説明

頭部装着式映像表示装置

【課題】頭部装着式映像表示装置において、カラー映像信号の各色要素の比率を変換し、眼精疲労の低減、メリハリのある明確な映像表示及び外界光に影響されない映像表示を行う。
【解決手段】
頭部装着式映像表示装置に、表示色の要素となる複数の映像要素信号を入力する映像信号入力手段と、前記複数の映像要素信号を、特定の表色系における特定の色の各色要素の構成比に基づいて、異なる色要素の構成比を有する映像信号に変換する映像処理手段と、前記映像処理手段により変換処理された映像信号から映像の表示を行う映像表示手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部装着式映像表示装置に係り、特に、観者の眼精疲労等を軽減させて見易い映像表示を行う頭部装着式映像表示装置及び外界光等の使用環境の変化に対応して明確なカラー映像表示を可能とする頭部装着式映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人間の頭部等に懸架した装着具に、小型の映像表示装置を設けて眼前に映像を表示させるヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」という。)が知られている。HMDは、映画等の鑑賞用や、産業用若しくは医療用機器の遠隔作業用ディスプレイとして利用される等、その用途は多岐にわたっている。
映画等の映像の視聴等を主な目的とするHMDは、その性質上、装着者の眼前はディスプレイで表示される映像に覆われることから外界への視界は遮断される。
【0003】
これに対しHMDが有するハンズフリーというウェアラブル性に特に注目し、装着者の外界に対する視界に重畳的に映像を表示させる重複させるHMDも開発されている。例えば、眼鏡の形状を具備し、レンズにあたる部分の一部分に特種な光学系を設けて映像を表示させるシースルー型のHMDも開発されている。
【0004】
また、シースルー型のHMDは、通常の肉眼視界を妨げずに映像情報が重畳的に表示される特性から、弱視等の視覚障害者に利用される場合も多い。即ち、第二の眼として補助映像情報を眼前に供給できるためである。例えば、眼鏡本体に小型カメラを搭載し、このカメラにより取得された映像をレンズ上のディスプレイ部分に表示させる構成を有するものが開発されている。
【0005】
ところで、HMDは、装着者の眼前で恒常的に映像が表示されることから眼精疲労等を起こしやすい傾向がある。このような問題に対し、特許文献1及び特許文献2では、装着者の使用環境や状態を検出する検出装置を設けて、この検出装置からの出力に基づいて表示映像の色合いや輝度等の調節を行うHMDが提供されている。
【特許文献1】特開2003−76353号公報
【特許文献2】特開2000−298246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるHMDは、装着者の眼精疲労を検出する検出装置からの信号に基づいてコントラストを調節するにすぎず、外界光との関係でコントラストの調節を図るものではない。この点、シースルー型のHMDでは、電子画像が、背景となる外界光の影響により見づらくなるという傾向が有る。
【0007】
また、装着者個人の嗜好や病理的な事情によって、特定の色域の色をより強く表示することを所望する場合も考えられる。例えば、眼病等による水晶体のにごり、色覚異常又は弱視等の視覚に障害をもつ者は、肉眼での視覚に加えて、補助情報取得手段としてのHMDは欠くことができないものであることから、特に、その傾向が強いと考えられる。
【0008】
本発明の目的は、眼精疲労等を軽減させて見易い映像表示を行うとともに、外界光等の使用環境の変化に対応してカラー映像表示を可能とする頭部装着式映像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号からカラー映像を瞳に投射する映像表示手段を備えた頭部装着式映像表示装置において、特定の表色系における基準色の各色要素の構成比に基づいて、前記複数の色要素からなる映像信号を色要素の異なる他の映像信号に変換する映像処理手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記特定の表色系は、CIE1931XYZ表色系色度図であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の色域に属する色であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の頭部装着色映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、信号入力手段が入力した色要素の異なる複数の映像信号からカラー映像を瞳に投射する映像表示手段を備えた頭部装着式映像表示装置において、外界光の色要素を検出して外界光信号を出力する測光手段と、前記外界光信号の各色要素信号を、特定の表色系における基準色の色要素の構成比に変換する第一信号処理と、前記第一信号処理で変換された基準色の各色要素の構成比に基づいて、前記信号入力手段が入力した前記色要素の異なる複数の映像信号を、色要素の異なる他の映像信号に変換する第二信号処理とからなる映像処理手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記特定の表色系は、CIE1931XYZ表色系色度図であることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の領域に属する色であることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項8〜10のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色であることを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項8〜11のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記基準色は(x、y)=(0.32、0.32)を通るY軸に平行な直線から60度毎に分割したいずれか一つの色域に属する色で、且つ(x、y)=(0.32、0.32)が中間点となる色であることを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜12のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記信号入力手段は、視界方向を撮像する撮像手段であることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、請求項1〜13のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記映像表示手段は、外界光を透過することを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、外界光の透過率が80%以上であることを特徴とする。
【0024】
請求項16に記載の発明は、請求項14又は15に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記映像表示手段は、前記映像処理手段により変換処理された映像信号から映像を投射する光透過型表示器と、該光透過型表示器から投射された映像を採光して内部に導光するプリズムと、該プリズムが導光した映像を回折しホログラム映像を瞳に導く回折フィルムとからなることを特徴とする。
【0025】
請求項17に記載の発明は、請求項14又は15に記載の頭部装着式映像表示装置において、前記映像表示手段は、平面方向が瞳と対向する透明表示基板と、前記映像処理手段により変換処理された前記映像信号の映像表示を行う光透過型表示器とを備え、該光透過型表示器は、前記透明基板を介して映像表示面が瞳と対向する位置に設けられることを特徴とする。
【0026】
請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、映像光を瞳に集光するレンズを更に備え、該レンズは、前記透明基板を介して前記光透過型表示器と対向する位置に配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の発明によれば、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号が、映像処理手段によって、特定の表色系における基準色の各色要素の構成比に基づいて、他の色要素となる映像信号に変換するため、入力された映像信号の各色要素の最大値が、基準色の各色要素の最大値となる色空間で表現される映像を表示することが可能となる。
また、従来から知られている単色表示等への映像処理手段や映像表示手段による色の変換と異なり、カラー表示を可能とする要素を備えることができる。即ち、入力信号に対して、各色要素の構成比率を変換する処理であるため赤、緑、青の各色要素を含むからである。
このため、観者の嗜好、病理的要因若しくはHMDの使用環境等に応じて、見易い映像を表示することができるという効果を奏する。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、特定の表色系が、色の定量的な取扱いや表色系どうしの変換に汎用性のあるCIE1931XYZ表色系色度図であるため、映像表示手段に表示される映像と基準色を中心として表される色空間の色との差がほとんどなく、正確な色表現を可能とする。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号が、映像処理手段によって、彩度の高い色域に属する色を基準色とし、その構成比率に基づいて変換されるため、メリハリのある映像を表示することが可能となる。
【0030】
請求項4に記載の発明によれば、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号が、映像処理手段によって、前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の色域に属する色を基準とし、その構成比率に基づいて変換されるため、特に、オレンジ系の色と赤系の色を強調する色空間で構成された映像を表示することが可能となる。
【0031】
請求項5に記載の発明によれば、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号が、映像処理手段によって、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色を基準色として、その構成比率に基づいて変換されるため、特に、オレンジ系の色を強調する色空間で構成された映像を表示することが可能となる。
【0032】
請求項6に記載の発明によれば、信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号が、映像処理手段によって、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色を基準色として各色要素の構成比を前記映像信号の色要素の最大値とすることができる。即ち、汎用性を有するNTSC規格での色変換が可能となる。
【0033】
請求項7に記載の発明によれば、第一信号処理により、測光手段が検出して出力する外界光信号を、特定の表色系における基準色の色要素の構成比に変換することができる。更に、第二信号処理により、この基準色の構成比に基づいて、信号入力手段が入力した映像信号を色要素の異なる他の映像信号に変換することが可能となる。これにより外界光色と一定の関係を有する色を基準色とすることが可能となり、更に、基準色の各色要素の構成比を最大値とした色空間で表現されるカラー映像を表示することが可能となる。
【0034】
請求項8に記載の発明によれば、特定の表色系が、色の定量的な取扱いや表色系どうしの変換に汎用性のあるCIE1931XYZ表色系色度図であるため、映像表示手段に表示される映像と基準色を中心として表される色空間の色との差がほとんどなく、正確な色表現を可能とする。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、第一信号処理により外界光信号が変換される基準色を前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた楕円の外側の色域に属する色に変換することで、彩度の高い色で表示されるメリハリの有るカラー映像を表示することができる。
【0036】
請求項10に記載の発明によれば、第一信号処理により外界光信号が変換される基準色を前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の領域に属する色に変換することで、オレンジ系の色及び赤系の色を中心とした色空間で構成されたカラー映像を表示することが可能となる。
【0037】
請求項11に記載の発明によれば、第一信号処理により外界光信号が変換される基準色を前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色に変換することで、オレンジ系の色を中心とした色空間で構成されたカラー映像を表示することが可能となる。
【0038】
請求項12に記載の発明によれば、第一信号処理により外界光信号が変換される基準色を前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を通るY軸に平行な直線から60度毎に分割したいずれか一つの色域に属する色で、且つ(x、y)=(0.32、0.32)が中間点となる色に変換することで、オレンジ系の色若しくは赤系の色を強調する色空間で構成されたカラー映像を表示することが可能となる。また、この外界光に対し補色関係あるいは補色関係に近い色を中心とした色空間でカラー映像を表示することが可能となる。
【0039】
請求項13に記載の発明によれば、前記信号入力手段が、視界方向を撮像する撮像手段であるため、観者が映像表示手段を通して視界方向の景色を認識することが可能となる。
【0040】
請求項14に記載の発明によれば、映像表示手段が外界光を透過することが可能であるため、映像表示手段を介して観者の瞳に外界の景色を導くことが可能となる。この結果、外界の景色と映像表示手段の映像とを重畳的に表示することが可能となる。
【0041】
請求項15に記載の発明によれば、映像表示手段の外界光透過率が80%以上と高いため、特に、弱視者等のように光に対する識別力が低下している場合でも、外界光を充分に認識することが可能となる。
【0042】
請求項16に記載の発明によれば、映像光の導光を可能とするプリズムを備えることで、頭部装着式の映像表示機という部品設置上の制約をうけるHMDにおいて、映像光を照射する光透過型表示器の配置を比較的自由に行うことができる。この結果、好適な映像表示を担保したまま、装置の簡便化が可能となる。
【0043】
請求項17に記載の発明によれば、光透過型表示器が、瞳と対向する透明基板上に設置されることで装置全体の小型化が可能となる。更に、瞳と対向する位置に光透過型表示器を設けることで、充分な映像光束を照射することが可能となる。
【0044】
請求項18に記載の発明によれば、眼球に焦点の合った映像光束の照射が可能となる。更に、光透過型表示器と同様に、瞳と対向する位置に設けられるため、充分な映像光を確実に集光することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
〔第1実施形態〕
次に、本発明の最良の形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明を適用したHMD1の外観構成を示した概要図である。先ず、第1実施形態におけるHMD1の外観構成について説明する。なお、以下の説明において、接眼方向と反対の方向を正面とする。
【0046】
HMD1は、通常の眼鏡と同様に、鼻当て2及びテンプル3が備えられるフレーム4と透明基板であるレンズ5とを有する。このフレーム4には、映像表示手段としての接眼光学系6及び映像表示装置8と撮像装置7とが一体となって固設され、映像表示装置8及び撮像装置7とケーブル9を介して接続されるコントロールボックスである制御ユニット26が備えられる。
また、レンズ5と接眼光学系6とは、接眼面と反対方向の面が段差なく一致するように嵌合されている。レンズ5は、接眼光学系6を保持する作用も有することから、少なくとも4mmの厚さを確保している。
HMD1は、接眼光学系6の一部分にホログラム映像を表示し、光の干渉を利用して人間の実際の視界上にこの映像を重複表示させるいわゆるシースルー型のHMDである。
【0047】
なお、第1実施形態では、制御ユニット26を眼鏡部分と別にする構成としているが、図2に示すように、HMD50の回路の集積化により制御ユニット26を眼鏡部分に組み込む構成としてもよい。
【0048】
映像表示装置8は、制御ユニット26から送信される電子信号を変換して映像光を接眼光学系6に照射するものである。図3は、映像表示装置8及び接眼光学系6の左側面からの断面を示した側断面図である。映像表示装置8の本体となる筐体10の内部には、制御ユニット26から送信される電子信号から映像を生成する光透過型液晶表示器12と、光源である発光ダイオード(LED)11と、発光ダイオード11からの照射光を光透過型液晶表示器12の全面に導くための照明光学系であるレンズ5とが備えられる。
【0049】
接眼光学系6は、更に、プリズム14とホログラム素子15とからなるホログラフィック光学素子である。プリズム14は、光透過型液晶表示器12から照射される映像を採光し内部に反射させながら導光を行うものである。ホログラム素子15は、この導光された映像が照射されてホログラム映像を表示させるようになっている。より具体的には、プリズム14の上部が、端部に向かうにつれて正面方向に厚くなるように楔の形状に形成されている。光透過型液晶表示器12からの映像光束を採光しやくするためである。
接眼光学系6の下端部には、上端部から採光された光が、全反射されながらプリズム14の内部に導かれ、この導かれた光がホログラム素子15に照射されることで光の干渉により眼Eに映像を結ばせるようになっている。
【0050】
また、弱視者等の光に対する認識力が低い者にも対応させるため、接眼光学系6の光透過率は80%以上となっている。即ち、外界光をより多く眼球に導き、肉眼視覚を確保するためである。
【0051】
また、映像情報の入力手段の一つである撮像装置7は、フレーム4のブリッジ16近傍に備えられ、観者の前方視界を撮影可能なように設置されている。撮像装置7は、被写体からの反射光を受光素子の光電変換作用により電子信号に変換し、ケーブル9を介して接続される制御ユニット26に送信するものであり、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary metal oxide semiconductor)イメージセンサ等を利用した撮像装置が適用できる。HMDは、特に、顔面部に懸架する装置であることから、小型且つ軽量のものが好ましい。HMD1では、小型CCDカメラを採用している。
撮像装置7により光電変換された電子信号は、その後、制御ユニット26に出力され、接眼光学系6上に映像を表示させることが可能となっている。
【0052】
次に、HMD1の制御ユニット26について説明する。
図4は、制御ユニット26の機能的構成を示したブロック図である。制御ユニット26は、A/D変換器20、表示駆動装置22、演算処理部23、外部入力端子24及び電源ユニット25から構成される。
【0053】
A/D(Analog/Digital)変換器20は、撮像装置7から出力された映像信号、即ち、アナログのR(赤)G(緑)B(青)の各映像要素信号を、サンプリングによりデジタル映像要素信号に変換し演算処理部23に出力するものである。また、表示駆動装置22は演算処理部23で映像処理等の各種処理がなされた映像要素信号やバックライトである発光ダイオード11の輝度信号等に各種の補正処理を行い、映像表示装置8に出力するものである。
なお、電源ユニット25は、図示しない電源スイッチを介してHMD1を作動させる電源を供給するものである。各種外部電源又は携帯電池若しくは充電池も適用可能であるが、HMD1のウェアラブル性に鑑み、携帯型の電池が適用されるものである。また、外部入力端子24は、例えば、パーソナルコンピュータ等の外部機器からの映像信号を入力するものである。
【0054】
演算処理部23は、CPU27、ROM28、DSP29及びグラフィックメモリ30からなる。
CPU(Central Processing Unit)27は、予め記録されたプログラムに従って、HMD1の全体制御を行うものである。特に、HMD1では、測光値判定回路21から出力される外界の色要素信号をDSP29に出力する。また、A/D変換器20から入力されるRGBの各映像要素信号を生データ(以下、単に「RAWデータ」という。)としてグラフィックメモリ30に出力し記録させる。
【0055】
また、ROM(Read Only Memory)28は、HMD1の制御全般に関わるプログラム及びDSP29が映像信号を変換する際に基準とするCIE1931XYZ表色系色度図の座標平面上の値に関する各種の情報が格納されるものである。
【0056】
グラフィックメモリ30は、A/D変換器20から取得されたデジタル信号や、DSP29等で映像処理が施されたデジタル信号の一時記憶を行うものである。また、DSP29が実行するプログラムを展開するためのプログラムエリアが展開されるものである。
【0057】
DSP(Digital Signal Processor)29は、映像信号の映像処理を行うものであるり、撮像装置7等から入力されたR(赤)、G(緑)、B(青)の各色要素信号をそれぞれ0〜255の256階調のデータに変換し特定の映像処理を行うものである。
この特定の処理について説明すると、予め定められた各色要素信号の構成比に関するデータをROM28から読出し、このデータに基づいて256階調の値に変換されたRGBの各色要素信号の値が変換されるようになっている。
【0058】
次に、DSP29の具体的処理について説明する。図5は、CIE1931XYZ表色系色度図を示した概要図である。破線で囲まれた三角形で示される色域の内側は、接眼光学系6で表示されるカラー映像の表示色域を示す。また、この三角形の内側で且つ一点鎖線で示す楕円の外側の色域に属する色、即ち、(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色が、DSP29の信号処理に使用される基準色として設定されている。
点P((x、y)=(0.33、0.33))は、色度図平面上の通常のホワイトポイントを示す。
【0059】
HMD1は、通常の色空間におけるホワイトポイントを他の色にシフトさせた色空間のデータに基づいて、撮像装置7等から入力される映像信号の各色要素(RGB)を変換し、特定の色、黒系の色及びその他の比較的表示が制限される色とで接眼光学系6にカラー表示を行うものである。
より詳しくは、CIE1931XYZ表色系色度図の座標平面上における特定の色が有する座標値を、映像信号の各色要素であるRGBの最大値として各階調を変換するものである。図5は、CIE1931XYZ表色系色度図の座標平面を示した概要図であるが、ここである色、例えば、点E((x、y)=(0.50、0.40))に位置する色の各色要素の構成比はx:y:zそれぞれ0.50:0.45:0.05となる。この比を、256階調に重み付けがなされたRGBの各色要素信号に対応させることで信号の変換を行うようになっている。
【0060】
先ず、xy色度図上の基準値が示すxとyとの各座標値がXYZ表色系に変換される。xy色度図とXY表色系との関係はx=X/(X+Y+Z)、Y/(X+Y+Z)、Z/(X+Y+Z)であるため、基準色の座標値を代入する。ここで、図5のxy色度図は、等明度面であるため、その明度を示すYは、光源である発光ダイオード11により予め定められている。そのため、明度値をYcとして上記式に代入すると、下記数式1で示される演算によりXYZ表色系におけるXとZの各値も得ることができる。
【数1】

【0061】
次に、数式1で特定される演算処理により得られたX、Y、Zの各値を、数式2で示される演算処理によりRGB表色系のr、g、bの各値に変換される。
【数2】

【0062】
このようにして変換されたR、G、Bの値が、撮像装置7等から取得された映像信号が表現される新たな色空間の最大値(シフトされたホワイトポイント)における各色要素の比となる。
【0063】
このRGBの各比を、下記数式3により特定される演算処理により、映像信号の各色要素信号であるR、G、Bの各階調を変換すし、比の異なる新たな階調であるR´、G´、B´を得る。
【数3】

【0064】
このようにして変換されたR´、G´、B´の各階調を有する映像信号が表示駆動装置22に(図4参照)出力されて、接眼光学系6に特定の色、黒系の色及び比較的出力が制限された色とで表現されるカラー映像が表示されることとなる。
【0065】
なお、DSP29での信号変換処理の基準となる基準色の設定として、図5では、上記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた楕円の外側の色域に属する色とする。更に、上記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色に設定している。
この場合は、彩度の高い色域に属する色を基準色とするため、特に強調される色が明確となり、メリハリのある映像を表示することが可能となる。
更には、上記楕円の中心を(x、y)=(0.32、0.32)よりにずらすことで、青系の色域に属する色を赤系、緑系に比して更に制限することが可能となる。
【0066】
以上のように、第1実施形態におけるHMD1によれば、撮像装置7等から入力される色要素信号の最大値となる基準色の色が中心となる映像をカラー表示することが可能となる。これにより、例えば、外界光は青系の波長帯域に属する光が比較的多く含まれるが、この波長帯域に対して赤系、オレンジ系あるいは緑系等の色を基準色として予め設定することで、観者にとって適当な色を中心として表示される映像表示を行うことが可能となる。
また、彩度の高い色域に属する色を基準色とするため、特に強調される色が明確となり、メリハリのある映像を表示することが可能となる。
更には、上記楕円の中心を(x、y)=(0.32、0.32)よりにずらすことで、青系の色域に属する色を赤系、緑系に比して余分に制限することが可能となる。
【0067】
図6(a)は、色要素信号の最大値となる基準色を、上記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の色域に属する色とする場合を示したものである。
この場合は、赤系、オレンジ系を中心とした色空間でカラー映像を表示することが可能となる。
また、図6(b)に示すように、更に、(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色とすることで、彩度の高い色域に属する色を基準色とし、より強調される色が明確となり、メリハリのあるカラー映像を表示することが可能となる。
【0068】
図7(a)は、色要素信号の最大値となる基準色を、上記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色に設定した場合を示したものである。
この場合は、オレンジ系を中心とした色空間でカラー映像を表示することが可能となる。
また、図7(b)に示すように、更に、(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色とすることで、彩度の高い色域に属する色を基準色とし、より強調される色が明確となり、メリハリのあるカラー映像を表示することが可能となる。
【0069】
また、図5〜図7に示す基準色の設定色域の例は、上記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色に設定した場合を示したものであるが、この色域は一般に映像表示装置における汎用性あるNTSC信号による表示色域の規格である。HMD1は、汎用性のある表示色域においても十分にその効果を発揮するものであり、また、この表示領域と上述した例を組み合わせることにより、観者の都合にあわせた様々な基準色の設定を行うことができる。なお、本発明は、この色域に限定されるものではなく、映像表示装置の表示領域に対応して適宜適用できるものである。
【0070】
なおまた、第1実施形態における信号変換処理は、図1、図2及び図3示すように、映像表示装置8と接眼光学系6とを用いてホログラム映像を表示する構成のものに限らず、他の例に適用することも当然に可能である。即ち、接眼光学系6を介さずに、光透過型液晶表示器12から、映像を直接的に眼に導く構成としてもよい。以下に、図10及び図11を用いて説明する。なお、HMD1及びHMD50と機能を同一とする部材については、同一符号を使用し説明を省略する。
【0071】
図8は、他の例を示したHMD60の外観構成を示した概要図である。HMD1及びHMD50と同様に通常の眼鏡の形状を具備する本体を利用するものである。特に、異なる点は、接眼光学系6を介さずに、直接的に光透過型液晶表示器12からの映像光束を眼に導く点である。
【0072】
HMD60では、透明基板であるレンズ5が瞳と対向する部分に、外界光を透過可能な光透過型液晶表示器12が配設される。この光透過型液晶表示器12に外界光が照射され、スペクトル変換により各種の色要素を有した映像光が、後述するレンズ体41により集光され瞳に映像を表示する構成となっている。
また、光透過型液晶表示器12は横方向に長い形状を有しており、文字などのテキストデータを表示しやすいようになっている。なお、縦方向に長くすることも当然に可能である。
【0073】
また、光透過型液晶表示器12の右上と左下の角には、横後方縦方向の走査信号が流れる透明配線40が接続される。透明配線40は、筐体10の内部に設けられる表示駆動装置22と接続される。
【0074】
また、図9は、HMD60の左側断面である。図9に示すように、レンズ5を介して光透過型液晶表示器12の反対側近傍には、光透過型液晶表示器12によりスペクトル変換された光を眼Eに集光するレンズ体41が備えられる。なお、HMD60では、レンズ体41として両凸レンズを適用するが、眼Eの瞳に充分な集光ができるものであればメニスカスレンズ、平凸レンズ又は各種の複合レンズを適用可能である。
なお、充分な量の光束を瞳に照射するために、光透過型液晶表示器12及びレンズ体41は、レンズ5が瞳と正面対向する部分に配設されている。
【0075】
以上のように、本発明は、HMD60に適用することも可能である。これにより装置全体の簡略化が可能となる。更には、光透過型液晶表示器12に有機ELを適用することも可能である。この場合、自立発光することも可能であるため夜間でも映像表示を行うことも可能となる。また、消費電力が少ないというメリットも有る。
【0076】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態におけるHMD70は、第1実施形態におけるHMD1、50及び60とその外観構成において異なるものではない。従って、外観構成の説明においては図1、図2及び図8をもちいてHMD1、HMD50及びHMD60を適用する。また、図10示すHMD70の機能的構成を示したブロック図を用いてHMD1、50及び60との差異点を説明する。なお、同一機能を有する部材は同一符号を使用し説明を省略する。
【0077】
第2実施形態のHMD70は、図10に示すように、撮像装置7に内蔵された測光センサ72で外界光を測光し、この結果得られる外界光の色に基づいて、撮像装置7等から取得される映像信号の各色要素信号をDSP29で他の色要素信号に変換し、映像表示装置8に映像を表示することを特徴とする。
【0078】
測光センサ72は、受光素子に照射される光束を電子信号に変換し、CPU27に送信する。測光方式としては、多分割測光方式、スポット測光方式又は中央重点方式等いずれの測光方式を採用することも可能である。また、これらの組合せを図示しないモードスイッチで切り替え可能とする構成にしてもよい。
【0079】
また、測光センサ72から出力される外界光信号の測光値をRGB信号の値に変換する測光値判定回路73を備え、更には、測光値判定回路73から出力されるRGB信号を、撮像装置7等から入力される映像信号の色要素信号を変換する際の基準となる基準色に変換する第一信号処理及びこの基準色に基づいて映像信号の各色要素信号を異なる構成比とする第二信号処理を行うDSP71を備える。
【0080】
以下、DSP71で行われる信号変換工程について説明する。撮像装置7からA/D変換器20及びCPU27を介してグラフィックメモリ30に映像要素信号が一時記録される。また、このとき同時に、測光センサ72は、外界光を測定し外界光色信号をDSP71に出力する。
【0081】
DSP71は、下記数式4及び数式5に示す演算処理によりRGB信号とされた外界光色信号をCIE1931表色系色度図における座標平面上の値に変換する。
数式4による演算処理で、外界光信号のRGBの各信号の値を、CIE1931XYZ表色系におけるX、Y、Zの値に変換する。
その後、数式5による演算処理で、CIE1931表色系色度図における座標平面上のx、y、zの各値に変換する。
【数4】

【数5】

【0082】
このように上記色度図の座標平面上の値に変換された外界光色信号に対し、DSP71は、下記の数式6で特定される演算処理を行う。具体的には、座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)の点を中心として180度対称に存在する色の値を得る。即ち、外界光色に対して補色関係若しくは補色関係に近似する色を、撮像装置7等から入力される色要素信号の最大値とするためである。
【数6】

なお、数式6で特定される演算処理では、180度を適用するものであるが、第2実施形態は、この数値に限定されるものはなく、変換を所望する任意の色域に対応する値を設定することが可能である。即ち、第一信号処理での上記数式5の演算処理により得られた値を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として数式6の演算処理により対称あるいは任意の色を基準色とすることも可能である。
【0083】
第二信号処理では、第一信号処理で変換された外界光信号の色度図における座標平面上での値を、グラフィックメモリ30に一時記録されているRAW信号の各色要素の構成比率として、RAW信号の各映像要素信号の構成比率を変換し、各色要素の異なるR’G’B’の信号を生成する処理を行う。ここでの変換処理は、下記数式7〜数式9による演算処理により行われる。なお、下記数式7〜数式9の演算処理は、第1実施形態でCIE1931表色系色度図における座標平面上のx、y、zの各値をRGB形式に変換するのと同様の演算処理である。
【数7】

【数8】

【数9】

【0084】
その後、第二信号処理で変換されたR´G´B´の各階調を有する映像信号が、表示駆動装置22に出力されて外界光色と補色等の関係にある映像を表示する。
【0085】
なお、第一信号処理で基準色となる色は、観者の嗜好、病理的要因又はHMDの使用環境に応じて適当に設定することが可能である。例えば、第1実施形態で用いた図5〜図7に示す色域に属するいずれか一つの色でもよい。あるいは、図11(a)又は図11(b)に示すように、上記色度図における座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)を通るY軸に平行な直線から60度毎に分割したいずれか一つの色域に属する色で、且つ(x、y)=(0.32、0.32)が中間点となる色を基準色とすることもできる。
この場合は、外界光色に対して、特に、補色関係あるいは補色関係に近い色で映像表示を行うことが可能となる。このため、シースルー型のHMDでは、直接肉眼に入射する外界光と映像の区別が明確となり、両者の視覚情報をより好適に活用することが可能となる。また、弱視者等の視力障害をもつ者も、両者の視覚情報をより明確に区別することが可能となり利便性があがる。
特に、図11(b)では、更に、(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色とすることで、彩度の高い色域に属する色を基準色とし、より強調される色が明確となり、メリハリのあるカラー映像を表示することが可能となる。
【実施例1】
【0086】
次に、第1実施形態におけるHMD1、50、60(以下、単に「HMD1等」とする。)の実施例1について説明する。
【0087】
〔実施条件〕表1は、実施例1の実施条件を示したものである。第1実施形態におけるHMD1は、撮像装置7を備えるが、試料映像を均等にするために外部機器からの動画を表示するものとする。
【0088】
外界光の無い全暗室で、10人の被験者がHMDを装着し、30分のカラー映像の動画を見た後に視力を測定する。その測定結果と、予め測定した動画を見る前の視力との差を測定する。
また、実施に使用する10台のHMDをA〜Jとし、それぞれの表示する最大の値をとる基準色は全て異なるものとする。具体的には、下記表1に示される設定がなされるものである。G、H、I及びJは、第1実施形態におけるHMD1は、図5に示すように、基準色を、CIE1931XYZ表色系色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた楕円の外側の色域に属する色であり且つ
上記色度図における座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色に設定するものとする。
これに対し、A、B、C、D、E及びFは、上記色域外に属する色を基準色として設定するものとする。
なお、比較例A〜F及びHMD1等G〜Jを、色度図上にプロットしたものを図12に示す。
【表1】

【0089】
以上の条件で実施された実験の結果を、下記表2に示す。また、映像の見易さについて、5を非常に優れる、4を比較的優れる、3を普通、2を比較的見にくい及び1を非常に見にくいとして段階で評価した。
【表2】

【0090】
以上の結果から分かるように、HMD1等の色域で基準色を設定されたものほど映像を見やすいことが分かる。また、視力の低下もほとんど無く疲労が格段に少ないことが分かる。特に、HMD1等:GやHのように、オレンジ系や赤系の色域に基準色を設定するものほど視力の低下が少なく評価が高いことが分かる。
【実施例2】
【0091】
次に、第2実施形態におけるHMD70の実施例2について説明する。
〔実施条件〕表3は、実施例2の実施条件を示したものである。また、第2実施形態におけるHMD70は、外界光色に対し、補色、補色に近い関係にある色域に属する色を第一信号処理での基準色とするものであるため、外界光色のある環境下で実施した。外界光の色は、CIE1931表色系色度図における座表平面上の(x、y)=(0.35、0.20)、(0.25、0.15)、(0.20、0.30)及び(0.45、0.40)の4つの形式でそれぞれ行うものとする。また、表示映像として動画に加えて文字映像を特に表示し、その文字映像の見易さも評価した。評価は、5を非常に優れる、4を比較的優れる、3を普通、2を比較的見にくい及び1を非常に見にくいとして段階で評価した。
【表3】

【0092】
外界光の色が(x、y)=(0.35、0.20)の場合の結果を下記表4に示す。
また、基準色の属する色域の条件、外界光の色、比較例A〜F及びHMD70:Gの基準色をプロットしたものを図13に示す。
【表4】

【0093】
次に外界光の色が(x、y)=(0.25、0.15)の場合の結果を、下記表示5に示す。また、基準色の属する色域の条件、外界光の色、比較例A〜F及びHMD70:Hの基準色をプロットしたものを図14に示す。
【表5】

【0094】
次に外界光の色が(x、y)=(0.20、0.30)の場合の結果を、下記表6に示す。また、基準色の属する色域の条件、外界光の色、比較例A〜F及びHMD70:Iの基準色をプロットしたものを図15に示す。
【表6】

【0095】
次に外界光の色が(x、y)=(0.45、0.40)の場合の結果を、下記表7に示す。また、基準色の属する色域の条件、外界光の色、比較例A〜F及びHMD70:Jの基準色をプロットしたものを図16に示す。
【表7】

【0096】
以上の結果より、外界光色に対して補色又は補色に近い関係にある色域に属する色を第一信号処理での基準色とするものは、映像が特に見易いことが分かる。また、視力の低下も格段に少ない。更に、文字映像も比較例に比して見易いことが分かる。特に、外界光の色に対し、上記色度図上で(x、y)=(0.32、0.32)を中心として略180度対称となる完全な補色関係に近い色を基準色とする場合は、特に、視力の低下がなく疲労が著しく少なく、また、動画、文字映像もともに非常に見易い。
【0097】
以上、本発明を適用したHMD1、50、60及び70の最良の実施形態について説明したが、本発明はこれらのものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における外観構成を示した概要図である。
【図2】本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における他の外観構成を示した概要図である。
【図3】本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における映像表示装置及び接眼光学系の概要を示した側断面図である。
【図4】本発明を適用したHMDの第1実施形態における制御ユニットの機能的構成を示したブロック図である。
【図5】本発明を適用したHMDの第1実施形態における基準色の色域を示したCIE1931XYZ表色系色度図の概要図である。
【図6】(a)本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における基準色の色域を示した他の例の概要図である。(b)本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における基準色の色域を示した他の例の概要図である。
【図7】(a)本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における基準色の色域の他の例を示した概要図である。(b)本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における基準色の色域の他の例を示した概要図である。
【図8】本発明を適用したHMDの第1実施形態及び第2実施形態における他の外観構成を示した図である。
【図9】本発明を適用したHMDの映像表示器及びレンズ体の概要を示した側断面図である。
【図10】本発明を適用したHMDの第2実施形態における機能的構成を示した概要図である。
【図11】(a)本発明を適用したHMDの第2実施形態における基準色の色域を示した他の例の概要図である。(b)本発明を適用したHMDの第2実施形態における基準色の色域を示した他の例の概要図である。
【図12】本発明を適用したHMDの実施例1における実施条件を示したCIE1931表色系色度図の概要図である。
【図13】本発明を適用したHMDの実施例2における実施条件を示したCIE1931表色系色度図の概要図である。
【図14】本発明を適用したHMDの実施例2における実施条件を示したCIE1931表色系色度図の概要図である。
【図15】本発明を適用したHMDの実施例2における実施条件を示したCIE1931表色系色度図の概要図である。
【図16】本発明を適用したHMDの実施例2における実施条件を示したCIE1931表色系色度図の概要図である。
【符号の説明】
【0099】
1 HMD
2 鼻当て
3 テンプル
4 フレーム
5 レンズ
6 接眼光学系
7 撮像装置
8 映像表示装置
9 ケーブル
10 筐体
11 発光ダイオード
12 光透過型液晶表示器
13 レンズ
14 プリズム
15 ホログラム素子
20 A/D変換器
21 測光値判定回路
22 表示駆動装置
23 演算処理部
24 外部入力端子
25 電源ユニット
26 制御ユニット
27 CPU
28 ROM
29 DSP
30 グラフィックメモリ
40 透明配線
・ 41 レンズ体
50 HMD
60 HMD
70 HMD
71 DSP
72 測光センサ
73 測光値判定回路
E 眼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力手段が入力した複数の色要素からなる映像信号からカラー映像を瞳に投射する映像表示手段を備えた頭部装着式映像表示装置において、
特定の表色系における基準色の各色要素の構成比に基づいて、前記複数の色要素からなる映像信号を色要素の異なる他の映像信号に変換する映像処理手段を備えることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記特定の表色系は、CIE1931XYZ表色系色度図であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の頭部装着色映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上の(x、y)=(0.67、0.33)、(0.21 、 0.71)、(0.14 、 0.08)の3点を頂点とする三角形の内側の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項7】
信号入力手段が入力した色要素の異なる複数の映像信号からカラー映像を瞳に投射する映像表示手段を備えた頭部装着式映像表示装置において、
外界光の色要素を検出して外界光信号を出力する測光手段と、
前記外界光信号の各色要素信号を、特定の表色系における基準色の色要素の構成比に変換する第一信号処理と、前記第一信号処理で変換された基準色の各色要素の構成比に基づいて、前記信号入力手段が入力した前記色要素の異なる複数の映像信号を、色要素の異なる他の映像信号に変換する第二信号処理とからなる映像処理手段とを備えることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項8】
請求項7に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記特定の表色系は、CIE1931XYZ表色系色度図であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を中心とする長軸の半径が0.2、短軸の半径が0.1で、長軸が前記色度図のy軸に平行な楕円を反時計周りに30度回転させた外側の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上におけるx=0.32以上の領域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は、前記色度図の座標平面上における(x、y)=(0.32、0.32)を通るy軸に平行で且つy≧0.32である直線を、(x、y)=(0.32、0.32)を中心として時計回りに120度回転させた回転領域の色域に属する色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記基準色は(x、y)=(0.32、0.32)を通るY軸に平行な直線から60度毎に分割したいずれか一つの色域に属する色で、且つ(x、y)=(0.32、0.32)が中間点となる色であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記信号入力手段は、視界方向を撮像する撮像手段であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、外界光を透過することを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項15】
請求項14に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、外界光の透過率が80%以上であることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、
前記映像処理手段により変換処理された映像信号から映像を投射する光透過型表示器と、
該光透過型表示器から投射された映像を採光して内部に導光するプリズムと、
該プリズムが導光した映像を回折しホログラム映像を瞳に導く回折フィルムとからなることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、平面方向が瞳と対向する透明表示基板と、
前記映像処理手段により変換処理された前記映像信号の映像表示を行う光透過型表示器とを備え、
該光透過型表示器は、前記透明基板を介して映像表示面が瞳と対向する位置に設けられることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。
【請求項18】
請求項17に記載の頭部装着式映像表示装置において、
前記映像表示手段は、映像光を瞳に集光するレンズを更に備え、
該レンズは、前記透明基板を介して前記光透過型表示器と対向する位置に配設されることを特徴とする頭部装着式映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−165773(P2006−165773A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351323(P2004−351323)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】