音響制御装置
【課題】音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うこと。
【解決手段】DSPが、音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する。また、DSPが、音響データの切り替わりを検知した場合に、調整を初期化することであらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行する。そして、オーディオマイコンが、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、DSPに対してリセット処理の実行を指示するように音響制御装置を構成する。
【解決手段】DSPが、音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する。また、DSPが、音響データの切り替わりを検知した場合に、調整を初期化することであらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行する。そして、オーディオマイコンが、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、DSPに対してリセット処理の実行を指示するように音響制御装置を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば車載用オーディオ装置のように、ラジオチューナーやCD(Compact Disc)プレイヤー、外部入力端子のAUX(Auxiliary)入力といった複数の音響ソースを再生可能な音響装置が知られている。
【0003】
この種の音響装置においては、音響ソースの切り替え時に、音響ソースの特性(たとえば、録音信号レベル(録音ダイナミックレンジ)や、再生帯域およびアナログ・デジタルの信号の種類など)の違いによって音量にバラつきが生じる場合がある。
【0004】
このため、近年では、音響ソースの切り替え時に音量の自動調整を行う音響装置が提案されている。たとえば、特許文献1には、音響ソースの切り替え信号を受信した場合に、切り替え前の音量に基づいて切り替え後の音量を調整することで、切り替え前後の音量を一定に保つ音響装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−359184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、たとえば携帯型音楽プレイヤーなどのストレージデバイスと音響装置とを接続し、ストレージデバイスに記録された圧縮音源のデータを音響装置で再生する機会が増えてきている。
【0007】
しかしながら、このようなストレージデバイスには、様々な録音信号レベルで録音された圧縮音源が混在して記録される場合が多い。このため、音響コンテンツが切り替わった場合(たとえば次の楽曲へ遷移した場合)に、録音信号レベルの違いによって再生音量にバラつきが生じるおそれがある。
【0008】
すなわち、音響装置においては、CDやDVD(Digital Versatile Disc)等の音響ソースを切り替えた場合だけでなく、同一の音響ソースに含まれる音響コンテンツを連続的に再生する場合等にも音量のバラつきが生じる可能性がある。
【0009】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができる音響制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は、音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する音量調整手段と、前記音響データの切り替わりを検知した場合に、前記調整を初期化することで前記音量調整手段に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行するリセット手段と、前記音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示する実行指示手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本願によれば、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、音楽波形と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【図2】図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。
【図3】図3は、音量補正処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、信号レベルと補正値を対応付けたテーブルの一例を示す図である。
【図5】図5は、DSPの行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【図6】図6は、入力音響信号の遷移を示す図である。
【図7】図7は、リセット機能の概要を示す図である。
【図8】図8は、音響制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、オーディオマイコンの構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、曲間通知信号の変換処理の説明図である。
【図11】図11は、リセット実行指示処理の動作例を示す図である。
【図12】図12は、DSPの構成を示すブロック図である。
【図13】図13は、信号レベル算出処理の動作例を示す図である。
【図14】図14は、利得決定処理の動作例を示す図である。
【図15】図15は、リセット処理の動作例を示す図である。
【図16】図16は、設定画面の一例を示す図である。
【図17】図17は、効果レベルの内容の一例を示す図である。
【図18】図18は、効果パターンの内容の一例を示す図である。
【図19】図19は、オーディオマイコンが実行するリセット実行指示処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図20】図20は、DSPが実行するリセット処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る音量補正手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、先ず本発明に係る音量補正手法例の基本的機能を実現する部分について、その構成、動作等を図1〜図6を用いて説明する。そして、その後に更に詳細な機能について、その構成、動作等を図7以降を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
[基本的機能について]
音響信号の音量補正は、理想的には曲全体のレベル分布(基本的には最大レベル)に基づき増幅器の利得(減衰器の減衰度)を決めるのが好ましい。しかし、この方法の場合は、曲再生前の曲全体に渡って解析を行って利得を決める必要があり、処理負荷が大きい、利得決定に時間がかかり再生が速やかに行われない問題がある。
【0015】
そこで、本実施例の基本的音量補正動作は、楽曲を再生しつつ信号レベル値を監視し音量を補正する、例えば信号レベル値の移動平均値に基づき音量補正を行う動作をその基本としている。尚、この場合、曲頭部分における所定期間だけ監視して補正値を決め、その後(当該曲の再生中)はその補正値を用いる方法や、更にその後最大値を超える信号が検出された場合には一次的に音量を下げる処理を加えた方法等を適用する。
【0016】
また、音響ソース間、あるいは同一音響ソースの楽曲間の信号レベル差を補正して、音響ソース、あるいは楽曲が変化した際にもユーザの好みの音量での再生が維持されるようにする技術があるが、それは大別して、「音響コンプレッサ技術の応用」、「心理音響モデルを用いた手法」がある。
【0017】
「音響コンプレッサ技術の応用」は信号レベルに応じてダイナミックレンジを圧縮する技術に基づく処理で、比較的に少ない処理量で済むが、音楽のダイナミックレンジが小さくなり、本来有している音質や抑揚表現を犠牲にすると言った問題がある。これに対して、「心理音響モデルを用いた手法」は、音響信号の有する特性を人の聴覚フィルタモデルから周波数帯域毎に分析し、聴感上の最適な音量バランスを導き、差を補正する技術で、自然な聴感を得ることが可能であるが、聴感フィルタ等の解析処理量が大きくなるため、補正専用集積回路が必要となる等、コストアップにつながる。
【0018】
本実施例の音量補正手法は、このような課題に対するもので、処理量が比較的小さくて済み(あるいは回路規模が比較的小さくて済み)、かつ音質等の劣化を抑えた音量補正を実現する。
【0019】
そして、これらの目的から、本音量補正手法における動作上の基本的な特徴は次の通りである。尚、実際の制御は、処理負荷や再生時間遅れの抑制を考慮して、この特徴に沿った制御となるような処理を行う。
【0020】
第1に、1曲の再生中に音響信号のレベルを常に補正すると、補正値の変化により、音量のふらつき/音楽の抑揚表現の低下、音色が変わる恐れがある。そのため、同曲(同曲と捕らえられる期間)中は基本的に補正値を一定に保つ。第2に、補正値は、当該曲の平均レベルと目標値との差分とする。第3に、ユーザが実際にボリュームを操作する際は、1曲内で細かな操作はしないことを踏まえ、こまめに補正するのではなく、入力信号が大きいときのみ補正値を下げる。
【0021】
次に音楽波形例を示して本音量補正手法の制御内容を説明する。尚、音量補正の主要ハード構成は、ユーザの操作するボリュームの前段に配置され、内部ボリュームとして機能する増幅回路で、当該増幅回路のゲイン(増幅率あるいは減衰率)を制御して音量補正を行う。図1は、音楽波形(所定サンプリングタイミングでのAD変換値で表示)と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【0022】
曲A再生中、増幅器のゲインは曲Aの信号レベルに応じたゲインGSPとなっている。そして、曲が変わったタイミングtr1(例えば、音楽ディスク等における曲情報(トラック番号)の変化、無音部分の継続時間等で曲変化を検知し、トリガ信号を出力する)でゲインは初期ゲインGDに変化する。
【0023】
その後、新しい再生曲Bの初期部分(所謂曲頭部分)の信号レベル(最初のサンプリングタイミングでの信号レベル)や、所定数のサンプリング時(所定時間経過時:つまり曲の初期部分の平均レベルとなる)等の平均信号レベル等を利用)に基づきゲインを算出して、増幅器を制御する。本例では、最初のサンプリングタイミングでの信号レベルS1に基づきゲインGS1を算出し、増幅器を制御している。
【0024】
尚、信号レベルは音響信号を適当な時定数を持つ積分フィルタ(ローパスフィルタ)を用いてフィルタリング処理したものを、所謂移動平均処理することにより算出される。尚、本例では、移動平均処理の曲変更(トリガtr)に伴ったリセット処理は行わない。
【0025】
その後の信号レベルS2〜S8は、信号レベルS1より小さいため、ゲインGS1は維持される。そして、その後信号レベルS9が信号レベルS1を超えたため、新しいゲインGS9が算出され、増幅器はゲインGS9で制御される。その後、曲Bが終了となるまで信号レベルS9を超えることが無いため、ゲインGS9は曲終了まで維持される。そして、次の曲Cに再生が移ると、曲Bと同様の処理(再度、ゲインの初期化から実行)が、曲変更のトリガ信号tr2に基づき開始される。尚、電源ON時等、最初の曲再生時にも、トリガtrが出力され、曲変更時と同様の動作となる。
【0026】
つまり、大まかに動作を説明すると、曲変更時に曲頭部分の信号レベルに応じて音量補正量(補正用増幅器のゲイン)を定め、その後は当該曲での最高信号レベルが更新された場合に音量補正量を更新する(補正用増幅器のゲインを下げる)、つまり当該曲での最高信号レベルが更新されるまで、音量補正量を維持する(補正用増幅器のゲインを維持する)動作となる。
【0027】
次に本実施例の音響装置における音量補正主要構成について説明する。尚、音響装置全体像については、後述する。図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。なお、図2においては、制御信号を点線で、デジタル音響信号を太線で、アナログ音響信号を細線で、それぞれ示している。
【0028】
マルチメディア制御マイコン100は、音響装置全体の動作を制御するマイコンで、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等により構成され、メモリに記憶されたプログラムに応じて各種処理を行う。
【0029】
特に音量補正制御において、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105からの信号を入力し、当該信号に含まれる曲ナンバーデータ等に基づき、また後述の音量レベルデータ(音量レベルデータから判断される無音区間)に基づき、再生曲の変更を検出する。尚、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105から入力される音響データについては、特に加工せずにDSP(Digital Signal Processor)101に出力する。
【0030】
DSP101はデジタルシグナルプロセッサ、所謂音響信号等の演算処理に特化したマイクロコンピュータで、設定されたプログラム、パラメータ(演算係数等)等に応じてマルチメディア制御マイコン100からの音響信号を演算処理する。主な処理を処理ブロックとして表現すると、図2に示すように、音量補正処理部201,クロスオーバ部202,ポジション制御部203,音量調整部204,イコライザ部205,ラウドネス部206,音場制御部207等となる。
【0031】
音量補正処理部201は、曲の信号レベルに応じて音量補正処理を行う部分であり、詳細は後述する。また、クロスオーバ部202は左右チャンネルの信号の分離度を調整するもので、例えばユーザによるステレオ感の強度調整操作に応じて左右チャンネルの信号を混合する処理等を行う。ポジション制御部203は、特に自動車用オーディオに搭載される機能で、乗員の各座席への着座状態に応じて各スピーカから出力する信号のレベル、位相等を調整して、着座状態に適した音響再生制御を行うものである。
【0032】
音量調整部204は、ユーザの音量調整操作に応じて音響信号のレベルを調整するもので、入力音響信号のレベルには関係なく、ユーザの音量調整量に応じて増幅器の増幅率を決める(DSP101では音声のデジタル値に、ユーザの音量調整量に応じた係数を積算する)。イコライザ部205は、音響信号の周波数特性を調整するもので、ユーザの音質調整量(各周波数帯でのゲイン調整量)に応じて各周波数帯の信号を各々の増幅率で増幅する。
【0033】
ラウドネス部206は、ユーザの音量調整操作に応じた増幅率で、音響信号の低周波領域および高周波領域の信号を選択的に増幅する。そして、音場制御部207は、音響信号の残響音の付加処理等を施し、ある空間、例えばコンサートホールでの音楽再生を疑似化するもので、音響信号の遅延、増幅、加算処理等により、音場の疑似化を実現する。
【0034】
DAC102はデジタル−アナログ変換器で、DSP101で処理されたデジタル音響信号をアナログ音響信号に変換する回路である。そして、AMP103はDAC102からのアナログ音響信号を増幅してスピーカ104から音声で出力する電力増幅器でトランジスタ等により構成される。
【0035】
次に音量補正処理部201の構成について説明する。図3は音量補正処理部201の構成を示すブロック図で、DSP101での処理を処理ブロックとして表現している。
【0036】
信号レベル計算部301は、入力音響信号の信号レベルを算出する。その具体的処理は、入力音響信号(デジタル値)の移動平均処理で、本実施例では時定数の異なる移動平均処理(平均化期間、及び当該期間における各値の重み付けを適宜設定)を行い、さらに各移動平均値を重み付け処理し(異なったゲインで増幅(異なった係数を積算))、そしてそれらの処理値の最大値を信号レベルとして決定する処理を行う。尚、ユーザの操作により、上記時定数を設定できるようにすれば、ユーザ好みの反応速度での音量補正が行える。
【0037】
補正値計算部302は、音響信号の補正値、つまり音響信号の音量補正のために増幅処理するそのゲインを算出する。本実施例の場合、この算出はテーブルを用いた算出法、つまり信号レベルと補正値を対応付けたテーブルをメモリに記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルに基づきテーブルから補正値を選択し制御に用いる補正値を算出する。
【0038】
図4は、このテーブル例を示す図で、信号レベルに対応付けて補正値(補正用アンプのゲイン)が記録され、また本実施例の場合はユーザの指定した補正強度(ユーザが操作部の操作により音量補正の効果の程度を指定するもので、本例では大中小の3段階)毎に補正値が記憶されている。このように構成すれば、ユーザ好みの補正の影響度での音量補正が行える。尚、メモリに信号レベルをパラメータとする計算式を記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルをこの計算に適用することにより補正値を算出する方法も適用可能である。
【0039】
切替通知部303は、曲の変更(電源ON時、ソース(音源)切替も含む)に基づき、補正のリセット処理を行うものである。本実施例では、マルチメディア制御マイコン100が曲切替、ソース切替、電源ON等を検知し、DSP101に曲切替信号(音量補正処理トリガ)を出力し、切替通知部303が当該トリガ信号に基づき、補正値を初期化(補正値を初期補正値GDに変更)する処理となっている。
【0040】
尚、信号レベル計算部301の算出した信号レベル値はマルチメディア制御マイコン100に出力され、マルチメディア制御マイコン100はこの信号レベル値に基づく無音区間(信号レベル値が無音と見なされるレベルより低い状態が連続する期間)により、曲変更と判断し(例えば、無音区間が2秒継続したときに曲変更と判断)、この場合も切替通知部303に当該トリガ信号を出力する。この処理は、明確な曲変更信号が無い放送(ラジオ、テレビ)等の再生時に、特に有効となる。
【0041】
補正値適用判定部304は、補正値を音量補正に用いるか、つまり算出したゲインで音響信号を処理するかを判定するもので、ユーザによる補正OFF操作、ノイズ等による異常な補正値(入力信号レベル検出値)の検知、等により音量補正の適用を判断し、また曲変更に伴うリセット処理を行う。
【0042】
以上、DSP101の処理により実現される音量補正処理部201の処理内容を、処理ブロック図を用いて説明したが、DSP101の行う処理の流れについて更にフローチャートを用いても説明する。図5は、DSP101の行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【0043】
尚、本実施例では、この処理をDSP101により実行するが、マルチメディア制御マイコン100とDSP101が必要な通信を行いながら、処理を分担して行う(各々が得意な処理内容を実行するように処理を分担する)ことも可能である。また、この処理は音量補正処理動作中(音楽等、音声を再生中で、ユーザが音量補正動作をON状態に設定の場合等)に繰り返し実行される。
【0044】
ステップS01は、リセット状態か否かを判断する処理で、リセット条件(曲の切替等)が成立していればステップS08に移り、リセット条件で無ければステップS02に移る処理である。ステップS08はリセット処理で、信号レベルの最大値Smaxを初期化(0にする)し、また補正値(増幅器の増幅率:ゲインGS)を初期値(設定値)にする等の初期化を行う処理である。尚、ゲインGSは実験等により求めた制御に適切な値で、例えばゲイン0(入力信号をそのまま出力)等が設定される。尚、ゲインGSが正値の場合、信号は増幅されるが、ゲインGSが負値の場合、信号は減衰されることとなる。
【0045】
ステップS02は、入力音響信号からその信号レベルSnを演算しステップS03に移る処理で、本実施例の当該処理は時定数の異なった2種類のフィルタで移動平均処理を行い、その処理結果の内、大きい方の信号レベルを選択して信号レベルSnとする処理となっている。尚、フィルタ処理後、それぞれのフィルタ処理信号は適切な重み付け処理(重み係数の積算)が行われる。この処理は、音量変化の激しい音楽と、音量変化の穏やかな音楽の両方で適切な音量補正処理が行えるようにするためのもので、各重み係数は適切な音量補正が行われるように実験等に基づき適切な値に設定すれば良い。
【0046】
ステップS03は、算出した信号レベルSnの異常を判断し、異常であれば本処理を終了し、異常でなければステップS04に移る処理で、例えば信号レベルSnが異常に大きな値であった場合に異常と判断し、本処理を終える処理である。
【0047】
ステップS04は、算出した信号レベルSnが記憶している当該曲における最大信号レベルSmaxより大きいか判断し、信号レベルSnが当該曲における最大信号レベルSmaxより大きければステップS05に移り、大きくなければ本処理を終える処理である。ステップS05は、最大信号レベルSmaxを信号レベルSn(最大信号レベルSmaxを超えた信号レベル)で更新し、ステップS06に移る処理である。
【0048】
ステップS06は、更新された最大信号レベルSmaxに基づき増幅器の増幅率(ゲイン)を算出して増幅器制御値として設定しステップS07に移る処理で、最大信号レベルSmaxをパラメータとする算出式や、最大信号レベルSmaxを選択キーとするテーブル処理等で算出された増幅率(ゲイン)を増幅器制御値として設定登録する処理である。
【0049】
尚、フローチャートでの表記は省略するが、ステップS06では、リセット処理があった場合(曲変更時の最初のゲイン設定の場合)においては、信号レベルが所定レベル(非常に小さいレベル)より小さい時に、曲のイントロ部分に高頻度に現れるフェードイン状態と判断し、曲自体の信号レベルは平均的な信号レベルと推定する、つまりゲインを平均的な信号レベルに対するゲイン値(例えばゲイン0)とする。
【0050】
ステップS07は制御ゲインGSにより増幅器の増幅率を制御し、本処理を終える処理で、設定登録された増幅器制御値を増幅器に制御信号(必要に応じて制御用に適して信号形態(例えばアナログ値)に変換する)として出力する処理である。
【0051】
次に、以上説明したDSP101の処理による入力音響信号の遷移について、信号遷移を示す図である図6を用いて説明する。
【0052】
入力された音響信号Sgは、時定数の異なる2種類の移動平均処理フィルタFf,Fsにより信号レベル値Avf,Avsとなる。そして、各信号レベル値Avf,Avsは、重み付け処理され重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glとなる。そして、これら重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glの内、大きな方の値が選択されゲイン演算用の信号レベルSnとなる。
【0053】
ゲイン演算用の信号レベルSnは、異常値判断がなされ、正常の場合は記憶されている最大信号レベルSmaxと比較される。そして、その比較の結果、新たなゲイン演算用の信号レベルSnが過去の最大信号レベルSmaxより大きいと、最大信号レベルSmaxの記憶値は新たなゲイン演算用の信号レベルSnで更新される。そして、この最大信号レベルSmaxに基づき補正増幅器用のゲインGsが算出される。
【0054】
そして、音響信号SgはこのゲインGsに基づき増幅されて補正音響信号Sg・Gsとなる。そして音量補正された補正音響信号Sg・Gsはプリアンプ(前置増幅器)によりユーザ操作に基づく音量調整値の増幅率Grで増幅され(Sg・Gs・Gr)、さらに固定増幅率の電力増幅器によって固定増幅率Gpで増幅されて出力音響信号Sg・Gs・Gr・Gpとなって、スピーカから音響信号Sdとして出力される。
【0055】
また、曲切替等により初期化信号Resが入力されると、最大信号レベルSmaxが初期化(0)され、ゲインGsは初期化時における最大信号レベルSmaxに基づくゲイン値となる。
【0056】
以上説明したように、曲等の再生の進行に沿って当該曲等における最大信号レベルを算出(更新)していき、その最大信号レベルに応じて曲等の音響信号の音量補正を行うので、予め曲全体の信号レベルを把握することなく音量補正が可能となり音量補正を素早く行うことができる。また最大信号レベルに基づく音量補正であるため比較的簡単な処理で行え、処理デバイス(DSPやCPU)の負荷を低減できて、結果低コスト化等に貢献する。
【0057】
[詳細機能について]
ところで、上述した基本的音量補正動作の例では、曲情報の変化や無音区間によって音響コンテンツの切り替わりを検知してリセット処理を実行する場合について説明した。
【0058】
しかし、本音量補正手法は、これに限ったものではなく、早送り再生操作、巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった再生位置の変更操作によって音響コンテンツが切り替わる場合のように、音響コンテンツの切り替えを適切に行い難い状況であっても、リセット処理を適切に行うことができる。
【0059】
以下では、本音量補正手法におけるリセット機能の具体的な内容について図7〜図20を用いて説明する。まず、本リセット機能の概要について図7を用いて説明する。図7は、リセット機能の概要を示す図である。なお、図7の(A)には、リセット処理の実行タイミング(その1)を、図7の(B)には、リセット処理の実行タイミング(その2)を、それぞれ示している。
【0060】
図7の(A)に示すように、本リセット機能では、上述したように、再生対象となる音響コンテンツが切り替わるごとに、DSP(Digital Signal Processor)が自動的に音量調整を行う。これにより、たとえば異なる録音信号レベルで録音された圧縮音源を再生する場合であっても、ユーザに対して音量調整を行わせることなく、常に一定の音量を出力することが可能となる。
【0061】
特に、本リセット機能では、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知できない状況が発生した場合に、DSPを制御するオーディオマイコンからDSPに対して自動音量調整機能のリセット処理を指示することとしている。
【0062】
ここで、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知できない状況とは、たとえば早送り再生操作や巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった任意位置への再生位置指定操作によって音響コンテンツが切り替わる状況である。なお、ジャンプ操作とは、操作量に応じて再生位置を移動させる操作のことである。
【0063】
まず、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知して自動音量調整機能をリセットする場合について説明する。
【0064】
図7の(A)に示すように、DSPは、まず、音響コンテンツ間における無音区間を検知する(図7の(A−1)参照)。ここで、無音区間とは、音響コンテンツに含まれる音響データに基づく音響信号の信号レベルが一定レベル以下の状態が所定時間以上継続する区間を指す。なお、以下では、音響信号そのものの信号レベルと、スピーカから出力される信号のレベルとを区別するために、前者を「信号レベル」と呼び、後者を「再生音量」と呼ぶこととする。
【0065】
通常、ある楽曲が終了してから次の楽曲が開始されるまでの間には、無音区間が存在する。DSPは、この無音区間を検知することで、音響コンテンツが切り替わったことを推定することができる。なお、図7の(A)では、曲Aと曲Bとの間の無音区間が検知されている。
【0066】
また、DSPは、無音区間を検知してから所定期間内に、オーディオマイコンから曲間通知信号を受信したか否かを判定する。ここで、曲間通知信号(上述した曲変更のトリガ信号に相当)とは、再生対象となる音響コンテンツが切り替わったことを示す信号であり、プログラムによりオーディオマイコンが音響コンテンツの切り替え時に出力するように設定されている。
【0067】
DSPは、かかる期間内に曲間通知信号を受信すると(図7の(A−2)参照)、自動音量調整機能のリセット処理を行う(図7の(A−3)参照)。ここで、自動音量調整機能とは、上述した音量補正処理に相当する機能であり、再生対象となる音響データに応じた変数を用いてかかる音響コンテンツの信号レベルを調整する機能である。
【0068】
具体的には、DSPは、音響データに基づく音響信号の信号レベルの代表値(たとえば、所定時間における信号レベルの平均値)を変数として算出する。そして、DSPは、算出した代表値および信号レベルの基準値に基づいて利得を決定し、決定した利得を用いて信号レベルを補正する(すなわち、決定した利得を用いて音響信号を増幅する)。なお、かかる自動音量調整機能の詳細については、後述することとする。
【0069】
また、自動音量調整機能のリセット処理とは、たとえば、切り替え前の音響コンテンツに対応する変数を初期化することで、切り替え後の音響コンテンツに対応する変数を再計算する処理である。
【0070】
具体的には、DSPは、リセット処理を開始すると、これまで使用していた変数を初期化する(図7の(A−3a)参照)。たとえば図7の(A)に示した場合には、曲Aの音響信号に基づいて算出した変数(代表値)を初期化する。
【0071】
変数が初期化されると、DSPでは、変数の再計算が行われる。図7の(A)に示した場合には、音響データが曲Aから曲Bへ切り替わっているため、DSPは、曲Bの音響信号に基づいて曲B用の変数を計算する(図7の(A−3b)参照)。この結果、DSPでは、あらたに計算された曲B用の変数に基づいて信号レベル補正が行われることとなる(図7の(A−3c)参照)。
【0072】
このように、DSPは、音響コンテンツ間における無音区間を検知し、かつ、オーディオマイコンから曲間通知信号を受信することで、音響データが切り替わったことを認識し、自動音量調整機能のリセット処理を行うことができる。なお、かかる音量調整処理は一例であり、結果として最終の調整値が初期化されれば、他の処理内容であっても構わない。たとえば、変数は継続して算出し、リセットはその変数の影響度を0%とすることも可能である。すなわち、リセットからの経過時間に応じて変数の影響度を徐々に100%に近づけるといった処理も可能である。
【0073】
ユーザによって音響コンテンツの早送り再生操作や巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった再生位置の変更操作がなされた場合、かかる操作によって音響コンテンツが切り替わってしまうと、DSPは、無音区間を検知することができない。すなわち、DSPは、自動音量調整機能のリセット処理を実行すべき状況であるにもかかわらず、リセット処理を実行しないこととなる。
【0074】
たとえば、図7の(B)には、曲Bの再生中に早送り再生操作が行われ、かかる操作によって再生対象となる音響データが曲Cへ切り替わった場合の例を示している。かかる場合、DSPは、自動音量調整機能のリセット処理を行うことができないため、曲B用の変数を用いて曲Cの音量調整が行われることとなり、曲Cが不適切な音量で再生されてしまうおそれがある。
【0075】
このため、本リセット機能では、オーディオマイコンが、再生位置の変更指示を受け付けた場合に(図7の(B−1)参照)、DSPに対してリセット処理の実行を指示することとした(図7の(B−2)参照)。これにより、DSPは、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができなくても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる(図7の(B−3)参照)。
【0076】
このように、本音響制御手法では、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合にも、リセット処理を実行することができるため、音響コンテンツ間の音量調整をより適切に行うことができる。
【0077】
なお、図7では、DSPが音量調整処理およびリセット処理を行い、オーディオマイコンが、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合にDSPに対してリセット処理を実行するように指示する場合の例について説明したが、これに限ったものではない。たとえば、音響データの再生位置の変更指示を受け付ける処理、変更指示を受け付けた場合にリセット処理を実行する処理および音量調整処理を1つの処理部(たとえば、DSP、オーディオマイコンまたはこれらに相当する他の制御部)が実行することとしてもよい。
【0078】
ところで、自動音量調整機能のリセット処理を行うべきであるにもかかわらず、リセット処理が開始されない状況は、再生位置の変更操作によって音響コンテンツが切り替わった場合に限ったものではない。たとえば、音量調整機能に関する設定変更をユーザから受け付けた場合も該当する。
【0079】
すなわち、音量調整機能に関する設定変更を受け付けた場合には、変更後のパラメータに基づいて変数等を再計算するために自動音量調整機能のリセット処理を行うことが望ましい。しかしながら、かかる場合には、無音区間が検知されず、曲間通知信号も受信されないため、自動音量調整機能のリセット処理を開始することができない。すなわち、ユーザが設定変更を行ったにもかかわらず、次の音響データに切り替わるまでの間、かかる設定変更が反映されないこととなる。
【0080】
そこで、音量調整機能に関する設定変更を受け付けた場合にも、リセット処理を実行することとしてもよい。これにより、ユーザが行った設定変更を即座に反映させることが可能となる。
【0081】
以下では、本リセット機能について更に具体的に説明する。図8は、音響制御装置の構成を示すブロック図である。以下では、音響制御装置の一例として、車載用の音響制御装置を用いて説明するが、これに限定されるものではない。
【0082】
ここで、図8に示す音響制御装置は、図2に示す音量補正主要構成の具体的一例であり、図1〜図6を用いて説明した音量補正手法例の基本的機能を具備するものである。具体的には、図8に示すDSP15は、図2に示すDSP101に対応し、図8に示すマイコン14およびオーディオマイコン19は、図2に示すマルチメディア制御マイコン100に対応する。同様に、図8に示すDAC16、パワーアンプ17、スピーカ3は、それぞれ図2に示すDAC102、AMP103、スピーカ104に対応する。
【0083】
なお、図8では、音響信号を含むラインと制御信号のラインとを区別するために、音響信号を含むラインを2重線であらわしている。
【0084】
図8に示すように、本実施例に係る音響制御装置1は、IF部11と、切替部12と、マイコン14とを備える。また、音響制御装置1は、DSP15と、DAC(Digital Analog Converter)16と、パワーアンプ17と、メモリ18と、オーディオマイコン19を備える。
【0085】
また、音響制御装置1は、USB(Universal Serial Bus)2、スピーカ3、タッチパネルディスプレイ4および操作SW(Switch)5等と接続する。まず、これらの周辺機器について説明する。
【0086】
USB2は、音響データを記録するストレージデバイスであり、たとえば携帯型音楽プレイヤーである。USB2に記録された音響データは、IF部11および切替部12を介してマイコン14へ入力される。
【0087】
なお、USB2には、様々な録音レベルで録音された圧縮音源の音響コンテンツが混在して記録されているものとする。このような場合、音響コンテンツが切り替わった場合(たとえば次の楽曲へ遷移した場合)に、録音レベルの違いによって音量にバラつきが生じるおそれがある。
【0088】
スピーカ3は、音響制御装置1から出力される音響信号を音声として出力する。なお、音響制御装置1から出力される音響信号は、音響コンテンツの録音レベルに依らず、ユーザによる音量調整値に応じた常に略一定の再生音量(ユーザによる音量調整値が同じであれば常に略一定の再生音量となり、この一定の再生音量はユーザの調整操作により変化する)がスピーカ3から出力されるように、DSP15によって信号レベルが補正された音響信号である。
【0089】
タッチパネルディスプレイ4は、各種画像を表示するためのディスプレイの表面に入力用のタッチパネルを付した入出力デバイスである。また、操作SW5は、たとえばタッチパネルディスプレイ4の周囲に設けられた物理的なスイッチである。タッチパネルディスプレイ4および操作SW5は、ユーザからの操作を受け付けると、受け付けた操作に関する操作情報をオーディオマイコン19へ出力する。
【0090】
なお、タッチパネルディスプレイ4あるいは操作SW5を用いて行われる操作としては、たとえば、音響制御装置1の自動音量調整機能のON/OFF操作やかかる自動音量調整機能に関する設定変更操作などがある。
【0091】
つづいて、音響制御装置1の各構成について説明する。IF部11は、USB2との間でデータの送受信を行う通信デバイスである。IF部11は、USB2から音響データを受け取ると、受け取った音響データを切替部12へ出力する。
【0092】
切替部12は、複数の音響ソースのうちユーザによって選択された音響ソースの音響データをマイコン14へ出力する処理部である。具体的には、切替部12は、ユーザのタッチパネルディスプレイ4あるいは操作SW5への操作に応じた切替制御信号をマイコン14から受け取ると、受け取った切替制御信号に応じて音響ソースの切り替えを行い、切り替え後の音響ソースからの音響データをマイコン14へ出力する。
【0093】
切替部12には、USB2以外の音響ソースとしてFM・AMのラジオ放送やCDデッキあるいはDVDデッキなどが接続されているものとする。
【0094】
マイコン14は、切替部12から受け取った音響データのデコード処理およびかかるデコード処理によって得られた音響信号のDSP15への出力を行う処理部である。
【0095】
また、マイコン14は、USB2からIF部11および切替部12経由で受け取った音響データに基づいて音響データの切り替わりを検知した場合に、オーディオマイコン19に対して曲間通知信号を出力する処理を併せて行う。
【0096】
たとえば、マイコン14は、USB2に記録された音響データがファイル型の音響データである場合には、あらたなファイルのデータをUSB2から取得したタイミングで曲間通知信号をオーディオマイコン19へ出力する。なお、曲間通知信号の出力処理については、後述する。
【0097】
また、マイコン14は、ユーザがタッチパネルディスプレイ4や操作SW5を用いて行った早送り再生操作等の操作情報をオーディオマイコン19から受け取ると、受け取った操作情報に応じた制御情報をUSB2へ出力する処理も併せて行う。USB2は、マイコン14から受け取った制御情報に従って音響データを出力する。
【0098】
DSP15は、スピーカ3の再生音量を音響データに依らず一定に保つための自動音量調整機能を有しており、マイコン14から受け取った音響信号に対して所定の音量調整処理を施したうえで、DAC16へ出力するモジュールである。
【0099】
また、DSP15は、音響データが切り替わるごとに、自動音量調整機能のリセット処理を行う。なお、DSP15が実行する音量調整処理およびリセット処理の具体的な内容については、図12〜15等を用いて後述する。
【0100】
DAC16は、DSP15から受け取った音量調整処理後の音響信号をデジタル信号からアナログ信号へ変換する処理部である。DAC16によってアナログ信号へ変換された音響信号は、パワーアンプ17へ出力される。パワーアンプ17は、DAC16から受け取った音響信号を増幅してスピーカ3へ出力する音声(電力)増幅器である。
【0101】
メモリ18は、自動音量調整機能に関する各種のパラメータを保持する記憶部である。かかるメモリ18に記憶されるパラメータの内容については、図16〜18等を用いて後述する。
【0102】
オーディオマイコン19は、DSP15の制御を行うモジュールである。たとえば、オーディオマイコン19は、マイコン14から曲間通知信号を受け取った場合に、受け取った曲間通知信号をDSP15が認識可能な形式へ変換したうえでDSP15へ出力する。また、オーディオマイコン19は、音響データの早送り再生操作等の再生位置の変更操作が行われた場合や自動音量調整機能に関する設定変更操作が行われた場合に、自動音量調整機能のリセット指示等をDSP15に対して出力する。
【0103】
また、オーディオマイコン19は、その他の処理として、タッチパネルディスプレイ4や操作SW5から操作情報を受け取った場合に、受け取った操作情報をマイコン14へ出力する処理等も行う。
【0104】
ここで、オーディオマイコン19の詳細な構成について図9を用いて説明する。図9は、オーディオマイコン19の構成を示すブロック図である。なお、図9では、オーディオマイコン19の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0105】
図9に示すように、オーディオマイコン19は、変換処理部19aと、操作取得部19bと、リセット実行指示部19cとを備える。
【0106】
変換処理部19aは、マイコン14から受け取った曲間通知信号をDSP15が認識可能な形式へ変換し、変換後の曲間通知信号をDSP15へ出力する処理部である。ここで、変換処理部19aによって行われる曲間通知信号の変換処理について図10を用いて説明しておく。図10は、曲間通知信号の変換処理の説明図である。
【0107】
図10に示すように、マイコン14は、音響データのあらたなファイルをUSB2から取得するごとに、オーディオマイコン19へ曲間通知信号を出力するためのポートのポート論理を反転させる。たとえば、図10に示した場合、マイコン14は、曲BのファイルをUSB2から取得した時点でポート論理をLowからHiへ切り替え、曲CのファイルをUSB2から取得した時点でポート論理をHiからLowへ切り替えている。
【0108】
このように、マイコン14は、音響データが切り替わるごとに反転する信号を曲間通知信号としてオーディオマイコン19へ出力する。しかし、DSP15は、ポートの仕様上、信号を受け取ったか否かしか認識することができず、上記のように信号が常時出力されるような形式の曲間通知信号では音響データが切り替わったことを認識することができない。
【0109】
このため、オーディオマイコン19の変換処理部19aは、マイコン14から入力される曲間通知信号のポート論理が反転するごとに、1つのパルス信号を曲間通知信号としてDSP15へ出力することとした。これにより、DSP15の仕様を変更することなく、DSP15に対して音響データが切り替わったことを認識させることができる。
【0110】
図9へ戻り、オーディオマイコン19の説明を続ける。操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から操作情報を受け取った場合に、受け取った操作情報をマイコン14へ出力する処理部である。
【0111】
また、操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から早送り再生操作等の再生位置の変更操作がなされたことを示す操作情報(以下、「再生位置変更操作情報」と呼ぶこともある)を受け取った場合には、受け取った再生位置変更操作情報をリセット実行指示部19cへ出力する処理を併せて行う。
【0112】
また、操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から自動音量調整機能の設定変更操作がなされたことを示す操作情報(以下、「設定変更操作情報」と呼ぶこともある)を受け取った場合には、受け取った設定変更操作情報に対応するパラメータをメモリ18から取り出し、取り出したパラメータを設定変更操作情報とともにリセット実行指示部19cへ渡す処理を併せて行う。
【0113】
リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから受け取った操作情報(再生位置変更操作情報または設定変更操作情報)、マイコン14から受け取った曲間通知信号等に基づいて、自動音量調整機能のリセット処理の実行をDSP15に対して指示する処理部である。
【0114】
ここで、リセット実行指示部19cによって行われるリセット実行指示処理の内容について図11を用いて説明する。図11は、リセット実行指示処理の動作例を示す図である。なお、図11には、曲Bの再生中に早送り再生操作が行われた結果、再生位置が曲BにおけるP1から曲CにおけるP2へ移動した場合の例を示している。また、図11には、曲Cの再生位置P3において設定変更操作が行われた場合の例も併せて示している。
【0115】
マイコン14は、早送り再生操作が行われた場合であっても、USB2から音響データを取得し続けるため、次の音響データへ切り替わったことを検知することができる。たとえばマイコン14は、図11に示すように、早送り再生操作中に次の音響データのファイルをUSB2から取得すると、オーディオマイコン19へ曲間通知信号を出力する(図11の(A−1)参照)。これにより、マイコン14は、音響データが切り替わったことをオーディオマイコン19に対して認識させることができる。
【0116】
なお、ここでは、曲間通知信号を出力させることによって音響データが切り替わったことをオーディオマイコン19に対して認識させることとしたが、これに限ったものではなく、たとえば、マイコン14は、曲間通知信号を出力するためのライン以外にも、オーディオマイコン19と接続するラインを有している。そこで、マイコン14は、かかるラインを用い、音響データが切り替わったことを示す情報をオーディオマイコン19へ出力することとしてもよい。
【0117】
リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから再生位置変更操作情報を受け付けている状態で、マイコン14から曲間通知信号を受信した場合(図11の(A−2)参照)、DSP15に対してリセット処理の実行を指示する(図11の(A−3)参照)。
【0118】
かかる場合、リセット実行指示部19cは、まず、DSP15に対してリセット指示を出力する。また、リセット実行指示部19cは、リセット指示の出力後、DSP15に対して再開指示を出力する。ここで、リセット指示とは、音量調整処理に用いる変数の初期化を指示する信号である。また、再開指示とは、音量調整処理の再開を指示する信号である。
【0119】
一方、曲Cの再生位置P3において設定変更操作がなされたとする。かかる場合、リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから設定変更操作情報および変更後のパラメータを受け取ると(図11の(B−1)参照)、DSP15に対してリセット処理の実行を指示する(図11の(B−2)参照)。
【0120】
かかる場合、リセット実行指示部19cは、まず、DSP15に対してリセット指示を出力する。また、リセット実行指示部19cは、リセット指示の出力後、DSP15に設定されているパラメータを変更後のパラメータへ書き換える。そして、リセット実行指示部19cは、パラメータの書き換え後に、DSP15に対して再開指示を出力する。
【0121】
このように、リセット実行指示部19cが、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することで、DSP15は、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができない状況であっても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる。
【0122】
次に、DSP15の構成について図12を用いて説明する。図12は、DSP15の構成を示すブロック図である。
【0123】
なお、図12に示すDSP15の構成は、図3に示す音量補正処理部201の構成の具体的一例を示したものであり、図2に示すDSP101の音量補正処理部201以外の処理部(クロスオーバ部202、ポジション制御部203、音量調整部204、イコライザ部205、ラウドネス部206、音場制御部207)については省略している。
【0124】
図12に示すように、DSP15は、遅延処理部15aと、第1BPF(Band Pass Filter)15baと、第2BPF15bbと、信号レベル算出部15cと、信号レベル比較部15dと、利得決定部15eと、アンプ15fとを備える。また、DSP15は、リセット判定部15gと、ポート15hと、ポート15iとを備える。
【0125】
また、信号レベル算出部15cは、第1積分回路151aと、第2積分回路151bと、アンプ152a,152bと、選択部153とをさらに備えている。
【0126】
遅延処理部15aは、マイコン14から出力された音響信号を所定時間遅延させたうえで、アンプ15fへ出力する処理部である。すなわち、遅延処理部15aは、遅延処理部15aから出力される音響信号と、当該音響信号に基づき利得決定部15eから出力される利得の出力タイミングが一致するように音響信号を遅延させる。
【0127】
第1BPF15baおよび第2BPF15bbは、入力された音響信号のうち所定の周波数帯域のみを通過させるフィルタである。なお、本実施例では、第1BPF15baおよび第2BPF15bbの2つのBPFを備える構成例を示すが、DSP15は、BPFを3つ以上備えていてもよい。
【0128】
第1BPF15baは、主に高周波帯域を通過させるフィルタである。また、第1BPF15baは、通過させた高周波帯域の音響信号を第1積分回路151aに対して出力する。同様に、第2BPF15bbは、主に低周波帯域を通過させるフィルタである。また、第2BPF15bbは、通過させた低周波帯域の音響信号を第2積分回路151bに対して出力する。
【0129】
より具体的には、第1BPF15baは、50Hz〜20kHzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第1BPF15baは、いわゆる人間の可聴帯域のほぼ全域の信号のみを第1積分回路151aに対して出力する。
【0130】
また、第2BPF15bbは、50Hz〜300Hzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第2BPF15bbは、主に低周波音の信号のみを第2積分回路151bに対して出力する。
【0131】
以下では、説明の対比のために、第1BPF15baの通過帯域分の信号を「高周波信号」または「高周波」と、第2BPF15bbの通過帯域分の音響信号を「低周波信号」または「低周波」と、それぞれ記載する場合がある。
【0132】
なお、第1BPF15baおよび第2BPF15bbの通過帯域は一部が重複してもよい。また、BPFを設ける代わりに音響信号のサンプリングを間引く処理を行ってもよい。これにより、信号処理負荷を低減することができる。
【0133】
信号レベル算出部15cは、第1BPF15baや第2BPF15bbから入力された音響信号の信号レベルの代表値を算出する回路ブロックである。なお、かかる代表値は、各BPFに対応する各系統においてそれぞれ算出される信号レベル平均値の最大値である。
【0134】
第1積分回路151aは、第1BPF15baから入力された高周波の音響信号を、急峻な信号レベルの変動に適した短い時定数で平均化し、平均値(第1平均値)をアンプ152aに対して出力する。尚、信号は短い時定数で平均化されるので、信号に素早く追従する信号レベルを示す信号となる。
【0135】
また、第2積分回路151bは、第2BPF15bbから入力された低周波の音響信号を、緩やかな信号の変動に適した長い時定数で平均化し、平均値(第2平均値)をアンプ152bに対して出力する。尚、信号は長い時定数で平均化されるので、信号に穏やかに追従する信号レベルを示す信号となる。
【0136】
なお、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bは、第1アンプ、加算器、遅延器および第2アンプ等を備える。具体的には、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bは、入力された音響信号の信号を第1アンプを用いて所定の増幅率で増幅する。
【0137】
第1アンプによって増幅された音響信号は、遅延器によって所定時間遅延された後、第2アンプによって所定の増幅率(増幅率<1:減衰)で増幅される。そして、第2アンプで増幅された音響信号は、加算器において足し込まれたうえで出力される。
【0138】
ここで、第1積分回路151aと第2積分回路151bとは、第2アンプの所定の増幅率がそれぞれ異なる。すなわち、第1積分回路151aは、第2積分回路151bと比べて時定数を短くする増幅率(増幅率を小さくし、過去の信号の影響度を小さくする)の第2アンプを備え、第2積分回路151bは、第1積分回路151aと比べて時定数を長くする増幅率(増幅率を大きくし、過去の信号の影響度を大きくする)の第2アンプを備えることとなる。
【0139】
なお、本実施例では、時定数を単に「短」と「長」との2種別に分け、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bの2つの積分回路を例に挙げて説明を行っているが、時定数を3種別以上の多段階に分け、これに対応する3つ以上の積分回路を設けてもよい。
【0140】
アンプ152aは、第1積分回路151aから入力された第1平均値について、第1平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部153に対して出力する。また、アンプ152bは、第2積分回路151bから入力された第2平均値について、第2平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部153に対して出力する。
【0141】
なお、アンプ152aおよびアンプ152bがそれぞれ用いる重み係数は、オーディオマイコン19から入力されるものとする。
【0142】
具体的には、かかる重み係数を含む情報である重み係数情報は、たとえば図8に示すメモリ18に記憶される音量補正の重み係数に関する情報であり、「パターン番号」項目と、「種別」項目と、「重み係数」項目とが関連付けられて記憶されている。
【0143】
「パターン番号」項目は、積分回路の系統別の重み係数組み合わせパターンに付与されるパターン番号の項目である。重み係数情報は、かかるパターン番号ごとのレコードとして、各情報の関係を管理することができる。かかる場合、パターン番号は、重み係数情報8aの各レコードを検索するための主キーとなる。
【0144】
「種別」項目は、各レコード検索のための副次キーとなる各種別を格納する項目である。なお、かかる「種別」項目には、「ジャンル」項目と、「テンポ」項目と、「曲調」項目とがさらに含まれる。
【0145】
たとえば、「ジャンル」項目は、楽曲のジャンルを識別する「ロック」や「クラシック」といった情報の項目である。「テンポ」項目は、楽曲のテンポを識別する「ファスト」や「スロー」といった情報の項目である。また、「曲調」項目は、楽曲の曲調を識別する「ハード」や「ソフト」といった情報の項目である。また、「重み係数」項目は、各パターン番号に対応する積分回路の系統別の重み係数組み合わせの項目である。
【0146】
なお、重み係数の組み合わせは、「種別」項目の情報に応じて定めることができる。たとえば、ジャンルが「ロック」、テンポが「ファスト」、曲調が「ハード」といった高周波を多く含み、かつ、急峻である音響信号の入力が見込まれる場合には、第1積分回路151aに対応する重み係数Kを「1」と相対的に高く、第2積分回路151bに対応する重み係数Lを「0.9」と相対的に低くした重み係数の組み合わせとすればよい。
【0147】
一方、ジャンルが「クラシック」、テンポが「スロー」、曲調が「ソフト」といった低周波を多く含み、かつ、緩やかである音響信号の入力が見込まれる場合には、「パターン2」のレコードのように、重み係数Kを「0.7」と相対的に低く、重み係数Lを「1」と相対的に高くした重み係数の組み合わせとすればよい。なお、重み係数組み合わせパターンは、ユーザの操作によって可変設定することができる。
【0148】
選択部153は、それぞれ個別の重みづけが行われた第1平均値および第2平均値などの各信号レベルの平均値のうち最大値を信号レベルの代表値として信号レベル比較部15dへ出力する回路ブロックである。
【0149】
具体的には、選択部153は、比較部および除算部等を備える。比較部は、入力された第1平均値と第2平均値とを、たとえば、コンパレータなどによって比較し、最大値を除算部に対して出力する。除算部は、比較部から入力された最大値を、対応するアンプ152aあるいはアンプ152bの重み係数で割ることによって重みづけ前の値に戻し、代表値として出力する。なお、重み係数の逆数をかけることとしてもよい。また、除算部を備えることなく、比較部が出力する最大値をそのまま代表値として出力してもよい。
【0150】
なお、信号レベル算出部15cによる信号レベルの代表値の算出処理は、上述したものに限ったものではない。以下では、信号レベル算出部15cの他の処理例について説明しておく。
【0151】
BPFから信号レベル算出部15cへ入力される音響信号は、複数のチャネルを含んだ音響信号である。たとえば、音響信号には、左チャネル(Lch)および右チャネル(Rch)の2つのチャネルが含まれる。信号レベル算出部15cは、入力されたLchおよびRchの信号のうち、絶対値が大きい信号レベルを選択する。そして、信号レベル算出部15cは、選択された信号レベルに基づき、音響信号の信号レベルの代表値を算出し、算出した代表値を信号レベル比較部15dへ出力する。
【0152】
ここで、かかる代表値の算出処理の動作例について図13を用いて説明する。図13は、信号レベル算出処理の動作例を示す図である。同図には、信号レベル算出部15cへ入力されたLchおよびRchの音響信号のうち信号レベルの絶対値が高い音響信号を示している。
【0153】
なお、ここでは、LchおよびRchの信号のうち絶対値の最も大きい信号レベルを選択するが、これに限ったものではなく、複数チャネルの音響信号の情報から1つの値を導出できる方法であれば、これ以外の方法を用いてもよい。たとえば、両チャネルの信号レベルの平均値を算出することとしてもよい。
【0154】
図13に示すように、信号レベル算出部15cは、入力された音響信号のうち所定のサンプリング期間における音響信号を取り出す。そして、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の代表値を算出する。たとえば、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の信号レベルの平均値を代表値として算出する。なお、これに限ったものではなく、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の信号レベルの最大値を代表値として算出することとしてもよい。
【0155】
ここで、図13に示したサンプリング期間の長さは、ユーザの設定変更操作によって変更することができる。メモリ18には、長さの異なる3つのサンプリング期間が、パラメータ「効果パターン」として記憶されているものとする。
【0156】
図12へ戻り、信号レベル比較部15dについて説明する。信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)と、メモリ150に記憶された閾値とを比較し、より高い方の値(以下、「比較値」と記載する)を利得決定部15eへ出力する処理部である。
【0157】
具体的には、信号レベル比較部15dは、比較の結果、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)よりも閾値が高い場合には、閾値の値を比較値として利得決定部15eへ出力する。一方、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)が閾値よりも高い場合には、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0158】
また、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)が閾値よりも高い場合、信号レベル比較部15dは、利得決定部15eへ出力した信号レベル(代表値)をあらたな閾値としてメモリ150へ記憶する。
【0159】
すなわち、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値を超えるまでの間、閾値の値を比較値として出力し続ける。そして、閾値を超える信号レベル(代表値)が入力された場合には、かかる信号レベル(代表値)をあらたな閾値としてメモリ150へ記憶し、この閾値を超える信号レベル(代表値)が入力されるまで、かかる閾値の値を比較値として出力し続ける。なお、メモリ150に記憶される閾値が、再生対象となる音響データに応じた変数となる。
【0160】
また、信号レベル比較部15dは、リセット判定部15gからリセット指示を受けた場合には、メモリ150に記憶された閾値を初期化する(たとえば、0にする)処理を行ったのち、信号レベル比較処理(比較値を出力する処理)を一時停止する。そして、信号レベル比較部15dは、リセット判定部15gから再開指示を受けた場合に、信号レベル比較処理を再開する。なお、かかる点については、後述する。
【0161】
利得決定部15eは、信号レベル比較部15dから入力された比較値およびあらかじめ決められた基準値に基づいて音響信号の利得を決定する処理部である。ここで、利得決定部15eによって行われる利得決定処理について図14を用いて説明する。図14は、利得決定処理の動作例を示す図である。なお、図14では、信号レベル比較部15dの動作例についても併せて説明する。
【0162】
図14に示すように、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値T1を超えるまでの間、閾値T1を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0163】
そして、利得決定部15eは、入力された閾値T1を基準値と一致させる利得G1を決定する。利得G1は、基準値を閾値T1で割ることによって算出してもよいし、比較値と利得との関係をあらかじめ規定したテーブルを用いて決定してもよい。
【0164】
一方、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値T1を超えた場合には、かかる信号レベル(代表値)をあらたな閾値T2としてメモリ150に記憶する。また、信号レベル比較部15dは、閾値T2を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0165】
この結果、利得決定部15eは、入力された閾値T2を基準値と一致させる利得G2をあらたに決定する。
【0166】
なお、ここでは、利得決定部15eが、比較値を基準値と一致させる係数を利得として決定する場合の例を示したが、ユーザは、比較値を基準値へ近付ける度合を設定変更操作によって変更することができる。メモリ150には、比較値を基準値へ近付ける度合を示す3つの係数が、パラメータ「効果レベル」として記憶されているものとする。
【0167】
図12へ戻り、リセット判定部15gについて説明する。リセット判定部15gは、自動音量調整処理のリセット処理を実行するか否かを判定する処理部である。また、リセット判定部15gは、リセット処理を実行すると判定した場合に、信号レベル比較部15dに対してリセット指示を出力したのち、再開指示を出力する処理を併せて行う。
【0168】
たとえば、リセット判定部15gは、マイコン14から入力された音響信号およびオーディオマイコン19からポート15h経由で入力された曲間通知信号に基づいてリセット処理を実行するか否かを判定する。また、リセット判定部15gは、オーディオマイコン19からポート15i経由で入力されたリセット指示および再開指示に従って、信号レベル比較部15dに対してリセット指示および再開指示を出力する。なお、ポート15iは、たとえばI2Cポートであり、ポート15hは、JXポートである。
【0169】
アンプ15fは、遅延処理部15aから出力された音響信号を、利得決定部15eから出力された利得に応じて増幅する処理部である。すなわち、アンプ15fは、遅延処理部15aから出力された音響信号の信号レベルを、利得決定部15eから出力された利得を用いて補正する。アンプ15fによって信号レベルが補正された音響信号は、DAC16へ出力される。
【0170】
ここで、DSP15によって実行されるリセット処理について図15を用いて説明する。図15は、リセット処理の動作例を示す図である。なお、図15の(A)には、リセット処理の実行タイミング(その1)を、図15の(B)には、リセット処理の実行タイミング(その2)を、それぞれ示している。
【0171】
図15の(A)に示すように、DSP15のリセット判定部15gは、まず、マイコン14から入力された音響信号の無音区間を検知する(図15の(A−1)参照)。無音区間とは、音響信号の信号レベルが一定レベル以下の状態が所定時間以上継続している区間を指す。図15の(A)に示した場合には、曲Aと曲Bとの間の無音区間が検知されている。
【0172】
なお、リセット判定部15gは、たとえばマイコン14から入力された音響信号の信号レベルを算出し、算出した信号レベルを用いて無音区間を検知することとしてもよいし、信号レベル算出部15cによって算出された信号レベル(代表値)を取得し、取得した信号レベル(代表値)を用いて無音区間を検知してもよい。
【0173】
また、リセット判定部15gは、無音区間を検知すると、ポート15hを開放する(図15の(A−2)参照)。そして、リセット判定部15gが、ポート15hの開放中に、オーディオマイコン19から曲間通知信号を受信すると(図15の(A−3)参照)、リセット処理を実行すると判定する。これにより、DSP15では、自動音量調整機能のリセット処理が開始される(図15の(A−4)参照)。
【0174】
具体的には、DSP15では、リセット判定部15gが、信号レベル比較部15dに対してリセット指示を出力し、かかるリセット指示を受けた信号レベル比較部15dが、メモリ150に記憶された閾値の初期化を行う(図15の(A−4a)参照)。このとき、信号レベル比較部15dは、信号レベル比較処理を一時停止させる。
【0175】
つづいて、DSP15では、リセット判定部15gが、信号レベル比較部15dに対して再開指示を出力し、かかる再開指示を受けた信号レベル比較部15dが、信号レベル比較処理を再開する。
【0176】
この結果、信号レベル比較部15dでは、あらたに再生対象となった音響データ(ここでは、曲B)に基づく音響信号の信号レベルの代表値と、閾値の初期値(たとえば、0)との比較が行われる(図15の(A−4b)参照)。かかる場合には、信号レベルの代表値が閾値の初期値よりも高いため、かかる代表値(すなわち、曲Bに基づく音響信号の信号レベルの代表値)があらたな閾値としてメモリ150に記憶されることとなる。
【0177】
つづいて、DSP15では、信号レベル比較部15dが、あらたにメモリ150に記憶された閾値(すなわち、曲Bに対応する閾値)を比較値として利得決定部15eへ出力し、利得決定部15eが、かかる比較値および基準値に基づいて曲Bに対応する利得を決定する(図15の(A−4c)参照)。
【0178】
そして、DSP15では、アンプ15fが、利得決定部15eによって決定された利得を用いて音響信号の信号レベルを補正する(図15の(A−4d)参照)。
【0179】
すなわち、信号レベルが閾値を超えない限り利得が変更されることがないため、利得の頻繁な変化に起因するユーザの音声への違和感を防止できる。一方で、信号レベルが閾値を超えた場合には利得を低下させることとしたため、音響信号の信号レベルの変動が大きい場合における音響信号の飽和を防止することができ、ユーザに対して快適な音声を提供することができる。そして、録音レベルの差に伴う音響信号の信号レベルの変化に対して、ユーザが手動で音量調整する手間を省くことができる。
【0180】
このように、DSP15は、音響データ間における無音区間を検知し、かつ、オーディオマイコン19から曲間通知信号を受信することで、音響コンテンツが切り替わったことを認識し、自動音量調整機能のリセット処理を行う。
【0181】
一方、図15の(B)に示すように、リセット判定部15gは、オーディオマイコン19からリセット指示および再開指示を受信した場合には(図15の(B−1)参照)、かかるリセット指示および再開指示に従い、信号レベル比較部15dに対してリセット指示および再開指示を行う。この結果、DSP15では、図15の(A−4)に示したリセット処理と同様のリセット処理が行われることとなる(図15の(B−2)参照)。
【0182】
すなわち、図15の(A)に示した実行タイミングでのみリセット処理を行うこととすると、たとえば早送り再生操作によって次の音響コンテンツへ切り替わった場合に、無音区間を検知することができず、リセット処理を実行すべきであるにもかかわらず、リセット処理が実行されない状況が発生してしまう。設定変更操作を受け付けた場合も同様である。
【0183】
このため、音響制御装置1では、オーディオマイコン19が、早送り再生操作によって音響コンテンツが切り替わった場合や設定変更操作がなされた場合を検知し、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することとした。これにより、DSP15は、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができなくても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる。
【0184】
ところで、音響制御装置1では、自動音量調整機能に関する設定変更が可能である。以下では、かかる点について説明しておく。図16は、設定画面の一例を示す図である。図16に示すように、ユーザは、自動音量調整機能のON/OFFや、効果レベルの変更、効果パターンの変更といった設定変更を、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5への入力操作によって行うことができる。
【0185】
「効果レベル」とは、利得決定部15eが信号レベル比較部15dから入力された比較値を基準値へ近付ける度合を示す。ここで、効果レベルの内容について図17を用いて説明しておく。図17は、効果レベルの内容の一例を示す図である。なお、図17の(A)には、利得の決定に用いる式を、図17の(B)には、効果レベルと利得との関係を、それぞれ示している。
【0186】
図17の(A)に示すように、利得決定部15eは、利得=(基準レベル/比較値)×αの式を用いて利得を決定する。すなわち、利得決定部15eは、信号レベル比較部15dから出力された比較値を基準レベルと一致させる係数に対して所定のパラメータ値「α」を乗じた値を利得として決定する。そして、かかるパラメータ値「α」は、ユーザによって設定された効果レベルに応じて決定される。
【0187】
たとえば、図17の(B)に示すように、設定中の効果レベルが「Hi」である場合、利得決定部15eは、α=1として利得G3を算出する。この結果、信号レベル比較部15dから出力された比較値を基準レベルと一致させる係数が利得として決定される。なお、図14に示した例は、効果レベルが「Hi」に設定されている場合の例である。
【0188】
また、設定中の効果レベルが「Mid」である場合、利得決定部15eは、α=0.8として利得G4を算出する。また、設定中の効果レベルが「Low」である場合には、α=0.5として利得G5を算出する。このように、効果レベルを変更することで、比較値を基準値へ近付ける度合を異ならせることができる。
【0189】
図16へ戻り、「効果パターン」とは、音響信号の変化に対する音量調整処理の追従速度を示す。ここで、効果パターンの内容について図18を用いて説明しておく。図18は、効果パターンの内容の一例を示す図である。
【0190】
図18に示すように、設定中の効果パターンが「1」である場合、信号レベル算出部15cは、最も長さの短いサンプリング期間S1を用いて信号レベルの代表値を算出する。また、信号レベル算出部15cは、設定中の効果パターンが「2」である場合には、サンプリング期間S1よりも長いサンプリング期間S2を用いて信号レベルの代表値を算出し、設定中の効果パターンが「3」である場合には、サンプリング期間S2よりもさらに長いサンプリング期間S3を用いて信号レベルの代表値を算出する。
【0191】
ここで、サンプリング期間の長さを長く設定するほど、音響信号の変化に対してゆっくりと(遅い速度で)追従した信号レベル(代表値)が出力されることとなる。また、サンプリング期間の長さを短く設定するほど、音響信号の変化に対して素早く(早い速度で)追従した信号レベル(代表値)が出力されることとなる。
【0192】
すなわち、サンプリング期間の長さを設定変更可能とすることで、音響信号の信号レベル変化に対する音量調整処理の感度を変更することが可能となる。たとえば、ユーザは、スピーカ3からの音量をできるだけ一定に保ちたい場合には、短い長さのサンプリング期間S1で信号レベルの代表値が算出されるように、効果パターン「1」を設定すればよい。これにより、音響信号の変化に対して音量調整処理を敏感に追従するようになり、音量変化をより一層抑えることができる。
【0193】
なお、DSP15は、効果レベルや効果パターンといったパラメータを記憶する記憶部(図示せず)を備えている。そして、利得決定部15eや信号レベル算出部15cは、かかる記憶部から必要とするパラメータを取り出して処理を行う。また、オーディオマイコン19は、効果レベルや効果パターン等の設定変更操作を受け付けた場合には、DSP15の上記記憶部に記憶されたパラメータを変更後のパラメータへ書き換える処理を行う。
【0194】
次に、オーディオマイコン19およびDSP15の具体的動作について説明する。まず、オーディオマイコン19の具体的動作について図19を用いて説明する。図19は、オーディオマイコン19が実行するリセット実行指示処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、この処理は再生動作中に繰り返し実行される。
【0195】
図19に示すように、オーディオマイコン19は、再生位置の変更操作(たとえば、早送り再生操作)の受け付け中に曲間通知信号を受信したか否かを判定する(ステップS101)。かかる処理において、再生位置の変更操作の受付中に曲間通知信号を受信したと判定すると(ステップS101,Yes)、オーディオマイコン19は、まず、DSP15から出力される音響信号の信号レベルを0にするミュート処理を開始する(ステップS102)。
【0196】
つづいて、オーディオマイコン19は、DSP15に対してリセット指示を出力したのち(ステップS103)、再開指示を出力したうえで(ステップS104)、ミュート処理を解除し(ステップS105)、本処理を終了する。
【0197】
一方、早送り再生操作の受付中に曲間通知信号を受信したと判定しないとき(ステップS101,No)、オーディオマイコン19は、設定変更操作を受け付けたか否かを判定する(ステップS106)。そして、設定変更操作を受け付けたと判定した場合(ステップS106,Yes)、オーディオマイコン19は、ミュート処理を開始したうえで(ステップS107)、DSP15に対してリセット指示を出力する(ステップS108)。
【0198】
また、オーディオマイコン19は、受け付けた設定変更操作に応じてDSP15の音量調整処理に関するパラメータ(効果レベルや効果パターン)を書き換えたのち(ステップS109)、再開指示を出力したうえで(ステップS110)、ミュート処理を解除する(ステップS111)。ステップS111の処理を終えた場合、あるいは、ステップS106において設定変更操作を受け付けていない場合(ステップS106,No)、オーディオマイコン19は、本処理を終える。尚、本処理は繰り返し実行されるので、その結果、DSP15は再びステップS101から処理を実行する。
【0199】
次に、DSP15の具体的動作について図20を用いて説明する。図20は、DSP15が実行するリセット処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、図20においては、オーディオマイコン19から受信したリセット指示および再開指示に従ってリセット処理を実行する場合の処理手順について示している。尚、図10に示したフローチャートによるこれらの処理は再生動作中に繰り返し実行される。
【0200】
図20に示すように、DSP15は、オーディオマイコン19からリセット指示を受信したか否かを判定する(ステップS201)。そして、DSP15は、オーディオマイコン19からリセット指示を受信したと判定すると(ステップS201,Yes)、メモリ150に記憶された閾値の初期化を行ったうえで(ステップS202)、音量調整処理を一時的に停止させ(ステップS203)、本処理を終了する。なお、DSP15は、たとえば信号レベル比較部15dによる信号レベル比較処理を停止することで、音量調整処理を一時的に停止させることができる。
【0201】
一方、オーディオマイコン19からリセット指示を受信していないとき(ステップS201,No)、DSP15は、オーディオマイコン19から再開指示を受信したか否かを判定する(ステップS204)。そして、DSP15は、オーディオマイコン19から再開指示を受信したと判定した場合には(ステップS204,Yes)、音量調整処理を再開させる(ステップS205)。これにより、あらたに再生対象となった音響データに対応する閾値が算出され、算出された閾値を用いて、あらたに再生対象となった音響データの信号レベルが補正されることとなる。
【0202】
ステップS205の処理を終えたとき、あるいは、ステップS204において再開指示を受信していないとき(ステップS204,No)、DSP15は、本処理を終える。尚、本処理は繰り返し実行されるので、その結果、DSP15は再びステップS201から処理を実行する。
【0203】
上述してきたように、本実施例では、DSP15が、再生対象となる音響データに応じた閾値を用いて音響データの信号レベルを調整する。また、本実施例では、DSP15が、音響データ間における無音区間を検知した場合に、閾値を初期化することで、音量調整処理に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた変数を算出させるリセット処理を実行する。さらに、本実施例では、オーディオマイコン19が、音響データの早送り再生操作を受け付けた場合に、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することとした。したがって、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができる。
【0204】
尚、本実施例では、早送り再生に関するリセット処理の例を主に説明したが、巻き戻し再生や、ユーザが再生位置を指定する操作等、音響コンテンツの切り替えが適切に行い難い操作に関してリセット処理を行うようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0205】
以上、本発明に係る音響制御装置の実施例のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0206】
以上のように、本発明に係る音響制御装置は、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行いたい場合に有効であり、特に、車載用の音響制御装置への適用が考えられる。
【符号の説明】
【0207】
1 音響制御装置
14 マイコン
15 DSP
15a 遅延処理部
15b BPF
15c 信号レベル算出部
15d 信号レベル比較部
15e 利得決定部
15g リセット判定部
19 オーディオマイコン
19c リセット実行指示部
2 USB
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば車載用オーディオ装置のように、ラジオチューナーやCD(Compact Disc)プレイヤー、外部入力端子のAUX(Auxiliary)入力といった複数の音響ソースを再生可能な音響装置が知られている。
【0003】
この種の音響装置においては、音響ソースの切り替え時に、音響ソースの特性(たとえば、録音信号レベル(録音ダイナミックレンジ)や、再生帯域およびアナログ・デジタルの信号の種類など)の違いによって音量にバラつきが生じる場合がある。
【0004】
このため、近年では、音響ソースの切り替え時に音量の自動調整を行う音響装置が提案されている。たとえば、特許文献1には、音響ソースの切り替え信号を受信した場合に、切り替え前の音量に基づいて切り替え後の音量を調整することで、切り替え前後の音量を一定に保つ音響装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−359184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、たとえば携帯型音楽プレイヤーなどのストレージデバイスと音響装置とを接続し、ストレージデバイスに記録された圧縮音源のデータを音響装置で再生する機会が増えてきている。
【0007】
しかしながら、このようなストレージデバイスには、様々な録音信号レベルで録音された圧縮音源が混在して記録される場合が多い。このため、音響コンテンツが切り替わった場合(たとえば次の楽曲へ遷移した場合)に、録音信号レベルの違いによって再生音量にバラつきが生じるおそれがある。
【0008】
すなわち、音響装置においては、CDやDVD(Digital Versatile Disc)等の音響ソースを切り替えた場合だけでなく、同一の音響ソースに含まれる音響コンテンツを連続的に再生する場合等にも音量のバラつきが生じる可能性がある。
【0009】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができる音響制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は、音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する音量調整手段と、前記音響データの切り替わりを検知した場合に、前記調整を初期化することで前記音量調整手段に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行するリセット手段と、前記音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示する実行指示手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本願によれば、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、音楽波形と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【図2】図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。
【図3】図3は、音量補正処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、信号レベルと補正値を対応付けたテーブルの一例を示す図である。
【図5】図5は、DSPの行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【図6】図6は、入力音響信号の遷移を示す図である。
【図7】図7は、リセット機能の概要を示す図である。
【図8】図8は、音響制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、オーディオマイコンの構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、曲間通知信号の変換処理の説明図である。
【図11】図11は、リセット実行指示処理の動作例を示す図である。
【図12】図12は、DSPの構成を示すブロック図である。
【図13】図13は、信号レベル算出処理の動作例を示す図である。
【図14】図14は、利得決定処理の動作例を示す図である。
【図15】図15は、リセット処理の動作例を示す図である。
【図16】図16は、設定画面の一例を示す図である。
【図17】図17は、効果レベルの内容の一例を示す図である。
【図18】図18は、効果パターンの内容の一例を示す図である。
【図19】図19は、オーディオマイコンが実行するリセット実行指示処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図20】図20は、DSPが実行するリセット処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る音量補正手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、先ず本発明に係る音量補正手法例の基本的機能を実現する部分について、その構成、動作等を図1〜図6を用いて説明する。そして、その後に更に詳細な機能について、その構成、動作等を図7以降を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
[基本的機能について]
音響信号の音量補正は、理想的には曲全体のレベル分布(基本的には最大レベル)に基づき増幅器の利得(減衰器の減衰度)を決めるのが好ましい。しかし、この方法の場合は、曲再生前の曲全体に渡って解析を行って利得を決める必要があり、処理負荷が大きい、利得決定に時間がかかり再生が速やかに行われない問題がある。
【0015】
そこで、本実施例の基本的音量補正動作は、楽曲を再生しつつ信号レベル値を監視し音量を補正する、例えば信号レベル値の移動平均値に基づき音量補正を行う動作をその基本としている。尚、この場合、曲頭部分における所定期間だけ監視して補正値を決め、その後(当該曲の再生中)はその補正値を用いる方法や、更にその後最大値を超える信号が検出された場合には一次的に音量を下げる処理を加えた方法等を適用する。
【0016】
また、音響ソース間、あるいは同一音響ソースの楽曲間の信号レベル差を補正して、音響ソース、あるいは楽曲が変化した際にもユーザの好みの音量での再生が維持されるようにする技術があるが、それは大別して、「音響コンプレッサ技術の応用」、「心理音響モデルを用いた手法」がある。
【0017】
「音響コンプレッサ技術の応用」は信号レベルに応じてダイナミックレンジを圧縮する技術に基づく処理で、比較的に少ない処理量で済むが、音楽のダイナミックレンジが小さくなり、本来有している音質や抑揚表現を犠牲にすると言った問題がある。これに対して、「心理音響モデルを用いた手法」は、音響信号の有する特性を人の聴覚フィルタモデルから周波数帯域毎に分析し、聴感上の最適な音量バランスを導き、差を補正する技術で、自然な聴感を得ることが可能であるが、聴感フィルタ等の解析処理量が大きくなるため、補正専用集積回路が必要となる等、コストアップにつながる。
【0018】
本実施例の音量補正手法は、このような課題に対するもので、処理量が比較的小さくて済み(あるいは回路規模が比較的小さくて済み)、かつ音質等の劣化を抑えた音量補正を実現する。
【0019】
そして、これらの目的から、本音量補正手法における動作上の基本的な特徴は次の通りである。尚、実際の制御は、処理負荷や再生時間遅れの抑制を考慮して、この特徴に沿った制御となるような処理を行う。
【0020】
第1に、1曲の再生中に音響信号のレベルを常に補正すると、補正値の変化により、音量のふらつき/音楽の抑揚表現の低下、音色が変わる恐れがある。そのため、同曲(同曲と捕らえられる期間)中は基本的に補正値を一定に保つ。第2に、補正値は、当該曲の平均レベルと目標値との差分とする。第3に、ユーザが実際にボリュームを操作する際は、1曲内で細かな操作はしないことを踏まえ、こまめに補正するのではなく、入力信号が大きいときのみ補正値を下げる。
【0021】
次に音楽波形例を示して本音量補正手法の制御内容を説明する。尚、音量補正の主要ハード構成は、ユーザの操作するボリュームの前段に配置され、内部ボリュームとして機能する増幅回路で、当該増幅回路のゲイン(増幅率あるいは減衰率)を制御して音量補正を行う。図1は、音楽波形(所定サンプリングタイミングでのAD変換値で表示)と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【0022】
曲A再生中、増幅器のゲインは曲Aの信号レベルに応じたゲインGSPとなっている。そして、曲が変わったタイミングtr1(例えば、音楽ディスク等における曲情報(トラック番号)の変化、無音部分の継続時間等で曲変化を検知し、トリガ信号を出力する)でゲインは初期ゲインGDに変化する。
【0023】
その後、新しい再生曲Bの初期部分(所謂曲頭部分)の信号レベル(最初のサンプリングタイミングでの信号レベル)や、所定数のサンプリング時(所定時間経過時:つまり曲の初期部分の平均レベルとなる)等の平均信号レベル等を利用)に基づきゲインを算出して、増幅器を制御する。本例では、最初のサンプリングタイミングでの信号レベルS1に基づきゲインGS1を算出し、増幅器を制御している。
【0024】
尚、信号レベルは音響信号を適当な時定数を持つ積分フィルタ(ローパスフィルタ)を用いてフィルタリング処理したものを、所謂移動平均処理することにより算出される。尚、本例では、移動平均処理の曲変更(トリガtr)に伴ったリセット処理は行わない。
【0025】
その後の信号レベルS2〜S8は、信号レベルS1より小さいため、ゲインGS1は維持される。そして、その後信号レベルS9が信号レベルS1を超えたため、新しいゲインGS9が算出され、増幅器はゲインGS9で制御される。その後、曲Bが終了となるまで信号レベルS9を超えることが無いため、ゲインGS9は曲終了まで維持される。そして、次の曲Cに再生が移ると、曲Bと同様の処理(再度、ゲインの初期化から実行)が、曲変更のトリガ信号tr2に基づき開始される。尚、電源ON時等、最初の曲再生時にも、トリガtrが出力され、曲変更時と同様の動作となる。
【0026】
つまり、大まかに動作を説明すると、曲変更時に曲頭部分の信号レベルに応じて音量補正量(補正用増幅器のゲイン)を定め、その後は当該曲での最高信号レベルが更新された場合に音量補正量を更新する(補正用増幅器のゲインを下げる)、つまり当該曲での最高信号レベルが更新されるまで、音量補正量を維持する(補正用増幅器のゲインを維持する)動作となる。
【0027】
次に本実施例の音響装置における音量補正主要構成について説明する。尚、音響装置全体像については、後述する。図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。なお、図2においては、制御信号を点線で、デジタル音響信号を太線で、アナログ音響信号を細線で、それぞれ示している。
【0028】
マルチメディア制御マイコン100は、音響装置全体の動作を制御するマイコンで、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等により構成され、メモリに記憶されたプログラムに応じて各種処理を行う。
【0029】
特に音量補正制御において、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105からの信号を入力し、当該信号に含まれる曲ナンバーデータ等に基づき、また後述の音量レベルデータ(音量レベルデータから判断される無音区間)に基づき、再生曲の変更を検出する。尚、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105から入力される音響データについては、特に加工せずにDSP(Digital Signal Processor)101に出力する。
【0030】
DSP101はデジタルシグナルプロセッサ、所謂音響信号等の演算処理に特化したマイクロコンピュータで、設定されたプログラム、パラメータ(演算係数等)等に応じてマルチメディア制御マイコン100からの音響信号を演算処理する。主な処理を処理ブロックとして表現すると、図2に示すように、音量補正処理部201,クロスオーバ部202,ポジション制御部203,音量調整部204,イコライザ部205,ラウドネス部206,音場制御部207等となる。
【0031】
音量補正処理部201は、曲の信号レベルに応じて音量補正処理を行う部分であり、詳細は後述する。また、クロスオーバ部202は左右チャンネルの信号の分離度を調整するもので、例えばユーザによるステレオ感の強度調整操作に応じて左右チャンネルの信号を混合する処理等を行う。ポジション制御部203は、特に自動車用オーディオに搭載される機能で、乗員の各座席への着座状態に応じて各スピーカから出力する信号のレベル、位相等を調整して、着座状態に適した音響再生制御を行うものである。
【0032】
音量調整部204は、ユーザの音量調整操作に応じて音響信号のレベルを調整するもので、入力音響信号のレベルには関係なく、ユーザの音量調整量に応じて増幅器の増幅率を決める(DSP101では音声のデジタル値に、ユーザの音量調整量に応じた係数を積算する)。イコライザ部205は、音響信号の周波数特性を調整するもので、ユーザの音質調整量(各周波数帯でのゲイン調整量)に応じて各周波数帯の信号を各々の増幅率で増幅する。
【0033】
ラウドネス部206は、ユーザの音量調整操作に応じた増幅率で、音響信号の低周波領域および高周波領域の信号を選択的に増幅する。そして、音場制御部207は、音響信号の残響音の付加処理等を施し、ある空間、例えばコンサートホールでの音楽再生を疑似化するもので、音響信号の遅延、増幅、加算処理等により、音場の疑似化を実現する。
【0034】
DAC102はデジタル−アナログ変換器で、DSP101で処理されたデジタル音響信号をアナログ音響信号に変換する回路である。そして、AMP103はDAC102からのアナログ音響信号を増幅してスピーカ104から音声で出力する電力増幅器でトランジスタ等により構成される。
【0035】
次に音量補正処理部201の構成について説明する。図3は音量補正処理部201の構成を示すブロック図で、DSP101での処理を処理ブロックとして表現している。
【0036】
信号レベル計算部301は、入力音響信号の信号レベルを算出する。その具体的処理は、入力音響信号(デジタル値)の移動平均処理で、本実施例では時定数の異なる移動平均処理(平均化期間、及び当該期間における各値の重み付けを適宜設定)を行い、さらに各移動平均値を重み付け処理し(異なったゲインで増幅(異なった係数を積算))、そしてそれらの処理値の最大値を信号レベルとして決定する処理を行う。尚、ユーザの操作により、上記時定数を設定できるようにすれば、ユーザ好みの反応速度での音量補正が行える。
【0037】
補正値計算部302は、音響信号の補正値、つまり音響信号の音量補正のために増幅処理するそのゲインを算出する。本実施例の場合、この算出はテーブルを用いた算出法、つまり信号レベルと補正値を対応付けたテーブルをメモリに記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルに基づきテーブルから補正値を選択し制御に用いる補正値を算出する。
【0038】
図4は、このテーブル例を示す図で、信号レベルに対応付けて補正値(補正用アンプのゲイン)が記録され、また本実施例の場合はユーザの指定した補正強度(ユーザが操作部の操作により音量補正の効果の程度を指定するもので、本例では大中小の3段階)毎に補正値が記憶されている。このように構成すれば、ユーザ好みの補正の影響度での音量補正が行える。尚、メモリに信号レベルをパラメータとする計算式を記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルをこの計算に適用することにより補正値を算出する方法も適用可能である。
【0039】
切替通知部303は、曲の変更(電源ON時、ソース(音源)切替も含む)に基づき、補正のリセット処理を行うものである。本実施例では、マルチメディア制御マイコン100が曲切替、ソース切替、電源ON等を検知し、DSP101に曲切替信号(音量補正処理トリガ)を出力し、切替通知部303が当該トリガ信号に基づき、補正値を初期化(補正値を初期補正値GDに変更)する処理となっている。
【0040】
尚、信号レベル計算部301の算出した信号レベル値はマルチメディア制御マイコン100に出力され、マルチメディア制御マイコン100はこの信号レベル値に基づく無音区間(信号レベル値が無音と見なされるレベルより低い状態が連続する期間)により、曲変更と判断し(例えば、無音区間が2秒継続したときに曲変更と判断)、この場合も切替通知部303に当該トリガ信号を出力する。この処理は、明確な曲変更信号が無い放送(ラジオ、テレビ)等の再生時に、特に有効となる。
【0041】
補正値適用判定部304は、補正値を音量補正に用いるか、つまり算出したゲインで音響信号を処理するかを判定するもので、ユーザによる補正OFF操作、ノイズ等による異常な補正値(入力信号レベル検出値)の検知、等により音量補正の適用を判断し、また曲変更に伴うリセット処理を行う。
【0042】
以上、DSP101の処理により実現される音量補正処理部201の処理内容を、処理ブロック図を用いて説明したが、DSP101の行う処理の流れについて更にフローチャートを用いても説明する。図5は、DSP101の行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【0043】
尚、本実施例では、この処理をDSP101により実行するが、マルチメディア制御マイコン100とDSP101が必要な通信を行いながら、処理を分担して行う(各々が得意な処理内容を実行するように処理を分担する)ことも可能である。また、この処理は音量補正処理動作中(音楽等、音声を再生中で、ユーザが音量補正動作をON状態に設定の場合等)に繰り返し実行される。
【0044】
ステップS01は、リセット状態か否かを判断する処理で、リセット条件(曲の切替等)が成立していればステップS08に移り、リセット条件で無ければステップS02に移る処理である。ステップS08はリセット処理で、信号レベルの最大値Smaxを初期化(0にする)し、また補正値(増幅器の増幅率:ゲインGS)を初期値(設定値)にする等の初期化を行う処理である。尚、ゲインGSは実験等により求めた制御に適切な値で、例えばゲイン0(入力信号をそのまま出力)等が設定される。尚、ゲインGSが正値の場合、信号は増幅されるが、ゲインGSが負値の場合、信号は減衰されることとなる。
【0045】
ステップS02は、入力音響信号からその信号レベルSnを演算しステップS03に移る処理で、本実施例の当該処理は時定数の異なった2種類のフィルタで移動平均処理を行い、その処理結果の内、大きい方の信号レベルを選択して信号レベルSnとする処理となっている。尚、フィルタ処理後、それぞれのフィルタ処理信号は適切な重み付け処理(重み係数の積算)が行われる。この処理は、音量変化の激しい音楽と、音量変化の穏やかな音楽の両方で適切な音量補正処理が行えるようにするためのもので、各重み係数は適切な音量補正が行われるように実験等に基づき適切な値に設定すれば良い。
【0046】
ステップS03は、算出した信号レベルSnの異常を判断し、異常であれば本処理を終了し、異常でなければステップS04に移る処理で、例えば信号レベルSnが異常に大きな値であった場合に異常と判断し、本処理を終える処理である。
【0047】
ステップS04は、算出した信号レベルSnが記憶している当該曲における最大信号レベルSmaxより大きいか判断し、信号レベルSnが当該曲における最大信号レベルSmaxより大きければステップS05に移り、大きくなければ本処理を終える処理である。ステップS05は、最大信号レベルSmaxを信号レベルSn(最大信号レベルSmaxを超えた信号レベル)で更新し、ステップS06に移る処理である。
【0048】
ステップS06は、更新された最大信号レベルSmaxに基づき増幅器の増幅率(ゲイン)を算出して増幅器制御値として設定しステップS07に移る処理で、最大信号レベルSmaxをパラメータとする算出式や、最大信号レベルSmaxを選択キーとするテーブル処理等で算出された増幅率(ゲイン)を増幅器制御値として設定登録する処理である。
【0049】
尚、フローチャートでの表記は省略するが、ステップS06では、リセット処理があった場合(曲変更時の最初のゲイン設定の場合)においては、信号レベルが所定レベル(非常に小さいレベル)より小さい時に、曲のイントロ部分に高頻度に現れるフェードイン状態と判断し、曲自体の信号レベルは平均的な信号レベルと推定する、つまりゲインを平均的な信号レベルに対するゲイン値(例えばゲイン0)とする。
【0050】
ステップS07は制御ゲインGSにより増幅器の増幅率を制御し、本処理を終える処理で、設定登録された増幅器制御値を増幅器に制御信号(必要に応じて制御用に適して信号形態(例えばアナログ値)に変換する)として出力する処理である。
【0051】
次に、以上説明したDSP101の処理による入力音響信号の遷移について、信号遷移を示す図である図6を用いて説明する。
【0052】
入力された音響信号Sgは、時定数の異なる2種類の移動平均処理フィルタFf,Fsにより信号レベル値Avf,Avsとなる。そして、各信号レベル値Avf,Avsは、重み付け処理され重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glとなる。そして、これら重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glの内、大きな方の値が選択されゲイン演算用の信号レベルSnとなる。
【0053】
ゲイン演算用の信号レベルSnは、異常値判断がなされ、正常の場合は記憶されている最大信号レベルSmaxと比較される。そして、その比較の結果、新たなゲイン演算用の信号レベルSnが過去の最大信号レベルSmaxより大きいと、最大信号レベルSmaxの記憶値は新たなゲイン演算用の信号レベルSnで更新される。そして、この最大信号レベルSmaxに基づき補正増幅器用のゲインGsが算出される。
【0054】
そして、音響信号SgはこのゲインGsに基づき増幅されて補正音響信号Sg・Gsとなる。そして音量補正された補正音響信号Sg・Gsはプリアンプ(前置増幅器)によりユーザ操作に基づく音量調整値の増幅率Grで増幅され(Sg・Gs・Gr)、さらに固定増幅率の電力増幅器によって固定増幅率Gpで増幅されて出力音響信号Sg・Gs・Gr・Gpとなって、スピーカから音響信号Sdとして出力される。
【0055】
また、曲切替等により初期化信号Resが入力されると、最大信号レベルSmaxが初期化(0)され、ゲインGsは初期化時における最大信号レベルSmaxに基づくゲイン値となる。
【0056】
以上説明したように、曲等の再生の進行に沿って当該曲等における最大信号レベルを算出(更新)していき、その最大信号レベルに応じて曲等の音響信号の音量補正を行うので、予め曲全体の信号レベルを把握することなく音量補正が可能となり音量補正を素早く行うことができる。また最大信号レベルに基づく音量補正であるため比較的簡単な処理で行え、処理デバイス(DSPやCPU)の負荷を低減できて、結果低コスト化等に貢献する。
【0057】
[詳細機能について]
ところで、上述した基本的音量補正動作の例では、曲情報の変化や無音区間によって音響コンテンツの切り替わりを検知してリセット処理を実行する場合について説明した。
【0058】
しかし、本音量補正手法は、これに限ったものではなく、早送り再生操作、巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった再生位置の変更操作によって音響コンテンツが切り替わる場合のように、音響コンテンツの切り替えを適切に行い難い状況であっても、リセット処理を適切に行うことができる。
【0059】
以下では、本音量補正手法におけるリセット機能の具体的な内容について図7〜図20を用いて説明する。まず、本リセット機能の概要について図7を用いて説明する。図7は、リセット機能の概要を示す図である。なお、図7の(A)には、リセット処理の実行タイミング(その1)を、図7の(B)には、リセット処理の実行タイミング(その2)を、それぞれ示している。
【0060】
図7の(A)に示すように、本リセット機能では、上述したように、再生対象となる音響コンテンツが切り替わるごとに、DSP(Digital Signal Processor)が自動的に音量調整を行う。これにより、たとえば異なる録音信号レベルで録音された圧縮音源を再生する場合であっても、ユーザに対して音量調整を行わせることなく、常に一定の音量を出力することが可能となる。
【0061】
特に、本リセット機能では、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知できない状況が発生した場合に、DSPを制御するオーディオマイコンからDSPに対して自動音量調整機能のリセット処理を指示することとしている。
【0062】
ここで、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知できない状況とは、たとえば早送り再生操作や巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった任意位置への再生位置指定操作によって音響コンテンツが切り替わる状況である。なお、ジャンプ操作とは、操作量に応じて再生位置を移動させる操作のことである。
【0063】
まず、DSP自身が音響コンテンツの切り替わりを検知して自動音量調整機能をリセットする場合について説明する。
【0064】
図7の(A)に示すように、DSPは、まず、音響コンテンツ間における無音区間を検知する(図7の(A−1)参照)。ここで、無音区間とは、音響コンテンツに含まれる音響データに基づく音響信号の信号レベルが一定レベル以下の状態が所定時間以上継続する区間を指す。なお、以下では、音響信号そのものの信号レベルと、スピーカから出力される信号のレベルとを区別するために、前者を「信号レベル」と呼び、後者を「再生音量」と呼ぶこととする。
【0065】
通常、ある楽曲が終了してから次の楽曲が開始されるまでの間には、無音区間が存在する。DSPは、この無音区間を検知することで、音響コンテンツが切り替わったことを推定することができる。なお、図7の(A)では、曲Aと曲Bとの間の無音区間が検知されている。
【0066】
また、DSPは、無音区間を検知してから所定期間内に、オーディオマイコンから曲間通知信号を受信したか否かを判定する。ここで、曲間通知信号(上述した曲変更のトリガ信号に相当)とは、再生対象となる音響コンテンツが切り替わったことを示す信号であり、プログラムによりオーディオマイコンが音響コンテンツの切り替え時に出力するように設定されている。
【0067】
DSPは、かかる期間内に曲間通知信号を受信すると(図7の(A−2)参照)、自動音量調整機能のリセット処理を行う(図7の(A−3)参照)。ここで、自動音量調整機能とは、上述した音量補正処理に相当する機能であり、再生対象となる音響データに応じた変数を用いてかかる音響コンテンツの信号レベルを調整する機能である。
【0068】
具体的には、DSPは、音響データに基づく音響信号の信号レベルの代表値(たとえば、所定時間における信号レベルの平均値)を変数として算出する。そして、DSPは、算出した代表値および信号レベルの基準値に基づいて利得を決定し、決定した利得を用いて信号レベルを補正する(すなわち、決定した利得を用いて音響信号を増幅する)。なお、かかる自動音量調整機能の詳細については、後述することとする。
【0069】
また、自動音量調整機能のリセット処理とは、たとえば、切り替え前の音響コンテンツに対応する変数を初期化することで、切り替え後の音響コンテンツに対応する変数を再計算する処理である。
【0070】
具体的には、DSPは、リセット処理を開始すると、これまで使用していた変数を初期化する(図7の(A−3a)参照)。たとえば図7の(A)に示した場合には、曲Aの音響信号に基づいて算出した変数(代表値)を初期化する。
【0071】
変数が初期化されると、DSPでは、変数の再計算が行われる。図7の(A)に示した場合には、音響データが曲Aから曲Bへ切り替わっているため、DSPは、曲Bの音響信号に基づいて曲B用の変数を計算する(図7の(A−3b)参照)。この結果、DSPでは、あらたに計算された曲B用の変数に基づいて信号レベル補正が行われることとなる(図7の(A−3c)参照)。
【0072】
このように、DSPは、音響コンテンツ間における無音区間を検知し、かつ、オーディオマイコンから曲間通知信号を受信することで、音響データが切り替わったことを認識し、自動音量調整機能のリセット処理を行うことができる。なお、かかる音量調整処理は一例であり、結果として最終の調整値が初期化されれば、他の処理内容であっても構わない。たとえば、変数は継続して算出し、リセットはその変数の影響度を0%とすることも可能である。すなわち、リセットからの経過時間に応じて変数の影響度を徐々に100%に近づけるといった処理も可能である。
【0073】
ユーザによって音響コンテンツの早送り再生操作や巻戻し再生操作、ジャンプ操作といった再生位置の変更操作がなされた場合、かかる操作によって音響コンテンツが切り替わってしまうと、DSPは、無音区間を検知することができない。すなわち、DSPは、自動音量調整機能のリセット処理を実行すべき状況であるにもかかわらず、リセット処理を実行しないこととなる。
【0074】
たとえば、図7の(B)には、曲Bの再生中に早送り再生操作が行われ、かかる操作によって再生対象となる音響データが曲Cへ切り替わった場合の例を示している。かかる場合、DSPは、自動音量調整機能のリセット処理を行うことができないため、曲B用の変数を用いて曲Cの音量調整が行われることとなり、曲Cが不適切な音量で再生されてしまうおそれがある。
【0075】
このため、本リセット機能では、オーディオマイコンが、再生位置の変更指示を受け付けた場合に(図7の(B−1)参照)、DSPに対してリセット処理の実行を指示することとした(図7の(B−2)参照)。これにより、DSPは、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができなくても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる(図7の(B−3)参照)。
【0076】
このように、本音響制御手法では、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合にも、リセット処理を実行することができるため、音響コンテンツ間の音量調整をより適切に行うことができる。
【0077】
なお、図7では、DSPが音量調整処理およびリセット処理を行い、オーディオマイコンが、音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合にDSPに対してリセット処理を実行するように指示する場合の例について説明したが、これに限ったものではない。たとえば、音響データの再生位置の変更指示を受け付ける処理、変更指示を受け付けた場合にリセット処理を実行する処理および音量調整処理を1つの処理部(たとえば、DSP、オーディオマイコンまたはこれらに相当する他の制御部)が実行することとしてもよい。
【0078】
ところで、自動音量調整機能のリセット処理を行うべきであるにもかかわらず、リセット処理が開始されない状況は、再生位置の変更操作によって音響コンテンツが切り替わった場合に限ったものではない。たとえば、音量調整機能に関する設定変更をユーザから受け付けた場合も該当する。
【0079】
すなわち、音量調整機能に関する設定変更を受け付けた場合には、変更後のパラメータに基づいて変数等を再計算するために自動音量調整機能のリセット処理を行うことが望ましい。しかしながら、かかる場合には、無音区間が検知されず、曲間通知信号も受信されないため、自動音量調整機能のリセット処理を開始することができない。すなわち、ユーザが設定変更を行ったにもかかわらず、次の音響データに切り替わるまでの間、かかる設定変更が反映されないこととなる。
【0080】
そこで、音量調整機能に関する設定変更を受け付けた場合にも、リセット処理を実行することとしてもよい。これにより、ユーザが行った設定変更を即座に反映させることが可能となる。
【0081】
以下では、本リセット機能について更に具体的に説明する。図8は、音響制御装置の構成を示すブロック図である。以下では、音響制御装置の一例として、車載用の音響制御装置を用いて説明するが、これに限定されるものではない。
【0082】
ここで、図8に示す音響制御装置は、図2に示す音量補正主要構成の具体的一例であり、図1〜図6を用いて説明した音量補正手法例の基本的機能を具備するものである。具体的には、図8に示すDSP15は、図2に示すDSP101に対応し、図8に示すマイコン14およびオーディオマイコン19は、図2に示すマルチメディア制御マイコン100に対応する。同様に、図8に示すDAC16、パワーアンプ17、スピーカ3は、それぞれ図2に示すDAC102、AMP103、スピーカ104に対応する。
【0083】
なお、図8では、音響信号を含むラインと制御信号のラインとを区別するために、音響信号を含むラインを2重線であらわしている。
【0084】
図8に示すように、本実施例に係る音響制御装置1は、IF部11と、切替部12と、マイコン14とを備える。また、音響制御装置1は、DSP15と、DAC(Digital Analog Converter)16と、パワーアンプ17と、メモリ18と、オーディオマイコン19を備える。
【0085】
また、音響制御装置1は、USB(Universal Serial Bus)2、スピーカ3、タッチパネルディスプレイ4および操作SW(Switch)5等と接続する。まず、これらの周辺機器について説明する。
【0086】
USB2は、音響データを記録するストレージデバイスであり、たとえば携帯型音楽プレイヤーである。USB2に記録された音響データは、IF部11および切替部12を介してマイコン14へ入力される。
【0087】
なお、USB2には、様々な録音レベルで録音された圧縮音源の音響コンテンツが混在して記録されているものとする。このような場合、音響コンテンツが切り替わった場合(たとえば次の楽曲へ遷移した場合)に、録音レベルの違いによって音量にバラつきが生じるおそれがある。
【0088】
スピーカ3は、音響制御装置1から出力される音響信号を音声として出力する。なお、音響制御装置1から出力される音響信号は、音響コンテンツの録音レベルに依らず、ユーザによる音量調整値に応じた常に略一定の再生音量(ユーザによる音量調整値が同じであれば常に略一定の再生音量となり、この一定の再生音量はユーザの調整操作により変化する)がスピーカ3から出力されるように、DSP15によって信号レベルが補正された音響信号である。
【0089】
タッチパネルディスプレイ4は、各種画像を表示するためのディスプレイの表面に入力用のタッチパネルを付した入出力デバイスである。また、操作SW5は、たとえばタッチパネルディスプレイ4の周囲に設けられた物理的なスイッチである。タッチパネルディスプレイ4および操作SW5は、ユーザからの操作を受け付けると、受け付けた操作に関する操作情報をオーディオマイコン19へ出力する。
【0090】
なお、タッチパネルディスプレイ4あるいは操作SW5を用いて行われる操作としては、たとえば、音響制御装置1の自動音量調整機能のON/OFF操作やかかる自動音量調整機能に関する設定変更操作などがある。
【0091】
つづいて、音響制御装置1の各構成について説明する。IF部11は、USB2との間でデータの送受信を行う通信デバイスである。IF部11は、USB2から音響データを受け取ると、受け取った音響データを切替部12へ出力する。
【0092】
切替部12は、複数の音響ソースのうちユーザによって選択された音響ソースの音響データをマイコン14へ出力する処理部である。具体的には、切替部12は、ユーザのタッチパネルディスプレイ4あるいは操作SW5への操作に応じた切替制御信号をマイコン14から受け取ると、受け取った切替制御信号に応じて音響ソースの切り替えを行い、切り替え後の音響ソースからの音響データをマイコン14へ出力する。
【0093】
切替部12には、USB2以外の音響ソースとしてFM・AMのラジオ放送やCDデッキあるいはDVDデッキなどが接続されているものとする。
【0094】
マイコン14は、切替部12から受け取った音響データのデコード処理およびかかるデコード処理によって得られた音響信号のDSP15への出力を行う処理部である。
【0095】
また、マイコン14は、USB2からIF部11および切替部12経由で受け取った音響データに基づいて音響データの切り替わりを検知した場合に、オーディオマイコン19に対して曲間通知信号を出力する処理を併せて行う。
【0096】
たとえば、マイコン14は、USB2に記録された音響データがファイル型の音響データである場合には、あらたなファイルのデータをUSB2から取得したタイミングで曲間通知信号をオーディオマイコン19へ出力する。なお、曲間通知信号の出力処理については、後述する。
【0097】
また、マイコン14は、ユーザがタッチパネルディスプレイ4や操作SW5を用いて行った早送り再生操作等の操作情報をオーディオマイコン19から受け取ると、受け取った操作情報に応じた制御情報をUSB2へ出力する処理も併せて行う。USB2は、マイコン14から受け取った制御情報に従って音響データを出力する。
【0098】
DSP15は、スピーカ3の再生音量を音響データに依らず一定に保つための自動音量調整機能を有しており、マイコン14から受け取った音響信号に対して所定の音量調整処理を施したうえで、DAC16へ出力するモジュールである。
【0099】
また、DSP15は、音響データが切り替わるごとに、自動音量調整機能のリセット処理を行う。なお、DSP15が実行する音量調整処理およびリセット処理の具体的な内容については、図12〜15等を用いて後述する。
【0100】
DAC16は、DSP15から受け取った音量調整処理後の音響信号をデジタル信号からアナログ信号へ変換する処理部である。DAC16によってアナログ信号へ変換された音響信号は、パワーアンプ17へ出力される。パワーアンプ17は、DAC16から受け取った音響信号を増幅してスピーカ3へ出力する音声(電力)増幅器である。
【0101】
メモリ18は、自動音量調整機能に関する各種のパラメータを保持する記憶部である。かかるメモリ18に記憶されるパラメータの内容については、図16〜18等を用いて後述する。
【0102】
オーディオマイコン19は、DSP15の制御を行うモジュールである。たとえば、オーディオマイコン19は、マイコン14から曲間通知信号を受け取った場合に、受け取った曲間通知信号をDSP15が認識可能な形式へ変換したうえでDSP15へ出力する。また、オーディオマイコン19は、音響データの早送り再生操作等の再生位置の変更操作が行われた場合や自動音量調整機能に関する設定変更操作が行われた場合に、自動音量調整機能のリセット指示等をDSP15に対して出力する。
【0103】
また、オーディオマイコン19は、その他の処理として、タッチパネルディスプレイ4や操作SW5から操作情報を受け取った場合に、受け取った操作情報をマイコン14へ出力する処理等も行う。
【0104】
ここで、オーディオマイコン19の詳細な構成について図9を用いて説明する。図9は、オーディオマイコン19の構成を示すブロック図である。なお、図9では、オーディオマイコン19の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0105】
図9に示すように、オーディオマイコン19は、変換処理部19aと、操作取得部19bと、リセット実行指示部19cとを備える。
【0106】
変換処理部19aは、マイコン14から受け取った曲間通知信号をDSP15が認識可能な形式へ変換し、変換後の曲間通知信号をDSP15へ出力する処理部である。ここで、変換処理部19aによって行われる曲間通知信号の変換処理について図10を用いて説明しておく。図10は、曲間通知信号の変換処理の説明図である。
【0107】
図10に示すように、マイコン14は、音響データのあらたなファイルをUSB2から取得するごとに、オーディオマイコン19へ曲間通知信号を出力するためのポートのポート論理を反転させる。たとえば、図10に示した場合、マイコン14は、曲BのファイルをUSB2から取得した時点でポート論理をLowからHiへ切り替え、曲CのファイルをUSB2から取得した時点でポート論理をHiからLowへ切り替えている。
【0108】
このように、マイコン14は、音響データが切り替わるごとに反転する信号を曲間通知信号としてオーディオマイコン19へ出力する。しかし、DSP15は、ポートの仕様上、信号を受け取ったか否かしか認識することができず、上記のように信号が常時出力されるような形式の曲間通知信号では音響データが切り替わったことを認識することができない。
【0109】
このため、オーディオマイコン19の変換処理部19aは、マイコン14から入力される曲間通知信号のポート論理が反転するごとに、1つのパルス信号を曲間通知信号としてDSP15へ出力することとした。これにより、DSP15の仕様を変更することなく、DSP15に対して音響データが切り替わったことを認識させることができる。
【0110】
図9へ戻り、オーディオマイコン19の説明を続ける。操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から操作情報を受け取った場合に、受け取った操作情報をマイコン14へ出力する処理部である。
【0111】
また、操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から早送り再生操作等の再生位置の変更操作がなされたことを示す操作情報(以下、「再生位置変更操作情報」と呼ぶこともある)を受け取った場合には、受け取った再生位置変更操作情報をリセット実行指示部19cへ出力する処理を併せて行う。
【0112】
また、操作取得部19bは、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5から自動音量調整機能の設定変更操作がなされたことを示す操作情報(以下、「設定変更操作情報」と呼ぶこともある)を受け取った場合には、受け取った設定変更操作情報に対応するパラメータをメモリ18から取り出し、取り出したパラメータを設定変更操作情報とともにリセット実行指示部19cへ渡す処理を併せて行う。
【0113】
リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから受け取った操作情報(再生位置変更操作情報または設定変更操作情報)、マイコン14から受け取った曲間通知信号等に基づいて、自動音量調整機能のリセット処理の実行をDSP15に対して指示する処理部である。
【0114】
ここで、リセット実行指示部19cによって行われるリセット実行指示処理の内容について図11を用いて説明する。図11は、リセット実行指示処理の動作例を示す図である。なお、図11には、曲Bの再生中に早送り再生操作が行われた結果、再生位置が曲BにおけるP1から曲CにおけるP2へ移動した場合の例を示している。また、図11には、曲Cの再生位置P3において設定変更操作が行われた場合の例も併せて示している。
【0115】
マイコン14は、早送り再生操作が行われた場合であっても、USB2から音響データを取得し続けるため、次の音響データへ切り替わったことを検知することができる。たとえばマイコン14は、図11に示すように、早送り再生操作中に次の音響データのファイルをUSB2から取得すると、オーディオマイコン19へ曲間通知信号を出力する(図11の(A−1)参照)。これにより、マイコン14は、音響データが切り替わったことをオーディオマイコン19に対して認識させることができる。
【0116】
なお、ここでは、曲間通知信号を出力させることによって音響データが切り替わったことをオーディオマイコン19に対して認識させることとしたが、これに限ったものではなく、たとえば、マイコン14は、曲間通知信号を出力するためのライン以外にも、オーディオマイコン19と接続するラインを有している。そこで、マイコン14は、かかるラインを用い、音響データが切り替わったことを示す情報をオーディオマイコン19へ出力することとしてもよい。
【0117】
リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから再生位置変更操作情報を受け付けている状態で、マイコン14から曲間通知信号を受信した場合(図11の(A−2)参照)、DSP15に対してリセット処理の実行を指示する(図11の(A−3)参照)。
【0118】
かかる場合、リセット実行指示部19cは、まず、DSP15に対してリセット指示を出力する。また、リセット実行指示部19cは、リセット指示の出力後、DSP15に対して再開指示を出力する。ここで、リセット指示とは、音量調整処理に用いる変数の初期化を指示する信号である。また、再開指示とは、音量調整処理の再開を指示する信号である。
【0119】
一方、曲Cの再生位置P3において設定変更操作がなされたとする。かかる場合、リセット実行指示部19cは、操作取得部19bから設定変更操作情報および変更後のパラメータを受け取ると(図11の(B−1)参照)、DSP15に対してリセット処理の実行を指示する(図11の(B−2)参照)。
【0120】
かかる場合、リセット実行指示部19cは、まず、DSP15に対してリセット指示を出力する。また、リセット実行指示部19cは、リセット指示の出力後、DSP15に設定されているパラメータを変更後のパラメータへ書き換える。そして、リセット実行指示部19cは、パラメータの書き換え後に、DSP15に対して再開指示を出力する。
【0121】
このように、リセット実行指示部19cが、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することで、DSP15は、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができない状況であっても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる。
【0122】
次に、DSP15の構成について図12を用いて説明する。図12は、DSP15の構成を示すブロック図である。
【0123】
なお、図12に示すDSP15の構成は、図3に示す音量補正処理部201の構成の具体的一例を示したものであり、図2に示すDSP101の音量補正処理部201以外の処理部(クロスオーバ部202、ポジション制御部203、音量調整部204、イコライザ部205、ラウドネス部206、音場制御部207)については省略している。
【0124】
図12に示すように、DSP15は、遅延処理部15aと、第1BPF(Band Pass Filter)15baと、第2BPF15bbと、信号レベル算出部15cと、信号レベル比較部15dと、利得決定部15eと、アンプ15fとを備える。また、DSP15は、リセット判定部15gと、ポート15hと、ポート15iとを備える。
【0125】
また、信号レベル算出部15cは、第1積分回路151aと、第2積分回路151bと、アンプ152a,152bと、選択部153とをさらに備えている。
【0126】
遅延処理部15aは、マイコン14から出力された音響信号を所定時間遅延させたうえで、アンプ15fへ出力する処理部である。すなわち、遅延処理部15aは、遅延処理部15aから出力される音響信号と、当該音響信号に基づき利得決定部15eから出力される利得の出力タイミングが一致するように音響信号を遅延させる。
【0127】
第1BPF15baおよび第2BPF15bbは、入力された音響信号のうち所定の周波数帯域のみを通過させるフィルタである。なお、本実施例では、第1BPF15baおよび第2BPF15bbの2つのBPFを備える構成例を示すが、DSP15は、BPFを3つ以上備えていてもよい。
【0128】
第1BPF15baは、主に高周波帯域を通過させるフィルタである。また、第1BPF15baは、通過させた高周波帯域の音響信号を第1積分回路151aに対して出力する。同様に、第2BPF15bbは、主に低周波帯域を通過させるフィルタである。また、第2BPF15bbは、通過させた低周波帯域の音響信号を第2積分回路151bに対して出力する。
【0129】
より具体的には、第1BPF15baは、50Hz〜20kHzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第1BPF15baは、いわゆる人間の可聴帯域のほぼ全域の信号のみを第1積分回路151aに対して出力する。
【0130】
また、第2BPF15bbは、50Hz〜300Hzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第2BPF15bbは、主に低周波音の信号のみを第2積分回路151bに対して出力する。
【0131】
以下では、説明の対比のために、第1BPF15baの通過帯域分の信号を「高周波信号」または「高周波」と、第2BPF15bbの通過帯域分の音響信号を「低周波信号」または「低周波」と、それぞれ記載する場合がある。
【0132】
なお、第1BPF15baおよび第2BPF15bbの通過帯域は一部が重複してもよい。また、BPFを設ける代わりに音響信号のサンプリングを間引く処理を行ってもよい。これにより、信号処理負荷を低減することができる。
【0133】
信号レベル算出部15cは、第1BPF15baや第2BPF15bbから入力された音響信号の信号レベルの代表値を算出する回路ブロックである。なお、かかる代表値は、各BPFに対応する各系統においてそれぞれ算出される信号レベル平均値の最大値である。
【0134】
第1積分回路151aは、第1BPF15baから入力された高周波の音響信号を、急峻な信号レベルの変動に適した短い時定数で平均化し、平均値(第1平均値)をアンプ152aに対して出力する。尚、信号は短い時定数で平均化されるので、信号に素早く追従する信号レベルを示す信号となる。
【0135】
また、第2積分回路151bは、第2BPF15bbから入力された低周波の音響信号を、緩やかな信号の変動に適した長い時定数で平均化し、平均値(第2平均値)をアンプ152bに対して出力する。尚、信号は長い時定数で平均化されるので、信号に穏やかに追従する信号レベルを示す信号となる。
【0136】
なお、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bは、第1アンプ、加算器、遅延器および第2アンプ等を備える。具体的には、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bは、入力された音響信号の信号を第1アンプを用いて所定の増幅率で増幅する。
【0137】
第1アンプによって増幅された音響信号は、遅延器によって所定時間遅延された後、第2アンプによって所定の増幅率(増幅率<1:減衰)で増幅される。そして、第2アンプで増幅された音響信号は、加算器において足し込まれたうえで出力される。
【0138】
ここで、第1積分回路151aと第2積分回路151bとは、第2アンプの所定の増幅率がそれぞれ異なる。すなわち、第1積分回路151aは、第2積分回路151bと比べて時定数を短くする増幅率(増幅率を小さくし、過去の信号の影響度を小さくする)の第2アンプを備え、第2積分回路151bは、第1積分回路151aと比べて時定数を長くする増幅率(増幅率を大きくし、過去の信号の影響度を大きくする)の第2アンプを備えることとなる。
【0139】
なお、本実施例では、時定数を単に「短」と「長」との2種別に分け、第1積分回路151aおよび第2積分回路151bの2つの積分回路を例に挙げて説明を行っているが、時定数を3種別以上の多段階に分け、これに対応する3つ以上の積分回路を設けてもよい。
【0140】
アンプ152aは、第1積分回路151aから入力された第1平均値について、第1平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部153に対して出力する。また、アンプ152bは、第2積分回路151bから入力された第2平均値について、第2平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部153に対して出力する。
【0141】
なお、アンプ152aおよびアンプ152bがそれぞれ用いる重み係数は、オーディオマイコン19から入力されるものとする。
【0142】
具体的には、かかる重み係数を含む情報である重み係数情報は、たとえば図8に示すメモリ18に記憶される音量補正の重み係数に関する情報であり、「パターン番号」項目と、「種別」項目と、「重み係数」項目とが関連付けられて記憶されている。
【0143】
「パターン番号」項目は、積分回路の系統別の重み係数組み合わせパターンに付与されるパターン番号の項目である。重み係数情報は、かかるパターン番号ごとのレコードとして、各情報の関係を管理することができる。かかる場合、パターン番号は、重み係数情報8aの各レコードを検索するための主キーとなる。
【0144】
「種別」項目は、各レコード検索のための副次キーとなる各種別を格納する項目である。なお、かかる「種別」項目には、「ジャンル」項目と、「テンポ」項目と、「曲調」項目とがさらに含まれる。
【0145】
たとえば、「ジャンル」項目は、楽曲のジャンルを識別する「ロック」や「クラシック」といった情報の項目である。「テンポ」項目は、楽曲のテンポを識別する「ファスト」や「スロー」といった情報の項目である。また、「曲調」項目は、楽曲の曲調を識別する「ハード」や「ソフト」といった情報の項目である。また、「重み係数」項目は、各パターン番号に対応する積分回路の系統別の重み係数組み合わせの項目である。
【0146】
なお、重み係数の組み合わせは、「種別」項目の情報に応じて定めることができる。たとえば、ジャンルが「ロック」、テンポが「ファスト」、曲調が「ハード」といった高周波を多く含み、かつ、急峻である音響信号の入力が見込まれる場合には、第1積分回路151aに対応する重み係数Kを「1」と相対的に高く、第2積分回路151bに対応する重み係数Lを「0.9」と相対的に低くした重み係数の組み合わせとすればよい。
【0147】
一方、ジャンルが「クラシック」、テンポが「スロー」、曲調が「ソフト」といった低周波を多く含み、かつ、緩やかである音響信号の入力が見込まれる場合には、「パターン2」のレコードのように、重み係数Kを「0.7」と相対的に低く、重み係数Lを「1」と相対的に高くした重み係数の組み合わせとすればよい。なお、重み係数組み合わせパターンは、ユーザの操作によって可変設定することができる。
【0148】
選択部153は、それぞれ個別の重みづけが行われた第1平均値および第2平均値などの各信号レベルの平均値のうち最大値を信号レベルの代表値として信号レベル比較部15dへ出力する回路ブロックである。
【0149】
具体的には、選択部153は、比較部および除算部等を備える。比較部は、入力された第1平均値と第2平均値とを、たとえば、コンパレータなどによって比較し、最大値を除算部に対して出力する。除算部は、比較部から入力された最大値を、対応するアンプ152aあるいはアンプ152bの重み係数で割ることによって重みづけ前の値に戻し、代表値として出力する。なお、重み係数の逆数をかけることとしてもよい。また、除算部を備えることなく、比較部が出力する最大値をそのまま代表値として出力してもよい。
【0150】
なお、信号レベル算出部15cによる信号レベルの代表値の算出処理は、上述したものに限ったものではない。以下では、信号レベル算出部15cの他の処理例について説明しておく。
【0151】
BPFから信号レベル算出部15cへ入力される音響信号は、複数のチャネルを含んだ音響信号である。たとえば、音響信号には、左チャネル(Lch)および右チャネル(Rch)の2つのチャネルが含まれる。信号レベル算出部15cは、入力されたLchおよびRchの信号のうち、絶対値が大きい信号レベルを選択する。そして、信号レベル算出部15cは、選択された信号レベルに基づき、音響信号の信号レベルの代表値を算出し、算出した代表値を信号レベル比較部15dへ出力する。
【0152】
ここで、かかる代表値の算出処理の動作例について図13を用いて説明する。図13は、信号レベル算出処理の動作例を示す図である。同図には、信号レベル算出部15cへ入力されたLchおよびRchの音響信号のうち信号レベルの絶対値が高い音響信号を示している。
【0153】
なお、ここでは、LchおよびRchの信号のうち絶対値の最も大きい信号レベルを選択するが、これに限ったものではなく、複数チャネルの音響信号の情報から1つの値を導出できる方法であれば、これ以外の方法を用いてもよい。たとえば、両チャネルの信号レベルの平均値を算出することとしてもよい。
【0154】
図13に示すように、信号レベル算出部15cは、入力された音響信号のうち所定のサンプリング期間における音響信号を取り出す。そして、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の代表値を算出する。たとえば、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の信号レベルの平均値を代表値として算出する。なお、これに限ったものではなく、信号レベル算出部15cは、取り出した音響信号の信号レベルの最大値を代表値として算出することとしてもよい。
【0155】
ここで、図13に示したサンプリング期間の長さは、ユーザの設定変更操作によって変更することができる。メモリ18には、長さの異なる3つのサンプリング期間が、パラメータ「効果パターン」として記憶されているものとする。
【0156】
図12へ戻り、信号レベル比較部15dについて説明する。信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)と、メモリ150に記憶された閾値とを比較し、より高い方の値(以下、「比較値」と記載する)を利得決定部15eへ出力する処理部である。
【0157】
具体的には、信号レベル比較部15dは、比較の結果、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)よりも閾値が高い場合には、閾値の値を比較値として利得決定部15eへ出力する。一方、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)が閾値よりも高い場合には、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0158】
また、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)が閾値よりも高い場合、信号レベル比較部15dは、利得決定部15eへ出力した信号レベル(代表値)をあらたな閾値としてメモリ150へ記憶する。
【0159】
すなわち、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値を超えるまでの間、閾値の値を比較値として出力し続ける。そして、閾値を超える信号レベル(代表値)が入力された場合には、かかる信号レベル(代表値)をあらたな閾値としてメモリ150へ記憶し、この閾値を超える信号レベル(代表値)が入力されるまで、かかる閾値の値を比較値として出力し続ける。なお、メモリ150に記憶される閾値が、再生対象となる音響データに応じた変数となる。
【0160】
また、信号レベル比較部15dは、リセット判定部15gからリセット指示を受けた場合には、メモリ150に記憶された閾値を初期化する(たとえば、0にする)処理を行ったのち、信号レベル比較処理(比較値を出力する処理)を一時停止する。そして、信号レベル比較部15dは、リセット判定部15gから再開指示を受けた場合に、信号レベル比較処理を再開する。なお、かかる点については、後述する。
【0161】
利得決定部15eは、信号レベル比較部15dから入力された比較値およびあらかじめ決められた基準値に基づいて音響信号の利得を決定する処理部である。ここで、利得決定部15eによって行われる利得決定処理について図14を用いて説明する。図14は、利得決定処理の動作例を示す図である。なお、図14では、信号レベル比較部15dの動作例についても併せて説明する。
【0162】
図14に示すように、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値T1を超えるまでの間、閾値T1を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0163】
そして、利得決定部15eは、入力された閾値T1を基準値と一致させる利得G1を決定する。利得G1は、基準値を閾値T1で割ることによって算出してもよいし、比較値と利得との関係をあらかじめ規定したテーブルを用いて決定してもよい。
【0164】
一方、信号レベル比較部15dは、信号レベル算出部15cから入力された信号レベル(代表値)がメモリ150に記憶された閾値T1を超えた場合には、かかる信号レベル(代表値)をあらたな閾値T2としてメモリ150に記憶する。また、信号レベル比較部15dは、閾値T2を比較値として利得決定部15eへ出力する。
【0165】
この結果、利得決定部15eは、入力された閾値T2を基準値と一致させる利得G2をあらたに決定する。
【0166】
なお、ここでは、利得決定部15eが、比較値を基準値と一致させる係数を利得として決定する場合の例を示したが、ユーザは、比較値を基準値へ近付ける度合を設定変更操作によって変更することができる。メモリ150には、比較値を基準値へ近付ける度合を示す3つの係数が、パラメータ「効果レベル」として記憶されているものとする。
【0167】
図12へ戻り、リセット判定部15gについて説明する。リセット判定部15gは、自動音量調整処理のリセット処理を実行するか否かを判定する処理部である。また、リセット判定部15gは、リセット処理を実行すると判定した場合に、信号レベル比較部15dに対してリセット指示を出力したのち、再開指示を出力する処理を併せて行う。
【0168】
たとえば、リセット判定部15gは、マイコン14から入力された音響信号およびオーディオマイコン19からポート15h経由で入力された曲間通知信号に基づいてリセット処理を実行するか否かを判定する。また、リセット判定部15gは、オーディオマイコン19からポート15i経由で入力されたリセット指示および再開指示に従って、信号レベル比較部15dに対してリセット指示および再開指示を出力する。なお、ポート15iは、たとえばI2Cポートであり、ポート15hは、JXポートである。
【0169】
アンプ15fは、遅延処理部15aから出力された音響信号を、利得決定部15eから出力された利得に応じて増幅する処理部である。すなわち、アンプ15fは、遅延処理部15aから出力された音響信号の信号レベルを、利得決定部15eから出力された利得を用いて補正する。アンプ15fによって信号レベルが補正された音響信号は、DAC16へ出力される。
【0170】
ここで、DSP15によって実行されるリセット処理について図15を用いて説明する。図15は、リセット処理の動作例を示す図である。なお、図15の(A)には、リセット処理の実行タイミング(その1)を、図15の(B)には、リセット処理の実行タイミング(その2)を、それぞれ示している。
【0171】
図15の(A)に示すように、DSP15のリセット判定部15gは、まず、マイコン14から入力された音響信号の無音区間を検知する(図15の(A−1)参照)。無音区間とは、音響信号の信号レベルが一定レベル以下の状態が所定時間以上継続している区間を指す。図15の(A)に示した場合には、曲Aと曲Bとの間の無音区間が検知されている。
【0172】
なお、リセット判定部15gは、たとえばマイコン14から入力された音響信号の信号レベルを算出し、算出した信号レベルを用いて無音区間を検知することとしてもよいし、信号レベル算出部15cによって算出された信号レベル(代表値)を取得し、取得した信号レベル(代表値)を用いて無音区間を検知してもよい。
【0173】
また、リセット判定部15gは、無音区間を検知すると、ポート15hを開放する(図15の(A−2)参照)。そして、リセット判定部15gが、ポート15hの開放中に、オーディオマイコン19から曲間通知信号を受信すると(図15の(A−3)参照)、リセット処理を実行すると判定する。これにより、DSP15では、自動音量調整機能のリセット処理が開始される(図15の(A−4)参照)。
【0174】
具体的には、DSP15では、リセット判定部15gが、信号レベル比較部15dに対してリセット指示を出力し、かかるリセット指示を受けた信号レベル比較部15dが、メモリ150に記憶された閾値の初期化を行う(図15の(A−4a)参照)。このとき、信号レベル比較部15dは、信号レベル比較処理を一時停止させる。
【0175】
つづいて、DSP15では、リセット判定部15gが、信号レベル比較部15dに対して再開指示を出力し、かかる再開指示を受けた信号レベル比較部15dが、信号レベル比較処理を再開する。
【0176】
この結果、信号レベル比較部15dでは、あらたに再生対象となった音響データ(ここでは、曲B)に基づく音響信号の信号レベルの代表値と、閾値の初期値(たとえば、0)との比較が行われる(図15の(A−4b)参照)。かかる場合には、信号レベルの代表値が閾値の初期値よりも高いため、かかる代表値(すなわち、曲Bに基づく音響信号の信号レベルの代表値)があらたな閾値としてメモリ150に記憶されることとなる。
【0177】
つづいて、DSP15では、信号レベル比較部15dが、あらたにメモリ150に記憶された閾値(すなわち、曲Bに対応する閾値)を比較値として利得決定部15eへ出力し、利得決定部15eが、かかる比較値および基準値に基づいて曲Bに対応する利得を決定する(図15の(A−4c)参照)。
【0178】
そして、DSP15では、アンプ15fが、利得決定部15eによって決定された利得を用いて音響信号の信号レベルを補正する(図15の(A−4d)参照)。
【0179】
すなわち、信号レベルが閾値を超えない限り利得が変更されることがないため、利得の頻繁な変化に起因するユーザの音声への違和感を防止できる。一方で、信号レベルが閾値を超えた場合には利得を低下させることとしたため、音響信号の信号レベルの変動が大きい場合における音響信号の飽和を防止することができ、ユーザに対して快適な音声を提供することができる。そして、録音レベルの差に伴う音響信号の信号レベルの変化に対して、ユーザが手動で音量調整する手間を省くことができる。
【0180】
このように、DSP15は、音響データ間における無音区間を検知し、かつ、オーディオマイコン19から曲間通知信号を受信することで、音響コンテンツが切り替わったことを認識し、自動音量調整機能のリセット処理を行う。
【0181】
一方、図15の(B)に示すように、リセット判定部15gは、オーディオマイコン19からリセット指示および再開指示を受信した場合には(図15の(B−1)参照)、かかるリセット指示および再開指示に従い、信号レベル比較部15dに対してリセット指示および再開指示を行う。この結果、DSP15では、図15の(A−4)に示したリセット処理と同様のリセット処理が行われることとなる(図15の(B−2)参照)。
【0182】
すなわち、図15の(A)に示した実行タイミングでのみリセット処理を行うこととすると、たとえば早送り再生操作によって次の音響コンテンツへ切り替わった場合に、無音区間を検知することができず、リセット処理を実行すべきであるにもかかわらず、リセット処理が実行されない状況が発生してしまう。設定変更操作を受け付けた場合も同様である。
【0183】
このため、音響制御装置1では、オーディオマイコン19が、早送り再生操作によって音響コンテンツが切り替わった場合や設定変更操作がなされた場合を検知し、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することとした。これにより、DSP15は、自身では音響コンテンツの切り替わりを検知することができなくても、適切なタイミングで自動音量調整機能のリセット処理を行うことが可能となる。
【0184】
ところで、音響制御装置1では、自動音量調整機能に関する設定変更が可能である。以下では、かかる点について説明しておく。図16は、設定画面の一例を示す図である。図16に示すように、ユーザは、自動音量調整機能のON/OFFや、効果レベルの変更、効果パターンの変更といった設定変更を、タッチパネルディスプレイ4または操作SW5への入力操作によって行うことができる。
【0185】
「効果レベル」とは、利得決定部15eが信号レベル比較部15dから入力された比較値を基準値へ近付ける度合を示す。ここで、効果レベルの内容について図17を用いて説明しておく。図17は、効果レベルの内容の一例を示す図である。なお、図17の(A)には、利得の決定に用いる式を、図17の(B)には、効果レベルと利得との関係を、それぞれ示している。
【0186】
図17の(A)に示すように、利得決定部15eは、利得=(基準レベル/比較値)×αの式を用いて利得を決定する。すなわち、利得決定部15eは、信号レベル比較部15dから出力された比較値を基準レベルと一致させる係数に対して所定のパラメータ値「α」を乗じた値を利得として決定する。そして、かかるパラメータ値「α」は、ユーザによって設定された効果レベルに応じて決定される。
【0187】
たとえば、図17の(B)に示すように、設定中の効果レベルが「Hi」である場合、利得決定部15eは、α=1として利得G3を算出する。この結果、信号レベル比較部15dから出力された比較値を基準レベルと一致させる係数が利得として決定される。なお、図14に示した例は、効果レベルが「Hi」に設定されている場合の例である。
【0188】
また、設定中の効果レベルが「Mid」である場合、利得決定部15eは、α=0.8として利得G4を算出する。また、設定中の効果レベルが「Low」である場合には、α=0.5として利得G5を算出する。このように、効果レベルを変更することで、比較値を基準値へ近付ける度合を異ならせることができる。
【0189】
図16へ戻り、「効果パターン」とは、音響信号の変化に対する音量調整処理の追従速度を示す。ここで、効果パターンの内容について図18を用いて説明しておく。図18は、効果パターンの内容の一例を示す図である。
【0190】
図18に示すように、設定中の効果パターンが「1」である場合、信号レベル算出部15cは、最も長さの短いサンプリング期間S1を用いて信号レベルの代表値を算出する。また、信号レベル算出部15cは、設定中の効果パターンが「2」である場合には、サンプリング期間S1よりも長いサンプリング期間S2を用いて信号レベルの代表値を算出し、設定中の効果パターンが「3」である場合には、サンプリング期間S2よりもさらに長いサンプリング期間S3を用いて信号レベルの代表値を算出する。
【0191】
ここで、サンプリング期間の長さを長く設定するほど、音響信号の変化に対してゆっくりと(遅い速度で)追従した信号レベル(代表値)が出力されることとなる。また、サンプリング期間の長さを短く設定するほど、音響信号の変化に対して素早く(早い速度で)追従した信号レベル(代表値)が出力されることとなる。
【0192】
すなわち、サンプリング期間の長さを設定変更可能とすることで、音響信号の信号レベル変化に対する音量調整処理の感度を変更することが可能となる。たとえば、ユーザは、スピーカ3からの音量をできるだけ一定に保ちたい場合には、短い長さのサンプリング期間S1で信号レベルの代表値が算出されるように、効果パターン「1」を設定すればよい。これにより、音響信号の変化に対して音量調整処理を敏感に追従するようになり、音量変化をより一層抑えることができる。
【0193】
なお、DSP15は、効果レベルや効果パターンといったパラメータを記憶する記憶部(図示せず)を備えている。そして、利得決定部15eや信号レベル算出部15cは、かかる記憶部から必要とするパラメータを取り出して処理を行う。また、オーディオマイコン19は、効果レベルや効果パターン等の設定変更操作を受け付けた場合には、DSP15の上記記憶部に記憶されたパラメータを変更後のパラメータへ書き換える処理を行う。
【0194】
次に、オーディオマイコン19およびDSP15の具体的動作について説明する。まず、オーディオマイコン19の具体的動作について図19を用いて説明する。図19は、オーディオマイコン19が実行するリセット実行指示処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、この処理は再生動作中に繰り返し実行される。
【0195】
図19に示すように、オーディオマイコン19は、再生位置の変更操作(たとえば、早送り再生操作)の受け付け中に曲間通知信号を受信したか否かを判定する(ステップS101)。かかる処理において、再生位置の変更操作の受付中に曲間通知信号を受信したと判定すると(ステップS101,Yes)、オーディオマイコン19は、まず、DSP15から出力される音響信号の信号レベルを0にするミュート処理を開始する(ステップS102)。
【0196】
つづいて、オーディオマイコン19は、DSP15に対してリセット指示を出力したのち(ステップS103)、再開指示を出力したうえで(ステップS104)、ミュート処理を解除し(ステップS105)、本処理を終了する。
【0197】
一方、早送り再生操作の受付中に曲間通知信号を受信したと判定しないとき(ステップS101,No)、オーディオマイコン19は、設定変更操作を受け付けたか否かを判定する(ステップS106)。そして、設定変更操作を受け付けたと判定した場合(ステップS106,Yes)、オーディオマイコン19は、ミュート処理を開始したうえで(ステップS107)、DSP15に対してリセット指示を出力する(ステップS108)。
【0198】
また、オーディオマイコン19は、受け付けた設定変更操作に応じてDSP15の音量調整処理に関するパラメータ(効果レベルや効果パターン)を書き換えたのち(ステップS109)、再開指示を出力したうえで(ステップS110)、ミュート処理を解除する(ステップS111)。ステップS111の処理を終えた場合、あるいは、ステップS106において設定変更操作を受け付けていない場合(ステップS106,No)、オーディオマイコン19は、本処理を終える。尚、本処理は繰り返し実行されるので、その結果、DSP15は再びステップS101から処理を実行する。
【0199】
次に、DSP15の具体的動作について図20を用いて説明する。図20は、DSP15が実行するリセット処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、図20においては、オーディオマイコン19から受信したリセット指示および再開指示に従ってリセット処理を実行する場合の処理手順について示している。尚、図10に示したフローチャートによるこれらの処理は再生動作中に繰り返し実行される。
【0200】
図20に示すように、DSP15は、オーディオマイコン19からリセット指示を受信したか否かを判定する(ステップS201)。そして、DSP15は、オーディオマイコン19からリセット指示を受信したと判定すると(ステップS201,Yes)、メモリ150に記憶された閾値の初期化を行ったうえで(ステップS202)、音量調整処理を一時的に停止させ(ステップS203)、本処理を終了する。なお、DSP15は、たとえば信号レベル比較部15dによる信号レベル比較処理を停止することで、音量調整処理を一時的に停止させることができる。
【0201】
一方、オーディオマイコン19からリセット指示を受信していないとき(ステップS201,No)、DSP15は、オーディオマイコン19から再開指示を受信したか否かを判定する(ステップS204)。そして、DSP15は、オーディオマイコン19から再開指示を受信したと判定した場合には(ステップS204,Yes)、音量調整処理を再開させる(ステップS205)。これにより、あらたに再生対象となった音響データに対応する閾値が算出され、算出された閾値を用いて、あらたに再生対象となった音響データの信号レベルが補正されることとなる。
【0202】
ステップS205の処理を終えたとき、あるいは、ステップS204において再開指示を受信していないとき(ステップS204,No)、DSP15は、本処理を終える。尚、本処理は繰り返し実行されるので、その結果、DSP15は再びステップS201から処理を実行する。
【0203】
上述してきたように、本実施例では、DSP15が、再生対象となる音響データに応じた閾値を用いて音響データの信号レベルを調整する。また、本実施例では、DSP15が、音響データ間における無音区間を検知した場合に、閾値を初期化することで、音量調整処理に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた変数を算出させるリセット処理を実行する。さらに、本実施例では、オーディオマイコン19が、音響データの早送り再生操作を受け付けた場合に、DSP15に対してリセット処理の実行を指示することとした。したがって、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行うことができる。
【0204】
尚、本実施例では、早送り再生に関するリセット処理の例を主に説明したが、巻き戻し再生や、ユーザが再生位置を指定する操作等、音響コンテンツの切り替えが適切に行い難い操作に関してリセット処理を行うようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0205】
以上、本発明に係る音響制御装置の実施例のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0206】
以上のように、本発明に係る音響制御装置は、音響コンテンツ間の音量調整を適切に行いたい場合に有効であり、特に、車載用の音響制御装置への適用が考えられる。
【符号の説明】
【0207】
1 音響制御装置
14 マイコン
15 DSP
15a 遅延処理部
15b BPF
15c 信号レベル算出部
15d 信号レベル比較部
15e 利得決定部
15g リセット判定部
19 オーディオマイコン
19c リセット実行指示部
2 USB
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する音量調整手段と、
前記音響データの切り替わりを検知した場合に、前記調整を初期化することで前記音量調整手段に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行するリセット手段と、
前記音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示する実行指示手段と
を備えることを特徴とする音響制御装置。
【請求項2】
前記実行指示手段は、
前記再生位置の変更指示によって再生対象となる音響コンテンツが切り替わった場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示することを特徴とする請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項3】
前記実行指示手段は、
前記音量調整処理に関する設定変更操作を受け付けた場合に、前記リセット処理の実行を前記リセット手段に対して指示する処理および受け付けた設定変更操作に応じて前記音量調整手段のパラメータを変更する処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の音響制御装置。
【請求項4】
前記音量調整手段は、
前記リセット処理が実行された場合に、前記音響データの信号レベルの代表値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された代表値および前記信号レベルの基準値に基づいて利得を決定する利得決定手段と、
前記利得決定手段によって決定された利得を用いて前記音響データの信号レベルを補正する補正手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1、2または3に記載の音響制御装置。
【請求項5】
前記リセット手段は、
音響データ間における無音区間を検知し、かつ、再生対象となる音響コンテンツが切り替わったことを示す切替通知信号を受信した場合に、前記リセット処理を実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の音響制御装置。
【請求項1】
音響コンテンツにおける音響データの信号レベルに応じて再生音量を調整する音量調整処理を実行する音量調整手段と、
前記音響データの切り替わりを検知した場合に、前記調整を初期化することで前記音量調整手段に対してあらたに再生対象となった音響データに応じた調整を行うリセット処理を実行するリセット手段と、
前記音響データの再生位置の変更指示を受け付けた場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示する実行指示手段と
を備えることを特徴とする音響制御装置。
【請求項2】
前記実行指示手段は、
前記再生位置の変更指示によって再生対象となる音響コンテンツが切り替わった場合に、前記リセット手段に対して前記リセット処理の実行を指示することを特徴とする請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項3】
前記実行指示手段は、
前記音量調整処理に関する設定変更操作を受け付けた場合に、前記リセット処理の実行を前記リセット手段に対して指示する処理および受け付けた設定変更操作に応じて前記音量調整手段のパラメータを変更する処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の音響制御装置。
【請求項4】
前記音量調整手段は、
前記リセット処理が実行された場合に、前記音響データの信号レベルの代表値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された代表値および前記信号レベルの基準値に基づいて利得を決定する利得決定手段と、
前記利得決定手段によって決定された利得を用いて前記音響データの信号レベルを補正する補正手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1、2または3に記載の音響制御装置。
【請求項5】
前記リセット手段は、
音響データ間における無音区間を検知し、かつ、再生対象となる音響コンテンツが切り替わったことを示す切替通知信号を受信した場合に、前記リセット処理を実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の音響制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−244192(P2012−244192A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108742(P2011−108742)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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