説明

音響再生装置、音響再生システム、音響再生方法および映像表示装置

【課題】 スピーカーの中央位置から左右のいずれかに視聴者位置がずれた場合にも、音響信号を制御して、スピーカーに出力することで、視聴者の位置によらずに音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる音響再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 センサーから入力された視聴者位置情報と、予め記憶されたセンサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離から算出した各々の前記スピーカーの位置と視聴者の位置との距離の差分に基づいて、音響信号を制御してスピーカーへ出力するので、視聴者位置にかかわらず、音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視聴者(映像が無く音声のみを聴いている人を含む)の位置を考慮して音響信号を制御する音響再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響信号を再生する機器(テレビ受像機、CD/DVDプレーヤー、ミニコンポ、iPod等)からステレオ音声信号がアンプを介してスピーカーに出力される場合、2つ(2箇所)のスピーカーで再生される音は、2つのスピーカーからの距離が同じ線上の位置(以下、中央位置)で音源を正面とした場合と同じ音響効果が得られる。
しかし、TVを見る場合やミニコンポからの音を聞く場合など、視聴者は必ずしも2つのスピーカーの中央位置で視聴するとは限らない。このように、視聴者の位置(視聴者位置)が2つのスピーカーの中央位置から左右のいずれかにずれていた場合、視聴者は音源の正面で聴くような音響効果を得ることができない。
【0003】
【特許文献1】特開平7−319487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の音響制御装置として、装置外部から得た距離情報および方向情報に基づいて音響効果を実現する例として、カラオケ装置の歌唱信号の音像を制御する音像制御装置がある(特許文献1参照)。
特許文献1に記載の音像制御装置では、音の再生環境がステレオスピーカーであるカラオケ装置において、マイクを持った歌唱者が舞台上で移動した時、歌唱者の舞台上における位置を実測して歌唱者の距離情報および方向情報を作成し、マイクで集音した音声に対して距離感と方向感を与えることで、中央位置にいる聴取者にとって違和感のない臨場感を実現している。
しかし、特許文献1では、歌唱者の歌を聴く視聴者の位置が、2つのピーカーの中央位置から左右のいずれかにずれていた場合、中央位置で聴いた場合のような音響効果が得られない課題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、スピーカーの中央位置から左右のいずれかに視聴者位置がずれた場合にも、音響信号を制御して、スピーカーに出力することで、視聴者の位置によらずに音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる音響再生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る音響再生装置は、視聴者の位置を検出するセンサーから視聴者位置情報が入力される入力部と、該入力部で入力した前記視聴者位置情報および予め記憶された前記センサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離に基づいて、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出する差分算出部と、該差分算出部で算出した差分に基づいて音響信号を制御する制御部と、該制御部で制御された音響信号を出力する出力部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、センサーから入力された視聴者位置情報と、予め記憶されたセンサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離から算出した各々の前記スピーカーの位置と視聴者の位置との距離の差分に基づいて、音響信号を制御してスピーカーへ出力するので、視聴者位置にかかわらず、音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1における音響再生装置1の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における映像表示システム11の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1における視聴者位置分析部6の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1における映像表示システム11の構成図である。
【図5】この発明の実施の形態1における音像位置決定部7の動作を示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1における映像表示システム11の音源の伝達特性分析を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1における図1の音像位置制御部8の内部(音像位置制御部108)の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2における図1の音像位置制御部8の内部(音像位置制御部208)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における音響再生装置1の構成図である。
音響再生装置1には、音響信号を再生する機器(図示せず)から出力されるステレオ音声信号(音響信号)が左チャネル信号2aと右チャネル信号2bとして入力され、音像位置(聴感上のあたかもあると思われる音源の位置)の変更処理が行われた音響信号が左チャネル信号(図示せず)と右チャネル信号(図示せず)として出力される。
ここでは、音響再生装置1の入力信号および出力信号は、左チャネル信号2aと右チャネル信号2bの2チャネル信号の構成とするが、この構成に限定するものではなく、入力および出力するチャネル数を3以上のチャネルの構成にしてもよい。
【0010】
音響再生装置1は、音響信号を再生する機器からの左チャネル信号2aが入力される入力端子3a、右チャネル信号2bが入力される入力端子3b、視聴者位置距離情報4が入力される入力端子3c、視聴者位置方向情報5が入力される入力端子3d、入力端子3cから入力された視聴者位置距離情報4と入力端子3dから入力された視聴者位置方向情報5から視聴者の位置を分析する視聴者位置分析部6、視聴者位置分析部6から出力されたスピーカーに対する視聴者位置が入力され音響信号に対して音像位置を決定する制御信号を生成する音像位置決定部7、音像位置決定部7から出力された音像位置を視聴者の正面の位置に定位させる制御信号と入力端子3aから入力される左チャネル信号2aおよび入力端子3bから入力される右チャネル信号2bが入力され、制御信号に基づいて左チャネル信号2aおよび右チャネル信号2bを制御する音像位置制御部8、音像位置制御部8から制御された左チャネル信号(図示せず)をアンプ(図示せず)を介して左スピーカー9aに出力する出力端子10a、音像位置制御部8から制御された右チャネル信号(図示せず)をアンプを介して右スピーカー9bに出力する出力端子10bから構成されている。
視聴者位置距離情報4と視聴者位置方向情報5の説明は後述する。
【0011】
また、図2は、この発明の実施の形態1における音響再生装置1を備えた映像表示システム11の構成図である。
映像表示システム11は、音響再生装置1が内蔵された映像表示装置12、この映像表示装置12の左の端部に内蔵され、図1の音響再生装置1の出力端子10aと接続される左スピーカー9a、この映像表示装置12の右の端部に内蔵され、音響再生装置1の出力端子10bと接続される右スピーカー9b、この左スピーカー9aと右スピーカー9bとの中央13であって映像表示装置12の前面に設置されたセンサー14から構成されている。
【0012】
センサー14は、センサー14と視聴者(視聴者位置)15との距離A、センサー14の前面の垂直線(センサー14の前方線)と、センサー14と視聴者位置15とを結ぶ線と、のなす角度αを検出する。
センサー14は、カメラで撮像した画像を分析し、センサー14の位置からの視聴者位置15との距離と方向を推測し、距離Aと角度αを検出する。なお、この時、例えばカメラで撮像した画像から、人の顔を検知することで、動物や横を向いている人を除いて視聴者を特定し、視聴者位置15を検出してもよい。
このセンサー14で検出した距離Aが図1で説明した視聴者位置距離情報4であり、角度αが図1で説明した視聴者位置方向情報5である。
【0013】
例えば、視聴者位置15がセンサー14から距離100(cm)の位置にいれば“100”、距離200(cm)の位置にいれば“200”の数値情報が視聴者位置距離情報4として図1の音響再生装置1の視聴者位置分析部6に入力される。
また、センサー14の前面の垂直方向を0度とした場合、視聴者が左方向或いは右方向30度の位置にいれば“30”、60度の位置にいれば“60”の数値情報が視聴者位置方向情報5として図1の音響再生装置1の視聴者位置分析部6に入力される。
【0014】
ここでは、センサー14は、カメラで撮像した画像を分析し、距離と方向を推測し、距離Aと角度αを検出するカメラセンサーを想定しているが、レーザー距離系のセンサーなど、センサー14からの視聴者の位置と方向(視聴者位置距離情報4と視聴者位置方向情報5)を検出できるセンサーであればよい。
【0015】
また、センサー14で検出した角度αを視聴者位置方向情報5として音響再生装置1の視聴者位置分析部6に入力するとして説明するが、センサー14の前面に対して、左右の方向と角度を含めた情報を視聴者位置方向情報5として図1の音響再生装置1の視聴者位置分析部6に入力してもよい。
【0016】
次に図2の映像表示システムの構成図を用いて配置を説明する。
センサー14の前面の垂直線上に、視聴者位置15から引いた垂直線との交点を交点16とし、センサー14と交点16との距離を距離B、視聴者位置15と交点16との距離を距離Cとする。
即ち、距離Bは、視聴者位置15の映像表示装置12の中央13(左右のスピーカー9の中央13であってセンサー14)からの映像表示装置12の前面に対して垂直方向の距離であり、距離Cは、視聴者位置15の映像表示装置12の中央13からの映像表示装置12の前面に対して水平方向の距離である。
【0017】
また、視聴者位置15から映像表示装置12の前面への垂直線と映像表示装置12の前面との交点を交点17とし、左スピーカー9aと交点17との距離を距離E、右スピーカー9bと交点17との距離を距離Fとする。
即ち、距離Eは、左スピーカー9aと視聴者位置15との映像表示装置12に対して水平方向の距離であり、距離Fは、右スピーカー9bと視聴者位置15との映像表示装置12に対して水平方向の距離である。
【0018】
左スピーカー9aと右スピーカー9bは、映像表示装置12の端部に内蔵されているため、スピーカーの中央13は、映像表示装置12の正面の中央位置でもあり、センサー14の位置でもある。
【0019】
距離Dは、スピーカー9(左スピーカー9aと右スピーカー9b)の中央13と左スピーカー9aとの距離、距離Eは左スピーカー9aと交点17との距離、距離Fは右スピーカー9bと交点17との距離である。左スピーカー9aと右スピーカー9bとの距離は既定の値として図1の音響再生装置1に予め与えられるか、もしくは、別途、音響再生装置1に設定することができるものとする。なお、左スピーカー9aと右スピーカー9bとの距離の既定の値は、音響再生装置1内の記憶装置に記憶されてもよいし、外付けの記憶装置に記憶されていてもよい。
ここでは、センサー14の位置をスピーカー9の中央13としているが、スピーカー9aおよびスピーカー9bからセンサー14までの距離が予めわかっていれば、センサー14の位置は、スピーカー9の中央13でなくてもよい。
【0020】
また、ここでは、映像表示装置12に音響再生装置1、左スピーカー9aと右スピーカー9bが内蔵され、センサー14が設置されている映像表示システムとして説明するが、映像表示装置12に音響再生装置1、左スピーカー9aと右スピーカー9bが内蔵されていない場合、例えば映像表示装置12の代わりにホームシアターなどで使用する左スピーカー9aと右スピーカー9bが設置されたシアターラックに音響再生装置1、センサー14を搭載する構成でもよい。
他にも、複数のスピーカーを設置する場所で、スピーカー9と音響再生装置1とセンサー14を設置すれば、音響再生システムとして構成することもできる。
【0021】
次に、図1の音響再生装置1の動作を説明する。
まず、音響再生装置1の動作の概略を説明する。
視聴者の位置を検出するセンサー14から検出された視聴者位置距離情報4と視聴者位置方向情報5が、入力端子3cおよび3d(入力部)から視聴者位置分析部6に入力され、視聴者の位置(視聴者位置15)を分析し、視聴者位置分析部6から出力された視聴者位置15と予め記憶されたスピーカー9の位置から音像位置決定部7(差分算出部)がスピーカー9と視聴者位置15との距離の差分を求め、その差分を解消する制御信号を音像位置制御部8に出力し、音像位置制御部8(制御部)は音響信号を再生する機器からの信号(音響信号)をその制御信号に基づいて制御し、スピーカー9に出力する出力端子10(出力部)に出力する。なお、視聴者位置分析部6と音像位置決定部7とをあわせて差分算出部としてもよい。
【0022】
次に、音響再生装置1の各構成要素の動作について説明する。
まず、視聴者位置分析部6の動作を説明する。
視聴者位置分析部6では、図2のセンサー14で検出し音響再生装置1に入力された視聴者位置距離情報4(距離A)と視聴者位置方向情報5(角度α)から、センサー14と図2の交点16の距離B(センサー14と視聴者位置15とのセンサー14の前面の垂直方向の距離)と、視聴者位置15と交点16との距離C(センサー14と視聴者位置15とのセンサー14の前面の水平方向の距離)を求める。
【0023】
なお、ここでは、距離Aと角度αを基に距離B、距離Cを算出したが、これに限られるものではない。例えば角度αに代えて、センサー14の前面の平行線と、センサー14と視聴者位置15とを結ぶ線と、のなす角を用いてもよい。
【0024】
そして、図2の距離Cと前述した距離Dから、左スピーカー9aと図2の交点17との距離E(左スピーカー9aと視聴者位置15との映像表示装置12に対して水平方向の距離)と右スピーカー9bと図2の交点17との距離F(右スピーカー9bと視聴者位置15との映像表示装置12に対して水平方向の距離)を求める。
【0025】
この視聴者位置分析部6の動作について、図2および図3を用いて詳細に説明する。
図3は、視聴者位置分析部6の動作手順を示す処理フローチャートである。
図3のS101、S102、S103、S104、S105、S106、S107は処理ブロックである。
【0026】
はじめに、処理ブロックS101において、センサー14から視聴者位置距離情報4、即ち、距離Aを取得する。
次に、処理ブロックS102において、センサー14から視聴者位置角度情報5、即ち、角度αを取得する。
【0027】
処理ブロックS103では、距離Aおよび角度αを用いて、センサー14と交点16との距離Bを算出する。なお、距離Bは、(式1)から求めることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
次に、処理ブロックS104において、距離Aおよび角度αを用いて、視聴者位置15と交点16との距離Cを算出する。なお、距離Cは、(式2)から求めることができる。
【0030】
【数2】

【0031】
処理ブロックS105では、距離Cおよび距離Dを用いて、スピーカー9の中央13から左スピーカー9aまでの距離Eを算出する。なお、距離Eは、(式3)から求めることができる。
【0032】
【数3】

【0033】
次に、処理ブロックS106において、距離Cおよび距離Dを用いて、スピーカー9の中央13から右スピーカー9bまでの距離Fを算出する。なお、距離Fは、(式4)から求めることができる。
【0034】
【数4】

【0035】
最後に、処理ブロックS107では、距離B、距離E、距離Fを音像位置決定部7に送出して、処理を終了する。
以上が視聴位置分析部6の動作説明である。
【0036】
次に、音像位置決定部7の動作を説明する。
音像位置決定部7では、視聴者位置分析部6から受け取った距離B、距離E、距離Fを用いて、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離Gと視聴者位置15から右スピーカー9bまでの距離Hをそれぞれ算出し、その差分値およびその差分値の絶対値を用いて、視聴者位置15で音像を定位する、即ち、視聴者位置15で音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができるように、距離の差分を解消する処理を決める。
【0037】
この音像位置決定部7の動作について、図4および図5を用いて詳細に説明する。
図4は、図2に示した映像表示システム11の構成図に、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離G、視聴者位置15から右スピーカー9bまでの距離Hを追加して明示した図である。
【0038】
図中の映像表示システム11、映像表示装置12、左スピーカー9a、右スピーカー9b、スピーカー9の中央13、センサー14、視聴者位置15、交点16、交点17、距離A、距離B、距離C、距離D、距離E、距離F、角度αは、図2に示した構成要素と同一であり、説明は省略する。
次に、音像位置決定部7の動作について、図4および図5に示す処理フローチャートを用いて詳細に説明する。
【0039】
図5は、音像位置決定部7の動作手順を示す処理フローチャートである。
図5のS201、S202、S203、S205、S206、S207は処理ブロック、S204、S206は条件分岐ブロックである。
【0040】
処理ブロックS201では、距離Bおよび距離Eを用いて、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離Gを算出する。なお、距離Gは、(式5)から求めることができる。
【0041】
【数5】

【0042】
次に、処理ブロックS202において、距離Bおよび距離Fを用いて、視聴者位置15から右スピーカー9bからまでの距離Hを算出する。なお、距離Hは、(式6)から求めることができる。
【0043】
【数6】

【0044】
処理ブロックS203では、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離Gから、視聴者位置15から右スピーカー9bまでの距離Hを減算し、視聴者位置15から左右のスピーカー9までの距離の差分値Iと、差分値Iの絶対値|I|を算出する。
例えば、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離Gが100(cm)、視聴者位置15から右スピーカー9bまでの距離Hが150cmである場合は、差分値Iは“−50”、絶対値|I|は“50”となる。
【0045】
分岐ブロックS204では、絶対値|I|がNより小さいか否かの判定を行う。
ここでのNは、視聴者位置15から左右のスピーカー9までの距離差が少ないと判断する閾値を指す。その数値としては、例えば左右のスピーカー間隔の20%とし、左右のスピーカー間隔が100(cm)の場合は、Nは20(cm)と決めておく。
【0046】
以降の処理は分岐ブロックS204における判定結果により異なる。
分岐ブロックS204において、判定結果が“絶対値|I|はNより小さい”であった場合は、処理ブロックS205に進む。
【0047】
処理ブロックS205では、入力端子3aから入力された左チャネル信号2aおよび入力端子3bから入力された右チャネル信号2bを処理しない制御信号を音像位置制御部8に送出して、処理を終了する。
【0048】
分岐ブロックS204において、判定結果が“絶対値|I|はNより小さい”ではなかった場合は、分岐ブロックS206に進む。
【0049】
分岐ブロックS206において、判定結果が“差分値Iは0(ゼロ)より小さい”であった場合は、処理ブロックS207に進む。
【0050】
ここで、判定条件に関して補足する。
差分値Iは、視聴者位置15から左スピーカー9aまでの距離Gから、視聴者位置15から右スピーカー9bまでの距離Hを減算した結果である。よって、差分値Iが0より小さいことは、距離Gが距離Hよりも短いこととなり、視聴者位置15は、左スピーカー9aに近い場所に位置し、中央位置よりも左側にいることを意味する。
【0051】
音響信号に対して制御しない一般的な場合、音響スピーカー9から再生される音像が、音源を正面とした時の音像と同じになる位置は、2つのスピーカー9の中央位置である。
そして、視聴者に左右2つのスピーカーで鳴動する音源を与える場合において、視聴者位置15が2つのスピーカー9の中央位置から、例えば左にずれた場合、視聴者が聴く音像は、あたかも音源が右にずれたように感じる。
【0052】
そこで、処理ブロックS207では、左スピーカー9aに近い視聴者位置15で、あたかも音源が右にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像になるように制御する制御信号を音像位置制御部8に送出する。
【0053】
また、分岐ブロックS206において、判定結果が“差分値Iは0より小さい”ではなかった場合は、処理ブロックS208に進む。この結果は、視聴者位置15が、右スピーカー9bに近い場所に位置し、中央位置よりも右側にいることを意味する。
【0054】
そこで、処理ブロックS208では、右スピーカー9bに近い視聴者位置15で、あたかも音源が左にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像になるように制御する制御信号を音像位置制御部8に送出する。
以上が音像位置決定部7の動作説明である。
【0055】
次に、音像位置制御部8の動作の説明を行う。
音像位置制御部8は、入力端子3aから入力された左チャネル信号2aおよび入力端子3bから入力された右チャネル信号2bに対して、音像位置決定部7からの制御信号に基づいて処理を行った後、処理後の左チャネル信号と右チャネル信号を出力端子10aおよび出力端子10bに出力する。
【0056】
ここで、音像位置制御部8の動作について補足する。
音像位置制御部8において、視聴者位置15での音像を変更する処理は、あたかも音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する処理であれば何でも良い。
ここでは、その一例として、音の伝達特性を分析して得た伝達関数による処理について説明する。
【0057】
音像を変更する処理として、伝達関数による処理を4種類用意しておき、これらの処理を行わないものを含めて、5つの動作モードを切り替える方法について、図6、図7を用いて説明する。
まず、音源位置が異なることによって生じる伝達特性を分析して得られる伝達関数について述べる。
【0058】
図6は、音源位置LR0、音源位置L1、音源位置L2、音源位置R1、音源位置R2で映像表示システム11から再生した音が、伝達特性を分析するマイク18に届く様子を示したものである。
【0059】
また、音源位置LR0での映像表示システム11の左スピーカー9aを音源LR0−L、右スピーカー9bを音源LR0−R、音源位置L1での映像表示システム11の左スピーカー9aを音源L1−L、右スピーカー9bを音源L1−R、音源位置L2での映像表示システム11の左スピーカー9aを音源L2−L、右スピーカー9bを音源L2−R、音源位置R1での映像表示システム11の左スピーカー9aを音源R1−L、右スピーカー9bを音源R1−R、音源位置R2での映像表示システム11の左スピーカー9aを音源R2−L、右スピーカー9bを音源R2−Rとする。
【0060】
音源位置LR0は、マイク18の正面に位置する音源位置である。
そして、音源位置L1は、マイク18の正面に位置する音源位置LR0の映像表示システム11をマイク18から映像表示システム11に向かって左側に移動した位置であり、音源位置L2は、音源位置L1よりも更に左側に移動した位置である。
【0061】
また、音源位置R1は、マイク18の正面に位置する音源位置LR0の映像表示システム11をマイク18から映像表示システム11に向かって右側に移動した位置であり、音源位置R2は音源位置R1よりも更に右側に移動した位置である。
【0062】
そして、図6の音源位置L1において、音源位置L1の左側の音源L1−Lで鳴動させた音(左スピーカー9aから再生される音)に対する伝達関数を伝達関数HL1、音源位置L1の右側の音源L1−Rで鳴動させた音(右スピーカー9bから再生される音)に対する伝達関数を伝達関数HL1とする。
伝達関数は、前述したように音源からマイク18に到達する音の伝達特性を分析して得られるものである。
【0063】
また、音源位置L2の左側で鳴動させた音(左スピーカー9aから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HL2、音源位置L2の右側で鳴動させた音(右スピーカー9bから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HL2とする。
【0064】
一方、音源位置R1において、音源位置R1の左側で鳴動させた音(左スピーカー9aから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HR1、音源位置R1の右側で鳴動させた音(右スピーカー9bから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HR1とする。
【0065】
また、音源位置R2の左側で鳴動させた音(左スピーカー9aから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HR2、音源位置R2の右側で鳴動させた音(右スピーカー9bから再生した音)に対する伝達関数を伝達関数HR2とする。
【0066】
音源位置L1の左側の音源L1−Lからマイク18に到達する伝達関数HL1Lを作成するには、例えば映像表示システム11を音源位置L1に置き、音源L1−L(左スピーカー9a)からパルス信号を発生させ、マイク18で集音してインパルス応答を求めることによって得られる。
【0067】
なお、音源位置L1の右側で鳴動させた音に対する伝達関数HL1、音源位置L2の左側で鳴動させた音に対する伝達関数HL2、音源位置L2の右側鳴動させた音に対する伝達関数HL2、音源位置R1の左側で鳴動させた音に対する伝達関数HR1、音源位置R1の右側で鳴動させた音に対する伝達関数HR1、音源位置R2の左側で鳴動させた音に対する伝達関数HR2、音源位置R2の右側で鳴動させた音に対する伝達関数HR2も同様にして得ることができる。
ここで、各音源位置での左右の伝達関数の関係について、音源位置L1の場合を例に説明する。
【0068】
音源位置L1の左側の音源L1−Lからマイク18に到達する伝達関数HL1と、音源位置L1の右側の音源L1−Rからマイク18に到達する伝達関数HL1の差は、音源位置L1の左側の音源L1−Lからマイク18までの距離と音源位置L1の右側の音源L1−Rからマイク18までの距離との差である。
【0069】
この場合、全く同じ音を両方の音源(L1−L,L1−R)の位置から再生すれば、マイク18との距離が遠い音源L1−Lから音が届く伝達関数HL1は、マイク18と距離の近い音源L1−Rから音が届く伝達関数HL1に比べ、距離の差だけ音の到達時間が遅れ、また、音圧も減衰することになる。
【0070】
マイク18の正面で再生する音源位置LR0では、音源LR0-Lと音源LR0−Rからマイク18への音の到達時間の遅れ、音圧の減衰の差がない。これは、音源LR0-Lとマイク18の距離と、音源LR0−Rとマイク18との距離の差が生じていないためである。
【0071】
従って、マイク18の位置で、音源位置L1からの音像を音源位置LR0からの音像と同じにするためには、例えば、音源位置L1の左右の音源(L1−L、L1−R)即ち、音源位置L1の左スピーカー9a、右スピーカー9bからマイク18までの距離差を解消する処理を行えばよい。
【0072】
この距離差を解消する処理として、例えば、音源位置L1の左側の音源L1−Lから再生する音(左チャネル信号)に対して、音源位置L1の右側の伝達関数HL1の処理を行い、また、音源位置L1の右側の音源L1−Rから再生する音(右チャネル信号)に対して、音源位置L1の左側の伝達関数HL1の処理を行えばよい。
【0073】
音源位置L2からの音像を音源位置LR0からの音像と同じにする処理、音源位置R1からの音像を音源位置LR0からの音像と同じにする処理、音源位置R2からの音像を音源位置LR0からの音像と同じにする処理についても同様に行えばよい。
【0074】
ここから、音像位置制御部8の動作の説明にもどる。
図7は、実施の形態1における図1の音像位置制御部8の内部(音像位置制御部108)の構成図である。
図7において、音像位置制御部108は、入力端子3から入力される左チャネル信号2aおよび右チャネル信号2bを変更する処理である伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2、伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2と、入力端子3から入力される左チャネル信号2aおよび右チャネル信号2bをこれらの伝達関数HR1〜伝達関数HL2に切り替えて処理し、処理された左チャネル信号(図示せず)と右チャネル信号(図示せず)を出力端子10に出力するためのスイッチ108a、108b、108c、108dと、から構成されている。
【0075】
スイッチ108aは、入力端子3aから入力される左チャネル信号2aを音像位置決定部7からの制御信号に基づいて伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2に切り替える、又は伝達関数で処理をせずそのまま出力するスイッチである。
【0076】
同様に、スイッチ108bは、入力端子3bから入力される右チャネル信号2bを音像位置決定部7からの制御信号に基づいて伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2に切り替える、又は伝達関数で処理をせずにそのまま出力するスイッチである。
【0077】
また、スイッチ108cは、伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2のいずれかで処理された左チャネル信号(図示せず)を出力端子10aに出力するために切り替える、又は伝達関数で処理をせずにそのまま出力するスイッチである。
【0078】
同様にスイッチ108dは、伝達関数HR1、伝達関数HR2、伝達関数HL1、伝達関数HL2のいずれかで処理された右チャネル信号(図示せず)を出力端子10aに出力するために切り替える、又は伝達関数で処理をせずにそのまま出力するスイッチである。
【0079】
図7の伝達関数HR1R、伝達関数HR2R、伝達関数HL1R、伝達関数HL2R、伝達関数HR1L、伝達関数HR2L、伝達関数HL1L、伝達関数HL2Lは、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御し、図6で示した左右に移動させた音源のマイク18での音像を元の音源位置(音源位置LR0)の音像と同じにするための処理である。
【0080】
次に、音像位置制御部108の動作について説明する。
音像位置制御部108は、音像位置決定部7からの制御信号に基づいて処理内容を変更する。
音像位置決定部7からの制御信号が、入力端子3aから入力された左チャネル信号2aおよび入力端子3bから入力された右チャネル信号2bを処理しない制御信号であった場合は、スイッチ108aとスイッチ108cを直接つなぎ、また、スイッチ108bとスイッチ108dを直接つないで、入力端子3aに入力された左チャネル信号および右チャネル信号が、出力端子10aおよび出力端子10bにそのまま出力されるようにする。
【0081】
一方、音像位置決定部7からの制御信号が、左スピーカー9aに近い視聴者位置15で、あたかも音源が右にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像にする制御信号であった場合は、音源が左スピーカー9aに近い視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する。この制御は、図6で音源位置を右側に移動した時、マイク18の位置で、音源位置R1或いはR2の音源からの音像を音源位置LR0の音源からの音像にする処理と同様である。
【0082】
この処理は、例えば、絶対値|I|に基づいてスイッチ108aとスイッチ108cの端子を伝達関数HR1或いは伝達関数HR2につなぎ、また、スイッチ108bとスイッチ108dの端子を伝達関数HR1或いは伝達関数HR2につなぐことにより、入力端子3aからの左チャネル信号および入力端子3bからの右チャネル信号を伝達関数によって処理するものである。
【0083】
即ち、音響再生装置1に入力される左チャネル信号2aと右チャネル信号2bを音像位置制御部8で伝達関数HR1或いは伝達関数HR2R、伝達関数HR1或いは伝達関数HR2に切り替えて処理した後の左チャネル信号と右チャネル信号を出力端子10aおよび出力端子10bに出力する。
【0084】
伝達関数HR1と伝達関数HR2の選択については、例えば、図5のフローチャートで求めた絶対値|I|が30(cm)未満の場合は伝達関数HR1を、30(cm)以上の場合は伝達関数HR2を選択するように予め決めておく。
【0085】
一方、音像位置決定部7からの制御信号が、右スピーカー9bに近い視聴者位置15で、あたかも音源が左にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像にする制御信号であった場合は、音源が右スピーカー9aに近い視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する。この制御は、図6で音源位置を左側に移動した時、マイク18の位置で、音源位置L1或いはL2の音源からの音像を音源位置LR0の音源からの音像にする処理と同様である。
【0086】
この処理は、例えば、絶対値|I|に基づいて入力端子3a側のスイッチ108aと出力端子10a側のスイッチ108cの端子を伝達関数HL1或いは伝達関数HL2につなぎ、また、入力端子3a側のスイッチ108bと出力端子10a側のスイッチ108dの端子を伝達関数HL1或いは伝達関数HL2につなぐことにより、入力端子3aからの左チャネル信号および入力端子3bからの右チャネル信号を伝達関数によって処理するものである。
【0087】
即ち、音響再生装置1に入力される左チャネル信号2aと右チャネル信号2bを音像位置制御部8で伝達関数HL1R或いは伝達関数HL2R、と伝達関数HL1L或いは伝達関数HL2Lに切り替えて処理した後の左チャネル信号と右チャネル信号を出力端子10aおよび出力端子10bに出力する。
【0088】
伝達関数HL1Rと伝達関数HL2Rの選択については、例えば、図5のフローチャートで求めた絶対値|I|が30(cm)未満の場合は伝達関数HL1Rを、30(cm)以上の場合は伝達関数HL2Rを選択するように予め決めておく。
【0089】
このようにして、音像位置決定部7からの制御信号に基づいて音響再生装置1に入力される左チャネル信号2aと右チャネル信号2bを音像位置制御部8で伝達関数を切り替えて処理をすることにより、視聴者位置15が移動しても、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御することができる。
【0090】
即ち、視聴者位置15から左右のスピーカー9までの距離の差分値の絶対値|I|の範囲によって、音像位置制御部108のスイッチで伝達関数を切り替えて処理することにより、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御され、常に音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる。
【0091】
上記説明においては、図7に示した音像位置制御部8の内部の構成として、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する処理を4種類用意しておき、これらの処理を行わないものを含めて、5つの動作モードを切り替える構成としていたが、この構成に限定するものではなく、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する処理を2種類用意しておき、これらの処理を行わないものを含めて、3つの動作モードを切り替える構成にしてもよい。
【0092】
また、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する処理を6種類以上のM個用意しておき、これらの処理を行わないものを含めて、(M+1)の動作モードを切り替える構成にしてもよい
【0093】
以上がこの発明の実施の形態1の詳細説明である。
この実施の形態1によれば、センサー14から得た視聴者位置15の視聴者位置距離情報4および視聴者位置方向情報5、予め記憶されたセンサー14の位置とスピーカー9の位置との距離から、視聴者位置15とスピーカー9の位置との距離の差分を算出し、この差分または差分の絶対値に応じて、音響再生装置1に入力されたチャネル信号をこの差分を解消する伝達関数で処理することにより、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるようにしたので、視聴者位置15がスピーカー9の中心位置の延長線上の位置から移動しても、音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる。
【0094】
実施の形態2.
次に、実施の形態2について図8を用いて説明する。
実施の形態2では、実施の形態1で示した音響再生装置1の音像位置制御部8の内部構成が異なる構成について説明する。そのため、音響位置制御部8以外の音響再生装置1の構成は実施の形態1の構成を示す図1を用いて説明する。
【0095】
図8は、実施の形態2における音響再生装置1の図1の音像位置制御部8の内部(音像位置制御部208)の構成図である。
音像位置制御部208は、音像位置決定部7から音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する制御信号に基づく処理の一例である。この処理は、音源が視聴者位置15の正面にある音像になるように制御する処理を、連続的に変更が可能な遅延量と利得値を用いて変更することによって行うものである。
【0096】
図8における音像位置制御部208は、音響再生装置1の入力端子3aから入力される左チャネル信号2aの遅延時間(遅延量)を音像位置決定部7からの制御信号に基づいて調整する遅延調整部L208eと、入力端子3bから入力される右チャネル信号2bの遅延時間を音像位置決定部7からの制御信号に基づいて調整する遅延調整部R208fと、左チャネル信号の利得値を音像位置決定部7からの制御信号に基づいて調整する利得調整部L208gと、右チャネル信号の利得値を音像位置決定部7からの制御信号に基づいて調整する利得調整部R208pから構成されている。
【0097】
次に、音像位置制御部208の動作について説明する。
音像位置制御部208は、音像位置決定部7からの制御信号に基づいて処理内容を変更する。
まず、音像位置決定部7からの制御信号が、入力端子3aから入力された左チャネル信号2aおよび入力端子3bから入力された右チャネル信号2bを処理しない制御信号であった場合は、遅延調整部L208eおよび遅延調整部R208fにおける遅延量を初期値、即ち遅延調整の無い状態に変更し、利得調整部208gおよび利得調整部R208pにおける利得値を初期値、即ち利得調整の無い状態に変更する。この変更により、音響再生装置1に入力される左チャネル信号2aおよび右チャネル信号2bを制御することなく、出力端子10aおよび出力端子10bから、そのままスピーカー9に出力されるようにする。
【0098】
一方、音像位置決定部7からの制御信号が、左スピーカー9aに近い視聴者位置15で、あたかも音源が右にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像にする制御信号であった場合は、音源が左スピーカー9aに近い視聴者位置15の正面にある音像になるように遅延調整部L208eにおける遅延量を、視聴者位置15から左右スピーカーの距離差の絶対値|I|を用いた(式7)で求めた遅延量に設定し、遅延調整処理を行う
【0099】
【数7】

(式7)に示した340000は、1秒間に進む音の速さ(単位はcm)であり、遅延量である遅延時間を左右スピーカーの距離差と音の速さから算出している。
【0100】
次に、利得調整部L208gにおける利得値を、図4に示した視聴者から左右スピーカー9までの距離Gおよび距離Hに応じた利得値(式8)で求めた利得値に設定し、利得調整処理を行う。
【0101】
【数8】

(式8)の利得値は、音圧が距離の2乗分の1で減衰する音の特性を考慮したものであり、距離Gおよび距離Hの音圧差の比を取ることで、利得値を補正している。
【0102】
同時に、遅延調整部R208fにおける遅延量を初期値、即ち遅延調整の無い状態に変更し、利得調整部R208pにおける利得値を初期値、即ち利得調整の無い状態に変更する。
【0103】
このようにして、遅延調整部L208e、遅延調整部R208f、利得調整部L208g、および利得調整部R208pによって調整した左チャネル信号(図示せず)および右チャネル信号(図示せず)を出力端子10aおよび出力端子10bから出力する。
【0104】
一方、音像位置決定部7からの制御信号が、右スピーカー9bに近い視聴者位置15で、あたかも音源が左にずれたように感じる音像を、あたかも音源が正面にあるように感じる音像にする制御信号であった場合は、音源が右スピーカー9aに近い視聴者位置15の正面にある音像になるように遅延調整部R208fにおける遅延量を、視聴者位置15から左右スピーカーの距離差の絶対値|I|を用いた(式7)で求めた遅延量に設定し、遅延調整処理を行う。
【0105】
次に、利得調整部R208pにおける利得値を、図4に示した視聴者から左右スピーカーまでの距離Gおよび距離Hに応じた利得値(式9)で求めた利得値に設定し、利得調整処理を行う。
【0106】
【数9】

(式9)は、(式8)と同様に、音圧は距離の2乗分の1で減衰する特性を考慮したものであり、距離Gおよび距離Hの音圧差の比を取ることで、利得値を補正している。
【0107】
同時に、遅延調整部L208eにおける遅延量を初期値、即ち遅延調整の無い状態に変更し、利得調整部L208gにおける利得値を初期値、即ち利得調整の無い状態に変更する。
【0108】
このようにして、遅延調整部L208e、遅延調整部R208f、利得調整部L208g、および利得調整部R208pによって調整した左チャネル信号および右チャネル信号(制御された音響信号)を出力端子10aおよび出力端子10bから出力する。
【0109】
以上がこの発明の実施の形態2の詳細説明である。
実施の形態2における音像位置制御部208によれば、音像位置決定部7で視聴者位置15とスピーカー9との距離の差分の絶対値を決定し、この差分に応じて、音像位置制御部8で左チャネル信号と右チャネル信号(音響信号)を連続的に遅延調整処理および利得調整処理することにより音源が視聴者位置15の正面にある音像になるようにしたので、視聴者位置15がスピーカー9の中心位置の延長線上の位置から移動しても、音源を正面とした場合と同じ音響効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 音響再生装置、2 チャネル信号、3 入力端子、4 視聴者位置距離情報、5 視聴者位置方向情報、6 視聴者位置分析部、7 音像位置決定部、8 音像位置制御部、9 スピーカー、10 出力端子、11 映像表示システム、12 映像表示装置、13 スピーカーの中央、14 センサー、15 視聴者位置、16 交点、17 交点、18 伝達特性分析のマイク、108 音像位置制御部、108a スイッチ、108b スイッチ、108c スイッチ、108d スイッチ、208 音像位置制御部、208e 遅延調整部L、208f 遅延調整部R、208g 利得調整部L、208p 利得調整部R。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視聴者の位置を検出するセンサーから視聴者位置情報が入力される入力部と、
該入力部で入力した前記視聴者位置情報および予め記憶された前記センサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離に基づいて、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出する差分算出部と、
該差分算出部で算出した差分に基づいて音響信号を制御する制御部と、
該制御部で制御された音響信号を出力する出力部と、
を備えたことを特徴とする音響再生装置。
【請求項2】
前記視聴者位置情報は、前記センサーの位置から前記視聴者の位置への距離と方向であることを特徴とする請求項1記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記方向とは、前記センサーの前面の垂直線と、前記センサーの位置と前記視聴者の位置とを結ぶ線と、のなす角度であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の音響再生装置。
【請求項4】
2以上のスピーカーの位置からの距離が同じ位置で、制御される前の前記音響信号に基づく音像は、音源を正面とする音像と同じであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の音響再生装置。
【請求項5】
前記差分算出部は、前記視聴者位置情報から、前記センサーの前面の垂直線上であり前記視聴者の位置からこの垂直線に直行する線の交点と前記センサーの位置との距離、および前記交点と前記視聴者の位置との距離、を算出し、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の音響再生装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記差分を解消する伝達関数により前記音響信号を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の音響再生装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記差分によって生じる音の遅延量と該音の音圧差の比である利得値とを調整することにより前記音響信号を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の音響再生装置。
【請求項8】
表示部、
該表示部の左右の両端に配置されたスピーカー、
前記表示部の前面に配置されたセンサー、
該センサーから、視聴者の位置を検出した視聴者位置情報が入力される入力部と、該入力部で入力した前記視聴者位置情報および予め記憶された前記センサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離に基づいて、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出する差分算出部と、該差分算出部で算出した差分に基づいて音響信号を制御する制御部と、該制御部で制御された音響信号を出力する出力部と、を有する音響再生装置、
を備えたことを特徴とする映像表示装置。
【請求項9】
2以上のスピーカー、
視聴者の位置を検出するセンサー、
該センサーから、視聴者の位置を検出した視聴者位置情報が入力される入力部と、該入力部で入力した前記視聴者位置情報および予め記憶された前記センサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離に基づいて、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出する差分算出部と、該差分算出部で算出した差分に基づいて音響信号を制御する制御部と、該制御部で制御された音響信号を出力する出力部と、を有する音響再生装置、
を備えたことを特徴とする音響再生システム。
【請求項10】
音響再生装置による音響信号を制御する方法において、
前記音響再生装置の入力部で、視聴者の位置を検出するセンサーから視聴者位置情報が入力される入力ステップと、
前記音響再生装置の差分算出部で、前記入力ステップで入力した前記視聴者位置情報および予め記憶された前記センサーの位置と2以上のスピーカーの位置との距離に基づいて、各々の前記スピーカーの位置と前記視聴者の位置との距離の差分を算出する差分算出ステップと、
前記音響再生装置の制御部で、前記差分算出ステップで算出した差分に基づいて音響信号を制御する制御ステップと、
前記音響再生装置の出力部で、前記制御ステップで制御された音響信号を出力する出力ステップと、
を備えたことを特徴とする音響再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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