説明

靴下

【課題】土踏まずの引き上げ効果を発揮しつつ、さらに、歩行時に重要な足指のセンサ機能の発揮を助けることができるようにした靴下を提供すること。
【解決手段】踵部31に設けた衝撃緩和部と、少なくとも土踏まず部51に設けた弾性収縮部52と、爪先を包囲する爪先包囲部61とを有し、少なくとも、足裏部の厚み寸法よりも、前記爪先包囲部の厚み寸法を小さくすることにより、段差部62を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高齢者や歩行障害がある人等に好適な靴下の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
足を保護し、暖かく保つために、靴下は日常の生活において広く使用されている。
このような靴下は、足を包んで保護等をする機能を発揮するものであるが、最近では、さらに進んで、歩行において、体重を支え、歩行の動作を促進しつつ体の負担を軽減するために、土踏まずのアーチの形成を促進するために工夫された靴下が多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、土踏まず部を横切る領域と、踵骨上方を横切る領域に「高弾性領域」を形成し、過度の締付け感を感じることなく、土踏まずを引き上げることをねらいとするものである。
また、特許文献2に記載のものは、従来の土踏まずの部分の弓形形態である横足弓だけでなく、足全体の形態に係る縦足弓に沿って引き上げることにより、十分なアーチ形成効果を狙うものである。
【0004】
【特許文献1】特開2006−225833号公報
【特許文献2】特開2008−50744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1のものも特許文献2のものも、歩行運動の促進のために土踏まずを効果的に引き上げることを主目的とするものであり、その他の点、例えば、高齢者や歩行困難な軽い障害がある人などにとって、より必要とされる足指のセンサ機能の向上という点になんらの工夫もされていない。
【0006】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、土踏まずの引き上げ効果を発揮しつつ、さらに、歩行時に重要な足指のセンサ機能の発揮を助けることができるようにした靴下を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、本発明にあっては、踵部に設けた衝撃緩和部と、少なくとも土踏まず部に設けた弾性収縮部と、爪先を包囲する爪先包囲部とを有し、少なくとも、足裏部の厚み寸法よりも、前記爪先包囲部の厚み寸法を小さくすることにより、段差部を形成した靴下により、達成される。
【0008】
上記構成によれば、踵部には衝撃緩和部があるので、歩行に際して、ショックを和らげ、歩行者の足を適切に保護することができる。
土踏まず部には、弾性収縮部が設けられているので、装着者の土踏まずを引き上げる作用を発揮し、土踏まずのアーチを適切に形成することができる。
さらに、足裏部の厚み寸法よりも、前記爪先包囲部の厚み寸法を小さくすることにより、段差部を形成している。これにより、足指の関節付近から先が、厚みの薄い爪先包囲部に包まれることから、足指が足裏部より下がり、足指で床面などの感触を良好に感じ取ることができ、足指のセンサ機能を有効に発揮させることができる。しかも、足指の動きが厚い布地に包まれている場合と比べると自由になり、歩行の際に各指が当接する箇所をしっかりと保持することができる。
つまり、床面などへの指掛かりを良好とし、足指でしっかりと踏ん張ることができるので、歩行が安定する。
【0009】
本発明は、好ましくは、前記足裏部が、足裏全体を保護するために、他の領域を形成する素材よりも厚みの厚い素材で形成されており、該足裏部と、前記爪先包囲部との境界に前記段差部が形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、足裏を厚い布地で保護しつつ、足指の動きを自由にして、安定した歩行を実現することができる。
【0010】
本発明は、好ましくは、前記弾性収縮部は、前記土踏まず部に周設され、周方向の収縮力を作用させる周設伸縮素材と、その周設領域内でより足裏側に近接して設けられ、より弾性収縮力の強い素材でより部分的に収縮力を作用させる強弾性収縮部とを有する二重弾性収縮部としたことを特徴とする。
上記構成によれば、前記周設収縮部材の収縮作用により土踏まずのアーチ形成を促すことができる。この場合、前記強弾性収縮部がより強い収縮力を土踏まずのアーチ部分に作用させるようにしているので、足の甲部分に働く収縮部をそれほど強くする必要がない。このため、足裏側では、強弾性収縮部の機能で確実にアーチ部分を引き上げることができるだけでなく、足の甲の部分では、収縮力はそれほど強くないので、長時間装着しても快適に装着することができる。
【0011】
本発明は、好ましくは、履き口部は、径寸法が収縮しないフレア構造とされていることを特徴とする。
上記構成により、履き口部へ足を挿入することが非常に楽であり、履きやすい。
【0012】
本発明は、好ましくは、前記踵部と反対側の屈曲箇所は、横畝を形成したすかし編構造とされていることを特徴とする。
上記構成により、装着状態で、すかし編構造部分により足首関節の動きを容易にし、この点においても歩行等の動作を容易とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、土踏まずの引き上げ効果を発揮しつつ、さらに、歩行時に重要な足指のセンサ機能の発揮を助けることができるようにした靴下を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の好適な実施形態を添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る靴下の概略正面図、図2は図1の符号Pの部分の拡大概略断面図、図3は、歩行時における靴下の部分断面図、図4は足裏と靴下の関係を示す図である。
本実施形態の靴下10は、高齢者や足自体もしくは歩行に関連した運動障害などがある人に好適に使用されるもので、足の力の衰え等を防ぎ、軽快な歩行を促進するようにしたものである。
【0016】
図1において靴下10は、履き口部に唯一の開口を有し、全体として伸縮性を備えた袋体でなり、全体として綿と化繊の混紡糸を用いて編み込みにより形成されるものである。この実施形態では、例えば、足首部21や足甲部71などは、ポリエステル50パーセント、綿50パーセントの混紡糸と、ポリエステル93パーセント、ポリウレタン7パーセントの混紡糸とで形成されている。
また、図1、図2において、靴下10は、踵部31に設けた衝撃緩和領域Cと、土踏まず部51に設けた弾性収縮部52と、爪先を包囲する爪先包囲部61とを有し、さらに、少なくとも、足裏部41の厚み寸法よりも、爪先包囲部61の厚み寸法を小さくすることにより、段差部62を形成したものである。
【0017】
靴下10の履き口部22は、開口となっている開口端部24よりもやや足首側に収縮性ゴム糸を周方向に編み込んだ口ゴム部Hが形成されている。
口ゴム部Hは、弱い収縮力のものを使用することが好ましい。その方が、靴下10を履き易く、装着者の負担が軽い。
靴下10の開口端部24は、ゴムなどを挿入しないフレア部Iとされている。
すなわち、開口端部24はゴムなどで開口径が縮んでいないので、装着の際に、足を挿入しやすいものである。
【0018】
踵部31と、足裏部41は、平織り生地などと比較して、厚みを厚くした素材により形成されており、この実施形態では、パイル生地を用いて形成された衝撃吸収部とされている。特に踵部31の領域Cは厚いパイル生地により、踵にくわえられる外力を吸収するようにされている。
また、足裏部41の領域Aについても厚いパイル生地とすることで、歩行の際の接地の衝撃などを緩和することが可能である。なお、本稿では、「足裏部」とは、足裏と当接する領域で、踵部31と、土踏まず部51および爪先包囲部61を除く領域とする。
ここで、領域Aや領域Cに用いるパイル地の厚みは、約3.5mmないし5.0mm程度である。
これに対して、爪先包囲部(後述)61の素材の厚みは約0.5mmないし1.0mm程度であり、したがって、段差部62の高さ寸法は、約3.0mmないし4.0mm程度である。
【0019】
土踏まず部51は、足裏側の長さ方向に関して、ほぼ中間付近において上方にゆるい弧状となった人の土踏まずの形状に沿うように、アーチを形成するように作用する。
すなわち、土踏まず部51には、弾性収縮部52が形成されている。弾性収縮部52は、例えば、収縮性のゴム糸挿入編組織を周設、すなわち、周方向に連続するようにして輪状に形成した周設伸縮素材Eにより形成されている。
【0020】
さらに、周設伸縮素材Eよりも強い伸縮力を持つゴム糸を挿入した素材Gなどを用いた強弾性収縮部53が、弾性収縮部52内の足裏側に形成されている。
これにより、土踏まず部51には二重の弾性収縮部が形成されている。
強弾性収縮部53は、素材Eに素材Gをぶっきり編みなどにより編みこんで形成されている。強弾性収縮部53は、好ましくは、土踏まず部51において、ほぼ過半の領域における両側部に形成され、例えば、図示するように、足裏側に向かって徐々に拡開する扇のような形態とされている。
【0021】
つまり、弾性収縮部52では、周設伸縮素材Eの機能により周方向に所定の引張り力を発揮して収縮し、土踏まずのアーチ形成を全体として促進する。ただし、その引張り力は足首部等より若干強くなる程度に抑えてあり、土踏まず形成のためには無用となる足の甲側への引張り力の作用を制限している。このために、弾性収縮部52の該引張り力は、例えば、1.5ないし2.5N(N=「ニュートン」、以下同じ。)とするのが好ましく、さらに好ましくは、2.0N程度とされている。これにより、高齢者がこの靴下10を装着した場合にも締付け過ぎてしまうことがないので、負担を軽減している。
これに対して、上記強弾性収縮部53は、主として足の高さ寸法のほぼ下半分程度の領域において、足裏側を高さ方向に沿って強く引き上げるように、引張り力を発揮し、足の甲側を締付け過ぎることなく、効果的に土踏まずのアーチ形成を促すことができる。
すなわち、強弾性収縮部の引張り力は弾性収縮部の引張り力の2倍以上とすることが好ましい。このため、例えば、強弾性収縮部53の引張り力は、4.0ないし7.0N程度とすることが好ましく、5.0ないし6.0N程度とすることがさらに好ましい。
【0022】
さらに、爪先領域Dには、例えば平織りの生地などをそのまま使用することにより、厚みの薄い爪先包囲部61が形成されている。爪先包囲部61は、主として足指を包む袋状の部分であり、足の骨の中足骨よりも先部分に対応するようにされている。
図2および図3に示すように、爪先包囲部61と足裏部41との間には、素材の厚み寸法に対応して、爪先側が低い段差部62が形成されている。
【0023】
次に、踵部31と反対側に位置する足首の屈曲箇所23について説明する。
この部分は図1の領域Fであり、この部分は伸縮素材で形成されているだけでなく、曲折機能に対応して、曲折容易となるように、曲折線の方向に沿った横畝が多数平行に形成されたすかし編み部とされている。
【0024】
本実施形態は以上のように構成されており、次のその作用を述べる。
本実施形態の靴下10は、踵部31と足裏部41は、パイル生地とされて厚い素材により形成された衝撃緩和部とされている。
これにより、歩行に際して、該衝撃緩和部がショックを和らげ、歩行者の足を適切に保護することができる。
【0025】
また、靴下10の土踏まず部51には、弾性収縮部52が設けられているので、装着者の土踏まずを引き上げる作用を発揮し、土踏まずのアーチを適切に形成することができる。
特に、この実施形態では、弾性収縮部52は、土踏まず部51に周設され、周方向の収縮力を作用させる周設伸縮素材Eと、これより強い収縮力を備える強弾性収縮部53とを有する二重弾性収縮部としている。
これにより、周設収縮素材Eの収縮作用により土踏まずのアーチ形成を促すことができる。この場合、強弾性収縮部53の素材Gがより強い収縮力を土踏まずのアーチ部分に作用させるようにしていて、土踏まず部の足の甲部側に働く収縮力(引張り力)は、それほど強くない。このため、長時間装着しても足の甲の部分に大きな負担がかかることがなく、快適に装着することができる。
【0026】
さらに、図2、図3、図4に示すように、本実施形態の靴下10では、該靴下10の足裏部41の厚み寸法よりも、爪先包囲部61の厚み寸法を小さくすることにより、段差部62を形成している。
これにより、足指Yの関節付近から先が、厚みの薄い爪先包囲部61に包まれることから、足指Yが足裏部より僅かに下がり、足指Yで床面Uなどの感触を良好に感じ取ることができ、足指Yのセンサ機能を有効に発揮させることができる。しかも、足指Yの動きが厚い布地に包まれている場合と比べると自由になり、歩行の際に各指が当接する箇所をしっかりと保持することができる。
このようにして、本実施形態の靴下10によれば、床面Uなどへの指掛かりを良好とし、足指Yでしっかりと踏ん張ることができるので、歩行が安定する。
【0027】
さらに、図1において、靴下10の履き口部22は、径寸法が収縮しないフレア構造とされている
すなわち、開口端部24はゴムなどでその開口径が縮んでおらず、むしろ口ゴム部Hよりは拡がっているので、装着の際に、足を挿入しやすいという利点がある。
さらに、靴下10の踵部31と反対側の屈曲箇所23は、横畝を形成したすかし編構造とされている。
このため、装着状態で、該すかし編構造部分により足首関節の動きを容易にし、この点においても歩行等の動作を容易とすることができる。
【0028】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
靴下10は図1で説明したよりもより多くの領域に分割して、異なる素材もしくは編み方により形成されてもよい。
靴下10は図1のものより長い形態、すなわち、ハイソックス等の形態で実施されてもよい。
弾性収縮部52は、図1で説明した形態よりも、さらに細かく区分して弾性収縮力もしくは引張り力を変えても良く、編み方の異なる領域を増やしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る靴下の概略正面図。
【図2】図1の符号Pの部分の拡大概略断面図。
【図3】歩行時における靴下の部分断面図。
【図4】足裏と靴下の関係を示す図。
【符号の説明】
【0030】
10・・・靴下、22・・・履き口部、31・・・踵部、41・・・足裏部、51・・・土踏まず部、52・・・弾性収縮部、61・・・爪先包囲部、62・・・段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵部に設けた衝撃緩和部と、
少なくとも土踏まず部に設けた弾性収縮部と、
爪先を包囲する爪先包囲部と
を有し、
少なくとも、足裏部の厚み寸法よりも、前記爪先包囲部の厚み寸法を小さくすることにより、段差部を形成した
ことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記足裏部は、他の領域を形成する素材よりも厚みの厚い素材で形成されており、該足裏部と、前記爪先包囲部との境界に前記段差部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記弾性収縮部は、前記土踏まず部に周設され、周方向の収縮力を作用させる周設伸縮素材と、その周設領域内でより足裏側に近接して設けられ、より弾性収縮力の強い素材でより部分的に収縮力を作用させる強弾性収縮部とを有する二重弾性収縮部としたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の靴下。
【請求項4】
履き口部の端部は、径寸法が収縮しないフレア構造とされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の靴下。
【請求項5】
前記踵部と反対側の屈曲箇所は、横畝を形成したすかし編構造とされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の靴下。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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