説明

顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システム

【課題】培地のpH値を一定の状態に保ち、生体の正常な生命活動を精度よく観察する。
【解決手段】培養液7および生体試料6を収容する培養容器8を外気から遮断した状態で収納し、顕微鏡観察による観察用の光を透過させる透明部13,17を備えるチャンバ10と、チャンバ10内に生体試料6の培養に用いるCO混合ガスを供給する混合ガス供給装置20と、培養容器8内の培養液7のpH値を検出するpHセンサ30と、pHセンサ30により検出される培養液7のpH値がほぼ一定の状態になるようにCO混合ガス供給装置20のCO混合ガスの濃度を調整する制御部40とを備える顕微鏡観察用培養装置2を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞や菌などの生体を培養しながら生存状態のまま顕微鏡観察を行うための顕微鏡観察用培養装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。通常、顕微鏡観察用培養装置では、温度、湿度、もしくは、ガス濃度等の培養条件が管理された環境下において顕微鏡観察が行われる。
【0003】
特許文献1に記載の顕微鏡観察用培養装置は、生体試料と培養液とが収容された培養容器に5%濃度のCO混合ガスを一定の流量で連続的に供給することにより、培養液のpHを中性に保つこととしている。また、特許文献2に記載の自動培養装置は、pHセンサや温度センサ等により培養液のpH値や温度等を検出し、検出結果に基づく培養環境の時系列データを解析することで細胞に異常があるか否かを判断することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−141143号公報
【特許文献2】特開2006−55027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の顕微鏡観察用培養装置では、培養容器内の培養液のpH値を検出しておらず、培養液のpH値を正確に一定の状態に保つ管理は行われていない。また、特許文献2に記載の自動培養装置では、検出した培養液のpH値等の時系列データに基づき細胞の状態を判断するだけであり、培養液のpH値を一定の状態に保つ管理は行われていない。そのため、これらの培養装置では、何等かの原因で培養液のpH値が変動した場合に生体の活性に異変が生じるおそれがあり、生体の正常な生命活動を観察することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、培地のpH値を一定の状態に保ち、生体の正常な生命活動を精度よく観察することができる顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、培地および生体試料を収容する培養容器を外気から遮断した状態で収納し、顕微鏡観察による観察用の光を透過させる透明部を備えるチャンバと、前記チャンバ内に前記生体試料の培養に用いる培養ガスを供給する培養ガス供給部と、前記培養容器内の前記培地のpH値を検出するpH検出部と、該pH検出部により検出される前記培地のpH値がほぼ一定の状態になるように前記培養ガス供給部の前記培養ガスの濃度を調整する培養ガス調整部とを備える顕微鏡観察用培養装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、培地および生体試料を収容する培養容器が収納されたチャンバ内に培養ガス供給部から培養ガスを供給することで、生体試料の育成に適した培養ガス濃度の環境下で生体試料を培養することができる。
【0009】
本発明に係る顕微鏡観察用培養装置は、pH検出部により培地のpH値を検出し、培養ガス調整部によりそのpH値がほぼ一定の状態になるように培養ガス供給部から供給される培養ガスの濃度を調整することで、培地のpH値が変動して生体試料の活性に異変が生じるのを防ぎ、生体試料を正常に活動させながら培養することができる。これにより、顕微鏡観察によりチャンバの透明部を介して培養容器内の生体試料の正常な生命活動を観察することが可能となる。なお、培養ガスとしては、例えば、CO混合ガスを用いることとし、培養ガス調整部により培養ガスのCO濃度を調整することとしてもよい。
【0010】
上記発明においては、前記pH検出部が、pH感受性物質が付与された前記培地に前記チャンバの前記透明部を介して励起光を照射するpH検出用光源と、前記励起光が照射された前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を検出して蛍光情報を取得する蛍光情報取得部と、該蛍光情報取得部により取得された前記蛍光情報に基づき前記培地のpH値を算出する演算部とを備えることとしてもよい。
【0011】
このように構成することで、pH検出部において、培地のpH値を光学的に検出することができ、培地に非接触で迅速にpH値を検出することができる。これにより、培養ガスの濃度をリアルタイムに調節し、培地のpH値をより確実に一定の状態に維持することが可能となる。なお、蛍光情報としては、例えば、検出した蛍光の輝度等の測光情報であってもよいし、検出した蛍光から生成される画像情報であってもよい。
【0012】
上記発明においては、前記蛍光情報取得部が複数配置され、複数の該蛍光情報取得部に入射される前記蛍光の波長を選択的に分割する光路選択部を備えることとしてもよい。
【0013】
このように構成することで、各蛍光情報取得部により、光路選択部によって分割された波長が異なる蛍光の蛍光情報が取得される。したがって、演算部において、蛍光情報取得部ごとに取得された蛍光情報の比率、例えば、平均輝度の比率により、培地のpH値を検出することができる。これにより、特定の波長の蛍光のみに基づいて培地のpH値を検出する場合と比較して、ノイズ等を補正して精度よくpH値を検出することができる。
【0014】
本発明は、上記本発明の顕微鏡観察用培養装置と、該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料に照明光を照射する照明光源と、前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光を集光する対物レンズと、前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、前記対物レンズにより集光された前記戻り光を観察する観察部とを備える顕微鏡観察培養システムを提供する。
【0015】
本発明によれば、照明光源により、ステージ上に載置された顕微鏡観察用培養装置のチャンバの透明部を介して培養容器内の生体試料に照明光が照射され、照準機構により、対物レンズの焦点位置が調整されて生体試料からの戻り光が集光される。そして、観察部により、対物レンズによって集光された戻り光を観察することで、顕微鏡観察用培養装置により正常な活動状態で培養される生体試料の顕微鏡観察を行うことができる。
【0016】
本発明は、上記本発明の顕微鏡観察用培養装置と、該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料およびpH感受性物質が付与された前記培地に照明光を照射する照明光源と、前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光を集光する対物レンズと、前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、前記対物レンズにより集光された前記戻り光を観察する観察部とを備え、前記pH検出部が、前記照明光が照射された前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより前記照明光の透過方向に向かって発生した蛍光を検出して蛍光情報を取得する蛍光情報取得部と、前記蛍光情報取得部により取得された前記蛍光情報に基づき前記培地のpH値を算出する演算部とを備える顕微鏡培養観察システムを提供する。
【0017】
本発明によれば、蛍光情報取得部によって検出される、照明光源から発せられた照明光が照射された培地の透過方向に向かって発生する蛍光により、培地のpH値が光学的に算出される。これにより、観察部による生体試料の観察と、蛍光情報取得部による培地のpH値の検出とを同時に行うことができる。
【0018】
上記発明においては、前記観察部が、前記対物レンズにより集光された前記戻り光を撮影し、画像情報を取得する画像情報取得部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、画像情報取得部によって取得された画像情報に基づいて、生体試料をリアルタイムに観察したり、画像情報を保存して生体試料を事後的に観察したりすることができる。
【0019】
本発明は、上記本発明の顕微鏡観察用培養装置と、該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料およびpH感受性物質が付与された前記培地に照明光を照射する照明光源と、前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光および前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を集光する対物レンズと、前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、前記対物レンズにより集光された前記戻り光を撮影して画像情報を取得するとともに前記蛍光を検出して蛍光画像を取得する画像情報取得部とを備え、前記pH検出部が、前記画像情報取得部により取得された前記蛍光画像に基づき前記培地のpH値を算出する顕微鏡観察培養システムを提供する。
【0020】
本発明によれば、生体試料の顕微鏡観察を行う照明光源および画像取得部を用いて、培地のpH値を光学的に検出することができる。これにより、培地のpH値を検出するための光源や画像取得部を別途に設ける必要がなく、装置が大型化するのを防ぐことができる。
【0021】
上記発明においては、前記画像情報取得部により取得された前記画像情報を記憶する記憶部を備え、前記画像情報取得部が一定の時間間隔をあけて前記画像情報を取得して前記記憶部に記憶し、前記画像情報取得部により前記画像情報が取得されない合間に、前記pH検出部が前記培地のpH値を検出するとともに前記培養ガス調整部が前記培養ガスの濃度を制御することとしてもよい。
【0022】
このように構成することで、画像情報取得部により生体試料の画像情報が取得される間は培地のpH値の検出を行わず、生体試料の画像情報が取得されない合間に培地のpH値を検出して培養ガスの濃度を調整することができる。これにより、培地のpH値が一定の状態に維持しつつ生体試料の所望の画像情報を経時的に取得することができ、生体試料の正常な生命活動を効率的に観察することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、培地のpH値を一定に保ち、生体の正常な生命活動を精度よく観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムの概略構成図である。
【図2】図1の顕微鏡観察用培養装置による混合ガスの濃度調整工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムの概略構成図である。
【図4】図3の顕微鏡観察用培養装置による混合ガスの濃度調整工程を示すフローチャートである。
【図5】図3の顕微鏡観察用培養装置による培養液のpH値の算出工程を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムの概略構成図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の変形例に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムの概略構成図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムの概略構成図である。
【図9】図8の顕微鏡観察用培養装置による混合ガスの濃度調整工程を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムによる観察工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムについて、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム100は、図1に示すように、細胞や菌等の生体試料6を培養しながら観察を行うものであり、生体試料6を培養する顕微鏡観察用培養装置2と、顕微鏡観察用培養装置2により培養されている生体試料6を観察する顕微鏡観察装置50とを備えている。
【0026】
顕微鏡観察用培養装置2は、培養液(培地)7および生体試料6が収容された培養容器8を収納するチャンバ10と、チャンバ10内に生体試料6の培養に用いるCO混合ガス(培養ガス)を供給する混合ガス供給装置(培養ガス供給部)20と、培養容器8内の培養液7に挿入され、培養液7のpH値を検出するpHセンサ(pH検出部)30と、pHセンサ30により検出される培養液7のpH値がほぼ一定の状態になるように混合ガス供給装置20のCO混合ガスの濃度を調整する制御部(培養ガス調整部)40とを備えている。なお、培養容器8としては、例えば、シャーレ等の透明な皿状のガラス容器が用いられる。
【0027】
チャンバ10は、開口部14を有する筐体本体12と、筐体本体12の開口部14を閉塞する開閉可能な蓋16とを備えている。筐体本体12は、培養容器8を収納して動かないように保持することができるようになっている。蓋16は、開口部14を閉塞して筐体本体12内の培養容器8を外気から遮断することができるようになっている。
【0028】
筐体本体12の底面および蓋16には、それぞれ顕微鏡観察装置50による観察用の光を透過させる筐体透明部13および蓋透明部17(以下、単に「透明部13,17」という。)が形成されている。
また、チャンバ10には、収納した培養容器8内を所定の温度に保つヒータ18と、培養容器8内を所定の湿度に保つための水が蓄えられた水槽19とが設けられている。
【0029】
混合ガス供給装置20は、ボンベ(図示略)から100%濃度のCOガスを導入するCOガス導入管22と、送風機(図示略)から空気を導入する空気導入管24と、COガス導入管22および空気導入管24が接続され、COガスと空気とを混合する混合装置26と、混合装置26により混合されたCO混合ガスをチャンバ10内に供給する混合ガス供給管28とを備えている。
【0030】
COガス導入管22および空気導入管24には、それぞれ図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉により混合装置26に導入されるCOガスの量および空気の量が調整されるようになっている。
符号29は、CO混合ガスのCO濃度を計測する濃度計である。
【0031】
制御部40は、pHセンサ30と混合装置26のCOガス導入管22のバルブおよび空気導入管24のバルブに接続されている。この制御部40は、pHセンサ30により検出された培養液7のpH値に基づき、COガス導入管22および空気導入管24の各バルブの開閉度を制御して、チャンバ10に供給するCO混合ガスのCO濃度を調節するようになっている。
【0032】
顕微鏡観察装置50は、前記チャンバ10が載置されるステージ52と、チャンバ10の透明部13,17を介して培養容器8内の生体試料6に照明光を照射する照明光源54と、照明光が照射された生体試料6からの戻り光を集光する対物レンズ56と、ステージ52と対物レンズ56とを相対的に光軸方向に移動させて対物レンズ56の焦点位置を調整する照準機構58と、対物レンズ56により集光された戻り光を集めて像を結像させる結像レンズ62と、結像レンズ62により結像された像を観察するための接眼レンズ(観察部)64とを備えている。
【0033】
また、顕微鏡観察装置50には、照明光源54から発せられた照明光から所定の波長帯域の励起光を切り出す励起フィルタ72と、励起フィルタ72により切り出された励起光を反射して対物レンズ56に入射させるとともに、対物レンズ56により集光された戻り光を透過させるDM(ダイクロイックミラー)74と、DM74を透過した戻り光のうち励起光を遮断して蛍光のみを透過させる励起光カットフィルタ76とにより構成されるミラーキューブ70が設けられている。
なお、符号66は、半導体レーザ等の透過照明用光源であり、例えば、所定の波長帯域の励起光を発するようになっている。
【0034】
ステージ52には、チャンバ10の筐体透明部13が位置する箇所に、観察用の光を透過させるステージ透明部53が形成されている。
照明光源54としては、例えば、キセノンランプ等が用いられる。
【0035】
対物レンズ56は、ミラーキューブ70により切り出された励起光をステージ透明部53および筐体透明部13を介して培養容器8内の生体試料6に照射するとともに、生体試料6の励起光の照射位置において発生した蛍光を含む戻り光を集光してミラーキューブ70に入射させるようになっている。
【0036】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100の作用について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム100を用いて、生体試料6を培養しながらその生命活動を観察するには、培養液7とともに生体試料6を収容した培養容器8をチャンバ10の筐体本体12に保持させ、蓋16を閉めて培養容器8を外気から遮断した状態に設定する。そして、チャンバ10を顕微鏡観察装置50のステージ52上に載置する。
【0037】
また、ヒータ18の作動により培養容器8内を所定の温度に保つとともに、水槽19に蓄えられた水により培養容器8内を所定の湿度に保ち、混合ガス供給装置20においてCOガスと空気とが所定の混合比率で混合されたCO混合ガス(例えば、5%濃度)をチャンバ10内に供給する。これにより、生体試料6の育成に適した培養条件下で生体試料6の培養が行われる。
【0038】
この場合に、図2のフローチャートに示されるように、pHセンサ30により培養容器8内の培養液7のpH値が検出され(ステップSA1)、検出されたpH値が制御部40に送られる(ステップSA2)。なお、培養液7のpHは中性(例えば、pH7.0〜7.2程度。)であることが望ましい。
【0039】
制御部40においては、pHセンサ30から送られる培養液7のpH値が一定か否かが判断される。培養液7のpH値が一定の場合には、混合ガス供給装置20のCO混合ガスのCOガスと空気の混合比率が維持される。一方、培養液7のpH値が変動した場合には、制御部40により、混合ガス供給装置20のCOガス導入管22のバルブあるいは空気導入管24のバルブの開閉度が制御され、COガスと空気の混合比率が調整される。
【0040】
例えば、培養液7のpH値が上昇した場合には、COガス導入管22からのCOガスの量を増加し空気導入管24からの空気の量を減少させることで、CO混合ガスのCO濃度を高くする。一方、培養液7のpH値が低下した場合には、COガスの量を減少させ空気の量を増加することでCO混合ガスのCO濃度を低くする。
【0041】
そして、培養液7のpH値がほぼ一定の状態を維持するようにCO混合ガスのCO濃度が設定される(ステップSA3)。これにより、培養液7のpH値が変動するのを防ぎ、生体試料6を正常に活動させながら培養することができる。
【0042】
次に、顕微鏡観察装置50による生体試料6の観察では、照明光源54から照明光を発し、ミラーキューブ70の励起フィルタ72により所定の波長帯域の励起光を切り出して、対物レンズ56によりステージ透明部53および筐体透明部13を介して生体試料6に励起光を照射する。
【0043】
励起光が照射されることにより生体試料6において蛍光が発生すると、対物レンズ56により蛍光を含む戻り光が集光される。そして、ミラーキューブ70のDM74および励起光カットフィルタ76により励起光が除去され蛍光のみとなって結像レンズ62により集光され、像が結像される。これにより、接眼レンズ64を介して、顕微鏡観察用培養装置2によって培養されている生体試料6の生命活動を観察することができる。
【0044】
以上説明したように、顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100によれば、顕微鏡観察用培養装置2において、制御部40により、培養液7のpH値が一定の状態になるようにCO混合ガスの濃度を調整することで、培養液7のpH値が変動して生体試料6の活性に異変が生じるのを防ぎ、生体試料6を正常に活動させながら培養することができる。これにより、顕微鏡観察装置50を用いて培養容器8内の生体試料6の正常な生命活動を観察することができる。
なお、本実施形態においては、例えば、透過照明用光源66から生体試料6に励起光を照射して蛍光観察を行うこととしてもよい。
【0045】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムについて説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム200は、図3に示すように、顕微鏡観察用培養装置2が、pHセンサ30に代えて、培養液7のpH値を光学的に検出する光学検出装置130を備える点で、第1の実施形態と異なる。なお、培養液7には、予めpH感受性物質を付与することとする。pH感受性物質としては、例えば、BCECF等の色素を用いることとしてもよい。
以下、第1の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
光学検出装置130は、pH感受性物質が付与された培養液7に励起光を照射するpH検出用光源132と、励起光が照射された培養液7のpH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を検出して蛍光画像(画像情報)を取得するpH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)134と、pH検出用画像取得部134により取得された蛍光画像に基づき培養液7のpH値を算出する演算部138とを備えている。なお、符号136はpH検出用ミラーキューブを示している。
【0047】
pH検出用光源132としては、例えば、半導体レーザ等を採用することとしてもよい。
pH検出用画像取得部134としては、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子を採用することとしてもよい。
【0048】
pH検出用ミラーキューブ136は、励起フィルタ72と、DM74と、励起光カットフィルタ76とを備え、pH検出用光源132から発せられた励起光のうち所定の波長帯域の光を選択して培養液7に向けて照射するとともに、培養液7のpH感受性物質からの蛍光のうち所定の波長帯域の光を選択してpH検出用画像取得部134に入射させるように構成されている。
【0049】
演算部138は、pH感受性物質の各波長帯域の励起光に対する蛍光画像の輝度を測定して得られる輝度曲線のグラフを有している。また、演算部138は、異なる波長帯域の励起光により得られる2枚の蛍光画像の比率により、具体的には、蛍光画像ごとの平均輝度の比率を輝度曲線のグラフと比較することにより、培養液7のpH値を算出するようになっている。なお、演算部138により算出された培養液7のpH値は制御部40に入力されるようになっている。
【0050】
この光学検出装置130はステージ52上のチャンバ10の側方に配置されている。また、チャンバ10の側壁部10aには、光学検出装置130からのpH値検出用の光を透過させる側壁透明部(透明部)11が形成されている。
【0051】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2の作用について、図4のフローチャートを参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2を用いて生体試料6を培養するには、まず、培養容器8内の培養液7に予めpH感受性物質を付与する。また、光学検出装置130のpH検出用ミラーキューブ136を、例えば、培養液7に向けて照射する励起光の波長が450nm(ex450)で、pH検出用画像取得部134に入射される蛍光の波長が535nm(em535)となるように設定する(ステップSB1)。
【0052】
次に、pH検出用光源132から励起光を発し、pH検出用ミラーキューブ136により波長450nmの光を選択的に透過させる。そして、チャンバ10の側壁透明部11を介して培養容器8の培養液7に励起光を照射する(ステップSB2)。
【0053】
励起光が照射されて培養液7内のpH感受性物質が励起されることにより蛍光が発生すると、蛍光は側壁透明部11を介してpH検出用ミラーキューブ136に入射され、波長535nmの光が選択的に透過させられる。pH検出用ミラーキューブ136を透過した蛍光はpH検出用画像取得部134に入射され、pH検出用画像取得部134により蛍光画像Aが取得される(ステップSB3)。蛍光画像Aは演算部138へと転送される(ステップSB4)。
【0054】
次に、光学検出装置130のpH検出用ミラーキューブ136を、例えば、培養液7に向けて照射する励起光の波長が500nm(ex500)で、pH検出用画像取得部134に入射される蛍光の波長が535nm(em535)となるように設定し直す(ステップSB5)。そして、pH検出用光源132から励起光を発し、pH検出用ミラーキューブ136により波長500nmの光を選択的に透過させて、培養容器8の培養液7に照射する(ステップSB6)。
【0055】
励起光が照射されて培養液7内のpH感受性物質が励起されることにより発生し、pH検出用ミラーキューブ136により選択的に透過させられた波長535nmの蛍光は、pH検出用画像取得部134に入射され、pH検出用画像取得部134により蛍光画像Bが取得される(ステップSB7)。
【0056】
pH検出用画像取得部134により取得された蛍光画像Bは演算部138へ転送されてる(ステップSB8)。演算部138においては、蛍光画像Aおよび蛍光画像Bに基づいて培養液7のpH値の算出処理が行われる(ステップSB9)。
【0057】
ここで、演算部138による培養液7のpH値の算出方法について、図5のフローチャートを参照して詳細に説明する。
演算部138においては、蛍光画像Aの培養液7部分および蛍光画像Bの培養液7部分がそれぞれ選択され(ステップSC1)、各培養液7部分の平均輝度が計測される(ステップSC2)。そして、蛍光画像Aの培養液7部分の平均輝度と蛍光画像Bの培養液7部分の平均輝度との比率が計算され(ステップSC3)、算出された輝度の比率が輝度曲線のグラフと比較される(ステップSC4)。これにより、培養液7のpH値が算出される(ステップSC5)。
【0058】
図4のフローチャートのステップSB9に戻り、演算部138により算出されたpH値は、制御部40へ転送される(ステップSB10)。そして、制御部40により、培養液7のpH値に基づいて、混合ガス供給装置20のCOガスと空気との混合比率が調整され、CO混合ガスの濃度が設定される(ステップSB11)。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム200によれば、光学検出装置130により培養液7のpH値を光学的に検出することで、培養液7に非接触で迅速にpH値を検出することができる。この結果、CO混合ガスの濃度をリアルタイムに調節し、培養液7のpH値をより確実に一定の状態に維持することが可能となる。また、演算部138により、異なる波長の励起光が照射されて得られる蛍光画像の平均輝度の比率に基づいて培養液7のpH値を算出することで、蛍光に含まれるノイズ等による誤差を補正して精度よくpH値を検出することができる。
【0060】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムについて説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム300は、図6に示すように、観察カメラ(画像情報取得部)364を備える点で、第1の実施形態および第2の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態および第2の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100,200と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
照明光源54は、培養容器8内の生体試料6に照明光を照射したり、pH感受性物質が付与された培養液7に照明光を照射したりするようになっている。
対物レンズ56は、照明光が照射された生体試料6からの戻り光を集光したり、培養液7のpH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を集光したりするようになっている。
【0062】
観察カメラ364は、対物レンズ56により集光された戻り光を撮影して画像情報を取得したり、蛍光を検出して蛍光画像を取得したりすることができるようになっている。
演算部(pH検出部)138は、観察カメラ364および制御部40に接続され、観察カメラ364により取得された蛍光画像に基づいて、培養液7のpH値を算出するようになっている。
【0063】
符号363は、結像レンズ62により集光された蛍光を含む戻り光の反射方向を切り替えて、接眼レンズ64に入射させたり、あるいは、観察カメラ364に入射させたりすることができる切換えミラーである。
【0064】
このように構成された顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム300によれば、観察カメラ364により生体試料6の画像情報を取得することで、生体試料6をリアルタイムに観察したり、取得した画像情報を保存して生体試料6を事後的に観察したりすることができる。また、照明光源54および観察カメラ364を用いて、培養液7のpH値を光学的に検出することができる。これにより、培養液7のpH値を検出するためのpH検出用光源132やpH検出用画像取得部134が不要となり、装置が大型化するのを防ぐことができる。
【0065】
なお、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、図7に示すように、透過照明用光源66に代えて、pH検出用カメラ(蛍光情報取得部)334を配置し、照明光源54から発せられた照明光が照射された培養液7のpH感受性物質が励起されることにより照明光の透過方向に向かって発生した蛍光をpH検出用カメラ334で検出して蛍光画像を取得することとしてもよい。
【0066】
この場合、pH検出用カメラ434は、対物レンズ56の光軸上であって、対物レンズ56に対してステージ52上のチャンバ10を介して対向するように配置し、演算部138に接続することとすればよい。このようにすることで、pH検出用カメラ334によって検出される蛍光により、培養液7のpH値を光学的に算出することができる。したがって、観察カメラ364による生体試料6の観察と、pH検出用カメラ334による培養液7のpH値の検出とを同時に行うことができる。
【0067】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムについて説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム400は、図8に示すように、顕微鏡観察用培養装置2が、培養液7のpH値を光学的に検出する光学検出装置(pH検出部)432を備え、また、顕微鏡観察装置50が、対物レンズ56により集光された戻り光を撮影して画像情報を取得する観察カメラ364を備える点で、第1の実施形態および第2の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態および第2の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100,200と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
光学検出装置432は、pH検出用光源132、pH検出用ミラーキューブ134および演算部138に加えて、第1pH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)134Aおよび第2pH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)134B(以下、単に「pH検出用画像取得部134A,134B」という。)と、pH検出用ミラーキューブ134を透過してpH検出用画像取得部134A,134Bに入射される蛍光の波長を選択的に分割する光路選択DM(光路選択部)439とを備えている。
【0069】
pH検出用画像取得部134A,134Bは、それぞれ光路選択DM439により分割された波長が異なる蛍光を検出して蛍光画像を取得するようになっている。
なお、pH感受性物質としては、例えば、カルボキシSNARF−1のような色素を用いることとしてもよい。
【0070】
このように構成された顕微鏡観察用培養装置2の作用について、図9のフローチャートを参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2を用いて生体試料6を培養するには、まず、培養容器8内の培養液7に予めpH感受性物質としてカルボキシSNARF−1を付与する。そして、光学検出装置432のpH検出用ミラーキューブ134を、例えば、培養液7に向けて照射する励起光の波長が488nm(ex488)で、第1pH検出用画像取得部134Aに入射される蛍光の波長が580nm(em580)となるように設定する(ステップSD1)。
【0071】
次に、pH検出用光源132から励起光を発し、pH検出用ミラーキューブ134により波長488nmの光を選択的に透過させ、チャンバ10の側壁透明部11を介して培養容器8の培養液7に励起光を照射する(ステップSD2)。励起光が照射されて培養液7内のpH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光は、側壁透明部11を介してpH検出用ミラーキューブ134に入射される。そして、pH検出用ミラーキューブ134により波長585nmの光が選択的に透過させられて、光路選択DM439により第1pH検出用画像取得部134Aに蛍光が入射される。この第1pH検出用画像取得部134Aにより蛍光画像Cが取得されて(ステップSD3)、演算部138へ転送される(ステップSD4)。
【0072】
また、pH検出用ミラーキューブ134により選択的に透過させられた蛍光のうち、波長640の光が光路選択DM439により第2pH検出用画像取得部134Bに入射される。そして、第2pH検出用画像取得部134Bにより蛍光画像Dが取得されて(ステップSD5)、演算部138へ転送される(ステップSD6)。
【0073】
演算部138においては、蛍光画像Cの培養液7部分の平均輝度と蛍光画像Dの培養液7部分の平均輝度との比率が計算され、算出された輝度の比率が輝度曲線のグラフと比較されて、培養液7のpH値が算出される(ステップSD7)。以下、第2の実施形態の図4のフローチャートのステップSB10およびステップSB11と同様であるので、説明を省略する。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム400によれば、光学検出装置432により、光路選択DM439により分割された波長が異なる蛍光が入射されてpH検出用画像取得部134A,134Bごとに取得された蛍光画像の平均輝度の比率により培養液7のpH値を検出することで、特定の波長の蛍光のみに基づいて培養液7のpH値を検出する場合と比較して、ノイズを補正して精度よくpH値を検出することができる。
【0075】
〔第5の実施形態〕
次に、本発明の第5の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置および顕微鏡観察培養システムについて説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察培養システム300(図6参照)は、顕微鏡観察装置50がカメラ(画像情報取得部)364により取得された画像情報を記憶する記憶部(図示略)を備え、観察カメラ364が一定の時間間隔をあけて画像情報を取得して記憶部に記憶し、観察カメラ364により画像情報が取得されない合間に、演算部138が培養液7のpH値を検出するとともに制御部40がCO混合ガスの濃度を調整するプログラムを有する点で、第1の実施形態および第2の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態、第2の実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム100,200と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
この顕微鏡観察培養システム300により生体試料6を観察するには、図10のフローチャートに示されるように、観察条件として、観察カメラ364によって取得する画像情報の数と画像情報を取得する時間間隔(言い換えれば、画像情報を取得してから次の画像情報を取得するまでの間隔)を設定し(ステップSE1)、顕微鏡観察装置50により生体試料6の観察を開始する(ステップSE2)。観察カメラ364により取得された画像情報は記憶部に記憶される(ステップSE3)。
【0077】
観察カメラ364により画像情報が取得されると、図示しない計測部により次に画像情報を取得するまで時間間隔(インタバル)の計測が開始される(ステップSE4)。そして、照準機構58により、対物レンズ56の焦点位置がずらされ(デフォーカス、ステップSE5)、この状態で観察カメラ364により蛍光画像が取得されて、演算部138により培養液7のpH値が算出される(ステップSE6)。なお、培養液7のpH値を算出する方法としては、第2の実施形態および第3の実施形態の演算部138による方法と同様である。
【0078】
計測部により設定された時間間隔が経過するまでの間、ステップSE6の培養液7のpH値の検出が行われる(ステップSE7「NO」)。設定した時間間隔が経過すると(ステップSE7「YES」)、照準機構58により対物レンズ56の焦点位置が合わされた状態に設定され(フォーカス調整、ステップSE8)、予め設定した数の画像情報が取得されるまでステップSE1〜ステップSE8の動作が繰り返される(ステップSE9「NO」)。設定した数の画像情報が取得されると観察が終了する(ステップSE9「YES」)。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係る顕微鏡観察用培養装置2および顕微鏡観察培養システム300によれば、観察カメラ364により生体試料6の画像情報が取得される間は培養液7のpH値の検出を行わず、画像情報が取得されない合間に培養液7のpH値を検出してCO混合ガスの濃度を調整することで、培養液7のpH値を一定の状態に維持しつつ生体試料6の所望の画像情報を経時的に取得することができ、生体試料6の正常な生命活動を効率的に観察することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態においては、蛍光情報取得部として、pH検出用画像取得部134、pH検出用カメラ334、pH検出用画像取得部134A,134Bを例示して説明したが、これに代えて、培養液7のpH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を検出して、その輝度等の測光情報を取得する蛍光測光部を用いることとしてもよい。この場合に、測光部位としては、観察視野の隅または観察視野の外等、観察の妨げにならない位置が望ましい。また、pH検出用画像取得部134、pH検出用カメラ334またはpH検出用画像取得部134A,134Bを用いた構成と同様に、複数波長の励起光を照射して同一の蛍光を検出したり、単一の励起光を照射して複数の異なる波長の蛍光を検出し、蛍光の波長特性変化を測定したりすることとしてもよい。
【0081】
また、例えば、培養液7に付与するpH感受性物質として、液体のものに代えて固体のものを用いることとし、固体のpH感受性物質を生体試料6と重ならないように培養容器8の隅に配置してこのpH感受性物質からの蛍光を検出することとしてもよい。このようにすることで、ノイズのない蛍光画像を取得してより正確にpH値を検出することができる。なお、固体のpH感受性物質としては、生体試料6の蛍光波長と重ならない波長の蛍光を発するものが望ましい。このような固体のpH感受性物質を用いることで、仮に生体試料6の近くに固体のpH感受性物質が配置されたとしても、生体試料6からの蛍光だけを分離して検出することができる。
【0082】
また、第2の実施形態〜第5の実施形態においては、培養液7にpH感受性物質を付与してその蛍光波長を観察することとしたが、これに代えて、例えば、天然に存在する生物由来の蛍光タンパク質であるGFP(Green Fluorescent Protein)からの蛍光波長特性を観察することとしてもよい。細胞(生体試料)自身に発現しているGFPからの蛍光の波長特性は培養液7のpH値に応じた変化をするので、例えば、培養液7のpH値とGFPの蛍光波長特性とを対応づけたリファレンスデータを予め保持しておき、GFPからの蛍光の波長特性の測定結果をリファレンスデータと比較することで、培養液7のpH値を間接的に算出することができる。GFPの蛍光波長特性の測定やデータ処理の方法は、pH感受性色素を用いる場合と同様の方法を採用することとすればよい。
【0083】
また、CO混合ガスのCO濃度を所定の範囲で変動させたときのGFPからの蛍光の波長特性を測定し、CO混合ガスの濃度を調整することとしてもよい。また、例えば、GFPのシグナルが一番強いことが細胞(生体試料)が活性している状態であるとして、GFPのシグナルが常に一番強い状態を保つようにCO混合ガスの濃度を調整することとしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
2 顕微鏡観察用培養装置
6 生体試料
7 培養液(培地)
8 培養容器
10 チャンバ
13,17 透明部(13:蓋透明部、17:筐体透明部)
20 混合ガス供給装置(培養ガス供給部)
30 pHセンサ(pH検出部)
40 制御部(培養ガス調整部)
52 ステージ
54 照明光源
56 対物レンズ
58 照準機構
64 接眼レンズ(観察部)
100,200,300,400 顕微鏡観察培養システム
130 光学検出装置(pH検出部)
132 pH検出用光源
134 pH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)
134A pH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)
134B pH検出用画像取得部(蛍光情報取得部)
138 演算部(pH検出部)
334 pH検出用カメラ(蛍光情報取得部)
364 観察カメラ(画像情報取得部)
439 光路選択DM(光路選択部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地および生体試料を収容する培養容器を外気から遮断した状態で収納し、顕微鏡観察による観察用の光を透過させる透明部を備えるチャンバと、
前記チャンバ内に前記生体試料の培養に用いる培養ガスを供給する培養ガス供給部と、
前記培養容器内の前記培地のpH値を検出するpH検出部と、
該pH検出部により検出される前記培地のpH値がほぼ一定の状態になるように前記培養ガス供給部の前記培養ガスの濃度を調整する培養ガス調整部とを備える顕微鏡観察用培養装置。
【請求項2】
前記pH検出部が、pH感受性物質が付与された前記培地に前記チャンバの前記透明部を介して励起光を照射するpH検出用光源と、前記励起光が照射された前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を検出して蛍光情報を取得する蛍光情報取得部と、該蛍光情報取得部により取得された前記蛍光情報に基づき前記培地のpH値を算出する演算部とを備える請求項1に記載の顕微鏡観察用培養装置。
【請求項3】
前記蛍光情報取得部が複数配置され、複数の該蛍光情報取得部に入射される前記蛍光の波長を選択的に分割する光路選択部を備える請求項2に記載の顕微鏡観察用培養装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の顕微鏡観察用培養装置と、
該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、
前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料に照明光を照射する照明光源と、
前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光を集光する対物レンズと、
前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、
前記対物レンズにより集光された前記戻り光を観察する観察部とを備える顕微鏡観察培養システム。
【請求項5】
請求項1に記載の顕微鏡観察用培養装置と、
該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、
前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料およびpH感受性物質が付与された前記培地に照明光を照射する照明光源と、
前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光を集光する対物レンズと、
前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、
前記対物レンズにより集光された前記戻り光を観察する観察部とを備え、
前記pH検出部が、前記照明光が照射された前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより前記照明光の透過方向に向かって発生した蛍光を検出して蛍光情報を取得する蛍光情報取得部と、前記蛍光情報取得部により取得された前記蛍光情報に基づき前記培地のpH値を算出する演算部とを備える顕微鏡観察培養システム。
【請求項6】
前記観察部が、前記対物レンズにより集光された前記戻り光を撮影し、画像情報を取得する画像情報取得部を備える請求項4または請求項5に記載の顕微鏡観察培養システム。
【請求項7】
請求項1に記載の顕微鏡観察用培養装置と、
該顕微鏡観察用培養装置を載置するステージと、
前記チャンバの前記透明部を介して前記培養容器内の前記生体試料およびpH感受性物質が付与された前記培地に照明光を照射する照明光源と、
前記照明光が照射された前記生体試料からの戻り光および前記培地の前記pH感受性物質が励起されることにより発生した蛍光を集光する対物レンズと、
前記ステージと前記対物レンズとを相対的に光軸方向に移動させて該対物レンズの焦点位置を調整する照準機構と、
前記対物レンズにより集光された前記戻り光を撮影して画像情報を取得するとともに前記蛍光を検出して蛍光画像を取得する画像情報取得部とを備え、
前記pH検出部が、前記画像情報取得部により取得された前記蛍光画像に基づき前記培地のpH値を算出する顕微鏡観察培養システム。
【請求項8】
前記画像情報取得部により取得された前記画像情報を記憶する記憶部を備え、
前記画像情報取得部が一定の時間間隔をあけて前記画像情報を取得して前記記憶部に記憶し、前記画像情報取得部により前記画像情報が取得されない合間に、前記pH検出部が前記培地のpH値を検出するとともに前記培養ガス調整部が前記培養ガスの濃度を制御する請求項6または請求項7に記載の顕微鏡観察培養システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−273632(P2010−273632A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130881(P2009−130881)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】