非球面プラスチックレンズの射出成形金型、および非球面プラスチックレンズの製造方法
【課題】本発明は、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供することを課題とする。
【解決手段】非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、光が入射する入射面と、前記光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、前記射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成され、前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたことを特徴とし、前記成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供する。
【解決手段】非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、光が入射する入射面と、前記光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、前記射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成され、前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたことを特徴とし、前記成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置等で使用する非球面プラスチックレンズの射出成形金型等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザープリンタ等の光走査装置等をはじめとする光学・電子分野では、非球面プラスチックレンズが一般に使用されている。
【0003】
この非球面プラスチックレンズ(単に「レンズ」ともいう。)は、熱可塑性プラスチック等の樹脂(ペレット)を材料として使用するため、射出成形により多彩な形状への加工が可能となっている。また、熱可塑性プラスチック等の樹脂を材料に用いた非球面プラスチックレンズは、軽量かつ安価に生産ができるので、量産に適している。このため、近年、機器の軽量小型化にともない利用分野が広がってきている。例えば、光学ピックアップレンズ用対物レンズ、fθレンズ、コリメータレンズ等があげられる。
【0004】
これらの非球面プラスチックレンズを樹脂にて製造するためには、高品質・高精度に成形する必要がある。そこで、非球面プラスチックレンズを成形する方法として、従来より射出成形法が行われてきた。
【0005】
この非球面プラスチックレンズの一般的な製造方法は、まず、射出成形金型を構成する固定側金型と可動側金型とを型締めして、製品と略同形状のキャビティを形成する。ここで、キャビティを形成する可動側金型および/または固定側金型には、入れ子が使われるのが一般的である。そして、このキャビティ内に加熱して溶融させた樹脂を充填した後、可動側金型および固定側金型に形成された流路に冷却水等を流して、可動側金型および固定側金型を冷却し、この溶融樹脂を冷却、固化させて製品(非球面プラスチックレンズ)を成形する(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−148055号公報
【特許文献2】特開昭58−94436号公報
【特許文献3】特開昭58−167133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可動側金型および/または固定側金型におけるキャビティを形成する面に入れ子が使われた場合、キャビティ内部の空気や溶融樹脂から発生したガスは、可動側金型および/または固定側金型と入れ子の隙間や、可動側金型と固定側金型の隙間から射出成形金型の外部に逃げる。
【0008】
ところが、近年の画像形成の高精度化に伴い、画像形成装置で用いられる非球面プラスチックレンズは高精度なものが要求され、非球面プラスチックレンズの射出成形金型も、高精度に設計、製造されるようになった。このため、高精度に設計、製造された射出成形金型には、前記した隙間がほとんど無いので、射出成形金型内のキャビティに溶融樹脂を射出充填した時、射出成形金型のキャビティ内の空気および溶融樹脂から発生したガスの多くは、キャビティ内に残留する。特に形状が複雑な非球面プラスチックレンズは、キャビティの形状が複雑になるので、ガス等が抜け難く、キャビティ内にガス等が残留し易い。
【0009】
そして、キャビティに空気および溶融樹脂のガスが残留した状態で、溶融樹脂が冷却、固化するので、成形された非球面プラスチックレンズの光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ(sink mark)、ウネリといった変形が生じるという問題がある。
【0010】
また、このヒケによる縮みは、安定したものではなく、場所によって変わる等、成形条件の制御が非常に難しいという問題がある。そして、このヒケにより安定した形状が得られない場合には、高精度なレンズ特性が得られないという問題がある。
【0011】
本発明は、前記した問題に鑑みてなされたものであり、非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズの射出成形金型、および非球面プラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明)
本発明は、光が入射する入射面と、前記光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、前記射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成された非球面プラスチックレンズを成形するための射出成形金型に関するものである。
【0013】
そして、前記射出成形金型は、前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたものである。
【0014】
ここで、「ガスベント」とは、射出成形金型の内部のキャビティと射出成形金型の外部とを連通(隔絶された2つの空間を連続状態にする)させ、キャビティ内のガス等を射出成形金型の外部へ放出するための、ガス抜き通路のことである。また、「パーティングライン面から最も離れた部分」とは、第1の金型または第2の金型の型開き方向において、パーティングライン面から最も遠いキャビティの部分をいう。
【0015】
射出成形金型のキャビティを、射出成形金型のランナーからゲートを通ってキャビティに流れ込んだ溶融樹脂で充填した(満たした)とき、前記キャビティ内の空気および溶融樹脂から生じたガスは、第1のキャビティ面におけるパーティングライン面から最も離れた部分、および第2のキャビティ面におけるパーティングライン面から最も離れた部分に残留し易い。しかし、前記した構成により、かかるガス等は、ガスベントより、射出成形金型の外部へ抜けていく。このため、前記キャビティには空気および溶融樹脂から生じたガスが残留しない。
【0016】
したがって、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを成形できる射出成形金型を提供することができる。
【0017】
(第2発明)
また、本発明は、前記第1発明の射出成形金型を準備し、第1の金型と第2の金型のパーティングライン面を合わせて前記射出成形金型を型締めして形成されるキャビティに溶融樹脂を射出し、前記キャビティに前記溶融樹脂を満たした後、前記射出成形金型を冷却することにより、前記溶融樹脂を冷却固化する非球面プラスチックレンズの製造方法を提供するものである。
かかる構成により、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、成形された非球面プラスチックレンズに、気泡、ヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るレンズを成形する為の射出成形金型の概略断面図。(実施例1)
【図2】本発明に係る射出成形金型(固定側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図3】本発明に係る射出成形金型(可動側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図4】図2における固定側金型を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図5】図3における可動側金型を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図6】図4における固定側金型を示したD−D断面図。(実施例1)
【図7】図5における可動側金型を示したE−E断面図。(実施例1)
【図8】非球面プラスチックレンズのヒケの測定を示した図である。(実施例1)
【図9】射出成形金型(固定側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例2)
【図10】射出成形金型(可動側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例2)
【図11】本発明に係る画像形成装置の模式図である。(実施例3)
【図12】本発明に係る光走査装置の模式図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を具体的に説明するための実施例について以下に記載する。なお、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1〜図8に本発明に係る実施例を示す。
図1は、本発明に係る非球面プラスチックレンズを製造するための射出成形金型を上から見た部分断面図である。
【0022】
図2は、図1の点線部Aを拡大しN方向より見た(矢視N)、非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を備えた、第1の金型としての固定側金型の部分拡大図である。別言すると、図2は図1に示した射出成形金型をパーティングライン面14にて分離(分割)し、矢視Nで固定側金型4を見た第1のキャビティ面18近傍の部分拡大図である。
【0023】
図3は、図1の点線部Aを拡大しM方向より見た(矢視M)、非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた、第2の金型としての可動側金型の部分拡大図である。別言すると、図3は図1に示した射出成形金型をパーティングライン面14にて分離し、矢視Mで可動側金型5を見た、第2のキャビティ面19近傍の部分拡大図である。
【0024】
図4は、図2の点線部Bを拡大した第1のキャビティ面(固定側)周辺部分の部分拡大図である。図5は、図3の点線部Cを拡大した第2のキャビティ面(可動側)周辺部分の部分拡大図である。図6は、図4における固定側金型のガスベントの経路を示したD−D断面図である。図7は、図5における可動側金型のガスベントの経路を示したE−E断面図である。図8(a)はヒケが生じた場合と、生じなかった場合のfθレンズの測定結果であり、図8(b)はfθレンズの斜視図である。
【0025】
尚、図1に示した射出成形金型は、非球面プラスチックレンズをワンショットで2個同時成形する2個取りの射出成形金型であるが、同一の構成であるため、紙面左方を省略して図示している。また、説明を容易にするため、図2乃至図5において拡大して図示しているが、ガスベント2の寸法は、T=5μm以上15μm以下、W=3mm以上100mm以下であり、微小なものである。
【0026】
〔非球面プラスチックレンズ〕
本発明が対象とする非球面プラスチックレンズは、例えば、画像形成装置で用いられるfθレンズ1である。fθレンズ1は、図8(b)に示すように、光が入射する入射面30と、この入射面30から入射した光を出射する出射面31を備えている。
【0027】
〔射出成形金型〕
図1〜図5に示すように、本発明に係る非球面プラスチックレンズの射出成形金型3は、非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1の入射面30を成形する第1のキャビティ面18を備えた第1の金型としての固定側金型4と、出射面31を成形する第2のキャビティ面19を備えた第2の金型としての可動側金型5が、パーティングライン面14で分割可能に構成されている。
【0028】
(入れ子)
固定側金型4には入れ子6、可動側金型5には入れ子7がセットされ、当該入れ子6および入れ子7によりfθレンズ1を成形するためのキャビティ13のキャビティ面の一部が形成されている。そして、入れ子6には、fθレンズ1の入射面30を形成するための第1のキャビティ面18が形成され、入れ子7には、fθレンズ1の出射面31を形成するための第2のキャビティ面19が形成されている。別言すると、第1のキャビティ面18はfθレンズ1の光学面である入射面30を成形するための転写面であり、第2のキャビティ面19はFθレンズ1の光学面である出射面31を成形するための転写面である。
【0029】
(ガスベント)
第1のキャビティ面18におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)の周縁部16には、ガスベント21が設けられている。また、第2のキャビティ面19におけるパーティングライン面14から最も離れた部分41(二点鎖線)の周縁部20には、ガスベント22が設けられている。
【0030】
別言すると、可動側金型5の移動方向に、パーティングライン面14から最も遠い固定側金型4のキャビティ部分40(一点鎖線)の周縁部16、および可動側金型のキャビティ部分41(二点鎖線)の周縁部20には、それぞれガスベント21および22が設けられている。パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)および41(二点鎖線)は、可動側金型5の移動方向についてfθレンズ1の肉厚が厚い部分であり、かかる最も離れた部分であるキャビティ部分40および41は溶融樹脂が多いので、ガスが発生し易く、残留し易い。
【0031】
また、パーティングライン面14から最も離れた部分40および41は、キャビティ13内にあった空気が逃げ難い。このため、パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)および41(二点鎖線)の、周縁部16および20にガスベント21および22を設けることにより、ガス等を、射出成形金型3の外部へ効果的に排出させることができる。
【0032】
尚、図6および図7に示すように、パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の、周縁部16および20に設けられたガスベント21および22により、キャビティ13は、射出成形金型3の外部と連通している。尚、図6および図7において図示を省略しているが、図6および図7における紙面左右方向に形成された凹溝17は、そのまま左右方向に真っ直ぐ延びて射出成形金型3の外部に達している。
【0033】
つまり、射出成形金型3のキャビティ13におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の空気およびガスは、固定側金型4と可動側金型5に形成された凹溝17を経路として、射出成形金型3の外部へ排出されるため、これにより、光が透過する光学面(入射面30および出射面31)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを成形できる。
【0034】
なお、図2〜図7に示したように、ガスベントは、第1のキャビティ面18および第2のキャビティ面19の周縁部であれば、複数設けても良い。具体的には、固定側金型4の第1のキャビティ面18、および可動側金型5における第2のキャビティ面19におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の、周縁部16および20に設けたガスベント21および22以外に、複数のガスベント2を複数箇所設けても良い。
【0035】
〔非球面プラスチックレンズの製造方法〕
次に、前記した本発明に係る射出成形金型3を使用し、非球面プラスチックレンズの製造方法を説明する。なお、ここでは、非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1の製造方法を例示する。
【0036】
(成形材料)
fθレンズの成形材料である樹脂(ペレット)は、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)や三井化学株式会社のアペル(登録商標)等の非晶性のポリオレフィン樹脂等を用いることができる。
【0037】
(製造方法)
まず、図1に示したように、射出成形金型3を準備し、射出成形金型3の可動側金型5を固定側金型4へ移動させて型締めする。そして、射出成形装置3の樹脂注入ノズル8から溶融した前記樹脂が射出成形金型3に注入される。射出成形金型3に注入された溶融樹脂は、固定側金型4に設けられたスプルーブッシュ9、スプルー10、ランナー11およびゲート12を介して、射出成形金型3を型締めして形成されるキャビティ13に射出され、充填(満た)される。
【0038】
キャビティ13に溶融した樹脂が注入され満たされると、キャビティ13内の空気および、溶融樹脂から発せられたガスは、凹溝17からなるガスベント2より、射出成形金型3の外部へ抜けていく。このため、キャビティ13内には空気および溶融樹脂が発したガスは残留しない。
【0039】
その後、樹脂を硬化(冷却固化)させることで、キャビティ13の一部が形成されている、fθレンズの入射面30を形成するための第1のキャビティ面18、およびfθレンズの出射面31を形成するための第2のキャビティ面19が樹脂に転写され、可動側金型5を開くことにより、図8(b)に示す高精度なfθレンズ1を成形することができる。
【0040】
(非球面プラスチックレンズ)
次に、本発明の非球面プラスチックレンズの製造方法により製造した非球面プラスチックレンズについて説明する。前記した非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1には、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない。
〔評価〕
次に、図8(b)に示したfθレンズを、本発明の製造方法および従来の製造方法で成形し、本発明の効果を確認する。
(評価機器)
気泡やヒケ、ウネリ等の評価機器は、パナソニック社製3次元測定器Ultra
Accurate 3−D Profilometer(以下、「UA3P」と略す。)を用いた。
【0041】
(評価結果)
評価結果を、図8に示す。図8(a)は、ヒケが生じた場合と、生じなかった場合のfθレンズを成形した後の測定結果(実験例)を示した表である。
【0042】
図8(a)における横軸は、図8(b)に示すようなfθレンズ1の中心O(座標の原点)からX方向55mm〜65mmまでのX軸方向位置(単位mm、ミリメートル)を示している。一方、図8(a)における縦軸は、図8(b)に示すようなレンズ部材のZ方向位置を示しており、縦軸の中心「0.0」は、端部からZ方向に15mmの位置を示している。そして、縦軸の単位はμm(ミクロン)である。
【0043】
図8(a)において、黒丸は本発明に係る製造方法で成形したfθレンズのヒケの測定値であり、実線は従来の製造方法で成形したfθレンズのヒケの測定値である。また、一点鎖線は、レンズの成形条件によりヒケが生じない場合をシミュレーションして得たヒケの理論値(ゼロ)である。
【0044】
図8(a)により、従来の射出成形金型で成形したfθレンズは、ヒケが生じない理論値と比較した場合、X軸方向位置が60mmと61mmとの間にてヒケによる段差が生じている。つまり、原点Oから65mmの位置で約1μmのヒケ(縮み)が生じているのが確認できる。一方、本発明の製造方法にて成形したfθレンズの測定値は、ほぼ理論値と一致していることがわかる。つまり、本発明に係る射出成形金型にて成形したfθレンズの光学面の周辺には、ヒケがないことがわかる。
【0045】
以上により、本発明により成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【実施例2】
【0046】
本発明の他の実施例を、図9〜10を用いて詳細に説明する。
尚、実施例1に係る本発明の成形金型および非球面プラスチックレンズと同様の部分については、同一の符号を付して説明を省略し、実施例1との相違点についてのみ詳細に説明する。
【0047】
図9は、図1の点線部Aを拡大しN方向より見た(矢視N)、非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を備えた、第1の金型としての固定側金型の、第1のキャビティ面18近傍の部分拡大図である。また、図10は、図1の点線部Aを拡大しM方向より見た(矢視M)、非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた、第2の金型としての可動側金型の、第2のキャビティ面19近傍の部分拡大図である。
【0048】
本実施例2の実施例1との主な相違点として、第1および第2のキャビティ面の周縁部に設けるガスベントが、パーティングライン面14から最も遠い固定側金型4のキャビティ部分40(一点鎖線)の周縁部16、および可動側金型のキャビティ部分41(二点鎖線)の周縁部20にのみ設けられている点である。
かかる構成であっても、前記した実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0049】
本発明の他の実施例を、図11〜12を用いて詳細に説明する。
尚、実施例1に係る本発明の成形金型および非球面プラスチックレンズと同様の部分については、同一の符号を付して説明を省略し、実施例1との相違点についてのみ詳細に説明する。
【0050】
〔画像形成装置〕
図11は、本発明に係る画像形成装置501の構成の一例を示した図である。
図11に示した画像形成装置501は、電子写真方式を用いたいわゆるタンデム型のデジタルカラープリンタである。この画像形成装置501は、各色の画像データに対応して画像形成を行う画像形成プロセス部570と、画像形成装置501全体の動作を制御する制御部580と、例えばパーソナルコンピュータ(PC)503やスキャナ等の画像読取装置504等から受信した画像データに所定の画像処理を施す画像処理部581とを備えている。
【0051】
画像形成プロセス部570は、4つの画像形成ユニット510Y、510M、510C、510K(以下、まとめて「画像形成ユニット510」と総称することがある。)が上下方向(略鉛直方向)に一定の間隔で並列配置されている。この画像形成ユニット510は、像保持体としての感光体ドラム511、帯電ロール512、現像器513、ドラムクリーナ514とを備えている。
【0052】
ここで、帯電ロール512は、感光体ドラム511の表面を所定電位で一様に帯電するものである。また、現像器513は、画像形成ユニット10それぞれにおいて、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色トナーと磁性キャリアとからなる二成分現像剤を保持して、感光体ドラム511上に形成された静電潜像を各色トナーで現像するものである。また、ドラムクリーナ514は、例えば板状部材を感光体ドラム11表面に接触させて、感光体ドラム511上に付着したトナーや紙粉等を除去するものである。
【0053】
さらに、画像形成装置501には、画像形成ユニット510それぞれに配設された感光体ドラム511を露光する光走査装置の一例としてのレーザ露光器520が設けられている。レーザ露光器520は、各色毎の画像データを画像処理部581から取得し、取得した画像データに基づいて点灯制御された光ビーム(レーザ光)により、各画像形成ユニット510の感光体ドラム511上をそれぞれ走査露光する。
【0054】
また、各画像形成ユニット510の感光体ドラム511と接触しながら移動するように、用紙590を搬送する用紙搬送ベルト530が配置されている。この用紙搬送ベルト530は、用紙590を静電吸着するフィルム状の無端ベルトであって、駆動ロール532とアイドルロール533とに掛け渡されて循環移動するものである。
【0055】
また、用紙搬送ベルト530の内側であって各感光体ドラム511と対向する位置には、それぞれ転写ロール531が配置され、感光体ドラム511との間に転写電界を形成し、用紙590上に、各画像形成ユニット510で形成された各色トナー像を順次転写する。
【0056】
さらに、各転写ロール531の下流側には、転写後の感光体ドラム511を除電する除電ランプ515が設けられている。また、用紙搬送ベルト530の用紙搬送方向の下流側には、用紙590上の未定着トナー像に対して熱および圧力による定着処理を施す定着器540が設けられている。
【0057】
また、用紙搬送系として、用紙590を収容する用紙収容部550、用紙収容部550に収容された用紙590を所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール551、繰り出された用紙590を搬送する搬送ロール552、画像形成動作に合わせて用紙590を用紙搬送ベルト530に送り出すレジストロール553が設けられている。
【0058】
また、定着器540にて定着処理された用紙590を搬送する排紙ロール554、片面プリントの場合には用紙590を装置本体上部に設けられた排紙積載部591に向けて排出し、両面プリントの場合には排紙積載部591に向けた回転方向から逆方向に反転することで、定着器540にて片面が定着された用紙590を両面搬送路592に向けて送り出す反転ロール555等が配設されている。
【0059】
画像形成装置501において、画像形成プロセス部570は、制御部580による制御の下で画像形成動作を行う。すなわち、パーソナルコンピュータ503や画像読取装置504等から入力された画像データは、画像処理部581によって所定の画像処理が施され、光走査装置としてのレーザ露光器520に供給される。そして、各画像形成ユニット510にて、帯電ロール512により所定電位で一様に帯電された感光体ドラム511の表面が、レーザ露光器520により画像処理部581からの画像データに基づいて点灯制御された光ビーム(レーザ光)で走査露光され、感光体ドラム511上に静電潜像が形成される。
【0060】
形成された静電潜像は現像器513により現像され、感光体ドラム511上に各色のトナー像が形成される。各画像形成ユニット510での各色トナー像の形成が開始されると、用紙収容部550から取り出された用紙590は、用紙搬送ベルト530により搬送され、転写ロール531により形成される転写電界によって各色トナー像が用紙590上に順次転写される。その後、定着器540に搬送され、未定着トナー像が用紙590に定着された後、用紙590は排紙積載部591に積載される。
【0061】
(光走査装置)
次に、本発明に係る光走査装置について説明する。
図12は、光走査装置としてのレーザ露光器520の側断面図である。図11に示したように、レーザ露光器520は、光ビーム(レーザ光)を出射する発光素子としての半導体レーザを4個有する光源521を備えている。そして、この光源521からの各光ビームに対応して設けられた第1の光学素子としての4つのコリメータレンズ522と、シリンダーレンズ(シリンドリカルレンズ)523を備えている。
【0062】
さらに、例えば正六角面体で構成されたポリゴンミラー(回転多面鏡)7を備えた後述する光偏向器63と、第2の光学素子としての各光ビームが共通に通過する共通レンズのfθレンズ525および複数の折り返しミラー526を備えている。そして、これらのレーザ露光器520を構成する各部品は、樹脂製または金属製のハウジング528内に固定されている。ハウジング528は、フタ73により密閉されており、光ビームの外部への漏洩や各光学部材への埃等の付着が防止される。
【0063】
このレーザ露光器520は、光源521から出射された複数の光ビームとしての発散性の4本のレーザ光LK、LC、LM、LYが、各コリメータレンズ522によって平行光に変換(整形)され、副走査方向にのみ屈折力を持つシリンダーレンズ523により、光偏向器63の内部にあるポリゴンミラー7の偏向反射面(鏡面)7a近傍にて主走査方向に長い線像として結像(整形)される。そして、各レーザ光LK、LC、LM、LYは、高速で定速回転するポリゴンミラー7の偏向反射面7aにより反射され、等角速度的に走査される。
【0064】
ポリゴンミラー7への光ビームの入射方式としては、複数の光ビームを主走査方向に角度を持たせて入射させるタンジェンシャル・オフセット入射方式や、複数の光ビームを副走査方向にそれぞれ異なる角度で入射させるサジタル・オフセット入射方式等がある。
【0065】
本実施例2では、ポリゴンミラー7の偏向反射面7aに入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYがそれぞれ副走査方向に角度を持ち、サジタル方向に互いにオフセット入射するサジタル・オフセット入射方式を採用している。そして、ポリゴンミラー7に入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYは、偏向反射面7aにおける反射位置が副走査方向に一致するように設定される。
【0066】
ところで、本実施例2では、各レーザ光が共通に通過する共通レンズとして採用し、本発明の非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ525を採用している。通常の走査光学装置であれば、レーザの光線1つに対して、例えばガラス部材からなる1つのレンズが用いられるが、本実施の形態では、樹脂部材を用いて4本のレーザ光に対して1つのfθレンズ525が採用されている。設計によっては、2本のレーザ光に対して1つずつ、計2つのfθレンズを採用することも可能である。このように、複数のレーザ光をfθレンズ525に入射し、被走査体(感光体ドラム511)に走査露光している。
【0067】
また、本実施例2では、第1の光学素子として、コリメータレンズ522およびシリンダーレンズ523のみを用いたものを示したが、画像形成装置の構成によっては折り返しミラー526が途中に存在していても良い。さらに、本実施例1においては、第2の光学素子として、fθレンズ525および複数の折り返しミラー526を示したが、画像形成装置の構成によってはfθレンズ525のみ用いたものであっても良い。
【0068】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0069】
前記した実施例においては、ガスベントおよび凹溝は、前記射出成形金型内の、固定側金型や可動側金型に設けたものを示したが、固定側金型や可動側金型だけでなく、入れ子に設けても良く、また射出成形金型および入れ子の両方に設けても良い。
【0070】
また、前記した実施例において、前記射出成形金型内に入れ子を設けたものを示したが、入れ子を設けない射出成形金型のものでも良く、限定されるものではないことは言うまでもない。
【0071】
また、前記した実施例において、前記非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を固定側金型に設け、また前記非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を可動側金型に設けたものを示したが、第1のキャビティ面を可動側金型に設け、第2のキャビティ面を固定側金型に設けても良く、限定されるものではないことは言うまでもない。
【0072】
また、前記した実施例において、第1の入れ子と7第の入れ子の周縁部にガスベントを設けたものを示したが、成形するレンズの形状によっては、入れ子のどちらかだけに設けても良い。
【0073】
また、前記した実施例において、ガスベントは、図に示すような角穴を形成したが、形状および大きさ、樹脂の材質や、樹脂を溶融する温度、樹脂をキャビティに射出する速度によるレンズの成形条件によって任意に形状を変更しても良い。例えば、ガスベントの穴形状が大きすぎると、ガスベントに溶融した樹脂が入り込み、ガス等が抜けなくなり、また反対に小さすぎると、キャビティに溶融した樹脂が充填された時、ガス等が完全に抜ける前に、樹脂が冷え固まり、レンズの成形が失敗し、不良品となる。また、ガスベント2を形成する箇所および場所も、製造の条件によって、任意に変更しても良い。
【0074】
また、前記した実施例において、本発明の射出成形金型を用いて、光が入射する方向に肉厚があり、短尺な辺と長尺な辺からなる光学面を有した、非球面プラスチックレンズであって、前記肉厚は、前記光学面の長尺な辺とする長手方向より両端部の肉厚が薄く、中央部周辺の肉厚が厚いことを特徴とする長尺な非球面プラスチックレンズを成形することもできる。例えば、図8(b)に示すfθレンズのようなものである。
【0075】
さらに、本発明の非球面プラスチックレンズは、本発明に搭載する光走査装置および画像形成装置の他にも、その優れた高精度の特徴から、下記の光学機器材料、光部品材料等の用途にも用いることができる。
【0076】
前記光学機器材料としては、例えば、スチールカメラのレンズ用材料、ブルーレイやDVD、CDを読み込むためのデッキに使用されるレンズ、ファインダープリズム、ターゲットプリズム、ファインダーカバー、受光センサー部等;ビデオカメラの撮影レンズ、ファインダー等;プロジェクションテレビの投射レンズ、保護フィルムレンズ、光センシング機器のレンズ用材料等が挙げられる。
【0077】
前記光部品材料としては、例えば、導波路、光コネクタ周辺の光ファイバー材料、フェルール、光受動部品、光回路部品、光電子集積回路(OEIC)周辺の基板材料等が挙げられる。
【0078】
また、本発明は、請求項1に係る発明を第1発明、請求項2に係る発明を第2発明とすると、以下のように把握できる。
【0079】
(第3発明)
第3発明は、前記第2発明の非球面プラスチックレンズの製造方法により成形された非球面プラスチックレンズを提供するものである。
かかる構成により、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【0080】
(第4発明)
第3発明は、光ビームを出射する発光素子と、この発光素子から出射された光ビームを整形する第1の光学素子と、前記第1の光学素子により整形された光ビームを偏向反射するポリゴンミラーを備えた光偏向器と、このポリゴンミラーにより偏向反射された光ビームを再整形する第2の光学素子とを備えた光走査装置において、前記第1の光学素子および第2の光学素子におけるレンズを、前記第3発明の非球面プラスチックレンズとしたものである。
【0081】
かかる構成により、従来よりも高精度な光走査装置を提供することができる。つまり、前記した非球面プラスチックレンズを用いることにより、感光体に高精度な静電潜像を形成できる光走査装置を提供できる。
【0082】
ここで、光学素子とは、少なくともレンズを含んだ光学部品群をいう。つまり、レンズのみならず、ミラーを含んでいても良い。レンズとしては、シリンダーレンズ(シリンドリカルレンズ)、コリメータレンズ、fθレンズ等が例示される。また、ミラーとしては、反射ミラー(折り返しミラー)等が例示される。
また、光ビーム(レーザー、レーザー光線)を整形するとは、ミラー等により光ビームの進む向きを所望の向きに変えたり、レンズ等により光ビームの形を所望の形に変えたりすることをいう。
【0083】
また、静電潜像とは、帯電により感光体の表面(感光層)に形成される像であり、感光層において、レーザー光線が照射された部分の比抵抗が低下し、感光体の表面に帯電した電荷が流れる一方、レーザー光線が照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成されるいわゆるネガ潜像をいう。
【0084】
また、光学面とするレンズ面(入射面及び出射面)を通過(透過)する光線の有効範囲は、レンズが作り出す像に寄与する光線の範囲をいう。さらに別言すれば、仕様通りのレンズ性能を出すことができるレンズ面の範囲をいう。
【0085】
(第5発明)
第5発明は、感光体と、この感光体に静電潜像を形成する第4発明の光走査装置とを有した画像形成装置に関する。
かかる構成により、従来よりも高精度に画像を形成できる画像形成装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る非球面プラスチックレンズの射出成形金型、および非球面プラスチックレンズの製造方法は、前記成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供できる。
【符号の説明】
【0087】
1、525…非球面プラスチックレンズ(fθレンズ)、2…ガスベント、
3…射出成形金型、4…固定側金型、5…可動側金型、
6…第1の入れ子(固定側)、7…第2の入れ子(可動側)、
8…樹脂注入ノズル、9…スプル−ブッシュ、10…スプルー、11…ランナー、
12…ゲート、13…キャビティ、14…パーティングライン面、
15…周縁部、17…凹溝、
18…第1のキャビティ面、19…第2のキャビティ面、
40、41…最も離れた部分、
16、20…最も離れた部分の周縁部、
21、22…最も離れた部分のガスベント、
30…入射面、31…出射面、
501…画像形成装置、520…光走査装置(レーザ露光器)
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置等で使用する非球面プラスチックレンズの射出成形金型等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザープリンタ等の光走査装置等をはじめとする光学・電子分野では、非球面プラスチックレンズが一般に使用されている。
【0003】
この非球面プラスチックレンズ(単に「レンズ」ともいう。)は、熱可塑性プラスチック等の樹脂(ペレット)を材料として使用するため、射出成形により多彩な形状への加工が可能となっている。また、熱可塑性プラスチック等の樹脂を材料に用いた非球面プラスチックレンズは、軽量かつ安価に生産ができるので、量産に適している。このため、近年、機器の軽量小型化にともない利用分野が広がってきている。例えば、光学ピックアップレンズ用対物レンズ、fθレンズ、コリメータレンズ等があげられる。
【0004】
これらの非球面プラスチックレンズを樹脂にて製造するためには、高品質・高精度に成形する必要がある。そこで、非球面プラスチックレンズを成形する方法として、従来より射出成形法が行われてきた。
【0005】
この非球面プラスチックレンズの一般的な製造方法は、まず、射出成形金型を構成する固定側金型と可動側金型とを型締めして、製品と略同形状のキャビティを形成する。ここで、キャビティを形成する可動側金型および/または固定側金型には、入れ子が使われるのが一般的である。そして、このキャビティ内に加熱して溶融させた樹脂を充填した後、可動側金型および固定側金型に形成された流路に冷却水等を流して、可動側金型および固定側金型を冷却し、この溶融樹脂を冷却、固化させて製品(非球面プラスチックレンズ)を成形する(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−148055号公報
【特許文献2】特開昭58−94436号公報
【特許文献3】特開昭58−167133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可動側金型および/または固定側金型におけるキャビティを形成する面に入れ子が使われた場合、キャビティ内部の空気や溶融樹脂から発生したガスは、可動側金型および/または固定側金型と入れ子の隙間や、可動側金型と固定側金型の隙間から射出成形金型の外部に逃げる。
【0008】
ところが、近年の画像形成の高精度化に伴い、画像形成装置で用いられる非球面プラスチックレンズは高精度なものが要求され、非球面プラスチックレンズの射出成形金型も、高精度に設計、製造されるようになった。このため、高精度に設計、製造された射出成形金型には、前記した隙間がほとんど無いので、射出成形金型内のキャビティに溶融樹脂を射出充填した時、射出成形金型のキャビティ内の空気および溶融樹脂から発生したガスの多くは、キャビティ内に残留する。特に形状が複雑な非球面プラスチックレンズは、キャビティの形状が複雑になるので、ガス等が抜け難く、キャビティ内にガス等が残留し易い。
【0009】
そして、キャビティに空気および溶融樹脂のガスが残留した状態で、溶融樹脂が冷却、固化するので、成形された非球面プラスチックレンズの光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ(sink mark)、ウネリといった変形が生じるという問題がある。
【0010】
また、このヒケによる縮みは、安定したものではなく、場所によって変わる等、成形条件の制御が非常に難しいという問題がある。そして、このヒケにより安定した形状が得られない場合には、高精度なレンズ特性が得られないという問題がある。
【0011】
本発明は、前記した問題に鑑みてなされたものであり、非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズの射出成形金型、および非球面プラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明)
本発明は、光が入射する入射面と、前記光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、前記射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成された非球面プラスチックレンズを成形するための射出成形金型に関するものである。
【0013】
そして、前記射出成形金型は、前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたものである。
【0014】
ここで、「ガスベント」とは、射出成形金型の内部のキャビティと射出成形金型の外部とを連通(隔絶された2つの空間を連続状態にする)させ、キャビティ内のガス等を射出成形金型の外部へ放出するための、ガス抜き通路のことである。また、「パーティングライン面から最も離れた部分」とは、第1の金型または第2の金型の型開き方向において、パーティングライン面から最も遠いキャビティの部分をいう。
【0015】
射出成形金型のキャビティを、射出成形金型のランナーからゲートを通ってキャビティに流れ込んだ溶融樹脂で充填した(満たした)とき、前記キャビティ内の空気および溶融樹脂から生じたガスは、第1のキャビティ面におけるパーティングライン面から最も離れた部分、および第2のキャビティ面におけるパーティングライン面から最も離れた部分に残留し易い。しかし、前記した構成により、かかるガス等は、ガスベントより、射出成形金型の外部へ抜けていく。このため、前記キャビティには空気および溶融樹脂から生じたガスが残留しない。
【0016】
したがって、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを成形できる射出成形金型を提供することができる。
【0017】
(第2発明)
また、本発明は、前記第1発明の射出成形金型を準備し、第1の金型と第2の金型のパーティングライン面を合わせて前記射出成形金型を型締めして形成されるキャビティに溶融樹脂を射出し、前記キャビティに前記溶融樹脂を満たした後、前記射出成形金型を冷却することにより、前記溶融樹脂を冷却固化する非球面プラスチックレンズの製造方法を提供するものである。
かかる構成により、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、成形された非球面プラスチックレンズに、気泡、ヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るレンズを成形する為の射出成形金型の概略断面図。(実施例1)
【図2】本発明に係る射出成形金型(固定側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図3】本発明に係る射出成形金型(可動側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図4】図2における固定側金型を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図5】図3における可動側金型を示した正面図(部分拡大図)。(実施例1)
【図6】図4における固定側金型を示したD−D断面図。(実施例1)
【図7】図5における可動側金型を示したE−E断面図。(実施例1)
【図8】非球面プラスチックレンズのヒケの測定を示した図である。(実施例1)
【図9】射出成形金型(固定側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例2)
【図10】射出成形金型(可動側金型)を示した正面図(部分拡大図)。(実施例2)
【図11】本発明に係る画像形成装置の模式図である。(実施例3)
【図12】本発明に係る光走査装置の模式図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を具体的に説明するための実施例について以下に記載する。なお、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1〜図8に本発明に係る実施例を示す。
図1は、本発明に係る非球面プラスチックレンズを製造するための射出成形金型を上から見た部分断面図である。
【0022】
図2は、図1の点線部Aを拡大しN方向より見た(矢視N)、非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を備えた、第1の金型としての固定側金型の部分拡大図である。別言すると、図2は図1に示した射出成形金型をパーティングライン面14にて分離(分割)し、矢視Nで固定側金型4を見た第1のキャビティ面18近傍の部分拡大図である。
【0023】
図3は、図1の点線部Aを拡大しM方向より見た(矢視M)、非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた、第2の金型としての可動側金型の部分拡大図である。別言すると、図3は図1に示した射出成形金型をパーティングライン面14にて分離し、矢視Mで可動側金型5を見た、第2のキャビティ面19近傍の部分拡大図である。
【0024】
図4は、図2の点線部Bを拡大した第1のキャビティ面(固定側)周辺部分の部分拡大図である。図5は、図3の点線部Cを拡大した第2のキャビティ面(可動側)周辺部分の部分拡大図である。図6は、図4における固定側金型のガスベントの経路を示したD−D断面図である。図7は、図5における可動側金型のガスベントの経路を示したE−E断面図である。図8(a)はヒケが生じた場合と、生じなかった場合のfθレンズの測定結果であり、図8(b)はfθレンズの斜視図である。
【0025】
尚、図1に示した射出成形金型は、非球面プラスチックレンズをワンショットで2個同時成形する2個取りの射出成形金型であるが、同一の構成であるため、紙面左方を省略して図示している。また、説明を容易にするため、図2乃至図5において拡大して図示しているが、ガスベント2の寸法は、T=5μm以上15μm以下、W=3mm以上100mm以下であり、微小なものである。
【0026】
〔非球面プラスチックレンズ〕
本発明が対象とする非球面プラスチックレンズは、例えば、画像形成装置で用いられるfθレンズ1である。fθレンズ1は、図8(b)に示すように、光が入射する入射面30と、この入射面30から入射した光を出射する出射面31を備えている。
【0027】
〔射出成形金型〕
図1〜図5に示すように、本発明に係る非球面プラスチックレンズの射出成形金型3は、非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1の入射面30を成形する第1のキャビティ面18を備えた第1の金型としての固定側金型4と、出射面31を成形する第2のキャビティ面19を備えた第2の金型としての可動側金型5が、パーティングライン面14で分割可能に構成されている。
【0028】
(入れ子)
固定側金型4には入れ子6、可動側金型5には入れ子7がセットされ、当該入れ子6および入れ子7によりfθレンズ1を成形するためのキャビティ13のキャビティ面の一部が形成されている。そして、入れ子6には、fθレンズ1の入射面30を形成するための第1のキャビティ面18が形成され、入れ子7には、fθレンズ1の出射面31を形成するための第2のキャビティ面19が形成されている。別言すると、第1のキャビティ面18はfθレンズ1の光学面である入射面30を成形するための転写面であり、第2のキャビティ面19はFθレンズ1の光学面である出射面31を成形するための転写面である。
【0029】
(ガスベント)
第1のキャビティ面18におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)の周縁部16には、ガスベント21が設けられている。また、第2のキャビティ面19におけるパーティングライン面14から最も離れた部分41(二点鎖線)の周縁部20には、ガスベント22が設けられている。
【0030】
別言すると、可動側金型5の移動方向に、パーティングライン面14から最も遠い固定側金型4のキャビティ部分40(一点鎖線)の周縁部16、および可動側金型のキャビティ部分41(二点鎖線)の周縁部20には、それぞれガスベント21および22が設けられている。パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)および41(二点鎖線)は、可動側金型5の移動方向についてfθレンズ1の肉厚が厚い部分であり、かかる最も離れた部分であるキャビティ部分40および41は溶融樹脂が多いので、ガスが発生し易く、残留し易い。
【0031】
また、パーティングライン面14から最も離れた部分40および41は、キャビティ13内にあった空気が逃げ難い。このため、パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)および41(二点鎖線)の、周縁部16および20にガスベント21および22を設けることにより、ガス等を、射出成形金型3の外部へ効果的に排出させることができる。
【0032】
尚、図6および図7に示すように、パーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の、周縁部16および20に設けられたガスベント21および22により、キャビティ13は、射出成形金型3の外部と連通している。尚、図6および図7において図示を省略しているが、図6および図7における紙面左右方向に形成された凹溝17は、そのまま左右方向に真っ直ぐ延びて射出成形金型3の外部に達している。
【0033】
つまり、射出成形金型3のキャビティ13におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の空気およびガスは、固定側金型4と可動側金型5に形成された凹溝17を経路として、射出成形金型3の外部へ排出されるため、これにより、光が透過する光学面(入射面30および出射面31)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを成形できる。
【0034】
なお、図2〜図7に示したように、ガスベントは、第1のキャビティ面18および第2のキャビティ面19の周縁部であれば、複数設けても良い。具体的には、固定側金型4の第1のキャビティ面18、および可動側金型5における第2のキャビティ面19におけるパーティングライン面14から最も離れた部分40(一点鎖線)、および41(二点鎖線)の、周縁部16および20に設けたガスベント21および22以外に、複数のガスベント2を複数箇所設けても良い。
【0035】
〔非球面プラスチックレンズの製造方法〕
次に、前記した本発明に係る射出成形金型3を使用し、非球面プラスチックレンズの製造方法を説明する。なお、ここでは、非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1の製造方法を例示する。
【0036】
(成形材料)
fθレンズの成形材料である樹脂(ペレット)は、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)や三井化学株式会社のアペル(登録商標)等の非晶性のポリオレフィン樹脂等を用いることができる。
【0037】
(製造方法)
まず、図1に示したように、射出成形金型3を準備し、射出成形金型3の可動側金型5を固定側金型4へ移動させて型締めする。そして、射出成形装置3の樹脂注入ノズル8から溶融した前記樹脂が射出成形金型3に注入される。射出成形金型3に注入された溶融樹脂は、固定側金型4に設けられたスプルーブッシュ9、スプルー10、ランナー11およびゲート12を介して、射出成形金型3を型締めして形成されるキャビティ13に射出され、充填(満た)される。
【0038】
キャビティ13に溶融した樹脂が注入され満たされると、キャビティ13内の空気および、溶融樹脂から発せられたガスは、凹溝17からなるガスベント2より、射出成形金型3の外部へ抜けていく。このため、キャビティ13内には空気および溶融樹脂が発したガスは残留しない。
【0039】
その後、樹脂を硬化(冷却固化)させることで、キャビティ13の一部が形成されている、fθレンズの入射面30を形成するための第1のキャビティ面18、およびfθレンズの出射面31を形成するための第2のキャビティ面19が樹脂に転写され、可動側金型5を開くことにより、図8(b)に示す高精度なfθレンズ1を成形することができる。
【0040】
(非球面プラスチックレンズ)
次に、本発明の非球面プラスチックレンズの製造方法により製造した非球面プラスチックレンズについて説明する。前記した非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ1には、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない。
〔評価〕
次に、図8(b)に示したfθレンズを、本発明の製造方法および従来の製造方法で成形し、本発明の効果を確認する。
(評価機器)
気泡やヒケ、ウネリ等の評価機器は、パナソニック社製3次元測定器Ultra
Accurate 3−D Profilometer(以下、「UA3P」と略す。)を用いた。
【0041】
(評価結果)
評価結果を、図8に示す。図8(a)は、ヒケが生じた場合と、生じなかった場合のfθレンズを成形した後の測定結果(実験例)を示した表である。
【0042】
図8(a)における横軸は、図8(b)に示すようなfθレンズ1の中心O(座標の原点)からX方向55mm〜65mmまでのX軸方向位置(単位mm、ミリメートル)を示している。一方、図8(a)における縦軸は、図8(b)に示すようなレンズ部材のZ方向位置を示しており、縦軸の中心「0.0」は、端部からZ方向に15mmの位置を示している。そして、縦軸の単位はμm(ミクロン)である。
【0043】
図8(a)において、黒丸は本発明に係る製造方法で成形したfθレンズのヒケの測定値であり、実線は従来の製造方法で成形したfθレンズのヒケの測定値である。また、一点鎖線は、レンズの成形条件によりヒケが生じない場合をシミュレーションして得たヒケの理論値(ゼロ)である。
【0044】
図8(a)により、従来の射出成形金型で成形したfθレンズは、ヒケが生じない理論値と比較した場合、X軸方向位置が60mmと61mmとの間にてヒケによる段差が生じている。つまり、原点Oから65mmの位置で約1μmのヒケ(縮み)が生じているのが確認できる。一方、本発明の製造方法にて成形したfθレンズの測定値は、ほぼ理論値と一致していることがわかる。つまり、本発明に係る射出成形金型にて成形したfθレンズの光学面の周辺には、ヒケがないことがわかる。
【0045】
以上により、本発明により成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【実施例2】
【0046】
本発明の他の実施例を、図9〜10を用いて詳細に説明する。
尚、実施例1に係る本発明の成形金型および非球面プラスチックレンズと同様の部分については、同一の符号を付して説明を省略し、実施例1との相違点についてのみ詳細に説明する。
【0047】
図9は、図1の点線部Aを拡大しN方向より見た(矢視N)、非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を備えた、第1の金型としての固定側金型の、第1のキャビティ面18近傍の部分拡大図である。また、図10は、図1の点線部Aを拡大しM方向より見た(矢視M)、非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた、第2の金型としての可動側金型の、第2のキャビティ面19近傍の部分拡大図である。
【0048】
本実施例2の実施例1との主な相違点として、第1および第2のキャビティ面の周縁部に設けるガスベントが、パーティングライン面14から最も遠い固定側金型4のキャビティ部分40(一点鎖線)の周縁部16、および可動側金型のキャビティ部分41(二点鎖線)の周縁部20にのみ設けられている点である。
かかる構成であっても、前記した実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0049】
本発明の他の実施例を、図11〜12を用いて詳細に説明する。
尚、実施例1に係る本発明の成形金型および非球面プラスチックレンズと同様の部分については、同一の符号を付して説明を省略し、実施例1との相違点についてのみ詳細に説明する。
【0050】
〔画像形成装置〕
図11は、本発明に係る画像形成装置501の構成の一例を示した図である。
図11に示した画像形成装置501は、電子写真方式を用いたいわゆるタンデム型のデジタルカラープリンタである。この画像形成装置501は、各色の画像データに対応して画像形成を行う画像形成プロセス部570と、画像形成装置501全体の動作を制御する制御部580と、例えばパーソナルコンピュータ(PC)503やスキャナ等の画像読取装置504等から受信した画像データに所定の画像処理を施す画像処理部581とを備えている。
【0051】
画像形成プロセス部570は、4つの画像形成ユニット510Y、510M、510C、510K(以下、まとめて「画像形成ユニット510」と総称することがある。)が上下方向(略鉛直方向)に一定の間隔で並列配置されている。この画像形成ユニット510は、像保持体としての感光体ドラム511、帯電ロール512、現像器513、ドラムクリーナ514とを備えている。
【0052】
ここで、帯電ロール512は、感光体ドラム511の表面を所定電位で一様に帯電するものである。また、現像器513は、画像形成ユニット10それぞれにおいて、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色トナーと磁性キャリアとからなる二成分現像剤を保持して、感光体ドラム511上に形成された静電潜像を各色トナーで現像するものである。また、ドラムクリーナ514は、例えば板状部材を感光体ドラム11表面に接触させて、感光体ドラム511上に付着したトナーや紙粉等を除去するものである。
【0053】
さらに、画像形成装置501には、画像形成ユニット510それぞれに配設された感光体ドラム511を露光する光走査装置の一例としてのレーザ露光器520が設けられている。レーザ露光器520は、各色毎の画像データを画像処理部581から取得し、取得した画像データに基づいて点灯制御された光ビーム(レーザ光)により、各画像形成ユニット510の感光体ドラム511上をそれぞれ走査露光する。
【0054】
また、各画像形成ユニット510の感光体ドラム511と接触しながら移動するように、用紙590を搬送する用紙搬送ベルト530が配置されている。この用紙搬送ベルト530は、用紙590を静電吸着するフィルム状の無端ベルトであって、駆動ロール532とアイドルロール533とに掛け渡されて循環移動するものである。
【0055】
また、用紙搬送ベルト530の内側であって各感光体ドラム511と対向する位置には、それぞれ転写ロール531が配置され、感光体ドラム511との間に転写電界を形成し、用紙590上に、各画像形成ユニット510で形成された各色トナー像を順次転写する。
【0056】
さらに、各転写ロール531の下流側には、転写後の感光体ドラム511を除電する除電ランプ515が設けられている。また、用紙搬送ベルト530の用紙搬送方向の下流側には、用紙590上の未定着トナー像に対して熱および圧力による定着処理を施す定着器540が設けられている。
【0057】
また、用紙搬送系として、用紙590を収容する用紙収容部550、用紙収容部550に収容された用紙590を所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール551、繰り出された用紙590を搬送する搬送ロール552、画像形成動作に合わせて用紙590を用紙搬送ベルト530に送り出すレジストロール553が設けられている。
【0058】
また、定着器540にて定着処理された用紙590を搬送する排紙ロール554、片面プリントの場合には用紙590を装置本体上部に設けられた排紙積載部591に向けて排出し、両面プリントの場合には排紙積載部591に向けた回転方向から逆方向に反転することで、定着器540にて片面が定着された用紙590を両面搬送路592に向けて送り出す反転ロール555等が配設されている。
【0059】
画像形成装置501において、画像形成プロセス部570は、制御部580による制御の下で画像形成動作を行う。すなわち、パーソナルコンピュータ503や画像読取装置504等から入力された画像データは、画像処理部581によって所定の画像処理が施され、光走査装置としてのレーザ露光器520に供給される。そして、各画像形成ユニット510にて、帯電ロール512により所定電位で一様に帯電された感光体ドラム511の表面が、レーザ露光器520により画像処理部581からの画像データに基づいて点灯制御された光ビーム(レーザ光)で走査露光され、感光体ドラム511上に静電潜像が形成される。
【0060】
形成された静電潜像は現像器513により現像され、感光体ドラム511上に各色のトナー像が形成される。各画像形成ユニット510での各色トナー像の形成が開始されると、用紙収容部550から取り出された用紙590は、用紙搬送ベルト530により搬送され、転写ロール531により形成される転写電界によって各色トナー像が用紙590上に順次転写される。その後、定着器540に搬送され、未定着トナー像が用紙590に定着された後、用紙590は排紙積載部591に積載される。
【0061】
(光走査装置)
次に、本発明に係る光走査装置について説明する。
図12は、光走査装置としてのレーザ露光器520の側断面図である。図11に示したように、レーザ露光器520は、光ビーム(レーザ光)を出射する発光素子としての半導体レーザを4個有する光源521を備えている。そして、この光源521からの各光ビームに対応して設けられた第1の光学素子としての4つのコリメータレンズ522と、シリンダーレンズ(シリンドリカルレンズ)523を備えている。
【0062】
さらに、例えば正六角面体で構成されたポリゴンミラー(回転多面鏡)7を備えた後述する光偏向器63と、第2の光学素子としての各光ビームが共通に通過する共通レンズのfθレンズ525および複数の折り返しミラー526を備えている。そして、これらのレーザ露光器520を構成する各部品は、樹脂製または金属製のハウジング528内に固定されている。ハウジング528は、フタ73により密閉されており、光ビームの外部への漏洩や各光学部材への埃等の付着が防止される。
【0063】
このレーザ露光器520は、光源521から出射された複数の光ビームとしての発散性の4本のレーザ光LK、LC、LM、LYが、各コリメータレンズ522によって平行光に変換(整形)され、副走査方向にのみ屈折力を持つシリンダーレンズ523により、光偏向器63の内部にあるポリゴンミラー7の偏向反射面(鏡面)7a近傍にて主走査方向に長い線像として結像(整形)される。そして、各レーザ光LK、LC、LM、LYは、高速で定速回転するポリゴンミラー7の偏向反射面7aにより反射され、等角速度的に走査される。
【0064】
ポリゴンミラー7への光ビームの入射方式としては、複数の光ビームを主走査方向に角度を持たせて入射させるタンジェンシャル・オフセット入射方式や、複数の光ビームを副走査方向にそれぞれ異なる角度で入射させるサジタル・オフセット入射方式等がある。
【0065】
本実施例2では、ポリゴンミラー7の偏向反射面7aに入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYがそれぞれ副走査方向に角度を持ち、サジタル方向に互いにオフセット入射するサジタル・オフセット入射方式を採用している。そして、ポリゴンミラー7に入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYは、偏向反射面7aにおける反射位置が副走査方向に一致するように設定される。
【0066】
ところで、本実施例2では、各レーザ光が共通に通過する共通レンズとして採用し、本発明の非球面プラスチックレンズとしてのfθレンズ525を採用している。通常の走査光学装置であれば、レーザの光線1つに対して、例えばガラス部材からなる1つのレンズが用いられるが、本実施の形態では、樹脂部材を用いて4本のレーザ光に対して1つのfθレンズ525が採用されている。設計によっては、2本のレーザ光に対して1つずつ、計2つのfθレンズを採用することも可能である。このように、複数のレーザ光をfθレンズ525に入射し、被走査体(感光体ドラム511)に走査露光している。
【0067】
また、本実施例2では、第1の光学素子として、コリメータレンズ522およびシリンダーレンズ523のみを用いたものを示したが、画像形成装置の構成によっては折り返しミラー526が途中に存在していても良い。さらに、本実施例1においては、第2の光学素子として、fθレンズ525および複数の折り返しミラー526を示したが、画像形成装置の構成によってはfθレンズ525のみ用いたものであっても良い。
【0068】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0069】
前記した実施例においては、ガスベントおよび凹溝は、前記射出成形金型内の、固定側金型や可動側金型に設けたものを示したが、固定側金型や可動側金型だけでなく、入れ子に設けても良く、また射出成形金型および入れ子の両方に設けても良い。
【0070】
また、前記した実施例において、前記射出成形金型内に入れ子を設けたものを示したが、入れ子を設けない射出成形金型のものでも良く、限定されるものではないことは言うまでもない。
【0071】
また、前記した実施例において、前記非球面プラスチックレンズの入射面を成形するための第1のキャビティ面を固定側金型に設け、また前記非球面プラスチックレンズの出射面を成形する第2のキャビティ面を可動側金型に設けたものを示したが、第1のキャビティ面を可動側金型に設け、第2のキャビティ面を固定側金型に設けても良く、限定されるものではないことは言うまでもない。
【0072】
また、前記した実施例において、第1の入れ子と7第の入れ子の周縁部にガスベントを設けたものを示したが、成形するレンズの形状によっては、入れ子のどちらかだけに設けても良い。
【0073】
また、前記した実施例において、ガスベントは、図に示すような角穴を形成したが、形状および大きさ、樹脂の材質や、樹脂を溶融する温度、樹脂をキャビティに射出する速度によるレンズの成形条件によって任意に形状を変更しても良い。例えば、ガスベントの穴形状が大きすぎると、ガスベントに溶融した樹脂が入り込み、ガス等が抜けなくなり、また反対に小さすぎると、キャビティに溶融した樹脂が充填された時、ガス等が完全に抜ける前に、樹脂が冷え固まり、レンズの成形が失敗し、不良品となる。また、ガスベント2を形成する箇所および場所も、製造の条件によって、任意に変更しても良い。
【0074】
また、前記した実施例において、本発明の射出成形金型を用いて、光が入射する方向に肉厚があり、短尺な辺と長尺な辺からなる光学面を有した、非球面プラスチックレンズであって、前記肉厚は、前記光学面の長尺な辺とする長手方向より両端部の肉厚が薄く、中央部周辺の肉厚が厚いことを特徴とする長尺な非球面プラスチックレンズを成形することもできる。例えば、図8(b)に示すfθレンズのようなものである。
【0075】
さらに、本発明の非球面プラスチックレンズは、本発明に搭載する光走査装置および画像形成装置の他にも、その優れた高精度の特徴から、下記の光学機器材料、光部品材料等の用途にも用いることができる。
【0076】
前記光学機器材料としては、例えば、スチールカメラのレンズ用材料、ブルーレイやDVD、CDを読み込むためのデッキに使用されるレンズ、ファインダープリズム、ターゲットプリズム、ファインダーカバー、受光センサー部等;ビデオカメラの撮影レンズ、ファインダー等;プロジェクションテレビの投射レンズ、保護フィルムレンズ、光センシング機器のレンズ用材料等が挙げられる。
【0077】
前記光部品材料としては、例えば、導波路、光コネクタ周辺の光ファイバー材料、フェルール、光受動部品、光回路部品、光電子集積回路(OEIC)周辺の基板材料等が挙げられる。
【0078】
また、本発明は、請求項1に係る発明を第1発明、請求項2に係る発明を第2発明とすると、以下のように把握できる。
【0079】
(第3発明)
第3発明は、前記第2発明の非球面プラスチックレンズの製造方法により成形された非球面プラスチックレンズを提供するものである。
かかる構成により、光が透過する光学面(入射面および出射面)の周辺に、気泡やヒケ、ウネリといった変形が生じない高精度な非球面プラスチックレンズを提供することができる。
【0080】
(第4発明)
第3発明は、光ビームを出射する発光素子と、この発光素子から出射された光ビームを整形する第1の光学素子と、前記第1の光学素子により整形された光ビームを偏向反射するポリゴンミラーを備えた光偏向器と、このポリゴンミラーにより偏向反射された光ビームを再整形する第2の光学素子とを備えた光走査装置において、前記第1の光学素子および第2の光学素子におけるレンズを、前記第3発明の非球面プラスチックレンズとしたものである。
【0081】
かかる構成により、従来よりも高精度な光走査装置を提供することができる。つまり、前記した非球面プラスチックレンズを用いることにより、感光体に高精度な静電潜像を形成できる光走査装置を提供できる。
【0082】
ここで、光学素子とは、少なくともレンズを含んだ光学部品群をいう。つまり、レンズのみならず、ミラーを含んでいても良い。レンズとしては、シリンダーレンズ(シリンドリカルレンズ)、コリメータレンズ、fθレンズ等が例示される。また、ミラーとしては、反射ミラー(折り返しミラー)等が例示される。
また、光ビーム(レーザー、レーザー光線)を整形するとは、ミラー等により光ビームの進む向きを所望の向きに変えたり、レンズ等により光ビームの形を所望の形に変えたりすることをいう。
【0083】
また、静電潜像とは、帯電により感光体の表面(感光層)に形成される像であり、感光層において、レーザー光線が照射された部分の比抵抗が低下し、感光体の表面に帯電した電荷が流れる一方、レーザー光線が照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成されるいわゆるネガ潜像をいう。
【0084】
また、光学面とするレンズ面(入射面及び出射面)を通過(透過)する光線の有効範囲は、レンズが作り出す像に寄与する光線の範囲をいう。さらに別言すれば、仕様通りのレンズ性能を出すことができるレンズ面の範囲をいう。
【0085】
(第5発明)
第5発明は、感光体と、この感光体に静電潜像を形成する第4発明の光走査装置とを有した画像形成装置に関する。
かかる構成により、従来よりも高精度に画像を形成できる画像形成装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る非球面プラスチックレンズの射出成形金型、および非球面プラスチックレンズの製造方法は、前記成形された非球面プラスチックレンズの光学面の周辺に、気泡やヒケ、ウネリ等が生じない、高精度な非球面プラスチックレンズを提供できる。
【符号の説明】
【0087】
1、525…非球面プラスチックレンズ(fθレンズ)、2…ガスベント、
3…射出成形金型、4…固定側金型、5…可動側金型、
6…第1の入れ子(固定側)、7…第2の入れ子(可動側)、
8…樹脂注入ノズル、9…スプル−ブッシュ、10…スプルー、11…ランナー、
12…ゲート、13…キャビティ、14…パーティングライン面、
15…周縁部、17…凹溝、
18…第1のキャビティ面、19…第2のキャビティ面、
40、41…最も離れた部分、
16、20…最も離れた部分の周縁部、
21、22…最も離れた部分のガスベント、
30…入射面、31…出射面、
501…画像形成装置、520…光走査装置(レーザ露光器)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射する入射面と、該光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、
該射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成され、
前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたことを特徴とする非球面プラスチックレンズの射出成形金型。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形金型を準備し、
前記第1の金型と前記第2の金型の前記パーティングライン面を合わせて型締めすることにより形成されるキャビティに溶融樹脂を射出し、
該キャビティ内を該溶融樹脂で満たした後、
該射出成形金型を冷却することにより、該キャビティ内の該溶融樹脂を冷却固化する非球面プラスチックレンズの製造方法。
【請求項1】
光が入射する入射面と、該光が出射する出射面とを備えた非球面プラスチックレンズの射出成形金型であって、
該射出成形金型は、前記入射面を成形する第1のキャビティ面を備えた第1の金型と、前記出射面を成形する第2のキャビティ面を備えた第2の金型が、パーティングライン面で分割可能に構成され、
前記第1のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部、および前記第2のキャビティ面における前記パーティングライン面から最も離れた部分の周縁部に、ガスベントを設けたことを特徴とする非球面プラスチックレンズの射出成形金型。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形金型を準備し、
前記第1の金型と前記第2の金型の前記パーティングライン面を合わせて型締めすることにより形成されるキャビティに溶融樹脂を射出し、
該キャビティ内を該溶融樹脂で満たした後、
該射出成形金型を冷却することにより、該キャビティ内の該溶融樹脂を冷却固化する非球面プラスチックレンズの製造方法。
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−115921(P2010−115921A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−252503(P2009−252503)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252503(P2009−252503)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】
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