説明

顕微鏡

【課題】培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡を提供する。
【解決手段】観察対象となる試料2と試料2を培養する培養液11とを保持する培養容器10内に、培養液11中に浸した状態で試料2を観察するための顕微鏡1において、光源22と、開口絞り19と、コンデンサレンズ18とを有する照明光学系4と、第1対物レンズ12を有する観察光学系5とを有し、培養液11の液面の形状に応じて、照明光学系4から射出される照明光の実効的なNAと第1対物レンズ12の開口数が異なっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の試料を培養する際には、シャーレ(ディッシュ)やウェルプレート等の培養容器が使用されている。
シャーレは、ポリスチレン等の透明なプラスチック製で円形の皿部材と蓋部材とからなり、蓋部材を開けて試料と試料を培養するための培養液(培地)を注入して使用される。なお、このようなシャーレは、その径の大きさ等によって複数の種類、例えば35、60、100mmディッシュ等に分類される。
ウェルプレートは、シャーレと同様にプラスチック製で、試料を培養するための小さな円筒状の凹部(ウェル)が多数形成された板状部材と蓋部材とからなる。斯かるウェルプレートは、各ウェルに試料を注入して異なる培地等で同時に培養しながら実験を行うことができるため、取扱い易さや省スペース化の向上を図ることができる。なお、ウェルプレートには、1、6、24、96、384個等のウェルが形成されたものが知られている。特に、96個のウェルが形成された96ウェルプレートは創薬現場等においてよく用いられている。
【0003】
ここで、上述のような培養容器、特にウェルの内径が小さな96ウェルプレート等においては、ウェルに培養液を注入すると、培養液の液面が表面張力によって湾曲し凹面を形成してしまう。このため、斯かるウェルプレートを顕微鏡のステージに載置して試料を観察する場合には、培養液の凹面で生じたレンズ効果(メニスカス効果)の影響によって試料の観察像が劣化してしまうという問題があった。
そこで、このような問題を解消するために、ウェルプレートと、ウェルプレートの各ウェルに対向するように配置された、培養液の凹面によるレンズ効果を打ち消すためのレンズアレイとからなる培養容器を備えた顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−4871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の顕微鏡では、レンズ効果をレンズアレイによって効果的に打ち消すことができず、試料の良好な観察像を得ることができないという問題があった。
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、
観察対象となる試料と前記試料を培養する培養液とを保持する培養容器内に、前記培養液中に浸した状態で前記試料を観察するための顕微鏡において、
光源と、開口絞りと、コンデンサレンズとを有する照明光学系と、
対物レンズを有する観察光学系と、を有し、
前記培養液の液面の形状に応じて、前記照明光学系から射出される照明光の実効的なNAと前記対物レンズの開口数が異なっていることを特徴とする顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る顕微鏡における照明光学系の構成を示す図である。
【図3】(a)は照明光学系において可動絞りを光軸方向へ移動させた様子を示す図であり、(b)は可動絞りを光軸に垂直な方向へ移動させた様子を示す図である。
【図4】照明光学系における可動絞りを光軸方向へ移動させて照明NAを変更する様子を具体的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
はじめに、ウェルプレートの各ウェルに注入された培養液の凹面で生じるレンズ効果について詳細に説明する。
ウェルプレートで培養した試料を顕微鏡で明視野観察、位相差観察、或いは微分干渉観察等する場合、試料を透過照明することが必須である。しかしながら、ウェル内の試料を透過照明した際には、照明光が培養液の凹面のレンズ効果によって屈折してしまう。このため、屈折した照明光で照明された試料からの透過光は、対物レンズへ入射することができなくなってしまう。或いは、屈折した照明光がウェルの壁面で反射又は透過してしまい、ウェル内の試料を均一に照明することができなくなってしまう。
ここで、培養液の凹面によるレンズ効果の影響は、凹面の曲率半径が小さく、また当該凹面に対する照明光の入射角度が大きいほど大きくなる。また、ウェルの壁面近傍では、培養液の液面が表面張力によってせり上がるように湾曲するため、凹面の外周部分は略非球面形状となる。したがって、凹面の外周部分におけるレンズ効果の影響は非常に大きくなり、試料の観察がより困難になってしまう。
また、培養液の凹面でレンズ効果が発生すると、顕微鏡で得られる試料の観察像のコントラストが視野内の位置によって反転してしまう。具体的には、視野内の中心部では観察像が黒色で背景が白色であるのに対して、視野内の周辺部では観察像が白色で背景が黒色となり、視野内の周辺部にある試料を観察することが困難になってしまう。また、このように観察像の見え方が視野内の位置によって一様でないため、細胞カウンティング等の画像解析が困難になり、正確な解析及び培養の自動化システム作成も阻害されることとなってしまう。
【0010】
以上のような現象は、ウェルプレートに限られず殆ど全ての培養容器において発生する。そして、培養容器の試料を注入する凹部の径が小さいものほど、培養液の液面の湾曲した部分の占める割合が大きくなるため、視野内で観察困難な領域が大きくなる。特に、96ウェルプレートにおいては、各ウェルの内径はΦ6.4mm程度であるが、ウェル内において観察が容易な領域は中心部のΦ2mm程度の範囲となってしまう。
また、レンズ効果を引き起こす培養液の凹面は、次のような要因によってその形状が変化する。
1)培養容器の種類(1〜384ウェルプレート、35〜100mmディッシュ)
2)培養液の組成
3)培養容器の材質や培養容器表面のコーティング処理
4)培養液の量
特に、96ウェルプレートにおいては、培養液の凹面の曲率半径が4.0〜10.0程度まで変化し、ウェルの壁面近傍では上述のように凹面の外周部分が略非球面形状となる。
【0011】
また近年では、iPS細胞やES細胞の研究が進み、再生医療に向けた研究が盛んになりつつある。斯かる研究においては、細胞が均一で純粋な、1つの細胞から増殖した細胞群を用いることが必要である。このような純化された細胞群を得るためには、培養容器中に細胞をまいてコロニーを形成させ、良好なコロニーのみを培養容器中からピックアップしなければならない。このため、顕微鏡を用いて培養容器の全域から良好なコロニーを探索する必要があり、斯かる作業のスループット向上のためには広視野での観察が可能な顕微鏡が求められることとなる。しかしながら、広視野即ち低倍率でレンズ効果のある培養容器を観察することは、視野内でレンズ効果の影響を受ける領域の割合が、狭い視野即ち高倍率で観察する場合よりも増えるということであり、レンズ効果の影響がより顕著になってしまう。したがって、前述のスループット向上のためには、広視野でありながらレンズ効果の影響を解消可能な顕微鏡が必要となる。
また、培養容器において細胞が注入される凹部は、通常、円筒形状である。このため、ユーザーが培養容器を手で持ち運ぶ際には、凹部内の培養液に凹部の中心を軸とした渦が生じてしまう。そしてこの渦の影響により、凹部内の細胞の生え方が一様でなくなってしまい、特に、凹部の壁面近傍に細胞が多く生えることとなる。このため、凹部内の細胞の数を精度良く確認するためには、凹部内の中心部だけでなく、凹部の壁面近傍に生えている細胞の数まで確認しなければならない。しかしながらこのように凹部の全域にわたって細胞の数を確認することは、上述したレンズ効果によって困難であった。
【0012】
以上をまとめると、従来の顕微鏡は、培養容器における培養液の凹面のレンズ効果によって、容器内の試料を透過照明して観察する、特に視野内の全域で観察することが困難になる。具体的には、次の5つの不具合が挙げられる。
1)培養容器の凹部の壁面へ向かってシェーディングが生じるため、視野の明るさが均一でない。
2)培養容器の凹部の壁面近傍には、照明光が全く届かない暗黒領域が発生し、試料が全く見えなくなってしまう。
3)培養容器の凹部の中心部に位置する試料と壁面近傍に位置する試料では、観察像のコントラストが反転してしまうため、画像解析を行うことが困難である。
4)レンズ効果の大きさは、培養容器の種類、培養液の組成、培養容器の材質、及び培養液の量等によって様々であるため、試料の観察条件が一様でない。
5)観察の精度を確保しながらスループットの向上を図るために、広視野で試料を観察することが望まれるものの、広視野の観察においてはレンズ効果の影響が顕著になる。
【0013】
次に、本発明の実施形態に係る顕微鏡について添付図面を参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡は、シャーレやウェルプレート等の培養容器に配した試料を培養液で浸した状態で低倍率、広視野で観察することに適した明視野顕微鏡である。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る顕微鏡1は、試料2を載置するためのステージ3、ステージ3の上方に配置された照明光学系4、及びステージ3の下方に配置された観察光学系5を有している。なお、ステージ3、照明光学系4、及び観察光学系5は、下方に不図示のベース部を備えた顕微鏡支柱6に対して、支持部材7を介して上下方向の位置を変更可能に固定されている。
本実施形態において、試料2には細胞等の位相物体が用いられている。斯かる試料2は、図1及び図2に示すように96ウェルプレート10の各ウェル10aに培養液11とともに注入されており、当該96ウェルプレート10がステージ3上に載置されている。
【0014】
観察光学系5は、照明光学系4で照明された任意のウェル10a内の試料2を観察するためのものであり、図1に示すように、ステージ3側から順に、高開口数の第1対物レンズ12、第2対物レンズ13、及びカメラ14を有する。
第1対物レンズ12は、ウェル10aの底面から射出された光を略漏れなく集光するための高い開口数(NA)を有する対物レンズであり、本実施形態においてはΦ6.4mm程度の実視野を実現するために、倍率が1.25倍、開口数が0.25以上のものが用いられている。
カメラ14には、2/3インチCCDカメラが用いられている。
【0015】
照明光学系4は、ウェル10a内の試料2を透過照明するためのものであり、図1及び図2に示すように、ステージ3側から順に、コンデンサレンズ18、開口絞り19、可動絞り20、コレクタレンズ21、及び光源22を有する。
可動絞り20は、ウェル10aの底面を略均一に照明するための低NAの照明光を生成するための絞り部材である。本実施形態において可動絞り20には、照明光学系4から射出される照明光のNA(以下、「照明NA」という。)が0.1以下となるように、絞り径や光軸上の位置等が予め設計された絞り部材が用いられている。なお、可動絞り20は、後述するように、照明光がウェル10aの壁面で反射又は透過することを防止するために、照明光の光束がウェル10aの内径よりも小さくなるように照明光の照射領域を絞る役割も果たしている。
また、可動絞り20には、可動絞り20を光軸方向及び光軸に垂直な方向へ移動させるための公知の移動機構(不図示)と、絞り径を変更するための公知の調整機構(不図示)が備えられている。これにより、前記移動機構によって可動絞り20を光軸方向へ移動させることで、照明光の主光線の角度を変更することができる。また、前記調整機構によって可動絞り20の絞り径を変更することによって、照明光の実効的なNAを変更することができる。さらには、前記移動機構によって可動絞り20を光軸に垂直な方向へ移動させることで、照明光学系4から射出される照明光の試料2に対する照射位置を光軸に垂直な方向へ変更することができる。
【0016】
コンデンサレンズ18には、コンデンサレンズ18を光軸方向へ移動させるための公知の移動機構(不図示)が備えられている。これにより、当該移動機構によってコンデンサレンズ18を光軸方向へ移動させることで、照明光の集光位置を光軸方向へ変更することができ、これによって視野内のシェーディングを除去することができる。
光源22には、コヒーレント性の高い赤色LED(発光ダイオード)が用いられている。これにより、照明の均一性と長寿命性を確保することができる。また、培養液11内のフェノールレッド等の栄養素が培養液11の劣化に伴って変色し、これが可視広域の光を吸収してしまうため、培養状態によって観察像の明るさが変化してしまうという影響を解消することができる。
【0017】
以上の構成の下、本実施形態に係る顕微鏡1において、照明光学系4の光源22から発せられた照明光は、コレクタレンズ21を経た後、可動絞り20を通過する。可動絞り20は、光軸上の位置によって、照明光の主光線の方向を変えることができ、開口の大きさや開口部の位置を光軸から離れた位置に変化させることにより、照明光の実効的なNAを変えることができる。そして斯かる照明光は、開口絞り19を通過し、コンデンサレンズ18で集光されることにより、必要な照明光の実効的なNAや主光線の方向を形成することとなる。このようにして形成された照明光は、ステージ3上の96ウェルプレート10における任意のウェル10a内の試料2に培養液11を介して照射され、即ち、一点に集光する光束の収束角とその主光線の方向が制御された照明が実現されることとなる。
ここで、当該ウェル10a内の培養液11の液面は、上述のように凹面となってレンズ効果が生じている。そこで、観察光学系5を構成する第1対物レンズ12の開口数よりも小さい実効的なNAを持つ照明光を斯かる培養液11の凹面に照射することで、培養液11の凹面によって照明光の方向が第1対物レンズ12の外側に向かって屈折しても、第1対物レンズ12の開口数が十分に大きいため、培養液11の液面によるレンズ効果の影響を受けにくくなる。また、このときに、照明光の主光線の方向を培養液11の液面により屈折される方向を考慮して、屈折される方向とは逆方向に光軸に対して主光線の方向を向けることで、屈折した照明光がウェル10aの壁面で反射又は透過することを防止することができ、即ち照明光束がウェル10a内のみを進行することととなり、これによってウェル10aの底面をムラなく略均一に照明することができる。
【0018】
そして、以上のように観察光学系5を構成する第1対物レンズ12の開口数よりも小さいNAの照明光で照明された試料2からの光は、観察光学系5の第1対物レンズ12に入射する。ここで、第1対物レンズ12は上述のように高開口数の対物レンズであるため、ウェル10aの底面から射出された光(前述の屈折した照明光で照明された試料2からの光を含む)を略漏れなく集光することができる。このようにして第1対物レンズ12によって集光された光は、第2対物レンズ13を介して、カメラ14の撮像面上に試料2の観察像を形成する。なお、詳細には、上述のような主光線の方向と照明光の実効的なNAを持つ照明光によってウェル10aの壁面での反射光、即ちノイズ光の発生を抑えながらウェル10aの底面を略均一に照明することで、試料2の背景(バックグラウンド)からの光(直接光)のNAが小さくなるため、斯かる直接光と試料2で回折された回折光とが干渉してコントラストの良好な試料2の観察像が形成されることとなる。このようにして形成された試料2の観察像は、カメラ14で撮影されて不図示のモニタに表示され、使用者に観察されることとなる。
【0019】
ここで、上述のように再生医療の研究等において培養した細胞を観察する際には、低倍率で視野の全域を観察することが求められており、培養液のレンズ効果の影響を考慮しながら視野の全域で観察を行うためには、第1対物レンズに0.25相当の開口数と1.25倍程度の倍率が必要となる。
これに対して本実施形態に係る顕微鏡1は、上述のように照明光の実効的なNAが0.1以下、第1対物レンズ12の倍率が1.25倍で開口数が0.25以上であり、これによって視野の全域(Φ6.4mm程度の実視野)で観察を行うことができる。また、上述のように96ウェルプレート10におけるウェル10aの内径はΦ6.4mm程度であるため、本実施形態に係る顕微鏡1は、2/3インチCCDカメラであるカメラ14によって、96ウェルプレート10のウェル10aの底面全域を1枚の画像として撮影することができる。即ち、最大限のスループットでレンズ効果の影響を解消した試料2の観察像を取得することができる。
【0020】
また、上述のように培養液11のレンズ効果の大きさは、培養容器の種類、培養液11の組成、培養容器の材質、及び培養液11の量等によって様々に変化する。特に、培養容器の種類によって培養液11の凹面の直径は異なり、これによって凹面の曲率半径は大きく変化し、レンズ効果も大きく変化することとなる。
そこで、本実施形態に係る顕微鏡1は、培養液11のレンズ効果の変化に応じて、上述のように可動絞り20を光軸方向に移動させたり(図3(a)を参照)、可動絞り20の絞り径を変更することで、照明光の実効的なNAや照明光の主光線の方向を変更することができる。これにより、培養液11のレンズ効果が変化した場合でも、これに対応した低NAの照明光によって培養容器の底面を略均一に照明することができ、レンズ効果の影響を解消した試料2の観察像を取得することができる。
【0021】
ここで、可動絞り20を光軸方向へ移動させることによる照明光の主光線の方向の変更について、具体的に説明する。
図4(a)に示すように、ウェル10a内の培養液11の凹面の曲率半径が小さい、即ち培養液11のレンズ効果が大きい場合、斯かる培養液11に照明光の主光線の方向を光軸と略同じ方向とすれば、凹面で屈折した光は、ウェル10aの壁面で反射又は透過することはないものの、第1対物レンズ12に入射することができなくなってしまい、所謂、視野欠けを招くこととなってしまう。
このため、図4(b)に示すように、可動絞り20を光源22側へ移動させて照明光の主光線の角度を光軸に対して大きくすることで、凹面で屈折した光は、ウェル10aの壁面で反射又は透過することなく、第1対物レンズ12に漏れなく入射することができ、これによりレンズ効果の影響を解消した試料2の観察像を取得することが可能となる。
【0022】
また、図4(c)に示すように、ウェル10a内の培養液11の凹面の曲率半径が大きい、即ち培養液11のレンズ効果が小さい場合、斯かる培養液11に主光線の角度を光軸に対して大きく傾けた照明光を照射すれば、照明光の一部がウェル10aの壁面に外側から直接照射され、壁面によってケラれてしまうため、視野内にシェーディングが生じることとなってしまう。
このため、図4(d)に示すように、可動絞り20をウェル10a側へ移動させて照明光の主光線の方向の光軸に対する傾け角を小さくすることで、照明光がウェル10aの壁面でケラれることを防止でき、図4(c)の場合と同様にレンズ効果の影響を解消した試料2の観察像を取得することが可能となる。
以上より、本実施形態に係る顕微鏡1では、培養液11の凹面の形状、即ちレンズ効果の大きさに応じて、当該レンズ効果の影響を解消することに最適な位置に可動絞り20を配置することが好ましい。なお、可動絞り20の絞り径を変更して照明光の実効的なNAを変更する際にも、レンズ効果の大きさに応じて照明光のNAを適切に設定することが好ましい。
【0023】
また、本実施形態に係る顕微鏡1では、凹部の径が大きな培養容器(例えば、6ウェルプレートや100mmディッシュ等)を用いて観察を行う場合、即ち視野内で凹部の底面全域を観察することが困難な培養容器を用いて観察を行う場合がある。このような培養容器においては、凹部の中心部における培養液11の液面は略平面、即ち曲率半径が無限大となるためレンズ効果は殆ど生じないものの、凹部の壁面付近では液面が湾曲してレンズ効果が生じる。そこで本実施形態に係る顕微鏡1は、上述のように可動絞り20を光軸に垂直な方向へ移動させることによっても、照明光の主光線の方向を培養容器の側壁に照射されないようにしつつ凹部の壁面近傍へ照射することができ(図3(b)を参照)、これによって凹部の壁面近傍に位置する試料2の、レンズ効果の影響を解消した観察像を取得することができる。
【0024】
以上より、本実施形態に係る顕微鏡1によれば、培養容器の培養液11にレンズ効果が生じている場合でも、照明NAが第1対物レンズ12の開口数よりも小さくなるように、培養液11の液面の形状、即ちレンズ効果の大きさに応じた照明NAや照明光の主光線の方向のコントロールと第1対物レンズ12の開口数の設定とを適切に行うことで、培養容器に特段の構成を必要とすることなく、全域にわたって明るさの略均一な視野を実現し、コントラストの良好な試料2の観察像を得ることができる。具体的には、本顕微鏡1よって次の5つの効果を奏することができる。
1)培養容器の凹部の壁面へ向かってシェーディングが生じることを解消し、全域にわたって明るさの略均一な視野で試料2を観察することができる。
2)培養容器の凹部の底面を略均一に照明することができるため、視野の全域で、コントラストの一様な試料2を観察することができる。
3)前記1)、2)の結果、ソフトウェア等によるセルカウンティング等の画像解析を行うことが容易になる。
4)培養液11の量の違い等によって培養液11のレンズ効果が変化した場合でも、可動絞り20を光軸方向へ移動させること等によって、レンズ効果の影響を解消した試料2の観察像を取得することができる。
5)広視野で試料2を観察することができるため、観察の精度を確保しながらスループットの向上を図ることができる。
【0025】
なお、本実施形態に係る顕微鏡1は、上述のように可動絞り20を有し、これによって所望の主光線の角度や実効的なNAの照明光を生成する構成であるが、本発明はこの構成に限られるものではない。例えば、可動絞り20を省略し、コンデンサレンズ18を支持する不図示のレンズ枠で所望の照明光を生成する構成としてもよい。或いは、可動絞り20を省略し、開口絞り19によって所望の照明光を生成する構成としてもよい。また、これらの構成においては、開口絞り19を光軸方向へ移動させることで照明光の実効的なNAを変更する構成とすることも可能である。
また、絞りによる開口の形状についても、輪帯状のものや各種の変形絞りであってもよい。また、光路を制限するものであればいずれでもよく、回折光学素子等によって光路を制限するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 顕微鏡
2 試料
4 照明光学系
5 観察光学系
10 96ウェルプレート
11 培養液
12 第1対物レンズ
13 第2対物レンズ
14 カメラ
18 コンデンサレンズ
19 開口絞り
20 可動絞り
22 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象となる試料と前記試料を培養する培養液とを保持する培養容器内に、前記培養液中に浸した状態で前記試料を観察するための顕微鏡において、
光源と、開口絞りと、コンデンサレンズとを有する照明光学系と、
対物レンズを有する観察光学系と、を有し、
前記培養液の液面の形状に応じて、前記照明光学系から射出される照明光の実効的なNAと前記対物レンズの開口数が異なっていることを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
前記照明光の実効的なNAが前記対物レンズの開口数よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記照明光の実効的なNAは0.1以下であり、前記対物レンズの開口数は0.25以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記照明光の実効的なNAを変更するための変更手段を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記変更手段は、前記照明光学系の前記光源と前記開口絞りとの間に配置された可動絞りを有し、前記可動絞りを光軸方向へ移動させることで前記照明光の実効的なNAを変更することを特徴とする請求項4に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記変更手段は、前記照明光学系の前記光源と前記開口絞りとの間に配置された可動絞りを有し、前記可動絞りの絞り径を変更することで前記照明光の実効的なNAを変更することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記照明光学系の前記光源と前記開口絞りとの間に配置された可動絞りを有し、
前記可動絞りは、光軸に垂直な方向へ移動可能であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項8】
前記コンデンサレンズは、光軸に垂直な方向へ移動可能であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項9】
前記光源として赤色LEDを有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−221297(P2011−221297A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90646(P2010−90646)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】