説明

音場拡大及び位相無相関化システム及び方法

信号を無相関化するためのシステムにおいて、第1信号を処理する、第1の遅延長さを有する第1全域通過濾波器を含んでいるシステムである。第1全域通過濾波器には、第2遅延長さを有する第2全域通過濾波器が接続されており、第1全域通過濾波器による処理後の第1信号を処理する。第3遅延長さを有する第3全域通過濾波器が、第2信号を処理する。第3全域通過濾波器には、第4遅延長さを有する第4全域通過濾波器が接続されており、第3全域通過濾波器による処理後の第2信号を処理する。第1遅延長さ、第2遅延長さ、第3遅延長さ、及び第4遅延長さは、それぞれ、固有値を有しており、第1遅延長さと第2遅延長さの和は、第3遅延長さと第4遅延長さの和に等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号を処理するためのシステム及び方法に関し、より詳しくは、音場拡大、音声アーチファクトの消去、及び他の適した目的のための、時間ドメイン無相関化のためのシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
信号を処理するためのシステムと方法は、当技術分野では知られている。特に無相関化は、全域通過濾波器による場合、周波数と位相整形の両方を保有する濾波器による場合、共に様々なやり方で実現されてきた。これまでは、全域通過濾波器が使用され、信号は或る程度まで無相関化されてきたが、チャネル間遅延は補償されずじまいであり、無相関化の量を単純な様式で変える能力は持ち合わせていなかった。
【発明の概要】
【0003】
音声データの異なるチャネルについて周波数の関数としての可変位相シフトを作り出して、当該音声データのチャネル同士の間の位相相関を消去するシステムと方法が提供されている。
【0004】
具体的には、音声データのチャネル同士の間の好ましくない時間ドメイン相関を消去することにより、知覚される音場を拡大し、音声アーチファクトを消去し、及び他の適した機能を行うのに使用することができる、システムと方法が提供されている。
【0005】
本発明の或る例示的な実施形態によれば、信号を無相関化するためのシステムが提供されている。本システムは、第1信号を処理する、第1遅延長さを有する第1全域通過濾波器を含んでいる。第1全域通過濾波器には、第2遅延長さを有する第2全域通過濾波器が接続されており、第1全域通過濾波器による処理後の第1信号を処理する。第3遅延長さを有する第3全域通過濾波器が、第2信号を処理する。第3全域通過濾波器には、第4遅延長さを有する第4全域通過濾波器が接続されており、第3全域通過濾波器による処理後の第2信号を処理する。第1遅延長さ、第2遅延長さ、第3遅延長さ、及び第4遅延長さは、それぞれ、固有値を有しており、第1遅延長さと第2遅延長さの和は、第3遅延長さと第4遅延長さの和に等しい。
【0006】
当業者には、更に、以下に続く詳細な説明を図面と関連付けて読んで頂ければ、本発明の利点及び優れた特徴が、本発明の他の重要な態様と併せて理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大及び位相無相関化のためのシステムの線図である。
【図2】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、多チャンネル位相無相関化のためのシステムの線図である。
【図3】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大及び位相無相関化を行うためのシステムの線図である。
【図4】本発明の或る例示的な実施形態に基づき、位相を無相関化するように音声データの複数のチャネルを処理するための方法の線図である。
【図5】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音声チャネルの位相修正を行うためのシステムの線図である。
【図6】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、位相無相関化及び音場拡大を行うためのシステムの線図である。
【図7】本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大及び位相変調を用いた位相無相関化のためのシステムの線図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に続く説明では、明細書と図面の全体を通して同様の部分は同じ符号がそれぞれ付けられている。図面各図は、縮尺が一定でないこともあり、また或る特定の構成要素は、明解さと簡潔さを期し、一般化又は概略化された形式で示され、商業的な記号表記によって特定されていることもある。
【0009】
図1は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大及び位相無相関化のためのシステム100の線図である。システム100は、処理される音声チャネル信号の位相無相関化によって、知覚される音場の幅を広げるために使用することができる。
【0010】
システム100は、全域通過濾波器L1 102、全域通過濾波器L2 104、全域通過濾波器L3 106、及び全域通過濾波器L4 108を含み、それら濾波器のそれぞれは、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの適した組合せとして実装することができ、汎用処理用プラットフォーム上で動作する1つ又はそれ以上のソフトウェアシステムであってもよい。「ハードウェア」がここで使用されている場合、それは、個々の構成要素の組合せ、集積回路、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブル・ゲートアレイ、又は他の適したハードウェアを含むことができる。「ソフトウェア」がここで使用されている場合、それは、1つ又はそれ以上のオブジェクト、エージェント、スレッド、コード行、サブルーチン、別体のソフトウェアアプリケーション、2つ又はそれ以上のソフトウェアアプリケーション内又は2つ又はそれ以上のプロセッサ上で動作する2つ又はそれ以上のコード行又は他の適したソフトウェア構造、又は他の適したソフトウェア構造を含むことができる。1つの例示的な実施形態では、ソフトウェアは、オペレーティングシステムの様な汎用ソフトウェアアプリケーション内で動作する1つ又はそれ以上のコード行又は他の適したソフトウェア、及び特定用途向けソフトウェアアプリケーション内で動作する1つ又はそれ以上のコード行又は他の適したソフトウェア構造を含むことができる。
【0011】
全域通過濾波器L1 102は、全域通過濾波器L2 104に結合されており、全域通過濾波器L3 106は、全域通過濾波器L4 108に結合されている。「結合されている」という用語及びそれと同語源の語である「結合される」又は「結合する」の様な語がここで使用されている場合、それらは、物理的な接続(例えば配線、光ファイバー、又は通信媒体など)、仮想的な接続(例えばデータメモリデバイスの割り当てられたメモリ場所又はハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)リンクを介するなど)、論理的な接続(例えば集積回路内の1つ又はそれ以上の半導体デバイスを介するなど)、又は他の適した接続を含むことができる。
【0012】
システム100は、左チャネル音声データ及び右チャネル音声データを受信するが、それらデータは、音声データの一続きのデジタル時間ドメインサンプルであるかもしれないし、他の適した音声データであるかもしれない。左チャネル音声データは、L1の遅延長さを有する全域通過濾波器L1 102に提供される。音声データが音声信号のデジタル時間ドメインサンプルである1つの例示的な実施形態では、遅延長さL1は、全域通過濾波器L1 102の遅延要素内のサンプルの数に等しくなっていてもよい。左チャネル音声データが全域通過濾波器L1 102で処理された後、処理済みのデータは、次に、遅延長さL1とは異なる遅延長さL2を有する全域通過濾波器L2 104に提供される。処理済みの左チャネル音声データは、次に、録音や他の適した用途のために、例えばスピーカーなどに出力される。
【0013】
右側チャネルの音声データは、同様に、遅延長さL1又はL2の何れとも等しくない遅延長さL3を有する全域通過濾波器L3 106に提供される。処理済みの右チャネルデータは、次に、遅延長さL1、L2、及びL3のどれとも等しくない遅延長さL4を有する全域通過濾波器L4 108に提供される。処理済みの右チャネルデータは、次いで、録音、送信、ヘッドフォンでのレンダリング、又は他の適した用途のために、例えばスピーカーなどに出力される。
【0014】
1つの例示的な実施形態では、全域通過濾波器L1 102、全域通過濾波器L2 104、全域通過濾波器L3 106、及び全域通過濾波器L4 108は、それぞれ、濾波器係数によって決まるインパルス応答を有するスパースn次極零点濾波器であってもよい。全域通過濾波器L1 102、全域通過濾波器L2 104、全域通過濾波器L3 106、及び全域通過濾波器L4 108の遅延長さは、全域通過濾波器L1 102と全域通過濾波器L2 104によって処理される信号の総遅延長さが、全域通過濾波器L3 106と全域通過濾波器L4 108によって処理される信号の総遅延長さと同じになるように選択されている。1つの例示的な実施形態では、全域通過濾波器L1 102及び全域通過濾波器L3 106の遅延長さを第1素数対とし、全域通過濾波器L2 104及び全域通過濾波器L4 108の遅延長さを第2素数対とすることができ、そうして、適した素数対の選択により、全域通過濾波器の総長さが等しい値に設定されるようにしてもよい。1つの例示的な実施形態では、第1素数対の遅延長さを41と43とし、第2素数対の遅延長さを71と73とすることができ、そうして、全域通過濾波器L1 102は41の遅延長さを有し、全域通過濾波器L2 104は73の遅延長さを有し、全域通過濾波器L3 106は43の遅延長さを有し、全域通過濾波器L4 108は71の遅延長さを有するようにしてもよい。こうすれば、左チャネル音声データ(41+73)と右チャネル音声データ(43+71)の双方の全体的な処理遅延は等しく(114)なる。
【0015】
動作時、全域通過濾波器は、左チャネル音声データと右チャネル音声データに、当該全域通過濾波器の周波数及び長さによって決まる位相シフトを作り出す。それぞれの全域通過濾波器によって作り出される位相シフトが異なるため、左チャネル音声データと右チャネル音声データの間にそれ以前に存在する位相相関があれば何れも消去されることになり、その結果、例えば信号がラウドスピーカーを介して増幅され発信されるときなどの聴取者に対する音野は、見掛け上拡大される。個々の周波数ビンの位相の間に相関があれば、結果的に、当該周波数ビンの見かけの場所は、左チャネルスピーカーと右チャネルスピーカーの間の中央になってしまうため、その様な周波数の無相関化は見かけの音場を拡大することになる。換言すると、位相の相関は、音場を左チャネルスピーカーと右チャネルスピーカーの中央に向けて畳み込む結果になるのに対し、位相の無相関化は、音場が左チャネルスピーカーと右チャネルスピーカーの中央に向けて畳み込まれることを回避させる。適切な場合は、追加の全域通過濾波器を、更に又は代わりに利用し、追加の位相無相関化を作り出してもよい。
【0016】
また、それぞれのチャネルに2つの異なる区間対を接続し、そして一方の対の係数を他方の対の係数と90度位相差に維持したまま濾波器の係数を変調し、そうして無相関化が第3の信号によって変調されるようにすれば、位相シフトに時間依存性の変化を作り出すことも可能である。この第3の信号は、低周波数の正弦波、低周波数の狭帯域ノイズ信号、又は他の適した信号であって、部屋又は聴取環境内の反響と相殺のパターンに、人間の聴覚系にそれらの相殺や反響が強く気付かれない様式で、部屋の中を動き回らせるような信号であればよい。
【0017】
図2は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、多チャンネル位相無相関化のためのシステム200の線図である。システム200は、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの適した組合せとして実装することができ、汎用処理用プラットフォーム上で動作する1つ又はそれ以上のソフトウェアシステムであってもよい。このシステムは、従って、上記と同じ様式で時間依存型にされていてもよい。
【0018】
システム200は、第1音声チャネルから、第2音声チャネル、そして第N番目の音声チャネルまでの、音声データの複数のチャネルを含んでいる。L1の遅延長さを有する全域通過濾波器L1 202と、L2の遅延長さを有する全域通過濾波器L2 204は、第1音声チャネルを処理するのに使用され、L3の遅延長さを有する全域通過濾波器L3 206とL4の遅延長さを有する全域通過濾波器L4 208は、第2音声チャネルを処理するのに使用される。同様に、追加の各音声チャネルは、異なる遅延長さを有する異なる全域通過濾波器によって処理されてゆき、最終的に、最後即ち第N番目の音声チャネルが、L2Nの遅延長さを有する全域通過濾波器L2N 210とL2N+1の遅延長さを有する全域通過濾波器L2N+1 212によって処理される。それぞれの全域通過濾波器の個々の遅延長さは異なるが、それぞれのチャネルの総遅延長さは等しい。こうして、音声データのそれぞれのチャネルの個々の周波数ビンそれぞれに適用されている位相シフトは無相関化されることになり、それを音声アーチファクトが作り出されることを回避するのに使用すれば、レコーディングスタジオで、例えば録音ステージの異なる部分から音を記録するのに異なるマイクロフォンが使用される様な場合、又は他の適した用途で、音声アーチファクトが生成されないようにすることができる。
【0019】
図3は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大及び位相無相関化を行うためのシステム300の線図である。システム300は、第1チャネル信号処理回路及び第N番目チャネル信号処理回路を含んでおり、よって、システム300は、ステレオ、4チャネル音声、5.1チャネル音声、7.1チャネル音声、9.1チャネル音声、又は任意の他の適したチャネル数に使用することができる。
【0020】
システム300は、加算ユニット302、利得ユニット306、利得ユニット310、遅延304、及び加算ユニット308を含み、それらは、シュレーダー区間と呼んでもよい全域通過濾波器構成を形成しており、利得ユニット306及び利得ユニット310の利得係数が等しく且つ符号が反対であるときは長さL1の全域通過濾波器を提供し、あらゆる周波数を通過させるが、また、通される周波数、遅延、利得ユニット306と利得ユニット310の利得係数によって決まる位相シフトを加えもする。遅延の長さ及び利得ユニット306と利得ユニット310の利得に適した値を選択することにより、それぞれの周波数での位相シフトの量を制御することができる。1つの例示的な実施形態では、利得ユニット306の利得を+0.25に等しく、利得ユニット310の利得を−0.25に等しく設定することにより、例えば0ヘルツから20,000ヘルツの音声信号の場合などの位相シフトの量は、所定の方式で、所与の遅延値について、−180度から+180度の間で変化し、その結果、処理済みの信号には周波数依存位相シフトが生成されることになる。遅延長さL1は、処理されるサンプル信号の数とサンプリング速度に基づいて選択することができる。1つの例示的な実施形態では、44.1kHzの速度でサンプリングされるデジタル音声信号を処理することができ、その場合、遅延L1の長さは、サンプル数を44,100で除算したものに等しくなり、或いは、代わりに整数の処理サンプル数で特定することもできる。
【0021】
同様に、第2全域通過濾波器は、加算ユニット312、利得ユニット316と320、長さL2を有する遅延314、及び加算ユニット318を使用して提供されている。第1全域通過濾波器から受信された位相修正済み信号は、今度は、遅延長さL2及び利得ユニット316と320の振幅設定に基づく異なった位相シフト特性を有する第2全域通過濾波器によって修正される。
【0022】
同様に、第N番目チャネル処理連鎖では、加算ユニット322と328、利得ユニット326と330、及び遅延324を使用して、2Nの遅延長さを有する第1全域通過濾波器が形成され、加算ユニット332と338、利得ユニット336と340、及び遅延334を使用して、2N+1の遅延長さを有する第2全域通過濾波器が形成されている。遅延324及び334の遅延長さは、遅延304及び314の遅延長さとは異なっているが、それぞれの濾波器連鎖の総遅延長さは等しく、よって、遅延304と314の総遅延長さは、遅延324と334の総遅延長さに等しい。こうして、第1チャネルから第N番目チャネルまで処理されてゆく音は位相シフトされて、如何なる偶発的な位相相関も消去され、ひいては音がスピーカーに提供されてゆく場合の知覚される音場は拡大されて、如何なる偶発的な位相相関も不相関化され、例えば音が記録される場合や他の適した用途などでの音声アーチファクトは減少する。
【0023】
上で論じられているシュレーダー区間には、何れの適した全域通過濾波器を適切な数学的取り扱いと共に代用してもよい。
【0024】
図4は、本発明の或る例示的な実施形態に基づき、位相を無相関化するために、音声データの複数のチャネルを処理するための方法400の線図である。方法400は、音場を拡大するため、及び位相無相関化に関連する他の適した目的のために、使用することができ、汎用プロセッサ上のソフトウェアとして実装することができる。
【0025】
方法400は、ステップ402と404で並列して開始され、第1チャネルデータストリームが402で受信され、第N番目チャネルデータストリームが404で受信される。追加のチャネルも別途受信することができるので、何れの適したチャネル数であっても方法400を使って処理することができる。
【0026】
方法は、次に、406と408に並列して進み、第1チャネルデータは、L1の遅延長さを有する全域通過濾波器で処理され、第N番目チャネルデータは、2Nの遅延長さを有する全域通過濾波器で処理される。同様に、追加のチャネルであって、それぞれが、それ以外のチャネルの全域通過濾波器の遅延長さと異なる遅延長さを有するチャネルが提供されていてもよい。方法は、次に、410と412に並列して進む。
【0027】
410では、全域通過濾波器L1で処理された第1チャネルデータが、今度は全域通過濾波器L2で処理され、412では、全域通過濾波器L2Nで処理された第N番目チャネルデータが、全域通過濾波器L2N+1で処理される。同様に、追加のチャネルは、それぞれ、対応する第2全域通過濾波器によって処理されることになり、対応する第2全域通過濾波器のそれぞれの長さは、残りの第2全域通過濾波器の長さと異なっている。とはいえ、音声データの何れのチャネルについても、第1全域通過濾波器と第2全域通過濾波器の遅延長さの和は、残りのどのチャネルの全域通過濾波器の遅延長さの和とも等しくなるはずであるので、リアルタイム処理が行われるときのチャネル同士の間の抜調は回避される。音声データを保存用に処理しようとするとき、それぞれのチャネルの処理された音声データを後で相関させて、各チャネル毎の音声データを同期させることができる限り、それぞれの濾波器連鎖の遅延長さは異なっていてもよい。方法は、次に、414と416に並列して進む。
【0028】
414と416では、位相修正済みの第1チャネルデータが出力され、位相修正済みの第N番目チャネルのデータが出力される。同様に、追加のチャネルが出力される。こうして、データは、それぞれのチャネルの周波数の曲がり同士の間の位相相関が音場を中央に向けて畳み込むように仕向けてしまう未処理の音声信号よりも広い見掛けの音場を有する音声信号が生成されるように、スピーカーに提供される。同様に、無相関化済みの音声チャネルは、ミキシングや他の適した目的の様な、以降の処理のために録音されてもよい。
【0029】
実施の際、方法400は、例えば聴取者への見掛けの音場を拡大するため、音声アーチファクトが作り出されることを回避するため、又は他の適した目的などで、データのチャネルの位相を無相関化するのに使用することができる。2つの例示的な濾波器段が開示されているが、適している場合は、それぞれの濾波器連鎖の遅延長さがデータのそれぞれのチャネルで同じになる限り、追加の濾波器段を、更に又は代わりに、使用することもできる。
【0030】
図5は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音声チャネルの位相修正を行うためのシステム500の線図である。システム500は、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの適した組合せとして実装することができ、汎用処理用プラットフォーム上で動作する1つ又はそれ以上のソフトウェアシステムであってもよい。
【0031】
システム500は、加算ユニット502と508、利得ユニット506と510、及び2Nの長さを有する遅延504を含んでいる。同様に、第2全域通過濾波器ユニットは、加算ユニット512と518、利得ユニット516と520、及び2N+1の長さを有する遅延514で構成されている。単一のN番目チャネル濾波器連鎖が示されているが、それぞれが、他のそれぞれの濾波器連鎖の遅延長さと等しい総遅延長さを有している限り、適したチャネル数を選択することができ、但し、個々の遅延ユニット504及び514は何れも、その長さが他のそれぞれの遅延ユニットと異なっている。
【0032】
動作時、システム500は、ステレオ又は多チャンネル位相無相関化を行うための異なるアーキテクチャを提供する。適した利得値と異なる遅延長さを選択することにより、それぞれの全域通過濾波器は、処理される信号の周波数の関数として、他のどの全域通過濾波器の位相変異とも異なる位相変異を作り出して、好ましからざる位相相関が消去されるようにする。システム500は、音場の拡大、音声アーチファクトの消去、又は他の適した目的のために使用することができる。濾波器連鎖には、全ての濾波器連鎖の総遅延長さが等しくなる限り、追加の濾波器を、更に又は代わりに、足すことができる。
【0033】
図6は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、位相無相関化及び音場拡大を行うためのシステム600の線図である。システム600は、二次全域通過濾波器の非常に長いカスケードを利用しており、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの適した組合せとして実装することができ、汎用処理用プラットフォーム上で動作する1つ又はそれ以上のソフトウェアシステムであってもよい。シュレーダー区間には、全域通過濾波器の他の適した形態を適切な数学的取り扱いと共に代用してもよい。同様に、有用な位相シフトを提供し得る、二次カスケード用の多段の利得要素の計算が、然るべく開発されてもよい。
【0034】
図7は、本発明の或る例示的な実施形態に基づく、音場拡大と、利得変調を用いた位相無相関化のためのシステム700の線図である。
【0035】
システム700は、加算ユニット702、利得ユニット706、利得ユニット710、遅延704、及び加算ユニット708を含み、それらは、シュレーダー区間と呼んでもよい全域通過濾波器構成を形成しており、利得ユニット706と利得ユニット710の利得係数が等しく且つ符号が反対であるときは長さL1の全域通過濾波器を提供し、あらゆる周波数を通過させるが、また、通される周波数、遅延、利得ユニット706と利得ユニット710の利得係数によって決まる位相シフトを加えもする。同様に、第2全域通過濾波器が、加算ユニット712、利得ユニット716と720、長さL2を有する遅延714、及び加算ユニット718を使用して提供されている。第1全域通過濾波器から受信された位相修正済みの信号が、今度は、遅延長さL2及び利得ユニット716と720の振幅設定に基づく異なった位相シフト特性を有する第2全域通過濾波器によって修正される。
【0036】
利得変調ユニット722と724が、濾波器係数を、例えば−0.25から0.25の間又は他の適した値の間で勾配をつけるなどして変えるのに使用されている。利得ユニットの一方の対の係数は他方の対の係数と90度位相差に維持され、そうして無相関化が第3の信号によって変調され、位相シフトに時間依存性の変化が作り出されるようにしている。この第3の信号は、低周波数の正弦波、低周波数の狭帯域ノイズ信号、又は他の適した信号であってよい。こうして、部屋又は聴取環境内の反響と相殺のパターンが、聴取者に対し、当該聴取者の聴覚系に相殺や反響が知覚されないように動かされる。2つの利得変調ユニットが示されているが、単一又は他の適した数のユニットが、更に又は代わりに、使用されてもよい。
【0037】
本発明についての以上の詳細な説明及び付随の図面に照らせば、当業者には他の修正及び変型が自明である。また、その様な他の修正及び変型は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく達成され得ることも自明である。
【符号の説明】
【0038】
100、200、300、500、600、700 音場拡大及び位相無相関化のためのシステム
102、202 全域通過濾波器L1(L1は遅延長さ)
104、204 全域通過濾波器L2(L2は遅延長さ)
106、206 全域通過濾波器L3(L3は遅延長さ)
108、208 全域通過濾波器L4(L4は遅延長さ)
210 全域通過濾波器L2N(L2Nは遅延長さ)
212 全域通過濾波器L2N+1(L2N+1は遅延長さ)
302、308、312、318、322、328、332、338、502、508、512、518、702、708、712、718 加算ユニット
304、314、324、334、504、514、704、714 遅延
306、310、316、320、326、330、336、340、506、510、516、520、706、710、716、720、 利得ユニット
722、724 利得変調

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を無相関化するためのシステムにおいて、
第1信号を処理するための、第1遅延長さを有する第1全域通過濾波器と、
前記第1全域通過濾波器に結合されていて、前記第1全域通過濾波器による処理後の前記第1信号を処理するための、第2遅延長さを有する第2全域通過濾波器と、
第2信号を処理するための、第3遅延長さを有する第3全域通過濾波器と、
前記第3全域通過濾波器に結合されていて、前記第3全域通過濾波器による処理後の前記第2信号を処理するための、第4遅延長さを有する第4全域通過濾波器と、を備えており、
前記第1遅延長さ、前記第2遅延長さ、前記第3遅延長さ、及び前記第4遅延長さは、それぞれ、固有値を有し、前記第1遅延長さと前記第2遅延長さの和は、前記第3遅延長さと前記第4遅延長さの和に等しい、システム。
【請求項2】
前記第1全域通過濾波器、前記第2全域通過濾波器、前記第3全域通過濾波器、及び前記第4全域通過濾波器のそれぞれは、極零点濾波器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1全域通過濾波器は、
第1加算ユニットと、
前記第1加算ユニットの出力に結合されている第1利得ユニットと、
前記第1加算ユニットの出力に結合されている遅延と、
前記遅延及び前記第1利得ユニットに結合されている第2加算ユニットと、
前記遅延及び前記第1加算ユニットに結合されている第2利得ユニットと、を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1遅延長さと前記第3遅延長さは、第1素数対を備え、前記第2遅延長さと前記第4遅延長さは、第2素数対を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2全域通過濾波器に結合されていて、それぞれが固有の遅延長さを有している1つ又はそれ以上の追加の全域通過濾波器と、前記第4全域通過濾波器に結合されていて、それぞれが固有の遅延長さを有している1つ又はそれ以上の追加の全域通過濾波器と、を更に備えており、前記第1全域通過濾波器と、前記第2全域通過濾波器と、前記第2全域通過濾波器に結合されている前記1つ又はそれ以上の追加の全域通過濾波器の総遅延は、前記第3全域通過濾波器と、前記第4全域通過濾波器と、前記第4全域通過濾波器に結合されている前記1つ又はそれ以上の追加の濾波器の総遅延に等しい、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1全域通過濾波器、前記第2全域通過濾波器、前記第3全域通過濾波器、及び前記第4全域通過濾波器のそれぞれは、一次濾波器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1全域通過濾波器、前記第2全域通過濾波器、前記第3全域通過濾波器、及び前記第4全域通過濾波器のそれぞれは、デジタル濾波器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記全域通過濾波器のうちの1つの利得を前記全域通過濾波器のうちのもう1つの利得と90度位相差で変調する位相シフト変調器を更に備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
複数の信号を処理するための方法において、
第1広帯域音声信号を第1全域通過濾波器連鎖で処理して、前記第1広帯域音声信号に、周波数の関数としての第1変異を有する位相シフトを生成する段階と、
第2広帯域音声信号を第2全域通過濾波器連鎖で処理して、前記第2広帯域音声信号に、周波数の関数としての前記第1変異とは異なる、周波数の関数としての第2変異を有する位相シフトを生成する段階と、から成り、
前記第1全域通過濾波器連鎖と前記第2全域通過濾波器連鎖によって生成される位相変異は、+180度以下−180度以上の間で変化する、方法。
【請求項10】
前記第1広帯域音声信号を前記第1全域通過濾波器連鎖で処理する段階は、
前記第1広帯域音声信号を、第1遅延長さを有する第1全域通過濾波器で処理する段階と、
前記第1広帯域音声信号を、第2遅延長さを有する第2全域通過濾波器で処理する段階と、を備えており、前記第1遅延長さは前記第2遅延長さと異なっている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2広帯域音声信号を前記第2全域通過濾波器連鎖で処理する段階は、
前記第2広帯域音声信号を、第3遅延長さを有する第3全域通過濾波器で処理する段階と、
前記第2広帯域音声信号を、第4遅延長さを有する第4全域通過濾波器で処理する段階と、を備えており、前記第3遅延長さは、前記第1遅延長さ、前記第2遅延長さ、及び前記第4遅延長さと異なっており、前記第1遅延長さと前記第2遅延長さの和は、前記第3遅延長さと前記第4遅延長さの和に等しい、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1遅延長さと前記第3遅延長さは、第1素数対を形成し、前記第3遅延長さと前記第4遅延長さは、第2素数対を形成している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1広帯域音声信号を前記第1全域通過濾波器連鎖で処理する段階は、前記第1広帯域音声信号を、第1遅延長さを有する第1全域通過濾波器及び第2遅延長さを有する第2全域通過濾波器で処理する段階を含んでいる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第1全域通過濾波器と前記第2全域通過濾波器は、一次全域通過濾波器である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1広帯域音声信号を前記第1全域通過濾波器連鎖で処理する段階は、前記第1広帯域音声信号を、第1遅延長さを有する第1シュレーダー区間及び第2遅延長さを有する第2シュレーダー区間で処理する段階を含んでいる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記全域通過濾波器のうちの1つの利得を前記全域通過濾波器のうちのもう1つの利得と90度位相差で変調する段階を更に含んでいる、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
信号を無相関化するためのシステムにおいて、
第1信号を処理して、周波数の関数としての第1位相シフトを生成するための手段と、
第1信号を処理して、周波数の関数としての第2位相シフトを生成するための手段と、
第2信号を処理して、周波数の関数としての第3位相シフトを生成するための手段と、
第2信号を処理して、周波数の関数としての第4位相シフトを生成するための手段と、とを備えており、
周波数の関数としての前記第1位相シフト、周波数の関数としての前記第2位相シフト、周波数の関数としての前記第3位相シフト、及び周波数の関数としての前記第4位相シフトは、それぞれ、固有である、システム。
【請求項18】
前記第1信号を処理して周波数の関数としての前記第1位相シフトを生成するための前記手段は、一次全域通過濾波器を備えている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記第1信号を処理して周波数の関数としての前記第2位相シフトを生成するための前記手段は、二次全域通過濾波器を備えている、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
第1全域通過濾波器の利得を第2全域通過濾波器の利得と90度位相差で変調する位相シフト変調器を更に備えている、請求項17に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−530955(P2011−530955A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522969(P2011−522969)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/004478
【国際公開番号】WO2010/019192
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(503206684)ディーティーエス・インコーポレイテッド (11)
【氏名又は名称原語表記】DTS,Inc.
【Fターム(参考)】