説明

音声通信システム

【課題】 送信端末の位置に応じて定められる送話エリア内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することができる音声通信システムを提供する。
【解決手段】 音声信号を生成するマイクロホンと、音声信号を送信する無線通信部とを備えた送信端末と、音声信号を受信する無線通信部を備えた複数の受信端末と、1又は2以上のAPと、APを介して送信端末及び受信端末と通信し、送信端末から受信端末へ音声信号を中継するサーバ装置からなる。サーバ装置は、送信端末及び受信端末がそれぞれ位置する送信位置及び受信位置を取得する位置情報取得部と、送信位置に基づいて送話エリアを決定する送話エリア決定部と、送話エリア及び受信位置に基づいて音声信号の送信先となる受信端末を選択する送信先選択部と、APを介して送信端末から音声信号を受信し、選択された受信端末を送信先に指定して当該音声信号を送信するネットワーク通信部により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声通信システムに係り、さらに詳しくは、アクセスポイントを介して送信端末及び受信端末と通信するサーバ装置が送信端末から受信端末へ音声信号を中継する音声通信システムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削の工事現場のように大騒音下で作業する場合、作業者間で会話は成立しにくい。特に、話者が防塵マスクを着用している場合、聴者が話者の声を聴き取るのは困難である。また、防塵マスクを外して聴者に話しかける場合であっても、話者は大声で喋らなければならない。このため、大騒音下において、防塵マスクを着用したまま、会話することができる音声通信システムを実現することが従来から望まれていた。
【0003】
そこで、送話用のマイクロホンと、受話用のスピーカを備えたインカムを用いて作業者間の会話を無線通信により中継させることが考えられる。しかしながら、この様な従来の音声通信システムでは、話者のインカムから送信された音声信号が、通信可能なエリア内の全ての作業者に配信されてしまうという問題があった。
【0004】
なお、特許文献1には、使用者が向いている方位を算出し、使用者が向いている方位に通信対象の端末が存在すれば、当該端末と通信を確立させるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)装置が記載されている。しかし、この特許文献1に記載のHMD装置は、サーバ装置から映像コンテンツをダウンロードして表示し、音声データを再生するものであり、使用者の声を送信できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−273031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、送信端末の位置に応じて定められる送話エリア内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することができる音声通信システムを提供することを目的としている。
【0007】
特に、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することができる音声通信システムを提供することを目的としている。
【0008】
また、本発明は、送信端末及び受信端末間の距離に応じて異なる受話音量で音声信号を出力させることができる音声通信システムを提供することを目的としている。また、本発明は、使用者の向きと送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度に応じて異なる受話音量で音声信号を出力させることができる音声通信システムを提供することを目的としている。
【0009】
また、本発明は、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することにより、操作対象機器を遠隔操作することができる音声通信システムを提供することを目的としている。さらに、本発明は、送信端末の使用者が仮想ポイントを向いた状態で操作コマンドを発声することにより、受信端末が送話エリア内に存在するか否かに関わらず、操作対象機器を遠隔操作することができる音声通信システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明による音声通信システムは、音声信号を生成するマイクロホンと、上記音声信号を無線送信する無線通信部とを備えた送信端末と、音声信号を受信する無線通信部を備えた2以上の受信端末と、1又は2以上のアクセスポイントと、上記アクセスポイントを介して、上記送信端末及び上記受信端末と通信し、上記送信端末から上記受信端末へ音声信号を中継するサーバ装置とからなる。
【0011】
上記サーバ装置は、上記送信端末及び上記受信端末がそれぞれ位置する送信位置及び受信位置を取得する位置情報取得部と、上記送信位置に基づいて、送話エリアを決定する送話エリア決定部と、上記送話エリア及び上記受信位置に基づいて、音声信号の送信先となる上記受信端末を選択する送信先選択部と、上記アクセスポイントを介して上記送信端末から音声信号を受信し、選択された上記受信端末を送信先に指定して当該音声信号を送信するネットワーク通信部とを備えて構成される。この様な構成によれば、送信端末の位置に応じて定められる送話エリア内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することができる。
【0012】
第2の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記サーバ装置が、使用者の向きを上記送信端末から取得する向き情報取得部を備え、上記送話エリア決定部が、上記送信位置及び上記使用者の向きに基づいて、上記送話エリアを決定するように構成される。この様な構成によれば、送信端末の使用者が向いている方向に送話エリアを絞り込んで音声信号を配信することができる。
【0013】
第3の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記送話エリアが、上記送信端末から一定の距離範囲内であって、上記使用者の向きを含む一定の角度範囲内からなるように構成される。この様な構成によれば、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することができる。
【0014】
第4の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記受信端末が、受信した音声信号を出力するスピーカを備え、上記サーバ装置が、上記送信端末及び上記受信端末間の距離に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる受話音量調整部を備えて構成される。
【0015】
この音声通信システムでは、サーバ装置が、送信端末と受信端末との間の距離に応じて音声信号の受話音量を異ならせる。このため、受信端末では、サーバ装置から受信した音声信号を当該距離に応じて異なる受話音量で出力させることができる。
【0016】
第5の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記受信端末が、受信した音声信号を出力するスピーカを備え、上記サーバ装置が、上記使用者の向きと上記送信端末から見た上記受信端末の方向とのなす角度に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる受話音量調整部を備えて構成される。
【0017】
この音声通信システムでは、サーバ装置が、使用者の向きと送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度に応じて音声信号の受話音量を異ならせる。このため、受信端末では、サーバ装置から受信した音声信号を当該なす角度に応じて異なる受話音量で出力させることができる。
【0018】
第6の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記受信端末が、それぞれが一定の音声パターンからなる2以上の操作コマンドを保持する操作コマンド記憶部と、受信した音声信号に基づいて上記操作コマンドを選択し、操作対象機器へ出力する操作コマンド選択部とを備えて構成される。
【0019】
この音声通信システムでは、サーバ装置が、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することにより、操作対象機器を遠隔操作することができる。また、音声信号の送信先を送話エリア内の受信端末に絞り込むことにより、送信端末の使用者によって意図しない機器が誤操作されるのを抑制することができる。
【0020】
第7の本発明による音声通信システムは、上記構成に加え、上記ネットワーク通信部が、上記使用者が上記受信位置に対応して予め定められる仮想ポイントを向いていれば、上記受信端末が上記送話エリア内に存在するか否かに関わらず、上記送信端末から受信した音声信号を送信するように構成される。
【0021】
この様な構成によれば、送信端末の使用者は、仮想ポイントを向いた状態で操作コマンドを発声することにより、受信端末が送話エリア内に存在するか否かに関わらず、操作対象機器を遠隔操作することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による音声通信システムでは、送信端末の位置に応じて定められる送話エリア内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することができる。特に、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することができる。
【0023】
また、送信端末及び受信端末間の距離、或いは、使用者の向きと送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度に応じて異なる受話音量で音声信号を出力させることができる。
【0024】
また、送信端末から一定の距離範囲内であって、使用者の向きを含む一定の角度範囲内を送話エリアとして音声信号を配信することにより、操作対象機器を遠隔操作することができる。さらに、送信端末の使用者が仮想ポイントを向いた状態で操作コマンドを発声することにより、受信端末が送話エリア内に存在するか否かに関わらず、操作対象機器を遠隔操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1による音声通信システム100の一構成例を示したシステム図である。
【図2】図1の送受信端末10の構成例を示したブロック図である。
【図3】図1の中継サーバ23の構成例を示したブロック図である。
【図4】話者1の顔の向き2を基準として形成される指向エリアを模式的に示した説明図である。
【図5】図1の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の一例を示した図であり、話者1の向き2に形成される送話エリア3が示されている。
【図6】図1の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の他の一例を示した図である。
【図7】図3の中継サーバ23における音声配信時の動作の一例を示したフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態2による音声通信システム100における受信端末50の一構成例を示したブロック図である。
【図9】図8の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の一例を示した図であり、受信端末50が送話エリア3内に存在する場合が示されている。
【図10】図8の音声通信システム100の他の構成例を示した図であり、受信端末50の位置に対応して予め定められる仮想ポイント71が示されている。
【図11】図8の音声通信システム100のその他の構成例を示した図であり、仮想ポイント71から一定の距離範囲内を仮想受話エリアとする場合が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1.
<音声通信システム>
図1は、本発明の実施の形態1による音声通信システム100の一構成例を示したシステム図である。この音声通信システム100は、3以上の送受信端末10と、1又は2以上のAP(アクセスポイント)21と、これらのAP21がLAN(ローカルエリアネットワーク)22を介して接続された中継サーバ23とからなる移動体通話システムである。
【0027】
送受信端末10は、マイクロホンなどの音声入力装置と、スピーカなどの音声出力装置と、音声信号の無線通信装置とからなるヘッドセットであり、使用者の頭部に装着した状態で使用される。AP21は、所定の周波数帯域の電波を利用して無線サービスエリア内の送受信端末10と通信する通信機器である。
【0028】
中継サーバ23は、AP21を介して、各送受信端末10と通信し、送信端末から受信端末へ音声信号を中継するためのサーバ装置である。この中継サーバ23は、いずれかの送受信端末10から音声信号が送信された場合に、AP21を介して当該音声信号を受信し、送信端末の位置と使用者の向きとに応じて定められる送話エリア内の送受信端末10に送信先を絞り込んで音声信号を配信する。
【0029】
音声信号の送信先を送話エリア内の送受信端末10に絞り込むことにより、話者、すなわち、当該音声信号の送信元の送受信端末10の使用者が意図しない送受信端末10に音声信号が配信されるのを防止することができる。
【0030】
<送受信端末10>
図2は、図1の送受信端末10の構成例を示したブロック図である。この送受信端末10は、マイクロホン11、音声処理部12、送信制御部13、無線通信部14、スピーカ15、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)受信部16、位置算出部17、ジャイロセンサ18及び向き検出部19により構成される。
【0031】
マイクロホン11は、音声信号を生成する音声入力部であり、スピーカ15は、音声信号を出力する音声出力部である。音声処理部12は、VAD(Voice Activity Detection:発話区間検出)部31及びノイズ抑圧部32からなり、発話区間を検出してノイズを抑圧する処理を行う。
【0032】
VAD部31は、マイクロホン11から入力される音声信号について、発話区間を検出する。例えば、音量レベルを所定の判定閾値と比較し、その比較結果に基づいて、発話区間が検出される。ノイズ抑圧部32は、音声信号からノイズを除去するノイズ除去フィルタ部である。このノイズ抑圧部32は、例えば、非発話区間の音声信号に基づいて、ノイズパターンを生成し、マイクロホン11から入力される音声信号に重畳させることにより、ノイズを相殺させる。
【0033】
無線通信部14は、AP21と無線通信し、中継サーバ23との間で音声信号を送受信するための送受信部である。送信制御部13は、発話区間であるか否かに応じて音声信号を送信するか否かを制御する。すなわち、送信制御部13は、中継サーバ23に対し、発話区間の音声信号を送信する一方、非発話区間については音声信号を送信しないという送信制御を行う。この様な送信制御により、音声通信システム100内のトラフィック及び中継サーバ23の処理負荷を抑制することができる。
【0034】
マイクロホン11により生成された音声信号は、音声処理部12において処理され、処理後の音声信号が送信制御部13及び無線通信部14を介して中継サーバ23へ送信される。音声信号は、例えば、パケット化して送信される。一方、無線通信部14を介して受信した音声信号は、音声処理部12を介してスピーカ15に入力され、再生される。
【0035】
GPS受信部16は、自端末の位置を検知するために、GPS衛星からのGPS信号を受信し、その受信結果を位置算出部17へ出力する。位置算出部17は、GPS信号の受信結果に基づいて、自端末の位置を検出する。例えば、3以上のGPS衛星からGPS信号を同時に受信した場合に、GPS信号の受信結果から各GPS衛星の位置とGPS衛星までの距離とを求め、自端末の地球上の位置が算出される。
【0036】
自端末の位置は、例えば、経度、緯度及び高度を用いて表され、或いは、予め定められる基準ポイントを原点とするXYZ座標を用いて表され、その位置情報は、無線通信部14を介して中継サーバ23へ送信される。
【0037】
ジャイロセンサ18は、自端末の使用者の向きを検知するための角速度センサであり、例えば、振動体に加わるコリオリの力に基づいて、自端末の角速度を検出する。向き検出部19は、ジャイロセンサ18の出力に基づいて、使用者の顔の向きを検出し、その検出結果を無線通信部14へ出力する。
【0038】
使用者の顔の向きは、測定開始時における方向と、測定開始時からの経過時間で角速度を積分した積分値とから求められ、その向き情報は、無線通信部14を介して中継サーバ23へ送信される。
【0039】
<中継サーバ23>
図3は、図1の中継サーバ23の構成例を示したブロック図である。この中継サーバ23は、ネットワーク通信部201、位置及び向き情報取得部202、位置及び向き情報記憶部203、送話エリア決定部204、送信先選択部205、音声信号記憶部206及び受話音量調整部207により構成される。
【0040】
ネットワーク通信部201は、LAN22を介して各AP21と通信し、AP21の無線サービスエリア内の送受信端末10との間で音声信号を送受信するための送受信部である。位置及び向き情報取得部202は、送受信端末10の位置を示す位置情報と、送受信端末10の使用者の向きを示す向き情報とを各送受信端末10から取得する。
【0041】
ここでは、送受信端末10から音声信号を受信した場合に、当該音声信号の送信元の送受信端末10を送信端末と呼び、送信端末以外の送受信端末10であって、無線サービスエリア内に存在する送受信端末10を受信端末と呼ぶことにする。また、送信端末が使用するAP21と、受信端末が使用するAP21とは、同じAP21であっても良いし、異なっていても良い。
【0042】
位置及び向き情報取得部202では、送信端末及び受信端末がそれぞれ位置する送信位置及び受信位置と、送信端末の使用者の向きとが、定期的に取得される。例えば、位置情報及び向き情報の送信要求が、無線サービスエリア内の全ての送受信端末10を送信先に指定して、一定の時間間隔で繰り返し送信される。或いは、上記送信要求が、所定の配信スケジュールに従って、送信される。
【0043】
位置及び向き情報記憶部203には、送受信端末10から取得された位置情報及び向き情報が保持される。位置情報及び向き情報は、例えば、送受信端末10の識別情報と、位置情報及び向き情報と、IPアドレスなどのアドレス情報とからなる端末ごとの管理情報として管理され、位置及び向き情報取得部202により定期的に更新される。
【0044】
送話エリア決定部204は、送受信端末10から音声信号を受信した場合に、当該音声信号の送信位置と、送信端末の使用者の向きとに基づいて、音声信号の配信先となる受信端末を絞り込むための送話エリアを決定する。この送話エリアは、音声信号が送信されるエリアであり、例えば、送信端末から一定の距離範囲内であって、送信端末の使用者の向きを含む一定の角度範囲内からなる。
【0045】
ここでは、主として、送話エリアが、水平面内における1つの閉領域からなる場合について説明する。つまり、送信端末から受信した音声信号は、送信位置を中心とする円の内部であって、送信端末の使用者の向きを含み、使用者の向きと送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度が一定範囲内となる扇形領域を送話エリアとして送信される。
【0046】
送信先選択部205は、送話エリア及び受信位置に基づいて、位置及び向き情報記憶部203に登録されている受信端末の中から、音声信号の送信先となる受信端末を選択する。ネットワーク通信部201は、送信端末から音声信号を受信した場合に、送信先選択部205により選択された受信端末を送信先に指定して当該音声信号を送信する。
【0047】
音声信号記憶部206には、送話エリアを決定して送信先の受信端末を選択する上記処理のために、送信端末から受信した音声信号が一時的に保持される。受話音量調整部207は、音声信号記憶部206に保持された音声信号について、例えば、送信端末及び受信端末間の距離に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる音量調整処理を行う。
【0048】
或いは、受話音量調整部207は、送信端末の使用者の向きと、送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる音量調整処理を行う。送信端末と受信端末との間の距離に応じて音声信号の受話音量を異ならせることにより、受信端末では、中継サーバ23から受信した音声信号を当該距離に応じて異なる受話音量で出力させることができる。
【0049】
また、使用者の向きと送信端末から見た受信端末の方向とのなす角度に応じて音声信号の受話音量を異ならせることにより、受信端末では、中継サーバ23から受信した音声信号を当該なす角度に応じて異なる受話音量で出力させることができる。
【0050】
ネットワーク通信部201は、受話音量調整部207による音量調整処理後の音声信号を送信する。音声信号は、一定時間における音声波形を示す音声フレーム単位で保持され、送話エリアの決定処理、送信先の選択処理及び受話音量の調整処理は、音声フレームごとに実行される。
【0051】
<指向エリア>
図4は、話者1の顔の向き2を基準として形成される指向エリアを模式的に示した説明図である。図中の(a)には、水平面内の指向エリアが示され、(b)には、鉛直面内の指向エリアが示されている。話者1は、送信端末の使用者であり、メッセージなどを発声すれば、指向エリア内の送受信端末10を受信端末として音声信号が配信される。
【0052】
水平面内の指向エリアは、話者1の顔の向き2を含む一定の角度範囲からなり、その角度範囲を示す指向角θは、80〜120度程度である。すなわち、指向エリアは、話者1から見て、向き2の右側に角度θ1、左側に角度θ2の角度範囲からなり、80°≦(θ1+θ2)≦120°である。角度θ1,θ2は、例えば、θ1=θ2=40〜60度程度である。
【0053】
鉛直面内の指向エリアも、水平面内の指向エリアと同様に、話者1の顔の向き2を含む一定の角度範囲からなり、その角度範囲を示す指向角φは、70〜110度程度である。すなわち、指向エリアは、話者1から見て、向き2の上方に角度φ1、下方に角度φ2の角度範囲からなり、70°≦(φ1+φ2)≦110°である。角度φ1,φ2は、例えば、φ1=30〜50度程度、φ2=40〜60度程度である。
【0054】
<送話エリア3>
図5は、図1の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の一例を示した図であり、話者1の向き2に形成される送話エリア3が示されている。この図には、話者1からの距離に応じて音声信号の受話音量を3段階で変化させる場合が示されている。
【0055】
送話エリア3は、話者1の顔の向き2に形成される扇形領域であり、話者1の位置(送信端末の位置)を中心とする円の内部であって、話者1の向き2を含む一定の角度範囲からなる。送信端末から送信された音声信号は、送話エリア3内の受信端末44〜46に配信される。
【0056】
従って、指向エリア内ではあるが送話エリア3外となる受信端末41,42と、距離は近いが指向エリア外となる受信端末43には、音声信号は配信されない。この様に話者1の位置に応じて定められる送話エリア3内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することにより、話者1が意図しない受信端末に音声信号が配信されるのを防止することができる。
【0057】
また、音声信号を送話エリア3内の受信端末44〜46に配信する場合、話者1の位置と受信端末との間の距離TLに応じて、受話音量を異ならせる音量調整処理が行われる。すなわち、受信端末の位置が話者1の位置から遠いほど、受話時の音量レベルが低くなるような音量調整が行われる。この音量調整は、例えば、送信端末及び受信端末間の距離TLに対応して、音量レベルを多段階で減衰させることにより行われる。
【0058】
この例では、送話エリア3が、受話時の音量レベルが異なる3つのエリアに分割され、話者1からの距離TLに応じて受話音量を3段階で変化させている。すなわち、話者1から遠い第3のエリアに属する受信端末44,46における受話音の音量レベルは、話者1に近い第2のエリアに属する受信端末45に比べて、小さい。従って、話者1が所定の音量レベルで発声した音声メッセージは、受信位置が話者1から遠ざかるほど音量レベルを減衰させた音声信号に変換され、各受信端末44〜46に配信される。
【0059】
この様に構成することにより、受信端末では、中継サーバ23から受信した音声信号を送信端末及び受信端末間の距離TLに応じて異なる受話音量で出力させることができ、受信端末の使用者は、話者1が自身からどれくらい離れているかという距離感を掴み易い。
【0060】
図6は、図1の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の他の一例を示した図であり、話者1の向き2に形成される送話エリア3が示されている。この図には、話者1の向き2と話者1から見た受信端末の方向とのなす角度NAに応じて音声信号の受話音量を4段階で変化させる場合が示されている。
【0061】
音声信号を送話エリア3内の受信端末に配信する場合、話者1の顔の向き2と、話者1から見た受信端末の方向とのなす角度NAに応じて、受話音量を異ならせる音量調整処理が行われる。例えば、送話エリア3は、話者1の向き2を含む一定の角度範囲からなる第1のエリアと、第1のエリアの外側に形成される第2のエリアに分割され、第2のエリアでは、第1のエリアに比べて、話者1の向き2と受信端末の方向とのなす角度NAが大きくなるほど、受話時の音量レベルが低くなるような音量調整が行われる。この音量調整は、例えば、話者1の向き2と受信端末の方向とのなす角度NAに対応して、音量レベルを多段階で減衰させることにより行われる。
【0062】
この例では、第2のエリアが、受話時の音量レベルが異なる3つのエリアに分割され、なす角度NAに応じて受話音量を3段階で変化させている。つまり、話者1が所定の音量レベルで発声した音声メッセージは、受信位置のなす角度NAが大きくなるほど音量レベルを減衰させた音声信号に変換され、送話エリア3内の受信端末に配信される。
【0063】
この様に構成することにより、受信端末では、中継サーバ23から受信した音声信号を受信位置のなす角度NAに応じて異なる受話音量で出力させることができ、受信端末の使用者は、話者1がどの方向にいるかという方向感を掴み易い。
【0064】
中継サーバ23では、送信端末及び受信端末間の距離TLに応じて音声信号の受話音量を異ならせる音量調整と、受信位置のなす角度NAに応じて受話音量を異ならせる音量調整とを配信条件の1つとして任意に選択することができる。また、送信端末及び受信端末間の距離TLと、受信位置のなす角度NAとの両方に基づいて、音声信号の受話音量を変化させる音量調整を選択可能とする構成であっても良い。
【0065】
図7のステップS101〜S106は、図3の中継サーバ23における音声配信時の動作の一例を示したフローチャートである。まず、送話エリア決定部204は、ネットワーク通信部201により送信端末からの音声信号が受信されれば、送信端末の位置(送信位置)とその使用者の向き2とに基づいて、送話エリア3を決定する(ステップS101,S102)。
【0066】
送信先選択部205は、ステップS102において決定された送話エリア3と受信端末の位置(受信位置)とに基づいて、位置情報及び向き情報が登録されている受信端末の中から、音声信号の送信先となる受信端末を選択する(ステップS103)。
【0067】
受話音量調整部207は、音声信号記憶部206に保持された音声信号について、送信端末及び受信端末間の距離TL又は受信位置のなす角度NAに応じて受話音量を異ならせるべく、受信端末ごとの受話音量の重み付けを行う(ステップS104)。
【0068】
ネットワーク通信部201は、選択された受信端末を送信先に指定して、受話音量の重み付け後の音声信号を送信する(ステップS105)。ステップS101からステップS105までの処理手順は、音声フレームを処理単位として、音声信号の受信が終了するまで繰り返され、音声信号の受信が終了すれば、この処理は終了する(ステップS106)。
【0069】
本実施の形態によれば、送信端末の位置に応じて定められる送話エリア3内の受信端末に送信先を絞り込んで音声信号を配信することができる。特に、送信端末の使用者(話者1)が向いている方向に送話エリア3を絞り込んで音声信号が配信されるので、話者1が意図しない受信端末に音声信号が配信されるのを防止することができる。
【0070】
実施の形態2.
実施の形態1では、受信端末が、受信した音声信号をスピーカ15から出力する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、受信端末が、受信した音声信号と一致する操作コマンドを選択することにより、操作対象の機器を遠隔操作する場合について説明する。
【0071】
図8は、本発明の実施の形態2による音声通信システム100における受信端末50の一構成例を示したブロック図である。この受信端末50は、無線通信部51、操作コマンド記憶部52及び操作コマンド選択部53により構成され、音声認識の技術を利用して操作対象の機器を制御する。
【0072】
無線通信部51は、AP21と無線通信し、AP21を介して中継サーバ23から音声信号を受信する。操作コマンド記憶部52には、それぞれが一定の音声パターンからなる2以上の操作コマンドが保持される。操作コマンド選択部53は、受信した音声信号と一致する操作コマンドを選択し、操作対象機器へ出力する。操作対象機器では、受信端末50から入力される操作コマンドに対応する動作が行われる。
【0073】
図9は、図8の音声通信システム100における音声信号の配信時の動作の一例を示した図であり、受信端末50が送話エリア3内に存在する場合が示されている。この送話エリア3は、話者1から一定の距離範囲内であって、かつ、話者1の向き2を含む一定の角度範囲内からなる扇形領域である。
【0074】
受信端末50が送話エリア3内に存在すれば、話者が発生した操作コマンドが当該受信端末50に配信される。つまり、受信端末50の方向を向いて操作コマンドを発声することにより、当該受信端末50を遠隔操作することができる。
【0075】
本実施の形態によれば、中継サーバ23が、送信端末から一定の距離範囲内であって、話者1の向き2を含む一定の角度範囲内を送話エリア3として音声信号を配信することにより、操作対象機器を遠隔操作することができる。また、音声信号の送信先を送話エリア3内の受信端末50に絞り込むことにより、話者1によって意図しない機器が誤操作されるのを抑制することができる。
【0076】
なお、実施の形態2では、送話エリア3内の受信端末50にだけ音声信号が配信される場合の例について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、話者1が予め定められる仮想ポイントを向いていれば、受信端末50の位置に関わらず、音声信号が受信端末50に配信されるような構成のものも本発明には含まれる。
【0077】
図10は、図8の音声通信システム100の他の構成例を示した図であり、受信端末50の位置に対応して予め定められる仮想ポイント71が示されている。この音声通信システム100は、トンネル坑内6を通信可能エリアとし、受信端末50のコマンド出力を利用してレーザーポインタ70を遠隔操作する。
【0078】
レーザーポインタ70は、離間した位置にいる作業者により遠隔操作される操作対象機器であり、トンネル坑内6に配置され、レーザー光7を切羽面における削孔目標に照射する。
【0079】
仮想ポイント71は、中継サーバ23に対し、レーザー光7の照射位置を示す位置情報を設定することにより、定められる。中継サーバ23のネットワーク通信部201は、話者1が仮想ポイント71の方向を向いていれば、受信端末50が送話エリア3内に存在するか否かに関わらず、受信端末50を送信先に指定して音声信号を送信する。つまり、仮想ポイント71が送話エリア3に含まれていれば、受信端末50自体の位置に関わらず、音声信号が受信端末50に配信される。
【0080】
この様に構成することにより、話者1は、仮想ポイント71を向いた状態で操作コマンドを発声することにより、受信端末50が送話エリア3内に存在するか否かに関わらず、レーザーポインタ70を遠隔操作することができる。この遠隔操作により、例えば、レーザー出力をオン又はオフし、或いは、レーザー光7の照射位置を変更することができる。
【0081】
また、図10では、話者1が仮想ポイントを向いていれば音声信号が受信端末50に配信される場合の例について説明したが、送信端末が仮想ポイント71から一定の距離範囲内に存在すれば、音声信号が受信端末50に配信されるような構成のものも本発明には含まれる。
【0082】
図11は、図8の音声通信システム100のその他の構成例を示した図であり、仮想ポイント71から一定の距離範囲内を仮想受話エリアとする場合が示されている。この音声通信システム100では、切羽面8に削孔を形成するための削孔車9がトンネル坑内6に配置され、仮想ポイント71から一定の距離範囲内を受話エリアとして、話者1がその受話エリア内にいれば、レーザーポインタ70が遠隔操作可能となる。
【0083】
削孔車9は、ジャンボと呼ばれる重機であり、回転するドリル91を切羽面8に当接させることにより、削孔を形成する。この削孔車9は、レーザーポインタ70のレーザー光7を切羽面8における削孔目標に照射すれば、そのマーキング動作と連動して、ドリル91のロール角、ヨー角及びピッチ角を自動的に調整し、レーザー光7の照射位置に削孔を形成することができる。
【0084】
中継サーバ23のネットワーク通信部201は、話者1が、仮想ポイント71を中心とする受話エリア内にいる場合に、受信端末50が送話エリア3内に存在するか否かに関わらず、受信端末50を送信先に指定して音声信号を送信する。つまり、話者1は、受信端末50の位置に対応して予め定められる受話エリア内に移動することにより、音声でレーザーポインタ70を遠隔操作することができる。
【0085】
また、実施の形態1及び2では、送受信端末10が、GPS衛星からGPS信号を受信して自端末の位置を検知する場合の例について説明したが、本発明は、自端末の位置の検知方法をこれに限定するものではない。例えば、加速度を検出する加速度センサを用いて自端末の位置を検知しても良い。また、AP21ごとに異なる複数の無線サービスエリアから通信可能エリアが形成される場合、3以上のAP21について、各AP21から送信されるブロードキャスト信号の受信強度を測定し、その測定結果に基づいて自端末の位置を検知するような構成であっても良い。
【0086】
また、実施の形態1及び2では、中継サーバ23が送受信端末10から位置情報を取得する場合の例について説明したが、本発明は、位置情報の取得方法をこれに限定するものではない。例えば、送受信端末10が使用するAP21を示す情報を利用して、通信可能エリア内の送受信端末10をグループ分けすることにより、AP21ごとの無線サービスエリア単位で、送受信端末10の位置を特定するような構成であっても良い。
【0087】
また、実施の形態1及び2では、送話エリア3が、送信端末から一定の距離範囲内であって、話者1の向き2を含む一定の角度範囲内からなる扇形領域である場合の例について説明したが、本発明は、送話エリア3の構成をこれに限定するものではない。例えば、AP21ごとに異なる複数の無線サービスエリアから通信可能エリアが形成される場合に、固定的に形成されるAP21ごとの無線サービスエリアの中から、送話エリアを選択するような構成であっても良い。
【0088】
また、実施の形態1及び2では、送話エリア3内の受信端末に音声信号が配信される場合の例について説明したが、予め定められる特定の固定エリア内の受信端末には音声信号が常に配信されるような構成のものも本発明には含まれる。
【符号の説明】
【0089】
100 音声通信システム
10 送受信端末
11 マイクロホン
12 音声処理部
13 送信制御部
14 無線通信部
15 スピーカ
16 GPS受信部
17 位置算出部
18 ジャイロセンサ
19 向き検出部
21 AP
22 LAN
23 中継サーバ
201 ネットワーク通信部
202 位置及び向き情報取得部
203 位置及び向き情報記憶部
204 送話エリア決定部
205 送信先選択部
206 音声信号記憶部
207 受話音量調整部
1 話者(送信端末の使用者)
2 話者の向き
3 送話エリア
41〜46 受信端末
50 受信端末
6 トンネル坑内
70 レーザーポインタ
71 仮想ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を生成するマイクロホンと、上記音声信号を無線送信する無線通信部とを備えた送信端末と、
音声信号を受信する無線通信部を備えた2以上の受信端末と、
1又は2以上のアクセスポイントと、
上記アクセスポイントを介して、上記送信端末及び上記受信端末と通信し、上記送信端末から上記受信端末へ音声信号を中継するサーバ装置とからなる音声通信システムにおいて、
上記サーバ装置は、上記送信端末及び上記受信端末がそれぞれ位置する送信位置及び受信位置を取得する位置情報取得部と、
上記送信位置に基づいて、送話エリアを決定する送話エリア決定部と、
上記送話エリア及び上記受信位置に基づいて、音声信号の送信先となる上記受信端末を選択する送信先選択部と、
上記アクセスポイントを介して上記送信端末から音声信号を受信し、選択された上記受信端末を送信先に指定して当該音声信号を送信するネットワーク通信部とを備えたことを特徴とする音声通信システム。
【請求項2】
上記サーバ装置は、使用者の向きを上記送信端末から取得する向き情報取得部を備え、
上記送話エリア決定部は、上記送信位置及び上記使用者の向きに基づいて、上記送話エリアを決定することを特徴とする請求項1に記載の音声通信システム。
【請求項3】
上記送話エリアが、上記送信端末から一定の距離範囲内であって、上記使用者の向きを含む一定の角度範囲内からなることを特徴とする請求項2に記載の音声通信システム。
【請求項4】
上記受信端末は、受信した音声信号を出力するスピーカを備え、
上記サーバ装置は、上記送信端末及び上記受信端末間の距離に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる受話音量調整部を備えたことを特徴とする請求項3に記載の音声通信システム。
【請求項5】
上記受信端末は、受信した音声信号を出力するスピーカを備え、
上記サーバ装置は、上記使用者の向きと上記送信端末から見た上記受信端末の方向とのなす角度に応じて、音声信号の受話音量を異ならせる受話音量調整部を備えたことを特徴とする請求項3に記載の音声通信システム。
【請求項6】
上記受信端末は、それぞれが一定の音声パターンからなる2以上の操作コマンドを保持する操作コマンド記憶部と、
受信した音声信号に基づいて上記操作コマンドを選択し、操作対象機器へ出力する操作コマンド選択部とを備えたことを特徴とする請求項3に記載の音声通信システム。
【請求項7】
上記ネットワーク通信部は、上記使用者が上記受信位置に対応して予め定められる仮想ポイントを向いていれば、上記受信端末が上記送話エリア内に存在するか否かに関わらず、上記送信端末から受信した音声信号を送信することを特徴とする請求項6に記載の音声通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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