説明

顕微鏡用鏡筒および当該鏡筒を備えた顕微鏡

【課題】内部に可動機構を有していても左右の光路を遮光することができる鏡筒を提供すること。
【解決手段】鏡筒本体部と、前記鏡筒本体部に設けられ、物体から出射され対物レンズおよびそれぞれ独立した1対の変倍光学系を透過した光束が入射し、前記物体の像を結像するそれぞれ独立した1対の第2対物レンズと、前記鏡筒本体部に回動可能に支持された可動部と、前記可動部に設けられ、前記可動部とともに回動することで傾斜角が可変であるそれぞれ独立した1対の双眼部と、前記可動部の回動と連動して回動し、前記1対の第2対物レンズから出射された平行光束を前記1対の双眼部にそれぞれ導く偏向光学部と、前記偏向光学部に設けられ、前記平行光束のそれぞれの光路を、前記1対の第2対物レンズと前記1対の双眼部との間で相互に遮光する遮光部材とを備えたことを特徴とする鏡筒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は実体顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
実体顕微鏡は、凹凸のある物体を観察する際、肉眼で見た場合と同じように立体感を持って当該物体を観察することができる。このため、顕微鏡下で作業する場合にピンセット等の工具と物体との距離関係を容易に把握することができる。したがって、精密機械工業、生物の解剖、手術等細かい処置が必要な分野で特に有効である。
【0003】
立体視を得るための代表的な方法として平行系実体顕微鏡(平行系単対物型双眼顕微鏡)を用いることが挙げられる。平行系実体顕微鏡は1つの対物レンズ系と、当該対物レンズ系の光軸に平行に配置された左眼用と右眼用との2つの観察光学系とを有している。観察光学系は、物体の観察像を変倍するための変倍光学系と、変倍光学系から出射された像を観察するための接眼レンズ系とから構成されている。
【0004】
平行系実体顕微鏡は、物体面にその焦点を一致させた1つの対物レンズが、その後に続く左眼用および右眼用の変倍光学系に平行光束を導く役割を担っている。対物レンズから出射された平行光束は2つの変倍光学系に分割され、個々に左右の眼に導かれる。平行系実体顕微鏡では変倍光学系から出射される光束は平行光束なので、変倍光学系と鏡筒部との間に照明装置等を配置し多様な観察方法で観察することが可能である。しかし観察方法の多様化、変倍域の拡大に伴い、物体からの光束の結像位置は高い位置となっている。そのため、観察者が楽な姿勢で長時間観察することができるように、結像位置の高さおよび偏向方向が可変である傾角鏡筒が用いられている。傾角鏡筒ではミラーやプリズム等の光学素子を動かすことによって結像位置を変更している。
【0005】
図11は、対物レンズ307および変倍光学系119の物体側の一部を拡大して示す図である。実体顕微鏡における対物レンズ307の開口数は、図11に示すように、対物レンズ307の光軸L上の物点Sから出射した光が変倍光学系119の光軸L´に入射する光線と、対物レンズ307の光軸L上の物点Sから出射した光が対物レンズ307の最も外側に入る光線とがなす角度βの正弦(sinβ)で定義される。対物レンズ307の光軸L上の物点Sから出た光は対物レンズ307に入射して平行光線となり、変倍光学系119に入射する。対物レンズ307は正弦条件を充分に満たしているので平行光束の径は対物レンズ307の焦点距離fobjとβの正弦との積の2倍(2×fobj×sinβ)となる。対物レンズ307が開口数通りの性能を発揮するためには、平行光束が全て変倍光学系119に導かれる必要がある。すなわち、変倍光学系119の有効径をDepとすると、Depが次の(1)式を満たす必要がある。
Dep ≧ 平行光束の径(=2×fobj×sinβ)…(1)
(1)式より、実体顕微鏡における対物レンズの開口数は、変倍光学系の有効径Depの大きさに依ることとなる。変倍光学系の有効径Depを大きくするということは、2つの変倍光学系の光軸間距離を広げるということである。つまり、実体顕微鏡の開口数は、変倍光学系の光軸間距離によって決定されているといえる。
【0006】
平行系実体顕微鏡の解像力を向上させるためには、変倍光学系の有効径Depを大きくする必要がある。しかし、有効径Depを大きくすれば左右の光軸間距離は広がり、装置は大型化する。装置の大型化を最小限にするためには、左右の光路を近接させる必要がある。しかし、左右の光路を近接させると左右の光路それぞれで発生した迷光が隣の光路に入射してフレアの原因となり、その結果コントラストが低下してしまうおそれがある。特許文献1では、フレアによるコントラストの低下を防止するため、変倍光学系において左右の光路間に遮光部材を設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3772004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平行系実体顕微鏡においては、変倍光学系の最も物体側に位置する左右の光路のレンズ同士は接触して、あるいは非常に短い間隔を隔てて並置されている。このため、特許文献1のように変倍光学系の左右の光路間に遮光部材を配置すると、レンズの有効径が減少してしまうという問題がある。
【0009】
また、傾角鏡筒ではミラーやプリズム等の光学素子を動かすことによって像位置を変更しているが、これらの光学素子を動かすためのメカ機構は複雑で部品点数も多い。迷光は結像には不要な光が光学素子やメカ機構によって反射、散乱されることによって発生するため、鏡筒内部のメカ機構が複雑になるにしたがい増える傾向がある。
【0010】
変倍光学系で発生した迷光は、観察者の目に届くまでに変倍光学系の光学素子やメカ機構、さらに傾角鏡筒の光学素子やメカ機構を経ることになる。そのため、これらの光学素子やメカ機構の透過率および反射率により減光され、あるいは拡散されて、観察に与える影響は非常に小さくなる。これに対し、傾角鏡筒で発生した迷光は観察者の目に近いため、光学素子を全く通過せず、あるいは傾角鏡筒の光学素子やメカ機構のみを経るだけなので減光あるいは拡散が充分になされずに観察者の目に届いてしまう。このため観察に与える影響は大きなものとなる。したがって、不要な光を減らすためには傾角鏡筒の左右の光路を遮断することが有効である。しかし傾角鏡筒内部は可動機構を有するため遮光することが困難であった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、内部に可動機構を有していても左右の光路を遮光することができる鏡筒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る鏡筒は、鏡筒本体部と、前記鏡筒本体部に設けられ、物体から出射され対物レンズおよびそれぞれ独立した1対の変倍光学系を透過した光束が入射し、前記物体の像を結像するそれぞれ独立した1対の第2対物レンズと、前記鏡筒本体部に回動可能に支持された可動部と、前記可動部に設けられ、前記可動部とともに回動することで傾斜角が可変であるそれぞれ独立した1対の双眼部と、前記可動部の回動と連動して回動し、前記1対の第2対物レンズから出射された平行光束を前記1対の双眼部にそれぞれ導く偏向光学部と、前記偏向光学部に設けられ、前記1対の第2対物レンズから出射され前記1対の双眼部に入射する前記平行光束のそれぞれの光路を、前記1対の第2対物レンズと前記1対の双眼部との間で相互に遮光する遮光部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部に可動機構を有していても左右の光路を遮光することができる鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る平行系実体顕微鏡の全体の構成を示す側面図である。
【図2】実施形態に係る平行系実体顕微鏡の全体の光学系を模式的に示す図である。
【図3】実施形態に係る平行系実体顕微鏡の鏡筒を観察者から見て左側から見た状態を示す断面図(図4におけるB−B線に沿った断面の矢視図)である。
【図4】図3のA−A線に沿った断面の矢視図である。
【図5】ミラー保持部材と双眼部との角度の関係を示す図である。
【図6】図3の状態から双眼部を所定角度傾けた状態を示す断面図である。
【図7】第1変形例に係る平行系実体顕微鏡の鏡筒を観察者から見て左側から見た状態を示す断面図である。
【図8】第1変形例に係る平行系実体顕微鏡の鏡筒を観察者側から見た状態を示す断面図である。
【図9】図8の状態から光路切替えプリズムを切替えた状態を示す図である。
【図10】第2変形例に係る平行系実体顕微鏡の鏡筒を観察者から見て左側から見た状態を示す断面図である。
【図11】対物レンズと変倍光学系の物体側の一部とを拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一つの実施形態について図面を参照しつつ説明する。本明細書においては、観察者側を正面(前面)とし、上下および左右方向は観察者側から見た状態についていう。
【0016】
図1は、本実施形態に係る平行系実体顕微鏡の全体の構成を示す側面図であり、図2は、本実施形態に係る平行系実体顕微鏡の全体の光学系を模式的に示す図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る平行系実体顕微鏡1(以下、単に顕微鏡1という。)は、ベース部2と、ベース部2に垂直に設けられた支柱3と、支柱3に上下方向に移動可能に設けられた移動体4とを備えている。ベース部2には物体を載置するステージ5が設けられている。移動体4はノブ4aの調節により、支柱3に沿って上下に移動するようになっている。移動体4には変倍部10が取り付けられている。変倍部10には対物レンズ7と鏡筒13が備えられている。鏡筒13は双眼部37と接眼レンズ25とを含む。本実施形態に係る顕微鏡1の鏡筒13は双眼部37および接眼レンズ25の傾斜角度を観察者の所望の角度に変更することができる傾角鏡筒である。
【0018】
図2に示すように、本実施形態に係る顕微鏡1は左右の観察光学系16L、16Rを備えている。左の観察光学系16Lは物体側から順に左右共通の対物レンズ7と、変倍部10に備えられた変倍光学系19Lと、鏡筒13に備えられた第2対物レンズ22Lおよび接眼レンズ25Lとを備えている。変倍光学系19Lには開口絞り(図示省略)が含まれている。第2対物レンズ22Lは、左の結像面28Lに物体像を結像させるためのものである。右の観察光学系16Rも左の観察光学系16Lと同様の構成となっており、左右共通の対物レンズ7と、変倍部10に備えられた変倍光学系19Rと、開口絞り(図示省略)と、鏡筒13に備えられた第2対物レンズ22Rおよび接眼レンズ25Rとを備えている。対物レンズ7は、その後に続く左眼用および右眼用の変倍光学系19L、19Rに平行光束を導く役割を担っている。対物レンズ7から出射された平行光束は左右の独立した光路に分割されてそれぞれ変倍光学系19L、19Rに導かれる。左右の変倍光学系19L、19Rから出射された光束は、それぞれ第2対物レンズ22L、22Rを介して鏡筒13に入射する。
【0019】
変倍部10には、図示しない照明光学系から図示しない物体を照明するための照明光が導かれている。変倍部10に導かれた照明光は、対物レンズ7を介して物体に照射される。本実施形態に係る顕微鏡1は平行系なので、物体を立体視するために左右の光路が独立して設けられ、その左右の光路の光軸IL、IRは、物体面上で交わるようになっている。
【0020】
次に、本実施形態に係る顕微鏡1の鏡筒13についてさらに詳細に説明する。
【0021】
図3は、本実施形態に係る顕微鏡1の鏡筒13を観察者から見て左手側から見た状態を示す断面図(図4におけるB−B線に沿った断面の矢視図)である。図4は、図3のA−A線に沿った断面の矢視図である。
【0022】
図3、4に示すように、鏡筒13は変倍部10に固定される鏡筒本体部31(以下、本体部31という。)と、本体部31の内側に配置された双眼部ホルダー34と、双眼部ホルダー34に設けられた左右の双眼部37L、37Rと、双眼部37L、37Rにそれぞれ設けられた接眼レンズ25L、25Rとを備えている。本体部31および双眼部ホルダー34は左右の光路で共通の部材であり、双眼部37L、37Rおよび接眼レンズ25L、25Rは左右の光路ごとに独立の部材となっている。本体部31の底部には丸アリ40が形成されている。一方、変倍部10の上部には、本体部31の丸アリ40と係合するアリ溝(図示省略)が設けられている。本体部31の丸アリ40と変倍部10のアリ溝との係合により、鏡筒13は変倍部10に取付け固定される。
【0023】
丸アリ40の内径側には左および右の第2対物レンズ22L、22Rが固定されている。左右の変倍光学系19L、19Rを透過し、変倍光学系19L、19Rから出射された光束はそれぞれ左右の第2対物レンズ22L、22Rを透過して鏡筒13の内部に導かれる。左右の第2対物レンズ22L、22Rから出射された光束は、それぞれ本体部31の底部に設けられた光路切替えプリズム43a、43bに入射する。光路切替えプリズムは変倍光学系19L、19Rからの光路を撮影光学系に分割するため等の目的で設けられ、分割光量比を変更するために切替え可能な構造になっている。本実施形態においては、図4に示すように、3つの光路切替えプリズム43a、43b、43cを備えている。3つの光路切替えプリズム43a、43b、43cは支持部材46に左右方向、すなわち第2対物レンズ22L、22Rの1対の光軸IL、IRの何れとも直角に交わる方向に並んで設けられ、正面から見て左側から順に観察光学系用の43a、43bと撮影光学系用の43cとなっている。各光路切替えプリズム43a、43b、43cの形状および大きさは同様に形成されている。各光路切替えプリズム43a、43b、43cは上側略半分が支持部材46の上面から露出し、残りの下側は支持部材46の内部に位置している。支持部材46は、本体部31の底部に左右方向に延在して設けられた案内部材49に摺動自在に支持されている。観察者が図示しない切り替え用の操作部を操作すると、支持部材46が案内部材49上を摺動して左右の光路に組み込まれるプリズムが切替わるようになっている。
【0024】
本体部31は、上部および観察者側の壁の上側部分が開口状態となっている。本体部31のこの開口部分には双眼部ホルダー34が配置されている。双眼部ホルダー34の左右側の壁は、本体部31の左右側の壁に回動可能に支持されている。すなわち双眼部ホルダー34は本体部31を左右方向に貫く回動中心Cを軸にして、本体部31に対して所定の範囲で上下方向に回動可能となっている。双眼部ホルダー34の下側は開口状態となっており、光路切替えプリズム43a、43b(43c)から出射された光束が内部に導かれるようになっている。
【0025】
左右の双眼部37L、37Rおよびこれらにそれぞれ設けられた接眼レンズ25L、25Rは双眼部ホルダー34から観察者側に突出して設けられている。左右の双眼部37L、37Rの内側にはそれぞれ菱形プリズム52L、52Rが備えられている。双眼部37L、37Rは双眼部ホルダー34に設けられ、接眼レンズ25L、25Rはそれぞれ双眼部37L、37Rに設けられているので、双眼部ホルダー34が回動すると、双眼部ホルダー34の回動に伴って左右の双眼部37L、37Rおよび接眼レンズ25L、25Rが上下方向に回動することとなる。
【0026】
双眼部ホルダー34の内側には、変倍光学系19L、19Rから第2対物レンズ22L、22Rを介して鏡筒13内に入射された光束を偏向して、それぞれ双眼部37L、37Rの菱形プリズム52L、52Rに導くための偏向光学部55が配置されている。偏向光学部55は後述するように双眼部ホルダー34の回動と連動して回動する。以下の説明は、図3、図4に示すように、双眼部37L、37Rへの入射光軸角度が水平(0°)の状態について説明する。双眼部37L、37Rへの入射光軸角度は、すなわち双眼部37L、37Rの傾斜角度のことである。
【0027】
偏向光学部55は、板状部材の一方側の面に複数の山形形状が形成されたミラー保持部材58と、ミラー保持部材58に固定された複数(本実施形態では4枚)の反射ミラーとから構成されている。ミラー保持部材58は山形形状が形成された側の面を観察者側に向け、かつ上部が観察者側に傾いた状態で双眼部ホルダー34の内側に配置されている。反射ミラーは左右の光路の方向を変更して光路切替えプリズム43a、43bから出射された光束をそれぞれ双眼部37L、37Rに導くためのものである。ミラー保持部材58の一方側の面は、左右方向の中央および両端にミラー保持部材58の上下方向に亘って延在する3つの尾根部64a、64b、64cが形成され、中央の尾根部64bと左端の尾根部64aとの中心、および中央の尾根部64bと右端の尾根部64cとの中心がそれぞれ谷部67a、67bとなっている。これらの尾根部64a、64b、64cおよび谷部67a、67bにより3つの山部70a、70b、70cが形成され、これらの3つの山部70a、70b、70cにより当該一方側の面には4つの斜面73a、73b、73c、73dが形成されている。3つの山部70a、70b、70cは全体が左右対称となっている。
【0028】
反射ミラー61a、61b、61c、61dはミラー保持部材58の4つの斜面73a、73b、73c、73dに1つずつ取付けられ、左側光路と右側光路とにそれぞれ2枚ずつ設けられている。中央の尾根部64bを挟む斜面73b、73cにそれぞれ取付けられる反射ミラー61bと61cとの間は、尾根部64bを挟んで僅かな隙間が設けられている。左側光路に設けられた2枚の反射ミラー61a、61bのうち、内側の反射ミラー61bは光路切替えプリズム43aから出射された光束を外側の反射ミラー61aに向けて反射する。外側の反射ミラー61aは内側の反射ミラー61bで反射された光束を観察者側の菱形プリズム52Lに向けて反射する。右側光路の2枚の反射ミラー61c、61dも同様に、内側の反射ミラー61cは光路切替えプリズム43bから出射された光束を外側の反射ミラー61dに向けて反射する。外側の反射ミラー61dは内側の反射ミラー61cで反射された光束を観察者側の菱形プリズム52Rに向けて反射する。外側の2つの反射ミラー61a、61dからそれぞれ左右の菱形プリズム52L、52Rに入射する光束の光軸は平行であり、これらの光軸間の幅は変倍光学系19L、19Rにおける光軸の幅よりも広くなっている。左右の菱形プリズム52L、52Rに入射した光束は、菱形プリズム52L、52Rの反射面でそれぞれ2回反射し、菱形プリズム52L、52Rから出射された光束はそれぞれ結像面28L、28Rで結像する。こうして、図示しない物体から出射された光束は対物レンズ7を介して平行光束となり、2つに分割されて1対の独立した変倍光学系19L、19Rに入射し、鏡筒13において第2対物レンズ22L、22R、光路切替えプリズム43a、43b、反射ミラー61a、61b、61c、61dおよび菱形プリズム52L、52Rを介して結像面28L、28Rに結像し、観察者は接眼レンズ25L、25Rを介して像を観察することができる。
【0029】
ミラー保持部材58は、本体部31および双眼部ホルダー34に設けられたギヤ機構76を介して双眼部ホルダー34に支持され、双眼部ホルダー34の上下方向の回動と連動して、双眼部ホルダー34と同方向に回動可能となっている。ミラー保持部材58の回動中心は双眼部ホルダー34の回動中心Cと同心であり、双眼部ホルダー34の回動中心Cはミラー保持部材58の中心部を左右方向に貫いて位置している。
【0030】
図5は、ミラー保持部材58と双眼部37L(37R)および接眼レンズ25L(25R)との回動角度の関係を示す図である。ミラー保持部材58の回動角度は、ギヤ機構76によって、双眼部ホルダー34の回動角θに対して正確にθ/2となるように設定されている。つまり双眼部ホルダー34の回動は1/2に減速されてミラー保持部材58に伝達される。
【0031】
ギヤ機構76は、双眼部ホルダー34の回動中心Cと同心に本体部31と一体に固定されたギヤ76aと、当該ギヤ76aと噛み合うギヤ76bと、その他の本体部31および双眼部ホルダー34に設けられた図示しない複数のギヤとによって構成されている。これらのギヤが噛み合って回動することにより、ミラー保持部材58は双眼部ホルダー34の回動角度に対して半分の回動角度だけ同方向に回動するように構成されている。このように、双眼部ホルダー34の回動角θに対して、ミラー保持部材58の回動角をθ/2とすることにより、反射ミラー61a、61b、61c、61dで反射されて双眼部37L、37Rの菱形プリズム52L、52Rに入射する光束の光軸は、双眼部ホルダー34を回動させてもずれることがない。
【0032】
本実施形態においては、偏向光学部55のミラー保持部材58には、鏡筒13内の左右の光路を光学的に遮断する遮光部材79が設けられている。言い換えると、鏡筒13内の左右の光路を相互に遮光する遮光部材79が設けられている。遮光部材79は金属製の薄板で略半円形状に形成されており、円弧形状部79aと円弧形状部79aの両端を結ぶ直線部79bとを有している。円弧形状部79aの円弧はほぼ半円に近い形状となっている。遮光部材79の表面は艶消し黒に塗装されている。なお、艶消し塗装に代えて、表面に遮光紙等を貼付しても良い。遮光部材79は左右の光軸間の中央に、双眼部ホルダー34を左右に半分に仕切るように設けられている。遮光部材79のミラー保持部材58への取付けは、ミラー保持部材58の中央部すなわち3つの山部70a、70b、70cのうち、中央の山部70bの尾根部64bに溝を設け、遮光部材79の直線部79bをこの溝にはめ込んで接着等で固定してある。したがって遮光部材79の円弧形状部79aは中央の尾根部64bから直立して配置されている。遮光部材79の円弧形状部79aを含む円の中心は双眼部ホルダー34の回動中心Cと同心となっている。また、遮光部材79の円弧形状部79aの縁は、下側は光路切替えプリズム43a、43bの間で光路切替えプリズム43a、43bの上端を結ぶ直線の直ぐ上に位置し、観察者側は双眼部37L、37Rの間で双眼部ホルダー34の双眼部37L、37R側の壁のごく近傍に位置している。また、円弧形状部79aの両端部は、図3および図4に示す状態、すなわち双眼部37L、37Rへの入射光軸角度が水平(0°)の状態において、一方側は光路切替えプリズム43a、43bの位置よりも後方側まで回り込み、他方側は双眼部37L、37Rへの光束の入射位置よりも上方まで回り込んでいる。つまり、円弧形状部79aの長さは、光路切替えプリズム43a、43bの直ぐ上の位置と双眼部37L、37Rへの光束の入射位置とを結ぶ円弧よりも充分長く形成されている。この状態において、遮光部材79が左右の光路を光学的に分け隔てている範囲は、鏡筒13内に導かれた光束が光路切替えプリズム43a、43bから出射されたところから、それぞれ2枚の反射ミラー61a、61bおよび61c、61dでの屈折を経て、菱形プリズム52L、52Rに入射する直前までである。この範囲の光路を相互に遮光することにより、鏡筒13内を通過する左右の光路はほぼ全域に亘って遮光されることとなる。
【0033】
図6は、図3の状態から双眼部37L、37Rおよび接眼レンズ25L、25Rを角度θだけ上方に傾けた状態を示す断面図である。なお、角度θは双眼部37L、37Rへの入射光軸角度の最大の傾斜角度である。
【0034】
図6に示すように、双眼部37L、37Rおよび接眼レンズ25L、25Rを角度θだけ上方に傾けると、ミラー保持部材58は、上述したように、ギヤ機構79を介してθ/2だけ上方に傾くこととなる。このとき、遮光部材79はミラー保持部材58に固定されているので、ミラー保持部材58と共にθ/2だけ回動する。遮光部材79の円弧形状部79aを含む円の中心は双眼部ホルダー34の回動中心C、すなわちミラー保持部材58の回動中心なので、遮光部材79は円弧形状部79aが角度θ/2に対応する分だけ、円弧にそって上方に移動する。したがって、このときの遮光部材79の双眼部ホルダー34内での配置状態は双眼部37L、37Rを傾ける前の図3における状態とは当然異なっている。しかし、円弧形状部79aの縁は、下側は光路切替えプリズム43a、43bの間で光路切替えプリズム43a、43bの上端を結ぶ直線の直ぐ上に位置し、観察者側は双眼部37L、37Rの間で双眼部ホルダー34の双眼部37L、37R側の壁のごく近傍に位置している。したがって、双眼部37L、37Rを傾けた後の状態においても遮光部材79が左右の光路を分け隔てている範囲は、鏡筒13内に導かれた光束が光路切替えプリズム43a、43bから出射されたところから、それぞれ2枚の反射ミラー61a、61bおよび61c、61dでの屈折を経て、菱形プリズム52L、52Rに入射する直前までである。つまり、左右の光路を分け隔てている範囲は双眼部37L、37Rを傾ける前の状態と同じである。このように、本実施形態では、双眼部37L、37Rの傾きが下限(水平)から上限(θ)に至る角度範囲に亘って、遮光部材79が上記遮光範囲をカバーするように遮光部材79の曲率半径および円弧形状部79aの長さが構成されている。これにより、双眼部37L、37Rの角度を変化させても鏡筒13内での遮光効果は変化せず、常に同じ遮光効果を維持することが可能である。
【0035】
このように本実施形態に係る鏡筒13によれば、内部に可動機構を有していても、遮光部材79により左側光路の光が右側光路に侵入したり、その逆に右側光路の光が左側光路に侵入したりすることを防止することができる。しかも双眼部37L、37Rの角度を変更しても遮光効果は変化せず、常に同じ遮光効果を維持できる。その結果、迷光に起因するフレアによってコントラストが低下することを防止できる。
【0036】
また、変倍光学系19L、19Rの左右の光路間には遮光部材を設けていないので、変倍光学系19L、19Rの最も物体側に位置する左右のレンズ同士は接触させて、あるいは非常に短い間隔を隔てて並置することができる。このため、当該レンズの有効径を減少させてしまうことがない。
【0037】
(第1変形例)
次に、上記実施形態の第1変形例について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成については同じ符号を用いて説明する。
【0038】
図7は第1変形例に係る鏡筒13を観察者から見て左側から見た状態(図4におけるB−B線に対応する断面)を示す断面図であり、図8は観察者側から見た状態(図3におけるA−A線に対応する断面)を示す断面図である。第1変形例が上記実施形態と異なるところは、光路切替えプリズム43a、43b、43cにも遮光部材が設けられていることである。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0039】
3つの光路切替えプリズム43a、43b、43cは、上記実施形態と同様に、それぞれ上側略半分が支持部材46の上面から露出し、残りの下側は支持部材46の内部に位置している。第1変形例においては、左側の光路切替えプリズム43aと中央の光路切替えプリズム43bとの間、および中央の光路切替えプリズム43bと右側の光路切替えプリズム43cとの間にそれぞれ第2の遮光部材82a、82bが設けられている。第2の遮光部材82a、82bは金属製の薄板で略長方形に形成されており、表面は艶消し黒に塗装されている。なお、艶消し塗装に代えて、表面に遮光紙等を貼付しても良い。
【0040】
左側の光路切替えプリズム43aと中央の光路切替えプリズム43bとの間に設けられた第2の遮光部材82aは、左側の光路切替えプリズム43aの右側側面に接しており、下側は支持部材46の上面に固定されている。第2の遮光部材82aは、前後方向の寸法は光路切替えプリズム43aの前後方向の寸法よりも大きく形成されている。また、上下方向の寸法は、光路切替えプリズム43aの支持部材46から露出している部分の上下方向の寸法よりも大きく形成されている。このように、第2の遮光部材82aは光路切替えプリズム43aの支持部材46から露出している部分の側面よりも大きく形成され、光路切替えプリズム43aの当該側面を覆っている。
【0041】
第2の遮光部材82aの上端部は、ミラー保持部材58に取付けられた遮光部材79の円弧形状部79aの縁と左右方向、すなわち第2対物レンズ22L、22Rの1対の光軸IL、IRの何れとも直角に交わる方向に、若干の隙間を保って重なるように設けられている。上記実施形態においては、図3、図6に示すように鏡筒13の断面を左側から見ると、遮光部材79の円弧形状部79aの縁と光路切替えプリズム43aおよび43bの上端との間には、上下方向の微小な間隔dが存在している。第1変形例においては、左右の光路切替えプリズム43a、43bの間に第2の遮光部材82aが設けられ、この第2の遮光部材82aの上端部はミラー保持部材58に設けられた遮光部材79と左右方向に重なっているため、遮光部材79と光路切替えプリズム43aおよび43bとの間の微小な間隔dにおいても左右の光路を分け隔てることができ、遮光効果をより高めることができる。この効果は、双眼部37L、37Rを傾斜させても変化しない。
【0042】
中央の光路切替えプリズム43bと右側の光路切替えプリズム43cとの間の第2の遮光部材82bは、右側の光路切替えプリズム43cの左側側面に接しており、下側は支持部材46の上面に固定されている。図8に示すように、光路切替えプリズム43a、43bが左右の光路に組み込まれた状態から、中央と右側の光路切替えプリズム43b、43cが左右の光路に組み込まれるように切替えても、図9に示すように、ミラー保持部材58の遮光部材79と光路切替えプリズム43b、43cとの間の光路を分け隔てることができ、遮光効果は変わらない。すなわち、左右の光路に組み込まれる光路切替えプリズムを切替えても遮光範囲は変化せず、常に同様の遮光効果を発揮する。そしてこの効果は双眼部37L、37Rを傾斜させても変化しない。
【0043】
(第2変形例)
次に上記実施形態の第2変形例について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成については同じ符号を用いて説明する。
【0044】
図10は第2変形例に係る鏡筒213を観察者から見て左側から見た状態(図4におけるB−B線に対応する断面)を示す断面図である。第2変形例が上記実施形態と異なるところは、鏡筒本体部231に光路切替えプリズムが設けられていないことである。光路切替えプリズムが設けられていないので、鏡筒本体部231の高さ寸法は上記実施形態のものよりも小さくなっている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0045】
第2変形例に係る鏡筒213においては、遮光部材79の円弧形状部79aの縁は、下側は第2対物レンズ22L、22Rの間で本体部231の底部側の壁の直ぐ上に位置し、観察者側は双眼部37L、37Rの間で双眼部ホルダー34の双眼部37L、37R側の壁のごく近傍に位置している。したがって遮光部材79により遮光される範囲は、変倍光学系19L、19Rからそれぞれ第2対物レンズ22L、22Rに入射した光束が第2対物レンズ22L、22Rから出射されたところから、それぞれ2枚の反射ミラー61a、61bおよび61c、61dでの屈折を経て、菱形プリズム52L、52Rに入射する直前までである。遮光部材79により遮光される範囲は、上記実施形態と同様に、双眼部37L、37Rを傾斜させても変化しない。第2変形例においても、鏡筒213内はほぼ全域に亘って左右の光路が相互に遮光されることとなる。したがって、第2変形例においても上記実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0046】
なお、第1変形例においては、光路切替えプリズム43a、43b、43c間に第2の遮光部材82a、82bを設けたが、光路切替えプリズムが設けられていない第2変形例においても、左右の第2対物レンズ22L、22Rの間に第1変形例と同様の第2の遮光部材を設けることでより遮光効果を高めることができる。
【0047】
このように、第1変形例に係る鏡筒13および第2変形例に係る鏡筒213おいても、内部に可動機構を有していても、遮光部材79、82a(82b)により左側光路の光が右側光路に侵入したり、その逆に右側光路の光が左側光路に侵入したりすることを防止できる。しかも双眼部37、37の角度を変更しても遮光効果は変化せず、常に同じ遮光効果を維持できる。その結果、迷光に起因するフレアによってコントラストが低下することを防止できる。
【0048】
また、変倍光学系19L、19Rの左右の光路間には遮光部材を設けていないので、変倍光学系19L、19Rの最も物体側に位置する左右光路のレンズ同士は接触させて、あるいは非常に短い間隔を隔てて並置することができる。このため、当該レンズの有効径を減少させてしまうことがない。
【0049】
以上、本発明の実施形態とその変形例について説明したが、本発明の構成は本実施形態および変形例に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては偏向光学部55に反射ミラーを用いたが、反射ミラーに代えてプリズムを用いても良い。このように本発明は適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 平行系実体顕微鏡
7 対物レンズ
10 変倍部
13、213 鏡筒
16 観察光学系
19 変倍光学系
22 第2対物レンズ
25 接眼レンズ
28 結像面
31、231 鏡筒本体部
34 双眼部ホルダー
37 双眼部
43 光路切替えプリズム
52 菱形プリズム
55 偏向光学部
58 ミラー保持部材
61 反射ミラー
64 尾根部
67 谷部
70 山部
73 斜面
76 ギヤ機構
79 遮光部材
79a 円弧部
79b 直線部
82 第2の遮光部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡筒本体部と、
前記鏡筒本体部に設けられ、物体から出射され対物レンズおよびそれぞれ独立した1対の変倍光学系を透過した光束が入射し、前記物体の像を結像するそれぞれ独立した1対の第2対物レンズと、
前記鏡筒本体部に回動可能に支持された可動部と、
前記可動部に設けられ、前記可動部とともに回動することで傾斜角が可変であるそれぞれ独立した1対の双眼部と、
前記可動部の回動と連動して回動し、前記1対の第2対物レンズから出射された平行光束を前記1対の双眼部にそれぞれ導く偏向光学部と、
前記偏向光学部に設けられ、前記1対の第2対物レンズから出射され前記1対の双眼部に入射する前記平行光束のそれぞれの光路を、前記1対の第2対物レンズと前記1対の双眼部との間で相互に遮光する遮光部材とを備えたことを特徴とする鏡筒。
【請求項2】
前記遮光部材は、前記可動部の回動中心と同心の円弧形状を有し、前記可動部の回動中心を中心として前記偏向光学部と共に回動し、前記1対の第2対物レンズから出射され前記1対の双眼部に入射する前記平行光束のそれぞれの光路を、前記1対の第2対物レンズと前記1対の双眼部との間で、前記可動部の回動角度に関わらず、前記平行光束間の遮光範囲を変えることなく相互に遮光することを特徴とする請求項1に記載の鏡筒。
【請求項3】
前記偏向光学部は前記1対の第2対物レンズから出射された前記平行光束を反射する光学部材を備え、前記光学部材と前記遮光部材とは近接して前記偏向光学部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の鏡筒。
【請求項4】
前記鏡筒本体部には、前記1対の第2対物レンズから出射された前記平行光束のそれぞれの光路に選択的に組み込み可能な複数の光路切替え部材が備えられていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項5】
前記複数の光路切替え部材は直線状に配置され、隣り合う前記光路切替え部材間には第2の遮光部材が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の鏡筒。
【請求項6】
前記遮光部材と前記第2の遮光部材とは、前記第2対物レンズの1対の光軸の何れとも直角に交差する方向に重なり合った部分を有して配置されていることを特徴とする請求項5に記載の鏡筒。
【請求項7】
前記偏向光学部は一方の面に山形形状が形成され、前記遮光部材は前記山形形状に設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載された鏡筒を備えたことを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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