説明

飛翔性吸血害虫防除剤および動物の防護方法

【課題】犬や猫などの愛玩動物、牛、豚、鶏などの家畜や家禽等の動物を、蚊などの飛翔性吸血害虫による吸血から守る方法に関する。
【解決手段】3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスを有効成分とした防除剤を犬や猫などの愛玩動物、牛、豚、鶏などの家畜や家禽等の動物に処理することにより蚊などの飛翔性吸血害虫による吸血から守ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犬や猫などの愛玩動物、牛、豚、鶏などの家畜や家禽に対する飛翔性吸血害虫防除剤およびこれを用いてなる動物の防護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫などの愛玩動物、牛、豚、鶏などの家畜や家禽類は屋外で飼育されることが多く、また、主として屋内で飼育されている場合であっても屋外に出る機会も多く、特に春から秋にかけての高温時期には蚊に代表される飛翔性吸血害虫による影響を受けることが多い。
かかる飛翔性吸血害虫から動物を守る方法として、従来、蚊取り線香や蒸散性殺虫成分を含有したマットなどを飼育小屋などに配置する方法が知られているが、この方法はその効果の範囲が飼育小屋周辺などの極めて限定された場所に限られていた。
しかし、このような動物は飼育小屋を離れて動き回ることも多く、上記のような方法では効果的に蚊などの飛翔性吸血害虫から動物への接触、吸血を抑制し、動物を防護することは十分ではなかった。
一方で、動物の体表面に寄生するノミやダニなどの駆除を目的とした滴下剤と呼ばれるノミやダニなどの防除剤については、例えば特許文献1に記載されているが、同特許文献1では動物の体表面に寄生することのない蚊などの飛翔性吸血害虫に対する具体的効果についての記載はなく、依然として飛翔性吸血害虫による吸血からこのような動物を防護する方法は未知のままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−158709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、飛翔性吸血害虫による吸血から動物を防護するための飛翔性吸血害虫防除剤およびこれを用いてなる動物の防護方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記したような犬や猫などの愛玩動物、牛、豚、鶏などの家畜や家禽類を飛翔性吸血害虫による吸血から守る効果的な方法の開発を鋭意検討した結果、有機溶剤中に、3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスを有効成分として含有してなることを特徴とする飛翔性吸血害虫防除剤を、動物の体表面に部分的に付着処理することにより動物に対する飛翔性吸血害虫による吸血を阻害し、防護することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[6]に関する。
[1] 有機溶剤中に、3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスを有効成分として含有してなることを特徴とする飛翔性吸血害虫防除剤。
[2] ピリプロキシフェンをさらに含有してなる前記1に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
[3] 有機溶剤がジエチレングリコールモノエチルエーテルであることを特徴とする前記1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
[4] 有機溶剤がケロシンであることを特徴とする前記1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
[5] 有機溶剤がカプリル酸トリグリセライドであることを特徴とする前記1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
[6] 前記1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤を、動物の体表面に部分的に付着処理し、飛翔性吸血害虫による吸血を阻害してなることを特徴とする動物の防護方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤を、動物の体表面に部分的に付着処理することにより、長期間にわたって飛翔性吸血害虫による吸血を阻害し、防護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤の適用対象となる動物としては、家畜、家禽、愛玩動物などの各種動物、特に哺乳類、鳥類などの動物が挙げられ、より具体的には、犬、猫、ウサギ、ハムスター、フェレットなどの愛玩動物、牛、馬、豚、羊、山羊、鶏、家鴨、七面鳥などの家畜や家禽が挙げられる。
【0009】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤の適用対象となる飛翔性吸血害虫としては蚊が代表的であり、例えばアカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、シナハマダラカ等のハマダラカ類などを挙げることができる。
【0010】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤は、有機溶剤中に、有効成分として3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスを含有してなるものである。
ここで、3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートには種々の立体異性体が存在するが、本発明においては任意の活性な立体異性体またはその混合物が使用され、例えば、3−フェノキシベンジル (1R)−シス,トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラート(一般名=d−フェノトリン)が使用される。
【0011】
かかる飛翔性吸血害虫防除剤において、その有効成分である3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスの含有量は、通常1〜80質量%、好ましくは3〜60質量%、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
尚、ジョチュウギクエキスはピレトリンI、ピレトリンII、ジャスモリンI、ジャスモリンII、シネリンI、シネリンIIなどの殺虫成分(まとめて総ピレトリンという)を通常30〜70質量%含有する混合物であるため、ジョチュウギクエキスを単独または併用して使用する場合には、総ピレトリンの量を基準として上記範囲内にあることが好ましい。
尚、有効成分としてジョチュウギクエキスを単独で使用する場合には、その有効成分量は、上記範囲内であっても総ピレトリンの量として1〜40質量%、好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは2〜25質量%程度の少ない量でも十分であり、3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートと併用する場合においても、ジョチュウギクエキスの使用量としては30質量%以下の少量で併用することができる。
【0012】
飛翔性吸血害虫防除剤は、前記した有効成分を有機溶剤に溶解してなるものである。
かかる目的で使用される有機溶剤としては、当該有効成分を溶解し、かつ動物に悪影響を与えないものであれば特に限定されることなく使用できる。
このような有機溶剤としては、例えばエタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、プロピレングリコールなどのグリコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエステル類、カプリル酸モノグリセライド、ジグリセライド、またはトリグリセライド、カプロン酸モノグリセライド、ジグリセライド、またはトリグリセライドなどの脂肪族カルボン酸のグリセライド類、ケロシン、炭酸プロピレンなどが代表的であり、また、大豆油、ヤシ油、パーム油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、オリーブ油、米糠油などの植物油が挙げられ、好ましくは、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ケロシン、カプリル酸トリグリセライドが用いられる。また、これらの有機溶剤の2種以上を混合して使用することもできる。
【0013】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤は、基本的には前記したような有効成分が有機溶剤中に溶解されてなるものであるが、共力剤、安定剤、香料、他の生理活性物質が適宜含有されていてもよい。
【0014】
共力剤としては、例えば、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ[2,2,2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(2−エチルヘキシル)ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(MGK−264)、チオシアノ酢酸イソボルニル(IBTA)、ピペロニルブトキサイドなどが挙げられる。
【0015】
安定剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(TBMBP)などが挙げられる。
【0016】
香料としては、シトロネラール、シトロネロール、リモネン等のテルペンまたはテルペン誘導体が挙げられる。
【0017】
他の生理活性物質としては、例えば、ピリプロキシフェン、メトプレン等の昆虫成長調節剤が挙げられる。
【0018】
本発明の飛翔性吸血害虫防除剤を用いて飛翔性吸血害虫から動物を防護する方法としては、通常、動物の体表の一部に当該防除剤を滴下、塗布、噴霧などの方法により、動物の体表面に付着処理することにより行われる。
かかる付着処理方法は、対象とする動物の大きさによっても変わり、犬や猫などの小動物の場合には単に動物の体表に1〜数箇所に滴下するだけでも十分である。
施用量は、本発明の飛翔性吸血害虫防除剤中の有効成分含有量に依存するが、一般的には有効成分量として、動物の体重1kg当り、3〜500mg、好ましくは10〜400mg、さらに好ましくは15〜350mgである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明をより詳細に説明する。
【0020】
実施例1:
d−フェノトリン30g、ピリプロキシフェン0.6g、BHT0.01gをジエチレングリコールモノエチルエーテル69.9gに加え、本発明の防除剤1を作製した。
【0021】
実施例2:
d−フェノトリン15g、ピリプロキシフェン0.3g、BHT0.01gをジエチレングリコールモノエチルエーテル84.7gに加え、本発明の防除剤2を作製した。
【0022】
実施例3:
d−フェノトリン20g、ジョチュウギクエキス(総ピレトリン含量50%)10g、ピリプロキシフェン0.5g、BHT0.04gをケロシン69.5gに加え、本発明の防除剤3を作製した。
【0023】
実施例4:
d−フェノトリン20g、ピリプロキシフェン0.4g、BHT0.01gをカプリル酸トリグリセライド79.6gに加え、本発明の防除剤4を作製した。
【0024】
前記実施例にて作製した各防除剤を用いて蚊の動物への吸血試験を実施した。
【0025】
試験例1:
30cm角のステンレス製金網籠の中にアカイエカ雌成虫約50匹を放ち、砂糖水を与えて1昼夜飼育した。翌日、実験用マウスの背面中央部に所定量の本発明の防除剤を滴下し、4時間飼育した。その後、マウスを20メッシュの金網で動き回らないように固定し、上記金網内に入れた。1日後、アカイエカ雌成虫を回収し、吸血虫数を調査した。
また、薬剤を滴下しない区を設け、無処理区とした。処理区と無処理区での吸血虫数から、以下のとおり吸血率および補正吸血阻害率を計算した。
【数1】

【0026】
試験例1の結果を表1に示す。
【表1】

【0027】
表1に示すとおり、防除剤1〜4の滴下により高い吸血阻害効果が確認できた。
【0028】
試験例2:
猫(アメリカンショートヘア種、体重:3kg)の背部の前部、中央部、後部の3ヶ所に実施例3で得た防除剤3をシリンジを用いて0.3mLずつ滴下した。滴下後1週間目と4週間目に防虫ネットで覆った50×40×70cmのケージに猫を入れ、このケージにヒトスジシマカ雌成虫30〜50匹を放ち、27℃で猫とヒトスジシマカ雌成虫を同居させた。
8時間同居させ、その後ヒトスジシマカ雌成虫を回収して、吸血虫数を調査した。また、薬剤を滴下していない区を無処理区として設け、処理区と無処理区での吸血虫数から、試験例1と同様に吸血率および補正吸血阻害率を計算した。
【0029】
試験例2の結果を表2に示す。
【表2】

【0030】
表2に示すとおり、防除剤3の滴下により、約1ヶ月後において高い吸血阻害が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中に、3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシラートおよび/またはジョチュウギクエキスを有効成分として含有してなることを特徴とする飛翔性吸血害虫防除剤。
【請求項2】
ピリプロキシフェンをさらに含有してなる請求項1に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
【請求項3】
有機溶剤がジエチレングリコールモノエチルエーテルであることを特徴とする請求項1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
【請求項4】
有機溶剤がケロシンであることを特徴とする請求項1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
【請求項5】
有機溶剤がカプリル酸トリグリセライドであることを特徴とする請求項1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の飛翔性吸血害虫防除剤を、動物の体表面に部分的に付着処理し、飛翔性吸血害虫による吸血を阻害してなることを特徴とする動物の防護方法。

【公開番号】特開2011−225463(P2011−225463A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95036(P2010−95036)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(597025677)アース・バイオケミカル株式会社 (10)
【出願人】(390000527)住化ライフテク株式会社 (54)
【Fターム(参考)】