説明

食品の品質改良効果を奏する食用エキスおよびその製造法

【課題】食品素材由来のリン酸塩を食品の品質改良に使用すること。
【解決手段】食用エキスにキレート剤を存在させ、不溶性リン酸塩の生成抑制または可溶化してなる食品の品質改良効果を奏する食用エキス、および食用エキスの製造に際し、キレート剤を添加することを特徴とする当該食用エキスの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の品質改良効果を併せ持つ呈味用の食用エキスおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の呈味に使用される食用エキス、例えば、酵母エキスの副生成物として発生する滓は、カルシウムやマグネシウムのリン酸塩が主体であることが分かっている。これらのリン酸塩は、その素材に本来含有されるリン由来の組成物であるが、殆ど有効利用されていない。
一方、食品添加物であるリン酸塩は、高い食品の品質改良効果を奏するが、その殆どが合成品であって(例えば、特許文献1参照)、天然または食品素材由来のリン酸塩は、未だ市場にない。しかし、最近は、天然志向が高まり、天然または食品素材由来の品質改良剤が求められている。
【特許文献1】特許第2607587号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、食品素材由来のリン酸塩を食品の品質改良に使用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、食用エキス製造時に副生する滓の析出を抑制し、可溶性のリン酸をエキス中に高含有化させることによって、上記の目的が達成され、食品の品質改良効果を奏するリン酸含有エキスを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)食用エキスにキレート剤を存在させ、不溶性リン酸塩の生成抑制または可溶化をしてなることを特徴とする食品の品質改良効果を奏する食用エキス、
(2)キレート剤が有機酸である上記(1)記載の食用エキス、
(3)有機酸が、クエン酸、リンゴ酸またはコハク酸である上記(1)記載の食用エキス、
(4)食用エキスの製造に際し、キレート剤を添加することを特徴とする上記(1)記載の食用エキスの製造法、
(5)キレート剤が、有機酸である上記(4)記載の食用エキスの製造法、
(6)有機酸が、クエン酸、リンゴ酸またはコハク酸である上記(4)記載の食用エキスの製造法、および
(7)不溶性リン酸塩の析出前にキレート剤を添加する上記(4)記載の食用エキスの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、食品の品質改良効果を奏する食用エキスを提供することができる。本発明の食用エキスを食品に添加すると、蛋白の溶解促進や畜肉の結着性を高める等の品質改良効果を得ることができるだけでなく、食品の呈味性も向上できる。これらの効果を発揮せしめることを目的とする食品であれば、どのような食品にも応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る食用エキスとしては、その原料にリンが含まれていれば、いずれの素材のエキスであってもよく、例えば、酵母エキス、ポークやチキン等の畜肉エキス、ボーンエキス、魚介エキス等が挙げられる。特に本発明においては、リンを高含有する酵母、または畜肉エキスであれば、豚骨、鶏がら、魚のアラ等の骨を含む原料からのエキスが好ましい。原料に骨と肉を含む場合、その比率は特に限定されない。
【0007】
本発明の食用エキスは、エキス製造時にキレート剤を添加すること以外は、公知の方法によって得られるものでよく、原料からのエキスの抽出法は、通常の水抽出、温水抽出、熱水抽出、酸分解法、酵素分解法等のいずれであってもよい。特に、pHが弱酸性から酸性領域での酸分解および酵素分解によるエキスが好ましい。
酵素分解に用いる酵素の種類は、特に限定するものではなく、例えば、プロテアーゼ等の蛋白分解酵素を用いるのがよい。また、酵母エキスの場合、蛋白分解酵素と、細胞壁分解酵素のグルカナーゼ、マンナナーゼ等を組み合わせてもよい。
弱酸から酸性領域での分解を行うことによって、骨を含む原料からエキスを抽出する場合には、骨の溶解が促進されるため、エキス中のリン酸含有量を高めることができる。
弱酸から酸性の範囲は特に限定するものではないが、骨の溶解が促進されるpH1.5〜4.5が好ましく、より好ましくは2.0〜4.5、さらに好ましくは2.5〜4である。
【0008】
本発明に用いるキレート剤は、分解時における酸性状態の維持に貢献できるクエン酸、リンゴ酸またはコハク酸等の有機酸が好ましい。とりわけ、クエン酸またはリンゴ酸が、さらにはクエン酸が好ましい。
キレート効果を有する上記有機酸を添加することにより、エキス中のリン酸が不溶性の塩として析出することを抑制し、あるいは不溶性塩を可溶化して、エキスのリン酸高含有化が図れる。
【0009】
キレート剤のエキスへの添加時期は、抽出または分解時、濃縮後や製品直前、あるいは製品等のいずれの状態であっても構わないが、エキス中のリン酸が不溶性の塩として析出する前であることが好ましい。特に、原料の酸分解または酵素分解時に、分解を酸性領域で行う目的で、pH調整剤として添加するのが最も好ましい。
キレート剤の添加量は、エキスのリン酸含有量により異なり、リン酸を不溶性の塩として析出するのを抑制できる量であれば、特に限定されないが、リン含有量の1〜50倍、好ましくは5〜50倍、さらに好ましくは5〜30倍である。
また、キレート剤の添加量は、本発明に係る食用エキスを食品に添加する場合、食品の味に影響を与えない量であることが好ましいが、添加する食品に酸味を付与するなどの目的で、キレート剤の有機酸の量を増加することもできる。
【0010】
本発明の製造法を実施するに際しては、上記のキレート剤の添加を行う以外は、常法が採用でき、通常のエキス製造過程である濃縮、ろ過、加熱、脱色等の精製工程を施してよい。その条件は、エキスの固形分濃度、不要物除去および殺菌の要否等に応じて任意に決定してよい。
【0011】
本発明の食用エキスの形態は、特に限定するものではなく、液体でも、粉末または顆粒等の固形としてもよい。固形への加工法は、その形状に形成するに適した方法であれば、いずれでもよい。
スプレードライ等により粉末化する場合、グリセリン等の賦形剤を添加するのも任意である。
【0012】
本発明の食用エキスは、蛋白溶解促進剤、乳化剤、アルカリ剤(かんすい)、結着剤、保水剤、膨張剤、強化剤等としての利用が可能であるが、特に畜肉の結着剤、加工食品の保水剤としての用途に適している。
また、原料由来の呈味成分を有するため、食品に添加した場合、同時に食品の呈味改善効果も奏することができる。
食品への添加量は、添加する食品および添加目的により異なるが、食品中で品質改良効果を奏する量であれば、特に限定されない。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
(1)エキス製造法
豚骨(エイワ物産)200gと水800gを混合し、クエン酸でpH3に調製した。プロテアーゼ製剤(武田キリン食品(株)製)を3.85g添加し、50℃で19時間酵素分解した(分解中、クエン酸でpHを3に制御した)。得られた分解物を90℃、10分間加熱後、金網でろ過して骨等の残渣を除去した。回収液を遠心分離(10,000rpm、10分)し、上清を得た。上清を更にろ過(ろ紙:ADVANTEC、No.2)し、ろ液のpHを酸化ナトリウムでpH 5.5に調整後、エバポレーターで固形分含量30%になるように濃縮した。90℃で10分間加熱後、冷却し、遠心分離(8,000rpm×10min)で上清を得た。上清を、スプレードライヤーで乾燥し、リン酸含有ポークエキス粉末約84gを得た。得られたエキス(実施例1エキス)のリン含有量を、HACH LANGE GMBH製LCK350を用いて測定したところ、5.7%であった。
(2)モデルハムの調製法
豚ロースミンチ肉(6mmチョッパー)167gをポリ袋に充填し、表1記載のピックル液100g(対肉重量60%)をそれぞれ添加した。ピックル液のpHは、水酸化ナトリウムでpH7.5に調整した。ポリ袋をヒートシール後、肉とピックル液をなじませ、押し広げて5℃で15時間保存した。フードプロセッサーで1分間混合後、φ30mm塩化ビニリデンケーシングチューブに充填し、密封した。75℃で60分間加熱後、流水で冷却した。
【表1】

【0014】
(3)試験法
離水率を以下の式により求めた。
[数1]
離水率%=〔全重量*1−(肉重量*2+ケーシングチューブ重量)〕/〔全重量−ケーシングチューブ重量〕×100
*1:ケーシングチューブに充填されたままのハムの重量
*2:ケーシングチューブから取り出したハムの重量
また、断面を観察し、4名のパネルによりオープンパネル法で官能評価を行った。
結果を表2に示す。
【表2】

【0015】
表2に示すごとく、実施例1エキス添加区は、すべて、無添加区に比べて離水率が低下した。単位肉重量当たりのリン含量(%)が同じ場合、実施例1エキス添加区の離水率は、対照の複合リン酸塩添加区を下回った。図1に示すごとく、実施例1エキス添加区における離水率は、エキス添加量の上昇とともに低下した。
断面を観察したところ、複合リン酸塩および実施例1エキス添加区ともに、添加濃度の上昇とともに、断面の状態はなめらかで、均質になる傾向にあった。色の変化はなかった。
官能評価の結果、複合リン酸塩および実施例1エキス添加区は、硬さ、ジューシー感およびしなやかさ等の点で、無添加区よりも優れており、その傾向は、添加量の上昇とともに高まった。実施例1エキスに、ポーク由来の旨味成分が含まれるため、実施例1エキス添加区のハムは、呈味性が増した。
したがって、リン酸含有ポークエキスは、複合リン酸塩と同等またはそれ以上の保水効果を有することが示された。リン酸含有ポークエキスは、肉重量に対して約1%の添加で、顕著な保水効果を奏した。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以上記載したごとく、本発明によれば、合成のリン酸塩を必要としない食品の品質改良効果を奏する食用エキスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における保水性試験における離水率と、リン含量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用エキスにキレート剤を存在させ、不溶性リン酸塩の生成抑制または可溶化をしてなることを特徴とする食品の品質改良効果を奏する食用エキス。
【請求項2】
キレート剤が有機酸である請求項1記載の食用エキス。
【請求項3】
有機酸が、クエン酸、リンゴ酸またはコハク酸である請求項1記載の食用エキス。
【請求項4】
食用エキスの製造に際し、キレート剤を添加することを特徴とする請求項1記載の食用エキスの製造法。
【請求項5】
キレート剤が、有機酸である請求項4記載の食用エキスの製造法。
【請求項6】
有機酸が、クエン酸、リンゴ酸またはコハク酸である請求項4記載の食用エキスの製造法。
【請求項7】
不溶性リン酸塩の析出前にキレート剤を添加する請求項4記載の食用エキスの製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−222022(P2007−222022A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43853(P2006−43853)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(502118328)キリンフードテック株式会社 (27)
【Fターム(参考)】