説明

音像定位制御装置及び音像定位制御プログラム

【課題】聴取者に2チャネルのスピーカを通常位置より近接して配置する場合に、セリフの不明瞭さや過剰な残響音の付加をなくし、自然かつ豊かにサラウンド音を表現する。
【解決手段】スピーカ42FL、42FRが通常位置より聴取者41に近接して配置されている場合、入力信号解析手段1はマルチチャネルのオーディオ信号の入力レベルを所定時間ごとに検出し、パラメータ設定手段2は、今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定して後部残響音付加手段8を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場モードに応じた直接音、初期反射音及び後部残響音を生成する音像定位制御装置及び音像定位制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、AV(Audio/Video)アンプなどでは,再生音声信号をディジタル信号処理することにより、例えばあたかもコンサートホールで聞いているかのような音場を実現している。音場モードとしては、大ホールモード、小ホールモード、野外モードなどの各種のモードが知られている。このような音場を実現するには、例えば、古くは残響成分をリバーブ処理により付加したり、ホールの反射音状況をあらかじめ計算し、方向別の反射音をFIR(Finite Impulse Response)フィルタの係数として、各チャンネルの音声にフィルタ処理することにより音場感を演出しているものがある。
【0003】
実際には図10に示すように、元の音(直接音S0)に対して所定期間遅延された位置に初期反射音S1が加えられ、さらに所定期間後に後部残響音S2が加えられる。元の音に対する後部残響音S2の遅延時間はプリディレイと称され、残響時間や、副残響音の付加、細かなレベル調整などを行うことが可能で、幅広い音作りができる。また、スピーカの無いところから音が鳴っているように聞こえさせる方法として、いわゆる音像定位技術が確立している。例えば下記の特許文献1では、リアスピーカが無い場合に、左右一対のリアサラウンド信号のチャンネル毎に頭部伝達関数に基づいたフィルタ係数が設定されたコンボルバを有する音像定位手段を備え、この音像定位手段を介した左右一対のリアサラウンド信号を左右一対の前面ステレオ信号に加算し、受聴者に対し略左右対称な後方位置にそれぞれ音像定位させている。
【0004】
一方、ニアフィールドリスニングと呼ばれる試聴方法がある(例えば下記の非特許文献1)。これは視聴者と2チャネルのスピーカ間の距離を極端に短くし、スピーカを視聴者に近接して設置することで、小音量で再生・視聴を行うリスニング方式である。マルチチャンネルスピーカの配置についてはITU−RBS775−1で規定されているが、ニアフィールドリスニングには明確な規定はなく、例えば下記の非特許文献1では、ニアフィールドリスニングの距離の目安として、およそ自分の手のひらが左右のスピーカに届くくらいの距離、としている。2チャネルのスピーカを近接して設置しているため、収録されている音声そのものを聞く際にも、また音像定位処理を行った視聴においても、視聴部屋の反射などの影響を少なくすることができる、効果的な視聴方法である。
【特許文献1】特開平8−265899号公報(要約書)
【非特許文献1】stereo「無敵の小音量再生」(音楽乃友社)、2005年2月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニアフィールドリスニングで音像定位制御を行うとき、2チャネルのスピーカが近くにあることで音像定位処理を行っても距離感が出しにくく、距離感を出すために残響効果を付加する必要がある。残響効果を付加する際には、先に述べた初期反射音S1と後部残響音S2が用いられるが、マルチチャンネル音声を用いた音像定位では、こういった残響効果のほか、2個のスピーカにサラウンドを再現するための多くの情報が集まるため、音質の劣化や、残響過多によるセリフの不明瞭などが問題となる。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、聴取者に対して2チャネルのスピーカを通常位置より近接して配置してマルチチャネル信号を音像定位して再生する場合に、セリフの不明瞭さや過剰な残響音の付加を無くし、自然かつ豊かにサラウンド音を表現することができる音像定位制御装置及び音像定位制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、ステレオ再生を行うための左右のスピーカを通常の再生位置より視聴者に近接した位置に配置してマルチチャネルのオーディオ信号を再生するための音声定位制御装置であって、
前記マルチチャネルのオーディオ信号の入力レベルを所定時間毎に検出する入力レベル検出手段と、
前記入力レベル検出手段により検出された今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定する後部残響音制御手段とを、
有する。
【0008】
また、本発明は上記目的を達成するために、ステレオ再生を行うための左右のスピーカを通常の再生位置より視聴者に近接した位置に配置してマルチチャネルのオーディオ信号を再生するための音声定位制御プログラムであって、
前記マルチチャネルのオーディオ信号の入力レベルを所定時間ごとに検出する入力レベル検出ステップと、
前記入力レベル検出手段により検出された今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定する後部残響音制御ステップとを、
コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前方の2チャネルのスピーカが通常のステレオ再生位置より視聴者に近接した位置に配置してマルチチャネル信号を音像定位して再生する場合に、今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定するので、セリフの不明瞭さや過剰な残響音の付加を無くし、自然かつ豊かにサラウンド音を表現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明に係る音像定位制御装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。
【0011】
図1は一例として、5.1チャンネルサラウンド方式の各オーディオ信号である入力信号FLch、Cch、FRch、SLch、SRch、LFEchをFLch、FRch、LFEchの2.1チャンネルにダウンミックス(LFEchはスルー)して出力する装置を示している。5.1チャンネルサラウンド方式のスピーカシステムは、図2(a)に示すような位置で、視聴者41、ディスプレイ43に対して各チャネルのスピーカ42FL、42C、42FR、42SL、42SR、42LFEが配置される。また、2.1チャンネルの通常位置のスピーカシステムは、図2(b)に示すように前方のみのスピーカ42FL、42FR、42LFEが使用される(以下、通常位置)。それに対し、本発明におけるニアフィールドリスニング方式の2.1チャネルのスピーカシステムは、図3に示すように、スピーカ42FL、42FR、42LFEをディスプレイ43から離して視聴者41に近接して配置する(以下、ニア位置)。LFEchのスピーカ42LFE(サブウーハ)の配置位置は任意であるが、より小音量で利用するために、図3では視聴者41に近接して配置している。
【0012】
図1において、DVDプレイヤ(不図示)などから再生されて入力端子12を介して入力した前記の5.1チャンネルのオーディオ信号のうち、LFEchを除く5チャンネルのオーディオ信号は、入力解析手段1を経由して伝達特性付加手段5に印加される。LFEchのオーディオ信号は、伝達特性付加手段5、加算手段9、クロストークキャンセル手段11を経由することなく振幅増幅手段11を介して、スピーカシステム13を構成するLFEchのスピーカ42LFEに印加される。
【0013】
伝達特性付加手段5は、図10に示す直接音S0、初期反射音S1、後部残響音S2をそれぞれ処理する直接音処理手段6、初期反射音処理手段7、後部残響音処理手段8を有する。パラメータ情報保持手段3には、LFEchを除く5チャンネルのオーディオ信号に対して、図10に示す直接音S0、初期反射音S1、後部残響音S2を各種の音場モードに応じた音場を生成するためのパラメータ(ゲイン、遅延時間)が保持されている。スピーカ位置/音場モード設定手段4により、ある音場モードが設定されると、その設定された音場モードに応じたパラメータがパラメータ情報保持手段3から読み出されてパラメータ設定手段2により直接音処理手段6、初期反射音処理手段7、残響音処理手段8に設定される。
【0014】
直接音処理手段6、初期反射音処理手段7、残響音処理手段8により処理された5チャンネルのオーディオ信号は、加算手段9によりFLch、FRchの2チャンネルにダウンミックスされる。次いで、この2チャンネルのオーディオ信号は、クロストークキャンセル処理手段10によりクロストークがキャンセルされた後、振幅増幅手段11を介して、スピーカシステム13を構成するFLch、FRchのスピーカ42FL、42FRに印加される。
【0015】
上記構成において、スピーカ位置/音場モード設定手段4により図2(b)に示す「通常位置」が設定されている場合、スピーカ位置/音場モード設定手段4により設定された音場モードに応じたパラメータとして、「通常位置」で再生した場合に各チャネルの仮想音源がその方向から聞こえるような直接音S0のゲインG0及び遅延時間D0と、初期反射音S1のゲインG1及び遅延時間D1と、後部残響音S2のゲインG2及び遅延時間D3がパラメータ情報保持手段3から読み出されて、パラメータ設定手段2によりそれぞれ直接音処理手段6、初期反射音処理手段7、残響音処理手段8に設定される。他方、スピーカ位置/音場モード設定手段4により図3に示す「ニア位置」が設定されている場合、直接音処理手段6、初期反射音処理手段7には、「ニア位置」で再生した場合に各チャネルの仮想音源がその方向から聞こえるような直接音S0のゲインG0及び遅延時間D0と、初期反射音のゲインG1及び遅延時間D1がパラメータ情報保持手段3から読み出されてパラメータ設定手段2により設定されるが、残響音処理手段8には以下のようにゲインG2’及び遅延時間D2’が設定される。
【0016】
「ニア位置」が設定されている場合、5チャンネルのオーディオ信号が入力解析手段1に入力され、チャンネルごとに入力レベルLの解析を行う。入力解析手段1から出力された結果は、パラメータ設定手段2に渡される。入力信号解析からパラメータ設定への流れを示すフローチャートを図4に示す。まずオーディオ信号が入力されると、一定のサンプル数を1フレームとして、現フレームfでの全チャンネル入力信号の最大レベルLmax(f)を検出する(ステップ101)。
【0017】
本発明では、「ニア位置」が設定されている場合、全チャンネル入力信号の最大レベルLmaxを元に後部残響音S2のパラメータ(遅延時間D2’、ゲインG2’)を設定する。ここで、連続するフレームで最大レベルLmaxの差Δが大きいと、急激に後部残響音S2の変化が起きるため不自然さを感じてしまう。そこで、前フレームとの最大レベル差を比較する。ステップ102では、現フレームfの最大レベルLmax(f)と前フレームf−1との最大レベルLmax(f-1)の差Δ(=Lmax(f)−Lmax(f-1))を基準値THと比較する。ここでの基準値THは、スピーカ位置設定/音場モード設定手段4により設定されたスピーカ位置(通常位置/ニア位置)と音場モード(大ホール、小ホールなど)により決定され、「ニア位置」が設定されている場合、急激な後部残響音S2の変化が起きない値にあらかじめ設定されている。
【0018】
ステップ102において前フレームとの最大レベル差Δが基準値THより小さい場合は、その最大レベルLmax(f)を取得し、この最大レベルLmax(f)に最適な、後部残響音S2のパラメータD2’、G2’を設定する(ステップ103)。他方、ステップ102において前フレームとの最大レベル差Δが基準値THより大きい場合、すなわち、
Lmax(f)−Lmax(f-1)>TH
である場合には、現フレームの最大レベルLmax(f)と前フレームの最大レベルLmax(f-1)とのスムージング処理を行う(ステップ104)。スムージング処理では、例えば
Lmax(f)‘−Lmax(f-1)=TH
とし、次いで、このスムージング処理された後の最大レベルLmax(f)‘に最適な、後部残響音S2のパラメータD2’、G2’を設定する(ステップ103)。これにより、「ニア位置」では前フレームとの最大レベル差Δが基準値THより大きい場合、Lmax(f)‘(<Lmax(f))により、後部残響音S2のゲインG2’を小さくしたり、遅延時間D2’を短くする。そして、後部残響音S2のパラメータD2’、G2’の設定を1フレームごとに行う(ステップ105)。
【0019】
また、「ニア位置」が設定されている場合に例えば全体的に静かなシーンであるとき、つまり最大レベルLmaxが低いときは、過多な後部残響音S2が付加されることを防ぐため、後部残響音S2のゲインG2’を抑え目にし、遅延時間D2’を短く設定することで、シーンに応じた音場感を得ることができる。
【0020】
ここで、音場を再現するための伝達特性Tは、5チャンネルの各々から視聴者の左耳、及び右耳への計10本の伝達特性が必要であり、さらにそのそれぞれが直接音S0、初期反射音S1、後部残響音S2に分けられる。ここでは、後部残響音S2には図5に示すように、遅延器(遅延時間τ1、τ2、τ3、τ4、τ5、τ6)と増幅器(ゲインG21、G22、G23、G24、G25、G26、G27、G28)により、くし型フィルタ21、22、23、24が4段、全域通過フィルタ25、26が2段で構成された残響音処理手段8を用いている。パラメータ設定手段2では、入力信号解析手段1で解析されたレベルを元に後部残響音S2を生成するためのパラメータとして、例えば図5における遅延パラメータ(τ1〜τ6)とゲインパラメータ(G21〜G28)などを残響音処理手段8に設定する。音場モード設定手段4では、選択された音場モードに応じて、パラメータ情報保持手段3から直接音S0のゲインG0及び遅延時間D0と、初期反射音のゲインG1及び遅延時間D1と、後部残響音S2のゲインG2及び遅延時間D2を読み出して伝達特性付加手段5へ渡す。また、図5ではくし型フィルタ4段、全域通過フィルタ2段の構成を示してあるが、音場モードに合わせて、くし形フィルタを2段にするなどの設定を行っても良い。
【0021】
ここで、伝達特性付加手段5は、直接音処理手段6、初期反射音処理手段7及び残響音付加手段8に分けられるが、直接音処理手段6では、伝達特性Tのうち音源からどこにも反射せず視聴者の耳まで到達する直接音S0と呼ばれる成分についての処理を行う。ここでは直接音S0の成分は、音質を重視するため、無響室などの反射の少ない部屋で測定されたものが適しており、あらかじめ直接音処理手段6内に複数のデータを保持している。処理に利用するデータは、選択された音場モードに合わせてパラメータ情報保持手段3よりデータが選ばれ、ゲインG0及び遅延値D0が決定される。
【0022】
また、初期反射音処理手段7では、初期反射音S1と呼ばれる、音源から床を除いた壁や天井などに反射して視聴者の耳まで到達する最初の反射音であり、直接音S0から100ms以内に到達する成分についての処理を行う。初期反射音S1は直接音S0とは異なり、反射を利用するものであるので、ある程度の反射のある部屋で測定された伝達特性から、直接音成分S0を取り除いたものを利用する。直接音処理手段6と同様に、あらかじめ初期反射音処理手段7内に複数のデータを保持しており、処理に利用するデータは選択された音場モードにあわせたパラメータ情報保持手段3よりデータが選ばれ、ゲインG1及び遅延値D1が決定される。
【0023】
設定された音場を再現するための空間情報を伝達特性付加手段5によって付加された5チャンネルのオーディオ信号は、2チャンネル再生により音像定位を行うため、視聴者の左耳及び右耳への信号として加算器9によりそれぞれ加算され、次いで、クロストークキャンセル処理手段10によってクロストークキャンセル処理される。クロストークキャンセル処理とは、2チャンネルスピ−カによって、実音源とは別の場所にあたかも音源があるかの如く音像を定位させる手法である。音源Xを所望の位置に定位させたい場合には、あらかじめ実頭やダミ−ヘッドで測定した頭部伝達関数(HRTF)をFIRデジタルフィルタの係数とし、音源Xの信号に畳み込み演算処理をする。スピーカにより再生音声を聞く場合には、右チャンネルのスピーカから受聴者の左耳に届く再生音声の成分と、左チャンネルのスピーカから受聴者の右耳に届く再生音声の成分が無視できない程度に必ず存在する。このため、2スピーカ再生により三次元的な音場を適正に得るためには、左右の各チャンネルの音響信号からクロストーク成分を除去し、これにより、あたかも受聴者に対してはクロストークの無い音声が左右の各スピーカから届いているように聞かせることが必要である。これがクロストークキャンセル処理である。
【0024】
図6はその一例で、最も基本的なクロストークキャンセル処理の原理図である。図中のhLL(t)、hLR(t)、hRL(t)、hRR(t)は、2つのスピーカ(図のl(t)、r(t))と左右の耳(図のpl(t),pr(t))との関係から成り立つ頭部伝達関数であり、
d(t)=1/((hLL(t)×hRR(t)−hRL(t)×hLR(t))
である。これにより、図中の関係が成り立つ耳の位置(制御点、と呼ぶ)で、左耳にはLch信号、右耳にはRch信号が再現される。ニアフィールドシステムでは、2つのスピーカを視聴者に近接して設置するため、2つのスピーカと左右の耳との関係から成り立つ頭部伝達関数に、再生システムにあわせた位置で測定した頭部伝達関数を利用する。ここで、pl(t),pr(t)はすでに伝達特性を付加され、2チャンネルに加算された信号が入力されている。これにより、クロストークキャンセル処理されたオーディオ信号を振幅増幅手段11によって増幅し、2.1チャンネルのスピーカシステム13で再生すれば、5.1チャンネルサラウンドが再現できる。
【0025】
LFE信号は、上記した全ての処理を通さずサブウーハ(スピーカ42LFE)に利用されるが、図7に示すようにサブウーハを利用しないで2チャネルのスピーカ42FL、42FRのみを利用する場合、図8に示すようにアッテネータ14を通過した後、L、R信号に加算される。
【0026】
<第2の実施の形態>
前述した第1の実施の形態では、全チャンネルの最大レベルを検出する手法について述べた。第2の実施の形態として、センター信号のみ独立して設定する手法について説明する。図3、図7に示すように本発明のニアフィールドリスニング方式では、視聴者に近接してスピーカ42FL、42FRを設置するため、ディスプレイ43の映像とスピーカ42FL、42FR間の距離差が生まれてしまう。そのため、距離感を出すために初期反射音S1及び後部残響音S2が重要となる。しかし、入力オーディオ信号のうちセンター信号には、通常セリフが割り振られていることが多いため、初期反射音S1及び後部残響音S2が大きい場合、セリフの明瞭度が悪化したり、シーンに相応しくない響きが付いたりということが考えられる。そのため、セリフの明瞭度を上げるためセンタチャンネルに付加する後部残響音S2のゲインG2’及び遅延値D2’を、他の4チャンネルとは独立して設定することも考えられる。
【0027】
センターチャンネルを他の4チャンネルと独立する場合の、入力信号解析からパラメータ設定手段2への流れを示すフローチャートを図9に示す。「ニア位置」が設定されている場合、まず5チャネルのオーディオ信号が入力されると、一定のサンプル数を1フレームとして、1フレームでの各チャンネルの入力信号の最大レベルLmaxを検出する(ステップ111)。次にセンターチャンネルの最大レベルLmax(C)と、他の4チャンネルの最大レベルLmax(4)との比較を行う(ステップ112)。
【0028】
ステップ112において、センタチャンネルの最大レベルLmax(C)が、他の4チャンネルの最大レベルLmax(4)より大きかった場合は、センタチャンネルの最大レベルLmax(C)を利用し、現フレームfの最大レベルLmax(C,f)と前のフレームf−1の最大レベルLmax(C,f-1)との差Δが開きすぎないよう、この最大レベル差Δと基準値THを比較する(ステップ114)。最大レベル差Δが基準値THより小さい場合は、その現フレームの最大レベルLmax(C,f)を取得し(ステップ115)、取得した最大レベルLmax(C,f)に最適なパラメータ設定をパラメータ設定手段2により1フレームごとに行う(ステップ117)。ここでの基準値THも音場モードにより決定される。また、ステップ114において最大レベル差Δが基準値THより大きい場合は、例えば
Lmax(C,f)‘−Lmax(C,f-1)=TH
となるように、前フレームの最大レベルとのスムージング処理を行う(ステップ116)。そして、スムージング処理された後の最大レベルLmax(C,f)‘を取得し(ステップ115)、この最大レベルLmax(C,f)’に最適なパラメータ設定をパラメータ設定手段2により1フレームごとに行う(ステップ117)。
【0029】
ステップ112においてセンタチャンネルの最大レベルLmax(C)の方が、他の4チャンネルの最大レベルLmax(4)より小さかった場合は、センタチャンネルと他の4チャンネルとのレベル差
Δ=Lmax(4)−Lmax(C)
を取得し(ステップ113)。次いで、パラメータ設定手段2に引き割らす(ステップ117)。また、センタチャンネルの最大レベルLmax(C)の方が大きかった場合と同様に、4チャンネルの現フレームfと前フレームf−1との最大レベル差=Δ(f)−Δ(f-1)を比較する(ステップ114)。最大レベル差=Δ(f)−Δ(f-1)が基準値THより小さい場合は、そのフレームfの最大レベルLmax(4,f)を取得し(ステップ115)、その最大レベルLmax(4,f)に最適なパラメータ設定をパラメータ設定手段2により1フレームごとに行う(ステップ117)。
【0030】
パラメータ設定手段2は、入力信号解析手段1から渡された最大レベルLmax(4)と、センタチャンネルと他4チャンネルとのレベル差Δ=Lmax(4)−Lmax(C)を元に、後部残響音S2のパラメータ設定を行う。センタ信号のレベルが小さい場合、センタ信号の明瞭度が下がりセリフが聞き取りにくくなる現象が起こるが、他チャンネルとのレベル差Δを取得していることで後部残響音S2のバランスを考え、他のチャンネルも通常より抑えたゲイン設定を行うことにより、セリフの明瞭度を悪化させることなく、自然なサラウンド感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る音像定位制御装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】5.1チャンネルスピーカシステムと通常位置の2.1チャンネルスピーカシステムを示す構成図である。
【図3】2.1チャンネルスピーカシステムを視聴者に近接した構成図である。
【図4】本発明に係る処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1の後部残響音生成手段を示す構成図である。
【図6】図1のクロストークキャンセル処理を示す構成図である。
【図7】2チャンネルスピーカシステムを視聴者に近接した構成図である。
【図8】2チャンネルの音像定位制御装置を示すブロック図である。
【図9】第2の実施の形態の処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】直接音と、初期反射音と後部残響音を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 入力信号解析手段
2 パラメータ設定手段
3 パラメータ情報保持手段
4 スピーカ位置/音場モード設定手段
5 伝達特性付加手段
6 直接音処理手段
7 初期反射音処理手段
8 後部残響音付加手段
9 加算器
10 クロストークキャンセル処理手段
11 振幅増幅手段
41 視聴者
42FL、42FR スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオ再生を行うための左右のスピーカを通常の再生位置より視聴者に近接した位置に配置してマルチチャネルのオーディオ信号を再生するための音声定位制御装置であって、
前記マルチチャネルのオーディオ信号の入力レベルを所定時間毎に検出する入力レベル検出手段と、
前記入力レベル検出手段により検出された今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定する後部残響音制御手段とを、
有する音像定位制御装置。
【請求項2】
ステレオ再生を行うための左右のスピーカを通常の再生位置より視聴者に近接した位置に配置してマルチチャネルのオーディオ信号を再生するための音声定位制御プログラムであって、
前記マルチチャネルのオーディオ信号の入力レベルを所定時間毎に検出する入力レベル検出ステップと、
前記入力レベル検出手段により検出された今回の入力レベルが前回の入力レベルより所定値以上大きいか否かを判断し、大きくない場合に後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記今回の入力レベルに応じた値に設定し、大きい場合に前記後部残響音のゲイン及び/又は遅延時間を前記前回の入力レベルと所定値を加算したレベルに応じた値に設定する後部残響音制御ステップとを、
コンピュータに実行させる音像定位制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−311718(P2008−311718A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155056(P2007−155056)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】