説明

音響再生装置

【課題】人間の両眼視差を使って映像を立体的に感じさせる3D映像において、簡単な装置構成で映像に見合った音響再生効果を実現できる方法が無かった。
【解決手段】3D映像の奥行き感や飛び出し感を調整できる映像表示装置において、映像の描画位置を判定する3D映像描画位置判定部と、3D映像描画位置判定部で判定された映像描画位置に基づいて、スピーカから再生される音響信号の再生音像位置を決定する音像位置決定部と、前記音像位置決定部により決定された再生音像位置への音像形成処理を行う音像位置制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、映像表示装置より取得した3D映像描画位置情報の変化に連動して、スピーカから再生される音響信号の再生音像位置を制御する音響再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の両眼視差を使って映像を立体的に感じさせる3D(Three Dimensions)映像は、3D映像の撮像・製作技術の進化、映像表示装置の高性能化及び3D映像対応のBD(Blu-ray Disc)パッケージメディアの普及により、身近な存在になりつつある。
一方、映像と共に提供される音響信号に関しては、特別な処理が施されたコンテンツは普及しておらず、3D映像に見合った音響再生効果の実現が望まれている。
【0003】
装置外部から得た情報に基づいて音響効果を実現する例として、歌唱信号及び演奏信号の何れか一方、または両方の音像を制御する音像制御装置がある(特許文献1参照)。本例では、カラオケ装置の歌唱信号及び演奏信号を、歌唱者の位置情報から作成した仮想音源位置の距離情報及び方向情報に基づいて音像を形成する方法について詳述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−319487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の音像制御装置は、装置外部から得た距離情報と方向情報に基づいて、音響信号の再生音像位置を制御する手法について記載されている。しかしながら、人間の両眼視差を使って映像を立体的に感じさせる3D映像においては、映像情報から立体視される対象物の距離情報と方向情報を特定するのは容易ではなく、結果として装置規模が大きくなってしまうという課題がある。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたもので、視聴者が映像表示装置に対して指定する奥行き感や飛び出し感に関する制御情報を音響再生装置にも与え、3D映像描画位置の指定変更に連動して音響信号の再生音像位置を制御することで、3D映像への没入感を一層深めることが可能な音響再生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る音響再生装置は、
3D映像の奥行き感や飛び出し感を調整できる映像表示装置に用いられ、映像の描画位置を判定する3D映像描画位置判定部と、3D映像描画位置判定部で判定された映像描画位置に基づいて、スピーカから再生される音響信号の再生音像位置を決定する音像位置決定部と、前記音像位置決定部により決定された再生音像位置への音像形成を行う音像位置制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明の音響再生装置によれば、視聴者が映像表示装置に対して指定する奥行き感や飛び出し感に関する制御情報に連動して、音響信号の再生音像位置を制御することが可能となり、3D映像への没入感を一層深めることが可能な音響再生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る音響再生装置の機能ブロック構成図である。
【図2】3D映像描画位置情報と3D映像描画位置判定部の判定結果を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る音像位置決定部の動作手順を示したフローチャートである。
【図4】音源位置A及び音源位置Bで発生させた音がダミーヘッドの左耳部及び右耳部に届く様子を示した図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る音像位置制御部の機能ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る音響再生装置は、スピーカから再生される音響信号の再生音像位置を、映像表示装置より取得した3D映像の描画位置情報に連動して制御することで実現する。その具体的な手順について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、この発明の実施の形態1に係る音響再生装置の構成を示したものであり、音響再生装置の入力信号及び出力信号は、左チャネルと右チャネルの2チャネル音響信号の構成としている。図中の符号1は3D映像描画位置情報の入力端子、2は左チャネル信号の入力端子、3は右チャネル信号の入力端子、4は3D映像描画位置判定部、5は音像位置決定部、6は音像位置制御部、7は左チャネル信号の出力端子、8は右チャネル信号の出力端子である。
次に、これらの構成要素を用いて、音響再生装置の詳細を説明する。
【0012】
入力端子1から入力される3D映像描画位置情報とは、視聴者が3D映像の奥行き感や飛び出し感を制御するために指定する制御情報であり、例えば、信号“0”、“1”、“2”を用いて3D映像の描画位置を示す。
ここで、3D映像描画位置情報と3D映像描画位置判定部4における判定結果との関係を図2に示す。3D映像描画位置判定部4では、3D映像描画位置情報に基づき、3D映像描画位置情報が“0”の場合は3D映像描画位置を“画面の位置”、“1”の場合は3D映像描画位置を“画面の手前”、“2”の場合は3D映像描画位置を“画面の奥”と判定する。
【0013】
次に、この判定結果を受けた音像位置決定部5の動作について、処理フローチャートを用いながら説明する。
図3は、音像位置決定部5の動作手順を、処理フローチャートにて示したものであり、5a、5c、5e、5fは処理ブロックであり、5b、5dは条件分岐ブロックである。
【0014】
処理ブロック5aにおいては、3D映像描画位置判定部4から3D映像描画位置判定結果を取得する。
次に、分岐ブロック5bにおいて、3D映像描画位置判定結果が“画面の位置”かの判定を行う。以降の処理は分岐ブロック5bにおける判定結果により異なる。
【0015】
分岐ブロック5bにおいて、判定結果が“画面の位置”であった場合は、処理ブロック5cに進む。
処理ブロック5cにおいては、入力端子2及び入力端子3から入力された左チャネル信号及び右チャネル信号の再生音像位置を制御しない指示を音像位置制御部6に送出して、処理を終了する。
【0016】
分岐ブロック5bにおいて、判定結果が“画面の位置”ではなかった場合は、分岐ブロック5dに進む。
分岐ブロック5dにおいては、3D映像描画位置判定結果が“画面の手前”かの判定を行う。以降の処理は分岐ブロック5dにおける判定結果により異なる。
【0017】
分岐ブロック5dにおいて、判定結果が“画面の手前”であった場合は、処理ブロック5eに進む。
処理ブロック5eにおいては、入力端子2及び入力端子3から入力された左チャネル信号及び右チャネル信号の再生音像位置を、視聴者から見て映像表示装置の前方に定位させる制御を行う指示を音像位置制御部6に送出して、処理を終了する。
【0018】
分岐ブロック5dにおいて、判定結果が“画面の手前”ではなかった場合は、判定結果が“画面の奥”であると見なし、処理ブロック5fに進む。
処理ブロック5fにおいては、入力端子2及び入力端子3から入力された左チャネル信号及び右チャネル信号の再生音像位置を、視聴者から見て映像表示装置の後方に定位させる制御を行う指示を音像位置制御部6に送出して、処理を終了する。
以上が音像位置決定部5の動作説明である。引き続き音響再生装置の説明に戻る。
【0019】
音像位置制御部6は、入力端子2及び入力端子3から入力された左チャネル信号及び右チャネル信号に対して、音像位置決定部5からの指示に従って再生音像位置の制御処理を行った後、出力端子7及び出力端子8を経由して左右のスピーカから音声出力される。
ここで、音像位置制御部6の動作について補足しておく。音像位置制御部6における再生音像位置の制御処理の内容は、再生音像位置を映像表示装置の前方や映像表示装置の後方に制御する処理であれば何でも良い。ここでは、その一例として、再生音像位置を映像表示装置の前方と映像表示装置の後方に定位させる処理を2種類用意しておき、これらの処理を行わないものを含めて、3つの動作モードを切り替える方法について、図4、図5を用いて説明する。
【0020】
図4は、音源位置A及び音源位置Bで発生させた音が、ダミーヘッドの左耳部及び右耳部に届く様子を示したものである。この図4で、“映像表示装置の音源位置”は映像表示装置に付随する左右のスピーカ位置、“音源位置A”は視聴者から見て映像表示装置の前方の位置にある左右のスピーカ位置、“音源位置B”は視聴者から見て映像表示装置の後方の位置にある左右のスピーカ位置である。また、“HA”は音源位置Aの左側で鳴動させた音に対する左耳部の頭部伝達関数、“HA”は音源位置Aの右側で鳴動させた音に対する右耳部の頭部伝達関数、“HB”は音源位置Bの左側で鳴動させた音に対する左耳部の頭部伝達関数、“HB”は音源位置Bの右側で鳴動させた音に対する右耳部の頭部伝達関数である。
【0021】
音源位置Aの左側に音像を定位させる頭部伝達関数を作成するには、例えば、スピーカを用いて音源位置Aの左側からパルス信号を発生させ、ダミーヘッドの左耳部にあらかじめ設置しておいたマイクで集音してインパルス応答を求めればよい。なお、音源位置Aの右側、音源位置Bの左側及び右側での頭部伝達関数も同様にして作成すればよい。
【0022】
図5は、音像位置制御部6の詳細構成を示したものである。図5において、符号61、62、63、64はスイッチ、HA、HA、HB、HBは、図4に示した頭部伝達関数である。次に、音像位置制御部6の動作について説明する。
【0023】
音像位置制御部6は、音像位置決定部5からの指示に従って処理内容を変更する。
音像位置決定部5からの制御信号が、再生音像位置を制御しない指示内容であった場合は、スイッチ61とスイッチ63を直接つなぎ、また、スイッチ62とスイッチ64を直接つないで、左チャネル信号及び右チャネル信号が、そのまま出力されるようにする。
【0024】
一方、音像位置決定部5からの制御信号が、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の前方に定位させる制御を行う指示内容であった場合は、スイッチ61とスイッチ63を頭部伝達関数HAにつなぎ、また、スイッチ62とスイッチ64を頭部伝達関数HAにつないで、左チャネル信号及び右チャネル信号に対して、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の前方に定位させる頭部伝達関数の処理を行い、処理後の信号が出力されるようにする。
【0025】
一方、音像位置決定部5からの制御信号が、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の後方に定位させる制御を行う指示内容であった場合は、スイッチ61とスイッチ63を頭部伝達関数HBにつなぎ、また、スイッチ62とスイッチ64を頭部伝達関数HBにつないで、左チャネル信号及び右チャネル信号に対して、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の後方に定位させる頭部伝達関数の処理を行い、処理後の信号が出力されるようにする。
以上がこの発明の実施の形態1の詳細説明である。
【0026】
なお、この実施の形態1に係る説明においては、図1に示した音響再生装置の構成として、音響再生装置の入力信号及び出力信号は、左チャネルと右チャネルの2チャネル音響信号の構成としていたが、この構成に限定するものではなく、入力及び出力するチャネル数を複数チャネルの構成にしてもよいことを付け加えておく。
【0027】
以上のように、この実施の形態1によれば、視聴者が映像表示装置に対して指定する奥行き感や飛び出し感に関する制御情報に連動して、音響信号の再生音像位置を制御することが可能な構成としたので、3D映像への没入感を一層深めることが可能な音響再生装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明に係る音響再生装置は、3Dテレビジョン受像装置等の3D映像表示装置における音響再生装置に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0029】
1 3D映像描画位置情報の入力端子、2 左チャネル信号の入力端子、3 右チャネル信号の入力端子、4 3D映像描画位置判定部、5 音像位置決定部、5a、5c、5e、5f 図2に示したフローチャートの処理ブロック、5b、5d 図2に示したフローチャートの条件分岐ブロック、6 音像位置制御部、7 左スピーカへの出力端子、8 右スピーカへの出力端子、61、62、63、64 スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D映像の奥行き感や飛び出し感が制御情報により調整可能な映像表示装置に用いられる音響再生装置であって、映像の描画位置を判定する3D映像描画位置判定部と、3D映像描画位置判定部で判定された映像描画位置に基づいて、スピーカから再生される音響信号の再生音像位置を決定する音像位置決定部と、前記音像位置決定部により決定された再生音像位置への音像形成処理を行う音像位置制御部とを備えることを特徴とする音響再生装置。
【請求項2】
3D映像描画位置判定部は、視聴者が3D映像の奥行き感や飛び出し感を制御するために指定する制御情報を用いて、3D映像描画位置を判定する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項3】
音像位置制御部は、再生音像位置を制御する処理経路と、再生音像位置を制御しない処理経路と、これらの処理経路を切り替えて制御する手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項4】
再生音像位置を制御する処理経路が、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の前方に定位させる制御を行う音像位置制御手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の音響再生装置。
【請求項5】
再生音像位置を制御する処理経路が、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の後方に定位させる制御を行う音像位置制御手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の音響再生装置。
【請求項6】
再生音像位置を制御する処理経路が、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の前方に定位させる制御を行う音像位置制御手段と、再生音像位置を視聴者から見て映像表示装置の後方に定位させる制御を行う音像位置制御手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の音響再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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