説明

非重合性液晶化合物、重合性液晶化合物、液晶組成物、光学異方性材料及び光学素子

【課題】高い屈折率異方性と優れた青色レーザー耐光性を有し、液晶組成物の融点の上昇と硬化物の透過率損失とを抑制した光学異方性材料、光学素子及びこれらを作成するための新規な液晶組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される化合物。A−Ph−E−Ph−(Ph)−(E−B−R・・(1)但し、A:CH=CR−COO−(L)−又は炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基。R:水素原子又はメチル基。L:−(CHO−、−(CH−。k:0又は1。B:−CH−、−OCH−、−SiH−又は−Si(CH。R:炭素数1〜7のアルキル基又はアルコキシ基。m、n:独立に0か1。E、E: 夫々トランス1,4−シクロヘキシレン基の4位炭素原子又は1位炭素原子をケイ素原子で置換した環基:但しX、Xは夫々独立に水素原子又はメチル基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、この化合物を含む液晶組成物、この液晶組成物を重合させてなる光学異方性材料、および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクに記録された情報を読み出したり、光ディスクに情報を書き込んだりする際には、レーザー光を変調(偏光、回折、位相調整等)させる光学素子が必要である。
たとえば、情報の読み出しの際、レーザー光源から出射された直線偏光は、偏向素子ついで位相板を経由し光ディスクの面に到達する。往きの直線偏光の偏光方向は、該偏向素子によって変わらない方向に揃えられているので、往きの直線偏光は偏向素子を直線透過し、位相板で円偏光に変換される。この円偏光は記録面で反射されて逆回りの円偏光となり、再び位相板により入射前と直交する直線偏光に変換される。この戻り光束は再び偏向素子を通過する際に進行方向が曲げられ、受光素子に到達する。
【0003】
また、情報の読み出しや書き込みの際には、光ディスクの面ぶれ等が発生すると、ビームスポットのフォーカス位置が記録面からずれるため、これを検出・補正しビームスポットを記録面上の凹凸ピットに追従させるサーボ機構が必要となる。このような光ディスクのサーボ系はレーザー光源から照射したビームスポットの焦点を記録面上にあわせてからトラックの位置を検出し、目的のトラックを追従するように構成されている。また、記録面上でピットに当らずに反射されたレーザー光がそのまま光源まで戻らないようにする必要もある。
このため光ヘッド装置においては、レーザー光を変調(偏光、回折、位相調整等)させる光学素子が必要となり、これらの性質の単独もしくは組み合わせを利用して光学素子を構成することにより、サーボ機構等に応用されている。このような光学素子は、光ディスクの記録を読み取るために利用される光ピックアップ素子のみならず、プロジェクター用途等におけるイメージング素子、波長可変フィルタ用途等における通信用デバイスにも利用されている。
【0004】
これらの光学素子は液晶材料から作製することが可能である。重合性官能基を有する液晶分子は、重合性モノマーとしての性質と液晶としての性質とを併有するため、重合性官能基を有する液晶分子を配向させた後に重合を行うと、液晶分子の配向が固定された光学異方性材料を得ることができる。光学異方性材料は、メソゲン骨格に由来する屈折率異方性等の光学異方性を有し、これらの性質を利用して回折素子、位相板等に応用されている。
【0005】
さらに、近年、光ディスクの大容量化を図るため、情報の書き込み、読み取りに使用されるレーザー光を短波長化し、光ディスク上の凹凸ピットサイズをより小さくすることが進められている。現在、CDでは波長780nm、DVDでは波長660nm、BDでは405nmのレーザー光が使用されている。さらに、次世代光記録メディアでは、波長300〜450nmのレーザー光(以下、BDの場合も含め青色レーザー光とも記す。)の使用が検討されている。
しかし、液晶等の有機物からなる光学素子(位相板など)を青色レーザー光学系に配置して光ヘッド装置として使用すると、時間の経過に伴って収差が発生することがある。これは、青色レーザー光の曝露によって有機物にダメージが発生することによるものと考えられる。収差が発生すると、レーザー光源から出射し、コリメータレンズや光学素子等を通過した光(光束)が、さらに対物レンズを通過して記録媒体表面に到達したときに光束が1点に決像しなくなり、情報の読み出しや書き込みの効率(光の利用効率)が低下するおそれが生ずる。
【0006】
また、光学素子の小型化、高効率化、設計自由度の向上のためには、高い屈折率異方性、すなわちΔnを有する材料が必要とされる。ここでΔnとは光学異方性材料の異常光屈折率neと常光屈折率noの差分の絶対値であり、一般に、高い屈折率異方性を有する材料は、高い屈折率を有する傾向がある。
このような高屈折率液晶材料としては、例えば特許文献1に記載された液晶材料がある。しかし、高屈折率液晶材料は、屈折率の波長分散が大きいため、短波長の光に対する光の吸収が大きくなる(すなわち、材料のモル吸光係数が大きくなる。)傾向があり、青色レーザー光のような短波長の光を吸収しやすく、耐光性が低いという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、高いレーザー耐性と高い屈折率異方性を両立する光学異方性材料として、下式(I)で表される化合物を含む液晶組成物を重合させてなる高分子液晶が報告されている(特許文献2)。
【0008】
【化1】

【0009】
上記式(I)で表される化合物は、青色レーザー光に対する耐光性に優れ、かつ高い屈折率異方性を有するが、環基の数が多いことに由来して、組成物が高い融点を示す傾向にある。これに伴い、上記式(I)で表わされる化合物は、組成物の調製中に、光重合を実施予定のアクリル部位の熱重合が生じ易いという問題がある。このように熱重合が発生すると、重合の進行が不均一となるため、得られる膜が光散乱成分を多く含んだものとなり、その分、光学素子としての透過率をロスした状態となる。
また、環基の数が多くなると、重合の際に液晶メソゲン同士のパッキングが強くなり、その結果、結晶マルチドメインの様な形態となって、散乱に伴う透過率ロスを引き起こすという問題もある。
【0010】
ところで、上記の重合性液晶組成物(ネマチック液晶組成物またはスメクチック液晶組成物)に、不斉炭素を有するカイラルドーパントを添加することによって、重合性コレステリック液晶組成物を得ることができる。コレステリック液晶はネマチック液晶やスメクチック液晶とは異なる光学的性質を有するため、重合性液晶組成物として、それ相応の高いΔn値を有するものを用いれば、これらネマチック液晶組成物またはスメクチック液晶組成物等の重合性液晶組成物では実現できない光学素子の作成が可能である。
【0011】
コレステリック液晶は多数の層の重なりからなり、その一つの薄い層内において、液晶分子は長軸を層と平行にするとともに方向を揃えて並んでいる。また、分子の方向は、隣接する層ごとに少しずつ異なっており、全体として螺旋構造をなしている。このため、液晶分子は特異な光学的性質を示す。
具体的には、液晶分子が螺旋状に捩れた配向を有する結果、螺旋ピッチに対応して左/右円偏光成分のいずれか一方を選択的に反射する。例えば、選択反射を示す方の円偏光を用いてコレステリック液晶の透過率測定を行うと、急峻な波長依存性を有する透過スペクトル、すなわち、選択反射を持つ波長帯域に矩形を有するスペクトルが得られる。この性質は、特定波長の光を反射するミラー、反射型回折格子、反射帯を利用した屈折率異常分散等に適用できる。このため、コレステリック液晶は様々な光学素子に利用されている。例えば、特許文献3には、コレステリック液晶の屈折率異常分散を用いて構成された偏光性回折素子が開示されている。
【0012】
一般に使用されるコレステリック液晶は、比較的低分子量の通常のネマチック液晶またはスメクチック液晶に、不斉中心等を持つカイラルドーパントを添加することによって得られるが、こうした比較的低分子量の通常のコレステリック液晶は、周囲の温度変化の影響によって螺旋ピッチが変動し、その結果、上記の反射特性、すなわち選択反射波長の変動を引き起こす。また、液晶分子の捩れ配向構造は安定性が低いため、衝撃によって配向状態が乱れる場合があり、光学素子化する際の問題点となる。
【0013】
これに対し、ポリマー型のコレステリック高分子液晶は、上記の通常の低分子量のものと比較して、優れた信頼性を備えており、光学素子化したときの温度特性や信頼性の高さの面で、好適である。
コレステリック高分子液晶は、重合性官能基を有するネマチック若しくはスメクチックの液晶性化合物と、重合性官能基を有するカイラルドーパントとからなるコレステリック液晶組成物を重合することで得られるが、重合性コレステリック液晶組成物は、重合に伴い、選択反射の矩形変化を生じることが多く、一般に、その矩形はブロード化する。この場合、選択反射帯域近傍では透過率の低下が生じており、選択反射帯域近傍の波長の透過光を利用する光学素子においては、光の利用効率を確保し難いという問題があった。
【0014】
そこで、式(I)で示す化合物からなる重合性液晶組成物、重合性コレステリック液晶組成物のように、高い屈折率異方性と優れた青色レーザー耐光性を有しつつ、モノマーの高融点化や硬化物の透過率損失などの問題のない液晶化合物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−195138
【特許文献2】WO2007−046294
【特許文献3】特開2005−209327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、高い屈折率異方性と優れた青色レーザー耐光性を有しつつ、非重合性液晶組成物、重合性液晶組成物(ネマチック液晶またはスメクチック液晶)および重合性コレステリック液晶組成物の融点の上昇と、これらの硬化物の透過率損失とを抑制した光学異方性材料、光学素子及びこれらを作成するための新規な液晶組成物および化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する為に、本発明者は鋭意検討したところ、本発明に到達したもので、本発明は、下記を要旨とするものである。
【0018】
本発明は、下記式(1)で示される化合物を提供する。
A−Ph−E−Ph−(Ph)−(E−B−R ・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
A:CH=CR−COO−(L)−又は
炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基。
ただし、アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよく、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキル基及びアルコキシ基はエーテル結合を含んでいてもよい。
:水素原子またはメチル基。
L:−(CHO−、−(CH−であり、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキレン基はエーテル結合を含んでいてもよい。(ただしpおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数。)。
k:0または1。
B:−CH−、−OCH−、−SiH−、又は−Si(CH−。
:炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のアルコキシ基。
ただし、アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよく、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキル基及びアルコキシ基はエーテル結合を含んでいてもよい。
Ph:1,4−フェニレン基。(但し、環基のA側を1位とする。)
m、n:独立に0か1。
: トランス1,4−シクロヘキシレン基の4位炭素原子をケイ素原子で置換した下式に示す環基(但し、環基のA側を1位とする。):
【化2】

:トランス1,4−シクロヘキシレン基の1位炭素原子をケイ素原子で置換した下式に示す環基(但し、環基のA側を1位とする。):
【化3】

ただし、X、Xはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基。
また、式(1)中における1,4−フェニレン基は、その環基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
また、式(1)中におけるE及びEは、その環基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
また、本発明は、上記式(1)において、n=0である化合物を提供する。
また、本発明は、上記式(1)において、AがCH=CR−COO−(L)−である化合物を提供する。
また、本発明は、上記式(1)において、k=1である化合物を提供する。
【0019】
また、本発明は、上記本発明の式(1)で示される化合物を含有する液晶組成物を提供する。
また、本発明は、上記本発明の式(1)で示される重合性化合物を含有する重合性液晶組成物を提供する。
また、本発明は、上記本発明の重合性液晶組成物に、重合性カイラル材料を含有してなる重合性コレステリック液晶組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、上記本発明の重合性化合物を含有する液晶組成物を重合してなる光学異方性材料を提供する。
【0021】
また、本発明は、上記本発明の光学異方性材料を、一対の支持体間に挟持するか、または、一枚の支持体上に積層した構造を有する光学素子を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化合物は、融点が低く、組成物の融点を低く抑えることができ、その硬化物において、高い屈折率異方性と青色レーザー耐光性を確保しつつ、透過率損失(コレステリック硬化物の場合は選択反射帯の近傍波長における透過率損失)を抑制することができる。
従って、本発明の化合物、及び液晶組成物を用いて作成した光学異方材料、光学素子は、高い屈折率異方性と高い透過率を有し、かつ優れた青色レーザー耐光性を示す。また、本発明の光学異方材料は、高い屈折率異方性によって、複雑な光学素子の設計に好適に用いることができる。
本発明の重合性化合物は、重合性ネマチック液晶組成物、重合性スメクチック液晶組成物または重合性コレステリック液晶組成物の構成材料として用いることができる。
また、本発明の非重合性化合物は、重合性化合物と同様に低融点かつ高い屈折率異方性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】各液晶組成物のリターデーション(Rd)値とその硬化膜の透過率との関係を示す図である。
【図2】350〜800nm波長域における、本発明の液晶組成物の光透過率を示すスペクトル図である。
【図3】350〜800nm波長域における、比較例の液晶組成物の光透過率を示すスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の化合物についても同様に記す。
【0025】
本明細書における1,4−フェニレン基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基の4位炭素原子をケイ素原子で置換した環基Eおよびトランス−1,4−シクロヘキシレン基の1位炭素原子をケイ素原子で置換した環基Eは、非置換の基であってもよく、環基の環部分を構成する炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基で置換されていてもよい。
これらの環基は1位および4位に結合手を有する。本明細書では、環基中、式(1)のA側を1位とし、B側を4位とする(本明細書において、以下同じ。)。
なお、環基がEやEである場合、1位および4位の結合手はトランスの位置にある。また、アルキル基に構造異性の基が存在する場合はその全ての基を含み、直鎖アルキル基が好ましい。
以下において、「Ph」は上記の置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、EおよびEはそれぞれ、上記の置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基の、4位炭素原子又は1位炭素原子を、それぞれケイ素原子で置換した環基を表す。
【0026】
また液晶性と重合性とを併有する化合物を、以下、重合性液晶という。以下における波長の記載は、中心波長±2nmの範囲にあることを意味する。また、本明細書では、屈折率異方性をΔnと略記する。
【0027】
AはCH=CR−COO−(L)−か又は炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基であるが、AがCH=CR−COO−(L)−の場合には、化合物(1)の光重合が容易となり、液晶性を有する所望の温度で重合させ易くなるため、所望の特性を有する光学異方性材料を得やすくなることから、好ましい。
本発明の化合物は、AがCH=CR−COO−(L)−の場合、下式(1−1)で表される化合物である。この化合物(1−1)は、重合性と液晶性を併有する重合性液晶の一種である。
CH=CR−COO−(L)−Ph−E−Ph−(Ph)−(E−B−R (1−1)
【0028】
1は水素原子またはメチル基であり、水素原子が好ましい。R1が水素原子又はメチル基である場合には、光重合によって得られる光学異方性材料および光学素子の特性が外部環境(温度等)の影響を受けにくいという利点がある。更にR1が水素原子である場合には、後述する化合物(1)を含む液晶組成物を光重合させて光学異方性材料および光学素子を得る際に、重合が速やかに進行するので好ましい。
【0029】
は炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のアルコキシ基である。Rとしては、炭素数2〜6のアルキル基が、液晶温度幅の広さと低い融点とをバランスよく両立できる点から好ましい。
アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよいが、化合物(1)が液晶性を示す温度範囲を広くできることから、Rは直鎖構造であることがより好ましい。
また、アルキル基及びアルコキシ基は、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキル基及びアルコキシ基は、エーテル結合を含んでいてもよい。
【0030】
式(1)において、kは0または1であるが、kが1であるある場合には、重合後においても高いΔn値を維持できるため好ましい。また、kが1である場合には、モノマー組成物の融点を低下させる効果も得られる。
kが0である化合物は、kが1である化合物と比較すると、重合後においてそれ自身が示す実効Δn値は若干劣るが、硬化物に熱的安定性を付与する目的のために、組成物中に含まれていてもよい。
【0031】
Lは、−(CH)O−、または−(CH)−であり、いずれにおいても、化合物(1)特性上、大きな違いは無いが、合成上の便宜の面からは−(CH)O−が好ましい。
pおよびqは、それぞれ独立に2〜8の整数であり、重合前後におけるΔn値の保持と、熱によるポリマーΔn値の変動抑制とを両立させる観点から、pは4〜6の整数が特に好ましい。
一般に、重合性液晶組成物を重合させると、液晶のオーダーパラメーターの低下に伴い重合後のΔn値が低下する傾向にあるが、Lが−(CH)O−、−(CH)−等のポリメチレン基を有する基である場合には、重合の前後におけるΔn値の低下を抑制することができる。これは、アクリロイル基またはメタクリロイル基に、ポリメチレン基を有する構造が結合していることによるものである。
このため、ネマチック液晶組成物やスメクチック液晶組成物の場合、ポリマー状態でも高いΔn値を確保することが可能である。またこの場合、コレステリック液晶組成物中においても、重合に伴うポリマー実効Δn値の低下を抑制でき、高い実効Δn値を確保することが可能である。
また、−(CHO−及び−(CH−の水素原子は、フッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、またアルキレン基はエーテル結合を含んでいてもよい。
【0032】
およびEは、各々下記に示す化合物であり、Eは、トランス−1,4−シクロヘキシレン基の4位炭素原子をケイ素原子で置換した環基であり、Eは、トランス−1,4−シクロヘキシレン基の1位炭素原子をケイ素原子で置換した環基である。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
このように、環基中の炭素原子をケイ素原子で置換することにより、炭素−ケイ素原子間の結合距離と炭素−炭素原子間の結合距離の違いに起因して、EやEの環基内外における僅かな環構造の歪み、即ち非対称性が発生する。これに伴い、化合物(1)の融点を降下させることが可能である。
【0036】
[1]E又はE由来のSi原子とPhとが結合する構造、及び[2]後述するBの−SiH−又は−Si(CH−に含まれるケイ素原子とPhとが結合する構造により、化合物(1)の耐光性が向上する。この効果は、Phが連結してπ共役を形成している場合に、特に大きく現れる。これは、ケイ素原子‐炭素原子間では、二重結合、即ち−Si=C−の状態が形成され難いこと、又はベンジルラジカルの発生が抑制されること等により、耐光性劣化の起点と成り得る転移反応や結合開裂が進行し難いためである。
【0037】
、Xはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である。
、Xが水素原子の場合には、化合物(1)は、高いΔn値と低い融点を示し、優れた青色耐光性を有する。X、Xがメチル基の場合には、これらが水素原子である場合と比較して、更に効果的に融点を下げることが可能である。但し、Δnの値は僅かに低下する。なお、Δn値については、後述のように、環基の連結様式を適宜選択することにより、低下を回避することが可能である。
、Xが水素原子の場合には、プロトン引き抜き反応に由来する、青色耐光性の劣化が生じる可能性があるが、X、Xがメチル基の場合には、この可能性が回避される。従って、X、Xをメチル基とした場合には、光照射密度(照射光量÷照射面積)が高い等の過酷な耐光性条件下でも、この化合物(1)から得られる硬化膜の青色耐光性の劣化を抑制することができる。
【0038】
Bは−CH−、−OCH−、−SiH−、又は−Si(CH−である。(以下、Si(CH−を−SiMeと示す。)
Δn値の大きさの点では、−CH−≒−OCH− > −SiH− > −SiMeの順に優れており、融点の低さ及び耐光性の点では、−SiMe− > −SiH− > −CH−> −OCH−の順に優れている。
特に、過酷な耐光性条件下、例えば光照射密度が高い環境下においては、液晶メソゲン末端がPhであると(式(1)においてm=1、n=0の場合)、化合物(1)において、ベンジルラジカルの発生に伴う劣化が生じ易いが、Bとして−SiH−又は−SiMe−を選択すると、耐光性が向上する。これは、BがCH−、−OCH−の場合には、ベンジルラジカルの発生に伴う劣化が生じ易いのに対して、−SiH−又は−SiMe−の場合には、ベンジルラジカルの発生が抑えられて、高い耐光性を維持できるためである。
【0039】
「−Ph−E−Ph−(Ph)−(E−」の構造としては、「−Ph−E−Ph−」、「−Ph−E−Ph−Ph−」または「−Ph−E−Ph−Ph−E−」が好ましい。
Phが連結する構造の場合には、π共役によりΔn値を効果的に向上させることができる。従って、これらの構造の中でも、化合物(1)のΔn値を高くする点からはPhが隣接していることが好ましく、「−Ph−E−Ph−Ph−」および「−Ph−E−Ph−Ph−E−」が好ましい。
化合物(1)の合成上の便宜の点では「−Ph−E−Ph−Ph−」が好ましいが、Δn値の向上の点では、「−Ph−E−Ph−Ph−E−」が好ましい。
また、化合物(1)又はこれを含む組成物の融点を下げる点では、「−Ph−E−Ph−」が好ましい。
なお、これらの構造において、上記のように、X、Xの種類の選択、又はPh環への置換基の導入を適宜行うことにより、化合物(1)のΔn値、融点等を調整することが可能である。
【0040】
上記のように、Phが連結する構造は、化合物(1)のΔn値の向上に寄与するが、Phの連結としては、一義的に2つの連結までとすることがよい。Phが3つ以上連結すると、光学吸収の効果が強調され過ぎるため、耐光性が極めて脆弱になる。
ただし、Phが3つ連結していなければ、このような問題は生じないため、式(1)中に、Phが3つ以上含まれていてもよい。
また、E、Eといった環基を式(1)中に含むことにより、Ph環ほどの寄与はないものの、Δn値を向上させることができる。
【0041】
化合物(1)は、最大5つの環基を含む構造をとり得るが、式(1)中の環基数が多い場合には、Phに適宜メチル基を導入するか、又はX、Xとしてメチル基を選択することが好ましい。
環基が全て非置換であると、化合物(1)の融点が高くなり過ぎて、組成物の調整中に熱重合が生じる等の不都合がおこり易くなるが、Ph等の環基にメチル基を導入した場合、又はX、Xとしてメチル基を選択した場合には、化合物(1)の融点を降下させることができる。
なお、上記のようにBとして−SiH−または−SiMe−を選択することによっても、融点を下げることが可能である。
【0042】
このように、本発明の化合物(1)は、多環液晶骨格を有するが、上記のように、[1]Ph環との結合位置へのケイ素原子の導入[2]E又はEにおける、X、X位置でのメチル基置換[3]Phのメチル基置換等により、融点上昇を抑制しつつ、高いΔn値を確保し、優れた耐光性を維持することが可能である。
【0043】
また、環基を4つ又は5つ有する液晶骨格は、モノマーΔn値を高めるポテンシャルを有するが、その一方、これらのみで組成物を作成すると、組成物化した時の融点が全般に高くなる傾向があり、取り扱いが難しくなる。また、環基数が多いと、その硬化時に、結晶マルチドメイン質の膜が形成されて、光散乱に伴う透過率ロスが発生し易くなる。
このため、環基を4つ又は5つ有する化合物(1)を用いる場合には、これに併せて、式(1)中の環基数が3つの液晶モノマー、またはそれ以外から選ばれる3環液晶モノマーを含めて組成物を調整することが好ましい。このような3環液晶モノマーを組成物中に含有させることにより、モノマー融点の上昇や、光散乱に伴う透過率ロス等の問題を解決することができる。
【0044】
重合性の化合物(1)としては、下記化合物(1A)〜(1C)が好ましい。
CH=CR−COO−L−Ph−E−Ph−B−R ;(1A)
CH=CR−COO−L−Ph−E−Ph−Ph−B−R ;(1B)
CH=CR−COO−L−Ph−E−Ph−Ph−E−B−R ;(1C)
これらのうちRが水素原子である化合物が好ましく、更に−L−が−(CH)O−(pは4〜6の整数が特に好ましい。)である化合物が特に好ましい。
また、Ph、EおよびEは、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
本発明において、Phは非置換の基、1個のフッ素原子で置換された基、または1個のメチル基で置換された基であることが好ましい。Phがこれらの置換基を有する場合、化合物(1)の融点を低くする効果および粘度を低くする効果がある。
また、環基EおよびEにおいて、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子は非置換の基であることが好ましい。
のXおよびEのXは水素原子又はメチル基であり、Bは、−CH−、−OCH−、−SiH−、又は−SiMe−である。
【0045】
(1A)においては、Ph環の共役がなく、耐光性への影響は小さいことから、Bは−CH−であることが好ましい。(1A)は、環基の数が3つと少ないため、Bとして−SiH−や−SiMe−を選択すると、液晶としての異方性が低下して、Δn値が小さくなる。
【0046】
(1B)、(1C)においては、Ph環の置換基の有無、X、Xの種類(水素原子又はメチル基)、Bの種類(−CH−、−SiH−、−SiMe)の選択によって、種々の組み合わせによる骨格が考えられるが、これらの組み合わせ方に関しては、化合物(1)において物性(融点及びΔn値)面を強調するか、又は耐光性の強さを強調するかによって、適宜選択することが好ましい。
【0047】
例えば、光の照射密度の高い、過酷な耐光性環境下での高度の青色耐光性が要求される場合には、X、Xとしてはメチル基を選択し、Bとしては−SiMe−、−SiH−、−CH−の順に選択することが好ましい。この場合には、化合物(1)の融点が低下する効果も得られるが、Δn値は低下する。従って、この場合には、環基のPhには置換基を含めないことが好ましい。
一方、化合物(1)において、上記のような高度の耐光性を要求されない場合には、X、Xとしては水素原子を選択し、Bとしては−CH−、−SiH−、−SiMe−の順に選択することが好ましい。この場合、化合物(1)の融点は高くなり易い傾向にあるため、環基のPhにメチル基、フッ素原子等の置換基を含めることが好ましい。
【0048】
また、式(1)において、Aは、重合基を含まないものであってもよい。この場合にも、高いΔn値を有し、かつ低融点(Tm)で、優れた青色耐光性を有する化合物(1)を得ることができる。従って、青色波長用途として、かつ電場印加して用いるアクティブ液晶組成物の1つとして使用することができる。即ち、少量の添加によって、組成物のΔn値を高めることが可能であり、液晶層の厚みを薄くすることに伴う液晶の高速応答化に対して効果的に寄与することができる。
重合性の(1A)〜(1C)と同様に、下記化合物(1a)〜(1c)が好ましい。
−Ph−E−Ph−B−R ;(1a)
−Ph−E−Ph−Ph−B−R ;(1b)
−Ph−E−Ph−Ph−E−B−R ;(1c)
【0049】
は炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基である。特性的には両者に顕著な差は無いが、Aがアルコキシ基の場合には、後述のように、Aが重合性基を有するものと中間体を共有できる利点を有する。一方、合成上の工程数を考慮すると、アルキル基は、アルコキシ基と比較して簡便に作成できる利点を有する。
アルキル基及びアルコキシ基は直鎖状のものであっても分岐状のものであってもよいが、化合物(1)が液晶性を示す温度範囲を広くできることから、直鎖状のものの方が好ましい。
アルキル基及びアルコキシ基は、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、またアルキル基及びアルコキシ基は、エーテル結合を含んでいてもよい。
【0050】
化合物(1)としては、以下に示す化合物が好ましく、(1B−1)〜(1B−12)、(1B−25)〜(1B−36)、(1C−1)〜(1C−8)、(1C−17)〜(1C−24)が特に好ましい。ただし式中のpは前記と同じ意味を示し、4〜6の整数が好ましい。R21は炭素数1〜8のアルキル基を示し、炭素数1〜6の直鎖アルキル基が好ましい。R22は炭素数1〜8のアルキル基を示し、炭素数2〜6の直鎖アルキル基が好ましい。
【0051】
【化6】

【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
本発明の化合物(1)の合成方法について、具体例を挙げて説明する。尚、以下の式中の記号は前記と同じ意味である。
【0056】
(合成方法1)
化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0057】
【化10】

【0058】
まず上記化合物(11)とアリルマグネシウムクロリドを反応させて上記化合物(12)を得る。次に化合物(12)をヒドロホウ素化した後、塩基と過酸化水素で酸化することでジオール(13)を得る。次に化合物(13)をルテニウム触媒の存在下で酸化してジカルボン酸(14)を得る。次に化合物(14)とエタノールを反応させて化合物(15)を得て、これを、水素化ナトリウムの存在下でDieckmann縮合を行い化合物(16)を得る。次に化合物(16)を塩化ナトリウム水溶液とジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記する)の存在下で還流して化合物(17)を得る。次に化合物(17)と別途調整したグリニヤール試薬(18)を反応させて化合物(19)を得る。次に化合物(19)とパラ−トルエンスルホン酸を反応させて化合物(20)を得る。次に化合物(20)をパラジウム−活性炭素の存在下、水素ガスと反応させて、化合物(21)を得る。次に化合物(21)を一塩化ヨウ素と反応させた後、引き続き水素化アルミニウムリチウム(以下、LAHと略記)と反応させて化合物(22)を得る。次に化合物(22)を塩化鉄(III)の存在下、塩化水素ガスと反応させることで化合物(22−2)を反応系中で得て、これと、別途調整したグリニヤール試薬(23)を反応させて化合物(24)を得る。次に化合物(24)をLiBH(sec−Cと反応させて化合物(25)を得る。
化合物(25)をR21−BrまたはR21−OHとエーテル化することで非重合性の化合物(1A−1)を得る。
化合物(25)をアクリル酸クロリドと反応させることで、メチレンスペーサーを持たない重合性化合物(1A−3)を得る。
化合物(25)をCH=CH−COO−(CH−BrまたはCH=CH−COO−(CH−OHと反応させることで、メチレンスペーサーを有する重合性化合物(1A−5)を得る。
【0059】
(合成方法2)
化合物(1A−2)、(1A−4)、(1A−6)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0060】
【化11】

【0061】
合成方法1において化合物(21)から化合物(22)を得る反応にて、LAHの代わりにメチルマグネシウムブロマイドを用いることで上記化合物(26)を得る。更に化合物(26)に対して、合成方法1において化合物(22)から化合物(24)、化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1A−2)、(1A−4)、(1A−6)を得ることができる。
【0062】
(合成方法3)
化合物(1B−1)、(1B−13)、(1B−25)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0063】
【化12】

【0064】
合成方法1において化合物(22)から化合物(24)を得る反応にて、化合物(23)の代わりに化合物(27)を用いることで上記化合物(28)を得る。更に化合物(28)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−1)、(1B−13)、(1B−25)を得る。
【0065】
(合成方法4)
化合物(1B−4)、(1B−16)、(1B−28)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0066】
【化13】

【0067】
合成方法3において化合物(22)から化合物(28)を得る反応にて、化合物(22)の代わりに化合物(26)を用いることで上記化合物(29)を得る。更に化合物(29)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−4)、(1B−16)、(1B−28)を得る。
【0068】
(合成方法5)
化合物(1B−7)、(1B−19)、(1B−31)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0069】
【化14】

【0070】
合成方法3において化合物(22)から化合物(28)を得る反応にて、化合物(27)の代わりに化合物(30)を用いることで上記化合物(31)を得る。更に化合物(31)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−7)、(1B−19)、(1B−31)を得る。
【0071】
(合成方法6)
化合物(1B−10)、(1B−22)、(1B−34)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0072】
【化15】

【0073】
合成方法5において化合物(22)から化合物(31)を得る反応にて、化合物(22)の代わりに化合物(26)を用いることで上記化合物(32)を得る。更に化合物(32)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−10)、(1B−22)、(1B−34)を得る。
【0074】
(合成方法7)
化合物(1B−2)、(1B−14)、(1B−26)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0075】
【化16】

【0076】
合成方法3において化合物(22)から化合物(28)を得る反応にて、化合物(27)の代わりに化合物(33)を用いることで上記化合物(34)を得る。次に化合物(34)のグリニヤール試薬(34−2)を調整し、これとR22−SiClを反応させ、引き続きLAHと反応させることで化合物(35)を得る。更に化合物(35)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−2)、(1B−14)、(1B−26)を得る。
【0077】
(合成方法8)
化合物(1B−3)、(1B−15)、(1B−27)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0078】
【化17】

【0079】
合成方法7において化合物(34)から化合物(35)を得る反応にて、R22−SiClの代わりにR22−SiMeClと反応させることで上記化合物(36)を得る。更に化合物(35)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−3)、(1B−15)、(1B−27)を得る。
【0080】
(合成方法9)
化合物(1B−5)、(1B−17)、(1B−29)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0081】
【化18】

【0082】
合成方法7において化合物(22)から化合物(34)を得る反応にて、化合物(22)の代わりに化合物(26)を用いることで上記化合物(37)を得る。次に化合物(37)に対して、合成方法7において化合物(34)から化合物(35)を得るのに用いた方法と全く同様の方法を用いることで、化合物(38)を得る。更に化合物(38)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−5)、(1B−17)、(1B−29)を得る。
【0083】
(合成方法10)
化合物(1B−6)、(1B−18)、(1B−30)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0084】
【化19】

【0085】
合成方法9において化合物(37−2)から化合物(38)を得る反応にて、R22−SiClの代わりにR22−SiMeClと反応させることで上記化合物(39)を得る。更に化合物(39)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−6)、(1B−18)、(1B−30)を得る。
【0086】
(合成方法11)
化合物(1B−8)、(1B−20)、(1B−32)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0087】
【化20】

【0088】
合成方法7において化合物(22)から化合物(34)を得る反応にて、化合物(33)の代わりに化合物(40)を用いることで上記化合物(41)を得る。次に化合物(41)に対して、合成方法7において化合物(34)から化合物(35)を得るのに用いた方法と全く同様の方法を用いることで、化合物(42)を得る。更に化合物(42)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−8)、(1B−20)、(1B−32)を得る。
【0089】
(合成方法12)
化合物(1B−9)、(1B−21)、(1B−33)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0090】
【化21】

【0091】
合成方法11において化合物(41−2)から化合物(42)を得る反応にて、R22−SiClの代わりにR22−SiMeClと反応させることで上記化合物(43)を得る。更に化合物(43)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−9)、(1B−21)、(1B−33)を得る。
【0092】
(合成方法13)
化合物(1B−11)、(1B−23)、(1B−35)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0093】
【化22】

【0094】
合成方法6において化合物(26)から化合物(32)を得る反応にて、化合物(30)の代わりに化合物(40)を用いることで上記化合物(44)を得る。次に化合物(44)に対して、合成方法7において化合物(34)から化合物(35)を得るのに用いた方法と全く同様の方法を用いることで、化合物(45)を得る。更に化合物(45)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−11)、(1B−23)、(1B−35)を得る。
【0095】
(合成方法14)
化合物(1B−12)、(1B−24)、(1B−36)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【化23】

【0096】
合成方法13において化合物(44−2)から化合物(45)を得る反応にて、R22−SiClの代わりにR22−SiMeClと反応させることで上記化合物(46)を得る。更に化合物(46)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1B−12)、(1B−24)、(1B−36)を得る。
【0097】
(合成方法15)
化合物(1C−1)、(1C−9)、(1C−17)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0098】
【化24】

【0099】
化合物(47)のようなグリニヤール試薬を調整し、これと化合物(17)を反応させることで上記化合物(48)を得る。更に化合物(48)に対して、合成方法1において化合物(19)から化合物(22−2)を得る工程と全く同様の方法を用いることで化合物(51−2)を反応系中で得て、これと、別途調整したグリニヤール試薬(33)を反応させて化合物(52)を得る。次に化合物(52)にマグネシウムを作用させてグリニヤール試薬(53)を調整し、別途調整した化合物(22−2)を反応させて化合物(54)を得る。更に化合物(54)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−1)、(1C−9)、(1C−17)を得る。
【0100】
(合成方法16)
化合物(1C−2)、(1C−10)、(1C−18)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0101】
【化25】

【0102】
合成方法15から得られる化合物(50)を一塩化ヨウ素と反応させた後、引き続きメチルマグネシウムブロミドと反応させて化合物(55)を得る。次に合成方法15において化合物(51)から化合物(52)を得る反応にて、化合物(51)の代わりに上記化合物(55)を用いることで上記化合物(56)を得る。更に合成方法15において化合物(52)から化合物(54)を得る方法と全く同様の方法を用いることで化合物(58)を得る。更に化合物(58)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−2)、(1C−10)、(1C−18)を得る。
【0103】
(合成方法17)
化合物(1C−3)、(1C−11)、(1C−19)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0104】
【化26】

【0105】
合成方法15において化合物(53)から化合物(54)を得る反応にて、化合物(22−2)の代わりに化合物(26−2)を用いることで上記化合物(59)を得る。更に化合物(59)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−3)、(1C−11)、(1C−19)を得る。
【0106】
(合成方法18)
化合物(1C−4)、(1C−12)、(1C−20)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0107】
【化27】

【0108】
合成方法16において化合物(57)から化合物(58)を得る反応にて、化合物(22−2)の代わりに化合物(26−2)を用いることで上記化合物(60)を得る。更に化合物(60)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−4)、(1C−12)、(1C−20)を得る。
【0109】
(合成方法19)
化合物(1C−5)、(1C−13)、(1C−21)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0110】
【化28】

【0111】
合成方法15において化合物(51)から化合物(52)を得る反応にて、化合物(33)の代わりに別途調整したグリニヤール試薬(61)を用いることで上記化合物(62)を得る。次に合成方法16において化合物(56)から化合物(58)を得る反応にて、化合物(56)の代わりに上記化合物(62)を用いることで上記化合物(64)を得る。更に化合物(64)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−5)、(1C−13)、(1C−21)を得る。
【0112】
(合成方法20)
化合物(1C−6)、(1C−14)、(1C−22)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0113】
【化29】

【0114】
合成方法19において化合物(51)から化合物(62)を得る反応にて、化合物(51)の代わりに化合物(55)を用いることで上記化合物(65)を得る。次に合成方法16において化合物(56)から化合物(58)を得る反応にて、化合物(56)の代わりに上記化合物(65)を用いることで上記化合物(67)を得る。更に化合物(67)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−6)、(1C−14)、(1C−22)を得る。
【0115】
(合成方法21)
化合物(1C−7)、(1C−15)、(1C−23)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0116】
【化30】

【0117】
合成方法19において化合物(63)から化合物(64)を得る反応にて、化合物(22−2)の代わりに化合物(26−2)を用いることで上記化合物(68)を得る。更に化合物(68)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−7)、(1C−15)、(1C−23)を得る。
【0118】
(合成方法22)
化合物(1C−8)、(1C−16)、(1C−24)の合成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0119】
【化31】

【0120】
合成方法20において化合物(66)から化合物(67)を得る反応にて、化合物(22−2)の代わりに化合物(26−2)を用いることで上記化合物(69)を得る。更に化合物(69)に対して、合成方法1において化合物(24)から化合物(25)を経て化合物(1A−1)、(1A−3)、(1A−5)を得る方法と全く同様の方法を用いることで、上記化合物(1C−8)、(1C−16)、(1C−24)を得る。
【0121】
また上記合成方法1〜合成方法22中に記載のグリニヤール試薬(27)、(30)、(33)、(40)、(61)は、下記のようにアセトン溶媒中で酢酸パラジウム、トリフェニルホスフィン、炭酸ナトリウムの存在下で、鈴木カップリング反応により合成した化合物に対して、更にマグネシウムを作用させて合成する。鈴木カップリングの仕込み比は、ボロン酸類−1等量に対して、ブロモヨードベンゼン類−0.9当量、酢酸パラジウム−0.05当量、トリフェニルホスフィン−0.09当量、炭酸ナトリウム−2.7当量(20%水溶液を調製)、溶媒アセトン(量任意)を反応容器に全て加え、1晩攪拌することで、容易に合成可能である。
【0122】
【化32】

【0123】
本発明の化合物(1)は、[1]3個以上の環基が直接結合した構造を有していて且つPhの連結は2つまでに限定していること、[2]式(1)中に、−Ph−CO−構造(特開2004−263037参照。)を含まないこと、[3]波長400nm以下の短波長領域においても光吸収の無い、飽和炭化水素環基即ちE、Eをメソゲン骨格中に有すること、により青色レーザー光に対する耐久性が良好である。
また、本発明の化合物(1)は、Phを、E、E、B等に含まれるケイ素原子と結合させて配置することにより、劣化の基点となり得る転移反応を抑制し、耐光性を更に向上させる。特に、式(1)中に、Phが2つ連結した共役構造が存在する場合には、この構造が与える効果が大きい。
【0124】
ネマチック液晶組成物およびスメクチック液晶組成物のΔn値、コレステリック液晶組成物の実効Δn値は、環基として2つ以上のPhを有する場合に、大きくすることができる。特に、化合物(1)が前記式(1B)及び式(1C)並びに(1b)及び(1c)で示すように、Phが2つ連結した構造と、更にEを介してPhが1つ、即ち合計3つのPhを含む構造をとるにより、Δn値や実効Δn値を効果的に高めることができる。
【0125】
また、一般に重合性液晶を重合させると、重合を行うことでΔn値や実効Δn値が低下する傾向にあるが、アクリロイル基またはメタクリロイル基にポリメチレン基を有する構造が結合している場合、すなわち−L−部分が、−(CHO−又は−(CH−である場合にはΔn値や実効Δn値の低下を抑制できる。
【0126】
また、液晶メソゲン骨格中にEやEに由来するケイ素原子が存在することは、耐光性としての効果だけではなく、モノマー組成物の融点降下や硬化膜の透過率向上等の、物性的な効果にも寄与する。これは、炭素−ケイ素原子の結合距離と炭素−炭素原子の結合距離の違いによる、E、Eの環基内外における僅かな環構造の歪み、即ち非対称性に由来するものであり、これに伴い化合物(1)及びこれを含む組成物の融点が降下する。
また、一般に、化合物の環基数が多い場合、これを重合させたときに、液晶メソゲン同士で強いパッキングが起こり、結晶マルチドメイン質の散乱、即ち透過率ロスが発生し易いが、上記のように、液晶メソゲン中に僅かな環構造の歪みが存在することにより、硬化膜における散乱が抑制され、また同時に液晶としての異方性も適切に維持される。
【0127】
以上より、液晶メソゲン中にケイ素原子を含む化合物(1)およびこれを含む組成物は、低融点で扱い易く、その硬化物は、青色光に対する耐久性および透過率特性に優れている。特に式(1)中のkが1である場合には、高いΔn値や実効Δn値を得られるため、光学素子設計における多様性に優れたものとなる。更に、これを用いて得られる光学素子は、青色光に対する耐久性に優れており、光ヘッド装置に利用した場合にも、良好な光利用効率を得ることができる。
【0128】
本発明の化合物(1)は、ネマチック高分子液晶、スメクチック高分子液晶およびコレステリック高分子液晶を得るための液晶組成物の一成分として使用されることが好ましい。 この場合、本発明の化合物(1)は、広い液晶温度範囲を有する液晶組成物を得やすく、特に液晶相を示す温度範囲が低温側に広い液晶組成物を得やすいという特徴を有する。なお、液晶組成物が広い液晶温度巾を示すものとするためには、組成物の融点を低温側に広げるか、または組成物のTc(液晶−等方相への相転移温度)を高温側へ広げればよい。
高分子液晶を得るための液晶組成物が低温側においても液晶性を示すように、この液晶組成物は化合物(1)から選ばれる2種以上の化合物を含む液晶組成物、または化合物(1)の1種以上と化合物(1)以外の重合性液晶の1種以上とを含む液晶組成物であることが好ましい。このような液晶組成物とすることによって、融点(Tm)降下が生じるため、取り扱いが容易になり且つ液晶相を示す温度範囲をより広くできる。なお、Tcを上げることで液晶温度範囲を高温側へ広げたい場合には、化合物(1)以外の重合性液晶として、高いTcを有する重合性液晶を選択すればよい。
以下では、化合物(1)以外の重合性液晶化合物を化合物(3)という。
【0129】
液晶組成物が、化合物(1)と化合物(3)とを含むものである場合には、化合物(3)としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましく、特にアクリロイル基を有する化合物は、重合が速やかに進行することから好ましい。アクリロイル基の数は単官能または2官能であることが好ましい。
重合性液晶である化合物(3)としては、青色耐光性や物性の面で、化合物(1)に類似することが望ましいため、化合物(3)の分子構造は、化合物(1)の分子構造に類似するものであることが好ましい。これにより、化合物(1)と化合物(3)とからなる液晶組成物は、融点降下が効果的に生じ、安定したネマチック液晶相又はスメクチック液晶相を示すものとなる。
【0130】
ただし、化合物(3)を構成する環基は、Phまたはトランス−1、4−シクロヘキシレン基(以下、Cyと略記)が好ましく、前記E、Eのような、環基中にケイ素原子を含む環基でないことが好ましい。液晶骨格中にケイ素原子が含まれると、Tc(液晶−等方相への相転移温度)が僅かに下がる傾向にあるため、液晶温度範囲を高温側に広げる場合には、このような、ケイ素原子を含まない化合物(3)を適宜選択することにより、Tcを調整することが好ましい。
【0131】
以上より、調製した組成物は、安定なネマチック相またはスメクチック相を示し、更にこれに、重合性カイラルドーパント(4)を添加した場合にも、安定したコレステリック相を示すものとなる。
【0132】
化合物(3)としては、下式(3−1)で表される化合物[化合物(3−1)]または下式(3−2)で表される化合物[化合物(3−2)]または下式(3−3)で表される化合物[化合物(3−3)]が好ましい。
CH=CR−COO−(α)β−E−E−E−E−R・・・(3−1)
CH=CR−COO−(γ)δ−E−E−E−R・・・(3−2)
CH=CR−COO−E10−E11−R・・・(3−3)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
、R、R:それぞれ独立に、水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、又はCH=CR−COO−(α)β−。
:炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、又はCH=CR−COO−(γ)δ−。
:炭素数1〜8のアルキル基又はアルコキシ基。
β、δ:それぞれ独立に、0または1。
α、γ:それぞれ独立に、−(CHO−または−(CH−(ただし、sおよびtはそれぞれ独立に2〜8の整数。)。
ただし、R、R及びRのアルキル基、アルコキシ基、並びにα及びγは、炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子に置換されていてもよく、エーテル結合を含んでいてもよい。
〜E11:それぞれ独立に1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。ただし、EおよびEの少なくとも1つはトランス−1,4−シクロヘキシレン基である。また、E〜Eの少なくとも1つはトランス−1,4−シクロヘキシレン基である。
ただし、前記の1,4−フェニレン基およびトランス−1,4−シクロヘキシレン基は、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
【0133】
上記の化合物(3)のうち好ましい化合物は、下記化合物(3−1−1A)、化合物(3−1−1C)、化合物(3−1−3C)、化合物(3−2−1B)、化合物(3−2−2B)、化合物(3−3−2)、である。ただし下記のPhおよびCyは、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Ph−Ph−R・・・(3−1−1A)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−Ph−R・・・(3−1−1B)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Ph−Ph−O(CH−OOC−CR=CH・・・(3−1−1C)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Ph−Cy−Ph−R・・・(3−1−2A)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−Ph−R・・・(3−1−2B)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Cy−Ph−R・・・(3−1−3A)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Cy−Ph−R・・・(3−1−3B)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Cy−Ph−O(CH−OOC−CR=CH・・・(3−1−3C)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Ph−R・・・(3−2−1A)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−R・・・(3−2−1B)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Cy−Ph−O(CH−OOC−CR=CH・・・(3−2−1C)
CH=CR−COO−(CHO−Ph−Ph−Cy−R・・・(3−2−2A)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−R・・・(3−2−2B)
CH=CR−COO−Ph−Cy−R・・・(3−3−1)
CH=CR−COO−Cy−Cy−R・・・(3−3−2)
【0134】
重合性カイラルドーパント(4)としては、特に限定されないが、下記の化合物(4−1)〜(4−4)に示すイソソルビド誘導体またはイソマンニド誘導体から成る重合性カイラルドーパント等が好ましい。
【0135】
【化33】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
〜R11:それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基。
u、v、x、y:2〜8の整数。
【0136】
ネマチック高分子液晶、スメクチック高分子液晶またはコレステリック高分子液晶(以下これらを総称して「これらの高分子液晶」とも記載する)を製造するための組成物としては、重合性ネマチック液晶、重合性スメクチック液晶および重合性カイラルドーパントを合わせて75質量%以上含む液晶組成物であり、90質量%以上の液晶組成物を含むことが好ましい。
この液晶組成物は、非液晶性の重合性化合物や非重合性の液晶化合物を含んでもよい。コレステリック液晶組成物としては、重合性ネマチック液晶又は重合性スメクチック液晶を75質量%以上、特に85質量%以上含む液晶組成物が好ましい。
本発明において、これらの高分子液晶を製造するための組成物として、液晶組成物中の全重合性化合物に対して化合物(1)を少なくとも5質量%含む液晶組成物が好ましい。
【0137】
本発明においてこれらの高分子液晶を製造するために適した液晶組成物は、前記のように化合物(1)の1種以上を含有する液晶組成物、および、化合物(1)の1種以上と化合物(3)の1種以上を含有する液晶組成物である。これらの液晶組成物における化合物(1)と化合物(3)の合計量に対する化合物(1)の割合は、30〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることが特に好ましい。
【0138】
さらに、化合物(3)は化合物(1)に比較して低分子量であることが多く、このため化合物(1)と化合物(3)の合計量に対する化合物(1)のモル比は質量比よりも小さくなることが多い。したがって、モル比で表した場合、化合物(1)と化合物(3)の合計量に対する化合物(1)の割合は18モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましい。化合物(1)と化合物(3)を含む液晶組成物においては、化合物(1)と化合物(3)の合計量に対する化合物(1)の割合の上限は90モル%であることが好ましい。
【0139】
また、化合物(1)において、Aが重合性基を有しないものである場合、この化合物(1)と共に液晶組成物に含有させる他の液晶性化合物としては、例えば下記に示す非重合性の化合物(5)を用いることができる。
(ただし、式中のR12、R13、R14はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基を示す。)。
なお、下記非重合性化合物(5)は、化合物(1)が非重合性の場合に限られず、化合物(1)が重合性の場合にも、液晶組成物として併用することが可能である。
【0140】
【化34】

【0141】
【化35】

【0142】
なお、化合物(1)が非重合性のものの場合、この化合物(1)と混合して用いる他の液晶性化合物としては、上記非重合性の化合物(5)に限られず、重合性の液晶化合物(3)を用いることもでき、また、市販のネマチック性液晶組成物と混合して使用することもできる。
【0143】
液晶組成物中に含まれる化合物(1)の量は、液晶組成物に対して0.5質量%以上であり、2〜30質量%が好ましく、3〜20質量%が特に好ましい。重合性液晶組成物の場合には、前記範囲の量の化合物(1)を用いることにより、モノマー組成物の融点の上昇や、光散乱に伴う透過率ロス等を抑制しつつ、液晶組成物のΔn値を適宜向上させることができる。
【0144】
本発明の重合性液晶組成物は、重合性ネマチック液晶、重合性スメクチック液晶および重合性カイラルドーパント以外の成分(以下、他の成分と記す。)を含んでいてもよい。他の成分としては、重合開始剤、重合禁止剤、式(4)以外のカイラル剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、二色性色素等が挙げられる。
【0145】
重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶の総量(以下、「重合性液晶の総量」と記す。)、および、他の成分の割合は、用途によって調整することが好ましい。たとえば、他の成分として式(4)以外のカイラル剤を使用する場合、重合性液晶の総量は、重合性液晶組成物に対して60〜95質量%が好ましく、70〜95質量%が特に好ましい。式(4)以外のカイラル剤の量は、重合性液晶組成物に対して5〜40質量%が好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。
【0146】
他の成分として二色性色素を使用する場合、重合性液晶の総量は、重合性液晶組成物に対して80〜99質量%が好ましく、82〜97質量%が特に好ましい。
【0147】
他の成分として、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を使用する場合は、これらの成分の量は重合性液晶組成物に対して5質量%以下が好ましく、3質量%以下が特に好ましい。この場合の重合性液晶の総量は、重合性液晶組成物に対して95質量%以上100質量%未満が好ましく、97質量%以上100質量%未満が特に好ましい。重合開始剤の割合については後述する。
【0148】
また、本発明の液晶組成物は、非重合性液晶組成物の場合にも、カイラル材、二色性色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、非重合性液晶以外の他の成分を含んでいてもよい。
これら他の成分の量は、非重合性液晶組成物に対して5質量%以下が好ましく、3質量%以下が特に好ましい。この場合の非重合性液晶の総量は、非重合性液晶組成物に対して95質量%以上100質量%未満が好ましく、97質量%以上100質量%未満が特に好ましい。
【0149】
つぎに、本発明の光学異方性材料について説明する。
本発明の光学異方性材料は、前記の重合性液晶組成物を、この重合性液晶組成物がネマチック相、スメクチック相またはコレステリック相(以下、これらを総称して「液晶相」とも略記する)を示す状態で、かつこれらの液晶が配向した状態で重合して得られる重合体からなる。
【0150】
重合性液晶組成物が液晶相を示す状態に保つためには、雰囲気温度を液晶相から等方相への相転移温度(T)℃以下にすればよいが、Tに近い温度では液晶組成物のΔnまたは実効Δnが極めて小さいので、雰囲気温度の上限は(T−10)℃以下とすることが好ましい。
【0151】
重合としては、光重合および熱重合等が挙げられ、光重合が好ましい。光重合に用いる光としては、紫外線または可視光線が好ましい。光重合を行う場合は光重合開始剤を用いることが好ましく、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等から適宜選択される光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤は1種または2種以上を使用できる。光重合開始剤の量は、液晶組成物の全体量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.03〜2質量%が特に好ましい。
【0152】
つぎに本発明の光学素子について説明する。
本発明の光学素子は、配向処理が施された1対の支持体間に、前記液晶組成物を挟持し、この液晶組成物が液晶相を示す状態でかつ液晶が配向した状態で重合して得られる重合体を含む。
【0153】
支持体としては、ガラス製または樹脂製の透明基板に配向処理を施した支持体が好ましい。配向処理は、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル等の繊維で透明基板表面を直接ラビングする方法、透明基板表面にポリイミド配向膜を積層した後に該配向膜表面を上記繊維等でラビングする方法、透明基板表面に無機材料を斜方蒸着する方法等によって行うことが好ましい。
【0154】
次に、配向処理が施された面にガラスビーズなどのスペーサを配置し、複数枚の支持体を所望の間隔に制御して対向させ、支持体間に液晶組成物を挟持する。支持体間に挟持した液晶組成物が重合性液晶組成物の場合には、その後に重合を行う。重合は、前記光学異方性材料を作製する場合の重合と同様に行うことができる。重合によって得られた重合体は、支持体に挟持したまま用いてもよく、支持体から剥離して用いてもよい。
本発明の光学素子は、単に非重合性液晶組成物を二枚の支持体間に挟持した光学素子であってもよいし、重合性液晶組成物を重合させて作製した光学素子であってもよい。
なお、電圧印加により動作を切り替えるものでなければ、重合させた光学異方性材料を用いた光学素子とすることが、光学素子としての特性の変動が少ないため好ましい。また、この重合体は単独、すなわち光学異方性材料単独でも使用できるが、形状を保持しやすく、破損を生じにくいことから、何らかの支持体に保持された構造とすることが好ましい。具体的には、重合体である光学異方性材料が一対の支持体に挟持された構造、または1枚の支持体上に光学異方性材料が積層された構造であることが好ましい。
【0155】
本発明の光学異方性材料および光学素子は、青色レーザー光に対して良好な耐久性を示すので、レーザー光を透過させて使用する光学異方性材料および光学素子として有用である。
例えば、ネマチック液晶組成物やスメクチック液晶組成物を用いた場合には、屈折率異方性を利用したレーザー光の位相状態および/または波面状態を変調する用途に使用される、光学異方性材料およびこの光学異方性材料からなる部材を有する光学素子として有用である。また、コレステリック液晶組成物を用いた場合には、円偏光複屈折を利用した偏光ホログラム等の回折素子として、光ヘッド装置に搭載して使用される。偏光ホログラムとしては、レーザー光源からの出射光が光ディスクの情報記録面によって反射されて発生する信号光を分離し、受光素子へ導光する例が挙げられる。他の用途としては、旋光子や円偏光選択ミラー、補償膜が挙げられる。
【0156】
さらに、本発明の光学異方性材料は、青色耐光性に優れた従来の液晶材料と同様に、高いΔn値を有しながら、融点が低く取り扱い性に優れており、重合して得られる膜は、散乱による透過率損失が小さいという利点を持つ。また、Δn値が高いため、光学素子の設計の自由度が高い。
【実施例】
【0157】
以下、本発明化合物の合成例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明に係る化合物の合成はこれらの例によって限定されない。
【0158】
[合成例1]化合物(1A-1-1)の合成例(R21=メチル基、R22=プロピル基):
[例1−1]化合物(13)の合成例
【化36】

【0159】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した2000mLの4つ口フラスコを0℃に冷却し、2mol/LのアリルマグネシウムクロリドのTHF溶液(アルドリッチ社製)500mLを加え、ここへ化合物(11)(110.0g、0.434モル)を脱水テトラヒドロフラン(500mL)に溶解させたものを、窒素気流下にて30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で3時間撹拌した後、1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液(200mL)を加えて反応を停止させた。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(12)を12.4g得た。収率は98%であった。この段階ではこれ以上の精製を行わず、次の合成ステップに進んだ。
【0160】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した1000mLの4つ口フラスコに、化合物(12)(112.4g、0.426モル)、NaBH(9.4g、0.249モル)、脱水テトラヒドロフラン(500mL)を加えて溶解させた。ここへ、東京化成製のBF−ジエチルエーテル錯体49.0gを30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で4時間撹拌した。更にこの系へ20%−NaOH水溶液295mLを30分かけて滴下した。引き続き、この系へ30%−過酸化水素水溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で1晩攪拌した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(13)を108.8g得た。収率は85%であった。この段階ではこれ以上の精製を行わず、次の合成ステップに進んだ。
【0161】
[例1−2]化合物(14)の合成例
【化37】

3000mLのナスフラスコに化合物(13)(108.8g、0.362モル)、KCO(300.2g、2.173モル)、テトラブチルアンモニウムブロミド(4.7g、0.015モル)、塩化ルテニウム(I)(1.50g、0.072モル)、酢酸エチル500mL、水200mLを加えた。これに、トリクロロイソシアヌル酸(168.3g、0.724モル)を酢酸エチル(200mL)に溶解させたものを、30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で1晩攪拌した。
これにイソプロピルアルコール100ccを加えて反応を停止させた後、20%−HCl水溶液および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(14)を17.8g得た。収率は15%であった。この段階ではこれ以上の精製を行わず、次の合成ステップに進んだ。
【0162】
[例1−3]化合物(16)の合成例
【化38】

還流装置、撹拌機を装備した500mLのナス型フラスコに化合物(14)(17.8g、0.054モル)、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.13g、0.005モル)、エタノール6.4cc、トルエン(200mL)を加え、これに、モレキュラーシーブ4A(20g)の入った等圧滴下漏斗をつけ、110℃で4時間撹拌、還流した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.78)、化合物(15)(16.7g)を得た。収率は80%であった。
【0163】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに、化合物(15)(16.7g、0.043モル)、水素化ナトリウム(60%オイル)(2.42g、0.0602モル)、脱水トルエン(200mL)を加え、発生するエタノールを留去しながら100℃で3時間撹拌した。
20%−塩化水素水溶液を加えて反応を停止させた後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.72)、化合物(16)(13.3g)を得た。収率は91%であった。
【0164】
[例1−4]化合物(17)の合成例
【化39】

【0165】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに、化合物(16)(13.3g、0.039モル)、塩化ナトリウム(3.19g、0.055モル)、水(1mL)、ジメチルスルホキシド100mLを加え、140℃で1晩撹拌した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.72)、化合物(17)(7.68g)を得た。収率は74%であった。
【0166】
化合物(17)の1HNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):1.53〜1.55(m、4H)、2.55〜2.65(m、4H)、7.25〜7.65(m、10H)。
【0167】
[例1−5]化合物(19)の合成例
【化40】

【0168】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに、マグネシウム(0.97g、0.040モル)、ヨウ素(0.1g)を加え、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン(6.48g、0.035モル)を脱水テトラヒドロフラン(50mL)に溶解させたものを、窒素気流下にて先ず2,3滴下し、ドライヤーで過熱した。反応が開始してヨウ素の着色が無色に変化した後、残りの溶液を30分要して滴下した。この際、反応温度が高くならないように、ゆっくりと滴下する。滴下終了後、室温で3時間撹拌し、グリニヤール試薬(18)を調製した。次に、この4つ口フラスコを0℃に冷却し、化合物(17)(7.68g、0.029モル)を脱水テトラヒドロフラン(100mL)に溶解させたものを、窒素気流下にて30分を要して滴下した。滴下終了後、70℃で3時間撹拌、還流した後、1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加えて反応を停止させた。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮し化合物(19)を含む混合物を得た。この段階ではこれ以上の精製を行わず、次の合成ステップに進んだ。
【0169】
[例1−6]化合物(20)の合成例
【化41】

【0170】
還流装置、撹拌機を装備した500mLのナス型フラスコに、[例1−5]で得た化合物(19)(重量未測定)、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.13g、0.005モル)、トルエン(200mL)を加え、これに、モレキュラーシーブ4A(20g)の入った等圧滴下漏斗をつけ、110℃で4時間撹拌、還流した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.89)、化合物(20)(7.23g)を得た。化合物(17)から化合物(20)までの収率は70%であった。
【0171】
[例1−7]化合物(21)の合成例
【化42】

【0172】
500mLの4つ口フラスコに、化合物(20)(7.23g、0.020モル)、テトラヒドロフラン(200mL)、10%パラジウム−活性炭素(1.6g)を添加した。0.4MPaの圧力で水素を導入しながら、室温で24時間撹拌した。反応終了後、濾過することによって触媒を除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=50/50(vol%)を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.68)、化合物(21)(7.13g)を得た。収率は98%であった。
【0173】
[例1−8]化合物(22)の合成例
【化43】

【0174】
500mLのナスフラスコに、化合物(21)(7.13g、0.020モル)、脱水ジクロロメタン(50mL)を加えた。ここに、一塩化ヨウ素(3.55g、0.022モル)を脱水ジクロロメタン50mLに溶解させたものを、ゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で3時間撹拌した。さらに、この反応液を、LAH(0.81g、0.022モル)のTHF溶液中へゆっくりと滴下した。数分攪拌後、20%−塩化水素水溶液を加えて反応を停止させた後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=30/70(vol%)を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.61)、化合物(22)(5.05g)を得た。収率は90%であった。
【0175】
[例1−9]化合物(24−1)の合成例
【化44】

【0176】
500mLの4つ口フラスコに、化合物(22)(5.05g、0.018モル)、塩化鉄(III)(3.19g、0.020モル)、脱水トルエン(200mL)を加えた。ここに、塩化水素ガスをバブリングしながら室温で30分攪拌した。これにより反応系中に前述した化合物(22−2)が生成する。この反応液をセライト濾過することによって触媒を除去し、濾液を濃縮した。これに脱水THFを50mL加えて窒素雰囲気下にて待機させた。
また別途、[例1−5]と同様の手法を用いて1−ブロモ−4−プロピルベンゼン(3.58g、0.018モル)から上記グリニヤール試薬(23−1)を発生させた。これに、上記待機させてあった活性化合物(22−2)のTHF溶液を室温でゆっくりと窒素気流下にて滴下した。滴下終了後、70℃で3時間撹拌、還流した。
水を加えて反応を停止させた後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=30/70(vol%)を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.57)、化合物(24−1)のシス−トランス混合物(3.47g)を得た。収率は60%であった。
シス体とトランス体は、略70%:30%(シス体:トランス体)の比率で存在しており、ヘキサンを用いて再結晶を行い、トランス体(24−1)すなわち化合物(1A−1−1)を2.00g得た。
【0177】
化合物(1A−1−1)の1HNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.85〜1.00(m、5H)、1.15〜1.35(d、2H)、1.50〜1.85(m、4H)、2.15〜2.25(d、2H)、2.45(t、1H)、2.60(t、2H)、3.72(s、3H)、4.38(t、1H)、6.80(dd、2H)、7.00〜7.32(m、4H)、7.45〜7.60(dd、2H)。
化合物(1A−1−1)の結晶相からネマチック相への相転移温度は48.0℃、ネマチック相から等方相への相転移温度は85.4℃であった。
【0178】
[合成例2]化合物(1A−3−1)の合成例(R22=プロピル基):
[例2−1]化合物(25−1)の合成例
【化45】

【0179】
500mLのナスフラスコに、化合物(24−1)(2.00g、0.0062モル)、脱水トルエンを加えた。これに、窒素雰囲気下にて、LiBH(sec−Cの1.0mol/L−THF溶液(アルドリッチ社製)60mLをゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温にて1週間攪拌した。
水を加えて反応を停止させた後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタンを展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、化合物(25−1)(0.96g)を得た。収率は50%であった。
【0180】
[例2−2]化合物(1A−3−1)の合成例
【化46】

【0181】
300mLの4つ口フラスコに、化合物(25−1)(0.96g、0.020モル)、テトラヒドロフラン(100mL)、トリエチルアミン(0.34g、0.0034モル)を加えた。これにアクリル酸クロリド(0.68g、0.0074モル)を窒素気流下で、内温が20℃を超えないように氷冷しながら、ゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で1晩攪拌した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=50/50(vol%)を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、更にヘキサンを用いて再結晶を行うことで、化合物(1A−3−1)(1.01g)を得た。収率は90%であった。
【0182】
化合物(1A−3−1)の1HNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.78〜1.00(m、6H)、1.18〜1.32(t、3H)、1.58〜1.90(m、4H)、2.10〜2.30(d、2H)、2.40〜2.70(m、3H)、4.38(t、1H)、5.90〜6.10(d、1H)、6.20〜6.40(m、1H)、6.45〜6.70(d、1H)、7.05(dd、2H)、7.19〜7.25(m、4H)、7.47〜7.49(dd、2H)。
化合物(1A−3−1)の結晶相からネマチック相への相転移温度は75.2℃、ネマチック相から等方相への相転移温度は117.6℃であった。
【0183】
[合成例3]化合物(1B−7−1)の合成例(R21=メチル基、R22=プロピル基):
[例3−1]化合物(31−3)の合成例
【化47】

【0184】
上記グリニヤール試薬(30−1)の前駆体は、前述のように、5−ブロモ−2−ヨードトルエンと4−プロピルフェニルボロン酸の鈴木カップリングにより準備した。この合成した前駆体(16g、0.065モル)を、前述[例1−5]と同様の方法を用いることでグリニヤール試薬(30−1)を発生させた。
一方で、化合物(22)(18.5g、0.066モル)から、前述[例1−9]の方法を用いて(22−2)を合成し、これの脱水THF溶液を準備した。
上記グリニヤール試薬(30−1)に、上記(22−2)の脱水THF溶液を、室温でゆっくりと窒素気流下にて滴下した。滴下終了後、70℃で3時間撹拌、還流した。
水を加えて反応を停止させた後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=30/70(vol%)を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い(Rf値0.54〜0.46)、化合物(31−1)のシス−トランス混合物(17.65g)を得た。収率は65%であった。シス体とトランス体は、略70%:30%(シス体:トランス体)の比率で存在しており、ヘキサンを用いて再結晶を行い、トランス体(31−1)すなわち化合物(1B−7−1)を10.77g得た。
【0185】
化合物(1B−7−1)の1HNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.85〜1.10(m、5H)、1.20〜1.38(d、2H)、1.50〜1.90(m、4H)、2.05〜2.30(m、5H)、2.50(t、1H)、2.62(t、2H)、3.80(s、3H)、4.40(t、1H)、6.80(dd、2H)、7.10〜7.30(m、7H)、7.40〜7.55(dd、2H)。
化合物(1B−7−1)の結晶相からネマチック相への相転移温度は68.0℃、ネマチック相から等方相への相転移温度は150.1℃であった。
【0186】
[合成例4]化合物(1B−31−1)の合成例(R22=プロピル基):
[例4−1]化合物(31−2)の合成例
【化48】

前記化合物(31−1)(10.77g、0.027モル)に対して、[例2−1]と同様の方法を用いて化合物(31−2)(6.23g)を得た。収率は60%であった。
【0187】
[例4−2]化合物(1B−31−1)の合成例
【化49】

【0188】
還流装置、撹拌機、滴下装置を装備した500mLの4つ口フラスコに化合物(31−2)(6.23g、0.0156モル)、CH2=CH−COO−(CH)−Br(4.39g、0.019モル)、炭酸カリウム(2.58g、0.019モル)、ヨウ化カリウム(0.4g)、アセトン(100mL)を加え、60℃で、24時間撹拌、還流した。
反応終了後、水および酢酸エチルを加えて分液し、有機層を回収した。回収した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、つぎに水洗し、再度有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濾過によって無水硫酸マグネシウムを除去し、濾液を濃縮した。得られた濾液を、ジクロロメタン/ヘキサン=30/70を展開液としたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、更にヘキサンを用いて再結晶を行い、化合物(1B−31−1)(5.18g)を得た。収率は60%であった。
【0189】
化合物(1B−31−1)の1HNMRスペクトルを以下に示す。
1HNMR(400MHz、溶媒:CDCl、内部標準:TMS)δ(ppm):0.83〜1.10(m、5H)、1.15〜1.38(d、2H)、1.39〜1.88(m、12H)、2.05〜2.35(m、5H)、2.45(t、1H)、2.60(t、2H)、3.94(t、2H)、4.17(t、2H)、4.40(t、1H)、5.80(d、1H)、6.02〜6.20(m、1H)、6.37(d、1H)、6.82(dd、2H)、7.10〜7.35(m、7H)、7.38〜7.50(dd、2H)。
化合物(1B−31−1)の結晶相からネマチック相への相転移温度は54.5℃、ネマチック相から等方相への相転移温度は105.6℃であった。
【0190】
実施例1〜4
[液晶化合物の物性]
表1に、合成例1〜4で得られた(1A−1−1)、(1A−3−1)、(1B−7−1)、(1B−31−1)の各化合物(以下、実施例1〜4とする。)と、実施例1〜4それぞれについて、トランス1,4−シクロヘキシレン基をケイ素原子で置換していないものに変更した比較化合物(比較例1〜4とする。)の初期融点、液晶相転移温度、Δn値の値を示す。
【0191】
表1に示す液晶相転移温度は、上記各化合物を配向膜付きセルに注入し、セル内の温度を降下させながら化合物の変化を偏光顕微鏡で観察し、相転移発生時の温度を測定することによって決定した。
なお、表1中の液晶相転移の値は、例えば、「C 30 N 77 I」の表記は、77℃で等方相からネマチック相に相転移(Tc)し、30℃でネマチック相から結晶相に相転移(Tm)したことを示す。なお、ネマチック相から結晶相への相転移温度(Tm)における「<29」の表記は、液晶化合物が室温で過冷却状態であり、融点が観測されない状態であったことを示す。
【0192】
(Δnの測定方法)
上記各液晶化合物を楔型セルに注入した。2枚の直交偏光子(クロスニコル)を持つ偏光顕微鏡によって楔型セルを観察し、干渉縞の間隔を観測してΔnを算出した。
測定時の温度は、それぞれ表1中に記載の温度で行い、測定波長は405nmで行った。
【0193】
【表1】

【0194】
表1より、本発明の実施例2〜4の化合物は、各々の比較化合物と比較して初期融点が低く、取り扱い性に優れることが確認できた。
また、配向膜付きセル中においても、本発明の化合物は、各比較化合物と比較して、融点が低いことが確認できた。従って、これら本発明の化合物は、液晶組成物の融点を下げる効果を得られることが分かる。
更に、化合物(1B−7−1)(実施例3)と、その比較化合物(比較例3)のΔn値を比較すると、本発明の化合物(1B−7−1)は、高いΔn値を有することが確認できた。
重合基を有する化合物のΔn値については、組成物としての実施例5において、以下に示す。
【0195】
実施例5および比較例5
[液晶組成物の調製および重合]
本発明の重合性化合物(1B−31−1)(実施例4)と、本発明の化合物以外の「その他の重合性液晶化合物」とを、表2に示す割合で混合した液晶組成物Aを得た(実施例5)。また、「その他の重合性液晶化合物」のみを表2に示す割合で混合した液晶組成物Bを得た(比較例5)。
なお、「その他の重合性液晶化合物」としては、下記化合物(3−1−1a)、(3−1−1c)、(3−2−1b)、(3−2−2b1)および(3−2−2b2)を使用した。
なお、表2に記載した割合は、液晶組成物を構成する全重合性液晶化合物に対する各重合性液晶化合物の割合(モル%)である。
【0196】
【化50】

【0197】
【表2】

【0198】
次に、液晶組成物AおよびBに重合開始剤(チバ・ジャパン株式会社製、商品名「イルガキュア」184)を0.5質量%、重合禁止剤(株式会社アデカ製、商品名「AO50」)を0.4質量%、光安定剤(株式会社アデカ製、商品名「Tinuvin123」)を1.5質量%添加して、液晶組成物A1およびB1を得た。
更に、液晶組成物A1およびB1を、以下に示す方法で重合して液晶組成物ポリマーA2およびB2を得た。
【0199】
まず、縦5cm、横5cm、厚さ0.5mmのガラス基板に、ポリイミド溶液をスピンコータで塗布して乾燥した。次いで、ナイロンクロスで一定方向にラビング処理して支持体を作製し、配向処理を施した面が向かい合うように、2枚の支持体を接着剤を用いて貼り合わせてセルを作製した。接着剤には直径6μmのガラスビーズを添加し、支持体の間隔が6μmになるように調整した。
次に、上記のセル内に、液晶組成物A1およびB1を90℃で注入し、引き続き40℃において、強度130mW/cmの紫外線を3分間照射して光重合を行った。これにより、液晶組成物ポリマーA2およびB2を得た。これらの重合物は、基板のラビング方向に対して水平配向しており、目視において散乱などは確認できなかった。
【0200】
表3に、液晶組成物A1およびB1についての、降温時の液晶相転移温度及び波長405nmにおけるモノマーΔn値と、液晶組成物ポリマーA2およびB2についての、波長405nmにおけるポリマーΔn値を示す。
なお、液晶相転移温度及びΔn値の測定は、実施例1〜4及び比較例1〜4のときと同様の方法によって行った。Δn値の測定時の温度は、モノマーのΔn値については表3中に記載の温度で行い、ポリマーのΔn値については室温で行った。
【0201】
【表3】

【0202】
表3より、本発明の化合物を含む液晶組成物A1及び液晶組成物ポリマーA2は、ケイ素原子を含まない従来の液晶組成物B1及び液晶組成物ポリマーB2と同等の、高いΔn値を有する液晶組成物であることが確認できた。
また、液晶相転移測定時において、液晶組成物A1、B1の両者とも、室温では過冷却液晶状態であった。これらのセルを長時間放置したところ、液晶組成物B1では、析出が確認された。従って、液晶組成物B1は、液晶組成物A1と比較して、結晶相への相転移点(融点)が高いことが確認できた。
【0203】
[液晶組成物の硬化膜の特性]
液晶組成物A1およびB1を、上記の手法により作成した配向膜付きの6μmセル、10μm、15μmのセルに注入し、光重合を行った。この時の透過率を図1に示す。図1において、横軸はRd値(リターデーション。Δn×膜厚。単位はnm。)を示し、縦軸は透過率を示す。
【0204】
図1より、本発明の化合物を含む液晶組成物A1を重合した膜は、Rd値が高い場合、即ち膜厚が大きい場合でも、光散乱が極めて少なく、透過率特性に優れることが確認できた。
【0205】
[硬化膜の青色耐光性]
液晶組成物A1およびB1を、上記手法により作成した配向膜付きの5μmセルに注入し、光重合を行って光学異方性膜A3およびB3を作成した。
この光学異方性膜(以下、硬化膜と示す。)A3およびB3に対し、Krレーザー(波長407nm、413nmのマルチモード)を照射し、青色レーザー光曝露加速試験を行った。照射条件は、温度80℃、積算曝露エネルギー20W・hour/mmとした。
青色レーザー光を積算曝露エネルギー20W・hour/mm曝露した後の透過率の変化量は、硬化膜A3ではマイナス1.6%、硬化膜B3ではマイナス4.4%であった。 以上より、本発明の化合物(1B−31−1)(実施例4)を含む液晶組成物は、融点が低く取り扱いに優れており、更に当該液晶組成物を用いて得られる光学異方性膜(硬化膜)は、高いΔn値が維持され、かつ透過率損失が極めて小さいことが確認された。また、当該光学異方性膜(硬化膜)は、耐光性にも優れていた。
【0206】
実施例6および比較例6
[コレステリック液晶組成物の調製および重合]
表4に示す割合で、本発明の重合性化合物(1B−31−1)(実施例4)と、その他の重合性液晶化合物とを混合した液晶組成物Cを得た(実施例6)。また、上記の「その他の重合性液晶化合物」のみを用いて液晶組成物Dを得た(比較例6)。
なお、表4に記載した割合は、液晶組成物を構成する全重合性液晶化合物に対する各重合性液晶化合物の割合(モル%)である。
【0207】
【表4】

【0208】
次に、前記と同様に、液晶組成物CおよびDに重合開始剤(チバ・ジャパン株式会社製、商品名「イルガキュア184」)を0.5質量%、重合禁止剤(株式会社アデカ製、商品名「AO50」)を0.4質量%、光安定剤(株式会社アデカ製、商品名「Tinuvin123」)を1.5質量%添加して、液晶組成物C1およびD1を得た。
更に、液晶組成物C1およびD1に、夫々、下記に示す重合性カイラルドーパント(4−1a)を添加して、コレステリック液晶組成物C4、D4を得た。液晶組成物C4およびD4に対するカイラルドーパント(4−1a)の添加量は、それぞれC4に対しては8.01質量%、D4に対しては9.60質量%とした。
【0209】
【化51】

【0210】
コレステリック液晶組成物C4、D4を、上記実施例5及び比較例5と同様の方法で重合した。ただし、重合に用いるセルとしては、膜厚15μmのものを用いて行った。これにより、コレステリック液晶組成物を重合して得た光学異方性膜である硬化膜C5、D5を得た。
なお、上記カイラルドーパント(4−1a)の添加量は、後述の硬化膜C5およびD5の選択反射帯の短波長端が、ともにほぼ469nmになるように予め調整したものである。これは、このような帯域に選択反射帯を調整した膜を用いて回折格子を作成すると、波長405nmにおいては左円偏光を透過/右円偏光を回折、波長660nmや波長785nmでは左右円偏光とも透過する、という特殊な光学素子を作製できるためである(前記特許文献3参照。)。
これらの重合物は、液晶メソゲンが基板のラビング方向に対して水平配向していた。また、硬化膜C5、D5ともにも右円偏光を反射していた。
【0211】
[コレステリック液晶組成物の硬化膜の特性]
図2及び図3に、硬化膜C5およびD5についての、一定波長域における光透過率のスペクトルを示す。ただし、図2及び図3に示す各スペクトルのうち、下側に大きく選択反射帯を有するスペクトルが右円偏光によるものであり、他方が左円偏光によるものである。
なお、光透過率のスペクトルの測定は、光源の先に設置した偏光子に、光源が発する無偏光の光を通して直線偏光を取り出し、この直線偏光を所定の角度でλ/4波長板に入射させて偏光変換(右円偏光化または左円偏光化)し、この偏光を試料に透過させて、得られた透過光を分光計で測定することにより行った。
【0212】
図2、図3で示される透過率スペクトルのうち、特に重要である、波長405nmにおける左円偏光透過率および右円偏光透過率の数値を、表5に抜粋して示す。
【0213】
【表5】

【0214】
表5より、本発明の化合物(1B−31−1)(実施例4)を含むコレステリック液晶組成物C1の硬化膜は、液晶組成物D1の硬化膜と比較して、左円偏光、右円偏光ともに透過率特性に優れていることが分かる。
【0215】
[コレステリック硬化膜の耐光性]
上記の硬化膜C5およびD5に対して、上記実施例5及び比較例5と同様の方法で青色レーザー光曝露加速試験を行った。照射条件は、温度80℃、積算曝露エネルギー15W・hour/mmとした。
青色レーザー光を積算曝露エネルギー15W・hour/mm曝露した後の透過率の変化量は、硬化膜C5、D5ともに±2%以内であった。
以上より、本発明の化合物を含むコレステリック液晶組成物は、透過率損失が極めて小さい光学異方性膜を得ることができる。更に、この光学異方性膜は、耐光性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物。
A−Ph−E−Ph−(Ph)−(E−B−R ・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
A:CH=CR−COO−(L)−又は
炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基。
ただし、アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよく、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキル基及びアルコキシ基はエーテル結合を含んでいてもよい。
:水素原子またはメチル基。
L:−(CHO−、−(CH− であり、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキレン基はエーテル結合を含んでいてもよい。(ただしpおよびqはそれぞれ独立に2〜8の整数。)。
k:0または1。
B:−CH−、−OCH−、−SiH−、又は−Si(CH−。
:炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のアルコキシ基。
ただし、アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよく、水素原子がフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、アルキル基及びアルコキシ基はエーテル結合を含んでいてもよい。
Ph:1,4−フェニレン基。(但し、環基のA側を1位とする。)
m、n:独立に0か1。
: トランス1,4−シクロヘキシレン基の4位炭素原子をケイ素原子で置換した下式に示す環基(但し、環基のA側を1位とする。):
【化52】

:トランス1,4−シクロヘキシレン基の1位炭素原子をケイ素原子で置換した下式に示す環基(但し、環基のA側を1位とする。):
【化53】

ただし、X、Xはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基。
また、式(1)中における1,4−フェニレン基は、その環基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
また、式(1)中におけるE及びEは、その環基中の炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子、塩素原子またはメチル基に置換されていてもよい。
【請求項2】
n=0である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
AがCH=CR−COO−(L)−である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
k=1である請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含有する液晶組成物。
【請求項6】
請求項3または4に記載の化合物を含有する重合性液晶組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の重合性液晶組成物に、重合性カイラル材料を含有してなる重合性コレステリック液晶組成物。
【請求項8】
請求項3または4に記載の化合物を含有する液晶組成物を重合してなる光学異方性材料。
【請求項9】
請求項8に記載の光学異方性材料を、一対の支持体間に挟持するか、または、一枚の支持体上に積層した構造を有する光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148746(P2011−148746A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12447(P2010−12447)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】