説明

音響効果回路及び音響効果実現方法

【課題】自然に近い音響効果を得る音響効果回路を実現する。
【解決手段】各L信号及びR信号の高周波成分を減衰させるローパスフィルタ11,12と、各ローパスフィルタ11,12の出力信号の和信号及び差信号を生成する加算回路14及び減算回路17とを備えている。和信号は、遅延回路19で遅延され、差信号は遅延回路20で遅延される。合成部30は、L信号と和信号と遅延された和信号と遅延された差信号とを合成して出力する。また、合成部30は、R信号と差信号と遅延された和信号と遅延された差信号とを合成して出力する。遅延回路19,20での遅延量は、両耳に届く音の時間差に対応するので、自然に近く、かつ広がりを感じさせる音響効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音で臨場感を与える信号を出力する音響効果回路及び音響効果実現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオ音声信号等で音響効果を高める技術には、例えば特許文献1に示されたものがある。
【特許文献1】特許第2797347号公報
【0003】
特許文献1では、左信号と右信号との和信号、或は左信号と右信号の差信号を求め、様々な反射音成分(エコー成分)を擬似的に生成するためにメモリを用い、和信号或は差信号に10ms〜数100msに及ぶ異なる複数の遅延を掛けている。そして、左信号に遅延された信号を加算するとともに、右信号に遅延された信号を加算している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、反射音成分を作成するので、再生したときに臨場感が得られる。しかしながら、反射音成分は、多数の反射があるものとして、その量も含めて仮想的に作成したものであり、その作成した反射音成分を含む音響信号を再生したときには、不自然な感じがどうしても残る。
また、逐次生成される和信号或は差信号に対して、10ms〜数100msに及ぶ遅延を与えるためには、メモリに和信号或は差信号の多数のデータを書込む必要があり、大きな容量のメモリが必要であった。例えば、10msの遅延を48KHzでサンプリングしてメモリに書込む場合を想定すると、480ワードのデータをメモリに書込む必要があった。
【0005】
本発明は、回路面積を大幅に削減でき、自然な音響効果が得られる音響効果回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る音響効果回路は、
音を示す左信号に対して高周波成分を減衰させる第1のフィルタと、
音を示す右信号に対して高周波成分を減衰させる第2のフィルタと、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との和の和信号を生成する和信号生成手段と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との差の差信号を生成する差信号生成手段と、
前記和信号を0.65ms以下の時間分遅延させる和信号遅延手段と、
前記差信号を0.65ms以下の時間分遅延させる差信号遅延手段と、
前記左信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号とを合成して第1の出力信号を生成する第1の合成手段と、
前記右信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号とを合成して第2の出力信号を生成する第2の合成手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
なお、前記和信号遅延手段は、逐次与えられる前記和信号の前記0.65ms以下の時間分の値を記憶するメモリで構成され、
前記差信号遅延手段は、逐次与えられる前記差信号の前記0.65ms以下の時間分の値を記憶するメモリで構成されていてもよい。
【0008】
また、前記第1の合成手段は、前記左信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号と前記和信号生成手段で生成された和信号と前記差信号生成手段で生成された差信号とを合成して前記第1の出力信号を生成し、
前記第2の合成手段は、前記右信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号と前記和信号生成手段で生成された和信号と前記差信号生成手段で生成された差信号とを合成して前記第2の出力信号を生成してもよい。
【0009】
また、前記第1のフィルタは、遮断周波数が6±3KHzのローパスフィルタであり、
前記第2のフィルタは、遮断周波数が6±3KHzのローパスフィルタであってもよい。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る音響効果実現方法は、
音を示す左信号に対して第1のフィルタを用いて高周波成分を減衰させる第1のフィルタ処理と、
音を示す右信号に対して第2のフィルタを用いて高周波成分を減衰させる第2のフィルタ処理と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との和の和信号を生成する和信号生成処理と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との差の差信号を生成する差信号生成処理と、
前記和信号を0.65ms以下で遅延させる和信号遅延処理と、
前記差信号を0.65ms以下で遅延させる差信号遅延処理と、
前記左信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号とを合成して第1の出力信号を生成する第1の合成処理と、
前記右信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号とを合成して第2の出力信号を生成する第2の合成処理と、
を行うことを特徴とする。
【0011】
なお、前記第1の合成処理では、前記左信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号と前記和信号生成処理で生成された和信号と前記差信号生成処理で生成された差信号とを合成して前記第1の出力信号を生成し、
前記第2の合成手段では、前記右信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号と前記和信号生成処理で生成された和信号と前記差信号生成処理で生成された差信号とを合成して前記第2の出力信号を生成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自然な音響効果が得られる音響効果回路を実現できる。さらに、和信号遅延手段及び差信号遅延手段をメモリで構成した場合には、そのメモリの容量も小さくてよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る音響効果回路を示す図である。
図2は、両耳に入る音の経路を説明する説明図である。
図3は、両耳に入る音の強度差を示す図である。
【0014】
この音響効果回路は、ステレオ信号であって音を示す左信号(以下、L信号という)及び右信号(以下、R信号という)を入力し、音響効果を付けて出力する回路である。
【0015】
L信号が入力される入力端子IN1には、第1のフィルタであるローパスフィルタ11が接続され、R信号が入力される入力端子IN2には、第2のフィルタであるローパスフィルタ12が接続されている。これらローパスフィルタ11,12は、L信号及びR信号の高周波成分を減衰させるものであり、その遮断周波数は、6±3KHzであることが望ましい。
【0016】
人の両耳に入る音の経路は、図2のように、前方の音源Tから直接両耳に入る音S1ばかりでなく、回折して頭部の後方を回って各耳に入る音S2もある。音S2は低周波の場合に大きく、高周波の場合には頭部での反射により、頭部の影ができて値は小さくなる。
【0017】
両耳に入る音の強度差は、低周波の例えば200Hzでは、図3(d)のように、音の入射角による差はほとんど見られない、両耳に入る音の強度差は、図3(a)〜(c)に示すように、音の周波数が高くなるほど、回折して頭部を回り込む音S2が減じられるので、音の入射角による差が広がる。そして、6KHz以上になると無視できなくなる。そのため、ローパスフィルタ11,12の遮断周波数を6±3KHzとすることが望ましい。
【0018】
ローパスフィルタ11の出力端子は、増幅器13を介して加算回路14の一方の入力端子に接続され、ローパスフィルタ12の出力端子は、増幅器15を介して加算回路14の他の入力端子に接続されている。加算回路14は、ローパスフィルタ11の出力する信号とローパスフィルタ12の出力信号との和である和信号を生成する和信号生成手段である。
【0019】
ローパスフィルタ11の出力端子は、さらに、増幅器16を介して減算回路17の一方の入力端子に接続され、ローパスフィルタ12の出力端子は、増幅器18を介して減算回路17の他の入力端子に接続されている。減算回路17は、ローパスフィルタ11の出力する信号とローパスフィルタ12の出力信号との差である差信号を生成する差信号生成手段である。
この音響効果回路は、さらに、遅延回路19,20と合成部30とを備えている。
【0020】
加算回路14の出力端子は、和信号遅延手段である遅延回路19に接続され、減算回路17の出力端子は、差信号遅延手段である遅延回路20に接続されている。
遅延回路19はメモリ等で構成され、例えば48KHzで和信号をサンプリングし、例えば所定時間分のデータを記憶する。遅延回路20はメモリ等で構成され、例えば48KHzで差信号をサンプリングし、所定時間分のデータを記憶する。
ここで、音の入射角と両耳に入る音の時間差との関係を説明する。
【0021】
図4(a),(b)は、音の入射角と両耳に入る音の時間差との関係を説明するための説明図である。
両耳に入る音は、音源Tの位置が正面或は真後ろにない場合、時間差が生じる。即ち、図4(a)のように、音の到達距離に差が生じるので、音の入射角に応じて両耳に入る音に時間差が生じる。入射角とその時間差の関係は、図4(b)のようになり、入射角が90°のときに、両耳に入る音の時間差が最大で0.65msである。
【0022】
遅延回路19,20は、この両耳に入る時間差を音響効果に取り込むために設けたものであり、遅延回路19,20のメモリ容量は、最大で0.65ms分のデータを記憶できればよく、この場合0.65msの遅延量が得られる。48Khzでデータをサンプリングする場合、32ワード分を記憶できればよい。
合成部30は、増幅器31,32,33,34,35,36,37,38を備えている。
【0023】
入力端子IN1が増幅器31の入力端子に接続されている。加算回路14の出力端子が増幅器32の入力端子に接続され、遅延回路19の出力端子が増幅器33の入力端子に接続されている。遅延回路20の出力端子が増幅器34の入力端子に接続され、減算回路17の出力端子が増幅器35の入力端子に接続されている。入力端子IN2が、増幅器36の入力端子に接続されている。
【0024】
増幅器31の出力端子は、合成回路41に接続されている。
増幅器36の出力端子は、合成回路42に接続されている。
増幅器32,33の出力端子は、加算回路39に接続され、加算回路39の出力端子が増幅器37を介して合成回路41及び合成回路42に接続されている。 増幅器34,35の出力端子が、加算回路40に接続され、加算回路40の出力端子が、増幅器38を介して合成回路41及び合成回路42に接続されている。
【0025】
合成回路41の出力端子が、音響効果回路の出力端子OUT1に接続され、合成回路42の出力端子が、音響効果回路の出力端子OUT2に接続されている。
【0026】
このような構成の音響効果回路では、逐次入力されるL信号に対し、ローパスフィルタ11が高周波成分を減衰させる。逐次入力されるR信号に対して、ローパスフィルタ12は、高周波成分を減衰させる。
【0027】
加算回路14は、高周波成分が減衰した状態のL信号とR信号の和の和信号を生成し、減算回路17は、高周波成分が減衰した状態のL信号とR信号の差の差信号を生成する。
【0028】
遅延回路19は、和信号を遅延する。遅延回路20は、差信号を遅延する。
合成部30の加算回路39は、和信号と遅延回路19で遅延された和信号とを加算する。加算回路40は、差信号と遅延回路20で遅延された差信号とを加算する。
【0029】
合成回路41は、入力端子IN1に入力されているL信号を増幅器31で増幅した信号と、加算回路39から増幅器37を介して与えられた信号と、加算回路40から増幅器38を介して与えられた信号とを加算する。これにより、L信号と和信号と遅延された和信号と遅延された差信号とが合成されたことになる。
【0030】
合成回路42は、入力端子IN2に入力されているR信号を増幅器36で増幅した信号と、加算回路39から増幅器37を介して与えられた信号と、加算回路40から増幅器38を介して与えられた信号とを加算する。これにより、R信号と差信号と遅延された和信号と遅延された差信号とが合成されたことになる。
【0031】
各合成回路41,42の出力信号が、出力端子OUT1,OUT2からそれぞれ出力され、外部のスピーカ等に与えられて再生される。
【0032】
以上の構成の本実施形態の音響効果回路は、従来のように反射音を模擬して音響効果を出すものではなく、両耳に届く音の時間差を、遅延回路19,20で設定し、合成回路41,42の出力信号に反映させている。また、回折によって頭部を回り込む音に、高周波成分はほとんど含まれないので、ローパスフィルタ11,12で高周波成分を減衰させている。これらにより、本実施形態の音響効果回路は、自然現象に基づいた臨場感を出すことができ、不自然さを感じさせない、自然で広がりのある音響効果が得られる。
【0033】
また、両耳に届く音の時間差を遅延回路19,20で設定するため、遅延回路19,20を構成するメモリの容量が従来よりもはるかに小さくてよい。よって、回路面積も小さくすむ。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る音響効果回路を示す構成図である。
【図2】両耳に入る音の経路を説明する説明図である。
【図3】両耳に入る音の強度差を示す図である。
【図4】音の入射角と両耳に入る音の時間差との関係を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0035】
11,12 ローパスフィルタ
14 加算回路
17 減算回路
19,20 遅延回路
30 合成部
39 加算回路
40 加算回路
41 合成回路
42 合成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音を示す左信号に対して高周波成分を減衰させる第1のフィルタと、
音を示す右信号に対して高周波成分を減衰させる第2のフィルタと、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との和の和信号を生成する和信号生成手段と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との差の差信号を生成する差信号生成手段と、
前記和信号を0.65ms以下の時間分遅延させる和信号遅延手段と、
前記差信号を0.65ms以下の時間分遅延させる差信号遅延手段と、
前記左信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号とを合成して第1の出力信号を生成する第1の合成手段と、
前記右信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号とを合成して第2の出力信号を生成する第2の合成手段と、
を備えることを特徴とする音響効果回路。
【請求項2】
前記和信号遅延手段は、逐次与えられる前記和信号の前記0.65ms以下の時間分の値を記憶するメモリで構成され、
前記差信号遅延手段は、逐次与えられる前記差信号の前記0.65ms以下の時間分の値を記憶するメモリで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の音響効果回路。
【請求項3】
前記第1の合成手段は、前記左信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号と前記和信号生成手段で生成された和信号と前記差信号生成手段で生成された差信号とを合成して前記第1の出力信号を生成し、
前記第2の合成手段は、前記右信号と前記和信号遅延手段で遅延された和信号と前記差信号遅延手段で遅延された差信号と前記和信号生成手段で生成された和信号と前記差信号生成手段で生成された差信号とを合成して前記第2の出力信号を生成する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の音響効果回路。
【請求項4】
前記第1のフィルタは、遮断周波数が6±3KHzのローパスフィルタであり、
前記第2のフィルタは、遮断周波数が6±3KHzのローパスフィルタである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の音響効果回路。
【請求項5】
音を示す左信号に対して第1のフィルタを用いて高周波成分を減衰させる第1のフィルタ処理と、
音を示す右信号に対して第2のフィルタを用いて高周波成分を減衰させる第2のフィルタ処理と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との和の和信号を生成する和信号生成処理と、
前記第1のフィルタの出力信号と前記第2のフィルタの出力信号との差の差信号を生成する差信号生成処理と、
前記和信号を0.65ms以下で遅延させる和信号遅延処理と、
前記差信号を0.65ms以下で遅延させる差信号遅延処理と、
前記左信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号とを合成して第1の出力信号を生成する第1の合成処理と、
前記右信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号とを合成して第2の出力信号を生成する第2の合成処理と、
を行うことを特徴とする音響効果実現方法。
【請求項6】
前記第1の合成処理では、前記左信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号と前記和信号生成処理で生成された和信号と前記差信号生成処理で生成された差信号とを合成して前記第1の出力信号を生成し、
前記第2の合成手段では、前記右信号と前記和信号遅延処理で遅延された和信号と前記差信号遅延処理で遅延された差信号と前記和信号生成処理で生成された和信号と前記差信号生成処理で生成された差信号とを合成して前記第2の出力信号を生成する、
ことを特徴とする請求項5に記載の音響効果実現方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−233169(P2008−233169A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68424(P2007−68424)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(390009667)セイコーNPC株式会社 (161)
【Fターム(参考)】