説明

顔温度算出装置および顔温度算出方法

【課題】乗員の顔温度を測定する際に、乗員の顔の向きを考慮して、安定した測定結果が得られるようにする。
【解決手段】熱画像生成部21でIRカメラ10の温度検知範囲D内の温度分布を示す温度分布マップIMを生成し、顔領域抽出部22で生成した温度分布マップIMから乗員Pの顔領域Fを抽出し、顔向き判定部23で乗員Pの顔の向きを判定し、寄与度調整部24が、判定した顔の向きに応じて、顔領域Fの中央領域FCの温度と周辺領域FR、FRの温度の寄与度を調整し、顔温度算出部25が、寄与度を調整した顔領域Fの中央領域FCの温度と周辺領域FR、FRの温度に基づいて乗員の顔温度を算出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の顔の温度を算出する顔温度算出装置および顔温度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の表面温度を検出し、検出した表面温度に基づいて空調装置を制御する車両用空調装置として、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【特許文献1】特開2001−199217号公報
【0003】
特許文献1に開示された装置では、乗員の顔などの表面温度に加えて、さらに、室内の温度(内気温)に応じて表面温度が変化する天井部と、室外の温度(外気温)に応じて表面温度が変化するガラス部と、日射量に応じて表面温度が変化するシート部の表面温度を、1つの非接触温度センサを用いて検出する。
そして、乗員の表面温度のほかに、内気温、外気温、そして日射量の影響を加味した上で空調装置を制御して、車両内の温度の適切な制御が行えるようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非接触温度センサは、センサから見えている範囲の平均温度を算出する。
そのため、例えば乗員の顔の温度を測定する場合、センサから見えている範囲が乗員の顔の向きにより変化するので、検出される顔の温度が顔の向きによって大きく異なることがある。
この傾向は、例えば、空調装置の空調風の影響などにより、顔の額部分と左右の頬部分とで皮膚温度が大きく異なるような場合に顕著になる。
【0005】
よって、本発明は、乗員の顔の温度を測定する際に、乗員の顔の向きを考慮して、安定した測定結果が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、センサの検知範囲内の温度分布を示す熱画像を生成し、生成した熱画像から乗員の顔領域を抽出し、抽出した顔領域内の温度分布に基づいて乗員の顔温度を算出する際に、乗員の顔の向きを判定し、判定した顔の向きに応じて、顔温度を算出する際の顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度を調整する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、算出される乗員の顔温度が、乗員の顔の向きにより大きく異なることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施例を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、実施例にかかる顔温度算出装置の構成を示すブロック図である。
図2は、IRカメラの設置例を説明する図であり、図3は、IRカメラの温度検知範囲と、IRカメラの出力に基づき生成される温度分布マップを説明する図である。
【0009】
実施例にかかる顔温度算出装置は、IRカメラ10と、制御部20とより構成され、乗員の顔の皮膚温度(顔温度)を測定して測定結果を空調装置30に出力する。
【0010】
図2に示すように、IRカメラ10は、センサ面を車両Vの乗員Pの顔側に向けた状態で、車室内のステアリングコラムの上部に設けられている。
IRカメラ10は、検知対象である乗員Pから放射される赤外線を非接触で検知し、検知した赤外線の量に応じた電気信号を出力する赤外線センサである。
【0011】
図3の(a)に示すように、IRカメラ10の温度検知範囲Dは、乗員Pの顔およびその周辺領域を含むように設定されており、温度検知範囲Dは格子状に区画されて、複数の矩形の検知領域Sが設定されている。
IRカメラ10のセンサ面には、複数の温度検出素子がマトリックス状に配置されており、各温度検出素子は、温度検知範囲D内の予め決められた検知領域Sの温度を測定し、かかる検知領域Sの平均温度を算出する。
IRカメラ10は、各温度検出素子の算出結果をまとめて、温度検知範囲D内の温度分布を示す熱画像データとして、制御部20に出力する。
ここで、IRカメラ10が出力する熱画像データは、図3の(b)に示すような温度検知範囲D内の温度分布を示す温度分布マップ(熱画像)IMを規定するデータである。
【0012】
制御部20は、熱画像生成部21と、顔領域抽出部22と、顔向き判定部23と、寄与度調整部24と、顔温度算出部25とを備える。
【0013】
熱画像生成部21は、IRカメラ10から入力される熱画像データに基づいて、IRカメラ10の温度検知範囲D内の温度分布マップIMを生成する。
顔領域抽出部22は、温度分布マップから乗員の顔の領域(顔領域)を抽出する。
【0014】
顔向き判定部23は、顔領域内の温度分布に基づいて、乗員の顔の左右方向における中心(顔中心)を特定し、特定した顔中心の顔領域内における位置に基づいて、乗員の顔の向きを判定する。
【0015】
寄与度調整部24は、後段の顔温度算出部25において乗員の顔温度を算出する際に用いられる顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度を、乗員の顔の向きに応じて調整する。
【0016】
顔温度算出部25は、前記顔領域内の温度分布に基づいて、乗員の顔温度を算出する。また、寄与度調整部24において、顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度が調整された場合には、調整後の寄与度を反映させて乗員の顔温度を算出する。
【0017】
上記した熱画像生成部21、顔領域抽出部22、顔向き判定部23、寄与度調整部24、そして顔温度算出部25の各機能ブロックは、周知のマイクロコンピュータにより構成されており、顔温度算出装置が備える図示しないCPUが、図示しないROMまたはメモリに記憶しているプログラムを実行することで実現される
【0018】
図4は、実施例にかかる顔温度算出装置における処理を説明するフローチャートである。
実施例にかかる顔温度算出装置における処理を説明する。
顔温度算出装置の電源がONにされると、ステップ100において、顔向き判定部23は、図示しないメモリに保持されているカウンタとフラグの値を初期化する。
ここでは、後記する横向きカウンタC、更新フラグF1、そして顔向きフラグF2を初期化して、それぞれの値を「0」にする。
【0019】
ステップ200において、熱画像生成部21は、IRカメラ10から出力される熱画像データを取得し、IRカメラ10の温度検知範囲D内の温度分布を示す温度分布マップを生成する(図3の(b)参照)。
この温度分布マップでは、図3の(a)に示す温度検知範囲Dを格子状に区画して設定した検知領域Sのうち、温度が高い検知領域ほど高い濃度値で表示される。ここで、図中、符号aで示す検知領域の温度が最も高く、符号b、符号cで示す検知領域を経て、符号dで示す検知領域になるにつれて温度が低いことを意味する。
【0020】
ステップ300において、顔領域抽出部22は、IRカメラ10の温度検知範囲D内の温度分布に基づいて乗員Pの顔領域を抽出する。
具体的には、顔領域抽出部22は、IRカメラ10の取付け位置および角度に基づいて、乗員の顔が存在すると予測される範囲を絞り込んだうえで、例えば33±3℃のような所定の温度範囲内の温度を示す検知領域を検索する。そして、検索された検知領域が塊で存在する所定範囲を、乗員の顔領域Fとして抽出する。
【0021】
例えば、図3の(b)において、符号aから符号cで示す検知領域の温度が33±3℃の範囲内にある場合、これら符号aから符号cで示す検知領域が集まっている範囲Fを、乗員の顔領域Fとする。
【0022】
ステップ400において、顔向き判定部23は、顔領域F内における乗員Pの顔の左右方向における中心(顔中心)の位置を検出する。
【0023】
図5は、顔領域内における顔中心の検出と、顔の向きの判定を説明する図である。
顔中心の位置の検出は、例えば目や鼻は額に比べて温度が低いこと、眼鏡やサングラスは低温物として計測されることを利用して、温度分布マップの顔領域内で、目や鼻に対応する検知領域を検索し、検索した検知領域に基づいて顔中心の位置を検出する。
これにより、例えば図5の(a)において符号Cで示すような位置が、顔領域F内における顔中心Cの位置として検出される。
なお、顔中心の位置は、ステップ300において抽出した顔領域の左右対象性を利用して推定するようにしても良い。
【0024】
ステップ500において、顔向き判定部23は、顔領域F内における顔中心Cの位置に基づいて、顔の向きを判定する。そして、判定結果に基づいて、顔の向きによって異なる値となる「顔向きフラグF2」と「更新フラグF1」の値を設定する。
【0025】
顔領域F内における顔中心Cの位置に基づく顔の向きの判定を例示する。
例えば、図5の(a)に示す顔領域Fが抽出されている場合、顔向き判定部23は、抽出されている顔領域Fの左右方向における幅Wを求める。そして、顔領域Fの幅方向における略中央位置(図中符号Xで示す)に顔中心Cが位置する場合、顔の向きが「正面向き」であると判定する。
また、顔領域Fの幅方向における中央Xを基準に設定される所定範囲(図中5の(b)において符号Yで示す範囲)内に顔中心Cが位置する場合、顔の向きが「斜め向き」であると判定する。
さらに、図中符号Zで示す範囲内に顔中心が位置する場合、乗員Pの顔の頬のうちの一方がIRカメラ10からほぼ見えなくなる位置に、顔中心が位置することになるので、この場合は、顔の向きが「横向き」であると判定する。
【0026】
顔向き判定部23が行う処理を詳細に説明する。
図6は、顔向き判定部23が行う処理を説明するフローチャートである。
【0027】
前記したステップ400における処理が完了すると、ステップ501において、顔向き判定部23は、顔領域内における顔中心の位置を特定する。
【0028】
ステップ502において、顔向き判定部23は、顔が「横向き」であるか否かを判定する。
顔が「横向き」であるか否かは、顔領域F内における顔中心Cの位置が、顔領域Fの右または左端の近傍領域(図5の(b)の符号Zで示す領域)内にあるか否かに基づき判定する。
【0029】
ステップ502において「横向き」であると判定された場合、ステップ503において、顔向き判定部23は、横向きカウンタCを「1」だけインクリメントする。
ここで、横向きカウンタCの値は、顔が「横向き」であると判定されてからの継続時間を示す。
【0030】
ステップ504において、顔向き判定部23は、横向きカウンタCの値と所定時間T0とを比較して、横向きカウンタCの値が所定時間T0未満であるか否かを確認する。
横向きカウンタCが所定時間T0未満である場合(C<T0)、ステップ505において、顔向き判定部23は、更新フラグF1の値を「0」に設定し、顔向きフラグF2の値を「3」に設定する。
【0031】
ここで、横向きカウンタCが所定時間T0未満である場合(C<T0)には、顔が横を向いている時間が短時間であり、この短時間の間には、顔の皮膚温度の変化がほとんど起こらないと判断できる。
よって、この場合には、顔が「横向き」になる直前の結果を保持するために、更新フラグF1の値を「0」に設定し、顔向きフラグF2の値を「3」に設定する。
【0032】
ここで、更新フラグF1の値が「0」であることは、顔温度の算出結果を更新しないことを意味し、顔向きフラグF2の値が「3」であることは、顔が「横向き」である状態が短時間であることを意味する。
【0033】
ちなみに、所定時間T0は、顔の皮膚温度の変化がほとんど起こらない時間、例えば30秒に設定される。すなわち、顔が「横向き」である時間が30秒未満である場合には、30秒というごく短時間の間では、顔温度の変化がほとんど起こらないとして、更新フラグF1の値を「0」にして、顔温度の算出結果を更新しないようにする。
【0034】
ステップ504において横向きカウンタCの値が所定時間T0未満でない場合、ステップ506において、顔向き判定部23は、更新フラグF1の値を「1」に設定し、顔向きフラグF2の値を「2」に設定する。
ここで、横向きカウンタCが所定時間T0未満でない場合、すなわち横向きカウンタCの値が所定時間T0以上である場合(C≧T0)には、顔のIRカメラ10から見えない部位の温度は計測できないと判断する。
【0035】
よって、この場合には、後記する寄与度調整部24において、IRカメラ10から見えている頬の部分の温度を用いて、IRカメラ10から見えていない側の頬の部分の温度情報を補完する必要があるので、更新フラグの値を「1」に設定し、顔向きフラグF2の値を「2」に設定する。
ここで、更新フラグF1の値が「1」であることは、顔温度の算出結果を更新することを意味し、顔向きフラグF2の値が「2」であることは、顔が「横向き」であることを意味する。
【0036】
ステップ502において「横向き」であると判定されなかった場合、すなわち顔が「横向き」でなく、顔の両方の頬がIRカメラ10から見える位置にあると判定された場合、ステップ507において、顔向き判定部23は、顔が「横向き」であると判定されてからの時間を示す横向きカウンタCの値を「0」に設定する。
【0037】
ステップ508において、顔向き判定部23は、顔が「斜め向き」であるか否かを判定する。
顔が「斜め向き」であるか否かは、顔領域F内における顔中心Cの位置が、顔領域Fの左右方向における中央位置Xから外れているか否かに基づき判定する。
よって、顔中心Cの位置が中央位置Xから外れている場合には、顔が「斜め向き」であると判定し、外れていない場合には、顔が「斜め向き」ではないと判定する。
【0038】
ステップ508において「斜め向き」であると判定された場合、ステップ509において、顔向き判定部23は、更新フラグF1の値を「1」に設定し、顔向きフラグF2の値を「1」に設定する。
一方、ステップ508において「斜め向き」でないと判定された場合、ステップ510において、顔向き判定部23は、更新フラグの値を「1」に設定し、顔向きフラグF2の値を「0」に設定する。
ここで、更新フラグF1の値が「1」であることは、顔温度の算出結果を更新することを意味し、顔向きフラグF2の値が「1」であることは、顔が「斜め向き」であることを意味し、顔向きフラグF2の値が「0」であることは、顔が「正面向き」であることを意味する。
【0039】
このようにして、顔向き判定部23は、顔領域F内における顔中心の位置Cに基づいて、乗員の顔の向きを判定する。そして、後段の寄与度調整部24での処理に必要となる顔向きフラグF2の値と、後段の顔温度算出部25での処理に必要となる更新フラグF1の値とを設定する。
なお、設定された「更新フラグF1」と「顔向きフラグF2」の値は、図示しないメモリに保持される。
【0040】
ステップ600において、寄与度調整部24は、ステップ500における処理で設定された更新フラグF1および顔向きフラグF2に基づいて、後記する顔温度算出部25において乗員の顔の表面の皮膚温度(顔温度)を算出する際に用いられる補正素子数と補正素子合計値を求める。
【0041】
寄与度調整部24が行う処理を詳細に説明する。
図7は、寄与度調整部24が行う処理を説明するフローチャートである。
前記したステップ500における処理が完了すると、ステップ601において、寄与度調整部24は、ステップ500において設定された「更新フラグF1」と「顔向きフラグF2」の値を、図示しないメモリから読み込む。
【0042】
ステップ602において、寄与度調整部24は、読み込まれた更新フラグF1の値が「1」であるか否か、すなわち顔温度の算出結果の更新が有効であるか否かを確認する。
【0043】
ステップ602において更新フラグF1の値が「1」でない場合、処理を終了する。
ステップ602において更新フラグF1の値が「1」である場合、ステップ603において、寄与度調整部24は、顔向きフラグF2の値が「0」であるか否か、すなわち顔が「正面向き」であるか否かを確認する。
【0044】
ステップ603において顔向きフラグF2の値が「0」である場合、ステップ604において、寄与度調整部24は、乗員の顔の右側の頬の温度を測定する温度検出素子と、左側の頬の温度を測定する温度検出素子とから、それぞれ同数ずつ温度検出素子を選択する。そして、選択した温度検出素子の数を補正素子数とし、さらに、選択した温度検出素子の測定値の合計値を、補正素子合計値とする。
【0045】
ここで、ステップ604の処理をより詳細に説明する。
図8は、顔の向きが正面向きである場合の温度分布マップの一例であって、顔領域における中央領域と周辺領域とを説明する図であり、符号FCで示す範囲は顔の中央領域(額領域)の温度分布を示し、符号FL、FRで示す範囲は、それぞれ顔の周辺領域(左頬領域、右頬領域)の温度分布を示す。
【0046】
熱画像データに基づいて、図8の(a)に示すような温度分布マップが得られている場合、ステップ604において、寄与度調整部24は、左頬領域FLと右頬領域FRとから同数ずつ検知領域Sを選択し(図8の(b)参照)、選択した検知領域の数を補正素子数とする。
上記したように、IRカメラ10のセンサ面には複数の温度検出素子が設けられており、各温度検出素子は、それぞれ決められた検知領域S内の平均温度を算出するように設定されているので、例えば左頬領域FL内から選択した検知領域Sの数は、そのまま左頬の温度を測定する温度検出素子の中から選択した温度検出素子の数になるからである。
【0047】
また、同様の理由により、寄与度調整部24は、選択した検知領域Sの温度の合計値を求めて、補正素子合計値とする。
【0048】
ここで、例えば左右の頬領域から、4つずつ検知領域を選択し、選択した各検知領域の温度が32℃である場合、補正素子数は「8」となり、補正素子合計値は、選択した検知領域の温度の合計値、すなわち「254(32×8)」となる。
【0049】
このようにすることで、顔温度算出部25において顔領域F内の温度分布に基づいて乗員の顔温度を算出する際における、顔領域Fの周辺領域(左頬領域FL、右頬領域FR)の温度の寄与度が、中央領域FCの温度の寄与度よりも大きくなるようにし、さらに、顔領域Fの中央領域FCを挟んで、顔領域Fの左右方向における一方側にある左頬領域FLの温度と、他方側にある右頬領域FRの温度の寄与度が等しくなるようにしている。
【0050】
ステップ603において顔向きフラグF2の値が「0」でない場合、ステップ605において、寄与度調整部24は、顔向きフラグF2の値が「1」であるか否か、すなわち顔が「斜め向き」であるか否かを確認する。
【0051】
ステップ605において顔向きフラグF2の値が「1」である場合、ステップ606において、寄与度調整部24は、乗員の顔の右側の頬の温度を測定する温度検出素子と、左側の頬の温度を測定する温度検出素子のうち、IRカメラ10から見えている面積が狭い方の頬の温度を測定する温度検出素子を選択する。そして、選択した温度検出素子に基づいて、補正素子数と補正素子合計値を求める。
【0052】
ここで、ステップ606の処理をより詳細に説明する。
図9は、顔の向きが斜め向きである場合の温度マップの一例であって、符号FCで示す範囲は顔の中央領域(額領域)の温度分布を示し、符号FL、FRで示す範囲は、それぞれ顔の周辺領域(左頬領域、右頬領域)の温度分布を示す。
【0053】
熱画像データに基づいて、図9の(a)に示すような温度分布マップが得られている場合、ステップ606において、寄与度調整部24は、左頬領域FLと右頬領域FRのうちの検知領域F内における面積が小さい方から、検知領域を選択し、選択した検知領域の数を補正素子数とする。そして、選択した検知領域Sの温度の合計値を求めて、補正素子合計値とする。
【0054】
図9の(a)の場合、右頬領域FR内の検知領域の数の方が、左頬領域FL内の検知領域の数よりも少なく、右頬領域FRの顔領域Fに占める面積が左頬領域FLよりも小さいので、右頬領域FR内の中から検知領域を選択する。
この際、右頬領域FR内に含まれる検知領域のうち、顔中心から離れた位置にある検知領域を選択する。
なお、図9の(a)の場合、右頬領域FR内には2つしか検知領域が含まれていないので、これら2つが顔中心から離れた位置にある検知領域となる。
【0055】
このようにすることで、顔温度算出部25において顔領域F内の温度分布に基づいて乗員の顔温度を算出する際における、顔領域Fの周辺領域(左頬領域FL、右頬領域FR)の温度の寄与度が、中央領域FCの温度の寄与度よりも大きくなるようにし、さらにIRカメラ10から見えている範囲が狭い側の頬領域の温度の寄与度が、見えている範囲の広い側の頬領域の温度の寄与度よりも大きくなるようにしている。
【0056】
ステップ605において顔向きフラグの値が「1」でない場合、すなわち顔が「横向き」である場合、ステップ607において、寄与度調整部24は、IRカメラ10で見えている側の乗員の頬の温度を測定する温度検出素子を選択する。そして、選択した温度検出素子に基づいて、補正素子数と補正素子合計値を求める。
IRカメラ10で見えていない側の頬の温度情報を、見えている側の頬の温度情報を用いて補完するためである。
【0057】
ここで、ステップ607の処理をより詳細に説明する
図10は、顔の向きが斜め向きである場合の温度マップの一例であって、符号FCで示す範囲は顔の中央領域(額領域)の温度分布を示し、符号FLで示す範囲は、顔の周辺領域(左頬領域)の温度分布を示す。
【0058】
熱画像データに基づいて、図10の(a)示すような温度分布マップが得られている場合、ステップ607において、寄与度調整部24は、IRカメラ10で見えている側にある左頬領域FL内の検知領域の中から、検知領域を選択し、選択した検知領域の数を補正素子数とする。そして、選択した検知領域Sの温度の合計値を求めて、補正素子合計値とする。
この際、左頬領域FL内に含まれる検知領域のうち、顔中心から離れた位置にある検知領域を選択する。左頬領域FL内の顔中心から離れた外側に位置する検知領域が選択されて、寄与度が調整されるようにすることで、顔領域F内における中央領域FCと周辺領域FL、FRとを明確に区別しなくても寄与度の調整が行えるようにするためである。
【0059】
このようにすることで、顔温度算出部25において顔領域F内の温度分布に基づいて乗員の顔温度を算出する際における、顔領域Fの周辺領域(左頬領域FL)の温度の寄与度が、中央領域FCの温度の寄与度よりも大きくなるようにし、さらにIRカメラ10から見えていない側の頬領域の温度が、見えている側の頬領域の温度で補完されるようにしている。
【0060】
ここで、図10の(a)の場合、右側頬領域FRは見えていないが、顔の向きが横向きであると判断された場合でも、右側頬領域が僅かに見ていることがある。
この場合は、左頬領域FLと右頬領域FRのうちの検知領域F内における面積が広い方から、検知領域を選択することになる。
【0061】
このようにして、寄与度調整部24は、顔向き判定部23において判定した顔の向きに応じて、補正素子数と補正素子合計値とを決定する。
なお、決定された補正素子数と補正素子合計値は、図示しないメモリに保持される。
【0062】
ステップ700において、顔温度算出部25は、ステップ600で算出された温度検出素子数および素子合計値を用いて乗員の顔温度を算出する。
【0063】
顔温度算出部25が行う処理を説明する。
図11は、顔温度算出部25が行う処理を説明するフローチャートである。
ステップ701において、顔温度算出部25は、ステップ500、600における処理により設定された「更新フラグF1」の値と、補正素子数と、補正素子合計値とを、図示しないメモリから読み込む。
【0064】
ステップ702において、顔温度算出部25は、読み込まれた更新フラグの値が「1」であるか否か、すなわち顔温度の算出結果の更新が有効であるか否かを確認する。
【0065】
ステップ702において更新フラグの値が「1」である場合、ステップ703において、顔温度算出部25は、前記したステップ300における処理で抽出した顔領域F内の顔領域全素子数と顔領域全素子合計値を求める
具体的には、顔領域F内の検知領域Sの数をカウントして顔領域全素子数とし、顔領域F内の検知領域Sの温度の合計値を求めて顔領域全素子合計値とする。
【0066】
ステップ704において、顔温度算出部25は、顔温度(平均顔皮膚温度)を下記式(1)に基づいて算出する。
顔温度=(顔領域全素子合計値+補正素子合計値)/(顔領域全素子数+補正素子数)・・・・(1)
【0067】
ステップ705において、顔温度算出部25は、算出した顔温度を、保存パラメータP_Resultの値に設定し、図示しないメモリに保持させる。
【0068】
ステップ702において更新フラグの値が「1」でない場合、ステップ706において、顔温度算出部25は、図示しないメモリに記憶されている保存パラメータP_Resultの値を変更せずに、処理を終了する。
すなわち、更新フラグの値が「1」でなく「0」である場合には、過去において算出された顔温度(顔の向きが横向きであると判定される直前に算出された顔温度)を示す保存パラメータP_Resultが、そのままメモリに保持される。
【0069】
ステップ800において、顔温度算出部25は、ステップ700における処理で算出した乗員の顔温度を空調装置3に出力したのち、ステップ200の処理に移行する。これにより、以降、同様の処理が繰り返されることになる。
【0070】
ここで、上記したステップ200と熱画像生成部21が、発明における熱画像生成部に相当し、ステップ300と顔領域抽出部22が、発明における顔領域抽出部に相当し、ステップ400およびステップ500と顔向き判定部23が、発明における顔向き判定部に相当し、ステップ600と寄与度調整部24が、発明における寄与度調整部に相当し、ステップ700と顔温度算出部25が、発明における顔温度算出部に相当する。
【0071】
以上の通り、本実施例では、IRカメラ10の温度検知範囲D内の温度分布を示す温度分布マップIMを生成する熱画像生成部21と、温度分布マップIM内における乗員Pの顔領域Fを抽出する顔領域抽出部22と、顔領域F内の温度分布に基づいて、乗員Pの顔温度を算出する顔温度算出部25とを備える顔温度算出装置において、乗員Pの顔の向きを判定する顔向き判定部23と、乗員Pの顔の向きに基づいて、乗員Pの顔温度を算出する際の顔領域Fの中央領域FCの温度と周辺領域FL、FRの温度の寄与度を調整する寄与度調整部24とを備える構成とした。
これにより、乗員の顔温度を算出する際に、算出される乗員の顔温度が、乗員の顔の向きにより大きく異なるようなことがないので、乗員の顔の向きを考慮した安定した測定結果が得られるようになる。
【0072】
また、寄与度調整部24が、顔領域Fの周辺領域FL、FRの温度の寄与度を、中央領域FCの温度の寄与度よりも大きくする構成とした。
これにより、乗員Pの顔領域Fの左右方向における中央付近の領域(中央領域FC)を額領域、中央領域FCを挟んで左右に位置する周辺領域FL、FRを頬領域とみなして、乗員の顔の向きに応じて、中央領域FCと、周辺領域FL、FRの面積が同等となるように、各領域の使用比率を変更したうえで顔温度が算出されるので、顔の額付近と頬付近の温度情報を反映する顔温度が算出される。
よって、乗員の顔温度を算出する際に、算出される乗員の顔温度が、乗員の顔の向きにより大きく異なるようなことがないので、乗員の顔の向きを考慮した安定した測定結果が得られるようになる。
なお、顔領域Fの中央領域FCの温度の寄与度を、周辺領域FL、FRの温度の寄与度よりも小さくすることでも同様の効果が得られる。
【0073】
さらに、顔向き判定部23が、顔領域F内における乗員Pの顔の左右方向における中心Cの位置に基づいて、乗員Pの顔の向きを、少なくとも正面向き、斜め向き、横向きのうちの何れかに判定する構成とした。
これにより、顔領域F内における乗員の顔中心Cの位置を検出するという単純な操作で、顔の向きを判定することができる。
【0074】
また、寄与度調整部24は、乗員Pの顔の向きが正面向きであると判定された場合、中央領域FCを挟んで顔領域Fの左右方向における一方側にある周辺領域FLの温度と、他方側にある周辺領域FRの温度の寄与度を等しく設定する構成とした。
中央領域FCを挟んで顔領域Fの左右方向における一方側にある周辺領域FLの温度は、例えば左頬の温度を、他方側にある周辺領域FRの温度は、例えば右頬の温度を意味するので、左右の頬に温度差がある場合に、顔温度の算出に左右の頬の温度情報を均等に反映させることができる。
【0075】
さらに、寄与度調整部24は、乗員Pの顔の向きが斜め向きであると判定された場合、中央領域FCを挟んで顔領域Fの左右方向における一方側にある周辺領域FLと、他方側にある周辺領域FRとのうちの、顔領域F内における面積が小さい方の周辺領域の温度の寄与度を高く設定する構成とした。
これにより、非接触温度センサであるIRカメラ10に対して乗員が斜めを向いている場合には、面積が小さい側の頬の寄与度が高くなるので、顔温度の算出に際して、面積が小さい側の頬の温度情報を面積が大きい側の頬の温度情報と同程度に反映させることができる。
【0076】
また、寄与度調整部24は、乗員Pの顔の向きが横向きであると判定され、かつ横向きであると判定されている時間が所定時間T0以上である場合、中央領域FCを挟んで顔領域Fの左右方向における一方側にある周辺領域FLと、他方側にある周辺領域FRとのうちの、顔領域F内における面積が大きい方の周辺領域の温度の寄与度を高く設定する構成とした。
これにより、非接触温度センサであるIRカメラ10に対して乗員が所定時間T0以上横を向いている場合には、IRカメラ10側にある頬の温度情報を用いて、反対側の頬の温度情報を補完するので、乗員が横を向いたままであっても継続して顔温度を測定できる。
【0077】
また、寄与度調整部24は、乗員Pの顔の向きが横向きであると判定され、かつ横向きであると判定されている時間が所定時間T0未満である場合、乗員Pの顔の向きが横向きであると判定される直前に算出した顔温度を乗員Pの顔温度とする構成とした。
これにより、非接触センサであるIRカメラ10に対して乗員が横を向いている時間が所定時間T0未満の短時間である場合には、乗員が横を向く直前に算出された顔温度が保持されて乗員Pの顔温度とされるので、例えば安全確認などのために乗員が顔を短時間だけ横に向けた場合に測定された顔温度が、空調装置30に出力されて、空調装置30の制御に影響を与えることを防止できる。
【0078】
上記実施例では、説明の便宜上、熱画像データから生成した温度分布マップIMを用いて、顔領域の特定とその後の処理を説明したが、温度検知範囲の各検知領域の温度データは、熱画像データにおいて数値化されているので、制御部20の各部における実際の処理は、数値化された温度データに基づき行われる。
【0079】
上記実施例では、IRカメラ10のお温度検知範囲Dが乗員Pの顔およびその周辺領域を含むように設定されている場合を例に挙げて説明をしたが、例えば車室内の乗員総ての表面温度を測定できるような温度検知範囲としても良い。
また、車室内に設けた座席ごとにIRカメラ10を用意し、用意したIRカメラ10,が各座席に着座している乗員一人一人の表面温度を測定するようにしても良い。
【0080】
上記実施例では、乗員の顔の向きを判定し、判定した顔の向きに応じて、顔温度を算出する際の顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度を調整し、寄与度調整後の顔領域F内の温度分布に基づいて乗員Pの顔温度を算出する顔温度算出装置の有する機能として、本発明を説明した。
しかし、本発明は、コンピュータに上記した顔温度算出装置の機能を実行させる顔温度測定プログラムや、このプログラムを記憶した媒体としても、具現化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例にかかる顔温度算出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】IRカメラの設置例を説明する図である。
【図3】IRカメラ10の温度検出範囲と、温度分布マップを説明する図である。
【図4】実施例にかかる顔温度算出装置における処理を説明するフローチャートである。
【図5】顔中心の位置に基づく顔の向きの判定を説明する図である。
【図6】顔向き判定部23が行う処理の詳細を説明するフローチャートである。
【図7】寄与度調整部24が行う処理の詳細を説明するフローチャートである。
【図8】顔が「正面向き」である場合の温度分布マップを示す図である。
【図9】顔が「斜め向き」である場合の温度分布マップを示す図である。
【図10】顔が「横向き」である場合の温度分布マップを示す図である。
【図11】顔温度算出部25が行う処理の詳細を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
3 空調装置
6 乗員
10 IRカメラ
20 制御部
21 熱画像生成部
22 顔領域抽出部
23 顔向き判定部
24 寄与度調整部
25 顔温度算出部
30 空調装置
C カウンタ
D 温度検知範囲
F1 更新フラグ
F2 フラグ
FL 左頬領域
FR 右頬領域
FC 中央領域
IM 温度分布マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサと、
前記センサの検知範囲内の温度分布を示す熱画像を生成する熱画像生成部と、
前記熱画像から乗員の顔領域を抽出する顔領域抽出部と、
前記顔領域内の温度分布に基づいて、前記乗員の顔温度を算出する顔温度算出部とを備える顔温度算出装置において、
前記乗員の顔の向きを判定する顔向き判定部と、
前記乗員の顔の向きに基づいて、前記乗員の顔温度を算出する際の前記顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度を調整する寄与度調整部とを備える
ことを特徴とする顔温度算出装置。
【請求項2】
前記寄与度調整部は、
前記中央領域の温度の寄与度を前記周辺領域の温度の寄与度よりも小さくする、または前記周辺領域の温度の寄与度を前記中央領域の温度の寄与度よりも大きくする
ことを特徴とする請求項1に記載の顔温度算出装置。
【請求項3】
前記顔向き判定部は、
前記顔領域内における前記乗員の顔の左右方向における中心の位置に基づいて、前記乗員の顔の向きを、少なくとも正面向き、斜め向き、横向きのうちの何れかに判定する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の顔温度算出装置。
【請求項4】
前記寄与度調整部は、前記乗員の顔の向きが正面向きであると判定された場合、
前記中央領域を挟んで前記顔領域の左右方向における一方側にある周辺領域の温度と、他方側にある周辺領域の温度の寄与度を等しくする
ことを特徴とする請求項3に記載の顔温度算出装置。
【請求項5】
前記寄与度調整部は、前記乗員の顔の向きが斜め向きであると判定された場合、
前記中央領域を挟んで前記顔領域の左右方向における一方側にある周辺領域と、他方側にある周辺領域とのうちの、前記顔領域内における面積が小さい方の周辺領域の温度の寄与度を高く設定する
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の顔温度算出装置。
【請求項6】
前記寄与度調整部は、前記乗員の顔の向きが横向きであると判定され、かつ横向きであると判定されている時間が所定時間以上である場合、
前記中央領域を挟んで前記顔領域の左右方向における一方側にある周辺領域と、他方側にある周辺領域とのうちの、前記顔領域内における面積が大きい方の周辺領域の温度の寄与度を高く設定する
ことを特徴とする請求項3から請求項5のうちの何れか一項に記載の顔温度算出装置。
【請求項7】
前記顔温度算出部は、前記乗員の顔の向きが横向きであると判定され、かつ横向きであると判定されている時間が所定時間未満である場合、
前記乗員の顔の向きが横向きであると判定される直前に算出した顔温度を、前記乗員の顔温度とする
ことを特徴とする請求項3から請求項6のうちの何れか一項に記載の顔温度算出装置。
【請求項8】
センサの検知範囲内の温度分布を示す熱画像を生成し、生成した熱画像から乗員の顔領域を抽出し、前記顔領域内の前記乗員の顔の向きを判定し、判定した顔の向きに応じて、前記顔領域の中央領域の温度と周辺領域の温度の寄与度を調整したのちに、前記顔領域内の温度分布に基づいて前記乗員の顔温度を算出する
ことを特徴とする顔温度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−119896(P2009−119896A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292730(P2007−292730)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】