発生量はガスクロマトグラフィー分析により測定できる。
【0026】
電解液に含まれる前記化1または化2に示した化合物は1重量%以上20重量%以下含まれると、詳しくは不明であるが、前記化1または化2に示した化合物が正極でのプロピレンカーボネートの酸化分解を抑制するため好ましい。1重量%未満であると、プロピレンカーボネートの酸化分解を充分に抑制することができないため、好ましくなく、20重量%を超えると、負極の皮膜が増大し、内部抵抗の上昇、保存劣化を引き起こす虞があるため、好ましくない。
【0027】
前記化1に示した化合物としては、例えば、化3に示したビニルエチレンカーボネート、化4に示した1,3−ブタジエンエチレンカーボネートが挙げられる。また、化2に示した化合物としては、例えば、化5に示したジビニルエチレンカーボネートが挙げられる。中でも、化3に示したビニルエチレンカーボネートまたは、化5に示したジビニルエチレンカーボネートであることで、より高い効果を得られるため好ましい。
【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
また、電解液に含まれる溶質としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)などの単体あるいは複数成分を混合して使用することができる。溶媒として、上記以外に、公知の種々の非水溶媒を用いることができる。具体的には、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、γ−ブチロラクトンなどの単体または複数成分を組み合わせて使用することができるが、これに限定されるものではない。また、これらの有機溶媒はゲル状電解質へも通常使用できる。
【0032】
正極はリチウム含有マンガン酸化物またはリチウム含有マンガン酸化物のマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物を含むことで、高容量が得られるため好ましい。例えば、LiMn24、LiMnO2、Li0.55MnO2、Li4Mn512、Li2Mn49、MnO2等のマンガン酸化物やLiMn2-xx4(Aはマンガン以外の元素を示す)等の複合酸化物が挙げられる。なお、このような正極材料は、例えば、リチウムの炭酸塩、硝酸塩、酸化物、あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩、酸化物、あるいは水酸化物と所望の組成になるように混合し、粉砕した後、大気中または、酸素雰囲気中において、300℃〜1000℃の温度で焼成することにより調整される。
【0033】
正極導電剤としては、用いる電極材料の充放電電位において化学変化を起こさない電子伝導体であれば何でも良い。例えば、グラファイト類やカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維、有機導電性材料などこれらを単独または混合物として使用できる。また、添加量は特に限定されない。
【0034】
正極結着剤としては、用いる電極材料の充放電電位において化学変化を起こさない公知の材料が使用できる。例えば、フッ素系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸、あるいは、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらを単独または混合物として使用できる。また、添加量は特に限定されない。
【0035】
負極は、公知の非水電解質二次電池用負極材料、たとえば、黒鉛などの炭素材料、リチウム含有チタン酸化物などを用いることができるが、Siを含むものは高容量を確保できるため好ましい。
【0036】
また、負極はSiと、Siと遷移金属との合金およびSiの酸化物のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。Siを含む場合、充放電を繰り返すと、活物質が膨張収縮するため、Siと、Siと遷移金属との合金およびSiの酸化物であると、膨張収縮が緩和されるため、好ましい。またさらに、前記合金材料はSiを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、前記遷移金属が、Ti、Zr、Fe、Co、NiおよびCuよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
詳しくは不明であるが、充放電を繰り返すと活物質の劣化が引き起こされる可能性があり、Si以外の金属により劣化を抑制すると考えられる。前記Siを主体とするA相と遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相の重量比は特に限定されないが、A層の重量比が低いと膨張は抑制されるが、容量も小さい。重量比が高いと容量は確保できるが大きく膨張する。
【0038】
A相の重量比が5〜95wt%の範囲で同様の効果を得ることができる。さらに、A相の重量比が10〜95wt%の範囲が高容量を得られるため好ましく、なお好ましくは、18〜95wt%の範囲である。さらに好ましくは、高容量を得られ、膨張も抑制できるため、A相の重量比が18〜65wt%の範囲である。また、Siを主体とするA相は結晶質にも非晶質にも限定されない。また、該負極活物質の製造法は特に限定されず、メカニカルアロイ法、メカニカルミリング法、鋳造法、液体急冷法、イオンビームスパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法、気相化学反応法など合金を得られる方法であれば使用できる。
【0039】
負極導電剤としては、用いる電極材料の充放電電位において化学変化を起こさない電子伝導体であれば何でも良い。例えば、グラファイト類やカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維、有機導電性材料などこれらを単独または混合物として使用できる。また、添加量は特に限定されない。特に、負極の導電剤としてはグラファイト類とカーボンブラック類、またはグラファイト類と炭素繊維を組み合わせて使用することが好ましい。カーボンブラック類や炭素繊維は粒径が小さく比表面積が大きいため、活物質の粒子の導電性を向上し、グラファイト類が粒子間の導電性を向上させるため好ましい。さらには、カーボンブラック類や炭素繊維は比表面積が50m2/g以上であると、活物質の導電性を十分に向上できるため好ましく、さらに200m2/g以上であると特に好ましい。
【0040】
負極結着剤としては、用いる電極材料の充放電電位において化学変化を起こさない公知の材料が使用できる。例えば、ポリアクリル酸、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、あるいは、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらを単独または混合物として使用できる。特に、結着性が高いポリアクリル酸を使用することが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明の内容は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に本発明の一実施例として、コイン型電池を示す。この電池は、ペレット状の正極電極4、ペレット状の負極電極5が、電解液を含浸したポリプロピレン製不織布からなるセパレータ6を介して接しており、ポリプロピレン製のガスケット3を備えた負極缶2と正極缶1によりかしめ密閉されている。電池の大きさは、外径が6.8mm、高さが1.4mmであった。
【0043】
正極活物質には電解二酸化マンガンと水酸化リチウムをMn:Liのモル比が1:0.5になるように混合し、大気中380℃で6時間熱処理して得られたリチウム含有マンガン酸化物をもちいた。この活物質に導電剤のカーボンブラックと結着剤のフッ素樹脂を90:5:5の重量比で混合し、正極合剤とした。この正極合剤を1ton/cm2で直径4.1〜4.2mm、厚さ0.6mmのペレットに加圧成型した。この正極ペレットを250℃で10時間減圧乾燥したものを正極電極4として用いた。
【0044】
負極活物質は次のようにメカニカルアロイング法による材料を使用した。重量比がTi:Si=37:63になるように混合した混合粉末を1.7kg秤量し、振動ミル装置(中央化工機(株)製、型番FV−20)に投入し、さらにステンレス鋼製ボール(直径2cm)を300kg投入した。容器内部を真空にひいた後、Ar(純度99.999%、日本酸素(株)製)を導入して、1気圧になるようにした。これらの条件で、メカニカルアロイング操作を行った。ミル装置の作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpmとした。これらの条件でメカニカルアロイング操作を80時間行った。上記操作により得られたTi37wt%−Si63wt%合金粉末を篩いにより、45μm以下の粒径に分級したものを負極活物質として使用した。
【0045】
上記のメカニカルアロイング法により得られたTi37wt%−Si63wt%合金を活物質とし、導電剤のグラファイトとカーボンブラック(カーボンECP、ライオン株式会社製)、結着剤としてポリアクリル酸(日本純薬和光純薬工業製、AC−10H)を73:18:2:7の重量比で混合し、負極合剤とした。この負極合剤を1ton/cm2で直径4.1〜4.2mm、厚さ0.23のペレット状に加圧成型した。負極成型体は190℃で10時間減圧乾燥した後にLiとSiのモル比がLi/Si=1.5になるようにリチウムを圧着し、負極電極5として用いた。
【0046】
非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ビニルエチレンカーボネートとを99:1の重量比で混合したものを用いた。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ビニルエチレンカーボネートとを95:5の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ビニルエチレンカーボネートとを90:10の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0049】
(実施例4)
実施例1において、非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ビニルエチレンカーボネートとを80:20の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0050】
(実施例5)
実施例1において、非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ビニルエチレンカーボネートとを70:30の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、非水電解質は、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメトキシエタンの体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液を用いる以外は、同様にして作製した。
【0052】
(比較例2)
負極に起因したガス発生量を調べるために、正極電極4を用いない以外は、比較例1と同様の材料を用いて、ガス発生評価用電池モデルを作製した。
【0053】
このようにして作製した電池は、各4個ずつ分解し、4個のガス量の合計をガスクロマトグラフィーにより測定した。ガスクロマトグラフィーの条件は次に示す条件で行った。装置;Varian社製、MicroGC CP2002、検出器;TCD、カラム温度;80℃、注入口温度;100℃、試料注入量;1ml、キャリアーガス;He、カラム;PPQ。各電池4個のガス量から、電池1個あたりの平均ガス量求め、図2に示した。
【0054】
また、作製した電池は比較例2を除いて、放電前の内部抵抗(交流1kHz法)を測定したのち、0.1mAで0.1Vまで放電し、0.1mAで3.2Vまで充電した。さらに、0.1mAで2.0Vまで放電した時の容量を電池容量とした。表1に、放電前の電池内部抵抗(交流1kHz法)と電池放電容量を示した。
【0055】
【表1】

【0056】
図2より、本実施例ではビニルエチレンカーボネートを含まない比較例1に比べて、ガス発生量が低減されていることがわかる。また、比較例2では負極のみに起因するガス発生量がわかるが、比較例1の3分の1以下であり、残りのガス発生は正極に起因と考えられることから、本実施例では正極のガス発生が低減されていることがわかる。
【0057】
また表1より、本実施例では電池内部抵抗が低減されており、放電容量が良化していることがわかる。
【0058】
本実施例では、電解液にビニルエチレンカーボネートが含まれることにより、正極側でのプロピレンカーボネートの分解が抑制され、ガス発生量が低減されていると考えられる。そのため、電池内部抵抗も低減され、電池放電容量も良化したと考えられる。特に、実施例1〜4での、電解液にビニルエチレンカーボネートが1重量%〜20重量%含まれる場合に効果が高い。
【0059】
比較例1では電解液にビニルエチレンカーボネートを含まないため、正極側でプロピレンカーボネートが分解し、ガスが発生、内部抵抗も上昇、電池放電容量も低いと考えられる。
【0060】
(実施例6)
実施例2において、非水電解質は、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とジメトキシエタン(DME)の体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、1,3−ブタジエンエチレンカーボネートとを95:5の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0061】
(実施例7)
実施例2において、非水電解質は、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とジメトキシエタン(DME)の体積比2:1:2の混合溶媒に1Mの支持塩LiN(CF3SO22を溶解した電解液と、ジビニルエチレンカーボネートとを95:5の重量比で混合したものを用いる以外は、同様にして作製した。
【0062】
このようにして作製した電池は、各4個ずつ分解し、4個のガス量の合計をガスクロマトグラフィーにより測定した。ガスクロマトグラフィーの条件は次に示す条件で行った。装置;Varian社製、MicroGC CP2002、検出器;TCD、カラム温度;80℃、注入口温度;100℃、試料注入量;1ml、キャリアーガス;He、カラム;PPQ。各電池4個のガス量から、電池1個あたりの平均ガス量求め、図3に示した。
【0063】
また、作製した電池は、放電前の内部抵抗(交流1kHz法)を測定したのち、0.1mAで0.1Vまで放電し、0.1mAで3.2Vまで充電した。さらに、0.1mAで2.0Vまで放電した時の容量を電池容量とした。表2に、放電前の電池内部抵抗(交流1kHz法)と電池放電容量を示した。
【0064】
【表2】

【0065】
図3より、実施例6、7であれば、実施例2同様に、比較例1に比べて、ガス発生量が低減されていることがわかる。
【0066】
また、表2より、実施例6、7は実施例2同様に、電池内部抵抗が低減されており、放電容量が良化していることがわかる。
【0067】
つまり、本実施例では、電解液にプロピレンカーボネートと化1または化2が含まれることにより、正極側でのプロピレンカーボネートの分解が抑制され、ガス発生量が低減されていると考えられる。そのため、電池内部抵抗も低減され、電池放電容量も良化したと考えられる。
【0068】
なお、上記実施例では、化1または化2に示した化合物として、ビニルエチルカーボネート、1,3−ブタジエンエチレンカーボネート、ジビニルカーボネートを用いた例を示したが、化1または化2に示した中の他の化合物を用いても良く、またこれらの混合物であっても同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、負極についても、本実施例では、Ti−Si合金粉末を用いたが、他のSi合金やSi酸化物、Si単体であっても、同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の非水電解質電池は、Mnを含む活物質を用いる正極であっても、正極の結晶構造が崩れることや正極が溶出することを防止でき、さらに、正極でのプロピレンカーボネートの分解を抑制できるため、ガス発生を低減し、電池内部抵抗を低減することに大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における電池の断面図
【図2】本発明(実施例1〜5)および比較例1、2の電池における電池1個あたりのガス発生量を示す図
【図3】本発明(実施例2、実施例5〜7)および比較例1の電池における電池1個あたりのガス発生量を示す図
【符号の説明】
【0072】
1 正極缶
2 負極缶
3 ガスケット
4 正極電極
5 負極電極
6 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを含む活物質を用いた正極と、負極と電解液を備える非水電解質電池において、
前記電解液はプロピレンカーボネートと、化1または化2に示した化合物のうちの少なくとも1種とを含むことを特徴とする非水電解質電池。
【化1】

(式中、R1は不飽和アルキル基を表す。)
【化2】

(式中、R2およびR3は不飽和アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記化1または化2に示した化合物は、前記電解液に1重量%以上20重量%以下含まれることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記化1または化2に示した化合物として、ビニルエチレンカーボネートを用いることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記正極に用いるMnを含む活物質は、リチウム含有マンガン酸化物またはリチウム含有マンガン酸化物のマンガンの一部を他の元素で置換した複合酸化物を含むことを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記負極は、Si、Siと遷移金属との合金、およびSiの酸化物のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−204885(P2008−204885A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41896(P2007−41896)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】