説明

音圧感度設定装置、音圧感度設定方法、プログラム、記憶媒体

【課題】構造検討を切り離して目標とすべき音圧感度目標を設定できる音圧感度設定装置や音圧感度設定方法を提供すること。
【解決手段】音圧感度データDB22と、振動データDB21と、基準値DB23と、振動データDBから読み出した着力点に作用する実働入力の振動データと、音圧感度データDBから読み出した該着力点の音圧感度データから、着力点毎の音圧データを演算し、該音圧データの合計から車内音を算出する車内音算出手段24と、基準値を超える周波数の車内音に寄与する割合の大きい上位1以上の音圧データから、調整対象音圧感度データを抽出する音圧感度抽出手段26と、基準値を超える周波数における調整対象音圧感度データの値を低減する音圧感度調整手段28と、低減された調整対象音圧感度データを該着力点における音圧感度目標に設定する音圧感度設定手段30と、を有することを特徴とする音圧感度設定装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内音が基準を満たす車両構造の設計を支援する音圧感度設定装置等に関し、特に、車体の着力点の音圧感度と着力点に作用する実働時の振動とから車内音を算出する音圧感度設定装置、音圧感度設定方法、プログラム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
車室に侵入するエンジン音やロードノイズなどの車内音を可能な限り低減する、又は、少なくとも乗員が不快に感じない程度に低減するよう、車両の設計段階で車内音を評価する工程が組まれている。車内音は音響系と構造系の両者が関わっていることが知られており、音響系と構造系の両方の制約下で評価点の音圧がゼロになるための条件を計算する手法が考えられている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、音響系と構造系の固有値をそれぞれ1つずつ選んだ組み合わせから構造音響連成特性を評価する指標を設定してこの指標を最適化することで、少ない計算量で騒音を低減可能な最適構造を求める構造設計支援システムが開示されている。
【0003】
また、予め定めた車内音目標等級線以下に車内音が抑制されるように機械構造を設計する技術が考えられている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、車内音目標等級線以下の音響特性が得られるフィルタに伝達特性を考慮してその機械構造の近傍の音響特性を算出し、データベースからその音響特性に最も近いその構造物の諸元を読み出す設計方法が開示されている。この諸元に、目的の周波数特性を得られるよう構造パラメータの最適化を施すことで、最終的な車内音を車内音目標等級線以下に設定する。
【0004】
ところで、特許文献2に記載されている設計方法を用いるためには車内音目標等級線を決定しておかなければならないが、車内音目標等級線と比較される車内音は、実働時の振動による音圧の合計と考えられる。このため、車内音を評価する過程では、実働時に振動が作用する着力点毎に音圧感度目標を定めておき、音圧感度目標を満たすように車体部位の構造を設計する手法が取られることがある。図10は、この従来の音圧感度目標の設定を模式的に説明する図の一例である。
【特許文献1】特開2008−234589号公報
【特許文献2】特開2002−123261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音圧感度目標には絶対評価基準がないため、車両毎、評価項目(例えば、種々の振動)毎に異なる音圧感度目標の設定が必要である。このため現実には経験則や試行錯誤により音圧感度目標が設定される場合が多く、必要以上の音圧感度目標による過剰品質(重量、コスト)、又は、逆に必要以下の音圧感度目標による不具合が生じることが起こる。
【0006】
ここで、車両開発における音圧感度目標の設定にかかる工数は非常に多いということが知られている。例えば、実験やCAEを総合的に検討し、マス(所定の形状や重量があるが車両には直接必要ない振動調整部材)の配置や量を変えながら実験データを取得したり、試作車のない場合は異なる条件の計算モデル(構造設計)を数パターン投入して、適切な音圧感度目標を決定している。しかし、このように長期間の作業や多くの工数を経て設定した音圧感度目標が、実働する車両で車内音が評価された場合に、車内音目標等級線を達成しているとは限らない。
【0007】
このような問題が生じるのは、従来の音圧感度目標の設定方法が、マス等を配置しながら音圧感度目標を設定するという、構造設計と音圧感度目標の設定という2つの異なる作業を不可分に含んでいるためと考えられる。具体的には以下の2点の状況を作り出し、工数の増大をもたらす。
・複数の周波数で車内音が車内音目標等級線を超えた場合マスの追加等を施すが、これによるボディ特性変化が他の周波数へ影響を与えることがあるため、その影響の切り分けが困難になる。例えば、80Hzで音圧が音圧感度目標を超えたため、マス等を追加してボディ特性を変化させたが、今度は80Hz以外で音圧感度目標を超える場合がある。すなわち、マス等の追加(構造設計)が別の周波数で音圧感度目標の設定を必要とさせてしまう。
・複数部位にまたがった対策が必要な場合にそれぞれの部位の連成関係、位相関係への影響の切り分けが困難になる。例えば、ルーフとドアのそれぞれの音圧感度目標を設定しても、一方の設定により他方の音圧感度目標が不適当になることがあり、両者の音圧感度目標の設定を繰り返す必要が生じる。
【0008】
このように、構造設計と音圧感度目標の設定を並行に進める手法は、時間や情報処理資源等の設計資源を消耗することになってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、構造検討を切り離して目標とすべき音圧感度目標を設定できる音圧感度設定装置、音圧感度設定方法、プログラム及び記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、車体の複数の着力点に作用する周波数依存性をもった実働入力の振動データと、前記着力点における周波数依存性をもった音圧感度の音圧感度データと、から車内音を算出し、車内音が基準値を満たす音圧感度目標を決定する音圧感度設定装置であって、音圧感度データを記憶した音圧感度データDBと、振動データを記憶した振動データDBと、前記基準値を記憶した基準値DBと、前記振動データDBから読み出した前記着力点に作用する前記実働入力の振動データと、前記音圧感度データDBから読み出した該着力点の音圧感度データから、着力点毎の音圧データを演算し、該音圧データの合計から前記車内音を算出する車内音算出手段と、基準値を超える周波数の車内音に寄与する割合の大きい上位1以上の音圧データから、調整対象音圧感度データを抽出する音圧感度抽出手段と、基準値を超える周波数における調整対象音圧感度データの値を低減する音圧感度調整手段と、低減された調整対象音圧感度データを該着力点における音圧感度目標に設定する音圧感度設定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
構造検討を切り離して目標とすべき音圧感度目標を設定できる音圧感度設定装置、音圧感度設定方法、プログラム及び記憶媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
〔音圧感度目標の設定方法の概略〕
まず、本実施形態における音圧感度目標の設定方法について図1に基づき概略を説明する。本実施形態の音圧感度目標の設定方法は、着力点に対する実働時の振動と音圧感度の積の合計が車内音Sにほぼ等しくなるという前提を利用する。
【0014】
実働時の振動とは、実走行状態の車体の各着力点に作用する振動である。この振動をシミュレートしたデータを用いてもよい。実働時の振動Fは、図示するように例えば車体の各部位、エンジン、外濫等、車体に音や振動を生じさせる装置や現象により生じる。例えば、車体の各部位からこもり音やロードノイズが入力され、エンジンからはエンジン音が入力され、車体表面からは風切り音等が入力される。したがって、車体の各部位、エンジンであればエンジンの車載方法に応じた接続部、外濫であれば例えばドアミラーと車体の接続部、サスペンションであればストラットマウントと車体の接続部、サスペンションアームと車体の接続部等が、実働時の振動が入力される着力点となる。
【0015】
図2(a)は実働時の振動Fを模式的に説明する図の一例である。実働時の振動Fは広い周波数範囲に渡って分布する。エンジン等の装置やロードノイズ等に応じて、異なる振動が生じ、以下では着力点毎の実働時の振動Fを区別してF(i:1〜N)で表す。
【0016】
そして、車体側の各着力点は、入力される振動Fに対し音圧感度Pを有する。音圧感度Pは音の生じやすさを示す指標である(着力点を単点加振した際に発生する音圧(音圧感度))。音圧感度Pは、例えば着力点毎に異なると考えられので、着力点毎に音圧感度P(i:1〜N)を有する。図2(b)は音圧感度Pを模式的に説明する図の一例である。振動の伝達のしやすさは周波数に応じて異なるので、音圧感度Pは周波数に依存したものとなる。
【0017】
上記の前提によれば、車内音Sは音圧感度Pの着力点に実働時の振動Fが作用して生じる各音圧の合計であるので次式で現すことができる。
S=Σ(F×P) (i:1〜N) …(1)
そして、本実施形態の音圧感度目標の設定方法では、車内音Sが車内音目標等級線を満たすように音圧感度Pを調整する。すなわち、音圧感度Pが小さくなるように調整することで、実働時の振動Fの作用を低減できるので、車内音Sを予め定められた車内音目標等級線以下に収めることが可能となる。車内音Sが車内音目標等級線以下となった調整後の音圧感度P*iが設定された音圧感度目標である。
【0018】
従来技術では音圧感度目標を設定するためにマス等を配置したが、本実施形態では、構造設計を一切考慮せず(厳密には構造設計が可能な現実的な範囲で)、音圧感度Pを調整して音圧感度目標を設定するので、構造設計を切り離すことができる。音圧感度目標が設定されれば、音圧感度目標を満たすよう車体部位を設計すればよいので、従来のように音圧感度目標の設定と構造設計を繰り返す必要が生じない。また、現実的な範囲で音圧感度Pを調整しても車内音Sが車内音目標等級線以下とならない場合、実働時の振動Fを小さくするようサスペンション側やエンジン側の音に関わる構造を調整すればよいことが分かるので、車体側で調整するよう努力する構造設計の労力を低減して、構造設計の重要ポイントの把握が容易になる。
【0019】
〔構成〕
本実施形態の音圧感度目標の設定方法は、パーソナルコンピュータやサーバのような情報処理装置に好適に実装される。図3は、情報処理装置を実体とする音圧感度設定装置100の概略ハードウェア構成図の一例を示す。
【0020】
音圧感度設定装置100は、それぞれバスで相互に接続されているCPU11、RAM12、ROM13、記憶媒体装着部14、NIC(Network Interface Card)15、入力装置16、表示制御部17及びHDD(ハードディスクドライブ)18を有するように構成される。
【0021】
CPU11は、OS(Operating System)や各種のアプリケーションプログラム、音圧感度設定プログラム10をHDD18から読み出して実行する。RAM12はCPU11がOS等を実行する際に必要なデータを一時保管する作業メモリ(主記憶メモリ)になり、ROM13はBIOS(Basic Input Output System)やOSを起動するためのプログラム、設定ファイルを記憶している。
【0022】
NIC15は、ネットワークに接続するためのインターフェイス、例えばイーサネット(登録商標)カードであり、OSI(Open Systems Interconnection)基本参照モデルの物理層、データリンク層に規定されたプロトコルに従う処理を実行する。NIC15によりLAN、ルータ及びインターネットに接続しTCP/IP等のプロトコルで各種のサーバに接続できる。
【0023】
入力装置16は、キーボードやマウスなど、ユーザからの様々な操作指示を入力するためのユーザインターフェイスである。表示制御部17は、OS等が指示する画面情報に基づき所定の解像度や色数等で液晶パネルなどの表示装置19に描画する。例えば、GUI(Graphical User Interface)画面を形成し、操作に必要な各種ウィンドウ、車内音S等を表示装置19に表示する。
【0024】
記憶媒体装着部14は記憶媒体20が着脱可能に構成されており、記憶媒体20に記録された音圧感度設定プログラム10やデータを読み込みHDD18にインストールする際と、記憶媒体20にデータを書き込む際に使用される。なお、記憶媒体20は、SDカード、マルチメディアカード、xDカード等でもよいし、CD、DVD、ブルーレイディスク等でよい。また、HDD18は、不揮発メモリであればよくSSD(Solid State Drive)等のフラッシュメモリを実体としてもよい。
【0025】
〔音圧感度目標の設定の詳細〕
音圧感度目標の設定の詳細について、図4の音圧感度設定装置100の機能ブロック、及び、図5のフローチャート図を用いて詳細に説明する。
【0026】
音圧感度設定装置100は、振動データDB(Data Base)21、音圧感度データDB22及び車内音目標等級線DB23を例えばHDD18に実装している。これらをサーバから随時ダウンロードして利用してもよい。
【0027】
振動データDB21は実働時の振動Fの振動データを記憶したデータベースである(以下、振動Fと振動データを区別しない)。車内音Sには種々の要素が含まれるが、例えば車室に響くこもり音、ロードノイズ、エンジン音、風切り音等が代表的に知られている。これらには厳密な定義はないが、こもり音は、例えば20〜250Hzの低周波音で、「ボー」「ウォー」等,耳を圧迫するような音であり、80〜100Hzにピークを有することがある。また、エンジン音は、エンジン回転数に伴う音で回転数に応じた周波数成分を基本周波数としてその整数倍の倍音周波数の成分を合成した複合周期音である。したがって、倍音に対応する周波数毎にピークを有する波形となり、主に5000Hz以下を成分とする。ロードノイズは、路面、タイヤ、場合によってはサスペンションにより発生するランダム性の音であり,基本的にピークを示さないか示しても緩やかなピークを有する。主な成分は1000Hz以下である。風切り音は、車両が高速で走行することにより車体の表面付近に生じる乱流を要因とするランダム性の音である。主な周波数は500〜5000Hzである。
【0028】
このような振動Fの振動データは車体に関係なく共通であるので、実測したデータや演算して得られたデータを用意しておくことができる。すなわち、こもり音を生じさせる振動データ、エンジン音を生じさせる振動データ、ロードノイズを生じさせる振動データ、風切り音を生じさせる振動データは、実測されている。
【0029】
音圧感度データDB22は各音圧感度Pの音圧感度データを記憶したデータベースである(以下、音圧感度Pと音圧感度データを区別しない)。音圧感度Pは、車体又は車体部位が試作されていれば、その着力点を所定の打撃手段(例えばハンマーのようなもの)を所定の速度及び強さで打撃した際の音を集音することで検出できる。すなわち、感度が高ければ集音される音圧も大きくなるので、それをそのまま着力点の音圧感度データとしてもよいし、打撃手段の速度等の制御パラメータと集音された音圧の例えば比率等から音圧感度データを算出してもよい。打撃する着力点は、例えばエンジン支持点、ストラットマウント、フロアパネル、ルーフ、サスペンションアームが接続される車体メンバ等、多岐にわたり、これら着力点の1つ1つに音圧感度Pが設定される。
【0030】
また、車体や車体部位が試作されていない状態では、CAEにより演算した音圧感度Pを用いる。車体部位の材質、寸法、形状、支持条件等はある程度明らかになっているので、これに打撃手段が打撃した際の振動データを与えることで、音圧感度Pを演算することができる。
【0031】
また、音圧感度設定装置100は、車内音目標等級線DB23を有する。車内音目標等級線は、その車両で満たすべき車内音のレベルを規定した基準値である。人の聴覚は周波数に応じて感度、快・不快の感じ方が大きく異なるので、人間が周波数に関わらず一定程度の車内音Sに感じるように設定されている。したがって、後述するように車内音目標等級線は周波数に依存したものとなる。
【0032】
車両ごとに要求される(許容できる)車内音Sの大きさは異なるので、車内音目標等級線は車両毎に登録されている。また、車内音Sの種々の要素によって、人の聴覚の感じ方も異なる。このため、厳密には、車内音目標等級線は車室に響くこもり音やロードノイズ等毎に予め定められている。
【0033】
続いて、図5のフローチャート図に基づき音圧感度目標の設定手順を説明する。図5のフローチャート図に基づく処理は、ユーザが入力装置16で音圧感度設定プログラム10を実行し所定のボタンを操作するとスタートする。
【0034】
<S10>
まず、車内音算出部24は、車内音Sを算出する。式(1)から車内音Sは次のように表すことができる。
S=Σ(F×P) (i:1〜N)
=(F×P)+(F×P)+… +(F×P
車内音算出部24は、実働時の振動F、音圧感度Pをそれぞれ適当な間隔毎に読み出し、周波数の全域にわたって両者を乗じる。そしてそれらを加算する。
【0035】
ここで、(F×P)、(F×P)、…、(F×P)のそれぞれ(以下、音圧データという)は、後述のNG周波数における寄与度を決定するため、HDD18に記憶される。図6(a)(b)は音圧データ(F×P)を模式的に説明する図の一例である。図6(a)に示すように、実働時の振動Fが周波数Aでピークを有し、音圧感度Pが周波数Bでピークを有すれば、音圧データ(F×P)は周波数AとBでピークを有するようになる。一方、図6(b)に示すように、実働時の振動Fがピークを示す周波数Aと、音圧感度Pがピークを示す周波数A’とが近ければ、音圧データ(F×P)のピークは分離が困難となる。図6(b)のような音圧データ(F×P)の場合、仮に音圧感度Pを調整しても、実働時の振動Fによるピークが残ってしまうので、実働時の振動Fの低減を検討する方が合理的となる場合がある。
【0036】
<S20、S30>
ステップS10により図7(a)に示すような車内音Sが算出される。すると周波数抽出部25は、HDD18から車内音目標等級線を読み出し、車内音Sと車内音目標等級線とを比較する。図では、周波数C、Dの前後で車内音Sが車内音目標等級線を越えている(以下、周波数C,DをNG周波数という)ので、周波数抽出部25はNG周波数を抽出する。すなわち、NG周波数では車内音の音圧が大きすぎることを意味するので、本実施形態ではNG周波数の音圧感度を調整することで、車内音Sが車内音目標等級線以下となるようにする。
【0037】
なお、NG周波数がない場合(S20のNo)、HDD18に記憶されている音圧感度Pをそのまま音圧感度目標に設定する。
【0038】
<S40、S50>
次に、入力寄与上位音圧感度抽出部26は、NG周波数において車内音Sに寄与の大きい音圧データ(F×P)を抽出する。図7(b)に示すように、車内音Sは複数の音圧データ(F×P)の合計であるのでそれぞれが車内音Sに寄与しているが、音圧データ(F×P)は周波数に応じて変動するので、それぞれの寄与度が異なると考えられる。音圧感度目標を設定する上では、寄与度の大きい音圧感度を調整する方が効率的であり、数が少ない方が作業も容易である。
【0039】
そこで、入力寄与上位音圧感度抽出部26は、寄与度の大きい音圧データ(F×P)を上位数個、抽出する。例えば、上位の5個の音圧データ(F×P)又はNG周波数の車内音Sの上位20%〜50%程度を占める音圧データ(F×P)を抽出する。
【0040】
具体的には、入力寄与上位音圧感度抽出部26は、車内音Sを超えている周波数域c1〜c2、d1〜d2を決定し、各音圧データ(F×P)における周波数域c1〜c2、d1〜d2の間の平均やx軸と囲む面積を算出する。周波数域c1〜c2、d1〜d2毎に、例えば平均の値の大きい順に音圧データ(F×P)に順位を付け、上位数個を決定する。このような処理により例えば図7(b)に示すように、周波数域c1〜c2では音圧データ(F×P)を、周波数域d1〜d2では音圧データ(F×P)をそれぞれ決定することができる。ここでは説明を容易にするため、1つのNG周波数に1つだけ音圧データ(F×P)を抽出した。
【0041】
<S60>
寄与度の高い音圧データ(F×P)が抽出できれば音圧感度を調整すればよいが、ここで図6で示した実働時の振動Fのピークを考慮する必要がある。実働時の振動FがNG周波数にピークを有している場合、音圧感度Pを調整しても車内音Sの低減が困難になるからである。
【0042】
ところで、この判定には、実働時の振動Fがピークを有するか否かを判定する方法と、音圧感度Pがピークを有するか否かを判定する方法がある。いずれで判定してもよいが、音圧感度Pがピークを有していればそれを調整することで車内音Sの低減につながるため、本実施形態では、音圧感度Pがピークを有する場合は音圧感度Pを調整するものとする。
【0043】
このため、音圧感度ピーク判定部27は、ステップS50で決定した音圧データ(F×P)の音圧感度Pが周波数域c1〜c2においてピークを有するか否か、音圧データ(F×P)の音圧感度Pが周波数域d1〜d2においてピークを有するか否か、をそれぞれ判定する。ピークの有無は、例えば微分値により判定できる。音圧感度ピーク判定部27は、周波数域c1〜c2において正から負の方向に音圧感度Pを微分していき、微分値が正からゼロを経て負になるか否かに基づきピークの有無を判定する。同様に、周波数域d1〜d2において正から負の方向に音圧感度Pを微分していき、微分値が正からゼロを経て負になるか否かに基づきピークの有無を判定する。
【0044】
この判定の結果、音圧感度P、Pにピークがない場合(S60のNo)、周波数域c1〜c2又はd1〜d2では音圧感度P、Pよりも実働時の振動Fを低減した方が合理的であることが分かる(S90)。
【0045】
<S70>
音圧感度P、Pにピークがあった場合(S60のYes)、音圧感度調整部28は音圧感度P,Pを調整する。具体的には周波数c1〜c2において音圧感度Pを低減し、周波数d1〜d2において音圧感度Pを低減する。
【0046】
図8(a)は調整前の音圧感度Pと調整後の音圧感度P*を、図8(b)は調整前の音圧感度Pと調整後の音圧感度P*を、それぞれ示す図の一例である。調整により、音圧感度P*では周波数c1〜c2において略一定の値が設定されている。同様に、音圧感度P*では周波数d1〜d2において略一定の音圧感度が設定されている。
【0047】
このように音圧感度P、Pを数値的に低減すれば、例えば、NG周波数が2箇所あっても、音圧感度P、Pをそれぞれ低減するだけでよいので構造設計に立ち入る必要がない。また、音圧感度Pを低減するために複数の車体部位に跨って対策が必要でもこの段階では構造について考慮する必要がない。
【0048】
音圧感度調整部28は、このように元の音圧感度P、Pを低減するが、低減幅ΔPには次のような設定方法がある。
・ピークの値から予め定められた音圧だけ低減する。
・低減可能な最大量を、寄与度が大きいと決定された(F×P)の数で等分する。
・ピークの値が大きい音圧感度Pほど大きく低減する。
・ユーザが表示装置19の画面を見ながら操作する。
【0049】
低減可能な最大量とは、構造設計の観点から見積もることができ、例えば、1つの音圧感度Pを10デシベル低減することは現実には困難である。したがって、構造設計を切り離していても、現実的には数デシベルが低減可能な最大量となる。したがって、いずれの方法でもこの制約を受ける。
【0050】
<S80>
そして、音圧感度置き換え部29は、HDD18に記憶された元の音圧感度Pを周波数域c1〜c2の値が調整された音圧感度P*に置き換え、元の音圧感度Pを周波数域d1〜d2の値が調整された音圧感度P*に置き換える。こうすることで、NG周波数の車内音Sに寄与度の大きい音圧データ(F×P*)、(F×P*)に関し、これらの寄与度を低減できたことになる。なお、置き換えた後も初期の音圧感度P、PはHDD18に記憶されており、初期値に戻すことができる。
【0051】
<S10、S20>
ステップS10に戻り、車内音算出部24は調整後の音圧感度P*、P*を用いて再度、車内音Sを算出する。すなわち、以降はステップS10以下を繰り返す。
車内音S*=Σ(F×P) (i:1〜N)
=(F×P*)+(F×P*)+… +(F×P
周波数抽出部25は、HDD18から車内音目標等級線を読み出し、車内音S*と車内音目標等級線とを比較する。
図9は、車内音S*と車内音目標等級線の比較結果の一例を示す図である。音圧感度P*,P*により車内音S*が車内音目標等級線以下となっている。このような比較結果が得られれば、音圧感度P→P*、音圧感度P→P*、の置き換えが適切であったことが分かる。
【0052】
音圧感度目標設定部30は、音圧感度P*、P*を音圧感度目標に設定しHDD18に記憶する。こうすることで、構造設計に立ち入ることなく音圧感度目標を設定できたことになる。従来、音圧感度Pと構造設計は不可分であったが、音圧感度目標を先に設定することで、音圧感度目標を満たす構造設計だけの作業工程に入ることができる。
【0053】
なお、音圧感度目標設定部30は、元の音圧感度Pと調整した音圧感度P*を重畳し、差分を強調すると共に、最終的な低減幅ΔPの数値を表示装置19に表示する。これにより、車内音Sを車内音目標等級線以下とするために低減された音圧感度P、Pの低減量をユーザが把握することができる。
【0054】
また、音圧感度Pを調整しても車内音Sが車内音目標等級線以下とならない場合(S20のNo)は、所定のタイミングで処理を終了する。例えば、予め定めた所定回数のループが実行された場合、音圧感度Pを低減可能な最大量低減しても車内音Sが車内音目標等級線以下とならない場合、図6のフローチャート図は終了される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、構造設計に立ち入ることなく音圧感度目標を設定できる。構造設計と音圧感度目標を切り分けたので、音圧感度Pだけを数値的に調整して、車内音Sが車内音目標等級線を満たすように音圧感度目標を設定できる。また、音圧感度目標の設定では車内音目標等級線を満たすことができない場合は、実働時の振動Fを小さくするよう入力側の装置や現象について検討することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】音圧感度目標の設定方法の概略を説明する図の一例である。
【図2】実働時の振動F、音圧感度Pを模式的に説明する図の一例である。
【図3】情報処理装置を実体とする音圧感度設定装置の概略ハードウェア構成図の一例を示す。
【図4】音圧感度設定装置の機能ブロック図の一例を示す。
【図5】音圧感度目標の設定手順を示すフローチャート図の一例である。
【図6】(F×P)を模式的に説明する図の一例である。
【図7】車内音Sを模式的に説明する図の一例である。
【図8】調整の前後の音圧感度を示す図の一例である。
【図9】車内音S*と車内音目標等級線の比較結果の一例を示す図である。
【図10】従来の音圧感度目標の設定を模式的に説明する図の一例である。
【符号の説明】
【0057】
10 音圧感度設定プログラム
20 記憶媒体
21 振動データDB
22 音圧感度データDB
23 車内音目標等級線DB
24 車内音算出部
25 周波数抽出部
26 入力寄与上位音圧感度抽出部
27 音圧感度ピーク判定部
28 音圧感度調整部
29 音圧感度置き換え部
30 音圧感度目標設定部
100 音圧感度設定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の複数の着力点に作用する周波数依存性をもった実働入力の振動データと、前記着力点における周波数依存性をもった音圧感度の音圧感度データと、から車内音を算出し、車内音が基準値を満たす音圧感度目標を決定する音圧感度設定装置であって、
前記音圧感度データを記憶した音圧感度データDBと、前記振動データを記憶した振動データDBと、前記基準値を記憶した基準値DBと、
前記振動データDBから読み出した前記着力点に作用する前記実働入力の振動データと、前記音圧感度データDBから読み出した該着力点の音圧感度データから、着力点毎の音圧データを演算し、該音圧データの合計から前記車内音を算出する車内音算出手段と、
前記基準値を超える周波数の車内音に寄与する割合の大きい上位1以上の前記音圧データから、調整対象音圧感度データを抽出する音圧感度抽出手段と、
前記基準値を超える周波数における前記調整対象音圧感度データの値を低減する音圧感度調整手段と、
低減された前記調整対象音圧感度データを該着力点における前記音圧感度目標に設定する音圧感度設定手段と、
を有することを特徴とする音圧感度設定装置。
【請求項2】
前記音圧感度調整手段は、前記調整対象音圧感度データの低減量を予め定められた上限以下に制限する、
ことを特徴とする請求項1記載の音圧感度設定装置。
【請求項3】
前記音圧感度抽出手段が、前記基準値を超える1つの周波数について複数の前記調整対象音圧感度データを抽出した場合、
音圧感度調整手段は、複数の前記調整対象音圧感度データのそれぞれの値を低減する、
ことを特徴とする請求項2記載の音圧感度設定装置。
【請求項4】
音圧感度調整手段は、前記基準値を超える周波数における前記調整対象音圧感度データの値の大きさに応じて、低減量を調整する、
ことを特徴とする請求項3記載の音圧感度設定装置。
【請求項5】
低減された前記調整対象音圧感度データと前記振動データから算出された前記車内音が前記基準値以下となった場合、低減される前の前記音圧感度データと前記調整対象音圧感度データを比較して表示する表示手段を有する、
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の音圧感度設定装置。
【請求項6】
前記振動データは、こもり音、ロードノイズ又はエンジン音に起因するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の音圧感度設定装置。
【請求項7】
前記基準値を超える周波数における前記調整対象音圧感度データが極大値を有する場合のみ、前記音圧感度調整手段は、前記調整対象音圧感度データの値を低減する、
ことを特徴とする請求項1記載の音圧感度設定装置。
【請求項8】
車体の複数の着力点に作用する周波数依存性をもった実働入力の振動データと、前記着力点における周波数依存性をもった音圧感度の音圧感度データと、から車内音を算出し、車内音が基準値を満たす音圧感度目標を決定する音圧感度設定方法であって、
前記音圧感度データを記憶した音圧感度データDBから、前記音圧感度データを読み出すステップと、
前記振動データを記憶した振動データDBから、前記振動データを読み出すステップと、
前記着力点に作用する前記実働入力の振動データと、該着力点の音圧感度データから、着力点毎の音圧データを演算し、該音圧データの合計から前記車内音を算出するステップと、
前記基準値を超える周波数の車内音に寄与する割合の大きい上位1以上の前記音圧データから、調整対象音圧感度データを抽出するステップと、
前記基準値を超える周波数における前記調整対象音圧感度データの値を低減するステップと、
低減された前記調整対象音圧感度データを該着力点における前記音圧感度目標に設定するステップと、
を有することを特徴とする音圧感度設定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
車体の複数の着力点に作用する周波数依存性をもった実働入力の振動データを記憶した振動データDBから、前記振動データを読み出すステップと、
前記着力点における周波数依存性をもった音圧感度の音圧感度データを記憶した音圧感度データDBから、前記音圧感度データを読み出すステップと、
前記着力点に作用する前記実働入力の振動データと、該着力点の音圧感度データから、着力点毎の音圧データを演算し、該音圧データの合計から前記車内音を算出するステップと、
前記基準値を超える周波数の車内音に寄与する割合の大きい上位1以上の前記音圧データから、調整対象音圧感度データを抽出するステップと、
前記基準値を超える周波数における前記調整対象音圧感度データの値を低減するステップと、
低減された前記調整対象音圧感度データを該着力点における音圧感度目標に設定するステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−140172(P2010−140172A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314661(P2008−314661)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】