音響システム及び音響特性制御装置
【課題】スピーカから放射する音によって聴者が感じる音の距離感を制御できるようにする。
【解決手段】居室70には、視聴者Pを取り囲むようにして床FF上に配置された5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRと、天井WUに配置された平面スピーカSFがある。音響特性制御装置10は、5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうち視聴者Pの前方にあるスピーカSCを供給先とする信号MDCにおける減衰対象帯域WRHのピークPRHを減衰させるフィルタ処理を実行し、このフィルタ処理を経た信号MDSFをスピーカSFから平面波として放射させる。減衰対象帯域WRHは、視聴者Pの頭部伝達関数Hにおける高さ方向の定位に影響のある特徴量を有する帯域とする。
【解決手段】居室70には、視聴者Pを取り囲むようにして床FF上に配置された5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRと、天井WUに配置された平面スピーカSFがある。音響特性制御装置10は、5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうち視聴者Pの前方にあるスピーカSCを供給先とする信号MDCにおける減衰対象帯域WRHのピークPRHを減衰させるフィルタ処理を実行し、このフィルタ処理を経た信号MDSFをスピーカSFから平面波として放射させる。減衰対象帯域WRHは、視聴者Pの頭部伝達関数Hにおける高さ方向の定位に影響のある特徴量を有する帯域とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映画館やホームシアターにおける音の臨場感を高めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
映画館やホームシアターの音響設備に広く採り入れられている音響技術の一つにマルチチャネルサラウンド技術がある。マルチチャネルサラウンド技術は、映像コンテンツの画像とともに再生される音の音像を聴者の前方と側方に配した複数個のスピーカを用いて制御することで、臨場感に富んだ音を聴者に提供する技術である。マルチチャネルサラウンド技術における各スピーカの配置位置については、ITU(International
Telecommunication Union)による勧告がなされている。例えば、5チャネルのマルチサラウンド技術では、視聴者の前方におけるスクリーンのある側にセンタチャネルスピーカが配置され、その左右に左フロントスピーカと右フロントスピーカが配置される。また、視聴者の左側方と右側方に左サラウンドスピーカと右サラウンドスピーカが配置される。これら5つのスピーカのうちセンタチャネルスピーカは、台詞のように視聴者の正面に定位する音の再生に用いられる。左フロントスピーカおよび右フロントスピーカは、視聴者の正面左側、真正面或いは正面右側の音像の定位に用いられる。左サラウンドスピーカおよび右サラウンドスピーカは、聴者の側方や後方に定位する音の再生に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−522467号
【特許文献2】特開平05−191987号
【特許文献3】米国特許5555306号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、映画館やホームシアターにおいて上映される映像コンテンツの中には、各フレームの再生画像に立体視のための処理が施されているものがある。このような3Dの映像コンテンツでは、作品中の人物がスクリーンよりも手前の位置に居るかのような演出が施されたシーンが多く登場する。このようなシーンにおいて人物の台詞の音を聴いた視聴者にその音の音源が自身の耳元近くであるかのように感じさせることができれば、映像コンテンツの上映中の音の臨場感をより高めることが可能である。しかしながら、これまでのマルチサラウンド技術では、スピーカから放射する音を聴取することよって視聴者が感じる音の距離感を制御することはできなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、スピーカから放射する音によって聴者が感じる音の距離感を制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカを含む複数個のスピーカと、前記複数個のスピーカに音信号を供給する手段であって、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記複数個のスピーカにおける前記平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給するそれぞれの音信号の信号レベルを設定する制御手段とを具備することを特徴とする音響システムを提供する。
【0007】
この発明では、平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給する音信号の信号レベルを設定することにより聴者に聴取させる音の距離感を制御する。よって、本発明によると、聴者に感じさせる音の音像を聴者から見て手前の位置に定位させることができる。従って、本発明によると、複数のスピーカから3Dコンテンツの再生音を放音させた場合に聴者が感じる音の距離感を、聴者が3Dコンテンツの再生画像を視認することによって感じる当該再生画像内の表示物の距離感に合わせて制御することができる。
【0008】
ここで、聴者に聴取させる音の距離感制御に関わる技術が開示された文献として、特許文献1〜3がある。しかし、特許文献1の技術は、通常のスピーカと波面合成スピーカとを併用することによって音の音源の定位方向及び距離感を制御するものである。また、特許文献2の技術は、左右2チャネルの入力信号L,Rと、その和信号L+R及び遅延差信号φ(L−R)とにより推定される音源の仰角に基づいて、聴者の頭上のスピーカから放出する音の音響的特徴を制御するものである。また、特許文献3の技術は、複数の音源信号に信号処理を施すことにより、直接音の成分を含む信号と初期反射音の成分を含む信号とを個別に生成し、これらの信号を加算した信号を距離感の制御された信号として出力するものである。よって、これらの文献1〜3の技術は本発明とは内容を異にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態である音響システムを含む3Dコンテンツ視聴システムが設置された居室の平面図及び正面図である。
【図2】同システムの音響特性制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】同システムによる動画像コンテンツの立体視の原理を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態である音響システムの制御装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態である音響システムが設置された居室を示す平面図である。
【図6】本発明の第4実施形態である音響システムが設置された居室を示す平面図である。
【図7】上記各実施形態の音響特性制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図8】上記各実施形態の音響特性制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図9】上記各実施形態において音の距離感の制御に用いるスピーカの組み合わせの他の例を示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態である音響システムを示す図である。
【図11】同音響システムの信号処理系の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の他の実施形態である音響システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
図1(A)は、本発明の第1実施形態である音響システムを含む3Dコンテンツ視聴システムが設置された居室70の平面図である。図1(B)は、図1(A)の居室70を矢印B方向から見た図である。本実施形態である音響システムは、3D映像コンテンツの再生画像とともに再生される再生音を居室70内の視聴者Pに聴取させるシステムである。ここで、居室70において、聴取者Pの前方の壁WF、後方の壁WB、左側の壁WL、右側の壁WRのうち前方の壁WFの内側中央のテレビラック81上には3DテレビRSが置かれている。視聴者Pは、偏光メガネGを装着して居室70の中心に置かれた椅子71に腰かけ、3DテレビRSに映し出される再生画像を鑑賞する。
【0011】
図1(A)に示すように、本実施形態である音響システムは、居室70の床FFにおける視聴者Pの前方(3DテレビRSのある側)、左前方、右前方、左後方、及び右後方にそれぞれ設置された、センタチャネルスピーカSC、左フロントスピーカSL、右フロントスピーカSR、左サラウンドスピーカSBL、及び右サラウンドスピーカSBRと、天井WUにおける視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置されたスピーカSFと、コンテンツ再生装置80と、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFとコンテンツ再生装置80との間に介挿された音響特性制御装置10とを有する。
【0012】
視聴者Pの周囲の6つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFの各放音面は視聴者Pに向けられている。床FFにおける5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、各々に与えられた音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABRを、平面波でない音波(例えば、球面波)である音MC,ML,MR,MBL,MBRとして放射するスピーカである。視聴者Pは、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBRから放射された音MC,ML,MR,MBL,MBRが自身の左耳ELと右耳ERに到達した時刻の到達時間差(音の伝搬経路の差に応じた位相差)や音圧差(音の伝搬経路の差に応じた振幅の減衰量の差)によって音MC,ML,MR,MBL,MBRの音源の方向を認識し、その音源に対応する音像を知覚する。
【0013】
スピーカSFは、当該スピーカSFに与えられる音信号MASFを平面波である音MSFとして放射する平面スピーカである。より具体的に説明すると、図1(B)の右側の枠内の詳細図に示すように、スピーカSFは、1枚の振動板1と、この振動板1を両側から挟む2枚の電極板2U及び2Dとを有する。振動板1と電極板2Uとの間には不織布3Uが介挿されており、振動板1と電極板2Dとの間には不織布3Dが介挿されている。電極板2U及び2Dには音波を通過させるための複数の孔が穿設されている。振動板1には直流バイアス電圧VBが印加される。そして、電極板2U及び2Dの各々には、当該スピーカSFの入力信号MASFである正逆2相の信号V0及び−V0(|V0|<VB)が印加される。
【0014】
ここで、振動板1及び電極板2U間の電界強度F1(不図示)は、振動板1及び電極板2U間の電位差VB−V0に依存し、振動板1及び電極板2D間の電界強度F2(不図示)は、振動板1及び電極板2D間の電位差VB−(−V0)に依存する。そして、スピーカSFでは、信号V0の極性が正であり、信号−V0の極性が負である場合には、VB−V0<VB−(−V0)となり、F1<F2となるので、振動板1は電極板2Uに向かって変位する。逆に信号V0の極性が負であり、信号−V0の極性が正である場合には、VB−V0>VB−(−V0)となり、F1>F2となるので、振動板1は電極板2D側に向かって変位する。このように信号V0及び−V0に応じて振動板1は電極板2U方向または電極板2D方向に変位する。そして、この振動板1が電極板2Dの側に変位する度に、振動板1と電極板2Dとの間に信号V0及び−V0に応じた空気の粗密波である音波が発生する。この音波が電極板2D及びその孔を透過し、平面波である音MSFとして下方に伝搬される。この音MSFは、平面波でない音MC,ML,MR,MBL,MBRと異なり距離減衰が殆どない。このため、音MSFは、天井WUにあるスピーカSFから放射された後、殆ど減衰することなく視聴者Pの左耳EL及び右耳ERに届く。
【0015】
コンテンツ再生装置80は、3D映像コンテンツの再生画像を示す画像信号Vとその再生音を示す左右2チャネルの音信号L,Rとを発生する信号発生装置としての役割を果たす。図2に示すように、コンテンツ再生装置80は、光学ドライブ11とデコーダ12とを有している。光学ドライブ11は、記録媒体90に記録されている3D映像コンテンツの圧縮符号化信号を読み出してデコーダ12に供給する。デコーダ12は、この圧縮符号化信号に復号化処理を施すことにより再生画像の画像信号Vと再生音の左右2チャネルの音信号L,Rを生成し、信号Vを3DテレビRSに供給するとともに信号V,L,Rを音響特性制御装置10に供給する。3DテレビRSは、コンテンツ再生装置80の出力信号Vに従って再生画像を表示する動作を行う。
【0016】
図3に示すように、3D映像コンテンツの再生画像には、左眼視用の表示物IOLと右眼視用の表示物IOR(以下、表示物IOLと表示物IORを区別しない場合は表示物IOと記す)が間隔(以下、この間隔を両眼視差SDFという)を空けて映っている。視聴者Pが偏光メガネGを通してこの画像を視た場合、左眼VSNLの網膜と右眼VSNRの網膜には一方の表示物IOだけが結像する。これにより、視聴者Pは、左眼VSNLによって認識する表示物IOLの位置と右眼VSNRによって認識する表示物IORの位置との差である両眼視差SDFに応じた距離Dだけ表示物IOが手前に存在しているかのように錯覚し、再生画像が奥行きをもった3D映像として視認される。
【0017】
音響特性制御装置10は、コンテンツ再生装置80の出力信号L,Rから各スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFを供給先とする6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成して各々に供給するとともに、これらのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFのうち視聴者Pの上方(ほぼ真上)のスピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルと前方のスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルとのバランスを調整することにより視聴者Pに聴取させる音MCの距離感を制御する役割を果たす。
【0018】
図2に示すように、音響特性制御装置10は、方向性制御部210と、遅延部220と、LPF(Low Pass Filter)230と、増幅部241,242,243,244,246と、位相反転部250と、フィルタ260と、D/A変換部271,272,273,274,275,276と、利得制御部280とを有する。各部の役割について説明すると、方向性制御部210は、音信号Lと音信号Rの和L+RをスピーカSCを供給先とする音信号MDCとし、この音信号MDCを増幅部241及び246に供給する。また、方向性制御部210は、音信号LをスピーカSLを供給先とする音信号MDLとし、この音信号MDLを増幅部242に供給する。また、方向性制御部210は、音信号RをスピーカSRを供給先とする音信号MDRとし、この音信号MDRを増幅部243に供給する。また、方向性制御部210は、音信号Lと音信号Rの差L−RをスピーカSBLを供給先とする音信号MDBLとし、この音信号MDBLを遅延部220に供給する。
【0019】
増幅部241は、方向性制御部210から供給される音信号MDCを利得g1で増幅する。増幅部241による増幅を経た音信号MDC×g1はD/A変換部271に入力される。D/A変換部271は、音信号MDC×g1をD/A変換したアナログ音信号MACをスピーカSCに供給し、スピーカSCから音MCを放射させる。増幅部242は、方向性制御部210から供給される音信号MDLを利得g2で増幅する。増幅部242による増幅を経た音信号MDL×g2はD/A変換部272に入力される。D/A変換部272は、音信号MDL×g2をD/A変換したアナログ音信号MALをスピーカSLに供給し、スピーカSLから音MLを放射させる。増幅部243は、方向性制御部210から供給される音信号MDRを利得g3で増幅する。増幅部243による増幅を経た音信号MDR×g3はD/A変換部273に入力される。D/A変換部273は、信号MDR×g3をD/A変換したアナログ音信号MARをスピーカSRに供給し、スピーカSRから音MRを放射させる。
【0020】
遅延部220は、方向性制御部210から出力された信号MDBLを遅延量Δφだけ遅延させた遅延音信号MDBL’を出力する。この遅延部220の遅延量Δφは居室70内において創出する残響感の大きさなどを考慮して決めるとよい。遅延部220の出力信号MDBL’はLPF230に入力される。LPF230は、音信号MDBL’における高域成分を除去した信号MDBL”を増幅部244に出力する。増幅部244は、LPF230から出力される信号MDBL”を利得g4で増幅する。増幅部244による増幅を経た音信号MDBL”×g4は、D/A変換部274と位相反転部250に入力される。D/A変換部274は、音信号MDBL”×g4をD/A変換したアナログ音信号MABLをスピーカSBLに供給し、スピーカSBLから音MBLを放射させる。位相反転部250は、信号MDBL”×g4の位相を反転させた音信号MDBRをD/A変換部275に出力する。D/A変換部275は、音信号MDBRをD/A変換したアナログ音信号MABRをスピーカSBRに供給し、スピーカSBRから音MBRを放射させる。
【0021】
増幅部246は、方向性制御部210から出力された音信号MDCを利得g6で増幅する。増幅部246による増幅を経た信号MDC×g6はフィルタ260に入力される。フィルタ260は、信号MDC×g6に対して視聴者Pの頭部伝達関数H(すなわち、視聴者Pの頭が無いと仮定した場合における視聴者Pの両耳EL及びERの中心位置から視聴者Pの外耳道入口(または鼓膜)に至る音の伝達関数)における高さ方向の定位に影響のある特徴量RHを補正するフィルタ処理を施し、このフィルタ処理を経た信号MDSFをD/A変換部276に出力する。より具体的には、フィルタ260は、信号MDC×g6における特徴量RHを含む周波数帯域(例えば、6kHzから8kHz)内の所定の成分を減衰させてディップDRHを形成させるフィルタ処理を実行する。そして、フィルタ260は、信号MDC×g6におけるディップDRHを形成させた信号を信号MDSFとする。D/A変換部276は、信号MDSFをD/A変換したアナログ音信号MASFをスピーカSFに供給し、スピーカSFから音MSFを放射させる。
【0022】
ここで、この音MSFは、視聴者Pに音MCの音源が自身の近くにあるかのように感じさせる効果を発揮する。その理由は次の通りである。平面スピーカであるスピーカSFから放射される音MSFは、平面スピーカでないスピーカSCから放射される音MCに比べると音のエネルギーの距離減衰量が極めて小さく、近くの受聴点における音の音圧と遠くの受聴点における音の音圧との間にほとんど差が生じない。また、視聴者Pが日頃聴取する音は平面スピーカでないスピーカから放射される音であるのが通常である。このため、視聴者Pは、自身の左耳EL及び右耳ERに到達した音に距離減衰の殆どない平面波が含まれていても、そのことを意識することなく音の音量を主な手掛かりにして音源までの距離を感覚的に認識(推測)する。よって、視聴者Pは、自身の通常の距離感からすれば伝搬距離が長くなるに従って減衰するはずの音波が減衰せずに左耳EL及び右耳ERに到達した場合、その音が近くの音源から放射された音であると錯覚する。このような理由により、平面波である音MSFが平面波でない音MCとともに視聴者Pに向けて放出されている場合、視聴者Pは音MCの音源が近くにあるかのように感じる。
【0023】
利得制御部280は、増幅部241,242,243,244,246の利得g1,g2,g3,g4,g6を制御する回路である。利得制御部280は、増幅部241の利得g1と増幅部246の利得g6との間に次式(1)の関係が成り立つように利得g1及びg6を連動して制御する。なお、利得g2〜g4は、通常のサラウンドシステムにおいて各チャネルに適用されるものと同様な利得が適用される。
g12+g62=1…(1)
【0024】
より詳細に説明すると、利得制御部280は、コンテンツ再生装置80のデコーダ12から1フレーム分の画像信号Vが与えられる度に、画像信号Vを解析し、その信号Vが表す画像内の表示物IOについての両眼視差SDFを求める。この両眼視差SDFは、視聴者Pに見せる物体の距離感を演出するためのパラメータであり、演出しようとする距離感(より具体的には物体の前後方向の位置)により増減する。そこで、利得制御部280は、この両眼視差SDFを視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号、より具体的には視聴者Pに知覚させる音源の前後方向における位置を指定する制御信号として利用し、この両眼視差SDFに係数K1を乗じた値を増幅部246の利得g6とし、この利得g6を前掲式(1)に代入して求まる値(1−g62)1/2を増幅部241の利得g1とする。
【0025】
本実施形態によると、次の効果が得られる。
第1に、本実施形態では、複数個のスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,SFに供給する音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFのうちセンタチャネルスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルと平面スピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルのバランスを調整することにより視聴者Pに聴取させる音の距離感を制御する。よって、本実施形態によると、視聴者Pに感じさせるセンタチャネルの音MCの音像を、3DテレビRSの再生画像よりも手前の位置に定位させることができる。従って、本実施形態によると、視聴者Pが3Dコンテンツの再生音MCを聴取することによって感じる当該音MCの距離感を、視聴者Pが3Dコンテンツの再生画像を視認することによって感じる当該再生画像内の表示物IOの距離感に合わせて制御することができる。
【0026】
第2に、本実施形態では、スピーカSFは天井WUにおける視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置されている。スピーカSFの設置位置が視聴者Pの上方である場合、視聴者Pが3D映像コンテンツの視聴中に左右方向などに顔の向きを変えたとしても、視聴者Pは左耳ELに到達する音MSFと視聴者Pの左耳ERに到達する音MSFとの間に大きな違いを感じないため、距離感をつかみ難い。このため、視聴者Pは、3D映像コンテンツの視聴中に左右方向などに顔の向きを変えたとしても、自身の上方にスピーカSFがあることに気付かない。よって、本実施形態によると、スピーカSFを別の位置に設置する場合に比べて距離感の制御を行い易くすることができる。
【0027】
第3に、本実施形態では、利得制御部280は、増幅部241の利得g1と増幅部246の利得g6を前掲の式(1)の関係が成り立つように連動して制御する。よって、例えば、あるシーンの表示物IOを立体視した場合における距離Dが大きければ利得g6を上げるとともにその分だけ利得g1を下げ、距離Dが小さければ利得g6を下げるとともにその分だけ利得g1を上げる、といった操作を行うことにより、視聴者Pが感じる音の大きさを変えることなくその音の距離感だけを変化させることができる。
【0028】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態である音響システムにおける音響特性制御装置10Aの構成を示すブロック図である。この音響特性制御装置10Aは、音響特性制御装置10(図2)のフィルタ260をフィルタ260Aに置き換えたものである。このフィルタ260Aは、平面スピーカSFを供給先とする信号MDC×g6に対して平面スピーカSFから視聴者Pまでの区間の伝達関数HAの逆数の関数に対応したフィルタ係数列hj(j=1,2…g)(より具体的には、伝達関数HAの逆数の関数に逆FFT(Fast Fourier Transform)を施して得られるフィルタ係数列hj(j=1,2…g))を畳み込む処理をフィルタ処理として実行し、この処理の処理結果(MDC×g6)*hj(j=1,2…g)を信号MDSFとしてD/A変換部276に出力する。本実施形態では、この畳込み演算により、平面スピーカSFからの音MSFと平面スピーカSFでないスピーカSCからの音MCとをより一体化させ、距離感制御の精度を高めることができる。
【0029】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態である音響システムが設置された居室70を示す図である。本実施形態では、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFが壁WFにおける視聴者Pの前方の位置に設置されている。この平面スピーカSFの放射面は視聴者Pに向けられている。本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態では、スピーカSFを天井WUではなく前方の壁WFに設置するため、第1実施形態よりもスピーカSFの設置作業の負担が軽くなる。
【0030】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態である音響システムが設置された居室70を示す図である。本実施形態では、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFLが左側の壁WLにおける視聴者Pの左側方の位置に設置されている。また、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFRが右側の壁WRにおける視聴者Pの右側方の位置に設置されている。平面スピーカSFL及びSFRの放射面は視聴者Pに向けられている。音響特性制御装置10は、この2つのスピーカSFL及びSFRに同振幅且つ同位相の音信号を供給する。本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態では、スピーカSFL及びSFRを天井WUではなく壁WL及びWRに設置するため、第1実施形態よりもスピーカSFL及びSFRの設置作業の負担が軽くなる。
【0031】
<他の実施形態>
以上、この発明の第1乃至第4実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。また、以下の変形例同士を適宜組み合わせても良い。
【0032】
(1)上記第1,第3,及び第4実施形態において、フィルタ260は、信号MDC×g6における特徴量RHを含む帯域内の所定の成分を減衰させてディップDRHを形成させるフィルタ処理を実行した。このフィルタ260として、ディップDRHの帯域よりも低域の帯域を通過させるローパスフィルタとディップDRHの帯域よりも高域の帯域を通過させるハイパスフィルタを並列化した帯域除去フィルタ等、複数種類のフィルタを組み合わせたフィルタを用いてもよい。
【0033】
(2)上記第1〜第4実施形態では、利得制御部280は、画像信号Vが示す画像内における表示物IOの両眼視差SDFを、視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号として利用し、この制御信号に応じて増幅部241及び246の利得g1及びg6を制御した。しかし、音の距離感を手動で任意に指定する操作を行うためのリモコンを視聴者Pに携帯させ、利得制御部280がこのリモコンの操作に従って利得g1及びg6を任意の値に制御するようにしてもよい。
【0034】
あるいは、このようなリモコンの操作によって生成される制御信号を画像信号および音信号とともに記録媒体に記録するコンテンツ制作装置を構成してもよい。具体的には、画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとを再生し、映像と音声を視聴者Pに視聴させるとともに、視聴者Pにリモコンの操作を行わせることにより制御信号を発生させ、距離感を適切に制御させる。このリモコン操作により発生する制御信号を元の画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとともに圧縮符号化し、その結果得られる3D映像コンテンツの圧縮符号化信号を記録媒体に記録する。そして、コンテンツ再生装置80がこの記録媒体から画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとともに制御信号を同期再生し、音響特性制御装置10,10Aに供給するのである。
【0035】
この態様によれば、距離感を指定する制御信号を視聴者Pのリモコン操作により生成し、その制御信号を含む3D映像コンテンツを制作することができる。従って、視聴者Pの個性を反映した3D映像コンテンツを制作することができる。
【0036】
(3)上記第1〜第4実施形態では、コンテンツ再生装置80は、左右2チャネルの音信号L,Rを音響特性制御装置10,10Aに出力した。そして、音響特性制御装置10,10Aが、この左右2チャネルの音信号L,Rから6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成し、これらの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFのうちセンタチャネルスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルと平面スピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルのバランスを制御した。しかし、コンテンツ再生装置80がスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFを供給先とする6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成して音響特性制御装置10,10Aに出力するようにしてもよい。
【0037】
(4)上記実施形態において、床上FF上の5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、平面スピーカでないスピーカであった。しかし、これらのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちの全部または一部を、平面スピーカにより構成してもよい。また、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちの全部または一部をアレイスピーカにより構成してもよい。この場合、アレイスピーカを視聴者Pの周囲ではなく前方に設置して、生成した音響ビームの反射を利用して、音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを視聴者Pに向けて放射してもよい。
【0038】
(5)上記第1実施形態において、天井の平面スピーカSFから視聴者Pまでの音の伝搬距離に比べて、正面のスピーカSCから視聴者Pまでの音の伝搬距離の方が一般に長い。そこで、この音の伝搬距離の差による時間差を補償するために、図7に示すように、増幅部246に供給する音信号を遅延させる遅延部246Dを追加し、正面のスピーカSCからの音の視聴者Pの耳への到着タイミングと天井のスピーカSFからの音の視聴者Pの耳への到着タイミングを一致させる構成としてもよい。
【0039】
(6)上記第1〜第4実施形態では、音信号MACの利得g1と音信号MASFの利得g6の両方を制御することにより、両信号MAC及びMASFの信号レベルのバランスを調整した。しかし、音信号MACの信号レベルを固定値としたまま音信号MASFの信号レベルを変化させたり、音信号MASFの信号レベルを固定値としたまま音信号MACの信号レベルを変化させることにより、両信号MAC及びMASFの信号レベルのバランスを調整するようにしてもよい。
【0040】
(7)上記第1〜第4実施形態では、床FF上の5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちスピーカSCを供給先とする信号MDCを距離感制御の対象とし、この信号MDCからスピーカSFに与える信号MASFを生成した。しかし、スピーカSCを供給先とする音信号MDC,スピーカSLを供給先とする音信号MDL,スピーカSRを供給先とする音信号MDR,スピーカSBLを供給先とする音信号MDBL、及びスピーカSBRを供給先とする音信号MDBRのうちいずれか1種類の音信号からスピーカSFに与える信号MDSFを生成してもよい。
【0041】
また、5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうち2つの以上のスピーカに供給する信号の加算信号からスピーカSFに与える信号MASFを生成してもよいし、5種類の音信号MDSF,MDL,MDR,MDBL,MDBRの全てを加算した加算信号からスピーカSFに与える信号MASFを生成してもよい。
【0042】
例えば、居室70内における視聴者の左前方と右前方のスピーカSL及びSRの音ML及びMRによって居室70内における所望の位置に仮想音源をつくる構成となっている音響システムにおいて、スピーカSLを供給先とする信号MDLとスピーカSRを供給先とする信号MDRの加算信号MDL+MDRからスピーカSFに与える信号MASFを生成するようにしてもよい。このような構成によると、加算信号MDL+MDRの利得と信号MASFの利得を増減させることにより、視聴者Pに仮想音源が近くにあるかのように感じさせることができる。
【0043】
また、平面スピーカSFの個数を2つ以上とし、スピーカSLを供給先とする音信号MDLから1つの平面スピーカSF−1を供給先とする音信号MASF−1を生成し、スピーカSRを供給先とする音信号MDRからもう1つの平面スピーカSF−2を供給先とする音信号MASF−2を生成する、というように、複数個の平面スピーカSFを供給先とする音信号を個別に生成するようにしてもよい。
【0044】
(8)上記第1実施形態において、視聴者Pの正面のスピーカSCを供給先とする音信号MDCの中から距離感の制御の対象となる成分の信号(たとえば、台詞や効果音等の一部の成分の信号)を抽出し、スピーカSCおよび平面スピーカSFに振り分けてもよい。
【0045】
図8はこの態様の構成例を示すブロック図である。この例において、スピーカSCを供給先とする音信号MDCは、分離部290により距離感制御の対象となる成分の音信号MDCAと距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBとに分離される。ここで、距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBは、増幅部241Bにより所定の利得で増幅され、加算器241Cに供給される。一方、距離感制御の対象となる成分の音信号MDCAは、増幅部241Aおよび246に供給される。この増幅部241Aおよび246の各利得は、上記第1実施形態の増幅部241および246と同様、視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号に基づいて制御される。そして、増幅部241Aの出力信号は加算器241Cへ、増幅部246の出力信号はフィルタ260の処理を経てD/A変換部276へ出力される。そして、D/A変換部276の出力信号が平面スピーカSFに供給され、音として出力される。加算器241Cは、増幅部241Aの出力信号と距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBとを加算した信号をD/A変換部271へ出力する。そして、D/A変換部271の出力信号がスピーカSCに供給され、音として出力される。
【0046】
この態様によれば、スピーカSCを供給先とする音信号MDCの中から距離感の制御の対象となる成分の音信号MDCAが抽出され、距離感を指定する制御信号に基づいて決定される各利得で増幅されてスピーカSCおよびSFに振り分けられる。従って、スピーカSCを供給先とする音信号MDCの中の特定の成分に限定して距離感の制御を行うことができる。
【0047】
分離部290としては各種の構成のものが考えられるが、例えば台詞や効果音等の成分が属する帯域の音信号を通過させる帯域通過フィルタを使用してもよい。
【0048】
また、例えば上記変形例(7)のように左フロントスピーカSLや右フロントスピーカSR等へ供給する音信号から平面スピーカSFに供給する音信号を生成する場合においても、各音信号の中から距離感の制御の対象となる成分の信号のみを抽出し、各スピーカに各々振り分けてもよい。
【0049】
(9)上記2実施形態では、フィルタ260Aは、平面スピーカSFを供給先とする信号MDC×g6に対して平面スピーカSFから視聴者Pまでの区間の伝達関数HAの逆数の関数に対応したフィルタ係数列hj(j=1,2…g)を畳み込む処理をフィルタ処理として実行した。しかし、頭部伝達関数Hの逆数の関数に応じたフィルタ係数列を畳込んでもよい。また、伝達関数HAと頭部伝達関数Hの和を伝達関数HA+Hとし、この伝達関数HA+Hの逆数の関数に応じたフィルタ係数列を畳込んでもよい。
【0050】
(10)上記各実施形態では、図9(a)に例示するように、平面スピーカSFと平面スピーカでないスピーカSCとの組み合わせにより、視聴者Pに聴かせる音の距離感の制御を行った。しかし、図9(b)に例示するように、スピーカSCを平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SCFに置き換え、異なる方向から視聴者Pに音を放射する2個の平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFおよびSCFの組み合わせにより距離感の制御を行ってもよい。図9(a)に例示するように平面スピーカSFと平面スピーカでないスピーカSCとを組み合わせた構成では、スピーカSCの近傍から視聴者Pの近傍までの広い範囲Dに亙って距離感の制御が可能である。図9(b)に例示するように平面スピーカSFと平面スピーカSCFとを組み合わせた構成では、範囲Dよりは狭い、視聴者P寄りの範囲D’に亙って距離感の制御が可能である。
【0051】
(11)視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感制御と右耳に聴かせる音の距離感制御を独立に行うようにしてもよい。図10および図11はこの態様の構成例を示すものである。この例では、図10に示すように、天井の視聴者Pの上方の位置に平面スピーカSFLおよびSFRが配置されている。ここで、平面スピーカSFLが放射する音は視聴者Pの左耳のみに届いて右耳には届かず、平面スピーカSFRが放射する音は視聴者Pの右耳のみに届いて左耳には届かないように、平面スピーカSFLおよびSFRの位置が決定されている。視聴者Pの左前方のスピーカSLは、視聴者Pの左耳に向けて音を放射する。また、視聴者Pの右前方のスピーカSRは、視聴者Pの右耳に向けて音を放射する。
【0052】
図11はスピーカSLおよびSRと平面スピーカSFLおよびSFRに音信号を供給する信号処理系の構成を示している。図11において、音信号MDLは、増幅部242LおよびD/A変換部272Lの処理を経てスピーカSLに供給される一方、増幅部246L、フィルタ260LおよびD/A変換部276Lの処理を経て平面スピーカSFLに供給される。また、音信号MDRは、増幅部243RおよびD/A変換部273Rの処理を経てスピーカSRに供給される一方、増幅部246R、フィルタ260RおよびD/A変換部276Rの処理を経て平面スピーカSFRに供給される。ここで、音信号MDLおよびMDRは、例えば上記第1実施形態のデコーダ12から再生されるL、R各チャネルの音信号である。フィルタ260Lおよび260Rは、上記第1実施形態のフィルタ260または上記第2実施形態のフィルタ260Aと同様の機能を備えたフィルタである。増幅部242Lおよび246Lの各利得は、視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号に応じて制御される。また、増幅部243Rおよび246Rの各利得は、視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号に応じて制御される。
【0053】
視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号および視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号の生成方法に関しては、各種の態様が考えられる。ある好ましい態様では、これらの距離感を指定する制御信号は、各チャネルの音信号および映像信号とともに圧縮符号化されて記録媒体に記録される。そして、これらの距離感を指定する制御信号は、各チャネルの音信号および映像信号とともに記録媒体から同期再生され、増幅部242L、246L、243R、246Rの利得の制御に利用される。他の好ましい態様では、これらの距離感を指定する制御信号は、各々個別の操作子の操作により生成される。
【0054】
これらの態様によれば、視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感および視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を各々独立に制御することができる。
【0055】
なお、スピーカSLおよびSRを平面スピーカに置き換えてもよい。
また、上記変形例(8)において説明したような分離部を設け、音信MDLのうち距離感制御の対象となる成分の音信号のみを抽出して平面スピーカSFLとスピーカSLに振り分け、音信MDRのうち距離感制御の対象となる成分の音信号のみを抽出して平面スピーカSFRとスピーカSRに振り分けるようにしてもよい。
【0056】
(12)上記第1〜第4実施形態において、音響特性制御装置10と平面スピーカSFのみにより音響システムを構成し、この音響システムをスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRとこれらを駆動させる装置からなるサラウンドシステムと組み合わせて利用することにより、上記第1〜第4実施形態と同様の効果を奏するようにしてもよい。
【0057】
この実施形態は、例えば、図12に示すような構成よって実現される。図12の例は、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,コンテンツ再生装置80,及びサラウンド制御装置1200からなるサラウンドシステムと、平面スピーカSF及び音響特性制御装置10Bからなる音響システムとを組み合わせたものである。サラウンドシステムにおけるスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、居室の床または壁における視聴者Pの周囲に設置される。コンテンツ再生装置80は、スピーカSCを供給先とする音信号MACH1,スピーカSLを供給先とする音信号MACH2,スピーカSRを供給先とする音信号MACH3,スピーカSBLを供給先とする音信号MACH4,スピーカSRを供給先とする音信号MACH5を出力する。そして、サラウンド制御装置1200は、このコンテンツ再生装置80から出力される5チャネルの信号MACH1,MACH2,MACH3,MACH4,MACH5を各々に固有の利得で増幅し、この増幅によって信号レベルを調整した信号MACH1’,MACH2’,MACH3’,MACH4’,MACH5’をスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRに供給する。
【0058】
また、図12において、音響システムの平面スピーカSFは、居室内における視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置される。音響特性制御装置10Bは、増幅部1230を有している。この音響特性制御装置10Bは、コンテンツ再生装置80から出力される音信号MACH1,MACH2,MACH3,MACH4,MACH5のうちスピーカSCを供給先とする信号MACH1を取り込み、この信号MACH1を固有の利得で増幅し、この増幅によって信号レベルを調整した信号MACH1”を平面スピーカSHに供給する。ここで、信号MACH1を増幅する利得は、上記第1実施形態と同様、距離感を指定する制御信号に基づいて制御される。この場合、例えば上記第1実施形態のように、コンテンツ再生装置80から再生される画像信号Vを解析し、その信号Vが表す画像内の表示物IOについての両眼視差SDFを求め、この両眼視差SDFを距離感を指定する制御信号として利用してもよい。あるいはリモコンの操作によりこの距離感を指定する制御信号を発生させてもよい。以上のような構成によると、サラウンドシステムのスピーカSCによって室内に放音される音と音響システムのスピーカSFによって室内に放音される音が空間で混合される。これにより、視聴者Pが感じる音の距離感が制御される。よって、この構成によると、部屋に設置されているサラウンドシステムのシステム構成の大掛かりな改変を要することなく、上記第1〜第4実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0059】
10…音響特性制御装置、11…光学ドライブ、12…デコーダ、210…方向性制御部、220…遅延部、230…LPF、241,242,242L,243,243R,244,246,246L,246R…増幅部、250…位相反転部、260…フィルタ、271,272,272L,273,273R,274,275,276,276L,276R…D/A変換部、280…利得制御部、80…コンテンツ再生装置、81…テレビラック、90…記憶媒体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、映画館やホームシアターにおける音の臨場感を高めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
映画館やホームシアターの音響設備に広く採り入れられている音響技術の一つにマルチチャネルサラウンド技術がある。マルチチャネルサラウンド技術は、映像コンテンツの画像とともに再生される音の音像を聴者の前方と側方に配した複数個のスピーカを用いて制御することで、臨場感に富んだ音を聴者に提供する技術である。マルチチャネルサラウンド技術における各スピーカの配置位置については、ITU(International
Telecommunication Union)による勧告がなされている。例えば、5チャネルのマルチサラウンド技術では、視聴者の前方におけるスクリーンのある側にセンタチャネルスピーカが配置され、その左右に左フロントスピーカと右フロントスピーカが配置される。また、視聴者の左側方と右側方に左サラウンドスピーカと右サラウンドスピーカが配置される。これら5つのスピーカのうちセンタチャネルスピーカは、台詞のように視聴者の正面に定位する音の再生に用いられる。左フロントスピーカおよび右フロントスピーカは、視聴者の正面左側、真正面或いは正面右側の音像の定位に用いられる。左サラウンドスピーカおよび右サラウンドスピーカは、聴者の側方や後方に定位する音の再生に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−522467号
【特許文献2】特開平05−191987号
【特許文献3】米国特許5555306号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、映画館やホームシアターにおいて上映される映像コンテンツの中には、各フレームの再生画像に立体視のための処理が施されているものがある。このような3Dの映像コンテンツでは、作品中の人物がスクリーンよりも手前の位置に居るかのような演出が施されたシーンが多く登場する。このようなシーンにおいて人物の台詞の音を聴いた視聴者にその音の音源が自身の耳元近くであるかのように感じさせることができれば、映像コンテンツの上映中の音の臨場感をより高めることが可能である。しかしながら、これまでのマルチサラウンド技術では、スピーカから放射する音を聴取することよって視聴者が感じる音の距離感を制御することはできなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、スピーカから放射する音によって聴者が感じる音の距離感を制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカを含む複数個のスピーカと、前記複数個のスピーカに音信号を供給する手段であって、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記複数個のスピーカにおける前記平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給するそれぞれの音信号の信号レベルを設定する制御手段とを具備することを特徴とする音響システムを提供する。
【0007】
この発明では、平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給する音信号の信号レベルを設定することにより聴者に聴取させる音の距離感を制御する。よって、本発明によると、聴者に感じさせる音の音像を聴者から見て手前の位置に定位させることができる。従って、本発明によると、複数のスピーカから3Dコンテンツの再生音を放音させた場合に聴者が感じる音の距離感を、聴者が3Dコンテンツの再生画像を視認することによって感じる当該再生画像内の表示物の距離感に合わせて制御することができる。
【0008】
ここで、聴者に聴取させる音の距離感制御に関わる技術が開示された文献として、特許文献1〜3がある。しかし、特許文献1の技術は、通常のスピーカと波面合成スピーカとを併用することによって音の音源の定位方向及び距離感を制御するものである。また、特許文献2の技術は、左右2チャネルの入力信号L,Rと、その和信号L+R及び遅延差信号φ(L−R)とにより推定される音源の仰角に基づいて、聴者の頭上のスピーカから放出する音の音響的特徴を制御するものである。また、特許文献3の技術は、複数の音源信号に信号処理を施すことにより、直接音の成分を含む信号と初期反射音の成分を含む信号とを個別に生成し、これらの信号を加算した信号を距離感の制御された信号として出力するものである。よって、これらの文献1〜3の技術は本発明とは内容を異にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態である音響システムを含む3Dコンテンツ視聴システムが設置された居室の平面図及び正面図である。
【図2】同システムの音響特性制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】同システムによる動画像コンテンツの立体視の原理を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態である音響システムの制御装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態である音響システムが設置された居室を示す平面図である。
【図6】本発明の第4実施形態である音響システムが設置された居室を示す平面図である。
【図7】上記各実施形態の音響特性制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図8】上記各実施形態の音響特性制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図9】上記各実施形態において音の距離感の制御に用いるスピーカの組み合わせの他の例を示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態である音響システムを示す図である。
【図11】同音響システムの信号処理系の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の他の実施形態である音響システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
図1(A)は、本発明の第1実施形態である音響システムを含む3Dコンテンツ視聴システムが設置された居室70の平面図である。図1(B)は、図1(A)の居室70を矢印B方向から見た図である。本実施形態である音響システムは、3D映像コンテンツの再生画像とともに再生される再生音を居室70内の視聴者Pに聴取させるシステムである。ここで、居室70において、聴取者Pの前方の壁WF、後方の壁WB、左側の壁WL、右側の壁WRのうち前方の壁WFの内側中央のテレビラック81上には3DテレビRSが置かれている。視聴者Pは、偏光メガネGを装着して居室70の中心に置かれた椅子71に腰かけ、3DテレビRSに映し出される再生画像を鑑賞する。
【0011】
図1(A)に示すように、本実施形態である音響システムは、居室70の床FFにおける視聴者Pの前方(3DテレビRSのある側)、左前方、右前方、左後方、及び右後方にそれぞれ設置された、センタチャネルスピーカSC、左フロントスピーカSL、右フロントスピーカSR、左サラウンドスピーカSBL、及び右サラウンドスピーカSBRと、天井WUにおける視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置されたスピーカSFと、コンテンツ再生装置80と、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFとコンテンツ再生装置80との間に介挿された音響特性制御装置10とを有する。
【0012】
視聴者Pの周囲の6つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFの各放音面は視聴者Pに向けられている。床FFにおける5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、各々に与えられた音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABRを、平面波でない音波(例えば、球面波)である音MC,ML,MR,MBL,MBRとして放射するスピーカである。視聴者Pは、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBRから放射された音MC,ML,MR,MBL,MBRが自身の左耳ELと右耳ERに到達した時刻の到達時間差(音の伝搬経路の差に応じた位相差)や音圧差(音の伝搬経路の差に応じた振幅の減衰量の差)によって音MC,ML,MR,MBL,MBRの音源の方向を認識し、その音源に対応する音像を知覚する。
【0013】
スピーカSFは、当該スピーカSFに与えられる音信号MASFを平面波である音MSFとして放射する平面スピーカである。より具体的に説明すると、図1(B)の右側の枠内の詳細図に示すように、スピーカSFは、1枚の振動板1と、この振動板1を両側から挟む2枚の電極板2U及び2Dとを有する。振動板1と電極板2Uとの間には不織布3Uが介挿されており、振動板1と電極板2Dとの間には不織布3Dが介挿されている。電極板2U及び2Dには音波を通過させるための複数の孔が穿設されている。振動板1には直流バイアス電圧VBが印加される。そして、電極板2U及び2Dの各々には、当該スピーカSFの入力信号MASFである正逆2相の信号V0及び−V0(|V0|<VB)が印加される。
【0014】
ここで、振動板1及び電極板2U間の電界強度F1(不図示)は、振動板1及び電極板2U間の電位差VB−V0に依存し、振動板1及び電極板2D間の電界強度F2(不図示)は、振動板1及び電極板2D間の電位差VB−(−V0)に依存する。そして、スピーカSFでは、信号V0の極性が正であり、信号−V0の極性が負である場合には、VB−V0<VB−(−V0)となり、F1<F2となるので、振動板1は電極板2Uに向かって変位する。逆に信号V0の極性が負であり、信号−V0の極性が正である場合には、VB−V0>VB−(−V0)となり、F1>F2となるので、振動板1は電極板2D側に向かって変位する。このように信号V0及び−V0に応じて振動板1は電極板2U方向または電極板2D方向に変位する。そして、この振動板1が電極板2Dの側に変位する度に、振動板1と電極板2Dとの間に信号V0及び−V0に応じた空気の粗密波である音波が発生する。この音波が電極板2D及びその孔を透過し、平面波である音MSFとして下方に伝搬される。この音MSFは、平面波でない音MC,ML,MR,MBL,MBRと異なり距離減衰が殆どない。このため、音MSFは、天井WUにあるスピーカSFから放射された後、殆ど減衰することなく視聴者Pの左耳EL及び右耳ERに届く。
【0015】
コンテンツ再生装置80は、3D映像コンテンツの再生画像を示す画像信号Vとその再生音を示す左右2チャネルの音信号L,Rとを発生する信号発生装置としての役割を果たす。図2に示すように、コンテンツ再生装置80は、光学ドライブ11とデコーダ12とを有している。光学ドライブ11は、記録媒体90に記録されている3D映像コンテンツの圧縮符号化信号を読み出してデコーダ12に供給する。デコーダ12は、この圧縮符号化信号に復号化処理を施すことにより再生画像の画像信号Vと再生音の左右2チャネルの音信号L,Rを生成し、信号Vを3DテレビRSに供給するとともに信号V,L,Rを音響特性制御装置10に供給する。3DテレビRSは、コンテンツ再生装置80の出力信号Vに従って再生画像を表示する動作を行う。
【0016】
図3に示すように、3D映像コンテンツの再生画像には、左眼視用の表示物IOLと右眼視用の表示物IOR(以下、表示物IOLと表示物IORを区別しない場合は表示物IOと記す)が間隔(以下、この間隔を両眼視差SDFという)を空けて映っている。視聴者Pが偏光メガネGを通してこの画像を視た場合、左眼VSNLの網膜と右眼VSNRの網膜には一方の表示物IOだけが結像する。これにより、視聴者Pは、左眼VSNLによって認識する表示物IOLの位置と右眼VSNRによって認識する表示物IORの位置との差である両眼視差SDFに応じた距離Dだけ表示物IOが手前に存在しているかのように錯覚し、再生画像が奥行きをもった3D映像として視認される。
【0017】
音響特性制御装置10は、コンテンツ再生装置80の出力信号L,Rから各スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFを供給先とする6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成して各々に供給するとともに、これらのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFのうち視聴者Pの上方(ほぼ真上)のスピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルと前方のスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルとのバランスを調整することにより視聴者Pに聴取させる音MCの距離感を制御する役割を果たす。
【0018】
図2に示すように、音響特性制御装置10は、方向性制御部210と、遅延部220と、LPF(Low Pass Filter)230と、増幅部241,242,243,244,246と、位相反転部250と、フィルタ260と、D/A変換部271,272,273,274,275,276と、利得制御部280とを有する。各部の役割について説明すると、方向性制御部210は、音信号Lと音信号Rの和L+RをスピーカSCを供給先とする音信号MDCとし、この音信号MDCを増幅部241及び246に供給する。また、方向性制御部210は、音信号LをスピーカSLを供給先とする音信号MDLとし、この音信号MDLを増幅部242に供給する。また、方向性制御部210は、音信号RをスピーカSRを供給先とする音信号MDRとし、この音信号MDRを増幅部243に供給する。また、方向性制御部210は、音信号Lと音信号Rの差L−RをスピーカSBLを供給先とする音信号MDBLとし、この音信号MDBLを遅延部220に供給する。
【0019】
増幅部241は、方向性制御部210から供給される音信号MDCを利得g1で増幅する。増幅部241による増幅を経た音信号MDC×g1はD/A変換部271に入力される。D/A変換部271は、音信号MDC×g1をD/A変換したアナログ音信号MACをスピーカSCに供給し、スピーカSCから音MCを放射させる。増幅部242は、方向性制御部210から供給される音信号MDLを利得g2で増幅する。増幅部242による増幅を経た音信号MDL×g2はD/A変換部272に入力される。D/A変換部272は、音信号MDL×g2をD/A変換したアナログ音信号MALをスピーカSLに供給し、スピーカSLから音MLを放射させる。増幅部243は、方向性制御部210から供給される音信号MDRを利得g3で増幅する。増幅部243による増幅を経た音信号MDR×g3はD/A変換部273に入力される。D/A変換部273は、信号MDR×g3をD/A変換したアナログ音信号MARをスピーカSRに供給し、スピーカSRから音MRを放射させる。
【0020】
遅延部220は、方向性制御部210から出力された信号MDBLを遅延量Δφだけ遅延させた遅延音信号MDBL’を出力する。この遅延部220の遅延量Δφは居室70内において創出する残響感の大きさなどを考慮して決めるとよい。遅延部220の出力信号MDBL’はLPF230に入力される。LPF230は、音信号MDBL’における高域成分を除去した信号MDBL”を増幅部244に出力する。増幅部244は、LPF230から出力される信号MDBL”を利得g4で増幅する。増幅部244による増幅を経た音信号MDBL”×g4は、D/A変換部274と位相反転部250に入力される。D/A変換部274は、音信号MDBL”×g4をD/A変換したアナログ音信号MABLをスピーカSBLに供給し、スピーカSBLから音MBLを放射させる。位相反転部250は、信号MDBL”×g4の位相を反転させた音信号MDBRをD/A変換部275に出力する。D/A変換部275は、音信号MDBRをD/A変換したアナログ音信号MABRをスピーカSBRに供給し、スピーカSBRから音MBRを放射させる。
【0021】
増幅部246は、方向性制御部210から出力された音信号MDCを利得g6で増幅する。増幅部246による増幅を経た信号MDC×g6はフィルタ260に入力される。フィルタ260は、信号MDC×g6に対して視聴者Pの頭部伝達関数H(すなわち、視聴者Pの頭が無いと仮定した場合における視聴者Pの両耳EL及びERの中心位置から視聴者Pの外耳道入口(または鼓膜)に至る音の伝達関数)における高さ方向の定位に影響のある特徴量RHを補正するフィルタ処理を施し、このフィルタ処理を経た信号MDSFをD/A変換部276に出力する。より具体的には、フィルタ260は、信号MDC×g6における特徴量RHを含む周波数帯域(例えば、6kHzから8kHz)内の所定の成分を減衰させてディップDRHを形成させるフィルタ処理を実行する。そして、フィルタ260は、信号MDC×g6におけるディップDRHを形成させた信号を信号MDSFとする。D/A変換部276は、信号MDSFをD/A変換したアナログ音信号MASFをスピーカSFに供給し、スピーカSFから音MSFを放射させる。
【0022】
ここで、この音MSFは、視聴者Pに音MCの音源が自身の近くにあるかのように感じさせる効果を発揮する。その理由は次の通りである。平面スピーカであるスピーカSFから放射される音MSFは、平面スピーカでないスピーカSCから放射される音MCに比べると音のエネルギーの距離減衰量が極めて小さく、近くの受聴点における音の音圧と遠くの受聴点における音の音圧との間にほとんど差が生じない。また、視聴者Pが日頃聴取する音は平面スピーカでないスピーカから放射される音であるのが通常である。このため、視聴者Pは、自身の左耳EL及び右耳ERに到達した音に距離減衰の殆どない平面波が含まれていても、そのことを意識することなく音の音量を主な手掛かりにして音源までの距離を感覚的に認識(推測)する。よって、視聴者Pは、自身の通常の距離感からすれば伝搬距離が長くなるに従って減衰するはずの音波が減衰せずに左耳EL及び右耳ERに到達した場合、その音が近くの音源から放射された音であると錯覚する。このような理由により、平面波である音MSFが平面波でない音MCとともに視聴者Pに向けて放出されている場合、視聴者Pは音MCの音源が近くにあるかのように感じる。
【0023】
利得制御部280は、増幅部241,242,243,244,246の利得g1,g2,g3,g4,g6を制御する回路である。利得制御部280は、増幅部241の利得g1と増幅部246の利得g6との間に次式(1)の関係が成り立つように利得g1及びg6を連動して制御する。なお、利得g2〜g4は、通常のサラウンドシステムにおいて各チャネルに適用されるものと同様な利得が適用される。
g12+g62=1…(1)
【0024】
より詳細に説明すると、利得制御部280は、コンテンツ再生装置80のデコーダ12から1フレーム分の画像信号Vが与えられる度に、画像信号Vを解析し、その信号Vが表す画像内の表示物IOについての両眼視差SDFを求める。この両眼視差SDFは、視聴者Pに見せる物体の距離感を演出するためのパラメータであり、演出しようとする距離感(より具体的には物体の前後方向の位置)により増減する。そこで、利得制御部280は、この両眼視差SDFを視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号、より具体的には視聴者Pに知覚させる音源の前後方向における位置を指定する制御信号として利用し、この両眼視差SDFに係数K1を乗じた値を増幅部246の利得g6とし、この利得g6を前掲式(1)に代入して求まる値(1−g62)1/2を増幅部241の利得g1とする。
【0025】
本実施形態によると、次の効果が得られる。
第1に、本実施形態では、複数個のスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,SFに供給する音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFのうちセンタチャネルスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルと平面スピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルのバランスを調整することにより視聴者Pに聴取させる音の距離感を制御する。よって、本実施形態によると、視聴者Pに感じさせるセンタチャネルの音MCの音像を、3DテレビRSの再生画像よりも手前の位置に定位させることができる。従って、本実施形態によると、視聴者Pが3Dコンテンツの再生音MCを聴取することによって感じる当該音MCの距離感を、視聴者Pが3Dコンテンツの再生画像を視認することによって感じる当該再生画像内の表示物IOの距離感に合わせて制御することができる。
【0026】
第2に、本実施形態では、スピーカSFは天井WUにおける視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置されている。スピーカSFの設置位置が視聴者Pの上方である場合、視聴者Pが3D映像コンテンツの視聴中に左右方向などに顔の向きを変えたとしても、視聴者Pは左耳ELに到達する音MSFと視聴者Pの左耳ERに到達する音MSFとの間に大きな違いを感じないため、距離感をつかみ難い。このため、視聴者Pは、3D映像コンテンツの視聴中に左右方向などに顔の向きを変えたとしても、自身の上方にスピーカSFがあることに気付かない。よって、本実施形態によると、スピーカSFを別の位置に設置する場合に比べて距離感の制御を行い易くすることができる。
【0027】
第3に、本実施形態では、利得制御部280は、増幅部241の利得g1と増幅部246の利得g6を前掲の式(1)の関係が成り立つように連動して制御する。よって、例えば、あるシーンの表示物IOを立体視した場合における距離Dが大きければ利得g6を上げるとともにその分だけ利得g1を下げ、距離Dが小さければ利得g6を下げるとともにその分だけ利得g1を上げる、といった操作を行うことにより、視聴者Pが感じる音の大きさを変えることなくその音の距離感だけを変化させることができる。
【0028】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態である音響システムにおける音響特性制御装置10Aの構成を示すブロック図である。この音響特性制御装置10Aは、音響特性制御装置10(図2)のフィルタ260をフィルタ260Aに置き換えたものである。このフィルタ260Aは、平面スピーカSFを供給先とする信号MDC×g6に対して平面スピーカSFから視聴者Pまでの区間の伝達関数HAの逆数の関数に対応したフィルタ係数列hj(j=1,2…g)(より具体的には、伝達関数HAの逆数の関数に逆FFT(Fast Fourier Transform)を施して得られるフィルタ係数列hj(j=1,2…g))を畳み込む処理をフィルタ処理として実行し、この処理の処理結果(MDC×g6)*hj(j=1,2…g)を信号MDSFとしてD/A変換部276に出力する。本実施形態では、この畳込み演算により、平面スピーカSFからの音MSFと平面スピーカSFでないスピーカSCからの音MCとをより一体化させ、距離感制御の精度を高めることができる。
【0029】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態である音響システムが設置された居室70を示す図である。本実施形態では、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFが壁WFにおける視聴者Pの前方の位置に設置されている。この平面スピーカSFの放射面は視聴者Pに向けられている。本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態では、スピーカSFを天井WUではなく前方の壁WFに設置するため、第1実施形態よりもスピーカSFの設置作業の負担が軽くなる。
【0030】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態である音響システムが設置された居室70を示す図である。本実施形態では、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFLが左側の壁WLにおける視聴者Pの左側方の位置に設置されている。また、平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFRが右側の壁WRにおける視聴者Pの右側方の位置に設置されている。平面スピーカSFL及びSFRの放射面は視聴者Pに向けられている。音響特性制御装置10は、この2つのスピーカSFL及びSFRに同振幅且つ同位相の音信号を供給する。本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態では、スピーカSFL及びSFRを天井WUではなく壁WL及びWRに設置するため、第1実施形態よりもスピーカSFL及びSFRの設置作業の負担が軽くなる。
【0031】
<他の実施形態>
以上、この発明の第1乃至第4実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。また、以下の変形例同士を適宜組み合わせても良い。
【0032】
(1)上記第1,第3,及び第4実施形態において、フィルタ260は、信号MDC×g6における特徴量RHを含む帯域内の所定の成分を減衰させてディップDRHを形成させるフィルタ処理を実行した。このフィルタ260として、ディップDRHの帯域よりも低域の帯域を通過させるローパスフィルタとディップDRHの帯域よりも高域の帯域を通過させるハイパスフィルタを並列化した帯域除去フィルタ等、複数種類のフィルタを組み合わせたフィルタを用いてもよい。
【0033】
(2)上記第1〜第4実施形態では、利得制御部280は、画像信号Vが示す画像内における表示物IOの両眼視差SDFを、視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号として利用し、この制御信号に応じて増幅部241及び246の利得g1及びg6を制御した。しかし、音の距離感を手動で任意に指定する操作を行うためのリモコンを視聴者Pに携帯させ、利得制御部280がこのリモコンの操作に従って利得g1及びg6を任意の値に制御するようにしてもよい。
【0034】
あるいは、このようなリモコンの操作によって生成される制御信号を画像信号および音信号とともに記録媒体に記録するコンテンツ制作装置を構成してもよい。具体的には、画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとを再生し、映像と音声を視聴者Pに視聴させるとともに、視聴者Pにリモコンの操作を行わせることにより制御信号を発生させ、距離感を適切に制御させる。このリモコン操作により発生する制御信号を元の画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとともに圧縮符号化し、その結果得られる3D映像コンテンツの圧縮符号化信号を記録媒体に記録する。そして、コンテンツ再生装置80がこの記録媒体から画像信号Vと左右2チャネルの音信号L,Rとともに制御信号を同期再生し、音響特性制御装置10,10Aに供給するのである。
【0035】
この態様によれば、距離感を指定する制御信号を視聴者Pのリモコン操作により生成し、その制御信号を含む3D映像コンテンツを制作することができる。従って、視聴者Pの個性を反映した3D映像コンテンツを制作することができる。
【0036】
(3)上記第1〜第4実施形態では、コンテンツ再生装置80は、左右2チャネルの音信号L,Rを音響特性制御装置10,10Aに出力した。そして、音響特性制御装置10,10Aが、この左右2チャネルの音信号L,Rから6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成し、これらの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFのうちセンタチャネルスピーカSCに供給する音信号MACの信号レベルと平面スピーカSFに供給する音信号MASFの信号レベルのバランスを制御した。しかし、コンテンツ再生装置80がスピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,及びSFを供給先とする6チャネルの音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを生成して音響特性制御装置10,10Aに出力するようにしてもよい。
【0037】
(4)上記実施形態において、床上FF上の5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、平面スピーカでないスピーカであった。しかし、これらのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちの全部または一部を、平面スピーカにより構成してもよい。また、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちの全部または一部をアレイスピーカにより構成してもよい。この場合、アレイスピーカを視聴者Pの周囲ではなく前方に設置して、生成した音響ビームの反射を利用して、音信号MAC,MAL,MAR,MABL,MABR,及びMASFを視聴者Pに向けて放射してもよい。
【0038】
(5)上記第1実施形態において、天井の平面スピーカSFから視聴者Pまでの音の伝搬距離に比べて、正面のスピーカSCから視聴者Pまでの音の伝搬距離の方が一般に長い。そこで、この音の伝搬距離の差による時間差を補償するために、図7に示すように、増幅部246に供給する音信号を遅延させる遅延部246Dを追加し、正面のスピーカSCからの音の視聴者Pの耳への到着タイミングと天井のスピーカSFからの音の視聴者Pの耳への到着タイミングを一致させる構成としてもよい。
【0039】
(6)上記第1〜第4実施形態では、音信号MACの利得g1と音信号MASFの利得g6の両方を制御することにより、両信号MAC及びMASFの信号レベルのバランスを調整した。しかし、音信号MACの信号レベルを固定値としたまま音信号MASFの信号レベルを変化させたり、音信号MASFの信号レベルを固定値としたまま音信号MACの信号レベルを変化させることにより、両信号MAC及びMASFの信号レベルのバランスを調整するようにしてもよい。
【0040】
(7)上記第1〜第4実施形態では、床FF上の5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうちスピーカSCを供給先とする信号MDCを距離感制御の対象とし、この信号MDCからスピーカSFに与える信号MASFを生成した。しかし、スピーカSCを供給先とする音信号MDC,スピーカSLを供給先とする音信号MDL,スピーカSRを供給先とする音信号MDR,スピーカSBLを供給先とする音信号MDBL、及びスピーカSBRを供給先とする音信号MDBRのうちいずれか1種類の音信号からスピーカSFに与える信号MDSFを生成してもよい。
【0041】
また、5つのスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRのうち2つの以上のスピーカに供給する信号の加算信号からスピーカSFに与える信号MASFを生成してもよいし、5種類の音信号MDSF,MDL,MDR,MDBL,MDBRの全てを加算した加算信号からスピーカSFに与える信号MASFを生成してもよい。
【0042】
例えば、居室70内における視聴者の左前方と右前方のスピーカSL及びSRの音ML及びMRによって居室70内における所望の位置に仮想音源をつくる構成となっている音響システムにおいて、スピーカSLを供給先とする信号MDLとスピーカSRを供給先とする信号MDRの加算信号MDL+MDRからスピーカSFに与える信号MASFを生成するようにしてもよい。このような構成によると、加算信号MDL+MDRの利得と信号MASFの利得を増減させることにより、視聴者Pに仮想音源が近くにあるかのように感じさせることができる。
【0043】
また、平面スピーカSFの個数を2つ以上とし、スピーカSLを供給先とする音信号MDLから1つの平面スピーカSF−1を供給先とする音信号MASF−1を生成し、スピーカSRを供給先とする音信号MDRからもう1つの平面スピーカSF−2を供給先とする音信号MASF−2を生成する、というように、複数個の平面スピーカSFを供給先とする音信号を個別に生成するようにしてもよい。
【0044】
(8)上記第1実施形態において、視聴者Pの正面のスピーカSCを供給先とする音信号MDCの中から距離感の制御の対象となる成分の信号(たとえば、台詞や効果音等の一部の成分の信号)を抽出し、スピーカSCおよび平面スピーカSFに振り分けてもよい。
【0045】
図8はこの態様の構成例を示すブロック図である。この例において、スピーカSCを供給先とする音信号MDCは、分離部290により距離感制御の対象となる成分の音信号MDCAと距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBとに分離される。ここで、距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBは、増幅部241Bにより所定の利得で増幅され、加算器241Cに供給される。一方、距離感制御の対象となる成分の音信号MDCAは、増幅部241Aおよび246に供給される。この増幅部241Aおよび246の各利得は、上記第1実施形態の増幅部241および246と同様、視聴者Pに聴取させる音の距離感を指定する制御信号に基づいて制御される。そして、増幅部241Aの出力信号は加算器241Cへ、増幅部246の出力信号はフィルタ260の処理を経てD/A変換部276へ出力される。そして、D/A変換部276の出力信号が平面スピーカSFに供給され、音として出力される。加算器241Cは、増幅部241Aの出力信号と距離感制御の対象とならない成分の音信号MDCBとを加算した信号をD/A変換部271へ出力する。そして、D/A変換部271の出力信号がスピーカSCに供給され、音として出力される。
【0046】
この態様によれば、スピーカSCを供給先とする音信号MDCの中から距離感の制御の対象となる成分の音信号MDCAが抽出され、距離感を指定する制御信号に基づいて決定される各利得で増幅されてスピーカSCおよびSFに振り分けられる。従って、スピーカSCを供給先とする音信号MDCの中の特定の成分に限定して距離感の制御を行うことができる。
【0047】
分離部290としては各種の構成のものが考えられるが、例えば台詞や効果音等の成分が属する帯域の音信号を通過させる帯域通過フィルタを使用してもよい。
【0048】
また、例えば上記変形例(7)のように左フロントスピーカSLや右フロントスピーカSR等へ供給する音信号から平面スピーカSFに供給する音信号を生成する場合においても、各音信号の中から距離感の制御の対象となる成分の信号のみを抽出し、各スピーカに各々振り分けてもよい。
【0049】
(9)上記2実施形態では、フィルタ260Aは、平面スピーカSFを供給先とする信号MDC×g6に対して平面スピーカSFから視聴者Pまでの区間の伝達関数HAの逆数の関数に対応したフィルタ係数列hj(j=1,2…g)を畳み込む処理をフィルタ処理として実行した。しかし、頭部伝達関数Hの逆数の関数に応じたフィルタ係数列を畳込んでもよい。また、伝達関数HAと頭部伝達関数Hの和を伝達関数HA+Hとし、この伝達関数HA+Hの逆数の関数に応じたフィルタ係数列を畳込んでもよい。
【0050】
(10)上記各実施形態では、図9(a)に例示するように、平面スピーカSFと平面スピーカでないスピーカSCとの組み合わせにより、視聴者Pに聴かせる音の距離感の制御を行った。しかし、図9(b)に例示するように、スピーカSCを平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SCFに置き換え、異なる方向から視聴者Pに音を放射する2個の平面波を放射するスピーカ(平面スピーカ)SFおよびSCFの組み合わせにより距離感の制御を行ってもよい。図9(a)に例示するように平面スピーカSFと平面スピーカでないスピーカSCとを組み合わせた構成では、スピーカSCの近傍から視聴者Pの近傍までの広い範囲Dに亙って距離感の制御が可能である。図9(b)に例示するように平面スピーカSFと平面スピーカSCFとを組み合わせた構成では、範囲Dよりは狭い、視聴者P寄りの範囲D’に亙って距離感の制御が可能である。
【0051】
(11)視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感制御と右耳に聴かせる音の距離感制御を独立に行うようにしてもよい。図10および図11はこの態様の構成例を示すものである。この例では、図10に示すように、天井の視聴者Pの上方の位置に平面スピーカSFLおよびSFRが配置されている。ここで、平面スピーカSFLが放射する音は視聴者Pの左耳のみに届いて右耳には届かず、平面スピーカSFRが放射する音は視聴者Pの右耳のみに届いて左耳には届かないように、平面スピーカSFLおよびSFRの位置が決定されている。視聴者Pの左前方のスピーカSLは、視聴者Pの左耳に向けて音を放射する。また、視聴者Pの右前方のスピーカSRは、視聴者Pの右耳に向けて音を放射する。
【0052】
図11はスピーカSLおよびSRと平面スピーカSFLおよびSFRに音信号を供給する信号処理系の構成を示している。図11において、音信号MDLは、増幅部242LおよびD/A変換部272Lの処理を経てスピーカSLに供給される一方、増幅部246L、フィルタ260LおよびD/A変換部276Lの処理を経て平面スピーカSFLに供給される。また、音信号MDRは、増幅部243RおよびD/A変換部273Rの処理を経てスピーカSRに供給される一方、増幅部246R、フィルタ260RおよびD/A変換部276Rの処理を経て平面スピーカSFRに供給される。ここで、音信号MDLおよびMDRは、例えば上記第1実施形態のデコーダ12から再生されるL、R各チャネルの音信号である。フィルタ260Lおよび260Rは、上記第1実施形態のフィルタ260または上記第2実施形態のフィルタ260Aと同様の機能を備えたフィルタである。増幅部242Lおよび246Lの各利得は、視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号に応じて制御される。また、増幅部243Rおよび246Rの各利得は、視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号に応じて制御される。
【0053】
視聴者Pの左耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号および視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を指定する制御信号の生成方法に関しては、各種の態様が考えられる。ある好ましい態様では、これらの距離感を指定する制御信号は、各チャネルの音信号および映像信号とともに圧縮符号化されて記録媒体に記録される。そして、これらの距離感を指定する制御信号は、各チャネルの音信号および映像信号とともに記録媒体から同期再生され、増幅部242L、246L、243R、246Rの利得の制御に利用される。他の好ましい態様では、これらの距離感を指定する制御信号は、各々個別の操作子の操作により生成される。
【0054】
これらの態様によれば、視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感および視聴者Pの右耳に聴かせる音の距離感を各々独立に制御することができる。
【0055】
なお、スピーカSLおよびSRを平面スピーカに置き換えてもよい。
また、上記変形例(8)において説明したような分離部を設け、音信MDLのうち距離感制御の対象となる成分の音信号のみを抽出して平面スピーカSFLとスピーカSLに振り分け、音信MDRのうち距離感制御の対象となる成分の音信号のみを抽出して平面スピーカSFRとスピーカSRに振り分けるようにしてもよい。
【0056】
(12)上記第1〜第4実施形態において、音響特性制御装置10と平面スピーカSFのみにより音響システムを構成し、この音響システムをスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRとこれらを駆動させる装置からなるサラウンドシステムと組み合わせて利用することにより、上記第1〜第4実施形態と同様の効果を奏するようにしてもよい。
【0057】
この実施形態は、例えば、図12に示すような構成よって実現される。図12の例は、スピーカSC,SL,SR,SBL,SBR,コンテンツ再生装置80,及びサラウンド制御装置1200からなるサラウンドシステムと、平面スピーカSF及び音響特性制御装置10Bからなる音響システムとを組み合わせたものである。サラウンドシステムにおけるスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRは、居室の床または壁における視聴者Pの周囲に設置される。コンテンツ再生装置80は、スピーカSCを供給先とする音信号MACH1,スピーカSLを供給先とする音信号MACH2,スピーカSRを供給先とする音信号MACH3,スピーカSBLを供給先とする音信号MACH4,スピーカSRを供給先とする音信号MACH5を出力する。そして、サラウンド制御装置1200は、このコンテンツ再生装置80から出力される5チャネルの信号MACH1,MACH2,MACH3,MACH4,MACH5を各々に固有の利得で増幅し、この増幅によって信号レベルを調整した信号MACH1’,MACH2’,MACH3’,MACH4’,MACH5’をスピーカSC,SL,SR,SBL,SBRに供給する。
【0058】
また、図12において、音響システムの平面スピーカSFは、居室内における視聴者Pの上方(ほぼ真上)に設置される。音響特性制御装置10Bは、増幅部1230を有している。この音響特性制御装置10Bは、コンテンツ再生装置80から出力される音信号MACH1,MACH2,MACH3,MACH4,MACH5のうちスピーカSCを供給先とする信号MACH1を取り込み、この信号MACH1を固有の利得で増幅し、この増幅によって信号レベルを調整した信号MACH1”を平面スピーカSHに供給する。ここで、信号MACH1を増幅する利得は、上記第1実施形態と同様、距離感を指定する制御信号に基づいて制御される。この場合、例えば上記第1実施形態のように、コンテンツ再生装置80から再生される画像信号Vを解析し、その信号Vが表す画像内の表示物IOについての両眼視差SDFを求め、この両眼視差SDFを距離感を指定する制御信号として利用してもよい。あるいはリモコンの操作によりこの距離感を指定する制御信号を発生させてもよい。以上のような構成によると、サラウンドシステムのスピーカSCによって室内に放音される音と音響システムのスピーカSFによって室内に放音される音が空間で混合される。これにより、視聴者Pが感じる音の距離感が制御される。よって、この構成によると、部屋に設置されているサラウンドシステムのシステム構成の大掛かりな改変を要することなく、上記第1〜第4実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0059】
10…音響特性制御装置、11…光学ドライブ、12…デコーダ、210…方向性制御部、220…遅延部、230…LPF、241,242,242L,243,243R,244,246,246L,246R…増幅部、250…位相反転部、260…フィルタ、271,272,272L,273,273R,274,275,276,276L,276R…D/A変換部、280…利得制御部、80…コンテンツ再生装置、81…テレビラック、90…記憶媒体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカを含む複数個のスピーカと、
前記複数個のスピーカに音信号を供給する手段であって、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記複数個のスピーカにおける前記平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給するそれぞれの音信号の信号レベルを設定する制御手段と
を具備することを特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記平面スピーカは、前記聴者の上方に配置され、下方の前記聴者に向けて前記平面波を放射することを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカは、前記聴者の前方に配置され、前記聴者に向けて音波を放射することを特徴とする請求項1または2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記平面スピーカを供給先とする音信号に対して前記聴者の頭部伝達関数における高さ方向の定位に影響のある特徴量を補正するフィルタ処理を施すフィルタ手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載の音響システム。
【請求項5】
前記平面スピーカを供給先とする音信号に対して前記平面スピーカから前記聴者までの区間の伝達関数の逆数の関数に対応したフィルタ係数列を畳み込むフィルタ処理を施すフィルタ手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載の音響システム。
【請求項6】
与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカと、
音信号発生装置が出力する各音信号のうち少なくとも1個のスピーカを供給先とする音信号に基づいて前記平面スピーカを供給先とする音信号を生成し、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記平面スピーカを供給先とする音信号の信号レベルを設定する制御手段と
を具備することを特徴とする音響システム。
【請求項7】
音信号を発生する音信号発生装置と平面スピーカとの間に介挿される音響特性制御装置であって、
前記音信号発生装置が出力する各音信号のうち少なくとも1個のスピーカを供給先とする音信号に基づいて前記平面スピーカを供給先とする音信号を生成し、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記平面スピーカを供給先とする音信号の信号レベルを設定することを特徴とする音響特性制御装置。
【請求項1】
与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカを含む複数個のスピーカと、
前記複数個のスピーカに音信号を供給する手段であって、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記複数個のスピーカにおける前記平面スピーカと当該平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカとに供給するそれぞれの音信号の信号レベルを設定する制御手段と
を具備することを特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記平面スピーカは、前記聴者の上方に配置され、下方の前記聴者に向けて前記平面波を放射することを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記平面スピーカ以外の少なくとも1個のスピーカは、前記聴者の前方に配置され、前記聴者に向けて音波を放射することを特徴とする請求項1または2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記平面スピーカを供給先とする音信号に対して前記聴者の頭部伝達関数における高さ方向の定位に影響のある特徴量を補正するフィルタ処理を施すフィルタ手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載の音響システム。
【請求項5】
前記平面スピーカを供給先とする音信号に対して前記平面スピーカから前記聴者までの区間の伝達関数の逆数の関数に対応したフィルタ係数列を畳み込むフィルタ処理を施すフィルタ手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載の音響システム。
【請求項6】
与えられた音信号を平面波として放射する平面スピーカと、
音信号発生装置が出力する各音信号のうち少なくとも1個のスピーカを供給先とする音信号に基づいて前記平面スピーカを供給先とする音信号を生成し、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記平面スピーカを供給先とする音信号の信号レベルを設定する制御手段と
を具備することを特徴とする音響システム。
【請求項7】
音信号を発生する音信号発生装置と平面スピーカとの間に介挿される音響特性制御装置であって、
前記音信号発生装置が出力する各音信号のうち少なくとも1個のスピーカを供給先とする音信号に基づいて前記平面スピーカを供給先とする音信号を生成し、聴者に聴取させる音の距離感を指定する制御信号に従って、前記平面スピーカを供給先とする音信号の信号レベルを設定することを特徴とする音響特性制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−21686(P2013−21686A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128450(P2012−128450)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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