非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法
【課題】同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能である非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】重ね合わせられる電磁鋼板11に,非磁性チップ15を収納するための凹部25を,重ね合わせた全体の表裏面に現れないように形成し,電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板11を露出させ,凹部に非磁性チップ15を収納しつつ電磁鋼板11を重ね合わせ,非磁性チップ15を挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップ15をその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する積層電磁鋼板11の製造方法である。
【解決手段】重ね合わせられる電磁鋼板11に,非磁性チップ15を収納するための凹部25を,重ね合わせた全体の表裏面に現れないように形成し,電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板11を露出させ,凹部に非磁性チップ15を収納しつつ電磁鋼板11を重ね合わせ,非磁性チップ15を挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップ15をその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する積層電磁鋼板11の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板およびその製造方法に関する。さらに詳細には,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成することによる,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に,この種の積層電磁鋼板およびその製造方法が開示されている。本文献の第4,5の形態には,図12に示すように,溝102を形成した2枚の電磁鋼板101をその溝102が向かい合うように,溝102の中に非磁性チップ103を挟み込みつつ重ねて,厚さ方向に加圧通電する製造方法が記載されている。すなわち,非磁性チップ103の箇所において,厚さ方向の両側から電極105で挟んで加圧し,その状態で両電極105間に通電するのである。これにより,非磁性チップ103がその周囲の鋼とともに溶融されて,元の非磁性チップ103の大きさよりも一回り大きい非磁性箇所が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−219341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,前記した従来の技術には,同一の電極によって加圧通電を繰り返すと,非磁性箇所の品質が安定しなくなるという問題点があった。同じように通電しても非磁性チップが適切に溶融されず,その周囲の鋼を殆ど溶融させることなく終わってしまう例が出現するようになるのである。このような例のものでは適切な非磁性箇所が形成されていない。このようになる理由として,通電時の通電面積や電流密度にバラツキが発生し,非磁性チップ周辺の十分な発熱が得られていないことが考えられる。
【0005】
さらに詳細な調査をしたところ,図13に示すように,加圧通電に用いる電極105の先端部が変形していることがわかった。すなわち,元は図中で上側に示した電極105のように,その先端部のみが電磁鋼板101に接触し,必要な範囲のみに電流を流すようになっている。ところが,同じ電極105である程度繰り返して加圧通電を行うことにより,図中の下側に実線で示した電極106のように,先端部が変形し電磁鋼板101への接触面積が大きくなってしまうのである。そのため,非磁性チップ103を通らない電流が多くなってしまう。その結果,非磁性チップ103が適切に昇温されず,適切に改質できなくなるという問題点があった。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能である非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の積層電磁鋼板の製造方法は,絶縁皮膜を両面に有する複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法であって,重ね合わせられる電磁鋼板に,非磁性チップを収納するための凹部を,重ね合わせた状態でその凹部が全体の表裏面に現れないように形成し,重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板を露出させ,その状態で凹部に非磁性チップを収納しつつ電磁鋼板を重ね合わせて通電を行うものである。
【0008】
本発明の製造方法によれば,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせ,その間に非磁性チップを挟み込むと,非磁性チップの周囲のうち,厚さ方向に重なる領域は絶縁皮膜が除去されているとともに,面方向の周囲には絶縁皮膜が残されている状態となる。そのため,非磁性チップを挟み込んだ箇所の厚さ方向には,電磁鋼板が露出されて重ねられているので,この箇所で通電させて非磁性チップを溶融させることができる。その一方で,凹部に挟んだ非磁性チップの周囲は,絶縁皮膜が残されているので,電流は殆ど流れない。そのため,通電による電流はその殆どが非磁性チップの中を通ることになる。これは,電極の形状に関わらない。従って,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能となっている。
【0009】
さらに本発明では,2枚の電磁鋼板を用い,2枚の電磁鋼板のいずれにも1面側に有底穴を形成して凹部とし,2枚の電磁鋼板を有底穴同士が向き合うように重ね合わせるとともに,その2つの有底穴により形成される空間に非磁性チップを挟み込むことが望ましい。
このようにすれば,2枚の電磁鋼板の有底穴によって凹部が構成される。
【0010】
また本発明では,3枚以上の電磁鋼板を用い,3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚のいずれにも1面側に有底穴を形成するとともに残りの電磁鋼板に貫通穴を形成して凹部とし,3枚以上の電磁鋼板を,貫通穴が形成されたものを中央に配置し,有底穴が形成された2枚を有底穴が貫通穴と対面するように配置して重ね合わせるとともに,その2つの有底穴および貫通穴により形成される空間に非磁性チップを挟み込むようにしてもよい。
このようなものでは,両側の有底穴とそれらの間の貫通穴によって凹部が構成される。
【0011】
また本発明では,3枚以上の電磁鋼板を用い,3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚を除いたものに貫通穴を形成して凹部とし,3枚以上の電磁鋼板を,貫通穴が形成されたものを中央に配置し,残る2枚をそれらの両側に1枚ずつ配置して重ね合わせるとともに,その貫通穴の内部に非磁性チップを挟み込むようにしてもよい。
このようなものでは,貫通穴によって凹部が構成される。
【0012】
さらに本発明は,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法であって,通電のための通電電極として,少なくとも電磁鋼板への接触面を含む部分が,接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるものを用い,接触面の全体が電磁鋼板の表面に接触するように通電電極の対で複数枚の電磁鋼板を加圧しつつ挟み付け,その状態で通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する方法であってもよい。
通電電極の接触面を含む部分が柱状形状であれば,加圧および加熱を繰り返してもその接触面の接触範囲がむやみに拡がるおそれはない。従って,このようにしても,非磁性チップを通らない電流を抑制することができるので,適切に非磁性箇所を形成することができる。
【0013】
さらに本発明では,通電のための通電電極として,接触面が,曲率半径100mm〜1000mmの範囲内の凸面であるものを用いることが望ましい。
このようなものであれば,接触面によって電磁鋼板を適切に加圧できる。
【0014】
また本発明は,絶縁皮膜を両面に有し重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板であって,複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち非磁性箇所と交差する位置にあるものは,非磁性箇所に対して隙間を置くことなく接しており,複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち非磁性箇所と交差しない位置にあるものは,非磁性箇所が存在する領域と重なる領域の少なくとも一部が除去されてその除去部分でブランクとなっている非磁性箇所を有する積層電磁鋼板にも及ぶ。
上記の製造方法によって製造した積層電磁鋼板は,このようなものとなっている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能である非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の形態に係る製造方法の絶縁皮膜除去および有底穴形成工程を示す説明図である。
【図2】製造途中の電磁鋼板を示す説明図である。
【図3】第1の形態に係る製造方法のチップ挿入工程を示す説明図である。
【図4】第1の形態に係る製造方法の加圧通電工程を示す説明図である。
【図5】非磁性箇所が形成された電磁鋼板を示す断面図である。
【図6】非磁性チップを電磁鋼板に挟んだ状態の別の例を示す説明図である。
【図7】非磁性チップを電磁鋼板に挟んだ状態の別の例を示す説明図である。
【図8】絶縁皮膜を除去した電磁鋼板を示す説明図である。
【図9】第2の形態に係る製造方法の加圧通電工程を示す説明図である。
【図10】実施例による改質率の例を示すグラフ図である。
【図11】比較例による改質率の例を示すグラフ図である。
【図12】従来の製造方法を示す説明図である。
【図13】従来の製造方法による電極の変形の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板と,加圧通電によってそれを製造する製造方法に係るものである。
【0018】
「第1の形態」
本形態は,図1〜図4に示すように,2枚の電磁鋼板11,11を積層して,図5に示すような積層電磁鋼板13を製造する方法である。本形態では,絶縁皮膜12が両面に設けられた電磁鋼板11を用い,以下の手順によって,その間に非磁性チップ15を挟み込み,非磁性箇所17を形成する。
1.絶縁皮膜除去および有底穴形成工程(図1)
2.非磁性チップ挿入および鋼板積層工程(図3)
3.加圧通電工程(図4)
【0019】
1.絶縁皮膜除去および有底穴形成工程
本形態では,図1に示すように,素材の電磁鋼板11として,その両面に絶縁皮膜12が設けられているものを使用する。この絶縁皮膜12は,積層した際に,電磁鋼板11同士の間を電気的に絶縁状態とするためのものである。例えば,クロム酸化物を含む有機膜等が好適である。なお,図ではかなり厚く示しているが,例えば0.3mm厚程度の電磁鋼板に設けられる絶縁皮膜12の厚さは1μm厚程度であり,厚さを無視できる程度に薄いものである。
【0020】
そして,この工程1においては,図1に示すように,2枚の電磁鋼板11のそれぞれについて,その一面(図中では面B)の絶縁皮膜12を部分的に除去する。例えば,ブラシやヘラ等で削り取るかまたは化学処理によって除去すればよい。その除去範囲22は,非磁性チップ15を挟む場所に対応して決定されている。また,もう片面(図中では面A)には,非磁性チップ15の平面形状に合わせた有底穴25を形成する。例えば,パルスレーザによる切削とすればよい。なお,有底穴25を形成することにより,その範囲内の絶縁皮膜12は当然失われ,この工程1の終了時には,電磁鋼板11の面Aは,有底穴25の縁辺まで絶縁皮膜12で覆われている状態となる。
【0021】
面Aは,2枚が積層されたときにもう1枚の電磁鋼板11と接触する面であり,この有底穴25には,後の工程で非磁性チップ15(図3参照)が挿入される。すなわち,有底穴25の形状は,挿入する非磁性チップ15の形状に合わせて設定されている。本形態では,円板状の非磁性チップ15を用いているので,有底穴25は非磁性チップ15の厚さの半分の深さであり,図2に示すように,その開口部の形状は円形である。この図2は,図1に示す電磁鋼板11を面Bの側(図中上方)から見たものである。このようなものとすれば,2枚の電磁鋼板11の有底穴25を合わせることによってちょうど非磁性チップ15が収まる空間を形成することができる。
【0022】
一方,面Bは,2枚が積層されたときに両外側に露出する面である。すなわち,複数枚の電磁鋼板11を重ね合わせたもの(図3参照)の全体の表裏面になる面である。図1に示すように,面Aの有底穴25に対応する範囲を含む範囲の絶縁皮膜12が除去され,除去範囲22となっている。つまり,図2に示すように,面Bの除去範囲22は,面Aの有底穴25と電磁鋼板11の厚さ方向に重なる位置に配置されている。そして,除去範囲22の内部では,円形状に電磁鋼板11自体が見えている。
【0023】
この除去範囲22の大きさは,後の工程において面Bに当接させる電極31(図4参照)の大きさを参照して決定される。本形態では電極31として,その電磁鋼板11への接触範囲w1が非磁性チップ15の平面形状より大きいものを用いるので,図2に示すように,面Bの除去範囲22は面Aの有底穴25の開口面積より大きい。なお,面Bの除去範囲22は,少なくとも非磁性チップ15の平面形状を含む範囲であればよく,電極31の接触範囲に合わせて適切に決定すればよい。
【0024】
2.非磁性チップ挿入および鋼板積層工程
次に,図3に示すように,2枚の電磁鋼板11を,その有底穴25の中に非磁性チップ15をはさむようにして,有底穴25の開口同士が向かい合うように配置する。これにより,2枚の電磁鋼板11の面Aの絶縁皮膜12同士が接触する。また,両者の有底穴25は,非磁性チップ15によって埋められ,非磁性チップ15の側面に絶縁皮膜12が接触する状態となる。本形態では,非磁性チップ15を収納するための凹部は,2枚の電磁鋼板11の有底穴25によって構成されている。鋼板積層工程が終了した後では,この凹部は,電磁鋼板11が重ね合わされた全体の表裏面には現れていない。
【0025】
3.加圧通電工程
次に,図4に示すように,両側の電磁鋼板11の面Bにそれぞれ電極31を当接させて加圧する。また,電極31を当接させる位置は,絶縁皮膜12を除去した除去範囲22の範囲内である。それはすなわち,非磁性チップ15を挟んだ箇所を両側の電極31によって厚さ方向に挟む位置である。そして,このように挟んで,両側の電極31の間に通電する。この通電によって,非磁性チップ15の周囲,特に電磁鋼板11との接触箇所から発熱し,非磁性チップ15が溶融しはじめる。
【0026】
通電を続けることによってこの溶融している範囲は,周りの電磁鋼板11をともに溶融させて次第に拡がる。両側の電磁鋼板11の面Bまで溶融が到達しないうちに,通電を停止する。通電時間は,非磁性チップ15の厚さや種類等によって異なり,実験によって予め決定されている。通電を停止することにより,電磁鋼板11は次第に放熱して降温し,内部の溶融した箇所は凝固する。このようにして,非磁性チップ15と電磁鋼板11とがともに溶融して,混ざり合ったまま凝固した範囲が,非磁性となった改質層であり,非磁性箇所17となる。これにより,図5に示すように,間に非磁性箇所17が形成された積層電磁鋼板13を得ることができる。
【0027】
この非磁性箇所17としては,重ね合わせた電磁鋼板11の表裏面へ露出しない範囲内でできるだけ厚く形成されることが好ましい。通常,非磁性チップ15の外周近傍から溶融し始めるため,非磁性箇所17の中央部分の厚さによって,改質の進行程度を量ることができる。そこで,図5に示すように非磁性箇所17の厚さDを測定し,その積層電磁鋼板13の全厚D0に対する割合を改質率Pと呼ぶ。
P = 100×D / D0 (%)
本形態では,改質率Pが70〜85%の範囲内となるように,非磁性チップ15の大きさや通電条件等を設定している。
【0028】
そして,このようにして得られた積層電磁鋼板13は,図5に示すように,絶縁皮膜12を有する電磁鋼板11が重ねられ,その重ね合わせの全体の表裏面には達しない非磁性箇所17を有するものとなっている。さらに,この非磁性箇所17と交差する位置にある絶縁皮膜12は,すなわち2枚の電磁鋼板11の互いに接触している面の絶縁皮膜12は,非磁性箇所17と接してその周囲に残っている。なお,非磁性箇所17は元の非磁性チップ15の大きさより図中で横方向にもやや大きくなっているが,この範囲の絶縁皮膜12は,非磁性チップ15の溶融時にともに溶け合って失われている。
【0029】
また,非磁性箇所17と交差しない位置にある絶縁皮膜12は,すなわち,2枚の電磁鋼板11の両外側の面の絶縁皮膜12は,非磁性箇所17が存在する範囲を含んでやや大きく除去されており,ブランクとなっている。なお,このブランクの範囲は,非磁性箇所17の全ての範囲を必ず含まなければいけないというわけではない。
【0030】
この工程3において使用する電極31は,図4に示したように,その先端部は曲面状となっている。また,電極31の先端面の全範囲が電磁鋼板11に接触されるわけではなく,図示のようにその頂部のみが接触される。従って,電磁鋼板11と電極31との接触面積は,電極31の先端面全体に比較して小さく,非磁性チップ15の平面形状とほぼ同等のものとなっている。本形態では,電極31として,その先端面が曲率半径100mm〜1000mm程度の範囲内の凸面となっているものを使用している。
【0031】
しかしながら,同じ電極31を用いて繰り返しこの工程3を行うと,図4中で下部に示したように,その先端部の形状がやや変化することが分かった。図中で下部に示したもののうち,破線で示しているのが元の電極31の形状である。繰り返し加圧通電することによって,電極31の先端部がやや押しつぶされ,実線で示したように変形する。そのため,電磁鋼板11への接触面積が少し大きくなる。
【0032】
すなわち,図4に示すように,各電極31が電磁鋼板11へ接触する面積は,元は接触範囲w1であったものが接触範囲w2と大きくなる。当然上下の電極31が両方とも同様に変形するため,通電範囲も大きくなる。なおこれは,従来の課題として図13に示したものと同じ現象である。なお,これらの図はもちろん,電極31の変形をかなり大げさに示したものである。
【0033】
しかし,本形態によれば,非磁性チップ15の際(きわ)まで絶縁皮膜12を残しているので,電流は非磁性チップ15の外側を通過することができない。従って,電極31の接触面積が大きくなったとしても,電極31間を流れる全ての電流が非磁性チップ15を通る。従って,非磁性チップ15を通過する電流密度を高く維持することができる。これにより,電極31が元の形状のままである場合と同様に,非磁性チップ15を適切に加熱させることができるので,適切に非磁性箇所17を形成することができる。従って,同じ電極31を用いて加圧通電を繰り返しても,適切な非磁性箇所17を有する積層電磁鋼板13を安定して得ることができる。
【0034】
なお,ここまでは,2枚の電磁鋼板11に,それぞれ有底穴25を形成して非磁性チップ15を挟むことにより非磁性箇所17を形成する製造方法について説明した。これ以外に,3枚以上の電磁鋼板11の間に非磁性箇所17を形成することももちろん可能である。例えば,図6に示すように,3枚の電磁鋼板11に非磁性チップ15を挟んでもよい。図6の例では,両外側に配置される2枚には有底穴27を,中央部に配置される電磁鋼板11には貫通穴28を形成している。さらに,中央部に貫通穴28を形成する電磁鋼板11を2枚以上重ねてもよい。この例では,2つの有底穴27と貫通穴28とによって,凹部を構成している。
【0035】
あるいは,図7に示すように,両側の電磁鋼板11には凹部を形成しないことも可能である。図7の例では,中央部の2枚の電磁鋼板11にのみ貫通穴28を形成した。両外側の電磁鋼板11は,その両面の絶縁皮膜12を凹部の箇所で除去しているのみである。この両外側の電磁鋼板11については,その両面とも必ず,絶縁皮膜12を除去することが必要である。この例では,2つの貫通穴28によって凹部を構成している。また,この例においても,貫通穴28を形成する電磁鋼板11の枚数は,1枚でもよいし,3枚以上でもよい。
【0036】
ただし,図7の例で両外側の電磁鋼板11では,図8に示すように,両面の絶縁皮膜12を除去する必要がある。4枚の電磁鋼板11を重ね合わせたときにその全体の表裏面となる面Bの除去範囲22は,2枚の電磁鋼板11にそれぞれ有底穴25を形成する例における面Bの除去範囲22(図1参照)と同じ範囲である。
【0037】
図6と図7のいずれの例においても,有底穴27や貫通穴28の周囲の部分の絶縁皮膜12は残されており,非磁性チップ15に接触している。従って,電極31が多少変形したとしても,非磁性チップ15を通過する電流密度を適切に維持できるので,十分な厚さの非磁性箇所17を形成することができる。
【0038】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,電磁鋼板11に非磁性チップ15を収納するための凹部として,有底穴25または有底穴27または貫通穴28を形成し,その電磁鋼板11を重ねている。これにより,電磁鋼板11の間に,非磁性チップ15を,全体の表裏面に現れないように収納することができる。そして,各電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,穴25,27,28の周囲の部分を除去することなく残している。さらに,穴が開けられなかった電磁鋼板11を重ねる場合には,重ねた状態で厚さ方向に非磁性チップ15と重なる範囲の絶縁皮膜12のみを除去する。このようにして重ねた電磁鋼板11に厚さ方向に通電すれば,非磁性チップ15をその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所17を有する積層電磁鋼板13を形成することができる。そして,同じ電極31を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所17の形成が可能な製造方法となっている。
【0039】
「第2の形態」
本形態は,第1の形態と電極の形状が異なるものである。製造手順の各工程は第1の形態と同様であるので説明を省略し,第1の形態との相違点のみを説明する。
【0040】
本形態の加圧通電工程で用いる電極33は,図9に示すように,柱状のものである。すなわち,電極33はその先端面を含んで,押圧方向(図中で上下方向)に均一な形状となっている。また,この電極33は,第1の形態の電極31と比較して小径の電極であり,その先端面の全体が電磁鋼板11に接触される。その先端面の接触範囲w3は,電極31の新品時の接触範囲w1(図4参照)と同等程度しかない。また,電極33の柱状部分の外径は先端面の接触範囲w3と同じ大きさである。
【0041】
そのため,加圧通電を繰り返して先端部が多少変形したとしても,接触範囲w3は変化しない。ただし,本形態でも,電極33の先端部は平面ではなく,曲率半径100mm〜1000mm程度の範囲内の凸面であることが望ましい。このようになっていれば,接触範囲w3の全体で適切に電磁鋼板11に圧接させることができる。なお,電極33は,少なくとも先端部分が柱状となっていればよく,それより基部の箇所の形状は特に限定されない。
【0042】
本形態では,電極33の形状によって通電範囲が制限されている。そのため,絶縁皮膜12の除去範囲に関わらず,殆どの電流は非磁性チップ15を通り,非磁性チップ15より外側を迂回して通る電流はごく少ない。従って,絶縁皮膜12の除去範囲については精密に制限を設ける必要はない。すなわち,少なくとも接触範囲w3を含んでいればよい。例えば,図9に示すように,非磁性チップ15の範囲および接触範囲w3の範囲を含んでそれより大きく除去しておけばよい。この形態では,絶縁皮膜12の除去範囲の位置精度が多少低くても問題はない。
【0043】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,電磁鋼板11に非磁性チップ15を挟み込み,その箇所に厚さ方向に加圧しつつ通電する。通電のための電極33は,電磁鋼板11との接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるので,先端部が多少変形しても,接触範囲w3は変化しない。従って,このようにしても,同じ電極33を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所17の形成が可能な製造方法となっている。
【0044】
さらに発明者らは,本発明を実験によって検証した。この実験の実施例としては,上記の第1の形態の特徴と第2の形態の特徴とをともに採用したものとした。この実験では,2枚の電磁鋼板11にそれぞれ有底穴25を形成して非磁性チップ15を挟み,加圧通電によって非磁性箇所を形成した。有底穴25の周囲の部分の絶縁皮膜12は残し,電極としては柱状のものを用いた。
【0045】
この実験の条件は,以下の通りとした。
電磁鋼板11の板厚 : 0.3mm
有底穴25の大きさ : 3mm径,0.15mm深さの円形穴
除去範囲22の大きさ : 10mm径円形
非磁性チップ15 : 3mm径,0.3mm厚のNi−Cr円板
電極33の先端部 : R100,8mm径のCr−Cu電極
加圧通電工程の条件 : 荷重2000N,電流8kA,通電時間150ms
【0046】
上記の条件で,多数の非磁性チップ15を用意し,同一の電極33を使用して次々と加圧通電処理を行った。その結果を図10に示す。この図では横軸に同じ電極33による繰り返しの回数である打点数をとり,縦軸に改質層の厚さを全板厚中の割合で示した改質率をとった。この実験では,改質率70%〜85%程度の範囲内となるように,加圧通電処理の条件を定めている。この図は,この実験のうち,数打点目までの初期段階,50打点目前後,100打点目前後をそれぞれプロットしたものである。実験の結果,図10に示すように,数打点目までの初期段階はもちろん,50打点目前後や100打点目前後の繰り返し後でも良好に改質されたことが確認できた。
【0047】
さらに,比較例についても実験を行った。この比較例では,有底穴25の開口部より広くその周りの絶縁皮膜12を除去した。また,電極の先端部の形状(先端部の径)を,上記の実施例とは異なるものとした。除去範囲22の大きさや加圧通電工程の条件は,実施例と同じとした。すなわち,比較例における各種の条件のうち,実施例と異なる点は以下の通りである。有底穴25の周囲の絶縁皮膜12を,幅3.5mm程度の範囲で全周にわたって除去した。これにより,この有底穴25に挿入される非磁性チップ15と絶縁被膜12とが接触しないようにした。また,電極31の先端部の径を8mm→19mmと太くした。
【0048】
上記の条件で,多数の非磁性チップ15を用意し,同一の電極31を使用して次々と加圧通電処理を行った。その結果を図11に示す。この図は,図10と同様に,横軸に打点数,縦軸に改質率をとって,繰り返しによる改質率の変化をグラフ化したものである。ただし,この図では1打点ごとにその改質率を示した。図11に示すように,この比較例では,8打点目にして改質率は50%まで落ち込んだ。この実験では,元の非磁性チップ15として全厚の50%のものを使用しているので,改質率50%とは,改質範囲が全く拡大していないことを意味している。すなわち,良好に非磁性箇所の形成が可能であったのは,7打点目までであった。
【0049】
従って,図10と図11との比較からも明らかなように,本形態の製造方法によれば,同じ電極を用いて加圧通電工程を多数回繰り返しても,適切に非磁性箇所を形成できることが確認できた。
【0050】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
11 電磁鋼板
12 絶縁皮膜
13 積層電磁鋼板
15 非磁性チップ
25,27 有底穴
28 貫通穴
31,33 電極
【技術分野】
【0001】
本発明は,重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板およびその製造方法に関する。さらに詳細には,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成することによる,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に,この種の積層電磁鋼板およびその製造方法が開示されている。本文献の第4,5の形態には,図12に示すように,溝102を形成した2枚の電磁鋼板101をその溝102が向かい合うように,溝102の中に非磁性チップ103を挟み込みつつ重ねて,厚さ方向に加圧通電する製造方法が記載されている。すなわち,非磁性チップ103の箇所において,厚さ方向の両側から電極105で挟んで加圧し,その状態で両電極105間に通電するのである。これにより,非磁性チップ103がその周囲の鋼とともに溶融されて,元の非磁性チップ103の大きさよりも一回り大きい非磁性箇所が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−219341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,前記した従来の技術には,同一の電極によって加圧通電を繰り返すと,非磁性箇所の品質が安定しなくなるという問題点があった。同じように通電しても非磁性チップが適切に溶融されず,その周囲の鋼を殆ど溶融させることなく終わってしまう例が出現するようになるのである。このような例のものでは適切な非磁性箇所が形成されていない。このようになる理由として,通電時の通電面積や電流密度にバラツキが発生し,非磁性チップ周辺の十分な発熱が得られていないことが考えられる。
【0005】
さらに詳細な調査をしたところ,図13に示すように,加圧通電に用いる電極105の先端部が変形していることがわかった。すなわち,元は図中で上側に示した電極105のように,その先端部のみが電磁鋼板101に接触し,必要な範囲のみに電流を流すようになっている。ところが,同じ電極105である程度繰り返して加圧通電を行うことにより,図中の下側に実線で示した電極106のように,先端部が変形し電磁鋼板101への接触面積が大きくなってしまうのである。そのため,非磁性チップ103を通らない電流が多くなってしまう。その結果,非磁性チップ103が適切に昇温されず,適切に改質できなくなるという問題点があった。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能である非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の積層電磁鋼板の製造方法は,絶縁皮膜を両面に有する複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法であって,重ね合わせられる電磁鋼板に,非磁性チップを収納するための凹部を,重ね合わせた状態でその凹部が全体の表裏面に現れないように形成し,重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板を露出させ,その状態で凹部に非磁性チップを収納しつつ電磁鋼板を重ね合わせて通電を行うものである。
【0008】
本発明の製造方法によれば,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせ,その間に非磁性チップを挟み込むと,非磁性チップの周囲のうち,厚さ方向に重なる領域は絶縁皮膜が除去されているとともに,面方向の周囲には絶縁皮膜が残されている状態となる。そのため,非磁性チップを挟み込んだ箇所の厚さ方向には,電磁鋼板が露出されて重ねられているので,この箇所で通電させて非磁性チップを溶融させることができる。その一方で,凹部に挟んだ非磁性チップの周囲は,絶縁皮膜が残されているので,電流は殆ど流れない。そのため,通電による電流はその殆どが非磁性チップの中を通ることになる。これは,電極の形状に関わらない。従って,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能となっている。
【0009】
さらに本発明では,2枚の電磁鋼板を用い,2枚の電磁鋼板のいずれにも1面側に有底穴を形成して凹部とし,2枚の電磁鋼板を有底穴同士が向き合うように重ね合わせるとともに,その2つの有底穴により形成される空間に非磁性チップを挟み込むことが望ましい。
このようにすれば,2枚の電磁鋼板の有底穴によって凹部が構成される。
【0010】
また本発明では,3枚以上の電磁鋼板を用い,3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚のいずれにも1面側に有底穴を形成するとともに残りの電磁鋼板に貫通穴を形成して凹部とし,3枚以上の電磁鋼板を,貫通穴が形成されたものを中央に配置し,有底穴が形成された2枚を有底穴が貫通穴と対面するように配置して重ね合わせるとともに,その2つの有底穴および貫通穴により形成される空間に非磁性チップを挟み込むようにしてもよい。
このようなものでは,両側の有底穴とそれらの間の貫通穴によって凹部が構成される。
【0011】
また本発明では,3枚以上の電磁鋼板を用い,3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚を除いたものに貫通穴を形成して凹部とし,3枚以上の電磁鋼板を,貫通穴が形成されたものを中央に配置し,残る2枚をそれらの両側に1枚ずつ配置して重ね合わせるとともに,その貫通穴の内部に非磁性チップを挟み込むようにしてもよい。
このようなものでは,貫通穴によって凹部が構成される。
【0012】
さらに本発明は,複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法であって,通電のための通電電極として,少なくとも電磁鋼板への接触面を含む部分が,接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるものを用い,接触面の全体が電磁鋼板の表面に接触するように通電電極の対で複数枚の電磁鋼板を加圧しつつ挟み付け,その状態で通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する方法であってもよい。
通電電極の接触面を含む部分が柱状形状であれば,加圧および加熱を繰り返してもその接触面の接触範囲がむやみに拡がるおそれはない。従って,このようにしても,非磁性チップを通らない電流を抑制することができるので,適切に非磁性箇所を形成することができる。
【0013】
さらに本発明では,通電のための通電電極として,接触面が,曲率半径100mm〜1000mmの範囲内の凸面であるものを用いることが望ましい。
このようなものであれば,接触面によって電磁鋼板を適切に加圧できる。
【0014】
また本発明は,絶縁皮膜を両面に有し重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板であって,複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち非磁性箇所と交差する位置にあるものは,非磁性箇所に対して隙間を置くことなく接しており,複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち非磁性箇所と交差しない位置にあるものは,非磁性箇所が存在する領域と重なる領域の少なくとも一部が除去されてその除去部分でブランクとなっている非磁性箇所を有する積層電磁鋼板にも及ぶ。
上記の製造方法によって製造した積層電磁鋼板は,このようなものとなっている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,同じ電極を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所の形成が可能である非磁性箇所を有する積層電磁鋼板およびその製造方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の形態に係る製造方法の絶縁皮膜除去および有底穴形成工程を示す説明図である。
【図2】製造途中の電磁鋼板を示す説明図である。
【図3】第1の形態に係る製造方法のチップ挿入工程を示す説明図である。
【図4】第1の形態に係る製造方法の加圧通電工程を示す説明図である。
【図5】非磁性箇所が形成された電磁鋼板を示す断面図である。
【図6】非磁性チップを電磁鋼板に挟んだ状態の別の例を示す説明図である。
【図7】非磁性チップを電磁鋼板に挟んだ状態の別の例を示す説明図である。
【図8】絶縁皮膜を除去した電磁鋼板を示す説明図である。
【図9】第2の形態に係る製造方法の加圧通電工程を示す説明図である。
【図10】実施例による改質率の例を示すグラフ図である。
【図11】比較例による改質率の例を示すグラフ図である。
【図12】従来の製造方法を示す説明図である。
【図13】従来の製造方法による電極の変形の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板と,加圧通電によってそれを製造する製造方法に係るものである。
【0018】
「第1の形態」
本形態は,図1〜図4に示すように,2枚の電磁鋼板11,11を積層して,図5に示すような積層電磁鋼板13を製造する方法である。本形態では,絶縁皮膜12が両面に設けられた電磁鋼板11を用い,以下の手順によって,その間に非磁性チップ15を挟み込み,非磁性箇所17を形成する。
1.絶縁皮膜除去および有底穴形成工程(図1)
2.非磁性チップ挿入および鋼板積層工程(図3)
3.加圧通電工程(図4)
【0019】
1.絶縁皮膜除去および有底穴形成工程
本形態では,図1に示すように,素材の電磁鋼板11として,その両面に絶縁皮膜12が設けられているものを使用する。この絶縁皮膜12は,積層した際に,電磁鋼板11同士の間を電気的に絶縁状態とするためのものである。例えば,クロム酸化物を含む有機膜等が好適である。なお,図ではかなり厚く示しているが,例えば0.3mm厚程度の電磁鋼板に設けられる絶縁皮膜12の厚さは1μm厚程度であり,厚さを無視できる程度に薄いものである。
【0020】
そして,この工程1においては,図1に示すように,2枚の電磁鋼板11のそれぞれについて,その一面(図中では面B)の絶縁皮膜12を部分的に除去する。例えば,ブラシやヘラ等で削り取るかまたは化学処理によって除去すればよい。その除去範囲22は,非磁性チップ15を挟む場所に対応して決定されている。また,もう片面(図中では面A)には,非磁性チップ15の平面形状に合わせた有底穴25を形成する。例えば,パルスレーザによる切削とすればよい。なお,有底穴25を形成することにより,その範囲内の絶縁皮膜12は当然失われ,この工程1の終了時には,電磁鋼板11の面Aは,有底穴25の縁辺まで絶縁皮膜12で覆われている状態となる。
【0021】
面Aは,2枚が積層されたときにもう1枚の電磁鋼板11と接触する面であり,この有底穴25には,後の工程で非磁性チップ15(図3参照)が挿入される。すなわち,有底穴25の形状は,挿入する非磁性チップ15の形状に合わせて設定されている。本形態では,円板状の非磁性チップ15を用いているので,有底穴25は非磁性チップ15の厚さの半分の深さであり,図2に示すように,その開口部の形状は円形である。この図2は,図1に示す電磁鋼板11を面Bの側(図中上方)から見たものである。このようなものとすれば,2枚の電磁鋼板11の有底穴25を合わせることによってちょうど非磁性チップ15が収まる空間を形成することができる。
【0022】
一方,面Bは,2枚が積層されたときに両外側に露出する面である。すなわち,複数枚の電磁鋼板11を重ね合わせたもの(図3参照)の全体の表裏面になる面である。図1に示すように,面Aの有底穴25に対応する範囲を含む範囲の絶縁皮膜12が除去され,除去範囲22となっている。つまり,図2に示すように,面Bの除去範囲22は,面Aの有底穴25と電磁鋼板11の厚さ方向に重なる位置に配置されている。そして,除去範囲22の内部では,円形状に電磁鋼板11自体が見えている。
【0023】
この除去範囲22の大きさは,後の工程において面Bに当接させる電極31(図4参照)の大きさを参照して決定される。本形態では電極31として,その電磁鋼板11への接触範囲w1が非磁性チップ15の平面形状より大きいものを用いるので,図2に示すように,面Bの除去範囲22は面Aの有底穴25の開口面積より大きい。なお,面Bの除去範囲22は,少なくとも非磁性チップ15の平面形状を含む範囲であればよく,電極31の接触範囲に合わせて適切に決定すればよい。
【0024】
2.非磁性チップ挿入および鋼板積層工程
次に,図3に示すように,2枚の電磁鋼板11を,その有底穴25の中に非磁性チップ15をはさむようにして,有底穴25の開口同士が向かい合うように配置する。これにより,2枚の電磁鋼板11の面Aの絶縁皮膜12同士が接触する。また,両者の有底穴25は,非磁性チップ15によって埋められ,非磁性チップ15の側面に絶縁皮膜12が接触する状態となる。本形態では,非磁性チップ15を収納するための凹部は,2枚の電磁鋼板11の有底穴25によって構成されている。鋼板積層工程が終了した後では,この凹部は,電磁鋼板11が重ね合わされた全体の表裏面には現れていない。
【0025】
3.加圧通電工程
次に,図4に示すように,両側の電磁鋼板11の面Bにそれぞれ電極31を当接させて加圧する。また,電極31を当接させる位置は,絶縁皮膜12を除去した除去範囲22の範囲内である。それはすなわち,非磁性チップ15を挟んだ箇所を両側の電極31によって厚さ方向に挟む位置である。そして,このように挟んで,両側の電極31の間に通電する。この通電によって,非磁性チップ15の周囲,特に電磁鋼板11との接触箇所から発熱し,非磁性チップ15が溶融しはじめる。
【0026】
通電を続けることによってこの溶融している範囲は,周りの電磁鋼板11をともに溶融させて次第に拡がる。両側の電磁鋼板11の面Bまで溶融が到達しないうちに,通電を停止する。通電時間は,非磁性チップ15の厚さや種類等によって異なり,実験によって予め決定されている。通電を停止することにより,電磁鋼板11は次第に放熱して降温し,内部の溶融した箇所は凝固する。このようにして,非磁性チップ15と電磁鋼板11とがともに溶融して,混ざり合ったまま凝固した範囲が,非磁性となった改質層であり,非磁性箇所17となる。これにより,図5に示すように,間に非磁性箇所17が形成された積層電磁鋼板13を得ることができる。
【0027】
この非磁性箇所17としては,重ね合わせた電磁鋼板11の表裏面へ露出しない範囲内でできるだけ厚く形成されることが好ましい。通常,非磁性チップ15の外周近傍から溶融し始めるため,非磁性箇所17の中央部分の厚さによって,改質の進行程度を量ることができる。そこで,図5に示すように非磁性箇所17の厚さDを測定し,その積層電磁鋼板13の全厚D0に対する割合を改質率Pと呼ぶ。
P = 100×D / D0 (%)
本形態では,改質率Pが70〜85%の範囲内となるように,非磁性チップ15の大きさや通電条件等を設定している。
【0028】
そして,このようにして得られた積層電磁鋼板13は,図5に示すように,絶縁皮膜12を有する電磁鋼板11が重ねられ,その重ね合わせの全体の表裏面には達しない非磁性箇所17を有するものとなっている。さらに,この非磁性箇所17と交差する位置にある絶縁皮膜12は,すなわち2枚の電磁鋼板11の互いに接触している面の絶縁皮膜12は,非磁性箇所17と接してその周囲に残っている。なお,非磁性箇所17は元の非磁性チップ15の大きさより図中で横方向にもやや大きくなっているが,この範囲の絶縁皮膜12は,非磁性チップ15の溶融時にともに溶け合って失われている。
【0029】
また,非磁性箇所17と交差しない位置にある絶縁皮膜12は,すなわち,2枚の電磁鋼板11の両外側の面の絶縁皮膜12は,非磁性箇所17が存在する範囲を含んでやや大きく除去されており,ブランクとなっている。なお,このブランクの範囲は,非磁性箇所17の全ての範囲を必ず含まなければいけないというわけではない。
【0030】
この工程3において使用する電極31は,図4に示したように,その先端部は曲面状となっている。また,電極31の先端面の全範囲が電磁鋼板11に接触されるわけではなく,図示のようにその頂部のみが接触される。従って,電磁鋼板11と電極31との接触面積は,電極31の先端面全体に比較して小さく,非磁性チップ15の平面形状とほぼ同等のものとなっている。本形態では,電極31として,その先端面が曲率半径100mm〜1000mm程度の範囲内の凸面となっているものを使用している。
【0031】
しかしながら,同じ電極31を用いて繰り返しこの工程3を行うと,図4中で下部に示したように,その先端部の形状がやや変化することが分かった。図中で下部に示したもののうち,破線で示しているのが元の電極31の形状である。繰り返し加圧通電することによって,電極31の先端部がやや押しつぶされ,実線で示したように変形する。そのため,電磁鋼板11への接触面積が少し大きくなる。
【0032】
すなわち,図4に示すように,各電極31が電磁鋼板11へ接触する面積は,元は接触範囲w1であったものが接触範囲w2と大きくなる。当然上下の電極31が両方とも同様に変形するため,通電範囲も大きくなる。なおこれは,従来の課題として図13に示したものと同じ現象である。なお,これらの図はもちろん,電極31の変形をかなり大げさに示したものである。
【0033】
しかし,本形態によれば,非磁性チップ15の際(きわ)まで絶縁皮膜12を残しているので,電流は非磁性チップ15の外側を通過することができない。従って,電極31の接触面積が大きくなったとしても,電極31間を流れる全ての電流が非磁性チップ15を通る。従って,非磁性チップ15を通過する電流密度を高く維持することができる。これにより,電極31が元の形状のままである場合と同様に,非磁性チップ15を適切に加熱させることができるので,適切に非磁性箇所17を形成することができる。従って,同じ電極31を用いて加圧通電を繰り返しても,適切な非磁性箇所17を有する積層電磁鋼板13を安定して得ることができる。
【0034】
なお,ここまでは,2枚の電磁鋼板11に,それぞれ有底穴25を形成して非磁性チップ15を挟むことにより非磁性箇所17を形成する製造方法について説明した。これ以外に,3枚以上の電磁鋼板11の間に非磁性箇所17を形成することももちろん可能である。例えば,図6に示すように,3枚の電磁鋼板11に非磁性チップ15を挟んでもよい。図6の例では,両外側に配置される2枚には有底穴27を,中央部に配置される電磁鋼板11には貫通穴28を形成している。さらに,中央部に貫通穴28を形成する電磁鋼板11を2枚以上重ねてもよい。この例では,2つの有底穴27と貫通穴28とによって,凹部を構成している。
【0035】
あるいは,図7に示すように,両側の電磁鋼板11には凹部を形成しないことも可能である。図7の例では,中央部の2枚の電磁鋼板11にのみ貫通穴28を形成した。両外側の電磁鋼板11は,その両面の絶縁皮膜12を凹部の箇所で除去しているのみである。この両外側の電磁鋼板11については,その両面とも必ず,絶縁皮膜12を除去することが必要である。この例では,2つの貫通穴28によって凹部を構成している。また,この例においても,貫通穴28を形成する電磁鋼板11の枚数は,1枚でもよいし,3枚以上でもよい。
【0036】
ただし,図7の例で両外側の電磁鋼板11では,図8に示すように,両面の絶縁皮膜12を除去する必要がある。4枚の電磁鋼板11を重ね合わせたときにその全体の表裏面となる面Bの除去範囲22は,2枚の電磁鋼板11にそれぞれ有底穴25を形成する例における面Bの除去範囲22(図1参照)と同じ範囲である。
【0037】
図6と図7のいずれの例においても,有底穴27や貫通穴28の周囲の部分の絶縁皮膜12は残されており,非磁性チップ15に接触している。従って,電極31が多少変形したとしても,非磁性チップ15を通過する電流密度を適切に維持できるので,十分な厚さの非磁性箇所17を形成することができる。
【0038】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,電磁鋼板11に非磁性チップ15を収納するための凹部として,有底穴25または有底穴27または貫通穴28を形成し,その電磁鋼板11を重ねている。これにより,電磁鋼板11の間に,非磁性チップ15を,全体の表裏面に現れないように収納することができる。そして,各電磁鋼板11の絶縁皮膜12のうち,穴25,27,28の周囲の部分を除去することなく残している。さらに,穴が開けられなかった電磁鋼板11を重ねる場合には,重ねた状態で厚さ方向に非磁性チップ15と重なる範囲の絶縁皮膜12のみを除去する。このようにして重ねた電磁鋼板11に厚さ方向に通電すれば,非磁性チップ15をその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所17を有する積層電磁鋼板13を形成することができる。そして,同じ電極31を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所17の形成が可能な製造方法となっている。
【0039】
「第2の形態」
本形態は,第1の形態と電極の形状が異なるものである。製造手順の各工程は第1の形態と同様であるので説明を省略し,第1の形態との相違点のみを説明する。
【0040】
本形態の加圧通電工程で用いる電極33は,図9に示すように,柱状のものである。すなわち,電極33はその先端面を含んで,押圧方向(図中で上下方向)に均一な形状となっている。また,この電極33は,第1の形態の電極31と比較して小径の電極であり,その先端面の全体が電磁鋼板11に接触される。その先端面の接触範囲w3は,電極31の新品時の接触範囲w1(図4参照)と同等程度しかない。また,電極33の柱状部分の外径は先端面の接触範囲w3と同じ大きさである。
【0041】
そのため,加圧通電を繰り返して先端部が多少変形したとしても,接触範囲w3は変化しない。ただし,本形態でも,電極33の先端部は平面ではなく,曲率半径100mm〜1000mm程度の範囲内の凸面であることが望ましい。このようになっていれば,接触範囲w3の全体で適切に電磁鋼板11に圧接させることができる。なお,電極33は,少なくとも先端部分が柱状となっていればよく,それより基部の箇所の形状は特に限定されない。
【0042】
本形態では,電極33の形状によって通電範囲が制限されている。そのため,絶縁皮膜12の除去範囲に関わらず,殆どの電流は非磁性チップ15を通り,非磁性チップ15より外側を迂回して通る電流はごく少ない。従って,絶縁皮膜12の除去範囲については精密に制限を設ける必要はない。すなわち,少なくとも接触範囲w3を含んでいればよい。例えば,図9に示すように,非磁性チップ15の範囲および接触範囲w3の範囲を含んでそれより大きく除去しておけばよい。この形態では,絶縁皮膜12の除去範囲の位置精度が多少低くても問題はない。
【0043】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,電磁鋼板11に非磁性チップ15を挟み込み,その箇所に厚さ方向に加圧しつつ通電する。通電のための電極33は,電磁鋼板11との接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるので,先端部が多少変形しても,接触範囲w3は変化しない。従って,このようにしても,同じ電極33を用いて加圧通電を繰り返しても,安定して適切な非磁性箇所17の形成が可能な製造方法となっている。
【0044】
さらに発明者らは,本発明を実験によって検証した。この実験の実施例としては,上記の第1の形態の特徴と第2の形態の特徴とをともに採用したものとした。この実験では,2枚の電磁鋼板11にそれぞれ有底穴25を形成して非磁性チップ15を挟み,加圧通電によって非磁性箇所を形成した。有底穴25の周囲の部分の絶縁皮膜12は残し,電極としては柱状のものを用いた。
【0045】
この実験の条件は,以下の通りとした。
電磁鋼板11の板厚 : 0.3mm
有底穴25の大きさ : 3mm径,0.15mm深さの円形穴
除去範囲22の大きさ : 10mm径円形
非磁性チップ15 : 3mm径,0.3mm厚のNi−Cr円板
電極33の先端部 : R100,8mm径のCr−Cu電極
加圧通電工程の条件 : 荷重2000N,電流8kA,通電時間150ms
【0046】
上記の条件で,多数の非磁性チップ15を用意し,同一の電極33を使用して次々と加圧通電処理を行った。その結果を図10に示す。この図では横軸に同じ電極33による繰り返しの回数である打点数をとり,縦軸に改質層の厚さを全板厚中の割合で示した改質率をとった。この実験では,改質率70%〜85%程度の範囲内となるように,加圧通電処理の条件を定めている。この図は,この実験のうち,数打点目までの初期段階,50打点目前後,100打点目前後をそれぞれプロットしたものである。実験の結果,図10に示すように,数打点目までの初期段階はもちろん,50打点目前後や100打点目前後の繰り返し後でも良好に改質されたことが確認できた。
【0047】
さらに,比較例についても実験を行った。この比較例では,有底穴25の開口部より広くその周りの絶縁皮膜12を除去した。また,電極の先端部の形状(先端部の径)を,上記の実施例とは異なるものとした。除去範囲22の大きさや加圧通電工程の条件は,実施例と同じとした。すなわち,比較例における各種の条件のうち,実施例と異なる点は以下の通りである。有底穴25の周囲の絶縁皮膜12を,幅3.5mm程度の範囲で全周にわたって除去した。これにより,この有底穴25に挿入される非磁性チップ15と絶縁被膜12とが接触しないようにした。また,電極31の先端部の径を8mm→19mmと太くした。
【0048】
上記の条件で,多数の非磁性チップ15を用意し,同一の電極31を使用して次々と加圧通電処理を行った。その結果を図11に示す。この図は,図10と同様に,横軸に打点数,縦軸に改質率をとって,繰り返しによる改質率の変化をグラフ化したものである。ただし,この図では1打点ごとにその改質率を示した。図11に示すように,この比較例では,8打点目にして改質率は50%まで落ち込んだ。この実験では,元の非磁性チップ15として全厚の50%のものを使用しているので,改質率50%とは,改質範囲が全く拡大していないことを意味している。すなわち,良好に非磁性箇所の形成が可能であったのは,7打点目までであった。
【0049】
従って,図10と図11との比較からも明らかなように,本形態の製造方法によれば,同じ電極を用いて加圧通電工程を多数回繰り返しても,適切に非磁性箇所を形成できることが確認できた。
【0050】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
11 電磁鋼板
12 絶縁皮膜
13 積層電磁鋼板
15 非磁性チップ
25,27 有底穴
28 貫通穴
31,33 電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁皮膜を両面に有する複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,前記非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで前記非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
重ね合わせられる電磁鋼板に,前記非磁性チップを収納するための凹部を,重ね合わせた状態でその凹部が全体の表裏面に現れないように形成し,
重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,前記凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,
重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,前記凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で前記凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板を露出させ,
その状態で前記凹部に前記非磁性チップを収納しつつ電磁鋼板を重ね合わせて通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
2枚の電磁鋼板を用い,
前記2枚の電磁鋼板のいずれにも1面側に有底穴を形成して前記凹部とし,
前記2枚の電磁鋼板を前記有底穴同士が向き合うように重ね合わせるとともに,その2つの有底穴により形成される空間に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
3枚以上の電磁鋼板を用い,
前記3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚のいずれにも1面側に有底穴を形成するとともに残りの電磁鋼板に貫通穴を形成して前記凹部とし,
前記3枚以上の電磁鋼板を,前記貫通穴が形成されたものを中央に配置し,有底穴が形成された2枚を前記有底穴が前記貫通穴と対面するように配置して重ね合わせるとともに,その2つの有底穴および貫通穴により形成される空間に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
3枚以上の電磁鋼板を用い,
前記3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚を除いたものに貫通穴を形成して前記凹部とし,
前記3枚以上の電磁鋼板を,前記貫通穴が形成されたものを中央に配置し,残る2枚をそれらの両側に1枚ずつ配置して重ね合わせるとともに,その貫通穴の内部に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,前記非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで前記非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
通電のための通電電極として,少なくとも電磁鋼板への接触面を含む部分が,前記接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるものを用い,
前記接触面の全体が電磁鋼板の表面に接触するように前記通電電極の対で複数枚の電磁鋼板を加圧しつつ挟み付け,
その状態で通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
通電のための通電電極として,前記接触面が,曲率半径100mm〜1000mmの範囲内の凸面であるものを用いることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
絶縁皮膜を両面に有し重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板において,
前記複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち前記非磁性箇所と交差する位置にあるものは,前記非磁性箇所に対して隙間を置くことなく接しており,
前記複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち前記非磁性箇所と交差しない位置にあるものは,前記非磁性箇所が存在する領域と重なる領域の少なくとも一部が除去されてその除去部分でブランクとなっていることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板。
【請求項1】
絶縁皮膜を両面に有する複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,前記非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで前記非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
重ね合わせられる電磁鋼板に,前記非磁性チップを収納するための凹部を,重ね合わせた状態でその凹部が全体の表裏面に現れないように形成し,
重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,前記凹部の形成により穴が開けられたものについては,その穴の周囲の部分を除去することなく残し,
重ね合わせられる電磁鋼板の絶縁皮膜のうち,前記凹部の形成により穴が開けられなかったものについては,重ね合わせた状態で前記凹部と重なる領域の部分を除去して電磁鋼板を露出させ,
その状態で前記凹部に前記非磁性チップを収納しつつ電磁鋼板を重ね合わせて通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
2枚の電磁鋼板を用い,
前記2枚の電磁鋼板のいずれにも1面側に有底穴を形成して前記凹部とし,
前記2枚の電磁鋼板を前記有底穴同士が向き合うように重ね合わせるとともに,その2つの有底穴により形成される空間に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
3枚以上の電磁鋼板を用い,
前記3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚のいずれにも1面側に有底穴を形成するとともに残りの電磁鋼板に貫通穴を形成して前記凹部とし,
前記3枚以上の電磁鋼板を,前記貫通穴が形成されたものを中央に配置し,有底穴が形成された2枚を前記有底穴が前記貫通穴と対面するように配置して重ね合わせるとともに,その2つの有底穴および貫通穴により形成される空間に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
3枚以上の電磁鋼板を用い,
前記3枚以上の電磁鋼板のうちの2枚を除いたものに貫通穴を形成して前記凹部とし,
前記3枚以上の電磁鋼板を,前記貫通穴が形成されたものを中央に配置し,残る2枚をそれらの両側に1枚ずつ配置して重ね合わせるとともに,その貫通穴の内部に前記非磁性チップを挟み込むことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
複数枚の電磁鋼板を重ね合わせるとともに,重ね合わせられる電磁鋼板の間に非磁性チップを挟み込み,前記非磁性チップを挟み込んだ箇所に厚さ方向に通電することで前記非磁性チップをその周囲の鋼とともに一時的に溶融させて非磁性箇所を形成する,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
通電のための通電電極として,少なくとも電磁鋼板への接触面を含む部分が,前記接触面と交差する方向を軸方向とする柱状形状であるものを用い,
前記接触面の全体が電磁鋼板の表面に接触するように前記通電電極の対で複数枚の電磁鋼板を加圧しつつ挟み付け,
その状態で通電を行うことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法において,
通電のための通電電極として,前記接触面が,曲率半径100mm〜1000mmの範囲内の凸面であるものを用いることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
絶縁皮膜を両面に有し重ね合わせられた複数枚の電磁鋼板と,重ね合わせられた電磁鋼板中に重ね合わせの全体の表裏面には達しないように形成された非磁性箇所とを有する積層電磁鋼板において,
前記複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち前記非磁性箇所と交差する位置にあるものは,前記非磁性箇所に対して隙間を置くことなく接しており,
前記複数枚の電磁鋼板の絶縁皮膜のうち前記非磁性箇所と交差しない位置にあるものは,前記非磁性箇所が存在する領域と重なる領域の少なくとも一部が除去されてその除去部分でブランクとなっていることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−210970(P2011−210970A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77562(P2010−77562)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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