説明

非消耗電極アーク溶接装置

【課題】 溶接作業者が手動で行う非消耗電極アーク溶接において、アーク長が常に適正値になるように溶接トーチを維持して溶接を行うためには熟練した技能が必要である。さらに、ワーク形状の制約からアーク長を目視で確認しづらい場合もある。本発明は、アーク長を容易に適正値に維持することができる非消耗電極アーク溶接装置を提供する。
【解決手段】 非消耗電極1と母材2との間にアーク3を発生させるための溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する非消耗電極アーク溶接装置において、前記溶接電圧Vwを検出する電圧検出手段VDと、この溶接電圧検出値Vdを入力として前記溶接電圧値Vwに応じて増加又は減少するサウンドの周波数Frを設定するサウンド周波数設定部FRと、この設定された周波数Frを有するサウンドを鳴らすサウンド出力手段SDと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク長を適正値に維持するための非消耗電極アーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ティグ溶接、プラズマアーク溶接等の非消耗電極アーク溶接では、良好な溶接品質を得るためにはアーク長を適正値に維持しながら溶接を行う必要がある。非消耗電極アーク溶接では、アーク長は非消耗電極(以下、電極という)の先端と母材との距離であるので、ロボット溶接の場合には、教示によって適正なアーク長になるように設定することができる。溶接トーチを上下方向に移動させる機構を有する自動溶接装置の場合にも、この上下移動機構によってアーク長が適正値になるように設定することができる。
【0003】
ロボット溶接等の自動溶接において、ワークの寸法誤差、設置ズレ等によってアーク長が設定された適正値にならない場合が生じる。このような場合には、アーク長を検出してフィードバック制御によって溶接トーチを上下に移動させてアーク長を適正値にいじする方法が慣用されている。このときに、アーク長の検出方法として溶接電圧を使用するのが一般的である。これは、アーク長と溶接電圧とが略比例関係にあるためである。また、これ以外の方法として、フィラワイヤを送給しながら行うティグ溶接において、所定時間にフィラワイヤが溶融池に接触している時間を検出して行う方法も提案されている。これは、アーク長と接触時間との間に略比例関係があるためである。また、アーク長が短くなり過ぎてついには母材に接触したときにアラームを発する方法も提案されている。溶接中に電極と母材との接触回数が多くなると溶接品質が極端に悪くなるために、このような状態が発生したときにアラームを発して接触を解消するように促すものである。上述した従来技術として、特許文献1〜3を参照のこと。
【0004】
【特許文献1】特開平11−309577号公報
【特許文献2】特開2001−259840号公報
【特許文献3】特開2001−300759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非消耗電極アーク溶接方法は、溶接作業者が溶接トーチを手で持って溶接を行うこと(以下、手動溶接という)も多い。この手動溶接では、アーク長を目視によって観察しながら適正値に維持している。これには熟練した技能が必要である。また、ワークの形状によっては目視によるアーク長の観察が困難な場合がある。
【0006】
上記の問題を従来技術によって改善しようとした場合、アーク長を検出してフィードバック制御しようとしても溶接トーチを上下方向に移動させる手段を有していないために適用することができない。
【0007】
そこで、本発明では、手動溶接においてアーク長を容易に適正値に維持することができる非消耗電極アーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、
非消耗電極と母材との間にアークを発生させるための溶接電流及び溶接電圧を出力する非消耗電極アーク溶接装置において、
前記溶接電圧を検出する電圧検出手段と、
この溶接電圧検出値を入力として前記溶接電圧値に応じて増加又は減少するサウンドの周波数を設定するサウンド周波数設定部と、
この設定された周波数を有するサウンドを鳴らすサウンド出力手段と、
を備えたことを特徴とする非消耗電極アーク溶接装置である。
【0009】
第2の発明は、
前記溶接電圧検出値が適正範囲外にあるときはアラーム信号を出力するアラーム判別部を備え、
前記サウンド周波数設定部は、このアラーム信号が入力されるとサウンドの周波数を予め定めたアラーム周波数に設定する、ことを特徴とする第1の発明記載の非消耗電極アーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の発明によれば、手動溶接において、アーク長が変化すると溶接電圧が変化するので、溶接中に出力されているサウンドの周波数が変化する。このために、溶接作業者は溶接中のアーク長の変化をサウンドの音で判別することができ、アーク長を一定に維持することが容易になる。また、ワークに対するアーク長が適正値になったときのサウンドの音をテスト溶接で確認しておけば、実施工時にそのサウンドの音になるように溶接トーチを上下に操作することによってアーク長を適正値に容易に設定することができる。さらに、ワーク形状の制約からアーク長が目視で確認しづらいときにも、サウンドの音を目標としてアーク長を適正値に維持することができる。また、この第1の発明を自動溶接に使用した場合、溶接中のアーク長の変動をサウンドの音で容易に判別することができるので、アーク状態の監視に有効である。
【0011】
さらに、第2の発明によれば、溶接電圧(アーク長)が適正範囲内にあるときは第1の発明と同様の効果を奏し、溶接電圧が適正範囲外のときは予め定めたアラーム周波数でサウンドを鳴らす。このために、溶接電圧が適正範囲外になったことをサウンドの音で溶接作業者が容易に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る非消耗電極アーク溶接装置のブロック図である。同図は非消耗電極アーク溶接装置がティグ溶接装置である場合を例示するが、プラズマアーク溶接装置の場合も同様である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
溶接電源PSは、一般的な定電流特性を有するティグ溶接用の溶接電源であり、設定された溶接電流Iwを出力する。溶接トーチ4の先端に装着されたタングステン等の電極1と母材2との間に溶接電流Iwが通電するアーク3が発生し、溶接電圧Vwが印加する。
【0015】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。ティグ溶接ではアークスタート時に高周波高電圧を電極1・母材2間に印加するので、この電圧検出回路VDには高周波高電圧をバイパスするためのコンデンサが内蔵されている。
【0016】
サウンド周波数設定回路FRは、図2で後述するように、溶接電圧値Vwに応じて増加するサウンドの周波数fの関数f=g(Vw)が予め内蔵されており、上記の電圧検出信号Vdを入力としてこの関数によってサウンド周波数設定信号Frを出力する。図2は、このサウンド周波数fを設定するための関数f=g(Vw)の一例を示す図である。同図の横軸は溶接電圧Vwを示し、縦軸はサウンドの周波数fを示す。同図では、溶接電圧Vwが大きくなると周波数fは次第に増加(高周波化)する。このサウンドを設定する関数は、溶接電圧Vwが大きくなるにつれて周波数fが減少(低周波数化)しても良い。また、直線状に増加又は減少する必要はなく、曲線状又はステップ状であっても良い。但し、溶接電圧Vwはアーク電圧(例えば、10〜40V)の範囲であり、このアーク電圧範囲に対応して周波数fは可聴範囲で変化するように設定する。
【0017】
サウンド出力回路SDは、上記のサウンド周波数設定信号Frによって設定された周波数fを有するサウンドを溶接中常時鳴らす。上記の電圧検出回路VD、サウンド周波数設定回路FR及びサウンド出力回路SDは、溶接電源PSに内蔵しても良いし、外部にサウンド装置として設置しても良い。
【0018】
上述した実施の形態1によれば、手動溶接において、アーク長が変化すると溶接電圧が変化するので、溶接中に出力されているサウンドの周波数が変化する。このために、溶接作業者は溶接中のアーク長の変化をサウンドの音で判別することができ、アーク長を一定に維持することが容易になる。また、ワークに対するアーク長が適正値になったときのサウンドの音をテスト溶接で確認しておけば、実施工時にそのサウンドの音になるように溶接トーチを上下に移動させることによってアーク長を適正値に容易に設定することができる。さらに、ワーク形状の制約からアーク長が目視で確認しづらいときにも、サウンドの音を目標としてアーク長を適正値に維持することができる。また、この実施の形態1を自動溶接に使用した場合、溶接中のアーク長の変動をサウンドの音で容易に判別することができるので、アーク状態の監視に有効である。
【0019】
[実施の形態2]
図3は、本発明の実施の形態2に係る非消耗電極アーク溶接装置のブロック図である。同図において上述した図1と同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図1とは異なる点線で示すブロックについて説明する。
【0020】
電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。アラーム判別回路ARは、この電流検出信号Id及び電圧検出信号Vdを入力として、図4で後述するように、電圧検出信号Vdが適正範囲に外になったことを判別して、アラーム信号Arを出力する。図4は、溶接電圧Vwが適正範囲外になったことを判別する方法を示すアーク特性図である。同図の横軸は溶接電流Iwを示し、縦軸は溶接電圧Vwを示す。特性Luは、アーク長が適正範囲の上限値であるときのアーク特性であり、特性Ldはアーク長が適正範囲の下限値であるときのアーク特性である。したがって、両特性間に挟まれた範囲がアーク長が適正な範囲である。電流検出信号の値がId1であり、電圧検出信号の値がVd1である場合、この交点(動作点)P1が上記の適正範囲内にあればアーク長は適正範囲内となり、電圧検出信号Vd1も適正範囲内となる。他方、動作点P1が上記の適正範囲外にあるときは、アーク長は適正範囲外となり、電圧検出信号Vd1も適正範囲外となる。このようにして、溶接電圧Vwが適正範囲外であることを判別することができる。上記の電流検出信号Idの代わりに溶接電源PS内の溶接電流設定信号を使用しても良い。非消耗電極アーク溶接用の溶接電源PSは定電流特性を有しているので、電流検出信号Idの値と溶接電流設定信号の値とは同一値となる。この場合、電流検出回路IDを追加する必要はなくなる。
【0021】
アラーム周波数設定回路FAは、アラーム時のサウンド周波数であるアラーム周波数設定信号Faを出力する。第2サウンド周波数設定回路FR2は、上記のアラーム信号Arが入力されていないときは上述した図1のときと同様に電圧検出信号Vdに応じて変化するサウンド周波数設定信号Frを出力し、上記のアラーム信号Arが入力されているときは上記のアラーム周波数設定信号Faの値をサウンド周波数設定信号Frとして出力する。
【0022】
図5は、サウンド周波数fを設定する関数を示す図である。同図の横軸は溶接電圧Vwを示し、縦軸はサウンドの周波数fを示す。同図は上述した図2に対応している。関数g(Vw)は、図2と同様に、溶接電圧Vwが大きくなると周波数fも増加する。他方、関数h(Vw)は、溶接電圧Vwの値によらず一定値Faとなる。このFaがアラーム周波数設定信号の値となる。同図において、上記のアラーム信号Arが入力されていないときは関数g(VW)によってサウンド周波数設定信号Frの値が算出され、アラーム信号Arが入力されているときは関数h(Vw)によってサウンド周波数設定信号Frの値が算出される。
【0023】
上記のアラーム周波数Faは、関数gの周波数範囲外に設定することが望ましい。これは、アラーム信号Arが入力されたことが容易に判別することができるからである。また、図4において、溶接電圧Vwが適正範囲の上限値を超えたのか、又は下限値を下回ったのかによってアラーム信号Arの値を異なるようにした場合、アラーム周波数Faの値もこれに対応して2つ設定して区別することができるようにしても良い。
【0024】
上述した実施の形態2によれば、溶接電圧(アーク長)が適正範囲内にあるときは実施の形態1と同様の効果を奏し、溶接電圧が適正範囲外のときは予め定めたアラーム周波数でサウンドを鳴らす。このために、溶接電圧が適正範囲外になったことをサウンドの音で溶接作業者が容易に判別することができる。
【0025】
上述した実施の形態では、ティグ溶接装置について説明したが、プラズマアーク溶接装置についても同様である。上述した実施の形態では、サウンドの周波数を変化させたが、音量、短いサウンドの繰り返し周期、それらの組合せ等を変化させても良い。上記のサウンド出力回路SDは、溶接作業者によく聴こえるように溶接トーチに配置しても良い。また、サウンド出力回路SDに代えてLED等の表示器を使用して、その点滅周期を溶接電圧によって変化させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1に係る非消耗電極アーク溶接装置のブロック図である。
【図2】実施の形態1における溶接電圧Vwに対するサウンドの周波数fの設定関数を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る非消耗電極アーク溶接装置のブロック図である。
【図4】実施の形態2における溶接電圧Vwが適正範囲外になったことを判別する方法を示すアーク特性図である。
【図5】実施の形態2における溶接電圧Vwに対するサウンドの周波数fの設定関数を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 (非消耗)電極
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
AR アラーム判別回路
Ar アラーム信号
f サウンドの周波数
FA アラーム周波数設定回路
Fa アラーム周波数(設定信号)
FR サウンド周波数設定回路
Fr サウンド周波数設定信号
FR2 第2サウンド周波数設定回路
g (サウンド周波数設定)関数
h (サウンド周波数設定)関数
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Iw 溶接電流
Ld アーク特性
Lu アーク特性
P1 動作点
PS 溶接電源
SD サウンド出力回路
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極と母材との間にアークを発生させるための溶接電流及び溶接電圧を出力する非消耗電極アーク溶接装置において、
前記溶接電圧を検出する電圧検出手段と、
この溶接電圧検出値を入力として前記溶接電圧値に応じて増加又は減少するサウンドの周波数を設定するサウンド周波数設定部と、
この設定された周波数を有するサウンドを鳴らすサウンド出力手段と、
を備えたことを特徴とする非消耗電極アーク溶接装置。
【請求項2】
前記溶接電圧検出値が適正範囲外にあるときはアラーム信号を出力するアラーム判別部を備え、
前記サウンド周波数設定部は、このアラーム信号が入力されるとサウンドの周波数を予め定めたアラーム周波数に設定する、ことを特徴とする請求項1記載の非消耗電極アーク溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate