説明

非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素ならびに該酵素を用いる糖質の製造方法

【課題】 中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素ならびに斯かる酵素を用いる糖質の製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 中温域に至適温度を有する新規な非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素ならびに、斯かる非還元性糖質生成酵素及び/又は斯かるトレハロース遊離酵素を還元性澱粉部分分解物に作用させて非還元性糖質を生成させる工程と、該工程で生成した非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を採取する工程とを含む糖質の製造方法の提供により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素ならびに該酵素を用いる糖質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トレハロースは2分子のグルコースが還元性基同士で結合してなる二糖類であり、自然界においては、細菌、真菌、藻類、昆虫、甲殻類などに広く分布している。トレハロースは、還元性を示さず、且つ、水分保持作用を有する有用性の高い糖質として古くより知られ、食品、化粧品、医薬品をはじめとする広範な分野での用途が期待されてきた。しかしながらトレハロースは、その効率的な製造方法がかつては確立されていなかったために、その期待の大きさに反して利用の範囲は極めて限られていた。このことから、斯界においては、トレハロースが安価に供給されることが待ち望まれていた。
【0003】
先に、本発明者らは、鋭意研究の結果、斯かる要望に応える提案のひとつとして、澱粉原料から酵素的にトレハロースを生成させるトレハロースの製造方法を確立した。この方法は、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する作用を有する非還元性糖質生成酵素と、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間を特異的に加水分解する作用を有するトレハロース遊離酵素とを、還元性澱粉部分分解物に作用させることを特徴とする。これらの酵素ならびに当該酵素を用いるトレハロースを含む糖質の製造方法は、同じ特許出願人による特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8及び特許文献9に開示されている。斯くしてトレハロースの安価な供給への道が拓かれた。
【0004】
更に、この研究の過程で、斯かる非還元性糖質生成酵素が、従来の還元性澱粉部分分解物の抱える問題点を解消し得る新規な非還元性糖質の製造にも有用であるという独自の知見も見出された。各種デキストリンや各種マルトオリゴ糖などの還元性澱粉部分分解物は、甘味料やエネルギー用糖源などとして有用である一方、その還元力故に反応性に富み、アミノ酸や蛋白質との共存下では褐変しやすく、品質が劣化しやすいことが問題となっていた。斯かる問題を解消し得る唯一の方法として、還元性澱粉部分分解物を高圧水素添加法などにより糖アルコールに変換する方法が知られていた。然るに、斯かる方法の実施には多量の熱量が必要な上、水素を使用することから、安全面を考慮に入れた設備を必要とし、結果として、多大な費用と労力を要することにつながっている。これに対し、上記の非還元性糖質生成酵素は、上記でも示したように、還元性澱粉部分分解物に作用して、末端部にトレハロース構造を有する非還元性の糖質を生成する作用を有しており、この作用は酵素作用故に温和な条件下で進行するものである。この作用を利用して、本発明者らは、当該酵素を用いる、従来の還元性澱粉部分分解物における問題点を解消し得る新規な非還元性糖質の効率的な製造方法の確立にも至った。以上によってトレハロースならびに非還元性糖質の用途開発が各方面で盛んになり、その結果、斯かる糖質の用途が多様化するとともに、その需要は諸種の分野において現在急速に伸びつつある。
【0005】
このような状況下、トレハロースならびにトレハロース構造を有する非還元性糖質の製造のさらなる効率化への期待が斯界では高まっている。斯かる期待に応える方策のひとつは、様々な至適条件を有する非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素を確立し、製造に使用可能な酵素の幅広い給源を提供することにある。これによって、目的とする糖質の製造に併用される他の酵素の至適条件や製造設備、製造する糖質の最終用途などによって要求される製造条件に応じて、多種の酵素の中から最適のものを選択することができ、より効率的な糖質の製造が可能なものとなる。然るに、現在までに開示された非還元性糖質生成酵素は、その至適温度に基づいて分類すると、約40℃以下という比較的低温域に至適温度を有する酵素群と、約60℃以上という比較的高温域に至適温度を有する酵素群とに分けられる。また、現在までに開示されたトレハロース遊離酵素は、同様に分類すると、約45℃以下という比較的低温域に至適温度を有する酵素群と、約60℃以上という比較的高温域に至適温度を有する酵素群とに分けられる。これに対して、例えば、50℃付近というような中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素についてはいずれも未だ開示がない。
【0006】
澱粉原料からの糖質の製造に用いられる糖質関連酵素において、主要なある種の酵素群は中温域に至適温度を有している。これらの酵素は、上記トレハロースならびに非還元性糖質の製造においても必要とされる場合がある。然るに、中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素は未だ確立されていないために、これら両酵素のいずれか一方又は双方とともに、上記の如き糖質関連酵素を併用する糖質の製造は、未だ充分に効率的と言えるものが確立されてはいない。また、糖質の製造設備や糖質の最終用途によっては、製造における酵素反応の温度として中温域が要求される場合がある。このような場面に対応し得る、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素を用いる効率的な糖質の製造方法も未だ確立されていると言える状況にはない。以上のことから、斯界においては、中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素が確立され、斯かる酵素を用いる、非還元性糖質を含む糖質の製造方法が確立されることが待ち望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−143876号公報
【特許文献2】特開平7−213283号公報
【特許文献3】特開平7−322883号公報
【特許文献4】特開平7−298880号公報
【特許文献5】特開平8−66187号公報
【特許文献6】特開平8−66188号公報
【特許文献7】特開平8−73504号公報
【特許文献8】特開平8−84586号公報
【特許文献9】特開平8−336388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
斯かる状況に鑑み、この発明の第一の課題は、中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素を提供することにある。
【0009】
この発明の第二の課題は、斯かる非還元性糖質生成酵素をコードするDNAを提供することにある。
【0010】
この発明の第三の課題は、斯かる非還元性糖質生成酵素の製造方法を提供することにある。
【0011】
この発明の第四の課題は、中温域に至適温度を有するトレハロース遊離酵素を提供することにある。
【0012】
この発明の第五の課題は、斯かるトレハロース遊離酵素をコードするDNAを提供することにある。
【0013】
この発明の第六の課題は、斯かるトレハロース遊離酵素の製造方法を提供することにある。
【0014】
この発明の第七の課題は、斯かる非還元性糖質生成酵素及び/又は斯かるトレハロース遊離酵素の産生能を有する微生物を提供することにある。
【0015】
この発明の第八の課題は、斯かる非還元性糖質生成酵素及び/又は斯かるトレハロース遊離酵素を用いる、非還元性糖質を含む糖質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決し得る酵素を産生する微生物を土壌より広く検索した。その結果、兵庫県赤穂市の土壌から新たに分離した微生物が上記課題を解決し得る酵素を産生することを見出した。当該微生物より目的とする非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素をそれぞれ単離し、それらの性質を決定したところ、単離されたこれらの酵素は、いずれも中温域に至適温度を有することが確認された。一方、当該微生物を同定したところ、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する新規微生物であることが確認され、アルスロバクター・スピーシーズS34と命名された。なお、アルスロバクター・スピーシーズS34は、平成10年8月6日付けで、茨城県つくば市東1丁目1番3号、通商産業省工業技術院生命工業技術研究所、特許微生物寄託センターに、微生物受託番号FERM BP−6450を付して受託された。
【0017】
本発明者らは、さらに鋭意研究を続け、上記で確認された酵素をコードするDNAをアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)より単離し、その塩基配列を解読して、当該酵素のアミノ酸配列を決定した。また、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)ならびに、先に得たDNAを常法にしたがい微生物に導入して得た形質転換体は、いずれも所望量の酵素を産生し得ることが確認された。斯くして得られる両酵素は、いずれも、トレハロースならびにトレハロース構造有する非還元性糖質を含む糖質の中温域での製造に有利に用い得るものであることも確認された。この発明は以上の知見に基づき完成されたものである。
【0018】
すなわち、この発明は、前記第一の課題を、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成し、中温域に至適温度を有する新規な非還元性糖質生成酵素により解決するものである。
【0019】
この発明は、前記第二の課題を、斯かる非還元性糖質生成酵素をコードするDNAにより解決するものである。
【0020】
この発明は、前記第三の課題を、斯かる非還元性糖質生成酵素の産生能を有する微生物を培養し、産生した非還元性糖質生成酵素を培養物から採取することを特徴とする非還元性糖質生成酵素の製造方法により解決するものである。
【0021】
この発明は、前記第四の課題を、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間を特異的に加水分解し、中温域に至適温度を有する新規なトレハロース遊離酵素により解決するものである。
【0022】
この発明は、前記第五の課題を、斯かるトレハロース遊離酵素をコードするDNAにより解決するものである。
【0023】
この発明は、前記第六の課題を、斯かるトレハロース遊離酵素の産生能を有する微生物を培養し、産生した非還元性糖質生成酵素を培養物から採取することを特徴とするトレハロース遊離酵素の製造方法により解決するものである。
【0024】
この発明は、前記第七の課題を、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株から選ばれる微生物により解決するものである。
【0025】
この発明は、前記第八の課題を、当該非還元性糖質生成酵素及び/又は当該トレハロース遊離酵素を還元性澱粉部分分解物に作用させて非還元性糖質を生成させる工程と、該工程で生成した非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を採取する工程とを含んでなる糖質の製造方法により解決するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素は中温域に至適温度を有していることから、トレハロースをはじめとするトレハロース構造を有する非還元性糖質の中温域・酸性域での製造に有利に用いることができる。とりわけ、中温域・酸性域に至適条件を有する他の糖質関連酵素との併用により糖質を製造する際には、目的の糖質を極めて効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明は、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素ならびに該酵素のいずれか一方又は双方を用いる糖質の製造方法に関するものである。本明細書でいう非還元性糖質生成酵素とは、還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する作用を有する酵素を意味する。本明細書でいうトレハロース遊離酵素とは、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間を特異的に加水分解する作用を有する酵素を意味する。本明細書でいう中温域とは、酵素反応による澱粉原料からの糖質の製造において通常用いられる反応温度における中間域を意味する。因みに、斯かる製造においては、多くの場合、約10℃乃至約100℃又はその前後の範囲の種々の反応温度が用いられる。この発明の非還元性糖質生成酵素とは、非還元性糖質生成酵素としての作用を有し、中温域、望ましくは、40℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有する酵素、より望ましくは、斯かる至適温度に加え、酸性域に至適pHを有する酵素を意味する。この発明のトレハロース遊離酵素とは、トレハロース遊離酵素としての作用を有し、中温域、望ましくは、45℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有する酵素、より望ましくは、斯かる至適温度に加え、酸性域に至適pHを有する酵素を意味する。以上の如きこの発明の非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素はその出所・由来により限定されるものではない。
【0028】
非還元性糖質生成酵素の活性は以下のようにして測定する。すなわち、基質として1.25%(w/v)マルトペンタオースを含む20mM酢酸緩衝液(pH6.0)4mlに、酵素液1mlを加え50℃で60分間保持して反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させ、その反応液を脱イオン水で正確に10倍希釈し、その希釈液の還元力をソモギー・ネルソン法で測定する。対照として、予め100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液を用いて同様に測定する。この発明においては、この測定方法を用いて、1分間に1μmolのマルトペンタオースに相当する還元力を減少させる酵素量を1単位と定義する。また、本明細書でいう当該酵素の至適温度は、この測定方法に準じて求められる。すなわち、反応温度を50℃を含む適宜の各種温度に設定して、一定量の当該酵素を用いて、この測定方法に準じて種々の温度条件下で反応させ、引き続き、この測定方法にしたがい各反応系における還元力の減少量を求める。そして、求められた還元力の減少量を相互に比較し、最大の値を示した反応系の反応温度が当該酵素の至適温度と求められる。
【0029】
トレハロース遊離酵素の活性は以下のようにして測定する。すなわち、基質として1.25%(w/v)マルトトリオシルトレハロース(別名、α−マルトテトラオシル α−D−グルコシド)を含む20mM燐酸緩衝液(pH6.0)4mlに、酵素液1mlを加え50℃で30分間保持して反応させた後、ソモギー銅液を加え反応を停止させ、還元力をソモギー・ネルソン法で測定する。対照として、予め100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液を用いて同様に測定する。この発明においては、この測定方法を用いて、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力を増加させる酵素量を1単位と定義する。また、本明細書でいう当該酵素の至適温度は、この測定方法に準じて求められる。すなわち、反応温度を50℃を含む適宜の各種温度に設定して、一定量の当該酵素を用いて、この測定方法に準じて種々の温度条件下で反応させ、引き続き、この測定方法にしたがい各反応系における還元力の増加量を求める。そして、求められた還元力の増加量を相互に比較し、最大の値を示した反応系の反応温度が当該酵素の至適温度と求められる。
【0030】
この発明の非還元性糖質生成酵素を、そのアミノ酸配列に基づいて説明すると、当該酵素は、全体としては配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を、部分アミノ酸配列としては、配列表における配列番号2乃至6に示すアミノ酸配列を含有する場合がある。この発明の非還元性糖質生成酵素には、以上のアミノ酸配列をそっくりそのまま含有する酵素に加えて、斯かるアミノ酸配列から選ばれるいずれかの配列の一部を含有するものであっても、それが非還元性糖質生成酵素としての作用を有し、且つ、上述の如き至適温度を有している限り包含される。斯かるアミノ酸配列の一部を含有する当該酵素のアミノ酸配列としては、斯かるアミノ酸配列において、この発明の非還元性糖質生成酵素としての性質の発現に関わる部分アミノ酸配列ないしはアミノ酸残基を保持しつつ、それ以外の部分の1箇所又は2箇所以上にアミノ酸の置換、付加及び/又は欠失を導入してなるアミノ酸配列を挙げることができる。ここでいうアミノ酸の置換を導入してなるアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を構成する全アミノ酸の、望ましくは30%未満、より望ましくは20%未満のアミノ酸を、それぞれ性質や構造の類似する他のアミノ酸で置換してなるものが挙げられる。互いに性質や構造の類似するアミノ酸のグループとしては、例えば、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸、塩基性アミノ酸であるリジンとアルギニンとヒスチジン、アミド型アミノ酸であるアスパラギンとグルタミン、ヒドロキシアミノ酸であるセリンとトレオニン、分岐アミノ酸であるバリンとロイシンとイソロイシン、などが挙げられる。また、配列番号1乃至6に示すアミノ酸配列から選ばれるいずれかの配列の一部を含有する当該酵素のアミノ酸配列の別の例としては、配列番号1のアミノ酸配列の蛋白質がとる立体構造と実質的に同等の立体構造をとり得る、配列番号1のアミノ酸配列にアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加を導入してなるアミノ酸配列を挙げることができる。蛋白質の立体構造は、例えば、目的とするアミノ酸配列と関連するアミノ酸配列を有し立体構造が判明している蛋白質を慣用の蛋白質立体構造データベースから検索し、検索された立体構造を参照して、立体構造の視覚化のための慣用のソフトウエアを用いて予測することができる。以上のようなこの発明の非還元性糖質生成酵素のアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列に対して、通常57%以上、望ましくは70%以上、より望ましくは80%以上の相同性を示す。
【0031】
この発明の非還元性糖質生成酵素は、上述のように、特定の出所・由来に限定されるものではないが、当該酵素の具体例として、例えば、微生物由来のものを挙げることができる。斯かる微生物の具体例としてはアルスロバクター属に属する細菌、より具体的には、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株が挙げられる。当該変異株は、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタン・スルフォネート、紫外線、トランスポゾンなどの慣用の変異源で常法にしたがい処理して生成する変異株を、中温域、通常は、40℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素の産生能を指標として検索することにより得ることができる。アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来の当該酵素は、通常、配列表における配列番号1乃至6に示すアミノ酸配列を含有する。アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)の変異株を含むアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)以外の微生物由来の当該酵素は、通常、配列表における配列番号1乃至6のいずれかに示すアミノ酸配列の一部又は全てを含有する。当該酵素の別の具体例としては、非還元性糖質生成酵素としての作用を有し、中温域、通常は、40℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有する組換え型蛋白質が挙げられる。斯かる組換え型蛋白質は、後述のように、この発明の非還元性糖質生成酵素をコードするDNAに通常の遺伝子工学的手法を適用して得ることができる。組換え型蛋白質としての当該酵素は、通常、配列表における配列番号1乃至6のいずれかに示すアミノ酸配列の一部又は全てを含有する。
【0032】
以上の如きこの発明の非還元性糖質生成酵素は、下記の性質を有する場合がある。
(1)作用
グルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する。
(2)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(以下、「SDS−PAGE」と略記する。)により、約75,000±10,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約4.5±0.5。
(4)至適温度
pH6.0、60分間反応で、約50℃付近。
(5)至適pH
50℃、60分間反応で、pH約6.0付近。
(6)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、約55℃付近まで安定。
(7)pH安定性
4℃、24時間保持で、pH約5.0乃至約10.0の範囲で安定。
この発明の非還元性糖質生成酵素は、後記に詳述する、この発明による当該酵素の製造方法によって所望量を得ることができる。
【0033】
この発明は、この発明の非還元性糖質生成酵素をコードするDNAを提供するものでもあり、斯かるDNAは、組換え型蛋白質としての当該酵素の製造に極めて有用である。本発明による当該DNAは、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNA全般を包含するものであり、その出所・由来は問わない。斯かるDNAの具体例としては、例えば、配列表における配列番号7に示す塩基配列又は斯かる塩基配列に相補的な塩基配列の一部又は全てを含有するDNAを挙げることができる。配列表における配列番号7に示す塩基配列の全てを有するDNAは、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードする。配列表における配列番号7に示す塩基配列の一部を含有するDNAとは、それにコードされる蛋白質における、この発明の非還元性糖質生成酵素としての性質の発現に関わるアミノ酸配列ないしはアミノ酸残基に対応する塩基を保持しつつ、それ以外の部分における1箇所又は2箇所以上に塩基の置換、付加及び/又は欠失を導入してなる塩基配列のいずれかを含有するDNAを意味する。本発明による当該DNAには、それがコードするアミノ酸配列を変更することなく、遺伝子の縮重に基づいて塩基の1又は複数を他の塩基で置換した塩基配列を有するDNAも当然ながら包含される。また、この発明による当該DNAには、当該非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列に、それ以外の塩基配列、例えば、開始コドン、終止コドン、シャイン・ダルガノ配列などのリボゾーム結合配列、シグナルペプチドをコードする塩基配列、適宜の制限酵素による認識配列、プロモーターやエンハンサーなど遺伝子の発現を調節する塩基配列、ターミネーター等、組換え型蛋白質の産生のために遺伝子工学分野で慣用される諸種の塩基配列から選ばれる1又は複数を連結してなる塩基配列を含有するDNAも包含される。例えば、配列表における配列番号8に示す塩基配列の一部又は全てはリボゾーム結合配列として機能するので、斯る塩基配列をこの発明の非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列の上流に連結してなるDNAは、組換え型蛋白質としての当該酵素の製造に有用である。
【0034】
本発明による、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNAは、上述のように、特定の出所・由来に限定されるものではない。当該DNAは、当該非還元性糖質生成酵素のアミノ酸配列、例えば、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列の少なくとも一部をコードし得る塩基配列を含有するDNAとのハイブリダイゼーションに基づいて、諸種の給源からのDNAを検索して得ることができる。斯かる給源の具体例としては、例えば、アルスロバクター属に属する細菌、より望ましくは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株を含む当該非還元性糖質生成酵素の産生能を有する微生物が挙げられる。斯かる検索には、例えば、遺伝子ライブラリーのスクリーニング法や、PCR法、さらにはこれらの変法など、斯界においてDNAの検索ないしはクローン化に通常用いられる方法が適宜適用される。検索の結果、所期のハイブリダイゼーションが確認されたDNAを常法にしたがって採取すれば、当該DNAは得ることができる。斯くして得られる当該DNAは、通常、配列表における配列番号7に示す塩基配列の一部又は全てを含有する。例えば、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)からは、通常、配列表における配列番号7に示す塩基配列の全てを含有するDNAが得られる。配列表における配列番号7に示す塩基配列の一部を含有するDNAは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)以外の、本発明の非還元性糖質生成酵素の産生能を有する微生物を給源として得られるDNAを同様にして検索することにより得ることができる。また、配列表における配列番号7に示す塩基配列の一部を含有するDNAは、慣用の突然変異導入法から選ばれる1又は複数の方法により、以上の如きDNAの1箇所又は2箇所以上に塩基の置換、付加及び/又は欠失を導入して得られるDNAより、この発明の非還元性糖質生成酵素としての性質を有する酵素をコードするDNAを選択することによっても得ることができる。また、当該DNAは、当該非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列、例えば、配列表における配列番号7に示す塩基配列に基づいて、通常の化学合成を適用することによっても得ることができる。いずれにしても、この発明によるDNAは、一旦入手されれば、PCR法や、自律複製可能なベクターを用いる方法などを適用することにより、所望のレベルにまで容易に増幅することができる。
【0035】
この発明による、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNAは、当該DNAが自律複製可能なベクターに挿入された、組換えDNAとしての形態のものをも包含する。斯かる組換えDNAは、上述のように一旦目的とするDNAが入手できれば、通常一般の遺伝子工学的技術により比較的容易に調製することができる。この発明で用いるベクターは適宜の宿主内で自律複製する性質を有するものであれば何を用いてもよく、斯かるベクターの具体例としては、例えば、大腸菌を宿主として用いる、pUC18、pBluescript II SK(+)、pKK223−3及びλgt・λC等、枯草菌を宿主として用いる、pUB110、pTZ4、pC194、ρ11、φ1及びφ105等、2種類以上の微生物を宿主として用いる、pHY300PLK、pHV14、TRp7、YEp7及びpBS7等を挙げることができる。斯かるベクターにこの発明のDNAを挿入するには、斯界において慣用の方法が用いられる。具体的には、上述のようにして得られる当該DNAと自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断した後、当該DNA断片とベクター断片を連結する。DNAの切断に塩基配列に特異的に作用する制限酵素、とりわけ、KpnI、AccI、BamHI、BstXI、EcoRI、HindIII、NotI、PstI、SacI、SalI、SmaI、SpeI、XbaI、XhoIなどを用いれば、当該DNA断片とベクター断片を連結するのが容易となる。連結には、必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られる組換えDNAは、適宜の宿主において無限に複製可能である。
【0036】
この発明による、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNAは、さらに、当該DNAが適宜の宿主に導入された、形質転換体としての形態のものをも包含する。斯かる形質転換体は、通常、上述のようにして得られるDNAないしは組換えDNAを適宜の宿主に導入して形質転換することにより容易に得ることができる。宿主としては、当該組換えDNAにおけるベクターに応じて選択される、斯界において慣用される微生物や、植物、動物由来の細胞を用いることができる。宿主微生物としては、例えば、大腸菌、枯草菌、アルスロバクター属の微生物をはじめとする細菌の他、放線菌、酵母、真菌などはいずれも有利に用いることができる。宿主微生物にこの発明によるDNAを導入するには、例えば、公知のコンピテントセル法やプロトプラスト法を適用すればよい。なお、この発明による形質転換体において、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNAは、宿主の染色体から独立した状態にあっても、斯かる染色体に組み込まれた状態にあってもよい。宿主の染色体に組み込まれた当該DNAは、宿主内で安定して保持されるという特徴があり、組換え型蛋白質の製造に有利な場合がある。
【0037】
この発明の非還元性糖質生成酵素は、当該非還元性糖質生成酵素の産生能を有する微生物を培養し、産生された非還元性糖質生成酵素を培養物から採取することを特徴とする、この発明による非還元性糖質生成酵素の製造方法によって所望量を得ることができる。斯かる製造方法で用いる微生物は、当該非還元性糖質生成酵素の産生能を有するものであれば何を用いてもよく、その種類は問わない。斯かる微生物の具体例としては、例えば、アルスロバクター属に属する細菌、より望ましくは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株をはじめとする微生物や、当該非還元性糖質生成酵素をコードするこの発明によるDNAを適宜の宿主微生物に導入して得られる形質転換体を挙げることができる。
【0038】
この発明による非還元性糖質生成酵素の製造方法における培養で用いる栄養培地は、当該微生物が生育でき、当該非還元性糖質生成酵素を産生し得るものであればよく、特定の組成の培地に限定されるものではない。当該培地は、通常、炭素源及び窒素源を含有し、必要に応じて無機成分が添加される。炭素源としては、当該微生物が資化し得るものであればよく、例えば、デキストリン、澱粉、澱粉部分分解物、グルコースなどの糖質、糖蜜及び酵母エキス等の糖含有物のほか、グルコン酸やコハク酸などの有機酸はいずれも有用である。炭素源の濃度は、その種類に応じて適宜選択されるが、通常、30%(w/v)以下、より望ましくは、15%(w/v)以下の条件が適用される。窒素源は、通常、アンモニウム塩や硝酸塩などの無機窒素化合物の他、尿素や、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物から適宜選択される。無機成分としては、例えば、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、燐酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などから適宜選ばれる塩類が必要に応じて用いられる。
【0039】
この発明による当該非還元性糖質生成酵素の製造方法における培養条件は、使用する微生物に応じて、それぞれの微生物の生育に適した条件が適宜に選択される。例えば、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)などのアルスロバクター属に属する微生物を使用する場合、培養温度は通常、20乃至50℃、望ましくは、25乃至37℃、培養pHは通常pH4乃至10、望ましくは、pH5乃至9、培養時間は10乃至150時間から選ばれ、好気条件下で培養される。一方、当該非還元性糖質生成酵素をコードするDNAを宿主微生物に導入してなる形質転換体を使用する場合、宿主の微生物種やベクターの種類にもよるが、培養温度は通常、20乃至65℃、培養pHは通常、pH2乃至9、培養時間は通常、1乃至6日間から選ばれ、好気条件下で培養される。斯くして得られる培養物は、通常、主としてその菌体画分に当該酵素を含有する。一方、枯草菌などを宿主として得た形質転換体を培養する場合には、形質転換に用いるベクターの種類によっては、斯かる培養物は、主としてその上清画分に当該酵素を含有する場合もある。以上のようにして得られる培養物における当該酵素の含量は、用いる微生物の種類や培養条件などにもよるが、通常、培養物1ml当たりに換算すると0.01乃至1,000単位である。
【0040】
以上のようにして得られる培養物から、この発明の非還元性糖質生成酵素を採取する。培養物からの当該酵素の採取の方法は問わないが、例えば、当該酵素活性が主として認められる菌体又は培養上清のいずれかの画分を分離して採取し、さらに必要に応じて、採取した画分を適宜の精製手段に供して、当該非還元性糖質生成酵素を含有する精製された画分を採取する。培養物における菌体と培養上清との分離には、通常の固液分離手段、例えば、遠心分離のほか、プレコートフィルターや平膜、中空糸膜などを用いる濾過などはいずれも有利に適用できる。斯くして分離される菌体含有画分及び培養上清から所望の画分を採取する。採取する画分が菌体含有画分である場合、斯かる菌体を破砕して菌体破砕物としたり、さらには、菌体破砕物からその可溶性画分を上記の固液分離手段によって、その可溶性画分としての菌体抽出液及び菌体不溶性画分に分離し、所望のいずれかの画分を採取することも随意である。菌体不溶性画分は、更に必要に応じて、常法により可溶化して用いることもできる。菌体の破砕には、通常の、超音波処理、界面活性剤処理、リゾチームやグルカナーゼなどの細胞壁破壊酵素による処理、機械的磨砕、機械的圧力の負荷などは、いずれも有利に適用できる。また、菌体の破砕には、培養物そのものを直接これらの菌体の破砕方法のいずれかで処理し、上述の固液分離手段のいずれかを適用して液体画分を採取して菌体抽出液を得ることも有利に実施できる。
【0041】
以上のようにして得られる画分から当該非還元性糖質生成酵素をさらに精製するには、例えば、塩析、透析、濾過、濃縮、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び等電点電気泳動などの糖質関連酵素を精製するための斯界における慣用の方法が適用され、必要に応じてこれらは適宜組合せて適用される。斯様な方法によって分離される画分の中から、非還元性糖質生成酵素の活性測定に基づき、所期の活性を示した画分を回収すれば、所望のレベルにまで精製された当該酵素を採取することができる。例えば、下記に詳述する実施例に記載の方法によれば、当該酵素は電気泳動的に均質な状態にまで精製することができる。以上のようにして、この発明の製造方法によってこの発明の非還元性糖質生成酵素は、培養物、培養上清画分、菌体含有画分、菌体破砕物、菌体抽出液、菌体不溶性画分とその可溶化物、部分精製酵素含有画分、精製酵素含有画分などとして得られる。当該画分は、さらにトレハロース遊離酵素を含有する場合がある。なお、以上のようにして得られるこの発明の非還元性糖質生成酵素は、常法にしたがい固定化して用いることも随意である。斯かる固定化の方法としては、例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが挙げられる。以上のようにして得られる当該非還元性糖質生成酵素は、いずれも、後述するこの発明の糖質の製造方法を含む各種糖質の製造において有利に用いることができる。とりわけ、当該非還元性糖質生成酵素は、中温域に至適温度を有す上、望ましくは、酸性域に至適pHを有しているので、後述するこの発明のトレハロース遊離酵素の他、酸性域に至適pHを有する澱粉枝切り酵素、中温域で良好な活性を示すシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼなどとの併用による糖質の製造に極めて有用である。
【0042】
次に、この発明のトレハロース遊離酵素を、そのアミノ酸配列に基づいて説明すると、当該酵素は、全体としては配列表における配列番号9に示すアミノ酸配列を、部分アミノ酸配列としては、配列表における配列番号10乃至16に示すアミノ酸配列を含有する場合がある。この発明のトレハロース遊離酵素には、以上のアミノ酸配列をそっくりそのまま含有する酵素に加えて、斯かるアミノ酸配列から選ばれるいずれかの配列の一部を含有するものであっても、それがトレハロース遊離酵素としての作用を有し、且つ、上述の如き至適温度を有している限り包含される。斯かるアミノ酸配列の一部を含有する当該酵素の具体例としては、斯かるアミノ酸配列において、この発明のトレハロース遊離酵素としての性質の発現に関わるアミノ酸配列ないしはアミノ酸残基を保持しつつ、それ以外の部分の1箇所又は2箇所以上にアミノ酸の置換、付加及び/又は欠失を導入してなるアミノ酸配列のいずれかを含有する酵素を挙げることができる。ここでいうアミノ酸の置換を導入してなるアミノ酸配列としては、例えば、配列番号9に示すアミノ酸配列を構成する全アミノ酸の、望ましくは30%未満、より望ましくは20%未満のアミノ酸を、それぞれ性質や構造の類似する他のアミノ酸で置換してなるものが挙げられる。互いに性質や構造の類似するアミノ酸のグループとしては、例えば、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸、塩基性アミノ酸であるリジンとアルギニンとヒスチジン、アミド型アミノ酸であるアスパラギンとグルタミン、ヒドロキシアミノ酸であるセリンとトレオニン、分岐アミノ酸であるバリンとロイシンとイソロイシン、などが挙げられる。また、配列番号9乃至16に示すアミノ酸配列から選ばれるいずれかの配列の一部を含有する当該酵素のアミノ酸配列の別の例としては、配列番号9のアミノ酸配列の蛋白質がとる立体構造と実質的に同等の立体構造をとり得る、配列番号9のアミノ酸配列にアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加を導入してなるアミノ酸配列を挙げることができる。蛋白質の立体構造は、例えば、目的とするアミノ酸配列と関連するアミノ酸配列を有し立体構造が判明している蛋白質を慣用の蛋白質立体構造データベースから検索し、検索された立体構造を参照して、立体構造の視覚化のための慣用のソフトウエアを用いて予測することができる。以上のようなこの発明のトレハロース遊離酵素のアミノ酸配列は、配列番号9に示すアミノ酸配列に対して、通常60%以上、望ましくは70%以上、より望ましくは80%以上の相同性を示す。
【0043】
この発明のトレハロース遊離酵素は、上述のように、特定の出所・由来に限定されるものではないが、当該酵素の具体例として、例えば、微生物由来のものを挙げることができる。斯かる微生物の具体例としてはアルスロバクター属に属する細菌、より具体的には、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株が挙げられる。当該変異株は、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタン・スルフォネート、紫外線、トランスポゾンなどの慣用の変異源で常法にしたがい処理して生成する変異株を、中温域、通常は、45℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有するトレハロース遊離酵素の産生能を指標として検索することにより得ることができる。アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来の当該酵素は、通常、配列表における配列番号9乃至16に示すアミノ酸配列を含有する。アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)の変異株を含む、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)以外の微生物由来の当該酵素は、通常、配列表における配列番号9乃至16のいずれかに示すアミノ酸配列の一部又は全てを含有する。当該酵素の別の具体例としては、トレハロース遊離酵素としての作用を有し、中温域、通常は45℃を越え且つ60℃未満の範囲に至適温度を有する組換え型蛋白質が挙げられる。斯かる組換え型蛋白質は、後述のように、この発明のトレハロース遊離酵素をコードするDNAに慣用の遺伝子工学的手法を適用して得ることができる。組換え型蛋白質としての当該酵素は、通常、配列表における配列番号9乃至16のいずれかに示すアミノ酸配列の一部又は全てを含有する。
【0044】
以上の如きこの発明のトレハロース遊離酵素は、下記の理化学的性質を有する場合がある。
(1)作用
末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間の結合を特異的に加水分解する。
(2)分子量
SDS−PAGEにより、約62,000±5,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約4.7±0.5。
(4)至適温度
pH6.0、30分間反応で、約50℃乃至約55℃付近。
(5)至適pH
50℃、30分間反応で、pH約6.0付近。
(6)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、約50℃付近まで安定。
(7)pH安定性
4℃、24時間保持で、pH約4.5乃至約10.0の範囲で安定。
この発明のトレハロース遊離酵素は、後記に詳述する、この発明による当該酵素の製造方法によって所望量を得ることができる。
【0045】
この発明は、この発明のトレハロース遊離酵素をコードするDNAを提供するものでもあり、斯かるDNAは、組換え型蛋白質としての当該酵素の製造に極めて有用である。本発明による当該DNAは、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNA全般を包含するものであり、その出所・由来は問わない。斯かるDNAの具体例としては、例えば、配列表における配列番号17に示す塩基配列又は斯かる塩基配列に相補的な塩基配列の一部又は全てを含有するDNAを挙げることができる。配列表における配列番号17に示す塩基配列の全てを有するDNAは、配列番号9に示すアミノ酸配列をコードする。配列表における配列番号17に示す塩基配列の一部を含有するDNAとは、それにコードされる蛋白質における、この発明のトレハロース遊離酵素としての性質の発現に関わるアミノ酸配列ないしはアミノ酸残基に対応する塩基を保持しつつ、それ以外の部分における1箇所又は2箇所以上に塩基の置換、付加及び/又は欠失を導入してなる塩基配列のいずれかを含有するDNAを意味する。本発明による当該DNAには、それがコードするアミノ酸配列を変更することなく、遺伝子の縮重に基づいて塩基の1又は複数を他の塩基で置換した塩基配列を有するDNAも当然ながら包含される。また、この発明による当該DNAには、当該トレハロース遊離酵素をコードする塩基配列に、それ以外の塩基配列、例えば、開始コドン、終止コドン、シャイン・ダルガノ配列などのリボゾーム結合配列、シグナルペプチドをコードする塩基配列、適宜の制限酵素による認識配列、プロモーターやエンハンサーなど遺伝子の発現を調節する塩基配列、ターミネーター等、組換え型蛋白質の産生のために遺伝子工学分野で慣用される諸種の塩基配列から選ばれる1又は複数を連結してなる塩基配列を含有するDNAも包含される。例えば、配列表における配列番号8に示す塩基配列の一部又は全てはリボゾーム結合配列として機能するので、斯る塩基配列をこの発明のトレハロース遊離酵素をコードする塩基配列の上流に連結してなるDNAは、組換え型蛋白質としての当該酵素の製造に有用である。
【0046】
本発明による、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNAは、上述のように、特定の出所・由来に限定されるものではない。当該DNAは、当該トレハロース遊離酵素のアミノ酸配列、例えば、配列表における配列番号9に示すアミノ酸配列の少なくとも一部をコードし得る塩基配列を含有するDNAとのハイブリダイゼーションに基づいて、諸種の給源からのDNAを検索して得ることができる。斯かる給源の具体例としては、例えば、アルスロバクター属に属する細菌、より望ましくは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株を含む当該トレハロース遊離酵素の産生能を有する微生物が挙げられる。斯かる検索には、例えば、遺伝子ライブラリーのスクリーニング法や、PCR法、さらにはこれらの変法など、斯界においてDNAの検索ないしはクローン化に通常用いられる方法が適宜適用される。検索の結果、所期のハイブリダイゼーションが確認されたDNAを常法にしたがって採取すれば、当該DNAは得ることができる。斯くして得られる当該DNAは、通常、配列表における配列番号17に示す塩基配列の一部又は全てを含有する。例えば、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)からは、通常、配列表における配列番号17に示す塩基配列の全てを含有するDNAが得られる。配列表における配列番号17に示す塩基配列の一部を含有するDNAは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)以外の、本発明のトレハロース遊離酵素の産生能を有する微生物を給源として得られるDNAを同様にして検索することにより得ることができる。また、配列表における配列番号17に示す塩基配列の一部を含有するDNAは、慣用の突然変異導入法から選ばれる1又は複数の方法により、以上の如きDNAの1箇所又は2箇所以上に塩基の置換、付加及び/又は欠失を導入して生成されるDNAより、この発明のトレハロース遊離酵素としての性質を有する酵素をコードするDNAを選択することによっても得ることができる。また、当該DNAは、当該トレハロース遊離酵素をコードする塩基配列、例えば、配列表における配列番号17に示す塩基配列に基づいて、通常の化学合成を適用することによっても得ることができる。いずれにしても、この発明によるDNAは、一旦入手されれば、PCR法や、自律複製可能なベクターを用いる方法などを適用することにより、所望のレベルにまで容易に増幅することができる。
【0047】
この発明による、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNAは、当該DNAが自律複製可能なベクターに挿入された、組換えDNAとしての形態のものをも包含する。斯かる組換えDNAは、上述のように一旦目的とするDNAが入手できれば、通常一般の遺伝子工学的技術により比較的容易に調製することができる。この発明で用いるベクターは適宜の宿主内で自律複製する性質を有するものであれば何を用いてもよく、斯かるベクターの具体例としては、例えば、大腸菌を宿主として用いる、pUC18、pBluescript II SK(+)、pKK223−3及びλgt・λC等、枯草菌を宿主として用いる、pUB110、pTZ4、pC194、ρ11、φ1及びφ105等、2種類以上の微生物を宿主として用いる、pHY300PLK、pHV14、TRp7、YEp7及びpBS7等を挙げることができる。斯かるベクターにこの発明のDNAを挿入するには、斯界において慣用の方法が用いられる。具体的には、上述のようにして得られる当該DNAと自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断した後、当該DNA断片とベクター断片を連結する。DNAの切断に塩基配列に特異的に作用する制限酵素、とりわけ、KpnI、AccI、BamHI、BstXI、EcoRI、HindIII、NotI、PstI、SacI、SalI、SmaI、SpeI、XbaI、XhoIなどを用いれば、当該DNA断片とベクター断片を連結するのが容易となる。連結には、必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られる組換えDNAは、適宜の宿主において無限に複製可能である。
【0048】
この発明による、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNAは、さらに、当該DNAが適宜の宿主に導入された、形質転換体としての形態のものをも包含する。斯かる形質転換体は、通常、上述のようにして得られるDNAないしは組換えDNAを適宜の宿主に導入して形質転換することにより容易に得ることができる。宿主としては、当該組換えDNAにおけるベクターに応じて選択される、斯界において慣用される微生物を用いることができる。斯かる宿主微生物としては、例えば、大腸菌、枯草菌、アルスロバクター属の微生物をはじめとする細菌の他、放線菌、酵母、真菌などはいずれも有利に用いることができる。斯かる宿主にこの発明によるDNAを導入するには、例えば、公知のコンピテントセル法やプロトプラスト法を適用すればよい。この発明による形質転換体において、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNAは、宿主微生物の染色体と独立した状態にあっても、斯かる染色体に組み込まれた状態にあってもよい。宿主微生物の染色体に組み込まれた当該DNAは、宿主内で安定して保持されるという特徴があり、組換え型蛋白質の製造に有利な場合がある。
【0049】
なお、以上ならびに先述の、組換えDNA及び形質転換体を含むこの発明によるDNAを得るための個々の方法や、斯かるDNAを用いる組換え型蛋白質の産生の方法はいずれも斯界において慣用となっている。例えば、ジェイ・サムブルックら、『モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル』、第2版(1989年)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行には、所期のDNAの取得や、取得したDNAの物質生産への利用のための方法が種々詳述されている。また、例えば、特許第2576970号明細書には、目的とする遺伝子を欠損させた細菌を宿主として用いる形質転換DNAの安定化方法が、特開昭63−157987号公報には、枯草菌で効率的に所期のDNAを発現させるベクターが、特表平5−502162号公報には、細菌染色体への所期のDNAへの安定な組み込みの方法が、特表平8−506731号公報には澱粉分解酵素の遺伝子工学的手法を用いる効率的な産生方法が、特表平9−500543号公報や特表平10−500024号公報には組換え型蛋白質の効率的な産生のための真菌を用いる宿主−ベクター系がそれぞれ開示されている。この発明においては、以上の如き斯界における慣用の方法はいずれも有利に適用できる。
【0050】
ところで、斯界においては、所望のDNAが上述のようにして得られている場合、斯かるDNAを適宜の動植物体に導入してなる、いわゆる、トランスジェニック動物やトランスジェニック植物を得ることは慣用となっている。この発明の非還元性糖質生成酵素ないしはトレハロース遊離酵素をコードするDNAにおける、適宜の宿主に導入された形態のDNAには、斯かるトランスジェニック動物ないしトランスジェニック植物も包含される。トランスジェニック動物を得るには、概略としては、先ず、当該酵素をコードするDNAを、必要に応じてプロモーターやエンハンサーなど所望の他のDNAとともに、宿主動物の種に応じて選択される適宜のベクターに組み込み、斯かる組換えDNAをマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法や当該DNAを含有する組換えウイルスの感染などの方法により、宿主として用いる動物の受精卵や胚性幹細胞に導入する。宿主動物としては、マウス、ラット、ハムスターなど実験動物として汎用される齧歯類のほか、山羊、羊、ブタ、牛などの家畜として常用される哺乳動物も飼育の容易さの点で有用である。次に、このようにして得られる、当該DNAの導入された細胞を、斯かる細胞と同種の偽妊娠雌動物の卵管内又は子宮内に移植する。その後、自然分娩や帝王切開などにより生まれる新生児の中から、ハイブリダイゼーション法やPCR法などを適用して当該酵素をコードするDNAが導入されたトランスジェニック動物を選択すればよい。斯くしてトランスジェニック動物としての形態のこの発明のDNAは得ることができる。なお、トランスジェニック動物に関しては、例えば、村松正實、岡山博人、山本雅編集、『実験医学別冊 新 遺伝子工学ハンドブック』、1996年、羊土社発行、269乃至283頁に、その手法が詳述されている。一方、トランスジェニック植物を得るには、例えば、先ず、植物への感染性を有するアグロバクテリウム属微生物のプラスミドをベクターとして用いて、斯かるベクターに、当該酵素をコードするDNAを組込み、得られる組換えDNAを植物体や植物のプロトプラストに導入したり、重金属の微粒子を当該酵素をコードする塩基配列を含むDNAでコートし、斯かる微粒子をパーティクルガンを用いて植物体や植物のプロトプラストに直接注入する。宿主植物としては種々のものを用いることができるが、通常、ジャガイモ、大豆、小麦、大麦、米、トウモロコシ、トマト、レタス、アルファルファ、リンゴ、桃、メロンなどの食用の植物が用いられる。斯くして得られる植物体ないしは植物のプロトプラストに、ハイブリダイゼーション法やPCR法を適用して所期のDNAを含むものを選択し、プロトプラストの場合にはそれを植物体として再生させれば、トランスジェニック植物としての形態のこの発明のDNAは得ることができる。なお、トランスジェニック植物に関しては、ジェーン・ケイ・セトロウ編集、『ジェネティック・エンジニアリング』、第16巻、1994年、プレナム・プレス発行、93乃至113頁に、その手法が種々概説されている。以上の如きトランスジェニック動物ないしはトランスジェニック植物の形態のこの発明のDNAは、この発明の非還元性糖質生成酵素及び/又はトレハロース遊離酵素の給源として、また、トレハロース又はトレハロース構造有する非還元性糖質を含有する食用の動植物として利用することができる。
【0051】
この発明のトレハロース遊離酵素は、当該トレハロース遊離酵素の産生能を有する微生物を栄養培地に培養し、産生されたトレハロース遊離酵素を培養物から採取することを特徴とする、この発明によるトレハロース遊離酵素の製造方法によって所望量を得ることができる。斯かる製造方法で用いる微生物は、当該トレハロース遊離酵素の産生能を有するものであればいずれでもよく、その種類は問わない。斯かる微生物の具体例としては、例えば、アルスロバクター属に属する細菌、より望ましくは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)及びその変異株等の微生物や、当該トレハロース遊離酵素をコードするこの発明によるDNAを適宜の宿主微生物に導入して得られる形質転換体を挙げることができる。
【0052】
この発明によるトレハロース遊離酵素の製造方法で用いる栄養培地は、当該微生物が生育でき、当該トレハロース遊離酵素を産生し得るものであればいずれでもよく、特定の組成の培地に限定されるものではない。当該培地は、通常、炭素源及び窒素源を含有し、必要に応じて無機成分が添加される。炭素源としては、当該微生物が資化できるものであればよく、例えば、デキストリン、澱粉、澱粉部分分解物、グルコースなどの糖質、糖蜜及び酵母エキス等の糖含有物のほか、グルコン酸やコハク酸などの有機酸はいずれも有用である。炭素源の濃度は、その種類に応じて適宜選択されるが、通常、30%(w/v)以下、より望ましくは、15%(w/v)以下の条件が適用される。窒素源は、通常、アンモニウム塩や硝酸塩などの無機窒素化合物の他、尿素や、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物から適宜選択される。無機成分としては、例えば、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、燐酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などから適宜選ばれる塩類が必要に応じて用いられる。
【0053】
この発明による当該トレハロース遊離酵素の製造方法における培養条件は、使用する微生物に応じて、それぞれの微生物の生育に適した条件が適宜に選択される。例えば、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)などのアルスロバクター属に属する微生物を使用する場合、培養温度は通常、20乃至50℃、望ましくは、25乃至37℃、培養pHは通常pH4乃至10、望ましくは、pH5乃至9、培養時間は10乃至150時間から選ばれ、好気条件下で培養される。一方、当該トレハロース遊離酵素をコードするDNAを宿主微生物に導入してなる形質転換体を使用する場合、宿主の微生物種やベクターの種類にもよるが、培養温度は通常、20乃至65℃、培養pHは通常、pH2乃至9、培養時間は通常、1乃至6日間から選ばれ、好気条件下で培養される。斯くして得られる培養物は、通常、主としてその菌体画分に当該酵素を含有する。一方、枯草菌などを宿主として得た形質転換体を培養する場合には、形質転換に用いるベクターの種類によっては、斯かる培養物は、主としてその上清画分に当該酵素を含有する場合もある。以上のようにして得られる培養物における当該酵素の含量は、用いる微生物の種類や培養条件などにもよるが、通常、培養物1ml当たりに換算すると0.01乃至3,000単位である。
【0054】
以上のようにして得られる培養物から、この発明のトレハロース遊離酵素を採取する。培養物からの当該酵素の採取の方法は問わないが、例えば、当該酵素活性が主として認められる菌体又は培養上清のいずれかの画分を分離して採取し、さらに必要に応じて、採取した画分を適宜の精製手段に供して、当該トレハロース遊離酵素を含有する精製された画分を採取する。培養物における菌体と培養上清との分離には、通常の固液分離手段、例えば、遠心分離のほか、プレコートフィルターや平膜、中空糸膜などを用いる濾過などはいずれも有利に適用できる。斯くして分離される菌体含有画分及び培養上清から所望の画分を採取する。採取する画分が菌体含有画分である場合、斯かる菌体を破砕して菌体破砕物としたり、さらには、菌体破砕物からその可溶性画分を上記の固液分離手段によって、その可溶性画分としての菌体抽出液及び菌体不溶性画分に分離し、所望のいずれかの画分を採取することも随意である。菌体不溶性画分は、更に必要に応じて、常法により可溶化して用いることもできる。菌体の破砕には、通常の、超音波処理、界面活性剤処理、リゾチームやグルカナーゼなどの細胞壁破壊酵素による処理、機械的磨砕、機械的圧力の負荷などは、いずれも有利に適用できる。また、菌体の破砕には、培養物そのものを直接これらの菌体の破砕方法のいずれかで処理し、上述の固液分離手段のいずれかを適用して液体画分を採取して菌体抽出液を得ることも有利に実施できる。
【0055】
以上のようにして得られる画分から当該トレハロース遊離酵素をさらに精製するには、例えば、塩析、透析、濾過、濃縮、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び等電点電気泳動などの糖質関連酵素を精製するための斯界における慣用の方法が適用され、必要に応じてこれらは適宜組合せて適用される。斯様な方法によって分離される画分の中から、トレハロース遊離酵素の活性測定に基づき、所期の活性を示した画分を回収すれば、所望のレベルにまで精製された当該酵素を採取することができる。例えば、下記に詳述する実施例に記載の方法によれば、当該酵素は電気泳動的に均質な状態にまで精製することができる。以上のようにして、この発明の製造方法によってこの発明のトレハロース遊離酵素は、培養物、培養上清画分、菌体含有画分、菌体破砕物、菌体抽出液、菌体不溶性画分とその可溶化物、部分精製酵素含有画分、精製酵素含有画分などとして得られる。当該画分は、さらに非還元性糖質生成酵素を含有する場合がある。なお、以上のようにして得られるこの発明のトレハロース遊離酵素は、常法にしたがい固定化して用いることも随意である。斯かる固定化の方法としては、例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが挙げられる。以上のようにして得られる当該トレハロース遊離酵素は、いずれも、後述するこの発明の糖質の製造方法を含む各種糖質の製造において有利に用いることができる。とりわけ、当該トレハロース遊離酵素は、中温域に至適温度を有す上、望ましくは、酸性域に至適pHを有しているので、後述するこの発明のトレハロース遊離酵素の他、酸性域に至適pHを有する澱粉枝切り酵素、中温域で良好な活性を示すシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼなどとの併用による糖質の製造に極めて有用である。
【0056】
この発明は、以上に説明したこの発明の酵素を用いる、非還元性糖質を含む糖質の製造方法を提供するものでもある。この発明の糖質の製造方法は、当該非還元性糖質生成酵素及び/又は当該トレハロース遊離酵素を還元性澱粉部分分解物に作用させて非還元性糖質を生成させる工程と、該工程で生成した非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を採取する工程を含んでなる。斯かる糖質の製造方法においては、この発明以外の非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素、さらには他の糖質関連酵素から選ばれる1又は複数を併用することを妨げない。斯かる糖質の製造方法で用いる還元性澱粉部分分解物は、その給源や調製方法によって限定されるものではない。この発明でいう非還元性糖質とは、トレハロースをはじめとするトレハロース構造有する非還元性糖質全般を意味する。
【0057】
この発明の糖質の製造方法で使用する還元性澱粉部分分解物は、例えば、澱粉又は澱粉質を公知の方法で液化して得ることができる。斯かる澱粉は、とうもろこし澱粉、米澱粉、小麦澱粉などの地上澱粉であっても、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などの地下澱粉であってもよい。斯かる澱粉の液化は、通常、澱粉を水に懸濁した澱粉乳、望ましくは、濃度10%(w/w)以上、より望ましくは、約20乃至50%(w/w)の澱粉乳とし、これを機械的処理、酸処理又は酵素処理することにより行われる。液化の程度は比較的低いものが適しており、望ましくは、デキストロース・エクイバレント(以下、「DE」という。)15未満、より望ましくは、DE10未満のものが好適である。酸で液化する場合には、塩酸、燐酸、蓚酸などを用い、その後、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどで所望のpHに中和して利用すればよい。酵素で液化する場合には、α−アミラーゼ、とりわけ、耐熱性の液化型α−アミラーゼの使用が適している。また、斯かる澱粉の液化物に、さらに、α−アミラーゼ、マルトトリオース生成アミラーゼ、マルトテトラオース生成アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーゼ、澱粉枝切り酵素などの糖質関連酵素などをさらに作用させて得られる反応産物を還元性澱粉部分分解物として用いることも随意である。なお、これら澱粉関連酵素の酵素学的性質は、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレイテッド・エンザイムズ』、アミラーゼ研究会編、パーガモン・プレス発行(1988年)、18乃至81頁、125乃至142頁に詳述されている。
【0058】
このようにして得られる還元性澱粉部分分解物に、当該非還元性糖質生成酵素及び/又は当該トレハロース遊離酵素と、必要に応じて、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼやプルラナーゼなどの澱粉枝切り酵素、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−フラクトフラノシダーゼをはじめとする糖質関連酵素から選ばれる1又は複数の酵素とを作用させる。酵素を作用させるにあたっては、用いる酵素が作用し得る条件、通常、pH4乃至10、温度20乃至70℃、望ましくは、pH5乃至7、温度30乃至60℃から適宜選ばれる条件が採用される。とりわけ、40℃を越え且つ60℃未満若しくは45℃を越え60℃未満の中温域で、弱酸性乃至酸性の条件下で反応を行うと、より効率的に非還元製糖質を生成せしめることができる。還元性澱粉部分分解物にこれらの酵素を作用させる順序は問わず、いずれかの酵素を先に作用させ、他の酵素を後に作用させることも、用いる複数の酵素を同時に作用させることも随意である。
【0059】
酵素の使用量は、酵素の作用条件・作用時間や、非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質の最終用途などに応じて適宜選ばれる。通常、還元性澱粉部分分解物の固形分1g当たり、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素の場合、いずれも、約0.01乃至約100単位、澱粉枝切り酵素の場合、約1乃至約10,000単位、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼの場合、約0.05乃至約500単位から選ばれる。斯かる酵素作用により得られる反応液は、通常、非還元性糖質としてトレハロース、α−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース又はα−マルトペンタオシルトレハロースを含有する。当該製造方法において、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素とともに澱粉枝切り酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランフェラーゼを併用する場合、トレハロース及びトレハロース構造有する非還元性糖質のうちの比較的低分子のものが多量に生成されるという特徴がある。
【0060】
斯くして得られる反応液から非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を採取する。斯かる工程には、糖質の製造に慣用される方法が適宜適用される。具体的には、例えば、斯かる反応液を濾過、遠心分離などして不要物を除去した後、活性炭を用いる脱色ならびにH型・OH型イオン交換樹脂を用いる脱塩などにより精製し、さらに濃縮して、シラップ状製品として採取する。必要に応じてさらに精製し、高純度の非還元性糖質製品として採取することも随意である。さらなる精製には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーを用いる分画、アルコール及びアセトンなどの有機溶媒を用いる分別沈澱、適度な分離性能を有する膜を用いる分離、さらには、酵母での発酵処理、アルカリ処理などにより残存している還元性糖質の分解除去などの方法を1種又は2種以上組み合わせて適用することができる。とりわけ、工業的大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、含量を向上させた非還元性糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0061】
このようにして得られる非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質を、必要により、アミラーゼ、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどや、又はα−グルコシダーゼで分解し、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも、また、同じ特許出願人による特開平8−73482号公報に開示された方法に準じて、水素添加して残存する還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。とりわけ、当該非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質に対して、グルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させることにより容易にトレハロースを製造することができる。即ち、これらの非還元性又は低還元性糖質にグルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させてトレハロースとグルコースとの混合溶液とし、これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取する。これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させて含水結晶又は無水結晶としてのトレハロースを得ることも有利に実施できる。
【0062】
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度約60%(w/w)以上、固形分濃度約65乃至90%(w/w)のトレハロース高含有液を助晶缶にとり、必要に応じて、0.1乃至20%(w/v)の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは10乃至90℃の範囲で、攪拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。また、減圧濃縮しながら晶析させる連続晶析法を採用することも有利に実施できる。マスキットからトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
【0063】
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。噴霧乾燥方法の場合には、通常、固形分濃度70乃至85%(w/w)、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分10乃至20%(w/w)、晶出率10乃至60%程度のマスキットを約0.1乃至3日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
【0064】
また、無水結晶トレハロースを製造するには、上記のようにして得られる含水結晶トレハロースを、例えば、70℃乃至160℃の範囲の温度で常圧乾燥又は減圧乾燥、より望ましくは、80℃乃至100℃の範囲の温度で減圧乾燥するか、あるいは、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶缶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で攪拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕、流動造粒、噴霧乾燥などの方法で晶出、粉末化して製造される。
【0065】
このようにして製造される非還元性糖質又はこれを含む低還元性糖質は、還元性が低く安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸を有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することもなく、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、還元力が低いにもかかわらず低粘度であり、平均グルコース重合度が低いものの場合には、良質で上品な甘味を有している。このようにして得られる糖質は、例えば、同じ特許出願人による特許文献5、特許文献6、特開平8−73482号公報、特開平8−73506号公報、特許文献7、特開平8−336363号公報、特開平9−9986号公報、特開平9−154493号公報、特開平9−252719号公報、特開平10−66540号公報、特開平10−168093号公報、特願平9−236441号明細書、特願平9−256219号明細書、特願平9−268202明細書、特願平9−274962号明細書、特願平9−320519号明細書、特願平9−338294号明細書、特願平10−55710号明細書、特願平10−67628号明細書、特願平10−134553号明細書及び特願平10−214375号明細書などに開示されているように、食品分野、化粧品分野及び医薬品分野などにおいて有利に利用することができる。
【0066】
次に、実施例によりこの発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0067】
<非還元性糖質生成酵素及び/又はトレハロース遊離酵素を産生する微生物>
中温域に至適温度を有する非還元性糖質生成酵素及び/又はトレハロース遊離酵素を産生する微生物を土壌より広く検索したところ、兵庫県赤穂市の土壌から分離した微生物の1株が、目的とする酵素を産生し得るものであると認められた。そこで、この微生物を『微生物の分類と同定』、(長谷川武治編、学会出版センター、1985年)に準拠して同定試験に供した。同定試験の結果を以下にまとめた。
【0068】
細胞形態に関する試験結果を以下に示す。
(1)肉汁寒天培養、37℃
通常0.4乃至0.5×0.8乃至1.2μmの桿菌。単独。多形性あり。運動性なし。無胞子。非抗酸性。グラム陽性。
(2)EYG寒天培養、37℃
桿菌−球菌の生育サイクルを示す。
【0069】
培養的性質に関する試験結果を以下に示す。
(1)肉汁寒天平板培養、37℃
形状: 円形 大きさは2日間で1乃至2mm
周縁: 全縁
隆起: 凸状
光沢: 湿光
表面: 平滑
色調: 半透明、クリーム色
(2)肉汁寒天斜面培養、37℃
生育度: 良好
形状: 糸状
(3)酵母エキス・ペプトン寒天斜面培養、37℃
生育度: 良好
形状: 糸状
(4)肉汁ゼラチン穿刺培養、27℃
液化しない。
【0070】
生理学的性質に関する試験結果を以下に示す。
(1)メチルレッド試験: 陰性
(2)VP試験: 陽性
(3)インドールの生成: 陰性
(4)硫化水素の生成: 陰性
(5)澱粉の加水分解: 陽性
(6)ゼラチンの液化: 陰性
(7)クエン酸の利用: 陽性
(8)無機窒素源の利用: アンモニウム塩は利用しない。硝酸塩は利用する。
(9)色素の生成: なし
(10)ウレアーゼ: 陰性
(11)オキシダーゼ: 陰性
(12)カタラーゼ: 陽性
(13)生育の範囲: pH4.5乃至8.0。温度20乃至50℃。最適温度30乃至45℃。
(14)酸素に対する態度: 好気性
(15)炭素源の利用性:
L−アラビノース: 利用しない
D−グルコース: 利用する
D−フラクトース: 利用しない
D−ガラクトース: 利用しない
L−ラムノース: 利用しない
D−キシロース: 利用しない
D−マンノース: 利用する
ラフィノース: 利用しない
トレハロース: 利用しない
スクロース: 利用しない
マルトース: 利用しない
ラクトース: 利用しない
D−ズルシトール: 利用しない
D−マンニトール: 利用しない
グルコン酸: 利用する
こはく酸: 利用する
ニコチン酸: 利用しない
L−マレイン酸: 利用する
酢酸: 利用する
乳酸: 利用する
(16)糖からの酸生成:
L−アラビノース: 僅かに生成する
D−グルコース: 僅かに生成する
D−フラクトース: 生成しない
D−ガラクトース: 僅かに生成する
L−ラムノース: 僅かに生成する
D−キシロース: 僅かに生成する
グリセロール: 僅かに生成する
ラフィノース: 生成しない
トレハロース: 僅かに生成する
スクロース: 僅かに生成する
マルトース: 僅かに生成する
ラクトース: 生成しない
(17)アミノ酸の利用: L−グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−ヒスチジン、L−アルギニンいずれも利用しない。
(18)アミノ酸の脱炭酸: L−リジン、L−オルニチン、L−アルギニンいずれも脱炭酸しない。
(19)DNase: 陰性
(20)細胞壁のN−アシル型: アセチル
(21)細胞壁の主要ジアミノ酸: リジン
(22)DNAのG−C含量: 71.2%
【0071】
以上の菌学的性質を、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー』、第2巻(1984年)を参考にして、公知の菌株とその異同を検討した。その結果、上記微生物は、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する新規微生物であることが判明した。本発明者等は、上記微生物を新規微生物アルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.)S34と命名した。なお、アルスロバクター・スピーシーズS34は、平成10年8月6日付けで、茨城県つくば市東1丁目1番3号にある通商産業省工業技術院生命工業技術研究所、特許微生物寄託センターに、微生物受託番号FERM BP−6450を付して受託された。
【0072】
引き続き、上記微生物アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)と、米国の微生物寄託機関『アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)』に寄託されている、アルスロバクター属に属する微生物のタイプ株とのDNAの相同性を、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー』、第1巻(1984年)に記載のDNA−DNAハイブリダイゼーション法に準じて調べた。すなわち、先ず、後記表1に示す12種のタイプ株をそれぞれ常法にしたがって培養し、培養物から菌体を採取した。また、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を後記実施例2−1における種培養の方法で培養し、培養物から菌体を採取した。常法にしたがって、それぞれの菌体からDNAを採取し、その2μgずつを制限酵素PstIで消化した。これら消化物をアマシャム製ナイロン膜『Hybond−N+』上に個々にスポットした後、常法にしたがい、アルカリ処理の後、中和、乾燥させて、DNAを該ナイロン膜上に固定した。続いて、先に得た、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来のDNAを1μgとり、これを、制限酵素PstIで消化した。該消化物を、アマシャム製[α−32P]dCTPとファルマシア製DNA標識キット『レディー・トゥー・ゴー、DNAラベリング・キット』とを用いて放射性同位元素で標識し、プローブを得た。このプローブと、先に準備した、DNAを固定したナイロン膜とを、20mlのアマシャム製ハイブリダイゼーション用緩衝液『ラピッド・ハイブリダイゼーション・バッファー』中で、65℃で振盪しつつ、2時間ハイブリダイゼーションに供した。ハイブリダイゼーション後のナイロン膜を常法にしたがって洗浄し、乾燥させた後、常法にしたがいオートラジオグラフィーに供した。オートラジオグラフィーで認められたハイブリダイゼーションのシグナルを、ファルマシア製画像解析システム『イメージ・マスター』を用いて解析し、それぞれのシグナルの強度を数値化した。得られた数値に基づいて、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来のDNAのスポットにおけるシグナルの強度を100とした場合の、タイプ株由来のDNAのスポットにおけるシグナルの相対強度(%)を算出し、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)とそれぞれのタイプ株とのDNAの相同性を示す指標とした。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、ハイブリダイゼーションのシグナルの相対強度(%)は、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)のタイプ株(ATCC 13727)由来のDNAのスポットにおいて98.6%という高値を示した。このことから、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)は、本実施例で用いた12種のタイプ株のうちでは、アルスロバクター・ラモサス(ATCC 13727)と最も高いDNAの相同性を有していることが判明した。以上実施例1に示した結果は、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)がアルスロバクター・ラモサス(ATCC 13727)と近縁の新規微生物であることを示している。
【実施例2】
【0075】
<非還元性糖質生成酵素>
【0076】
<実施例2−1:酵素の産生>
1.0%(w/v)デキストリン(松谷化学工業株式会社製、商品名『パインデックス#4』)、0.5%(w/v)ペプトン、0.1%(w/v)酵母エキス0.1、0.1%(w/v)燐酸一ナトリウム0.1、0.06%(w/v)燐酸二カリウム、0.05%(w/v)硫酸マグネシウム及び水からなる培地をpH7.0に調整した。500ml容三角フラスコにこの培地を約100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で20分間滅菌し、冷却して、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を接種し、温度37℃、260rpmの撹拌条件下で48時間培養したものを種培養物とした。
【0077】
容量30lのファーメンターに、0.05%(w/v)消泡剤(信越化学工業株式会社製、商品名『KM−75』)を含むこと以外は種培養の場合と同組成の培地約20lを入れて殺菌、冷却して温度37℃とした後、種培養物を培地に対して1%(v/v)の割合で接種し、温度37℃、pH5.5乃至7.5に保ちつつ、約72時間通気攪拌培養した。
【0078】
得られた培養物の一部を採り、遠心分離して菌体と上清液とに分離した。この菌体を超音波で破砕し遠心分離して上清を回収して菌体抽出液を得た。培養上清と菌体抽出液それぞれの非還元性糖質生成酵素活性を測定したところ、培養上清には当該酵素活性が僅かであったのに対して、菌体抽出液には当該酵素活性が培養物1ml当たりに換算して約0.1単位認められた。
【0079】
<実施例2−2:酵素の精製>
実施例2−1の方法にしたがって得た培養物約80lを、8,000rpmで30分間遠心分離することにより、湿重量で約800gの菌体を得た。その菌体を2lの10M燐酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、『モデルUH−600』)で処理した。処理液を、10,000rpmで30分間遠心分離し、その上清約2lを回収した。この上清液に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、24時間放置した後、10,000rpmで30分間遠心分離し、硫安塩析物を回収した。得られた硫安塩析物を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して48時間透析し、10,000rpmで30分間遠心分離して不溶物を除去した。この透析内液約1lを、約1.3lの陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、商品名『セパビーズFP−DA13ゲル』)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。溶出は、通液に伴い0Mから0.6Mまで直線的に濃度が上昇する食塩を含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分の非還元性糖質生成酵素活性を測定した。その結果、約0.2Mの食塩を含む緩衝液でカラムから溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。
【0080】
合一した溶液に硫安を濃度1Mになるように加え4℃で12時間放置した後、10,000rpmで30分間遠心分離して上清を回収した。回収した上清を疎水性ゲル(東ソー株式会社製、商品名『ブチルトヨパール650Mゲル』)を用いる疎水性カラムクロマトグラフィーに供した。ゲル量は約300ml、ゲルは使用に先立って、1M硫安を含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した。溶出は、通液に伴い1Mから0Mまで直線的に濃度が下降する硫安を含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分の非還元性糖質生成酵素活性を測定した。その結果、約0.75Mの硫安で溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。
【0081】
合一した溶液を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して透析し、その透析内液を10,000rpmで30分間遠心分離した。この上清を回収し、約40mlの陰イオン交換樹脂(東ソー株式会社製、商品名『DEAE−トヨパール650Sゲル』)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。溶出は、通液に伴い0Mから0.2Mまで直線的に濃度が上昇する食塩水溶液で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分の非還元性糖質生成酵素活性を測定した。その結果、約0.15M食塩で溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。合一した液を、引き続き、約380mlの『ウルトロゲルAcA44ゲル』(フランス、セプラコル社製)を用いるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、顕著な当該酵素活性の認められた画分を回収した。以上の、精製の各工程における非還元性糖質生成酵素の酵素活性量、比活性、収率を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
上記のゲル瀘過クロマトグラフィーで溶出され回収した溶液を、常法にしたがい、7.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲルを用いる電気泳動法に供したところ、単一の蛋白質バンドが確認された。この結果は、上記で得た、ゲル濾過クロマトグラフィーからの溶出物が、電気泳動的に均質な状態にまで精製された、非還元性糖質生成酵素の精製標品であることを意味している。
【0084】
<実施例2−3:酵素の性質>
【0085】
<実施例2−3(a):作用>
基質として、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはマルトヘプタオースの20%水溶液を調製し、それぞれに実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を基質固形分1g当たり2単位の割合で加え、50℃、pH6.0で48時間反応させた。反応産物を脱塩した後、『MCIゲル CK04SSカラム』(三菱化学株式会社製)2本を直列につないだカラムを用いる高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という。)で分析し、各反応産物中の糖質の組成比を求めた。HPLCにおいて、カラムはカラムオーブン『CO−8020』(東ソー株式会社製造)を用いて85℃に保持し、移動相として水を流速0.4ml/分で通液し、溶出物を示差屈折計『RI−8020』(東ソー株式会社製造)で分析した。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3の結果から明らかなように、それぞれの反応産物は、残存する基質と新たに生成した非還元性糖質α−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース又はα−マルトペンタオシルトレハロース(表3においては、それぞれ、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロース、マルトテトラオシルトレハロース又はマルトペンタオシルトレハロースと表示した。)とからなり、それ以外の糖質はほとんど検出されなかった。各反応産物における非還元性糖質の組成比をその生成率として評価すると、グルコース重合度3のα−グルコシルトレハロースは比較的低いものの、グルコース重合度4以上のα−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース、α−マルトペンタオシルトレハロースはいずれも約85%以上という高い生成率であることが判明した。なお、グルコース及びマルトースからの非還元性糖質の生成は確認されなかった。
【0088】
<実施例2−3(b):分子量>
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を、分子量マーカー(日本バイオ・ラド・ラボラトリーズ株式会社製)と並行して、10%(w/v)ポリアクリルアミドゲルを用いる、通常のSDS−PAGEに供した。泳動後、分子量マーカーの泳動位置と比較した結果、当該酵素の分子量は約75,000±10,000ダルトンであった。
【0089】
<実施例2−3(c):等電点>
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を、両性電解質『アンフォライン』(スウエーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を2%(w/v)の濃度で含有するポリアクリルアミドゲルを用いる等電点電気泳動法に供した。泳動後、ゲルのpHを測定した結果、当該酵素の等電点は約4.5±0.5であった。
【0090】
<実施例2−3(d):至適温度及び至適pH>
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を用いて、当該酵素活性に対する温度の影響及びpHの影響を調べた。温度の影響を調べる際には、適宜の各温度で反応させたこと以外は活性測定法にしたがって操作した。pHの影響を調べる際には、適宜の20mM緩衝液を用いて適宜の各pH条件下で反応させたこと以外は活性測定法にしたがって操作した。それぞれの操作において、各反応系に認められた基質の還元力の減少量の相対値(%)を算出し、相対酵素活性(%)とした。結果を図1(温度の影響)及び図2(pHの影響)に示す。図1で横軸は反応温度を、図2で横軸は反応pHをそれぞれ示す。図1に示されるように、当該酵素の至適温度は、pH6.0、60分間反応で、約50℃付近であった。図2に示されるように、当該酵素の至適pHは、50℃、60分間反応で、pH約6.0付近であった。
【0091】
<実施例2−3(e):温度安定性及びpH安定性>
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を用いて、当該酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、当該酵素の精製標品を20mM燐酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、適宜の各温度に60分間保持し、水冷した後、希釈液に残存する酵素活性を活性測定法にしたがい調べた。pH安定性は、当該酵素の精製標品を適宜の各pHの50mM緩衝液で希釈し、4℃で24時間保持した後、pHを6に調整し、希釈液に残存する酵素活性を活性測定法に従って調べた。結果を図3(温度安定性)及び図4(pH安定性)に示す。図3で横軸は酵素の保持温度を、図4で横軸は酵素の保持pHをそれぞれ示す。図3に示されるように、当該酵素は約55℃付近まで安定であった。図4に示されるように、当該酵素は、pH約5.0乃至約10.0の範囲で安定であった。
【0092】
以上の結果は、実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素が、中温域に至適温度を有するこの発明の非還元性糖質生成酵素であることを示している。
【0093】
<実施例2−4:部分アミノ酸配列>
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品の一部を蒸留水に対して透析した後、蛋白量として約80μgをN末端アミノ酸配列分析用の試料とした。N末端アミノ酸配列は、『プロテインシーケンサー モデル473A』(米国、アプライドバイオシステムズ社製造)を用い、N末端から20残基まで分析した。得られた配列は、配列表における配列番号4に示すアミノ酸配列であった。
【0094】
実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品の一部を10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)に対して透析した後、限外濾過膜(東ソー株式会社製、商品名『ウルトラセント−30』)を用い、常法にしたがい操作して、濃度約1mg/mlにまで濃縮した。この濃縮液(0.2ml)に10μgのトリプシン試薬(和光純薬株式会社販売、商品名『TPCK−トリプシン』)を加え、30℃、22時間反応させて当該酵素を消化し、ペプチドを生成させた。反応産物を、『マイクロボンダスフェアー C18カラム』(直径3.9mm×長さ150mm、ウォーターズ社製)を用いる逆相HPLCに供し、ペプチドを分離した。温度は室温で行った。溶出は、通液に伴い60分間で24%(v/v)から48%(v/v)まで直線的に濃度が上昇するアセトニトリルを含む0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液で、流速0.9ml/分で行った。カラムから溶出されたペプチドは、波長210nmの吸光度を測定することにより検出した。他のペプチドとよく分離した2個のペプチド、『S5』(保持時間約23分)及び『S8』(保持時間約30分)を分取し、それぞれを真空乾燥した後、50μlの0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸を含む50%(v/v)アセトニトリル水溶液に溶解した。これらのペプチド溶液をプロテインシーケンサーに供し、それぞれ20残基までアミノ酸配列を分析した。ペプチド『S5』からは、配列表における配列番号5に示すアミノ酸配列が、またペプチド『S8』からは、配列表における配列番号6に示すアミノ酸配列が得られた。
【実施例3】
【0095】
<非還元性糖質生成酵素をコードするDNA>
【0096】
<実施例3−1:遺伝子ライブラリーの作製と検索>
培養温度を27℃とし、培養時間を24時間としたこと以外は実施例2−1と同様にして、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を培養した。遠心分離により培養物から菌体を分離し、適量のトリス−EDTA−食塩緩衝液(以下、「TES緩衝液」いう。)(pH8.0)に浮遊させ、リゾチームを当該菌体浮遊液の体積に対し0.05%(w/v)の割合で加えた後、37℃で30分間インキュベートした。この処理物を−80℃で1時間保持して凍結させた後、ここに、予めTES緩衝液(pH9.0)を加えて60℃に加温しておいたTES緩衝液/フェノール混液を加えて充分に撹拌し、さらに氷冷後遠心分離して形成された上層を採取した。この上層に、2倍容の冷エタノールを加えて生成した沈澱を採取し、SSC緩衝液(pH7.1)の適量に溶解後、7.5μgのリボヌクレアーゼ及び125μgのプロテアーゼを加え、37℃で1時間インキュベートした。ここに、クロロホルム/イソアミルアルコール混液を加えて撹拌後、静置して形成される上層を採取し、この上層に冷エタノールを加えて生成した沈澱を採取した。沈澱を冷70%(v/v)エタノールで濯ぎ真空乾燥して、DNAを得た。得られたDNAは、濃度約1mg/mlとなるようにSSC緩衝液(pH7.1)に溶解し、−80℃で凍結した。
【0097】
上記で得たDNA溶液を50μlとり、ここに制限酵素KpnIを約50単位加え、37℃で1時間インキュベートしてDNAを消化した。消化したDNAの3μgと、予め制限酵素KpnIで消化しておいたストラタジーン・クローニング・システムズ製プラスミドベクター『pBluescript II SK(+)』0.3μgとを、宝酒造製『DNAライゲーション・キット』を用いて、添付の説明書にしたがって操作して連結した。通常のコンピテントセル法にしたがって、この連結産物でストラタジーン・クローニング・システムズ製大腸菌『Epicurian Coli XL1−Blue』株100μlを形質転換して遺伝子ライブラリーを作製した。
【0098】
作製した遺伝子ライブラリーを、常法により調製した、10g/l トリプトン、5g/l 酵母エキス、5g/l 塩化ナトリウム、75mg/l アンピシリンナトリウム塩及び50mg/l 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトシドを含む寒天平板培地(pH7.0)に植菌し、37℃で18時間培養後、培地上に形成された白色のコロニー約5,000個を、常法にしたがって、アマシャム製ナイロン膜『Hybond−N+』上に固定した。別途、実施例2−4の方法で明らかにした、配列表における配列番号5に示すアミノ酸配列における第1乃至8番目までのアミノ酸配列に基づき、配列表における配列番号18に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを化学合成し、常法にしたがい[γ−32P]ATP及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて同位体標識してプローブを得た。このプローブを用いて、先に得たナイロン膜上に固定されたコロニーを、通常のコロニー・ハイブリダイゼーション法に従って検索した。ハイブリダイゼーションは、適量のプローブを添加したハイブリダイゼーション液(6×SSC、5×デンハルト液及び100mg/l変性サケ精子DNAを含む)中で、65℃で16時間実施した。ハイブリダイゼーションを終えた上記ナイロン膜は、6×SSCで65℃で30分間洗浄した後、0.1%(w/v)SDSを含む2×SSCで65℃で2時間さらに洗浄した。洗浄後のナイロン膜を常法にしたがいオートラジオグラフィーに供して認められたシグナルに基づき、プローブと顕著なハイブリダイゼーションを示したコロニーを選択した。選択した形質転換体を『GY1』と命名した。
【0099】
<実施例3−2:塩基配列の解読>
この形質転換体『GY1』を常法にしたがい、100μg/ml アンピシリンナトリウム塩を含むL−ブロス培地(pH7.0)に植菌し、37℃で24時間振盪培養した。培養終了後、遠心分離により培養物から菌体を採取し、通常のアルカリ−SDS法により組換えDNAを抽出した。当該組換えDNAを『pGY1』と命名した。組換えDNA『pGY1』を、上記プローブを用いて通常のサザン分析法により分析し、分析結果に基づき制限酵素地図を作成した。作成した制限酵素地図を図5に示す。図5に示すように、組換えDNA『pGY1』は、図中太線で示されるアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)由来の約5,500塩基対からなる塩基配列を含有し、そして、斯かる組換えDNAは、制限酵素EcoRIによる2箇所の認識部位の間の約4,000塩基対からなる領域に、図中太線の領域内の黒色矢印で示すように、当該非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列を含有することが判明した。そこで、組換えDNA『pGY1』を制限酵素EcoRIで完全に消化した後、通常のアガロースゲル電気泳動法を用いて、約4,000塩基対のDNA断片を分離精製した。このDNA断片と、予め制限酵素EcoRIで消化しておいたストラタジーン・クローニング・システムズ製プラスミドベクター『pBluescript II SK(+)』とを、通常のライゲーション法で連結した。引き続き常法にしたがって、連結産物でストラタジーン・クローニング・システムズ製大腸菌『XL1−Blue』株を形質転換した。このようにして得られた形質転換体より常法にしたがい組換えDNAを抽出し、上記の約4,000塩基対のDNA断片を含有することを常法にしたがって確認し、『pGY2』と命名した。また、ここで得た、組換えDNA『pGY2』が導入されてなる形質転換体を『GY2』と命名した。
【0100】
組換えDNA『pGY2』の塩基配列を、通常のジデオキシ法により分析したところ、当該組換えDNAは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)に由来する、配列表における配列番号19に示す、3252塩基対からなる塩基配列を含有していた。この塩基配列は、配列番号19に併記したアミノ酸配列をコードし得るものであった。このアミノ酸配列と、実施例2−4の方法で確認された本発明の非還元性糖質生成酵素の部分アミノ酸配列である、配列表における配列番号4乃至6に示すアミノ酸配列とを比較した。その結果、配列表における配列番号4、5及び6に示すアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号19に併記したアミノ酸配列における第2乃至21番目、619乃至638番目及び第98乃至117番目のアミノ酸配列と完全に一致した。以上のことは、実施例2で得た本発明の非還元性糖質生成酵素が、配列表における配列番号19に併記したアミノ酸配列における第2乃至757番目のアミノ酸からなる配列、すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列を有することを示している。また、以上のことは、当該酵素はアルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)においては、配列表における配列番号19に示す塩基配列における第746乃至3013番目の塩基からなる配列、すなわち、配列番号7に示す塩基配列によりコードされていることをも示している。以上に示した組換えDNA『pGY2』の構造は図6にまとめている。
【0101】
実施例2の方法で得られるこの発明の非還元性糖質生成酵素の、上記で明らかにしたアミノ酸配列と、非還元性糖質生成酵素としての作用を有する公知の他の酵素のアミノ酸配列とを、ディー・ジェイ・リップマンら、『サイエンス』、227巻、1435乃至1441頁(1985年)に記載の方法にしたがって、市販のソフトウェア(商品名『ジェネティクス−マック(GENETYX−MAC)、バージョン8』、ソフトウエア開発株式会社販売)を用いて比較し、それぞれ相同性(%)を求めた。公知の酵素として、特許文献3に開示されたアルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.)Q36由来のもの、特許文献3に開示されたリゾビウム・スピーシーズ(Rhizobium sp.)M−11由来のもの、特許文献8に開示されたスルフォロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)ATCC33909由来のもの及び、再公表特許WO95/34642号公報に開示されたスルフォロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)KM1由来のものを用いた。以上の公知の酵素は上記公報に記載のとおり、いずれも中温域以外に至適温度を有するものである。なお、以上の公知の酵素のアミノ酸配列は、米国国立予防衛生研究所作成のDNAデータベース『ジェンバンク(GenBank)』から、それぞれのアクセション番号『D63343』、『D64128』、『D78001』及び、『D83245』により入手することもできる。求められた相同性を表4に示す。
【0102】
【表4】

【0103】
表4に示すように、実施例2によるこの発明の非還元性糖質生成酵素は、中温域以外に至適温度を有する公知の酵素のうちではリゾビウム・スピーシーズM−11由来の酵素と最も高い56.9%というアミノ酸配列の相同性を示した。この結果は、この発明の非還元性糖質生成酵素が、配列番号1に示すアミノ酸配列に対して57%以上の相同性を有するアミノ酸配列を通常は含有することを意味している。また、アミノ酸配列の比較結果から、実施例2による当該酵素と上記の4種類の公知の酵素は、配列表における配列番号2乃び3に示すアミノ酸配列を共通して含有していることが判明した。実施例2による当該酵素は、配列表における配列番号1のアミノ酸配列における第84乃至89番目及び第277乃至282番目のアミノ酸からなる部分に見られるとおり、配列番号2乃び3のアミノ酸配列を部分アミノ酸配列として含有している。上記で比較の対象とした4種類の酵素も、いずれも、それぞれ対応する部分にこれらの部分アミノ酸配列を含有している。実施例2による当該酵素ならびに比較の対象とした酵素がいずれも共通して還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する作用を有していることから、上記で見出された配列表における配列番号2及び3に示す部分アミノ酸配列が斯かる作用の発現に関わっていることが示唆された。したがってこの結果は、この発明の非還元性糖質生成酵素が、配列表における配列番号2及び3に示すアミノ酸配列を含有するとともに中温域に至適温度を有することにより特徴づけられることを示している。
【0104】
<実施例3−3:DNAを導入してなる形質転換体>
配列表における配列番号7に示す塩基酸配列における5′末端及び3′末端の配列に基づいて、それぞれ、配列表における配列番号20及び21に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを常法にしたがい化学合成した。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、これらのオリゴヌクレオチドをそれぞれ85ngと、鋳型として、実施例3−2の方法で得た組換えDNA『pGY2』を100ngとを反応管で混合し、耐熱性DNAポリメラーゼ試薬(宝酒造製、商品名『Pyrobest』)1.25単位、同試薬に添付された緩衝液5μlとdNTP混合液4μlをさらに加え、滅菌蒸留水で全量を50μlとして、PCRを行った。PCRの温度制御は、95℃1分間の後、98℃20秒間、70℃30秒間及び72℃4分間を25サイクル、最後に、72℃10分間とした。PCR産物としてのDNAを常法にしたがい回収して、約2,300塩基対のDNAを得た。このDNAと、予め制限酵素EcoRIで切断し、宝酒造製『DNA Blunting Kit』を用いて平滑化しておいたファルマシア製プラスミドベクター『pKK223−3』とを混合し、通常のライゲーション法により連結した。引き続き、連結産物を常法にしたがって操作して、上記約2,300塩基対のDNAが挿入された組換えDNAを得た。得られた組換えDNAを通常のジデオキシ法により解読したところ、当該組換えDNAは、配列表の配列番号7に示す塩基配列における5′末端及び3′末端に、それぞれ、5′−ATG−3′及び5′−TGA−3′で示される塩基配列が付加された塩基配列を含有していた。当該組換えDNAを『pGY3』と命名した。以上に示した組換えDNA『pGY3』の構造は図7にまとめている。
【0105】
組換えDNA『pGY3』を、常法にしたがい予めコンピテント化しておいた大腸菌LE392株(ATCC 33572)に導入して形質転換体を得た。斯かる形質転換体より、通常のアルカリ−SDS法によりDNAを抽出し、抽出されたDNAが『pGY3』であることを常法にしたがって確認し、当該形質転換体を『GY3』と命名した。斯くして、この発明の非還元性糖質生成酵素をコードするDNAを導入してなる形質転換体を得た。
【0106】
<実施例3−4:DNAを導入してなる形質転換体>
ファルマシア製プラスミドベクター『pKK223−3』におけるプロモーターの3′末端側下流の塩基配列にもとづいて、配列表における配列番号22及び23に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを常法にしたがって合成し、それぞれの5′末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて燐酸化した。燐酸化した該オリゴヌクレオチドを常法にしたがいアニーリングさせた後、これと、あらかじめ制限酵素EcoRI及びPstIで切断しておいたファルマシア製プラスミドベクター『pKK223−3』とを通常のライゲーション法により連結した。常法にしたがい、連結産物を大腸菌株に導入し、斯る大腸菌株を培養後、培養物から通常のアルカリ−SDS法によりDNAを抽出した。得られたDNAは、プラスミドベクター『pKK223−3』と同様の構造を有する一方、そのプロモーターの下流に、制限酵素EcoRI、XbaI、SpeI及びPstIによる認識配列をこの順序で含有していた。斯くして得たDNAをプラスミドベクター『pKK4』と命名した。
【0107】
配列表における配列番号7に示す塩基配列における5′末端及び3′末端部分の配列に基づいて化学合成した、配列番号24及び25に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマー及びアンチセンスプライマーとして用いたこと以外は実施例3−3と同様にしてPCRを行った。PCR産物としてのDNAを常法にしたがい回収して、約2,300塩基対のDNAを得た。このDNAを制限酵素XbaI及びSpeIで切断した後、これと、制限酵素XbaI及びSpeIであらかじめ切断しておいた上記プラスミドベクター『pKK4』とを通常のライゲーション法により連結した。連結産物を常法にしたがって操作して、配列表における配列番号7に示す塩基配列を含有する組換えDNAを得た。斯くして得た組換えDNAを『pKGY1』と命名した。
【0108】
引き続いて、ロバート・エム・ホートンらが、『メソッズ・イン・エンザイモロジー』、第217巻、270乃至279頁(1993年)に報告している、2段階のPCRを適用する『オーバーラップ・エクステンション法』により、上記で得た組換えDNA『pKGY1』における配列番号7の塩基配列の5′末端上流部分の塩基配列を改変した。先ず、センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、プラスミドベクター『pKK4』の塩基配列に基づいて常法にしたがい化学合成した、配列表における配列番号26及び27に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、鋳型として、上記で得た組換えDNA『pKGY1』をそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第1段PCR−A」という)。これと並行して、センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号7の塩基配列に基づいてそれぞれ常法にしたがい化学合成した、配列表における配列番号28及び29に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、鋳型として、上記で得た組換えDNA『pKGY1』をそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第1段PCR−B」という)。第1段PCR−Aの産物としてのDNAを常法にしたがって回収し、約390塩基対のDNAを得た。第1段PCR−Bの産物としてのDNAを常法にしたがい回収して、約930塩基対のDNAを得た。
【0109】
鋳型として、第1段PCR−A及び第1段PCR−Bの産物として得たDNAの混合物を、センスプライマーとして、第1段PCR−Aで用いた配列表における配列番号26の塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、アンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号7に示す塩基配列に基づき常法にしたがい化学合成した、配列表における配列番号30に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第2段PCR−A」という)。このPCRの産物としてのDNAを常法にしたがい回収し、約1,300塩基対のDNAを得た。
【0110】
第2段PCR−Aの産物として得たDNAを制限酵素EcoRI及びBsiWIで切断し、生成した約650塩基対のDNAを常法にしたがい回収した。一方、上記で得た組換えDNA『pKGY1』を制限酵素EcoRI及びBsiWIで切断し、生成した約6,300塩基対のDNAを常法にしたがい回収した。これらのDNAを通常のライゲーション法により連結し、連結産物を常法にしたがい操作して、第2段PCR−Aの産物由来の約650塩基対のDNAを含有する組換えDNAを得た。通常のジデオキシ法によりDNAを解読したところ、得られた組換えDNAは、5′末端から3′末端に向けて、配列表における配列番号8に示す塩基配列、5′−ATG−3′で表される塩基配列、配列表における配列番号7に示す塩基配列及び、5′−TGA−3′で表される塩基配列が、この順序で連結された塩基配列を含有していた。斯くして得た組換えDNAを『pGY4』と命名した。なお、組換えDNA『pGY4』の構造は、配列表における配列番号8に示す塩基配列を含有すること以外は、実施例3−3の方法で得た組換えDNA『pGY3』の構造と実質的に同一である。
【0111】
組換えDNA『pGY4』を、宝酒造製の大腸菌コンピテント細胞『BMH71−18mutS』に常法にしたがい導入して形質転換体を得た。斯る形質転換体より通常のアルカリ−SDS法によりDNAを抽出し、抽出されたDNAが『pGY4』であることを常法にしたがって確認し、当該形質転換体を『GY4』と命名した。斯くして、この発明の非還元性糖質生成酵素をコードするDNAを導入してなる形質転換体を得た。
【実施例4】
【0112】
<非還元性糖質生成酵素の製造>
【0113】
<実施例4−1:アルスロバクター属微生物を用いる酵素の製造>
アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を、実施例2−1の方法に準じて、ファーメンターで約72時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮して約8lの菌体懸濁液を回収し、更に、その菌体懸濁液を高圧菌体破砕装置(大日本製薬株式会社製、『ミニラボ』)で処理し、含まれる菌体を破砕した。処理液を遠心分離し、約8.5lの遠心上清を得た。上清中の非還元性糖質生成酵素活性を測定したところ、培養物1ml当たりに換算すると、約0.1単位の当該酵素活性が認められた。この上清に飽和度約0.7になるように硫安を加えて硫安塩析し、遠心分離で沈殿物を回収し、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析した。得られた透析内液を、イオン交換樹脂量を約2lとしたこと以外は、実施例2−2に記載の陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、商品名『セパビーズFP−DA13ゲル』)を用いる方法に準じてイオン交換カラムクロマトグラフィーに供し、非還元性糖質生成酵素活性画分を回収した。回収した画分を1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、その透析内液を遠心分離して形成された上清を回収した。回収した上清を、ゲル量を約300mlとしたこと以外は、実施例2−2に記載の疎水性ゲル(東ソー株式会社製、商品名『ブチルトヨパール650Mゲル』)を用いる方法に準じて疎水性カラムクロマトグラフィーに供し、非還元性糖質生成酵素活性画分を回収した。回収した酵素の至適温度が40℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くして、約2,600単位のこの発明の非還元性糖質生成酵素を得た。
【0114】
<実施例4−2:形質転換体を用いる酵素の製造>
16g/l ポリペプトン、10g/l 酵母エキス及び5g/l 塩化ナトリウムを含む水溶液を500ml容三角フラスコに100ml入れ、オートクレーブで121℃で15分間処理し、冷却し、無菌的にpH7.0に調製した後、アンピシリンナトリウム塩10mgを無菌的に添加して液体培地を調製した。この液体培地に実施例3−2の方法で得た形質転換体『GY2』を接種し、37℃で約20時間通気撹拌培養したものを種培養物とした。次に10l容ファーメンタに、種培養に用いたのと同一組成の培地を種培養の場合に準じて7l調製し、種培養物を70ml接種し、約20時間通気撹拌培養した。得られた培養物から、常法にしたがい、遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波処理して菌体を破砕し、さらに遠心分離により不溶物を除去し、上清を回収して菌体抽出液を得た。この菌体抽出液を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して透析した。透析内液を回収し、回収した液が非還元性糖質生成酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が40℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明の非還元性糖質生成酵素を得た。本実施例における培養においては、培養物1ml当たりに換算すると約0.2単位の当該酵素が産生されていた。
【0115】
対照として、ストラタジーン・クローニング・システムズ製大腸菌『XL1−Blue』株を、アンピシリンを含まないこと以外は上記と同一の組成の培地を用い、上記と同一の条件で培養し、さらに上記と同様に菌体抽出液を得、透析した。得られた透析内液には、非還元性糖質生成酵素活性は認められなかった。このことは、形質転換体『GY2』がこの発明の非還元性糖質生成酵素の製造に有用であることを示している。
【0116】
<実施例4−3:形質転換体を用いる酵素の製造>
実施例3−3の方法で得た形質転換体『GY3』を、1%(w/v)マルトース、3%(w/v)ポリペプトン、1%(w/v)『ミースト PIG』(アサヒビール食品株式会社製)、0.1%(w/v)燐酸一水素カリウム、100μg/mlアンピシリン及び水からなる液体培地(pH7.0)を用いたこと以外は実施例4−2と同様にして培養した。得られた培養物を超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去後、上清中の非還元性糖質生成酵素活性を測定したところ、当該酵素は、培養物1ml当たりに換算すると約15単位産生されていた。この上清を実施例2−2に記載の方法にしたがって精製し、この精製標品が非還元性糖質生成酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が40℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明の非還元性糖質生成酵素を得た。
【0117】
<実施例4−4:形質転換体を用いる酵素の製造>
実施例3−4の方法で得た形質転換体『GY4』を、2%(w/v)マルトース、4%(w/v)ペプトン、1%(w/v)酵母エキス、0.1%燐酸二水素ナトリウム、200μg/mlアンピシリン及び水からなる液体培地(pH7.0)を用いたこと以外は実施例4−2と同様にして培養した。得られた培養物を超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去後、上清中の非還元性糖質生成酵素活性を測定したところ、当該酵素は、培養物1ml当たりに換算すると約60単位産生されていた。この上清を実施例2−2に記載の方法にしたがって精製し、この精製標品が非還元性糖質生成酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が40℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明の非還元性糖質生成酵素を得た。
【実施例5】
【0118】
<トレハロース遊離酵素>
【0119】
<実施例5−1:酵素の産生>
実施例2−1の方法にしたがって、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)をファーメンターで培養した。引き続き、実施例2−2の方法にしたがって、得られた培養物の一部を採り、菌体と上清液に分離した後、菌体抽出液を得た。この培養上清と菌体抽出液のトレハロース遊離酵素活性を測定したところ、培養上清には当該酵素活性が僅かであるのに対して、菌体抽出液には当該酵素活性が、培養物1ml当たりに換算して約0.3単位確認された。
【0120】
<実施例5−2:酵素の精製>
実施例2−1の方法にしたがって得た培養物約80lを、8,000rpmで30分間遠心分離することにより、湿重量で約800gの菌体を得た。その菌体を2lの10M燐酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、『モデルUH−600』)で処理した。処理液を、10,000rpmで30分間遠心分離し、その上清約2lを回収した。この上清液に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、24時間放置した後、10,000rpmで30分間遠心分離し、硫安塩析物を回収した。得られた硫安塩析物を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して48時間透析し、10,000rpmで30分間遠心分離して不溶物を除去した。この透析内液約1lを、約1.3lの陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、商品名『セパビーズFP−DA13ゲル』)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。溶出は、通液に伴い0Mから0.6Mまで直線的に濃度が上昇する食塩を含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分のトレハロース遊離酵素活性を測定した。その結果、約0.2Mの食塩を含む緩衝液でカラムから溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。
【0121】
合一した溶液に硫安を濃度1Mになるように加えて4℃で12時間放置した後、10,000rpmで30分間遠心分離して上清を回収した。回収した上清を疎水性ゲル(東ソー株式会社製、商品名『ブチルトヨパール650Mゲル』)を用いる疎水性カラムクロマトグラフィーに供した。ゲル量は約300mlとした。ゲルは使用に先立って、1M硫安を含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した。溶出は、通液に伴い1Mから0Mまで直線的に濃度が下降する硫安水溶液で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分のトレハロース遊離酵素活性を測定した。その結果、約0.5Mの硫安を含む緩衝液で溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。
【0122】
合一した溶液を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して透析し、その透析内液を、10,000rpmで30分間遠心分離した。この上清を回収し、約40mlの陰イオン交換樹脂(東ソー株式会社製、商品名『DEAE−トヨパール650Sゲル』)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。溶出は、通液に伴い0Mから0.2Mまで直線的に濃度が上昇する食塩水溶液で行った。カラムからの溶出物を分画採取し、各画分のトレハロース遊離酵素活性を測定した。その結果、約0.15Mの食塩で溶出された画分に顕著な当該酵素活性が認められ、これらの画分を合一した。合一した液を引き続き、約380mlの『ウルトロゲルAcA44ゲル』(フランス、セプラコル社製)を用いるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、顕著な当該酵素活性の認められた画分を回収した。以上の、精製の各工程におけるトレハロース遊離酵素の酵素活性量、比活性、収率を表5に示す。
【0123】
【表5】

【0124】
上記のゲル濾過クロマトグラフィーで溶出され回収した溶液を、常法にしたがい、7.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供したところ、単一の蛋白質バンドが確認された。この結果は、上記で得た、ゲル濾過クロマトグラフィーからの溶出物が、電気泳動的に均質な状態にまで精製された、トレハロース遊離酵素の精製標品であることを示している。
【0125】
<実施例5−3:酵素の性質>
【0126】
<実施例5−3(a):作用>
後記実施例8−3の方法で得た、トレハロース構造有する非還元性糖質としてのα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース、α−マルトペンタオシルトレハロース及び、還元性糖質としてのマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース及びマルトヘプタオースのいずれか1種の糖質を固形分濃度2%(w/v)となるよう水に溶解させて基質水溶液を調製した。それぞれの基質水溶液に、実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品を基質固形分1g当たり2単位の割合で加え、50℃、pH6.0で48時間反応させた。反応産物を実施例2−3(a)の方法に準じて脱塩した後HPLCで分析し、各反応産物中の糖質の組成比を求めた。結果を表6に示す。なお、表6においては、α−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースは、それぞれ、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロース、マルトテトラオシルトレハロース及びマルトペンタオシルトレハロースと表示した。
【0127】
【表6】

【0128】
表6の結果から明らかなように、実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素は、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解し、トレハロースとグルコース重合度1以上の還元性糖質とを生成した。一方、マルトトリオース以下のマルトオリゴ糖は、トレハロース遊離酵素によって全く作用をうけなかった。
【0129】
<実施例5−3(b):分子量>
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品を、分子量マーカー(日本バイオ・ラド・ラボラトリーズ株式会社製)と並行して、10%(w/v)ポリアクリルアミドゲルを用いる、通常のSDS−PAGEに供した。泳動後、分子量マーカーの泳動位置と比較した結果、当該酵素の分子量は約62,000±5,000ダルトンであった。
【0130】
<実施例5−3(c):等電点>
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品を、常法にしたがい、両性電解質『アンフォライン』(スウエーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を2%(w/v)の濃度で含有するポリアクリルアミドゲルを用いる等電点電気泳動に供した。泳動後、ゲルのpHを測定した結果、当該酵素の等電点は約4.7±0.5であった。
【0131】
<実施例5−3(d):至適温度及び至適pH>
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品を用いて、当該酵素活性に対する温度の影響及びpHの影響を調べた。温度の影響を調べる際には、適宜の各温度で反応させたこと以外は活性測定法にしたがって操作した。pHの影響を調べる際には、適宜の20mM緩衝液を用いて適宜の各pH条件下で反応させたこと以外は活性測定法にしたがって操作した。それぞれの操作において、各反応系に認められた還元力の増加量の相対値(%)を算出し、相対酵素活性(%)とした。結果を図8(温度の影響)及び図9(pHの影響)に示す。図8で横軸は反応温度を、図9で横軸は反応pHをそれぞれ示す。図8に示されるように、当該酵素の至適温度は、pH6.0、30分間反応で、約50℃乃至約55℃付近であった。図9に示されるように、当該酵素の至適pHは、50℃、30分間反応でpH約6.0付近であった。
【0132】
<実施例5−3(e):温度安定性及びpH安定性>
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品を用いて、当該酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、当該酵素の精製標品を20mM燐酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、適宜の各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定して調べた。pH安定性は、当該酵素の精製標品を適宜の各pHの50mM緩衝液で希釈し、4℃で24時間保持した後、pHを6に調整し、残存する酵素活性を測定して調べた。結果を図10(温度安定性)及び図11(pH安定性)に示す。図10で横軸は酵素の保持温度を、図11で横軸は酵素の保持pHをそれぞれ示す。図10に示されるように、当該酵素は約50℃付近まで安定であった。図11に示されるように、当該酵素は、pH約4.5乃至約10.0の範囲で安定であった。
【0133】
以上の結果は、実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素が、中温域に至適温度を有するこの発明のトレハロース遊離酵素であることを示している。
【0134】
<実施例5−4:部分アミノ酸配列>
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品の一部を蒸留水に対して透析した後、蛋白量として約80μgをN末端アミノ酸配列分析用の試料とした。N末端アミノ酸配列は、『プロテインシーケンサー モデル473A』(米国、アプライドバイオシステムズ社製造)を用い、N末端から20残基まで分析した。得られた配列は、配列表における配列番号14に示すアミノ酸配列であった。
【0135】
実施例5−2の方法で得たトレハロース遊離酵素の精製標品の一部を10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)に対して透析した後、限外濾過膜(東ソー株式会社製、商品名『ウルトラセント−30』)を用い、常法にしたがい操作して、濃度約1mg/mlにまで濃縮した。この濃縮液(0.2ml)に10μgのリジルエンドペプチダーゼ試薬(和光純薬株式会社販売)を加え、30℃、22時間反応させて当該酵素を消化し、ペプチドを生成させた。反応産物を、『ノバパックC18カラム』(直径4.5mm×長さ150mm、ウォーターズ社製)を用いる逆相HPLCに供し、ペプチドを分離した。温度は室温で行った。溶出は、通液に伴い60分間で24%(v/v)から48%(v/v)まで直線的に濃度が上昇するアセトニトリルを含む0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液で、流速0.9ml/分で行った。カラムから溶出されたペプチドは、波長210nmの吸光度を測定することにより検出した。他のペプチドとよく分離した2個のペプチド、『RT18』(保持時間約18分)及び『RT33』(保持時間約33分)を分取し、それぞれを真空乾燥した後、200μlの0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸を含む50%(v/v)アセトニトリル水溶液に溶解した。これらのペプチド溶液をプロテインシーケンサーに供し、それぞれ20残基までアミノ酸配列を分析した。ペプチド『RT18』からは、配列表における配列番号15に示すアミノ酸配列が、またペプチド『RT33』からは、配列表における配列番号16に示すアミノ酸配列が得られた。
【実施例6】
【0136】
<トレハロース遊離酵素をコードするDNA>
【0137】
<実施例6−1:遺伝子ライブラリーの作製と検索>
実施例3−1の方法にしたがって、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)の遺伝子ライブラリーを作製した。引き続き、この遺伝子ライブラリーを、プローブとしてこの発明のトレハロース遊離酵素をコードし得る塩基配列のオリゴヌクレオチドを下記のとおり調製して用いたこと以外は実施例3−1に記載の条件でコロニーハイブリダイゼーション法を実施して検索した。プローブは、実施例5−4で明らかにした、配列表の配列番号15に示すアミノ酸配列における第12乃至20番目のアミノ酸からなる配列に基づいて化学合成した、配列表における配列番号31に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、常法にしたがい[γ−32P]ATP及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて同位体標識して調製した。斯かるプローブと顕著なハイブリダイゼーションを示した形質転換体を選択した。
【0138】
実施例3−2の方法にしたがって、上記で選択した形質転換体より組換えDNAを抽出し、本実施例におけるプローブを用いて通常のサザン分析法により分析した。分析の結果に基づき作成した制限酵素地図は、図5に示した実施例3−1乃至3−2で得た組換えDNA『pGY1』の場合と一致した。そして、図5に示されるように、本実施例による組換えDNAは、図中斜線矢印で示される、この発明のトレハロース遊離酵素をコードする塩基配列を、制限酵素PstI及びKpnIによる認識部位の間の約2,200塩基対からなる領域内に含有していることが判明した。そこで、以下、組換えDNA『pGY1』を用いて、この発明のトレハロース遊離酵素をコードするDNAの塩基配列の解読を進めた。
【0139】
<実施例6−2:塩基配列の解読>
実施例3−2の方法で得た組換えDNA『pGY1』を、常法にしたがい、制限酵素PstIで完全に消化した。消化産物を、通常のアガロースゲル電気泳動法を用いて、生成された約3,300塩基対のDNA断片を除去し、生成された約5,200塩基対のDNA断片を回収した。回収したDNA断片を常法にしたがって連結反応に供し、常法にしたがって連結産物でストラタジーン・クローニング・システムズ製大腸菌株『XL1−Blue』株を形質転換した。得られた形質転換体より常法により組換えDNAを抽出した。この組換えDNAが、この発明のトレハロース遊離酵素をコードする塩基配列を含む約2,200塩基対からなる領域を含有することを常法により確認し、『pGZ2』と命名した。ここで得た、組換えDNA『pGZ2』が導入されてなる形質転換体を『GZ2』と命名した。
【0140】
組換えDNA『pGZ2』の塩基配列を、通常のジデオキシ法により分析したところ、当該組換えDNAは、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)に由来する、配列表における配列番号32に示す、2,218塩基対からなる塩基配列を含有していた。この塩基配列は、配列番号32に併記したアミノ酸配列をコードし得るものであった。このアミノ酸配列と、実施例5−4で確認されたこの発明のトレハロース遊離酵素の部分アミノ酸配列である、配列表における配列番号14乃至16のアミノ酸配列とを比較した。その結果、配列表における配列番号14、15及び16に示すアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号32に併記したアミノ酸配列における第1乃至20番目、第298乃至317番目及び第31乃至50番目のアミノ酸配列と完全に一致した。以上のことは、実施例5で得たこの発明のトレハロース遊離酵素が、配列表における配列番号32に併記したアミノ酸配列、すなわち、配列番号9に示すアミノ酸配列を有することを示している。また、以上のことは、当該酵素は、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)においては、配列表における配列番号32に示す塩基配列における第477乃至2,201番目の塩基からなる配列、すなわち、配列番号17に示す塩基配列によりコードされていることをも示している。以上に示した組換えDNA『pGZ2』の構造は図12にまとめている。
【0141】
実施例5の方法で得られるこの発明のトレハロース遊離酵素の、上記で明らかにしたアミノ酸配列と、トレハロース遊離酵素としての作用を有する公知の他の酵素のアミノ酸配列とを、実施例3−2に準じて比較し、それぞれ相同性(%)を求めた。公知の酵素として、特許文献4に開示されたアルスロバクター・スピーシーズQ36由来のもの、特許文献4に開示されたリゾビウム・スピーシーズM−11由来のもの、特許文献9に開示されたスルフォロバス・アシドカルダリウスATCC33909由来のもの及び、再公表特許WO95/34642号公報に開示されたスルフォロバス・ソルファタリカスKM1由来のものを用いた。以上の公知の酵素は上記公報に記載のとおり、いずれも中温域以外に至適温度を有するものである。なお、以上の公知の酵素のアミノ酸配列は、米国国立予防衛生研究所作成のDNAデータベース『ジェンバンク(GenBank)』から、それぞれのアクセション番号『D63343』、『D64130』、『D78001』及び『D83245』により入手することもできる。求められた相同性を表7に示す。
【0142】
【表7】

【0143】
表7に示すように、実施例5によるこの発明のトレハロース遊離酵素は、中温域以外に至適温度を有する公知の酵素のうちではアルスロバクター・スピーシーズQ36由来の酵素と最も高い59.9%というアミノ酸配列の相同性を示した。この結果は、この発明のトレハロース遊離酵素が、配列番号9に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を通常は含有することを意味している。また、アミノ酸配列の比較結果から、実施例5による当該酵素と上記の4種類の公知の酵素は、配列表における配列番号10乃び13に示すアミノ酸配列を共通して含有していることが判明した。実施例5による当該酵素は、配列表における配列番号9のアミノ酸配列における第148乃至153番目、第185乃至190番目、第248乃至254番目及び第285乃至291番目のアミノ酸からなる部分に見られるとおり、配列番号10乃至13のアミノ酸配列を部分アミノ酸配列として含有している。上記で比較の対象とした4種類の酵素も、いずれも、それぞれ対応する部分にこれらの部分アミノ酸配列を含有している。実施例5による当該酵素ならびに比較の対象とした酵素がいずれも共通して、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間を特異的に加水分解する作用を有していることから、上記で見出された配列表における配列番号10及び13に示す部分アミノ酸配列が斯かる作用の発現に関わっていることが示唆された。したがってこの結果は、この発明のトレハロース遊離酵素が、配列表における配列番号10及び13に示すアミノ酸配列を含有するとともに中温域に至適温度を有することにより特徴づけられることを示している。
【0144】
<実施例6−3:DNAを導入してなる形質転換体>
配列表における配列番号17に示す塩基配列における5′末端及び3′末端の配列に基づいて、それぞれ、配列表における配列番号33及び34に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを常法にしたがい化学合成した。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、これらのオリゴヌクレオチドそれぞれ85ngと、鋳型として、実施例6−2の方法で得た組換えDNA『pGZ2』100ngとを反応管で混合し、他の試薬の添加量は実施例3−3に準じてPCRを行った。PCRの温度制御は、95℃1分間の後、98℃20秒間、70℃30秒間及び72℃4分間を25サイクル、最後に72℃10分間とした。PCR産物におけるDNAを常法にしたがい回収して、約1,700塩基対のDNAを得た。このDNAと、予め制限酵素EcoRIで切断し、宝酒造製『DNA Blunting Kit』を用いて平滑化しておいたファルマシア製プラスミドベクター『pKK233−3』とを混合し、通常のライゲーション法により連結した。引き続き、連結産物を常法にしたがって操作して、上記の約1,700塩基対のDNAが挿入された組換えDNAを得た。得られた組換えDNAを通常のジデオキシ法により解読したところ、当該組換えDNAは、配列表の配列番号17に示す塩基配列における3′末端に5′−TGA−3′で示される塩基配列が付加された塩基配列を含有していた。当該組換えDNAを『pGZ3』と命名した。以上に示した組換えDNA『pGZ3』の構造は図13にまとめている。
【0145】
組換えDNA『pGZ3』を、常法にしたがい予めコンピテント化しておいた大腸菌LE392株(ATCC 33572)に導入して形質転換体を得た。斯かる形質転換体より、通常のアルカリ−SDS法によりDNAを抽出し、抽出されたDNAが『pGZ3』であることを常法にしたがって確認し、当該形質転換体を『GZ3』と命名した。斯くして、この発明のトレハロース遊離酵素をコードするDNAを導入してなる形質転換体を得た。
【0146】
<実施例6−4:DNAを導入してなる形質転換体>
配列表における配列番号17に示す塩基配列における5′末端及び3′末端部分の配列に基づいて化学合成した、配列番号35及び36に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマー及びアンチセンスプライマーとして用いたこと以外は実施例6−3と同様にしてPCRを行った。PCR産物としてのDNAを常法にしたがい回収して、約1,700塩基対のDNAを得た。このDNAを制限酵素XbaI及びSpeIで切断した後、これと、制限酵素XbaI及びSpeIであらかじめ切断しておいた、実施例3−4の方法で得たプラスミドベクター『pKK4』とを、通常のライゲーション法により連結した。連結産物を常法にしたがって操作して、配列表における配列番号17に示す塩基配列を含有する組換えDNAを得た。斯くして得た組換えDNAを『pKGZ1』と命名した。
【0147】
引き続き、実施例3−4と同様に、『オーバーラップ・エクステンション法』により上記で得た組換えDNA『pKGZ1』における配列番号17の塩基配列の5′末端上流部分の塩基配列を改変した。先ず、センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、プラスミドベクター『pKK4』の塩基配列に基づいて常法にしたがい化学合成した、配列表における配列番号26及び37に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、鋳型として、上記で得た組換えDNA『pKGZ1』をそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第1段PCR−C」という)。これと並行して、センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号17の塩基配列に基づいてそれぞれ常法にしたがい化学合成した、配列表における配列番号38及び39に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、鋳型として、上記で得た組換えDNA『pKGZ1』をそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第1段PCR−D」という)。第1段PCR−Cの産物としてのDNAを常法にしたがって回収し、約390塩基対のDNAを得た。第1段PCR−Dの産物としてのDNAを常法にしたがい回収して、約590塩基対のDNAを得た。
【0148】
鋳型として、第1段PCR−C及び第1段PCR−Dの産物として得たDNAの混合物を、センスプライマーとして、第1段PCR−Cで用いた配列表における配列番号26に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、アンチセンスプライマーとして、第1段PCR−Dで用いた配列表における配列番号39に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれ用いたこと以外は、実施例3−3と同様にしてPCRを行った(「第2段PCR−B」という)。このPCRの産物としてのDNAを常法にしたがい回収し、約950塩基対のDNAを得た。
【0149】
第2段PCR−Bの産物として得たDNAを制限酵素EcoRIで切断し、生成した約270塩基対のDNAを常法にしたがい回収した。一方、上記で得た組換えDNA『pKGZ1』を制限酵素EcoRIで切断し、生成した約6,100塩基対のDNAを常法にしたがい回収した。これらのDNAを通常のライゲーション法により連結し、連結産物を常法にしたがい操作して、第2段PCR−Bの産物由来の約270塩基対のDNAを含有する組換えDNAを得た。通常のジデオキシ法によりDNAを解読したところ、得られた組換えDNAは、5′末端から3′末端に向けて、配列表における配列番号8に示す塩基配列、配列表における配列番号17に示す塩基配列及び、5′−TGA−3′で表される塩基配列がこの順序で連結された塩基配列を含有していた。斯くして得た組換えDNAを『pGZ4』と命名した。なお、組換えDNA『pGZ4』の構造は、配列表における配列番号8に示す塩基配列を含有すること以外は、実施例6−3の方法で得た組換えDNA『pGZ3』の構造と実質的に同一である。
【0150】
組換えDNA『pGZ4』を、宝酒造製の大腸菌コンピテント細胞『BMH71−18mutS』に常法にしたがい導入して形質転換体を得た。斯る形質転換体より通常のアルカリ−SDS法によりDNAを抽出し、抽出されたDNAが『pGZ4』であることを常法にしたがって確認し、当該形質転換体を『GZ4』と命名した。斯くして、この発明のトレハロース遊離酵素をコードするDNAを導入してなる形質転換体を得た。
【実施例7】
【0151】
<トレハロース遊離酵素の製造>
【0152】
<実施例7−1:アルスロバクター属微生物を用いる酵素の製造>
アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を、実施例2−1の方法にしたがって、ファーメンターで約72時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮して約8lの菌体懸濁液を回収し、更に、その菌体懸濁液を高圧菌体破砕装置(大日本製薬株式会社製、『ミニラボ』)で処理して菌体を破砕し、菌体破砕物を得た。この菌体破砕物を遠心分離し、形成された上清約8.5lを回収し、菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液のトレハロース遊離酵素活性を測定したところ、培養物1ml当たりに換算すると、約0.3単位の当該酵素活性が認められた。この菌体抽出液に飽和度約0.7になるように硫安を加えて硫安塩析し、遠心分離で沈殿物を回収し、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析した。得られた透析内液を、イオン交換樹脂量を約2lとしたこと以外は、実施例5−2に記載の陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、商品名『セパビーズFP−DA13ゲル』)を用いる方法に準じてイオン交換カラムクロマトグラフィーに供し、トレハロース遊離酵素活性画分を回収した。回収した画分を1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、その透析内液を遠心分離して形成された上清を回収した。回収した上清を、ゲル量を約350mlとしたこと以外は、実施例5−2に記載の疎水性ゲル(東ソー株式会社製、商品名『ブチルトヨパール650Mゲル』)を用いる方法に準じて疎水性カラムクロマトグラフィーに供し、トレハロース遊離酵素活性画分を回収した。回収した酵素が45℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域に至適温度を有することと、pH7未満の酸性域に至適pHを有することを確認した。斯くして、約6,400単位のこの発明のトレハロース遊離酵素を得た。
【0153】
<実施例7−2:アルスロバクター属微生物を用いる酵素の製造>
実施例7−1の方法にしたがって、アルスロバクター・スピーシーズS34(FERM BP−6450)を培養した。培養物1lに対して100mgのリゾチーム剤(長瀬産業製、商品名『卵白リゾチーム』)を加えた後、通気を停止し、温度・撹拌条件は培養の場合と同じ条件下で培養物を24時間処理して菌体を破砕した。この菌体破砕物を10,000rpmの連続遠心分離に供して上清を回収し、菌体抽出液を得た。引き続き実施例7−1の方法にしたがって、斯かる菌体抽出液を硫安塩析に供し、塩析物を透析し、透析内液を『セパビーズFP−DA13ゲル』(三菱化学株式会社製)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供してトレハロース遊離酵素活性画分を回収した。回収した画分は、この発明のトレハロース遊離酵素を約16,500単位とともに、この発明の非還元性糖質生成酵素を約5,500単位含むものであった。斯くして、この発明の非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素を含有する酵素剤を得た。
【0154】
<実施例7−3:形質転換体を用いる酵素の製造>
16g/l ポリペプトン、10g/l 酵母エキス及び5g/l 塩化ナトリウムを含む水溶液を500ml容三角フラスコに100ml入れ、オートクレーブで121℃で15分間処理し、冷却し、無菌的にpH7.0に調製した後、アンピシリンナトリウム塩10mgを無菌的に添加して液体培地を調製した。この液体培地に実施例6−2の方法で得た形質転換体『GZ2』を接種し、37℃で約20時間通気撹拌培養したものを種培養物とした。次に10l容ファーメンターに、種培養に用いたのと同一組成の培地を種培養の場合に準じて7l調製し、種培養物を70ml接種し、約20時間通気撹拌培養した。得られた培養物から、常法にしたがい、遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波処理して菌体を破砕し、さらに遠心分離により不溶物を除去し、上清を回収して菌体抽出液を得た。この菌体抽出液を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して透析した。透析内液を回収し、回収した液がトレハロース遊離酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が45℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明のトレハロース遊離酵素を得た。本実施例における培養においては、培養物1ml当たりに換算すると約0.5単位の当該酵素が産生されていた。
【0155】
対照として、ストラタジーン・クローニング・システムズ製大腸菌『XL1−Blue』株を、アンピシリンを含まないこと以外は上記と同一の組成の培地を用い、上記と同一の条件で培養し、さらに上記と同様に菌体抽出液を得、透析した。得られた透析内液には、トレハロース遊離酵素は認められなかった。このことは、形質転換体『GZ2』がこの発明のトレハロース遊離酵素の製造に有用であることを示している。
【0156】
<実施例7−4:形質転換体を用いる酵素の製造>
実施例6−3の方法で得た形質転換体『GZ3』を、1%(w/v)マルトース、3%(w/v)ポリペプトン、1%(w/v)『ミースト PIG』(アサヒビール食品株式会社製)、0.1%(w/v)燐酸一水素カリウム、100μg/mlアンピシリン及び水からなる液体培地(pH7.0)を用いたこと以外は実施例7−3と同様にして培養した。得られた培養物を超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去後、上清中のトレハロース遊離酵素活性を測定したところ、当該酵素は、培養物1ml当たりに換算すると約70単位産生されていた。この上清を実施例5−2に記載の方法にしたがって精製し、この精製標品がトレハロース遊離酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が45℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明のトレハロース遊離酵素を得た。
【0157】
<実施例7−5:形質転換体を用いる酵素の製造>
実施例6−4の方法で得た形質転換体『GZ4』を、実施例4−4の方法で培養した。得られた培養物を超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去後、上清中のトレハロース遊離酵素活性を測定したところ、当該酵素は、培養物1ml当たりに換算すると約250単位産生されていた。この上清を実施例5−2に記載の方法にしたがって精製し、この精製標品がトレハロース遊離酵素活性を示し、当該酵素の至適温度が45℃を越え且つ60℃未満の範囲の中温域にあること及び、至適pHがpH7未満の酸性域にあることを確認した。斯くしてこの発明のトレハロース遊離酵素を得た。
【実施例8】
【0158】
<糖質の製造>
【0159】
<実施例8−1:非還元性糖質含有シラップの製造>
濃度6%(w/w)の馬鈴薯澱粉乳を加熱して糊化した後、pH4.5、温度50℃に調整し、澱粉固形分1g当たり2,500単位のイソアミラーゼ剤(株式会社林原生物化学研究所製)を加えて20時間反応させた。反応物をpH6.5に調整し、120℃で10分間オートクレーブした後、40℃まで冷却し、同温度に維持しつつ、これに、澱粉固形分1g当たり150単位の液化型α−アミラーゼ剤(ノボ・ノルディスク・インダストリー製、商品名『ターマミール60L』)を加えて20時間反応させた。この反応物を120℃で20分間オートクレーブした後、53℃まで冷却し、pH5.7に調整後、同温度に維持しつつ、澱粉固形分1g当たり1単位の実施例4−1の方法で得た非還元性糖質生成酵素を加えて96時間反応させた。斯くして得た反応物を97℃で30分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、濾過した後、常法により、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、濃縮して固形分濃度約70%(w/w)のシラップ状物を原料澱粉固形分当たり約90%の収率で得た。
【0160】
DEが24と低く、非還元性糖質としてα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースを固形分当たりそれぞれ11.5%、5.7%、29.5%、3.5%及び2.8%含む本品は、温和で上品な甘味に加えて適度の粘度と保湿性を有しており、甘味剤、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【0161】
<実施例8−2:非還元性糖質含有シラップの製造>
濃度33%(w/w)のとうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1%(w/w)となるように炭酸カルシウムを加え、pH6.5に調整後、これに、澱粉固形分当たり0.2%(w/w)の液化型α−アミラーゼ剤(ノボ・ノルディスク・インダストリー製、商品名『ターマミール60L』)を加えて95℃で15分間反応させて澱粉を液化した。この澱粉液化液を120℃で10分間オートクレーブした後、53℃に冷却し、同温度に維持しつつ、澱粉固形分1g当たり、1単位のシュードモナス・スツッチェリ由来マルトテオラオース生成アミラーゼ剤(株式会社林原生物化学研究所製)及び2単位の実施例4−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素を加えて48時間反応させた。引き続き反応物に、澱粉固形分1g当たり15単位のα−アミラーゼ剤(上田化学製、商品名『α−アミラーゼ2A』)を加え、65℃でさらに2時間反応させた後、120℃で10分間オートクレーブし、次いで冷却した。斯くして得た反応物を濾過した後、常法により、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、濃縮して固形分濃度約70%(w/w)のシラップを原料澱粉固形分当たり約90%の収率で得た。
【0162】
DEが18.5と低く、非還元性糖質としてα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースを固形分当たりそれぞれ9.3%、30.1%、0.9%、0.8%及び0.5%含む本品は、温和で上品な甘味に加えて適度の粘度と保湿性を有しており、甘味剤、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【0163】
<実施例8−3:非還元性糖質の製造>
マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース及びマルトヘプタオース(いずれも株式会社林原生物化学研究所製)のいずれかの還元性澱粉部分分解物の20%(w/w)水溶液それぞれに、還元性澱粉部分分解物の固形分1g当たり2単位ずつの実施例2−2の方法で得た非還元性糖質生成酵素の精製標品を加え、50℃、pH6.0で48時間作用させ、それぞれの還元性澱粉部分分解物から、非還元性糖質としてのα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースを生成させた。これら反応物を、それぞれ、常法に従って、加熱による酵素失活、瀘過、脱色、脱塩、濃縮した後、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(Na+型、架橋度4%、東京有機化学工業株式会社製、商品名『XT−1016』)を用いるカラムクロマトグラフィーに供し、反応物中の糖質を分画した。このカラムクロマトグラフィーにおいて、カラム内温度は55℃、糖液の樹脂に対する負荷量は約5%(v/v)とし、移動相として55℃の温水をSV0.13の流速で通液した。カラムからの溶出液の内、固形分重量当たりの上記のいずれかの非還元性糖質の組成比が95%(w/w)以上の溶出液をそれぞれ採取した。採取したそれぞれの溶出液に水酸化ナトリウムを0.1Nになるように加え、100℃で2時間加熱して残存する還元性糖質を分解した。斯くして得た反応物を、それぞれ、活性炭にて脱色し、H型及びOH型のイオン交換樹脂で脱塩し、濃縮、真空乾燥の後、粉砕して、純度99.0%以上のα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロース粉末を得た。
【0164】
高純度の非還元性糖質を含み、DEの極めて低いこれらの製品は、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【0165】
<実施例8−4:非還元性糖質を含む結晶性粉末の製造>
マルトペンタオース(株式会社林原生物化学研究所製)の20%(w/w)水溶液を調製した。この水溶液に、マルトペンタオース固形分1g当たり2単位の実施例4−3の方法で得た非還元性糖質生成酵素を加え、50℃で48時間反応させた。この反応によりマルトペンタオースの約75%がα−マルトトリオシルトレハロースに変換された。この反応物を97℃で30分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、瀘過後、常法により、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製した。
【0166】
その後、60℃で減圧しながら固形分濃度約75%(w/w)まで濃縮し、種結晶としてα−マルトトリオシルトレハロース結晶を約0.01%(w/v)加え、24時間放置した後、晶出したα−マルトトリオシルトレハロース結晶を遠心分離で回収し、さらに少量の冷水で洗浄した後、常法により乾燥して非還元性糖質含量の高い結晶性粉末を原料固形分当たり約50%の収率で得た。
【0167】
DEが0.2未満と極めて低く、非還元性糖質としてα−マルトトリオシルトレハロースを固形分当たり99.0%(w/w)以上含む低甘味の本品は、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【0168】
<実施例8−5:含水結晶トレハロースの製造>
トウモロコシ澱粉を30%(w/w)になるように水中に懸濁し、懸濁液に炭酸カルシウムを0.1%(w/w)加えた。pH6.0に調整後、澱粉固形分当たり0.2%(w/w)の液化型α−アミラーゼ剤(ノボ・ノルディスク・インダストリー製、商品名『ターマミール60L』)を加え、95℃で15分間反応させて澱粉を糊化・液化した。得られた澱粉液化液を120℃で30分間オートクレーブした後、51℃に冷却し、pH5.7に調整後、同温度で維持しつつ、澱粉固形分1g当たり、300単位のイソアミラーゼ剤(株式会社林原生物化学研究所製)、2単位のシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ剤(株式会社林原生物化学研究所製)、2単位の実施例4−1の方法で得た非還元性糖質生成酵素及び、10単位の実施例7−1の方法で得たトレハロース遊離酵素を加え、64時間反応させた。この反応物を97℃で30分間加熱して酵素を失活させた後、50℃に調整し、澱粉固形分1g当たり10単位のグルコアミラーゼ剤(ナガセ生化学工業製、商品名『グルコチーム』)を加えて24時間反応させた。斯くして得た反応物を95℃で10分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、瀘過後、常法により、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、固形分濃度約60%(w/w)まで濃縮して、固形分当たりトレハロースを84.1%(w/w)含むシラップを得た。このシラップを減圧下で固形分濃度約83%(w/w)にまで濃縮し、助晶機にとり、シラップの容量に対して約0.1%(w/v)の含水結晶トレハロースを種晶として加えて約2時間撹拌助晶した。晶出したトレハロースを遠心分離で回収し、少量の水で洗い蜜を除き、45℃の温風で乾燥させ、純度約99%のトレハロースの含水結晶を原料澱粉当たり約50%の収率で得た。
【0169】
本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0170】
<実施例8−6:無水結晶トレハロースを含む結晶性粉末の製造>
実施例8−5の方法でトレハロースの含水結晶を調製し、これを、ジャケット付き回転式真空乾燥機を用いて減圧乾燥した。減圧乾燥は、温度90℃、気圧−300乃至−350mmHgの条件で、約7時間行った。減圧乾燥後、温度を常温に、気圧を常圧に戻して、製品を回収し、製品重量当たり無水結晶トレハロースを90%(w/w)以上含む結晶性粉末を得た。
【0171】
無水結晶トレハロースには含水物の水分を吸収し、トレハロース含水結晶に変わる性質がある。無水結晶トレハロース含量の高い本品は、水分を含有している飲食物、化粧品及び医薬品をはじめとする各種組成物ならびにそれら組成物の原料及び中間加工物を脱水又は乾燥するための安全で無害な脱水剤として有用である。また、まろやかで上品な甘味を有する本品は、甘味剤、呈味改善剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品及び医薬品をはじめとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【0172】
<実施例8−7:トレハロース含有シラップの製造>
濃度27%(w/w)のタピオカ澱粉乳に、最終濃度0.1%(w/w)となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.0に調整し、これに、澱粉固形分当たり0.2%(w/w)の液化型α−アミラーゼ剤(ノボ・ノルディスク・インダストリー製、商品名『ターマミール60L』)を加え、95℃で15分間反応させ、澱粉を糊化・液化した。この澱粉液化液を2kg/cm2で30分間オートクレーブした後、53℃に冷却し、pH5.7に調整し、同温度に維持しつつ、これに、澱粉固形分1g当たり、500単位のプルラナーゼ剤(ノボ・ノルディスク・インダストリー製、商品名『プロモザイム200L』)、1単位のシュードモナス・スツッチェリ由来のマルトテトラオース生成アミラーゼ剤(株式会社林原生物化学研究所製)及び、約2単位の非還元性糖質生成酵素とともに約6単位のトレハロース遊離酵素を含有する実施例7−2の方法で得た酵素剤を加えて72時間反応させた。斯くして得た反応物を97℃で15分間保った後、冷却し、瀘過して濾液を採取した。この濾液を、常法により、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、更に濃縮して固形分濃度70%(w/w)のシラップを、原料固形分当たり約92%の収率で得た。
【0173】
本品は固形分当たりトレハロースを35.2%、α−グルコシルトレハロースを3.4%、グルコースを1.8%、マルトースを37.2%、マルトトリオースを9.1%およびマルトテトラオース以上のオリゴ糖を13.3%含有しており、まろやかで上品な甘味、低い還元性、低い粘度、適度の保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0174】
<実施例8−8:無水結晶トレハロースを含む結晶性粉末の製造>
アミロース(株式会社林原生物化学研究所製、商品名『EX−I』)1重量部を水15重量部に加熱溶解し、温度53℃、pH5.7に調整した。これに、アミロース固形分1g当たり、2単位の実施例4−3の方法で得た非還元性糖質生成酵素及び6単位の実施例7−4の方法で得たトレハロース遊離酵素を加え、48時間反応させた。反応物を97℃で30分間加熱して酵素を失活させ、50℃、pH5.0に調整後、グルコアミラーゼ剤(ナガセ生化学工業製、商品名『グルコチーム』)をアミロース固形分1g当たり10単位加え、さらに40時間反応させた。斯くして得た反応物を95℃で10分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、濾過した後、常法により、活性炭を用いる脱色及びイオン交換樹脂を用いる脱塩により精製し、固形分濃度約60%(w/w)まで濃縮して固形分当たりトレハロースを82.1%含むシラップを得た。
【0175】
このシラップを実施例8−3と同様にしてカラムクロマトグラフィーに供し、固形分当たりトレハロースを約98%(w/w)含む画分を採取し、減圧下で加熱しながら固形分濃度約85%(w/w)まで濃縮してシラップを得た。このシラップに、その容量に対して約2%(w/v)の無水結晶トレハロースを種晶として加え、攪拌しながら120℃で5分間混合後、プラスチック製バットに分注し、100℃で減圧乾燥して結晶化させた。その後、バットからブロック状物を取出し、切削機により粉砕したところ、結晶化率約70%の無水結晶トレハロースを含む水分含量約0.3%(w/w)の固状物を、原料アミロース固形分当たり約70%の収率で得た。この固状物を常法にしたがって粉砕し、無水結晶トレハロースを含む結晶性粉末を得た。
【0176】
無水結晶トレハロースには含水物の水分を吸収し、トレハロース含水結晶に変わる性質があるので、無水結晶トレハロース含量の高い本品は、水分を含有している飲食物、化粧品及び医薬品をはじめとする各種組成物ならびにそれら組成物の原料及び中間加工物を脱水又は乾燥するための安全で無害な脱水剤として有用である。また、まろやかで上品な甘味を有する本品は、甘味剤、呈味改善剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品及び医薬品をはじめとする組成物一般に有利に配合使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
以上説明したように、この発明は、中温域に至適温度を有し、望ましくは、酸性域に至適pHを有する、新規な非還元性糖質生成酵素ならびにトレハロース遊離酵素の発見に基づくものである。この発明の両酵素は、例えば、斯かる酵素を産生する微生物の培養によりその所望量を得ることができる。また、この発明による両酵素をコードするそれぞれのDNAは、組換え型蛋白質としての両酵素の製造に極めて有用であり、当該DNAを導入してなる形質転換体を用いる場合にも、この発明の両酵素の所望量を得ることができる。この発明の両酵素は、トレハロースをはじめとするトレハロース構造を有する非還元性糖質の中温域・酸性域での製造に有利に用いることができる。とりわけ、中温域・酸性域に至適条件を有する他の糖質関連酵素との併用により糖質を製造する際には、目的の糖質を極めて効率的に得ることができる。しかも、この発明の両酵素はアミノ酸配列まで明らかにされた酵素であり、飲食物や医薬品への配合使用を前提とする当該非還元性糖質の製造に安心して使用し得る。斯くして得られる非還元性糖質ないしは斯かる非還元性糖質を含む低還元性糖質は、温和で上品な甘味を有し、そして、何よりも、糖質中の還元性基を有しないか又は大幅に低減しているので、着色や変質の懸念なく飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般に有利に配合使用できる実益がある。
【0178】
この発明は斯くも顕著な作用効果を奏する意義のある発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来の非還元性糖質生成酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図2】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来の非還元性糖質生成酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図3】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来の非還元性糖質生成酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図4】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来の非還元性糖質生成酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図5】本発明による組換えDNA『pGY1』の制限酵素地図である。図中太線はアルスロバクター・スピーシーズS34由来の塩基配列を示す。太線の領域内の黒色矢印は本発明の非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列を、斜線矢印は本発明のトレハロース遊離酵素をコードする塩基配列をそれぞれ示す。
【図6】本発明による組換えDNA『pGY2』の制限酵素地図である。図中太線はアルスロバクター・スピーシーズS34由来の塩基配列を示す。太線の領域内の黒色矢印は本発明の非還元性糖質生成酵素をコードする塩基配列示す。
【図7】本発明による組換えDNA『pGY3』の制限酵素地図である。図中黒色矢印は、本発明の非還元性糖質生成酵素をコードするアルスロバクター・スピーシーズS34由来の塩基配列を示す。
【図8】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来のトレハロース遊離酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図9】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来のトレハロース遊離酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図10】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来のトレハロース遊離酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図11】本発明のアルスロバクター・スピーシーズS34由来のトレハロース遊離酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図12】本発明による組換えDNA『pGZ2』の制限酵素地図である。図中太線はアルスロバクター・スピーシーズS34由来の塩基配列を示す。太線の領域内の斜線矢印は本発明のトレハロース遊離酵素をコードする塩基配列示す。
【図13】本発明による組換えDNA『pGZ3』の制限酵素地図である。図中斜線矢印は、本発明のトレハロース遊離酵素をコードするアルスロバクター・スピーシーズS34由来の塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有するトレハロース遊離酵素。
(1)作用
末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質におけるトレハロース部分とそれ以外の部分との間の結合を特異的に加水分解する。
(2)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、62,000±5,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI4.7±0.5。
(4)至適温度
pH6.0、30分間反応で、50℃乃至55℃。
(5)至適pH
50℃、30分間反応で、pH6.0。
(6)温度安定性
pH7.0、60分間保持で、50℃まで安定。
(7)pH安定性
4℃、24時間保持で、pH4.5乃至10.0の範囲で安定。
【請求項2】
配列表における配列番号10乃至16に示すアミノ酸配列から選ばれるアミノ酸配列を含有する請求項1記載のトレハロース遊離酵素。
【請求項3】
配列表における配列番号9に示すアミノ酸配列を含有する請求項1又は2記載のトレハロース遊離酵素。
【請求項4】
配列表における配列番号9に示すアミノ酸配列において、所期の酵素作用を変えることなく1箇所又は2箇所以上にアミノ酸の置換、付加及び/又は欠失を導入してなるアミノ酸配列を含有する請求項1又は2記載のトレハロース遊離酵素。
【請求項5】
アルスロバクター属に属する細菌由来である請求項1乃至4のいずれかに記載のトレハロース遊離酵素。
【請求項6】
アルスロバクター属に属する細菌がアルスロバクター・スピーシーズS34(工業技術院生命工学工業技術研究所、受託番号FERM BP−6450)である請求項5記載のトレハロース遊離酵素。
【請求項7】
請求項3又は4記載のトレハロース遊離酵素をコードするDNA。
【請求項8】
配列表における配列番号17に示す塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列を含有する請求項7記載のDNA。
【請求項9】
配列表における配列番号8に示す塩基配列をさらに含有する請求項7又は8記載のDNA。
【請求項10】
遺伝子の縮重に基づき、コードするアミノ酸配列を変更することなく、塩基の1又は2以上を他の塩基で置換した請求項7乃至9のいずれかに記載のDNA。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載のDNAと自律複製可能なベクターとからなる組換えDNA。
【請求項12】
請求項11記載の組換えDNAを適宜の宿主に導入してなる形質転換体。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれかに記載のトレハロース遊離酵素の生産能を有する微生物を培養して培養物中に該酵素を産生せしめる工程と、該培養物から該酵素を採取する工程を含んでなる請求項1乃至6のいずれかに記載のトレハロース遊離酵素の製造方法。
【請求項14】
微生物がアルスロバクター属に属する細菌であるか、又は、請求項12記載の形質転換体である請求項13記載のトレハロース遊離酵素の製造方法。
【請求項15】
アルスロバクター属に属する細菌がアルスロバクター・スピーシーズS34(工業技術院生命工学工業技術院、受託番号FERM BP−6450)である請求項14記載のトレハロース遊離酵素の製造方法。
【請求項16】
培養物を細胞壁破壊酵素で処理し、該処理を施した培養物から該酵素を採取する請求項13乃至15のいずれかに記載のトレハロース遊離酵素の製造方法。
【請求項17】
産生したトレハロース遊離酵素を透析、塩析、濾過、濃縮、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び等電点電気泳動から選ばれる1種又は2種以上の精製方法により採取する請求項13乃至16のいずれかに記載のトレハロース遊離酵素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−89593(P2007−89593A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353112(P2006−353112)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【分割の表示】特願平11−16931の分割
【原出願日】平成11年1月26日(1999.1.26)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】