説明

音響インクジェット記録装置

【課題】 音響インクジェットヘッドにおいてノズル部で生じていたインクの固着による詰まり等を防ぎ、またノズルユニット内でのインク流路を広くし印字品質を確保する。
【解決手段】 装置本体に設けられる音響波発生用ヘッド部13と、インク保持部9及びインク10を吐出するノズルスリット7が形成されるノズルユニット12とが、分割可能に構成される。ノズルユニット12に形成されたノズルスリット7に対応する音響波発生部1,2,3を、音響波発生用ヘッド部13の本体部分に対して凸状部として形成すると共に、該凸状部がノズルユニットのインク保持部9内に嵌入するように構成する。音響波発生部とノズルユニットを正規位置に嵌合させた際に、凸状部の先端に形成される音響波発生部をノズルスリットの近傍に配置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板の振動を利用してインク液滴を飛翔させるヘッド部を備えた音響インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の音響インクジェット記録装置(音響インクジェットプリンタ)として、種々の構造のものが知られている。
すなわち、この種の音響インクジェットプリンタでは、圧電基板による振動が音響放射圧となって音響伝搬部材とインク溜り内のインクを通り、ノズル穴のインク液面からインク液滴を飛翔させて、印字を行うように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、この種の音響インクジェットプリンタでは、たとえばノズル内のインクは、ノズルの裏側に横方向に設けられたインク供給路から供給されており、ノズル部とヘッド本体側の電極部は分離不可能になっていた。
【0004】
これを図3及び図4を用いて簡単に説明する。
これらの図において、符号1は圧電基板、2はコモン電極、3は信号電極、4は音響伝搬部材、5は音響放射圧、6はインク液滴、7はノズルスリット、8はインク供給路、9はインク溜まり、10はインク、11は印字用紙、12はノズルユニットである。
【0005】
このような印字ヘッドによれば、コモン電極2とコモン電極2に直行する信号電極3の両電極に圧電基板1の共振周波数で電圧を印加すると圧電基板1の振動が音響放射圧5となって音響伝搬部材4とインク溜り9内のインク10を通り、ノズルスリット7のインク液面からインク液滴6を飛翔させて、図示しない印字用紙に印字するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−299151号公報
【特許文献2】特開平5−57891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来の構造による音響インクジェットプリンタでは、他の種類のインクジェットプリンタと同様に使用しないで置いておくと、ノズルスリット7の部分等でインクが乾いて固着が起き、インク10を吐出(飛翔)させることが出来なくなるという問題があった。
【0008】
また、音響インクジェットプリンタとしては、図5に示すように、ノズルユニット12を、ヘッドユニット13側に対して分離するように構成したものも知られている。この種の分割タイプの音響インクジェットプリンタでは、音響放射圧5の減衰の問題から、ヘッドユニット13からノズルスリット7までのインク10の厚みを80μm程度にする必要がある。
【0009】
そして、従来の分割タイプの構造では、全体を薄くする構成にしたために、ノズルユニット12の厚みが80μm程度になってしまい、該ノズルユニット12単体での強度が保てないという問題があり、このような点に配慮し、前述したインク詰まりや印字品質の向上を図れる何らかの対策を講じることが望まれている。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来ノズル部で生じていたインクの固着による詰まり等を防ぎ、またノズルユニット内でのインク流路を広くし印字品質を確保し得る音響インクジェット記録装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る音響インクジェット記録装置は、装置本体に設けられる音響波発生用ヘッド部と、インク保持部及びインクを吐出するノズルスリットが形成され前記音響波発生用ヘッド部に対して分離可能に構成されたノズルユニットとから構成される音響インクジェット記録装置であって、前記ノズルユニットに形成されたノズルスリットに対応する音響波発生部を、前記音響波発生用ヘッド部の本体部分に対して凸状部として形成すると共に、該凸状部が前記ノズルユニットのインク保持部内に嵌入するように構成し、前記音響波発生部とノズルユニットが正規位置に嵌合された際に、前記凸状部の先端に形成される音響波発生部が前記ノズルスリットの近傍に配置されるように構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項2記載の発明)に係る音響インクジェット記録装置は、請求項1記載の音響インクジェット記録装置において、分離可能に構成された前記ノズルユニットにおける前記音響波発生用ヘッド部の凸状部が嵌入する箇所は、インクが封止されつつ凹状に変形可能に構成される伸縮性の隔壁で構成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明(請求項3記載の発明)に係る音響インクジェット記録装置は、請求項2記載の音響インクジェット記録装置において、前記隔壁は、伸縮性を有するフィルム状部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明に係る音響インクジェット記録装置によれば、分割構成されているノズルユニットを、ヘッドユニット等の本体にセットする際、ヘッドユニットをノズルユニット内まで挿入する構造とし、ノズルユニットの厚みに対してヘッドユニット上のインク層厚を薄くさせるように構成したので、簡単な構成であるにもかかわらず、以下に述べる優れた効果を奏する。
【0015】
(1)分割構成されているノズルユニットの厚みを超音波共振周波数に関係なく厚く出来るので、ノズルユニットの外側にヘッドユニットを接触させる構造に対し、ノズルユニットの強度を上げることができる。
【0016】
(2)分割構成されているノズルユニットの厚みを超音波共振周波数に関係なく厚く出来るので、ノズルユニットの外側にヘッドユニットを接触させる構造に対し、分割構成されているノズルユニットの内のインク流路を広くとれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る音響インクジェット記録装置の一実施形態を示し、概略構成を示す概略分解斜視図である。
【図2】図1の音響インクジェット記録装置の組み立て状態を示す概略斜視図である。
【図3】従来の音響インクジェット記録装置の一例を示すインクジェットヘッドのノズル部の平面図である。
【図4】ノズル部にノズルプレートを取り付けた状態での通常使用状態の断面図である。
【図5】従来の音響インクジェット記録装置のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および図2は本発明に係る音響インクジェット記録装置の一実施形態を示すものであり、これらの図において、前述した図3以降と同一または相当する部分には同一番号を付して説明は省略する。
【0019】
ここで、図1はノズルユニット12を本体のヘッドユニット13にセットする前の状態を、図2は本体のヘッドユニット13にノズルユニット12が取り付けられた状態であって、通常使用状態を示す。
【0020】
本発明による音響インクジェット記憶装置(音響インクジェットプリンタ)は、装置本体に設けられる音響波発生用ヘッド部であるヘッドユニット13と、インク保持部であるインク溜まり9及びインク10を吐出するノズルスリット7が形成され前記ヘッドユニット13に対して分離可能に構成されたノズルユニット12とから構成される。
【0021】
そして、分割構成されているノズルユニット12は、図1に示すように、プリンタのヘッドユニット13の本体部分にセットする前は、中にインク10は無く、空状態であり、図2のようにノズルユニット12をプリンタのヘッド本体部分にセット後にインクタンク15よりインク10が供給される構造とする。
【0022】
図1で、プリンタの本体側にはヘッドユニット13とインクタンク15、インク供給路8が設けてあり、図2のようにノズルユニット12を本体にセットすると、ヘッドユニット13の凸状部分がノズルユニット12内のインク溜り9に入るのと同時に、本体側のインク供給路8にノズルユニット12が嵌合され、ノズルユニット12内のインク溜り9にインク10が供給される。ヘッドユニット13の凸状部分先端には後述する音響波を発生するヘッドユニット13が形成される。
【0023】
図1でノズルユニット12のノズルスリット7の反対側の面には、ヘッドユニット13が挿入される穴があり、伸縮性の隔壁としての伸縮性のフィルム14で塞がれている。
【0024】
図2のように、ノズルユニット12内にヘッドユニット13の凸状部が入ると、フィルム14は伸びてヘッドユニット13の凸状部先端に設けられた音響波発生ヘッド部(1,2,3)は正規のセット位置(ノズルスリット7の極近傍)まで来るように構成されている。
【0025】
印字時は、コモン電極2とコモン電極2に直行する信号電極3の両電極に圧電基板1の共振周波数で電圧を印加すると、圧電基板1の振動が音響放射圧5となって音響伝搬部材4とインク溜り9(インク保持部)内のインク10を通り、ノズルスリット7のインク液面からインク液滴6を飛翔させるようになっている。
【0026】
この実施形態では、インク溜り9内のヘッドユニット13の音響伝搬部材4からノズルスリット7までの距離は60μmとした。即ち、音響波発生ヘッド部上のノズルスリット12の開口部に位置するインク層(インク10)が、極めて薄い層として形成され、インク液滴6の飛翔特性を向上させる構成となっている。
【0027】
換言すれば、分割構成されているノズルユニット12を、ヘッドユニット13等の本体にセットする際、ヘッドユニット13をノズルユニット12内まで挿入する構造とし、ノズルユニット12の厚みに対してヘッドユニット13上のインク層厚を薄くさせるように構成している。
【0028】
そして、このような構成によれば、分割構成されているノズルユニット12の厚みを超音波共振周波数に関係なく厚く出来るので、ノズルユニット12の外側にヘッドユニット13を接触させる構造に対し、ノズルユニット12の強度を上げることができる。
【0029】
また、ノズルユニット12の厚みを超音波共振周波数に関係なく厚く出来るから、ノズルユニット12の外側にヘッドユニット13を接触させる構造に対し、分割構成されているノズルユニット12の内のインク流路(インク供給路8)を広くとれる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態で説明した構造には限定されず、音響インクジェット記録装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
たとえば上述した実施形態では、ノズルスリット7を長穴で形成した場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、ノズルとして丸穴を並べて構成してもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 圧電基板
2 コモン電極
3 信号電極
4 音響伝搬部材
6 液滴
7 ノズルスリット
8 インク供給路
9 インク溜まり
10 インク
12 ノズルユニット
13 ヘッドユニット
14 フィルム
15 インクタンク
16 整合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体に設けられる音響波発生用ヘッド部と、インク保持部及びインクを吐出するノズルスリットが形成され前記音響波発生用ヘッド部に対して分離可能に構成されたノズルユニットとから構成される音響インクジェット記録装置であって、
前記ノズルユニットに形成されたノズルスリットに対応する音響波発生部を、前記音響波発生用ヘッド部の本体部分に対して凸状部として形成すると共に、
該凸状部が前記ノズルユニットのインク保持部内に嵌入するように構成し、
前記音響波発生部とノズルユニットが正規位置に嵌合された際に、前記凸状部の先端に形成される音響波発生部が前記ノズルスリットの近傍に配置されるように構成したことを特徴とする音響インクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1記載の音響インクジェット記録装置において、
分離可能に構成された前記ノズルユニットにおける前記音響波発生用ヘッド部の凸状部が嵌入する箇所は、インクが封止されつつ凹状に変形可能に構成される伸縮性の隔壁で構成されてなることを特徴とする音響インクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2記載の音響インクジェット記録装置において、
前記隔壁は、伸縮性を有するフィルム状部材であることを特徴とする音響インクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−167694(P2010−167694A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12756(P2009−12756)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】