説明

非経口投与を目的とするビンフルニンの医薬組成物、その調製方法およびその使用

【課題】水溶性塩の安定な無菌水溶液の形態にあるビンフルニン医薬組成物の提供。
【解決手段】pH3〜4の間の水溶性二酒石酸ビンフルニンの安定な無菌水溶液の形態において、ビンフルニン塩基濃度が1〜50mg/mlの間であり、防腐剤を含まない組成物。好ましくは、pH緩衝系のモル濃度が0.002M〜0.2Mの間であり、pH緩衝系が、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液またはクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、ビンフルニン(vinflunine)の非経口投与のための医薬組成物に関する。
【0002】
背景技術
ニチニチソウ(Vinca rosea)(キョウチクトウ科(Apocynacea family))に由来するアルカロイド類の抗新生物特性の研究により、インドール構造をもつ化合物、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチンまたはその誘導体、例えば、欧州特許EP0710240に記載の下式(a)のビンフルニン(20’,20’−ジフルオロ−3’,4’ジヒドロビノレルビン)の有利な活性を証明することは既に可能となっている。
【化1】

【0003】
しかし、これらの有効成分の注射用製剤の開発は、水溶液中でのそれらの安定性に関連する問題に常に直面してきた。
【0004】
何年もの間、凍結乾燥品しか販売されていなかった。投与前に溶媒瓶の内容物で即時再構成する必要があるため、凍結乾燥品にはその取り扱いから生じる危険性に伴う重大な欠点がある。すなわち:
− 再構成の実施が不適切であると、その間に生成物の微細な液滴が生じ、これが治療の実施者や施設を汚染する可能性があるという危険性、
− もし、この特殊な医薬品が異なる単位用量に相当する異なる瓶で提供されれば、溶媒量が不十分であるか、または不適切な量の有効成分が使用されること
である。
【0005】
この後者の点は特に重要である。それは、薬用量でない量を患者に投与すること、または患者を謝って過剰量に曝してしまうという潜在的可能性を示している。
【0006】
米国特許第4619935号は、ビンカアルカロイド類のためのすぐに使える注射液を処方することの可能性を示唆している。
【0007】
しかしながら、用いられる処方物は複雑である。それらは、有効成分に加えて、
− 糖質または糖に基づくポリオール、例えば、マンニトール、
− 溶液のpHを3.0〜5.0の範囲、より詳しくは、4.4〜4.8の範囲に保つための酢酸緩衝液、そのモル濃度は0.02〜0.0005Mの間、好ましくは、0.01〜0.002Mの間である、
− 抗菌物質保存剤
を含む。
【0008】
注目すべきは、アルカロイド類の分解によって生じるpH変化による分解を防止することを可能とする、酢酸緩衝液に起因する安定化効果にもかかわらず、この発明の主題であった処方物は5℃にて1年の安定性しかなかったことである。
【0009】
これらの特許処方物は複雑さを増している。特許FR2653998は、ビス−インドール型のアルカロイド、例えばビンクリスチン、ビンブラスチンまたは5’−ノル−アンヒドロビンブラスチンを含有する非経口使用のための医薬組成物を記載している。それは、水溶液中に、ビスインドール型のアルカロイド塩の亜鉛錯体、二価の金属グルコン酸塩および一価アルコールまたは多価アルコール中に溶解された保存剤を含むことを特徴とする。
【0010】
これらの組成物に示される安定性は、冷蔵庫で保存された場合少なくとも24ヶ月である。
【0011】
欧州特許EP0298192は、二量体ビンカアルカロイドの水溶液の安定性に対するエチレンジアミン四酢酸塩、特にナトリウム塩の好ましい効果を示している。これらの水溶液は、pHを3.0〜5.5の間、好ましくは、4.0〜5.0の間に保つために酢酸緩衝液で緩衝されている。
【0012】
これらの条件下で、採用された仕様(理論含量90%〜110%の間のアルカロイド含量)に関しては、溶液は2〜8℃の温度にて30ヶ月間安定な状態を保った。
また、ビンクリスチンの注射液に関するカナダ特許2001643も、溶液のpHを3.5〜5.5の間、より詳しくは4.0〜4.5の間に保つために酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液を使用する必要性を強調している。この発明に記載の製剤は5℃にて18ヶ月間安定しており、5℃にて24ヶ月間さらに安定である可能性もある。
【0013】
二酒石酸ビンフルニン、または20’,20’−ジフルオロ−3’,4’−ジヒドロビノレルビンL(+)−酒石酸塩は、白色の粉末であり、不活性ガス、例えば窒素またはアルゴン雰囲気下、負の温度、−15℃未満で保存しなければならない。
【0014】
全く予想外にも、二酒石酸ビンフルニンは、水中に溶けると微粉末の形態よりもはるかに安定していることが見出された。
具体的に言えば、注射用水溶液を正の温度、+2℃〜+8℃にて保存する。これは全く驚くべきことである。というのも、化学分解反応は固体よりも液体媒質中のほうがより容易に起こるということがよく知られているからである。
【0015】
従って、本発明は、pH3〜4の間の水溶性ビンフルニン塩の安定な無菌水溶液の形態にあることを特徴とする、ビンフルニン医薬組成物に関する。
本発明の主題は、非常に単純な処方に基づくものであり、冒頭で振り返った特許に記載されている組成物とは対照的である。
【発明の具体的説明】
【0016】
ビンフルニン塩は二酒石酸ビンフルニンであるのが有利である。
本発明の医薬組成物は、安定した、無菌かつ非発熱性の、すぐに使える注射用水溶液の形態であるのが有利である。
本発明の組成物は防腐剤を含まないのが有利である。
【0017】
本発明の第一の態様では、本発明の医薬組成物は、緩衝液を加えない単純な二酒石酸ビンフルニンの水溶液の形態である。従って、この組成物は二酒石酸ビンフルニンと注射用水からなる。この溶液のpHは3.5に等しいのが有利である。
【0018】
本発明の第二の態様では、本発明の医薬組成物はpH3〜4の間を維持するためにpH緩衝系を含む。本発明の医薬組成物は二酒石酸ビンフルニン、注射用水およびpH3〜4の間を維持するためにpH緩衝液からなるのがより一層有利である。pH緩衝系のモル濃度は0.002M〜0.2Mの間であるのが有利である。
【0019】
緩衝系は酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液またはクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液からなるのが有利である。
【0020】
pHは、モル濃度0.05M〜0.2Mの間の酢酸/酢酸ナトリウムまたはクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液で達成するのが有利である。
【0021】
pH緩衝液が酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液からなり、かつ、その時の組成物のpHが3.5であるか、pH緩衝液がクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液からなり、かつ、その時の組成物のpHが4であるのがさらにより有利である。
【0022】
本発明の組成物は、ビンフルニン塩基濃度が1〜50mg/mlの間、有利には25〜30mg/mlの間、特に25mg/mlまたは30mg/mlである二酒石酸ビンフルニンを含むのが有利である。従って、この濃度はビンフルニン塩基として表される。投与量は、患者の体表面積によって決まる。
【0023】
有利な一つの態様では、本発明の組成物は、次の処方:68.35mgの二酒石酸ビンフルニンと水2mlまで、または136.70mgの二酒石酸ビンフルニンと水4mlまで、または341.75mgの二酒石酸ビンフルニンと水10mlまで、のうちいずれか1つに相当する。ここで、これら各処方において二酒石酸ビンフルニンの量は、それぞれ50mgのビンフルニン塩基、100mgのビンフルニン塩基および250mgのビンフルニン塩基に相当する。これらのデータを下記表1にまとめる。
【0024】
【表1】

【0025】
前記表1は、ビンフルニン塩基換算で表して25mg/ml濃度の同じ二酒石酸ビンフルニン水溶液を種々の容積に分配することで、3つの単位用量のビンフルニンを瓶中に調製することができることを示す。
【0026】
本発明の別の態様では、本発明の組成物は、5℃±3℃にて少なくとも36ヶ月間安定な状態を保つ。
【0027】
本発明の特定の一つの態様では、本発明の医薬組成物は、0.9%塩化ナトリウムまたは5%グルコース溶液などの潅流溶液に溶解された後、静脈潅流により投与される。
【0028】
従って、本発明はまた、医薬品、特に癌治療用の医薬品としての使用のための、有利には非経口投与用の、有利には静脈潅流による投与用の、より有利には抗新生物薬および抗腫瘍薬として化学療法中での使用のための、本発明の医薬組成物に関する。
【0029】
また、本発明は、有利には癌治療を意図する、非経口投与用の、有利には静脈潅流による投与用の医薬品を製造するための、本発明の組成物の使用に関する。
【0030】
本発明のビンフルニン医薬組成物の非経口投与、特に静脈投与は、ビンフルニンの作用に感受性のある癌の治療を可能にする。
【0031】
また、本発明は、以下の連続工程:
(a)注射用水にビンフルニン塩を溶解する工程、
(b)必要に応じて、pH緩衝液を添加する工程、
(c)原液を濾過により除菌する工程、
を含む、本発明の組成物の調製方法に関する。
【0032】
本発明の特定の一つの態様では、本発明の方法は、工程(c)で容器中に得られた無菌組成物を、窒素雰囲気下で無菌分配するという、さらなる工程(d)を含む。この容器は、ガラス製の薬瓶、好ましくは琥珀色または無色のI型薬瓶、ガラス瓶、好ましくはエラストマー製の栓およびアルミニウム製クリンプキャップを備えた琥珀色または無色のI型ガラス瓶、または適合した即使用系、例えば、充填済みシリンジから選択するのが有利である。
【0033】
従って、本発明はまた、本発明の組成物を含有する包装容器に関する。
この包装容器は、ガラス製の薬瓶、好ましくは琥珀色または無色のI型薬瓶、ガラス瓶、好ましくはエラストマー製の栓およびアルミニウム製クリンプキャップを備えた琥珀色または無色のI型ガラス瓶、または適合した即使用系、例えば、充填済みシリンジから選択してよい。
【0034】
以下、実施例を、限定されない例示として示す。
【実施例】
【0035】
実施例1:微粉末形態の二酒石酸ビンフルニンの安定性と水溶液中の二酒石酸ビンフルニン(本発明の組成物)の安定性の比較
下記表2は、25℃にて3ヶ月および6ヶ月の保存後の、凍結乾燥した微粉末二酒石酸ビンフルニンのバッチ(バッチ503)、およびこの同じ二酒石酸ビンフルニンバッチで製造された25mg/mlのビンフルニン塩基を含有する水溶液のバッチ(バッチSB0222)に対して得られた安定性結果を示す。存在するビンフルニン関連不純物の総量の変化を観察することによって、安定性をモニタリングした。
【0036】
【表2】

【0037】
25℃にて6ヶ月間保存の後、ビンフルニン関連不純物の総量は、
二酒石酸ビンフルニン水溶液中で62%、
微粉末二酒石酸ビンフルニンでは197%
増加した。
【0038】
実施例2:本発明の組成物のpHの関数としての安定性の研究
安定性研究を、二酒石酸ビンフルニン水溶液について、pH範囲2.5〜5.0の間、さらに詳しくは3.0〜4.0の間で行った。このpHは、0.2モルの酢酸/酢酸ナトリウムまたはクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液で得られた。
用いた処方比率を下記表3に表す。これらはビンフルニン塩基濃度30mg/mlに相当する。
【0039】
【表3】

【0040】
結果を、同一条件下で保存された、緩衝液を加えない単純な二酒石酸ビンフルニン水溶液に関するものと比較した。この溶液のpHは3.5に等しい。
試験液の組成および参照番号を下記の表4にまとめる。
【0041】
【表4】

【0042】
図1は、表3に示される各処方物に対し、厳しい条件下で(60℃にて45日)のビンフルニン関連不純物の総含量の変化をHPLCで測定し、時間の関数として示したものである。
【0043】
それらは下記表4に示される結果で補足されるが、この表は60℃にて7日間にわたる溶液の色の変化を示したものである。
これらの溶液の吸光度を410nmの紫外域でモニタリングしたところ、HPLCではクロマトグラフ分離されないビンフルニン酸化誘導体の出現が明らかとなった。
【0044】
【表5】

【0045】
緩衝されていない溶液(pH=3.5)だけが、60℃にて7日後の吸光度が0.200未満である。
【0046】
この結果は、pH値が3.0〜4.0の間であるビンフルニンのほうが安定性に優れているが、緩衝液を構成するイオンの性質に依存することを示す。pH3.5で、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液はクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液よりも優れた安定性をもたらす。後者の緩衝液では、結果はpH4のほうが優れている。
【0047】
全く予想外にも、二酒石酸ビンフルニン水溶液の安定性は、その自然なpH3.5で、pH3.5に緩衝された二酒石酸ビンフルニン水溶液の安定性よりも優れていることが見出された。
【0048】
これらの優れた結果は、下記表6にまとめられた長期結果により確認され、本発明の注射用ビンフルニン水性医薬組成物が、実質的な分解を受けることなく5℃±3℃にて少なくとも36ヶ月間保存されうることを示している。
【0049】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】表3に示される各処方物に対し、厳しい条件下で(60℃にて45日)のビンフルニン関連不純物の総含量の変化をHPLCで測定し、時間の関数として示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH3〜4の間の水溶性ビンフルニン塩の安定な無菌水溶液の形態にある、ビンフルニン医薬組成物。
【請求項2】
ビンフルニン塩が二酒石酸ビンフルニンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
二酒石酸ビンフルニンおよび注射用水からなる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
pH3〜4の間を維持するためにpH緩衝系を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
pH緩衝系のモル濃度が0.002M〜0.2Mの間である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
pH緩衝系が、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液またはクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液からなる、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
ビンフルニン塩基濃度が1〜50mg/mlの間、有利には25〜30mg/mlの間、特に25mg/mlである二酒石酸ビンフルニンを含む、請求項2〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
次の処方:68.35mgの二酒石酸ビンフルニンと水2mlまで、または136.70mgの二酒石酸ビンフルニンと水4mlまで、または341.75mgの二酒石酸ビンフルニンと水10mlまで(ここで、この二酒石酸ビンフルニンはそれぞれ50mgのビンフルニン塩基、100mgのビンフルニン塩基および250mgのビンフルニン塩基に相当する)のうちのいずれか1つである、請求項2〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
5℃±3℃にて少なくとも36ヶ月間安定な状態を保つ、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
非経口投与用、有利には静脈潅流による投与用の医薬品を製造するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
医薬品が癌治療用である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を調製するための方法であって、
以下の連続工程:
(a)注射用水にビンフルニン塩を溶解する工程、
(b)必要に応じて、pH緩衝液を添加する工程、
(c)原液を濾過により除菌する工程、
(d)工程(c)で得られた滅菌組成物を窒素雰囲気下で、容器中に、有利にはガラス製の薬瓶、ガラス瓶および充填済みシリンジから選択される容器中に、無菌分配する工程
を含んでなる、方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を収容する、包装容器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102120(P2012−102120A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−283976(P2011−283976)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2006−546235(P2006−546235)の分割
【原出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】