説明

風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車

【課題】風車翼の外皮損傷の点検に係る作業者の負担を軽減することのできる風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車を提供することを目的とする。
【解決手段】中空構造体である風車翼の外皮に発生した損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知装置であって、風車翼内部の圧力を計測する圧力センサ23と、圧力センサ23によって計測された圧力に基づいて損傷を検知するナセル側制御装置とを具備する風車翼の外皮損傷検知装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、風車に備えられている風車翼の外皮損傷の検知に関しては、風車の運転を停止させ、高所作業車を用いて実際に風車翼の外皮を目視で点検する方法や、地上から望遠鏡を用いて点検する方法が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−261135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の方法は、作業員の目視で行われるため、作業員に負担がかかっていた。
【0005】
本発明は、風車翼の外皮損傷の点検に係る作業者の負担を軽減することのできる風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、中空構造体である風車翼の外皮に発生した損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知装置であって、前記風車翼内部の圧力を計測する第1圧力計測手段と、前記第1圧力計測手段によって計測された圧力に基づいて損傷を検知する処理手段とを具備する風車翼の外皮損傷検知装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、複数の風車翼の内部圧力に基づいて、風車翼の外皮損傷を検知するので、目視による従来の外皮損傷の点検と比較して、作業員の労力を軽減させることができる。
【0008】
上記風車翼の外皮損傷検知装置は、複数の前記風車翼を備える風車に適用され、前記第1圧力計測手段は各前記風車翼の内部空間にそれぞれ設けられており、前記処理手段は、各前記第1圧力計測手段によって計測された圧力を比較して損傷を検知することとしてもよい。
【0009】
このように、複数の風車翼の内部圧力を比較することにより、風車翼の外皮損傷を検知するので、目視による従来の外皮損傷の点検と比較して、作業員の労力を軽減させることができる。
【0010】
上記風車翼の外皮損傷検知装置において、前記処理手段は、前記第1圧力計測手段によって計測される計測値から所定の第1期間毎に平均値を求め、該平均値を用いて損傷を検知し、前記第1期間は、各前記風車翼がロータ軸周りに1回転する時間よりも長く設定されていることが好ましい。
【0011】
このように、第1期間毎に平均化された圧力計測データを用いることにより、風車翼が回転することによる圧力変動を平準化させることが可能となる。
【0012】
上記風車翼の外皮損傷検知装置において、例えば、前記処理手段は、一の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値と、他の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値との差分が予め設定されている所定の値以上となった場合、または、一の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値の変化傾向が他の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値の変化傾向と異なる傾向を示した場合に、損傷を検知することとしてもよい。
【0013】
上記風車翼の外皮損傷検知装置は、前記風車翼外部の圧力を計測する第2圧力計測手段と、前記風車翼内部の温度を計測する第1温度計測手段とを備え、前記処理手段は、前記第1圧力計測手段と前記第2圧力計測手段とによって計測された圧力を用いて計算される内外圧差と、前記第1温度計測手段によって計測される所定期間における温度変化速度とを用いて、損傷を検知することとしてもよい。
【0014】
気密状態が保たれていれば、圧力と温度との関係は依存することとなるが、気密状態が失われるとこの依存性は失われる。この関係を応用して、所定期間における温度変化速度と内外圧差とに基づいて損傷を検知することで、外皮損傷を容易に検知することが可能となる。
また、風車翼内部の密閉状態が保たれていても、分子レベルの微小な孔により空気は不可避的に漏れるが、上記のように、内外圧差と温度の変化速度の関係を使用することで、微小な圧力の変動による誤差を低減させることができる。
【0015】
上記風車翼の外皮損傷検知装置において、前記処理手段は、前記第1圧力計測手段及び前記第2圧力計測手段によって計測されるそれぞれの計測値から所定の第1期間毎の平均値を求め、該平均値を用いて損傷を検知し、前記第1期間は、前記風車翼がロータ軸周りに1回転する時間よりも長く設定されていることとしてもよい。
【0016】
このように、第1期間毎に平均化された圧力計測データを用いることにより、風車翼が回転することによる圧力変動を平準化させることが可能となる。
【0017】
上記風車翼の外皮損傷検知装置において、前記処理手段は、前記第1期間よりも長く設定された第2期間における温度変化速度と該第2期間のある時刻における内外圧差との比によって決定される評価値が、予め設定されている許容範囲を外れた場合に、損傷を検知することとしてもよい。
【0018】
本発明は、中空構造体である風車翼の外皮に発生した損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知方法であって、前記風車翼内部の圧力を計測し、計測した圧力に基づいて損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知方法を提供する。
【0019】
本発明は、上記いずれかの風車翼の外皮損傷検出装置を備える風車を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、風車翼の外皮損傷の点検に係る作業者の負担を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る風車の外観図である。
【図2】風車翼の翼根部を拡大した横断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置の概略構成を示したブロック図である。
【図4】評価値の算出方法を説明するための図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法についての効果を検討するために実施した試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る風車1の外観図である。風車1は、例えば地表面に設置された基礎3上に立設されるタワー4と、このタワー4の上端部に設置されるナセル5と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル5に設けられるロータヘッド6とを有している。
【0023】
ロータヘッド6には、その回転軸線周りに複数枚(本実施形態では、一例として3枚)の風車翼7が放射状に取り付けられている。風車翼7は、運転条件に応じてロータヘッド6に対して回動可能なように連結されており、ピッチ角が変化可能とされている。
【0024】
ナセル5の内部には発電機11が収容され、ロータヘッド6の回転軸12が発電機11の主軸に増速機(図示略)を介して連結されている。このため、風車翼7に当たった外風の風力が、風車翼7と回転軸12を回転させる回転力に変換され、発電機11が駆動されて発電が行われる。
【0025】
ナセル5は、ロータヘッド6と共に、タワー4の上端において水平方向に旋回することができる。ナセル5の外周面適所(たとえば上部等)には、周辺の風向および風速を測定する風向風速計13が設置されている。
ナセル5は、図示しない駆動装置と制御装置により、常に風上方向に指向して効率良く発電できるように制御される。また、風車翼7のピッチ角は、風量に合わせて最も効率良く風車翼7を回転させられるように自動調整される。ナセル5や風車翼7等は、例えばFRP(Fiber Reinforced Plastics)成形により形成された中空構造体である。
【0026】
図2は、風車翼7の翼根部を拡大した横断面図である。図2に示すように、風車翼7の翼根部には隔壁21が設けられており、この隔壁21には開閉可能なマンホール22が設けられている。中空構造体である風車翼7の内部空間Sには、内部空間Sの圧力を計測する圧力センサ(第1圧力計測手段)23が設置されている。例えば、圧力センサ23は、風車翼7の隔壁21に固定されていてもよい。
【0027】
圧力センサ23から延出するハーネス27は、隔壁21に開けられた開口部24を通じて外部へ伸び、例えば、ナセル5の内部に設置されたナセル側制御装置29(図1参照)に接続されている。風車翼7と共に回転する圧力センサ23と、回転しないナセル側制御装置29との間における電気接続は、例えば、スリップリングを用いた有線通信としてもよいし、非接触通信(無線通信等)にしてもよい。
【0028】
また、一般的に、隔壁21には、風車翼の内部空間Sに配設された風車翼被雷導線(ダウンコンダクタ)などを外部へ出すための開口部が設けられているため、この開口部を上記開口部24として用いることとしてもよい。
更に、風車翼7には、結露などにより内部空間Sに発生した水分などを外部へ排出するためのドレイン(図示略)が設けられていてもよい。このドレインは、開閉可能な構造とされている。ドレインは、例えば、翼先端部周辺に設けられている。
【0029】
上記マンホール22及びドレインは、いずれも閉じられた状態において、内部空間Sが密閉室状とされるように形成されている。また、開口部24は、パッキン等の公知の部材などを用いることにより、外部との空気の流通が遮断されるような構造とされている。
【0030】
このような風車1においては、各風車翼7の内部空間Sにそれぞれ設けられた圧力センサ23およびナセル側制御装置29により、風車翼の外皮損傷検知装置が構成される。
このような風車翼の外皮損傷検知装置においては、各風車翼7の内部空間Sに設けられた圧力センサ23によって、所定のタイミングで内部空間Sの圧力がそれぞれ計測され、この計測データがナセル側制御装置29に出力される。
ナセル側制御装置29は、3枚の風車翼7の圧力計測データを受信すると、これらの圧力計測データを比較して、風車翼7の外皮損傷を検知する。
【0031】
ここで、いずれの風車翼7の外皮にも損傷がない場合には、内部空間Sの気密性が保持されているため、圧力センサ23の計測結果はほぼ同じ値を示すこととなる。一方、いずれかの風車翼7の外皮に損傷が発生していた場合、その風車翼においては内部空間Sの気密性が保たれなくなり、その内部圧は他の風車翼7の内部空間Sの圧力よりも低くなる。
従って、ほぼ同時刻に計測された各風車翼7の内部空間Sの圧力を比較し、他の風車翼7に対して特異な値を示す風車翼7があるか否かを判定することにより、外皮損傷を検知することが可能となる。
【0032】
ここで、上記圧力計測データの比較は、圧力センサ23によって計測される瞬時値を比較してもよいが、所定の第1期間毎の平均値を比較することが好ましい。
すなわち、風車の運転中には、FRPで形成された風車翼7の外皮は周期的に変化する荷重を受け、これにより風車翼7の内部空間Sの気体体積が変動する。圧力の瞬時値はこの体積変化の影響を受けてしまう。そこで、各風車翼7の内部空間Sに設置された圧力センサ23の計測データを第1期間間隔で平均化し、この平均値を各風車翼で比較することで、風車翼7の回転による圧力変動を平準化することができる。ここで、第1期間は、各風車翼7がロータ軸周りに1回転(アジマス角が360°回転)する時間よりも長い時間(例えば、10分等)に設定されることが必要である。
【0033】
各風車翼7における内部空間Sの圧力に基づく損傷検知は、上述のように、他の風車翼の圧力に対して当該風車翼の圧力が特異な値を示しているか否かで判断される。特異な値とは、例えば、他の風車翼の圧力に対して所定値以上の差が発生している場合や、圧力の変化傾向が他の風車翼とは異なる傾向を示している場合をいう。
なお、風車翼2枚の場合には、いずれかの風車翼に損傷が発生していることが検知でき、風車翼が3枚以上の場合には、損傷が発生していることに加えて、損傷が発生している風車翼を特定することが可能となる。
【0034】
このようにして、ナセル側制御装置29によって風車翼7の外皮損傷が検知された場合には、ナセル側制御装置29は、例えば、タワー4の基部あるいは遠隔地に設けられた地上側制御装置(図示略)に対して外皮損傷が検知された旨と、可能であれば損傷が確認された風車翼の情報を送信する。この場合の通信は、有線通信で行われても良いし、無線通信で行われても良い。
【0035】
これにより、地上側制御装置がタワー4の基部に設置されている場合には、風車の管理者が点検に訪れたときに風車翼の外皮に損傷が検知されたことを通知することができ、また、地上側制御装置が遠隔地、例えば、風車を監視している監視センター等に設けられている場合には、ほぼリアルタイムで、風車翼7の外皮に損傷が検知されたことを通知することが可能となる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車によれば、複数の風車翼の内部圧力を比較することにより、風車翼の外皮損傷を検知するので、目視による従来の外皮損傷の点検と比較して、作業員の労力を軽減させることができる。
【0037】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車について、図面を参照して説明する。
上記第1実施形態では、風車1が備える3枚の風車翼7の内部空間Sの圧力を互いに比較することで風車翼外皮に発生した損傷を検知していたが、本実施形態は、他の風車翼との比較ではなく、個々の風車翼について独立して損傷検知を行う点で上記第1実施形態とは異なる。
【0038】
以下、1枚の風車翼7の外皮損傷の検知を行う場合を例に挙げて、本実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車について図3を参照して説明する。
図3は、本実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置30の概略構成を示したブロック図である。図3に示すように、外皮損傷検知装置30は、風車翼7の内部空間Sに設けられ、内部温度を計測する温度センサ(温度計測手段)31と、内部空間Sに設けられ、内部圧力を計測する第1圧力センサ(第1圧力計測手段)32と、風車翼外部の圧力を計測する第2圧力センサ(第2圧力計測手段)と、これらセンサからの計測データに基づいて風車翼7の外皮損傷を検知するナセル側制御装置29とを備えている。
【0039】
各風車翼7の内部空間Sに設置された温度センサ31及び第1圧力センサ32から伸びるハーネスは、例えば、図2に示した開口部24から外部へと送出される構成とされている。第2圧力センサ33は、例えば、ナセル5の上部に設けられている。
また、本実施形態に係る風車翼7及び風車1の構造は、上述した第1実施形態と同様であり、風車翼7の内部空間Sは気密性が保たれている。
【0040】
このような構成を備える風車翼の外皮損傷検知装置30では、温度センサ31、第1圧力センサ32、第2圧力センサ33により計測された計測データがナセル側制御装置29に出力され、これらの計測データに基づいて風車翼の外皮損傷の検知が行われる。
ここで、密閉された空間において、気体の温度と圧力は以下の(1)式で表わされるように、比例関係にある。したがって、風車翼の外皮に損傷がなければ、一日を通した温度変化に追従して内部空間Sの圧力は変化することとなる。
【0041】
PV/T=一定 (1)
【0042】
(1)式において、Pは内圧、Vは体積、Tは温度である。
【0043】
しかしながら、風車翼の外皮に損傷が発生し、気密状態が失われると、気温と内圧の依存性は低くなる。このことから、気温と内圧の関係を監視することで、風車翼の外皮損傷を検知することができる。
【0044】
本実施形態では、風車翼7の内部空間Sの圧力と外気圧との差分である内外圧差と、気温との関係を監視することで、風車翼の外皮損傷を検知する。
【0045】
具体的には、ナセル側制御装置29は、温度センサ31、第1圧力センサ32、第2圧力センサ33からそれぞれ温度計測データT(t)、内圧計測データP1(t)、外圧計測データP2(t)が入力されると、第1期間間隔で平均値をそれぞれ算出する。ここで、第1期間は、上述の通り、風車翼7がロータ軸周りに1回転(アジマス角が360°回転)する時間よりも長く設定される。
【0046】
続いて、ナセル側制御装置29は、平均化されたそれぞれの計測データを用いて、評価値を算出する。評価値Qは、例えば、上記第1期間よりも長く設定された第2期間における温度の変化速度と第2期間におけるある時刻の内外圧差とに基づいて決定される。例えば、評価値Qは、第2期間における温度の変化速度と、第2期間のある時刻における内外圧差との比で表わされ、以下の(2)式で与えられる。
【0047】
Q=ΔP/(dT/dt) (2)
【0048】
上記(2)式において、ΔPは第2期間のある時刻における内外圧差、dT/dtは第2期間における温度の変化速度である。評価値Qが大きければ気密性が高く、評価値Qが小さければ気密性が小さいこととなる。
【0049】
ナセル側制御装置29は、各風車翼7について、評価値Qをそれぞれ算出し、この評価値Qが特異な挙動を示したときに、外皮損傷を検知する。特異な挙動とは、例えば、評価値Qが予め設定されている所定の閾値以下となった場合等をいう。
【0050】
そして、風車翼7の外皮損傷が検知された場合には、上述した第1実施形態と同様、その旨を地上側制御装置に送信する。
【0051】
なお、本実施形態においては、温度センサ31、第1圧力センサ32については、各風車翼の内部空間S内に設置されており、第2圧力センサ33については各風車翼7に設けられていてもよいし、3枚の風車翼7において共通のものを用いてもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法並びに風車によれば、各風車翼7において、内部空間S内の温度及び差圧を用いて評価値Qを算出し、この評価値Qに基づいて風車翼の外皮損傷を検知するので、目視による従来の外皮損傷の点検と比較して、作業員の労力を軽減させることができる。また、個々の風車翼について独立して外皮損傷を検知するので、風車翼の枚数に関わらずに、損傷を受けている風車翼を特定することが可能となる。
また、風車翼内部の密閉状態が保たれていても、分子レベルの微小な孔により空気は不可避的に漏れるが、上記評価値Qのように、内外圧差と温度の変化速度の関係を使用することで、微小な圧力の変動による誤差を低減させることができる。
【0053】
発明者らは、上述した第2実施形態に係る風車翼の外皮損傷検知装置及びその方法について、その効果を検討するために以下のような試験を行った。
今回の試験では、損傷のない風車翼Aと、外皮に1mm径のストローを貫通させた風車翼Bと、外皮に4mm径のストローを貫通させた風車翼Cとを地上に安置し、これらの内部空間Sにおける温度及び圧力並びに外圧を計測した。温度センサは、翼根から翼先端に向けて0m、10m、20mの3点に設置するとともに、翼表面に設置して翼表面の温度を計測する外、外気温を計測する温度センサも設置した。
【0054】
図5は風車翼Aの1日目における計測データ、図6は風車翼Bの1日目における計測データ、図7は風車翼Cの1日目における計測データを示している。また、図8は実験1日目における風車翼Aの温度の変化速度(以下、略して「温度速度」という。)と内外圧差(以下、略して「差圧」という。)との関係、図9は2日目における風車翼Aの温度速度と差圧との関係を示した図である。同様に、図10、図11は、実験1日目、2日目における風車翼Bの温度速度と差圧との関係をそれぞれ示した図であり、図12、図13は、実験1日目、2日目における風車翼Cの温度速度と差圧との関係をそれぞれ示した図である。なお、図8から図13において、各計測データは5分間隔で平均化したものを用い、これらの計測データから近似曲線を得た。
【0055】
図8から図13に示された試験結果から得られた1日目、2日目における各風車翼A、B、Cの評価値Q、すなわち、図8から図13における近似曲線の傾きは、以下の表1の通りであった。
【0056】
【表1】

【0057】
上記表1の結果を、横軸にストロー径[mm]を、縦軸に評価値Qを示した座標空間に示すと、図14のようなグラフが得られた。
以上のことから、1mm、4mm程度の損傷が発生した場合でも損傷発生から数日以内に損傷を検知できる精度を有することがわかった。
【0058】
なお、本実施形態では、上記(2)式を用いて評価値Qを算出したが、これに代えて、以下の(3)式の算出式による評価値αを用いて、外皮損傷を検知することとしてもよい。
評価値αは、例えば、上記第2期間における温度変化と、第2期間における内外圧差の変化とに基づいて決定される。例えば、評価値αは、第2期間における温度変化と第2期間における内外圧差の変化との比で表わされ、以下の(3)式で与えられる。
【0059】
α=ΔP/ΔT={P(th)−P(te)}/{T(th)−T(te)} (3)
【0060】
ここで、図4に示すように、T(th)は、一日のうち、気温が高くなる時間帯X(例えば、AM11時からPM1時)の平均温度データであり、T(te)は一日のうち、気温が低くなる時間帯Y(例えば、AM3時からAM5時)の平均温度データである。また、P(th)は、T(th)に対応する平均差圧、P(te)はT(te)に対応する平均差圧である。
ナセル側制御装置29は、各風車翼7について、日々の評価値αをそれぞれ算出し、この評価値αが特異な挙動を示したときに、外皮損傷を検知する。特異な挙動とは、例えば、評価値αが予め設定されている所定の許容範囲を超えた場合をいう。
【符号の説明】
【0061】
1 風車
5 ナセル
6 ロータヘッド
7 風車翼
11 発電機
12 回転軸
21 隔壁
22 マンホール
23 圧力センサ
29 ナセル側制御装置
30 風車翼の外皮損傷検知装置
31 温度センサ
32 第1圧力センサ
33 第2圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造体である風車翼の外皮に発生した損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知装置であって、
前記風車翼内部の圧力を計測する第1圧力計測手段と、
前記第1圧力計測手段によって計測された圧力に基づいて損傷を検知する処理手段と
を具備する風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項2】
複数の前記風車翼を備える風車に適用され、
前記第1圧力計測手段は各前記風車翼の内部空間にそれぞれ設けられており、
前記処理手段は、各前記第1圧力計測手段によって計測された圧力を比較して損傷を検知する請求項1に記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項3】
前記処理手段は、前記第1圧力計測手段によって計測される計測値から所定の第1期間毎に平均値を求め、該平均値を用いて損傷を検知し、
前記第1期間は、各前記風車翼がロータ軸周りに1回転する時間よりも長く設定されている請求項2に記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項4】
前記処理手段は、一の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値と、他の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値との差分が予め設定されている所定の値以上となった場合、または、一の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値の変化傾向が他の前記風車翼において計測された前記圧力または前記圧力の平均値の変化傾向と異なる傾向を示した場合に、損傷を検知する請求項1から請求項3のいずれかに記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項5】
前記風車翼外部の圧力を計測する第2圧力計測手段と、
前記風車翼内部の温度を計測する第1温度計測手段と
を備え、
前記処理手段は、前記第1圧力計測手段と前記第2圧力計測手段とによって計測された圧力を用いて計算される内外圧差と、前記第1温度計測手段によって計測される所定期間における温度変化速度とを用いて、損傷を検知する請求項1に記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記第1圧力計測手段及び前記第2圧力計測手段によって計測されるそれぞれの計測値から所定の第1期間毎の平均値を求め、該平均値を用いて損傷を検知し、
前記第1期間は、前記風車翼がロータ軸周りに1回転する時間よりも長く設定されている請求項5に記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項7】
前記処理手段は、前記第1期間よりも長く設定された第2期間における温度変化速度と該第2期間のある時刻における内外圧差との比によって決定される評価値が、予め設定されている許容範囲を外れた場合に、損傷を検知する請求項6に記載の風車翼の外皮損傷検知装置。
【請求項8】
中空構造体である風車翼の外皮に発生した損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知方法であって、
前記風車翼内部の圧力を計測し、計測した圧力に基づいて損傷を検知する風車翼の外皮損傷検知方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の風車翼の外皮損傷検出装置を備える風車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−108391(P2013−108391A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252823(P2011−252823)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】