説明

非破壊検査方法及び装置

【課題】PETを利用した非破壊検査を簡易に行う。
【解決手段】高エネルギー光子ビームを被検査体15に照射し、ビーム軸上から発生する消滅γ線を大面積の光子検出器19で高効率に検出する。ステージ20を回転、及び並進移動させて取得したデータを用いて、第1世代CT手法によって被検査体のPET画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質を非破壊的に検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品の非破壊検査では、検査箇所における亀裂や空孔の有無の他、材料組成の一様性の検査を行うことが重要である。金属、プラスチック、セラミックスなどを用いた工業製品の非破壊検査では、透過力の高いX線を用いたラジオグラフィによる透過像撮影法が一般的に用いられている。コンピューテッド・トモグラフィ(CT)によるデータ処理方法と組み合わせて、断層撮影が行われる場合も多い。
【0003】
透過型X線CTで直接測定する量は、X線の飛跡に沿って減衰量を積分した量であり、これを元にCTによって断層面内における物質の存在の有無や密度を推定する。X線源やCTステージの動作とデータ取得形式によって第1世代CTから第4世代CTに分類される。1973年に開発された第一世代CT装置は、直線状に出るX線と1個の検出器で構成されていたが、1975年には、扇形に出るX線光源と6から30個の検出器を用いた第二世代CT装置が開発された。さらに角度の広い扇形のX線束と数100個の検出器をもつ第三世代CTが作られた。X線源を扇形にして多くの検出器を使うと短い時間で画像を撮影することができる。したがって、第3世代CT装置による撮影では1枚の画像撮影に要する時間がおよそ5秒程度なので、呼吸を止めた状態での画像を得ることができる。その後さらに装置の進歩があり、第四世代CT装置ではさらに高速スキャンや連続スキャンが行えるようになっている。
【0004】
一方、陽電子を用いて物質中のサブミクロン〜ナノメーターオーダーの欠陥を非破壊で検査する手法がある。陽電子は物質中では安定に存在できず、電子と対消滅を起こして消滅γ線を放出する。材料中に原子の弾き出しなどによって原子空孔ができた場合、陽電子はその空孔に少しの間留まっている事ができる。そのため陽電子の寿命を測定することによって空孔のサイズや密度が測定できる。通常は外部より陽電子を打ち込むため、物質の表層の欠陥が分かる。
【0005】
レーザーコンプトン散乱によって発生する高エネルギー光子ビームは、放射光と同等の高い指向性を有する。コリメータを用いて細いビームにしても光量がさほど低下しないため、これを用いた透過型第一世代CT装置が開発されて非破壊検査に用いられている(特許文献1参照)。コリメータは、通常は鉛などの原子番号が高くかつ高密度の物質が使用され、光子ビームを空間的に細くする効果と、それに伴って光子ビームのエネルギー幅を狭くする効果がある。
【0006】
光子が物質に照射されると、光電子吸収、コンプトン散乱、電子・陽電子対生成の三つの相互作用が起こる。それぞれの発生確率は大まかに原子番号の4〜5乗に、原子番号に、原子番号の平方根に比例する。光子エネルギーが電子・陽電子対の静止質量エネルギーである1.02MeV以上であれば、照射された試料内部で電子・陽電子対が光子ビームパスに形成される。電子・陽電子対生成によって発生した陽電子は近くの電子と対消滅を起こし、エネルギー511keVの消滅γ線を発生して消滅する。寿命は周囲の電子密度に応じて決まる。更に、光子エネルギーが10MeV以上であれば、その相互作用のほとんどは電子・陽電子対生成となるため、高エネルギー光子ビーム軸上からは多くの消滅γ線が発生する。
【0007】
近年、試料にレーザーコンプトン散乱光子ビームやミュー粒子などの数MeV以上の高エネルギー粒子ビームを照射して内部に電子・陽電子対を生成させ、発生した陽電子の寿命測定、あるいは陽電子消滅に伴う消滅γ線エネルギースペクトルのドップラー広がり測定によって材料中の欠陥を評価する手法が開発されている(特許文献2参照)。
【0008】
光子検出器を一対以上用意して、それらの前面にコリメータを設けることによって消滅γ線の発生点を限定し、ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)を用いて消滅γ線の発生点分布を測定する断層撮影手法も開発されており、欠陥分布測定が可能である。一般的に、PETでは炭素11、窒素13、酸素15、フッ素18など、陽電子を発生する放射性同位体を標識とした薬剤を生体内に投与することで、エミッション・トモグラフィによって生体の断層撮影・診断を行っている。通常は、放射性同位元素を、イメージングを行いたい部位に輸送しなくてはならず、PETは生体に対してのみ適用可能であって、工業製品等には適用できないものと考えられていた。しかしγ線やミュー粒子などの高エネルギー粒子を試料内部に打ち込み、内部で陽電子を発生させることができるため、寿命測定やPETによる非破壊検査が可能である(特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−162371号公報
【特許文献2】特開2004−150851号公報
【特許文献3】特開2006−177798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
試料へ高エネルギーγ線等を打ち込んで内部で発生した陽電子を用いるPETを利用した非破壊検査装置では、2光子消滅事象のみを選択的に選んで測定するため、被検査体を360度取り囲むように検出器を配置しなくてはならない。そのため最低二個(一対)の検出器を対向させ、それらを回転させて、あるいは数個をリング状に配置しなくてはならなかった。この手法には多くの検出器を連動して(コインシデンスさせて)動作させるという難しさがあった。
【0011】
また高空間分解能イメージングを行うためには検出器が見込む立体角を十分に小さくする必要があり、検出器前面にコリメータを配置しなくてはならない。これによって必然的に事象の計数率が小さくなり、よい画像を得るためには測定に長時間を要するという問題があった。ミュー粒子を用いた測定方法では今のところPETによる断層撮影は提案されていないが、同様の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高エネルギー光子ビームを被検査体に照射し、ビーム軸上から発生する消滅γ線を大面積の光子検出器で高効率に検出することによって、第1世代CT手法によって非破壊検査PET装置を構築するものである。
【0013】
また、2光子消滅事象のみを用いたPETでは、基本的に照射光子ビーム強度を知る必要はないが、本発明においては照射光子ビーム強度を知る必要がある。これについては高エネルギー光子ビームをコリメートする際、コリメータにシンチレーション検出器を用いることによって照射光子ビーム強度を非破壊でモニターする方法が有効である。
【0014】
本発明による被検査体の非破壊検査では、γ線ビームを横切るように被検査体を並進移動させ、γ線ビームに対する被検査体の各移動位置において被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線強度を照射γ線ビームの経路と一対一に対応付けて計測し、被検体内部における照射γ線ビームの経路と検出された消滅γ線強度との関係を求める。
【0015】
また、本発明による被検査体の非破壊検査では、γ線ビームを横切るように被検査体を並進移動させ、γ線ビームに対する被検査体の各移動位置において、被検査体に照射される照射γ線ビーム強度と、被検査体を透過した透過γ線強度と、被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線に関するデータを照射γ線ビームの経路と一対一に対応付けて計測する工程と、γ線ビームに対して被検査体を所定角度回転させる回転工程とを反復してデータを取得し、照射γ線ビーム強度と透過γ線強度に関するデータをもとに被検査体の第1の断層像を形成し、消滅γ線の強度に関するデータをもとに被検査体の第2の断層像を形成する。
【0016】
本発明による被検査体の非破壊検査装置は、高エネルギーγ線ビームを発生するビーム線源と、被検査体を保持して照射γ線ビームを横切る方向に移動するステージと、γ線の照射によって被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線生成量を、ステージの各座標に対応させたデータとして計測する消滅γ線検出器とを有する。
【0017】
また、本発明による被検査体の非破壊検査装置は、高エネルギーγ線ビームを発生するビーム線源と、被検査体を保持してγ線ビームを横切る方向に移動すると共に被検査体を指定された角度だけ回転させることのできるステージと、ステージを駆動するステージ駆動部と、ビーム線源とステージの間で照射γ線の光軸上に配置されたコリメータと、照射γ線ビームの光軸上に位置し被検査体を透過したγ線を検出する透過γ線検出器と、γ線の照射によって被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線生成量を、ステージの各座標と角度に対応させた1データとして計測する消滅γ線検出器と、被検体に照射されるγ線の強度をモニターする照射γ線強度モニター手段と、透過γ線検出器による計測データと照射γ線強度モニター手段による計測データに基づいて被検査体の第1の断層像を形成し、消滅γ線検出器による計測データに基づいて被検査体の第2の断層像を形成する演算部とを有する。
【0018】
コリメータはシンチレーション物質を含み、照射γ線強度モニター手段はガンマ線照射によるコリメータの発光量を検出する回路を含むのが好ましい。演算部は、第1の断層像と第2の断層像の差分から被検査体のPET画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、簡略化された装置構成によって短時間に透過型γ線CT画像の他に、電子・陽電子対生成位置分布を示すPET画像を得ることができる。一回の測定によって異なる性質を持つ二つの物理量を測定するため、それらの画像の演算によって、密度に関する情報と原子番号に関する情報を得ることが可能となり、非破壊検査における情報量が大きく拡張される。通常は異なる二色のエネルギーのX線CT画像を元にこれらの情報を抽出するが、本発明ではこれらを一度のγ線照射によって行うことができる。
【0020】
また、消滅γ線エネルギースペクトル幅を積分量として用いたCTを行うことにより材料中の欠陥密度分布が分かる。よって、原子番号、密度、材料の欠陥を一度の測定で調べることができ、これまでの非破壊検査より多くの情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。高エネルギー光子ビームとして、レーザーコンプトンγ線を用いた場合を例に説明する。
【0022】
図1は、本発明による非破壊検査装置の一例を示す概略図である。電子加速器12中で加速された電子ビーム10にレーザー光源13からレーザー光を照射すると、コンプトン散乱によってレーザー光照射方向と逆方向に数MeV以上のエネルギーを有するレーザーコンプトンγ線11が発生される。レーザーコンプトンγ線11は、透過力の高い準単色線であるとともに指向性が高いという特徴を有する。レーザーコンプトンγ線11は、コリメータ14を通して直径数mmの細いビームにされた後、ステージ20上に保持された被検査体15に照射される。被検査体15内部では、γ線ビーム軸上に沿って電子・陽電子対が生成される。被検査体15の手前には、照射γ線強度モニター16として薄いプラスチックシンチレータを配置する。被検査体15を透過した透過γ線は、γ線検出器17によって測定される。消滅γ線検出器19は、被検査体15を見込む任意の位置に配置され、被検査体内部で発生した消滅γ線を検出する。
【0023】
なお、照射γ線強度モニター16の代わりに、被検査体の両側にγ線ビーム照射量をモニターする領域18を設けてブランク測定を行うことによって照射γ線強度を決定してもよい。領域18おけるブランク測定法は、測定毎にステージを大きく移動させる必要があるため測定時間が長時間に及ぶ欠点はあるものの、照射γ線強度を正確にモニターすることができる利点がある。この場合、ステージを移動させている間にγ線強度が大きく変動しない事が前提である。すなわち、ステージ移動中の平均γ線照射強度は、被検査体両端、すなわち領域18において測定した値を用いる。
【0024】
ステージ20はステージ駆動部21によって駆動され、その上に保持された被検査体15を、レーザーコンプトンγ線11の光軸を横切る方向(Y軸方向)に並進移動させることができると共に、ステージ面に垂直なZ軸の周りに任意の角度だけ回転させることができる。計測に当たっては、ステージ20をY軸方向に移動させながら、ステージ移動の各位置において被検査体15を透過したγ線強度をγ線検出器17によって計測すると共に、被検査体内で照射γ線の光路近傍から放射されてくる消滅γ線をその放射位置にかかわらず消滅γ線検出器19によって検出する。このとき、照射γ線強度モニター16によって照射γ線強度も同時に計測する。こうして、ステージ移動の各点において照射γ線強度、透過γ線強度及び消滅γ線強度を測定し、ステージ20の移動軸上での被検査体15の座標と各検出器によるγ線強度をデータとして対応させる。
【0025】
ステージ並進移動による1回の計測が終了すると、被検査体15をZ軸の周りに所定の角度だけ回転させ、その後同様にステージ20をY軸方向に移動させて、ステージ移動の各点において照射γ線強度、透過γ線強度及び消滅γ線強度を計測する。この被検査体を所定角度だけ回転させた後、Y軸方向に並進移動させて照射γ線強度、透過γ線強度、消滅γ線強度を計測する操作を、被検査体がZ軸の周りに180度回転するまで、あるいは360度回転するまで反復し、計測データを取得する。こうして、照射γ線強度モニター16によって測定されたγ線ビーム強度を照射γ線強度とし、γ線検出器17によって検出された透過γ線強度から、ビームの減衰量を測定することにより、第1世代CT手法によって断層像を得る。具体的には、照射γ線強度モニター16によって計測された照射γ線とγ線検出器17によって計測された透過γ線強度比の自然対数を、CTの手法を用いて画像化する。更に、消滅γ線検出器19によって検出された消滅γ線強度のデータから第1世代CT手法によってもう一つのCT像を構築する。
【0026】
制御演算部22は、ステージ駆動部21に指令してステージ20の並進及び回転を制御する。また、制御演算部22には、照射γ線強度モニター16、γ線検出器17及び消滅γ線検出器19からの計測信号が逐次入力される。制御演算部22は、それらの計測データをステージ20の回転角度情報及び並進位置情報と合わせて第1世代CTの手法で処理し、各種情報を含む断層像を演算する。演算結果は、表示部23に表示される。
【0027】
γ線ビームは、被検査体を通過しながら、その道筋に電子・陽電子対を生成するため、陽電子消滅によるγ線が四方八方に放射される。本発明では、γ線ビーム11が被検査体15を透過した際に発生した消滅γ線強度を外部に設置した消滅γ線検出器19で検出する。この場合、消滅γ線と照射γ線強度比の自然対数は、照射γ線が減衰する線減弱係数μ1と、ある深さで発生した消滅γ線の線減弱係数μ2の和で表される。すなわちI0,I1,I2をそれぞれ照射γ線、透過γ線、消滅γ線強度とすると、次のように表される。
【0028】
【数1】

【0029】
よって被検査体が180度あるいは360度回転するまで、被検査体を所定角度だけ回転させた後、並進移動させながら照射γ線強度と透過γ線強度及び消滅γ線強度を計測する操作を反復することで、透過型第1世代CTによってμ1とμ2の測定が可能である。μ1の分布はγ線エネルギーにおける線減弱係数を、μ2の分布は、それに重畳した形で消滅γ線に対する線減弱係数を示す。よってμ2とμ1の分布の差分を取ることで、電子・陽電子対生成位置分布、すなわちPET画像が得られる。
【0030】
本手法によると、透過画像とPET画像を全く同一の配置で取得でき、画像の位置合わせを行う必要がないため、高精度の非破壊検査を行うことができる。
【0031】
もちろん消滅γ線検出器19を用いて消滅γ線エネルギースペクトル測定を行い、そのスペクトル幅を積分量として用いることもできる。この場合、それぞれの座標と角度においてエネルギースペクトルを測定し、その半値幅や標準偏差を積分量とすることで、被検査体内の欠陥密度分布に関する情報が得られる。これは、通常の陽電子を用いた材料の欠陥測定手法が適用できる。すなわち、従来、確立された手法である消滅γ線エネルギースペクトルのS−パラメータ測定によって、被検査体を構成する原子の格子の不完全さ、すなわち欠陥の有無を測定できる。陽電子消滅には大きく分けて価電子との消滅と内殻電子との消滅がある。前者は電子の運動量が小さいため、ドップラー広がりによる消滅γ線エネルギースペクトル幅は相対的に狭く、後者は電子エネルギーが高いためスペクトル幅は広くなる。物質内に欠陥があると相対的に内殻電子との相互作用が多くなるため消滅γ線のエネルギースペクトル幅は狭くなることが一般的に知られている。
【0032】
消滅γ線エネルギースペクトル幅を積分量として、CTによって分布を再構成することができる。この分布は被検査体の欠陥分布を表す。例えばスペクトルの半値幅を第一世代CTの積分量とした場合、ある座標にある角度でγ線を照射し、そこから発生した消滅γ線エネルギースペクトルの半値幅を記録し、座標と角度を振って測定することによって、CTによって欠陥分布を画像化することができる。本手法では、これを透過型第1世代CTと同時に測定できることが特長である。
【0033】
本発明によると、消滅γ線によるPET画像と高エネルギーγ線照射による透過画像が一度の照射によって得られる。これは、異なる二色のγ線とX線を同時に照射したのと等価な測定を一度の照射によって行うことができることを意味する。これによって被検査体の密度と被検査体構成原子の原子番号の分布を独立に画像化することができる。すなわち、エネルギーE1のγ線透過を用いたCTによって式(3)の関係が得られる。
【0034】
【数2】

【0035】
ここでμ1,ρ,ZをそれぞれCTによって測定された線減弱係数、被検査体の原子密度、被検査体の平均的な原子番号とする。mおよびnは線減弱係数の原子番号依存性を表す係数である。原子番号と原子密度で規格化した相互作用断面積をσ0で表す。すなわちσ0は原子番号と密度に依存しないものとする。ここで考慮するのは511keV以上の高エネルギーX線、γ線であるので、相互作用としてはコンプトン散乱と電子・陽電子対生成のみであり、それぞれをCMP、PCと表記する。参考までに、コンプトン散乱および電子・陽電子対生成に対して計算したσ0を図2、および図3に示す。それぞれについて原子番号13、22,26,74の元素であるアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、タングステン(W)について計算した。コンプトン散乱に対してm=0.89、電子・陽電子対生成に対してn=1.84であった。
【0036】
式(3)と同様に、消滅γ線によるPET画像によって式(4)の関係が得られる。この場合E2=511keVである。
【0037】
【数3】

【0038】
式(3)を式(5)に書き換え、式(4)より式(5)を減ずると式(6)となり、それから式(7)が導出される。
【0039】
【数4】

【0040】
式(7)を式(5)式に代入することで式(8)が得られ、それを書き換えると式(9)のようになり、従って式(10)が得られる。
【0041】
【数5】

【0042】
σ0,m,nは既知であり、μ1,μ2が測定データであるので、これによって原子番号の分布を表すCT画像が得られる。更に、式(10)を式(7)へ代入して、次式(11)が得られる。
【0043】
【数6】

【0044】
これによって、一度のγ線照射で二つの物理量を測定し、それらを独立にCTで再構成することで、原子番号分布と原子密度分布が画像として得られる。
【0045】
図4は、本発明による検査装置の他の構成例を示す概略図である。本実施例では、コリメータ14にPWO(タングステン酸鉛)、BGO(酸化ビスマス・ゲルマニウム)、CsI(沃化セシウム)等の比較的原子番号が高く、密度の高いシンチレーション物質を用いた。これらのシンチレーション物質を10cm×10cm×20cm程度の直方体に加工し、その長軸に貫通孔を設けることでγ線コリメータ14とした。すなわち、レーザーコンプトンγ線11のビームをコリメータ14に照射し貫通孔を通過させることで、γ線ビームを細くする。貫通孔の直径は任意であるが、ラジオグラフィ等を行うには1〜2mmが望ましい。貫通孔を通過しなかったγ線はシンチレーション物質との相互作用によって減衰されるが、その際の発光によってγ線ビーム強度を測定できる。すなわちコリメータ14に照射されたγ線ビーム強度はほぼ一様であるため、シンチレーション物質の発光量をシンチレーション光検出回路24で検出し積分することで、コリメータ貫通孔を通過したγ線ビーム強度を高い確度で推定することができる。
【0046】
本実施例でも図1に示した実施例と同様に、それぞれの断層画像を測定するが、コリメータ14をγ線強度モニターとして使用することによって、図1に示した実施例におけるγ線強度モニター16あるいは領域18によるブランク測定を省略することができる。そのため、測定精度を高めつつ、測定時間を著しく短縮することができる。
【0047】
また、被検査体15を取り囲むように消滅γ線検出器19を大面積化するか、あるいは多数配置することにより多くの消滅γ線を検出することができるため、測定時間を短くすることも可能である。
【0048】
次に、本発明の検査装置を用いた検査例について説明する。図5に、実験装置の配置を示す。一辺が10cmのコンクリートブロック33の中心から、一つの側面に対して2.5cmのオフセットを付けた位置に、直径1cmの鉄筋34を挿入したサンプル片の非破壊検査を行った。便宜上、ビーム軸をX軸とした座標軸を設定し、ビーム進行方向を正にとる。原点をコンクリートブロック33の手前側の面とすると、鉄筋34の挿入された位置はX=2.5cmである。サンプルは並進と回転を行うCTステージ37に配置し、20MeVのレーザーコンプトン散乱光子ビーム31を照射した。本実験においてはデータ解析を簡略化するため、コリメータ32としてシンチレーション物質は用いずに通常の鉛ブロックのコリメータを用いた。コリメータ32には内径2mmの貫通孔が設けられている。透過γ線検出器35には沃化タリウム(NaI)を用いた。消滅γ線検出器36には高純度ゲルマニウム検出器を用い、511keVのピークのみの計数率をモニターしながら検査を行った。
【0049】
図6に、Y軸に沿ってステージ37を並進させ、消滅γ線検出器36によって計測した消滅γ線計数率と移動量との相関を調べた結果を示す。Y=0において鉄筋が配置された位置で消滅γ線の計数率が高くなったことが分かる。ここではY軸上におけるX線やγ線の減衰に関する情報が得られ、Y軸に垂直に配置された鉄筋の有無が分かる。
【0050】
図7に、このような測定を数投影行うことで、CTによる断層撮影を行った結果を示す。図7に示した断層像は、10投影のデータから再構成した鉄筋コンクリートブロックの断層像であるが、鉄筋の配置された位置を確認することができた。10cm角のコンクリートの領域を含むように11cm×11cmの領域を表示した。消滅γ線が多く出ている領域を白く、少ない領域を黒で表示した。図の下方に白く強く見えているスポットが鉄筋を表す。他の白い部分は疑似信号(アーチファクト)であり、投影数が少ないことや消滅γ線強度変化が急峻であること、およびデータ解析手法が十分正確に現象をモデル化できていないことなどに起因する。コンクリートは10cm×10cmであるが、鉄筋部分のコントラストを強調したために、空気層との境界は明らかではない。しかし、コンクリートと空気層との境界は、コントラストレベルを調節することで容易に可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による非破壊検査装置の一例を示す概略図。
【図2】原子番号と原子密度で規格化したコンプトン散乱断面積の光子エネルギー依存性を示す図。
【図3】原子番号と原子密度で規格化した電子・陽電子対生成散乱断面積の光子エネルギー依存性を示す図。
【図4】本発明による検査装置の他の構成例を示す概略図。
【図5】鉄筋コンクリートブロックの非破壊検査CT実験の配置図。
【図6】鉄筋コンクリートブロックの並進移動量と消滅γ線強度の関係を示す図。
【図7】本発明によって得られた鉄筋コンクリートブロックの断層像。
【符号の説明】
【0052】
10 電子ビーム
11 レーザーコンプトンγ線
12 電子加速器
13 レーザー光源
14 コリメータ
15 被検査体
16 照射γ線強度モニター
17 γ線検出器
18 γ線ビームモニター領域
19 消滅γ線検出器
20 ステージ
21 ステージ駆動部
22 制御演算部
23 表示部
24 シンチレーション光検出回路
31 レーザーコンプトン散乱光子ビーム
32 コリメータ
33 コンクリートブロック
34 鉄筋
35 透過γ線検出器
36 消滅γ線検出器
37 CTステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ線ビームを横切るように被検査体を並進移動させ、前記γ線ビームに対する被検査体の各移動位置において被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線強度を照射γ線ビームの経路と一対一に対応付けて計測する工程と、
前記被検体内部における照射γ線ビームの経路と検出された消滅γ線強度との関係を求める工程と
を有することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項2】
γ線ビームを横切るように被検査体を並進移動させ、前記γ線ビームに対する被検査体の各移動位置において、被検査体に照射される照射γ線ビーム強度と、被検査体を透過した透過γ線強度と、被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線に関するデータを照射γ線ビームの経路と一対一に対応付けて計測する工程と、前記γ線ビームに対して被検査体を所定角度回転させる回転工程とを反復してデータを取得する工程と、
前記照射γ線ビーム強度と透過γ線強度に関するデータをもとに被検査体の第1の断層像を形成する工程と、
前記消滅γ線の強度に関するデータをもとに被検査体の第2の断層像を形成する工程と
を有することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項2記載の非破壊検査方法において、前記被検査体の第1の断層像と第2の断層像の差分から被検査体のPET画像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項4】
請求項2記載の非破壊検査方法において、前記消滅γ線のエネルギースペクトル幅のデータをもとに被検査体の欠陥密度分布を表す像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項5】
請求項2記載の非破壊検査方法において、前記照射γ線ビーム強度と、前記透過γ線強度と、前記消滅γ線の強度のデータをもとに、被検査体内部における原子の原子番号分布を表す断層像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項6】
請求項2記載の非破壊検査方法において、前記照射γ線ビーム強度と、前記透過γ線強度と、前記消滅γ線の強度のデータをもとに、被検査体内部における原子密度分布を表す断層像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査方法。
【請求項7】
高エネルギーγ線ビームを発生するビーム線源と、
被検査体を保持して前記γ線ビームを横切る方向に移動するステージと、
γ線の照射によって被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線生成量を、ステージの各座標に対応させたデータとして計測する消滅γ線検出器と
を有することを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。
【請求項8】
高エネルギーγ線ビームを発生するビーム線源と、
被検査体を保持して前記γ線ビームを横切る方向に移動すると共に被検査体を指定された角度だけ回転させることのできるステージと、
前記ステージを駆動するステージ駆動部と、
前記ビーム線源と前記ステージの間で前記γ線の光軸上に配置されたコリメータと、
前記γ線ビームの光軸上に位置し、被検査体を透過したγ線を検出する透過γ線検出器と、
γ線の照射によって被検査体内部で発生した陽電子の消滅γ線生成量を、ステージの各座標と角度に対応させたデータとして計測する消滅γ線検出器と、
被検体に照射されるγ線の強度をモニターする照射γ線強度モニター手段と、
前記透過γ線検出器による計測データと前記照射γ線強度モニター手段による計測データに基づいて被検査体の第1の断層像を形成し、前記消滅γ線検出器による計測データに基づいて被検査体の第2の断層像を形成する演算部と
を有することを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の非破壊検査装置において、前記コリメータはシンチレーション物質を含み、前記照射γ線強度モニター手段はガンマ線照射による前記コリメータの発光量を検出する回路を含むことを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。
【請求項10】
請求項8記載の非破壊検査装置において、前記演算部は、前記第1の断層像と第2の断層像の差分から被検査体のPET画像を形成することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項11】
請求項8記載の非破壊検査装置において、前記演算部は、前記消滅γ線検出器で計測した前記消滅γ線のエネルギースペクトル幅のデータをもとに被検査体の欠陥密度分布を表す像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。
【請求項12】
請求項8記載の非破壊検査装置において、前記演算部は、前記照射γ線強度モニター手段によって計測した前記照射γ線ビームの強度と、前記透過γ線検出器によって計測した透過γ線の強度と、前記消滅γ線検出器によって検出した消滅γ線の強度のデータをもとに、被検査体内部における原子の原子番号分布を表す断層像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。
【請求項13】
請求項8記載の非破壊検査装置において、前記演算部は、前記照射γ線強度モニター手段によって計測した前記照射γ線ビームの強度と、前記透過γ線検出器によって計測した透過γ線の強度と、前記消滅γ線検出器によって検出した消滅γ線の強度のデータをもとに、被検査体内部における原子密度分布を表す断層像を形成することを特徴とする被検査体の非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−8560(P2009−8560A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170877(P2007−170877)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度経済産業省委託研究「原子力試験研究委託費/高透過性光子ビームを用いた非破壊検査技術の開発と高度化に関する研究」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】