音響拡散体
【課題】比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域で散乱効果が得られる音響拡散体を提供する。
【解決手段】音響拡散体10は板状部材12の前面に区画壁14が井桁状に突出形成されて複数の空間16が形成されている。各空間16は背部が板状部材12で閉じられ前部が開口部16aを形成している。各開口部16aは膜状吸音材18でそれぞれ塞がれている。隣接する空間16,16相互間で膜状吸音材18の面の配置高さが異なり、これにより膜状吸音材18の背後空気層の層厚が異なっている。
【解決手段】音響拡散体10は板状部材12の前面に区画壁14が井桁状に突出形成されて複数の空間16が形成されている。各空間16は背部が板状部材12で閉じられ前部が開口部16aを形成している。各開口部16aは膜状吸音材18でそれぞれ塞がれている。隣接する空間16,16相互間で膜状吸音材18の面の配置高さが異なり、これにより膜状吸音材18の背後空気層の層厚が異なっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は音波を散乱(拡散)させる音響拡散体に関し、比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
音響拡散体はホールやリスニングルーム等の壁面や天井等に設置されて室内の音波を散乱させるもので、室内の響きを調整するのに用いられる。従来の音響拡散体として下記特許文献1,2および非特許文献1,2に記載されたものがあった。特許文献1に記載の音響拡散体は断面三角形状、断面半円状、断面円弧状等に形成された部材を壁面や天井に設置したものである。特許文献2に記載の音響拡散体はそれぞれ表面が凸に湾曲した2枚の音響パネルを隣り合わせに配置し、両音響パネルの相互の角度を可変にしたものである。非特許文献1に記載の音響拡散体は円柱状面、鋸歯状面、球状面等を有する部材を壁面に設置したものである。非特許文献2に記載の音響拡散体はいわゆる「シュレーダー拡散体」と呼ばれているもので、剛な材料で仕切った様々な深さの溝を壁面や天井に沿って多数配列したものである。
【0003】
【特許文献1】特許第3580718号公報
【特許文献2】特開2006−300995号公報
【非特許文献1】「建築音響工学ハンドブック」、技報堂、1968年、p196
【非特許文献2】「室内音響学」、市ヶ谷出版社、クットルフ ハインリッヒ著、2003年、pp54−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および非特許文献1に記載の凸形状の音響拡散体は散乱対象の波長に応じて全体の寸法を大きくする必要があり、低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であった。特許文献2に記載の音響拡散体の可動式音響パネルも同様に低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であった。非特許文献2に記載のシュレーダー拡散体も低音域を散乱させるには溝の深さを深くする必要があるため十分な厚さが必要であった。このように従来の音響拡散体は低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であり家庭の音響室等比較的狭い室には不向きであった。
【0005】
この発明は前記従来の技術における問題点を解決して、比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱できるようにした音響拡散体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の音響拡散体は平面状に配列され区画壁で相互に仕切られた複数の空間を有し、前記各空間は背部が後壁で閉じられ前部が開口部を形成し、前記各開口部は膜状吸音材でそれぞれ塞がれ、少なくとも一方向について、隣接する前記空間相互間で前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さ並びに該膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせてなるものである。
【0007】
膜状吸音材の吸音率特性は周知のように共振周波数(固有振動数)で比較的鋭いピークを持ち、最大吸音率も大きい。ピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなる。このピークとなる共振周波数は、膜状吸音材の背後空気層の層厚や該膜状吸音材のシート厚を変えることで比較的簡単にコントロールでき、所望の吸音ピーク周波数(共振周波数)を持つ膜状吸音材を設計することができる。200Hz程度の低音域に吸音ピーク周波数を持つ膜状吸音材も薄型に構成できる。
【0008】
この発明の音響拡散体によれば隣接する空間相互間で膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせたので両膜状吸音材で吸音ピーク周波数にずれが生じる。この吸音ピーク周波数のずれにより音響インピーダンスの不連続面が形成される。この音響インピーダンスが不連続な部分に音波が入射されると回折波が発生し、該回折波が相互に影響し合って鏡面反射以外の方向に音響エネルギーが散乱される。このようにして両吸音ピーク周波数付近で散乱効果が得られる。特に膜状吸音材の吸音率特性は前述のように共振周波数で比較的鋭いピークを持ちピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなるので音響インピーダンスの不連続が実現されやすく十分な散乱効果が得やすいという特徴がある(比較として板状吸音材ではピークがブロードで低いので散乱効果が得にくい)。そして前述のように200Hz程度の低音域に吸音ピーク周波数を持つ膜状吸音材は薄型に構成できるので、この発明の音響拡散体によれば比較的薄型の構成で低音域の音波を散乱できる。
【0009】
またこの発明によれば隣接する空間相互間で後壁からの膜状吸音材の配置高さを異ならせたので、膜状吸音材の配列による表面形状に凹凸が生じる。この表面形状の凹凸により前記音響インピーダンスの不連続によるよりも高音域で音波が散乱される。したがってこの発明によれば比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱することができる。
【0010】
この発明の音響拡散体は前記隣接する空間の両膜状吸音材の垂直入射吸音率特性を、例えば一次共振周波数が低い方の膜状吸音材の吸音率が該一次共振周波数における吸音率の10〜20%に減少する該一次共振周波数よりも高い側の周波数で、該一次共振周波数が低い側の膜状吸音材の吸音材の吸音率と、一次共振周波数が高い方の膜状吸音材の該一次共振周波数よりも低い周波数側の吸音率とが一致するように設定することができる。これによれば両一次共振周波数間でインピーダンスの不連続による散乱効果を得ることができる。
【0011】
この発明において前記後壁は例えば前記区画壁の背部に固定された板状部材で構成することができる。この場合前記板状部材と前記区画壁は同一材料の一体成型品または別部品の組立品で構成することができる。また前記後壁は該音響拡散体が取り付けられる室の壁面で構成することもできる。
【0012】
この発明の音響拡散体は前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さが該膜状吸音材の配列の中央部に位置するものほど高く周縁部に行くほど低くなるように設定され、前記膜状吸音材の配列による表面形状が概ね山形をなすものとすることができる。これによれば概ね山形の表面形状により比較的高音域を散乱させることができる。
【0013】
この発明の音響拡散体は例えば前記区画壁が、縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成され、もって前記空間が同一寸法の矩形状に形成されたものとすることができる。
【0014】
この発明の音響拡散体は隣接する前記空間相互間で前記膜状吸音材のシート厚を異ならせることができる。これによれば膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いと該膜状吸音材のシート厚の違いが合わさって隣接する膜状吸音材間で音響インピーダンスの不連続面を形成し、音波を散乱することができる。
【0015】
またこの発明の音響拡散体は前記各空間の内周面周縁部に、隣接する該空間相互間での該空間奥行き方向の配置位置を様々に設定した段部が前記区画壁と一体にまたは別体に形成され、前記各膜状吸音材は該各空間内に収容されて周縁部が該段部上に支持され、その上から該空間ごとに環状(一部が切り欠かれた環状を含む)の抑え部材を嵌め込んで、前記段部と該抑え部材で該膜状吸音材の周縁部を挟み込んで該膜状吸音材を固定したものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《実施の形態1》
この発明の実施の形態を以下説明する。図1はこの発明による音響拡散体の実施の形態を示す。(a)は正面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図である。この音響拡散体10は所定板厚の1枚の平板状の板状部材12の前面に区画壁14(剛壁)を突出形成したパネル体15を具えている。板状部材12と区画壁14はアルミ等の金属あるいはプラスチックによる一体成型品で作られている。あるいは板状部材12と区画壁14を別体で構成した後、接着剤あるいはねじ等の接合材で接合してパネル体15を構成することもできる。区画壁14は縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成されている。これにより板状部材12の前面側には区画壁14で仕切られた同一形状および同一寸法の矩形状の複数(この例では16個)の空間16が平面状に配置形成されている。各空間16は背部が板状部材12による後壁(剛壁)で閉じられ前部が開口部16aを形成している。開口部16aは膜状(シート状)吸音材18でそれぞれ塞がれている。各空間16の膜状吸音材18は例えば同一材料および同一シート厚の有機シート(塩ビフィルム、カンバス、ゴムシート等)で構成され、例えばプレス等による成型加工(型抜き)で所定形状に形成されている。後壁表面12a(板状部材12の表面)からの膜状吸音材18の配置高さh(=背後空気層の層厚)は各方向に隣接する空間16相互間で異なっている。パネル体15の表面には必要に応じてサランネット等の音響透過性クロス20が装飾用に被せられる。パネル体15の板状部材12の四隅にはこの音響拡散体10を室の壁面等に固定するねじを差し込む穴22が形成されている。
【0017】
図1の音響拡散体10の寸法は例えば縦、横がそれぞれ40〜80cm、厚さが1〜5cm程度の薄型に設計することができる。区画壁14の板厚は隣接する膜状吸音材18,18相互間で音響インピーダンスの不連続による散乱効果が効率よく生じるように薄くするのが望ましい。したがって図1のように膜状吸音材18を縦、横に4個ずつ配列する場合は、音響拡散体10全体の縦(または横)の寸法が40cmであるとすると、各膜状吸音材18の縦(または横)の寸法は10cm弱となり、音響拡散体10の縦(または横)の寸法が80cmであるとすると、各膜状吸音材18の縦(または横)の寸法は20cm弱となる。また音響拡散体10全体の厚さが1cmの場合は後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhはh<(1cm−板状部材12の板厚)となり、また音響拡散体10全体の厚さが5cmの場合は後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhはh<(5cm−板状部材12の板厚)となる。膜状吸音材18のシート厚は例えば0.5〜2mm程度に設定することができる。
【0018】
図2は各空間16における膜状吸音材18の設置構造の一例を示す。(a)は平面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。各空間16の内周面周縁部(区画壁14の側面)には段部24がそれぞれ形成されている。後壁表面12aからの段部24の高さhは隣接する空間16,16相互間で異なっている。膜状吸音材18はその周縁部が段部24の上に支持される。その上から環状の抑え部材26(周方向の一部が切り欠かれていてもよい)を空間16内に嵌め込んで装着する。これにより膜状吸音材18は段部24と抑え部材26との間に挟み込まれて空間16内に後壁表面12aから浮いた状態に固定保持される。
【0019】
以上の構成の音響拡散体10の動作を説明する。図3は音響拡散体10の1つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す。F1は一次共振周波数、F2は二次共振周波数である。膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性は共振周波数で比較的鋭いピークを持ち、最大吸音率も大きい(特に一次共振周波数で大きい)。ピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなる。このピークとなる共振周波数は、膜状吸音材18の背後空気層の層厚や膜状吸音材18のシート厚を変えることで比較的簡単にコントロールできる。すなわち膜状吸音材18の背後空気層の層厚を厚くしあるいは膜状吸音材18のシート厚を厚くすることにより共振周波数は低くなり、膜状吸音材18の背後空気層の層厚を薄くしあるいは膜状吸音材18のシート厚を薄くすることにより共振周波数は高くなる。
【0020】
この実施の形態では隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚を異ならせることにより、該隣接する膜状吸音材18,18相互間で共振周波数を相互にずらし個別のピークが生じるようにしている。図4は音響拡散体10の隣接する3つの膜状吸音材18−1,18−2,18−3の垂直入射吸音率特性A,B,Cの一例を示す。F1−1,F1−2,F1−3は各膜状吸音材18−1,18−2,18−3の一次共振周波数、F2−1,F2−2,F2−3は同二次共振周波数を示す。一次共振周波数F1−1,F1−2,F1−3はF1−1<F1−2<F1−3である。周波数帯域F1−1〜F1−3を音響インピーダンスの不連続による散乱効果を期待する帯域として設定するものとすると、各膜状吸音材18の縦、横寸法を散乱効果を期待する最低周波数F1−1に相当する波長よりも十分に短く設定し、かつ特性Aの吸音率が一次共振周波数F1−1における吸音率α1の10〜20%程度に減少する周波数で特性Bとクロスし、特性Bの吸音率が一次共振周波数F1−2における吸音率α2の10〜20%程度に減少する周波数で特性Cとクロスするように背後空気層の層厚により各膜状吸音材18−1,18−2,18−3の吸音率特性を設定する(他に隣接する膜状吸音材18どうしも順次このように吸音率特性をずらして設定する)。これにより隣接する膜状吸音材18−1,18−2,18−3相互間で音響インピーダンスが不連続となり、周波数帯域F1−1〜F1−3で音響インピーダンスの不連続による散乱効果が得られる。具体的には周波数帯域F1−1〜F1−3を音響インピーダンスの不連続による散乱効果を期待する帯域とし、該帯域を200〜400Hzとすると、例えばF1−1=200Hz、F1−2=300Hz、F1−3=400Hzに設定することができる。なお一次共振周波数F1−1,F1−2,F1−3による音響インピーダンスの不連続による散乱効果よりは小さいが、二次共振周波数による周波数帯域F2−1〜F2−3でも音響インピーダンスの不連続による散乱効果が得られている。
【0021】
また膜状吸音材18は隣接するものどうしで面の高さが異なるので、音響拡散体10全体として表面形状に凹凸が生じる。この表面形状の凹凸により音響インピーダンスの不連続によるよりも高音域(例えば500Hz以上)で音波の散乱効果が得られる。以上により比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域で散乱効果が得られる。また前述のように各膜状吸音材18の縦、横寸法は散乱効果を期待する最低周波数に相当する波長よりも十分に短く設定できるので、各膜状吸音材18は小面積のもので済み、音響拡散体10全体の面積を小さくすることができる。
【0022】
室(一般家庭のオーディオルーム等の部屋、事務所の部屋等)における音響拡散体10の設置例を図5〜図7に示す。図5は室28の壁面30に音響拡散体10をねじ32で固定したものである。図6は室28の天井34から音響拡散体10をワイヤ36で吊り下げたものである。図7は音響拡散体10をキャスタ付き脚38に装着して室28に配置したものである。
【0023】
音響拡散体10による音響特性改善効果について説明する。いま図8に示すように室40にスピーカ42,44を後方の壁面46から距離r離してそれぞれ配置する。一方のスピーカ42の近傍には音響拡散体を配置しない。他方のスピーカ44の近傍には後方の壁面46と側方の壁面48にこの発明による音響拡散体10をそれぞれ配置する。スピーカ42から音を発したとき(スピーカ44は無音)の室40で測定した周波数特性を図9(a)に示す。スピーカ42から発した直接音と後方の壁面46で反射された反射音とが干渉して、
r/λ=(2n+1)/4 (λ:音の波長、n=0,1,2,・・・)
となる周波数で干渉によるディップが発生している。次にスピーカ44から音を発したとき(スピーカ42は無音)の周波数特性を図9(b)に示す。スピーカ44から発せられて壁面46,48で反射される音の一部は音響拡散体10で散乱および吸音されるので、直接音との干渉が少なくなり、ディップが緩和されている。したがって音質が改善される。
【0024】
《実施の形態2》
この発明による音響拡散体の他の実施の形態を図10に示す。これは音響拡散体全体として概ね山形をなすように膜状吸音材を配置したものである。(a)は正面図、(b)は(a)のC−C並びにD−D矢視断面図、(c)は音響拡散体全体の等価表面形状である。この音響拡散体50は実施の形態1(図1)の音響拡散体10と比べて、膜状吸音材の配置枚数および膜状吸音材の配列による音響拡散体全体としての表面形状が相違するのみで、他の構成は同じである。図1の音響拡散体10と共通する部分には同一の符号を用いる。この音響拡散体50は縦、横両方向に5枚ずつ、合計25枚の膜状吸音材18が配列されている。後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhは、縦方向および横方向とも中央に配置されるものが最も高く、周縁部に行くに従って順次低くなっている。これにより音響拡散体50全体としての表面形状は(c)の等価表面形状に示すように中央部が頂点をなす概ね山形(この例では四角錐)に形成されている。
【0025】
以上の構成によれば、中央の膜状吸音材18を中心とした放射方向について隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚が異なる(周方向については隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚は同じ)ことによる音響インピーダンスの不連続による相対的に低音域の散乱効果が得られ、これと同時に山形の表面形状による相対的に高音域の散乱効果が得られる。この山形の表面形状により散乱する音波の周波数は山形の底辺の一辺が40cmの場合は約540Hz以上、同80cmの場合は約270Hz以上となる。以上により比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域で散乱効果が得られる。
【0026】
《実施の形態3》
この発明による音響拡散体のさらに別の実施の形態を図11に示す。(a)は正面図、(b)は(a)のE−E矢視断面図である。これは膜状吸音材配置用空間の背部を閉じる後壁を室の壁面で構成したものである。この音響拡散体60は実施の形態1(図1)の音響拡散体10と比べて、板状部材12(図1)を具えない点が相違するのみで、他の構成は同じである。図1の音響拡散体10と共通する部分には同一の符号を用いる。音響拡散体60の各空間16は背部、前部とも開口している。各空間16には膜状吸音材18がそれぞれ適宜の高さ位置に装着されている。音響拡散体60は室の壁面62(剛壁)に四隅をねじ64で固定して取り付けられる。これにより各空間16の背部は室の壁面62を後壁として閉じられている。これによれば実施の形態1の音響拡散体10に比べて板状部材12が無い分少ない材料で軽量に構成できる。この音響拡散体60の動作は実施の形態1の音響拡散体10と同じである。
【0027】
なお前記実施の形態では各膜状吸音材を同一材料および同一厚さのシートで構成したが、これに代えて各膜状吸音材を同一材料で異なる厚さのシートあるいは異なる材料のシートで構成することもできる。また前記実施の形態では各膜状吸音材を同一形状、同一寸法としたが、これに限るものではなく異なる形状、異なる寸法とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明による音響拡散体の実施の形態1を示す正面図および断面図である。
【図2】図1の各空間16における膜状吸音材18の設置構造の一例を示す平面図および断面図である。
【図3】図1の音響拡散体10の1つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す図である。
【図4】図1の音響拡散体10の隣接する3つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す図である。
【図5】図1の音響拡散体10の室に対する設置例を示す斜視図である。
【図6】図1の音響拡散体10の室に対する他の設置例を示す斜視図である。
【図7】図1の音響拡散体10の室に対するさらに別の設置例を示す斜視図である。
【図8】図9の特性を測定するための、室におけるスピーカおよび音響拡散体の配置を示す平面図である。
【図9】図8の配置においてスピーカの近傍に音響拡散体がある場合とない場合の各周波数特性を示す図である。
【図10】この発明による音響拡散体の実施の形態2を示す正面図、断面図および音響拡散体全体の等価表面形状を示す斜視図である。
【図11】この発明による音響拡散体の実施の形態3を示す正面図および断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10,50,60…音響拡散体、12…板状部材(後壁)、14…区画壁、16…空間、16a…開口部、18…膜状吸音材、24…段部、26…抑え部材、62…室の壁面(後壁)。
【技術分野】
【0001】
この発明は音波を散乱(拡散)させる音響拡散体に関し、比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
音響拡散体はホールやリスニングルーム等の壁面や天井等に設置されて室内の音波を散乱させるもので、室内の響きを調整するのに用いられる。従来の音響拡散体として下記特許文献1,2および非特許文献1,2に記載されたものがあった。特許文献1に記載の音響拡散体は断面三角形状、断面半円状、断面円弧状等に形成された部材を壁面や天井に設置したものである。特許文献2に記載の音響拡散体はそれぞれ表面が凸に湾曲した2枚の音響パネルを隣り合わせに配置し、両音響パネルの相互の角度を可変にしたものである。非特許文献1に記載の音響拡散体は円柱状面、鋸歯状面、球状面等を有する部材を壁面に設置したものである。非特許文献2に記載の音響拡散体はいわゆる「シュレーダー拡散体」と呼ばれているもので、剛な材料で仕切った様々な深さの溝を壁面や天井に沿って多数配列したものである。
【0003】
【特許文献1】特許第3580718号公報
【特許文献2】特開2006−300995号公報
【非特許文献1】「建築音響工学ハンドブック」、技報堂、1968年、p196
【非特許文献2】「室内音響学」、市ヶ谷出版社、クットルフ ハインリッヒ著、2003年、pp54−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および非特許文献1に記載の凸形状の音響拡散体は散乱対象の波長に応じて全体の寸法を大きくする必要があり、低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であった。特許文献2に記載の音響拡散体の可動式音響パネルも同様に低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であった。非特許文献2に記載のシュレーダー拡散体も低音域を散乱させるには溝の深さを深くする必要があるため十分な厚さが必要であった。このように従来の音響拡散体は低音域を散乱させるには十分な厚さが必要であり家庭の音響室等比較的狭い室には不向きであった。
【0005】
この発明は前記従来の技術における問題点を解決して、比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱できるようにした音響拡散体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の音響拡散体は平面状に配列され区画壁で相互に仕切られた複数の空間を有し、前記各空間は背部が後壁で閉じられ前部が開口部を形成し、前記各開口部は膜状吸音材でそれぞれ塞がれ、少なくとも一方向について、隣接する前記空間相互間で前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さ並びに該膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせてなるものである。
【0007】
膜状吸音材の吸音率特性は周知のように共振周波数(固有振動数)で比較的鋭いピークを持ち、最大吸音率も大きい。ピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなる。このピークとなる共振周波数は、膜状吸音材の背後空気層の層厚や該膜状吸音材のシート厚を変えることで比較的簡単にコントロールでき、所望の吸音ピーク周波数(共振周波数)を持つ膜状吸音材を設計することができる。200Hz程度の低音域に吸音ピーク周波数を持つ膜状吸音材も薄型に構成できる。
【0008】
この発明の音響拡散体によれば隣接する空間相互間で膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせたので両膜状吸音材で吸音ピーク周波数にずれが生じる。この吸音ピーク周波数のずれにより音響インピーダンスの不連続面が形成される。この音響インピーダンスが不連続な部分に音波が入射されると回折波が発生し、該回折波が相互に影響し合って鏡面反射以外の方向に音響エネルギーが散乱される。このようにして両吸音ピーク周波数付近で散乱効果が得られる。特に膜状吸音材の吸音率特性は前述のように共振周波数で比較的鋭いピークを持ちピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなるので音響インピーダンスの不連続が実現されやすく十分な散乱効果が得やすいという特徴がある(比較として板状吸音材ではピークがブロードで低いので散乱効果が得にくい)。そして前述のように200Hz程度の低音域に吸音ピーク周波数を持つ膜状吸音材は薄型に構成できるので、この発明の音響拡散体によれば比較的薄型の構成で低音域の音波を散乱できる。
【0009】
またこの発明によれば隣接する空間相互間で後壁からの膜状吸音材の配置高さを異ならせたので、膜状吸音材の配列による表面形状に凹凸が生じる。この表面形状の凹凸により前記音響インピーダンスの不連続によるよりも高音域で音波が散乱される。したがってこの発明によれば比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域の音波を散乱することができる。
【0010】
この発明の音響拡散体は前記隣接する空間の両膜状吸音材の垂直入射吸音率特性を、例えば一次共振周波数が低い方の膜状吸音材の吸音率が該一次共振周波数における吸音率の10〜20%に減少する該一次共振周波数よりも高い側の周波数で、該一次共振周波数が低い側の膜状吸音材の吸音材の吸音率と、一次共振周波数が高い方の膜状吸音材の該一次共振周波数よりも低い周波数側の吸音率とが一致するように設定することができる。これによれば両一次共振周波数間でインピーダンスの不連続による散乱効果を得ることができる。
【0011】
この発明において前記後壁は例えば前記区画壁の背部に固定された板状部材で構成することができる。この場合前記板状部材と前記区画壁は同一材料の一体成型品または別部品の組立品で構成することができる。また前記後壁は該音響拡散体が取り付けられる室の壁面で構成することもできる。
【0012】
この発明の音響拡散体は前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さが該膜状吸音材の配列の中央部に位置するものほど高く周縁部に行くほど低くなるように設定され、前記膜状吸音材の配列による表面形状が概ね山形をなすものとすることができる。これによれば概ね山形の表面形状により比較的高音域を散乱させることができる。
【0013】
この発明の音響拡散体は例えば前記区画壁が、縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成され、もって前記空間が同一寸法の矩形状に形成されたものとすることができる。
【0014】
この発明の音響拡散体は隣接する前記空間相互間で前記膜状吸音材のシート厚を異ならせることができる。これによれば膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いと該膜状吸音材のシート厚の違いが合わさって隣接する膜状吸音材間で音響インピーダンスの不連続面を形成し、音波を散乱することができる。
【0015】
またこの発明の音響拡散体は前記各空間の内周面周縁部に、隣接する該空間相互間での該空間奥行き方向の配置位置を様々に設定した段部が前記区画壁と一体にまたは別体に形成され、前記各膜状吸音材は該各空間内に収容されて周縁部が該段部上に支持され、その上から該空間ごとに環状(一部が切り欠かれた環状を含む)の抑え部材を嵌め込んで、前記段部と該抑え部材で該膜状吸音材の周縁部を挟み込んで該膜状吸音材を固定したものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《実施の形態1》
この発明の実施の形態を以下説明する。図1はこの発明による音響拡散体の実施の形態を示す。(a)は正面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図である。この音響拡散体10は所定板厚の1枚の平板状の板状部材12の前面に区画壁14(剛壁)を突出形成したパネル体15を具えている。板状部材12と区画壁14はアルミ等の金属あるいはプラスチックによる一体成型品で作られている。あるいは板状部材12と区画壁14を別体で構成した後、接着剤あるいはねじ等の接合材で接合してパネル体15を構成することもできる。区画壁14は縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成されている。これにより板状部材12の前面側には区画壁14で仕切られた同一形状および同一寸法の矩形状の複数(この例では16個)の空間16が平面状に配置形成されている。各空間16は背部が板状部材12による後壁(剛壁)で閉じられ前部が開口部16aを形成している。開口部16aは膜状(シート状)吸音材18でそれぞれ塞がれている。各空間16の膜状吸音材18は例えば同一材料および同一シート厚の有機シート(塩ビフィルム、カンバス、ゴムシート等)で構成され、例えばプレス等による成型加工(型抜き)で所定形状に形成されている。後壁表面12a(板状部材12の表面)からの膜状吸音材18の配置高さh(=背後空気層の層厚)は各方向に隣接する空間16相互間で異なっている。パネル体15の表面には必要に応じてサランネット等の音響透過性クロス20が装飾用に被せられる。パネル体15の板状部材12の四隅にはこの音響拡散体10を室の壁面等に固定するねじを差し込む穴22が形成されている。
【0017】
図1の音響拡散体10の寸法は例えば縦、横がそれぞれ40〜80cm、厚さが1〜5cm程度の薄型に設計することができる。区画壁14の板厚は隣接する膜状吸音材18,18相互間で音響インピーダンスの不連続による散乱効果が効率よく生じるように薄くするのが望ましい。したがって図1のように膜状吸音材18を縦、横に4個ずつ配列する場合は、音響拡散体10全体の縦(または横)の寸法が40cmであるとすると、各膜状吸音材18の縦(または横)の寸法は10cm弱となり、音響拡散体10の縦(または横)の寸法が80cmであるとすると、各膜状吸音材18の縦(または横)の寸法は20cm弱となる。また音響拡散体10全体の厚さが1cmの場合は後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhはh<(1cm−板状部材12の板厚)となり、また音響拡散体10全体の厚さが5cmの場合は後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhはh<(5cm−板状部材12の板厚)となる。膜状吸音材18のシート厚は例えば0.5〜2mm程度に設定することができる。
【0018】
図2は各空間16における膜状吸音材18の設置構造の一例を示す。(a)は平面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。各空間16の内周面周縁部(区画壁14の側面)には段部24がそれぞれ形成されている。後壁表面12aからの段部24の高さhは隣接する空間16,16相互間で異なっている。膜状吸音材18はその周縁部が段部24の上に支持される。その上から環状の抑え部材26(周方向の一部が切り欠かれていてもよい)を空間16内に嵌め込んで装着する。これにより膜状吸音材18は段部24と抑え部材26との間に挟み込まれて空間16内に後壁表面12aから浮いた状態に固定保持される。
【0019】
以上の構成の音響拡散体10の動作を説明する。図3は音響拡散体10の1つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す。F1は一次共振周波数、F2は二次共振周波数である。膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性は共振周波数で比較的鋭いピークを持ち、最大吸音率も大きい(特に一次共振周波数で大きい)。ピーク以外の周波数では吸音率は急激に小さくなる。このピークとなる共振周波数は、膜状吸音材18の背後空気層の層厚や膜状吸音材18のシート厚を変えることで比較的簡単にコントロールできる。すなわち膜状吸音材18の背後空気層の層厚を厚くしあるいは膜状吸音材18のシート厚を厚くすることにより共振周波数は低くなり、膜状吸音材18の背後空気層の層厚を薄くしあるいは膜状吸音材18のシート厚を薄くすることにより共振周波数は高くなる。
【0020】
この実施の形態では隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚を異ならせることにより、該隣接する膜状吸音材18,18相互間で共振周波数を相互にずらし個別のピークが生じるようにしている。図4は音響拡散体10の隣接する3つの膜状吸音材18−1,18−2,18−3の垂直入射吸音率特性A,B,Cの一例を示す。F1−1,F1−2,F1−3は各膜状吸音材18−1,18−2,18−3の一次共振周波数、F2−1,F2−2,F2−3は同二次共振周波数を示す。一次共振周波数F1−1,F1−2,F1−3はF1−1<F1−2<F1−3である。周波数帯域F1−1〜F1−3を音響インピーダンスの不連続による散乱効果を期待する帯域として設定するものとすると、各膜状吸音材18の縦、横寸法を散乱効果を期待する最低周波数F1−1に相当する波長よりも十分に短く設定し、かつ特性Aの吸音率が一次共振周波数F1−1における吸音率α1の10〜20%程度に減少する周波数で特性Bとクロスし、特性Bの吸音率が一次共振周波数F1−2における吸音率α2の10〜20%程度に減少する周波数で特性Cとクロスするように背後空気層の層厚により各膜状吸音材18−1,18−2,18−3の吸音率特性を設定する(他に隣接する膜状吸音材18どうしも順次このように吸音率特性をずらして設定する)。これにより隣接する膜状吸音材18−1,18−2,18−3相互間で音響インピーダンスが不連続となり、周波数帯域F1−1〜F1−3で音響インピーダンスの不連続による散乱効果が得られる。具体的には周波数帯域F1−1〜F1−3を音響インピーダンスの不連続による散乱効果を期待する帯域とし、該帯域を200〜400Hzとすると、例えばF1−1=200Hz、F1−2=300Hz、F1−3=400Hzに設定することができる。なお一次共振周波数F1−1,F1−2,F1−3による音響インピーダンスの不連続による散乱効果よりは小さいが、二次共振周波数による周波数帯域F2−1〜F2−3でも音響インピーダンスの不連続による散乱効果が得られている。
【0021】
また膜状吸音材18は隣接するものどうしで面の高さが異なるので、音響拡散体10全体として表面形状に凹凸が生じる。この表面形状の凹凸により音響インピーダンスの不連続によるよりも高音域(例えば500Hz以上)で音波の散乱効果が得られる。以上により比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域で散乱効果が得られる。また前述のように各膜状吸音材18の縦、横寸法は散乱効果を期待する最低周波数に相当する波長よりも十分に短く設定できるので、各膜状吸音材18は小面積のもので済み、音響拡散体10全体の面積を小さくすることができる。
【0022】
室(一般家庭のオーディオルーム等の部屋、事務所の部屋等)における音響拡散体10の設置例を図5〜図7に示す。図5は室28の壁面30に音響拡散体10をねじ32で固定したものである。図6は室28の天井34から音響拡散体10をワイヤ36で吊り下げたものである。図7は音響拡散体10をキャスタ付き脚38に装着して室28に配置したものである。
【0023】
音響拡散体10による音響特性改善効果について説明する。いま図8に示すように室40にスピーカ42,44を後方の壁面46から距離r離してそれぞれ配置する。一方のスピーカ42の近傍には音響拡散体を配置しない。他方のスピーカ44の近傍には後方の壁面46と側方の壁面48にこの発明による音響拡散体10をそれぞれ配置する。スピーカ42から音を発したとき(スピーカ44は無音)の室40で測定した周波数特性を図9(a)に示す。スピーカ42から発した直接音と後方の壁面46で反射された反射音とが干渉して、
r/λ=(2n+1)/4 (λ:音の波長、n=0,1,2,・・・)
となる周波数で干渉によるディップが発生している。次にスピーカ44から音を発したとき(スピーカ42は無音)の周波数特性を図9(b)に示す。スピーカ44から発せられて壁面46,48で反射される音の一部は音響拡散体10で散乱および吸音されるので、直接音との干渉が少なくなり、ディップが緩和されている。したがって音質が改善される。
【0024】
《実施の形態2》
この発明による音響拡散体の他の実施の形態を図10に示す。これは音響拡散体全体として概ね山形をなすように膜状吸音材を配置したものである。(a)は正面図、(b)は(a)のC−C並びにD−D矢視断面図、(c)は音響拡散体全体の等価表面形状である。この音響拡散体50は実施の形態1(図1)の音響拡散体10と比べて、膜状吸音材の配置枚数および膜状吸音材の配列による音響拡散体全体としての表面形状が相違するのみで、他の構成は同じである。図1の音響拡散体10と共通する部分には同一の符号を用いる。この音響拡散体50は縦、横両方向に5枚ずつ、合計25枚の膜状吸音材18が配列されている。後壁表面12aからの膜状吸音材18の配置高さhは、縦方向および横方向とも中央に配置されるものが最も高く、周縁部に行くに従って順次低くなっている。これにより音響拡散体50全体としての表面形状は(c)の等価表面形状に示すように中央部が頂点をなす概ね山形(この例では四角錐)に形成されている。
【0025】
以上の構成によれば、中央の膜状吸音材18を中心とした放射方向について隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚が異なる(周方向については隣接する膜状吸音材18,18相互間で背後空気層の層厚は同じ)ことによる音響インピーダンスの不連続による相対的に低音域の散乱効果が得られ、これと同時に山形の表面形状による相対的に高音域の散乱効果が得られる。この山形の表面形状により散乱する音波の周波数は山形の底辺の一辺が40cmの場合は約540Hz以上、同80cmの場合は約270Hz以上となる。以上により比較的薄型の構成で低音域を含む比較的広帯域で散乱効果が得られる。
【0026】
《実施の形態3》
この発明による音響拡散体のさらに別の実施の形態を図11に示す。(a)は正面図、(b)は(a)のE−E矢視断面図である。これは膜状吸音材配置用空間の背部を閉じる後壁を室の壁面で構成したものである。この音響拡散体60は実施の形態1(図1)の音響拡散体10と比べて、板状部材12(図1)を具えない点が相違するのみで、他の構成は同じである。図1の音響拡散体10と共通する部分には同一の符号を用いる。音響拡散体60の各空間16は背部、前部とも開口している。各空間16には膜状吸音材18がそれぞれ適宜の高さ位置に装着されている。音響拡散体60は室の壁面62(剛壁)に四隅をねじ64で固定して取り付けられる。これにより各空間16の背部は室の壁面62を後壁として閉じられている。これによれば実施の形態1の音響拡散体10に比べて板状部材12が無い分少ない材料で軽量に構成できる。この音響拡散体60の動作は実施の形態1の音響拡散体10と同じである。
【0027】
なお前記実施の形態では各膜状吸音材を同一材料および同一厚さのシートで構成したが、これに代えて各膜状吸音材を同一材料で異なる厚さのシートあるいは異なる材料のシートで構成することもできる。また前記実施の形態では各膜状吸音材を同一形状、同一寸法としたが、これに限るものではなく異なる形状、異なる寸法とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明による音響拡散体の実施の形態1を示す正面図および断面図である。
【図2】図1の各空間16における膜状吸音材18の設置構造の一例を示す平面図および断面図である。
【図3】図1の音響拡散体10の1つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す図である。
【図4】図1の音響拡散体10の隣接する3つの膜状吸音材18の垂直入射吸音率特性の一例を示す図である。
【図5】図1の音響拡散体10の室に対する設置例を示す斜視図である。
【図6】図1の音響拡散体10の室に対する他の設置例を示す斜視図である。
【図7】図1の音響拡散体10の室に対するさらに別の設置例を示す斜視図である。
【図8】図9の特性を測定するための、室におけるスピーカおよび音響拡散体の配置を示す平面図である。
【図9】図8の配置においてスピーカの近傍に音響拡散体がある場合とない場合の各周波数特性を示す図である。
【図10】この発明による音響拡散体の実施の形態2を示す正面図、断面図および音響拡散体全体の等価表面形状を示す斜視図である。
【図11】この発明による音響拡散体の実施の形態3を示す正面図および断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10,50,60…音響拡散体、12…板状部材(後壁)、14…区画壁、16…空間、16a…開口部、18…膜状吸音材、24…段部、26…抑え部材、62…室の壁面(後壁)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状に配列され区画壁で相互に仕切られた複数の空間を有し、
前記各空間は背部が後壁で閉じられ前部が開口部を形成し、
前記各開口部は膜状吸音材でそれぞれ塞がれ、
少なくとも一方向について、隣接する前記空間相互間で前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さ並びに該膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせてなり、
前記膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いによる音響インピーダンスの不連続により相対的に低音域を拡散し、前記膜状吸音材の配置高さの違いによる表面形状の凹凸により相対的に高音域を拡散する音響拡散体。
【請求項2】
前記隣接する空間の両膜状吸音材の垂直入射吸音率特性が、
一次共振周波数が低い方の膜状吸音材の吸音率が該一次共振周波数における吸音率の10〜20%に減少する該一次共振周波数よりも高い側の周波数で、
該一次共振周波数が低い側の膜状吸音材の吸音材の吸音率と、
一次共振周波数が高い方の膜状吸音材の該一次共振周波数よりも低い周波数側の吸音率とが一致するように設定されている請求項1記載の音響拡散体。
【請求項3】
前記後壁は前記区画壁の背部に固定された板状部材で構成される請求項1または2記載の音響拡散体。
【請求項4】
前記後壁は該音響拡散体が取り付けられる室の壁面で構成される請求項1または2記載の音響拡散体。
【請求項5】
前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さが該膜状吸音材の配列の中央部に位置するものほど高く周縁部に行くほど低くなるように設定され、前記膜状吸音材の配列による表面形状が概ね山形をなす請求項1から4のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項6】
前記区画壁が、縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成され、もって前記空間が同一寸法の矩形状に形成されている請求項1から5のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項7】
隣接する前記空間相互間で前記膜状吸音材のシート厚を異ならせてなり、前記膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いと該膜状吸音材のシート厚の違いによる音響インピーダンスの不連続により相対的に低音域を拡散する請求項1から6のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項8】
前記各空間の内周面周縁部に、隣接する該空間相互間での該空間奥行き方向の配置位置を様々に設定した段部が前記区画壁と一体にまたは別体に形成され、前記各膜状吸音材は該各空間内に収容されて周縁部が該段部上に支持され、その上から該空間ごとに環状の抑え部材を嵌め込んで、前記段部と該抑え部材で該膜状吸音材の周縁部を挟み込んで該膜状吸音材を固定してなる請求項1から6のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項1】
平面状に配列され区画壁で相互に仕切られた複数の空間を有し、
前記各空間は背部が後壁で閉じられ前部が開口部を形成し、
前記各開口部は膜状吸音材でそれぞれ塞がれ、
少なくとも一方向について、隣接する前記空間相互間で前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さ並びに該膜状吸音材の背後空気層の層厚を異ならせてなり、
前記膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いによる音響インピーダンスの不連続により相対的に低音域を拡散し、前記膜状吸音材の配置高さの違いによる表面形状の凹凸により相対的に高音域を拡散する音響拡散体。
【請求項2】
前記隣接する空間の両膜状吸音材の垂直入射吸音率特性が、
一次共振周波数が低い方の膜状吸音材の吸音率が該一次共振周波数における吸音率の10〜20%に減少する該一次共振周波数よりも高い側の周波数で、
該一次共振周波数が低い側の膜状吸音材の吸音材の吸音率と、
一次共振周波数が高い方の膜状吸音材の該一次共振周波数よりも低い周波数側の吸音率とが一致するように設定されている請求項1記載の音響拡散体。
【請求項3】
前記後壁は前記区画壁の背部に固定された板状部材で構成される請求項1または2記載の音響拡散体。
【請求項4】
前記後壁は該音響拡散体が取り付けられる室の壁面で構成される請求項1または2記載の音響拡散体。
【請求項5】
前記後壁からの前記膜状吸音材の配置高さが該膜状吸音材の配列の中央部に位置するものほど高く周縁部に行くほど低くなるように設定され、前記膜状吸音材の配列による表面形状が概ね山形をなす請求項1から4のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項6】
前記区画壁が、縦方向の区画壁および横方向の区画壁がそれぞれ均一の間隔に配置された井桁状に形成され、もって前記空間が同一寸法の矩形状に形成されている請求項1から5のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項7】
隣接する前記空間相互間で前記膜状吸音材のシート厚を異ならせてなり、前記膜状吸音材の背後空気層の層厚の違いと該膜状吸音材のシート厚の違いによる音響インピーダンスの不連続により相対的に低音域を拡散する請求項1から6のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【請求項8】
前記各空間の内周面周縁部に、隣接する該空間相互間での該空間奥行き方向の配置位置を様々に設定した段部が前記区画壁と一体にまたは別体に形成され、前記各膜状吸音材は該各空間内に収容されて周縁部が該段部上に支持され、その上から該空間ごとに環状の抑え部材を嵌め込んで、前記段部と該抑え部材で該膜状吸音材の周縁部を挟み込んで該膜状吸音材を固定してなる請求項1から6のいずれか1つに記載の音響拡散体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−139555(P2009−139555A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314759(P2007−314759)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]