説明

音響装置、音量補正装置および音量補正方法

【課題】聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正すること。
【解決手段】音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を、異なる平均化時間で平均化し、異なる平均化時間ごとに算出された平均値を個別に重み付け値を用いて重み付けし、重み付けされた各平均値に基づいて代表値を求め、求めた代表値に基づいて音響信号の利得を決定し、かかる利得に基づいて音量を補正するように音響装置を構成する。また、上記の代表値は、上記の重み付けされた各平均値の内、利得が最小となる平均値を選択して求められ、上記の異なる平均化時間の平均化は、信号レベル値の変動が急峻な音響信号に対応する平均化時間を用いる第1の平均化と、第1の平均化の平均化時間よりも長い平均化時間を用いる第2の平均化とを少なくとも行うように音響装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号の音量を補正する音響装置、音量補正装置および音量補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジオチューナーやCD(Compact Disc)プレイヤーなど、複数の音響ソースの音響信号を再生する音響装置が知られている。また、かかる音響装置は、据え置き型のコンポーネントオーディオや車載用音響装置など、その種類も豊富である。
【0003】
特に、車載用音響装置は、近年のカーナビゲーションシステムとの融合や携帯型デジタル音楽プレイヤーとの連携により、DVD(Digital Versatile Disc)、DTV(Digital Television)チューナーあるいはAUX(Auxiliary)端子入力など、再生される音響ソースの多様化が進んできている。
【0004】
ところで、各音響ソースの特性は、再生帯域や、アナログおよびデジタルといった信号の種別などに示されるように、それぞれ異なるのが通常である。そして、かかる特性の違いは、音響ソースの切り替え時に再生音量の変化を招きやすく、聴取者に対しても違和感を与えがちである。
【0005】
また、AUX端子に接続される携帯型デジタル音楽プレイヤーの普及により、かかる再生音量の変化の発生は、音響ソースの切り替え時だけでなく、同一音響ソースの楽曲間(すなわち、音響コンテンツ間)においても目立ちやすくなってきている。
【0006】
そこで、かかる音量変化を生じさせないように、音響ソースや楽曲の切り替わり時における音響信号の信号レベル値に基づいて利得を算出し、かかる利得に基づいて音量を補正する技術が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。ここで、信号レベル値については、一定時間における信号レベルの平均値などがよく用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−359184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術を用いた場合、音量補正が不十分なため、聴取者に与える違和感を拭いきれないという問題があった。たとえば、楽曲は、1曲中に多くの再生帯域を含み、一定時間におけるその変動も、激しいものから緩やかなものまで多種多様である。したがって、このような楽曲の信号レベルの平均値を求めるにあたっては、適正な平均化時間を定めるだけでも非常に困難であった。
【0009】
また、前述の利得についても、適正な利得を算出するにあたっては、楽曲の再生前にあらかじめ楽曲全体の信号レベルの遷移を解析することが好ましい。しかしながら、かかる手法を用いた場合、音響装置に大きな処理負荷をかけやすく、速やかに音量補正を行えない可能性が高い。すなわち、聴取者へ違和感を与える可能性が高い。
【0010】
これらのことから、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正することができる音響装置あるいは音量補正方法をいかにして実現するかが大きな課題となっている。なお、かかる課題は、音量補正に特化した音量補正装置についても同様に生じる課題である。
【0011】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正することができる音響装置、音量補正装置および音量補正方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、音響信号を再生する音響装置であって、前記音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を、異なる平均化時間で平均化する複数の平均化手段と、前記平均化手段ごとに算出された前記平均値を個別に重み付け値を用いて重み付けする重み付け手段と、前記重み付け手段によって重み付けされた前記平均値に基づいて代表値を求める代表値決定手段と、前記代表値に基づいて前記音響信号の利得を決定し、当該利得に基づいて音量を補正する音量補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、音響信号の音量を、前記音響信号の信号レベルの変動に応じて設定される音量補正量に基づき補正する音量補正装置であって、音声情報の初期部分の信号レベルに応じて前記音量補正量を設定する初期音量補正量設定手段と、前記音声情報の信号レベルを再生に伴い順次検出する信号レベル検出手段と、前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルに応じて音量補正量更新値を導出する補正量導出手段と、前記音量補正量更新値による制御が、設定されている前記音量補正量による制御より音量が下がる場合に、前記音量補正量を前記音量補正量更新値で更新する音量補正量更新手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、音響コンテンツに応じて再生音量を調整する機能を有する音響装置であって、前記音響コンテンツの信号レベルを順次検出する信号レベル検出手段と、前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルの最大値に対応する調整値で前記音響コンテンツの音響信号のレベルを調整するレベル調整手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を異なる平均化時間で算出し、算出された前記平均値を所定の重み付け値を用いて個別に重み付けし、重み付けされた平均値に基づいて代表値を決定し、かかる代表値に基づいて音響信号の利得を決定し、かかる利得に基づいて音量を補正することとしたので、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明によれば、音声情報の初期部分の信号レベルに応じて音量補正量を設定し、音声情報の信号レベルを再生に伴い順次検出し、検出された信号レベルに応じて音量補正量更新値を導出し、音量補正量更新値による制御が、設定されている音量補正量による制御より音量が下がる場合に、音量補正量を音量補正量更新値で更新することとしたので、デバイスに大きな処理負荷をかけずに、速やかに音量を補正することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明によれば、音響コンテンツの信号レベルを順次検出し、検出された信号レベルの最大値に対応する調整値で音響コンテンツの音響信号のレベルを調整することとしたので、デバイスに大きな処理負荷をかけずに、速やかに音量を補正することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、音楽波形と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【図2】図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。
【図3】図3は、音量補正処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、信号レベルと補正値を対応付けたテーブルの一例を示す図である。
【図5】図5は、DSPの行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【図6】図6は、入力音響信号の遷移を示す図である。
【図7】図7は、音量補正手法例の概要を示す図である。
【図8】図8は、音響装置の構成例を示す図である。
【図9】図9は、DSPの処理ブロックの構成例を示す図である。
【図10】図10は、第1BPFおよび第2BPFの通過帯域を示す図である。
【図11】図11は、第1積分回路および第2積分回路の構成例を示す図である。
【図12】図12は、重み係数情報の説明図である。
【図13】図13は、重み係数設定の変形例を示す図である。
【図14】図14は、選択部の構成例を示す図である。
【図15】図15は、DSP10が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る音量補正手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、先ず本発明に係る音量補正手法例の基本的機能を実現する部分について、その構成、動作等を図1〜図6を用いて説明する。そして、その後に更に詳細な機能について、その構成、動作等を図7以降を用いて説明する。また、以下では、音量補正の対象となる音響データが主に楽曲である場合について説明する。なお、かかる楽曲単位に相当する音響データあるいは音響信号については、「音響コンテンツ」または「音声情報」と記載する場合がある。
【実施例】
【0020】
[基本的機能について]
音響信号の音量補正は、理想的には曲全体のレベル分布(基本的には最大レベル)に基づき増幅器の利得(減衰器の減衰度)を決めるのが好ましい。しかし、この方法の場合は、曲再生前の曲全体に渡って解析を行って利得を決める必要があり、処理負荷が大きい、利得決定に時間がかかり再生が速やかに行われない問題がある。
【0021】
そこで、本実施例の基本的音量補正動作は、楽曲を再生しつつ信号レベル値を監視し音量を補正する、例えば信号レベル値の移動平均値に基づき音量補正を行う動作をその基本としている。尚、この場合、曲頭部分における所定期間だけ監視して補正値を決め、その後(当該曲の再生中)はその補正値を用いる方法や、更にその後最大値を超える信号が検出された場合には一次的に音量を下げる処理を加えた方法等を適用する。
【0022】
また、音響ソース間、あるいは同一音響ソースの楽曲間の信号レベル差を補正して、音響ソース、あるいは楽曲が変化した際にもユーザの好みの音量での再生が維持されるようにする技術があるが、それは大別して、「音響コンプレッサ技術の応用」、「心理音響モデルを用いた手法」がある。
【0023】
「音響コンプレッサ技術の応用」は信号レベルに応じてダイナミックレンジを圧縮する技術に基づく処理で、比較的に少ない処理量で済むが、音楽のダイナミックレンジが小さくなり、本来有している音質や抑揚表現を犠牲にすると言った問題がある。これに対して、「心理音響モデルを用いた手法」は、音響信号の有する特性を人の聴覚フィルタモデルから周波数帯域毎に分析し、聴感上の最適な音量バランスを導き、差を補正する技術で、自然な聴感を得ることが可能であるが、聴感フィルタ等の解析処理量が大きくなるため、補正専用集積回路が必要となる等、コストアップにつながる。
【0024】
本実施例の音量補正手法は、このような課題に対するもので、処理量が比較的小さくて済み(あるいは回路規模が比較的小さくて済み)、かつ音質等の劣化を抑えた音量補正を実現する。
【0025】
そして、これらの目的から、本音量補正手法における動作上の基本的な特徴は次の通りである。尚、実際の制御は、処理負荷や再生時間遅れの抑制を考慮して、この特徴に沿った制御となるような処理を行う。
【0026】
第1に、1曲の再生中に音響信号のレベルを常に補正すると、補正値の変化により、音量のふらつき/音楽の抑揚表現の低下、音色が変わる恐れがある。そのため、同曲(同曲と捕らえられる期間)中は基本的に補正値を一定に保つ。第2に、補正値は、当該曲の平均レベルと目標値との差分とする。第3に、ユーザが実際にボリュームを操作する際は、1曲内で細かな操作はしないことを踏まえ、こまめに補正するのではなく、入力信号が大きいときのみ補正値を下げる。
【0027】
次に音楽波形例を示して本音量補正手法の制御内容を説明する。尚、音量補正の主要ハード構成は、ユーザの操作するボリュームの前段に配置され、内部ボリュームとして機能する増幅回路で、当該増幅回路のゲイン(増幅率あるいは減衰率)を制御して音量補正を行う。図1は、音楽波形(所定サンプリングタイミングでのAD変換値で表示)と、目標レベル、増幅器のゲインの変化を表すタイムチャートである。
【0028】
曲A再生中、増幅器のゲインは曲Aの信号レベルに応じたゲインGSPとなっている。そして、曲が変わったタイミングtr1(例えば、音楽ディスク等における曲情報(トラック番号)の変化、無音部分の継続時間等で曲変化を検知し、トリガ信号を出力する)でゲインは初期ゲインGDに変化する。
【0029】
その後、新しい再生曲Bの初期部分(所謂曲頭部分)の信号レベル(最初のサンプリングタイミングでの信号レベル)や、所定数のサンプリング時(所定時間経過時:つまり曲の初期部分の平均レベルとなる)等の平均信号レベル等に基づきゲインを算出して、増幅器を制御する。本例では、最初のサンプリングタイミングでの信号レベルS1に基づきゲインGS1を算出し、増幅器を制御している。
【0030】
尚、信号レベルは音響信号を適当な時定数を持つ積分フィルタ(ローパスフィルタ)を用いてフィルタリング処理したものを、所謂移動平均処理することにより算出される。尚、本例では、移動平均処理の曲変更(トリガtr)に伴ったリセット処理は行わない。
【0031】
その後の信号レベルS2〜S8は、信号レベルS1より小さいため、ゲインGS1は維持される。そして、その後信号レベルS9が信号レベルS1を超えたため、新しいゲインGS9が算出され、増幅器はゲインGS9で制御される。その後、曲Bが終了となるまで信号レベルS9を超えることが無いため、ゲインGS9は曲終了まで維持される。そして、次の曲Cに再生が移ると、曲Bと同様の処理(再度、ゲインの初期化から実行)が、曲変更のトリガ信号tr2に基づき開始される。尚、電源ON時等、最初の曲再生時にも、トリガtrが出力され、曲変更時と同様の動作となる。
【0032】
つまり、大まかに動作を説明すると、曲変更時に曲頭部分(すなわち、音声情報の初期部分)の信号レベルに応じて音量補正量(補正用増幅器のゲイン)を定め(すなわち、初期音量補正量の設定)、その後は当該曲での最高信号レベルが更新された場合に音量補正量を更新する(補正用増幅器のゲインを下げる)、つまり当該曲での最高信号レベルが更新されるまで、音量補正量を維持する(補正用増幅器のゲインを維持する)動作となる。
【0033】
次に本実施例の音響装置における音量補正主要構成について説明する。尚、音響装置全体像については、後述する。図2は、音量補正主要構成を示す構成図である。なお、図2においては、制御信号を点線で、デジタル音響信号を太線で、アナログ音響信号を細線で、それぞれ示している。
【0034】
マルチメディア制御マイコン100は、音響装置全体の動作を制御するマイコンで、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等により構成され、メモリに記憶されたプログラムに応じて各種処理を行う。
【0035】
特に音量補正制御において、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105からの信号を入力し、当該信号に含まれる曲ナンバーデータ等に基づき、また後述の音量レベルデータ(音量レベルデータから判断される無音区間)に基づき、再生曲の変更を検出する。尚、マルチメディア制御マイコン100は、携帯音楽プレイヤー(USBメモリオーディオ)105から入力される音響データについては、特に加工せずにDSP(Digital Signal Processor)101に出力する。
【0036】
DSP101はデジタルシグナルプロセッサ、所謂音響信号等の演算処理に特化したマイクロコンピュータで、設定されたプログラム、パラメータ(演算係数等)等に応じてマルチメディア制御マイコン100からの音響信号を演算処理する。主な処理を処理ブロックとして表現すると、図2に示すように、音量補正処理部201,クロスオーバ部202,ポジション制御部203,音量調整部204,イコライザ部205,ラウドネス部206,音場制御部207等となる。
【0037】
音量補正処理部201は、曲の信号レベルに応じて音量補正処理を行う部分であり、詳細は後述する。また、クロスオーバ部202は左右チャンネルの信号の分離度を調整するもので、例えばユーザによるステレオ感の強度調整操作に応じて左右チャンネルの信号を混合する処理等を行う。ポジション制御部203は、特に自動車用オーディオに搭載される機能で、乗員の各座席への着座状態に応じて各スピーカから出力する信号のレベル、位相等を調整して、着座状態に適した音響再生制御を行うものである。
【0038】
音量調整部204は、ユーザの音量調整操作に応じて音響信号のレベルを調整するもので、入力音響信号のレベルには関係なく、ユーザの音量調整量に応じて増幅器の増幅率を決める(DSP101では音響信号のデジタル値に、ユーザの音量調整量に応じた係数を積算する)。イコライザ部205は、音響信号の周波数特性を調整するもので、ユーザの音質調整量(各周波数帯でのゲイン調整量)に応じて各周波数帯の信号を各々の増幅率で増幅する。
【0039】
ラウドネス部206は、ユーザの音量調整操作に応じた増幅率で、音響信号の低周波領域および高周波領域の信号を選択的に増幅する。そして、音場制御部207は、音響信号の残響音の付加処理等を施し、ある空間、例えばコンサートホールでの音楽再生を疑似化するもので、音響信号の遅延、増幅、加算処理等により、音場の疑似化を実現する。
【0040】
DAC102はデジタル−アナログ変換器で、DSP101で処理されたデジタル音響信号をアナログ音響信号に変換する回路である。そして、AMP103はDAC102からのアナログ音響信号を増幅してスピーカ104から出力する電力増幅器でトランジスタ等により構成される。
【0041】
次に音量補正処理部201の構成について説明する。図3は音量補正処理部201の構成を示すブロック図で、DSP101での処理を処理ブロックとして表現している。
【0042】
信号レベル計算部301は、入力音響信号の信号レベルを算出する。言い換えれば、音響コンテンツまたは音声情報の信号レベルを再生に伴って順次検出する。その具体的処理は、入力音響信号(デジタル値)の移動平均処理(すなわち、音声情報のフィルタリング処理)で、本実施例では時定数の異なる移動平均処理(平均化期間、及び当該期間における各値の重み付けを適宜設定)を行い、さらに各移動平均値を重み付け処理し(異なったゲインで増幅(異なった係数を積算))、そしてそれらの処理値の最大値を信号レベルとして選択および決定する処理を行う。尚、ユーザの操作により、上記時定数を設定できるようにすれば、ユーザ好みの反応速度での音量補正が行える。
【0043】
補正値計算部302は、音響信号の補正値、つまり音響信号の音量補正のために増幅処理するそのゲインを算出する(言い換えれば、音量補正量更新値を導出、もしくは、最大値に対応する調整値を算出する)。本実施例の場合、この算出はテーブルを用いた算出法、つまり信号レベルと補正値を対応付けたテーブルをメモリに記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルに基づきテーブルから補正値を選択し制御に用いる補正値を算出する。
【0044】
図4は、このテーブル例を示す図で、信号レベルに対応付けて補正値(補正用アンプのゲイン)が記録され、また本実施例の場合はユーザの指定した補正強度(ユーザが操作部の操作により音量補正の効果の程度を指定するもので、本例では大中小の3段階)毎に補正値が記憶されている。このように構成すれば、ユーザ好みの補正の影響度での音量補正が行える。尚、メモリに信号レベルをパラメータとする計算式を記憶しておき、信号レベル計算部301で計算された信号レベルをこの計算に適用することにより補正値を算出する方法も適用可能である。
【0045】
切替通知部303は、曲の変更(電源ON時、ソース(音源)切替も含む)に基づき、補正のリセット処理を行うものである。本実施例では、マルチメディア制御マイコン100が曲切替、ソース切替、電源ON等を検知し、DSP101に曲切替信号(音量補正処理トリガ)を出力し、切替通知部303が当該トリガ信号に基づき、補正値を初期化(補正値を初期補正値GDに変更)する処理となっている。
【0046】
尚、信号レベル計算部301の算出した信号レベル値はマルチメディア制御マイコン100に出力され、マルチメディア制御マイコン100はこの信号レベル値に基づく無音区間(信号レベル値が無音と見なされるレベルより低い状態が連続する期間)により、曲変更と判断し(例えば、無音区間が2秒継続したときに曲変更と判断)、この場合も切替通知部303に当該トリガ信号を出力する。この処理は、明確な曲変更信号が無い放送(ラジオ、テレビ)等の再生時に、特に有効となる。
【0047】
補正値適用判定部304は、補正値(すなわち、導出した音量補正量更新値、もしくは、算出した最大値に対応する調整値)を音量補正に用いるか、つまり算出したゲインで音響信号を処理するかを判定するもので、ユーザによる補正OFF操作、ノイズ等による異常な補正値(入力信号レベル検出値)の検知、等により音量補正の適用を判断し、また曲変更に伴うリセット処理を行う。
【0048】
具体的には、検出された信号レベルと内部メモリに保持するそれまでの信号レベルの最大値とを比較し、検出された信号レベルがかかる最大値を超える場合には、補正値による音量補正を要(すなわち、音量補正量および内部メモリの最大値を更新)と、超えない場合には否(すなわち、音量補正量および内部メモリの最大値を維持)と、要否判断する。
【0049】
言い換えるならば、補正値による制御が、それまで設定されている音量補正量(たとえば、上述した初期音量補正量)による制御よりも音量を下げる場合に、補正値でそれまでの音量補正量を更新する。
【0050】
なお、補正値計算部302を補正値適用判定部304の内部に含み、検出された信号レベルと内部メモリに保持する信号レベルの最大値との比較を経たうえで、内部メモリの最大値が更新された場合に、補正値計算部302がかかる最大値からゲインを決定することとしてもよい。
【0051】
音量補正部(ゲイン)305は、前述の補正用増幅器に対応し、決定されたゲインで音響信号を増幅する。なお、図示しないが、上述した補正値計算部302、補正値適用判定部304および音量補正部(ゲイン)305は、音響コンテンツの音響信号のレベルを調整する、いわば、レベル調整部として機能する。
【0052】
以上、DSP101の処理により実現される音量補正処理部201の処理内容を、処理ブロック図を用いて説明したが、DSP101の行う処理の流れについて更にフローチャートを用いても説明する。図5は、DSP101の行う音量補正処理を示すフローチャートである。
【0053】
尚、本実施例では、この処理をDSP101により実行するが、マルチメディア制御マイコン100とDSP101が必要な通信を行いながら、処理を分担して行う(各々が得意な処理内容を実行するように処理を分担する)ことも可能である。また、この処理は音量補正処理動作中(音楽等を再生中で、ユーザが音量補正動作をON状態に設定の場合等)に繰り返し実行される。
【0054】
ステップS01は、リセット状態か否かを判断する処理で、リセット条件(音響コンテンツの切替等)が成立していればステップS08に移り、リセット条件で無ければステップS02に移る処理である。ステップS08はリセット処理で、内部メモリに保持された信号レベルの最大値Smaxを初期化(0にする)し、また補正値(増幅器の増幅率:ゲインGS)を初期値(設定値)にする等の初期化を行う処理である。尚、ゲインGSは実験等により求めた制御に適切な値で、例えばゲイン0(入力信号をそのまま出力)等が設定される。尚、ゲインGSが正値の場合、信号は増幅されるが、ゲインGSが負値の場合、信号は減衰されることとなる。
【0055】
ステップS02は、入力音響信号からその信号レベルSnを演算しステップS03に移る処理で、本実施例の当該処理は時定数の異なった2種類のフィルタで移動平均処理を行い、その処理結果の内、大きい方の信号レベルを選択して信号レベルSnとする処理となっている。尚、フィルタ処理後、それぞれのフィルタ処理信号は適切な重み付け処理(重み係数の積算)が行われる。この処理は、音量変化の激しい音楽と、音量変化の穏やかな音楽の両方で適切な音量補正処理が行えるようにするためのもので、各重み係数は適切な音量補正が行われるように実験等に基づき適切な値に設定すれば良い。
【0056】
ステップS03は、算出した信号レベルSnの異常を判断し、異常であれば本処理を終了し、異常でなければステップS04に移る処理で、例えば信号レベルSnが異常に大きな値であった場合に異常と判断し、本処理を終える処理である。
【0057】
ステップS04は、算出した信号レベルSnが記憶している当該曲における最大信号レベルSmaxより大きいか判断し、信号レベルSnが当該曲における最大信号レベルSmaxより大きければステップS05に移り、大きくなければ本処理を終える処理である。ステップS05は、最大信号レベルSmaxを信号レベルSn(最大信号レベルSmaxを超えた信号レベル)で更新し、ステップS06に移る処理である。
【0058】
ステップS06は、更新された最大信号レベルSmaxに基づき増幅器の増幅率(ゲイン)を算出して増幅器制御値として設定しステップS07に移る処理で、最大信号レベルSmaxをパラメータとする算出式や、最大信号レベルSmaxを選択キーとするテーブル処理等で算出された増幅率(ゲイン)を増幅器制御値として設定登録する処理である。
【0059】
尚、フローチャートでの表記は省略するが、ステップS06では、リセット処理があった場合(曲変更時の最初のゲイン設定の場合)においては、信号レベルが所定レベル(非常に小さいレベル)より小さい時に、曲のイントロ部分に高頻度に現れるフェードイン状態と判断し、曲自体の信号レベルは平均的な信号レベルと推定する、つまりゲインを平均的な信号レベルに対するゲイン値(例えばゲイン0)とする。
【0060】
ステップS07は制御ゲインGSにより増幅器の増幅率を制御し、本処理を終える処理で、設定登録された増幅器制御値を増幅器に制御信号(必要に応じて制御用に適して信号形態(例えばアナログ値)に変換する)として出力する処理である。
【0061】
次に、以上説明したDSP101の処理による入力音響信号の遷移について、信号遷移を示す図である図6を用いて説明する。
【0062】
入力された音響信号Sgは、時定数の異なる2種類の移動平均処理フィルタFf,Fsにより信号レベル値Avf,Avsとなる。そして、各信号レベル値Avf,Avsは、重み付け処理され重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glとなる。そして、これら重付信号レベル値Avf・gh,Avs・glの内、大きな方の値が選択されゲイン演算用の信号レベルSnとなる。
【0063】
ゲイン演算用の信号レベルSnは、異常値判断がなされ、正常の場合は記憶されている最大信号レベルSmaxと比較される。そして、その比較の結果、新たなゲイン演算用の信号レベルSnが過去の最大信号レベルSmaxより大きいと、最大信号レベルSmaxの記憶値は新たなゲイン演算用の信号レベルSnで更新される。そして、この最大信号レベルSmaxに基づき補正増幅器用のゲインGsが算出される。
【0064】
そして、音響信号SgはこのゲインGsに基づき増幅されて補正音響信号Sg・Gsとなる。そして音量補正された補正音響信号Sg・Gsはプリアンプ(前置増幅器)によりユーザ操作に基づく音量調整値の増幅率Grで増幅され(Sg・Gs・Gr)、さらに固定増幅率の電力増幅器によって固定増幅率Gpで増幅されて出力音響信号Sg・Gs・Gr・Gpとなって、スピーカから音響信号Sdとして出力される。
【0065】
また、曲切替等により初期化信号Resが入力されると、最大信号レベルSmaxが初期化(0)され、ゲインGsは初期化時における最大信号レベルSmaxに基づくゲイン値となる。
【0066】
以上説明したように、曲等の再生の進行に沿って当該曲等における最大信号レベルを算出(更新)していき、その最大信号レベルに応じて曲等の音響信号の音量補正を行うので、予め曲全体の信号レベルを把握することなく音量補正が可能となり音量補正を素早く行うことができる。また最大信号レベルに基づく音量補正であるため比較的簡単な処理で行え、処理デバイス(DSPやCPU)の負荷を低減できて、結果低コスト化等に貢献する。
【0067】
[詳細な機能について]
次に、添付図面を参照して、本実施例に関し、特にその特徴部分に重点をおいて、より具体的かつ詳細に説明する。なお、以下では、かかる特徴部分の概要について図7を用いて説明した後に、本音量補正手法例を適用した音響装置、音量補正装置および音量補正方法についての詳細を図8〜図15を用いて説明することとする。
【0068】
まず、本音量補正手法例の概要について図7を用いて説明する。図7は、本音量補正手法例の概要を示す図である。なお、図7の(A)には、音響信号の信号レベル値を算出する概略を、図7の(B)には、平均化時間の違いによる特性の違いを、図7の(C)には、本音量補正手法例の概要を、それぞれ示している。
【0069】
図7の(A)に示すように、音響信号の信号レベル値については、積分回路(上述した積分フィルタに対応)を介して平均化した音響信号の信号レベル平均値が用いられることが多い。
【0070】
なお、かかる積分回路を介する平均化においては、積分回路へ与える平均化時間(以下、「時定数」と記載する)を異ならせることによって、異なる特性の信号レベル平均値を得ることができる。積分回路を演算処理で実現する場合、移動平均処理等を用い、その重み付け係数を適当な値とすることにより、適切な積分回路を得ることができる。
【0071】
たとえば、図7の(B)に示したように、時定数を端的に「短い」と「長い」との2種別に区別したものとする。ここで、時定数が「短い」ということは、音響信号の平均化期間が短い(短期間にわたる平均)ことを意味するので、積分回路を介して得られる信号レベル平均値は、「短い」間隔で大きく変動している「急峻な信号」をよくあらわすことができる(図中の「急峻な信号に適応可」参照)。
【0072】
なお、「急峻な信号」を示すものには、可聴帯域における高周波を多く含み、スピード感のあるテンポの「ロック」などの楽曲ジャンルが知られている。
【0073】
一方、時定数が「長い」ということは、音響信号の平均化期間が長い(長期間にわたる平均)ことを意味するので、積分回路を介して得られる信号レベル平均値は、「長い」間隔で緩やかに変動している「緩やかな信号」をよくあらわすことができる(図中の「緩やかな信号に適応可」参照)。
【0074】
なお、「緩やかな信号」を示すものには、可聴帯域における低周波を多く含み、ゆったりとしたテンポの「クラシック」などの楽曲ジャンルが知られている。
【0075】
こうした時定数の違いによる信号レベル平均値の特性の違いは、楽曲が有する再生帯域の違いやその変動の多様性に対して活かされることが好ましい。そこで、本音量補正手法例では、時定数の異なる積分回路を複数設けることとしたうえで、各積分回路には、時定数に応じた帯域成分の音響信号を入力することとした。
【0076】
また、時定数を異ならせることによって得られる信号レベル平均値の特性の違いを活かすことができるように、各積分回路が出力する信号レベル平均値に対して特性に応じた重み付けを行うこととした。
【0077】
具体的には、図7の(C)に示したように、上述したDSP101内の音量補正処理部201の信号レベル計算部301(図3参照)に対応する信号レベル算出部16に時定数の「短い」第1積分回路16aと時定数の「長い」第2積分回路16bとを含む複数の積分回路を設ける。そして、各積分回路には、帯域成分の異なる音響信号をそれぞれ入力する(図中の「帯域a」および「帯域b」参照)。
【0078】
そして、第1積分回路16aが出力する信号レベル平均値に対しては、アンプ16cにおいて特性に応じた重み係数による重み付けを行う(重み係数に応じた増幅度で増幅する)。また、第2積分回路16bが出力する信号レベル平均値に対しては、アンプ16dにおいて特性に応じた重み係数による重み付けを行う(重み係数に応じた増幅度で増幅する)。
【0079】
ここで、各重み係数には、楽曲のジャンルやユーザの嗜好などに基づいてあらかじめ定めた所定の重み係数組み合わせパターンの値を用いることができる。なお、かかる点の詳細については、図12を用いて後述する。
【0080】
そして、重み付け後の各信号レベル平均値に基づいて選択部16eにおいて代表値を選択し、かかる代表値から音量補正に用いる利得の決定を行う。なお、図7の(C)に示した各処理部の詳細については、図9を用いて後述する。
【0081】
このように、本音量補正手法例では、時定数を異ならせることによって得られる信号レベル平均値の特性の違いを考慮し、時定数の異なる積分回路を複数設けることとしたうえで、各積分回路には、時定数に応じた帯域成分の音響信号を入力することとした。また、各積分回路の出力値に対して、楽曲のジャンルやユーザの嗜好などに基づく重み付けを行うこととした。
【0082】
したがって、本音量補正手法例によれば、多種多様な楽曲の再生帯域の違いやその変動の違いに対応した信号レベルの代表値を得ることができるので、適正な利得を算出することができ、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正することが可能となる。また、楽曲のジャンルやユーザの嗜好などに基づく重み付けを行うので、聴取者の好みに応じた音量補正を行うことができる。
【0083】
以下では、図7を用いて説明した音量補正手法例を適用した音響装置、音量補正装置および音量補正方法についての実施例をさらに詳細に説明する。
【0084】
図8は、音響装置1の構成例を示す図である。図8に示すように、音響装置1は、マイコン2と、操作部3と、表示部4と、セレクタ5と、音響ソース6と、メインアンプ7と、記憶部8と、DSP10とを備えている。また、外部にスピーカ9を配置している。尚、車載用の場合、音響装置1は自動車のダッシュボード等の取付位置に取り付けられ、自動車のドア等に設置されたスピーカ9に対して音響信号を出力して所望の音響を再生するように構成される。
【0085】
DSP101(図2参照)に対応するDSP10は、セレクタ5を介して入力された音響ソース6の音響信号の音量補正を行うマイクロプロセッサで、高速演算処理が可能なように演算処理に特化した設計がなされた所謂デジタルシグナルプロセッサである。また、DSP10は、音量の補正を施した音響信号を、後述するメインアンプ7に対して出力する。
【0086】
なお、DSP10は、音量の補正だけでなく、音質補正処理(周波数特性補正処理)、ユーザの音量調整操作に基づく音量調整処理等、音響信号に関わる種々のデジタル信号処理を行うことができるが、以下では、音量を補正する機能に特化して説明を行うものとする。したがって、以下に示すDSP10は、図3において示した音量補正処理部201に対応付けることができる。かかるDSP10の詳細については、図9を用いて後述する。
【0087】
マルチメディア制御マイコン100(図2参照)に対応するマイコン2は、音響装置1全体を制御する中央制御ユニットである。なお、マイコン2は、機能ごとに分化した複数のユニットで構成することとしてもよい。本実施例では、マイコン2が単一のユニットであるものとして説明を行う。
【0088】
操作部3は、ユーザの入力操作を受け付ける操作部品である。かかる操作部品には、ダイヤルやボタンといったハードウェア部品だけでなく、後述する表示部4に表示されたボタンなどのソフトウェア部品が含まれる。
【0089】
表示部4は、ユーザに対して表示情報を表示する液晶表示素子等により構成された出力デバイスである。セレクタ5は、マイコン2からの切り替え要求に基づき、後述する音響ソース6の中から特定の音響ソースを選択し、選択した音響ソースの音響信号をDSP10に対して出力するデバイスで、スイッチングトランジスタ等を用いた切替回路(IC)により構成される。
【0090】
音響ソース6は、FMチューナー、AMチューナー、CDプレイヤーあるいは携帯音楽プレイヤー105(図2参照)といった音響デバイス群である。かかる音響ソース6は、マイコン2によって制御される。メインアンプ7は、DSP10から入力された音響信号を所定増幅率で電力増幅するデバイスである。また、AMP103(図2参照)に対応するメインアンプ7は、増幅した音響信号をスピーカ9に対して出力する。
【0091】
スピーカ104(図2参照)に対応するスピーカ9は、メインアンプ7から入力された音響信号(電気信号)を物理振動に変えて音として出力する出力デバイスである。なお、図8には、単体のスピーカ9を示しているが、実際のデバイスの数を限定するものではない。したがって、モノラルスピーカであっても、ステレオスピーカであってもよい。
【0092】
記憶部8は、ハードディスク、不揮発性メモリ(フラッシュメモリ、電源でバックアップされたRAM等)といった記憶デバイスで構成される記憶部であり、重み係数情報8a(図12を用いて後述)などの音量補正に関する各種情報を記憶する。
【0093】
次に、DSP10の詳細について図9を用いて説明する。図9は、DSP10の処理ブロックの構成例を示す図である。なお、図9では、DSP10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。また、以下では、各構成要素を処理ブロックとして説明するが、DSP10内にそれぞれ独立した処理を行う構成が存在すると言った構造に限定するものではなく、たとえば、演算部がプログラムの実行により各機能(処理)を順次実現していくと言った、所謂ソフトウェアによって実現してもよい。
【0094】
図9に示すように、DSP10は、通信I/F(インタフェース)11と、遅延処理部12と、アンプ13と、第1BPF(Band-Pass Filter)14および第2BPF15を含むBPF群と、信号レベル算出部16と、目標利得決定部17と、利得比較部18とを備えている。なお、BPF群は、帯域制限を実現するための一例であって、帯域制限が可能であれば、BPFに特化しなくともよい。
【0095】
また、信号レベル算出部16は、第1積分回路16aと、第2積分回路16bと、アンプ16cと、アンプ16dと、選択部16eとをさらに備えている。
【0096】
なお、図9に示すように、DSP10に入力される音響信号は、遅延処理部12の前段で2系統に分岐される。以下では、遅延処理部12を介する系統を示す場合には「直系統」と、他方の系統を示す場合には「補正系統」と、それぞれ記載するものとする。
【0097】
通信I/F11は、マイコン2との通信を行う通信デバイスである。かかる通信I/F11を介して、マイコン2から後述する各「重み係数」や「現在利得初期値」などが入力される。
【0098】
遅延処理部12は、セレクタ5から入力された音響信号を所定時間分遅延させたうえで、アンプ13に対して出力する処理ブロックである。かかる遅延は、セレクタ5から入力される音響信号と、目標利得決定部17から出力される目標利得との同期をとるために、つまりセレクタ5から入力される音響信号が、自身の信号レベルに応じた目標利得に基づきアンプ13で増幅されるように行われる。
【0099】
アンプ13は、遅延処理部12から入力された音響信号を、目標利得決定部17から入力された目標利得に応じて増幅する処理ブロックである。すなわち、アンプ13は、遅延処理部12から入力された音響信号の信号レベルを、目標利得決定部17から入力された目標利得を用いて補正する。また、アンプ13は、かかる補正を施した音響信号を、メインアンプ7に対して出力する。
【0100】
第1BPF14および第2BPF15を含むBPF群は、セレクタ5から入力された音響信号の所定の周波数帯域のみを通過させるフィルタである。なお、本実施例では、第1BPF14および第2BPF15の、少なくとも2つのBPFを備える構成例を示している。
【0101】
第1BPF14は、主に高周波帯域を通過させるフィルタである。また、第1BPF14は、通過させた高周波帯域の音響信号を第1積分回路16aに対して出力する。同様に、第2BPF15は、主に低周波帯域を通過させるフィルタである。また、第2BPF15は、通過させた低周波帯域の音響信号を第2積分回路16bに対して出力する。
【0102】
ここで、本実施例における「高周波帯域」および「低周波帯域」について、図10を用いて説明しておく。図10は、第1BPF14および第2BPF15の通過帯域を示す図である。なお、図10の(A)には、第1BPF14の通過帯域を、図10の(B)には、第2BPF15の通過帯域を、それぞれ示している。
【0103】
たとえば、図10の(A)に示すように、第1BPF14は、50Hz〜20kHzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第1BPF14は、いわゆる人間の可聴帯域のほぼ全域の信号のみを第1積分回路16aに対して出力する。
【0104】
また、図10の(B)に示すように、第2BPF15は、50Hz〜300Hzの帯域の信号を通過させ、それ以外の帯域の信号を通過させない。言い換えれば、第2BPF15は、主に低周波音の信号のみを第2積分回路16bに対して出力する。
【0105】
以下では、説明の対比のために、図10の(A)に示した第1BPF14の通過帯域分の信号を「高周波信号」または「高周波」と、図10の(B)に示した第2BPF15の通過帯域分の音響信号を「低周波信号」または「低周波」と、それぞれ記載する場合がある。
【0106】
なお、図10の(A)および図10の(B)に示したように、第1BPF14および第2BPF15の通過帯域は、たとえば、図中の50Hz〜300Hzに示されるように、重複してもよい。
【0107】
図9の説明に戻り、信号レベル算出部16について説明する。信号レベル算出部16は、第1BPF14や第2BPF15といった各BPFから入力された音響信号の信号レベルの代表値を算出する処理ブロックである。
【0108】
なお、かかる代表値は、各BPFに対応する各系統においてそれぞれ算出される信号レベル平均値の最大値である。
【0109】
第1積分回路16aは、第1BPF14から入力された高周波の信号を、急峻な信号の変動に適した短い時定数で平均化し、平均化後の信号(第1平均値)をアンプ16cに対して出力する。尚、信号は短い時定数で平均化されるので、信号に素早く追従する信号レベルを示す信号となる。
【0110】
また、第2積分回路16bは、第2BPF15から入力された低周波の信号を、緩やかな信号の変動に適した長い時定数で平均化し、平均化後の信号(第2平均値)をアンプ16dに対して出力する。尚、信号は長い時定数で平均化されるので、信号に穏やかに追従する信号レベルを示す信号となる。
【0111】
ここで、第1積分回路16aおよび第2積分回路16bの構成例について、図11を用いて説明しておく。図11は、第1積分回路16aおよび第2積分回路16bの構成例を示す図である。
【0112】
図11に示すように、第1積分回路16aおよび第2積分回路16bは、アンプ161と加算器162と、遅延器163と、アンプ164とを備えている。アンプ161は、入力された音響信号の信号を所定の増幅率で増幅する。
【0113】
そして、アンプ161で増幅された信号は、遅延器163によって所定時間遅延された後、アンプ164によって所定の増幅率(増幅率<1:減衰)で増幅される。そして、アンプ164で増幅された信号レベルは、加算器162において足し込まれたうえで出力される。
【0114】
ここで、第1積分回路16aと第2積分回路16bとは、アンプ164の所定の増幅率がそれぞれ異なる。すなわち、第1積分回路16aは、第2積分回路16bと比べて時定数を短くする増幅率(増幅率を小さくし、過去の信号の影響度を小さくする)のアンプ164を備え、第2積分回路16bは、第1積分回路16aと比べて時定数を長くする増幅率(増幅率を大きくし、過去の信号の影響度を大きくする)のアンプ164を備えることとなる。
【0115】
なお、本実施例では、時定数を単に「短」と「長」との2種別に分け、第1積分回路16aおよび第2積分回路16bの2つの積分回路を例に挙げて説明を行っているが、時定数を3種別以上の多段階に分け、これに対応する3つ以上の積分回路を設けてもよい。
【0116】
たとえば、μ秒単位の小さい時定数の積分回路をさらに備えることとしたうえで、かかる時定数の積分回路によって大きい信号レベル値が出力されたならば、信号の不連続によるノイズとして判定し、その後の処理を無効化する等の処理を行ってもよい。
【0117】
なお、以下では、積分回路が、第1積分回路16aおよび第2積分回路16bの2つである場合を例に挙げて説明を進めることとする。
【0118】
図9の説明に戻り、アンプ16cについて説明する。アンプ16cは、第1積分回路16aから入力された第1平均値について、第1平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部16eに対して出力する。
【0119】
また、アンプ16dは、第2積分回路16bから入力された第2平均値について、第2平均値に対応する所定の重み係数を乗算したうえで、選択部16eに対して出力する。
【0120】
なお、アンプ16cおよびアンプ16dがそれぞれ用いる重み係数は、上記したようにマイコン2から入力される。ここで、かかる重み係数を含む情報である重み係数情報8aについて、図12を用いて説明する。
【0121】
図12は、重み係数情報8aの説明図である。なお、図12の(A)には、重み係数情報8aの設定例を、図12の(B)には、重み係数のDSP10への転送に関する操作例を、それぞれ示している。
【0122】
図12の(A)に示したように、重み係数情報8aは、上記した音響装置1が備える記憶部8に記憶される音量補正の重み係数に関する情報であり、「パターン番号」項目と、「種別」項目と、「重み係数」項目とが関連付けられて記憶されている。
【0123】
「パターン番号」項目は、積分回路の系統別の重み係数組み合わせパターンに付与されるパターン番号の項目である。重み係数情報8aは、かかるパターン番号ごとのレコードとして、各情報の関係を管理することができる。かかる場合、パターン番号は、重み係数情報8aの各レコードを検索するための主キーとなる。
【0124】
「種別」項目は、各レコード検索のための副次キーとなる各種別を格納する項目である。なお、図12の(A)には、かかる「種別」項目が、「ジャンル」項目と、「テンポ」項目と、「曲調」項目とをさらに含んでいる例を示している。
【0125】
たとえば、「ジャンル」項目は、楽曲のジャンルを識別する「ロック」や「クラシック」といった情報の項目である。「テンポ」項目は、楽曲のテンポを識別する「ファスト」や「スロー」といった情報の項目である。また、「曲調」項目は、楽曲の曲調を識別する「ハード」や「ソフト」といった情報の項目である。
【0126】
なお、ここでは、説明の便宜上、「種別」項目の各格納値をテキスト形式で表現しているが、各格納値のデータ形式を限定するものではない。
【0127】
「重み係数」項目は、各パターン番号に対応する積分回路の系統別の重み係数組み合わせの項目である。たとえば、図12の(A)には、少なくとも「第1積分回路」の系統の重み係数Kと「第2積分回路」の系統の重み係数Lとが組み合わせパターンの中に含まれている例を示している。
【0128】
なお、重み係数の組み合わせは、「種別」項目の情報に応じて定めることができる。たとえば、ジャンルが「ロック」、テンポが「ファスト」、曲調が「ハード」といった高周波を多く含み、かつ、急峻である音響信号の入力が見込まれる場合には、図12の(A)に示した「パターン1」のレコードのように、第1積分回路16aに対応する重み係数Kを「1」と相対的に高く、第2積分回路16bに対応する重み係数Lを「0.9」と相対的に低くした重み係数の組み合わせとすればよい。
【0129】
一方、ジャンルが「クラシック」、テンポが「スロー」、曲調が「ソフト」といった低周波を多く含み、かつ、緩やかである音響信号の入力が見込まれる場合には、「パターン2」のレコードのように、重み係数Kを「0.7」と相対的に低く、重み係数Lを「1」と相対的に高くした重み係数の組み合わせとすればよい。
【0130】
ここで、「パターン1」の重み係数組み合わせパターンがあらかじめ既定値として定められているものとする。かかる場合、マイコン2は、音響装置1の初期稼動時などにパターン番号が「パターン1」のレコードを記憶部8の重み係数情報8aから読み出し、DSP10に対して転送する。
【0131】
すなわち、音響装置1の初期稼動時などには、DSP10のアンプ16cの重み係数は「1」と設定され、アンプ16dの重み係数は「0.9」と設定されることとなる。
【0132】
同様に、「パターン2」の重み係数組み合わせパターンが既定値である場合には、アンプ16cの重み係数は「0.7」と設定され、アンプ16dの重み係数は「1」と設定されることとなる。
【0133】
なお、音響装置1の初期稼動時などに既定設定するだけでなく、ユーザの操作によって指定される指定値に基づいて重み係数組み合わせパターンを可変設定することもできる。たとえば、図12の(B)に示したように、表示部4に「お好みのジャンルをお選びください」といった音量補正に関する設定画面を表示したものとする。
【0134】
かかる設定画面には、図12の(B)に示したように、「ロック」や「クラシック」といった上記の副次キーとしての種別に対応する操作部品(操作ボタンなど)を配置することができる。
【0135】
そして、ユーザが、好みのジャンルとして「クラシック」を選択し(図12の(B−1)参照)、選択の確定に相当する「決定」ボタンを押下したならば(図12の(B−2)参照)、マイコン2が、図12の(A)に示した「パターン2」の重み係数組み合わせパターンをDSP10へ転送することとすればよい(図12の(B−3)参照)。
【0136】
なお、図12の(B)には、図12の(A)の「ジャンル」種別に対応する操作部品を配置する設定画面例を示したが、主キーである「パターン番号」や、他の副次キーである「テンポ」あるいは「曲調」に対応する操作部品を配置できることは言うまでもない。
【0137】
また、重み係数組み合わせパターンの可変設定の契機は、ユーザ操作に基づく指定値があったときだけに限られるものではない。たとえば、自動車の走行騒音の変化にあわせて適宜重み係数組み合わせパターンの可変設定を行ってもよい。
【0138】
これは、重み係数情報8aの「種別」項目に走行騒音の周波数帯域を格納する「騒音周波数帯域」項目をさらに含ませ、かかる周波数帯域ごとに重み係数組み合わせパターンを関連付けて記憶することとしたうえで、マイクなどを用いて集音した走行騒音の周波数帯域の変化に応じて、かかる周波数帯域に対応する重み係数組み合わせパターンを適宜DSP10へ転送するといった手法で実現することができる。
【0139】
ところで、図12を用いた説明では、あらかじめ設定された重み係数情報8aに基づいてアンプ16cあるいはアンプ16dの重み係数を設定する場合について説明したが、かかる重み係数情報8aに基づくことなくアンプ16cあるいはアンプ16dの重み係数を設定してもよい。
【0140】
そこで、かかる変形例について、図13を用いて説明する。図13は、重み係数設定の変形例を示す図である。なお、図13の(A)には、ユーザの操作による重み係数設定の変形例を、図13の(B)には、楽曲DB8bに基づく場合を、それぞれ示している。
【0141】
図13の(A)に示すように、音響装置1は、たとえば、「テンポ」を「ファスト」寄りにあるいは「スロー」寄りに調整可能なダイヤル3aを操作部3に設けることができる。ここで、重み係数Kおよび重み係数L(図12参照)の比率(「K:L」)は、「1:1」であるものとする。
【0142】
このとき、ユーザがダイヤル3aを「スロー」寄り「+10%」を示す位置へダイヤルを回す操作を行った場合(図13の(A−1)参照)、マイコン2は、重み係数Lの比率を「+10%」して、「K:L」=「1:1.1」としてDSP10へ転送することができる(図13の(A−2)参照)。
【0143】
そして、DSP10は、かかるマイコン2の転送する「K:L」=「1:1.1」を示す通知に基づき、アンプ16cおよびアンプ16dの重み係数の比率を「1:1.1」と変更する。
【0144】
また、図13の(B)に示すように、楽曲の再生履歴などに関するデータベースである楽曲DB8bに基づくこととしてもよい。かかる場合、変形例に係る音響装置1は、マイコン2に楽曲解析部2aをさらに備える。
【0145】
楽曲DB8bは、楽曲の再生履歴などを蓄積するデータベースである。また、楽曲DB8bは、マイコン2などによって楽曲が1曲再生されるごとに随時更新されるものとする。
【0146】
たとえば、図13の(B)に示すように、楽曲DB8bは、楽曲を識別する「曲番号」項目、曲名が格納される「曲名」項目、再生回数が格納される「再生回数」項目および楽曲のジャンルの識別値が格納される「ジャンル」項目から構成される。なお、ジャンルの識別値の判別には、たとえば、楽曲データがMP3フォーマットなどであれば、フォーマット仕様に基づくタグ情報を利用することができる。
【0147】
楽曲解析部2aは、かかる楽曲DB8bを解析して、DSP10に転送する重み係数組み合わせパターンを決定する。
【0148】
ここで、図13の(B)に示すように、楽曲DB8bにおいて、曲番号が「1」の「XXX」という「ロック」ジャンルの楽曲は、再生回数が「8」であり、曲番号が「2」の「YYY」という「クラシック」ジャンルの楽曲は、再生回数が「10」であるものとする。
【0149】
このとき、仮にこの2曲のデータしか無い場合(あるいは、この2曲のデータしか処理に用いない設定の場合)、重み係数設定の一変形例として、楽曲解析部2aは、重み係数組み合わせパターンである「K:L」を、「テンポ」が「ファスト」の曲と「スロー」の曲との再生回数の比率である「0.8:1(=8:10)」と決定し、DSP10に対して転送する。
【0150】
また、楽曲DB8bに登録された楽曲のジャンル別集計結果などに基づき、重み係数組み合わせパターンを決定してDSP10へ転送する変形例も実用的かつ効果的である。たとえば、楽曲DB8bにおいて、「ロック」ジャンルの楽曲が「100」曲、「クラシック」ジャンルの楽曲が「70」曲、それぞれ登録されているものとする。
【0151】
このとき、楽曲解析部2aは、「テンポ」が「ファスト」に対応する「ロック」ジャンルの楽曲数「100」と、「スロー」に対応する「クラシック」ジャンルの楽曲数「70」とに基づき、前述の「K:L」を、かかる楽曲数の比率である「1:0.7(=100:70)」と決定し、DSP10に対して転送する。
【0152】
なお、楽曲解析部2aが、バックグラウンドで随時楽曲DB8bの解析動作を行うことで、たとえば、ユーザがその日の気分でたまたまいつもとは異なる嗜好の楽曲再生を行っても、その日に再生された楽曲のジャンルの比率を求めるなどすることによって、その日のジャンル傾向に即した適切な音量補正を行うことを可能にできる。
【0153】
このように、再生回数や登録された楽曲の集計結果などに基づいて重み係数を決定することで、ユーザの嗜好に応じた適切な音量補正を行うことが可能となる。
【0154】
図9の説明に戻り、選択部16eについて説明する。選択部16eは、それぞれ個別の重み付けが行われた第1平均値および第2平均値などの各信号レベルの平均値のうちの最大値を、信号レベル算出部16における代表値として決定し、目標利得決定部17に対して出力する処理ブロックである。
【0155】
ここで、選択部16eの構成例について、図14を用いて説明する。図14は、選択部16eの構成例を示す図である。なお、図14の(A)には、選択部16eの構成例その1を、図14の(B)には、選択部16eの構成例その2を、それぞれ示している。
【0156】
図14の(A)に示したように、選択部16eは、比較部16eaと、除算部16ebとを備える。比較部16eaは、入力された第1平均値と第2平均値とを、たとえば、コンパレータなどによって比較し、最大値を除算部16ebに対して出力する。
【0157】
除算部16ebは、比較部16eaから入力された最大値を、対応するアンプ16cあるいはアンプ16dの重み係数で割ることによって重み付け前の値に戻し、代表値として出力する。なお、重み係数の逆数をかけることとしてもよい。また、除算部16ebを備えることなく、比較部16eaが出力する最大値をそのまま代表値として出力してもよい。
【0158】
また、図14の(B)に示したように、選択部16eは、比較部16eaと、スイッチ部16ecとを備えることとしてもよい。スイッチ部16ecは、アンプ16cの前段で分岐した第1積分回路16aの第1平均値と、アンプ16dの前段で分岐した第2積分回路16bの第2平均値との切り替えスイッチである。
【0159】
そして、図14の(B)に示した構成例その2における比較部16eaは、入力された第1平均値と第2平均値とを比較し、最大値として選択した系統への切り替え指示信号をスイッチ部16ecに対して出力する。
【0160】
スイッチ部16ecは、比較部16eaから入力された切り替え指示信号に基づき、入力系統の切り替えを行って、対応する第1平均値あるいは第2平均値を代表値として出力する。
【0161】
図9の説明に戻り、目標利得決定部17について説明する。補正値計算部302(図3参照)に対応する目標利得決定部17は、信号レベル算出部16から入力された代表値に基づいて音量補正「係数」としての目標利得を決定し、かかる目標利得をアンプ13に対して出力する処理ブロックである。
【0162】
補正値適用判定部304(図3参照)に対応する利得比較部18は、現在アンプ13に対して適用している利得である「現在利得」18aを内部メモリなどに保持し、後述する目標利得決定部17から入力される「目標利得」とかかる「現在利得」18aとを比較し、比較結果を目標利得決定部17に対して出力する処理ブロックである。
【0163】
かかる目標利得決定部17および利得比較部18について、さらに詳細に説明する。まず、目標利得決定部17は、信号レベル算出部16の選択部16eから入力された代表値と、所定の目標となる信号レベル値(以下、「基準レベル値」と記載する)との差分値を算出し、かかる差分値を音量補正「量」としての目標利得として利得比較部18へ出力する。
【0164】
ここで、音量補正「量」としての目標利得とは、「直系統」の音響信号の信号レベル値を基準レベル値とするために必要な増減量である。そして、利得比較部18が保持する現在利得18aも、かかる「増減量」であり、再生中の曲における現時点までの再生部分の信号レベル最大値を基準レベルとするために必要な「増減量」である。
【0165】
利得比較部18は、目標利得決定部17から入力されたかかる目標利得と現在利得18aとを比較し、目標利得が現在利得18aよりも小さいならば、現在利得18aを保持したまま、かかる現在利得18aを目標利得として目標利得決定部17に対して出力する。
【0166】
また、利得比較部18は、目標利得決定部17から入力された目標利得が現在利得18aよりも大きいならば、現在利得18aを目標利得で更新し、目標利得をそのまま目標利得決定部17に対して出力する。
【0167】
そして、目標利得決定部17は、利得比較部18から入力された比較結果である目標利得を、「量」としての目標利得から「係数」としての目標利得へ、つまりDSPでの音量補正処理に用いる値(アンプのゲイン)に変換する。たとえば、基準レベル値が「−3dB」であり、「量」としての目標利得が「+3dB」(すなわち、3dB不足)であるものとする。
【0168】
かかる場合、一例として、目標利得決定部17は、「係数」としての目標利得を「10^3/20」として算出する。そして、目標利得決定部17は、算出した「係数」としての目標利得をアンプ13に対して出力し、アンプをその目標利得に応じた動作(算出した「係数」を乗算)に制御する。
【0169】
なお、図9に示すように、利得比較部18は、現在利得18aを、音響ソース6や楽曲の切り替わり時などにマイコン2から通知される現在利得初期値によって初期化する。すなわち、利得比較部18は、切替通知部303(図3参照)にも対応する処理ブロックである。また、マイコン2からは、かかる切り替わりを通知する切替信号のみを受け付けて、利得比較部18が、固定値で現在利得18aを初期化することとしてもよい。
【0170】
次に、DSP10が実行する処理手順について図15を用いて説明する。図15は、DSP10が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。尚、この処理は音響装置1の再生動作中で、かつユーザが音量補正機能をオン操作していた場合に、繰り返し、実行される。
【0171】
図15に示したように、DSP10は、セレクタ5を介して音響ソース6のいずれかの音響信号を入力する(ステップS101)。そして、上記した「補正系統」において、音響信号を複数の帯域に分けて抽出する(ステップS102)。なお、図示していないが、上記した「直系統」においては、入力した音響信号の遅延処理部12による待ち合わせが行われる。
【0172】
そして、信号レベル算出部16が、各帯域に対応する第1積分回路16aや第2積分回路16bなどの積分回路ごとに信号レベル値を算出する(ステップS103)。そして、算出した信号レベル値に対して、算出系統ごとにあらかじめ定められた重み係数を適用(たとえば、乗算)する(ステップS104)。
【0173】
つづいて、信号レベル算出部16は、選択部16eにおいて、重み係数適用後の算出系統ごとの信号レベル値を比較し(ステップS105)、最も大きい信号レベル値を選択する(ステップS106)。
【0174】
そして、信号レベル算出部16は、選択部16eにおいて、選択した信号レベル値を重み係数適用前に戻し(ステップS107)、戻した信号レベル値を代表値として目標利得決定部17に対して出力する。
【0175】
つづいて、目標利得決定部17は、信号レベル算出部16から入力された代表値に基づいて目標利得を算出し(ステップS108)、利得比較部18が保持する現在利得18aとの比較を経て最終的な目標利得を決定のうえ、アンプ13に対して出力する(ステップS109)。
【0176】
そして、アンプ13が、決定された目標利得に基づいて音響信号の音量補正を行い(ステップS109)、音響信号を外部(メインアンプ7)へ出力する(ステップS110)。
【0177】
上述してきたように、本実施例では、各積分回路が、音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を異なる平均化時間で並列に算出し、各積分回路の後段の各アンプが、算出した平均値を所定の重み係数を用いて個別に重み付けし、選択部が、重み付けされた平均値に基づいて代表値を選択し、目標利得決定部および利得比較部が、選択した代表値に基づいて音響信号の利得を決定し、アンプが、かかる利得に基づいて音量を補正するように音響装置を構成した。したがって、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正することができる。
【0178】
なお、上述した実施例では、主に音量を補正する機能に特化したDSPを例に挙げて説明を行ったが、かかるDSPによって音量補正装置を構成することとしてもよい。また、上述した実施例に記載した「重み係数」を「重み付け値」と言い換えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0179】
以上のように、本発明に係る音響装置、音量補正装置および音量補正方法は、聴取者へ違和感を与えることなく音量を補正したい場合に有用であり、特に、携帯型デジタル音楽プレイヤーなどの普及によって音響ソースや再生フォーマットの多様性が増した車載用音響装置への適用に適している。
【符号の説明】
【0180】
1 音響装置
2 マイコン
2a 楽曲解析部
3 操作部
4 表示部
5 セレクタ
6 音響ソース
7 メインアンプ
8 記憶部
8a 重み係数情報
8b 楽曲DB
9 スピーカ
10 DSP
11 通信I/F
12 遅延処理部
13 アンプ
14 第1BPF
15 第2BPF
16 信号レベル算出部
16a 第1積分回路
16b 第2積分回路
16c、16d アンプ
16e 選択部
16ea 比較部
16eb 除算部
16ec スイッチ部
17 目標利得決定部
18 利得比較部
18a 現在利得

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号を再生する音響装置であって、
前記音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を、異なる平均化時間で平均化する複数の平均化手段と、
前記平均化手段ごとに算出された前記平均値を個別に重み付け値を用いて重み付けする重み付け手段と、
前記重み付け手段によって重み付けされた前記平均値に基づいて代表値を求める代表値決定手段と、
前記代表値に基づいて前記音響信号の利得を決定し、当該利得に基づいて音量を補正する音量補正手段と
を備えたことを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記代表値決定手段は、
前記平均値の内、利得が最小となる前記平均値を前記代表値とすることを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記複数の平均化手段は、
前記信号レベル値の変動が急峻な前記音響信号に対応する前記平均化時間を用いる第1の平均化手段と、前記第1の平均化手段の前記平均化時間よりも長い前記平均化時間を用いる第2の平均化手段とを少なくとも含むことを特徴とする請求項1または2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記重み付け手段ごとの前記重み付け値の組み合わせを所定の種別と関連付けて記憶する記憶手段と、
操作者の操作に基づく指定値が示す前記種別、または、前記音響信号の元データが示す前記種別に対応する前記組み合わせを前記記憶手段から取得する取得手段と
をさらに備え、
前記重み付け手段は、
前記取得手段によって取得された前記組み合わせに含まれる当該重み付け手段に対応する前記重み付け値を用いて前記平均値を重み付けすることを特徴とする請求項1、2または3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記種別は、
前記音響信号の音楽ジャンルを含むことを特徴とする請求項4に記載の音響装置。
【請求項6】
音響信号の音量を補正する音量補正方法であって、
前記音響信号の所定の周波数帯域分ごとの信号レベル値の平均値を、異なる平均化時間で平均化する複数の平均化工程と、
前記平均化工程ごとに算出された前記平均値を個別に重み付け値を用いて重み付けする重み付け工程と、
前記重み付け工程によって重み付けされた前記平均値に基づいて代表値を求める代表値決定工程と、
前記代表値に基づいて前記音響信号の利得を決定し、当該利得に基づいて音量を補正する音量補正工程と
を含んだことを特徴とする音量補正方法。
【請求項7】
音響信号の音量を、前記音響信号の信号レベルの変動に応じて設定される音量補正量に基づき補正する音量補正装置であって、
音声情報の初期部分の信号レベルに応じて前記音量補正量を設定する初期音量補正量設定手段と、
前記音声情報の信号レベルを再生に伴い順次検出する信号レベル検出手段と、
前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルに応じて音量補正量更新値を導出する補正量導出手段と、
前記音量補正量更新値による制御が、設定されている前記音量補正量による制御より音量が下がる場合に、前記音量補正量を前記音量補正量更新値で更新する音量補正量更新手段と
を備えたことを特徴とする音量補正装置。
【請求項8】
前記音量補正量更新手段は、
前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルをそれまでの信号レベルの最大値と比較することにより更新の要否判断を行うことを特徴とする請求項7に記載の音量補正装置。
【請求項9】
前記信号レベル検出手段は、
前記音声情報のフィルタリングを行うフィルタであって、フィルタリング時定数の異なる複数のフィルタと、
前記複数のフィルタの出力レベルの比較結果に応じて、該複数のフィルタの出力から信号レベルを選択決定するフィルタ選択手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の音量補正装置。
【請求項10】
音響コンテンツに応じて再生音量を調整する機能を有する音響装置であって、
前記音響コンテンツの信号レベルを順次検出する信号レベル検出手段と、
前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルの最大値に対応する調整値で前記音響コンテンツの音響信号のレベルを調整するレベル調整手段と
を備えることを特徴とする音響装置。
【請求項11】
前記レベル調整手段は、
前記信号レベル検出手段により検出された信号レベルの前記最大値を保持する最大値保持手段と、
前記最大値保持手段により保持された前記最大値からゲインを決定するゲイン決定手段と、
前記ゲイン決定手段により決定された前記ゲインで音響信号を増幅する増幅手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の音響装置。
【請求項12】
前記音響コンテンツの切り替え時に、前記最大値保持手段により保持された前記最大値を初期化する最大値初期化手段
をさらに備えることを特徴とする請求項10または11に記載の音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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