説明

音響改良システム及び方法

【課題】アクティブ騒音低減(ANR)及びエンジン音増強(ESE)コントローラを使用して、運転状況時にドライバーのための最適な客室体験を実現する音響改良システム及び車両中の音響を管理する方法の提供。
【解決手段】システムは、ANRコントローラ26と、ESEコントローラ28と、音響改良コントローラ30とを備える。車両が定常状態の運転状況のとき、音響改良コントローラ30はANRコントローラ26を作動させ、ESEコントローラ28を停止させる。一方、車両が非定常状態の運転状況のとき、音響改良コントローラ30はESEコントローラ28を作動させ、ANRコントローラ26を停止させる。好ましくは、車両が定常状態及び非定常状態の運転状況を切り替えるとき、音響改良コントローラ30は、ANR及びESEコントローラ26、28を人が気づかない速度で作動及び停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジン騒音及び路面騒音を改良するための音響改良システムに関する。より詳細には、本発明は、騒音を低減させるか、エンジン音、排気音及び他の望ましい性能音を増強させるか、又はこれらを組み合わせるための音響改良システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車メーカーは、車両の車室内の音レベル又は騒音レベルを低減させようと絶えず努めている。車両中のオーディオシステムを用いて車両の車室に音波を導入して他の音波を相殺し、それにより車室を静かにするアクティブ騒音低減(active noise reduction:ANR)システムが開発されている。
【0003】
性能音を模倣する音を生成することが可能なシステムも幾つか作製されているが、ところがこれらのシステムは、一般的に特定のエンジン用に構成されていないか、又は車両中に備えるには経費が高い。さらに、自動車メーカーが様々な技術により騒音、振動及び不快感(noise, vibration and harshness:NVH)を低減させてきたので、同じく低減された性能音を聞き逃すファンも多い。具体的は、今では一層効果的なエンジンや進歩した技術が車両に使用され、車両の車室にいるドライバーは多くの性能音を聞くことが困難である。このように、スリリングなオーディオフィードバックをファンに提供しつつNVHを低減させた車両が要望されている。さらに、電気自動車は人の耳にはほとんど聞こえないエンジンを有しており、それゆえ聞き取ることが可能なエンジン騒音を何ら提供しない。低減されたエンジン騒音の一つの欠点は、多くの望ましくないNVH音が今は聞こえることである。歩行者の安全のために、電気自動車におけるエンジン騒音又は他の騒音などを増幅するエンジン音増強(engine sound enhancement:ESE)システムが開発されている。様々な運転状況において、車両の車室にいる車両のドライバーに一層満足を与える音響環境を提供する、車両のための改善されたANR及びESEシステムが著しく且つ絶えず必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、車両のエンジン騒音及び路面騒音を改良するための音響改良システムに関する。詳細には、本発明は、騒音を低減させるか、エンジン音、排気音及び他の望ましい性能音を増強させるか、又はこれらを組み合わせるための音響改良システムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車室を有する車両のための音響改良システム及び車両中の音響を管理する方法を提供する。システムは、車両の速度信号を生成するための車両速度センサ、車両の加速度信号を生成するための車両加速度センサ、スロットル位置信号を生成するためのスロットル位置センサ、及び/又はクルーズコントロール信号を生成するためのクルーズコントロールセンサを備える。システムはまた、低減されるべき音波、例えばエンジン騒音に対して実質的に180度(180℃)位相が異なる反対の音波信号を生成するためのアクティブ騒音低減(ANR)コントローラも備える。システムはさらに、増幅されるべき騒音、例えばエンジン騒音に対して実質的に一致するエンジン増強音波信号を選択的に生成するためのエンジン音増強(ESE)コントローラを備える。ANR及びESEコントローラは、単独型モジュールか、一つの組み合わせモジュールか、又は増幅器若しくはラジオヘッド装置に統合されてよい。スピーカーは、反対の音波信号及びエンジン増強音信号を受信し、音波を出力するためにANR及びESEコントローラと通信する。スピーカーは、車両のエンターテイメント・システムに組み込まれてよい。システムはまた、車両の速度信号、車両の加速度信号、スロットル位置信号、及び/又はクルーズコントロール信号を受信するための少なくとも一つのセンサと通信し、ANR及びESEコントローラとも通信する音響改良コントローラを備える。音響改良コントローラは、定常の運転状況にある車両に応じて、例えば車両がほぼ一定の速度で走行している時は自動でANRコントローラを作動させ、ESEコントローラを停止させる。音響改良コントローラは、非定常の運転状況にある車両に応じて、例えば加速時は自動でESEコントローラを作動させ、ANRコントローラを停止させる。代替的に、ドライバーの好み又は選択された運転モード、例えばスポーツ、高級感、パフォーマンスなどに従ってANR及びESEコントローラを同時に動作させることも可能である。
【0006】
車室を有する車両中の音響を制御する方法は、車両がほぼ一定の速度で走行している定常状態の運転状況か、又は非定常状態の運転状況として、車両の運転状況を感知するステップと、非定常状態の運転状況から定常状態の運転状況に変わる車両の運転状況に応じて第1音波を出力するステップとを含む。
【0007】
高速道路でクルーズコントロールを使用するか、又は一定速度を維持するような定常状態の運転状況では、車両の乗客は一般的に車室内のNVH及び他の騒音を最小限に抑えたいため、本発明は有益である。そのために、音響改良コントローラは、ANRコントローラを作動させESEコントローラを停止させ、これにより車室を静かにする。他方、ドライバーは車両のエンジン及び他の排気音など性能関連の音を聞きたい時がある。非定常状態の運転状況において、音響改良コントローラは、ESEコントローラを作動させ、ANRコントローラを停止させる。これによりドライバーのために所望の性能音を増幅し、音響改良コントローラはANR及びESEコントローラを制御することで、任意の運転状況においてドライバーのために最適な車室経験を実現する。
【0008】
本発明は、本明細書で以下に説明する詳細な説明、添付の請求の範囲、及び添付の図面から、より一層十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両の音響改良システムの概略図である。
【図2】例示的なANRコントローラの概略図である。
【図3】例示的なESEコントローラの概略図である。
【図4】車室を有する車両中の音響を管理する例示的な方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図を参照し、幾つかの図面を通して、類似の番号は一致する部分を示す。エンジン24を有する車両22の車室における聞き取ることが可能な騒音を制御する音響改良システム20を概ね図1に示す。システムは任意の種類の車両22に使用することができる、トラック、車、スポーツ用実用車、クロスオーバー・ビークル、及びバンなど特に自動車に適用することができる。車両22のエンジン24は、内燃エンジン、電気モータ又は任意の他の種類のエンジンが可能である。
【0011】
例示的な実施形態のシステムは、車両22の車室を静かにするために音波を低減するためのアクティブ騒音低減(ANR)コントローラ26と、音響を増幅するためのエンジン音増強(ESE)コントローラ28と、ANR及びESEコントローラ26、28を制御するための音響改良コントローラ30とを備える。当然のことながら、ANR、ESE及び音響改良コントローラ26,28,30は別々の装置であり得、又はこれらは一つの単一装置、例えばコンピュータ、増幅器モジュール、ラジオヘッド装置などに包含されることがある。
【0012】
例示的な実施形態の車両22は、車両22のドライバーが第1モード、第2モード、及び第3モードを選択することが可能な車両のモード選択器32を備える。例示的な実施形態では、第1モードがスポーツモードであり、第2モードが高級モードであり、第3モードが自動モードである。もちろん、選択の種類は、車両のタイプ又は所望の操作モードに基づいて変更してもよい。車両のモード選択器32は、ドライバーが操作モードを選択することが可能な任意の種類の入力器でよい。例えば、車両のモード選択器32は、車両22の車室内のスイッチ又はノブでもよい。当然のことながら、車両のモード選択器32は、例示的な実施形態の選択器以外の任意の数の異なる設定を有することがあり、車両22のトラクションコントロール・システム内に結合されることがある。例えば、ドライバーが車両22のトラクションコントロール・システムを停止させるときに、スポーツモードを選択するようなものである。車両のモード選択器32は、ドライバーにより選択された車両のモードに一致する車両のモード信号を生成するが、その使用については以下で更に詳細に説明する。
【0013】
音響改良コントローラ30は、車両のモード信号を受信するために車両のモード選択器32と通信する。車両22が高級モードのとき、例示的な実施形態の音響改良コントローラ30は、継続的にANRコントローラ26を作動させ、ESEコントローラ28を停止させる。換言すれば、ドライバーが高級モードを選択すると、ANRコントローラ26は音波を低減させ、それにより車両22の車室を静かにする。
【0014】
車両22がスポーツモードのとき、例示的な実施形態の音響改良コントローラ30は、継続的にESEコントローラ28を作動させ、ANRコントローラ26を停止させる。換言すれば、ドライバーがスポーツモードを選択すると、ESEコントローラ28は、継続的に車室内のエンジン音、又は他の音を増幅させる。
【0015】
例示的な実施形態の音響改良コントローラ30はまた、車両22が自動モードのときにANR及びESEコントローラ26,28の操作を切り替えるように構成されている。例示的な実施形態では、音響改良コントローラ30は、車両22の運転状況によってANR及びESEコントローラ26,28を交互に行う。具体的には、車両22が定常状態の運転状況のとき、音響改良コントローラ30はANRコントローラ26だけを作動させて車両22の車室を静かにする。他方、車両22が非定常状態の運転状況になると、次に音響改良コントローラ30はESEコントローラ28だけを作動させて車両22の車室内の音を増幅させる。本明細書において、定常状態の運転状況とは、クルーズコントロールなど、車両22が「定常状態の」動作状態にあるときの状況を指す。例えば、定常状態の運転状況は、車両の速度が時速55マイルを維持するときか、又は車両22が所定の速度範囲、例えば時速±5マイルの速度範囲で走行するときの状況として定義されてよい。代替的に、定常状態の運転状況は、車両の加速の大きさが1メーター毎秒毎秒(1(m/s2))未満のままのときの状況として定義されてよい。
【0016】
音響改良コントローラ30は、人が気づくことができないくらいに十分遅い速度でANR及びESEコントローラ26,28を切り替えるように構成されている。換言すれば、ANR及びESEコントローラ26,28の切り替えは滑らかに行われ、車両22の車室内のドライバー又は任意の他の乗客は、音響改良コントローラ30がANR及びESEコントローラ26,28を切り替えても分からない。例示的な実施形態では、音響改良コントローラ30は、毎秒3デシベルの速度(割合)でANR及びESEコントローラ26,28をフェードイン及びフェードアウトさせる。
【0017】
車両22が定常状態の運転状況であるかを特定するために、音響改良コントローラ30は、例えば、エンジン速度センサ34、車両速度センサ36、車両加速度センサ38、スロットル位置センサ40、及びクルーズコントロールセンサ42を含む複数のセンサ34,36,38,40,42と通信する。車両速度センサ36は、車両22の速度を感知し、車両の速度信号を生成する。車両加速度センサ38は、車両22の加速を感知し、車両の加速度信号を生成する。スロットル位置センサ40は、車両22のスロットルペダル48の位置を感知し、スロットル位置信号を生成する。クルーズコントロールセンサ42は、車両22のクルーズコントロールシステムが作動しているか、又は停止しているかを感知し、クルーズコントロール信号を生成する。例示的な実施形態の音響改良コントローラ30は、これらのセンサ34,36,38,40,42を使用することができ、以下に更に詳細を説明するように、これらの各々が所定のアルゴリズムに従って車両22の運転状況を計算するために出力する。例示的な実施形態の音響改良コントローラ30はまた、コントローラ・エリアネットワーク46(CAN)バスを介してエンジン制御装置44(ECU)と通信し、アルゴリズムに対し追加の入力を提供する。当然のことながら、音響改良コントローラ30は、車両22が定常状態の運転状況であるかを特定するために、例示的な実施形態に示すセンサに追加するかこれに代えて多くの異なるセンサと通信することがある。
【0018】
エンジン速度センサ34は、車両22のエンジン24と動作可能に結合し、エンジン速度信号を生成する。通常、エンジン速度センサ34は、1分間当たりの回転数(RPM)でエンジン速度を測定する。他の状況をモニタリングするために、他の種々のセンサもエンジン24に結合されることがある。例えば、様々なセンサが、エンジン24により生成されたトルク、エンジン24により生成された電力、エンジン24の温度などを測定することがある。これらのセンサはまた、音響改良コントローラ30と通信し得、車両22の運転状況を特定するアルゴリズムで使用されることがある。
【0019】
音響改良コントローラ30は、クルーズコントロールシステムが作動しているときは車両22が定常状態の運転状況であると自動で特定するアルゴリズムを使用する。従って、車両22が自動モードであり、クルーズコントロールシステムが作動して車両22をほぼ一定速度に保つとき、ANRコントローラ26は作動したままであり、ESEコントローラ28は停止したままである。
【0020】
クルーズコントロールシステムが作動していないときに、音響改良コントローラ30のアルゴリズムにより、車両22が定常状態の運転状況かを特定することもできる。例示的な実施形態では、音響改良コントローラ30は、車両22が5分を上回って一時間当たり5マイル内(±5mph)であるとき、車両22が定常状態の運転状況であると特定する。代替的に、アルゴリズムは、車両の運転状況を特定するために、他のセンサ34,36,38,40,42の出力を使用することができる。例えば、スロットルペダル48が所定の期間の間同じ位置にある場合、音響改良コントローラ30は、車両22が定常状態の運転状況であると特定する。同様に、エンジン34が所定の時間、所定の非アイドル回転範囲内を維持する場合、その時に音響改良コントローラ30は車両22が定常状態の運転状況であると特定する。
【0021】
例示的な実施形態のANRコントローラ26は、エンジン速度信号を受け取るためのエンジンのエンジン速度センサ34と通信し、車両22の車室、エンジン・コンパートメント、又は外部のいずれかに配置された少なくとも一つのマイクロホン50と通信する。図2に示すように、例示的な実施形態のANRコントローラ26は、エンジンの騒音特性を記憶するためのANRメモリ52と反対の音波信号を生成するためのANRプロセッサ54とを備える。ANRプロセッサ54は、エンジン速度信号とマイクロホン50により受信した音に応じて反対の音波信号を生成する。反対の音波信号は、低減される音波と実質的に180度(180℃)位相が異なる。エンジンの騒音特性は、様々なエンジン速度状態のエンジン24により生成された、好ましくは予め設定された音特性である。従って、このエンジンプロファイルを用いて、ANRコントローラ26は、エンジン速度に応じてエンジン24だけにより生成された騒音を低減させるために反対の音波信号を生成することができる。好ましくは、音響改良コントローラ30は、ANRコントローラ26をフェーズインさせ、ANRコントローラ26は、人が気づかない速度、例えば毎秒3デシベル未満で、反対の音波信号がエンジン24により生成された音波の振幅と実質的に等しい振幅を有するまで反対の音波信号の振幅を徐々に増幅させる。代替的に、ANRコントローラ26は、静かにする音波の振幅未満のレベルまで反対の音の振幅を増幅させることにより音波の低減だけを行い、音波全体を相殺しないように構成することがある。このことは、例えば、車室の乗客がわずかなエンジン24音を聞くことができるので、有益である。同様に、ANRコントローラ26がフェーズアウト又は停止したとき、ANRコントローラ26は反対の音波信号の増幅を徐々に減幅させる。
【0022】
エンジン速度センサ34及びマイクロホン50に追加して、ANRコントローラ26はまた、反対の音波信号を生成するために他の入力器を使用してよい。例えば、ANRコントローラ26は、反対の音波信号を生成するための追加の入力器として、エンジンECU44、車両速度センサ36、車両加速度センサ38、又はスロットル位置センサ40を使用することができる。これらの入力器を用いて、反対の音波信号は、単なるエンジン騒音以外の更なる騒音を低減させることができる。例えば、ANRコントローラ26は、車両22の車室の外側から入ってくる伝達騒音、差動騒音、路面騒音、風騒音又は他の任意の騒音をも低減するように構成することができる。
【0023】
ANRコントローラ26は、所定の周波数範囲に対する騒音、複数の周波数範囲に対する騒音、又は完全に聞き取ることが可能な騒音スペクトルの騒音を低減するように構成することができる。ANRコントローラ26はまた、所定の騒音レベルを超える騒音のみを低減するようにも構成することができる。再検討する騒音レベルの特定は、車両の様々な状態信号に依存する。例えば、車両22が設定速度を超えて走行し、窓が開いているとき、ANRコントローラ26が通常求める他の全ての騒音レベルは、窓から入ってくる騒音に起因して重要ではなくなるため、ANRコントローラ26は騒音レベル狭い範囲の騒音レベルを求めればよい。いつ特定の騒音レベルを探し求め、いつ特定の騒音レベルを探さないかについて、自動車両メーカーによりこれらのパラメータは設定されてよい。
【0024】
ESEコントローラ28は、エンジン速度を受け取るためのエンジンのエンジン速度センサ34と通信し、車両22の車室、エンジン・コンパートメント、又は外部のいずれかに配置された少なくとも一つのマイクロホン50と通信する。図3に示すように、例示的な実施形態のESEコントローラ28は、エンジンの騒音特性を記憶するためのESEメモリ56とエンジン増強音波信号を生成するためのESEプロセッサ58とを備える。エンジン増強音波信号は、エンジン24により生成される騒音又は増幅されるべき他の任意の騒音と実質的に一致する。エンジン24の騒音特性は、様々なエンジン速度状態のエンジンにより生成される、予め設定された特性である。したがって、このエンジン特性を用いて、ESEコントローラ28は、エンジン速度に応じてエンジン騒音だけを増幅するためにエンジン増強音波信号を生成することができる。エンジン増強音波信号は、所望の増幅レベルに従って、任意の振幅を有することができる。好ましくは、音響改良コントローラ30がESEコントローラ28をフェーズインさせると、ESEコントローラ28は反対の音波信号を人が気づかない速度、例えば毎秒3デシベルの速度で、所望の増幅レベルまでエンジン増強波信号の振幅を徐々に増幅させる。同様に、ESEコントローラ28がフェーズアウト又は停止するとき、ESEコントローラ28は人が気づかない速度で反対の音波信号の振幅を徐々に減幅させる。
【0025】
エンジン速度センサ34及びマイクロホン50に追加して、ESEコントローラ28はまた、エンジン増強音波信号を生成するために他の入力器を使用してよい。例えば、ESEコントローラ28は、エンジン増強音波信号を生成するための追加の入力器としてエンジンECU44、車両速度センサ36、車両加速度センサ38、又はスロットル位置センサ40を使用することができる。これらの入力器を用いて、エンジンESEコントローラ28は、単なるエンジン騒音以外のさらなる騒音を増幅することができる。例えば、ESEコントローラ28は、タイヤがきしむ音、ターボ/スーパーチャージャーのうなり音、又は他の任意の騒音を増幅するように構成することができる。
【0026】
ANR及びESEコントローラ26,28は、車室内の少なくとも一つのスピーカー60と通信する。車室内のスピーカー60は、反対の音波信号とエンジン増強音波信号とを受信し、車室内に音波を出力する。スピーカー60は、車両22の座席のヘッドレストを含め、車両22の車室の中のどこにでも配置することができる。ESEコントローラ28はまた、車両22の外に音波を伝えるために車両22外部に設けられた少なくとも一つのスピーカー60と通信することができる。当然のことながら、車両22の中にあるスピーカー60は車両のエンターテイメント・システムの一部であり得、独立して騒音抹消及び/又は騒音増強だけに特化されるものではない。
【0027】
本発明はさらに、車両22の車室内の音響を制御する方法を提供する。例示的な実施形態の方法は、ANRコントローラ26及びESEコントローラ28を提供するステップ100から開始する。方法は、エンジン24のエンジン速度を感知するステップ102へと続く。先に説明したように、例示的な実施形態において、車両22のエンジン速度は、エンジン速度センサ34を用いて特定される。
【0028】
次に、方法は車両22の操作モードを感知するステップ104へと続く。例示的な実施形態では、操作モードはスポーツモード、高級モード、及び自動モードである。車両22が高級モードの場合、次に方法は、ANRコントローラ26を用いて、低減されるべき音波の振幅と実質的に等しい振幅を有し、低減されるべき音波と実質的に180度(180℃)位相が異なる連続的な反対の音波を生成するステップ106に進む。先に説明したように、代替的にANRコントローラ26は、騒音を取り消すのではなく静かにさせることが可能である。ANRコントローラ26が騒音を低減させている場合、次に反対の音波は静かにされるべき音波の振幅よりも小さな振幅を有するようになる。低減されるべき音波が、車両22のエンジンに由来する騒音である場合、次にANRコントローラ26は、感知したエンジン速度に応じて反対の音波を生成することができる。当然のことながら、低減されるべき音波は、エンジン24以外の他の音源、例えば路面騒音又は風騒音に由来することがある。
【0029】
車両22がスポーツモードの場合、次に方法は、増幅されるべき音波を感知し、ESEコントローラ28を用いて、増幅されるべき音波と実質的と同相の連続的なエンジン増強音波を生成するステップ108に進む。増幅されるべき音波が車両22のエンジン24に由来する騒音である場合、次にESEコントローラ28は、感知したエンジン速度としてエンジン増強音波を生成することができる。しかし、当然のことながら、増幅されるべき音波は、エンジン24以外の音源、例えばタイヤに由来することがある。
【0030】
車両22が自動モードの場合、次に方法は、作動しているか又は停止しているか、どちらかの走行状態として車両22のクルーズコントロール(走行制御)状態を感知するステップ110へと続く。換言すれば、方法は、ドライバーがほぼ定常速度を維持するためにクルーズコントロールシステムを使用しているかを特定する。車両22のクルーズコントロールシステムが作動している場合、次に方法は車両22が定常状態の運転状況であると特定するステップ112へと続く。
【0031】
自動モードで且つクルーズコントロールシステムが停止している場合、次に方法は、車両22の車両速度を感知するステップ114へと続く。次に、方法は所定の期間にわたり所定の範囲内のままである車両22の速度に応じて車両22が定常状態の運転状況であると判断するステップ112へと続く。換言すれば、車両22がほぼ一定速度のままであれば、車両22は定常状態の運転状況である。例えば、定常状態の運転状況とは、5分を超えて時速5マイル(±5mph)の範囲内を保つときである。
【0032】
車両22が自動モードであり且つ定常状態の運転状況である場合、次に方法は低減されるべき音波を検知し、ANRコントローラ26を用いて、実質的に低減されるべき音波以下の振幅を有し、低減されるべき音波に対して実質的に180度(180°)位相が異なる反対の音波を生成するステップ116へと続く。
【0033】
車両22が自動モードであり且つ定常状態の運転状況ではない場合、次に方法は車両が非定常状態の運転状況であると特定するステップ118へと続く。次に、方法は増幅されるべき音波を検知し、ESEコントローラ28を用いて、増幅されるべき音波と実質的に一致するエンジン増強音波を生成するステップ120へと続く。
【0034】
ステップ110及びステップ114は、車両22が自動モードの間、継続的又は定期的に遂行される。それ故、車両22の運転状況に変化が生じれば検出される。車両22が定常状態の運転状況ではなくなると、次に方法は反対の音波の振幅を徐々に減幅し、エンジン音コントローラを用いて、増幅されるべき音波と実質的に一致するエンジン増強音波を生成し、エンジン増強音波の振幅を徐々に増幅させるステップ122へと続く。換言すれば、エンジン増強音波は、車両22が定常状態の運転状況から非定常状態の運転状況に遷移すると、フェーズアウトされる反対の音波と同時にフェーズインする。また、例示的な実施形態では、反対の音波のフェーズアウトとエンジン増強音波のフェーズインは、人が気づかない速度で行われる。具体的には、例示的な実施形態では、反対の音波とエンジン増強音波とは毎秒3デシベル未満の速度(割合)でフェーズイン/フェーズアウトされる。
【0035】
車両22が非定常状態の運転状況から定常状態の運転状況に遷移する場合、次に方法はエンジン増強音波の振幅を徐々に減幅し、ANRコントローラ26を用いて、反対の音波を生成し、反対の音波の振幅を徐々に増幅させるステップ124へと続く。例示的な実施形態では、エンジン増強音波フェーズアウトと反対の音波のフェーズインは、人が気づかない速度、例えば毎秒3デシベルで行われる。
【0036】
上述した発明は、適切な法的基準に従って説明を行っており、従って説明は本質的に限定するものではなく例示的なものである。開示した実施形態に対する変更及び改良が当業者には明らかであり得、本発明の範囲内にある。従って、本発明に与えられる法的保護の範囲は、以下の請求の範囲を追うことによってのみ決定することができる。
【符号の説明】
【0037】
20 音響改良システム
22 車両
24 エンジン
26 ANRコントローラ
28 ESEコントローラ
30 音響改良コントローラ
32 モード選択器
34 エンジン速度センサ
36 車両速度センサ
38 車両加速度センサ
40 スロットル位置センサ
42 クルーズコントロール(走行制御)センサ
44エンジン制御装置
46 コントローラ・エリアネットワーク
48 スロットルペダル
50 マイクロホン
52 ANRメモリ
54 ANRプロセッサ
56 ESEメモリ
58 ESEプロセッサ
60 スピーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を有する車両中の音響を制御する方法であって、
定常状態の運転状況及び非定常状態の運転状況のうちのいずれか一方として前記車両の運転状況を感知するステップと、
前記定常状態の運転状況を感知したことに応じて第1音波を出力するステップと
を含むことを特徴とする車両中の音響を制御する方法。
【請求項2】
前記第1音波を出力する前記ステップは、前記非定常状態の運転状況から前記定常状態の運転状況に変わる前記車両の運転状況に応じて、前記第1音波を生成すると共に前記第1音波の振幅を徐々に増幅させることと更に定義される、請求項1に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項3】
前記第1音波の振幅を徐々に増幅させる前記ステップは、毎秒3デシベル未満の速度で行われる、請求項2に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項4】
前記第1音波の振幅を徐々に増幅させる前記ステップは、60秒を超える期間にわたり行われる、請求項3に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項5】
低減されるべき音波を感知するステップを更に含み、前記第1音波は、前記低減されるべき音波に対して実質的に180度位相が異なる反対の音波である、請求項1に記載に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項6】
エンジンのエンジン速度を感知するステップを更に含み、前記反対の音波を生成する前記ステップは、エンジン特性に従って、感知された前記エンジン速度のエンジンの音波に対して実質的に180度位相が異なる反対の音波を生成することと更に定義される、請求項5に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項7】
前記定常状態の運転状況から前記非定常状態の運転状況に変わる前記車両に応じて第2音波を生成するステップを更に含む、請求項1に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項8】
前記第2音波を生成する前記ステップは、前記定常状態の運転状況から前記非定常状態の運転状況に変わる前記車両に応じて、前記第2音波を生成すると共に前記第2音波の振幅を徐々に増幅させることと更に定義される、請求項7に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項9】
前記第2音波は、増幅されるべき音波に対して実質的に180度位相が異なるエンジン増強音波である、請求項8に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項10】
前記エンジンのエンジン速度を感知するステップを更に含み、前記エンジン増強音波を生成する前記ステップは、エンジン特性に従って、感知された前記エンジン速度において選択された前記エンジンの音波と実質的に一致するエンジン増強音波を生成することと更に定義される、請求項9に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項11】
前記車両のクルーズコントロール状態を感知するステップと、作動される前記車両のクルーズコントロールに応じて、前記車両が前記定常状態の運転状況にあると判断するステップとを更に含む、請求項1に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項12】
車両速度を感知するステップと、所定の期間にわたり所定の範囲内のままである前記車両速度に応じて、前記車両が定常状態の運転状況であると判断するステップとを更に含む、請求項1に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項13】
前記所定の範囲は、毎時±5マイルであり、前記所定の期間が5分間である、請求項12に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項14】
車室を有する車両中の音響を制御する方法であって、
定常状態の運転状況及び非定常状態の運転状況のいずれか一方として前記車両の運転状況を感知するステップと、
前記非定常状態の運転状況を感知したことに応じて第1音波を出力するステップと
を含むことを特徴とする車両中の音響を制御する方法。
【請求項15】
前記第1音波を出力する前記ステップは、前記定常状態の運転状況から前記非定常状態の運転状況に変わる前記車両の運転状況に応じて、前記第1音波を出力すると共に前記第1音波の振幅を徐々に増幅させることと更に定義される、請求項14に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項16】
前記第1音波の振幅を徐々に増幅させる前記ステップは、毎秒3デシベル未満の速度で行われる、請求項15に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項17】
増幅されるべき音波を感知するステップを更に含み、前記第1音波は、前記増幅されるべき音波と実質的に一致するエンジン増強音波である、請求項14に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項18】
前記非定常状態の運転状況から前記定常状態の運転状況に変わる車両に応じて、第2音波を出力するステップを更に含む、請求項17に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項19】
前記第2音波を生成する前記ステップは、前記非定常状態の運転状況から前記定常状態の運転状況に変わる前記車両に応じて、前記第2音波を出力すると共に前記第2音波の振幅を徐々に増幅させることと更に定義される、請求項18に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項20】
低減されるべき音波を感知するステップを更に含み、前記第2音波は、低減されるべき前記音波に対して実質的に180度位相が異なる反対の音波である、請求項19に記載の車両中の音響を制御する方法。
【請求項21】
車室を有する車両のための音響改良システムであって、
前記車両の状況を感知し、状況信号を生成するための少なくとも一つのセンサと、
前記状況信号を受信するために前記センサと通信し、定常状態の運転状況及び非定常状態の運転状況のうちのいずれか一方の状況として前記車両の運転状況を判断するように構成され、前記定常状態の運転状況である前記車両の運転状況に応じて第1音波信号を生成するように構成され、前記非定常状態の運転状況である前記車両の運転状況に応じて第2音波信号を生成するように構成された少なくとも一つのコントローラと、
前記第1音波信号及び前記第2音波信号を受信するために前記コントローラと通信し、音波を出力するための少なくとも一つのスピーカーと
を備える音響改良システム。
【請求項22】
前記センサは、エンジン速度センサ、車両速度センサ、車両加速度センサ、スロットル位置センサ、クルーズコントロールセンサのうちの1つである、請求項21に記載の音響改良システム。
【請求項23】
前記少なくとも一つのコントローラはアクティブ騒音低減コントローラであり、前記第1音波信号は、打ち消されるべき音波に対して実質的に180度位相が異なる反対の音波信号である、請求項21に記載の音響改良システム。
【請求項24】
エンジン速度を感知し、エンジン速度信号を生成するためのエンジン速度センサを更に備える、請求項23に記載の音響改良システム。
【請求項25】
前記エンジン速度センサは、前記アクティブ騒音低減コントローラと通信し、前記アクティブ騒音低減コントローラは、エンジン特性に従って、感知された前記エンジン速度の前記エンジンによって生成された前記音波に対して実質的に180度位相が異なる前記反対の音波信号を生成するように構成される、請求項24に記載の音響改良システム。
【請求項26】
前記スピーカーと通信するエンジン音増強コントローラを更に備え、前記第2音波信号は、非定常状態の運転状況である前記車両の前記運転状況に応じて、増幅されるべき音波と実質的に一致するエンジン増強音波信号である、請求項24に記載の音響改良システム。
【請求項27】
前記エンジン音増強コントローラは前記エンジン速度センサと通信し、前記エンジン音増強コントローラは、エンジン特性に従って、感知された前記速度の前記エンジンによって生成された前記音波と実質的に一致する前記エンジン増強音波信号を生成するように構成される、請求項26に記載の音響改良システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218732(P2012−218732A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86404(P2012−86404)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【出願人】(505450755)ビステオン グローバル テクノロジーズ インコーポレイテッド (140)
【Fターム(参考)】