説明

音響装置

【課題】反応速度を早くして、突発的な音や破裂音などのように急激に変化する音を出力することができる状態も、反応速度を遅くして、音の再現性を高めることができる状態も実現することができる音響装置を得る。
【解決手段】音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサ10と、元の音声信号に伸張するエキスパンダ20を備え、コンプレッサ10のアタックタイムを決める第1の時定数回路15の時定数およびエキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路の時定数を可変として、アタックタイムおよびリカバリータイムを可変とした。CR時定数回路内のコンデンサー17の容量を可変とすることにより時定数を可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CDプレーヤ、フラッシュメモリ型プレーヤ、マイクロホン、その他各種音源からの音声信号を入力とし、この音声信号を再生しまたは後段に伝達する音響装置において、音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えたものがある。例えば、ワイヤレスマイクロホンに関する一連の装置では、音声入力側であるマイクロホンユニットで電気音響変換された音声信号のダイナミックレンジをコンプレッサで圧縮し無線信号に変換して送信する。この無線信号を受信機で受信して復調し、さらにエキスパンダによって元の音声信号に伸張して音声出力信号とする。信号伝送方式が上記のような無線方式に限らず、有線方式の音響装置にも、圧縮・伸張機能を搭載したものがある。音響装置に、圧縮・伸張機能を搭載することによって、識別可能な信号の最小値と最大値の比率が大きいすなわち音源のダイナミックレンジが広い場合に、信号レベルの高い部分で増幅器などの許容入力を越えて歪みが発生する、というような問題を回避することができる。
【0003】
上記コンプレッサは、スレッショルドレベルを超えた信号が入力されてから圧縮を開始するまでの時間すなわちアタックタイムを決定する部分を備えている。上記エキスパンダは、伸張されて元の信号に戻るまでの時間すなわちリカバリータイムを決定する部分を備えている。
【0004】
従来の音響装置においては、上記アタックタイムおよびリカバリータイムは適宜の値に固定されていて変更することができないのが一般的である。
本発明にかかる音響装置と直接的な関係はないが、比較的近い技術として、コンプレッサの圧縮特性を調整する圧縮特性調整手段を備えた音響装置がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の発明は、再生を選択された音源の種別を種別検出手段で検出し、検出された音源の種別、ディスクの種類および再生モードに応じてコンプレッサの圧縮特性を調整するものである。特許文献1では、「圧縮特性」がどのようなものか具体的な文言による説明はないが、特許文献1の記載全体から、非圧縮を含む圧縮率であることがわかる。なぜなら、音響信号のダイナミックレンジをレンジ検出部で検出してマイコンに入力し、マイコンは圧縮特性を示す特性信号に基づき、ゲイン調整部のゲインを算出してこの算出値をゲイン調整部に向けて出力し、ゲイン調整部のゲインを調整するように構成されているからである。
【0005】
【特許文献1】特開2001−52444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここまで説明してきたように、コンプレッサおよびエキスパンダを備えていて、音声信号を圧縮・伸張する従来の音響装置は、アタックタイムおよびリカバリータイムを可変にするという発想はない。アタックタイムおよびリカバリータイムの大きさは、音声の再現性に大きく影響し、アタックタイムおよびリカバリータイムを可変にすると、音質を劣化させるという弊害を起こす可能性が高いからである。しかし、ユーザーの要望によっては、音声の再現性が悪くなっても、反応速度を早くして、突発的な音や破裂音などのように急激に変化する音を出力することができることが求められることがある。逆に、急激に変化する音に対応してこれを出力することができなくても、反応速度を遅くして、音の再現性を高めることが求められることがある。
【0007】
本発明は、上記のようなユーザーの要望に応えることができる音響装置を提供することを目的とする。
より具体的には、反応速度を早くして、突発的な音や破裂音などのように急激に変化する音を出力することができる状態も、逆に、反応速度を遅くして、音の再現性を高めることができる状態も実現することができる音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置において、上記コンプレッサのアタックタイムを決める第1の時定数回路または上記エキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路のうち少なくとも片方の時定数回路の時定数を可変としたことを最も主要な特徴とする。
上記第1の時定数回路の時定数および上記第2の時定数回路の時定数を可変として、上記アタックタイムおよびリカバリータイムをともに可変としてもよい。
【0009】
本発明はまた、音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置において、上記コンプレッサのアタックタイムを決める第1の時定数回路の時定数および上記エキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路の時定数を可変として、上記アタックタイムおよびリカバリータイムを可変とし、第1の時定数回路は、整流された音声信号を平滑し、この平滑信号は、上記音声信号を入力とする第1の可変利得増幅器の圧縮量制御信号として入力され、上記第2の時定数回路は、上記コンプレッサで圧縮されかつ整流された圧縮信号を平滑し、この平滑信号は、上記圧縮信号を入力とする第2の可変利得増幅器の伸張量制御信号として入力されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1、第2の時定数回路のうち少なくとも一方の時定数回路の時定数を小さくしてコンプレッサのアタックタイムまたはエキスパンダのリカバリータイムを早くすると、突発的な音や破裂音などのように急激に変化する音を出力することができるが、音声の再現性は低下する。第1、第2の時定数回路のうち少なくとも一方の時定数を大きくしてコンプレッサのアタックタイムまたはエキスパンダのリカバリータイムを遅くすると、急激に変化する音に対応してこれを出力することは難しいが、音の再現性を高めることができる。ユーザーの好みに応じて各時定数回路の時定数を変更すればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかる音響装置の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明にかかる音響装置の実施例の一部を構成するコンプレッサ(圧縮器)の例を示す。図1において、コンプレッサ10は、可変利得増幅器12と、全波整流器14と、時定数回路15を備えている。可変利得増幅器12には、適宜の音源、例えばマイクロホンユニットなどから音声信号が入力される。音声信号はまた全波整流器14によって全波整流され、時定数回路15に入力される。時定数回路15は、抵抗16とコンデンサー17からなる平滑回路を構成していて、抵抗16の値とコンデンサー17の容量で決まる時定数に対応した平滑信号となり、この平滑信号が、可変利得増幅器12に圧縮量制御信号として入力されるように構成されている。この例では、上記コンデンサー17は可変容量コンデンサーすなわちバリアブルコンデンサーであって、ユーザーが任意に操作することによって容量が変化し、時定数回路15の時定数が変化するようになっている。可変利得増幅器12からは、上記圧縮量制御信号に対応して、図1に示す圧縮信号波形のように、もともとの音声信号のダイナミックレンジが圧縮されて出力される。
【0012】
図1に示すコンプレッサ10において、コンデンサー17の容量を小さくすると時定数回路15の時定数が小さくなり、遅延量は小さく可変利得増幅器12による圧縮の反応速度すなわちアタックタイムが速くなる。逆に、コンデンサー17の容量を大きくすると時定数回路15の時定数が大きくなり、遅延量は大きく可変利得増幅器12による圧縮の反応速度すなわちアタックタイムは遅くなる。図1に示す圧縮信号波形において、元の音声信号のダイナミックレンジが圧縮されるときのレベルの変化率ないしは傾き度合いは、反応速度によって変化し、反応速度が遅いほど上記変化率ないしは傾き度合いは緩やかになる。
【0013】
図2は、本発明にかかる音響装置の実施例の他の一部を構成するエキスパンダ(伸張器)の例を示す。図2において、エキスパンダ20は、可変利得増幅器22と、全波整流器24と、時定数回路25を備えている。可変利得増幅器22には、図1に示すようなコンプレッサによって圧縮された圧縮信号が入力される。コンプレッサからエキスパンダ20への圧縮信号の伝送は、無線であっても有線であってもよい。上記圧縮信号はまた全波整流器24によって全波整流され、時定数回路25に入力される。時定数回路25は、抵抗26とコンデンサー27からなる平滑回路を構成していて、抵抗26の値とコンデンサー27の容量で決まる時定数に対応した平滑信号となり、この平滑信号が、可変利得増幅器22に伸張量制御信号として入力されるように構成されている。この例では、上記コンデンサー27は可変容量コンデンサーすなわちバリアブルコンデンサーであって、ユーザーが任意に操作することによって容量が変化し、時定数回路25の時定数が変化するようになっている。可変利得増幅器22からは、上記伸張量制御信号に対応して、図2に示す伸張信号波形のように、圧縮信号のダイナミックレンジが伸張されて出力される。
【0014】
図2に示すエキスパンダ20において、コンデンサー27の容量を小さくすると時定数回路25の時定数が小さくなり、遅延量は小さく可変利得増幅器22による伸張の反応速度すなわちリカバリータイムが速くなる。逆に、コンデンサー27の容量を大きくすると時定数回路25の時定数が大きくなり、遅延量は大きく可変利得増幅器22による伸張の反応速度すなわちリカバリータイムは遅くなる。図2に示す伸張信号波形において、元の圧縮信号のダイナミックレンジが伸張されるときのレベルの変化率ないしは傾き度合いは、反応速度によって変化し、反応速度が遅いほど上記変化率ないしは傾き度合いは緩やかになる。
【0015】
図1に示すコンプレッサ10と図2に示すエキスパンダ20を一組として音響装置が構成される。コンプレッサ10とエキスパンダ20の時定数回路15、25のうち少なくとも一方の時定数回路の時定数を調整し、コンプレッサ10のアタックタイムまたはエキスパンダ20のリカバリータイムのいずれかを調整することによって、聴感上、音を入力してから出力されるまでの反応速度を変化させることができる。すなわち、動特性を変化させることができる。例えば、ワイヤレスマイクロホンとそのレシーバーに、本発明にかかる音響装置を適用すると、歌い手や発話者が発する音声をマイクロホンが拾って電気信号に変換し、これを無線信号に変調し、これをレシーバーで受信して音声信号に復調して音声として出力することができる。そして、上記時定数を調整することにより、以下のような効果を得ることができる。
【0016】
時定数回路の時定数を小さくして反応速度を早くすると、突発的な音や破裂音など、急激に変化する音を出力することができるが、音声の再現性が低下する。
時定数回路の時定数を大きくして反応速度を遅くすると、突発的な音や破裂音など、急激に変化する音を出力することができなくなるが、音声の再現性が向上する。
かかる効果を得ることができる音響装置を、例えば歌唱用のマイクロホンに適用すると、高音域の抜けの度合いや歌いやすさなどが大きく変化し、ユーザーの好みに合致した反応速度に設定することができる。
【0017】
上記の例では、コンプレッサ10とエキスパンダ20の時定数回路15、25のうち少なくとも一方の時定数回路の時定数を調整するものとして説明したが、コンプレッサ10とエキスパンダ20双方の時定数回路15、25の時定数をともに可変とし、コンプレッサ10のアタックタイムとエキスパンダ20のリカバリータイムをともに調整することができるようにしてもよい。
【0018】
図1、図2を対比すればわかるように、コンプレッサ10とエキスパンダ20の回路構成は同じである。そこで、特許請求の範囲では、コンプレッサ10とエキスパンダ20の構成部分を識別するために、コンプレッサ10を構成する可変利得増幅器および時定数回路にはそれぞれ「第1の」文言を付し、エキスパンダ20を構成する可変利得増幅器および時定数回路にはそれぞれ「第2の」文言を付した。
【0019】
図4は、図2に示すエキスパンダ20において伸張にかかる時間すなわちリカバリータイムを短くした場合の元の圧縮信号波形Aと伸張波形Bを並べて示している。伸張波形の立ち上がりが早く、開始音のレベルが忠実に出ているため、突発的な音が突入したときの信号を忠実に再生していることがわかる。その反面、リカバリータイムが短いことによってオーバーシュートが発生している。また、元の音に対する再現性が悪化しやすいことがわかる。
【0020】
図5は、図2に示すエキスパンダ20において伸張にかかる時間すなわちリカバリータイムを長くした場合の元の圧縮信号波形Aと伸張波形Cを並べて示している。伸張波形の立ち上がりが遅いため、突発的な音が突入したときの信号を出力することができない。その反面、元の音に対する再現性は高いことがわかる。
【0021】
図1、図2に示す実施例において、コンプレッサ10およびエキスパンダ20の時定数回路は、コンデンサーと抵抗からなるCR時定数回路からなり、コンデンサーを可変容量コンデンサーとすることにより時定数を可変としていた。しかし、時定数可変手段は、容量の異なる複数のコンデンサーで構成し、任意のコンデンサーを選択するようにしてもよい。図3に示す回路はその例を示す。図3において、時定数回路35は、抵抗36と、二つのコンデンサー37,38と、これらのコンデンサー37,38の一方を選択するスイッチ39を有してなる。二つのコンデンサー37,38は容量が異なっていて、スイッチ39が一つのコンデンサーを選択することによって、時定数回路35の時定数が切り換えられるようになっている。なお、時定数回路のコンデンサーの容量の切り換えは、複数のコンデンサーの直列接続、並列接続などによって行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる音響装置に適用されるコンプレッサの例を示す回路ブロック図である。
【図2】本発明にかかる音響装置に適用されるエキスパンダの例を示す回路ブロック図である。
【図3】本発明に適用可能な時定数回路の変形例を示す回路図である。
【図4】本発明に適用されるエキスパンダの例における元の圧縮信号波形と伸張後の波形の例を示す波形図である。
【図5】本発明に適用されるエキスパンダの例における元の圧縮信号波形と伸張後の波形の別の例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0023】
10 コンプレッサ
12 第1の可変利得増幅器
14 全波整流器
15 第1の時定数回路
16 抵抗
17 コンデンサー
20 エキスパンダ
22 第2の可変利得増幅器
24 全波整流器
25 第2の時定数回路
26 抵抗
27 コンデンサー
35 時定数回路
36 抵抗
37 コンデンサー
38 コンデンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置において、
上記コンプレッサのアタックタイムを決める第1の時定数回路または上記エキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路のうち少なくとも片方の時定数回路の時定数を可変とした音響装置。
【請求項2】
音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置において、
上記コンプレッサのアタックタイムを決める第1の時定数回路の時定数および上記エキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路の時定数を可変として、上記アタックタイムおよびリカバリータイムを可変とした音響装置。
【請求項3】
音声信号のダイナミックレンジを予め圧縮するコンプレッサと、元の音声信号に伸張するエキスパンダを備えた音響装置において、
上記コンプレッサのアタックタイムを決める第1の時定数回路の時定数および上記エキスパンダのリカバリータイムを決める第2の時定数回路の時定数を可変として、上記アタックタイムおよびリカバリータイムを可変とし、
第1の時定数回路は、整流された音声信号を平滑し、この平滑信号は、上記音声信号を入力とする第1の可変利得増幅器の圧縮量制御信号として入力され、
上記第2の時定数回路は、上記コンプレッサで圧縮されかつ整流された圧縮信号を平滑し、この平滑信号は、上記圧縮信号を入力とする第2の可変利得増幅器の伸張量制御信号として入力される音響装置。
【請求項4】
時定数回路はコンデンサーと抵抗からなるCR時定数回路であり、コンデンサーの容量を可変とすることにより時定数を可変とした請求項1、2または3記載の音響装置。
【請求項5】
時定数回路のコンデンサーは、可変容量コンデンサーからなり、このコンデンサーの容量を可変することにより時定数を可変とした請求項4記載の音響装置。
【請求項6】
時定数回路のコンデンサーは、容量の異なる複数のコンデンサーからなり、任意のコンデンサーを選択することにより時定数を可変とした請求項4記載の音響装置。
【請求項7】
時定数回路の時定数は、手動操作により可変となっている請求項1、2または3記載の音響装置。
【請求項8】
音響装置は無線または有線伝送方式の音響装置であって、送信側にコンプレッサが備えられ、受信側にエキスパンダが備えられている請求項1、2または3記載の音響装置。
【請求項9】
音響装置はワイヤレスマイクロホン装置であって、マイクロホン側にコンプレッサが備えられ、レシーバー側にエキスパンダが備えられている請求項1、2または3記載の音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−171092(P2009−171092A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5424(P2008−5424)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】