説明

風味向上剤

【課題】 飲食品の風味を良好に向上すること。
【解決手段】 (a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を含む風味向上剤;(a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を飲食品に添加する、飲食品の風味向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味向上剤、風味向上方法及びこれを用いる飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、まろやかでコクのある熟成した風味が求められる飲食品の製造工程においては、風味を向上させるために、原材料を混合し殺菌などの加熱工程を経た後、一定期間放置するといういわゆる熟成工程を経てから流通・消費させる方法が取られてきた。
ところが、熟成した風味を有する飲食品を得るためには、長時間の熟成工程が必要で、工業的に大量に生産することは難しいのが実状である。また、この熟成感を有する飲食品を調製するための種々の方法(例えば特許文献1〜3参照)が検討されているが、未だ充分な効果が得られないことや、その価格も高いのが実状である。
例えば、特許文献1には、主成分のマローエキスに、イノシン酸ソーダ、タウリン、リン酸塩、D−リボース、動物蛋白質加水分解物、乳酸、ゼラチンペプチド及び水を加えて、92℃で3時間加熱して褐変反応し、この反応物に、次いでL−グルタミンを加え、100〜103℃で約2時間加熱濃縮してミート系エキス並の品質に改善されたボーン系エキスが開示されている。このボーン系エキスは、従来のエキス系調味料として、ミート系エキスに比較して呈味力が弱く、旨味・コク味が不足していた従来のボーン系エキスの呈味を改善したものである。
また、特許文献2には、濃口醤油、みりん、砂糖を混合して70〜80℃で0.5〜3時間攪拌混合して、この混合物の吸光度を特定の範囲に調整して製造された、塩カドがなく、だし感をよく感じるかえしが開示されている。
また、特許文献3には、シュクラロースをアルコール飲料に特定量添加することにより、シュクラロースの甘味がなく、アルコールの苦味を抑制することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−322848号公報
【特許文献2】特開2006−67849号公報
【特許文献3】特開平8−224075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた飲食品の風味向上剤、風味向上方法及びこれを用いる飲食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、飲食品の風味向上のための食品素材について鋭意検討した結果、グルコースを構成糖とするα1,6結合を有する分岐オリゴ糖と分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して、新規な食品素材である糖アミノ化合物複合体を得、この新規な食品素材を使用することによって、飲食品の風味を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕に係わる発明である。
〔1〕 (a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を含む風味向上剤。
〔2〕 前記分岐オリゴ糖が、イソマルトース、パノース及びイソマルトトリオースから選ばれる1種又は2種以上のものである前記〔1〕記載の風味向上剤。
〔3〕 前記糖組成物中、前記分岐オリゴ糖を15質量%以上含有する前記〔1〕又は〔2〕記載の風味向上剤。
〔4〕 前記アミノ化合物が、蛋白質分解物、ペプチド及びアミノ酸から選ばれる1種以上である前記〔1〕〜〔3〕の何れか1つ記載の風味向上剤。
〔5〕 前記アミノ化合物が、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン及びプロリンから選ばれる1種又は2種以上のものであるか、これを構成成分として有する蛋白質分解物若しくはペプチドである前記〔1〕〜〔4〕の何れか1つ記載の風味向上剤。
〔6〕 前記風味向上剤が、調味料用又はビール系飲料用である前記〔1〕〜〔5〕の何れか1つ記載の風味向上剤。
【0007】
〔7〕 (a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を飲食品に添加する、飲食品の風味向上方法。
【0008】
〔8〕 (a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を含む風味向上剤を添加した飲食品。
〔9〕 調味料又はビール系飲料である前記〔8〕記載の飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、飲食品の風味を良好に向上することができる。本発明により、簡便に、長期熟成によって得られるこくやまろやかさなどの好ましい風味を有する飲食品を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係わる「風味向上」とは、飲食品の風味を向上させる意味であり、これには飲食品の熟成感を向上させることなどが含まれる。
ここで、「熟成感を向上させる」とは、熟成期間を経ることによって得ることができる好ましい熟成風味(例えば、酢カドや塩カドなどのカドばった味や臭いをまろやかにしてコクや香ばしさが引き立てられた状態の風味)の飲食品にすることである。これによって、長期の熟成期間を経なくとも、全体としてまとまりのある風味の飲食品にすることが可能となる。
通常、熟成風味は、原材料を混合し加熱工程を経た後、一定時間放置すること、すなわち熟成期間を経ることにより得られるものである。
しかしながら、後記実施例に示すように、本発明の糖アミノ化合物複合体を用いることで、簡便に良好な風味(好適には長期熟成によって得られる熟成風味)を有する飲食品を調製することができる。このように、短時間で低コストに飲食品の風味を向上することができることは本発明の優れた点である。
【0011】
そして、本発明の糖アミノ化合物複合体は、後述のとおり前記分岐オリゴ糖組成物と前記低分子アミノ化合物を加熱処理することにより得ることが可能であるが、未反応物を含む加熱処理物のまま使用しても飲食品の風味を向上させることが可能である。これは本発明の糖アミノ化合物複合体が少量でも十分な効力を発揮するためと考える。
本発明の糖アミノ化合物複合体を飲食品(好適には、かえし、たれ類、つゆ類、みりん風調味料などの調味料及びビールなどの熟成風味が望まれる飲食品)に使用することによって、酸や醤油のカドばった風味を低減して味のまろやかさを向上し、鰹節の匂いや香ばしい香りが引き立てられた飲食品とすることができる。
また、本発明の糖アミノ化合物複合体は、飲食品における2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、トリメチルピラジンという香気成分を損なうことなく、プロピオン酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、イソ酪酸、吉草酸、酢酸などの酸味や酸臭を低減することができる。
このように、本発明の糖アミノ化合物複合体は、飲食品における味のまろやかさとコクかつ香りのマイルドさを向上、改善又は付与することが可能であることから、飲食品を長期間熟成させなくとも、簡便に長期熟成の好ましい風味を有する飲食品を調製することが可能となる。
【0012】
よって、本発明の糖アミノ化合物複合体は、飲食品の、風味向上(好適には、熟成風味の向上)などの方法に使用することが可能であり、これを有効成分として含有させる風味向上剤(好適には熟成風味向上剤)などに使用でき、さらに該風味向上剤などを製造するために使用することができる。
そして、本発明の糖アミノ化合物が少量でも風味向上作用などを発揮させやすいことから飲食品添加の使用コストの低減化、また使用時の簡便さで有利である。また、本発明の風味向上剤などの製造は、原料も安く、また加熱処理工程も煩雑でなく簡単な処理で行うことも可能であることから、低コスト化が可能であり、工業的生産においても適している。
【0013】
前記糖アミノ化合物複合体は、(a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られるものである。
【0014】
(a)少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物
本発明で原料として使用する糖組成物として、後述の「少なくともα1,6結合を1つ以上有する分岐オリゴ糖」の例示から選ばれる少なくとも1種又は2種以上のものを含有する糖組成物を使用すればよい。
本発明の「少なくともα1,6結合を1つ以上有する分岐オリゴ糖」は、グルコースを構成糖とする分岐オリゴ糖であって、糖鎖中に、少なくともα1,6結合を1つ以上有していればよく、α1,1結合、α1,2結合、α1,3結合、α1,4結合を有していてもよい。
前記分岐オリゴ糖は、2〜10個のグルコース分子が重合したもの(2〜10糖類)をいい、好ましくは2〜5糖類、より好ましくは2〜4糖類であり、更に好ましくは2〜3糖類である。
また、前記分岐オリゴ糖として、例えば、α−1,6グルコシド結合のみで構成されるオリゴ糖(例えば、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース等);α−1,4グルコシド結合とα−1、6結合とを有するオリゴ糖(例えば、パノース、イソパノース、イソマルトシルマルトース等)などが挙げられる。これらの1種又は2種以上のものを使用してもよい。
このなかの、イソマルトース、パノース及びイソマルトトリオースから選ばれる1種又は2種以上のものが、良好に飲食品の風味を向上するので、特に好ましい。
【0015】
本発明において、前記分岐オリゴ糖を原料とすることによって、これと後述する低分子アミノ化合物を加熱処理して得られた糖アミノ化合物複合体が良好に飲食品の風味を向上させることが可能である(実施例1〜4など参照)。これに対し、単糖であるブドウ糖、リボース及びキシロース(比較例2、7及び8参照)、通常良く甘味料として使用されている糖類である砂糖及び粉あめ(比較例3及6参照)、α1,4結合のマルトース及びその還元物であるマルチトール(比較例1及び5参照)、また機能性が高いオリゴ糖とされているトレハロース(比較例4参照)を原料として使用することによって得られた加熱処理物では、飲食品の風味を向上させることができない。すなわち、後記低分子アミノ化合物と組み合わせる際に、前記分岐オリゴ糖であることが飲食品の風味を向上させる上で極めて重要であることが明らかである。
【0016】
前記分岐オリゴ糖(好適には分岐2〜3糖類)は、糖組成物中、好ましくは15質%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量以上、より更に好ましくは50質量%以上、より55質量%以上、より70質量%以上、より85質量%以上含有するものが、好適である。
【0017】
前記分岐オリゴ糖を含有する糖組成物は、市販品でもよいし、原料澱粉を液化後、糖化及び糖転移反応を行って得てもよい。
前記分岐オリゴ糖を含有する糖組成物の製造方法について、一例として、以下に説明するが、これに限定されるものではない。
前記分岐オリゴ糖を含有する糖組成物は、原料澱粉を液化酵素(例えばα−アミラーゼ)又は酸により加水分解(液化)後、少なくともトランスグルコシダーゼ(α−グルコシダーゼの一種で分岐構造を生成する酵素)を用いて加水分解(糖化)及び糖転移反応を行うことによって得ることができる。
さらに糖化及び糖転位反応の際に、トランスグルコシダーゼに加えて、β−アミラーゼ、枝切酵素(プルラナーゼ、イソアミラーゼなど)などの1種以上を用いると、糖転移効率が向上するので、好適である。
より好適な例示として、原料澱粉の液化後、β−アミラーゼとトランスグルコシダーゼを使用する方法が挙げられ、このときに枝切酵素も使用することも可能である。
原料澱粉は、主にトウモロコシ澱粉(コーンスターチ)を原料とするのが好適であるが、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などその他の原料澱粉を1種以上用いることもできる。
酸加水分解(液化)としては、塩酸、硫酸などの無機酸や酢酸など有機酸を使用し、pH2〜5にて20〜100℃で適宜反応させればよい。
前記酵素反応条件(反応pH、反応温度など)は、使用する酵素や目的とする生成物に応じて適宜調整すればよい。
得られた糖化液や糖組成物などをさらに分離精製する際に、濾過、活性炭による脱色、イオン交換樹脂による脱塩、濃縮を適宜行えばよい。さらに、クロマト分離により分画して目的とする分岐オリゴ糖の含有量を高めることもできる。
【0018】
分岐オリゴ糖を含む糖組成物を得る際の液化や糖化の条件を、より詳しく説明する。
原料澱粉(好適にはコーンスターチ)20〜40質量%(好適には30質量%)の懸濁液をpH5〜6.5(好適には6)とした後、α−アミラーゼを添加して100〜110℃(好適には105℃)にて5〜15分間(好適には10分間)加熱処理して得た澱粉液化液を60℃程度に冷却し、β−アミラーゼとトランスグルコシダーゼを添加し、55〜65℃(好適には60℃)で反応させることにより分岐オリゴ糖を含有する糖組成物を調製する。さらに、クロマト分離により単糖を除去して分岐オリゴ糖高含有シロップを調製することも可能である。
【0019】
分岐オリゴ糖を含む糖組成物は、糖組成物中、イソマルトース 3質量%以上、好適には3〜35質量%、より好適には15〜30質量%;パノース 5質量%以上、好適には5〜30質量%、より好適には7〜13質量%;イソマルトトリオース 3質量%以上、好適には3〜15質量%、より好適には4〜11質量%を少なくとも含有するものが得られる。
前記分岐オリゴ糖を含む糖組成物から、目的とする分岐オリゴ糖を単離することも可能であり、また複数分離することも可能である。
【0020】
なお、分岐オリゴ糖及びその含有量は、例えば、重合度分布を求める排除型イオン交換系カラム、及び、各重合度中における直鎖オリゴ糖と分岐オリゴ糖の比率を求めるアミン結合シリカカラムを用いて、高速液体クロマトグラフィーにより分析することで測定できる(「澱粉糖関連工業分析法」、p131−137、1991年、食品新聞社出版参照)。
【0021】
(b)分子量1000未満のアミノ化合物
本発明で原料として使用する分子量1000未満のアミノ化合物(以下、「低分子アミノ化合物」ともいう)は、単数又は複数のアミノ酸から構成されるものであり、好ましくはアミノ酸数1〜13程度で構成されているものである。具体的なものとしては、アミノ酸、ペプチド及び蛋白質分解物などが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ここで、「分子量1000未満」のアミノ化合物は、ゲル濾過クロマトや限外濾過膜など分離手段にて得ることが可能である。例えば、蛋白質分解物を、分画分子量1000又は分画分子量500などの限外濾過膜にて、それぞれ分子量1000未満のアミノ化合物(アミノ酸及び/又はペプチド:アミノ酸数2〜13程度)や分子量500未満のアミノ化合物(アミノ酸及び/又はペプチド:アミノ酸数2〜6程度)として得ることが可能である。また、分画分子量1000の限外濾過膜と分画分子量500の限外濾過膜の両方を用いることにより、分子量500以上1000未満のアミノ化合物(ペプチド:アミノ酸数7〜13程度)を得ることができる。このうち、分子量500未満のアミノ化合物が好ましく、さらにアミノ酸が好ましい。
本発明において、分子量1000未満のアミノ化合物(例えば、分子量1000未満500以上のペプチド、分子量500未満のペプチド、アミノ酸など)を原料として使用することによって、これと前記分岐オリゴ糖を加熱処理して得られた糖アミノ化合物複合体が良好に飲食品の風味を向上させることが可能である(実施例6及び7など参照)。これに対し、分子量1000以上のアミノ化合物を原料として使用することによって得られた加熱処理物では、飲食品の風味を向上させることができない(比較例11参照)。すなわち、前記分岐オリゴ糖と組み合わせる際に、アミノ化合物が分子量1000未満のものであることが飲食品の風味を向上させる上で極めて重要であることは明らかである。
【0023】
前記アミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、リジン、オキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなど及びそれらの塩類(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属など)などから選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。
このうち、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン、プロリンから選ばれる1種又は2種以上のものが好適である。
【0024】
なお、ペプチドは、分子量1000未満であれば特に限定されず、上述のアミノ酸から有機合成や微生物発酵(合成酵素)などを用いて得られるものでもよく、蛋白質やこれを含む穀類、その分解物などを原料として加水分解や微生物発酵などの反応により得られるもの、これらからさらに分離精製して得られるものでもよい。
【0025】
蛋白質などの分解方法は、酸、アルカリ、酵素などを用いた加水分解、微生物を用いた発酵法、熱分解、物理的分解のいずれでもよい。
このうち、蛋白質等の分解物としては、加水分解物(好適には蛋白質分解酵素による分解物)又は発酵により得られる発酵物が好ましい。
ここで、蛋白質等の分解物としては、大豆、小麦、大麦、米(玄米)、ジャガイモ、トウモロコシ等の植物系、ビーフ、ポーク、チキン、フィッシュ等の動物系及びこれら由来の蛋白質などから選ばれる1種又は2種以上の分解物が挙げられる。また、市販の植物蛋白加水分解物(HVP)や動物蛋白加水分解物(HAP)を用いることもできる。
【0026】
また、蛋白質の分解物として、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン及びロイシンを構成アミノ酸として含むような蛋白質の分解物が好ましい。具体的には、アミノ酸組成が、グルタミン酸 15〜40質量%、アスパラギン酸0〜20質量%(好適には9〜13質量%)、ロイシン5〜17質量%(好適には6〜9質量%)、プロリン0〜17質量%を構成アミノ酸として含む蛋白質(例えば、大豆)が好ましい。
なお、一般的に、大豆及びその加工品のアミノ酸組成は、グルタミン酸15〜20質量%、アスパラギン酸10〜15質量%、ロイシン4〜8質量%である。
【0027】
〔本発明の糖アミノ化合物複合体〕
本発明の糖アミノ化合物複合体は、前記分岐オリゴ糖と前記低分子アミノ化合物とを加熱処理して得られた加熱処理物に含まれるものであって、この加熱処理物をそのまま風味向上剤などとして使用してもよいし、さらに加熱処理物の中に含まれる未反応物を公知の分離精製技術にて除去して、糖アミノ化合物複合体の純度を高めてもよい。分離精製技術としては、例えば、未反応物を画分分子量1000の限外濾過膜にて除去してもよいし、カラムクロマトにて未反応物を除去してもよい。
【0028】
本発明の糖アミノ化合物複合体を得る際の分岐オリゴ糖含有糖組成物と前記低分子アミノ化合物との配合質量比(固形分換算)は、特に限定されず、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5、さらに好ましくは2:1〜1:2である。
また、本発明の糖アミノ化合物複合体は、水溶液中にて前記分岐オリゴ糖及び前記低分子アミノ化合物を反応させて得るのが好ましい。このときの水溶液中のpHは、特に調整しなくともよい。
このときの前記分岐オリゴ糖含有の糖組成物(固形分換算)の濃度は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。
また、前記低分子アミノ化合物(固形分換算)の濃度は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。
【0029】
本発明の糖アミノ化合物複合体を得る際の加熱処理条件として、加熱温度は、好ましくは50〜105℃、より好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは90〜100℃である。このときの加熱時間は、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは2〜6時間、さらに好ましくは3〜5時間である。
【0030】
前記糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)の使用態様の例として、例えば、該糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)を風味向上剤などの製剤の有効成分として含有させて使用する場合;該糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)を食品素材として又は風味向上剤などの製剤として飲食品に直接的に含有させる場合;該糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)を調味料などに含有させて、これを介して間接的に飲食品の風味を向上又は改善する場合;該糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)を飲食品の製造工程中に直接用いる場合などが挙げられる。
【0031】
前記糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)は、飲食品に対する風味向上用の食品素材として使用してもよく、また前記糖アミノ化合物複合体を有効成分として含有し、必要に応じて、無機塩、酸、アミノ酸類、核酸、糖類、天然調味料、香辛料、賦形剤などの飲食品に使用可能な添加物を含有させて、本発明の風味向上剤を製造することが可能である。
なお、本発明の風味向上剤の状態は、液状や粉末状、顆粒状、固形状などの何れでもよい。
【0032】
そして、本発明の風味向上剤は、飲食品に対して、前記糖アミノ化合物複合体の乾燥物換算で、好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%添加する。なお、前記糖アミノ化合物複合体を飲食品に対して使用する場合もこれと同様の添加量である。このように、少量でも飲食品の風味を向上できるので、コスト的にも非常に有利である。
【0033】
本発明の風味向上剤又は糖アミノ化合物複合体(前記加熱処理物)は、対象となる飲食品に対して、飲食前に添加されていれば特に限定されない。例えば、飲食品の製造工程中に添加混合してもよいし、調理時や喫食時に添加してもよい。
【0034】
本発明の風味向上などの対象となる飲食品としては、例えば、調味料;スープ類、水産加工品、畜産加工品、野菜加工品、米飯加工食品などの加工食品;アルコール飲料などが挙げられる。
調味料として、かえし、たれ類、だし、つゆ類、みりん風調味料などの和風調味料;ドレッシング、ソースなどの洋風中華風調味料などが挙げられる。
また、アルコール飲料としては、ビール系(ビール、発泡酒を含む)飲料が挙げられる。
また、水産加工品としては、かまぼこ、ひもの、塩辛、珍味、照り焼き魚など;畜産加工品としては、ハム、ソーセージ、チーズ、焼肉、照り焼き肉など;米飯類としては、炊き込みご飯、おかゆ、ぞうすい、お茶漬けなどなどの調理食品が挙げられる。
【0035】
より好適な対象となる飲食品は、和風調味料やビールなどの熟成感の向上や改善などが望まれる飲食物;和風調味料を使用する加工食品などが挙げられる。和風調味料のなかでも、醤油、砂糖、酒などの原料を適宜混合し、必要に応じて加熱後、時間をおいて風味を熟成させるような、かえし、つゆ類、たれ類、みりん風調味料が好ましい。
【0036】
本発明の風味向上剤は、飲食品(特に熟成感が望まれる和風調味料やビール等の飲食品)に直接的に又は間接的に添加することで、短時間で長期熟成した時に得られるような好ましい味や香りの飲食品にすることが可能である。さらに本発明の糖アミノ化合物複合体は、熱安定性や保存性なども良好である。このため、本発明の糖アミノ化合物複合体の使用は、長期を必要とする熟成風味向上ができるだけ短期間で求められる飲食品の大量生産に有利であり、また調理時又は喫食時に粉末状や液状にて添加することで飲食品の熟成風味が向上するので、簡便さの点でも有利である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定され
るものではない。
【0038】
以下に、本開示の実施例及び比較例に使用した糖類を示す。
イソマルトース(株式会社林原生物化学研究所)、パノース(株式会社林原生物化学研究所)、イソマルトトリオース(株式会社林原生物化学研究所)、分岐オリゴ糖シロップ、マルトース(和光純薬工業株式会社)、ブドウ糖(昭和産業株式会社)、砂糖(三井製糖株式会社)、トレハロース(株式会社林原生物化学研究所)、マルチトール(和光純薬工業株式会社)、粉あめ(昭和産業株式会社、製品名:SPD)、リボース(和光純薬工業株式会社)、キシロース(和光純薬工業株式会社)。
分岐オリゴ糖シロップは、コーンスターチ30質量%の懸濁液をpH6とした後、α−アミラーゼを添加して105℃にて10分間加熱処理して得た澱粉液化液を60℃程度に冷却し、β−アミラーゼとトランスグルコシダーゼを添加し、60℃で反応させ、さらに、クロマト分離により単糖を除去して調製した。
この分岐オリゴ糖シロップは、イソマルトース28質量%、パノース12質量%、イソマルトトリオース10質量%を含有していた。
【0039】
〔実施例1〜4及び比較例1〜8の糖アミノ化合物複合体の製造〕
表2および表3に示す糖質を固形分17質量%になるように水に添加し、この水溶液にL−グルタミン酸ナトリウムを固形分17質量%となるように添加し、混合した後、95℃で4時間反応させ、糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物を得た。
さらに、各糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物を、分画分子量1000の限界濾過膜で濾過し、未反応の試験糖質とアミノ酸を除去した後、凍結乾燥して糖アミノ化合物複合体粉末を得た。
なお、各試験例で使用した分画分子量1000の限外濾過膜は、商品名:Cellu sep H1(orange scietific社)、ポアサイズ:NorminalMWCO 1000、材質:セルロール膜のものであった。
【0040】
試験例1:麺つゆ
麺つゆを、醤油12.50質量%、砂糖3.20質量%、鰹節の7%熱湯抽出液50.00質量%、水34.29質量%で調製した。
麺つゆ対して、上記各糖アミノ化合物複合体粉末を0.01質量%添加し、実施例1〜4、比較例1〜8の糖アミノ化合物複合体含有の麺つゆを得た。
実施例1〜4、比較例1〜8の麺つゆについて、酸の臭い、鰹節の匂い、魚の生臭さ、醤油の香りの強さ、まろやかさ、総合評価に関して、糖アミノ化合物複合体無添加区をコントロールとして、12試験区の官能評価を実施(n=20)した。官能評価基準を表1に示し、この結果は表2および表3に示す。
【0041】
〔官能評価方法〕
評価者:五味識別・濃度差識別試験に合格した食品開発業務に携わる20名(男性9名、女性11名)
官能評価手法:Scheffeの一対比較法(芳賀の変法)無添加をコントロールに強弱を点数化。
解析法:「Stat Works V4.0」を用いた一元配置分散分析。
【0042】
〔官能評価項目〕
酸の臭い:ツンとする刺激臭を指す。熟成した麺つゆには酸の臭いを感じない。
鰹節の匂い:代表的なダシの香り。熟成した麺つゆにおいては醤油などの匂いに邪魔されずにダシの香りを感じることが望ましいとされている。
魚の生臭さ:魚特有の生臭い臭い。熟成した麺つゆにおいては、魚の生臭さを感じない。
醤油の香り:カドのある醤油の香り。熟成した麺つゆにおいては、醤油の香りが弱く、ダシの香りを邪魔しないことが望ましいとされている。
まろやかさ:熟成した麺つゆにおいては、酸の味や香りが少なくまた、塩味も角がとれた状態になり、味として一体感をもつようになる。一般的に熟成されて一体感が増した麺つゆなどに対して「まろやか」という表現を用いる。
【0043】
また、無添加の麺つゆ(コントロール)、比較例2の麺つゆ、実施例4の麺つゆについて、各麺つゆを、GC/MSによってピラジン類(香ばしいいい香り)、酸類(酸味、酸臭の原因)の揮発量を測定した。この結果を表4に示す。
【0044】
麺つゆにおける分岐オリゴ糖(イソマルトース:実施例1、パノース:実施例2、イソマルトトリオース:実施例3、分岐オリゴ糖シロップ:実施例4)とアミノ酸の糖アミノ化合物複合体は、ブドウ糖とアミノ酸の糖アミノ化合物複合体(比較例2)に比べ酸の臭いを低減し、鰹節風味やまろやかさを向上する効果が高かった。
分岐オリゴ糖とアミノ酸の糖アミノ化合物複合体添加区(実施例4)は、無添加区(コントロール)、および、ブドウ糖とアミノ酸の糖アミノ化合物複合体添加区(比較例2)より酸臭の原因となる酢酸等の酸類の揮発が抑制されていることが示された。一方、香ばしい匂いに寄与していると考えられるピラジン類の揮発はやや増加する傾向があることもわかった。すなわち、分岐オリゴ糖とアミノ酸の糖アミノ化合物複合体は、酸類の刺激的な匂いを抑えるとともに、香ばしい匂いを引き立てたことで、まろやかさやおいしさに影響を与えたことが示唆された。
以上の結果から、分岐オリゴ糖と低分子アミノ化合物からなる糖アミノ化合物複合体は、たれや麺つゆを長期熟成することによって得られるまろやかでコクがある好ましい熟成した風味を付与するものであることが明らかとなった。
一方、単糖類を原料とした場合(比較例2、7、8)、少なくともα1,6結合を有していないオリゴ糖やその還元物を原料とした場合(比較例1、3、4、5、6)は、本発明の目的とする効果があまり得られなかった。
【0045】
〔揮発性成分の分析法〕
20ml容バイアル瓶に、各試料を5gとり、予熱したヒートブロック装置で90℃5分間加温した。
加温後、そのヘッドスペースガス(HSG)2mlをガスシリンジにて、ガスクロマトグラフ/マススペクトロメトリー分析に供した(島津製作所製GC/MS2010)。
酸類6種、ピラジン類3種について、それぞれSelected Ion Monitoring(SIM)分析により成分のPeak Areaを比較した。各試験区につき7検体を測定し(n=7)、Peak areaの試験区間の差を「Stat Work V4.0」にて解析した。

GC/MS分析条件
カラム温度:40℃(5min)→(15℃/min)−90℃→(4℃/min)→230℃(10min)
カラム:TC−FFAP;膜厚 0.25μm、60m×0.25mm I.d.(GLサイエンス社)
注入口温度:250℃
インターフェイス温度:230℃
注入方法:スプリット方式(1:5)
キャリアーガス及びカラム流量:He 0.98ml/min

【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
〔実施例5の糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物、比較例9のアミノ酸加熱処理物および10の糖加熱処理物の製造〕
上述の分岐オリゴ糖シロップを固形分17質量%となるように水に溶解し、更にL−グルタミン酸ナトリウムを17質量%となるように溶解した水溶液(水溶液1)、L−グルタミン酸ナトリウムのみを17質量%となるように溶解した水溶液(水溶液2)および分岐オリゴ糖シロップのみを固形分17質量%となるように溶解した水溶液(水溶液3)を作成した。
それぞれの水溶液を95℃で4時間反応させた後、凍結乾燥して、水溶液1由来の糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物粉末、水溶液2由来のアミノ酸加熱処理物粉末、水溶液3由来の糖加熱処理物粉末を得た。
【0051】
試験例2:麺つゆ
麺つゆを、醤油12.50質量%、砂糖3.20質量%、鰹節の7%熱湯抽出液50.00質量%、水34.05質量%で調製した。
麺つゆに対して、上記で得られた各加熱処理物の粉末を0.25質量%添加して、それぞれ糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物(実施例5)、アミノ酸加熱処理物(比較例9)、糖加熱処理物(比較例10)を含む麺つゆとした。
各試験区について、上記試験例1と同様に加熱処理物無添加区をコントロールとして、官能評価にて酸の臭い、鰹節の匂い、魚の生臭さ、醤油の香りの強さ、まろやかさ、総合評価を比較した(n=20)(表5)。
なお、実施例5に添加した加熱処理物粉末中の糖アミノ化合物複合体の含有量は4質量%であったので、最終的な糖アミノ化合物複合体の添加量は、麺つゆに対して0.01質量%であった。
【0052】
このように、分岐オリゴ糖及び低分子アミノ化合物から糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物を得、未反応物を除去せずそのまま添加しても、酸の臭いを低減し、まろやかさを向上する効果が認められた。比較例9及び10の結果から、アミノ酸のみ、分岐オリゴ糖のみの加熱処理物では、まろやかさ、好ましさを十分に付与することができなかった。
【0053】
【表5】

【0054】
〔実施例6〜7及び比較例11の糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物の製造〕
加熱殺菌した分離大豆蛋白質10質量%溶液に蛋白質分酵素(スミチームAP 新日本化学工業株式会社)を1質量%添加して蛋白質分解物を得た。
得られた蛋白質分解物を、分画分子量500と1000の限外濾過膜にて、分子量500未満、分子量500以上1000未満、分子量1000以上の3画分に分画した。更に凍結乾燥してそれぞれの分画物を粉末とした。
なお、分画分子量1000の限外濾過膜は、商品名:Cellu sep H1(orange scietific社)、ポアサイズ:Norminal MWCO 1000、材質:セルロール膜のものであった。
分画分子量500の限外濾過膜は、商品名:DIALYZERI (Hoefer社)、ポアサイズ:Norminal MWCO 500、材質:セルロール膜のものであった。
各凍結乾燥粉末を17質量%になるように添加し、これにイソマルトースを17質量%含有する水溶液を調製し、95℃で、4時間加熱処理を行った。その後、凍結乾燥により各糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物粉末を得た。
【0055】
試験例3:麺つゆ
試験例2と同様に麺つゆを調製し、麺つゆに対して、得られた各糖アミノ化合物複合体含有の加熱処理物粉末を0.25質量%添加した。
実施例6、7及び比較例11の糖アミノ化合物複合体含有の麺つゆについて、試験例1と同様に、酸の臭い、鰹節の匂い、魚の生臭さ、醤油の香りの強さ、まろやかさ、総合評価に関して、加熱処理物無添加区をコントロールとして、官能評価を実施(n=20)した(表6)。
比較例11に示すように、分子量1000以上の蛋白質分解物由来の加熱処理物は風味向上効果が少なかった。一方、分子量500未満と分子量500以上1000未満の蛋白質分解物由来の加熱処理物には風味向上効果がみられ、分子量1000未満のアミノ基を有する化合物と分岐オリゴ糖(イソマルトース)の加熱処理物に風味向上効果があることが分かった。このことから、分子量1000未満の低分子アミノ化合物を原料とすることが風味を向上させる上で、重要であると考えた。
【0056】
【表6】

【0057】
〔実施例8の糖アミノ化合物複合体の製造〕
上述の分岐オリゴ糖シロップを固形分として17質量%、L−グルタミン酸ナトリウムを17質量%となるように溶解した水溶液を95℃で4時間加熱処理させた。分画分子量1000の限外濾過膜で未反応物を除去した後、凍結乾燥して実施例8の糖アミノ化合物複合体粉末を得た(0.68g)。得られた粉末の質量を測定し、糖アミノ化合物複合体の反応収率を計算した。
〔粉末質量の測定と収率の計算〕
分岐オリゴ糖シロップ固形分 17g
L−グルタミン酸ナトリウム 17g
水 66g
合計 100g
分岐オリゴ糖からの収率=(0.68g/17g)×100=4%
従って、0.01gの糖アミノ化合物複合体を得るために必要な原料となる分岐オリゴ糖シロップ(固形分)は、0.25gであった。
【0058】
試験例4:麺つゆ
以下の配合でコントロール、比較例12及び実施例8の麺つゆを作成して、酸の臭い、鰹節の匂い、魚の生臭さ、醤油の香りの強さ、まろやかさ、総合評価について官能評価(n=20)によりコントロールと比較した(表7)。なお、比較例12の麺つゆには、コントロールの麺つゆと同等の甘味度となるよう分岐オリゴ糖シロップを添加した。
アミノ酸と分岐オリゴ糖シロップを加熱処理して糖アミノ酸複合体を得、これを使用することで、使用する分岐オリゴ糖シロップの量は少なくてもまろやかにする効果が得られた。すなわち、分岐オリゴ糖と低分子アミノ化合物から糖アミノ化合物複合体とすることで、少量でも良好な風味向上効果が得られると考える。
【0059】
【表7】

【0060】
試験例5:みりん風調味料
分岐オリゴ糖シロップ(イソマルトース17質量%含有)を固形分として15質量%、L−グルタミン酸ナトリウムを固形分として15質量%を含有する水溶液を調製し、95℃で4時間加熱した。その後、分子量1000以下の低分子画分を除去して糖アミノ化合物複合体含有水溶液を得た(実施例9)。得られた糖アミノ化合物複合体含有水溶液をみりん風調味料に以下の配合で添加してみりん風調味料1とした。
なお、分岐オリゴ糖シロップは、上述の実施例4の製造方法に準じて調製して得られたものである。
みりん風調味料1の配合は、水あめ(昭和産業株式会社、製品名:マルトリッチA)84.5質量%(w/w)、発酵調味液 10.0質量%(w/w)、上記糖アミノ化合物複合体含有水溶液5%(糖アミノ化合物複合体固形物換算0.025質量%)、醸造酢0.5質量%とした。
また、糖アミノ化合物複合体含有水溶液を水に置き換えたみりん風調味料2も調整して、みりん風調味料1とみりん風調味料2のまろやかさを評価した。
20人のパネルに対して2点比較試験を実施し、まろやかに感じるみりん風調味料を選択させた。その結果、みりん風調味料1の方がまろやかさが強いと判断したパネルは17人であった。本発明の風味向上剤が、みりん風調味料においても有意に効果を発揮していることが分かった。
【0061】
試験例6:ビール
市販のビール製造キットを用いてビールを調整する際に、実施例9の糖アミノ化合物複合体含有水溶液1%を発酵前の溶液に添加した(糖アミノ化合物複合体固形物換算0.005質量%)。
また、比較として糖アミノ化合物複合体含有水溶液を添加しない通常の発酵溶液も調整した。マニュアルに従って発酵した後、糖アミノ化合物複合体含有水溶液添加区と無添加区を比較したところ、糖アミノ化合物複合体含有水溶液を添加したビールは風味が優れたコクの強いものであった。
【0062】
試験例7:炊き込みご飯
水洗いして水気を切った白米300重量部にだし汁360質量部、酒30質量部、醤油30質量部、みりん15質量部、塩2.5質量部、実施例4の糖アミノ化合物複合体粉末0.05質量部を加え、ひと混ぜし炊飯した。この糖アミノ化合物複合体を添加した炊き込みご飯は、糖アミノ化合物複合体を添加しないものより好ましい味質になった。
【0063】
試験例8:照り焼きのたれ
醤油10質量部、味醂10質量部、清酒10質量部を混合し20分加熱し、実施例4の糖アミノ化合物複合体粉末0.005質量部添加した。この糖アミノ化合物複合体粉末を添加した試験区は、添加しない試験区と比べて、まろやかな味質で且つ香ばしい風味が付与され、好ましいものであった。
【0064】
試験例9:焼肉のたれ
すりおろした玉葱25質量部とニンニク10質量部を、ごま油15質量部で炒めたのち、醤油50質量部、豆板醤10質量部、酒50質量部、砂糖15質量部、コチュジャン5質量部、おろししょうが5質量部、こしょう0.2質量部を加え加熱する。そこに実施例4の糖アミノ化合物複合体粉末0.0185質量部を添加した。この糖アミノ化合物複合体粉末を添加した焼肉のたれは、コクが増し、好ましい味質になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を含む風味向上剤。
【請求項2】
前記分岐オリゴ糖が、イソマルトース、パノース及びイソマルトトリオースから選ばれる1種又は2種以上のものである請求項1記載の風味向上剤。
【請求項3】
前記糖組成物中、前記分岐オリゴ糖を15質量%以上含有する請求項1又は2記載の風味向上剤。
【請求項4】
前記アミノ化合物が、蛋白質分解物、ペプチド及びアミノ酸から選ばれる1種以上である請求項1〜3の何れか1項記載の風味向上剤。
【請求項5】
前記アミノ化合物が、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン及びプロリンから選ばれる1種又は2種以上のものであるか、これを構成成分として有する蛋白質分解物若しくはペプチドである請求項1〜4の何れか1項記載の風味向上剤。
【請求項6】
前記風味向上剤が、調味料用又はビール系飲料用である請求項1〜5の何れか1項記載の風味向上剤。
【請求項7】
(a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を飲食品に添加する、飲食品の風味向上方法。
【請求項8】
(a)グルコースを構成糖とする、少なくともα1,6結合を有する分岐オリゴ糖を含有する糖組成物と、(b)分子量1000未満のアミノ化合物とを加熱処理して得られる糖アミノ化合物複合体を含む風味向上剤を添加した飲食品。
【請求項9】
調味料又はビール系飲料である請求項8記載の飲食品。


【公開番号】特開2012−239415(P2012−239415A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112057(P2011−112057)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本官能評価学会2010年度大会発表論文集(日本官能評価学会) 第76−77頁 平成22年11月20日 日本官能評価学会2010年度大会ポスター発表(日本官能評価学会) 平成22年11月20日
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】