説明

飛翔害虫捕獲具用担体及びこれを用いた飛翔害虫捕獲具

【課題】湿潤性に富んだ薬液保持体を備える飛翔害虫捕獲具用の担体であって、その湿潤状態の持続性に優れ、飛翔害虫、特にコバエ類に対して長期間にわたり高い誘引効果と捕獲効率を示す飛翔害虫捕獲具用担体、及びこれを用いた利便性の高い飛翔害虫捕獲具の提供。
【解決手段】吸液性ポリマーを添加した不織布製担体であって、そのかさ密度が0.1〜0.3であり、しかも殺虫成分と誘引成分を含有する液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持可能な飛翔害虫捕獲具用担体。及びこれに、前記液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持させた薬液保持体30をトレイ部10に収納し、このトレイ部10と開口部29を有する蓋部20とを組合わせてなる飛翔害虫捕獲具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハエ類、蚊類、コバエ類等の飛翔害虫、特に、ショウジョウバエ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、キノコバエ、チョウバエ等のコバエ類を誘引して捕獲する飛翔害虫捕獲具用担体及びこれを用いた飛翔害虫捕獲具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飛翔昆虫を捕獲するものとしていくつかの捕獲器が提案されている。例えば、特許文献1(特開2002−272344号公報)には、昆虫の侵入口を設けた容器であって、水溶性の誘引剤及び油脂である捕獲剤が入っている飛翔昆虫用捕獲器が記載されているが、液がこぼれたり、容器内で幼虫が発生し使用者に不快感を与えるなどの問題を有していた。この特許文献1の対象はイエバエ等の各種飛翔害虫を含み、実施例では、直径0.8cm(50mm2)の侵入口が記載されているが、特にコバエ類に対する捕獲性の点で効果が十分とはいえなかった。
また、特許文献2(特開2009−112197号公報)は、飛翔性害虫が進入可能な開口部を備えた本体と、害虫誘引成分を含むとともに当該本体に収容される薬剤とを備え、当該薬剤は、所定の粘性を有する泡状に形成されてなる脱出抑制材を構成している害虫捕獲器等を開示する。しかしながら、これらの害虫捕獲器は特定の脱出抑制材の使用を必須とし、構成が複雑であるうえ、例えば、開口部の仕様等について十分な検討がなされているわけではない。
【0003】
更に、特許文献3(特許第4430121号公報)には、開口部を有する容器に害虫誘引剤を含有した多数のゲル粒を層状に収容してなる害虫捕獲器が記載され、ゲル粒の間隙にコバエ類を進入させることによる捕獲作用を明らかにしている。ゲル粒を用いる害虫捕獲器は、飛翔害虫が薬剤を舐めやすい液状タイプのものに比べて捕獲性能は幾分劣るが、液がこぼれないという利点や外観上の見た目が重宝されている。
一方、容器の形状を改良して誘引性能を高める工夫もいくつか提案されている。例えば、特許文献4(特許第4463325号公報)によれば、容器の内面に薬剤に向かって突出して線状突起部を設置すると、飛翔性害虫が上を伝いながら薬剤へと誘引されるので効果的であるとされる。しかしながら、特許文献4の実施例は全て薬剤担持体としてゲル粒を用いたものであり、かかる手段が湿潤性に富んだ薬剤担持体の場合にも妥当するかは不明である。このように、ゲル粒以外の、例えば、湿潤性に富んだ薬剤担持体を使用するタイプについては、捕獲性能の点で有利であるにも拘らず、飛翔害虫、特にコバエ類の生態・習性に基づいた研究のみならず、薬剤担持体の適性についても十分検討が進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−272344号公報
【特許文献2】特開2009−112197号公報
【特許文献3】特許第4430121号公報
【特許文献4】特許第4463325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、湿潤性に富んだ薬液保持体を備える飛翔害虫捕獲具用の担体であって、その湿潤状態の持続性に優れ、飛翔害虫、特にコバエ類に対して長期間にわたり高い誘引効果と捕獲効率を示す飛翔害虫捕獲具用担体、及びこれを用いた利便性の高い飛翔害虫捕獲具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)吸液性ポリマーを添加した不織布製担体であって、そのかさ密度が0.1〜0.3であり、しかも殺虫成分と誘引成分を含有する液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持可能な飛翔害虫捕獲具用担体。
(2)前記吸液性ポリマーが、前記不織布製担体に40〜400g/mの割合で添加されている(1)に記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
(3)前記吸液性ポリマーの粒径が100〜600μmである(1)又は(2)に記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
(4)前記吸液性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系で、前記不織布製担体がパルプ主体である(1)ないし(3)のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
(5)前記液状の薬剤組成物が、更に保湿成分を含有している(1)ないし(4)のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体に、前記液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持させた薬液保持体をトレイ部に収納し、このトレイ部と開口部を有する蓋部とを組合わせてなる飛翔害虫捕獲具。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飛翔害虫捕獲具用担体は、薬液保持体の湿潤状態を保持する持続性に優れ、飛翔害虫、特にコバエ類に対して長期間にわたり高い誘引効果と捕獲効率を示し、しかもこれを用いた飛翔害虫捕獲具は使い易いのでその実用性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態による飛翔害虫捕獲具の斜視図を示す。
【図2】本発明の実施形態による飛翔害虫捕獲具の分解斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、殺虫成分と誘引成分を含有する液状の薬剤組成物を液漏れを招かず湿潤状態で長期間にわたり保持させ得る飛翔害虫捕獲具用担体として、吸液性ポリマーが添加され、そのかさ密度が0.1〜0.3である不織布製担体を採用したことに特徴を有する。
従来、湿潤性に富んだ薬液保持体が飛翔害虫の捕獲性能の点でゲル粒に較べて有利であることは知られていたが、製品化には課題が多かった。例えば、使い捨ての紙おむつや生理用ナプキン等に使用されている吸液性の不織布製担体を適用するにしても、飛翔害虫捕獲具には殺虫成分や誘引成分といった特殊な薬液が用いられるため、吸液性と保持性を共に満足する担体を開発するには試行錯誤を要した。
しかるに、本発明者らは鋭意検討を重ね、特定の仕様ならびにかさ密度を有する不織布製担体を用いることによって、含浸された当該薬剤組成物を湿潤状態で長期間にわたり保持し、揮散性の誘引成分を効率よく揮散させるとともに、飛翔害虫に対する高い捕獲性能を達成したものである。
【0010】
本発明の飛翔害虫捕獲具用担体で使用される吸液性ポリマーは、澱粉系、セルロース系、合成ポリマー系等のものがあり、澱粉−アクリル酸(塩)グラフト共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸(塩)重合体、アクリル酸で架橋されたポリエチレンオキサイド、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物等があげられるが、ポリアクリル酸ナトリウム系のものが液吸収性能に優れるため好ましい。
かかる吸液性ポリマーは、不織布製担体に40〜400g/mの割合で添加されるのが適当である。40g/m未満では吸液性が乏しく、一方、400g/mを超えると重量が過大となり好ましくない。
また、吸液性ポリマーは不織布製担体に乾式で均一に添加されるため粒状のものが使い易く、粒径は100〜600μm程度がよい。100μmより小さいと不織布製担体から逸脱する恐れがあり、一方、600μmを超えると膨潤し過ぎて不都合を生じる。
【0011】
本発明で用いる不織布製担体は、液体吸収性を有する材料であればどのような繊維材料で構成されていてもよく、パルプ、羊毛、レーヨン、ポリエチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等があげられる。なかんずく、パルプを主体としたものが好ましく、これに他の繊維を組合わせた複合繊維であってもよい。また、通常、よりかさ密度の小さい内層を幾分密な外層で挟む構成が一般的であるが、もちろん一層構成でも構わない。
本発明では、かかる不織布製担体に吸液性ポリマーを添加させて飛翔害虫捕獲具用担体となし、そのかさ密度を0.1〜0.3に規定する。かさ密度が0.1未満であると、殺虫成分と誘引成分を含有する液状の薬剤組成物を長期にわたり湿潤状態で保持するのが難しく、一方、0.3を超えると薬剤組成物の保持性能が劣ったり、あるいは吸液性ポリマーの添加量過大に起因した問題が生じる場合がある。
【0012】
本発明は、上記飛翔害虫捕獲具用担体に、後述する液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持させた薬液保持体をトレイ部に収納し、このトレイ部と開口部を有する蓋部とを組合わせて飛翔害虫捕獲具を構成する。
【0013】
本発明で用いる薬剤組成物を構成する殺虫成分としては、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系殺虫成分、天然ピレトリン、アレスリン、フラメトリン、プラレトリン、レスメトリン、フタルスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シフルトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系殺虫成分、シラフルオフェン等の有機ケイ素系殺虫成分、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、プロチオホス等の有機リン系殺虫成分、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系殺虫成分、フィプロニル等のピラゾール系殺虫成分、ピリプロキシフェン、ハイドロプレン等の昆虫成長制御剤等があげられ、なかでも、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系殺虫成分が好ましい。なかんずく、ジノテフランが好適であり、薬剤組成物中に、0.01〜1.0質量%程度配合される。
なお、上記殺虫成分のなかには元来忌避性を有するものもあるが、誘引成分の誘引性能に影響を及ぼさない範囲において使用しても構わない。
【0014】
誘引成分としては、バルサミコ酢、ワインビネガー、黒酢等の醸造酢類、ビール、ワイン、紹興酒等の醸造酒類、カツオブシフレーバー、ローストシュガーフレーバー、ゴマ油フレーバー、海老フレーバー、オニオンフレーバー、キャベツフレーバー、ヌカフレーバー、ミソフレーバー、ローストショウユフレーバー、メープルエッセンス等のフレーバー類、各種果実エキス、野菜や果実の発酵物等があげられ、対象とする飛翔害虫の種類に応じて適宜選択すればよい。
かかる揮散性の誘引成分の配合量は、1.0〜30質量%の範囲が適当であり、この配合比率で高い誘引効果を得ることができる。
また、三温糖、黒糖等の糖類、酵母、蜂蜜、卵粉、サナギ粉等の摂食誘引物質を配合してもよいことはもちろんである。
【0015】
本発明で用いる薬剤組成物は、その湿潤状態がより安定して保持されるために、前記殺虫成分と誘引成分に加えて更に保湿成分を配合するのが好ましい。保湿成分としては、脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類、沸点が200℃以上の水溶性溶剤、界面活性剤等があげられるが、なかんずく、脂肪族多価アルコール、糖アルコール、及び増粘多糖類が好ましい。かかる脂肪族多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等があげられ、なかでもグリセリンが好適である。例えば、エタノール等の揮散性の高い溶剤のみ使用した場合、上記グリセリンが奏するような、湿潤状態の保持安定化効果は得られない。
通常、更に水を配合し、液状の薬剤組成物を調製するが、誘引性に支障を来たさない限りにおいて、その他の成分を適宜添加することができる。このような成分としては、例えば、安定剤、防腐剤、分散剤、ビトレックス等の苦味剤、色素等の各種補助成分があげられる。
なお、ゲル状形態の飛翔害虫捕獲器も多数提案されているが、本発明の構成では、液状の方が捕獲性の点で有利であることが試験で認められた。
こうして得られた薬剤組成物の含浸量は、例えば、縦横が約50mmの方形で、側部端面の厚さが1〜10mmの不織布製担体の場合、10〜100g程度が適当である。
【0016】
上記本発明の担体が適用される飛翔害虫捕獲具としては種々可能であるが、例えば、薬液保持体を収納したトレイ部の中空天面に、開口部を有する蓋部を嵌着させた構成のものがあげられる。以下、このような飛翔害虫捕獲具について説明する。
【0017】
トレイ部の材質としては、ポリエステル(PET)、ポリエステル/ポリエチレン(PET/PE)、ポリプロピレン(PP)等のプラスチックや金属、ガラス等があげられるが、経済性をも考慮してプラスチックを素材とする成形品が好ましい。その形状や大きさは任意であるが、例えば、直径4〜10cmで高さが2〜5cm程度のカップ状のものが使い易く、通常中空天面の周囲に、蓋部との嵌着を容易にし、かつ後記するシール用に数mm幅のフランジ部が設けられる。また、トレイ部の底部には、薬液保持体を収納するための固定片が設置されており、薬液保持体はトレイ部の内部側面と間隙を設けて収納されるのが好ましい。かかる構成を採用することによって、湿潤状態で露出した薬液保持体の側部端面にも飛翔害虫、特にコバエ類が滞留して舐めやすい状況を提供し、捕獲性能の向上に寄与するものである。なお、プラスチック製トレイ部の側面や底部表面は平坦であってよいが、例えば凹凸模様など、任意な断面形状に形成させても構わない。
【0018】
本発明の飛翔害虫捕獲具は、その使用前にトレイ部中の薬液保持体から揮散性の誘引成分が蒸散するのを防止するため、中空天面がバリアフィルムで被覆されているのが好ましく、前記フランジ部はそのシール用に供される。ここでバリアフィルムとしては、アルミニウムフィルム層にPETやPPをラミネートしたものを例示できるが、バリア性を付与でき、かつピール性に優れる限り限定されない。
【0019】
一方、前記蓋部は、通常誘引部とベース部からなる逆カップ状を呈し、PPのようなプラスチックを用いたインジェクション成形品が本発明に適している。上方に位置する誘引部は平坦ないし凹状であっても、あるいは誘引部とベース部が境目なく連続してドーム状を形成していてもよい。更に、動物や葉っぱの形状を模してデザイン性を付与することも可能である。
また、誘引部はベース部の中空下端面に対して平行状に設置するのが一般的であるが、本発明を進める過程で、誘引部と当該中空下端面との間に角度を設ける方が、誘引性能の点でより効率的であることが認められた。
【0020】
害虫進入口としての開口部の設置方法、個数、形状や大きさは特に限定されず、適宜決定すればよい。もちろん、誘引部に直径2〜20mm程度の円形開口部を複数個設置する通常タイプであっても何ら差し支えないが、例えば、誘引部をベース部の中空下端面に対して傾斜して設置するとともに、この誘引部を内部側に窪んだ凹状領域として形成し、当該凹状領域の中心部から周辺に向けてエッジ部と幅2〜8mm程度の同心円状の開口部とを交互に配置するような構成を採用することができる。そして、開口部を互いに接続する接続部に、外部光を反射することによって飛翔害虫を誘引する光反射部を設置し、誘引性能を高めることも可能である。更に、ベース部にも開口部を併置し、外気を導入する通気口としても作用するようにすれば、揮散性の誘引成分が効率よく拡散し、誘引性能を向上させうるので好ましい形態である。
なお、エッジ部とは、外部に向けて突出する突状断面を有する部材をさし、飛来した飛翔害虫、特にコバエ類がここに止まりやすいという生態・習性に基づき、本発明で新たに導入されたものである。
【0021】
薬液保持体を調製するにあたっては、公知の従来方法を適宜採用できるが、トレイ部の底部に設けた固定片で不織布製担体を固定後、薬剤組成物を充填する方式がやり易い。また、薬液保持体を、例えば大きな開口部を有する格子状プラスチック片でカバーすれば、薬液保持体の固定に役立つだけでなく、飛翔害虫、特にコバエ類がここに止まって薬液を舐めやすい状況を提供するのでより効果的である。
【0022】
また、薬剤組成物が薬液保持体の表面ならびに側部端面から徐々に揮散するに伴い、これを補うために薬剤組成物は薬液保持体の内部から表面ならびに側部端面に移行するが、よりポーラスな側部端面からの揮散寄与も大きい。従って、本発明は、薬液保持体をその側部端面の少なくとも一部が露出した状態、もしくはトレイ部の内部側面と間隙を設けて収納するのが好ましい。これは、飛翔害虫、特にコバエ類がトレイ部の内部側面を伝って下降後、湿潤状態で露出したポーラスな薬液保持体の側部端面に滞留しやすいという習性を利用したものであり、このような露出状態、もしくは間隙に基づくメリットは、トレイ部内部側面に密着させてゲル粒を充填するタイプの製剤では得られない。
なお、特許文献4によれば、トレイ部の内面に薬剤に向かって突出して線状突起部を設置すると、飛翔性害虫がその上を伝いながら薬剤へと誘引されるので効果的であるとされているが、本発明では他の要因による作用効果が大きく、線状突起部を設置する必要性を認めなかった。
【0023】
前記したように、本発明飛翔害虫捕獲具の包装形態としては、トレイ部の中空天面をバリアフィルムでシールし、使用時にこのバリアフィルムを剥がした後蓋部を嵌着させる方法が好ましい。一方、予めトレイ部と蓋部を嵌着させておき、全体をバリアフィルムでシールする構成を採用しても構わないが、この場合、嵌着が完全でないと、流通保存中にトレイ部から薬剤組成物が液漏れしたり、開口部に薬剤組成物が付着して誘引性能や捕獲性能に影響を及ぼしかねないのでより留意が必要となる。
【0024】
本発明の飛翔害虫捕獲具の使用に際しては、台所、食器棚、ゴミ箱の近辺や植木鉢の土の上などに置くだけで良い。対象害虫としては、ハエ類、蚊類、コバエ類等の飛翔害虫があげられ、特に、ショウジョウバエ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、キノコバエ、チョウバエ等のコバエ類に効果的である。なお、本発明品の誘引性能と捕獲性能は、薬剤組成物の種類や量にもよるが、通常1ケ月程度持続する。
【0025】
次に、本発明を実施例ならびに試験例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明による一実施形態の飛翔害虫捕獲具の斜視図を、また図2はその分解斜視図を示し、トレイ部10と蓋部20は使用に際して嵌着される。なお、本発明による飛翔害虫捕獲具用担体は、図2において、薬剤組成物を保持させた薬液保持体30として示されている。
【0027】
平均粒径が200μmのポリアクリル酸ナトリウム系吸液性ポリマーを、パルプ不織布製担体に240g/mの割合で添加して本発明で用いる飛翔害虫捕獲具用担体(かさ密度:0.12)を調製した。この担体(50mm角×厚み5mm)をトレイ部10に収納後、下記処方の薬剤組成物25gを保持させ薬液保持体30とした。
・殺虫成分:ジノテフラン(0.1質量%)、
・揮散性の誘引成分:バルサミコ酢(10質量%)、
カツオブシフレーバー(0.8質量%)、
・保湿成分:グリセリン(13質量%)、
・他成分:黒糖、糖蜜、苦味剤・ビトレックス、防腐剤、精製水。
トレイ部10は、直径70mm×高さ28mmのPP製成形品であり、薬液保持体30を固定するための固定片12を有し、薬剤保持体30の側部端面は露出し、これとトレイ部の内部側面との間には間隙が設けられている。トレイ部10の中空天面の周囲にはバリアフィルム(図示せず)をシールするために幅4mmのフランジ部11が設けられ、通常、予めバリアフィルムがシールされているので、これを剥がして使用に供する。
【0028】
図2に示す蓋部20は、上方の誘引部21とベース部22から構成されている。誘引部21は、ベース部22の中空下端面23に対して傾斜して設置されるとともに、内部側に窪んだ凹状領域として形成され、当該凹状領域の中央から周辺に向けてエッジ部24と幅4mmの同心円状の開口部25とが交互に配置されている。また、これら複数の開口部25は複数の接続部26で互いに接続され、接続部26の上には光反射部27が備えられている。中心部28は、前述の内部側に窪んだ凹状領域の中央部分である。
更に、ベース部22にも開口部29が併置され、外気を導入する通気口としての役割も果たしている。
【0029】
トレイ部10に予めシールされているバリアフィルムを剥がした後、蓋部20を嵌着させ、台所の床の上に置いて使用した。その結果、本発明品は、約1ケ月にわたり、ショウジョウバエ、ノミバエ等のコバエ類に対して優れた誘引性と捕獲性を保持した。
【実施例2】
【0030】
実施例1に準じて、表1に示す飛翔害虫捕獲具用担体とこれを用いた飛翔害虫捕獲具を調製した。なお、吸液性ポリマーとしてポリアクリル酸ナトリウム系を用い、パルプ不織布製担体(50mm角×厚み2mm)に添加した。また、薬剤組成物のうち、表1に記載された以外の成分としては、殺虫成分としてジノテフラン0.1重量%、その他、黒糖、糖蜜、苦味剤、防腐剤、精製水を配合し、得られた薬剤組成物25gを担体に含浸させて薬液保持体30とした。
【0031】
【表1】



【0032】
表1に示す各種飛翔害虫捕獲具につき、ショウジョウバエを用いて、以下の試験を行った。
[試験方法]
直径20cm、高さ20cmのアクリル円筒内床面中央に供試捕獲具を置き、蓋をした。経時的にショウジョウバエ50匹を放ち、捕獲具内で致死したショウジョウバエを数え、捕獲性能を調べた。結果を表2に示す。なお、捕獲性能評価は、以下の基準によった。
◎; 31匹以上、 ○;11〜30匹、 △;6〜10匹、 ×;0〜5匹

【0033】
【表2】

【0034】
試験の結果、本発明の飛翔害虫捕獲具は、ショウジョウバエに対する高い誘引効果と優れた捕獲性能が長期間にわたり持続した。即ち、吸液性ポリマーが添加され、かつそのかさ密度が0.1〜0.3である飛翔害虫捕獲具用担体を用い、好ましくは、保湿成分としてグリセリンのような脂肪族多価アルコールを含有する薬剤組成物を保持させた薬液保持体に基づく本発明品の有用性は明らかである。なお、吸液性ポリマーは、不織布製担体に40〜400g/mの割合で添加され、その粒径が100〜600μmであるのが好ましく、例えば粒径が100μm未満の場合、不織布製担体調製時に吸液性ポリマーの一部逸脱の懸念があった。
これに対し、比較例1のように、不織布製担体に吸液性ポリマーを添加しない場合や、添加しても添加量が少なく、得られた飛翔害虫捕獲具用担体のかさ密度が0.1に満たない場合(比較例2)、捕獲性能の持続性が悪かった。一方、比較例3のように、吸液性ポリマーの添加量が多いために飛翔害虫捕獲具用担体のかさ密度が0.3を超えたり、比較例4の如く、粒径が600μmを超える吸液性ポリマーを用いると、捕獲性能が悪いうえ、過大に膨潤し不都合を生じた。また、比較例5の試験結果から、本発明の構成では、薬剤組成物としてゲル状よりも液状の方が好ましいことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の飛翔害虫捕獲具用担体及びこれを用いた飛翔害虫捕獲具は、飛翔害虫防除に極めて有用であり、これ以外の害虫防除にも応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0036】
10 :トレイ部
11 :フランジ部
12 :固定片
20 :蓋部
21 :誘引部
22 :ベース部
23 :中空下端面
24 :エッジ部
25 :開口部
26 :接続部
27 :光反射部
28 :中心部
29 :開口部
30 :薬液保持体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸液性ポリマーを添加した不織布製担体であって、そのかさ密度が0.1〜0.3であり、しかも殺虫成分と誘引成分を含有する液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持可能な飛翔害虫捕獲具用担体。
【請求項2】
前記吸液性ポリマーが、前記不織布製担体に40〜400g/mの割合で添加されている請求項1に記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
【請求項3】
前記吸液性ポリマーの粒径が100〜600μmである請求項1又は2に記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
【請求項4】
前記吸液性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系で、前記不織布製担体がパルプ主体である請求項1ないし3のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
【請求項5】
前記液状の薬剤組成物が、更に保湿成分を含有している請求項1ないし4のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の飛翔害虫捕獲具用担体に、前記液状の薬剤組成物を湿潤状態で保持させた薬液保持体をトレイ部に収納し、このトレイ部と開口部を有する蓋部とを組合わせてなる飛翔害虫捕獲具。

【図1】
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【図2】
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