説明

飛散の少ない弾性繊維用処理剤及びその弾性繊維

【課題】弾性繊維に処理剤をオイリングする際、もしくはその後の工程における、油剤の飛散量を減少させることを可能とし、チーズの外層と内層での油剤の付着量の差が小さい油剤を提供する。
【解決手段】本発明は、シリコーン油、鉱物油及び/又はエステル油からなり、シリコーン油が30重量%以上からなるベース成分を使用し、該ベース成分に対し、ゴムまたはエラストマーを0.001〜10重量%から構成される弾性繊維用処理剤である。上記の弾性繊維用処理剤において、弾性繊維に該処理剤をオイリングする際、もしくはその後の工程における、油剤の飛散量が、ベース成分を弾性繊維に付与する際に比して、20重量%以上好ましくは50重量%減少することを特徴とする。また、チーズ製造後、経時による油剤のチーズ内の移行を抑制することができる。また、本発明の弾性繊維は、上記の処理剤が0.1〜15重量%付与されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛散の少ない弾性繊維用処理剤、及び該処理剤を用いて処理された弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭57−128276号公報に、ポリジオルガノシロキサンとポリエーテル変性シリコーンよりなるポリウレタン弾性繊維用油剤が記載されている。特開昭61−97471号公報に、鉱物油又はポリジオルガノシロキサンとアミノ変性シリコーンよりなるポリウレタン弾性繊維用油剤が記載されている。
【特許文献1】特開昭57−128276号公報
【特許文献2】特開昭61−97471号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
弾性繊維用油剤には、ベース成分として、シリコーン油、鉱物油、及びエステル油などを用いているが、最近、弾性繊維を生産する際の紡糸速度が高速化してきた。このために、オイリング時、もしくはその後の工程において、油剤の飛散量が紡糸速度の高速化に伴って増加する問題がある。
また、最近の弾性繊維の要求性能から細De化が進んできたため、オイリング時にローラーやノズルに糸が取られて糸切れする問題があり、これを解決するために粘度の低い油剤成分を用いる事も油剤の飛散量が増加する原因となっている。
さらに、油剤粘度が下がると油剤のCheeseでの移行が起こりやすくなり、経時でのCheeseの外層と内層での油剤の付着量の差が大きくなり、糸の平滑性がCheese内外層で変化し、編物を作成した場合に、外層と内層で編物品位が変化するといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、シリコーン油、鉱物油及び/又はエステル油からなるベース成分に対し、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、EPM、EPDM、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーより選ばれる少なくとも一種を0.001〜10重量%使用して構成される弾性繊維用処理剤である。好ましくは0.05〜1重量%使用して構成される弾性繊維用処理剤である。
また、本発明の弾性繊維は、上記処理剤が0.1〜15重量%付与されている事を特徴とする。
【0005】
本発明は、ベース成分がエステル油、鉱物油、シリコーン油より選ばれ、少なくとも下記のスチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、EPM、EPDM、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム(シリコーン生ゴム、シリコーンゴム、アミノシリコーン生ゴム、アミノシリコーンゴムなど)、フッ素ゴムなどのゴム類や、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー類のうち一種以上を含有する必要がある。
本発明にいうゴムおよびエラストマーは、平均分子量が1000から100万、好ましくは1万から50万の範囲にあるものが好ましい。
ゴムおよびエラストマーは、末端あるいは側差にビニル基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の活性基を有していても有していなくてもよい。本発明にいうゴム、およびエラストマーは、生ゴム、もしくは生ゴムを過酸化ベンゾイル等の一般的な架橋剤を用いて架橋したものでもよい。また、本発明にいうゴム、およびエラストマーはそれぞれの重合体に一般的に用いられるCo、Ni、Al、Li、V、Zn、Mg、Pb、Tiなどの元素を含む金属触媒、もしくは有機金属触媒等や、重合開始剤、重合促進剤、重合抑制剤、重合停止剤等を用い、乳化重合、溶液重合等の一般的な方法で合成したものでもよく、天然ゴムなどでもよい。また、本発明にいうゴム、およびエラストマーのうち、複数のモノマーからなるものは、その組成比は任意である。
本発明の油剤は、30℃における粘度が2〜50mm/sの範囲にあることが好ましく、5〜15mm/sの範囲がより好ましい。粘度が2mm/s未満では、油剤の揮発が問題となる事があり、50mm/sより大きいと弾性繊維への表面への濡れ性が悪くなる事がある。
本発明の処理剤を用いると油剤の飛散量が20重量%以上好ましくは50重量%以上減少する。また、経時でのCheeseの外層と内層の油剤付着量の差を小さくでき、弾性繊維の平滑性がCheese内外層差で変わらず、編物を作成した際に、外層と内層で編物品位の変化を抑制することができる。
【0006】
また、本発明の処理剤には平滑性、解舒性、制電性の効果を高めるために従来の公知の変性シリコーン(アミノ変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、リン酸変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、
式:RSiO1/2(式中、R、R、Rは一価炭化水素基である。)
で示されるシロキサン単位と式:SiOで示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン樹脂、式:RSiO1/2(式中、R、R、Rは一価炭化水素基である。)示されるシロキサン単位と式:SiOで示されるシロキサン単位、及び
式:RSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基である。)
で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン樹脂、式:RSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン樹脂等や、つなぎ剤、制電剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等、通常、弾性繊維の処理剤として用いられる成分を配合することができる。また、本発明の処理剤には、平滑性、解舒性、制電性の効果を高めるために高級脂肪酸の金属石鹸、有機カルボン酸有機アミン中和物、アミノ変性シリコーンの有機リン酸エステル中和物、N,N’−置換脂肪酸ビスアミド、N,N’−置換脂肪酸ジアミド、N−置換脂肪酸アミドが0.01〜5重量部添加されていても良い。高級脂肪酸の金属石鹸としては、従来弾性繊維に用いられている公知のものを用いる事ができ、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Al、ステアリン酸Ba、ステアリン酸Zn等が好ましい。
また、本発明にいうスチレンブタジエンゴムとはスチレンとブタジエンのランダム共重合体である。ブタジエンゴムとはブタジエンの重合体である。イソプレンゴムとはイソプレンの重合体である。EPMとはエチレンとプロピレンの共重合体である。EPDMとはエチレン、プロピレン、ジエンの三元共重合体である。アクリロニトリルブタジエンゴムとはブタジエンとアクリロニトリルゴムの共重合体であり、ブタジエン部分に存在する二重結合部分だけを選択的に水素化した水素化ニトリルゴムでもよい。クロロプレンゴムとはクロロプレンの重合体である。ブチルゴムとはイソブチレンの重合体であり、塩素、臭素などでハロゲン化されたハロゲン化ブチルゴムでもよい。シリコーンゴムとはポリジオルガノシロキサンを架橋したものでもよく、架橋していないシリコーン生ゴムでもよい。オレフィン系エラストマーとはハードセグメントにポリプロピレン、ポリエチレンを用い、ソフトセグメントにエチレン、プロピレン系ゴム、ブチルゴム等を用いた共重合体である。ウレタン系エラストマーとはウレタン基を含むポリマーで、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート等の一般的なジイソシアネートとポリ(オキシエチレン)グリコールなどの一般的なグリコールを反応させて得られる。ポリエステル系エラストマーとはハードセグメントに芳香族ポリエステルを用い、ソフトセグメントに脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテルなどを用いた共重合体である。ポリアミド系エラストマーとはハードセグメントにポリアミドを用い、ソフトセグメントに脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテルなどを用いた共重合体である。
【0007】
本発明の処理剤は、通常、弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与される。0.1重量%より少ないと本発明の効果が充分でなく、15重量%を越えると不経済である。本発明の弾性繊維とは、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエチレンエラストマーなどから構成される伸度300%以上の繊維である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
なお具体例における、各油剤の特性は次の方法に従って評価した。
【0009】
粘度:
キャノンフェンスケ粘度計を用い、30℃における試料液の動粘度を求めた。
【0010】
ローラー静電気:
図1において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(1)をセットし、50m/分の周速で回転させ、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置(2)で、回転を始めて1時間後の発生静電気を測定する。
【0011】
編成張力:
図2において、チーズ(3)から縦取りした弾性糸(4)をコンペンセーター(5)を経てローラー(6)、編み針(7)を介して、Uゲージ(8)に付したローラー(9)を経て速度計(10)、巻き取りローラー(11)に連結する。速度計(10)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(8)で測定し、繊維/編み針間の摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で発生静電気を測定する。
【0012】
繊維間摩擦係数(F/Fμs):
図3において、処理剤が付与された弾性繊維のモノフィラメントを50〜60cm程取り、一方の端に荷重T1(13)を吊り、ローラー(14)を介して、Uゲージ(15)にもう一方の端を掛けて定速(例えば、3cm/分)で引っ張り、そのときの2次張力T2をUゲージ(15)で測定し、式1により、繊維間摩擦係数を求める。
繊維間摩擦係数(F/Fμs)=1/θ・ln(T2/T1) 式1
(式1において、θ=2π、ln=自然対数、T1は22dtex当り1g)
【0013】
解舒速度比:
図4において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(16)をセットし、巻き取り側に紙管(17)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(18)及び(19)を同時に起動させる。この状態では糸(20)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れないので、解舒点(21)は図4に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(20)の解舒点(21)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(22)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は式2によって求める。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。
解舒速度比(%)=(巻取速度−解舒速度)÷解舒速度×100 式2
【0014】
油剤付着量の測定
Cheeseを20℃、65%RHの恒温室に三ヶ月放置し、外層と内層から糸を5g精秤し、ヘキサンで油剤を抽出後、糸を乾燥させて精秤し、重量減より求める。外層と内層の差が小さいほど、Cheeseでの油剤の移行が小さい。
【0015】
油剤飛散量測定:
図5において、飛散油剤捕集器(25)は紡糸側の直径が15cm、巻取り側の直径が5cmで、走行糸条方向の長さは20cmである。オイリングノズル(24)から円錐状の飛散油剤捕集器(25)までの距離は15cmである。紡糸された糸条(23)をオイリングノズル(24)を経て、飛散油剤捕集器(25)の中を通し、巻き取る。この状態で毎分500mの速度で、77dtexの繊維に対して油剤を6重量%付与しながら紡糸を行い、10分後の飛散油剤捕集器(25)の中に溜まった油剤の重量を精秤する。このときの重量を油剤飛散量とし、この値が小さいほど、油剤飛散が少ない事を示す。
【0016】
紡糸原液の調整:
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルグリコールと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをモル比率1:2で反応させ、次いで1,2−ジアミノプロパンのジメチルホルムアミド溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度27%のジメチルホルムアミド溶液を得た。30℃での濃度は1700mPaSであった。
【実施例】
【0017】
実施例1〜10および比較例1〜3
ポリウレタン紡糸原液を230℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に表1、及び表2に記載の処理剤(表中の配合量は重量部〉を図5に記載された油剤飛散測定法を用いて油剤の飛散量を測定しながら、繊維に対して6重量%付与した後、毎分600mの速度でボビンに巻き取り44dtexモノフィラメントチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを35℃、50%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。又、経時劣化促進試験として、得られたチーズを60℃、80%RHの雰囲気中に10日間放置した後、20℃、45%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。これらの結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【発明の効果】
【0020】
本発明の処理剤を用いることにより、安定した制電性、良好な解舒性、良好な平滑性を弾性繊維に与えることを維持したまま、オイリング時、もしくはその後の工程での油剤の飛散量を減少させることができる。また、Cheese製造後、経時による油剤のCheese内の移行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】 ローラー静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図2】 編成張力の測定方法及び静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図3】 繊維間摩擦係数の測定方法を説明する模式図。
【図4】 解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【図5】 オイリング時、油剤飛散量の測定方法を説明する模式図。
【符号の説明】
【0022】
1 弾性繊維のチーズ
2 春日式電位差測定装置
3 弾性繊維のチーズ
4 糸
5 コンペンセーター
6 ローラー
7 編み針
8 Uゲージ
9 ローラー
10 速度計
11 巻き取りローラー
12 春日式電位差測定装置
13 荷重
14 ローラー
15 Uゲージ
16 チーズ
17 巻き取り用紙管
18 ローラー
19 ローラー
20 走行糸条
21 解舒点
22 チーズとローラーの接点
23 走行糸条(紡糸塔側)
24 オイリングノズル
25 飛散油剤捕集器(円錐型)
26 走行糸条(巻き取り側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン油、鉱物油及び/又はエステル油からなるベース成分に対し、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、EPM、EPDM、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーより選ばれる少なくとも一種を0.001〜10重量%使用して構成される弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
請求項1に記載の処理剤が0.1〜15重量%付与されていることを特徴とする弾性繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−193876(P2006−193876A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32264(P2005−32264)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】