説明

音響構造体

【課題】吸音効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整でき、より広い周波数帯域においてそれらの効果を発揮できる低コストの音響構造体を提供する。
【解決手段】音響構造体10は、円筒体21内にその内周径よりも僅かに小さな外周径をもった円筒体22を嵌合したものであり、円筒体21は円筒体22に対して回転できる。音響構造体10内には、開口部225−i(i=1〜7)のうち開口部210と重複している開口部225−iから底面板218,219の各々の長さをもった2つの閉管が形成される。この2つの閉管の共鳴周波数を含む周波数帯域の音が円筒体21に入射すると、吸音効果と散乱効果とが発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホールや劇場などの壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁面間で音が繰り返し反射することによりブーミングやフラッターエコーなどの音響障害が発生する。図10は、この種の音響障害の防止に好適な従来の音響構造体50を示す正面図である。この音響構造体50は、各々が異なる長さをもった複数の角筒状のパイプ51−j(j=1〜7)を全体として平面をなすように並列配置したものである。各パイプ51−j(j=1〜7)は、剛性率の高い材質の反射性の材料からなる。また、各パイプ51−j(j=1〜7)は、同じ方向を向いた開口部52−j(j=1〜7)を各々有している。この音響構造体50は、各パイプ51−j(j=1〜7)の開口部52−j(j=1〜7)を音響空間の中央に向けた状態で、音響空間の内壁や天井などに設置される。このようにして音響空間内に備え付けられた音響構造体50は、音響空間内からパイプ51−j(j=1〜7)の各々へ入射する入射波に対する吸音効果と散乱効果とを発揮することにより、音響空間内の音響障害の発生を防止する。この種の音響構造体50の構成の詳細は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
ここで、図10に示す音響構造体50のパイプ51−1を例にとり、パイプ51−1による吸音効果および散乱効果の発生の原理について説明する。図11は、パイプ51−1の縦断面図である。図11に示すように、パイプ51−1における開口部52−1の奥の空洞には、開口部52−1を開口端とし空洞の左側の端部を閉口端とする音響管56と、開口部52−1を開口端とし空洞の右側の端部を開口端とする音響管55とが形成されているとみなすことができる。音響空間から開口部52−1を介して空洞内に音波が入射すると、空洞内では、音響管56の開口端(開口部52−1)から閉口端(空洞の左側の端部)に向かう進行波と、音響管55の開口端(開口部52−1)から閉口端(空洞の右側の端部)に向かう進行波とが発生する。そして、前者の進行波は、音響管56の閉口端において反射され、その反射波が開口部52−1へ戻る。また、後者の進行波は、音響管55の閉口端において反射され、その反射波が開口部52−1へ戻る。
【0004】
そして、音響管56では、下記式(1)に示す共鳴周波数fa(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管56内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管56の閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。また、音響管55では、下記式(2)に示す共鳴周波数fb(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管55内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管55の閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。なお、下記式(1)および(2)において、Laは音響管56の延在方向の長さ(空洞の左側の端部から開口部52−1までの長さ)、Lbは音響管55の延在方向の長さ(空洞の右側の端部から開口部52−1までの長さ)、cは音波の伝搬速度、nは1以上の整数である。
fa=(2n−1)・(c/(4・La)) (n=1,2…)…(1)
fb=(2n−1)・(c/(4・Lb)) (n=1,2…)…(2)
【0005】
ここで、音響空間から開口部52−1及び開口部52−1のある面refにおける開口部52−1の近傍に入射する音波のうち共鳴周波数faの成分に着目すると、音響管56の閉口端において反射されて開口部52−1から音響空間へと放射される音波は、音響空間から開口部52−1に入射する音波に対して逆相の音波となる。一方、開口部52−1のある面refにおける開口部52−1の近傍では、音響空間からの入射波が位相回転を伴うことなく反射される。
【0006】
よって、図12に示すように、共鳴周波数fa(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部52−1を介して空洞に入射した場合、開口部52−1から見て入射方向(図12の吸音領域)に対しては、音響管56から開口部52−1を介して放射される音波と面refにおける開口部52−1の近傍の各点から反射される音波が逆相となって互いの位相が干渉し合い、吸音効果が発生する。また、開口部52−1からの音波と面refからの反射波とが互いに隣接する散乱領域では、開口部52−1からの音波と面refからの反射波の位相が不連続となる。このような位相差のある波が隣接することにより、散乱領域付近では、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する。この結果、散乱領域付近では、入射方向に対する鏡面反射方向以外の方向への音響エネルギーの流れが発生し、散乱効果が発生する。同様に、共鳴周波数fb(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部52−1を介して空洞に入射した場合、開口部52−1への入射方向に鏡面反射する方向(図12の吸音領域)に対しては、吸音効果が発生する。また、散乱領域付近では、散乱効果が発生する。
【0007】
また、共鳴周波数faおよびfbの各々の近傍の周波数帯域においては、共鳴周波数faまたはfbからずれていたとしても、周波数がある程度近ければ、開口部52−1から音響空間に放射される音波の位相と面refから音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になる。このため、共鳴周波数faおよびfbの各々の近傍の周波数帯域では、共鳴周波数faまたはfbに対する周波数の近さに応じた程度の吸音効果および散乱効果が発生する。以上が、パイプ51−1による吸音効果および散乱効果の発生の原理である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、開口部52−1を有する1つのパイプ51−1に共鳴現象を発生させる音の周波数帯域は、そのパイプ51−1の両端の各々から開口部52−1までの長さLa及びLbに依存して決まる。よって、特許文献1のように、両端から開口部52−j(j=1〜7)までの長さLa及びLbを変えた複数のパイプ51−j(j=1〜7)を並べて音響構造体50を構成することにより、吸音効果と散乱効果を発揮させる周波数帯域をより広くすることができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された音響構造体50の場合、各パイプ51−j(j=1〜7)の開口部52−j(j=1〜7)の位置は固定されており、各パイプ51−j(j=1〜7)の各々における吸音効果と散乱効果を発揮させる周波数帯域を利用者の好みに応じて調整することができないという問題があった。また、この音響構造体50を構成するためには、両端から開口部52−j(j=1〜7)までの長さを変えた複数のパイプ51−j(j=1〜7)を個別に製造せねばならず、その製造コストが大きくなるという問題があった。
【0011】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、吸音効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整でき、より広い周波数帯域においてそれらの効果を発揮できるような音響構造体を低コストで製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、各々の内部に空洞が形成され且つ前記空洞を囲む側面に開口部が設けられた一対の筒体のうち一方の筒体を他方の筒体に嵌合した音響構造体であって、一方の筒体の他方の筒体に対する相対的な回転角度に応じて当該一方および他方の筒体の側面の開口部の重複部位が変化するように構成されていることを特徴とする音響構造体を提供する。
【0013】
この発明である音響構造体の利用者は、一方の筒体に対する他方の筒体の相対的な回転角度を変えることにより、吸音効果と散乱効果を発揮させる周波数帯域を調整することができる。また、一方の筒体に対する他方の筒体の相対的な回転角度を様々に変えた複数の音響構造体を備え付けることにより、より広い周波数帯域において音響効果と散乱効果を発揮させることができる。従って、両端から開口部までの長さを様々に変えた複数の筒体を個別に製造してそれらを音響空間内に配置したのと同様の音響効果と散乱効果を、より低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1実施形態である音響構造体の構成を示す斜視図である。
【図2】同音響構造体の円筒体を示す図である。
【図3】同音響構造体の円筒体を示す図である。
【図4】同音響構造体の円筒体の縦断面図である。
【図5】この発明の第2実施形態である音響構造体の構成を示す斜視図である。
【図6】同音響構造体の円筒体を示す図である。
【図7】この発明の第3実施形態である音響構造体の構成を示す斜視図である。
【図8】この発明の他の実施形態である音響構造体の構成を示す図である。
【図9】この発明の他の実施形態である音響構造体の構成を示す図である。
【図10】従来の音響構造体の構成を示す正面図である。
【図11】同音響構造体をなすパイプの縦断面図である。
【図12】同音響構造体による吸音効果と散乱効果とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響構造体10の構成を示す斜視図である。音響構造体10は、中空の円筒体21内にその内周径よりも僅かに小さな外周径をもった円筒体22を嵌合したものである。この音響構造体10は、上述した従来の音響構造体50における1本のパイプ51−jに相当する役割を果たすものであり、パイプ51−jと同様、音響空間の壁や天井に複数まとめて平面状に配列され、吸音効果および散乱効果を発生するものである。図2(A)は、音響構造体10における円筒体21を示す斜視図であり、図2(B)は、その展開図である。図3(A)は、円筒体22を示す斜視図であり、図3(B)は、その展開図である。
【0016】
図2(A)に示すように、円筒体21は、軸方向に延在する側面板211と、側面板211における軸方向の両端辺218,219に各々接合された円状の底面板212,213とを有する。円筒体21の内部は側面板211と底面板212,213に囲まれた空洞になっている。図3(A)に示すように、円筒体22は、軸方向に延在する側面板221と、側面板221における軸方向の両端辺228,229に各々接合された円状の底面板222,223とを有する。円筒体22の内部は側面板221と底面板222,223に囲まれた空洞になっている。これらの板211,212,213,221,222,223は剛性率の高い材質の反射性の材料からなる。
【0017】
図2(A),図2(B)に示すように、円筒体21の側面板211にはその端辺219から端辺218に向かう方向に沿って開口部210が設けられている。この開口部210は、側面板211における端辺218,219の間を幅dをもって一直線状に切り取ったものである。側面板211における開口部210を挟む両端辺216,217は、円筒体21の軸と平行に延在している。
【0018】
図3(A),図3(B)に示すように、円筒体22の側面板221にはその端辺229から端辺228に向かう方向に沿って開口部225−i(i=1〜7)が設けられている。開口部225−i(i=1〜7)は楕円状をなしている。開口部225−i(i=1〜7)の向きは、各々の長軸が円筒体22の軸と平行になるように揃えられている。開口部225−i(i=1〜7)の短軸方向の幅は、円筒体21の開口部210の幅dよりも小さくなっている。開口部225−i(i=1〜7)は、側面板221における一方の端辺229から他方の端辺228に向かって螺旋を描くようにして同じ間隔を空けて設けられている。
【0019】
円筒体21内に円筒体22が嵌合された状態において、円筒体22の側面板221の外周は、円筒体21の側面板211の内周に対して僅かな摩擦力をもって摺接している。また、図1に示すように、円筒体21の開口部210からは円筒体22が露出している。利用者は、円筒体21の開口部210からその内側の円筒体22に手指をあてて力を加えることにより、円筒体21に対して円筒体22を相対的に回転させることができる。ここで、円筒体21に対する円筒体22の回転によって円筒体21の開口部210が円筒体22の開口部225−i(i=1〜7)のいずれかと重複すると、円筒体22内の空洞はその重複部位(すなわち、開口部225−i(i=1〜7)のうち開口部210と重複している開口部225−i)を介して外部空間と連通する。
【0020】
本実施形態によると、利用者は、音響構造体10の円筒体21に対する円筒体22の回転角度を変えることにより、円筒体22の開口部225−i(i=1〜7)のうち円筒体22内部の空洞と外部空間とを連通させる開口部225−iを切り換えることができ、音響効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。より具体的に説明すると、たとえば、図1の例に示す音響構造体10では、円筒体21の開口部210と円筒体22の開口部225−2とが重複し、円筒体22内の空洞は開口部225−2を介して外部空間と連通している。
【0021】
図4(A)の縦断面図に示すように、この状態の音響構造体10内には、開口部225−2から底面板222,223の各々までの長さL11およびL12をもった2つの閉管41,42が形成される。従って、この状態の音響構造体10では、閉管41,42の各々の長さL11,L12を前掲の式(1),(2)のLa及びLbとした場合に式(1),(2)から求まる共鳴周波数fa,fb(La=L11,Lb=L12)の近傍の周波数帯域において、吸音効果を発生し、散乱効果が発生する周波数帯域もこの共鳴周波数fa,fb(La=L11,Lb=L12)に依存した帯域となる。
【0022】
また、図1の例に示す音響構造体10における円筒体21に対して円筒体22を360/7度だけ図1の矢印方向に回転させると、円筒体21の開口部210と円筒体22の開口部225−3とが重複し、円筒体22内の空洞が開口部225−3を介して外部空間と連通する。
【0023】
図4(B)の縦断面図に示すように、この状態の音響構造体10内には、開口部225−3から底面板222,223の各々までの長さL21およびL22をもった2つの閉管43,44が形成される。従って、この状態の音響構造体10では、閉管43,44の各々の長さL21,L22を前掲の式(1),(2)のLa及びLbとした場合に式(1),(2)から求まる共鳴周波数fa,fb(La=L21,Lb=L22)の近傍の周波数帯域において、吸音効果を発生し、散乱効果が発生する周波数帯域もこの共鳴周波数fa,fb(La=L21,Lb=L22)に依存した帯域となる。
【0024】
よって、利用者は、各々の円筒体21に対する円筒体22の回転角度を様々に変えた複数の音響構造体10を音響空間内に備え付けることにより、より広い周波数帯域において吸音効果および散乱効果を発揮させることができる。
【0025】
また、本実施形態では、音響構造体10が2つの円筒体21及び22により構成されている。よって、円筒体21に対する円筒体22の回転により、円筒体21の開口部210と円筒体22の開口部225−2との重複部分を連続的に調整できる。従って、吸音効果及び散乱効果の程度の微調整を容易に行うことができる。
【0026】
<第2実施形態>
図5は、この発明の第2実施形態である音響構造体10Aの構成を示す斜視図である。音響構造体10Aは、中空の円筒体21内にその内周径よりも僅かに小さな外周径をもった中空の円筒体23を嵌合したものである。この音響構造体10Aの円筒体21の構成は、音響構造体10の円筒体21の構成(図2(A),図2(B))と同じである。図6(A)は、音響構造体10における円筒体23を示す斜視図であり、図6(B)は、その展開図である。
【0027】
図6(A)に示すように、円筒体23は、軸方向に延在する側面板231と、側面板231における軸方向の両端辺238,239に各々接合された円状の底面板232,233とを有する。円筒体23の内部は側面板231と底面板232,233に囲まれた空洞になっている。各板231,238,239は剛性率の高い材質の反射性の材料からなる。
【0028】
図6(A),図6(B)に示すように、円筒体23の側面板231にはその端辺239から端辺238に向かう方向に沿って開口部235が設けられている。この開口部235は、側面板231における軸方向の両端辺239,238の間を円筒体21の開口部210の幅dとおなじ幅dをもって螺旋状に切り取ったものである。
【0029】
円筒体21内に円筒体23が嵌合された状態において、円筒体23の側面板231の外周は、円筒体21の側面板211の内周に対して僅かな摩擦力をもって摺接している。また、図5に示すように、円筒体21の開口部210からは円筒体23が露出している。利用者は、円筒体21の開口部210からその内側の円筒体23に手指をあてて力を加えることにより、円筒体21に対して円筒体23を相対的に回転させることができる。ここで、円筒体21に対する円筒体23の回転角度がいずれの場合においても、筒体21の開口部210は筒体23の開口部235と交差して矩形状の重複部位を形成し、円筒体23内の空洞はこの重複部位を介して外部空間と連通する。そして、円筒体21に対して円筒体23が図5に示す矢印方向に回転すると、重複部位は底面板222の方向(図5の上方)に移動し、その反対の方向に回転すると、重複部位は底面板223の方向(図5の下方)に移動する。
【0030】
本実施形態によると、利用者は、音響構造体10Aの円筒体21に対する円筒体23の回転角度を変えることにより、筒体21の開口部210と筒体23の開口部235の重複部位を移動させることができ、音響効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。
【0031】
<第3実施形態>
図7(A)は、この発明の第3実施形態である音響構造体10Bの構成を示す斜視図である。音響構造体10Bは、各々の断面を360/n(nは、3以上の整数。たとえば、n=6とする)度対称とする一対の角筒体31,32からなる。この一対の角筒体31,32は、一方の角筒体31内に他方の角筒体32を着脱自在に構成されている。図7(B)は、角筒体31を示す斜視図であり、図7(C)は、角筒体32を示す斜視図である。
【0032】
図7(B)に示すように、角筒体31は、長方形状の側面板311−m(m=1〜5)と、側面板311−m(m=1〜5)における軸方向の一端に接合された正六角形の底面板312とを有する。角筒体31の内部は側面板311−m(m=1〜5)と底面板312に囲まれた空洞になっている。また、角筒体31における側面板311−1と側面板311−5の間には側面板311−m一枚分に相当する開口部313が設けられている。また、角筒体31の側面板311−m(m=1〜5)の他端には板が接合されておらず、その他端の側には底面板312と同じ正六角形の開放面315が形成されている。
【0033】
図7(C)に示すように、角筒体32は、長方形状の側面板321−n(n=1〜6)と、側面板321−n(n=1〜6)における軸方向の一端と他端に各々接合された正六角形状の底面板322,323とを有する。角筒体32の内部は側面板321−n(n=1〜6)と底面板322,323に囲まれた空洞になっている。また、側面板321−n(n=1〜6)の各々には開口部324−n(n=1〜6)が設けられている。開口部324−n(n=1〜6)は同じ寸法の楕円状をなしている。底面板323から側面板321−n(n=1〜6)の開口部324−n(n=1〜6)までの軸方向の距離は各々異なる。
【0034】
上述したように、角筒体31の側面板311−m(m=1〜5)の他端の側は正六角形の開放面315となっている。利用者は、角筒体31の開放面315に角筒体32の底面板323を嵌合し、角筒体32をその底面板323が角筒体31の底面板312に当接するまで押し込むことにより、角筒体31内に角筒体32を装着することができる。図7(A)に示すように、角筒体32が角筒体31内に嵌合された状態において、外側の角筒体31の開口部313からは内側の角筒体32の側面板321−n(n=1〜6)のうちのひとつ(図7(A)の例では側面板321−6)が露出し、角筒体32内の空洞は側面板321−6の開口部324−6を介して外部空間と連通している。
【0035】
利用者は、角筒体31の開口部313からその内側の角筒体32の側面板321−6に手指をあてて力を加えることにより、角筒体32を角筒体31の開放面315の方(図7(A)の上方)に動かし、角筒体31と角筒体32とを分離させることができる。そして、利用者は、角筒体31から角筒体32を分離した後、角筒体32を角筒体31に対して60・m(m=1〜5)度回転させて角筒体31内に再び嵌合することにより、角筒体32の開口部324−n(n=1〜6)のうち角筒体32内部の空洞と外部空間とを連通させる開口部324−nを切り換えることができ、音響効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。
【0036】
また、本実施形態では、音響構造体10Bが2つの角筒体31及び32により構成されている。よって、角筒体31内へ嵌合する角筒体32の角度を60・m(m=1〜5)度ずつ変えることにより、角筒体31の開放面315と角筒体32の開口部324−nとの重複部分を非連続的に調整できる。従って、吸音効果及び散乱効果の程度を所定の設計特性に合ったものにする作業を簡単に行うことができる。
【0037】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1実施形態である音響構造体10において、円筒体22内に円筒体21を嵌合してもよい。また、第2実施形態である音響構造体10Aにおいて、円筒体23内に円筒体21を嵌合してもよい。
【0038】
(2)上記第2実施形態である音響構造体10Aでは、円筒体23の側面板231にその側面板231の外周を1周する螺旋状の開口部235が設けられていた。しかし、円筒体23の側面板231にその外周を2周する螺旋状の開口部235’を設けてもよい。この場合、円筒体21の開口部210と円筒体23の開口部235’の重複部位が2か所になる。よって、この実施形態である音響構造体10A’内には、2つの閉管と1つの開管(両端が開いている管)が形成される。
【0039】
(3)上記第1および第2実施形態である音響構造体10,10Aでは、円筒体21の側面板211における開口部313は、円筒体21の軸と平行な一直線状をなしていた。しかし、複数の開口部を円筒体21の軸と平行な一直線をなすように並べて配してもよい。また、1つの開口部または複数の開口部を曲線をなすように形成してもよい。
【0040】
(4)上記第3実施形態である音響構造体10Bでは、一対の角筒体31,32は、各々の断面を360/6度対称とする六角柱状をなしていた。しかし、断面を360/4度対称とする4角柱状の一対の角筒体により音響構造体を構成してもよいし、断面を360/8度対称とする8角柱状の一対の角筒体により音響構造体を構成してもよい。
【0041】
(5)上記第1実施形態において、円筒体21の底面板212と円筒体22の底面板222の側を開放面としてもよいし、円筒体21の底面板213と円筒体22の底面板223の側を開放面としてもよい。また、底面板212及び底面板222と反対側の底面板213及び底面板223の両方を開放面としてもよい。同様に、第2実施形態において、円筒体21の底面板212と円筒体23の底面板232の側を開放面としてもよいし、円筒体21の底面板213と円筒体23の底面板233の側を開放面としてもよい。また、底面板212及び底面板232と反対側の底面板213及び底面板233の両方を開放面としてもよい。
【0042】
(6)上記第2実施形態における音響構造体10Aは、円筒体21に対する円筒体23の回転角度を変えることにより、筒体21の開口部210と筒体23の開口部235の重複部位を移動させる構成になっていた。しかし、円筒体21及び23のうち一方を軸方向に移動させることにより、筒体21の開口部210と筒体23の開口部235の重複部位を移動させる構成としてもよい。図8は、この実施形態である音響構造体10Cの構成を示す図である。
【0043】
図8に示すように、音響構造体10Cは、円筒体61の内側に円筒体61の内周径よりも僅かに小さな外周径をもった円筒体62を嵌合したものである。この音響構造体10Cにおける円筒体61の側面板611の軸方向の長さは、円筒体62の側面板621の軸方向の長さよりも短くなっている。そして、円筒体61の側面板611には、円筒体61の円周方向に一直線状に伸びる開口部615が設けられており、円筒体62の側面板621には、円筒体62の軸方向(開口部615と直交する方向)に一直線状に伸びる開口部625が設けられている。開口部615における円周方向の長さLCIRは、開口部625における円周方向の幅dCIRよりも十分に大きくなっている。また、開口部625における軸方向の長さLAXは、開口部615における軸方向の幅DAXよりも十分に大きくなっている。この音響構造体10Cでは、外側の円筒体62を内側の円筒体61に対して軸方向に移動させることにより、円筒体61の開口部615と円筒体62の開口部625の重複部位を軸方向に移動させ、音響効果と散乱効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。
【0044】
この実施形態の音響構造体10Cの構成を概念的に示すと、次のようになる。「各々の内部に空洞が形成され且つ前記空洞を囲む側面に開口部が設けられた一対の筒体のうち一方の筒体を他方の筒体に嵌合した音響構造体であって、一方の筒体の他方の筒体に対する軸方向の相対的な位置に応じて当該一方および他方の筒体の側面の開口部の重複部位が変化するように構成されていることを特徴とする音響構造体。」
【0045】
(7)上記第1〜第3実施形態における音響構造体10,10A,10Bは、一対の筒体により構成されていた。しかし、音響構造体を、開口部が設けられた1つの筒体と、この筒体の開口部の一部を塞ぐカバーとにより構成してもよい。例えば、音響構造体の筒体の側面に、異なる形状(例えば、丸形、正方形、長方形、星形など)を持った複数の開口部を軸方向に並べるようにして設け、これら複数の開口部のうち一つを除いた残りのものをカバーにより塞ぐようにしてもよい。この実施形態によると、複数の開口部のうちカバーにより塞がないものを変えることにより、音響効果と吸音効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。
【0046】
(8)上記第1〜第3実施形態の音響構造体10,10A,10Bにおいて、一対の筒体のうち一方を他方の側面の側から嵌合するようにしてもよい。図9(A)は、この実施形態である音響構造体10Dの側面図である。また、図9(A’)は、図9(A)のa−a線断面図である。図9(A”)は、図9(A)を矢印b方向から見た図である。図9(A),図9(A’),及び図9(A”)に示すように、音響構造体10Dは、角筒体71と角筒体72とからなる。図9(B)は、角筒体71の側面図であり、図9(B’)は、図9(B)のb−b線断面図である。図9(C)は、角筒体72の側面図であり、図9(C’)は、図9(C)のc−c線断面図である。
【0047】
図9(B)及び図9(B’)に示すように、角筒体71は、側面711,712,713,714により囲まれた直方体状をなしている。角筒体71の側面711と側面714には、側面711における一方の端辺から側面714における反対側の端辺へ斜め方向に延在する開口部715が設けられている。図9(C)及び図9(C’)に示すように、角筒体72は、側面721,722、723を、側面722を介して側面721及び723が向かい合うようにコの字状に交差させた形状をなしている。角筒体72の側面721には、当該角筒体72の延在方向に沿って一直線状に延在する開口部725がある。ここで、本実施形態では、角筒体71の側面711及び714のうち何れか一方の面を角筒体72に向けてその側面721及び723間に挿入することにより、角筒体71と角筒体72とを嵌合させることができる。本実施形態では、角筒体71の側面711及び714のうち何れを角筒体72に向けて嵌合させるかにより、開口部715及び725の重複部分の位置が変わる。よって、本実施形態によると、音響効果と吸音効果とを発揮させる周波数帯域を調整することができる。
【0048】
(9)上記第1〜第3実施形態の音響構造体10,10A,10Bでは、開口部が側面板の対角線に沿って設けられていた。しかし、側面板の対角線に沿ったものでない配列を持って開口部を設けてもよい。この実施形態によると、側面板に設けられた複数の開口部の対称性が無くなり、音響効果と吸音効果とを発揮させる周波数帯域をより多様に調整することができる。
【符号の説明】
【0049】
10,10A,10B…音響構造体、21,22,23…円筒体,31,32…角筒体、211,221,231,311,321…側面板、212,213,222,223,232,233,322,323…底面板、210,225,235,313,324…開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の内部に空洞が形成され且つ前記空洞を囲む側面に開口部が設けられた一対の筒体のうち一方の筒体を他方の筒体に嵌合した音響構造体であって、一方の筒体の他方の筒体に対する相対的な回転角度に応じて当該一方および他方の筒体の側面の開口部の重複部位が変化するように構成されていることを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
前記一対の筒体のうち一方の筒体の側面には、この筒体の一方の底面から他方の底面に向かう方向に沿って、線状をなす一または複数の開口部が設けられ、前記一対の筒体のうち他方の筒体の側面には、この筒体の一方の底面から他方の底面に向かう方向に沿って、前記線状をなす一または複数の開口部と交差するように、螺旋をなす一または複数の開口部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の音響構造体。
【請求項3】
前記一対の筒体の各々は、断面を360/n(nは3以上の整数とする)度対称とする筒体であり、前記一対の筒体のうち外側の筒体の軸方向の一端または他端の側には開放面が形成され、前記一対の筒体のうち内側の筒体が前記一方の筒体の開放面を介して当該一方の筒体内に着脱自在に構成されていることを特徴する請求項1に記載の音響構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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