説明

顔料分散物及びそれを用いたインク組成物、並びに印刷物

【課題】顔料が微細に分散され、顔料が高濃度な領域での流動性に優れ、希釈状態では長期間保存した場合における顔料の分散安定性にも優れた顔料分散物、及び該顔料分散物を含み、インクジェット記録用として好適なインク組成物、並びに印刷物を提供する。
【解決手段】(a)顔料を2〜35質量%、(b)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を5〜30質量%含み、重量平均分子量が10000〜200000である重合体を(a)顔料100質量部に対し10〜30質量部、(c)主鎖にポリアルキレンイミン鎖又はポリアリルアミン鎖を有し、側鎖にポリエステル鎖を有するグラフト共重合体を(a)顔料100質量部に対して15〜50質量部、含有し、前記(b)重合体及び前記(c)グラフト共重合体の含有量の和が、前記(a)顔料100質量部に対して25〜70質量部である顔料分散物、及び該顔料分散物を含むインク組成物、並びに印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散物及び該顔料分散物を含有するインク組成物、並びに印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種着色組成物において、顔料を着色剤として用いる場合、固体である顔料の分散性、分散安定性を確保することが重要である。顔料分散性、分散安定性に優れた顔料分散物を用いることで、均一な色相を有する硬化性組成物やインク組成物を得ることができる。特に、インク組成物には、耐光性に優れた顔料が着色剤として汎用されるが、顔料の分散性に問題がある場合には、色調が不均一になることや、インクジェット記録方法に用いるインク組成物の場合には吐出性が低下することなど、種々の問題が引き起こされる。
【0003】
近年、画像データ信号に基づき、被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、インクジェット記録方法が注目されている。インクジェット記録方法は、騒音が少なく、非常に微小な液滴を打滴することにより、高精彩な画像を低いランニングコストで記録できるといった利点をも有するものである。
【0004】
インクジェット記録方法によれば、普通紙のみならずプラスチックシート、金属板など非吸液性の被記録媒体にも印字可能であるが、印字する際の高速化及び高画質化を実現するために、乾燥、硬化に要する時間を短縮することが望まれている。このため、インクジェット方式の一つとして、活性エネルギー線の照射により短時間に硬化可能なインクをインクジェット記録用インクとして用いた記録方式がある。この方法によれば、印字後直ちに活性エネルギー線を照射し、インク液滴を硬化させることで鮮鋭な画像を形成することができる。このような硬化性インクジェットインク組成物には、発色性に優れた高精細画像の形成や、インク組成物を安定に吐出するために、高い顔料分散性及びその経時的な安定性が求められる。
【0005】
インク組成物に鮮明な色調と高い着色力を付与するためには、顔料の微細化が必須である。特に、インクジェット記録用に用いられるインク組成物では、吐出されるインク液滴が画像の鮮鋭度に大きな影響を与えるため、吐出液滴も少量となり、且つ、該インク組成物より形成されるインク硬化膜の膜厚よりも微細な粒子を用いることが必須となる。しかし、このように、高い着色力を得るために顔料粒子をより微細化していくと、微粒子の分散が困難になり、凝集体が発生しやすくなる。また、分散剤の過剰な添加により組成物の粘度が上昇するといった問題も生じる。顔料凝集体の発生やインク組成物の粘度上昇は、いずれもインク吐出性に悪影響を与えるので、顔料の凝集や増粘などが生じたインク組成物をインクジェット記録用として用いるのは好ましくない。
【0006】
微細な顔料分散物を含有するインク組成物の製造方法として、予め濃厚な顔料分散物(ミルベースとも言う)を作製し、得られたミルベースを溶媒や重合性化合物などの所望の液体で希釈してインク組成物を得る方法がある。しかし、ミルベースは濃厚な顔料分散物であるため、顔料間の相互作用が強く、分散時や保存時に粘度増加しやすい傾向ある。ミルベースの粘度増加は、製造機への負荷が大きくなるだけでなく、循環不良による製造安定性の低下、インク作製時の再分散性の低下を招くため好ましくない。かかる観点から、充分な流動性と保存安定性を有するミルベース、及び、充分な流動性を有し、かつ微細化された顔料が安定に分散し、硬化性にも優れたインク組成物が求められている。
【0007】
安定なインク組成物を得るための分散剤については、以下のような種々の提案がなされている。即ち、顔料との親和性を向上させるため、顔料誘導体を分散剤として使用したインク組成物(例えば、特許文献1及び2参照。)や、フタロシアニン、キナクリドン系などの特定の顔料に対し、分散剤として塩基性基を有するポリマーを用いたインク組成物(例えば、特許文献3参照。)、ポリ(エチレンイミン)−ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)グラフトポリマーなどの分散剤と該分散剤を溶解させる特定のモノマーとを含有する、有機溶剤を用いないインク組成物(例えば、特許文献4参照)や、有機顔料を形成する複素環残基を有するグラフト共重合体を分散剤として用いたインク組成物(例えば、特許文献5参照)、塩基性末端を有する顔料分散剤ともう一種の顔料分散剤を併用したイオン性化合物を含有する粉体分散体(例えば、特許文献6参照)や、酸性基を有する顔料分散剤と塩基性基を有する顔料分散剤を併用した顔料分散液組成物(例えば、特許文献7参照)について開示がなされている。
【0008】
これらの文献に開示される顔料分散剤や顔料分散物、インク組成物は、従来よりも顔料の微粒化や、インク組成物の安定性は高まる傾向にあるが、高濃度領域での顔料分散物の流動性や、顔料インク組成物の安定性にはなお改良の余地があった。また、インク組成物の安定性が優れたものについても、ミルベースの安定性には改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−119414号公報
【特許文献2】特開2004−18656号公報
【特許文献3】特開2003−321628号公報
【特許文献4】特開2004−131589号公報
【特許文献5】特開2007−9117号公報
【特許文献7】特開2006−232987号公報
【特許文献8】特開2000−256570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、顔料が微細に分散され、かつ、長期間保存した場合においても顔料の分散安定性に優れた顔料分散物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、顔料が微細に分散され、かつ、長期間保存或いは繰り返し温度変化を経た後であっても顔料の分散安定性に優れ、インクジェット記録用として好適なインク組成物、及びそれを用いて得られた印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、二種類の特定の重合体を組み合わせて用いることにより、顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散物が得られること、さらに、該顔料分散物を用いることにより、長期の保存、或いは、繰り返し温度変化を経た後であっても、分散安定性の低下が効果的に抑制されたインク組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0012】
<1> (a)顔料を2質量%〜35質量%、(b)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を5質量%〜30質量%含み、重量平均分子量が10000〜200000である重合体を、前記(a)顔料100質量部に対し10質量部〜30質量部、及び(c)主鎖にポリアルキレンイミン鎖又はポリアリルアミン鎖を有し、側鎖にポリエステル鎖を有するグラフト共重合体を、前記(a)顔料100質量部に対して15質量部〜50質量部、含有し、前記(b)重合体及び前記(c)グラフト共重合体の含有量の和が、前記(a)顔料100質量部に対して25質量部〜70質量部である顔料分散物。
【0013】
【化1】

【0014】
[一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合又は2価の連結基を表す。Pは有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基を表す。]
【0015】
<2> 前記一般式(1)におけるPが、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロンアゾ系顔料、ジオキサジン系顔料、ナフトールAS系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、及びペリレン系顔料からなる群から選ばれる何れかの顔料の部分構造であって、2〜5個の複素環が縮環した構造を含む複素環残基である<1>に記載の顔料分散物。
<3>
前記一般式(1)におけるPが、炭素数7〜20の複素環残基である<2>に記載の顔料分散物。
【0016】
<4> 前記部分構造が、ベンズイミダゾロン、カルバゾール、アクリドン、アントラキノン、フタルイミド、及びナフタルイミドからなる群から選ばれる何れかの部分構造である<2>または<3>に記載の顔料分散物。
<5> 前記(b)重合体が、塩基性官能基を含む繰り返し単位を有する<1>〜<4>の何れか1つに記載の顔料分散物。
【0017】
<6> 前記(b)重合体が、グラフト共重合体である<1>〜<5>の何れか1つに記載の顔料分散物。
<7> 前記(a)顔料が、キナクリドン系顔料である<1>〜<6>の何れか1つに記載の顔料分散物。
【0018】
<8> 前記一般式(1)におけるPが、キナクリドンが有する複素環と同一又は類似の構造である複素環を有する複素環残基である<7>に記載の顔料分散物。
<9> 前記(b)重合体の含有量(B)を、(c)グラフト共重合体の含有量(C)で割った値((B)/(C))が、0.2〜1.3である<1>〜<8>の何れか1項に記載の顔料分散物
<10> 更に、(d)重合性化合物を含有する<1>〜<9>の何れか1つに記載の顔料分散物。
【0019】
<11> <1>〜<10>の何れか1つに記載の顔料分散物を含むインク組成物。
<12> 前記(a)顔料を2質量%〜20質量%と、(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の少なくとも一方を50質量%〜95質量%と、を含有する<11>に記載のインク組成物。
<13> インクジェット用である<11>又は<12>に記載のインク組成物。
【0020】
<14> <13>に記載のインク組成物を用いて、インクジェットプリンターにより被記録媒体に印字して得られた印刷物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、顔料が微細に分散され、顔料が高濃度な領域での流動性に優れ、かつ、希釈状態では長期間保存した場合における顔料の分散安定性にも優れた顔料分散物を提供することができる。
また、本発明によれば、顔料が微細に分散され、かつ、長期間保存した際も安定性に優れているため、インクジェット記録用として好適なインク組成物、及びそれを用いて得られた印刷物を提供することができる
【発明を実施するための形態】
【0022】
[顔料分散物]
本発明の顔料分散物は、(a)顔料を2質量%〜35質量%、(b)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を5質量%〜30質量%含み、重量平均分子量が10000〜200000である重合体を、(a)顔料100質量部に対し10質量部〜30質量部、及び(c)主鎖にポリアルキレンイミン鎖又はポリアリルアミン鎖を有し、側鎖にポリエステル鎖を有するグラフト共重合体を、(a)顔料100質量部に対して15質量部〜50質量部、含有し、前記(b)重合体及び前記(c)グラフト共重合体の含有量の和が、前記(a)顔料100質量部に対して25質量部〜70質量部である顔料分散物である。
また、本発明の顔料分散物は、更に、(d)重合性化合物を含有する態様も好適である。
【0023】
【化2】

【0024】
前記一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合又は2価の連結基を表す。Pは有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基を表す。
【0025】
本発明の顔料分散物は、顔料を高濃度に含有する場合であっても、(b)特定重合体及び(c)グラフト共重合体の作用により、粘度増加が小さく、高い顔料の分散性が得られ、その分散安定性を長期に渡り維持することができる。さらに、顔料として微細な顔料を選択した場合であっても、発色及び着色性が向上した顔料分散物を得ることができる。
【0026】
本発明の顔料分散物は、顔料の分散性及び分散安定性が良好であるため、希釈して様々な用途に利用することができる。例えば、顔料分散物の生産性を高める観点からは、一旦濃厚な顔料分散物(ミルベース)を調製し、それを希釈することで、液物性、着色性、硬化性、硬化膜物性などを調整し、インク組成物、インク組成物、カラーフィルター用レジストなどへの種々の応用が可能である。特に本発明の顔料分散物を含むインク組成物は低粘度でも分散安定性に優れているため、インクジェットプリンターを用いて画像を印刷した場合の吐出安定性が優れている。
【0027】
本発明の顔料分散物は、(a)顔料、(b)特定重合体及び(c)特定グラフト共重合体の他、更に(d)重合性化合物を含有させることで、活性エネルギー線の照射又は加熱による硬化しうる硬化性のインク組成物、特にインクジェット用インク組成物として好適である。本発明の顔料分散物を適用してなるインクジェット用インク組成物は、鮮明な色調と高い着色力を有し、高画質な画像を形成することができる。また、このようなインクジェット用インク組成物は、非吸収性の被記録媒体上にも、高品質の画像をデジタルデータに基づき直接形成しうることから、大面積の印刷物の作製にも好適に使用される。
【0028】
本発明の顔料分散物は、インクジェット用インク組成物等のインク組成物以外にも、所望の性能を付与する化学物と混合したインク組成物として調製することで、当該インク組成物を通常の印刷に使用して、発色性に優れた鮮鋭な画像を形成し、高品位な印刷物を得ることができる。
即ち、本発明のインク組成物は、有機媒体中での分散性が優れているため、非硬化性のインクに使用した場合にも鮮鋭な色相を有する画像を形成することができる。例えば、被膜形成ポリマーと着色剤と溶剤とを含有し、塗布後に溶剤が除去されることで被膜が硬化する一般的なインク組成物、例えば、溶媒としてシクロヘキサノンなどの揮発性溶剤を使用するソルベントインクも好ましい態様である。
【0029】
さらに、本発明の顔料分散物を適用してなるインク組成物は、インク組成物への適用のみならず、光造形材料としても有用であり、レジスト、カラーフィルター、光ディスクの製造にも好適に使用することができる。また、本発明の顔料分散物は、良好な発色性を必要とする用途、耐光性の着色剤を必要とする用途、例えば、ナノインプリント組成物、表面コート剤等の広範な分野に好適に使用しうる。
【0030】
以下、本発明の顔料分散物における各成分について詳述する。
【0031】
<(a)顔料>
本発明の顔料分散物は、顔料を必須成分として含む。本発明の顔料分散物においては、後述する(b)特定重合体及び(c)特定グラフト共重合体の作用により、用いられる顔料の粒径が小さい場合であっても、顔料分散物中に顔料が均一且つ安定に分散される。その結果、発色性に優れ、鮮鋭かつ耐候性に優れる画像が形成可能となる。また、粗大な2次粒子を極力減少させることにより、吐出安定性に優れたインクジェット用インク組成物が得られる。
【0032】
本発明の顔料分散物は、顔料を含むことから、着色剤の耐候性を必要とする用途、例えば、インク組成物などの着色組成物などに好適に用いうる。また、この顔料分散物を各種組成物の着色成分として適用するに際しては、色相などを調整する目的で、染料を併用しても構わない。
【0033】
本発明の顔料分散物が含有する顔料は、特に制限はなく、目的に応じて公知の種々の顔料を適宜選択して用いることができる。特に本発明の顔料分散物は、(b)特定重合体に含まれる複素環残基の作用により、有機顔料への吸着性に優れているため、有機顔料を含有することが好ましい。
【0034】
前記有機顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、顔料と顔料分散剤の化学構造上の類似性の観点から公知の有機顔料が好ましく挙げられる。なお、本発明に用いられる顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0035】
前記有機顔料としては、例えば、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、緑色顔料、オレンジ顔料、茶色顔料、バイオレット顔料、黒色顔料などが挙げられる。
【0036】
前記イエロー顔料は、イエロー色を呈する顔料であり、例えば、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、非ベンジジン系アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料、ピラゾロン顔料、アセトロン顔料、金属錯塩顔料、ニトロソ顔料、金属錯体アゾメチン顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料などが挙げられる。これらのうち、本発明で好ましく使用できる顔料として、例えば、C.I.ピグメントイエロー(以下、PYと略称する)1、PY3、PY12、PY13、PY14、PY16、PY17、PY18、PY24、PY60、PY74、PY83、PY93、PY94、PY95、PY97、PY100、PY109、PY110、PY115、PY117、PY120、PY128、PY138、PY139、PY150、PY151、PY153、PY154、PY155、PY166、PY167、PY173、PY175、PY180、PY181、PY185、PY194、PY213、PY214、PY219等が挙げられる。中でも、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アセトロン顔料等のベンズイミダゾロン顔料、イソインドリンが好ましく、PY74、PY120、PY151、PY155、PY180、PY185が好ましい。
【0037】
前記マゼンタ顔料は、赤あるいはマゼンタ色を呈する顔料であり、例えば、モノアゾ系顔料、β−ナフトール顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン顔料、アリザリンレーキ顔料、ナフトロン顔料、ナフトールAS系レーキ顔料、ナフトールAS顔料、ジケトピロロピロール顔料等が挙げられる。
これらのうち、本発明で好ましく使用できる顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド(以下、PRと略称する)1、PR2、PR3、PR4、PR5、PR6、PR21、PR38、PR42、PR46、PR53:1、PR57:1、PR52:1、PR46、PR48、PR81、PR83、PR88、PR144、PR149、PR166、PR179、PR178、PR190、PR224、PR123、PR224、PR19、PR122、PR202、PR207、PR209、PR180、PR83、PR170、PR171、PR172、PR174、PR175、PR176、PR177、PR179、PR185、PR194、PR208、PR214、PR220、PR221、PR242、PR247、PR254、PR255、PR256、PR262、PR268、PR264、PR269、PR272、C.I.ピグメントバイオレット(PV)19等が挙げられる。中でもキナクリドン系顔料が好ましく、PR42、PR122、PR202、PR209、PV19が好ましい。
【0038】
前記シアン顔料は、青あるいはシアン色を呈する顔料であり、ジスアゾ系顔料、フタロシアニン顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン系顔料、アルカリブルー顔料等が挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としては、C.I.ピグメントブルー(以下、PBと略称する)1、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB18、PB24、PB25、PB60、PB79等が挙げられる。この中でも銅フタロシアニン顔料が好ましく、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、が好ましい。
【0039】
前記緑色顔料は、緑色を呈する顔料であり、フタロシアニン顔料や金属錯体顔料などが挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(以下、PGと略称する)7、PG8、PG10、PG36などが挙げられる。
【0040】
前記オレンジ顔料は、オレンジ色を呈する顔料であり、例えば、イソインドリン系顔料、アントラキノン系顔料、Β−ナフトール系顔料、ナフトールAS系顔料、イソインドリノン系顔料、ペリノン系顔料、ジスアゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アセトロン系顔料、ピラゾロン系顔料などが挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ(以下、POと略称する)2、PO3、PO4、PO5、PO13、PO15、PO16、PO22、PO24、PO34、PO36、PO38、PO43、PO48、PO49、PO51、PO55、PO60、PO61、PO62、PO64、PO66、PO72、PO74等が挙げられる。
【0041】
前記茶色顔料は、茶色を呈する顔料であり、例えばPBr25、PBr32等のナフトロン顔料等が挙げられる。
前記バイオレット顔料は紫色を呈する顔料であり、例えばナフトロン顔料、ペリレン顔料、ナフトールAS顔料、ジオキサジン顔料等が挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット(以下、PVと略称する)13、PV17、PV23、PV29、PV32、PV37、PV50等が挙げられる。
【0042】
前記黒色顔料は、黒色を呈する顔料であり、例えば、カーボンブラック、インダジン顔料、ペリレン顔料等が挙げられ、本発明では、C.I.ピグメントブラック(以下、PBkと略称する)1、PBk7、PBk31、PBk32等が挙げられる。
【0043】
これらの顔料の中でも、キナクリドン系顔料がより好ましく、PR42、PR122、PR202、PR209、PV19などの、無置換キナクリドン、置換キナクリドン、無置換及び/または置換キナクリドンの混晶を用いることが特に好ましい。
【0044】
白色以外の顔料は、平均粒径が小さいほど発色性に優れるため、本発明の顔料分散物を白色以外の顔料分散物に適用する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、0.01μm〜0.4μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.02μm〜0.3μmの範囲である。また、顔料の最大粒径は、好ましくは3μm以下であり、1μm以下がより好ましい。顔料の粒径は、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件の設定などにより調整することができる。また、本発明の顔料分散物を、白色のインク組成物などに適用しうる白色の顔料分散物として調製する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、充分な隠蔽性を与える観点から、0.05μm〜1.0μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm〜0.4μmである。白色の顔料分散物とする場合についても、顔料の最大粒径は、好ましくは3μm以下であり、1μm以下であることが好ましい。
【0045】
このような粒径管理によって、例えば、顔料分散物の保存安定性、顔料分散物の透明性、及び顔料分散物を硬化性組成物に適用した場合であれば硬化感度を維持することができ、また、顔料分散物をインクジェット用インク組成物に適用する場合でも、ヘッドノズルの詰まりを抑制しうる。
【0046】
本発明の顔料分散物は、顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散剤として機能する(b)特定重合体及び(c)特定グラフト共重合体を含有するため、微粒子顔料を用いた場合であっても、均一で安定な顔料分散物となる。
【0047】
顔料分散物中における(a)顔料の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には、遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により、顔料の粒径を測定することができる。
【0048】
本発明の顔料分散物は、発色性と流動を高める点で、(a)顔料の含有量が2質量%〜35質量%の範囲であり、2質量%〜25質量%の範囲が好ましい。顔料分散物を、濃厚な顔料分散物(ミルベース)として調製する場合であれば、該ミルベース中の顔料濃度としては、10質量%〜35質量%であることが好ましく、15質量%〜35質量%の範囲がより好ましい。
【0049】
(a)顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の公知の分散装置をいずれも用いることができる。後述する特定重合体は顔料を分散する際に添加することが好ましい。
【0050】
<(b)特定重合体>
本発明の顔料分散物は(b)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を5質量%〜30質量%を有し、重量平均分子量が10000〜200000である重合体を含有する。
【0051】
【化3】

【0052】
前記一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、ここでRは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合又は2価の連結基を表す。Pは有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基を表す。
【0053】
前記(b)特定重合体は、顔料分散剤としての機能を発揮しうる。このため、顔料分散剤として用いることが特に好ましい。
【0054】
本発明の顔料分散物は、前記(b)特定重合体を含有することにより、顔料との親和性が高い顔料分散物を得ることができる。これは一般式(1)で表される繰り返し単位における複素環残基Pに由来するVan−der−Waals相互作用が作用し、顔料との吸着性が非常に良好になるためと考えられる。
また、前記(b)特定重合体は、特定の繰り返し構造単位を有する高分子化合物であるが故に、高分子鎖の立体反発効果により非水性有機媒体中でも分散安定化が可能である。
先ず、前記(b)特定重合体が含む一般式(1)で表される繰り返し単位について詳細に説明する。
【0055】
(一般式(1)で表される繰り返し単位)
前記(b)特定重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む。
一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(1)中、Jは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、中でも−COO−、−CONR−、フェニレン基が好ましい。Rは水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基など)、アリール基(例えば、フェニル基)、アラルキル基を表し、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。これらの内、Jとしては−COO−、−CONH−、フェニレン基が好ましい。ここで、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0056】
一般式(1)中、Wは単結合又は2価の連結基を表す。
Wで表される2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、アラルキレン基等が挙げられ、これらは更に置換基を有してもよい。
【0057】
Wで表されるアルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がより好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基等が挙げられ、中でもメチレン基、エチレン基、プロピレン基等は特に好ましい。
【0058】
Wで表されるアラルキレン基としては、炭素数7〜13のアラルキレン基が好ましく、例えば、ベンジリデン基、シンナミリデン基等が挙げられる。Wで表されるアリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基が好ましく、例えば、フェニレン基、クメニレン基、メシチレン基、トリレン基、キシリレン基等が挙げられ、中でもフェニレン基は特に好ましい。
【0059】
また、Wで表される2価の連結基中には、−NR−、−COO−、−OCO−、−O−、−SONH−、−NHSO−、−NHCOO−、−OCONH−、−NHCONH−、−CONH−又は複素環から誘導される基、が結合基として介在していてもよい。ここで、Rは、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等が好ましい。
【0060】
Wとしては、単結合、炭素数1〜8個のアルキレン基、−COO−、−O−、−NHCOO−、−OCONH−、−CONH−若しくは−NHCONH−基、およびこれらの基が介在した炭素数1〜8個のアルキレン基、又は2−ヒドロキシプロピレン基であることが好ましい。
【0061】
一般式(1)中、Pは有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基を表す。ここで、Pで表される「有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基」とは、公知の有機顔料がその分子構造中に有する複素環と同一又は類似の構造の複素環を含む基を意味し、有機顔料の部分骨格、或いは、顔料母核(発色原子団)として含まれる複素環と同一又は類似の構造の複素環を含む基が挙げられる。
【0062】
前記Pで表される複素環残基を含んで構成される有機顔料としては、公知の有機顔料が挙げられ、中でも、フタロシアニン系、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、チオインジゴ系、キノフタロン系等の有機顔料が好ましく、キナクリドン系、ベンズイミダゾロンアゾ系、ジオキサジン系、ナフトールAS系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系の有機顔料がより好ましく、キナクリドン系、ベンズイミダゾロンアゾ系、アントラキノン系、ジオキサジン系の有機顔料が特に好ましい。
【0063】
前記Pで表される複素環残基としては、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロンアゾ系顔料、ジオキサジン系顔料、ナフトールAS系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料からなる群から選ばれる何れかの顔料の部分構造であって、チオフェン、フラン、キサンテン、ピロール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、キノフタロン、ナフタルイミド、キナルジン等の複素環残基から、水素を一つ除した基が好ましく挙げられる。これらの中でも、2〜5個の複素環が縮環した構造を含む複素環残基がより好ましく、ベンズイミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、キノフタロン、ナフタルイミド、キナルジン等の複素環残基から、水素を一つ除した基が挙げられる。これら複素環残基の炭素数は7〜20であることが好ましく、本発明では、特にキナクリドン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、アントラキノン、フタルイミド、又はナフタルイミドからなる群から選ばれる何れかの複素環残基から、水素を一つ除した基が最も好ましい。これらの部分構造は、さらに置換基を有していてもよい。
【0064】
また、前記Pで表される複素環残基は、前記(a)顔料が有する複素環と同一、又は類似の構造を有する複素環残基であることが特に好ましい。例えば、前記(a)顔料が、キナクリドン系顔料である場合、Pとしてはキナクリドンが有する複素環と同一の構造である複素環、即ちキナクリドン、アクリドンや、2つのベンゼン環とそれをつなぐ6員環およびそのアシル基の点で類似しているアントラキノン等を有する複素環残基であることが好ましい。
【0065】
本発明における(b)特定重合体は、製造安定性の点で、一般式(1)で表される繰り返し単位を与えるモノマーを均一系の重合反応により導入して合成することが好ましい。顔料の部分骨格を有する一般式(1)の繰り返し単位を与えるモノマーは、溶解性の低い傾向にあるが、(b)特定重合体を均一系の重合反応により導入することにより、一般式(1)の繰り返し単位を、(b)特定重合体に所望の組成比で安定的に導入することができる。
また、前記(b)特定重合体におけるPを、顔料分子より水素を一つ除した構造のモノマーを用いて導入して合成することもできる。しかし、この場合、顔料粒子の表面のみに結合した一般式(1)を与えるモノマーを不均一系の重合反応により導入する、又は一般式(1)で表される繰り返し単位を含まない重合体と顔料粒子とを反応させる手法は、一般式(1)の繰り返し単位の導入率を安定に制御することが困難となる場合がある。
【0066】
一般式(1)で表される繰り返し単位を与えるモノマーの好適な具体例としては、例えば、以下に示すモノマー(例示モノマー:M−1〜M−19)が挙げられる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
【化4】

【0068】
【化5】

【0069】
【化6】

【0070】
前記(b)特定重合体中に含まれる一般式(1)の繰り返し単位の含有量は、顔料分散剤の有機溶媒やモノマーへの溶解性や、合成適性、分散性の観点から(b)特定重合体中の5質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜25質量%がより好ましく、5質量%〜20質量%が最も好ましい。
【0071】
前記(a)顔料と、(b)特定重合体中の一般式(1)の繰り返し単位との組み合わせとしては、キナクリドン系顔料(前記(a)顔料)と、アクリドン、アントラキノン、ナフタルイミドのいずれかを部分骨格に有する構造(前記一般式(1)の繰り返し単位)との組み合わせが好ましく、キナクリドン系顔料(前記(a)顔料)と、アクリドン、アントラキノンのいずれかを部分骨格に有する構造(前記一般式(1)の繰り返し単位)との組み合わせが特に好ましい。
【0072】
前記(b)特定重合体は、更に塩基性官能基を含む繰り返し単位を有することが好ましい。塩基性官能基を導入することで、前記(a)顔料表面の酸基と酸−塩基相互作用が生じて、(b)特定重合体の前記(a)顔料への吸着性が高まるものと考えられる。塩基性官能基としては、アミノ基が好ましく、2級アミノ基または3級アミノ基が好ましい。
【0073】
塩基性官能基を有する繰り返し単位を与えるモノマーとしては、例えば以下のモノマーが挙げられる。具体的にはN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1、1−ジメチルメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−i−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tertブチルアミノエチルメタクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエチル(メタ)アクリレート、1−ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチル−2−ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート及びN,N−メチルフェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−tertブチルアミノエチルメタクリレート(以上(メタ)アクリレート類);ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジ−i−ブチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノ(メタ)アクリルアミド、ピペリジノ(メタ)アクリルアミド、N−メチル−2−ピロリジル(メタ)アクリルアミドおよびN,N−メチルフェニル(メタ)アクリルアミド(以上(メタ)アクリルアミド類);2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチルメチル(メタ)アクリルアミド及び6−(N,N−ジエチルアミノ)ヘキシル(メタ)アクリルアミド(以上アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類);p−ビニルベンジル−N,N−ジメチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジエチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジヘキシルアミン(以上ビニルベンジルアミン類);及び2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールを挙げることができる。これらのうち、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tertブチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールが好ましい。尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」等の記載は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を意味するものとする。
【0074】
前記(b)特定重合体中に含まれる塩基性官能基を有する繰り返し単位の含有量は、顔料分散剤の有機溶媒やモノマーへの溶解性や、合成適性、分散性の観点から(b)特定重合体の2質量%〜35質量%が好ましく、5質量%〜30質量%がより好ましく、5質量%〜25質量%が最も好ましい。
【0075】
前記(b)特定重合体は、一般式(1)で表される繰り返し単位、塩基性官能基を有する繰り返し単位以外に更に他の繰り返し単位を有していてもよい。この場合、他の繰り返し単位が側鎖となるグラフト共重合体であることが好ましく、末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合性オリゴマーに由来する繰り返し単位が側鎖となるグラフト共重合体であることがより好ましい。
上記末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合性オリゴマーは、所定の分子量を有する化合物であることからマクロモノマーとも呼ばれる。
【0076】
重合性オリゴマーに由来する繰り返し単位を含むことにより、前記(b)特定重合体は、重合性オリゴマーの液体媒体に対する高い親和性を示し、これにより、顔料をより安定に分散させることができる。このため、前記重合性オリゴマーは、液体媒体に対して親和性が高いことが好ましい。重合性オリゴマーの液体媒体への親和性は、例えばHOYにより提唱された溶解性パラメーターにより見積もることができる(例えば、「ジャーナルオブペイントテクノロジー」1970年、42巻、76−78ページを参照。)。
【0077】
溶質と溶媒の溶解性パラメーターδtの値が近い場合、溶質の溶媒への溶解性が良いとされることから、重合性オリゴマーの溶解性パラメーターは、液体媒体の溶解性パラメーターの80%〜120%の範囲であることが好ましく、85%〜115%の範囲がより好ましい。重合性オリゴマーの溶解性パラメーターの好適な範囲は、本発明の顔料分散物を適用してなるインク組成物等においても同様である。溶解性パラメータの値がこの範囲であれば、重合性オリゴマーの構造は特に限定されない。重合性オリゴマーの溶解性パラメーターがこの範囲であることで、顔料分散物に含有される顔料の分散安定性がより優れたものとなる。
【0078】
重合性オリゴマーは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。このようなエチレン性不飽和二重結合を有する基は、ポリマー鎖の一方の末端にのみ有することが、所望のグラフト重合体を得るという観点から好ましい。エチレン性不飽和二重結合を有する基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基が好ましく、特に(メタ)アクリロイル基が好ましい。
重合性オリゴマーにおけるポリマー鎖部分は、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、酢酸ビニル、及びブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーから形成される単独重合体若しくは共重合体、あるいはポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリカプロラクトンであることが一般的である。
【0079】
重合性オリゴマーは、下記一般式(2)で表される重合性オリゴマーであることが好ましい。
【0080】
【化7】

【0081】
前記一般式(2)中、R11及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、R12は、炭素原子数1〜12のアルキレン基(好ましくは炭素原子数2〜4のアルキレン基であり、更に置換基(例えば水酸基)を有していてもよく、さらにエステル結合、エーテル結合、アミド結合等を介して連結していてもよい)を表す。
Yは、フェニル基、炭素原子数1〜4のアルキル基を有するフェニル基、又は−COOR14を表す。ここで、R14は、炭素原子数1〜6のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数7〜10のアリールアルキル基を表す。Yとしては、フェニル基、又はR14が炭素原子数1〜12のアルキル基である−COOR14であることが好ましい。
qは15〜200を表し、好ましくは20〜150であり、より好ましくは20〜100である。
【0082】
重合性オリゴマー(マクロモノマー)の好ましい例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート及びポリ−iso−ブチル(メタ)アクリレート、ポリスチレンの分子末端の一個に(メタ)アクリロイル基が結合したポリマーを挙げることができる。市場で入手できるこのような重合性オリゴマーとしては、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー(Mn=6000、商品名:AS−6、東亜合成化学工業(株)製)、片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AA−6、東亜合成化学工業(株)製)及び片末端メタクリロイル化ポリ−n−ブチルアクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AB−6、東亜合成化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0083】
重合性オリゴマーとしては、前記一般式(2)で表される重合性オリゴマーだけでなく、下記一般式(3)で表される重合性オリゴマーも好ましい。
重合性化合物を併用する場合には、重合性オリゴマーは、重合性化合物に応じて適宜選択することが特に好ましい。
【0084】
【化8】

【0085】
前記一般式(3)中、R21は水素原子又はメチル基を表し、R22は、炭素数1〜8のアルキレン基を表す。X21は、−OR23又は−OCOR24を表す。ここで、R23及びR24は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。nは2〜200を表す。
【0086】
前記一般式(3)中、R21は、水素原子又はメチル基を表す。R22は、炭素数1〜8のアルキレン基を表し、中でも、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基がより好ましい。
21が−OR23を表す場合、R23は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基、又は炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基であることが好ましい。X21が−OCOR24を表す場合、R24は、炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましい。
nは、2〜200を表し、5〜150が好ましく、10〜100が特に好ましい。
【0087】
一般式(3)で表される重合性オリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられ、これらは市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよい。
【0088】
一般式(3)で表される重合性オリゴマーは、市販品としても入手可能である。市販品としては、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:NKエステルM−40G,M−90G,M−230G(以上、新中村化学(株)製)、ブレンマーPME−100,PME−200,PME−400,PME−1000,PME−2000、PME−4000(以上、日本油脂(株)製))、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350,日本油脂(株)製)、ラウリロキシポリエチレングリコールアクリレート(商品名:ブレンマーALEシリーズ、日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPP−500、PP−800、PP−1000,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー70PEP−370B,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー55PET−800,日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーNHK−5050,日本油脂(株)製)などが挙げられる。
【0089】
重合性オリゴマーは、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が500〜20000の範囲にあることが好ましく、特に、2000〜15000の範囲が好ましい。
重合性オリゴマーに由来する繰り返し単位の特定重合体中に含まれる割合は、40質量%〜95質量%が好ましく、50質量%〜90質量%がより好ましく、55質量%〜85質量%が最も好ましい。特定重合体における重合性オリゴマーに由来する繰り返し単位の割合が、この範囲にあることで、液体媒体への親和性が良好であり、特定重合体の顔料への吸着性により優れることから、顔料分散物やその適用態様であるインク組成物の粘度を効果的に抑制しうる。
【0090】
以下に、本発明において好ましく用いられる重合性オリゴマーの具体例を示す。尚、本発明はこれに限るものではない。また、以下の具体例において、m及びnは、繰り返し数を示す。
【0091】
【化9】

【0092】
前記(b)特定重合体は、一般式(1)で表される繰り返し単位を与えるモノマー、又は、一般式(1)で表される繰り返し単位を与えるモノマー又は一般式(2)もしくは(3)で表される重合性オリゴマーと、これらと共重合可能な他のモノマーと、の共重合体であることも好ましい態様である。該共重合可能な他のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステル(例、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸置換アルキルエステル(例、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど)、不飽和カルボン酸(例、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸)、芳香族ビニル化合物(例、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールなど)、カルボン酸ビニルエステル(例、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル)、シアン化ビニル(例、(メタ)アクリロニトリル及びα−クロロアクリロニトリル)、ビニルエーテル(シクロヘキシルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニル及び脂肪族共役ジエン(例、1、3−ブタジエン及びイソプレン)を挙げることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸置換アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステルが好ましい。
【0093】
前記(b)特定重合体が、前記共重合可能な他のモノマーに由来する繰り返し単位を有する場合、当該他のモノマーに由来する繰り返し単位を、特定重合体に含まれる全繰り返し単位の30質量%以下の範囲で有することが好ましい。
【0094】
前記(b)特定重合体中の一般式(1)で表される繰り返し単位(E1)、塩基性官能基を含む繰り返し単位(E2)、重合性オリゴマーに由来する繰り返し単位(E3)、前記共重合可能な他のモノマーに由来する繰り返し単位(E4)の組成比((E1):(E2):(E3):(E4))としては、5質量%〜30質量%:2質量%〜35質量%:40質量%〜93質量%:0質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜25質量%:5質量%〜30質量%:45質量%〜90質量%:0質量%〜25質量%がより好ましく、5質量%〜20質量%:5質量%〜25質量%:55質量%〜90質量%:0質量%〜20質量%であることが最も好ましい。
【0095】
前記(b)特定重合体の好ましい重量平均分子量(Mw)は、顔料の分散安定性及び顔料分散物の粘度の観点から、10000〜200000の範囲が好ましく、特に15000〜200000の範囲が好ましい。ここで重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:N−メチルピロリドン)により測定されるポリスチレン換算重量平均分子量である。
【0096】
前記(b)特定重合体の好適な態様であるグラフト共重合体の具体例として、例示化合物:(b−1)〜(b−4)を以下に示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0097】
(b−1) モノマーM−4/N−tertブチルアミノエチルメタクリレート/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(5:20:75、質量比)の共重合体(Mw=17000)
(b−2) モノマーM−4/N−tertブチルアミノエチルメタクリレート/モノマーM−4/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(10:10:80、質量比)の共重合体(Mw=78000)
(b−3) モノマーM−4/N−tertブチルアミノエチルメタクリレート/モノマーM−4/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(30:10:60、質量比)の共重合体(Mw=179000)
(b−4) モノマーM−17/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(10:10:80、質量比)の共重合体(Mw=80000)
(b−5) モノマーM−10/N−tertブチルアミノエチルメタクリレート/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(10:20:70、質量比)の共重合体(Mw=110000)
(b−6) モノマーM−19/N−tertブチルアミノエチルメタクリレート/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(5:20:75、質量比)の共重合体(Mw=130000)
(b−5) モノマーM−14/N−ビニルイミダゾール/重合性オリゴマーN−5(ブレンマーPME−1000、日本油脂(株)製)(15:25:60、質量比)の共重合体(Mw=100000)
(b−6) モノマーM−6/N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/重合性オリゴマーN−2(AB−6、東亞合成(株)製)(5:10:85、質量比)の共重合体(Mw=130000)
(b−7) モノマーM−1/3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(8:22:70、質量比)の共重合体(Mw=67000)
(b−8) モノマーM−4/4−ビニルピリジン/重合性オリゴマーN−4(プラクセルFM5、ダイセル化学(株)製)(10:5:85、質量比)の共重合体(Mw=70000)
(b−9) モノマーM−10/N、N−ジメチルアミノエチルアクリレート/メチルアクリレート/重合性オリゴマーN−1(AA−6、東亞合成(株)製)(5:5:20/30、質量比)の共重合体(Mw=89000)
(b−10) モノマーM−4/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/重合性オリゴマーN−3(AX−707S、東亞合成(株)製)(20:10:70、質量比)の共重合体(Mw=91000)
(b−11) モノマーM−14/N−ビニルイミダゾール/重合性オリゴマーN−5(ブレンマーPME−1000、日本油脂(株)製)(15:25:60、質量比)の共重合体(Mw=100000)
(b−12) モノマーM−6/N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/重合性オリゴマーN−2(AB−6、東亞合成(株)製)(5:10:85、質量比)の共重合体(Mw=130000)
【0098】
本発明の顔料分散物は、分散安定性と流動性を両立する点で、前記(b)特定重合体の含有量が、前記(a)顔料100質量部に対して10質量部〜30質量部であり、10質量部〜25質量部であることが好ましく、10質量部〜20質量部であることがより好ましい。
【0099】
<(c)特定グラフト共重合体>
本発明の顔料分散物は、(c)特定グラフト共重合体を含有する。(c)特定グラフト共重合体は、主鎖のアミノ基又はイミン基が前記(a)顔料の表面酸性基と酸−塩基相互作用することにより吸着力を発現し、かつ、側鎖に導入されたポリエステル鎖が顔料分散物またはインク組成物中の液体媒体と親和性を持つが故に顔料を良好に分散することができる。(c)特定グラフト共重合体は、高顔料濃度領域では分散進行に伴う顕著な粘度の上昇が問題となる場合があるが、前記(b)特定重合体と併せて使用することにより、分散進行に伴う粘度上昇やインク組成物として使用した際の安定性を高められる傾向にある。
【0100】
前記(c)特定グラフト共重合体における主鎖は、1級または2級のアミノ基を有することが好ましい。
また、前記主鎖は、ポリエステル鎖以外の構造を有していてもよい。このような構造としては、例えば側鎖末端に水酸基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基、炭素数6〜15のアリールオキシ基、炭素数7〜15のアルキル置換アリールオキシ基のいずれかを有するポリアルキレンオキシ鎖が挙げられる。
また、前記特定グラフト共重合体における側鎖の長さは、有効な立体反発作用を発現する点で、400〜15000であることが好ましく、400〜10000であることが好ましい。
【0101】
前記(c)特定グラフト共重合体の重量平均分子量は、分散安定性と低粘度を両立する点で、3000〜200000であることが好ましく、5000〜100000であることが好ましい。
【0102】
前記(c)特定グラフト共重合体の具体例としては、例えば、下記のものが例示されるが本発明はこれらに限定されるものではない。
ソルスパース24000GR、ソルスパース24000SC,ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース33000、ソルスパース33500、ソルスパース37000、ソルスパース39000、ソルスパース56000、ソルスパース71000、ソルスパース76500(ルーブリゾール(株)社製)、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB823、アジスパーPB824、アジスパーPB827、アジスパーPB880、アジスパーPB881(以上、味の素ファインテクノ株式会社製)
【0103】
本発明の顔料分散物は、高顔料濃度における流動性を高める点で、前記(c)特定グラフト共重合体の含有量が、前記(a)顔料100質量部に対して15質量部〜50質量部であり、15質量部〜45質量部であることが好ましく、15質量部〜40質量部であることがより好ましい。
【0104】
また、本発明の顔料分散物は、分散安定性と高顔料濃度における流動性を高める点で、前記(b)特定重合体及び前記(c)特定グラフト共重合体の含有量の和が、前記(a)顔料100質量部に対して25質量部〜70質量部であり、25質量部〜65質量部であることが好ましく、25質量部〜60質量部であることがより好ましい。
【0105】
また、本発明の顔料分散物は、流動性の点で、前記(b)特定重合体の含有量(B)を(c)特定グラフト共重合体の含有量(C)で割った値((B)/(C))が、0.2〜1.3であることが好ましく、0.2〜1.25であることがより好ましく、0.2〜1.0であることが更に好ましい。
【0106】
<(d)重合性化合物>
本発明の顔料分散物は、(d)重合性化合物を含有することが好ましい。(d)重合性化合物としては、何らかのエネルギー付与により重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、モノマー、オリゴマー、ポリマーの種を問わず使用することができるが、特に、所望により添加される重合開始剤から発生する開始種により重合反応を生起する、ラジカル重合性モノマー、カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知の重合性のモノマーが好ましい。本発明では塩基性官能基を用いる事が好ましい態様であるため、ラジカル重合性モノマーを含む事が好ましい。
【0107】
(d)重合性化合物は、反応速度、硬化膜物性、顔料分散物をインク組成物に適用する場合であればインク物性、等を調整する目的で、1種又は複数を混合して用いることができる。また、(d)重合性化合物は、単官能化合物であっても、多官能化合物であってもよい。単官能化合物の割合が大きいと硬化物は柔軟なものになりやすく、多官能化合物の割合が大きいと硬化性に優れる傾向がある。従って、単官能化合物と多官能化合物の割合は用途に応じて任意に決定されるものである。
【0108】
(d)重合性化合物としては、光ラジカル開始剤から発生する開始種により重合反応を生じる各種公知のラジカル重合性のモノマーを使用することもできる。
ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、芳香族ビニル類、等が挙げられる。なお、本明細書において「アクリレート」、「メタクリレート」の双方或いはいずれかを指す場合「(メタ)アクリレート」と、「アクリル」、「メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合「(メタ)アクリル」と、それぞれ記載することがある。
【0109】
ラジカル重合性モノマーとして用いられる(メタ)アクリレート類としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート、二官能の(メタ)アクリレート、三官能の(メタ)アクリレート、四官能の(メタ)アクリレート、五官能の(メタ)アクリレート、六官能の(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0110】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヘキシル基(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−n−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、4−ブロモブチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、アルコキシメチル(メタ)アクリレート、アルコキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2Hパーフルオロデシル(メタ)アクリレート、4−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5−テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4−クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
【0111】
4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシチルコハク酸、2−メタクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、EO変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性クレゾール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、EO変性−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、(3−エチル−3−オキセタニルメチル)(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0112】
二官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0113】
三官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート等が挙げられる。
四官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
五官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
六官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプトラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0114】
ラジカル重合性モノマーとして用いられる(メタ)アクリルアミド類としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリンが挙げられる。
【0115】
ラジカル重合性モノマーとして用いられる芳香族ビニル類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ビニル安息香酸メチルエステル、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、3−プロピルスチレン、4−プロピルスチレン、3−ブチルスチレン、4−ブチルスチレン、3−ヘキシルスチレン、4−ヘキシルスチレン、3―オクチルスチレン、4−オクチルスチレン、3−(2−エチルヘキシル)スチレン、4−(2−エチルヘキシル)スチレン、アリルスチレン、イソプロペニルスチレン、ブテニルスチレン、オクテニルスチレン、4−t−ブトキシカルボニルスチレン、4−メトキシスチレン、4−t−ブトキシスチレン等が挙げられる。
【0116】
さらに、本発明に適用しうるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ビニルエステル類[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなど]、アリルエステル類[酢酸アリルなど]、ハロゲン含有単量体[塩化ビニリデン、塩化ビニルなど]、ビニルエーテル[メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテルなど]、シアン化ビニル[(メタ)アクリロニトリルなど]、オレフィン類[エチレン、プロピレンなど]などが挙げられる。
【0117】
これらのうち、本発明に適用しうるラジカル重合性モノマーとしては、硬化速度の点から、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類が好ましい。硬化速度と顔料分散物の粘度の観点からは、上記多官能(メタ)アクリレート、と単官能もしくは2官能の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドを併用することが好ましい。
【0118】
本発明の顔料分散物が(d)重合性化合物を含む場合の(d)重合性化合物の含有量は、硬化性の観点から、顔料分散物の全質量に対し、50質量%〜95質量%が好ましく、より好ましくは60質量%〜90質量%である。
【0119】
<(e)有機溶剤>
本発明の顔料分散物及びインク組成物は、(d)重合性化合物と共に、又は(d)重合性化合物の代わりに、(e)有機溶剤を含有していても良い。使用する有機溶剤は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、公知のアルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤などが好ましく用いられる。具体的には、アルキレンオキシドモノアルキルエーテル、アルキレンオキシドモノアルキルエーテルアセテート、アルキレングリコールジアセテート、ジカルボン酸ジエアルキルエステル、シクロヘキサノン、乳酸エチルなどが好ましい。
【0120】
<分散媒>
本発明の顔料分散物において、顔料などの諸成分を分散させる際に使用する分散媒としては、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、溶剤を分散媒としてもよいし、また、無溶媒で、低粘度の重合性化合物を分散媒として用いてもよい。分散媒として溶剤を用いる場合、前記有機溶剤を好ましく用いる事ができる。また、顔料分散物を活性エネルギー線硬化型のインク組成物等の着色硬化性組成物に適用する場合には、揮発性溶媒を含まないことが好ましく、沸点が180℃以上の高沸点溶剤、もしくは無溶剤であることが好ましい。そのような場合、重合性化合物を分散媒として使用することも好ましい。
【0121】
[インク組成物]
本発明のインク組成物は、本発明の顔料分散物を含むものであり、少なくと、当該顔料分散物と、(f)重合開始剤と、を含み、顔料濃度が1質量%〜10質量%であることが好ましい。また、(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の少なくとも一方を含むことが好適な適用形態の一つである。このインク組成物は、活性エネルギー線の照射又は加熱により硬化しうるインク組成物である。
【0122】
本発明のインク組成物は、例えば(a)顔料、(b)特定重合体、(c)特定グラフト共重合体、更に(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の少なくとも一方を含む本発明の顔料分散物を調製し、該顔料分散物に、少なくとも(f)重合開始剤を加えることにより得ることができる。
本発明のインク組成物を硬化性インク組成物として用いる場合は、発色性と粘度の点で、インク組成物に対する前記(a)顔料の含有量が2質量%〜20質量%(より好ましくは2質量%〜10質量%)であり、インク組成物に対する前記(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の少なくとも一方の含有量が50〜95質量%(より好ましくは60質量%〜90質量%((d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の両方を含む場合は合計量を、(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の一方しか含まない場合は、その一方の量を示す。))であることが好ましい。
また、本発明のインク組成物を溶剤含有のインク組成物として用いる場合は、粘度と発色性の点で、インク組成物に対する前記(a)顔料の含有量が2質量%〜20質量%(より好ましくは2質量%〜10質量%)であり、インク組成物に対する前記(e)有機溶剤の含有量が50〜95質量%(より好ましくは60質量%〜90質量%)であることが好ましい。
【0123】
本発明のインク組成物は、本発明の顔料分散物のうち重合性化合物を含む態様の顔料分散物を用いて調製されることが好ましい。該顔料分散物が含有しうる各成分((a)顔料、(b)特定重合体、(c)特定グラフト共重合体、(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤等)の種類及びその好適な態様の詳細は、既述の顔料分散物の説明にて詳述した通りである。
【0124】
[(f)重合開始剤]
本発明のインク組成物は、硬化感度向上の観点から、顔料分散物に重合開始剤を加えて調製されたものである。
【0125】
本発明のインク組成物に用いられる重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれであってもよい。熱重合開始剤を含むと、インク組成物は加熱により良好な硬化性を示す。また、光重合開始剤を含むと、インク組成物は活性エネルギー線の照射により硬化する。本発明のインク組成物を用いて画像を形成する場合、鮮鋭な画像を得るためには、インク組成物を瞬時に硬化させることが好ましい。このため、本発明のインク組成物には、重合開始剤として光重合開始剤を用いることが好ましい。また、本発明のインク組成物は顔料の分散安定性が良好であるため、光重合開始剤存在化での保存安定性が良好であることも特徴の一つである。
【0126】
ここで活性エネルギー線とは、その照射によりインク組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含する。これらのうち、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線又は電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。したがって、本発明のインク組成物としては、放射線として、紫外線を照射することにより硬化可能なものが好ましい。紫外線を発生させる光源としては、300nm〜400nmに発光波長を有するものが好ましく、公知の紫外線ランプである低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ショートアーク放電ランプ、紫外線発光ダイオード、半導体レーザ、蛍光灯などを使用することができ、開始剤に適した光量や波長により、高圧放電ランプに属する高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、ショートアーク放電ランプに属するキセノンランプが好ましく用いられる。また、省エネルギーの観点から紫外線発光ダイオードも好ましく用いられる。
【0127】
本発明のインク組成物は、ラジカル重合の重合開始剤を含有することが好ましく、光重合開始剤を含有することがより好ましい。
【0128】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、光の作用、又は、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸及び塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物である。
【0129】
光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、波長が400nm〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0130】
光重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993).や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73.81(1993).や、J.P.Faussier ”Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications” :Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998).や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996).に多く記載されているものを使用することができる。また、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照に記載されている化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物を使用することができる。さらには、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990).、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993).、H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990).、I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980).等に記載されているような、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0131】
光重合開始剤としては、(i)芳香族ケトン類、(ii)芳香族オニウム塩化合物、(iii)有機過酸化物、(iv)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(v)ケトオキシムエステル化合物、(vi)ボレート化合物、(vii)アジニウム化合物、(viii)メタロセン化合物、(ix)活性エステル化合物、(x)炭素ハロゲン結合を有する化合物等が好ましく、例えば特開2010−13630の明細書の段落0147〜0225に記載の光重合開始剤を挙げることができる。これらの中でも、安定性や硬化感度、入手性の観点から(i)芳香族ケトン類が好ましい。(i)芳香族ケトン類の中でも、ベンゾフェノン化合物、α−アミノアセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、α−ヒドロキシアセトフェノン化合物が好ましい。また、市販品として入手可能な化合物としては以下のものが挙げられ、これらも好ましく用いることができる。
【0132】
前記ベンゾフェノン化合物としては、ベンゾフェノンや、ミヒラーズケトン、ESACURE TZT(Fratelli Lamberti社製)KAYACURE BMS(日本化薬社製)が挙げられる。
前記α−アミノアセトフェノン化合物としては、IRGACURE 369、IRGACURE 379、IRGACURE 907(チバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。
前記アシルフォスフィンオキサイド化合物としては、IRGACURE 819、DAROCURE TPO(チバスペシャルティケミカルズ社製)、LUCIRIN TPO、LUCIRIN TPO−L(BASF社製)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。
前記α−ヒドロキシアセトフェノン化合物としては、IRGACURE 184、IRGACURE 127、IRGACURE 2959(チバスペシャルティケミカルズ社製)、DARUCUR 1173、DAROCURE 1116、DAROCURE 953(BASF社製)が挙げられる。
【0133】
重合開始剤としての光重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、光重合開始剤の含有量は、インク組成物中に、0.1質量%〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがより好ましく、1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0134】
[増感色素]
本発明のインク組成物には、光重合開始剤の感度を向上させる目的で、増感色素を添加してもよい。増感色素としては、以下の化合物類に属しており、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有するものが好ましい。
【0135】
増感色素としては、例えば、多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)が挙げられる。
【0136】
また、増感色素としては、下記一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物がより好ましい。
【0137】
【化10】

【0138】
一般式(IX)中、Aは、硫黄原子又は−NR50−を表し、R50はアルキル基又はアリール基を表し、Lは隣接するA及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R51、R52はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表し、R51、R52は互いに結合して、色素の酸性核を形成してもよい。Wは酸素原子又は硫黄原子を表す。
一般式(X)中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を表し、−L−による結合を介して連結している。ここでLは−O−又は−S−を表す。また、Wは一般式(IX)に示したものと同義である。
一般式(XI)中、Aは、硫黄原子又はNR59を表し、Lは隣接するA及び炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R53、R54、R55、R56、R57及びR58はそれぞれ独立に一価の非金属原子団の基を表し、R59はアルキル基又はアリール基を表す。
【0139】
一般式(XII)中、A、Aは、それぞれ独立に−S−又は−NR62−又は−NR63−を表し、R62、R63はそれぞれ独立に置換若しくは非置換のアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表し、L、Lはそれぞれ独立に、隣接するA、A及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R60、R61はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団であるか又は互いに結合して脂肪族性又は芳香族性の環を形成することができる。
一般式(XIII)中、R66は置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環を表し、Aは酸素原子、硫黄原子又は−NR67−を表す。R64、R65及びR67はそれぞれ独立に水素原子又は一価の非金属原子団を表し、R67及びR64と、R65及びR67とは、それぞれ互いに脂肪族性又は芳香族性の環を形成するため結合することができる。
【0140】
一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下に示す例示化合物(A−1)〜(A−24)などが挙げられる。
【0141】
【化11】

【0142】
【化12】

【0143】
【化13】

【0144】
[共増感剤]
さらに、本発明のインク組成物の硬化感度を一層向上させる、あるいは酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として加えてよい。
共増感剤としては、アミン類、例えば、M. R. Sanderら著「Journal of Polymer Society」第10巻3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure 33825号に記載の化合物等が挙げられ、より具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0145】
他の共増感剤としては、チオール及びスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、より具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
【0146】
また他の共増感剤としては、例えば、アミノ酸化合物(例、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報記載の有機金属化合物(例、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報記載の水素供与体、特開平6−308727号公報記載のイオウ化合物(例、トリチアン等)、特開平6−250387号公報記載のリン化合物(ジエチルホスファイト等)、特願平6−191605号記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0147】
本発明のインク組成物には、顔料、特定分散剤、重合性化合物、重合開始剤の必須成分、これらともに用いられる増感色素、共増感剤に加え、目的に応じて種々の添加剤を併用することができる。例えば、得られる画像の耐候性向上、退色防止の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。また、インク組成物の安定性向上のため、酸化防止剤を添加することができる。以下に、本発明のインク組成物に用いうる添加剤を挙げる。
【0148】
本発明のインク組成物には、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤、射出物性の制御を目的としたチオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類、被記録媒体との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することができる。
【0149】
本発明のインク組成物には、膜物性を調整する目的で、各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
【0150】
本発明のインク組成物には、液物性の調整のためにノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤や、有機フルオロ化合物などを添加することもできる。
また、この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、ポリオレフィンやPET等の被記録媒体への密着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーなどを含有させることができる。
【0151】
[インクジェット用インク組成物]
本発明のインク組成物の好ましい態様の一つは、インクジェット用インク組成物である。本発明のインクジェット用インク組成物は、活性エネルギー線硬化型のインク組成物として調製することができ、この場合、インク組成物を被記録媒体上に適用後、放射線を照射して硬化させるものである。また、硬化されたインク画像中に、溶剤が残留すると、耐溶剤性の劣化、ブロッキング性の低下、硬化不良、残留する溶剤によるインク画像の経時的な物性が変化する場合があるので、分散媒として用いる溶剤又は重合性化合物として、粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上及びインクジェット吐出適性の観点から好ましい。前記顔料分散物を適用してなるインク組成物は、活性放射線により高感度で硬化するとともに、顔料の分散安定性の低下に起因する増粘や着色性の低下の懸念がないため、後述するように、粘度安定性を要求されるインクジェット記録方法に適用されるインクジェット用インクに好適に使用される。
【0152】
本発明のインク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合には、インク組成物の射出性を考慮し、射出時の温度でのインク粘度が30mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以下であることがより好ましく、前記範囲になるように適宜組成比を調整し決定することが好ましい。
なお、25℃(室温)でのインク粘度は、0.5mPa・s以上200mPa・s以下、好ましくは1mPa・s以上100mPa・s以下であり、より好ましくは2mPa・s以上50mPa・s以下である。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となり、更にインク液滴着弾時のドット滲みを抑えることができ、その結果として画質が改善される。25℃でのインク粘度が200mPa・sより大きいと、インク液のデリバリーに問題が生じる。
【0153】
本発明のインク組成物をインクジェット用として用いた場合の表面張力は、好ましくは20〜40mN/m、より好ましくは23〜35mN/mである。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、20mN/m以上が好ましく、濡れ性の観点から35mN/m以下が好ましい。
【0154】
このようにして調整されたインク組成物は、インクジェット記録用インクとして好適に用いられる。インク組成物をインクジェットプリンターにより被記録媒体に印字し、その後、印字されたインク組成物に放射線を照射して硬化して記録を行う。
このインクにより得られた印刷物は、画像部が紫外線などの放射線照射により硬化しており、画像部の強度に優れるため、インクによる画像形成以外にも、例えば、平版印刷版のインク受容層(画像部)の形成など、種々の用途に使用しうる。
【0155】
次に、本発明のインク組成物をインクジェット用インク組成物に適用した場合に採用され得るインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について、以下説明する。
【0156】
−インクジェット記録方法−
インクジェットプリンターによる記録方法においては、インク組成物を25〜80℃の温度範囲に制御して、インク組成物の粘度を30mPa・s以下とした後、射出することが好ましく、この方法を用いることにより高い射出安定性を実現することができる。
一般に、非水溶性インク組成物では、概して水性インクより粘度が高いため、印字時の温度変動による粘度変動幅が大きい。このインク組成物の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に対して大きな影響を与え、これにより画質劣化を引き起こすため、印字時のインク組成物温度はできるだけ一定に保つことが必要である。インク組成物温度の制御幅は設定温度±5℃とすることが好ましく、設定温度±2℃とすることがより好ましく、設定温度±1℃とすることが特に好ましい。
【0157】
インクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが一つの特徴であり、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0158】
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンター立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0159】
本発明のインク組成物に重合開始剤としての光重合開始剤を添加することで、活性放射線硬化型のインク組成物となる。
このようなインク組成物における活性放射線の照射条件について述べる。基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間をおいて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO99/54415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明においては、これらの照射方法を用いることが可能である。
【0160】
また、本発明のインク組成物を用いた場合、インク組成物を一定温度に加温するとともに、着弾から照射までの時間を0.01〜0.5秒とすることが望ましく、好ましくは0.01〜0.3秒、より好ましくは0.01〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止するこが可能となる。
また、多孔質な被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、その結果として臭気を低減することができる。
インクジェット記録方法と本発明のインク組成物とを併せて用いることにより、大きな相乗効果をもたらすことになる。特に、25℃におけるインク粘度が200mPa・s以下のインク組成物を用いると大きな効果を得ることができる。
このようなインクジェット記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことができ、画質が向上する。なお、カラー画像を得るためには、明度の低い色から順に重ねていくことが好ましい。明度の低いインクを重ねると、下部のインクまで照射線が到達しにくく、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加及び臭気の発生、密着性の劣化が生じやすい。また、照射は、全色を射出してまとめて露光することが可能だが、1色毎に露光するほうが、硬化促進の観点から好ましい。
【0161】
本発明に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、市販のインクジェット記録装置が使用できる。即ち、本発明においては、市販のインクジェット記録装置を用いて被記録媒体(印刷物)へ記録することができる。
前記好ましい射出条件によれば、本発明のインク組成物は加温、降温を繰り返すことになるが、本発明のインク組成物は、このような温度条件下で保存された場合でも、顔料分散性の低下が抑制され、長期間にわたり優れた発色性が得られ、且つ、顔料の凝集に起因する吐出性の低下も抑制されるという利点をも有する。
【0162】
(被記録媒体)
本発明のインク組成物を適用しうる被記録媒体としては、特に制限はなく、通常の非コート紙、コート紙などの紙類、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性樹脂材料あるいは、それをフィルム状に成形した樹脂フィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルム等が挙げられる。その他、被記録媒体材料として使用しうるプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが挙げられる。また、金属類や、ガラス類も被記録媒体として使用可能である。
【0163】
(印刷物)
本発明の印刷物は、本発明のインク組成物を用いて、インクジェットプリンターにより被記録媒体に印字したものであり、その後、印字されたインク組成物に活性エネルギーを照射又は加熱して硬化することが好ましい。本発明のインク組成物により作製された印刷物は、画像形成に用いられるインクが微細な顔料粒子を均一、且つ、安定に分散して含むため、発色性と鮮鋭度に優れた高品質な画像を有し、画像の耐候性にも優れることから、広汎な分野に適用しうる。
【実施例】
【0164】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例における形態に限定されるものではない。
【0165】
<(1)の繰り返し単位を与えるモノマーの合成>
−例示モノマー:M−4の合成−
9(10H)アクリドン(和光純薬社製)15g、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)3.4gをジメチルスルホキシド(和光純薬社製)84gに溶解させ、45℃に加熱する。これにCMS−P(クロロメチルスチレン、セイミケミカル製)17.6部を滴下し、50℃でさらに5時間加熱攪拌を行う。この反応液を蒸留水30g、メタノール(和光純薬社製)30gの混合溶液に攪拌しながら注ぎ、得られた析出物を濾別、蒸留水、メタノールを同質量ずつ混合した溶液300gで洗浄することで、前記例示モノマー:M−4を17.5g得た。
【0166】
−例示モノマー:M−17の合成−
1,8−ナフタルイミド(関東化学社製)355.0gをN−メチルピロリドン(和光純薬社製)1500mLに溶解させ、25℃にてニトロベンゼン(和光純薬社製)0.57gを添加し、ここへDBU(ジアザビシクロウンデセン)(和光純薬社製)301.4gを滴下した。30分撹拌した後、CMS−P412.1gを滴下し、60℃でさらに4時間加熱攪拌を行った。この反応液へイソプロパノール(和光純薬社製)2.7L、蒸留水0.9Lを加え、5℃に冷却しながら攪拌した。得られた析出物を濾別し、イソプロパノール1.2Lで洗浄することで、前記例示モノマー:M−17を544.0g得た。
【0167】
−例示モノマー:M−19の合成−
p−ビニル安息香酸(和光純薬社製)16.6g、トルエン80ml、N,N−ジメチルホルムアミド2滴を入れて室温下で攪拌しているところに、塩化チオニル(和光純薬社製)9.7mlを加えて60℃で2時間加熱攪拌した。その後、系内を40℃まで冷却し、減圧下でトルエンおよび過剰の塩化チオニルを除去し、p−ビニル安息香酸クロリドを得た。2−アミノアントラキノン(東京化成工業社製)22.5gとピリジン110mlを氷冷下で攪拌しているところにp−ビニル安息香酸クロリドをゆっくりと滴下した。氷冷下で30分攪拌した後、60℃に昇温し、3時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、水を加えた。生じた粗結晶を濾別し、水、メタノールでかけ洗いしたのち、集めた粗結晶にメタノール500mlを加えて60℃で加熱攪拌した。その後、結晶を濾別し、メタノールで洗浄、乾燥することでM−19を20.1g得た。(収率:70%)
【0168】
<(b)特定重合体(b−1)>の合成
窒素置換した500ml三ツ口フラスコに、一般式(1)の繰り返し単位を与えるモノマーとして(前記例示モノマー:M−4)を5.0g、塩基性官能基を有するモノマーとして2−(tertブチルアミノ)エチルメタクリレート(アルドリッチ社製)を20.0g、重合性オリゴマーとしてAA−6(ポリメチルメタクリレートマクロモノマー、東亞合成社製)を75.0g、連鎖移動剤としてドデカンチオール(和光純薬社製)を1.6g、メチルエチルケトン(和光純薬社製)を180g加え、窒素気流下75℃で30分撹拌する。更にメチルエチルケトン5.0gで希釈した重合開始剤2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(V−601、和光純薬社製)を0.093g加えた後、2時間毎にメチルエチルケトン5gで希釈したV−601を0.093gずつ2回加える。さらに2時間の反応後、反応溶液を放冷する。反応液にアセトンを150g加え希釈した溶液を15Lのステンレス製容器中の10Lのヘキサン中に加えポリマーを再沈殿した。ポリマーを100メッシュのナイロンメッシュでろ別後、一晩乾燥し、さらに真空乾燥することで、(b)特定重合体b−1を96g得た。得られたポリマー粉末の分子量をGPCで測定したところ、ポリスチレン換算で17,000であった。
【0169】
<(b)特定重合体b−2〜b−6、比較重合体1〜5の合成>
(b)特定重合体b−1の合成における一般式(1)の繰り返し単位を与えるモノマー、塩基性官能基を有するモノマー、重合性オリゴマーの種類及び使用量と、連鎖移動剤、重合開始剤の使用量を表1のように変更した以外は(b)特定重合体b−1の合成と同様にして、(b)特定重合体b−2〜b−6、比較重合体1〜5をそれぞれ合成した。ただし、比較重合体5については、一般式(1)の繰り返し単位を与えるモノマーM−4の溶剤溶解性が低く、均一系での反応ができなかったため検討を中断した。
尚、表1中、tBuAEMAは2−(tertブチルアミノ)エチルメタクリレートを示し、DMAPAAmは3−(ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド(和光純薬社製)を示す。また、9−ビニルカルバゾールは東京化成工業社製を用いた。
【0170】
【表1】

【0171】
[実施例1〜10、比較例1〜11]
−ミルベース1〜18の作製−
(b)特定重合体、(c)特定グラフト共重合体を分散媒(プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートSR9003(NPGPODA、サートマー社製))に溶解させ、(a)顔料と共にビーズミル(モーターミルM50、アイガー社製、ビーズ:ジルコニアビーズ、直径0.65mm)を用い、周速9.0m/sで2時間分散を行い、表2に示す組成の実施例1〜10及び比較例1〜10の顔料分散物であるミルベース1〜21を得た。
尚、表2中、RT−355はキナクリドン系顔料PR42(Cinquacia Red RT−355D、チバスペシャリティケミカル社製)を示し、(c)特定グラフト共重合体sol32000はSolsperse32000(ルーブリゾール社製)を示し、sol24000SCはSolsperse24000SC(ルーブリゾール社製)を示す。尚、比較重合体1〜4は(b)特定重合体の要件を満たしていないが、比較のために使用したため、便宜上(b)の欄に記載した。また、(b)特定重合体、及び(c)特定グラフト共重合体の含有量は、顔料100質量部に対するものである。また、((B)/(C))は、前記(b)特定重合体又は比較重合体の含有量(B)を、(c)特定グラフト共重合体の含有量(C)で割った値((B)/(C))を示す。また、比較例5の((B)/(C))は分母が0となるため、「−−」と記載した。
【0172】
【表2】

【0173】
(ミルベースの評価)
得られた各ミルベースについて、下記の評価方法に従って評価した。その結果を表3に示す。
【0174】
−粒子径−
各ミルベースについて、光散乱回折式の粒度分布測定装置(LA910、(株)堀場製作所製)を用いて体積基準の累積90%粒子径D90を測定し評価した。評価基準は以下の通りである。
A:D90が250nm未満
B:D90が250nm以上、500nm未満
C:D90が500nm以上
【0175】
−流動性−
ミルベースを分散中に、ミルベースが循環用パイプ、ホッパー内を循環している様子を観察した。評価基準は以下の通りである。
A:ミルベースの流動性が良好で、ホッパー内のミルベースが滞りなく循環している。
B:ミルベースは循環しており、循環パイプからミルベースが流出しているが、粘度が高く、ホッパー内で一部滞留が生じている。
C:ミルベースが循環しておらず、循環パイプからミルベースが流出しないもの。
【0176】
−分散後粘度増加
各ミルベースを分散後、容量50mlのビーカーに25ml移し、室温で1時間静置した後ミルベースの流動性を確認した。評価基準は以下の通りである。
A:ミルベースが分散直後と同様の流動性を保っていた。
B:ミルベースが増粘しており、ビーカーを傾けてもほとんど流動しないが、撹拌すると流動性を発現する。
C:ミルベースが増粘しており、ビーカーを傾けても撹拌しても流動しない。
【0177】
【表3】

【0178】
表3より、実施例1〜10では、(b)特定重合体と(c)特定グラフト共重合体を併用して用いることにより、粒径が微細で流動性に優れたミルベースが作製されていること、及び分散後の粘度増加も抑えられていることがわかる。
これに対し、表3より、各比較例では、比較例1〜4のように、(b)特定重合体を用いなかった場合(一般式(1)の繰り返し単位を含んでいない重合体又は重量平均分子量が規定値外の場合)や、比較例5のように(c)特定グラフト共重合体を用いなかった場合、又比較例6〜10のように、(b)特定重合体又は(c)特定グラフト共重合体の比率が適切でないときには、粒径の微細化が困難になったり、ミルベースの流動性の低下や、分散後にチキソトロピー性が生じていることがわかる。また、比較例11のように顔料濃度が高すぎる場合も粘度が高く、良好に分散することが出来なかった。
【0179】
[実施例11〜20、比較例12〜22]
−インク組成物(インク)1〜21の作製−
表4に示すミルベース、重合性化合物、光重合開始剤、重合禁止剤、界面活性剤を混合し、これをメンブランフイルターで加圧濾過し、実施例11〜20、比較例12〜22のインク(インク組成物)1〜21を得た。また、インク1〜21における顔料、重合性化合物、及び有機溶剤の含有量を表5に示す。
【0180】
【表4】

【0181】
尚、表4中、NVCはN−ビニル−ε−カプロラクタム(BASF社製)を、FA−512Aはジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業社製)を、ST−1はFIRSTCURE ST−1(Chem First社製)を、MEHQはp−メトキシフェノール(和光純薬工業社製)を、TPOはLucirin TPO(BASF社製)を、ベンゾフェノンは和光純薬工業社製を、KF−353はシリコーン系界面活性剤(信越化学工業社製)をそれぞれ示す。
【0182】
【表5】

【0183】
(インク1〜21の評価)
得られたインクジェット用のインク1〜21について、下記の評価方法に従って評価した。その結果を表6に記す。
−粘度−
各インクの25℃における粘度をE型粘度計(東機産業製)を用いて測定し、下記基準で評価した
A:30mPas未満。
B:30mPas以上、40mPas未満。
C:40mPas以上(吐出上問題のあるレベル)。
【0184】
−安定性−
各インクを25℃で1ヶ月保存後、及び60℃で1週間保存後の分散状態を粘度により評価した。評価基準は以下の通りである。
A:粘度の増加が5%未満で吐出性に問題ないレベル。
B:粘度の増加が5%以上10%未満で吐出安定性が低下するレベル。
C:粘度の増加が10%以上であり吐出安定性が著しく低下するレベル。
【0185】
−吐出性−
インクジェットプリントヘッドCA3(東芝テック製)を搭載したJetLyzer(ミマキエンジニアリング社製)を吐出電圧22V、吐出ドロップ数7ドロップに設定し、インク組成物を45℃にて60分間連続吐出して、下記の基準で評価した。
A:正常に打滴されているか、わずかにミストが発生したが、吐出性が実用上問題ないレ ベル。
B:ミストの発生が見られた。インクジェット吐出性はやや悪い。
C:酷いミストの発生が見られた。インクジェット吐出性は悪い。
【0186】
【表6】

【0187】
表6より、実施例11〜20では、初期粘度や、安定性、吐出性に優れたインクを得られていることがわかる。また、画像の鮮明性にも優れていることもわかる。
これに対し、各比較例では、粘度や、安定性、吐出性が劣っていた。このことより、各比較例のインクジェットインクは、顔料の分散性が十分でなかったことが推察される。
以上より、(b)特定重合体と(c)特定グラフト共重合体とを併用した本発明の顔料分散物は顔料の分散性が優れており、インクジェットインクとして用いた場合にもその高い分散性故、インクの安定性と優れたインクジェット吐出性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料を2質量%〜35質量%、
(b)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を5質量%〜30質量%含み、重量平均分子量が10000〜200000である重合体を、前記(a)顔料100質量部に対し10質量部〜30質量部、及び
(c)主鎖にポリアルキレンイミン鎖又はポリアリルアミン鎖を有し、側鎖にポリエステル鎖を有するグラフト共重合体を、前記(a)顔料100質量部に対して15質量部〜50質量部、
含有し、
前記(b)重合体及び前記(c)グラフト共重合体の含有量の和が、前記(a)顔料100質量部に対して25質量部〜70質量部である顔料分散物。
【化1】

[一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合又は2価の連結基を表す。Pは有機顔料に含まれる複素環を有する複素環残基を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるPが、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロンアゾ系顔料、ジオキサジン系顔料、ナフトールAS系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、及びペリレン系顔料からなる群から選ばれる何れかの顔料の部分構造であって、2〜5個の複素環が縮環した構造を含む複素環残基である請求項1に記載の顔料分散物。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるPが、炭素数7〜20の複素環残基である請求項2に記載の顔料分散物。
【請求項4】
前記部分構造が、ベンズイミダゾロン、カルバゾール、アクリドン、アントラキノン、フタルイミド、及びナフタルイミドからなる群から選ばれる何れかの部分構造である請求項2または請求項3に記載の顔料分散物。
【請求項5】
前記(b)重合体が、塩基性官能基を含む繰り返し単位を有する請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の顔料分散物。
【請求項6】
前記(b)重合体が、グラフト共重合体である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の顔料分散物。
【請求項7】
前記(a)顔料が、キナクリドン系顔料である請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の顔料分散物。
【請求項8】
前記一般式(1)におけるPが、キナクリドンが有する複素環と同一又は類似の構造である複素環を有する複素環残基である請求項7に記載の顔料分散物。
【請求項9】
前記(b)重合体の含有量(B)を、(c)グラフト共重合体の含有量(C)で割った値((B)/(C))が、0.2〜1.3である請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の顔料分散物
【請求項10】
更に、(d)重合性化合物を含有する請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の顔料分散物。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の顔料分散物を含有するインク組成物。
【請求項12】
前記(a)顔料を2質量%〜20質量%と、(d)重合性化合物及び(e)有機溶剤の少なくとも一方を50質量%〜95質量%と、を含有する請求項11に記載のインク組成物。
【請求項13】
インクジェット用である請求項11又は請求項12に記載のインク組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のインク組成物を用いて、インクジェットプリンターにより被記録媒体に印字して得られた印刷物。

【公開番号】特開2011−190321(P2011−190321A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56274(P2010−56274)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】