説明

領域確保用器具および領域確保用器具を備えた内視鏡

【課題】NOTESにおいて、術部の視野と術野を確保することができる領域確保用器具および領域確保用器具を備えた内視鏡を提供する。
【解決手段】経管腔的内視鏡手術に使用される領域確保用器具10であって、中空な空間を有する筒状の本体部11を有しており、本体部11の中空な空間は、その断面積が内視鏡1のシャフト2の断面積よりも大きくなるように形成されており、本体部11は、中空な空間の中心軸CLと交差する方向において、拡大収縮し得るものである。本体部11を外筒5の先端部から突出させて拡大させれば、本体部11により内視鏡1の視野や内視鏡1による手術のための術野を確保することができる。収縮させたときに外筒5内に収容できる程度の大きさに本体部11を形成すれば、外筒5に収容した状態で本体部11を手術等を行う場所に移動させることができるから、手術等を行う場所への本体部11の配置が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、領域確保用器具および領域確保用器具を備えた内視鏡に関する。さらに詳しくは、口・肛門・膣などの消化管腔内に挿入された内視鏡によって、消化管に貫通孔を形成する手術や腹腔内の手術を行う経管腔的内視鏡手術に使用する領域確保用器具およびこの器具を備えた内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
経管腔的内視鏡手術(以下、NOTESという)とは、口・肛門・膣などの消化管腔内に挿入された内視鏡によって、消化管腔や腹腔内の病巣を取り除く等の処置を行う手術である。
【0003】
例えば、胃壁を貫通するような孔が形成される胃壁を切除する手術、具体的には、胃壁に形成された粘膜下層よりも深い腫瘍、つまり、固有筋層に到達しているような腫瘍を内視鏡によって切除する手術はNOTESに該当する。
また、図5に示すように、口から内視鏡Sを挿入し、この内視鏡Sの先端によって胃壁に孔hを形成し、この孔hから内視鏡Sの先端を腹腔内に侵入させ、膵臓や肝臓等に形成された腫瘍等を内視鏡Sによって取り除く手術もNOTESに該当する。
【0004】
かかるNOTESは、従来の外科手術に比べ、腹部に傷跡を残すことなく手術を行うことができ、そして、患者への負担(免疫反応の軽減、早期社会復帰等)が少なくすることができるという利点がある。
【0005】
一方、NOTESでも、これまでの内視鏡手術と同様に、内視鏡先端に設けられたカメラによって患部や手術の状況を確認しながら手術を行わなければならないので、その視野と手術を行う術野を確保することが重要になる(非特許文献1)。
【0006】
従来、内視鏡手術において胃内の手術等を行う場合には、胃に貫通孔が形成されないので、胃内に空気を送気して胃袋を拡張させるだけでも、視野を展開し術野を確保することが可能であって。
しかし、上述したように、NOTESでは、手術によって胃壁を貫通する孔が形成されるので、かかる孔が形成されると同時に胃内の空気は腹腔内に流出し、胃袋がしぼんでしまう。すると、胃壁を切除する手術では、内視鏡先端が胃壁によって覆われてしまい、たちまち視界が失われてしまうか、視野が極端に制限されるので、手術を行うことが困難になる。
【0007】
腹腔鏡による手術では、腹部に設けられた孔から複数のポート(柑子)を腹腔内に挿入し、虚脱してしぼんだ胃を持ち上げて展開することによって、視野や病巣を切除するためのスペース等を確保する手法が採用されている。よって、NOTESでも、複数本の内視鏡を挿入して胃を持ち上げる方法を採用することが考えられる。
しかし、胃内等に挿入できる内視鏡は多くても2本が限界である。2本の内視鏡では、虚脱した胃を持ち上げて展開することは困難であるから、上述したような方法では、十分な視野を確保することは不可能である。
【0008】
また、NOTESにおいても、内視鏡によって胃壁の切除などを行う前に胃壁を腹壁に固定する吊り上げ法などを採用すれば、十分な視野を展開しておくことは可能である。しかし、腹壁と胃壁とを固定するために、針を胃壁だけでなく腹壁にも貫通させなければならないので、体表に傷ができてしまう。つまり、体表に傷をつけないというNOTESの利点が損なわれてしまう。
【0009】
これまでも内視鏡の視野を確保する方法が種々検討されており、胃に貫通孔ができないような手術に使用する器具として、内視鏡の先端に取り付けて使用する、先端が開口したフードなども開発されている(特許文献1、2)。
かかるフードを設けた場合、フードによって内視鏡の先端と胃壁等の間に空間を形成することができるので、胃壁等の観察が行い易くなる。また、フードの先端開口内に患部等が位置するようにすれば、その患部を内視鏡の先端からある程度離した状態とすることができるから、内視鏡による患部の処置が行い易くなる。
【0010】
しかし、特許文献1、2に開示されているようなフードは、内視鏡の先端に固定して使用するものであり、かかるフードによって確保できる視野は、せいぜい内視鏡の直径程度、つまり、直径、深さとも約2cm程度でしかない。このため、NOTESのために十分な視野、術野を確保することは困難である。
しかも、内視鏡にかかるフードを設けていても、胃壁を切除する手術の途中で胃壁がしぼんだ状態となってしまえば、フードがあっても、フード前面の胃壁が折り重なったような状態となり、手術のために十分な視野、術野を確保することは困難となる。
そして、胃壁に形成された孔から内視鏡の先端を腹腔内に侵入させて手術を行う場合には、さらに大きな視野、術野が必要となるので、上記のごときフードを設けただけでは、手術を行うことは不可能である。
【0011】
以上のごとく、現状では、NOTESにおいて、胃壁を腹壁に固定する吊り上げ法などを採用することなく、言い換えれば、体表面に傷を形成することなく、視野や手術のための術野を確保する方法は開発されておらず、かかる技術の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−323323号公報
【特許文献2】特開平11−299725号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】徐号他、“Natural Orifice TranslumenalEndoscopic Surgery (NOTES)の現状と将来展望−体表に傷跡を残さない内視鏡外科手術”、福岡医誌100(2)、p43-50,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑み、NOTESにおいて、術部の視野と術野を確保することができる領域確保用器具および領域確保用器具を備えた内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明の領域確保用器具は、経管腔的内視鏡手術に使用される領域確保用器具であって、中空な空間を有する筒状の本体部を有しており、前記本体部は、前記中空な空間の中心軸と交差する方向において、拡大収縮し得るものであり、拡大した状態において、該本体部の中空な空間は、その断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
第2発明の領域確保用器具は、第1発明において、前記本体部は、収縮した状態では略円筒状になり、拡大した状態では、その先端部における前記中空な空間の断面積がその基端部における前記中空な空間の断面積よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
第3発明の領域確保用器具は、第1または第2発明において、前記本体部が、形状記憶材料によって形成されており、前記中空な空間の中心軸と交差する方向から該中心軸に向かう方向に一定以上の力が加わると、その断面積が小さくなるように収縮し、かつ、該力が除去されると元の形状に復帰し得るように調整されていることを特徴とする。
第4発明の領域確保用器具は、第1、第2または第3発明において、前記領域確保用器具は、中空な空間を有する筒状の連結管を備えており、該連結管は、前記中空な空間の断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなるように形成されており、該中空な空間が前記本体部の中空な空間と連通された状態となるように、その先端が該本体部の基端と連結されていることを特徴とする。
(領域確保用器具を備えた内視鏡)
第5発明の領域確保用器具は、経管腔的内視鏡手術に使用される内視鏡であって、該内視鏡は、該内視鏡のシャフトが挿通される筒状の外筒と、第1、第2、第3または第4発明の領域確保用器具とを備えており、該領域確保用器具は、該外筒と該外筒内に挿通された状態における前記内視鏡のシャフトとの間に、該内視鏡のシャフトの軸方向に沿って、前記外筒の先端から出没可能となるように配設されていることを特徴とする。
第6発明の領域確保用器具は、第1発明において、前記領域確保用器具は、中空な空間を有する筒状の連結管を備えており、該連結管は、前記中空な空間が前記本体部の中空な空間と連通された状態となるように、その先端が該本体部の基端と連結されており、該連結管は、前記中空な空間の断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなり、前記本体部と連結された状態において、該連結管の軸方向における前記本体部の先端から該連結管の基端までの長さが、前記外筒の軸方向の長さよりもながくなるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明によれば、内視鏡が挿通される外筒の先端部に本体部を配置しておき、この本体部を外筒の先端部から突出させて拡大させれば、本体部により内視鏡の視野や内視鏡による手術のための術野を確保することができる。また、本体部を、収縮させたときに外筒内に収容できる程度の大きさに形成しておけば、外筒に収容した状態で本体部を手術等を行う場所に移動させることができるから、手術等を行う場所への本体部の配置が容易になる。
第2発明によれば、本体部を拡大した状態とすれば、本体部内に、基端部から先端部に向かって拡がる空間を形成できる。すると、虚脱した胃等についてカウンタートラクション・トライアンギュレーションをすることができる。また、外筒から近い位置に広い術野を確保することができるから、近視野での手術等が行い易くなるという効果が得られる。
第3発明によれば、収縮させた状態の本体部を、内視鏡が挿通される外筒の先端部に収容しておけば、本体部を外筒の先端部から突出させるだけで、本体部を拡大した状態とすることができる。逆に、本体部を外筒の先端部からその内部に押し込んだり引き込んだりすれば、本体部が収縮するので、本体部を外筒内に収容することができる。つまり、本体部を外筒の先端部から突出させたり、外筒の先端部からその内部に押し込んだり引き込んだりするだけで、本体部を拡大収縮させることができる。よって、本体部を拡大収縮させるための特別な機構が不要になるから、器具の構造を簡単な構造とすることができる。
第4発明によれば、内視鏡が挿通される外筒の先端部に本体部が位置するように、領域確保用器具を外筒内に入れておけば、連結管の基端を操作すれば、本体部を外筒の軸方向に沿って移動させて、本体部を外筒の先端から出没させることができる。すると、本体部を外筒の先端から出没させるための特別な機構が不要になるので、器具の構造を簡単な構造とすることができる。
(領域確保用器具を備えた内視鏡)
第5発明によれば、外筒の先端部から本体部を突出させて拡大させれば、本体部により視野や手術のための術野を確保することができる。また、外筒に収容した状態で本体部を手術等を行う場所に移動させることができるから、手術等を行う場所への本体部の配置が容易になる。
第6発明によれば、領域確保用器具を、その本体部が外筒の先端部に位置するように外筒内に入れておけば、連結管の基端を操作することによって、本体部を外筒の軸方向に沿って移動させて、本体部を外筒の先端から出没させることができる。すると、本体部を外筒の先端から出没させるための特別な機構が不要になるので、器具の構造を簡単な構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡1の概略説明図である。
【図2】(A)は図1のIIA−IIA線矢視図であり、(B)は(A)のB−B線部分断面図である。
【図3】本実施形態の領域確保用器具10の本体部11が外筒5内に収容されている状態の概略説明図であって、(A)外筒5先端を軸方向から見た概略説明図であり、(B)は(A)のB−B線部分断面図である。
【図4】胃内で本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡1を使用している状況の説明図であり、(A)は本体部11が外筒5内に収容されている状態で胃内に配置されている状況の概略説明図であり、(B)は(A)の状態から本体部11を外筒5先端から突出させて本体部11を拡大させた状態の説明図であり、(C)は(B)の状態から内視鏡1を屈曲させた状態の概略説明図である。
【図5】NOTESによる手術の一例を示した図である。
【図6】他の実施形態における領域確保用器具10の概略説明図である。
【図7】他の実施形態における領域確保用器具10を使用した手術の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の領域確保用器具は、内視鏡を使用した経管腔的内視鏡手術(以下、NOTESという)において使用される器具であって、内視鏡の構造等を複雑にしなくても、視野や手術のための術野を確保することができるようにしたことに特徴を有している。
【0019】
(領域確保用器具を備えた内視鏡)
図1において、符号1は、本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡を示している。
この内視鏡1は、一般的な内視鏡手術に使用される軟性内視鏡であり、生体の消化管に挿入されるシャフト2と、このシャフト2を操作する操作部3と、シャフト2先端に光を供給する光源本体に接続する部位等を備えているものである。
【0020】
なお、内視鏡1は、生体の消化管に挿入して使用されるものであれば、そのチューブの径や長さ、材質などはとくに限定されない。
例えば、チューブ2の径は、一般的な内視鏡では10mm程度であるが、5〜15mm程度のものでもよい。また、チューブ2の長さは、一般的な内視鏡では1200mm程度であるが、1200〜3000mm程度のものでもよい。
とくに、腹腔内の臓器の手術を行う場合には、内視鏡1は、狭帯域光観察(NBI)機能やウォータージェットなどの機能を備えているものが好ましい。
【0021】
(外筒5について)
図1において、符号5は内視鏡1のシャフト2が挿通される外筒を示している。この外筒5は、内視鏡1のシャフト2を生体内に挿入離脱するときに、シャフト2の移動を案内するものであり、軸方向に長い中空な筒状の部材によって形成されている。そして、この外筒5はその長さが、シャフト2の長さよりも短く形成されている。
つまり、外筒5は、その一端(基端)からその中空な空間内に内視鏡1のシャフト2を挿入すればその他端(先端)からシャフト2の先端を突出させることができ、シャフト2を中空な空間内に配置した状態でその軸方向に移動させればシャフト2の先端を外筒5の先端から出没させることができるように、形成されているのである。
【0022】
なお、外筒5は、生体の消化管に内視鏡2を挿入して検査や手術等を行う際に一般的に使用されるものであれば、その内径や厚さ、長さ、素材などはとくに限定されない。
例えば、外筒5の内径は、一般的には20mm程度であるが、シャフト2を挿通することができ、しかも、シャフト2を軸方向に沿ってスムースに移動させることができるものであればよく、外筒5の内径は10〜30mm程度でもよい。外筒5の厚さは、一般的には、外筒5の内径が20mm程度であれば数mm程度であるが、外筒5の外径を消化管に挿入することができる程度の太さに形成できるのであれば、外筒5の厚さはとくに限定されない。また、外筒5の長さは、シャフト2の長さよりも短くなっていればよい。つまり、シャフト2を外筒5の一端から挿入したときに、シャフト2の先端を所定の長さ(例えば、10〜500mm程度)以上、外筒5の一端から突出させることができる程度であればよく、とくに限定されない。
【0023】
とくに、胃等の壁に形成された孔を通して腹腔内に内視鏡1の先端を挿入し、腹腔内の臓器の手術を行う場合には、外筒5には、その外径が15〜25mm程度、その長さが500〜1000mm程度であって、内視鏡1のチューブ2をスムースに挿入・抜去・回転できる素材によって形成されているものが好ましい。
【0024】
(領域確保用器具10)
つぎに、領域確保用器具10について説明する。
まず、領域確保用器具10は、その軸方向を貫通する中空な通路を有する筒状の部材であり、外筒5と内視鏡1のシャフト2との間に配設されている。具体的には、領域確保用器具10は外筒5内に挿入されており、その中空な通路内に内視鏡1のシャフト2が挿通されているのである。
【0025】
この領域確保用器具10は、中空な筒状の連結管15と、この連結管15の先端(図1では左端)に取り付けられた中空な本体部11とを備えている。この領域確保用器具10は、その本体部11が外筒5の先端側に位置し、かつ、本体部11の先端が外筒5の先端から突出しない状態となるように外筒5内に挿入されている。
そして、領域確保用器具10は、その軸方向の長さ(つまり、連結管15の基端から本体部11の先端までの長さ)が外筒5よりも長くなるように形成されている。つまり、上記状態となるように外筒5内に配置すると、連結管15の基端が外筒5の基端から突出した状態となるように形成されている。
このため、連結管15の基端を操作して領域確保用器具10を外筒5の軸方向に沿って移動させると、外筒5の先端から、本体部11の先端を出没させることができるのである。
【0026】
また、領域確保用器具10の本体部11は、外筒5内に収容されている状態では収縮しているが、その先端部が外筒5の先端から外部に突出すると、先端部が拡大するような構造を有している。
具体的には、本体部11は、その先端部が外筒5の先端から外部に突出すると、その先端を拡大(拡径)させることができ、しかも、その先端の開口面積を外筒5の断面積よりも大きくすることができるような構造を有している。
【0027】
(領域確保用器具10を備えた内視鏡1の作用効果)
以上のごとき構造であるから、本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡1では、以下のように領域確保用器具10が機能するので、内視鏡1の視野を確保することができ、手術の術野を確保することができるのである。
なお、以下では、虚脱している状態の胃において、領域確保用器具10により視野等を確保する場合を代表として説明する。
【0028】
まず、患者の口から外筒5を挿入して、虚脱している状態の胃内に外筒5の先端を配置する。そして、内視鏡1および領域確保用器具10を外筒5に挿通する(図4(A))。
【0029】
ついで、領域確保用器具10を外筒5の軸方向に沿って移動させて、本体部11を外筒5の先端から突出させて、その先端を拡大(拡径)させる。本体部11は、その先端を拡大(拡径)させると、その先端の開口面積が外筒5の断面積よりも大きくなるから、本体部11の先端外縁によって胃壁STが外方に押されるので、胃を拡張(展開)することができる(図4(B))。
つまり、本体部11の先端外縁によって胃壁STを外方に押すことによって、本体部11の先端外縁によって囲まれた部分の胃壁STに張力が加わって胃壁STが張った状態とすることができるのである。
【0030】
しかも、上述したように、先端を拡大(拡径)させると、本体部11の先端の開口面積は外筒5の断面積よりも大きくなるので、本体部11内の空間を通して、展開された胃壁STの内面の確認が容易になる。そして、本体部11内の空間が内視鏡の径などに比べて大きくなるので、胃壁STの切除などの処置が行い易くなるのである。
【0031】
そして、本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡1では、本体部11の先端によって胃壁STが支持されているので、胃壁STの一部を切除して胃壁STに貫通孔が形成されても、胃が虚脱してしまうことがない。言い換えれば、本体部11の先端の開口内に配置されている部分の胃壁STは展開された状態(張られた状態、いわゆる、カウンタートラクション、トライアンギュレーション)で維持されるのである。
すると、本体部11の先端の開口に囲まれた部分では、常時、内視鏡の視野を確保しておくことができるので、内視鏡1手術を安定した状態で継続することができる。
【0032】
また、本実施形態の領域確保用器具10を備えた内視鏡1では、領域確保用器具10の本体部11を外筒5の軸方向に沿って移動させれば、本体部11を外筒5内に収容することができる。
すると、検査や処置を行う場所を変える場合に、本体部11を外筒5内に収容した状態で外筒5を移動させれば、本体部11も一緒に移動させることができるから、手術等を行う場所の変更や、その場所への本体部11の配置が容易になる。
【0033】
なお、胃内において手術等を行う場所の変更を行う場合には、本体部11を外筒5から突出させたまま、手術等を行う場所の変更を行ってもよい。つまり、本体部11の先端縁11aを胃壁STに接触させたまま、その先端縁11aを胃壁STに沿って移動させて、手術等を行う場所を変更してもよい。この場合には、本体部11を外筒5内に収容すると胃が虚脱してしまうような状態のときでも、本体部11の先端の開口に囲まれた部分の胃壁STを展開させておくことができる。すると、胃壁STを確認しながら場所変更ができるので、胃壁STの切開などを安全に行うことができるという点で好ましい。また、移動している間も胃壁STの状態を確認できるので、病巣等を見逃す可能性を低くできるという点でも好ましい。
【0034】
本体部11の先端縁11aを胃壁STに接触させたまま移動させる場合には、胃壁STと接触する先端縁11aを親水性を有する物質でコーティングしたり、先端縁11aのみを親水性を有する物質で形成したり、または、本体部11全体を親水性を有する物質で形成しておくことが好ましい。
すると、親水性を有する物質は胃壁STとの間の抵抗が小さいので、本体部11の先端縁11aを胃壁STに接触させた状態で胃壁ST内面を滑らせて移動させるときに、その抵抗を少なくでき、スムースに本体部11を移動させることができる。
【0035】
(本実施形態の領域確保用器具10の詳細な説明)
つぎに、本実施形態の領域確保用器具10の各部について、詳細に説明する。
【0036】
(本体部11について)
つぎに、本体部11について説明する。
図2に示すように、本体部11は、筒状に形成された部材であり、その一端(図2、3では右側の端部、以下、基端という)と他端(図2、3では左側の端部、以下、先端という)との間を連通する空間が形成されている。この本体部11は、その中空な空間が内視鏡1のシャフト2を挿通し得る大きさに形成されている。具体的には、本体部11における中空な空間の断面積が、内視鏡1のシャフト2の断面積よりも大きくなるように形成されている。
【0037】
また、本体部11は、その中空な空間の開口面積がその基端から先端に向かって徐々に大きくなり、その先端の開口面積が外筒5の断面積よりも大きくなるように形成されている。つまり、本体部11は、その外観がラッパ状の形状となるように形成されているのである。
例えば、図2に示すように、本体部11の中空な空間の断面が円形の場合、本体部11の長さLを300〜1000mm程度、基端における開口の内径を15〜25mm程度、先端における開口の内径Dを15〜70mm程度に形成すれば、胆嚢摘出術・胃空腸吻合・卵管結紮等に適した視野や手術のための術野を確保することができる。
【0038】
しかも、本体部11は、中空な空間の中心軸CLと交差する方向において、拡大収縮し得るように形成されている。具体的には、本体部11は、形状記憶材料を素材として形成されており、その外面に力が加わっていない状態では、上述したようなラッパ状の形状となるが、その外面に力が加わると、その先端と基端の断面積がほぼ同じ大きさの筒状になるように調整されている。
【0039】
具体的には、本体部11は、ラッパ状の形状の状態からその中心軸CLに向かう方向に一定以下の力が加わってもラッパ状の形状(元形状)は維持され、中心軸CLに向かう方向に一定以上の力が加わると、中空な空間の断面積が小さくなるように収縮するように形成されている。例えば、本体部11の中空な空間が円形の場合には、本体部11の外面から中心軸に向かう方向に沿って一定以上の力が加わると、本体部11は、その中空な空間の断面形状を略円形の状態(言い換えれば、元形状における先端の開口断面形状と相似形)を維持したまま収縮するように調整されているのである。
【0040】
以上のごとき本体部11を、外筒5内にその端部の開口(例えば先端部)から挿入すると、本体部11にはその外面から、中空な空間の中心軸CLと交差する方向から中心軸CLに向かう方向に沿って一定以上の力を加わえることができる。すると、本体部11が収縮するので、本体部11を外筒5内に挿入することができる。
一方、本体部11の先端を外筒5から突出させると、本体部11から突出している部分は上記力から解放された状態となるから、本体部11の全体を外筒5から突出させることによって本体部11を自動的に元形状の状態とすることができる。すると、本体部11は、その先端の開口面積が外筒5の断面積よりも大きくなるから、先端外縁によって胃壁STを外方に押すことができ、胃を拡張(展開)することができるのである。しかも、本体部11を拡大収縮させるための特別な機構が不要であるから、領域確保用器具10の構造を簡単な構造とすることができる。
【0041】
なお、上記のごとき構造とすると、本体部11の全体を外筒5から突出させたときにおける本体部11の先端の開口面積は、本体部11の外筒5先端からの突出量によってほぼ自動的に決定される。
しかし、本体部11には、外筒5先端からの突出量に係わらず、先端の開口面積を調整できる機構を設ければ、観察や処置を行う部位に適した視野や術野を形成できるので、好ましい。
例えば、本体部11の先端縁11aに沿って、一本のワイヤーを輪状に配設して、その一端は先端縁11aに固定し、その他端を領域確保用器具10の手元、つまり、内視鏡1の操作部3近傍に配置しておく。なお、ワイヤーによって形成される輪は、他端を引っ張れば輪が小さくなるように設けておく。すると、手元のワイヤーを調整すれば、本体部11の先端をすぼめることができる。つまり、本体部11の外筒5からの突出量に係わらず、本体部11の先端の開口面積を調整することができるのである。
【0042】
また、本体部11は、使用する場所や処置などに応じて適した形状とすればよく、上記のサイズや形状に限定されないのはいうまでもない。
例えば、外観がラッパ状の形状の場合、本体部11の長さLが同じでも、中空な空間の中心軸CLと内面とのなす角度θを大きくすれば広い視野を確保できるし、角度θを小さくすれば胃壁ST等との距離を大きく取ることができるので、使用する場所や処置に応じて、本体部11の長さLや角度θは適切に設定すればよい。
外観も、必ずしもラッパ状の形状にしなくてもよく、円柱状、側面視楕円形状、放射状などとしてもよい。
【0043】
例えば、図6(A)に示すように、本体部11として、外筒5から突出すると、外筒5よりも内径が大きい筒形になるものを採用することができる。この場合には、消化管を筒状に維持できるので、大腸などを筒状にしておくことができ、その内壁などの検査を行い易くすることができる。また、本体部11の軸方向の長さ分だけ、チューブ2の先端と消化管の内壁等との距離をとることができるという利点も得られる。とくに、本体部11の側壁に貫通孔を形成しておけば、その貫通孔内に配置される部分は、内視鏡1によって検査等を行うことが可能となる。
【0044】
また、図6(B)に示すように、本体部11として、外筒5から突出すると、側面視で楕円状、言い換えれば、先端と基端との間に膨らんだ部分11dを有するような形状にしておけば、2つの内視鏡1を利用する手術(ダブルスコープによる手術)が行い易くなるという利点も得られる。
例えば、図7(B)に示すように、一方の内視鏡1Bのシャフト1Bは胃壁STを含通させて胃壁STの外面における血管等の観察に使用し、他方の内視鏡1Aのシャフト1Aによって手術を行う場合がある。このような場合に、シャフト1Aを本体部11内に配置しておけば、本体部11によって展開された状態の胃壁STを手術できるし、本体部11の先端部分がシャフト1Bが胃壁STを貫通する邪魔にならないので、好ましい。
【0045】
さらに、図6(C)に示すように、本体部11および連通管15の軸方向に沿って、連通管15内および本体部11内を2つの空間に分割する分割プレート10pを設けてもよい。この場合、ダブルスコープによる手術を行う際に、連通管15の各空間にシャフト2A、シャフト2Bそれぞれ通せば、シャフト2A,2Bが絡まりあうなどの問題が生じないので好ましい。そして、かかる構成を採用する場合には、本体部11の開口面積が広いほうが、術野を広く取りつつ、胃壁STを貫通する場所を確保できるので好ましい。
【0046】
また、本体部11における中空な空間の断面形状は円形に限られず(図2参照)、楕円形や、四角形などの多角形状であってもよい。とくに、円形や楕円形などのように、外周に角ばった部分がない形状としておく方が、臓器などと接触した際に、臓器などに加わる力を軽減できるので、好ましい。
【0047】
さらに、本体部11は、中空な空間の中心軸CLと交差する方向において、拡大収縮し得るように形成されていればよく、必ずしも上述したような形状記憶材料で形成されていなくてもよい。
例えば、ゴム等の弾性材料によって弾性材料によって形成された骨組みにシート状の部材を張ってラッパ状に形成してもよい。この場合でも、先端部を窄めれば本体部11を外筒5内に収容することができるし、外筒5から突出させれば本体部11をラッパ状とすることができる。
上記の構造の場合、骨組みに張るシート状の部材としてゴム等のように伸縮可能な素材を使用することが好ましい。かかる素材を使用すれば、先端部を窄めたときに、外筒5内に収容しても、シート状の部材が収縮するので、シート状の部材が骨組み間に垂れ下がったりすることが無い。すると、内視鏡1のシャフト2の移動の邪魔になったり、視野を遮ぎったりするなどがないのでならないので、好ましい。
また、シート状の部材が伸縮可能な材料でなくても、蛇腹状に折り畳めるような構造としておけば、シート状の部材が骨組み間に垂れ下がったりすることを防ぐことができるので、上記と同様の効果をえることができる。
【0048】
さらに、本体部11に、その内部と外部との間を連通する孔を設けてもよい。すると、本体部11内の空間に胃液や血液などの液体が入っても、これらの液体を上記孔から外部に排出することができる。すると、本体部11内の空間に液体が溜まって、内視鏡1による観察の邪魔になったりすることを防ぐことができる。
【0049】
(連結管15について)
つぎに、連結管15について説明する。
連結管15は、軸方向に沿って延びた筒状の部材であり、その一端と他端との間を貫通する中空な空間が形成されている。この中空な空間は、その内部を内視鏡1のシャフト2がスムースに挿通できる程度の大きさに形成されており、本体部11の中空な空間とほぼ同軸となるように連通されている。
【0050】
上述したように、この連結管15は、その軸方向の長さが、その先端に本体部11が設けられた状態において、連結管15の基端から本体部11の先端までの合わせた長さが外筒5よりも長くなるように形成されている。
すると、連結管15の基端を操作すれば、本体部11の先端を外筒5の先端から出没させることができるので、本体部11を外筒5の先端から出没させるための特別な機構が不要になるので、領域確保用器具10の構造を簡単な構造とすることができる。
【0051】
また、連結管15の素材はとくに限定されないが、外筒5や内視鏡1のシャフト2を屈曲させたときに、その動きに追従して変形できる程度の柔軟性を有し、しかも、その半径方向からある程度の力が加わっても形状を維持できる程度の強度を有するものが好ましい。例えば、一般的に外筒5に使用される素材である、ポリエチレン製剤やプラスチック製剤、ウレタン製剤等を使用することができるが、上記機能を満たす素材であればとくに限定されない。
【0052】
また、領域確保用器具10は、本体部11を外筒5の外部から出没させることができ、しかも、本体部11の外筒5内での位置を保持しておくことができる機構を備えているのであれば、連結管15は設けなくてもよい。
しかし、領域確保用器具10が上記のごとき連結管15を備えていれば、連結管15の基端を操作すれば、本体部11を外筒5から突出させる長さの調整や、外筒5内や胃内、腹腔内における本体部11の位置を調整することができるので、これらの調整が容易になるという利点が得られる。また、連結管15の基端の移動を内視鏡1のシャフト2自体に固定するだけで、外筒5内や胃内、腹腔内における本体部11の位置を固定することもできるので、本体部11の位置固定が容易になるという利点も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の領域確保用器具は、口・肛門・膣などの消化管腔内に挿入された内視鏡によって、消化管に貫通孔を形成する手術や腹腔内の手術を行う経管腔的内視鏡手術の視野や術野を確保する器具に適している。
【符号の説明】
【0054】
1 内視鏡
2 シャフト
5 外筒
10 領域確保用器具
11 本体部
11a 外端縁
15 連結管
ST 胃壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経管腔的内視鏡手術に使用される領域確保用器具であって、
中空な空間を有する筒状の本体部を有しており、
前記本体部は、
前記中空な空間の中心軸と交差する方向において、拡大収縮し得るものであり、
拡大した状態において、該本体部の中空な空間は、その断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなるように形成されている
ことを特徴とする領域確保用器具。
【請求項2】
前記本体部は、
収縮した状態では略円筒状になり、
拡大した状態では、その先端部における前記中空な空間の断面積がその基端部における前記中空な空間の断面積よりも大きくなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の領域確保用器具。
【請求項3】
前記本体部が、
形状記憶材料によって形成されており、
前記中空な空間の中心軸と交差する方向から該中心軸に向かう方向に一定以上の力が加わると、その断面積が小さくなるように収縮し、かつ、該力が除去されると元の形状に復帰し得るように調整されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の領域確保用器具。
【請求項4】
前記領域確保用器具は、
中空な空間を有する筒状の連結管を備えており、
該連結管は、
前記中空な空間の断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなるように形成されており、
該中空な空間が前記本体部の中空な空間と連通された状態となるように、その先端が該本体部の基端と連結されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の領域確保用器具。
【請求項5】
経管腔的内視鏡手術に使用される内視鏡であって、
該内視鏡は、
該内視鏡のシャフトが挿通される筒状の外筒と、
請求項1、2、3または4記載の領域確保用器具とを備えており、
該領域確保用器具は、
該外筒と該外筒内に挿通された状態における前記内視鏡のシャフトとの間に、該内視鏡のシャフトの軸方向に沿って、前記外筒の先端から出没可能となるように配設されている
ことを特徴とする領域確保用器具を備えた内視鏡。
【請求項6】
前記領域確保用器具は、
中空な空間を有する筒状の連結管を備えており、
該連結管は、
前記中空な空間が前記本体部の中空な空間と連通された状態となるように、その先端が該本体部の基端と連結されており、
該連結管は、
前記中空な空間の断面積が内視鏡のシャフトの断面積よりも大きくなり、
前記本体部と連結された状態において、該連結管の軸方向における前記本体部の先端から該連結管の基端までの長さが、前記外筒の軸方向の長さよりもながくなるように形成されている
ことを特徴とする請求項5記載の領域確保用器具を備えた内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61211(P2012−61211A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209169(P2010−209169)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】