説明

風力装置用ロータブレード

【課題】風力装置の騒音発生を改善すること。
【解決手段】風力装置用ロータブレードにロータブレードが発生する音を低減する手段を設け、この手段を少なくともロータブレードの表面部に設けられた流体反発層及び/又は面により形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力装置用ロータブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
風力装置用ロータブレードは様々な形体の異なるものが知られている。風力装置においては、ロータあるいはそのロータブレードが主な音源となっている。風力装置は、しばしば居住施設の近傍に据え付けられるので、騒音規制法に基づく理由で、発生音のレベルを最小限にする必要がある。風力装置や風力変換装置がこれまで発生していた音のレベルが原因で、風力装置は居住区の抵抗に直面している。こういう理由で、認可の責任を負う当局が現在の環境要求事項に基づいて風力装置の認可を拒むので、このような装置は受け入れ難かったり、全く受け入れられない場合もある。騒音はまた、環境を汚染する要因でもある。
【0003】
騒音を低減するために、風力装置のロータブレードを構造的に修正する多くの提案が既になされている。例えば、欧州特許第0652367号公報や独国特許第19614420.5号公報に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロータブレードの構造的対応策による騒音低減には限界がある。
【0005】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、風力装置の騒音発生を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この目的は請求項1の特徴を有するロータブレードにより達成される。好ましい形態は残りの請求項に記載されている。
【0007】
本発明は、ロータブレードの表面の少なくとも部分的に流体及び/又は氷の反発層が設けられていると、ロータブレードもより粗くなるという知見に基づいている。したがって、ロータブレードの上部を最大限に平滑化する1層のペンキからなるコーティングをロータブレードに設けることなく、まさにその逆のことをするのである。すなわち、表面を微視的に見て粗くしている。このような面はまた、例えば所謂「蓮効果(lotus effect)」の機能を達成するラッカーやコーティングから公知であり、水/氷は表面に弱く付着している。この点で、1層のペンキにより形成されるコーティングは、極小サイズの一種の爪体により構成される。このような極小の爪体はロータブレードの表面を粗くするだけでなく、個々の極小の爪はその長手方向に変形自在であったり、ロータブレードのガラスファイバのコーティングより構造的にかなり柔らかいことから、表面の硬度を低下させる。
【0008】
したがって、ロータブレード上の「蓮」のコーティングにより、ロータブレード上に形成される渦が表面の柔らかい構造により抑制あるいは防止されたり、空気の渦からエネルギが取り出されて、既に知られているロータブレードの回転により生じる音の全てが低減される。
【0009】
マイクロシリコーンペンキ"Lotusan"(Dyckerhoffグループの会社であるispo Gmbhの商標)は、運転中におけるロータブレードの音をかなり低減できる自己清浄型コーティングあるいはペンキと言うこともできる。このマイクロシリコーンペンキは、その会社から品番1950で商品化されており、汚れ反発性及び撥水性と記載されている。コーティングを、撥水層が表面構造に形成されたシートあるいは薄膜で形成することも可能である。自己清浄面(及びその製造法)は欧州特許第0772514号公報からも公知である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1はEnercon社の型式E−40の風力装置を示しており、三つのロータブレード10を有するロータを備えている。
【0011】
図2に示されるように、ロータブレードの表面には、「極小爪(nano-nail)」3を有する爪体2を形成するコーティングあるいはカバー1が設けられている。極小爪間の隙間Aは約2〜250μmの範囲で、極小爪の高さHは約2〜250μmの範囲である。極小爪は、例えば疎水性ポリマあるいは永続的に疎水化された材料からなる。極小爪の高さが5〜60μmで、隙間が約5〜110μmの範囲であれば、ロータブレードからの発生音を特に低減することができる。
【0012】
マイクロシリコーンペンキ(例えば、"Lotusan")でロータブレードをコーティングすると、水(HO)や他の流体はロータブレードの表面にくっついたまま離れないといった結果は生じない。したがって、こうすることで、ブレード上に着氷する原因が最初から取り除かれる。
【0013】
好ましくは、コーティングはロータブレードの全面ではなく、ロータブレードの最後の3分の1(ロータから見て)のみに施され、ロータブレード先端の領域あるいはロータブレードの前縁及び後縁に施されるのがよい。
【0014】
極小爪3が形成されていることで、ロータブレードの表面の凹凸あるいは粗さは非常に大きく、水の分子がロータブレードの表面にくっついて保持されるほど、水滴4(分子)のロータブレード面への付着力は十分ではない。したがって、極小爪はロータブレードの表面6に対しある距離をもって水の分子を保持し、水分子と表面間の引き付け力は極端に減少する。
【0015】
同時に、極小爪3は所謂「ショックアブソーバ(吸音器)」の機能を持つ。これは、ロータブレード表面に自然に形成され、騒音発生の原因となる渦(図示せず)が極小爪に衝突し、ロータブレードの剛性の高いグラスファイバ構造に比べ、極小爪はその比較的大きい可動性により、渦のエネルギを吸収することができるので、空気の渦からエネルギを取り去り、音を低減する。
【0016】
コーティングは、ペンキで被覆したり接着剤で接着した薄膜あるいはシートにより形成することができる。
【0017】
上記コーティングはロータブレードやその一部のみならず、風力装置の他の部分、例えば風力装置のタワー7及び/又はケーシング8にも施すことができる。ケーシング8は通常ポッドとも呼ばれて、タワーの上端に設けられており、環境の影響を直接受けてはならない風力装置の発電機あるいは他の部分を規則正しく囲繞している。この点で、コーティングはタワーあるいはロータブレード及び/又はケーシングの外面ばかりでなく、内部に施してもよい。この目的で、水滴の溝(図示せず)を内側及び/又は外側に設けるのが好ましく、こうすることで、例えばタワー及び/又はケーシングを流れ出る水を制御しながら収集して運搬することができる。そのような溝は、タワー壁上でタワーの長手軸に対し略垂直に(あるいはそれに対し僅かに傾斜して)延在するのが好ましく、収集された液体は、それに接続された立下り管により運搬される。
【0018】
別の対応策として、あるいは、上記構造に追加して、騒音発生の減少は、「シャークスキン」の形体の特殊な表面を有するロータブレードにより達成することができる。このような表面は、シートあるいは薄膜のコーティングにより得ることができる。そのような薄膜やシートは、例えば3M社により、型番3M 8691"Drag Reduction Tape (Riblet Tape)"で販売されている。薄膜やシートは、航空機産業からの注文を受けて、特殊な「シャークスキン」面により航空機の燃料を節約する目的で開発された。
【0019】
そのような「シャークスキン薄膜」の構造は、例えばDittrich W. Bechert (Abteilung Turbolenzforschung des Deutschen Zentrums fur Luft- und Raumfahrt (DLR) − Turbulence Research Division of the German Aerospace Centre)の刊行物により公知である。「シャークスキン薄膜」(コーティング)の構造は、欧州特許第0846617号公報、独国特許第3609541号公報あるいは独国特許第3414554号公報にとりわけ詳しく記載されている。繰り返しを避けるため、全ての上記刊行物の内容は、本願の内容に含まれているものとする。
【0020】
航空機の場合の音はエンジンにより基本的に決定されるので、航空機から発生する音は、航空機(翼)の動力学的現象により発生する音が可聴閾値以下の感知できないレベルまでには低減できない。
【0021】
シャークスキン(対応する面の下)の原理に基づく薄膜は、Abteilung Turbolenzforschung des Deutschen Zentrums fur Luft- und Raumfahrt (DLR)( Turbulence Research Division of the German Aerospace Centre)のDietrich W. Bechertが指導するエンジニアチームによりベルリン技術大学で開発された。そのような「シャークスキン」薄膜の場合、薄膜の表面は、流れの方向に延びる細かいチャネル11が設けられている。このチャネルは連続的ではなく、図3に示されるように互いにずれた関係にあるパネル(うろこ状の薄片)12に形成されている。図示した例では、「薄片」12は、長手方向が風力装置のロータブレードの半径rに対し垂直(あるいは平行)に配向した長さの異なる五つのチャネル11を持つ。この場合、チャネル11(あるいはリブ)の高さHはチャネルの間隔sの約30〜70%であり、チャネル(リブ)は楔状の形状が好ましく、テーパ角は約5〜60°である。
【0022】
式s=(s/ny)√(tau0/rho)に基づくこの場合のシャークスキン薄膜面の横方向に延びるリブの標準間隔は12〜22である。ここで、sは横リブの間隔で、tau0は同じ流れに露出した平滑な基準面の壁体引張応力で、rhoは流体(空気)の密度で、nyは流体(空気)の動粘度である。この場合、標準化されたリブ間隔sは、定格運転時の風力装置のロータブレードの周速度(あるいは角速度)に応じて調節するのが好ましい。この点で、ロータブレードの先端あるいはロータブレードの先端領域(ロータブレード長さの約5〜25%)の周速度に応じて調節するのが好ましい。
【0023】
この場合のチャネル間隔sは、0.001〜0.15mmである。
【0024】
チャネル間隔及び/又は薄片間隔が異なる表面構造をロータブレードの全面に設けることも可能であり、標準化されたチャネル間隔は通常運転のロータの周速度に応じていつも調節される。
【0025】
リブの横の凸部は、横リブ間隔sの最大50%、好ましくは最大20%の曲率半径を持つのがよい。
【0026】
リブ間のシャークスキンの表面は横リブ間隔の少なくとも200%の曲率半径を持つのが好ましい。これは、図4の拡大断面図に示されている。
【0027】
初期のテストによれば、上記シャークスキン薄膜(したがって、上述のような対応する面も)を有するロータブレードを備えたロータの発生音は約0.2〜3dB(周速度と風の状態による)だけ減少できることが分かっている。
【0028】
別の対応策として、あるいは、上記発生音低減対策に追加した対応策として、ロータブレードの一部、特にロータブレードの前縁に耐蝕性ラッカーやペンキを塗布することもできる。例えば、テフロン状の表面性状を有する耐溶媒性2成分PURラッカーをそのような耐蝕性ラッカーとして提供することができる。これまで、汚れた粒子/雨/あられ等によるロータブレードの前縁の腐食を防止するために耐蝕性薄膜やシートをロータブレードの前縁に接着したことがあった。そのような薄膜の接着は非常に複雑で難しく、運転中早期に剥離することがないように、十分な注意を払って行う必要がある。最大限の注意を払っても、貼り付けられた薄膜が剥離することもしばしばあり、ある状況下では、運転中の発生音レベルが増大することもある。いずれにしても、剥離したり突出した薄膜片(薄膜の角部)はロータブレードに再び固着したり、新しい薄膜を取り付ける必要があるので、多大の費用がかかる。
【0029】
Coelan社が型番VP 1970Mで提供している滑りシーラントは耐蝕性ラッカーとして好適で、公知の耐蝕性薄膜の問題を解消することができる。これは、テフロンのような表面性状を有する耐溶媒性2成分PURラッカーを含み、次のような特性を持つ。
固形分: 成分A :約60%
成分B :約 5%
混合物 :約32%
引火点: −22℃
密度: 成分A :1.11g/cm(20℃)
成分B :0.83g/cm(20℃)
粘度: 成分A :約80sDIN4(23℃)
成分B :<10sDIN4(23℃)
加工時間: 密閉容器内で約16時間
スキンニング:約30分(20℃;相対湿度50%)
不粘着性: 約2時間後(20℃;相対湿度50%)
完全乾燥: 約96時間(20℃;相対湿度50%)
振り子かたさ(Pendulum hardness): 147秒(Konig;DIN53157
に基づく)
早期耐候性: Q−パネル装置で2350時間のUV−Aに耐える
(QUV−テスト): Q−パネル装置で2430時間のUV−Bに耐える
混合比: 成分A :100重量部
成分B :100重量部
【0030】
このラッカーはボート製造のために開発されたが、騒音発生を低減するためにロータブレードにそれを使用することはこれまで提案されたことがなく、公知の耐蝕性薄膜と置換でき、その問題を解消することができる点で極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】三つのロータブレードを有するロータを備えた風力装置の正面図である。
【図2】ロータブレートの一部の断面図である。
【図3】流れの方向に延びる細かいチャネルが形成されたシャークスキン薄膜の部分拡大正面図である。
【図4】リブ間のシャークスキン表面を示す拡大断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータブレードが発生する音を低減する手段を備え、該手段は少なくともロータブレードの表面部に設けられた流体反発層及び/又は面により形成されている風力装置用ロータブレード。
【請求項2】
上記流体反発層は、ロータブレードの回転により音が基本的に発生する部分に少なくとも設けられたことを特徴とする請求項1に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項3】
ロータブレードの微小構造に凹凸を付与する少なくとも部分コーティングを備え、水滴及び/又は着氷(氷の結晶)がロータブレード表面に保持されることがなく、風力装置の運転中におけるロータブレードの発生音を低減するようにした請求項1あるいは2に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項4】
ロータブレードの表面には少なくとも部分的にコーティングが設けられており、ロータブレードの表面は、コーティングされた領域がコーティングされていない領域より柔らかい請求項1乃至3のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項5】
凸部と凹部を有する表面構造を層が備え、凸部の間隔は2〜250μmの範囲で、凸部の高さHは約2〜250μmの範囲で、凸部は、自然雨により分離しない疎水性ポリマあるいは永続的に疎水化された材料製である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項6】
疎水性層が、シャークスキンと同様に形成された面を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項7】
ロータブレードが主流れ方向を有する乱流が流れる壁面を有し、主流れ方向に配向されるとともに主流れ方向に対し横方向に離間したリブの高さはリブの間隔の約30〜70%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項8】
リブは楔状の形状を有し、テーパ角は約10〜60°であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項9】
標準化された横リブの間隔
=(s/ny)√(tau0/rho)
は12〜22であり、sは横リブの間隔で、tau0は同じ流れに露出した平滑な基準面の壁体スラスト応力で、rhoは流体の密度で、nyは流体の動粘度であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項10】
標準化されたリブ間隔sは、ロータブレードの周速度に適合され、(通常運転中の)ロータブレードの先端領域の周速度に適合されたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項11】
横リブ間隔sは、0.001〜0.15mmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項12】
リブの横の凸部は、横リブ間隔sの最大5〜35%の曲率半径を持つことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項13】
リブ間の表面は横リブ間隔の少なくとも100%、好ましくは200〜400%の曲率半径を持つことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項14】
ロータブレードの一部、好ましくはロータブレードの前縁には、テフロン状の表面性状を有する耐蝕性ラッカーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項15】
耐蝕性ラッカーが耐溶媒性2成分PURラッカーであることを特徴とする請求項14に記載の風力装置用ロータブレード。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載のロータブレードを備えた風力装置。
【請求項17】
少なくとも一つのロータブレードを有するロータと、タワーと、風力装置の少なくとも一つの発電機を囲繞するケーシング(ポッド)とを備え、上記ロータブレード、タワー(内側あるいは外側)及び/又はケーシング(ポッド)の少なくとも一つは上記請求項のいずれか一つに記載の疎水性層を有し、該疎水性層はロータブレード、タワー及び/又はケーシングの少なくとも表面部に形成されている風力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−125395(P2006−125395A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302004(P2005−302004)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【分割の表示】特願2000−587075(P2000−587075)の分割
【原出願日】平成11年12月9日(1999.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500017944)アロイス・ヴォベン (107)
【Fターム(参考)】