説明

飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法

【課題】尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体において、切り離し部位の分離時に、線状火工品が発生する高温の金属ジェット流から尾翼等の保護すべき部位を保護することができる飛翔体の分離部の保護装置を提供する。
【解決手段】尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体として、例えばラムジェットノズルJNの内側にロケットノズルRNを保持し、線状火工品5によりロケットノズルRNの保持部分を切断して分離する構造を有するラムロケットRの分離部の保護装置であって、切り離し部位の外周で且つ切り離し時の線状火工品5の爆発による金属ジェット流から保護すべき部位に相当する位置に、線状火工品5による切断部の外周側に延出する干渉部材10を設け、この干渉部材10により線状火工品5が発生する高温のジェットの流れを阻害して保護すべき部位を保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
尾部内部に切り離し部位を備えた飛翔体の一例としてラムロケットがある。ラムロケットは、例えば、頭部側より、サステーナ燃料を充填したタンクと、ブースタ推進薬を装填した燃焼室と、ラムジェットノズルを備えると共に、ラムジェットノズルの内側に切り離し部位であるロケットノズルを備えている。このラムロケットは、ブースタ推進薬の燃焼により発射されて加速し、ブースタ推進薬の焼尽とともに所定速度に達したところで、ロケットノズルを分離すると共に、燃料室において導入外気とサステーナ燃料とを混合燃焼させて飛翔し続ける。
【0003】
上記のラムロケットにおいて、ロケットノズルの分離機構としては、ラムジェットノズルの尾部に延出部を設けると共に、この延出部でロケットノズルを保持し、両ノズルの間に介装した線状火工品により延出部を切断して、ロケットノズルを分離するようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。なお、線状火工品には、高温のジェットを集中的に噴射する成形爆薬類が用いられる。
【0004】
上記のように、線状加工品で延出部を切断する分離機構は、例えば、両ノズルの外周部同士を拘束するクランプやその解除手段を備えたものに比べて、構造の簡略化などを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−23562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したようなロケットノズルの分離機構は、ロケット内側の狭い空間には複雑な各種機能部品が収容してあるので、延出部の内側に線状火工品を配置し、高温のジェットを外側に噴射して延出部を切断する構造にせざるを得ない。
【0007】
このため、従来のラムロケットにあっては、ロケットノズルの分離時において、外側に噴射した高温のジェットが尾翼に悪影響を及ぼす恐れがあるという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0008】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体において、線状火工品が発生する高温の金属ジェット流から尾翼等の保護すべき部位を保護することができる飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の飛翔体の分離部の保護装置は、飛翔体の尾部内部に切り離し部位を配置すると共に、尾部の内側に配置した線状火工品により切り離し部位の保持部分を全周にわたって切断して切り離し部位を分離する構造を有する飛翔体の分離部の保護装置であって、切り離し部位の外周で且つ切り離し時の線状火工品の爆発による金属ジェット流から保護すべき部位に相当する位置に、線状火工品による切断部の外周側に延出する干渉部材を備えた構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
本発明の飛翔体の分離部の保護方法は、飛翔体の尾部内部に切り離し部位を配置すると共に、尾部の内側に配置した線状火工品により切り離し部位の保持部分を全周にわたって切断して切り離し部位を分離する構造を有する飛翔体であって、該飛翔体から切り離し部位を分離するに際し、切り離し時の線状火工品の爆発による金属ジェット流から保護すべき部位に対して、線状火工品の爆発による金属ジェット流を遮蔽する緩衝部材を延出して保護する構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0011】
なお、本発明において、高温の金属ジェット流からの保護対象は、主として尾翼であるが、尾翼の駆動部や取付部などの機能部位や、その他の外装機器も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法は、尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体において、線状火工品が発生する高温の金属ジェット流から尾翼等の保護すべき部位を保護することができ、これにより、設計上において尾翼等の配置の自由度を高めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法の一実施形態におけるラムロケットを説明する尾部の断面図である。
【図2】ラムロケットの尾部の側面図である。
【図3】干渉部材の干渉部の断面図(a)、干渉部材の平面図(b)及び線状火工品の断面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、尾部内部に配置した切り離し部位を線状火工品により分離する構造を有する飛翔体の一例として、ラムロケットRの尾部部分を説明する断面図である。ラムロケットRは、図外の頭部側から、サステーナ燃料を充填したタンクと、固体のブースタ推進薬1を装填した燃焼室2と、ラムジェットノズルJNを備えると共に、ラムジェットノズルJNの内側に、切り離し部位であるロケットノズルRNが同軸上で分離可能に装着してある。
【0015】
燃焼室2の外側には、外気を圧縮して導入する一個乃至は複数の空気取入口(図示せず)が設けてある。ロケットノズルRNに装着したノズルクロージャ3は、外気からブースタ推進薬1等を保護するものであり、ブースタ推進薬1の作動時に離脱する。また、ラムロケットRは、その尾部に、後記する線状火工品の金属ジェット流から保護すべき部位として、図中に仮想線で示す尾翼Wを備えている。尾翼Wは、例えば90度間隔で四箇所に配置した可動式の操舵翼であり、当該ラムロケットRが推力方向制御可能である場合は固定式の安定翼を採用することもある。
【0016】
上記のラムロケットRは、ノズルの分離装置として、ラムジェットノズルJNの尾部に延長部4を備える共に、この延長部4によりロケットノズルRNを保持し、ラムジェットノズルJNの内側と同等である延長部4の内側に、線状火工品5を備えている。延長部4は、その尾部近傍に、後に切断部となる薄肉部6を全周にわたって有しており、薄肉部6の内側全周にわたって線状火工品5が取付けてある。
【0017】
また、延長部4の外側には、線状火工品5の点火装置7が設けてある。点火装置7は、延長部4において、薄肉部6よりも尾部側に固定してある。なお、図1においては、ラムジェットノズルJNの延長部4とロケットノズルRNとを一体的に示しているが、双方の間に別部材を介装した構造でも良い。
【0018】
線状火工品5は、例えばLSC(Linear Shaped Charge)と呼ばれる成形爆薬であって、図3(c)に示すように、保持リング8の収容溝9に収容してある。線状火工品5は、収容溝9の開口部分が薄肉部6の内側に対向するように配置してある。
【0019】
そして、ラムロケットRは、図2にも示すように、ラムジェットノズルJNの延長部4において、各尾翼W(保護すべき部位)に対応する位置に、線状火工品5による切断部(薄肉部6)の外周側に延出する干渉部材10が夫々設けてある。
【0020】
干渉部材10は、いわゆる邪魔板に類するものであって、図3(b)に示すように、平板状の取付部10aと、取付部10aから延出した干渉部10bを有している。この干渉部材10は、延長部4において、線状火工品5による切断部(薄肉部6)よりも尾部側に、設けてあって、例えば複数のボルト11を用いて取付部10aを固定し、この状態で、干渉部10bが切断部(薄肉部6)の外周側に延出した状態となる。
【0021】
また、干渉部材10は、線状火工品5による切断部(薄肉部6)に対向する部分、すなわち干渉部10bの断面が、切断部側を頂点とする尖頭形状を成しており、この実施形態では、図3(a)に示す如く切断部側を頂点とする三角形状にしてある。
【0022】
上記構成を備えたラムロケットRは、ブースタ推進薬1に点火することにより、ノズルクロージャ3を放出して発射され、さらに加速し、ブースタ推進薬1の焼尽とともに所定速度に達したところで、ロケットノズルRNを分離する。
【0023】
すなわち、電気信号で点火装置7を作動させることで、線状火工品5を起爆し、線状火工品5から発生する高温の金属ジェット流で延長部4の薄肉部6を全周にわたって切断(溶断)する。
【0024】
これにより、ラムロケットRは、ロケットノズルRN、延出部4及び点火装置7等を分離して放出し、その後、燃焼室2において導入外気とサステーナ燃料を混合燃焼させて、飛翔を継続する。
【0025】
ここで、上記のラムロケットRは、ロケットノズルRNの分離時には、線状火工品5が発生する高温の金属ジェット流を外側に噴射して延長部4の薄肉部6を切断するので、高温の金属ジェット流が延長部4の外側にも及ぶことになる。
【0026】
これに対して、ラムロケットRは、延長部4における尾翼Wに対応する位置に、線状火工品5による切断部(薄肉部6)の外周側に延出する干渉部材10を備えているので、線状火工品5が発生する高温の金属ジェット流を干渉部材10によって部分的に阻害又は遮蔽し、干渉部材10よりも外側に位置する尾翼Wを高温の金属ジェット流から保護することができる。
【0027】
また、ラムロケットRは、干渉部材10の干渉部10bの断面を、切断部側を頂点とする尖頭形状である三角形状としたので、当該干渉部10bによって高温の金属ジェット流を円滑に分流させることができ、比較的小型の干渉部10bであっても尾翼Wの充分な保護効果を得ることができる。
【0028】
さらに、ラムロケットRにおいて、干渉部材10は、線状火工品5による切断部(薄肉部6)よりも尾部側に取り付けてあるので、分離したロケットノズルRNとともに廃棄され、飛翔体の継続飛翔に影響を与えることはない。
【0029】
なお、本発明の飛翔体の分離部の保護装置及び保護方法は、その構成が上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、各構成部位の形状や数などを適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
JN ラムジェットノズル
R ラムロケット
RN ロケットノズル
W 尾翼
4 延長部
5 線状火工品
6 薄肉部
10 干渉部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体の尾部内部に切り離し部位を配置すると共に、尾部の内側に配置した線状火工品により切り離し部位の保持部分を全周にわたって切断して切り離し部位を分離する構造を有する飛翔体の分離部の保護装置であって、
切り離し部位の外周で且つ切り離し時の線状火工品の爆発による金属ジェット流から保護すべき部位に相当する位置に、線状火工品による切断部の外周側に延出する干渉部材を備えたことを特徴とする飛翔体の分離部の保護装置。
【請求項2】
干渉部材は、線状火工品による切断部に対向する部分の断面が、切断部側を頂点とする尖頭形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の飛翔体の分離部の保護装置。
【請求項3】
干渉部材は、線状火工品による切断部よりも尾部側に取り付けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の飛翔体の分離部の保護装置。
【請求項4】
保護すべき部位が、飛翔体の尾翼であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飛翔体の分離部の保護装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分離部の保護装置を備えたことを特徴とする飛翔体。
【請求項6】
飛翔体の尾部内部に切り離し部位を配置すると共に、尾部の内側に配置した線状火工品により切り離し部位の保持部分を全周にわたって切断して切り離し部位を分離する構造を有する飛翔体であって、
該飛翔体から切り離し部位を分離するに際し、
切り離し時の線状火工品の爆発による金属ジェット流から保護すべき部位に対して、線状火工品の爆発による金属ジェット流を遮蔽する緩衝部材を延出して保護することを特徴とする飛翔体の分離部の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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