音圧空間微分検出センサ
【課題】 小型化が図れる音圧空間微分検出センサを提供する。
【解決手段】 それぞれ扁平な直方体形状であって厚さ方向を互いに揃えて長手方向を互いに直交させる向きで配置された2個の振動板1と、振動板1を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部20を各振動板1についてそれぞれ有するパッケージ2と、各振動板1に2個ずつ設けられそれぞれ振動板1の長手方向の中央部であって短手方向の一端ずつとパッケージ2の挟み部20との間に架設された支持体3と、各振動板1の長手方向の両端部の測定点A〜Dについてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段(図示せず)とを備える。1枚の振動板1につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【解決手段】 それぞれ扁平な直方体形状であって厚さ方向を互いに揃えて長手方向を互いに直交させる向きで配置された2個の振動板1と、振動板1を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部20を各振動板1についてそれぞれ有するパッケージ2と、各振動板1に2個ずつ設けられそれぞれ振動板1の長手方向の中央部であって短手方向の一端ずつとパッケージ2の挟み部20との間に架設された支持体3と、各振動板1の長手方向の両端部の測定点A〜Dについてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段(図示せず)とを備える。1枚の振動板1につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音圧空間微分検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数個の点でそれぞれ測定された音圧から得られた、所定の点(以下、「対象点」と呼ぶ。)における音圧と、対象点における音圧の2軸方向のそれぞれについての空間勾配(音圧空間微分)と、対象点における音圧の時間勾配(音圧時間微分)とを用いた時空間勾配法により、音源の定位や雑音の除去を行う技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0003】
また、音源に近いほど単位距離当りの音圧の減衰幅が大きいことを利用し、目標音源からの距離が互いの異なる2個の測定点でそれぞれ測定された音圧の差分をとることにより、目標音源よりも各測定点から離れた騒音源からの音を抑圧し、目標音源からの音が強調された音圧を得る技術(例えば、特許文献2〜4参照)も知られている。
【特許文献1】特開2006−58395号公報
【特許文献2】特開2007−221651号公報
【特許文献3】特開2008−131474号公報
【特許文献4】特開2008−154224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上記のような時空間勾配法には、上記2軸方向に2列ずつ並べて格子状に配列された計4個のマイクロホンからなる音圧空間微分検出センサが用いられていた。
【0005】
そして、上記のように音源の定位や雑音の除去を行う装置においては、精度の向上や小型化を可能とするために、音圧空間微分検出センサの構造についても研究されている。
【0006】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、小型化が図れる音圧空間微分検出センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、1枚の振動板につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0009】
請求項2の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各支持体に、引張りとねじれによって生じるひずみを検出するひずみ検出手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板が収納される空洞を備えたパッケージのカバーと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、各支持体においてそれぞれパッケージに連結された他端の幅寸法を振動板に連結された一端の幅寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされていることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、各支持体の厚さ寸法をそれぞれ振動板の厚さ寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかの発明において、各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、各支持体の材料のヤング率がそれぞれ振動板の材料のヤング率以上である場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかの発明において、振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられていることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、各振動板でそれぞれ厚さ方向に直交する2軸方向のうち長手方向に平行な一方ずつについての音圧空間微分が得られる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜3の発明によれば、それぞれ、1枚の振動板につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0020】
請求項4の発明によれば、各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされているので、各支持体においてそれぞれパッケージに連結された他端の幅寸法を振動板に連結された一端の幅寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0021】
請求項5の発明によれば、各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされているので、各支持体の厚さ寸法をそれぞれ振動板の厚さ寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0022】
請求項6の発明によれば、各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなるので、各支持体の材料のヤング率がそれぞれ振動板の材料のヤング率以上である場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0023】
請求項7の発明によれば、振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられているので、各振動板でそれぞれ厚さ方向に直交する2軸方向のうち長手方向に平行な一方ずつについての音圧空間微分が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
本実施形態は、図1に示すように、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状であって厚さ方向を互いに揃えて長手方向を互いに直交させる向きで配置された2個の振動板1と、振動板1を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部20を各振動板1についてそれぞれ有するパッケージ2と、各振動板1に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板1の厚さ方向に向けた扁平な直方体形状であって振動板1の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージ2の挟み部20に連結された支持体3とを備える。パッケージ2は、各振動板1の厚さ方向から見て各振動板1をそれぞれ囲む形状であって各挟み部20をそれぞれ構成するフレーム21と、フレーム21の前面(振動板1に対して音が入射する側の面)に固着されたカバー22を備える。カバー22は、振動板1に一対一に対応し振動板1に入射する音を通過させる2個の長方形状の音穴22aが貫設されている。ここで、音穴22aの寸法形状は振動板1の寸法形状になるべく近いものとし、前方から見て振動板1とフレーム21との間の隙間が音穴22aから露出しないようにすることが、図3に矢印で示すような振動板1の後方への音の回り込みを防ぐためには望ましい。上記のようなパッケージ2において、フレーム21と、各振動板1と、各支持体3とは、それぞれ、1枚の半導体ウェハーに周知の半導体プロセスを施すことで1個の部品として形成することができる。
【0026】
また、本実施形態は、各振動板1の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた測定点A〜Dについてそれぞれ厚さ方向の変位(以下、単に「変位」と呼ぶ。)を検出する変位検出手段(図示せず)を備える。変位検出手段としては、例えば、一方の電極が振動板1の測定点A〜Dに設けられるとともに他方の電極がパッケージ2において測定点A〜Dに対向する部位に設けられて振動部1の測定点A〜Dの変位に伴って静電容量が変化するコンデンサや、振動板1や支持体3に生じたひずみを検出(つまり電気信号に変換)する圧電素子を用いることができる。さらに具体的には例えば、図4(a)に示すように、ピエゾ抵抗4a〜4dを各支持体3の前後(すなわち厚さ方向)の両側の面に1個ずつ設けて支持体3のねじれによるせん断ひずみを検出してもよいし、図4(b)に示すように、各支持体3の前後一方の面(図では前面)にピエゾ抵抗4e〜4hを振動板1に対する支持体3の突出方向に並べて2個ずつ設けて支持体3の引張りによる垂直ひずみを検出してもよい。
【0027】
ところで、本実施形態における振動板1の振動は、図5(a)に示すように支持体3のねじれにより振動板1が回転するような振動(以下、「逆相振動」と呼ぶ。)と、図5(b)に示すような振動板1自体の弾性変形による振動(以下、「同相振動」と呼ぶ。)とが合成されたものである。逆相振動は振動板1の長手方向の中央に関して反対称な成分であり、同相振動は振動板1の長手方向の中央に関して対称な成分である。例えば、振動板1の長手方向の中央に関して対称な2点をそれぞれ測定点A,Bとし、測定点Aの変位をzAとおき、測定点Bの変位をzBとおくと、各測定点A,Bについて、変位zA,zBのうち同相振動による成分は(zA+zB)/2と表され、逆相振動による成分の大きさは|zA−zB|/2と表される。図4(a)のようなピエゾ抵抗4a〜4dの配置は逆相振動の検出に適し、図4(b)のようなピエゾ抵抗4e〜4hの配置は同相振動の検出に適している。そして、本実施形態は、図6に示すように、逆相振動の共振周波数である1次共振周波数f1と、同相振動の共振周波数である2次共振周波数f2との間の周波数帯(以下、単に「周波数帯域」と呼ぶ。)の音を検出することができる。つまり、周波数帯域を広くするために、1次共振周波数f1と2次共振周波数f2との差は大きいことが望ましい。
【0028】
ここで、2次共振周波数f2は、振動板1の形状及び振動板1の材料のヤング率に依存しており、支持体3の材質や形状の変更によってはほとんど変化しない。つまり、支持体3の材質や形状の変更により1次共振周波数f1を低くすれば、2次共振周波数f2と1次共振周波数f1との差が大きくなることにより、周波数帯域を広くすることができる。
【0029】
1次共振周波数f1は、支持体3の2本分のねじりばね定数(以下、単に「ねじりばね定数」と呼ぶ。)kと、振動板1の慣性モーメントIとを用いて、次式で表される。
【0030】
【数1】
すなわち、1次共振周波数f1を低くするには、ねじりばね定数kを小さくすればよい。ここで、図7に示すように、振動板1について、長さ寸法(長手方向の寸法)をL、幅寸法(短手方向の寸法)をW、厚さ寸法をHとおき、振動板1の材料の密度をρとおくと、上記の慣性モーメントIは、次式で表される。
【0031】
【数2】
さらに、図7に示すように、支持体3について、長さ寸法(振動板1に対する連結部と挟み部20に対する連結部との距離)をb、幅寸法(断面の長辺の長さ)をa、厚さ寸法(断面の短辺の長さ)をhとおくと、ねじりばね定数kは、支持体3の剛性率Gを用いて、次式で表される。
【0032】
【数3】
上式からもわかるように、支持体3のねじりばね定数kは、支持体3の断面の寸法a,hを小さくすることや、支持体3の材料の剛性率Gを小さくすることによって小さくすることができる。
【0033】
一方、振動板1を、それぞれ長さがL/2である2個の片持ち梁の固定端同士が連結されたものと見なすと、これらの片持ち梁の断面2次モーメントはそれぞれ(WH3/12)となる。さらに、振動板1のヤング率をEmとおくと、2次共振周波数f2は次式で表される。
【0034】
【数4】
ただし、上記の式では振動板1と支持体3との連結部の面積による影響を無視しているが、振動板1と支持体3との連結部の面積が大きくなれば支持体3の連結部付近で振動板1が撓みにくくなることにより2次共振周波数f2は高くなる。
【0035】
ねじりばね定数kを小さくして1次共振周波数f1を低くし周波数帯域を広くするために、支持体3の幅寸法aを小さくすることを考えた場合、上記のように振動板1と支持体3との連結部の面積が小さくなれば振動板1に対する拘束が弱まることで2次共振周波数f2が低くなってしまう。そこで、2次共振周波数f2の低下を抑えつつ1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くするために、図8(a)〜(c)に示すように、支持体3において、パッケージ2の挟み部20に対する連結部の幅寸法a1を、振動板1に対する連結部の幅寸法a2よりも小さくすることが望ましい。この場合、支持体3は直方体形状とはならないが、支持体3の長さ方向に直交する断面での断面形状はどこでも長方形状となる。振動板1に対する連結部の幅寸法a2を一定とすれば、図9に示すように、挟み部20に対する連結部の幅寸法a1を小さくするほど、2次共振周波数f2と1次共振周波数f1との差を大きくして周波数帯域を広くすることができる。なお、支持体3において、幅寸法を長さ方向の両端部の幅寸法a1,a2のいずれよりも小さくした部位(以下、「絞り部」と呼ぶ。)を長さ方向の中央部に設けた場合であっても、絞り部の幅寸法を小さくするほど周波数帯域を広くすることができる。
【0036】
また、ねじりばね定数kを小さくする方法としては、図10に示すように支持体3の厚さ寸法hを振動板1の厚さ寸法Hよりも小さくするという方法もある。この方法であっても、1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くすることができる。
【0037】
さらに、1次共振周波数f1を低くする方法としては、支持体3の材料の剛性率Gを低くするという方法もある。剛性率Gは、ヤング率Eとポアソン比γとを用いて次式で表される。
【0038】
【数5】
振動板1と支持体3を互いに異なる材料で構成し、支持体3の材料のヤング率Eを低く(つまり剛性率Gを低く)すれば、2次共振周波数f2にほとんど影響を与えることなく1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くすることができる。パッケージ2において挟み部20を構成するフレーム21と振動板1と支持体3とをそれぞれ半導体プロセスを用いて形成する場合において、上記のように振動板1と支持体3とのヤング率Em,Eを互いに異ならせる方法としては、例えば、シリコンウェハの一面上にポリイミドの層を形成し、振動板1とフレーム21との間となる部位のシリコンを除去するとともに、振動板1とフレーム21との間となる部位であって支持体3となる部位以外のポリイミドを除去するという方法がある。すなわち、振動板1とパッケージ2のフレーム21とはそれぞれシリコンの層とポリイミドの層とで構成され、支持体3はポリイミドの層のみで構成されることになるから、支持体3のヤング率Eを振動板1のヤング率Emよりも低くすることができる。
【0039】
さらに、上記各種の手段によって周波数帯域を広くすれば、同時に逆相振動が強調されることになり、従って音圧空間微分の検出精度が上がる(暗騒音に埋もれにくい)という効果がある。
【0040】
以下、本実施形態における測定点A〜Dの変位zA〜zDから、時空間勾配法に用いられる音圧空間微分を得る方法について説明する。
【0041】
まず、長手方向をx軸方向に向けた振動板1の測定点A,Bの変位zA,zBを用いて、時空間勾配法に用いられる音圧f(t)と音圧時間微分ft(t)とx軸方向についての音圧空間微分fx(t)とを得る方法について説明する。
【0042】
図11(a)に示すように、振動板1の中心に原点をとる。また、x軸上において原点との距離が互いに等しい2点を測定点A,Bとするとともに、測定点A,B間の距離をd(<L)とおく。また、変位zA,zBは微小として測定点A,Bのx座標の変化は無視する。さらに、図11(b)に示すように、入射音の到来方向(図11(b)での上方向)をz軸の負の方向とすると、測定点A,Bの座標はそれぞれ(d/2,0,zA),(−d/2,0,zB)と表される。また、振動板1のy軸周りの回転角であって原点よりもx軸正側(図11(a)(b)での右側)の部位がz軸の正の方向に変位する方向(図11(b)での時計回り方向)を正の向きとする振動板1の回転角(以下、「変位角」と呼ぶ。)をφとおく。変位角φは測定点A,Bの変位zA,zBを用いてφ=(zA−zB)/dと近似できる。
【0043】
変位zA,zBは微小としてz座標の変化による音圧の変化は考えないものとし、時間tに座標(x,y)において振動板1が入射音から受ける力(音圧)をf(x,y,t)とおく。さらに、時空間勾配法による測定の対象となる対象点を原点とし、f(t)=f(0,0,t),fx(t)=fx(0,0,t),fy(t)=fy(0,0,t)とおいてf(x,y,t)=f(t)+fx(t)・x+fy(t)・yと近似する。すると、振動板に働くz軸正方向(図11(b)での下向き)の合力F(t)、並びに、振動板1に対して変位角φの正方向(図11(b)での時計回り方向)に働くモーメントN(t)は次のように表される。
【0044】
【数6】
また、逆相振動に関する運動方程式は、後述する参考文献1,2によると、変位角φと、上記のモーメントN(t)と、振動板の慣性モーメントIと、支持体3のねじりばね定数kとを用いて、次式のようになる。
【0045】
【数7】
すなわち、x軸方向についての音圧空間微分fx(t)は、次式のように表される。
【0046】
【数8】
これと、変位角φを示す式φ=(zA−zB)/dとにより、x軸方向についての音圧空間微分fx(t)が測定点A,Bの変位zA,zBの2階時間微分を用いて表される。さらに、長手方向をy軸方向に向けた振動板1の測定点C,Dの変位zC,zDの2階時間微分を用いて同様の計算を行えば、y軸方向についての音圧空間微分fy(t)が得られる。
【0047】
さらに、同相振動に関する運動方程式は、参考文献1,2によると、各振動板1のばね定数Kと、変位の同相成分z(t)=(zA+zB+zC+zD)/4と、合力F(t)とを用いて次式で表される。
【0048】
【数9】
すなわち、音圧f(t)=Kz(t)/WLを同相成分z(t)から得ることができる。なお、上記のばね定数Kは、振動板1の真上から加振を行った場合の変位と加振力より、フックの式を用いて求められる。
【0049】
さらに、得られた音圧f(t)を時間微分することにより、音圧時間微分ft(t)が得られる。
【0050】
上記のようにして得られた音圧f(t)と音圧時間微分ft(t)と音圧空間微分fx(t),fy(t)とは、時空間勾配法による音源の定位や雑音除去に用いることができる。時空間勾配法による音源の定位や雑音除去の技術は周知であるので、説明は省略する。
【0051】
上記構成によれば、1枚の振動板1につき1方向の音圧空間微分fx(t),fy(t)を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分fx(t),fy(t)を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0052】
また、単位距離当りの音圧の減衰幅は音源に近いほど大きいことにより、振動板1からの距離が近い音源からの音ほど、本実施形態から得られる逆相成分(zA−zB)/2,(zC−zD)/2には強く反映されることになるから、本実施形態の逆相成分(zA−zB)/2,(zC−zD)/2は、遠い音源からの音が抑制され、近い音源からの音が強調されたものと考えることができる。
<参考文献一覧>
参考文献1:小野 順貴,斎藤 章人,安藤 繁「ヤドリバエを模倣した超小型音源定位セン
サの理論と実験(第2報)」,第19回センシングフォーラム,pp.379-382,2002
参考文献2:N. Ono, A. Saito, and S. Ando, “Bio-mimicry Sound Source Localization with Gimbal Diaphragm”,電気学会論文誌, Vol. 123-E, No.3,pp.92-97, 2003
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す平面図である。
【図2】同上を示す分解斜視図である。
【図3】同上における音の回り込みを示す説明図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ同上におけるピエゾ抵抗の配置の例を示す説明図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ同上の動作を示す説明図であり、(a)は逆相振動を示し、(b)は同相振動を示す。
【図6】同上において入射音の周波数と測定点の変位の最大値(すなわち振幅)との関係を示す説明図である。
【図7】同上におけるパラメータの定義を示す説明図である。
【図8】(a)〜(c)はそれぞれ同上の異なる変更例を示す平面図である。
【図9】挟み部との連結部での支持体の幅寸法と、1次共振周波数及び2次共振周波数との関係を示す説明図である。
【図10】同上の変更例を示す説明図である。
【図11】(a)(b)はそれぞれ同上におけるパラメータの定義を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 振動板
2 パッケージ
3 支持体
4a〜4h ピエゾ抵抗(請求項1,3における変位検出手段であり、請求項2における歪み検出手段)
20 挟み部
21 フレーム(請求項3におけるパッケージ)
22 カバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、音圧空間微分検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数個の点でそれぞれ測定された音圧から得られた、所定の点(以下、「対象点」と呼ぶ。)における音圧と、対象点における音圧の2軸方向のそれぞれについての空間勾配(音圧空間微分)と、対象点における音圧の時間勾配(音圧時間微分)とを用いた時空間勾配法により、音源の定位や雑音の除去を行う技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0003】
また、音源に近いほど単位距離当りの音圧の減衰幅が大きいことを利用し、目標音源からの距離が互いの異なる2個の測定点でそれぞれ測定された音圧の差分をとることにより、目標音源よりも各測定点から離れた騒音源からの音を抑圧し、目標音源からの音が強調された音圧を得る技術(例えば、特許文献2〜4参照)も知られている。
【特許文献1】特開2006−58395号公報
【特許文献2】特開2007−221651号公報
【特許文献3】特開2008−131474号公報
【特許文献4】特開2008−154224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上記のような時空間勾配法には、上記2軸方向に2列ずつ並べて格子状に配列された計4個のマイクロホンからなる音圧空間微分検出センサが用いられていた。
【0005】
そして、上記のように音源の定位や雑音の除去を行う装置においては、精度の向上や小型化を可能とするために、音圧空間微分検出センサの構造についても研究されている。
【0006】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、小型化が図れる音圧空間微分検出センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、1枚の振動板につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0009】
請求項2の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各支持体に、引張りとねじれによって生じるひずみを検出するひずみ検出手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、各振動板が収納される空洞を備えたパッケージのカバーと、各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、各支持体においてそれぞれパッケージに連結された他端の幅寸法を振動板に連結された一端の幅寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされていることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、各支持体の厚さ寸法をそれぞれ振動板の厚さ寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかの発明において、各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、各支持体の材料のヤング率がそれぞれ振動板の材料のヤング率以上である場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかの発明において、振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられていることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、各振動板でそれぞれ厚さ方向に直交する2軸方向のうち長手方向に平行な一方ずつについての音圧空間微分が得られる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜3の発明によれば、それぞれ、1枚の振動板につき1方向の音圧空間微分を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0020】
請求項4の発明によれば、各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされているので、各支持体においてそれぞれパッケージに連結された他端の幅寸法を振動板に連結された一端の幅寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0021】
請求項5の発明によれば、各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされているので、各支持体の厚さ寸法をそれぞれ振動板の厚さ寸法以上とする場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0022】
請求項6の発明によれば、各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなるので、各支持体の材料のヤング率がそれぞれ振動板の材料のヤング率以上である場合に比べ、検出可能な音の周波数帯域を広くすることができ、また、支持体がねじれるような振動板の振動である逆相振動を強調し、音圧空間微分を精度よく検出する設計が可能である。
【0023】
請求項7の発明によれば、振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられているので、各振動板でそれぞれ厚さ方向に直交する2軸方向のうち長手方向に平行な一方ずつについての音圧空間微分が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
本実施形態は、図1に示すように、それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状であって厚さ方向を互いに揃えて長手方向を互いに直交させる向きで配置された2個の振動板1と、振動板1を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部20を各振動板1についてそれぞれ有するパッケージ2と、各振動板1に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板1の厚さ方向に向けた扁平な直方体形状であって振動板1の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージ2の挟み部20に連結された支持体3とを備える。パッケージ2は、各振動板1の厚さ方向から見て各振動板1をそれぞれ囲む形状であって各挟み部20をそれぞれ構成するフレーム21と、フレーム21の前面(振動板1に対して音が入射する側の面)に固着されたカバー22を備える。カバー22は、振動板1に一対一に対応し振動板1に入射する音を通過させる2個の長方形状の音穴22aが貫設されている。ここで、音穴22aの寸法形状は振動板1の寸法形状になるべく近いものとし、前方から見て振動板1とフレーム21との間の隙間が音穴22aから露出しないようにすることが、図3に矢印で示すような振動板1の後方への音の回り込みを防ぐためには望ましい。上記のようなパッケージ2において、フレーム21と、各振動板1と、各支持体3とは、それぞれ、1枚の半導体ウェハーに周知の半導体プロセスを施すことで1個の部品として形成することができる。
【0026】
また、本実施形態は、各振動板1の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた測定点A〜Dについてそれぞれ厚さ方向の変位(以下、単に「変位」と呼ぶ。)を検出する変位検出手段(図示せず)を備える。変位検出手段としては、例えば、一方の電極が振動板1の測定点A〜Dに設けられるとともに他方の電極がパッケージ2において測定点A〜Dに対向する部位に設けられて振動部1の測定点A〜Dの変位に伴って静電容量が変化するコンデンサや、振動板1や支持体3に生じたひずみを検出(つまり電気信号に変換)する圧電素子を用いることができる。さらに具体的には例えば、図4(a)に示すように、ピエゾ抵抗4a〜4dを各支持体3の前後(すなわち厚さ方向)の両側の面に1個ずつ設けて支持体3のねじれによるせん断ひずみを検出してもよいし、図4(b)に示すように、各支持体3の前後一方の面(図では前面)にピエゾ抵抗4e〜4hを振動板1に対する支持体3の突出方向に並べて2個ずつ設けて支持体3の引張りによる垂直ひずみを検出してもよい。
【0027】
ところで、本実施形態における振動板1の振動は、図5(a)に示すように支持体3のねじれにより振動板1が回転するような振動(以下、「逆相振動」と呼ぶ。)と、図5(b)に示すような振動板1自体の弾性変形による振動(以下、「同相振動」と呼ぶ。)とが合成されたものである。逆相振動は振動板1の長手方向の中央に関して反対称な成分であり、同相振動は振動板1の長手方向の中央に関して対称な成分である。例えば、振動板1の長手方向の中央に関して対称な2点をそれぞれ測定点A,Bとし、測定点Aの変位をzAとおき、測定点Bの変位をzBとおくと、各測定点A,Bについて、変位zA,zBのうち同相振動による成分は(zA+zB)/2と表され、逆相振動による成分の大きさは|zA−zB|/2と表される。図4(a)のようなピエゾ抵抗4a〜4dの配置は逆相振動の検出に適し、図4(b)のようなピエゾ抵抗4e〜4hの配置は同相振動の検出に適している。そして、本実施形態は、図6に示すように、逆相振動の共振周波数である1次共振周波数f1と、同相振動の共振周波数である2次共振周波数f2との間の周波数帯(以下、単に「周波数帯域」と呼ぶ。)の音を検出することができる。つまり、周波数帯域を広くするために、1次共振周波数f1と2次共振周波数f2との差は大きいことが望ましい。
【0028】
ここで、2次共振周波数f2は、振動板1の形状及び振動板1の材料のヤング率に依存しており、支持体3の材質や形状の変更によってはほとんど変化しない。つまり、支持体3の材質や形状の変更により1次共振周波数f1を低くすれば、2次共振周波数f2と1次共振周波数f1との差が大きくなることにより、周波数帯域を広くすることができる。
【0029】
1次共振周波数f1は、支持体3の2本分のねじりばね定数(以下、単に「ねじりばね定数」と呼ぶ。)kと、振動板1の慣性モーメントIとを用いて、次式で表される。
【0030】
【数1】
すなわち、1次共振周波数f1を低くするには、ねじりばね定数kを小さくすればよい。ここで、図7に示すように、振動板1について、長さ寸法(長手方向の寸法)をL、幅寸法(短手方向の寸法)をW、厚さ寸法をHとおき、振動板1の材料の密度をρとおくと、上記の慣性モーメントIは、次式で表される。
【0031】
【数2】
さらに、図7に示すように、支持体3について、長さ寸法(振動板1に対する連結部と挟み部20に対する連結部との距離)をb、幅寸法(断面の長辺の長さ)をa、厚さ寸法(断面の短辺の長さ)をhとおくと、ねじりばね定数kは、支持体3の剛性率Gを用いて、次式で表される。
【0032】
【数3】
上式からもわかるように、支持体3のねじりばね定数kは、支持体3の断面の寸法a,hを小さくすることや、支持体3の材料の剛性率Gを小さくすることによって小さくすることができる。
【0033】
一方、振動板1を、それぞれ長さがL/2である2個の片持ち梁の固定端同士が連結されたものと見なすと、これらの片持ち梁の断面2次モーメントはそれぞれ(WH3/12)となる。さらに、振動板1のヤング率をEmとおくと、2次共振周波数f2は次式で表される。
【0034】
【数4】
ただし、上記の式では振動板1と支持体3との連結部の面積による影響を無視しているが、振動板1と支持体3との連結部の面積が大きくなれば支持体3の連結部付近で振動板1が撓みにくくなることにより2次共振周波数f2は高くなる。
【0035】
ねじりばね定数kを小さくして1次共振周波数f1を低くし周波数帯域を広くするために、支持体3の幅寸法aを小さくすることを考えた場合、上記のように振動板1と支持体3との連結部の面積が小さくなれば振動板1に対する拘束が弱まることで2次共振周波数f2が低くなってしまう。そこで、2次共振周波数f2の低下を抑えつつ1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くするために、図8(a)〜(c)に示すように、支持体3において、パッケージ2の挟み部20に対する連結部の幅寸法a1を、振動板1に対する連結部の幅寸法a2よりも小さくすることが望ましい。この場合、支持体3は直方体形状とはならないが、支持体3の長さ方向に直交する断面での断面形状はどこでも長方形状となる。振動板1に対する連結部の幅寸法a2を一定とすれば、図9に示すように、挟み部20に対する連結部の幅寸法a1を小さくするほど、2次共振周波数f2と1次共振周波数f1との差を大きくして周波数帯域を広くすることができる。なお、支持体3において、幅寸法を長さ方向の両端部の幅寸法a1,a2のいずれよりも小さくした部位(以下、「絞り部」と呼ぶ。)を長さ方向の中央部に設けた場合であっても、絞り部の幅寸法を小さくするほど周波数帯域を広くすることができる。
【0036】
また、ねじりばね定数kを小さくする方法としては、図10に示すように支持体3の厚さ寸法hを振動板1の厚さ寸法Hよりも小さくするという方法もある。この方法であっても、1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くすることができる。
【0037】
さらに、1次共振周波数f1を低くする方法としては、支持体3の材料の剛性率Gを低くするという方法もある。剛性率Gは、ヤング率Eとポアソン比γとを用いて次式で表される。
【0038】
【数5】
振動板1と支持体3を互いに異なる材料で構成し、支持体3の材料のヤング率Eを低く(つまり剛性率Gを低く)すれば、2次共振周波数f2にほとんど影響を与えることなく1次共振周波数f1を低くして周波数帯域を広くすることができる。パッケージ2において挟み部20を構成するフレーム21と振動板1と支持体3とをそれぞれ半導体プロセスを用いて形成する場合において、上記のように振動板1と支持体3とのヤング率Em,Eを互いに異ならせる方法としては、例えば、シリコンウェハの一面上にポリイミドの層を形成し、振動板1とフレーム21との間となる部位のシリコンを除去するとともに、振動板1とフレーム21との間となる部位であって支持体3となる部位以外のポリイミドを除去するという方法がある。すなわち、振動板1とパッケージ2のフレーム21とはそれぞれシリコンの層とポリイミドの層とで構成され、支持体3はポリイミドの層のみで構成されることになるから、支持体3のヤング率Eを振動板1のヤング率Emよりも低くすることができる。
【0039】
さらに、上記各種の手段によって周波数帯域を広くすれば、同時に逆相振動が強調されることになり、従って音圧空間微分の検出精度が上がる(暗騒音に埋もれにくい)という効果がある。
【0040】
以下、本実施形態における測定点A〜Dの変位zA〜zDから、時空間勾配法に用いられる音圧空間微分を得る方法について説明する。
【0041】
まず、長手方向をx軸方向に向けた振動板1の測定点A,Bの変位zA,zBを用いて、時空間勾配法に用いられる音圧f(t)と音圧時間微分ft(t)とx軸方向についての音圧空間微分fx(t)とを得る方法について説明する。
【0042】
図11(a)に示すように、振動板1の中心に原点をとる。また、x軸上において原点との距離が互いに等しい2点を測定点A,Bとするとともに、測定点A,B間の距離をd(<L)とおく。また、変位zA,zBは微小として測定点A,Bのx座標の変化は無視する。さらに、図11(b)に示すように、入射音の到来方向(図11(b)での上方向)をz軸の負の方向とすると、測定点A,Bの座標はそれぞれ(d/2,0,zA),(−d/2,0,zB)と表される。また、振動板1のy軸周りの回転角であって原点よりもx軸正側(図11(a)(b)での右側)の部位がz軸の正の方向に変位する方向(図11(b)での時計回り方向)を正の向きとする振動板1の回転角(以下、「変位角」と呼ぶ。)をφとおく。変位角φは測定点A,Bの変位zA,zBを用いてφ=(zA−zB)/dと近似できる。
【0043】
変位zA,zBは微小としてz座標の変化による音圧の変化は考えないものとし、時間tに座標(x,y)において振動板1が入射音から受ける力(音圧)をf(x,y,t)とおく。さらに、時空間勾配法による測定の対象となる対象点を原点とし、f(t)=f(0,0,t),fx(t)=fx(0,0,t),fy(t)=fy(0,0,t)とおいてf(x,y,t)=f(t)+fx(t)・x+fy(t)・yと近似する。すると、振動板に働くz軸正方向(図11(b)での下向き)の合力F(t)、並びに、振動板1に対して変位角φの正方向(図11(b)での時計回り方向)に働くモーメントN(t)は次のように表される。
【0044】
【数6】
また、逆相振動に関する運動方程式は、後述する参考文献1,2によると、変位角φと、上記のモーメントN(t)と、振動板の慣性モーメントIと、支持体3のねじりばね定数kとを用いて、次式のようになる。
【0045】
【数7】
すなわち、x軸方向についての音圧空間微分fx(t)は、次式のように表される。
【0046】
【数8】
これと、変位角φを示す式φ=(zA−zB)/dとにより、x軸方向についての音圧空間微分fx(t)が測定点A,Bの変位zA,zBの2階時間微分を用いて表される。さらに、長手方向をy軸方向に向けた振動板1の測定点C,Dの変位zC,zDの2階時間微分を用いて同様の計算を行えば、y軸方向についての音圧空間微分fy(t)が得られる。
【0047】
さらに、同相振動に関する運動方程式は、参考文献1,2によると、各振動板1のばね定数Kと、変位の同相成分z(t)=(zA+zB+zC+zD)/4と、合力F(t)とを用いて次式で表される。
【0048】
【数9】
すなわち、音圧f(t)=Kz(t)/WLを同相成分z(t)から得ることができる。なお、上記のばね定数Kは、振動板1の真上から加振を行った場合の変位と加振力より、フックの式を用いて求められる。
【0049】
さらに、得られた音圧f(t)を時間微分することにより、音圧時間微分ft(t)が得られる。
【0050】
上記のようにして得られた音圧f(t)と音圧時間微分ft(t)と音圧空間微分fx(t),fy(t)とは、時空間勾配法による音源の定位や雑音除去に用いることができる。時空間勾配法による音源の定位や雑音除去の技術は周知であるので、説明は省略する。
【0051】
上記構成によれば、1枚の振動板1につき1方向の音圧空間微分fx(t),fy(t)を検出可能であるから、1方向の音圧空間微分fx(t),fy(t)を検出するために複数枚ずつの振動板を用いる場合に比べ、小型化が図れる。
【0052】
また、単位距離当りの音圧の減衰幅は音源に近いほど大きいことにより、振動板1からの距離が近い音源からの音ほど、本実施形態から得られる逆相成分(zA−zB)/2,(zC−zD)/2には強く反映されることになるから、本実施形態の逆相成分(zA−zB)/2,(zC−zD)/2は、遠い音源からの音が抑制され、近い音源からの音が強調されたものと考えることができる。
<参考文献一覧>
参考文献1:小野 順貴,斎藤 章人,安藤 繁「ヤドリバエを模倣した超小型音源定位セン
サの理論と実験(第2報)」,第19回センシングフォーラム,pp.379-382,2002
参考文献2:N. Ono, A. Saito, and S. Ando, “Bio-mimicry Sound Source Localization with Gimbal Diaphragm”,電気学会論文誌, Vol. 123-E, No.3,pp.92-97, 2003
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す平面図である。
【図2】同上を示す分解斜視図である。
【図3】同上における音の回り込みを示す説明図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ同上におけるピエゾ抵抗の配置の例を示す説明図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ同上の動作を示す説明図であり、(a)は逆相振動を示し、(b)は同相振動を示す。
【図6】同上において入射音の周波数と測定点の変位の最大値(すなわち振幅)との関係を示す説明図である。
【図7】同上におけるパラメータの定義を示す説明図である。
【図8】(a)〜(c)はそれぞれ同上の異なる変更例を示す平面図である。
【図9】挟み部との連結部での支持体の幅寸法と、1次共振周波数及び2次共振周波数との関係を示す説明図である。
【図10】同上の変更例を示す説明図である。
【図11】(a)(b)はそれぞれ同上におけるパラメータの定義を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 振動板
2 パッケージ
3 支持体
4a〜4h ピエゾ抵抗(請求項1,3における変位検出手段であり、請求項2における歪み検出手段)
20 挟み部
21 フレーム(請求項3におけるパッケージ)
22 カバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項2】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各支持体に、引張りとねじれによって生じるひずみを検出するひずみ検出手段
とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項3】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板が収納される空洞を備えたパッケージのカバーと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項4】
各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項5】
各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項6】
各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項7】
振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項1】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項2】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各支持体に、引張りとねじれによって生じるひずみを検出するひずみ検出手段
とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項3】
それぞれ弾性を有する材料からなり扁平な直方体形状の少なくとも1個の振動板と、
振動板を短手方向の両側から間に隙間を空けて挟む挟み部を各振動板についてそれぞれ有するパッケージと、
各振動板が収納される空洞を備えたパッケージのカバーと、
各振動板に2個ずつ設けられそれぞれ弾性を有する材料からなり厚さ方向を振動板の厚さ方向に向けた扁平な形状であって振動板の長手方向の中央部において短手方向の一端ずつに一端が連結され他端がパッケージの挟み部に連結された支持体と、
各振動板の長手方向の両端部についてそれぞれ厚さ方向の変位を検出する変位検出手段とを備えることを特徴とする音圧空間微分検出センサ。
【請求項4】
各支持体において、それぞれ、振動板に連結された一端の幅寸法よりも、パッケージに連結された他端の幅寸法が小さくされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項5】
各支持体の厚さ寸法は、それぞれ連結された振動板の厚さ寸法よりも小さくされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項6】
各支持体はそれぞれ連結された振動部の材料よりもヤング率が低い材料からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【請求項7】
振動板と支持体と挟み部とが2組、振動板の厚さ方向を揃え且つ振動板の長手方向を互いに直交させる向きで設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の音圧空間微分検出センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−151531(P2010−151531A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328229(P2008−328229)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]