説明

非還元性糖質生成酵素とその製造方法並びに用途

【課題】 澱粉部分分解物から非還元性糖質の製造方法の確立とその用途開発を目的とする。
【解決手段】 本発明は、グルコース重合度が3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する新規非還元性糖質生成酵素とその製造方法、それを産生する微生物、加えて、この新規非還元性糖質生成酵素を用いて製造される末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含有する低還元性糖質、およびこれらから製造されるトレハロース、並びにこれら非還元性糖質を含有せしめた組成物を主な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非還元性糖質生成酵素とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には、グルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する新規非還元性糖質生成酵素とその製造方法、それを産生する微生物、加えて、この新規非還元性糖質生成酵素を用いて製造される末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、および、これらから製造されるトレハロース、並びにこれら非還元性糖質を含有せしめた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースを構成糖とする非還元性糖質として、古くからトレハロース(α,α−トレハロース)が知られており、その存在は、非特許文献1および非特許文献2などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースのような非還元性糖質は、アミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、含アミノ酸物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
【0003】
トレハロースの製造方法としては、例えば、特許文献1で報告されている微生物菌体を用いる方法や、特許文献2で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合せでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物菌体を用いる方法は、該菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当り15質量%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、質量%を単に%と略称する)未満と低く、その上、これを抽出、精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼおよびトレハロース・ホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコース−1リン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、両酵素の反応系が可逆反応で目的物の生成率が低く、更には、両酵素の反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
【0004】
これに関係して、非特許文献3の「オリゴ糖」の項において、「トレハロースについては著しく広い応用範囲が考えられるが、本糖の澱粉糖質からの直接糖転移、加水分解反応を用いた酵素的生産は、現在のところ学術的には不可能であるといわれている。」と記載されているように、澱粉を原料とし、酵素反応によってトレハロースを製造することは、従来、学術的にも不可能であると考えられてきた。
【0005】
一方、澱粉を原料として製造される澱粉部分分解物、例えば、澱粉液化物、各種デキストリン、各種マルトオリゴ糖などは、通常、その分子の末端に還元基を有し還元性を示すことが知られている。このような澱粉部分分解物を、本明細書では、還元性澱粉部分分解物と称する。一般に、還元性澱粉部分分解物は、固形物当りの還元力の大きさをデキストロース・エクイバレント(Dextrose Equivalent,DE)として表している。この値の大きいものは、通常、分子が小さく低粘度で、甘味が強いものの、反応性が強く、アミノ酸や蛋白質などのアミノ基を持つ物質とアミノカルボニル反応を起こし易く、褐変し、悪臭を発生して、品質を劣化し易い性質のあることが知られている。
【0006】
このような還元性澱粉部分分解物の種々の特性は、DEの大小に依存しており、還元性澱粉部分分解物とDEとの関係は極めて重要である。従来、当業界では、この関係を断ち切ることは不可能とさえ信じられてきた。
【0007】
還元性澱粉部分分解物とDEとの関係を断ち切る唯一の方法は、還元性澱粉部分分解物を高圧水素添加法などによって、その還元基を糖アルコールに変換して非還元性糖質にする方法である。しかし、この方法は、高圧オートクレーブを必要とし、多量の水素やエネルギーを消費するのみならず、防災上からも高度な安全施設や管理を必要としている。その上、得られる還元性澱粉部分分解物の糖アルコールは、原料の還元性澱粉部分分解物がグルコースのみからなるのに対し、グルコースとソルビトールとから構成される点で異なり、それを摂取することによって、一過性ではあるが、難消化、緩下の症状を起こす懸念もある。従って、還元性澱粉部分分解物の構成糖であるグルコースを変えることなく、その還元力を低減若しくは消滅させる方法の確立が望まれる。
【0008】
【特許文献1】特開昭50−154485号公報
【特許文献2】特開昭58−216695号公報
【非特許文献1】『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Advances in Carbohydrate Chemistry)』、第18巻、第201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国)
【非特許文献2】『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)』、第56巻、第3213乃至3215頁(1990年)
【非特許文献3】「澱粉利用開発の現状と課題」、『月刊フードケミカル』、8月号、第67乃至72頁(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来信じられてきた還元性澱粉部分分解物とDEとの関係を打破し、還元性澱粉部分分解物の新たな用途を開拓するため、還元性澱粉部分分解物からの非還元性糖質の新規製造方法とその非還元性糖質並びにその用途を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する全く新しい非還元性糖質生成酵素の実現に期待を込めて、この酵素を産生する微生物を土壌より広く検索してきた。その結果、岡山県岡山市の土壌から、新たに分離した新規微生物、リゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物M−11、および岡山県総社市の土壌から新たに分離した新規微生物、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する新規微生物Q36が、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する新規非還元性糖質生成酵素を産生することを見いだし、この非還元性糖質生成酵素を還元性澱粉部分分解物に作用させることにより、目指していたトレハロース構造を有する非還元性糖質が容易に製造しうることを見いだし、また、還元性澱粉部分分解物に、この非還元性糖質生成酵素を作用させ、次いでグルコアミラーゼまたはα−グルコシダーゼを作用させることにより、容易にトレハロースを製造しうることを見いだし、本発明を完成した。更に、この非還元性糖質生成酵素を産生する微生物を、公知菌より広く検索した。その結果、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属、テラバクター(Terrabacter)属に属する微生物も、本発明の非還元性糖質生成酵素を産生することが判明し、前記のリゾビウム属、アルスロバクター属に属する微生物由来の非還元性糖質生成酵素と同様に、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成することを見いだし、本発明を完成した。併せて、この非還元性糖質、これを含む低還元性糖質および/またはトレハロースを含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品などの組成物を確立して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来する澱粉部分分解物から、従来、望むべくして容易に得られなかったトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、およびこれから容易に製造されるトレハロースを、工業的に大量かつ安価に供給できる全く新しい道を拓くこととなり、それが与える影響の大きさは、澱粉科学、酵素科学、生化学などの学問分野は言うに及ばず、産業界、とりわけ食品、化粧品、医薬品分野は勿論のこと、農水畜産業、化学工業にも及び、これら産業界に与える工業的意義は計り知れないものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明のリゾビウム属に属する微生物M−11の同定試験結果を示す。なお、同定試験は、『微生物の分類と同定』(長谷川武治編、学会出版センター、1985年)に準じて行った。
【0013】
<A:細胞形態>
肉汁寒天培養、27℃:通常0.6乃至0.8×1.0乃至1.5μmの桿菌。単独、希に対をなし、連鎖した細胞も観察される。多形性なし。運動
性あり。無胞子。鞭毛は周鞭毛。非抗酸性。グラム陰性。カプセル陰性。異染顆粒陽性。Poly−β−hydroxy butyrateを蓄積。
【0014】
<B:培養的性質>
(1) 肉汁寒天平板培養、27℃
形状 :円形 大きさは24時間で約1.5mm。
周縁 :全縁
隆起 :偏平状ないし半レンズ状
光沢 :あり
表面 :平滑
色調 :半透明、クリーム色
(2) デキストロース・トリプトン寒天平板培養、27℃:コロニーは半透明、クリーム色、mucoid生成
(3) 酵母エキス・マンニトール寒天平板培養、27℃:
形状 :円形 大きさは5日で約3mm。
色調 :半透明、クリーム色、mucoid生成
(4) コンゴーレッド含有酵母エキス・マンニトール寒天平板培養、27℃:コロニーは仄かなピンク色で、ほとんどコンゴーレッドを吸収しない。
(5) 2w/v%NaCl含有酵母エキス・マンニトール寒天平板培養、27℃:生育する。
(6) 肉汁寒天斜面培養、27℃:
生育 :良好
形状 :糸状
(7) 肉汁ゼラチン穿刺培養、27℃
液化しない。
【0015】
<C:生理学的性質>
(1) 硝酸塩の還元性 :陽性
(2) 脱窒反応 :陰性
(3) メチルレッド試験 :陰性
(4) VP試験 :陰性
(5) インドールの生成 :陰性
(6) 硫化水素の生成 :陽性
(7) 澱粉の加水分解 :陰性
(8) クエン酸の利用 :陽性
(9) 無機窒素源の利用 :アンモニウム塩および硝酸塩ともに利用できる。
(10) 色素の生成 :可溶性色素の生成はない
(11) ウレアーゼ :陽性
(12) オキシダーゼ :陰性
(13) カタラーゼ :陽性
(14) 生育の範囲 :pH 5.5乃至9.0
温度 4乃至35℃
(15) 酸素に対する態度 :好気性
(16) 炭素源の利用性と酸生成の有無
利用性 酸生成
D−グルコース 利用する 陽性
D−ガラクトース 利用する 陽性
D−フラクトース 利用する 陽性
L−アラビノース 利用する 陽性
D−キシロース 利用する 陽性
L−ラムノース 利用する 陽性
マルトース 利用する 陰性
スクロース 利用する 陽性
ラクトース 利用する 陰性
トレハロース 利用する 陰性
ラフィノース 利用する 陽性
マンニトール 利用する 陰性
デキストリン 利用する 陰性
ズルシトール 利用する 陰性
(17)アミノ酸の脱炭酸試験 :L−リジン、L−アルギニン、L−オルニチンいずれに対しても陰性。
(18)アミノ酸の利用 :L−グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−ヒスチジン、L−プロリンいずれも利用する。
(19) DNase :陰性
(20) 3−ケトラクトースの生成:陰性
(21) DNAのG−C含量 :61%
【0016】
以上の菌学的性質に基づいて、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)』、第1巻(1984年)を参考にして、公知菌との異同を検討した。その結果、リゾビウム属に属する微生物であることが判明した。本菌は、リゾビウム・メリロッチ(Rhizobium meliloti)に近い性質を示すものの、この菌とは違って、マルトース、ラクトース、マンニトールから酸を生成しない点に違いが認められ、また、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素を産生する文献未記載の特徴を有している。
【0017】
これらの結果より本発明者等は、本菌を新規微生物リゾビウム・スピーシーズ(Rhizobium sp.)M−11と命名し、平成4年12月24日付で、工業技術院微生物工業技術研究所に寄託し、微生物受託番号 微工研条寄第4130号(FERM BP−4130)として受託された。
【0018】
本発明では、上記菌のみならず、リゾビウム属に属し、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素を産生する他の菌株、更には、それら菌株の変異株なども適宜用いられる。
【0019】
次に本発明のアルスロバクター属に属する微生物Q36の同定試験結果を示す。なお、同定試験は、リゾビウム属に属するM−11の場合と同様に、『微生物の分類と同定』、(長谷川武治編、学会出版センター、1985年)に準拠して行った。
【0020】
<A:細胞形態>
(1) 肉汁寒天培養、27℃:通常0.5乃至0.7×0.8乃至1.6μm桿菌。単独。多形性あり。運動性なし。無胞子。鞭毛なし。非抗酸性。グラム陽性。カプセル陰性。
(2) EYG寒天培養、27℃:桿菌−球菌の生育サイクルを示す。
【0021】
<B:培養的性質>
(1) 肉汁寒天平板培養、27℃
形状 :円形。大きさは3日間で2乃至2.5mm。
周縁 :全縁
隆起 :半レンズ状
光沢 :湿光
表面 :平滑
色調 :半透明、白色乃至淡い黄色
(2) 肉汁寒天斜面培養、27℃
生育度 :良好
形状 :糸状
(3) 酵母エキス−ペプトン寒天斜面培養、27℃
生育度 :良好
形状 :糸状
(4) 肉汁ゼラチン穿刺培養、27℃
液化する。
【0022】
<C:生理学的性質>
(1) 硝酸塩の還元性 :陽性
(2) 脱窒反応 :陰性
(3) メチルレッド試験 :陰性
(4) VP試験 :陽性
(5) インドールの生成 :陰性
(6) 硫化水素の生成 :陽性
(7) 澱粉の加水分解 :陰性
(8) セルロースの分解 :陰性
(9) クエン酸の利用 :陽性
(10) 無機窒素源の利用 :アンモニウム塩および硝酸塩ともに利用できる。
(11) 色素の生成 :なし
(12) ウレアーゼ :陽性
(13) オキシダーゼ :陰性
(14) カタラーゼ :陽性
(15) 生育の範囲 :pH 5乃至10
温度 4乃至37℃
(16) 酸素に対する態度 :好気性
(17) 炭素源の利用性と酸生成の有無
利用性 酸生成
D−グルコース 利用する 陰性
D−ガラクトース 利用する 陰性
D−フラクトース 利用する 陰性
L−アラビノース 利用する 陰性
D−キシロース 利用する 陰性
L−ラムノース 利用する 陰性
マルトース 利用する 陰性
スクロース 利用する 陰性
ラクトース 利用する 陰性
ラフィノース 利用する 陰性
マンニトール 利用する 陰性
デキストリン 利用する 陰性
ズルシトール 利用する 陰性
(18) アミノ酸の利用 :L−グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−ヒスチジン、L−プロリンいずれも利用する。
(19) DNase :陽性
(20) 3−ケトラクトースの生成:陰性
(21) 細胞壁の主要ジアミノ酸 :リジン
(22) DNAのG−C含量 :63%
【0023】
以上の菌学的性質をもとにして、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)』、第2巻(1984年)を参考にして、公知の菌株とその異同を検討した。その結果、本菌は、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物であることが判明した。また、本菌は、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素を産生する文献未記載の特徴を有している。
【0024】
これらの結果より本発明者等は、本菌を新規微生物アルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.)Q36と命名し、平成5年6月3日付けで、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託し、受託番号 FERM BP−4316として受託された。
【0025】
本発明では上記菌株のみならず、アルスロバクター属に属し、還元性澱粉部分分解物からトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素を産生する他の菌株、更には、それら菌株の変異株なども適宜用いられる。
【0026】
本発明に用いられる微生物としては、本発明の非還元性糖質生成酵素産生能を有するものであればよく、例えば、前記の新規微生物リゾビウム・スピーシーズM−11 FERM BP−4130およびアルスロバクター・スピーシーズ Q36 FERM BP−4316だけでなく、公知微生物であるブレビバクテリウム・ヘロボルム(Brevibacterium helovolum)ATCC11822、フラボバクテリウム・アクアティレ(Flavobacterium aquatile)IFO3772、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)IFO3064、ミクロコッカス・ロゼウス(Micrococcus roseus)ATCC186、クルトバクテリウム・シトレウム(Curtobacterium citreum)IFO15231、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)ATCC19420、テラバクター・ツメスセンス(Terrabacter tumescens)IFO12960なども有利に利用できる。
【0027】
本発明の微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本発明の非還元性糖質生成酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地および天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜、還元性澱粉部分分解物などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択される。例えば、還元性澱粉部分分解物の場合には、通常、20%以下が望ましく、菌の生育および増殖からは5%以下が好ましい。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物および、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物が用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いられる。
【0028】
培養は、通常、温度4乃至40℃、好ましくは20乃至37℃、pH4乃至10、好ましくは5乃至9から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は微生物が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは10時間乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したり、通気に酸素を追加したり、また、ファーメンター内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養または連続培養のいずれでもよい。
【0029】
このようにして、微生物を培養した後、本発明の酵素を回収する。本酵素活性は、培養物の菌体および除菌液いずれにも認められ、菌体および除菌液を粗酵素液として採取することも、また、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには公知の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものをそのまま遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。除菌液をそのまま酵素液として用いることができるが、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮方法としては、例えば、硫安塩析法、アセトンおよびアルコール沈殿法、平膜、中空糸膜など膜濃縮法などが採用される。
【0030】
更に、除菌液およびその濃縮物を公知の方法により固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂および膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが採用される。また、培養物から分離した菌体もそのまま粗酵素として用いることができるが、これを固定化して用いてもよい。一例として、これをアルギン酸ナトリウムと混合して、塩化カルシウム溶液中に滴下して粒状にゲル化させて固定化する。この粒状化物をさらにポリエチレンイミン、グルタールアルデヒドで処理して固定化してもよい。菌体から酵素を抽出して、その抽出液を粗酵素液として用いることもできる。例えば、超音波による破砕法、ガラスビーズおよびアルミナによる機械的破砕法、フレンチプレスによる破砕法などで菌体から酵素を抽出し、遠心分離または膜濾過などで清澄な粗酵素液を得ることができる。
【0031】
本酵素液はそのまま用いることができるが、公知の方法によって更に精製して利用することもできる。一例として、培養液の処理物を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、DEAE−トヨパール樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、ブチルトヨパール樹脂を用いた疎水カラムクロマトグラフィー、トヨパール HW−55樹脂を用いたゲル濾過クロマトグラフィーを用いて精製することにより、電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
【0032】
このようにして得られる本発明の非還元性糖質生成酵素は、下記の理化学的性質を有する。
(1) 作用
グルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約76,000乃至87,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約3.6乃至4.6。
(4) 至適温度
pH7.0、60分間反応で、35乃至40℃付近。
(5) 至適pH
40℃、60分間反応で、pH約6.4乃至7.2。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、35乃至40℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約5.5乃至11.0。
【0033】
本発明の非還元性糖質生成酵素の活性測定方法は、基質としてマルトペンタオース1.25w/v%(50mMリン酸緩衝液、pH7.0)4mlに酵素液を1ml加え40℃で60分間反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させ、その反応液を正確に脱イオン水で10倍に希釈し、その希釈液の還元力をソモギー・ネルソン法にて測定する。対照として、あらかじめ100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液を用いて同様に測定する。上記の測定方法を用いて、1分間に1μmoleのマルトペンタオースに相当する還元力を減少させる酵素量を1単位と定義した。
【0034】
本酵素の基質としては、澱粉、アミロペクチン、アミロースなどの澱粉をアミラーゼまたは酸などによって部分的に加水分解して得られる還元性澱粉部分分解物が用いられる。アミラーゼで分解した直鎖または枝分かれ構造を有する還元性澱粉部分分解物としては、例えば、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレイテツド・エンザイムズ(Handbook of Amylases and Related Enzymes)』(1988年)パーガモン・プレス社(東京)に記載されている、α−アミラーゼ、マルトトリオース生成アミラーゼ、マルトテトラオース生成アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーゼなどのアミラーゼで分解した還元性澱粉部分分解物を用いる。更には、還元性澱粉部分分解物を調製する際、プルラナーゼおよびイソアミラーゼなどの枝切酵素を作用させることも随意である。また、還元性澱粉部分分解物として、マルトオリゴ糖、例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースなどの1種または2種以上を用いることも有利に実施できる。
【0035】
基質濃度は特に限定されない。例えば、0.1%の基質溶液として用いた場合でも、本酵素の反応は進行するが、工業的には、2%以上、望ましくは、5乃至50%の高濃度反応が好適であり、トレハロース構造を有する非還元性糖質を有利に生成できる。また、基質溶液中に完全に溶けきれない不溶性基質を含有するものであってもよい。反応温度は酵素反応が進行する温度、すなわち55℃附近までで行えばよいが、好ましくは40乃至50℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、5乃至10の範囲に調整すればよいが、好ましくは約pH6乃至8の範囲に調整する。反応時間は酵素反応の進行により適宜選択する。
【0036】
上記の反応によって得られた非還元性糖質を含む反応液は、基質に用いた還元性澱粉部分分解物と比較して、顕著に還元力が低下している。例えば、基質にマルトペンタオースを用いた場合、本酵素反応により反応液が示す還元力は、基質マルトペンタオース溶液の示す始発還元力の約93%が消失し、約7%にまで低下する。
【0037】
反応液は、常法により、濾過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩して精製し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、更に、精製、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコールおよびアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、酵母での発酵処理、アルカリ処理などによる残存している還元性糖質の分解除去などの方法を1種または2種以上組み合わせて精製することにより、最高純度の非還元性糖質製品を得ることも容易である。
【0038】
とりわけ、工業的大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的物の含量を向上させた非還元性糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0039】
このようにして得られた本発明のトレハロース構造を有する非還元性糖質またはこれを含む低還元性糖質を、必要により、アミラーゼ、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどや、またはα−グルコシダーゼで分解し、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも、また、水素添加して残存する還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。
【0040】
とりわけ、本発明の非還元性糖質またはこれを含む低還元性糖質に対して、グルコアミラーゼまたはα−グルコシダーゼを作用させることにより容易にトレハロースを製造することができる。即ち、これらの非還元性または低還元性糖質にグルコアミラーゼまたはα−グルコシダーゼを作用させてトレハロースとグルコースとの混合溶液とし、これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取する。これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させてトレハロース含水結晶または無水トレハロース結晶を得ることも有利に実施できる。
【0041】
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度約60%以上、濃度約65乃至90%のトレハロース高含有液を助晶缶にとり、0.1乃至20%の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは10乃至90℃の範囲で、攪拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。マスキットからトレハロース含水結晶またはこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
【0042】
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。噴霧乾燥方法の場合には、通常、濃度70乃至85%、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分10乃至20%、晶出率10乃至60%程度のマスキットを約0.1乃至3日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕または切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
【0043】
また、無水結晶トレハロースを製造するには、トレハロース含水結晶を乾燥して変換させることもできるが、一般的には、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶缶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で攪拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕、流動造粒、噴霧乾燥などの方法で晶出、粉末化して製造される。
【0044】
このようにして製造される本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびトレハロースは、原料の還元性澱粉部分分解物と比較して、還元性が低く安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸を有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することもなく、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、還元性澱粉部分分解物の場合とは違って、還元力が、低いにもかかわらず低粘度であり、平均グルコース重合度が低いものの場合には、良質で上品な甘味を有している。
【0045】
更に、アミラーゼ、例えば、すい臓由来α−アミラーゼにより分解し、低分子非還元性オリゴ糖や低分子マルトオリゴ糖を生成し、また、これらオリゴ糖も、α−グルコシダーゼや小腸酵素でも容易に分解し、グルコース及びトレハロースを生成し、更に、生成したトレハロースはトレハラーゼにより容易にグルコースにまで分解することから、経口摂取により、消化吸収され、カロリー源として利用される。虫歯誘発菌などによって、醗酵されにくく、虫歯を起こしにくい甘味料としても利用できる。
【0046】
また、安定な甘味料であることにより、結晶製品の場合には、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの結合剤と併用して錠剤の糖衣剤として利用することも有利に実施できる。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他の糖の晶出防止性、難醗酵性、糊化澱粉の老化防止性などの性質を具備している。
【0047】
また、無水結晶トレハロースの場合には、食品、医薬品、化粧品、その原材料、または加工中間物などの含水物の脱水剤としても有利に利用でき、安定で高品質の粉末、顆粒、錠剤など固状物を容易に製造することができる。
【0048】
従って、本発明の非還元性糖質、またはこれを含む低還元性糖質およびこれらから製造されるトレハロースは、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤、脱水剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0049】
本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびこれらから製造されるトレハロースは、そのまま甘味付のための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メープルシュガー、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種または2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0050】
また、本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびこれらから製造されるトレハロースの粉末乃至結晶状製品は、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。
【0051】
また、本発明の非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびこれらから製造されるトレハロースの甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0052】
例えば、アミノ酸、ペプチド類、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、核酸系調味料、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に使用できる。
【0053】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、合成酒、洋酒などの酒類、コーヒー、紅茶、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食物への甘味付に、呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0054】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、または呈味改良剤、矯味剤として、さらには品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。
【0055】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質またはこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適用できる。例えば、インターフェロン−α、−β、−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、スプレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ローヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の液状、ペースト状または固状の健康食品や医薬品などに容易に製造できることとなる。
【0056】
以上述べたような各種組成物にトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、およびこれらから製造されるトレハロースを含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常0.1%以上、望ましくは1%以上含有せしめるのが好適である。
【0057】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0058】
まず、新規微生物リゾビウム・スピーシーズ M−11からの非還元性糖質生成酵素の生産、精製およびその性質などを説明し、次いで、アルスロバクター・スピーシーズ Q36からの非還元性糖質生成酵素について同様に説明する。更に、公知微生物からの非還元性糖質生成酵素について説明する。
【0059】
<実験1:リゾビウム・スピーシーズ M−11からの非還元性糖質生成酵素の生産>
マルトース2.0w/v%、ペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、リン酸二ナトリウム0.1w/v%、リン酸一カリウム0.1w/v%および水からなる液体培地をpH7.0に調整した。500ml容三角フラスコにこの培地を約100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で20分間滅菌し、冷却して、リゾビウム・スピーシーズ M−11(FERM BP−4130)を接種し、27℃、130rpmで24時間培養したものを種培養液とした。
【0060】
容量30lのファーメンターに種培養の場合と同組成の培地約20lを入れて滅菌、冷却して温度30℃とした後、種培養液1w/v%を接種し、温度30℃、pH6.0乃至8.0に保ちつつ、約24時間通気攪拌培養した。培養液の本酵素活性は約1.5単位/mlであった。培養液の一部を採り遠心分離して菌体と培養液上清とに分離し、更に菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で元の培養液と同じ液量の懸濁液とした後、菌体懸濁液と培養液上清の酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には約0.6単位/mlの酵素活性が、また、培養液上清には約0.9単位/mlの酵素活性が認められた。
【0061】
<実験2:酵素の精製>
実験1で得られた培養液約18lを超高圧菌体破砕装置ミニラボ(大日本製薬株式会社製)で処理し、含まれる菌体を破砕した。処理液を遠心分離(10,000rpm、30分間)することにより、約16lの上清を得た。その液に飽和度0.2になるように硫安を溶解させ、4℃、1時間放置した後、遠心分離(10,000rpm、30分間)することにより上清を回収した。
【0062】
更に、その液に飽和度0.6になるように硫安を溶解させ、4℃、24時間放置した後、遠心分離(10,000rpm、30分間)して硫安塩析物を回収した。得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離(10,000rpm、30分間)して不溶物を除いた。その透析液(360ml)を2回に分けて、DEAE−トヨパールゲル(東ソー株式会社製造)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。
【0063】
本酵素はDEAE−トヨパールゲルに吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。得られる酵素活性画分を、2M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離(10,000rpm、30分間)して不溶物を除き、得られる上清をブチルトヨパール650ゲル(東ソー株式会社製造)を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。吸着した本酵素を硫安2Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムから溶出させ、酵素活性画分を回収した。続いて、トヨパールHW−55樹脂(東ソー株式会社製造)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行い、酵素活性画分を回収した。精製の各工程における酵素活性量、比活性、収率を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の工程でゲル濾過溶出液として得られた精製酵素標品をポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度7.5%)を用いる電気泳動法で純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であることが示され、得られた酵素標品は電気泳動的に単一な純度の高い標品であった。
【0066】
<実験3:酵素の性質>
実験2で得られた精製酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%)を用いる電気泳動法に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約77,000乃至87,000ダルトンであった。
【0067】
精製酵素標品をポリアクリルアミドゲル(2%アンフォライン含有、スウエーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を用いる等電点電気泳動法に供し、泳動後、ゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点は約3.6乃至4.6であった。
【0068】
本酵素活性に対する温度の影響、pHの影響は活性測定方法に準じて調べた。結果を図1(温度の影響)、図2(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で、40℃付近、至適pHは、40℃、60分間反応で、約7.0であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液を含む、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で25℃、16時間保持した後、pHを7に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図3(温度安定性)、図4(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は40℃付近まで安定であり、pH安定性は約6乃至9であった。
【0069】
<実験4:非還元性糖質の調製>
基質として、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはマルトヘプタオースの20%水溶液を調製し、それぞれに実験2で得られた精製酵素を基質固形物グラム当たり2単位の割合で加え、40℃、pH7.0で48時間作用させた後、脱塩し、ワコービーズ WB−T−330カラム(和光純薬工業株式会社製)を用いた高速液体クロマトグラフィーで反応生成物を分析した。高速液体クロマトグラフィーは、室温下で行い、溶離液として水を流速0.5ml/分で流し、示差屈折計RI−8012(東ソー株式会社製造)で分析した。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2の結果から明らかなように、反応物中には残存するそれぞれの基質と新たに生成したそれぞれの糖質PI、PII、PIII、PIV、PVからなり、それ以外の糖質はほとんど検出されない。それぞれの生成率はグルコース重合度3のPIが比較的低いものの、グルコース重合度4以上のPII、PIII、PIV、PVは85%以上の高い生成率であることが判明した。なお、グルコース、マルトースからは、新たな糖質を生成しないことが判明した。
【0072】
それぞれの反応物から新たに生成した糖質を精製するため、脱色、脱塩、濃縮後、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(XT−1016、Na型、架橋 度4%、東京有機化学工業株式会社製造)を用いたカラム分画を行った。樹脂を内径2.0cm、長さ1mのジャケット付ステンレス製カラム3本に充填し、直列につなぎ、カラム内温度を55℃に維持しつつ、反応糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、新たに生成した糖質含量97%以上の高純度画分を採取した。得られた高純度画分を真空乾燥し、それぞれ高純度糖質標品を調製した。基質原料に対する収率は、固形物換算で、それぞれPIで約9%、PIIで約65%、PIIIで約82%、PIVで約80%、PVで約77%であった。その純度は、それぞれPIで97.5%、PIIで98.6%、PIIIで99.5%、PIVで98.4%、PVで98.4%であった。
【0073】
またこれらの新たに生成した高純度糖質標品の還元力をソモギー・ネルソン法で測定し、DEで表した。結果は表3にまとめた。
【0074】
【表3】

【0075】
表3の結果から明らかなように、いずれの標品にも僅かな還元力しか認めらなかった。その僅かな還元力は、その標品中に微量に混入、残存している基質由来の還元性マルトオリゴ糖に起因するものと推定され、新たに生成した糖質はいずれも実質的に非還元性であると判断される。
【0076】
<実験5:メイラード反応>
実験4において調製した糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、またはPVの10%とグリシン1%と、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを含む溶液を100℃で90分間保ち、冷却後、この溶液の480nm、1cmセルにおける吸光度を測定した。対照として、それぞれの原料であるマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはマルトヘプタオースを用いて、同様に、処理し、480nmにおける吸光度を測定した。それらの結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
表4の結果から明らかなように、新たに生成した非還元性糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、PVのいずれもメイラード反応による着色度は極めて低く、それぞれ原料の基質であるマルトオリゴ糖の着色度の僅かに3乃至6%程度であり、本発明の新規酵素によって生成する非還元性糖質はメイラード反応をほとんど示さない糖質であることが判明した。
【0079】
<実験6:グルコアミラーゼによる酵素分解>
実験4において調製した非還元性糖質標品、PI、PII、PIII、PIVまたは、PVのそれぞれ50mgを、50mM酢酸緩衝液(pH4.5)1mlに溶解し、1単位のグルコアミラーゼ(生化学工業株式会社製造)を加え、40℃で6時間保ち、酵素分解した後、高速液体クロマトグラフィーで分解物を分析したところ、いずれの標品からも分解物としてグルコースとトレハロースのみが検出された。検出されたグルコース含量、トレハロース含量、その組成モル比の結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5の結果から明らかなように、グルコアミラーゼにより、非還元性糖質PIはグルコース1分子とトレハロース1分子に分解され、非還元性糖質PIIはグルコース2分子とトレハロース1分子に分解され、非還元性糖質PIIIはグルコース3分子とトレハロース1分子に分解され、非還元性糖質PIVはグルコース4分子とトレハロース1分子に分解され、非還元性糖質PVはグルコース5分子とトレハロース1分子に分解されることが判明した。
【0082】
また、グルコアミラーゼの反応特性を考慮すると、これら非還元性糖質の構造はトレハロース分子にグルコース分子がα−1,4−結合、もしくはα−1,6−結合で結合した糖質で、それぞれ、PIはトレハロース1分子にグルコース1分子が結合したグルコース重合度3の非還元性糖質で、PIIはトレハロース1分子にグルコース2分子が結合したグルコース重合度4の非還元性糖質で、PIIIはトレハロース1分子にグルコース3分子が結合したグルコース重合度5の非還元性糖質で、PIVはトレハロース1分子にグルコース4分子が結合したグルコース重合度6の非還元性糖質で、PVはトレハロース1分子にグルコース5分子が結合したグルコース重合度7の非還元性糖質であると判断される。なお、同様に、非還元性糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、またはPVにβ−アミラーゼを作用させたところ、非還元性糖質PI、PIIは分解されず、PIIIはマルトースの1分子とPIの1分子に分解され、PIVはマルトースの1分子とPIIの1分子に分解され、PVはマルトースの2分子とPIの1分子に分解されることが判明した。
【0083】
以上の結果から、本発明の非還元性糖質生成酵素による反応は、基質の低分子化および高分子化を伴わない、換言すれば、グルコース重合度の変化を伴わない、分子内変換反応と判断され、また、この非還元性糖質生成酵素によって生成した非還元性糖質、PI、PII、PIII、PIVおよびPVは、それぞれ、α−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロースおよびα−マルトペンタオシルトレハロースで示されるα−グリコシルトレハロース(Gn−T:但し、 Gはグルコース残基を意味し、nは1以上の整数を意味し、Tはα,α−トレハロースを意味する。)であると判断される。
【0084】
<実験7:各種の酵素による分解>
実験4において調製した非還元性糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、またはPVのそれぞれを基質として、ブタすい臓由来α−アミラーゼ(シグマ社販売)、コメ由来α−グルコシダーゼ(シグマ社販売)、またはラット小腸アセトン粉末酵素(シグマ社販売)のそれぞれに作用させた後、分解物の糖組成を高速液体クロマトグラフィーで分析した。α−アミラーゼの反応は、それぞれの基質10mgを、50mMリン酸緩衝液(pH6.9)1mlに溶解し、これに、酵素活性1単位加え、37℃で18時間保って行った。α−グルコシダーゼの反応は、50mM酢酸緩衝液(pH4.0)を用いた以外、α−アミラーゼの場合と同様の条件で行った。ラット小腸アセトン粉末酵素の場合も、50mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)を用いた以外、α−アミラーゼの場合と同様の条件で行った。α−アミラーゼによる分解物の糖組成を以下の表6に、α−グルコシダーゼおよびラット小腸アセトン粉末酵素による分解物の糖組成を以下の表7、表8に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
表6の結果から明らかなように、糖質標品、PI及びPIIは、α−アミラーゼによりほとんど分解されないものの、糖質標品、PIII、PIV、およびPVはα−アミラーゼにより低分子のオリゴ糖、PI、PII、マルトトリオース、マルトース及びグルコースにまで分解されることが判明した。
【0089】
また、表7、表8の結果から明らかなように、糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、PVいずれもα−グルコシダーゼ及びラット小腸アセトン粉末酵素により、実験6のグルコアミラーゼの場合と同様に、グルコースとトレハロースにまで分解されることが判明した。
【0090】
また、同様にα−グルコシダーゼ及びラット小腸アセトン粉末酵素によって分解されたそれぞれの反応物に、更に、1単位のブタ腎臓由来トレハラーゼ(シグマ社販売)を加え、pH5.7、37℃で18時間作用させ、高速液体クロマトグラフィー法で糖組成を分析したところ、糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、PVいずれの場合も、α−グルコシダーゼ及びラット小腸アセトン粉末酵素により生成したトレハロースはトレハラーゼによりグルコースにまで分解することが判明した。
【0091】
上述のように、
(1) 非還元性糖質生成酵素は、グルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物から、そのグルコース重合度を変化することなく、トレハロース構造を有する非還元性糖質を生成している。
(2) 非還元性糖質PVは、α−アミラーゼにより、主に非還元性糖質PIIとマルトトリオースを生じ、非還元性糖質PIIは、グルコアミラーゼにより、トレハロース1分子とグルコース2分子を生じている。
これらの結果から、本発明の非還元性糖質生成酵素は、還元性澱粉部分分解物の還元性末端を非還元性のトレハロース構造に分子内変換する全く新しい作用機作の酵素であると判断される。
【0092】
<実験8:急性毒性>
7週齢のdd系マウスを使用して、実験4において調製した非還元性糖質標品、PI、PII、PIII、PIV、またはPVを経口投与して急性毒性試験を行った。その結果、これら非還元性糖質はいずれも低毒性の物質で、投与可能な最大投与量においても死亡例は認められなかった。従って、正確な値とはいえないが、それらのLD50値は、いずれも50g/kg以上であった。
【0093】
<実験9:アルスロバクター・スピーシーズ Q36からの非還元性糖質生成酵素の生産>
リゾビウム・スピーシーズ M−11(FERM BP−4130)に代えて、アルスロバクター・スピーシーズ Q36(FERM BP−4316)を用いた以外は、実験1と同様にファーメンターで約72時間培養した。培養液の非還元性糖質生成酵素の酵素活性は、約1.2単位/mlであった。実験1と同様にして菌体懸濁液と培養液上清の酵素活性を測定したところ、それぞれ約0.5単位/mlおよび約0.7単位/mlであった。
【0094】
<実験10:酵素の精製>
実験9の方法で得られた培養液約18lを用いて、実験2と同様に精製した。精製の各工程結果は表9にまとめた。
【0095】
【表9】

【0096】
表9の工程で、ゲル濾過溶出液として得られた精製酵素標品を、実験2の場合と同様に電気泳動法で純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であることが示され、得られた酵素標品は電気泳動的に単一な純度の高い標品であった。
【0097】
<実験11:酵素の性質>
実験10で得られた精製酵素標品を、実験3の場合と同様に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分子量を測定したところ、約76,000乃至86,000ダルトンであった。また、本精製酵素標品の等電点を実験3の場合と同様に等電点電気泳動法で求めたところ、pI約3.6乃至4.6であった。また、本酵素活性に対する温度の影響、pHの影響、および本酵素の温度安定性、pH安定性について、実験3の場合と同様にして求めた。結果は、温度の影響を図5に、pHの影響を図6に、温度安定性を図7に、pH安定性を図8に示した。
【0098】
図から明らかなように酵素の至適温度は40℃付近、至適pHは約6.5乃至7.0である。温度安定性は40℃付近までであり、pH安定性は約6.0乃至9.5である。
【0099】
<実験12:非還元性糖質の調製>
実験10で得られた精製酵素標品を用いて、実験4および実験6の方法に従って、非還元性糖質の調製とその構造確認の実験を行ったところ、リゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素の場合と同様に、グルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の非還元性糖質を生成することが判明した。
【0100】
<実験13:公知微生物からの非還元性糖質生成酵素の生産とその性質>
公知微生物のうち、本発明の非還元性糖質生成酵素産生能の確認された表10に示す特定の微生物を、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)ATCC19420の場合に37℃で培養した以外は、実験1の場合と同様にファーメンターで27℃で72時間培養した。それぞれの培養液約18lを用いて、実験2の場合と同様に、培養液を破砕装置にかけ、その上清を硫安塩析、透析し、更にイオン交換カラムにかけ、部分精製酵素標品を得、その性質を調べた。結果を表10にまとめた。
【0101】
【表10】

【0102】
また、これら公知菌由来の部分精製酵素を用いて、実験12の方法に従って、非還元性糖質の調製とその構造確認を行ったところ、いずれの酵素もリゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素の場合と同様に、グルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上から選ばれる1種または2種以上の非還元性糖質を生成することが判明した。
【0103】
<実験14:非還元性糖質生成酵素の部分アミノ酸配列>
(1)N末端アミノ酸配列
実験2の方法で得られたリゾビウム・スピーシーズ M−11由来の精製酵素標品および実験10の方法で得られたアルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の精製酵素標品の一部をそれぞれ蒸留水に対して透析した後、蛋白量として約80マイクログラムをN末端アミノ酸配列分析用の試料とした。N末端アミノ酸配列は、プロテインシーケンサー モデル473A(アプライドバイオシステムズ社製造、米国)を用い、N末端から10残基まで分析した。それぞれ得られたN末端配列を表11に示す。
【0104】
【表11】

【0105】
表11から明らかなように、N末端アミノ酸配列は、その末端アミノ酸がリゾビウム・スピーシーズ M−11由来酵素の場合バリンまたはメチオニンで、アルスロバクター・スピーシーズ Q36の場合のメチオニンと異なっているものの、分析したアミノ酸配列10残基中の8残基までが一致している。その中でも第2番目のL−アルギニン残基から第4番目のL−プロリン残基まで3残基のアミノ酸配列、および第6番目のL−セリン残基から第10番目のL−ロイシン残基まで5残基のアミノ酸配列は両酵素間で完全に一致している。すなわち、N末端アミノ酸配列は、X−アルギニン−トレオニン−プロリン−X−セリン−トレオニン−チロシン−アルギニン−ロイシン−(但し、Xはバリンまたはメチ オニンを意味し、Xはアラニンまたはバリンを意味する。)の共通配列を有していることが判明した。
【0106】
(2)内部部分アミノ酸配列
実験2の方法で得られたリゾビウム・スピーシーズ M−11由来の精製酵素標品または実験10の方法で得られたアルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の精製酵素標品の一部をそれぞれ10mMトリス・塩酸緩衝液(pH9.0)に対して、透析した後、同緩衝液で約1mg/mlの濃度になるように希釈した。これら試料液(1ml)それぞれに10μgのリジルエンドペプチターゼ(和光純薬株式会社販売)を加え、30℃、22時間反応させることによりペプチド化した。生成したペプチドを単離するため、逆相HPLCを行った。リゾビウム・スピーシーズ M−11由来酵素の場合、カプセルパックC18カラム(直径4.6mm×長さ250mm、株式会社資生堂製造)を用い、流速0.6ml/分、室温で、0.1v/v%トリフルオロ酢酸−16v/v%アセトニトリル溶液から0.1v/v%トリフルオロ酢酸−48v/v%アセトニトリル溶液の60分間のリニア−グラジエントの条件で行った。アルスロバクター・スピーシーズ Q36由来酵素の場合、マイクロボンダパックC18カラム(直径2.1mm×長さ150mm、ウオーターズ社製造、米国)を用い、流速0.9ml/分、室温で0.1v/v%トリフルオロ酢酸−30v/v%アセトニトリル溶液から0.1v/v%トリフルオロ酢酸−55v/v%アセトニトリル溶液の60分間のリニア−グラジエントの条件で行った。カラムから溶出したペプチドは、波長210nmの吸光度を測定することにより検出した。他のペプチドとよく分離したそれぞれ3ペプチド[リゾビウム属酵素由来ペプチド、R37(保持時間約37分)、R40(保持時間約40分)、R42(保持時間約42分);アルスロバクター属酵素由来ペプチド、A17(保持時間約17分)、A22(保持時間約22分)、A40(保持時間約40分)]を分取し、それぞれを真空乾燥した後、200μlの0.1v/v%乃至50v/v%アセトニトリル溶液に溶解した。それらペプチド試料をプロテインシーケンサーに供し、それぞれ10残基までアミノ酸配列を分析した。得られた内部部分アミノ酸配列を表12に示す。
【0107】
【表12】

【0108】
表12から明らかなように、リゾビウム・スピーシーズ M−11酵素のペプチドR37の配列と、アルスロバクター・スピーシーズ Q36酵素のペプチドA17の配列とは完全に一致し、また、ペプチドR40とペプチドA22の配列も完全に一致した。ペプチドR42とペプチドA40とでは、分析した10残基中の7残基が一致している。すなわち、ペプチドR42とペプチドA40の部分アミノ酸配列は、グルタミン酸−グリシン−アルギニン−X−セリン−X−チロシン−アラニン−X−アラニン−(但し、Xは、グリシンまたはグルタミンを意味し、Xはプロリンまたはアルギニンを意味し、Xはバリンまたはグルタミン酸を意味する。)の共通配列を有している。
【0109】
以下、本発明の非還元性糖質、それを含む低還元性糖質およびトレハロースの製造方法を実施例1乃至8で、非還元性糖質、それを含む低還元性糖質および/またはトレハロースを含有せしめた組成物を実施例9乃至23で示す。
【実施例1】
【0110】
リゾビウム・スピーシーズ M−11(FERM BP−4130)を実験1の方法に準じて、ファーメンターで約36時間培養した。培養後、SF膜を用いて除菌濾過し、約18lの培養濾液を回収し、更に、その濾液をUF膜濃縮し、本発明の非還元性糖質生成酵素濃縮液約1l(17.7単位/ml)を回収した。
【0111】
6%馬鈴薯澱粉乳を加熱糊化させた後、pH4.5、温度50℃に調整し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)を澱粉グラム当たり2500単位の割合になるように加え、20時間反応させた。その反応液をpH6.0に調整し、オートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで45℃に冷却し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製造、商品名ターマミール60L)を澱粉グラム当たり150単位の割合になるよう加え、24時間反応させた。
【0112】
その反応液をオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、45℃に冷却し、これに上記の方法で調製した非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり1単位の割合になるよう加え、96時間反応させた。その反応液を95℃に加熱し10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度70%のシラップを固形物当り約91%で得た。
【0113】
本品は、DE18.8であって、非還元性糖質を固形物当り、PI 8.3%、PII 5.5%、PIII 37.7%、PIV 1.4%、およびPV 1.3%を含有しており、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例2】
【0114】
実施例1の方法で得られた糖液を原糖液とし、非還元性糖質の含量を高めるため、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(XT−1016、Na型、 架橋度4%、東京有機化学工業株式会社製造)を用いたカラム分画を行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度を55℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、グルコース及びマルトース高含有画分を除去し、非還元性糖質高含有物を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、非還元性糖質高含有粉末を固形物当り収率約61%で得た。
【0115】
本品は、DE5.7であって、非還元性糖質を、固形物当たり、PI 9.3%、PII 7.4%、PIII 55.5%、PIV 2.1%、PV 1.9%を含有しており、実施例1と同様に、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例3】
【0116】
33%とうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1重量%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.5に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製造、商品名ターマミール60L)を澱粉グラム当たり0.2重量%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を10分間行った後、55℃に冷却し、これに特開昭63−240784号公報で開示されているマルトテトラオース生成アミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)を澱粉グラム当たり5単位の割合になるように加え、6時間反応させ、これにα−アミラーゼ(上田化学株式会社製造、商品名α−アミラーゼ2A)を澱粉グラム当たり30単位加え、更に、65℃で4時間反応させた。その反応液を、オートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで45℃に冷却し、実施例1の方法で調製した非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位の割合になるよう加え、64時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度70%のシラップを固形物当り収率約90%で得た。
【0117】
本品は、DE10.5であって、非還元性糖質を、固形物当たり、PI 3.7%、PII 43.7%、PIII 1.2%、PIV 1.1%、およびPV 0.6%を含有しており、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例4】
【0118】
実施例3の方法で得られた糖液を原糖液とし、本液の非還元性糖質PII(グルコース重合度4)の含量を高めるため、分画用樹脂として、塩型強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社販売、商品名ダウエックス50W−X4、Mg++型)を用いた以外は、実施例2の方法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、非還元性糖質PII高含量画分を採取した。更に、精製、濃縮し、噴霧乾燥して、非還元性糖質高含有粉末を固形物当り収率約40%で得た。
【0119】
本品は、非還元性糖質を固形物当り、PI 8.5%、PII 68.0%、PIII 1.4%含有しており、そのDEは、3.5を示し、極めて還元性が少なく、実施例3と同様に、温和で上品な甘味を有しており、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例5】
【0120】
マルトペンタオース(株式会社林原生物化学研究所製造)の20%水溶液に実施例1の方法で調製した非還元性糖質生成酵素をマルトペンタオースグラム当たり1.0単位の割合になるよう加え、45℃で48時間反応させた。反応によりマルトペンタオースの約93%が非還元性糖質PIIIに変換した。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩し、濃縮した。更に、非還元性糖質PIII(グルコース重合度5)の含量を高めるため実施例2と同様に、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂を用いたカラム分画を行い、PIII高含有画分を採取した。本画分溶液を精製、濃縮し、噴霧乾燥して、高純度非還元性糖質粉末を固形物当り収率約55%で得た。
【0121】
本品は、非還元性糖質を、固形物当たり PIII、99.0%を含有しており、そのDEは、約0.2%未満しか示さず、極めて還元性が低い。本品は、かすかな甘味を有しており、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例6】
【0122】
澱粉部分分解物(松谷化学工業株式会社製造、商品名パインデックス#4)40質量部を水60質量部に加熱溶解し、この溶液を45℃、pH6.5に調整した後、実施例1の方法で調製した非還元性糖質生成酵素を澱粉部分分解物グラム当たり1単位の割合になるように加えて96時間反応させ、次いで100℃に10分間加熱して、酵素を失活させた。本反応液を濃度約20%まで希釈し、グルコアミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製造、商品名グルコチーム)を澱粉部分分解物グラム当たり10単位加えて40時間反応させ、次いで加熱して酵素を失活させた。本溶液を、常法に従って、活性炭にて脱色し、イオン交換樹脂にて脱塩し、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には固形物当たり29.5%のトレハロースを含有していた。分画用樹脂として、塩型強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社販売、商品名CG6000、Na型)を用いた以外は、実施例2の方法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当たり約90%のトレハロースを含有していた。本溶液を濃度約75%に濃縮した後、助晶缶にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて徐冷し、晶出率約45%のマスキットを得た。本マスキットを乾燥塔上のノズルより150kg/cm2の高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部より送風し、底部に設けた移送金網コンベア上に結晶粉末を捕集し、コンベアの下より45℃の温風を送りつつ、該粉末を乾燥塔外に徐々に移動させて、取り出した。この結晶粉末を熟成塔に充填して温風を送りつつ、10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、トレハロース含水結晶粉末を得た。
【0123】
本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定化剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【実施例7】
【0124】
馬鈴薯澱粉1質量部を澱粉当たり0.01質量%の割合にα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製造、商品名ネオスピターゼ)を含む水6質量部に攪拌混合し、pH6.0に調整後、この懸濁液を85乃至90℃に保ち、糊化と液化を同時に起こさせ、直ちに120℃に5分間加熱して、DE1.0未満にとどめ、これを55℃に急冷し、pH7.0に調整し、これに株式会社林原生物化学研究所製造、商品名プルラナーゼ(EC 3.2.1.41)および実施例3で述べたマルトテトラオース生成アミラーゼをそれぞれ澱粉グラム当たり150単位および8単位の割合で加え、pH7.0、50℃で36時間反応させた。
【0125】
この反応液を、オートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで、45℃に冷却し、これに実験13の方法で調製したブレビバクテリウム・ヘロボルム ATCC11822由来の非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位の割合になるよう加え、64時間反応させた。この反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型、OH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、噴霧乾燥して非還元性糖質含有粉末を固形物当たり収率約90%で得た。
【0126】
本品は、DE 11.2であって、非還元性糖質を、固形物当たり、PI 2.9%、PII 61.5%およびPIII 0.8%を含有しており、温和で上品な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例8】
【0127】
アルスロバクター・スピーシーズ Q36(FERM BP−4316)を実験9の方法に準じて、ファーメンターで約72時間培養した。培養液を遠心分離して除菌し、上清をUF膜で約10倍に濃縮し、本発明の非還元性糖質生成酵素濃縮液(約15.2単位/ml)を回収した。
【0128】
30%とうもろこし澱粉乳を用いて、実施例3の方法に準じて、α−アミラーゼ(ノボ社製造)、マルトテトラオース生成アミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)およびα−アミラーゼ(上田化学株式会社製造)を作用させ、オートクレーブ(120℃)処理し、次いで、45℃に冷却し、これに上記の方法で調製した非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり2単位になるよう加え、64時間反応させた。次いで100℃に10分間加熱して酵素を失活させた。本反応液を、実施例6の方法に準じて、グルコアミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製造)を作用させ、脱色、脱塩して濃度約60%に濃縮した。本糖液中には、固形物当たり約25%のトレハロースを含有していた。本糖液を実施例6の方法に準じて塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当たり約95%のトレハロースを含有していた。本溶液を蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分約4.0%のシラップとし、助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、95℃で5分間攪拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分約0.3%の無水結晶トレハロース粉末を得た。
【0129】
本品は、食品、医薬品、化粧品、その原材料、または加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても有利に利用できる。
【実施例9】
【0130】
<甘味料>
実施例4の方法で得た非還元性糖質高含有粉末1質量部に、α−グリコシルステビオシド(東洋精糖株式会社販売、商品名αGスイート)0.01質量部およびL−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(味の素株式会社販売、商品名アスパルテーム)0.01質量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2倍の甘味度を有し、甘味度当たりカロリーは、蔗糖の約1/2に低下している。
【0131】
本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付に好適である。
【0132】
また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付にも好適である。
【実施例10】
【0133】
<ハードキャンディー>
濃度55%蔗糖溶液100質量部に実施例3の方法で得た非還元性糖質含有シラップ30質量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1質量部および適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。
【0134】
本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出、変形も起こらない高品質のハードキャンディーである。
【実施例11】
【0135】
<チューインガム>
ガムベース3質量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖4質量部および実施例6の方法で得たトレハロース含水結晶粉末3質量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。
【0136】
本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。
【実施例12】
【0137】
<加糖練乳>
原乳100質量部に実施例1の方法で得た非還元性糖質含有シラップ3質量部および蔗糖1質量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。
【0138】
本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【実施例13】
【0139】
<乳酸菌飲料>
脱脂粉乳175質量部、実施例2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末80質量部および特開平4−281795号公報で開示されているラクトスクロース高含有粉末50質量部を水1,200質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。
【0140】
本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
【実施例14】
【0141】
<粉末ジュース>
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33質量部に対して、実施例2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末50質量部、蔗糖10質量部、無水クエン酸0.65質量部、リンゴ酸0.1質量部、L−アスコルビン酸0.1質量部、クエン酸ソーダ0.1質量部、プルラン0.5質量部、粉末香料適量をよく混合攪拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃とし、これに、実施例1の方法で得た非還元性糖質含有シラップをバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。
【0142】
本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、長期に安定であった。
【実施例15】
【0143】
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100質量部、実施例3の方法で得た非還元性糖質含有シラップ100質量部、マルトース80質量部、蔗糖20質量部および食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1,000質量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。
【0144】
本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
【実施例16】
【0145】
<あん>
原料あずき10質量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21質量部を得た。この生あんに、蔗糖14質量部、実施例3の方法で得た非還元性糖質含有シラップ5質量部および水4質量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35質量部得た。
【0146】
本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として好適である。
【実施例17】
【0147】
<パン>
小麦粉100質量部、イースト2質量部、砂糖5質量部、実施例7の方法で得た非還元性糖質含有粉末1質量部および無機フード0.1質量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。
【0148】
本品は、色相、すだちともに良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【実施例18】
【0149】
<ハム>
豚もも肉1,000質量部に食塩15質量部および硝酸カリウム3質量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを水500質量部、食塩100質量部、硝酸カリウム3質量部、実施例7の方法で得た非還元性糖質含有粉末40質量部および香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法に従い、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却包装して製品を得た。
【0150】
本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【実施例19】
【0151】
<粉末ペプチド>
40%食品用大豆ペプチド溶液(不二製油株式会社製造、商品名ハイニュートS)1質量部に、実施例6の方法で得たトレハロース含水結晶粉末2質量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。
【0152】
本品は、風味良好で、プレミックス、冷菓などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。
【実施例20】
【0153】
<粉末卵黄>
生卵から調製した卵黄をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1質量部に対して、実施例8の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4質量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。
【0154】
本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また、美肌剤、育毛剤などとしても有利に利用できる。
【実施例21】
【0155】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例2の方法で得た非還元性糖質高含有粉末2質量部、α−グリコシル ルチン1質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリル10質量部および防腐剤の適量を、常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2質量部、1,3−ブチレングリコール5質量部および精製水66質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて攪拌混合しクリームを製造した。
【0156】
本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例22】
【0157】
<固体製剤>
ヒト天然型インターフェロン−α標品(株式会社林原生物化学研究所製造、コスモ・バイオ株式会社販売)を、常法に従って、固定化抗ヒトインターフェロン−α抗体カラムにかけ、該標品に含まれるヒト天然型インターフェロン−αを吸着させ、安定剤であるウシ血清アルブミンを素通りさせて除去し、次いで、pHを変化させて、ヒト天然型インターフェロン−αを実施例5の方法で得た高純度非還元性糖質粉末を5%含有する生理食塩水を用いて溶出した。
【0158】
本液を精密濾過し、約20倍量の無水結晶マルトース粉末(株式会社林原商事販売、商品名ファイントース)に加えて脱水、粉末化し、これを打錠機にて打錠し、1錠(約200mg)当たりヒト天然型インターフェロン−αを約150単位含有する錠剤を得た。
【0159】
本品は、舌下錠などとして、一日当たり、大人1乃至10錠程度が経口的に投与され、ウイルス性疾患、アレルギー性疾患、リューマチ、糖尿病、悪性腫瘍などの治療に有利に利用できる。とりわけ、近年、患者数の急増しているエイズ、肝炎などの治療剤として有利に利用できる。本品は、本発明の非還元性糖質と無水結晶マルトースが共に安定剤として作用し、室温で放置してもその活性を長期間よく維持する。
【実施例23】
【0160】
<糖衣錠>
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例6の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40質量部、プルラン(平均分子量20万)2質量部、水30質量部、タルク25質量部および酸化チタン3質量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース含水結晶粉末65質量部、プルラン1質量部および水34質量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢の在る外観の優れた糖衣錠を得た。
【0161】
本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
【産業上の利用可能性】
【0162】
上記から明らかなように、本発明の新規非還元性糖質生成酵素は、温和な酵素反応条件下で還元性の澱粉部分分解物をそのグルコース重合度を変えることなく非還元性糖質に高収率で変換する。その非還元性糖質の分離、精製も容易であり、このようにして得られる非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびこれらから製造されるトレハロースは安定性に優れ、良質で上品な甘味を有している。また、経口摂取により消化吸収され、カロリー源となる。非還元性糖質、これを含む低還元性糖質およびトレハロースは、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物の製造に有利に利用できる。
【0163】
従って、本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来する澱粉部分分解物から、従来、望むべくして容易に得られなかったトレハロース構造を有する非還元性糖質、これを含む低還元性糖質、およびこれから容易に製造されるトレハロースを、工業的に大量かつ安価に供給できる全く新しい道を拓くこととなり、それが与える影響の大きさは、澱粉科学、酵素科学、生化学などの学問分野は言うに及ばず、産業界、とりわけ食品、化粧品、医薬品分野は勿論のこと、農水畜産業、化学工業にも及び、これら産業界に与える工業的意義は計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】リゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素の活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図2】リゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素の活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図3】リゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素の温度安定性を示す図である。
【図4】リゾビウム・スピーシーズ M−11由来の非還元性糖質生成酵素のpH安定性を示す図である。
【図5】アルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の非還元性糖質生成酵素の活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図6】アルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の非還元性糖質生成酵素の活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図7】アルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の非還元性糖質生成酵素の温度安定性を示す図である。
【図8】アルスロバクター・スピーシーズ Q36由来の非還元性糖質生成酵素のpH安定性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロース含有液を精製し、濃縮して過飽和にし、有機溶媒を用いることなくトレハロースを晶出させた後、採取することを特徴とするトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶の製造方法。
【請求項2】
精製が、濾過、遠心分離、活性炭による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩、カラムクロマトグラフィーによる分画から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて行われる請求項1記載のトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶の製造方法。
【請求項3】
トレハロースの晶出が、純度約60%以上、濃度約65乃至90%のトレハロース高含有液を用いて行われる請求項1又は2記載のトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶の製造方法。
【請求項4】
採取が、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法又は噴霧乾燥方法により行われる請求項1乃至3のいずれかに記載のトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−208144(P2008−208144A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127813(P2008−127813)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【分割の表示】特願2004−45506(P2004−45506)の分割
【原出願日】平成5年12月28日(1993.12.28)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】