説明

風向調整装置

【課題】見栄えが良好で、部品点数の増加に起因する製造コストの増加を防止できる風向調整装置を提供する。
【解決手段】吹出口51を有し、上下方向及び左右方向に沿ってケース体21に対して相対的に移動可能な可動フィニッシャ42を備える。可動フィニッシャ42のケース体21側に、可動フィニッシャ42とともにケース体21に対して左右方向に移動可能で上下方向への移動を規制したケース枠22及びスペーサを備える。複数の垂直風向調整羽根13は、可動フィニッシャ42のケース体21に対する左右方向への移動に伴うケース枠22とケース体21との相対的な位置変化により左右方向に回動する。複数の水平風向調整羽根14は、可動フィニッシャ42のケース体21に対する上下方向への移動に伴う可動フィニッシャ42とスペーサとの相対的な位置変化により上下方向に回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一の風向調整羽根及び他の風向調整羽根により風向を制御する風向調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両に用いられる空調装置において、風を吹き出す吹出口に備えられる風向調整装置は、空調風吹出装置、エアアウトレット、ベンチレータ、レジスタなどとも呼ばれ、例えばインストルメントパネルやセンターコンソール部に設置された後席空調用のもの、あるいは、オーバーヘッドコンソール部、センターピラーやドアトリムなどに設置された、いわゆるミニバン車の第2列(中間列)及び第3列(最後列)の空調用のものなどが知られており、冷暖房による快適性能の向上に寄与している。
【0003】
そして、このような風向調整装置としては、風を受け入れる受入口及びこの受入口に連通する連通口を有し内部に風路を区画する角筒状のケース体と、風を吹き出す四角形状の吹出口を有しケース体の連通口に設けられたフィニッシャと、ケース体の内部に左右方向に回動可能に軸支された複数の一の風向調整羽根としての垂直風向調整羽根(Vルーバ)と、ケース体の内部にてこれら垂直風向調整羽根よりも風の下流側に上下方向に回動可能に軸支された複数の他の風向調整羽根としての水平風向調整羽根(Hルーバ)とを備えた構成が知られている。そして、垂直風向調整羽根のそれぞれと、水平風向調整羽根のそれぞれとは、リンク機構により互いに連結されており、これら風向調整羽根は、フィニッシャに設けられた開口部から露出するダイヤルを用いて回動角度を調整するように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−89344号公報 (第5−7頁、第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の風向調整装置では、フィニッシャにダイヤル用の開口部を設ける必要があるため、見栄えが良好でないとともに、各ダイヤルとともに各リンク機構などが必要であるため、部品点数の増加によって製造コストが増加するという問題点を有している。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、見栄えが良好で、部品点数の増加に起因する製造コストの増加を防止できる風向調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の風向調整装置は、風を受け入れる受入口を備えたケース体と、このケース体の前記受入口に受け入れた風を吹き出す吹出口を備え、少なくとも一の往復方向及びこの一の往復方向と交差する他の往復方向に沿って前記ケース体に対して相対的に移動可能な移動部材と、この移動部材とともに一の往復方向に沿って前記ケース体に対して移動可能であるとともに、前記ケース体に対する他の往復方向への移動が規制された係合部と、この係合部側と前記ケース体側とのいずれか一方にそれぞれ回動可能に軸支されるとともに他方に係合され、前記移動部材の前記ケース体に対する一の往復方向への移動に伴う前記係合部と前記ケース体との相対的な位置変化により一の往復方向に沿う方向へとそれぞれ回動される複数の一の風向調整羽根と、前記移動部材側にそれぞれ回動可能に軸支されるとともに前記係合部に係合され、前記移動部材の前記ケース体に対する他の往復方向への移動に伴う前記移動部材と前記係合部との相対的な位置変化により他の往復方向に沿う方向へとそれぞれ回動される複数の他の風向調整羽根とを具備したものである。
【0008】
請求項2記載の風向調整装置は、請求項1記載の風向調整装置において、係合部は、複数の一の風向調整羽根がそれぞれ係合され受入口から吹出口への風路の一部をなす一の係合部材と、この一の係合部材と別体で、この一の係合部材に固定され、複数の他の風向調整羽根がそれぞれ係合されるとともに、前記風路の外側に位置する他の係合部材とを備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の風向調整装置によれば、移動部材を一の往復方向、あるいはこの一の往復方向と交差する他の往復方向に移動させるだけで複数の一の風向調整羽根、あるいは複数の他の風向調整羽根をそれぞれ各往復方向に沿って回動させることができるので、例えば各風向調整羽根の回動用の操作部を別途設けたり、この操作部用の開口部を移動部材に設けたりする必要がなく、見栄えが良好になるとともに、各風向調整羽根を連結するリンク機構なども不要となり、部品点数の増加に起因する製造コストの増加を防止できる。
【0010】
請求項2記載の風向調整装置によれば、請求項1記載の風向調整装置の効果に加え、複数の一の風向調整羽根を、受入口から吹出口への風路の一部をなす一の係合部材にそれぞれ係合するとともに、複数の他の風向調整羽根を、風路の外側に位置し一の係合部材と別体の他の係合部材にそれぞれ係合することにより、一の係合部材及び他の係合部材のそれぞれが風路内の抵抗となることがなく、風切り音及び通気抵抗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の風向調整装置の一実施の形態の図7のA−A相当位置の断面図であり、(a)は他の風向調整羽根の中立位置を示し、(b)は他の風向調整羽根を上方向へと回動させた状態を示し、(c)は他の風向調整羽根を下方向へと回動させた状態を示す。
【図2】同上風向調整装置の図7のB−B相当位置の断面図であり、(a)は一の風向調整羽根の中立位置を示し、(b)は一の風向調整羽根を左方向へと回動させた状態を示し、(c)は一の風向調整羽根を右方向へと回動させた状態を示す。
【図3】同上風向調整装置の他の係合部材を示す斜視図である。
【図4】同上風向調整装置の一の風向調整羽根を示す斜視図である。
【図5】同上風向調整装置の他の風向調整羽根を示す斜視図である。
【図6】同上風向調整装置を示す分解斜視図である。
【図7】同上風向調整装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の風向調整装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図6及び図7において、10は風向調整装置を示し、この風向調整装置10は、例えば自動車などの車両に備えられた空調装置などからの風の向き、すなわち風向を調整する空調用のもので、図示しないが、自動車の内装部材、例えばインストルメントパネルやセンターコンソール、オーバーヘッドコンソール部、センターピラーあるいはドアトリムなどの被設置部に設置されている。
【0014】
そして、この風向調整装置10は、エアアウトレット、ベンチレータ、レジスタなどとも呼ばれ、ケース部11と、このケース部11に取り付けられる意匠部としてのフィニッシャ部12と、ケース部11に取り付けられる複数、例えば5枚の一の風向調整羽根としての垂直風向調整羽根13と、フィニッシャ部12に取り付けられる複数、例えば6枚の他の風向調整羽根としての水平風向調整羽根14とを備えている。そして、この風向調整装置10は、例えば合成樹脂により形成されている。
【0015】
ケース部11は、ケース体21と、このケース体21に嵌合される一の係合部材としてのケース枠22とを有している。
【0016】
ケース体21は、例えば空調装置などからの風を受け入れる導入口である受入口24を一端側に有しこの受入口24に連通する連通口25を他端に有する角筒状のケース体本体26と、このケース体本体26の連通口25に連続する角筒状(四角形枠状)のケース体枠部27とを一体に備えている。なお、以下、ケース体21内をケース体本体26からケース体枠部27へと通過する風の下流側を前側、上流側を後側とし、この前後方向に対して直交する方向を水平方向あるいは幅方向である左右方向(矢印L,R方向)、及びこれら前後方向及び左右方向に対して直交する方向を上下方向(矢印U,D方向)として説明する。
【0017】
ケース体本体26の前側の上下には、垂直風向調整羽根13のそれぞれと係合される複数のU字溝であるガイド溝31が形成されている。これらガイド溝31は、それぞれ前後方向に沿って形成され、幅方向に互いにほぼ等間隔に離間されており、前側がケース体枠部27へと連続して開放され、後側が円弧状となっている。
【0018】
ケース体枠部27は、ケース体本体26と同軸で、かつ、このケース体本体26よりも断面形状が大きく形成されている。したがって、このケース体枠部27は、ケース体本体26の連通口25に対して段差状に拡開して連続している。また、このケース体枠部27の前部は、フィニッシャ部12の後部に連結されている。
【0019】
また、ケース枠22は、ケース体本体26の連通口25とほぼ等しい断面形状を有する上流側枠部としての後側枠部33と、この後側枠部33の前部に連続する下流側枠部としての前側枠部34とを一体に備えており、ケース体枠部27内に一の往復方向である左右方向(水平方向)に沿って移動可能に嵌合されている。そして、このケース枠22は、連通口25からの風を内部に通過させて下流側へと導くように構成されている。
【0020】
後側枠部33の上下には、垂直風向調整羽根13のそれぞれを回動可能に軸支する軸支穴36が貫通して形成されている。
【0021】
また、前側枠部34は、後側枠部33と同軸で、かつ、この後側枠部33よりも断面形状が大きく形成されている。したがって、この前側枠部34は、後側枠部33に対して段差状に拡開して連続している。また、この前側枠部34の上下の外面部は、それぞれケース体枠部27の上下の内面部に当接している。このため、ケース枠22は、ケース体21に対する他の往復方向である上下方向への移動が規制されている。
【0022】
また、フィニッシャ部12は、板状の固定部としての固定フィニッシャ41と、この固定フィニッシャ41に対して可動的に嵌合される移動部材としての可動部である可動フィニッシャ42と、この可動フィニッシャ42に可動的に組み付けられる他の係合部材としてのスペーサ43とを有している。
【0023】
図1、図2及び図6に示すように、固定フィニッシャ41は、自動車のインストルメントパネルなどの被設置部に一体的に構成される板状の部材であり、ケース体21のケース体本体26の前端部を覆っている。また、この固定フィニッシャ41には、ケース体枠部27を介して連通口25と連通する四角形状の開口部45が形成されている。さらに、この固定フィニッシャ41の開口部45の後部の外方には、ケース体21と連結される第1の連結部46と、ケース枠22と連結される第2の連結部47とが突設されている。
【0024】
第1の連結部46は、開口部45の両側外方に位置しており、ケース体21のケース体枠部27の前端部の外面部に係合されている。また、第2の連結部47は、開口部45の上下外方に位置しており、ケース枠22の前側枠部34に設けられたガイド孔部48に挿入されて係合されている。このガイド孔部48は、左右幅方向に沿って長孔状に形成されている。
【0025】
また、可動フィニッシャ42は、連通口25及びケース枠22を通過した風が吹き出される吹出口51を中央部に備えた四角形枠状の被操作部としての意匠面部52と、この意匠面部52の後部に連続する四角形枠状の羽根軸支部としての枠部53とを一体に備えており、この枠部53が固定フィニッシャ41の開口部45に前部から嵌合されて、全方向移動可能に位置している。したがって、可動フィニッシャ42は、固定フィニッシャ41の意匠面である前面に沿って、ケース体21に対して左右方向及び上下方向に可動自在となっている。そして、この可動フィニッシャ42は、ケース枠22を通過した風を吹出口51から吹き出すように導くものである。すなわち、風向調整装置10には、ケース体21の受入口24から受け入れた風を、連通口25、ケース枠22及び可動フィニッシャ42を介して吹出口51へと導く風路(エア通路)54が形成されている。
【0026】
意匠面部52は、板状に形成され、固定フィニッシャ41の前面に露出して風向調整装置10の意匠面を構成するとともに使用者によって操作される部分であり、可動フィニッシャ42を移動させた際に固定フィニッシャ41の前面に沿って摺接するように構成されている。
【0027】
また、枠部53は、吹出口51の外縁部に沿って位置しており、後方に向けて突出してケース枠22の前側に対向している。さらに、この枠部53の両側、すなわち吹出口51の左右両側部には、各水平風向調整羽根14を回動可能に軸支する軸支孔部55が形成されている。さらに、この枠部53の後端部には、可動フィニッシャ42の上下方向の可動範囲を規定する規制部としての規制突出片部56が上下にそれぞれ突設されているとともに、可動フィニッシャ42とケース枠22とを連結する連結突出部57が左右両側にそれぞれ突設されている。規制突出片部56は、先端側がケース枠22の前側枠部34に間隙を介して対向しており、この間隙が可動フィニッシャ42のケース枠22に対する可動範囲(ストローク)として設定される。また、連結突出部57は、ケース枠22の前側枠部34に設けられた連結孔部58にそれぞれ挿入されて係合されている。
【0028】
また、スペーサ43は、図2、図3及び図6に示すように、板状に形成されており、可動フィニッシャ42の枠部53(図1)の一側の外側、すなわち吹出口51の外方、換言すれば可動フィニッシャ42とケース枠22との間である風路54の外側に、上下方向に沿って位置している。このスペーサ43の外面、すなわちケース枠22に対向する一主面には、このスペーサ43をケース枠22に対して係止固定する係止突出部61が前後方向に沿ってリブ状に複数突設されている。したがって、このスペーサ43は、ケース枠22に一体的に保持されており、このケース枠22とともに、ケース体21に対して左右方向に移動可能であるとともに上下方向への移動が規制される係合部62(図6)を構成している。また、このスペーサ43の内面、すなわち可動フィニッシャ42に対向する他主面には、各水平風向調整羽根14と係合される羽根係合部としてのピン63が複数突設されている。これらピン63は、可動フィニッシャ42の枠部53(図1)の一側にて各連結孔部58の下方にそれぞれ貫通して形成された図示しない挿通孔に挿通されて可動フィニッシャ42の内方に突出している。
【0029】
また、各垂直風向調整羽根13は、後羽根、あるいはVルーバなどとも呼ばれるもので、図4及び図6に示すように、平板状に形成されており、上下方向に沿ってそれぞれ配置されている。これら垂直風向調整羽根13の上下端部には、回動軸65と摺動軸66とが突設されている。各回動軸65は、各摺動軸66に対して相対的に前方に離間されて位置し、ケース枠22の後側枠部33の軸支穴36に挿入されて保持されている。また、各摺動軸66は、各垂直風向調整羽根13の例えば後端に位置しており、ケース体21のケース体本体26のガイド溝31に挿入されて保持されている。したがって、各垂直風向調整羽根13は、係合部62を構成するケース枠22内に左右方向に回動可能に軸支され、ケース体21に係合されている。
【0030】
また、各水平風向調整羽根14は、前羽根、あるいはHルーバなどとも呼ばれるもので、図5及び図6に示すように、平板状に形成されており、水平方向に沿ってそれぞれ配置されている。これら水平風向調整羽根14の左右端部には、回動軸68が突設されている。また、これら水平風向調整羽根14の一端部の下側には、スペーサ43のピン63がそれぞれ挿入されるカム溝71を備えた嵌合受け部72が突設されている。各回動軸68は、各水平風向調整羽根14の前部に位置し、可動フィニッシャ42の軸支孔部55(図2)に挿入されて保持されている。したがって、各水平風向調整羽根14は、吹出口51に上下方向に回動可能に軸支され、係合部62を構成するスペーサ43に係合されている。さらに、各カム溝71は、例えば下側に湾曲する円弧状に形成されており、回動軸68に対して後側に離れるほど下方に位置している。
【0031】
次に、風向調整装置10の組み立て工程を図1、図2及び図6を参照しながら説明する。
【0032】
まず、可動フィニッシャ42に対して、各水平風向調整羽根14とスペーサ43とを組み付ける。すなわち、可動フィニッシャ42の各軸支孔部55に対して各水平風向調整羽根14の回動軸68を挿入するとともに、可動フィニッシャ42の各挿通孔に対してスペーサ43の各ピン63を挿入し、これらピン63の先端側を各水平風向調整羽根14のカム溝71に挿入する。
【0033】
次いで、ケース枠22に対して、各垂直風向調整羽根13を組み付ける。すなわち、ケース枠22の各軸支穴36に対して各垂直風向調整羽根13の回動軸65を挿入する。
【0034】
さらに、可動フィニッシャ42とケース枠22との間に固定フィニッシャ41を挟み、可動フィニッシャ42とケース枠22とを組み付ける。すなわち、可動フィニッシャ42の意匠面部52とケース枠22の前側枠部34との間に固定フィニッシャ41を挟み、この固定フィニッシャ41の第2の連結部47をケース枠22のガイド孔部48に挿入係合するとともに、可動フィニッシャ42の連結突出部57をケース枠22の連結孔部58に挿入係合する。
【0035】
そして、この状態で、固定フィニッシャ41の背面側にケース体21を組み付ける。すなわち、ケース体21のケース体枠部27に対して固定フィニッシャ41の第1の連結部46を係合させて、固定フィニッシャ41とケース体21とを一体的に固定する。
【0036】
この状態で、可動フィニッシャ42の規制突出片部56,56とケース枠22との間には、上下方向に間隙が形成されている。このため、可動フィニッシャ42は、ケース枠22に対して相対的に上下方向に移動可能となっている。また、ケース枠22の左右両側とケース体21のケース体枠部27との間には、左右方向に間隙が形成され、上下方向に間隙がない状態となっている。このため、ケース枠22及びこのケース枠22に固定されたスペーサ43は、ケース体21に対して可動フィニッシャ42と一体的に左右方向に移動可能であり、かつ、上下方向には移動不可能となっている。
【0037】
次に、風向調整装置10の風向制御動作を説明する。
【0038】
例えば吹出口51からの風の吹き出し方向を上下方向に制御する場合には、使用者は、図1に示すように、意匠面部52を指先などで操作することで可動フィニッシャ42を固定フィニッシャ41(ケース体21)に対して相対的に上下に移動させることにより、可動フィニッシャ42とスペーサ43(図2)との上下方向への相対的な位置変化によって各水平風向調整羽根14を上下方向に回動させる。
【0039】
より詳細には、例えば図1(a)に示す中立位置から、可動フィニッシャ42の意匠面部52に上方向への外力を加えると、この可動フィニッシャ42が固定フィニッシャ41の前面に沿って相対的に上方へと摺動し、この可動フィニッシャ42の軸支孔部55に挿入された各水平風向調整羽根14の回動軸68が一体的に上方へと移動する。一方で、各水平風向調整羽根14のカム溝71には、スペーサ43(図2)のピン63がそれぞれ挿入されており、スペーサ43(図2)はケース枠22とともにケース体21の上方への移動が規制されているため、各水平風向調整羽根14に対してピン63の位置が相対的に下方へと変化する。この結果、カム溝71の形状によって、図1(b)に示すように、各水平風向調整羽根14は、回動軸68を中心として、後側が相対的に下方へと、換言すれば前側が相対的に上方へと傾斜するように、すなわち図1(b)に示す反時計回り方向へと、互いにほぼ平行な状態を保ちつつ回動する。このため、ケース体21の受入口24から受け入れた風は、ケース体本体26内を通過し、連通口25に位置する各垂直風向調整羽根13により左右方向の風向が制御された後、各水平風向調整羽根14により風向が上方向へと制御され、吹出口51から上方に向けて(上方向の成分を有する風向で)吹き出す。
【0040】
また、例えば図1(a)に示す中立位置から、可動フィニッシャ42の意匠面部52に下方向への外力を加えると、この可動フィニッシャ42が固定フィニッシャ41の前面に沿って相対的に下方へと摺動し、この可動フィニッシャ42の軸支孔部55(図2)に挿入された各水平風向調整羽根14の回動軸68が一体的に下方へと移動する。一方で、各水平風向調整羽根14のカム溝71には、スペーサ43(図2)のピン63がそれぞれ挿入されており、スペーサ43(図2)はケース枠22とともにケース体21の下方への移動が規制されているため、各水平風向調整羽根14に対してピン63の位置が相対的に上方へと変化する。この結果、カム溝71の形状によって、図1(c)に示すように、各水平風向調整羽根14は、回動軸68を中心として、後側が相対的に上方へと、換言すれば前側が相対的に下方へと傾斜するように、すなわち図1(c)に示す時計回り方向へと、互いにほぼ平行な状態を保ちつつ回動する。このため、ケース体21の受入口24から受け入れた風は、ケース体本体26内を通過し、連通口25に位置する各垂直風向調整羽根13により左右方向の風向が制御された後、各水平風向調整羽根14により風向が下方向へと制御され、吹出口51から下方に向けて(下方向の成分を有する風向で)吹き出す。
【0041】
なお、可動フィニッシャ42を最下部まで移動させた場合には、図1(c)の実線に示すように、全ての水平風向調整羽根14が断面視で上下方向に沿って互いにほぼ隙間なく密着して吹出口51の上下に亘って面状となり、吹出口51が閉塞された全閉状態となる。
【0042】
一方、吹出口51からの風の吹き出し方向を左右方向に制御する場合には、使用者は、図2に示すように、意匠面部52を指先などで操作することで可動フィニッシャ42を固定フィニッシャ41(ケース体21)に対して相対的に左右に移動させることにより、ケース枠22とケース体21との左右方向への相対的な位置変化によって各垂直風向調整羽根13を左右方向に回動させる。
【0043】
より詳細には、例えば図2(a)に示す中立位置から、可動フィニッシャ42の意匠面部52に左方向への外力を加えると、この可動フィニッシャ42が固定フィニッシャ41の前面に沿って相対的に左方へと摺動し、この可動フィニッシャ42とともにケース枠22(及びスペーサ43)が一体的に左方へと移動する。このため、ケース枠22の軸支穴36(図1)に挿入された各垂直風向調整羽根13の回動軸65が一体的に左方へと移動する。一方で、各垂直風向調整羽根13の摺動軸66は、ケース体21のガイド溝31にそれぞれ挿入されて左右方向への移動が規制されているため、図2(b)に示すように、各垂直風向調整羽根13は、摺動軸66がガイド溝31に沿って前方へと摺動しつつ、回動軸65を中心として前側が相対的に左方へと傾斜するように、換言すれば図2(b)に示す時計回り方向へと、互いにほぼ平行な状態を保ちつつ回動する。このため、ケース体21の受入口24から受け入れた風は、ケース体本体26内を通過し、連通口25に位置する各垂直風向調整羽根13により左方向に向けて風向が制御された後、各水平風向調整羽根14により上下方向の風向が制御され、吹出口51から左方に向けて(左方向の成分を有する風向で)吹き出す。
【0044】
また、例えば図2(a)に示す中立位置から、可動フィニッシャ42の意匠面部52に右方向への外力を加えると、この可動フィニッシャ42が固定フィニッシャ41の前面に沿って相対的に右方へと摺動し、この可動フィニッシャ42とともにケース枠22(及びスペーサ43)が一体的に右方へと移動する。このため、ケース枠22の軸支穴36に挿入された各垂直風向調整羽根13の回動軸65が一体的に右方へと移動する。一方で、各垂直風向調整羽根13の摺動軸66は、ケース体21のガイド溝31にそれぞれ挿入されて左右方向への移動が規制されているため、図2(c)に示すように、各垂直風向調整羽根13は、摺動軸66がガイド溝31に沿って前方へと摺動しつつ、回動軸65を中心として前側が相対的に右方へと傾斜するように、換言すれば図2(c)に示す反時計回り方向へと、互いにほぼ平行な状態を保ちつつ回動する。このため、ケース体21の受入口24から受け入れた風は、ケース体本体26内を通過し、連通口25に位置する各垂直風向調整羽根13により右方向に向けて風向が制御された後、各水平風向調整羽根14により上下方向の風向が制御され、吹出口51から右方に向けて(右方向の成分を有する風向で)吹き出す。
【0045】
なお、上下方向の風向制御と左右方向の風向制御とのそれぞれについて説明したが、上下方向の風向制御時の可動フィニッシャ42とスペーサ43との上下方向の相対的な位置関係と、ケース枠22とケース体21との左右方向の相対的な位置関係とは、一方の変化によって他方は変化しない、すなわちこれらの風向制御は互いに独立しているため、それぞれを組み合わせることで任意の方向に風向を制御することが可能である。例えば、可動フィニッシャ42を左上方向に移動させると、上記の各動作によって、各垂直風向調整羽根13が左方に回動するとともに各水平風向調整羽根14が上方に回動するため、吹出口51から左上方向に向けて風を吹き出すことができる。
【0046】
このように、本実施の形態によれば、可動フィニッシャ42を一の往復方向である左右方向、あるいはこの一の往復方向と交差(直交)する他の往復方向である上下方向に移動させるだけで複数の垂直風向調整羽根13、あるいは複数の水平風向調整羽根14をそれぞれ左右方向、あるいは上下方向に沿って回動させることができるので、例えば各風向調整羽根13,14の回動用の操作部(ダイヤル)を別途設けたり、この操作部用の開口部を可動フィニッシャ42の意匠面部52に設けたりする必要がなく、見栄えが良好になるとともに、各風向調整羽根13,14同士を連結するリンク機構なども不要となり、部品点数の増加に起因する製造コストの増加を防止できる。
【0047】
また、複数の垂直風向調整羽根13を、受入口24から吹出口51への風路54の一部をなすケース枠22にそれぞれ係合するとともに、複数の水平風向調整羽根14を、風路54の外側に位置しケース枠22と別体のスペーサ43にそれぞれ係合することにより、各風向調整羽根13,14を動作させるケース枠22及びスペーサ43のそれぞれが風路54内の抵抗となることがなく、風切り音及び通気抵抗を抑制できる。
【0048】
しかも、複数の操作部を用いることなく、可動フィニッシャ42を全方向に移動させることによって全方向の風向を制御できるので、操作性が良好で、操作の自由度が高く、風向を意図した方向へと容易に向けることができる。
【0049】
なお、上記の一実施の形態において、吹出口51は、例えば楕円形状など、各水平風向調整羽根13を軸支可能な任意の形状とすることができる。
【0050】
また、係合部62としては、ケース枠22とスペーサ43とを一体とした構成としてもよい。
【0051】
さらに、各垂直風向調整羽根13は、ケース体21側に軸支し係合部62側に係合してもよい。
【0052】
そして、風向調整装置10は、車両用に限らず、任意の空調装置などの風向の調整に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば自動車の空調用の風向調整装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 風向調整装置
13 一の風向調整羽根としての垂直風向調整羽根
14 他の風向調整羽根としての水平風向調整羽根
21 ケース体
22 一の係合部材としてのケース枠
24 受入口
42 移動部材としての可動フィニッシャ
43 他の係合部材としてのスペーサ
51 吹出口
54 風路
62 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を受け入れる受入口を備えたケース体と、
このケース体の前記受入口に受け入れた風を吹き出す吹出口を備え、少なくとも一の往復方向及びこの一の往復方向と交差する他の往復方向に沿って前記ケース体に対して相対的に移動可能な移動部材と、
この移動部材とともに一の往復方向に沿って前記ケース体に対して移動可能であるとともに、前記ケース体に対する他の往復方向への移動が規制された係合部と、
この係合部側と前記ケース体側とのいずれか一方にそれぞれ回動可能に軸支されるとともに他方に係合され、前記移動部材の前記ケース体に対する一の往復方向への移動に伴う前記係合部と前記ケース体との相対的な位置変化により一の往復方向に沿う方向へとそれぞれ回動される複数の一の風向調整羽根と、
前記移動部材側にそれぞれ回動可能に軸支されるとともに前記係合部に係合され、前記移動部材の前記ケース体に対する他の往復方向への移動に伴う前記移動部材と前記係合部との相対的な位置変化により他の往復方向に沿う方向へとそれぞれ回動される複数の他の風向調整羽根と
を具備したことを特徴とする風向調整装置。
【請求項2】
係合部は、
複数の一の風向調整羽根がそれぞれ係合され受入口から吹出口への風路の一部をなす一の係合部材と、
この一の係合部材と別体で、この一の係合部材に固定され、複数の他の風向調整羽根がそれぞれ係合されるとともに、前記風路の外側に位置する他の係合部材とを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の風向調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233668(P2012−233668A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104537(P2011−104537)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】