説明

音場収音再生装置、方法及びプログラム

【課題】マイクアレーよりも音源側にある波面を再現する波面合成法の技術を提供する。
【解決手段】周波数領域変換部1が、マイクアレーで収音された音信号をフーリエ変換により周波数領域信号に変換する。窓関数部2が、周波数領域信号に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号を生成する。フィルタ部3が、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を不均質波を無視することにより模擬したフィルタを窓関数後周波数領域信号に適用する。時間領域変換部4が、フィルタを適用した後の信号を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ある音場に設置されたマイクアレーで音信号を収音し、その音信号を用いてスピーカアレーでその音場を再生する波面合成法(Wave Field Synthesis)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
波面合成法は、複数のマイクとスピーカを用いて遠隔地の音場を仮想的に再現する技術である。波面合成法を実行する際には、音場を再現するための波面の位置を自在にコントロールできることが重要である。これにより、再生した音場に仮想的なイメージを与えたり、音響効果を加えることができるためである。
【0003】
非特許文献1に記載された技術においては、図16に示すマイクアレーMで収音した音信号を用いて、マイクアレーMよりも音源Sから離れた位置にある波面Aを再現することができた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sascha Spors, Rudolf Rabenstein, and Jens Ahrens, “The Theory of Wave Field Synthesis Revisited”, 124th Convention of the Audio Engineering Society Amsterdam, 2008 May 17-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された技術においては、マイクアレーMよりも音源S側にある波面B(図16参照)を再現することはできないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、マイクアレーで収音された音信号をフーリエ変換により周波数領域信号に変換し、周波数領域信号に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号を生成し、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を模擬したフィルタを窓関数後周波数領域信号に適用し、フィルタを適用した後の信号を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する。
【発明の効果】
【0007】
不均質波を無視することにより計算したフィルタを適用することにより、マイクアレーMよりも音源S側にある波面B(図16参照)を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第一実施形態の音場収音再生装置の例の機能ブロック図。
【図2】第一実施形態の音場収音再生装置のマイクアレー及びスピーカアレーの配置の例を説明するための図。
【図3】第二実施形態の音場収音再生装置の例の機能ブロック図。
【図4】第一実施形態の音場収音再生装置のマイクアレー及びスピーカアレーの配置の例を説明するための図。
【図5】音場収音再生方法の例を示す流れ図。
【図6】ダイポール特性のマイクの例を説明するための図。
【図7】シミュレーションの条件を示すための図。
【図8】従来のWFSによってz=0の波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果を示す図。
【図9】図5に対応する理想的な音場を示す図。
【図10】この発明によりz=−0.6mの波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果を示す図。
【図11】図7に対応する理想的な音場を示す図。
【図12】この発明によりz=−2mの波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果を示す図。
【図13】図9に対応する理想的な音場を示す図。
【図14】この発明により音源が2つある音場を再現したシミュレーション結果を示す図。
【図15】図11に対応する理想的な音場を示す図。
【図16】再現しようとする波面の位置を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明の一実施形態を説明する。
【0010】
[第一実施形態]
第一実施形態の音場収音再生装置及び方法は、図2に示す第一の部屋のz=zの位置に配置されたN×N個のモノポール特性のマイクで構成される二次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nで収音した音信号を用いて以下に説明する方法でz=zの位置の波面Bを計算して、第二の部屋に配置されたN’×N’個のモノポール特性のスピーカで構成される二次元スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’で再現する。
【0011】
,N,N’,N’は任意の整数である。NとN’は異なっていてもよい。また、NとN’も異なっていてもよい。すなわち、マイクアレーを構成するマイクの数とスピーカアレーを構成するスピーカの数は同じでなくてもよく、マイクアレーを構成するマイクとスピーカアレーを構成するスピーカとは必ずしも一対一対応している必要はない。
【0012】
第一の部屋のz=zの位置に配置された二次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nを構成する各マイクの位置をr=(x,y,z)と表わすことにする。第一の部屋のz=zでの波面Bを再現する第二の部屋に配置された二次元スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’を構成する各スピーカの位置をr’=(x,y,z)と表わすことにする。
【0013】
第一実施形態の音場収音再生装置は、図1に示すように周波数領域変換部1、窓関数部2、フィルタ部3、時間領域変換部4を例えば含み、図5の実線で示された処理を行う。
【0014】
第一の部屋のz=zの位置に配置された二次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nは、第一の部屋の音源Sで発せられた音を収音して時間領域の音信号を生成する。生成された音信号は、周波数領域変換部1に送られる。r=(x,y,z)のマイクMi−jで収音された時間領域の時刻tの音信号をf(i,j,t)と表記する。
【0015】
周波数領域変換部1は、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nで収音された音信号f(i,j,t)をフーリエ変換により周波数領域信号F(i,j,ω)に変換する(ステップS1)。生成された周波数領域信号F(i,j,ω)は、窓関数部2に送られる。ωは周波数である。例えば、短時間フーリエ変換により周波数領域信号F(i,j,ω)が生成される。もちろん、他の既存の方法により周波数領域信号F(i,j,ω)を生成してもよい。
【0016】
窓関数部2は、周波数領域信号F(i,j,ω)に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号F(j,j,ω)を生成する(ステップS2)。窓関数後周波数領域信号F(j,j,ω)は、フィルタ部3に送られる。窓関数として、以下の式より定義されるいわゆるターキー(Turkey)窓関数w(i,j)を例えば用いる。Ntprは、テーパーを適用する点数であり1以上N,N以下の整数である。
【0017】
【数1】

【0018】
フィルタ部3は、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面Bを不均質波を無視することにより模擬したフィルタを窓関数後周波数領域信号F(j,j,ω)に適用する(ステップS3)。フィルタを適用した後の信号をG(n,m,ω)と表記すると、フィルタ部3の処理は次式のように表わされる。kは波数であり、cを音速とすると、k=ω/cである。eはネピア数、πは円周率である。フィルタが次式のように表わされる理由については後述する。G(n,m,ω)は、時間領域変換部4に送られる。
【0019】
【数2】

【0020】
時間領域変換部4は、フィルタを適用した後の信号G(n,m,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号g(n,m,t)に変換する(ステップS4)。逆フーリエ変換は既存の方法を用いればよい。時間領域信号g(n,m,t)は、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’に送られる。逆フーリエ変換によりフレーム毎に得られた時間領域信号g(n,m,t)は適宜シフトされて線形和が取られて、連続した時間領域信号となる。
【0021】
スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’は、時間領域信号g(n,m,t)に基づいて音を再生する。より詳細には、n=1,…,N’,m=1,…,N’として、スピーカSn−mが時間領域信号g(n,m,t)に基づいて音を再生する。これにより、第一の部屋のz=zの位置の波面Bを第二の部屋のスピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’で再現して、第一の部屋の音場を第二の部屋に再現することができる。
【0022】
このように、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を不均質波を無視することにより模擬したフィルタを適用することにより、マイクアレーよりも音源S側にある波面Bを再現することができる。図2のように、第一の部屋において音源Sが位置z=zとz=zとの間にある場合には、第二の部屋においてスピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’の前面に音源S’があるような音場を再現することができる。
【0023】
なお、再現できる波面の大きさは、マイクアレーで収音した平面の面積と同程度の大きさである。
【0024】
ダイポール収音−モノポール再生
第一実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nをダイポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’をモノポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0025】
【数3】

【0026】
ダイポール特性のマイクm1は、図6に示すように例えば2個のモノポール特性のマイクm2により構成することができる。この場合、2個のモノポール特性のマイクm2で収音した音信号の差分を、ダイポール特性のマイクm1で収音した音信号とすればよい。図6において、2個のモノポール特性のマイクm2の中点がダイポール特性のマイクm1の位置となり、この位置にマイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nの面Mが形成される。2個のモノポール特性のマイクm2を結ぶ直線は、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nの面Mと直交する。
【0027】
モノポール収音−ダイポール再生
第一実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nをモノポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’をダイポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0028】
【数4】

【0029】
ダイポール特性のスピーカは、図6に示したダイポール特性のマイクm1と同様に、例えば2個のモノポール特性のスピーカにより構成することができる。この場合、2個のモノポール特性のスピーカを逆相で駆動すれば、ダイポール特性を実現することができる。2個のモノポール特性のスピーカの中点にスピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’の面が位置し、かつ、2個のモノポール特性のスピーカを結ぶ直線は、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’の面と直交する。
【0030】
ダイポール収音−ダイポール再生
第一実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−Nをダイポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−N’をダイポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0031】
【数5】

【0032】
[第二実施形態]
第一実施形態の音場収音再生装置及び方法は二次元マイクアレー及び二次元スピーカアレーを用いるのに対して、第二実施形態の音場収音再生装置及び方法は一次元マイクアレー及び二次元スピーカアレーを用いる。これにより、マイク数、スピーカ数及びチャネル数を少なくすることができるため、実装が比較的容易となる。
【0033】
第二実施形態の音場収音再生装置及び方法は、図4に示す第一の部屋のy=y,z=zの位置に配置されたN個のモノポール特性のマイクで構成される一次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1で収音した音信号を用いて以下に説明する方法でy=y,z=zの位置の波面Bを計算して、第二の部屋に配置されたN’個のモノポール特性のスピーカで構成される一次元スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1’で再現する。
【0034】
,N’は任意の整数である。NとN’は異なっていてもよい。すなわち、マイクアレーを構成するマイクの数とスピーカアレーを構成するスピーカの数は同じでなくてもよく、マイクアレーを構成するマイクとスピーカアレーを構成するスピーカとは必ずしも一対一対応している必要はない。
【0035】
第一の部屋のy=y,z=zの位置に配置された一次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1を構成する各マイクの位置をr=(x,y,z)と表わすことにする。第一の部屋のy=y,z=zでの波面Bを再現する第二の部屋に配置された一次元スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1を構成する各スピーカの位置をr’=(x,y,z)と表わすことにする。
【0036】
第二実施形態の音場収音再生装置は、図3に示すように周波数領域変換部1、窓関数部2、フィルタ部3、時間領域変換部4、補正フィルタ部5を例えば含み、図5の実線及び破線で示された処理を行う。
【0037】
第一の部屋のy=y,z=zの位置に配置された一次元マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1は、第一の部屋の音源Sで発せられた音を収音して時間領域の音信号を生成する。生成された音信号は、周波数領域変換部1に送られる。r=(x,y,z)のマイクMi−1で収音された時間領域の時刻tの音信号をf(i,t)と表記する。
【0038】
周波数領域変換部1は、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1で収音された音信号f(i,t)をフーリエ変換により周波数領域信号F(i,ω)に変換する(ステップS1)。生成された周波数領域信号F(i,ω)は、窓関数部2に送られる。ωは周波数である。例えば、短時間フーリエ変換により周波数領域信号F(i,ω)が生成される。もちろん、他の既存の方法により周波数領域信号F(i,ω)を生成してもよい。
【0039】
窓関数部2は、周波数領域信号F(i,ω)に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号F(i,ω)を生成する(ステップS2)。窓関数後周波数領域信号F(i,ω)は、フィルタ部3に送られる。窓関数として、以下の式より定義されるいわゆるターキー(Turkey)窓関数w(i)を例えば用いる。Ntprは、テーパーを適用する点数であり1以上N以下の整数である。
【0040】
【数6】

【0041】
フィルタ部3は、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面Bを不均質波を無視することにより模擬したフィルタを窓関数後周波数領域信号F(i,ω)に適用する(ステップS3)。フィルタを適用した後の信号をG(n,ω)と表記すると、フィルタ部3の処理は次式のように表わされる。kは波数であり、cを音速とすると、k=ω/cである。eはネピア数、πは円周率である。フィルタが次式のように表わされる理由については後述する。G(n,ω)は、時間領域変換部4に送られる。
【0042】
【数7】

【0043】
(1)(x)は第一種ハンケル関数であり、H(2)(x)は第二種ハンケル関数である。第一種ハンケル関数H(1)(x)及び第二種ハンケル関数H(2)(x)は、第一種ベッセル関数J(x)及び第二種ベッセル関数Y(x)を用いて以下のように定義される。
【0044】
【数8】

【0045】
補正フィルタ部5は、1次アレーで近似することによる誤差を補正するために、以下の補正フィルタを用いてG(n,ω)を補正して、補正後の信号G’(n,ω)を得る(ステップS5)。
【0046】
【数9】

【0047】
端数k=ω/cであり、ω=0のDC成分の場合には上記式の右辺の平方根の分母jkが0となるため、上記の補正フィルタを適用することはできない。このため、ω=0の場合には、G’(n,ω)=G’(n,0)=0とする。
【0048】
時間領域変換部4は、補正フィルタを適用した後の信号G’(n,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号g(n,t)に変換する(ステップS4)。逆フーリエ変換は既存の方法を用いればよい。時間領域信号g(n,t)は、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1に送られる。逆フーリエ変換によりフレーム毎に得られた時間領域信号g(n,t)は適宜シフトされて線形和が取られて、連続した時間領域信号となる。
【0049】
スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1は、時間領域信号g(n,t)に基づいて音を再生する。より詳細には、n=1,…,N’として、スピーカSn−1が時間領域信号g(n,t)に基づいて音を再生する。これにより、第一の部屋のy=y,z=zの位置の波面Bを第二の部屋のスピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1で再現して、第一の部屋の音場を第二の部屋に再現することができる。
【0050】
このように、マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を不均質波を無視することにより模擬したフィルタを適用することにより、マイクアレーよりも音源S側にある波面Bを再現することができる。図4のように、第一の部屋において音源Sが位置z=zとz=zとの間にある場合には、第二の部屋においてスピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1の前面に音源S’があるような音場を再現することができる。
【0051】
ダイポール収音−モノポール再生
第二実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1をダイポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1をモノポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0052】
【数10】

【0053】
モノポール収音−ダイポール再生
第二実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1をモノポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1をダイポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0054】
【数11】

【0055】
ダイポール収音−ダイポール再生
第一実施形態の音場収音再生装置において、マイクアレーM1−1,M2−1,…,MN−1をダイポール特性のマイクで構成し、スピーカアレーS1−1,S2−1,…,SN’−1をダイポール特性のスピーカで構成した場合には、フィルタ部3は以下の式により表わされる処理を行えばよい。
【0056】
【数12】

【0057】
[理論的背景]
この発明の理論的背景を説明する。ここでは、第一実施形態においてダイポール収音−モノポール再生を行う場合にフィルタ部3の処理が式(2)となる理由を例に挙げて説明する。以下では、表記の簡略化のためにωを記載しない場合がある。
【0058】
レイリー方程式に基づいて、図2においてz=zの位置rの音圧勾配∂P(r)/∂zを用いてz=zの位置r’の音圧P(r’)を推定すると以下のようになる。
【0059】
【数13】

【0060】
ここで、κ−1は、核関数である。
【0061】
【数14】

【0062】
、kは、それぞれx方向の波数、y方向の波数である。核関数κ−1は、均質波に対応する成分κ−1と不均質波に対応する成分κ−2との和に分解することが可能である。
【0063】
【数15】

【0064】
ここで、WFSにおいて、不均質波の成分は音場の再生に寄与しない。したがって、核関数κ−1は、均質波に対応する成分κ−1のみで近似可能である。すなわち、以下の式が成立する。
【0065】
【数16】

【0066】
このκ−1を用いることにより、位置r’の音圧P(r’)は次のように表される。
【0067】
【数17】

【0068】
再生するスピーカがモノポール特性である場合には、音圧をzで偏微分した音圧勾配∂P(r’)/∂zを2倍した信号を再生することにより音場を再生することができる。
【0069】
【数18】

【0070】
ダイポール特性のマイクで収音した場合には、F(i,j,ω)=∂P(r,ω)/∂zとなることを考慮して、上記式を離散的に表現したものが式(2)である。
【0071】
【数19】

【0072】
ダイポールかモノポールか、アレーが二次元か一次元かの違いはあるが、他の場合についても同様にして式(1),式(3)から式(8)を導出することができるが、ここではそれらの導出を省略する。
【0073】
[シミュレーション結果]
図7のように、z=0の位置に直線状に4cm間隔で配置されたマイクアレーでz<0の領域の音場の音信号を収音して、z=0の位置に直線状に4cm間隔で配置されたスピーカアレーでz>0の領域において収音された音信号を用いてその音場を再現するシミュレーションを行った。マイクアレー及びスピーカアレーの全体の長さは3.84mである。音源は、(x,y,z)=(−0.4m,0m,−1.0m)の位置にある点音源である。音源信号は、1kHzの正弦波である。
【0074】
図8は従来のWFSによってz=0の波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果であり、図9はこの場合の理想的な音場である。図10はこの発明によりz=−0.6mの波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果であり、図11はこの場合の理想的な音場である。図12はこの発明によりz=−2mの波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果であり、図13はこの場合の理想的な音場である。図8と図12とを比較すると、図12では波面がz軸の正方向に移動したように合成されていることがわかる。また、図8と図13とを比較すると、スピーカアレーの前面に音源が形成されていることがわかる。
【0075】
図14は音源が(−0.4m,0m,−1.0m)と(0.6m,0m,−1.2m)の2つの位置にある場合にz=−2.0mの波面を再現することにより音場を再現したシミュレーション結果であり、図12この場合の理想的な音場である。図14をみると、音源が複数ある場合にも音場を移動させることが可能であることがわかる。
【0076】
[変形例等]
音場収音再生装置を構成する各部は、第一の部屋に配置された収音装置と第二の部屋に配置された再生装置の何れに備えられていてもよい。換言すれば、窓関数部2、フィルタのそれぞれの処理は、第一の部屋に配置された収音装置で実行されてもよいし、第二の部屋に配置された再生装置で実行されてもよい。収音装置で生成された信号は、再生装置に送信される。
【0077】
第一の部屋と第二の部屋の位置は、図2及び図4に示したものに限定されない。第一の部屋と第二の部屋は、隣接していても互いに離れた位置にあってもよい。また、第一の部屋と第二の部屋の向きもどのようなものであってもよい。
【0078】
窓関数の処理は、周波数領域で行っても、時間領域で行ってもよい。
【0079】
音場収音再生装置は、コンピュータによって実現することができる。この場合、この装置の各部の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、この装置における各部がコンピュータ上で実現される。
【0080】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、これらの装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0081】
この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 周波数領域変換部
2 窓関数部
3 フィルタ部
4 時間領域変換部
5 補正フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクアレーで収音された音信号をフーリエ変換により周波数領域信号に変換する周波数領域変換部と、
上記周波数領域信号に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号を生成する窓関数部と、
上記マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を模擬したフィルタを上記窓関数後周波数領域信号に適用するフィルタ部と、
上記フィルタを適用した後の信号を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する時間領域変換部と、
を含む音場収音再生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音場収音再生装置において、
上記音場収音再生装置は、収音装置及びと再生装置を備え、
上記収音装置は、上記周波数領域変換部と上記窓関数部と上記フィルタ部とを含み、
上記再生装置は、上記時間領域変換部を含む、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の音場収音再生装置において、
上記音場収音再生装置は、収音装置及びと再生装置を備え、
上記収音装置は、上記周波数領域変換部を含み、
上記再生装置は、上記窓関数部と上記フィルタ部と上記時間領域変換部とを含む、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の音場収音再生装置において、
上記音場収音再生装置は、収音装置及びと再生装置を備え、
上記収音装置は、上記周波数領域変換部と上記窓関数部とを含み、
上記再生装置は、上記フィルタ部と上記時間領域変換部を含む、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N,N’,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは二次元平面に配置されたN×N個のモノポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは二次元平面に配置されたN’×N’個のモノポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目y方向にj番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目y方向のm番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、Hnm(i,j,ω)をフィルタ、F(i,j,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,m,ω)を上記フィルタを適用した後の信号として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行う、
【数20】


ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N,N’,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは二次元平面に配置されたN×N個のダイポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは二次元平面に配置されたN’×N’個のモノポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目y方向にj番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目y方向のm番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、Hnm(i,j,ω)をフィルタ、F(i,j,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,m,ω)を上記フィルタを適用した後の信号として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行う、
【数21】


ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項7】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N,N’,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは二次元平面に配置されたN×N個のモノポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは二次元平面に配置されたN’×N’個のダイポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目y方向にj番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目y方向のm番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、Hnm(i,j,ω)をフィルタ、F(i,j,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,m,ω)を上記フィルタを適用した後の信号として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行う、
【数22】


ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項8】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N,N’,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは二次元平面に配置されたN×N個のダイポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは二次元平面に配置されたN’×N’個のダイポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目y方向にj番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目y方向のm番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、Hnm(i,j,ω)をフィルタ、F(i,j,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,m,ω)を上記フィルタを適用した後の信号として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行う、
【数23】


ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項9】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは一次元平面に配置されたN個のモノポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは一次元平面に配置されたN’個のモノポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、H(i,ω)をフィルタ、F(i,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,ω)を上記フィルタを適用した後の信号、H(1)(・)を第一種ハンケル関数、H(2)(・)を第二種ハンケル関数として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行い、
【数24】


上記フィルタを適用した後の信号G(n,ω)に対して次式により定義されるフィルタ処理を行う補正フィルタ部を更に含み、
【数25】


上記時間領域変換部は、上記フィルタを適用した後の信号に代えて、上記補正フィルタによる補正後の信号G’(n,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項10】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは一次元平面に配置されたN個のダイポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは一次元平面に配置されたN’個のモノポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、H(i,ω)をフィルタ、F(i,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,ω)を上記フィルタを適用した後の信号、H(1)(・)を第一種ハンケル関数、H(2)(・)を第二種ハンケル関数として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行い、
【数26】


上記フィルタを適用した後の信号G(n,ω)に対して次式により定義されるフィルタ処理を行う補正フィルタ部を更に含み、
【数27】


上記時間領域変換部は、上記フィルタを適用した後の信号に代えて、上記補正フィルタによる補正後の信号G’(n,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項11】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは一次元平面に配置されたN個のモノポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは一次元平面に配置されたN’個のダイポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、H(i,ω)をフィルタ、F(i,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,ω)を上記フィルタを適用した後の信号、H(1)(・)を第一種ハンケル関数、H(2)(・)を第二種ハンケル関数として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行い、
【数28】


上記フィルタを適用した後の信号G(n,ω)に対して次式により定義されるフィルタ処理を行う補正フィルタ部を更に含み、
【数29】


上記時間領域変換部は、上記フィルタを適用した後の信号に代えて、上記補正フィルタによる補正後の信号G’(n,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項12】
請求項1から4の何れかに記載の音場収音再生装置において、
,N’を正の整数とし、上記マイクアレーは一次元平面に配置されたN個のダイポール特性のマイクで構成されており、上記時間領域信号を再生するスピーカアレーは一次元平面に配置されたN’個のダイポール特性のスピーカで構成されており、x方向にi番目のマイクの位置を(x,y,z)と表記し、x方向にn番目のスピーカの位置を(x,y,z)と表記し、kを波数とし、H(i,ω)をフィルタ、F(i,ω)を窓関数後周波数領域信号、G(n,ω)を上記フィルタを適用した後の信号、H(1)(・)を第一種ハンケル関数、H(2)(・)を第二種ハンケル関数として、
上記フィルタ部は次式で定義される処理を行い、
【数30】


上記フィルタを適用した後の信号G(n,ω)に対して次式により定義されるフィルタ処理を行う補正フィルタ部を更に含み、
【数31】


上記時間領域変換部は、上記フィルタを適用した後の信号に代えて、上記補正フィルタによる補正後の信号G’(n,ω)を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する、
ことを特徴とする音場収音再生装置。
【請求項13】
マイクアレーで収音された音信号をフーリエ変換により周波数領域信号に変換する周波数領域変換ステップと、
上記周波数領域信号に窓関数を乗じて窓関数後周波数領域信号を生成する窓関数ステップと、
上記マイクアレーよりも音源に近い位置での波面を模擬したフィルタを上記窓関数後周波数領域信号に適用するフィルタステップと、
上記フィルタを適用した後の信号を逆フーリエ変換により時間領域信号に変換する時間領域変換ステップと、
を含む音場収音再生方法。
【請求項14】
請求項1に記載された音場収音再生装置の各部としてコンピュータを機能させるための音場収音再生プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図16】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−244306(P2011−244306A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116112(P2010−116112)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】