説明

非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍の治癒を促進させる組成物及び方法

非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍の治療用、並びに末梢神経障害の治療及び予防用組成物。本組成物は、主としてニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンの組み合わせを特徴とする。好ましい態様は、エモリエントクリーム、ミネラルオイル、及び酸化亜鉛を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
先願への言及
本願は、2004年11月17日(2004.11.17)出願の米国出願第10/992,636号、及び2004年11月17日(2004.11.17)出願の米国出願第10/992,623号の一部継続出願であり、両出願に基づき35U.S.C.§120並びにパリ条約及び特許協力条約の規定に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、概して、皮膚状態を治療するための改良された組成物に関するものである。より詳細には、本発明は、糖尿病性潰瘍、うっ血性潰瘍、及び褥瘡性潰瘍を含めた一般的タイプの皮膚潰瘍を治療するための改良された組成物に関するものである。
【0003】
2.背景情報
創傷治癒は、複数の因子や物質の複数の協調的相互作用を包含する非常に複雑な工程である。糖尿病患者、透析患者、老人ホームの高齢者、車イスに乗った麻痺/拘束患者、及びホスピス患者における創傷治癒不良は、循環障害及びその後遺症に関連していると考えられている。
【0004】
広範囲の研究から、良好な創傷治癒に最も不可欠な要素は以下の通りであると考えられる:
1. 一酸化窒素;
2. 内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS/iNOS)(アルギニンからNOを産生するための酵素で、適切に機能する内皮では十分量であるが、糖尿病患者や易感染性患者では十分量でない);
3. L−アルギニン(アルギニンは、eNOSが作用してNOを産生すべき局部組織において十分量が必要とされるが、糖尿病や他の易感染性集団では不足していることが多い);
4. ペプチド成長因子(特に形質転換成長因子β(TGF−β));
5. 健常な血液供給(局部及び全身);
6. 新たな血液供給を生ずる能力(血管新生);
7. 感染/過剰炎症を引き起こす細菌の排除又は不在;
8. 十分量のマクロファージ;
9. 正常レベルのホモシステイン。
【0005】
糖尿病患者、透析患者、拘束患者、及び慢性疾患高齢者のように非常に易感染性の集団では、これら必須要素の多くが不足しており、すなわち有害に欠乏している。
本発明者らは、上記要因の全てのバランスが適している場合に事実上の創傷清拭が起こり、新規細胞島マトリックスが増殖し、有害細菌が最小限に抑えられ、そして3段階の創傷治癒(健全量の炎症、増殖、及びリモデリング)が効果的且つ迅速に起こると考えている。
【0006】
潰瘍型皮膚状態のさまざまな治療が当該技術分野において公知であるが、いずれの治療も、臨床的に「非治癒性」又は「治癒遅延性」の創傷及び潰瘍と表現されるものの治癒を適切且つ上首尾に促進するために必要とされる要因全体には取り組んでいない。
【0007】
非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍に関する事実及び統計、並びにその根底にある原因又は傾向にははっとさせられる。
II型糖尿病はそのような原因の1つであり、糖尿病の最も一般的な形態であって、全糖尿病症例の90〜95%を占める。
【0008】
世界中でII型糖尿病の発生は蔓延しつつある。現在の及び予想される糖尿病の傾向(並びにそれらによる有害な影響)を調べることは、本発明の多大な必要性を理解する上で有用である。
【0009】
1例として、疾病管理センター(「CDC」)は、1990年から2000年のあいだに成人糖尿病と診断された症例が49%増加したことを報告している。更に、CDCは、診断が確定したものと未確定のものを併せておよそ1700万人の米国人(即ち米国人口のおよそ6.2%)が糖尿病に侵されていると概算している。
【0010】
糖尿病は蔓延した疾患であり、国内的及び国際的に増え続ける公衆衛生の懸案事項である。世界保健機関は、およそ1億5000万人が糖尿病に罹患していると概算している;そしてこの数字は悪化する一方であると予想している(2010年までに2億1500万人が、2025年までに3億人が罹患すると概算されている)。世界的に見て糖尿病の死亡率は比較的高い。報道によれば、控えめなランキングかもしれないが、糖尿病は多くの国々において疾患による死因の上位5位に含まれる。それどころか、糖尿病は、死亡診断書についてしばしば報告されるよりもかなり致命的である。
【0011】
本目的のために重要なことは、糖尿病の発症と、皮膚潰瘍並びに非治癒性の創傷及び潰瘍とは直接関係しているということである。したがって、糖尿病症例数の激増は、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍に侵される人数を増加させている。
【0012】
1例として、糖尿病患者の生涯で足部潰瘍を発症する危険性は15%である。足部潰瘍を発症している糖尿病患者のうち、およそ20%は切断が必要であろう(International J of Pharm Compounding 8(4)、2004年7月/8月、269)。こうした切断も驚くべき早さで増加している。1990年から2000年のあいだに、足部潰瘍による切断数は26%増加した。この傾向は持続するだけでなく今後も悪化すると予想される。足部潰瘍は、糖尿病による全下肢切断のおよそ85%を引き起こす(Emergency Medicine 36(8)、2004年8月、14−23)。こうした下肢切断(LEA)数は、現在年間100,000件を越えている!
再発性足部潰瘍とそれにより起こり得る切断は、国内及び全世界的スケールで継続的な問題を提示する。潰瘍がうまく治療される事象では、どちらかといえば潰瘍が再発するであろう。糖尿病性足部潰瘍に関連した再発率及び結果として生ずるLEAは、一般に、3〜5年の期間にわたって50%〜70%もの高率である。
【0013】
創傷治療の分野に熟練した者は、認められたケア基準が簡単に作用しないことを理解している。最近の医薬や治療様式は全て、易感染性患者における創傷及び潰瘍の治癒に一般にほとんど失敗しており、そのため、感染及び壊疽のような合併症の予防に失敗している。
【0014】
総合医療チームが最適管理をすると、全体的にみて、糖尿病性足部潰瘍を有する患者の50〜80%が6ヶ月以内に治癒するであろう(Emergency Medicine 36(8)、2004年8月、14−23)。しかしながら、全ての非常に一般的な合併症は、入院、苦痛を伴う高価な手術、及び長期のリハビリテーション計画(仮にリハビリテーションが可能な場合)を必要とする。1つの潰瘍治癒の後に、70%もの潰瘍再発率で新しい潰瘍がすぐに発生することが多い。
【0015】
糖尿病性潰瘍単独の重大でしばしば克服できない結果を鑑みれば、そして他の易感染性患者集団における非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍に取り組む必要性を更に鑑みれば、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍の改良された治療について大きな必要性が存在するが、それ以上のものがある。
【0016】
非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍に関して先に議論したのと同一の患者集団の多くを悩ます他の付随的な、関連さえする病態は、末梢神経障害の病態である。非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍に寄与するのと同一の病態及び状況が、多くは末梢神経障害にも寄与し、これを引き起こし、又は悪化させる。
【0017】
公知の治療計画は、創傷清拭や洗浄の利用に大きく依拠している(現在のケア基準に明確に含まれている)。実際に、創傷清拭や洗浄は典型的には瘢痕化、創傷の非閉鎖、及び/又は再発を生ずるが、利用可能な唯一慣用の創傷治療計画を用いると、こうした工程は必須である。
【0018】
要約すれば、創傷ケアの現状は悲惨なほど不十分であり、多くの患者に絶え間のない苦痛、四肢の喪失、一般的障害、そして死さえもたらす。
発明の概要
上記を鑑みると、本発明の一般目的は、以下に詳細に記載するが、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍、並びに末梢神経障害を治療するための比類無く効果的な組成物及び関連した方法を提供することであり、この組成物及び方法は、公知の組成物又は治療方法のいずれにも、単独でも組み合わせても、先行されておらず、自明でなく、示唆もされておらず、暗示されてさえいない。
【0019】
したがって、本発明の目的は、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療するための組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、末梢神経障害を治療(又は予防)するための組成物及び方法を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、創傷及び潰瘍の治療における化合物及び関連したその使用方法を提供することであり、この組成物及びその使用は、創傷及び潰瘍の治療における創傷清拭の必要性を除去するものである。
【0021】
本発明の他の目的は、これまでは非治癒性及び治癒遅延性であった創傷及び潰瘍に特に有効な、創傷及び潰瘍の治療方法を提供することである。
本発明の他の目的は、その他の非応答性の患者において、かつてないレベルまで創傷部位における血行の改善とそれに付随する治癒を達成することによって、少なくとも部分的に、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療するための組成物及び関連した方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、有害細菌の高度の根絶をもたらす、創傷清拭又は他の前投薬、創傷若しくは潰瘍の処置又は変性を要することなく非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療するための改良された組成物を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、末梢神経の増殖及び再生を促進させる、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療するための改良された組成物を提供することである。
本発明の更に他の目的は、アルギニン、ニトログリセリン、及びクルクミンの相乗作用をもたらし、これを利用する、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療するための改良された組成物を提供することである。
【0024】
これら及び他の関連する目的を充足させるために、本発明は、非治癒性及び治癒遅延性の創傷及び潰瘍を治療し、循環障害に関連する末梢神経障害を改善又は予防するための組成物及び関連する治療方法を提供する。本発明は、新規組成物及びそれを投与する関連した方法により、他の公知の治療では単純には成し得ない成果をもたらす。
【0025】
本発明の組成物は、主として、互いの吸収や分布を高めるために相乗的に作用してかつてない治療効果をもたらすことを本発明によって見出されたニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンを活性成分として含む。しかしながら、更に他の成分(列挙された亜鉛及びアロエベラ成分など)も創傷及び潰瘍を治療する部位に薬剤を維持する上で役に立ち、最適治療効果が達成される。
【0026】
本発明者らがじかに経験したいくつかの実例は、本発明の特異な恩恵を示すであろう。
患者Bは数年間糖尿病を患っており、この2年間は車イスに拘束されている。ここ1年、患者Bは臀部領域の非治癒性の褥瘡のために入院している。発症した潰瘍は全て途方もない痛みと苦痛を引き起こしている。また、これらの潰瘍は手術と高額医療費を必要としている。これらの潰瘍の合併症は骨盤骨まで広がり、骨の一部除去を必要としている。本発明の組成物を1日1回、3日間創傷に適用した。治療3日目までに、創傷の大きさがおよそ25%減少した。また、創傷が急速に改善し、およそ30%の創傷が新たな白色の粒状組織によって覆われ、潰瘍全体にわたって明らかに治癒した。次の3日間で1日2回組成物を適用した。合計6日間の治療後、元の創傷は新たな組織の増殖によって事実上覆われた。
【0027】
本発明の組成物を適用する前、潰瘍及び血行不良のために患者Fは1本の指先を失っていた。彼女の手は全体に硬直し、むくんでいた。治療前、患者Fの指の何本かは切断の危機にあった。本発明の組成物の適用1週間後、彼女の手は柔らかくなり、動くようになり、血行が良くなり、痛みも軽減し、そして血流不足を特徴とする暗部領域が減少した。1つの病変が骨までむきだしであったが、治療3日後、この病変は、血液や膿が出る状態から完全にふさがった。標準治療プロトコールによれば、患者Fの病変は、更なる排液のために再度開かれるであろう。しかしながら、本発明の治療計画は、そのような必要性を回避する。
【0028】
患者Fは、長さがおよそ2cmの開口頭皮病変を有していた。治療の3日後(このあいだ、出願人の助言に反し、患者は創傷を洗浄し続けた)、病変は70%まで減少した。4日目から6日目までは患者は創傷を洗浄しなかった。4日目の夜までに、病変は完全にふさがった。6日目までに、患者は、痛みが50%軽減し、枕に頭をのせて眠ることができたと報告した。
【0029】
患者Gは、臀部のあいだから病変が展開しており、モニリア性感染であると思われた。出願人は、覆っている酵母感染が本発明の組成物の侵入をブロックすることを恐れた。治療の2日後、病変はおよそ50%改善した。治療の1週間後、病変は完全に治癒し、患者は、痛みと全体的な不快感の驚異的な減少を報告した。
【0030】
好ましい形態では(先に考えられたように、関連する構成物質の変動も本発明の範囲に十分含まれるが)、本発明の組成物は:ニトログリセリン(ニトロビッド)2%軟膏、エモリエントクリーム基剤(PCCAエモリエントクリーム製剤)、ミネラルオイル(ライト 粘度65〜75液)、クルクミン粉末95%(又はクルクミン含有成分、例えば所望量のクルクミンを提供するのに十分量のターメリック、あるいは合成クルクミンでもよい)、アロエベラ(凍結乾燥された200:1粉末)、酸化亜鉛USP、及びアルギニン(L)USP(HCl粉末)を含む。この組成物を粉薬末として形成し、湿潤粉末をミネラルオイルと組み合わせ、次にエモリエントクリームと完全に混合し、所望量にする。
【0031】
本発明の組成物に関連した適用は、一般に局所投与を特徴とする。しかしながら、前記組成物の注射による適用も、ある種の状況下では適切であるかもしれない。注射する場合、典型的には、特定病変の大きさや深さに応じた量の医薬を注射器で送達する。一般に、注射器は1/2cc〜2ccで十分である。
【0032】
治療プロトコールは、本質的に、自然に治癒するように創傷を放置することを包含する。即ち、創傷は干渉されるべきではなく、抗細菌又は抗微生物石けんの使用は回避すべきである。創傷清拭及び創傷の洗浄は回避すべきである(潰瘍の瘢痕化、非閉鎖、及び再発を促進することが見出されている)。組成物の適用後(通常1日2回)、創傷は典型的にはテフラパッド(tefla pad)(又は同等物)及び通気性テープで覆われる。これは、創傷をかなり乾燥したままにさせ(実質的に過度の水分がない)、周囲空気に対して開放する。
【0033】
この治療プロトコールに独特の特徴は、最初は既存の先行技術に対してわずかな差異であるように思われるかもしれないが、ある時点で、これらの差異は、当該技術分野において公知のものとは異なる、予想外の(そして以前は達成できなかった)結果を生ずる治療計画を自己明示的にもたらす。例えば、本発明の方法は、神経への血流を増加させ、神経の成長を増加させる。これは、新たな島細胞の増殖を促進し、皮膚を定着させ、増殖させる。これが、創傷、潰瘍、又は神経障害の病態のための公知の治療計画では見られない改善された結果の主な理由であると考えられる。
【0034】
更に、出願人は、血管機能障害患者の下層の毛細血管床を有効に血管拡張させる化合物を発明した。本発明は、薬剤として作用し、又は実際に有害細菌を根絶させながら創傷清拭の必要性を排除する。
【0035】
3つの主成分の相乗作用は現段階で十分に理解されていないか又は説明されていないようであるが、ニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンの個々の作用、並びにそれらの相補作用のある側面は、本発明者らの研究及び実験を通して少なくとも部分的に解明されている。
【0036】
ニトログリセリン
ニトログリセリンは、1938年以降、血管を拡張させることがFDAによって認可されている硝酸エステルである。狭心症の管理にしばしば用いられている。1846年に最初に合成され、1879年に医師によって心臓病治療に初めて用いられた。
【0037】
ニトログリセリンは一酸化窒素(NO)ドナーである。NOは、創傷治癒に極めて重要な小さなラジカルである。硝酸エステルは、弱った血管を選択的に拡張させる。ニトログリセリンは、一酸化窒素を提供することによって作用し、血管壁、特に、大きな微小血管壁を弛緩させる。
【0038】
特に糖尿病患者及び透析患者における非治癒性創傷は、一酸化窒素、並びに一酸化窒素の局部産生に関与する特定の酵素及びNOを産生するために必要とされる基質(アミノ酸のL−アルギニン)が欠乏していることがよく知られている。
【0039】
創傷部位での治癒促進に何故NOが必要不可欠なのか?
1. NOは血管新生を向上させる(血管新生とは、既存の血管から伸びることによって新規血管を形成するプロセスである);
2. NOは炎症を改善させる(正常な炎症は創傷治癒の一段階であるが、その後抑制される必要がある。NOは炎症を増強させない);
3. NOは細胞増殖を促進させる;
4. NOはマトリックス沈着を高める;
5. NOはリモデリングの迅速化に役立つ;
6. NOは、創傷の閉鎖を高める再上皮化を促進させる(Journal of Investigative Dermatology、1999年12月;113(6):1090−8)。
7. NOは血小板凝集を阻害することによって粘性を低下させる(糖尿病患者及び透析患者、そしてしばしば不健康な高齢者は、血小板が過剰に凝固しており、循環及び治癒が低下している)(Biological Pharmacology Bulletin 2003年8月;26(8):1135−43);そして
8. 硝酸エステルは、赤血球細胞(赤血球)変形能を増加させることによって循環を高める(International Journal of Clinical Pharmacologic Therapeutics、1998年7月;36(7):398−402)。
【0040】
したがって、ニトログリセリンは:
1. NOを提供することによって大きな微小血管における動脈及び静脈の血管拡張/循環を高める;
2. 赤血球変形能を高める(局部循環を高める);
3. 血液の粘性を低下させる(局部循環を改善する);そして
4. 組織酸素圧(tcpO)を改善させる(全ての細胞にとって極めて重要な要素の循環及び分布を改善させる)。
【0041】
過去において、ニトログリセリンの使用に関する問題は、かなりの数の患者に起こる頭痛の問題であった。他の多くの正の特質の中で、本発明の組成物はニトログリセリンを使用するが、頭痛に関する問題は報告されていない。これは、組成物中のクルクミンの存在が何らかの形で関係していると考えられる。
【0042】
ニトログリセリンの他の特徴は、創傷ケアでの使用に関する事前調査を通して明らかにされたように、その生理的反応の速さと最終的な消散に関係する。この特徴は、簡単に言えば顕著に創傷治癒させるほど十分長くは周囲に留まらないため、単独使用された場合、創傷ケアにおけるニトログリセリンの有効性を大きく限定する。更に、ニトログリセリン単独使用や他の組み合わせの事前の試みは、薬物耐性を生ずる何人かの患者の傾向を露呈し、有効な結果が減少した(まず第一に限られた程度までしか達成されない)。
【0043】
L−アルギニン及びクルクミンとニトログリセリンとの組み合わせは、後に詳述するように、より長く作用し、耐性の問題を克服し、頭痛の副作用も排除する治療用化合物を提供する。
【0044】
クルクミン
クルクミン(ジフェルロイルメタン)は天然産物であり、植物のクルクマロンガ(ターメリック)から得られた最も活性な単離基質である。クルクミンは多くのメカニズムによって創傷治癒を促進させる。
【0045】
クルクミンは、免疫組織化学によって実証されたように、TGF−β1及びTGF−β tIIrcの発現を高めるにつれて、正常な治癒創傷でも障害された治癒創傷でも創傷治癒を顕著に加速させる(Biofactors 2002;16(1−2):29−43)。
【0046】
クルクミンは、創傷内のeNos/iNOSを増加させる。上で議論したように、NOは創傷治癒において極めて重要な要素であり、その産生は誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)又は内皮NO(eNOS)とも呼ばれる酵素によって調節されている。正常な非易感染性患者では、皮膚の創傷修復のあいだにiNOSが多量に誘導される。循環の低下、栄養不足、局部酵素の欠乏、細胞内の糖過剰、不十分なアルギニンレベル、これらの全てはiNOSの誘導性を低下させる。機能的に活性なiNOSの存在は、創傷の正常な再上皮化に極めて重大な必要条件である(J Investigative Dermatology、1999年12月;113(6):1090−8)。
【0047】
クルクミンはマクロファージ産生を高める(外来病原菌や細菌を取り込んで殺傷するために機能する白血球細胞)。
クルクミンは血管拡張を増加させる(Biological Pharmaceutical Bulletin、2003年8月;26(8):1135−43)。
【0048】
クルクミンは、炎症性メディエータに対し抗炎症作用を明示する(Phytomedicine、2005年6月;12(6−7):445−52。精製クルクミン(ターメリック中の他のクルクミノイド:デメトキシクルクミン又はビスデメトキシクルクミンより多い)は、in vitro研究において炎症性メディエータを減少させることが発見されている。
【0049】
実験動物では、クルクミンは、抗糖尿病性、抗炎症性、細胞障害性であり、抗酸化特性を有することが知られている(Medical Science Monitor、2005年7月、11(7):BR228−234)。
【0050】
クルクミンは、天然抗生物質として作用し、病原菌を撃退するのに役立つ。
クルクミンは、細菌、ウイルス、及び真菌に有効であることが発見されている。
クルクミンは、淋菌によって誘導されたNF−κBのシグナル伝達に由来する炎症性メディエータを減少させる。クルクミンは、感染において細胞への細菌の接着を無効にし、細胞障害性の副作用のない抗細菌性化合物としてのクルクミンの高い潜在的可能性を際立たせている(Biological Chemistry、2005年5月;386(5):481−90)。
【0051】
クルクミンは抗細菌作用を有する(Journal of Ethnopharmacology、2005年5月、13;99(1):147−51)(Letters of Applied Microbiology、2004年;39(5):401−6)。
【0052】
クルクミンは抗真菌特性を有する−Lemma minorに対して100%植物毒性(Fitoterapia、2005年3月;76(2):254−7)。クルクミンは、抗炎症活性、抗酸化活性、抗発癌活性、抗ウイルス活性、及び抗感染活性を有する(Critical Reviews for Food Science and Nutrition、2004年;44(2):97−111)。
【0053】
クルクミンは、抗細菌活性、抗炎症活性、及び抗新生物活性を示す(J Pharmacologic Pharmacology、2000年5月:55(5):593−601)。研究は、ウィスターラットの経皮吸収によりin vitroでクルクミンを評価した。
【0054】
クルクミンは血管新生を高める(Journal of Physiologic Pharmacology、2005年3月;56 Suppl 1:51−69。血管新生は創傷治癒の必須条件である。クルクミンは、血管新生を高める際のその役割に関して頻繁に研究されている)。
【0055】
クルクミンは、さまざまな線量のγ線に曝露したマウスの全身において切除創傷の修復を加速することが多くの動物実験で示されている(Journal of Surgical Research、2004年7月;120(1):127−38。
【0056】
放射は損傷に対する正常な反応を崩壊させ、正常な創傷治癒を阻害し、治癒期間を長くする。クルクミンで前処理した後に放射されたラットは、創傷縮小を高め、治癒期間を短縮し、コラーゲン、ヘキソサミン、DNA、及びNOの合成を増加させ、線維芽細胞及び血管の密度を改善させた(Surgical Research、2004年7月;120(1):127−38)。
【0057】
局所クルクミンは、ラット及びモルモットにおいて皮膚の創傷治癒を高める。クルクミンは、糖尿病のラット及びマウスにおいて経口投与でも局所投与でも有効であった(Wound Repair Regeneration、1998年3−4月;6(2):167−77。
【0058】
クルクミンで処理した動物の創傷は、より早い再上皮化を示し、新血管形成を向上させ、皮膚筋線維芽細胞、線維芽細胞、及びマクロファージを含めたさまざまな細胞の創傷床への遊走を増加させ、コラーゲン含量がより高く、そしてin situハイブリダイゼーション及びレーザースキャンサイトメトリーで確認したところ形質転換成長因子−β1を増加させた。
【0059】
形質転換成長因子−β1は創傷治癒を高め、クルクミンはこの成長因子のmRNA転写物を増加させる。これは、クルクミンが身体自体によるこの成長因子の産生を自然に高め、それがクルクミンによって高まった創傷治癒の1つのメカニズムであり得ることを実証している(Wound Repair and Regeneration、1998年3−4月;6(2):167−77)。
【0060】
安全性に関してクルクミンは第1相臨床試験に用いられている。8,000mg/日までは処理に関連した毒性はないが、それを越えると、唯一の現実問題は大容量が患者にとって容認できないということであった。クルクミンは経口摂取されていたが、本新規薬物は経皮摂取される。これは、全身曝露を顕著に減少させる(Anticancer Research、2001年7−8月;21(4B):2895−900)。
【0061】
本発明の組成物の有効性に対するアルギニンの寄与については、アミノ酸のL−アルギニンの酸化を介してNOが局部内皮で産生される。これは、酵素eNOS/iNOSの作用によって起こる。
【0062】
NOは血管平滑筋を弛緩させて血管拡張を引き起こす。L−アルギニンは、eNOSの基質であることに加え、2つの同一サブユニットの2量体化を促進し(Diabetes Care.2004年1月;27(1):284−5)、ホモダイマーを形成する。この酵素は2量体型でのみ活性である。適切な条件下で、何分かのうちに2量体化が迅速に起こる。いったん形成されると、2量体は安定である(Journal of Biological Chemistry、2002年、277:310200−31010)。
【0063】
アルギニン
アルギニンはNOを産生するための基質であり、NOは、いずれも創傷治癒が損なわれている糖尿病患者や透析患者のための使用では、1つにはそれらの病態の特徴であるような創傷部位における一酸化窒素の減少のために、格別の恩恵である。アミノ酸のL−アルギニンは一酸化窒素合成の唯一の基質である。
【0064】
糖尿病マウスをL−アルギニン注射で処理することにより、創傷部液の亜硝酸/硝酸エステルレベルが顕著に増加した。データは、糖尿病ラットの損なわれた創傷治癒がL−アルギニンの補給により部分的に是正され得ること、この効果が創傷部の一酸化窒素合成促進に伴って起こることを実証している。Wound Repair Regeneration、2003年5−6月;11(3):198−203)。
【0065】
NOは、一酸化窒素合成酵素の3つの異なるアイソフォームによって、アミノ酸のL−アルギニンから直接形成される小さなラジカルである。誘導性アイソフォーム(iNOS)は、創傷治癒の初期に、炎症性細胞、主にマクロファージによって合成される。クルクミンはこの産生を高める。
【0066】
次の増殖期に、多くの細胞がNO合成に関与する。
iNOSを介して放出されたNOは、コラーゲン形成、細胞増殖(創傷を穴埋めするための細胞の新規増殖)、及び創傷縮小(治癒プロセスにおいて創傷が小さくなり始めること)を調節する。アルギニンをNO及びクルクミンとともに投与することにより、創傷治癒のこのような状況を促進させる。
【0067】
アルギニンは局所的に2量体化を調節し、齧歯類及びヒトにおいて創傷度(wound strength)及びコラーゲン沈着を高める(Wound Repair Regeneration、2003年5−6月;11(3):198−203)。
【0068】
アルギニンとニトログリセリンとの相乗作用
アルギニンは小さな微小血管を拡張させる。1つには、ニトログリセリンは、最適用量のアルギニンよりも比較的大きな血管を急激に拡張させるが、アルギニンは創傷部位(又は投与した他の組織部位)により長く留まる傾向にあるため、L−アルギニンとニトログリセリンは互いに相補的であると考えられる。したがって、ニトログリセリンは、アルギニンが創傷治癒をもたらすことが必要な部位に達する「機会を与える」。その後、ニトログリセリン(及びその効果)が去ってもアルギニンは引き続き創傷治癒をもたらす。
【0069】
好ましい態様の詳細な説明
好ましい態様の本発明の薬剤、及び関連する治療方法が基づく薬剤では、主な活性成分はニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンである。この好ましい態様では、ニトログリセリンは2%軟膏(ニトロビッド)の形態であり;アルギニンはアルギニン(L)USPの形態であり、クルクミンは95%粉末の形態である。
【0070】
ニトログリセリン−アルギニン−クルクミンをベースとした本発明の好ましい組成物は、以下の開示及びプロトコールにしたがい、所望のスケールや産生に適した、医薬品産生の分野に熟練した者には明らかな改変を伴って調製することができる:
A.皮膚の異常を改善するための組成物の好ましい態様の成分
【0071】
【表1】

【0072】
B.本発明の組成物の好ましい態様の一般的混合方法:
1. 粉末をすりつぶしてミネラルオイルで湿らせ、エモリエントクリームと完全に混合する。
2. 所望の容量にする。
【0073】
次に、形成された組成物を、通常1日2回、(創傷清拭も洗浄もすることなく)いかなる創傷又は潰瘍にも局所投与することができる。処置された創傷の大部分を治癒させるには3〜10日の治療期間で十分であると考えられる。現在のところ、極めて特定の用量が重要であるとは考えられず、一般に日焼け止めや他のローションを適用するような創傷部位の「通常の被覆」により、治療効果を生ずるであろう。
【0074】
他の多成分組成物と同様に、本発明の組成物の治療効果に著しく影響することなく、列挙した構成成分の相対量をある程度まで変化させることができる。
例えば、現在の上記0.2%ニトログリセリン処方(薬剤1gあたり2mg)は最適であると考えられるが、0.1mg/g〜50mg/gも依然として安全(非毒性)且つ有効であると考えられ、たとえ最適でなくとも、アルギニン及びクルクミンと組み合わせて用いた場合は依然として本発明の範囲内である。
【0075】
同様に、現在のアルギニンの処方(0.1%又は10%で100mg/g)は、安全性及び有効性を保持しながら1mg/g〜1000mg/gのあいだで変動可能である。クルクミンは現在0.08%強度(strength)(0.8mg/g)で示されているが、0.1mg/g〜50mg/gの範囲の薬剤が有効且つ安全であると考えられる(上記のように他の活性成分とともに効果的に用いた場合は明らかに本発明の範囲内である)。
【0076】
更に、現在得られる証拠で、相対成分の変動が有効性又は安全性を無効にすることを示すものはない。列挙した処方は有効な混合物のおおよその中心点であると思われるが、例えばニトログリセリンとアルギニンとの比が1:2であっても2:1であっても、現在のところ、本発明の組成物の本質的な治療効果を無効にしないと考えられる。
【0077】
したがって、本発明は特定の態様を参照して記載されているが、この記載は、狭義に解釈されるべきことを意味するものではない。開示した態様のさまざまな改変型、及び本発明の代替態様が、本発明の記載を参照することにより、当該技術分野に熟練した者に明らかとなるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲内に含まれるそのような改変型もカバーすることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトログリセリン及びアルギニンを含む、局所用薬剤組成物。
【請求項2】
ニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンを含む、局所用薬剤組成物。
【請求項3】
ニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンを含む、創傷及び潰瘍に局所投与するための局所用粘性薬剤であって、ニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンが粘性担体媒質中に懸濁されている、前記薬剤。
【請求項4】
ニトログリセリン、アルギニン、及びクルクミンが、ニトログリセリンおよそ10部、アルギニンおよそ10部、及びクルクミンおよそ1部で存在する、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
粘性担体媒質がエモリエントクリーム及び亜鉛含有成分を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
粘性担体媒質がエモリエントクリーム及び一定量のミネラルオイルを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
ニトログリセリン(ニトロビッド)2%軟膏;
アルギニン(L)HCl粉末;
エモリエントクリーム基剤;
一定量のオイル;
クルクミン粉末;
一定量のアロエベラ おおよそ量;及び
亜鉛をベースとする化合物、
を含む、創傷及び潰瘍の治療のための局所用薬剤。
【請求項8】
ニトログリセリン(ニトロビッド)2%軟膏 およそ20重量部;
アルギニン(L)HCl粉末 およそ20重量部;
エモリエントクリーム基剤;
一定量のオイル;
クルクミン粉末 およそ2重量部;
一定量のアロエベラ およそ1重量部;及び
亜鉛をベースとする化合物 およそ2重量部、
を含む、創傷及び潰瘍の治療のための局所用薬剤。

【公表番号】特表2008−520694(P2008−520694A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543244(P2007−543244)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/041708
【国際公開番号】WO2006/055726
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507161455)
【出願人】(507161444)
【Fターム(参考)】