説明

顕微鏡観察用培養装置

【課題】培養空間内の雰囲気(湿度、温度、ガス組成)を、構造を複雑化すること無く、しかも効率的に一定に維持できる顕微鏡観察用培養装置の提供。
【解決手段】培養液Aと試料Bが入った容器を収容する収容ユニット3と、収容ユニット3の上面側開口を閉鎖する蓋体21とを備え、顕微鏡のステージSに設置して試料Bを顕微鏡観察するのに用いる顕微鏡観察用培養装置であり、培養空間内の雰囲気ガス中の所望のガス成分の濃度を検出するガス濃度検出手段33と、ガス濃度検出手段33からの濃度情報に基づいて培養空間内へガスを供給するガス供給手段とを備え、必要に応じてガスを供給することで、ガスの垂れ流しを阻止するだけでなく、それに伴う熱や水分の低下も阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞等の試料を観察するのに適した顕微鏡観察用培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の顕微鏡観察用培養装置として典型的なものは、特許文献1に示されたものである。この顕微鏡観察用培養装置は、収容ユニットとその上面側開口を閉鎖する蓋体とで構成されており、収容ユニット内にはその内縁側に沿って水槽が設けられ、それより内方が収容空間となっており、この収容空間に、培養液と細胞等の試料を入れた容器、例えばウェルプレートを収納ユニットの下面を閉鎖するように収容した状態で、顕微鏡ステージに設置して使用するようになっている。
ところで、培養液に入った細胞等の試料を観察に適した条件下で保持するためには、収容ユニットとその蓋体と試料等の入った容器とによって殆ど密閉された、所謂培養空間内は、温度や湿度だけでなく、その中を満たす雰囲気ガスのガス組成も一定に維持する必要がある。
【0003】
そのため、ホースを収容ユニットに連結し、そこから所定の組成に調整したガスを常時供給していた。
なお、ガスの排出については、培養空間は完全に密閉されているわけではないので、特に設けずとも自然に垂れ流し状態にできていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−259430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、上記したようにガスを外に排出すると、そのガスに取り込まれた水蒸気や熱も共に外に逃げてしまい、水槽内からの水の蒸発やヒーターの駆動により追加で補充されても、僅かな時間であれ、培養空間の雰囲気に変動をもたらすことになる。
また、培養空間を満たす雰囲気ガスは未だ所望のガス組成範囲に維持されていても、絶えず新しいガスが供給されることになり、不必要に無駄な垂れ流し状態になっている場合がある。
【0006】
それ故、本発明は、培養空間の雰囲気(湿度、温度、ガス組成)を、構造を複雑化すること無く、しかも効率的に一定に維持できる顕微鏡観察用培養装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、請求項1の発明は、培養液と試料が入った容器を収容する収容ユニットと、前記収容ユニットの上面側開口を閉鎖する蓋体とを備え、顕微鏡のステージに設置して前記試料を顕微鏡観察するのに用いる顕微鏡観察用培養装置において、前記収容ユニットと前記蓋体との間に形成される培養空間内の雰囲気ガス中の所望のガス成分の濃度を検出するガス濃度検出手段と、前記ガス濃度検出手段からの濃度情報に基づいて前記培養空間内へガスを供給するガス供給手段とを備えることを特徴とする顕微鏡観察用培養装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した顕微鏡観察用培養装置において、ガス濃度検出手段は、培養空間から雰囲気ガスをサンプリング用に抜き出すサンプリング手段を有し、培養空間外に取出したサンプリングガスで所望のガス成分の濃度を検出することを特徴とする顕微鏡観察用培養装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載したガス濃度検出手段は、培養空間から雰囲気ガスをサンプリング用に抜き出し、所望のガス成分の濃度を検出した後に、前記培養空間に戻す戻し手段を有することを特徴とする顕微鏡観察用培養装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2または3に記載した顕微鏡観察用培養装置において、所望のガス成分を炭酸ガスとし、サンプリング側流路に除湿手段を介装し、戻し手段が有る場合にはその戻し側流路に加湿手段を介装したことを特徴とする顕微鏡観察用培養装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の顕微鏡観察用培養装置によれば、培養空間内の雰囲気(湿度、温度、ガス組成)を、構造を複雑化すること無く、しかも効率的に一定に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養装置の全体の斜視図である。
【図2】図1の顕微鏡観察用培養装置の収容ユニット側の分解斜視図である。
【図3】図1の顕微鏡観察用培養装置のガスセンシング機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養装置1を図1から図3にしたがって説明する。
顕微鏡観察用培養装置1は、図1、図3に示すように、収容ユニット3側と、それに取り付けられたガスセンシング機構27とによって構成されている。
先ず、収容ユニット3側の構造について図2にしたがって説明する。
収容ユニット3はほぼ長方形の枠状に形成されており、上面側開口5と下面側開口7とがそれぞれ形成されている。
【0014】
この下面側開口7の縁にアダプター9の側面が嵌り込んで固定されている。このアダプター9もほぼ長方形の枠状に形成されており、そこに当該アダプター用のウェルプレートWが着脱自在に嵌込まれる。
収容ユニット3の内側面とアダプター9の外側面とに囲まれたループ状凹状空間は水槽11としての機能を担わされている。
収容ユニット3には、水供給用ホース13と、ガス供給用ホース15が取り付けられており、それぞれの先端は水槽11内に入り込んでいる。
温度検知用には、細線状の検知部17も取り付けられており、その先端も収容ユニット3内まで延びている。
また、収容ユニット3には、一対の灌流用ホース用の取付用ホルダー19も備えられており、灌流培養も可能となっている。
【0015】
上記した構造の収容ユニット3に相対して、その上面側開口5を閉鎖するよう蓋体21が設けられている。この蓋体21はほぼ長方形を為しており、長方形板状の透明な透光部23が周囲の枠体に保持されている。この透光部23には透明導電膜が備えられており、この透明導電膜に電気コード25を介して通電することにより発熱させて、透明面状トップヒーターとしての機能を担わせている。
図1に示すように、収容ユニット3のアダプター9にウェルプレートWを嵌め込み、蓋体21でその上面側開口5を閉鎖することで、その中に殆ど密閉された培養空間が形成される。
【0016】
上記した構造の収容ユニット3には、ガスセンシング機構27が取り付けられている。
このガスセンシング機構27は炭酸ガス(=二酸化炭素、CO)濃度を検出するものである。
符号29は第1流通チューブを示し、この第1流通チューブ29の一端側は収容ユニット3の一側面を貫通してその内部に入り込んでいる。第1流通チューブ29を通って培養空間内から雰囲気ガスがサンプリング用に抜き出される。
【0017】
第1流通チューブ29の途中には除湿部31が介装されている。この除湿部31には、脱水機能が有りしかも二酸化炭素と反応しない代表的な薬剤である塩化カルシウム(=CaCl2)やスルホン酸が収容されている。
また、その下流側には、ガス濃度センサー33が介装されている。このガス濃度センサー33は、一例であるが、センサーの検知方式に赤外線を用いたものである。
【0018】
符号35は三角フラスコを示し、この三角フラスコ35内には水が適当な高さまで入れられ、ゴム詮37でその上端開口が閉鎖されている。
上記した第1流通チューブ29の他端側には「く」の字状に屈曲したガラス管39が接続されている。このガラス管39がゴム詮37を貫通し三角フラスコ35内に下ろされており、その下端は水中に完全に没している。
また、第1流通チューブ29には、ガス濃度センサー33と他端側ガラス管39との間に、ガス圧送手段としてのポンプ43が介装されている。
【0019】
符号41は第2流通チューブを示し、この第2流通チューブ41の一端側は収容ユニット3の一側面を貫通してその内部に入り込んでいる。貫通箇所は、第1流通チューブ29の貫通箇所とは、収容ユニット3の対角線上にあり互いに離れている。第2流通チューブ41を通って培養空間に雰囲気ガスが戻される。
また、第2流通チューブ41の他端側には「く」の字状に屈曲したガラス管45が接続されている。このガラス管45がゴム詮37を貫通し三角フラスコ35内に下ろされており、その下端は水位よりも上方にある。
【0020】
ガスセンシング機構27は上記した構成を採っており、ポンプ43の作動により、培養空間内の雰囲気ガスは第1流通チューブ29に引き抜かれ、第2流通チューブ41を通って培養空間内に戻されるようになっている。
ガス濃度検出手段は、サンプリング手段としての第1流通チューブ29及びポンプ43とガス濃度センサー33によって構成されており、第1流通チューブ29に引き抜かれた雰囲気ガスは除湿部31に通されて脱水された後に、ガス濃度センサー33に通されて炭酸ガスの濃度が検出される。そして、その後には三角フラスコ35内の水中に通されて加湿化された上で、戻し側流路である第2流通チューブ41を通って培養空間に戻される。
ガス濃度センサー33は湿気を嫌うが、予め除湿されているので検出精度に問題はない。また、加湿化してから戻すので、戻しにより培養空間の湿度を下げることもない。
【0021】
図3において符号47はコントローラを示す。このコントローラ47はガス濃度センサー33と、ガス供給用ホース15に介装されたポンプ49にそれぞれ接続されており、ガス濃度センサー33からの濃度情報に基づいて、炭酸ガスの濃度がしきい値より下がった場合にはポンプ49を作動させて培養空間へのガスの供給を促すようになっている。
【0022】
次に、この顕微鏡観察用培養装置1の使用方法について説明する。
この顕微鏡観察用培養装置1の使用方法について説明する。
収容ユニット3には予めアダプター9を装着させてある。このアダプター9にダミー用のウェルプレートW(蓋体で閉鎖済み)を嵌め込み、蓋体21で閉鎖して培養空間を画定した後に、ガス供給用ホース15から炭酸ガス(CO)を供給し、水供給用ホース13から水槽11へ水を供給すると共に、電気コード25を介して透明面状トップヒーターをなす透光部23の透明導電膜に通電し発熱させる。また、図示は省略しているが、水槽11の底部側にもヒーターが設置されており、このヒーターの加熱により水槽11内の水を蒸発させて培養空間内を所望の湿度にする。上記したガス供給用ホース15や水供給用ホース13やヒーターもコントローラ47下の制御下にあり、培養空間が一定のものに維持されることになる。
その状態で、収容ユニット3を顕微鏡ステージSに設置する。
【0023】
一方で、顕微鏡観察用のウェルプレートWを用意しておく。各ウェルwには培養液Aや試料Bを予め入れておくが、ウェルプレートWの外縁側の一つのウェルwは温度検知の専用とし、培養液Aのみを入れておく。そして、この温度検知専用のウェルw内に温度検知用の検知部17の保護チューブから裸出した先端を差し入れその底面付近まで下ろして培養液Aに浸した状態とした上で、専用の蓋体でウェルプレートWの上面側開口を閉鎖すると共に、ウェルプレート内導入手段により検知部17を固定しておく。
ダミー用のウェルプレートWを用いての一定時間の予備運転が終了すると、収容ユニット3の蓋体21を開いてダミー用のウェルプレートWを取出し、顕微鏡観察用のウェルプレートWを嵌め込み、検知部ホルダーを介して温度検知用の検知部17を固定した後に、蓋体21で収容ユニット3を再び閉鎖する。
これで、培養空間内のウェルプレートWの各ウェルwに入れられた試料入りの培養液が培養に適した所定の湿度、温度等の環境に保たれて、観察可能モードに入る。
【0024】
顕微鏡観察は、顕微鏡ステージSを移動させながら複数のウェルw内に入った試料Bを対物レンズRに対向させて観察する。
観察可能モード中は、培養空間へのガス供給は間欠的になっており、ガスセンシング機構27により培養空間の雰囲気ガスの炭酸ガスの組成が逐次検出され、培養空間内のガス組成がしきい値より低くなったときにのみ、ポンプ49が作動してガス供給用ホース15からガスが供給されるようになっている。そして、ガス供給中のみ培養空間内にあった雰囲気ガスが自然に外に押し出される。
また、透明導電膜への通電や給水やヒーターによるその水の加温も、コントローラ47の制御下にあり、培養空間内は一定の湿度、温度に維持されている。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、炭酸ガスの濃度を検出対象とする場合には、ガス濃度センサーを湿気に耐えられるものに代替できれば、収容ユニットを大きくしたり、ガス濃度センサーを小型化したりすることで、収容ユニット内に組み込むように構成してもよい。炭酸ガス以外の酸素や窒素の濃度を検出対象とする場合には、湿気に対する配慮は必要無いので、組み込みも一層容易になる。
また、雰囲気ガスのサンプリング用の抜き出しを間欠的に行うのであれば、少量で済むので培養空間に戻さないように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の顕微鏡観察用培養装置は、顕微鏡の附属品として利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1…顕微鏡観察用培養装置 3…収容ユニット 5…上面側開口
7…下面側開口 9…アダプター 11…水槽
13…水供給用ホース 15…ガス供給用ホース 17…検知部
19…灌流用ホース用の取付用ホルダー 21…蓋体
23…透光部 25…電気コード
27…ガスセンシング機構 29…第1流通チューブ
31…除湿部 33…ガス濃度センサー 35…三角フラスコ
37…ゴム詮 39…ガラス管 41…第2流通チューブ
43…(ガスセンシング用)ポンプ 45…ガラス管
47…コントローラ 49…(ガス供給用)ポンプ
W…ウェルプレート w…ウェル A…培養液 B…試料
S…顕微鏡ステージ R…対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液と試料が入った容器を収容する収容ユニットと、前記収容ユニットの上面側開口を閉鎖する蓋体とを備え、顕微鏡のステージに設置して前記試料を顕微鏡観察するのに用いる顕微鏡観察用培養装置において、
前記収容ユニットと前記蓋体との間に形成される培養空間内の雰囲気ガス中の所望のガス成分の濃度を検出するガス濃度検出手段と、前記ガス濃度検出手段からの濃度情報に基づいて前記培養空間内へガスを供給するガス供給手段とを備えることを特徴とする顕微鏡観察用培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載した顕微鏡観察用培養装置において、
ガス濃度検出手段は、培養空間から雰囲気ガスをサンプリング用に抜き出すサンプリング手段を有し、培養空間外に取出したサンプリングガスで所望のガス成分の濃度を検出することを特徴とする顕微鏡観察用培養装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載したガス濃度検出手段は、培養空間から雰囲気ガスをサンプリング用に抜き出し、所望のガス成分の濃度を検出した後に、前記培養空間に戻す戻し手段を有することを特徴とする顕微鏡観察用培養装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載した顕微鏡観察用培養装置において、
所望のガス成分を炭酸ガスとし、サンプリング側流路に除湿手段を介装し、戻し手段が有る場合にはその戻し側流路に加湿手段を介装したことを特徴とする顕微鏡観察用培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−191859(P2012−191859A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56341(P2011−56341)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(595040205)株式会社東海ヒット (10)
【Fターム(参考)】